細胞核を構成する構造体の解析方法、及び細胞核の形態の解析方法
【課題】細胞核を構成する構造体の解析を、イメージングを用いて行う方法の提供。
【解決手段】a)細胞核を構成する1種類又は複数種類の構造体と細胞核内の核酸とをそれぞれ標識し、b)a)で標識された細胞の核酸の標識画像を取得し、c)a)で標識された細胞の前記構造体の標識画像を、標識された構造体の種類ごとに別個に取得し、d)b)で取得された核酸の標識画像に基づいて細胞核領域を決定し、e)c)で取得された前記構造体の標識画像中の、d)で決定された細胞核領域中の各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、総面積、総周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、f)e)で測定された統計値に基づき、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する、細胞核を構成する構造体の解析方法。
【解決手段】a)細胞核を構成する1種類又は複数種類の構造体と細胞核内の核酸とをそれぞれ標識し、b)a)で標識された細胞の核酸の標識画像を取得し、c)a)で標識された細胞の前記構造体の標識画像を、標識された構造体の種類ごとに別個に取得し、d)b)で取得された核酸の標識画像に基づいて細胞核領域を決定し、e)c)で取得された前記構造体の標識画像中の、d)で決定された細胞核領域中の各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、総面積、総周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、f)e)で測定された統計値に基づき、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する、細胞核を構成する構造体の解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞核を構成する構造体や細胞核の形態をイメージング(画像)により解析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多細胞生物は、基本単位としての細胞の共同体であり、多様な生命活動を行っている。個体を構成する細胞は、細胞核内に遺伝情報を有しており、細胞分裂や分化の際に、この遺伝情報を子孫細胞に伝達している。すなわち、細胞核は発生、再生、老化、発癌、細胞機能などの生命現象をつかさどる源泉と考えられている。細胞内外からの様々なシグナル情報は細胞核に集約されて、その応答を行っている。
【0003】
一般的に癌細胞では、核サイズの不同、細胞質に対する核面積の増大、核膜の不整、クロマチンの不均一化、核小体の増加を含めた核内構造体形成の異常、核の位置異常、多核、巨核などがみられる。これらは癌細胞の分裂異常、細胞の過増殖性と分化異常、細胞核内構造体及びクロマチン構造の異常を反映していると考えられる。生体を構成する細胞の中から癌細胞が発生することから、発癌の過程には後成的(エピジェネティック)なメカニズムが関わっており、とりわけ遺伝子発現の変化を伴うと考えられている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
遺伝子の複雑な発現様式を可能にするために、細胞核内は高度に分画化されており、核スペックル、PML(promyelocytic leukemia)ボディ、カハールボディ、核小体を含む多くの核内構造体が存在し、時空間・状況に応じて形成と離散を繰り返し、ダイナミックに変動しながら機能している。様々な核構造体が同定され、その機能解析の研究がすすんでいる。これらの構造体が染色体上の個々の遺伝子群と相互作用を持つことで、エピジェネティックな、遺伝子発現の活性調整に働くことが示唆されている。(例えば、非特許文献2参照。)。
【0005】
一方で、DNAのメチル化やクロマチンの形成異常等のエピジェネティックな異常は、癌における遺伝子制御異常において重要な役割を果たしていることがわかっている(例えば、非特許文献3参照。)。実際に、癌細胞では、ゲノム全体のDNAの低メチル化、染色体不安定性と染色体異常等、クロマチン構造の形成異常、核内構造体の形成や局在の異常等、正常細胞と違いがあることがわかってきており、それらの形態異常を検出できる抗体もつくられるようになってきている(例えば、非特許文献4参照。)。
【0006】
また、細胞が癌化する過程で様々な変化が現れるが、癌細胞に見られる様々な形態異常のうち、最も重要なものが細胞核の形態異常、すなわち核異型である。具体的には、細胞核の大きさ、形、核小体の大きさや数、核クロマチンの量やパターン等の要素が、正常な細胞核とは異なるものを核異型という。これらは実際の癌細胞の病理学的な診断に用いられている。しかし、なぜ核構造の異常が起こるのか、癌の形質とどう結びつくのか、そのメカニズムについてはほとんどわかっていない。一方で、近年、細胞核構造に関する知見は急速に進歩しており、癌細胞の核異型についての謎に迫ることも可能になりつつある。
【0007】
核スペックルは、ほぼすべての哺乳動物の核に存在しており、エピジェネティクス分野において、又は核内構造体の研究において、先駆的な役割を果たしてきた核内構造体である。核スペックルは、スプライシング因子のSC35やSF2/ASFの免疫染色により、20〜50個の斑点状の構造物として確認される構造体であり、多くのRNA関連タンパク質から成る。転写、RNAスプライシング/プロセシング/核外輸送等、遺伝子の発現の複数のステップに関与するものと考えられている。イントロンをもつ未成熟RNA(pre−mRNA)を蛍光ラベルして細胞核へ導入すると、15〜30分後に核スペックルに局在し、スプライシングを受けて安定に核外に輸送される。一方、イントロンをもたないpre−RNAの場合、核内に均一に分布して分解を受けやすくなる(例えば、非特許文献5参照。)。このように、核スペックルは、転写、RNAスプライシング及びプロセッシング、並びにmRNAの核外輸送等の遺伝子発現の各過程にかかわる因子の複合体を形成あるいは貯蔵して転写の場に供給することによってこれらの過程全体を連携させ、効率化していると考えられている。スプライシングの異常がヒトの疾患の発生に関わることがあり、核スペックルの適切な形成が細胞機能に重要であると考えられる(例えば、非特許文献5参照。)。
【0008】
Cajalボディ(カハールボディ、別名コイルドボディ)は、snRNA(small nuclear RNA)、snoRNA(small nucleolar RNA)の成熟や、ヒストンmRNAのプロセシングに機能する。また、癌化した細胞において、テロメラーゼRNA因子が局在化したり、細胞ストレスによりp53を含む細胞制御因子が集積すること等のことから、カハールボディは老化とストレス応答経路にかかわる構造体であると考えられている(例えば、非特許文献6及び7参照。)。
【0009】
PMLボディは、癌抑制遺伝子産物であるPML(promyelocytic leukemia)タンパク質を主体とした核内構造体であり、ほぼすべての哺乳動物細胞に存在する。通常の細胞内では、直径0.2〜1μmの粒状の構造体が10〜30個存在しているが、その形状は、細胞の種類やその環境状態により異なっている。PMLボディは、老化、発癌、ウィルス感染、分化、アポトーシス等の様々な生命現象にかかわっており、特に癌化や老化等に密接に関係すること等が報告されている。急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia; APL)の腫瘍細胞においては、染色体転座でPMLとレチノイン酸受容体の融合タンパク質が合成される結果、正常のPMLボディはほとんど形成されていない。この細胞をレチノイン酸で処理すると、融合タンパク質がユビキチン-プロテアソームで分解されることで、正常なアレルからのPMLによってPMLボディが再形成される。この時に白血病細胞が好中球に最終分化することから、分子標的型の癌治療の最初の例となっている。(例えば、非特許文献8参照。)。
【0010】
細胞核内と細胞質は核膜により区画化されており、核膜上には、タンパク質やRNAの核―細胞質間の輸送を担う核膜孔複合体が多数存在している。核内側の核膜近傍にはヘテロクロマチンが豊富に存在し、一般的に核膜は遺伝子抑制の環境を作り上げているとされる。疾患細胞の核異型において、核膜の不整は代表的な要素のひとつである。核膜の裏打ちタンパク質であるラミンAとラミン結合蛋白質の変異は、筋ジストロフィー、ニューロパチーを含むラミノパチー(核膜病)と総称される様々な遺伝病を引き起こす。核膜病のひとつHutchinson−Gilford早老症候群(HGPS) では、ラミンAのRNAのスプライシング異常により翻訳後の脂質修飾が異常となり、正常な核膜の形成が不能になる。HGPS患者由来の細胞核は陥没したような不整な核膜を示し、ヘテロクロマチンの不形成がみられ、損傷DNAが蓄積している。
【0011】
細胞核の形態は細胞状態を評価する指標である。例えば、癌細胞における核構造異常(核異型)は病理学的な診断に広く用いられており、組織や細胞の標本を用いて、核の大きさ、形、核小体の大きさや数、核クロマチンの量、形やパターン等について、目視で観察されている。従来のこの手法は病理医及び細胞診断士の経験的な判断に依存しており、その補助手段として、定量性、客観性や効率性に優れた形態解析法の開発が期待されていた。
【0012】
その他、細胞内の生体成分を定量的に解析する方法として、解析対象である生体成分を免疫染色法等により蛍光染色した後、細胞当たりの蛍光強度解析をフローサイトメータにより解析する方法がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ホリディ(Holliday)、サイエンス(Science)、1987年、第238巻、第163〜170ページ。
【非特許文献2】斉藤、外5名、蛋白質核酸酵素、2006年、第51巻第14号、第1957〜1963ページ。
【非特許文献3】クサノ(Kusano)、外9名、キャンサー(Cancer)、2006年、第106巻、第1467〜1479ページ。
【非特許文献4】アオト(Aoto)、外4名、ディベロップメンタル・バイオロジー(Developmental biology)、2006年、第298巻、第354〜367ページ。
【非特許文献5】トクナガ(Tokunaga)、外8名、ジーンズ・トゥ・セル(Genes to Cell)、2006年、第11巻、第305〜317ページ。
【非特許文献6】シオス(Cioce)、外1名、アニュアル・レビュー・オブ・セル・アンド・ディベロップメンタル・バイオロジー(Annual review of cell and developmental biology)、2005年、第21巻、第105〜131ページ。
【非特許文献7】ゴール(Gall)、ネイチャー・レビューズ・モレキュラー・セル・バイオロジー(Nature Reviews Molecular Cell Biology)、2003年、第4巻、第975〜980ページ。
【非特許文献8】ゴスティッサ(Gostissa)、外3名、カレント・オピニオン・セル・バイオロジー(Current Opinion in Cell Biology)、2003年、第15巻、第351〜357ページ。
【非特許文献9】サイトウ(Saitoh)、外5名、エクスペリメンタル・セル・リサーチ(Experimental Cell Research)、2006年、第312巻、第1418〜1430ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
細胞の蛍光強度解析はフローサイトメータにより解析されているが、核内構造体の形態解析は難しい。しかしながら、核内構造体の検出、解析そして評価を、フローサイトメータを用いた解析法により行うことは非常に困難である。なぜならば、フローサイトメータでは、核内構造体の形状の相違を識別することができず、細胞核内に局在しているのか又は細胞内核外(細胞質)に局在しているのかを区別して判断することができないためである。
【0015】
また、フローサイトメータを用いた診断方法では、個々の細胞が分離されていることが測定の際の必要条件となってくるが、生体由来の細胞サンプルは基本的には純粋ではなく、細胞以外のごみ等のデブリスや上皮細胞が結合組織につながれているものを含むことが少なくない。このように細胞が個々になっていない試料をフローサイトメータで解析する場合、データを読み取ることができないばかりでなく、フローの流路を塞いでしまう可能性が高い。さらに、細胞以外のごみ等のデブリスの自家蛍光を拾ってしまい、データ結果に誤りをもたらす可能性がある。加えて、一度流してしまったサンプルを、再度顕微鏡下で探すことは不可能である。そのため、このようなフローサイトメータによる解析では、測定解析後に示される結果についての再確認をとることが難しい。
【0016】
従来の蛍光顕微鏡は1細胞あたりの詳細な形態観察には適しているが、定量性が乏しく、しかも多数の細胞群を網羅的に解析するためには不適であることが問題点である。また、従来のように、蛍光顕微鏡等により観察することによって核内構造体を評価同定する方法では、長時間蛍光顕微鏡で観察して評価する、あるいは写真をとった後、当該写真を画像解析することによって核内構造体の評価を行うという作業になる。ここで、長時間の蛍光顕微鏡下にサンプルをさらすことは、その蛍光色素の褪色につながり、得られる結果の質を低下させる場合がある。また、マニュアル的に写真をとり、目視観察する作業は非常に労力を費やす上、写真を取得する視野の選抜、核内構造体の評価に対して個人差がでる等の問題点がある。また、マニュアル作業の場合には、解析のための時間、作業効率、サンプル数に限界がでてくる。
【0017】
本発明は、細胞生物学の最新知見に基づいて、イメージングサイトメータと多因子計測解析法を組み合わせたハイスループットの独自な方法を、細胞核構造体の形状や局在の自動検出・数値化・計測・解析に新規導入する改良技術である。核内構造体や核膜等の細胞核を構成する構造体の解析、特に、構造体の形状や細胞内においての局在を、イメージング(画像)を用いて行うことにより、客観的で効率・精度よく細胞形態を解析する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、
(1) 細胞核を構成する構造体を解析する方法であって、(a)細胞核を構成する1種類又は複数種類の構造体と細胞核内の核酸とをそれぞれ標識する工程と、(b)前記工程(a)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、(c)前記工程(a)において標識された細胞の、前記構造体の標識画像を、標識された構造体の種類ごとに別個に取得する工程と、(d)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像に基づいて、細胞核領域を決定する工程と、(e)前記工程(c)において取得された前記構造体の標識画像中の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定する工程と、(f)前記工程(e)において測定された統計値に基づき、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する工程と、を有することを特徴とする細胞核を構成する構造体の解析方法、
(2) さらに、(g)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞周期を判断する工程と、を有し、前記構造体の細胞内における存在量と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする前記(1)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(3) 前記構造体が、核膜、核スペックル、カハールボディ、及びPMLボディからなる群より選択される1種であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(4) 前記構造体が核内構造体であり、前記工程(d)において、さらに、決定された細胞核領域に基づいて、各細胞における細胞質領域を決定し、前記工程(e)において、さらに、前記工程(c)において取得された前記構造体の標識画像中の、前記細胞質領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定することを特徴とする前記(2)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(5) 前記構造体が核内構造体であり、前記工程(a)において、さらに、細胞質を標識し、前記工程(b)において、さらに、前記工程(a)において標識された細胞の、細胞質の標識画像を取得し、前記工程(d)において、さらに、取得された細胞質の標識画像に基づいて、各細胞における細胞質領域を決定し、前記工程(e)において、さらに、前記工程(c)において取得された前記核内構造体の標識画像中の、前記細胞質領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定することを特徴とする前記(2)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(6) さらに、(h)前記工程(d)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸包周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程と、を有し、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする前記(4)又は(5)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(7) 前記核内構造体が、核スペックル、カハールボディ、及びPMLボディからなる群より選択される1種であることを特徴とする前記(4)〜(6)のいずれか記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(8) 細胞核を構成する構造体を解析する方法であって、(a2)核膜と細胞核内の核酸とを、それぞれ標識する工程と、(b2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、(c2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核膜の標識画像を取得する工程と、(d2−1)前記工程(b2)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、(d2−2)前記工程(d2−1)において決定された細胞核領域及び前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像に基づいて、各細胞における核膜領域を決定する工程と、(e2)前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像中の、前記工程(d2−2)において決定された核膜領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定する工程と、(f2)前記工程(e2)において測定された統計値に基づき、前記核膜領域を含む細胞の細胞核の形態又は核膜の状態を解析する工程と、を有することを特徴とする細胞核を構成する構造体の解析方法、
(9) 前記工程(d2−2)において、前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像に基づいて、各細胞における核膜領域を決定することを特徴とする前記(8)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(10) さらに、(g2)前記工程(b2)において取得された核酸の標識画像中の、前記工程(d2−1)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞周期を判断する工程と、を有し、核膜の状態と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする前記(8)又は(9)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(11) 細胞核の形態を解析する方法であって、(a3)細胞核内の核酸を標識する工程と、(b3)前記工程(a3)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、(d3)前記工程(b3)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、(h3)前記工程(d3)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸包周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程と、を有することを特徴とする細胞核の形態の解析方法、
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の細胞核を構成する構造体の解析方法により、核内構造体や核膜等の細胞核を構成する構造体や細胞核自体の形状や局在について、解析者の主観を排除した客観的で精度のよい解析結果を得ることができる。
特に、本発明の細胞核を構成する構造体の解析方法は、画像解析を利用しているため、細胞同士が近接している組織切片などの標本を対象とした場合であっても、ソフトウェア上で個々の細胞を判断したり、解析対象である構造体の細胞内における局在等を、画像を見ながら判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】画像解析における細胞核領域の具体的な決定方法を模式的に示した図である。
【図2】画像解析における細胞質領域の具体的な決定方法を模式的に示した図である。
【図3】細胞核領域に基づいて核膜領域を決定する方法を模式的に示した図である。
【図4】核膜の染色画像に基づいて核膜領域を決定する方法を模式的に示した図である。
【図5】(A)は、細胞画像解析装置の一実施形態である細胞画像解析装置1aの機能構成を表す概略ブロック図であり、(B)は、細胞画像解析装置1aの動作例を表すフローチャートである。
【図6】実施例1において、RanBP2ノックダウン細胞及びコントロール細胞の、核酸標識画像(DAPI染色画像)、核スペックル標識画像〔Cy3(SC35)染色画像〕、及び核膜標識画像〔Alexa488(RanBP2)染色画像〕の一例である。
【図7】実施例1において、決定された細胞核領域を含む細胞に対して、細胞核領域の面積(Area;横軸)とサーキュラリティーファクター(Circularity Factor;縦軸)とをパラメータとして2次元に展開した図である。
【図8】実施例1において、エリア1の細胞集団の各細胞に対して、1画素当たりの最大輝度値(Max Intensity DAPI;縦軸)と細胞核領域の全画素の輝度値の合計値(Total Intensity DAPI;横軸)とをパラメータとして2次元に展開した図である。
【図9】実施例1において、エリア1に含まれる各細胞の核膜領域のRanBP2の存在量を、平均蛍光強度(Mean Intensity RanBP2)を横軸とし、各平均蛍光強度の細胞数(Counts)を縦軸として示した図である。
【図10】実施例1において、RanBP2ノックダウン細胞とコントロール細胞群において、SC35が細胞核内に存在していた細胞の割合と、細胞核外に存在していた細胞の割合を示した図である。
【図11】実施例1において、RanBP2ノックダウン細胞のG1期、G2期及びaneuploidyの細胞における、SC35が細胞核内に存在していた細胞の割合と、細胞核外に存在していた細胞の割合を示した図である。
【図12】実施例2において、RanBP2ノックダウン細胞及びコントロール細胞の、核酸標識画像(DAPI染色画像)及びカハールボディ標識画像〔Cy3(coilin)染色画像〕の一例である。
【図13】実施例2において、各細胞の細胞核領域に存在するカハールボディの総面積(Area coilin)を横軸とし、各面積の細胞数(Counts)を縦軸として示した図である。
【図14】実施例3において、RanBP2ノックダウン処理細胞及びコントロール細胞の、核酸標識画像(DAPI染色画像)及び核膜標識画像〔Cy3(LaminA/C)染色画像〕の一例である。
【図15】実施例3において各細胞の〔(細胞核領域の周囲長)2/細胞核領域の面積〕(Perix2/Area)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。
【図16】実施例3において、各細胞の〔細胞核領域の凸包面積/細胞核領域の面積〕(ConvexHullRelative_Area)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。
【図17】実施例3において、各細胞の〔細胞核領域の凸包周囲長/細胞核領域の周囲長〕(ConvexHullRelative)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。
【図18】実施例3において、各細胞の〔核膜領域内におけるCy3(LaminA/C)の平均蛍光強度〕(Mean Intensity Cy3)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<細胞核を構成する構造体の解析方法>
本発明の細胞核を構成する構造体の解析方法(以下、「本発明の構造体解析方法」と略記載することがある。)は、解析対象とする構造体の標識画像を取得し、この標識画像を画像解析することにより、当該構造体の細胞内における存在量や局在、細胞核の形態等を多数の細胞で一度に解析するハイスループット解析であることが特徴である。
【0022】
細胞核の形態は、細胞内外の刺激に応じて大きく変化するため、細胞状態のよい指標である。これらの変化は、核・染色体構成因子の発現の変化など量的なもの、細胞内局在の変化など質的なもの、その組み合わせなど、多岐にわたるが、従来法による解析では客観的な解析が困難であり、今までは主観的な記述にとどまっていた。本発明の構造体解析方法は画像解析を用いているため、核形態を様々なパラメータを用いて多角的に数値化し、客観的な判断基準を確立することが可能である。また、核内構造体の自動検出とハイスループット解析も可能である。例えば、96検体を同時に解析可能であり、多数の細胞について核内構造の形態を効率的に計測、解析することが可能である。また、本発明の構造体解析方法は、定量性に優れているため、1細胞あたりの細胞核の形態を客観的に評価することができる。同時に、多数の細胞について同一の基準を適応できるため、例えば異常細胞において確率的に起きる核構造の変化について、どのような頻度で起きるかを評価できる。さらに、少数の細胞群における変化は、従来の顕微鏡観察では意義のある変化と認めることが困難であるが、本発明の構造体解析方法では評価することができる。早期癌などの病的組織において、少数細胞群に起こる変化を同定することも可能である。
【0023】
また、従来法のようにフローサイトメータを用いて解析した場合には、核内構造体形態の解析、構成因子タンパク質の局在解析は不可能である。フローサイトメータによる細胞周期解析は、細胞集団を対象としているが、本発明の構造体解析方法では、1細胞あたりの細胞周期の同定が可能であることから、ある核内構造を有する細胞がどの細胞周期にあるか、などの複数のパラメータを相関させて解析することが可能である。
【0024】
細胞核は、核膜に包まれた球形の構造体であり、内部に核液や染色質等を含む。本発明及び本願明細書において、細胞核を構成する構造体(以下、単に「構造体」ということがある。)とは、核膜、及び核膜に包まれた内部に存在している核内構造体を意味する。核内構造体としては、少なくとも一定の時期に細胞核内に存在している構造体であればよく、細胞周期等の細胞の状態に依存して細胞核外へ局在する構造体であってもよい。
【0025】
核内構造体は、核小体、核スペックル、パラスペックル、カハールボディ、PMLボディ、傍核小体コンパートメント、クラストソーム等を含む。本発明の構造体解析方法においては、核膜、核スペックル、カハールボディ、及びPMLボディより選択される1種以上の構造体を解析対象とすることが好ましい。これらの構造体は、癌や老化等の生体における重要な現象と深い関係があり、これらを解析することにより、癌等の生命現象の解明が期待されるのみならず、癌検査等の臨床検査にも応用することができるためである。
【0026】
本発明の構造体解析方法に供される細胞は、細胞核を有する細胞(真核細胞)であれば、特に限定されるものではなく、生体から採取された生体試料中に含まれる細胞であってもよく、培養細胞であってもよい。また、本発明の構造体解析方法に供される細胞は、生細胞であってもよく、細胞観察用容器に固定された細胞や、固定化後、さらに界面活性剤等による細胞膜透過処理を行った細胞であってもよい。
【0027】
本発明の構造体解析方法は、具体的には、下記工程(a)〜(e)を有することを特徴とする。
(a)細胞核を構成する1種類又は複数種類の構造体と細胞核内の核酸とをそれぞれ標識する工程と、
(b)前記工程(a)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(c)前記工程(a)において標識された細胞の、前記構造体の標識画像を、標識された構造体の種類ごとに別個に取得する工程と、
(d)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像に基づいて、細胞核領域を決定する工程と、
(e)前記工程(c)において取得された前記構造体の標識画像中の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定する工程と、
(f)前記工程(e)において測定された統計値に基づき、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する工程。
【0028】
以下、工程ごとに説明する。
まず、工程(a)として、1種類又は複数種類の構造体と細胞核内の核酸とをそれぞれ標識する。なお、標識方法は、細胞内成分(細胞核を構成する構造体や核酸)を、適当な波長の光を照射して撮像された画像上で、他の細胞内成分と視覚的に区別し得るように標識し得る方法であれば特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知のいずれの手法を用いてもよい。例えば、構造体を構成するタンパク質等の物質や核酸と特異的に結合する抗体やリガンド等を用いた免疫染色法を行ってもよく、構造体や核酸に集積し得る色素を用いた色素染色法を行ってもよい。また、免疫染色法では、蛍光物質を結合させた一次抗体や二次抗体を用いた蛍光免疫染色法であってもよく、DAB法、ニッケルDAB法、NBT/BCIP法等の酵素抗体法であってもよい。なお、これらの染色法は、当該技術分野において汎用されている染色法であり、常法により行うことができる。また、本発明においては、検出感度が良好であるため、各構造体や核酸は、蛍光物質により標識することが好ましい。
【0029】
各構造体については、例えば、核スペックルに局在しているSC35やSF2/ASFに対する抗体を用いて免疫染色を行うことにより、核スペックルを標識することができる。また、カハールボディに特異的に局在しているcoilinやSMN(survival of motor neuron)タンパク質に対する抗体を用いて免疫染色を行うことにより、カハールボディを標識することができる。また、PMLボディの主たる構成成分であるPMLタンパク質に対する抗体を用いて免疫染色を行うことにより、PMLボディを標識することができる。さらに、Lamin A/C、エメリン、RanBP2等の核膜や核膜孔複合体に特異的に局在している物質を標的とした免疫染色を行うことにより、核膜を標識することができる。
【0030】
一方、核酸は、公知の核酸染色剤の中から、適宜選択して用いることにより、標識することができる。例えば、核酸染色剤としてDNAインターカレータを用いることができる。DNAインターカレータとしては、例えば、DAPI(4‘,6−diamino−2−phenylindole)、PI(propidium iodide)、Hoechst33258、Hoechst33342、7−AAD(7Amino actinomycin D)、DRAQ5(登録商標)(Biostatus社製)、Sytox(登録商標)(インビトロジェン社製)、YOYO(登録商標)(インビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0031】
また、核酸は酸性物質であることから、核酸染色剤として塩基性色素を用いることもできる。このような色素を用いた染色として、例えば、HE染色、パパニコロウ染色、フォイルゲン染色、メチル緑・ピロニン染色等が挙げられる。
【0032】
本発明においては、核酸染色剤としては、DNAインターカレータ等のように、細胞内の核酸量を反映可能な染色剤であることが好ましい。細胞内の核酸量依存的に染色される核酸染色剤を用いた場合には、一細胞核内に存在するDNA量が多い場合や凝集している場合には、DNA量が少ない場合や凝集していない場合よりも強く染色される。このため、後述するように、撮像された核酸の標識画像を解析することにより、細胞周期を判断することができる。
【0033】
本発明においては、1種類の構造体を解析するものであってもよく、複数種類の構造体を解析するものであってもよい。なお、各構造体及び核酸は、標識画像上で互いに区別して検出可能なように、それぞれ異なる種類の染色剤等を用いて標識する。例えば、複数種類の構造体を蛍光免疫染色し、DAPI等の蛍光性核酸染色剤を用いて核酸を染色する場合、各構造体を染色する蛍光物質の蛍光特性と、蛍光性核酸染色剤の蛍光特性とが、互いに異なっていることが好ましい。なお、蛍光特性が異なるとは、FITCとローダミンのように、励起光照射により発される蛍光の波長が、区別して検出し得るほど異なることを意味する。その他、例えば、1種類の構造体をDAB法等の酵素抗体法により標識し、その他の種類の構造体及び核酸を、互いに蛍光特性の異なる蛍光物質を用いてそれぞれ標識してもよく、また、核酸を非蛍光性の核酸染色剤を用いて標識し、各種構造体を互いに蛍光特性の異なる蛍光物質を用いてそれぞれ標識してもよい。
【0034】
その他、遺伝子組み換え技術により、構造体が予め標識された細胞を作製し、この細胞を解析に用いることもできる。例えば、構造体に特異的に局在するタンパク質に適当な蛍光特性を持つ蛍光物質を融合させた融合タンパク質をコードする遺伝子が導入されており、当該融合タンパク質が発現している細胞を用いてもよい。
【0035】
次に、工程(b)として、工程(a)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する。また、工程(c)として、工程(a)において標識された細胞の、解析対象である構造体の標識画像を、標識された構造体の種類ごとに別個に取得する。それぞれの標識画像は、構造体や核酸の標識方法に応じて、常法により取得することができる。具体的には、例えば、1種類又は複数種類の構造体及び核酸を、互いに蛍光特性の異なる蛍光物質を用いて標識した場合、共焦点レーザ顕微鏡等を用いて、解析対象である構造体と核酸が標識された細胞に対して、各蛍光物質の蛍光特性に応じた波長の励起光を順次照射し、発された蛍光を検出して撮像することにより各標識画像を取得することができる。また、構造体や核酸を、酵素抗体法等のように非蛍光物質により標識した場合には、透過光を撮像することにより、各標識画像を取得することができる。なお、同じ細胞に対して、核酸の標識画像と各構造体の標識画像とを取得する。
【0036】
これらの画像は、CCDカメラ等の細胞の撮像に通常用いられる撮像装置を用いて撮像し取得することができる。例えばCCDカメラによる撮像は、通常、個々のXY位置に対して1枚あるいは複数枚の画像を撮像する。レンズの焦点位置を例えばZとし、これに垂直な面にXY面を設定して撮像ポイントを特定する場合が多い。CCDカメラで撮像された各チャンネルの画像は白黒画像であり、明るさごとに例えば0〜4096の値を各XY位置(画像の画素)に割り当て、各画素の輝度を記録している。
【0037】
また、これらの画像は、細胞を入れた細胞観察用容器を、イメージングサイトメータ等の蛍光画像の取得装置に設置して行うことができる。画像を取得する細胞は、細胞観察用容器に接着していればよく、必ずしも固定化処理がなされている必要はない。なお、細胞観察用容器への細胞の固定方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、自然乾燥させてもよく、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒド、メタノール等の細胞固定架橋剤を呈することにより、細胞観察用容器へ細胞を固定することができる。
【0038】
細胞観察用容器としては、一般的に細胞染色に用いられるものであれば、特に限定されるものではないが、スライドガラス又はマルチウェルプレートであることが好ましい。
スライドガラス又はマルチウェルプレートを用いて、イメージングサイトメータ等を用いることにより、多数の検体も迅速かつ簡便に処理することが可能となる。
【0039】
工程(b)及び(c)は、どちらを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。なお、同時に行うとは、1ショット(1顕微鏡視野)ごとに、構造体の種類ごとの標識画像と核酸の標識画像とを別個に取得し蓄積することを意味する。また、工程(b)は工程(d)の前に終了している必要があるが、工程(c)は、工程(d)において構造体の標識画像を使用しない場合には工程(e)の前に終了していればよい。
【0040】
次いで、工程(d)として、工程(b)において取得された核酸の標識画像(以下、「核酸標識画像」と略記することがある。)に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する。
【0041】
本発明において、標識画像の解析は、公知の画像解析の手法を適宜組み合わせることにより行うことができる。基本的な細胞画像解析や自動細胞認識においては、画像に適当な輝度の閾値を設定することにより、標識画像中の標識された領域の決定は、画像に適当な輝度の閾値を設定することにより行う。例えば、輝度値が設定された閾値より上の点(画素)を1、それ以外を0というように二値化を行い、さらに1となった画素からなる領域を個々に切り分ける(1の島ごとに切り分けて番号付けを行う)ことによって、個々の細胞核や構造体を認識する。
【0042】
具体的には、予め、核酸標識画像中の細胞核を認識するための細胞核用閾値及び細胞核用面積閾値を設定しておき、核酸標識画像から、各画素(ピクセル)が細胞核用閾値以上の輝度の値(以下、「輝度値」という。)を有する一塊の領域をメインオブジェクトとして認識する。このオブジェクト中の各画素の輝度値の勾配から、当該オブジェクトの境界を分離し、閉じた領域のうち細胞核用面積閾値以上の面積を有する領域を抽出し、細胞核領域として決定する。
【0043】
なお、ここでいう輝度とは、例えば濃淡画像においては濃淡を表す値であり、画像中の各ピクセル(画素)の明るさを表す値である。また、ここでいう面積とは、領域の正確な面積の数値のみならず、領域に含まれる画素の数を意味しても良い。
【0044】
ここで、細胞核用閾値及び細胞核用面積閾値は、解析する対象の細胞の種類、核酸の標識に用いた染色剤の種類等を考慮して適宜設定されるものである。例えば、解析対象の細胞と同種の細胞を予め核酸染色剤を用いて染色し、核酸標識画像を取得した後、当該核酸標識画像から細胞核領域の輝度値や面積値を測定し、得られた測定値に基づいて設定することができる。
【0045】
図1は、画像解析における細胞核領域の具体的な決定方法を模式的に示した図である。図1(A)は1つの細胞を模式的に示した図である。図中、領域101は核(細胞核)を、領域102は細胞質を、それぞれ示している。まず、画像解析において、細胞一つ一つを自動的に識別するために、DAPI等の核酸染色剤で染色されたこの領域101、すなわち細胞核領域103をメインオブジェクトとして認識するような領域を設定する{図1(B)}。具体的には、核酸染色剤により染色された部分の面積の最大値と最小値及び蛍光強度を測定し、各画素が細胞核用閾値以上の輝度値を有する領域のうち細胞核用面積閾値以上の面積を有する領域を抽出し、細胞核領域として決定する。
【0046】
さらに、細胞密度が高く、細胞が込み合っているような場合がある場合は、領域分割を行う手法の一つとして知られているウォーターシェッド(Watershed)アルゴリズム手法を用いることが好ましい。該手法は、マークと呼ばれる領域の中心を隣接画素へと広げていくことによって領域を得るものであり、この機能を同時に使用することにより、個々の細胞を認識するよう設定する{図1(C)}。図1(C)に示すように、2つの重なり合う細胞は、ウォーターシェッド機能を用いない場合には1つの細胞核として認識されるが{図1(C―a)}、ウォーターシェッド機能を用いることにより、2つの細胞核として認識できるようになる{図1(C―b)}。細胞核の認識は、他にも、エッジ認識や隣接する細胞のくびれを認識されることによっても同様に行うことができる。
【0047】
測定された輝度値の解析時には、画像処理の一つの方法としてローリングボールを使ったバックグランド補正を行ってもよい。また、決定された全ての細胞核領域に対して、以降の解析を行ってもよいが、核の誤認識を排除するため、細胞核領域の面積(Area)と、例えば、サーキュラリティーファクターをはじめとする細胞核の形状を記述ファクター(その他、円周ペリメータ、MAXフェレット、エロンゲーションファクター等)とにより、特定の形状的特徴を備える細胞核を有する細胞集団を選択し、当該細胞集団に含まれる細胞に対してのみ以降の解析を行うことにより、ノイズを排除して解析を行うことが好ましい。
【0048】
さらに、工程(e)として、解析対象である標識した構造体の、細胞核領域中における存在量、局在、形態等を測定する。具体的には、まず、工程(c)において取得された各構造体の標識画像(以下、「構造体標識画像」と略記することがある。)のそれぞれに対して、核酸標識画像から決定された各細胞核領域に相当する領域に含まれる各画素の輝度値を測定する。得られた測定値を、予め決定しておいた閾値(構造体用閾値)と比較し、1画素当たりの輝度値がこの構造体用閾値以上である領域(画素の集合)を構造体染色領域として決定する。決定される構造体染色領域は、構造体の種類や細胞の状態等により異なり、1の細胞核領域中で1の領域として決定される場合もあり、複数の領域として決定される場合もある。決定された全構造体染色領域中の各画素の輝度値の統計値、全構造体染色領域の総面積、全構造体染色領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定する。なお、輝度値の統計値とは、当該領域に含まれる全画素の輝度値の合計値であってもよく、1画素当たりの平均値であってもよく、1画素当たりの最大値であってもよい。
【0049】
構造体用閾値は、標識の際のノイズを排除し、標識の有無を認識するための閾値である。この閾値は、構造体の種類や標識方法に依存して変動するものであるため、構造体の種類及び標識方法の種類ごとに、それぞれ構造体用閾値を設定しておく。例えば、解析対象の細胞と同種の細胞を予め染色し、構造体標識画像を取得した後、当該標識画像から構造体領域の輝度値や面積値を測定し、得られた測定値に基づいて設定することができる。その他、例えば、構造体標識画像中の当該構造体が存在していないことが明らかな領域(バックグラウンド)の1画素当たりの輝度値やその統計値等を構造体用閾値としてもよく、経験的に取得された閾値であってもよい。
【0050】
その後、工程(f)として、測定された統計値に基づき、構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する。例えば、測定された統計値が、予め対照細胞を同様に処理して測定された輝度値の統計値よりも大きい場合には、解析された細胞では、対照細胞よりも当該構造体の細胞核内における存在量が多いことが分かる。
【0051】
また、構造体染色領域(細胞核領域中の1画素当たりの輝度値が構造体用閾値以上である領域、すなわち、構造体標識画像中の標識された領域)の面積や周囲長を測定することにより、細胞核領域内における当該構造体の形態や局在を解析することができる。例えば、測定された輝度値の統計値が対照細胞とほぼ同等であるにも関わらず、測定された面積値や周囲長値が、予め対照細胞を同様に処理して測定された面積値や周囲長値よりも大きい場合には、当該構造体は、解析された細胞において、対照細胞よりも細胞核内に広く分散していることが分かる。逆に、測定された面積値や周囲長値が、対照細胞よりも小さい場合には、当該構造体は、解析された細胞において、対照細胞よりも細胞核内で凝集していることが分かる。
【0052】
本発明においては、細胞核領域に加えて、細胞質領域を決定し、解析対象である構造体の細胞核領域の存在量と細胞質領域の存在量とを比較することにより、当該構造体の細胞内における局在を解析することができる。
【0053】
細胞質領域は、工程(d)において決定された細胞核領域に基づいて設定することができる。具体的には、決定された細胞核領域の外周部分を内周とするドーナツ型の領域であって、ドーナツ型の幅が等間隔である(当該領域の外周上の各点から内周までの最短距離(すなわち幅)が、外周上の全ての点において等しい)領域を、細胞質領域として決定することができる。細胞質領域の作成においては、ドーナツ型の幅(細胞核領域の外周部分と内周部分との距離)を自由に設定することができる。例えば、予め、解析に用いる細胞の細胞膜と核酸を染色した染色画像を取得し、細胞核の外周から細胞膜までの距離を測定しておき、この測定値に基づいて細胞質領域の幅(厚み)を決定してもよい。また、一般的に細胞質の厚みは、細胞の種類等にかかわらずほぼ同程度であることから、細胞核領域の外周から細胞質領域の外周までの距離を10〜30ピクセル程度とすることもできる。
【0054】
また、工程(a)において、細胞質を別途標識し、工程(b)において、さらに、標識された細胞の細胞質の標識画像を取得し、取得された細胞質の標識画像に基づいて細胞質領域を決定してもよい。細胞質の標識は、撮像された画像上で、核酸や解析対象である構造体と視覚的に区別し得るように標識し得る方法であれば特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知のいずれの手法を用いてもよい。
【0055】
図2は、画像解析における細胞質領域の具体的な決定方法を模式的に示した図である。図中、領域103は細胞核領域を、領域102は細胞質を、領域104は構造体標識領域(1画素当たりの輝度値が構造体用閾値以上である領域)を、領域105は細胞質領域を、それぞれ示している。測定対象である構造体が細胞核外に移行している場合、図2に示すように、当該細胞の細胞質が漏れなく含まれ、かつ細胞核領域が除かれるドーナツ型の領域を、細胞質領域として設定する。
【0056】
また、本発明の構造体解析方法においては、さらに、下記工程(g)を有することが好ましい。
(g)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞周期を判断する工程。
解析対象である細胞の細胞周期を判断することにより、構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態と、細胞周期との相関関係を解析することができる。
【0057】
細胞周期のS期には細胞核内の染色体が2n本から4n本となり、これがM期には染色体として凝集した後分裂し、分裂後の娘細胞(つまり、G0期)にはもとの2n本となる。つまり、細胞周期の各期によって、DNA含有量と凝集度(密度)が変化する。一方で、核酸をDNAインターカレータ等のように、細胞内の核酸量を反映可能な染色剤によって染色した場合、細胞核内のDNA量(ploidy)、すなわち染色体数に依存して、細胞核は強く染色される。このため、細胞を蛍光性核酸染色剤により染色した場合に、細胞核領域の全画素の輝度値の合計値(総蛍光量)と1画素当たりの最大輝度値(最大蛍光量)から、およその細胞周期を判断することができる。すなわち、正常な細胞においては、G0/G1期の細胞(染色体数=2n)が最も総蛍光量が小さく、G2/M期の細胞(染色体数=4n)が最も総蛍光量が大きく、S期の細胞(染色体数=2n〜4n)の総蛍光量は両者の間の値となる。
【0058】
このため、核酸標識画像中の決定された細胞核領域に含まれる全画素の総蛍光量と最大蛍光量を測定し、これらの値から、細胞周期を判断することができる。なお、細胞周期の時期ごとに、細胞核領域の総蛍光量や最大蛍光量を予め測定しておき、これを基準値として用いることにより、簡便に各細胞の細胞周期を判断することができる。
【0059】
また、本発明の構造体解析方法においては、解析対象である細胞の細胞核の形態も解析することにより、構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態と細胞核の形態との相関や、構造体の局在等と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することができる。本発明においては、特に、細胞核の形成が不整である(すなわち、核異型である)のかどうか、正常であるのか否かを解析することが好ましい。細胞核の形態は、癌化や老化、分化等の重要な生命現象に依存して変形する場合がある。このため、細胞核の形態は、このような生命現象の指標とすることができる。つまり、構造体の細胞内における存在量、局在、又は形態と細胞核の形態との相関を解析することにより、癌化等の生命現象と構造体の細胞内における挙動との相関を解析し得ることが期待できる。なお、ここで、細胞内挙動とは、細胞内における発現(存在)の有無、存在量、局在等を意味する。
【0060】
具体的には、工程(a)〜(g)に加えて、さらに、下記工程(h)を有することにより、構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することができる。
(h)前記工程(d)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸方周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程。
ここで、凸包面積及び凸包周囲長は、当該領域中の各画素の任意の2要素を結ぶ閉線分を内部に含む、最小の凸多角形の面積及び周囲長として測定する。
【0061】
細胞核の形態は、画像解析において、オブジェクトの形態を解析する際に用いられる種々のパラメータを用いることにより解析することができる。このようなパラメータとして、例えば、(p)細胞核領域の凸包面積/細胞核領域の面積、(q)(細胞核領域の周囲長)2/細胞核領域の面積、(r)細胞核領域の凸包周囲長/細胞核領域の周囲長等が挙げられる。
【0062】
本発明においては、細胞核領域を決定した後、当該領域の周囲長、面積、真円度、当該領域の平均輝度値(当該領域中の各画素の輝度値の平均値)、当該領域の最大輝度値(当該領域中の各画素の輝度値の最大値)といったパラメータを、それぞれ単独で又は組み合わせることにより解析を行うことができるため、様々な方向から細胞核の異型を観察することが可能である。また、標識の強度(輝度値、染色の場合には染色強度)のみならず、形態からも解析を行うため、細胞核の微妙な変化や時間的変化も解析することができる。
【0063】
このように、本発明の構造体解析方法により、核膜や核内構造体等の構造体の細胞内、特に細胞核内における存在量、局在、形態等を解析することができる。また、細胞周期や細胞核の形態の解析と組み合わせることにより、解析対象である構造体の発現量の増減や形態、細胞核外への移行の有無等が、細胞周期や細胞核異型と相関性があるか否かを、簡便かつ高精度に解析することができる。具体的には、本発明の構造体解析方法を利用することにより、核小体の増加、例えばリボゾームの生合成の亢進(高い分裂能)や、PMLボディの低形成、傍核小体コンパートメントの出現等のような核内構造体の存在量の増減と、細胞周期や細胞核の形態との相関を解析することができる。また、細胞核のサイズ(大きさ)の相違や、染色体異常(分裂異常)、ゲノムDNAの低メチル化、ゲノムDNAの低メチル化やヘテロクロマチンの変化等のクロマチンの不均一化、細胞極性と分化の異常等の核の位置異常等を解析し得る。
【0064】
本発明の構造体解析方法を、生細胞を用いて行い、解析対象である構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態を、経時的に測定し解析することにより、当該構造体の細胞内挙動の時間変化をも解析することができる。
【0065】
構造体のうち、核膜を標識して解析する場合には、細胞核領域に加えて核膜領域を決定し、この核膜領域を解析することにより、核膜の状態と細胞周期との相関関係を解析することができる。具体的には、下記工程(a2)〜(g2)を有する。
(a2)核膜と細胞核内の核酸とを、それぞれ標識する工程と、
(b2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(c2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核膜の標識画像を取得する工程と、
(d2−1)前記工程(b2)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、
(d2−2)前記工程(d2−1)において決定された細胞核領域及び前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像に基づいて、各細胞における核膜領域を決定する工程と、
(e2)前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像中の、前記工程(d2−2)において決定された核膜領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定する工程と、
(f2)前記工程(e2)において測定された統計値に基づき、前記核膜領域を含む細胞の細胞核の形態又は核膜の状態を解析する工程。
【0066】
工程(a2)〜(d2−1)は、前述の核内構造体を標識した場合と同様に行うことができる。
【0067】
工程(d2−2)における核膜領域の決定は、具体的には、決定された細胞核領域を中心とし、当該領域の外周部分を含む等間隔のドーナツ型の領域を核膜領域として決定することができる。核膜領域の作成においては、細胞核領域の外周(最外線)からの、核膜領域の最内線(ドーナツ型の内周)までの距離及び最外線(ドーナツ型の外周)までの距離を自由に設定することができる。例えば、予め、解析に用いる細胞の核膜を染色した染色画像を取得し、核膜の厚みを測定しておき、この測定値に基づいて核膜領域の幅(厚み)を決定してもよい。また、一般的に核膜の厚みは、細胞の種類等にかかわらずほぼ同程度であることから、細胞核領域の外周から核膜領域の最内線までの距離を1〜5ピクセル、細胞核領域の外周から核膜領域の最外線までの距離を1〜5ピクセルとすることもできる。
【0068】
また、核膜領域の決定において、決定された細胞核領域を中心とし、当該領域の外周部分を含む等間隔のドーナツ型の領域を核膜領域として決定する際に、このドーナツ型の領域内に、核膜標識画像中の標識された領域(例えば、蛍光画像の場合には、蛍光強度が検出された画素からなる領域)が含まれるように核膜領域を決定することが好ましい。
【0069】
図3に、細胞核領域に基づいて核膜領域を決定する方法を模式的に示す。図中、領域103は細胞核領域を、領域102は細胞質を、領域106は核膜標識画像中の標識された領域を、領域107は核膜領域を、それぞれ示している。
【0070】
ここで、核膜標識画像中の標識された領域は、例えば、予め閾値(核膜用閾値)を設定しておき、核膜標識画像中に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値がこの核膜用閾値以上である領域(画素の集合)を抽出することにより決定することができる。核膜用閾値は、前記の構造体用閾値の一種であり、標識の際のノイズを排除し、標識の有無を認識するための閾値である。この閾値は、核膜の標識方法に依存して変動するものであるため、標識方法の種類ごとに、それぞれ核膜用閾値を設定しておく。例えば、核膜に特異的に局在するタンパク質を免疫染色することにより核膜を標識する場合には、当該タンパク質が発現していないことが既知の細胞や、ノックダウン処理等により当該タンパク質の発現を抑制した細胞を用いて、当該タンパク質の免疫染色を行い、測定された核膜の輝度値の統計値等を閾値とすることができる。その他、核膜標識画像中の核膜が存在していないことが明らかな領域(バックグラウンド)の1画素当たりの輝度値やその統計値等を核膜用閾値としてもよく、経験的に取得された閾値であってもよい。
【0071】
その他、核膜領域は、工程(c2)において取得された核膜の標識画像のみに基づいて決定することもできる。具体的には、核膜標識画像中に含まれる各画素の輝度値を測定し、各画素が核膜用閾値以上の輝度値を有する一塊の領域をメインオブジェクトとして認識する。このオブジェクト中の各画素の輝度値の勾配から、当該オブジェクトの境界を分離し、当該境界から一定距離、一定輝度を有する画素からなる領域を核膜領域と設定する。
【0072】
図4は、核膜の染色画像に基づいて核膜領域を決定する方法を模式的に示した図である。図中、領域101は細胞核を、領域106は核膜標識画像中の標識された領域を、それぞれ示している。当該領域106に基づき、核膜領域107が決定される。
【0073】
次いで、工程(e2)として、工程(c2)において取得された核膜の標識画像中の、工程(d2−2)において決定された核膜領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定する。輝度値の統計値の測定方法は、前述の工程(e)と同様にして行うことができる。核膜領域に含まれる各画素の輝度値の統計値としては、例えば、平均輝度値や最大輝度値等が挙げられる。
【0074】
さらに、工程(f2)として、工程(e2)において測定された統計値に基づき、前記核膜領域を含む細胞の細胞核の形態又は核膜の状態を解析する。例えば、平均輝度値、平均輝度値と最大輝度値との組み合わせ、又は〔核膜領域に含まれる各画素の輝度値/細胞核領域に含まれる各画素の輝度値〕等から、細胞核の形態や核膜の状態を解析することができる。なお、核膜の状態とは、核膜の形態に加えて、核膜が正常に形成されているか、又は形成異常であるかどうか、そもそも形成されていない(不形成)かどうか等を判断することができる。例えば、核膜領域の平均輝度値が小さい場合や、〔核膜領域に含まれる各画素の輝度値/細胞核領域に含まれる各画素の輝度値〕が小さい場合には、核膜が形成不全である、又は不形成であると判断することができる。また、最大輝度値が極端に大きい場合、核膜が形成異常であり、核膜構成要素が偏重していると判断することができる。
【0075】
さらに、核内構造体の解析と同様に、細胞周期や細胞核の形態の解析と組み合わせることにより、核膜の形態、形成異常や不形成の有無等が、細胞周期や細胞核異型と相関性があるか否かを、簡便かつ高精度に解析することができる。
【0076】
<細胞核の形態の解析方法>
前述したように、核酸標識画像に基づいて細胞核領域を決定した場合、この細胞核領域のみから、細胞核の形態を解析することができる。具体的には、下記工程を行うことにより、細胞核の形態を解析することができる。
(a3)細胞核内の核酸を標識する工程と、
(b3)前記工程(a3)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(d3)前記工程(b3)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、
(h3)前記工程(d3)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸包周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程。
【0077】
工程(a3)、(b3)、(d3)、及び(h3)は、それぞれ、前述の工程(a)、(b)、(d)、及び(h)と同様に行うことができる。
【0078】
<細胞画像解析装置>
本発明において、工程(a)〜(c)以外の工程は、これらの工程を実現可能な一の画像解析装置を用いて解析することができる。例えば、画像解析の分野において一般的に用いられている公知の画像解析装置又はこれを適宜改変した装置を用いることにより、解析することができる。細胞画像解析装置1は、パーソナルコンピュータやワークステーション等の情報処理装置を用いて構成されても良いし、顕微鏡などに組み込まれた専用装置として構成されても良い。例えば、顕微鏡やCCDカメラ等の細胞画像の撮像手段をさらに備える画像解析装置を用いることにより、工程(a)以外の全工程を、一の装置を用いて行うこともできる。
【0079】
図5(A)は、このような細胞画像解析装置の一実施形態である細胞画像解析装置1の機能構成を表す概略ブロック図である。細胞画像解析装置1は、光源2、CCDカメラ3、カメラコントローラ4、ステージコントローラ5、結像光学系6、パーソナルコンピュータ(図中、「PC」)7、PCモニタ8、及びキーボード9を備える。
【0080】
ステージコントローラ5は、スライドガラスやマルチウェルプレート等の画像を取得する細胞が含まれている細胞観察用容器が設置されたステージを制御する。光源2は、標識した細胞の画像を取得するために、ステージコントローラ5により制御されたステージに設置された細胞観察用容器中の細胞に、所望の波長の光を照射する。
【0081】
結像光学系6は、動作制御を指示するソフトウェアを介してフォーカス位置を自動で調整する。また、CCDカメラ3は、当該細胞観察用容器中の細胞の画像を取得し、カメラコントローラ4は、CCDカメラ3を制御する。パーソナルコンピュータ7は、光源2、CCDカメラ3、カメラコントローラ4、ステージコントローラ5、結像光学系6の動作制御を指示するソフトウェアを有している。
【0082】
また、パーソナルコンピュータ7は、CCDカメラ3により撮像された細胞の標識画像に基づいて、画素当たりの輝度値を測定し、当該測定結果に基づき、細胞核領域を決定したり、各構造体の構造体染色領域を決定したりする。さらに、構造体標識画像中の決定された細胞核領域及び構造体染色領域に基づき、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定する。かつ、工程(e)の結果に基づき、構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する。すなわち、前記工程(e)〜(f)における解析は、パーソナルコンピュータ7において行われる。さらに、パーソナルコンピュータ7は、得られた結果を保存し、測定及び解析結果を出力することもできる。解析結果等は、画像出力装置に文字又はグラフなどの図形として表示させることによって出力しても良いし、プリンターに印字させることによって出力しても良い。
【0083】
PCモニタ8やキーボード9は、パーソナルコンピュータ7の操作に用いられる。PCモニタ8は、CCDカメラ3により撮像された細胞の標識画像やパーソナルコンピュータ7から出力される結果等を表示するための画像出力装置としても用いられる。
【0084】
また、図5(B)は、細胞画像解析装置1の動作例を表すフローチャートである。当該フローチャートでは、構造体として核内構造体を標識した例を示す。まず、ステップ1として、核膜と核酸をそれぞれ標識した細胞の、核内構造体の標識画像(核内構造体標識画像)と核酸の標識画像(核酸標識画像)とを、それぞれ別個に撮像する。具体的には、まず、細胞観察用容器を、細胞画像解析装置1のステージに設置し、ステージコントローラ5により、適当な位置にセットする。次いで、当該細胞観察用容器中の細胞に対して光源2から標識に応じた光を照射し、結像光学系6によりフォーカス調整を行い、CCDカメラ3により、各標識画像を撮像する。
【0085】
次に、ステップ2として、パーソナルコンピュータ7において、核酸標識画像に基づき、細胞核領域を決定する。さらに、ステップ3として、同じくパーソナルコンピュータ7において、核内構造体標識画像に基づき、決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域を核内構造体標識領域として検出する。同様に、核酸標識画像に基づき、前述した方法により、核膜領域を検出する。その後、ステップ4として、核酸標識画像に基づき、前述した方法により、細胞質領域を検出する。なお、ステップ4は省略し、ステップ3から直接ステップ5を行っても良い。
【0086】
次いで、ステップ5として、ステップ2〜4において検出された各領域、特に細胞核領域中における核内構造体の存在量、局在、形態等を測定し、これらを示すパラメータの数値等を特徴量として抽出する。具体的には、ステップ3において決定された核内構造体標識領域中の各画素の輝度値の統計値、当該核内構造体標識領域の総面積、及び当該核内構造体標識領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、測定された統計値を、標識された核内構造体の特徴量として抽出する。
【0087】
最後に、ステップ6として、ステップ5で得られた特徴量に基づき、核内構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析し、結果を出力する。
【0088】
上述した本発明の細胞画像解析装置の一態様である細胞画像解析装置1の機能をコンピュータで実現するようにしても良い。その場合、各機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0089】
本発明の構造体解析方法は、このような細胞画像解析装置と、細胞画像を取得するための顕微鏡部及び撮像部、並びに撮像された画像を蓄積し記録する画像記録部とを備える、イメージングサイトメータを用いて行うことが好ましい。なお、本発明においてイメージングサイトメータとは、自動的に染色画像の取得と得られた染色画像の解析を行うことができる画像解析装置を意味する。例えば、スライドガラス上の細胞集団に対して、レーザを収束させたスポットで走査し、この細胞集団の個々の細胞が発する蛍光を検出し、走査画像データを画像処理することにより、個々の細胞のデータを抽出して測定するレーザ走査型サイトメータ(例えば、特開平3−255365号公報参照。)やこれを適宜改良したサイトメータ等が挙げられる。
【0090】
特に、取得された顕微鏡画像に基づき得られた解析データから、顕微鏡画像の画像データを呼び出す手段を有するイメージングサイトメータを用いることが好ましい。各解析データ、例えば、細胞核領域、細胞周期判定用画像の輝度値の統計値等のデータに対して画像データを迅速に確認することができるため、より信頼性の高い診断結果を得ることができるためである。また、解析結果をヒストグラムやドットプロットにより表示する手段を有していることが好ましい。本発明においては、ドットプロット表示がより望ましい。ドットプロット表示では、個々の細胞が1つ1つのドットとして表示されるため、解析結果をドットプロット表示することにより、個々の細胞情報を画像とともに瞬時に確認できる利点がある。
【0091】
また、本発明における標識画像の解析に、イメージングサイトメータを用いることにより、細胞核に加えて、構造体、核膜構造体や核膜の発現量に加えて、これらの位置情報、時間情報、形態情報をも得ることができる。すなわち、核内構造体の形状や細胞内においての局在、核異型及び核膜の有無や形状、時間的変化等から、ターゲットとする核内構造体や核異型、核膜を精度よくスループット解析することができる。特に、イメージングサイトメータを用いることにより、細胞が個々になっていない場合でも、ソフトウェア上で細胞個々を判断したり、解析対象を、画像を見ながら判断することができる。これらに基づき、様々な情報や画像の再確認等を行うことができ、精度の高い解析を行うことができる。また、様々な解析を組み合わせることで核異型と細胞の係わり合いも解析することが可能である。
【0092】
さらに、標識画像の撮影から解析までの一連の工程を全て自動で行うことができるため、1視野ずつ細胞を探すことなく撮影し解析することができる。つまり、目視により解析対象とする細胞を探した後に撮像する場合よりも、細胞を長時間露光することなく観察、評価することができるため、細胞へのダメージも最小限にとどめ、精度の高い評価が可能である。
【実施例】
【0093】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
[実施例1]
核スペックルに特異的に局在するSC35を免疫染色することにより、核スペックルを標識し、正常及び変異細胞群における核スペックルの形態を定量解析した。核膜孔複合体構成タンパク質で、細胞核内構造体の形成に関与するRanBP2(RAN binding protein 2)が減弱したHeLa細胞を変異細胞として用いた。
HeLa細胞を96ウェルプレートに播種後、RanBP2、及びコントロールとしてホタルルシフェラーゼ(GL3)を標的としたsiRNA (日本バイオサービス社製)をRNAiMAX (Invitrogen社製)でトランスフェクションしノックダウン処理を行い、72時間培養した。各細胞をPBSで1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド溶液で室温15分間固定処理した後、PBSで3回洗浄し、0.2%のTritonX−100で氷上5分間浸透処理した。その後、各ウェルに対して、0.5%のNGS(Normal Goat Serum)で3回洗浄・ブロッキング操作を行った後、一次抗体として抗SC35抗体(mouse、BD Pharmingen社製、カタログ番号:556363)及び抗RanBP2抗体(Rabbit、九州大学西本毅治教授より供与)を0.2%のBSAで希釈した溶液を添加し、1時間インキュベートした。さらに0.2%のNGSで3回洗浄を行った後、二次抗体としてcy3標識抗mouse抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製、カタログ番号:715−165−151)及びAlexa488標識抗Rabbit抗体(Invitrogen社製、カタログ番号:A11034)を0.2%のNGSで希釈した溶液を添加し、1時間インキュベートすることにより、細胞中のSC35及びRanBP2を標識(ラベル化)した。ラベル化した細胞を、PBSで1回洗浄した後、1μg/mlDAPI−PBS溶液中で5分間インキュベートし、核酸を染色した。PBSで1回洗浄後、ウェル中にPBSを満たした状態で撮像を行った。核酸標識画像(以下、「DAPI染色画像」)、核スペックル標識画像(以下、「Cy3(SC35)染色画像」)、及び核膜標識画像(以下、「Alexa488(RanBP2)染色画像」)は、CELAVIEW(オリンパス社製)を使用し、20倍対物レンズを用いて撮像し、CELAVIEW Analysis Soft(オリンパス社製)を用いて解析を行った。各標識画像を図6に示す。図中、「Contorol」がRanBP2ノックダウン未処理細胞を、「Knockdown」がRanBP2ノックダウン処理細胞を、それぞれ示す。
【0095】
まず、DAPI染色画像に基づき、細胞核をメインオブジェクトとして設定し、予め定めておいた蛍光強度の閾値により細胞核領域を決定し、その形態を認識させた。図7は、決定された細胞核領域を含む細胞(RanBP2ノックダウン処理細胞とコントロール細胞の両方を含む)に対して、細胞核領域の面積(Area;横軸)とサーキュラリティーファクター(Circularity Factor;縦軸)とをパラメータとして2次元に展開した図である。図中、実線で囲った領域(エリア1)に含まれる細胞を、以下の解析対象とする細胞集団として選択した。
【0096】
エリア1の細胞集団の各細胞に対して、1画素当たりの最大輝度値(Max Intensity DAPI;縦軸)と細胞核領域の全画素の輝度値の合計値(Total Intensity DAPI;横軸)をパラメータとして2次元に展開し(図8)、各細胞の細胞周期を決定した。エリア2をG1期の細胞、エリア3をG2期の細胞、エリア4を異数体細胞(aneuploidy)、エリア5をM期の細胞群として、それぞれ分類した。
【0097】
次に、決定された細胞核領域を中心とし、当該領域の外郭(外周部分)から2ピクセル内側を内側開始地点とする幅4ピクセルのドーナツ型の領域を核膜領域として設定し、Alexa488(RanBP2)染色画像から、核膜に発現しているRanBP2を解析した。RanBP2ノックダウン処理細胞とコントロール細胞群の各細胞に対して核膜領域を決定し、RanBP2の平均蛍光強度(核膜領域内の1画素当たりの平均蛍光強度:Mean Intensity RanBP2)を求め、細胞数(Counts)に対してプロットした。プロットした結果を図9に示す。図9(A)がRanBP2ノックダウン処理細胞群の結果であり、図9(B)がコントロール細胞群の結果である。RanBP2ノックダウン処理細胞群では、コントロール細胞群よりも、細胞分布のピークが、RanBP2の平均蛍光強度が低い方にシフトしていた。そこで、RanBP2が核膜に存在しているか否かを決定する閾値(図中の矢印)を決定し、RanBP2の発現が抑制された細胞集団をゲーティングした。その結果、RanBP2ノックダウン処理細胞では、95%以上の細胞においてRanBP2の発現が抑制されていることが分かった。
【0098】
さらに、決定された細胞核領域を中心とし、当該領域の外郭(外周部分)を内側開始地点とする幅30ピクセルのドーナツ型の領域を細胞質領域として設定し、Cy3(SC35)染色画像から、細胞核領域(つまり細胞核内)に存在する核スペックル量と、細胞質領域(つまり細胞核外)に存在する核スペックル量とを、それぞれ解析した。具体的には、エリア1の細胞集団の各細胞に対して細胞質領域を決定し、各細胞の細胞核領域と細胞質領域とのそれぞれの領域に対して、各領域内におけるCy3(SC35)の平均蛍光強度(領域内の1画素当たりの平均蛍光強度)を測定し、SC35が細胞核内と細胞核外のいずれに存在しているのかを解析した。図10は、RanBP2ノックダウン処理細胞(Knockdown)とノックダウン未処理のコントロール細胞(Contorol)のそれぞれにおける、SC35が細胞核内に存在していた細胞の割合と、細胞核外に存在していた細胞の割合を示した図である。この結果、コントロール細胞では、細胞核外にSC35(核スペックル)が存在する細胞はほぼ観察されなかったが、RanBP2ノックダウン処理細胞では、30%前後の細胞において、SC35が細胞核外に局在していた。また、各細胞の細胞周期ごと(G0G1期、G2期、及びaneuploidy)に分類したところ、図11に示すように、RanBP2ノックダウン処理細胞において、sc35(核スペックル)が細胞核外に局在する細胞は、G0G1期の細胞である割合が高かった。
【0099】
実施例1の結果から、本発明の構造体解析方法を用いることにより、核内構造体の形態、核膜の状態、さらに細胞周期との複合的な相関を簡便に解析し得ることが明らかである。
【0100】
[実施例2]
カハールボディに特異的に局在しているcoilinを免疫染色することにより、細胞中のカハールボディを標識し、細胞内における存在量や局在等を解析した。解析対象とする細胞としては、実施例1と同様に、RanBP2及びコントロールとしてホタルルシフェラーゼ(GL3)を標的とするsiRNAでノックダウン処理したHeLa細胞を用いた。
具体的には、HeLa細胞を35mm細胞培養ディッシュ中に設置したカバースリップ上に播種後、RanBP2、及びコントロールとしてホタルルシフェラーゼ(GL3)を標的としたsiRNA (日本バイオサービス社製)をRNAiMAX (Invitrogen社製)でトランスフェクションしノックダウン処理を行い、72時間培養した。各細胞をPBSで1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド溶液で室温15分間固定処理した後、PBSで3回洗浄し、0.2%のTritonX−100で氷上5分間浸透処理した。その後、各ウェルに対して、0.5%のNGS(Normal Goat Serum)で3回洗浄・ブロッキング操作を行った後、一次抗体として抗coilin抗体(mouse、BD Transduction Laboratories社製、カタログ番号:612074)を用い、二次抗体として抗cy3標識抗mouse抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社製、カタログ番号:715−165−151)を用いて実施例1と同様に細胞をラベル化した。その後PBSで1回洗浄した後、1μg/mlDAPI−PBS溶液中で5分間インキュベートし、核酸を染色した。ラベル化した細胞が付着したカバースリップを80%グリセロール−DABCO(1,4−diacobicyclo−[2,2,2]−octane)溶液中で封入し、蛍光顕微鏡IX−71(オリンパス社製)で撮像を行った。画像取得には20倍対物レンズ、CCDカメラC4742−95−12ERG(浜松ホトニクス社製)及び画像取得ソフトウェアLuimina vision Version 2.4(三谷商事)を用いた。核酸標識画像(以下、「DAPI染色画像」)及びカハールボディ標識画像(以下、「Cy3(coilin)染色画像」)について、TIFFフォーマットにて保存した画像を、CELAVIEW Analysis Soft(オリンパス社製)を用いて解析を行った。各標識画像を図12に示す。図中、「Contorol」及び「Knockdown」は図6と同様である。この結果、coilinは、未処理細胞では細胞核内に点状の像を示し、RanBP2ノックダウン処理細胞では細胞核全体に斑状の像を示した。
【0101】
まず、実施例1と同様にして、DAPI染色画像に基づき、各細胞の細胞核領域を決定し、その形態を認識させた。
次に、各細胞の細胞核領域内に存在するカハールボディの形状を、面積を指標として解析した。具体的には、各細胞の細胞核領域内中の、1画素当たりのCy3(coilin)の蛍光強度が予め定められた閾値以上である画素数を、Cy3(coilin)が局在する構造体(カハールボディ)の総面積とした。図13は、各細胞の細胞核領域に存在するカハールボディの総面積(Area coilin)を横軸とし、各面積の細胞数(Counts)を縦軸として示した図である。この結果、RanBP2ノックダウン細胞とコントロール細胞とでは、カハールボディの総面積に顕著な差があることが確認された。すなわち、総面積を指標とした画像解析により、撮像された標識画像と同様に、構造体の形状の差を解析し得ることが明らかとなった。
【0102】
[実施例3]
細胞核領域の形態から、各細胞の細胞核の形態を解析した。解析対象とする細胞としては、実施例1と同様に、RanBP2ノックダウン、及びコントロールHeLa細胞を用いた。細胞の培養、ラベル化と撮像は、一次抗体として抗LaminA/C抗体(mouse、Santa Cruz社製、カタログ番号:sc−7292)、二次抗体としてCy3標識抗mouse抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社製、社製、カタログ番号:715−165−151)を使用した以外は実施例2と同様である。各標識画像を図14に示す。図中、「Contorol」及び「Knockdown」は図6と同様である。
【0103】
実施例1と同様にして、DAPI染色画像に基づき、各細胞の細胞核領域を決定し、その形態を認識させた。次いで、この決定された細胞核領域の面積(細胞核面積)、周囲長(細胞核周囲長)、凸包の面積(凸包面積)、及び凸包の周囲長(凸包周囲長)をそれぞれ測定し、(p)細胞核領域の凸包面積/細胞核領域の面積、(q)(細胞核領域の周囲長)2/細胞核領域の面積、(r)細胞核領域の凸包周囲長/細胞核領域の周囲長を算出した。図15は、各細胞の〔(細胞核領域の周囲長)2/細胞核領域の面積〕(Perix2/Area)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図であり、図16は、各細胞の〔細胞核領域の凸包面積/細胞核領域の面積〕(ConvexHullRelative_Area)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図であり、図17は、各細胞の〔細胞核領域の凸包周囲長/細胞核領域の周囲長〕(ConvexHullRelative)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。各図のうち、(A)がRanBP2ノックダウン処理細胞群の結果であり、(B)がコントロール細胞群の結果である。また、(C)は、図(A)中の括弧で示した細胞群中の細胞のDAPI染色画像である。
【0104】
次に、細胞核の形態を、核膜領域に存在するLaminA/C量に基づいて解析した。具体的には、決定された細胞核領域を中心とし、当該領域の外郭(外周部分)から3ピクセル内側を内側開始地点とする幅6ピクセルのドーナツ型の領域を核膜領域として設定し、Cy3(LaminA/C)染色画像に基づいて、決定された各核膜領域内におけるCy3(LaminA/C)の平均蛍光強度(領域内の1画素当たりの平均蛍光強度)を測定した。図18は、各細胞の〔核膜領域内におけるCy3(LaminA/C)の平均蛍光強度〕(Mean Intensity Cy3)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。図18(A)がRanBP2ノックダウン処理細胞群の結果であり、図18(B)がコントロール細胞群の結果である。また、図18(C)は、図18(A)中の括弧で示した細胞群中の細胞のCy3(LaminA/C)染色画像である。
【0105】
これらの結果から、RanBP2ノックダウン細胞では、細胞核膜の形態が変形した核異型となることが分かった。本手法は癌組織などで見られる核膜の不整の定量解析に応用が可能である。また、本発明の構造体解析方法を用いることにより、細胞核の形態と核膜の状態との相関を簡便に解析し得ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の構造体解析方法を用いることにより、核内構造体や核膜の細胞内挙動、具体的には、核内構造体の細胞内における存在量や局在、細胞核の形態、並びに核膜の形成異常や不形成の有無を、イメージング解析により簡便かつ高精度に解析することができるため、試験試料の形態学的情報から疾患の診断及び治療に対するモニタリングのような医学的実施への応用において有用となり得るため、学術的分野のみならず、臨床検査等の分野においても利用が可能である。
【符号の説明】
【0107】
1…細胞画像解析装置1、2…光源、3…CCDカメラ、4…カメラコントローラ、5…ステージコントローラ、6…結像光学系、7…パーソナルコンピュータ、8…PCモニタ、9…キーボード、101…核、102…細胞質、103…細胞核領域、104…構造体標識領域、105…細胞質領域、106…核膜標識画像中の標識された領域、107…核膜領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞核を構成する構造体や細胞核の形態をイメージング(画像)により解析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多細胞生物は、基本単位としての細胞の共同体であり、多様な生命活動を行っている。個体を構成する細胞は、細胞核内に遺伝情報を有しており、細胞分裂や分化の際に、この遺伝情報を子孫細胞に伝達している。すなわち、細胞核は発生、再生、老化、発癌、細胞機能などの生命現象をつかさどる源泉と考えられている。細胞内外からの様々なシグナル情報は細胞核に集約されて、その応答を行っている。
【0003】
一般的に癌細胞では、核サイズの不同、細胞質に対する核面積の増大、核膜の不整、クロマチンの不均一化、核小体の増加を含めた核内構造体形成の異常、核の位置異常、多核、巨核などがみられる。これらは癌細胞の分裂異常、細胞の過増殖性と分化異常、細胞核内構造体及びクロマチン構造の異常を反映していると考えられる。生体を構成する細胞の中から癌細胞が発生することから、発癌の過程には後成的(エピジェネティック)なメカニズムが関わっており、とりわけ遺伝子発現の変化を伴うと考えられている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
遺伝子の複雑な発現様式を可能にするために、細胞核内は高度に分画化されており、核スペックル、PML(promyelocytic leukemia)ボディ、カハールボディ、核小体を含む多くの核内構造体が存在し、時空間・状況に応じて形成と離散を繰り返し、ダイナミックに変動しながら機能している。様々な核構造体が同定され、その機能解析の研究がすすんでいる。これらの構造体が染色体上の個々の遺伝子群と相互作用を持つことで、エピジェネティックな、遺伝子発現の活性調整に働くことが示唆されている。(例えば、非特許文献2参照。)。
【0005】
一方で、DNAのメチル化やクロマチンの形成異常等のエピジェネティックな異常は、癌における遺伝子制御異常において重要な役割を果たしていることがわかっている(例えば、非特許文献3参照。)。実際に、癌細胞では、ゲノム全体のDNAの低メチル化、染色体不安定性と染色体異常等、クロマチン構造の形成異常、核内構造体の形成や局在の異常等、正常細胞と違いがあることがわかってきており、それらの形態異常を検出できる抗体もつくられるようになってきている(例えば、非特許文献4参照。)。
【0006】
また、細胞が癌化する過程で様々な変化が現れるが、癌細胞に見られる様々な形態異常のうち、最も重要なものが細胞核の形態異常、すなわち核異型である。具体的には、細胞核の大きさ、形、核小体の大きさや数、核クロマチンの量やパターン等の要素が、正常な細胞核とは異なるものを核異型という。これらは実際の癌細胞の病理学的な診断に用いられている。しかし、なぜ核構造の異常が起こるのか、癌の形質とどう結びつくのか、そのメカニズムについてはほとんどわかっていない。一方で、近年、細胞核構造に関する知見は急速に進歩しており、癌細胞の核異型についての謎に迫ることも可能になりつつある。
【0007】
核スペックルは、ほぼすべての哺乳動物の核に存在しており、エピジェネティクス分野において、又は核内構造体の研究において、先駆的な役割を果たしてきた核内構造体である。核スペックルは、スプライシング因子のSC35やSF2/ASFの免疫染色により、20〜50個の斑点状の構造物として確認される構造体であり、多くのRNA関連タンパク質から成る。転写、RNAスプライシング/プロセシング/核外輸送等、遺伝子の発現の複数のステップに関与するものと考えられている。イントロンをもつ未成熟RNA(pre−mRNA)を蛍光ラベルして細胞核へ導入すると、15〜30分後に核スペックルに局在し、スプライシングを受けて安定に核外に輸送される。一方、イントロンをもたないpre−RNAの場合、核内に均一に分布して分解を受けやすくなる(例えば、非特許文献5参照。)。このように、核スペックルは、転写、RNAスプライシング及びプロセッシング、並びにmRNAの核外輸送等の遺伝子発現の各過程にかかわる因子の複合体を形成あるいは貯蔵して転写の場に供給することによってこれらの過程全体を連携させ、効率化していると考えられている。スプライシングの異常がヒトの疾患の発生に関わることがあり、核スペックルの適切な形成が細胞機能に重要であると考えられる(例えば、非特許文献5参照。)。
【0008】
Cajalボディ(カハールボディ、別名コイルドボディ)は、snRNA(small nuclear RNA)、snoRNA(small nucleolar RNA)の成熟や、ヒストンmRNAのプロセシングに機能する。また、癌化した細胞において、テロメラーゼRNA因子が局在化したり、細胞ストレスによりp53を含む細胞制御因子が集積すること等のことから、カハールボディは老化とストレス応答経路にかかわる構造体であると考えられている(例えば、非特許文献6及び7参照。)。
【0009】
PMLボディは、癌抑制遺伝子産物であるPML(promyelocytic leukemia)タンパク質を主体とした核内構造体であり、ほぼすべての哺乳動物細胞に存在する。通常の細胞内では、直径0.2〜1μmの粒状の構造体が10〜30個存在しているが、その形状は、細胞の種類やその環境状態により異なっている。PMLボディは、老化、発癌、ウィルス感染、分化、アポトーシス等の様々な生命現象にかかわっており、特に癌化や老化等に密接に関係すること等が報告されている。急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia; APL)の腫瘍細胞においては、染色体転座でPMLとレチノイン酸受容体の融合タンパク質が合成される結果、正常のPMLボディはほとんど形成されていない。この細胞をレチノイン酸で処理すると、融合タンパク質がユビキチン-プロテアソームで分解されることで、正常なアレルからのPMLによってPMLボディが再形成される。この時に白血病細胞が好中球に最終分化することから、分子標的型の癌治療の最初の例となっている。(例えば、非特許文献8参照。)。
【0010】
細胞核内と細胞質は核膜により区画化されており、核膜上には、タンパク質やRNAの核―細胞質間の輸送を担う核膜孔複合体が多数存在している。核内側の核膜近傍にはヘテロクロマチンが豊富に存在し、一般的に核膜は遺伝子抑制の環境を作り上げているとされる。疾患細胞の核異型において、核膜の不整は代表的な要素のひとつである。核膜の裏打ちタンパク質であるラミンAとラミン結合蛋白質の変異は、筋ジストロフィー、ニューロパチーを含むラミノパチー(核膜病)と総称される様々な遺伝病を引き起こす。核膜病のひとつHutchinson−Gilford早老症候群(HGPS) では、ラミンAのRNAのスプライシング異常により翻訳後の脂質修飾が異常となり、正常な核膜の形成が不能になる。HGPS患者由来の細胞核は陥没したような不整な核膜を示し、ヘテロクロマチンの不形成がみられ、損傷DNAが蓄積している。
【0011】
細胞核の形態は細胞状態を評価する指標である。例えば、癌細胞における核構造異常(核異型)は病理学的な診断に広く用いられており、組織や細胞の標本を用いて、核の大きさ、形、核小体の大きさや数、核クロマチンの量、形やパターン等について、目視で観察されている。従来のこの手法は病理医及び細胞診断士の経験的な判断に依存しており、その補助手段として、定量性、客観性や効率性に優れた形態解析法の開発が期待されていた。
【0012】
その他、細胞内の生体成分を定量的に解析する方法として、解析対象である生体成分を免疫染色法等により蛍光染色した後、細胞当たりの蛍光強度解析をフローサイトメータにより解析する方法がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ホリディ(Holliday)、サイエンス(Science)、1987年、第238巻、第163〜170ページ。
【非特許文献2】斉藤、外5名、蛋白質核酸酵素、2006年、第51巻第14号、第1957〜1963ページ。
【非特許文献3】クサノ(Kusano)、外9名、キャンサー(Cancer)、2006年、第106巻、第1467〜1479ページ。
【非特許文献4】アオト(Aoto)、外4名、ディベロップメンタル・バイオロジー(Developmental biology)、2006年、第298巻、第354〜367ページ。
【非特許文献5】トクナガ(Tokunaga)、外8名、ジーンズ・トゥ・セル(Genes to Cell)、2006年、第11巻、第305〜317ページ。
【非特許文献6】シオス(Cioce)、外1名、アニュアル・レビュー・オブ・セル・アンド・ディベロップメンタル・バイオロジー(Annual review of cell and developmental biology)、2005年、第21巻、第105〜131ページ。
【非特許文献7】ゴール(Gall)、ネイチャー・レビューズ・モレキュラー・セル・バイオロジー(Nature Reviews Molecular Cell Biology)、2003年、第4巻、第975〜980ページ。
【非特許文献8】ゴスティッサ(Gostissa)、外3名、カレント・オピニオン・セル・バイオロジー(Current Opinion in Cell Biology)、2003年、第15巻、第351〜357ページ。
【非特許文献9】サイトウ(Saitoh)、外5名、エクスペリメンタル・セル・リサーチ(Experimental Cell Research)、2006年、第312巻、第1418〜1430ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
細胞の蛍光強度解析はフローサイトメータにより解析されているが、核内構造体の形態解析は難しい。しかしながら、核内構造体の検出、解析そして評価を、フローサイトメータを用いた解析法により行うことは非常に困難である。なぜならば、フローサイトメータでは、核内構造体の形状の相違を識別することができず、細胞核内に局在しているのか又は細胞内核外(細胞質)に局在しているのかを区別して判断することができないためである。
【0015】
また、フローサイトメータを用いた診断方法では、個々の細胞が分離されていることが測定の際の必要条件となってくるが、生体由来の細胞サンプルは基本的には純粋ではなく、細胞以外のごみ等のデブリスや上皮細胞が結合組織につながれているものを含むことが少なくない。このように細胞が個々になっていない試料をフローサイトメータで解析する場合、データを読み取ることができないばかりでなく、フローの流路を塞いでしまう可能性が高い。さらに、細胞以外のごみ等のデブリスの自家蛍光を拾ってしまい、データ結果に誤りをもたらす可能性がある。加えて、一度流してしまったサンプルを、再度顕微鏡下で探すことは不可能である。そのため、このようなフローサイトメータによる解析では、測定解析後に示される結果についての再確認をとることが難しい。
【0016】
従来の蛍光顕微鏡は1細胞あたりの詳細な形態観察には適しているが、定量性が乏しく、しかも多数の細胞群を網羅的に解析するためには不適であることが問題点である。また、従来のように、蛍光顕微鏡等により観察することによって核内構造体を評価同定する方法では、長時間蛍光顕微鏡で観察して評価する、あるいは写真をとった後、当該写真を画像解析することによって核内構造体の評価を行うという作業になる。ここで、長時間の蛍光顕微鏡下にサンプルをさらすことは、その蛍光色素の褪色につながり、得られる結果の質を低下させる場合がある。また、マニュアル的に写真をとり、目視観察する作業は非常に労力を費やす上、写真を取得する視野の選抜、核内構造体の評価に対して個人差がでる等の問題点がある。また、マニュアル作業の場合には、解析のための時間、作業効率、サンプル数に限界がでてくる。
【0017】
本発明は、細胞生物学の最新知見に基づいて、イメージングサイトメータと多因子計測解析法を組み合わせたハイスループットの独自な方法を、細胞核構造体の形状や局在の自動検出・数値化・計測・解析に新規導入する改良技術である。核内構造体や核膜等の細胞核を構成する構造体の解析、特に、構造体の形状や細胞内においての局在を、イメージング(画像)を用いて行うことにより、客観的で効率・精度よく細胞形態を解析する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、
(1) 細胞核を構成する構造体を解析する方法であって、(a)細胞核を構成する1種類又は複数種類の構造体と細胞核内の核酸とをそれぞれ標識する工程と、(b)前記工程(a)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、(c)前記工程(a)において標識された細胞の、前記構造体の標識画像を、標識された構造体の種類ごとに別個に取得する工程と、(d)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像に基づいて、細胞核領域を決定する工程と、(e)前記工程(c)において取得された前記構造体の標識画像中の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定する工程と、(f)前記工程(e)において測定された統計値に基づき、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する工程と、を有することを特徴とする細胞核を構成する構造体の解析方法、
(2) さらに、(g)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞周期を判断する工程と、を有し、前記構造体の細胞内における存在量と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする前記(1)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(3) 前記構造体が、核膜、核スペックル、カハールボディ、及びPMLボディからなる群より選択される1種であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(4) 前記構造体が核内構造体であり、前記工程(d)において、さらに、決定された細胞核領域に基づいて、各細胞における細胞質領域を決定し、前記工程(e)において、さらに、前記工程(c)において取得された前記構造体の標識画像中の、前記細胞質領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定することを特徴とする前記(2)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(5) 前記構造体が核内構造体であり、前記工程(a)において、さらに、細胞質を標識し、前記工程(b)において、さらに、前記工程(a)において標識された細胞の、細胞質の標識画像を取得し、前記工程(d)において、さらに、取得された細胞質の標識画像に基づいて、各細胞における細胞質領域を決定し、前記工程(e)において、さらに、前記工程(c)において取得された前記核内構造体の標識画像中の、前記細胞質領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定することを特徴とする前記(2)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(6) さらに、(h)前記工程(d)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸包周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程と、を有し、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする前記(4)又は(5)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(7) 前記核内構造体が、核スペックル、カハールボディ、及びPMLボディからなる群より選択される1種であることを特徴とする前記(4)〜(6)のいずれか記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(8) 細胞核を構成する構造体を解析する方法であって、(a2)核膜と細胞核内の核酸とを、それぞれ標識する工程と、(b2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、(c2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核膜の標識画像を取得する工程と、(d2−1)前記工程(b2)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、(d2−2)前記工程(d2−1)において決定された細胞核領域及び前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像に基づいて、各細胞における核膜領域を決定する工程と、(e2)前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像中の、前記工程(d2−2)において決定された核膜領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定する工程と、(f2)前記工程(e2)において測定された統計値に基づき、前記核膜領域を含む細胞の細胞核の形態又は核膜の状態を解析する工程と、を有することを特徴とする細胞核を構成する構造体の解析方法、
(9) 前記工程(d2−2)において、前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像に基づいて、各細胞における核膜領域を決定することを特徴とする前記(8)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(10) さらに、(g2)前記工程(b2)において取得された核酸の標識画像中の、前記工程(d2−1)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞周期を判断する工程と、を有し、核膜の状態と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする前記(8)又は(9)記載の細胞核を構成する構造体の解析方法、
(11) 細胞核の形態を解析する方法であって、(a3)細胞核内の核酸を標識する工程と、(b3)前記工程(a3)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、(d3)前記工程(b3)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、(h3)前記工程(d3)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸包周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程と、を有することを特徴とする細胞核の形態の解析方法、
を、提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の細胞核を構成する構造体の解析方法により、核内構造体や核膜等の細胞核を構成する構造体や細胞核自体の形状や局在について、解析者の主観を排除した客観的で精度のよい解析結果を得ることができる。
特に、本発明の細胞核を構成する構造体の解析方法は、画像解析を利用しているため、細胞同士が近接している組織切片などの標本を対象とした場合であっても、ソフトウェア上で個々の細胞を判断したり、解析対象である構造体の細胞内における局在等を、画像を見ながら判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】画像解析における細胞核領域の具体的な決定方法を模式的に示した図である。
【図2】画像解析における細胞質領域の具体的な決定方法を模式的に示した図である。
【図3】細胞核領域に基づいて核膜領域を決定する方法を模式的に示した図である。
【図4】核膜の染色画像に基づいて核膜領域を決定する方法を模式的に示した図である。
【図5】(A)は、細胞画像解析装置の一実施形態である細胞画像解析装置1aの機能構成を表す概略ブロック図であり、(B)は、細胞画像解析装置1aの動作例を表すフローチャートである。
【図6】実施例1において、RanBP2ノックダウン細胞及びコントロール細胞の、核酸標識画像(DAPI染色画像)、核スペックル標識画像〔Cy3(SC35)染色画像〕、及び核膜標識画像〔Alexa488(RanBP2)染色画像〕の一例である。
【図7】実施例1において、決定された細胞核領域を含む細胞に対して、細胞核領域の面積(Area;横軸)とサーキュラリティーファクター(Circularity Factor;縦軸)とをパラメータとして2次元に展開した図である。
【図8】実施例1において、エリア1の細胞集団の各細胞に対して、1画素当たりの最大輝度値(Max Intensity DAPI;縦軸)と細胞核領域の全画素の輝度値の合計値(Total Intensity DAPI;横軸)とをパラメータとして2次元に展開した図である。
【図9】実施例1において、エリア1に含まれる各細胞の核膜領域のRanBP2の存在量を、平均蛍光強度(Mean Intensity RanBP2)を横軸とし、各平均蛍光強度の細胞数(Counts)を縦軸として示した図である。
【図10】実施例1において、RanBP2ノックダウン細胞とコントロール細胞群において、SC35が細胞核内に存在していた細胞の割合と、細胞核外に存在していた細胞の割合を示した図である。
【図11】実施例1において、RanBP2ノックダウン細胞のG1期、G2期及びaneuploidyの細胞における、SC35が細胞核内に存在していた細胞の割合と、細胞核外に存在していた細胞の割合を示した図である。
【図12】実施例2において、RanBP2ノックダウン細胞及びコントロール細胞の、核酸標識画像(DAPI染色画像)及びカハールボディ標識画像〔Cy3(coilin)染色画像〕の一例である。
【図13】実施例2において、各細胞の細胞核領域に存在するカハールボディの総面積(Area coilin)を横軸とし、各面積の細胞数(Counts)を縦軸として示した図である。
【図14】実施例3において、RanBP2ノックダウン処理細胞及びコントロール細胞の、核酸標識画像(DAPI染色画像)及び核膜標識画像〔Cy3(LaminA/C)染色画像〕の一例である。
【図15】実施例3において各細胞の〔(細胞核領域の周囲長)2/細胞核領域の面積〕(Perix2/Area)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。
【図16】実施例3において、各細胞の〔細胞核領域の凸包面積/細胞核領域の面積〕(ConvexHullRelative_Area)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。
【図17】実施例3において、各細胞の〔細胞核領域の凸包周囲長/細胞核領域の周囲長〕(ConvexHullRelative)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。
【図18】実施例3において、各細胞の〔核膜領域内におけるCy3(LaminA/C)の平均蛍光強度〕(Mean Intensity Cy3)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<細胞核を構成する構造体の解析方法>
本発明の細胞核を構成する構造体の解析方法(以下、「本発明の構造体解析方法」と略記載することがある。)は、解析対象とする構造体の標識画像を取得し、この標識画像を画像解析することにより、当該構造体の細胞内における存在量や局在、細胞核の形態等を多数の細胞で一度に解析するハイスループット解析であることが特徴である。
【0022】
細胞核の形態は、細胞内外の刺激に応じて大きく変化するため、細胞状態のよい指標である。これらの変化は、核・染色体構成因子の発現の変化など量的なもの、細胞内局在の変化など質的なもの、その組み合わせなど、多岐にわたるが、従来法による解析では客観的な解析が困難であり、今までは主観的な記述にとどまっていた。本発明の構造体解析方法は画像解析を用いているため、核形態を様々なパラメータを用いて多角的に数値化し、客観的な判断基準を確立することが可能である。また、核内構造体の自動検出とハイスループット解析も可能である。例えば、96検体を同時に解析可能であり、多数の細胞について核内構造の形態を効率的に計測、解析することが可能である。また、本発明の構造体解析方法は、定量性に優れているため、1細胞あたりの細胞核の形態を客観的に評価することができる。同時に、多数の細胞について同一の基準を適応できるため、例えば異常細胞において確率的に起きる核構造の変化について、どのような頻度で起きるかを評価できる。さらに、少数の細胞群における変化は、従来の顕微鏡観察では意義のある変化と認めることが困難であるが、本発明の構造体解析方法では評価することができる。早期癌などの病的組織において、少数細胞群に起こる変化を同定することも可能である。
【0023】
また、従来法のようにフローサイトメータを用いて解析した場合には、核内構造体形態の解析、構成因子タンパク質の局在解析は不可能である。フローサイトメータによる細胞周期解析は、細胞集団を対象としているが、本発明の構造体解析方法では、1細胞あたりの細胞周期の同定が可能であることから、ある核内構造を有する細胞がどの細胞周期にあるか、などの複数のパラメータを相関させて解析することが可能である。
【0024】
細胞核は、核膜に包まれた球形の構造体であり、内部に核液や染色質等を含む。本発明及び本願明細書において、細胞核を構成する構造体(以下、単に「構造体」ということがある。)とは、核膜、及び核膜に包まれた内部に存在している核内構造体を意味する。核内構造体としては、少なくとも一定の時期に細胞核内に存在している構造体であればよく、細胞周期等の細胞の状態に依存して細胞核外へ局在する構造体であってもよい。
【0025】
核内構造体は、核小体、核スペックル、パラスペックル、カハールボディ、PMLボディ、傍核小体コンパートメント、クラストソーム等を含む。本発明の構造体解析方法においては、核膜、核スペックル、カハールボディ、及びPMLボディより選択される1種以上の構造体を解析対象とすることが好ましい。これらの構造体は、癌や老化等の生体における重要な現象と深い関係があり、これらを解析することにより、癌等の生命現象の解明が期待されるのみならず、癌検査等の臨床検査にも応用することができるためである。
【0026】
本発明の構造体解析方法に供される細胞は、細胞核を有する細胞(真核細胞)であれば、特に限定されるものではなく、生体から採取された生体試料中に含まれる細胞であってもよく、培養細胞であってもよい。また、本発明の構造体解析方法に供される細胞は、生細胞であってもよく、細胞観察用容器に固定された細胞や、固定化後、さらに界面活性剤等による細胞膜透過処理を行った細胞であってもよい。
【0027】
本発明の構造体解析方法は、具体的には、下記工程(a)〜(e)を有することを特徴とする。
(a)細胞核を構成する1種類又は複数種類の構造体と細胞核内の核酸とをそれぞれ標識する工程と、
(b)前記工程(a)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(c)前記工程(a)において標識された細胞の、前記構造体の標識画像を、標識された構造体の種類ごとに別個に取得する工程と、
(d)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像に基づいて、細胞核領域を決定する工程と、
(e)前記工程(c)において取得された前記構造体の標識画像中の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定する工程と、
(f)前記工程(e)において測定された統計値に基づき、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する工程。
【0028】
以下、工程ごとに説明する。
まず、工程(a)として、1種類又は複数種類の構造体と細胞核内の核酸とをそれぞれ標識する。なお、標識方法は、細胞内成分(細胞核を構成する構造体や核酸)を、適当な波長の光を照射して撮像された画像上で、他の細胞内成分と視覚的に区別し得るように標識し得る方法であれば特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知のいずれの手法を用いてもよい。例えば、構造体を構成するタンパク質等の物質や核酸と特異的に結合する抗体やリガンド等を用いた免疫染色法を行ってもよく、構造体や核酸に集積し得る色素を用いた色素染色法を行ってもよい。また、免疫染色法では、蛍光物質を結合させた一次抗体や二次抗体を用いた蛍光免疫染色法であってもよく、DAB法、ニッケルDAB法、NBT/BCIP法等の酵素抗体法であってもよい。なお、これらの染色法は、当該技術分野において汎用されている染色法であり、常法により行うことができる。また、本発明においては、検出感度が良好であるため、各構造体や核酸は、蛍光物質により標識することが好ましい。
【0029】
各構造体については、例えば、核スペックルに局在しているSC35やSF2/ASFに対する抗体を用いて免疫染色を行うことにより、核スペックルを標識することができる。また、カハールボディに特異的に局在しているcoilinやSMN(survival of motor neuron)タンパク質に対する抗体を用いて免疫染色を行うことにより、カハールボディを標識することができる。また、PMLボディの主たる構成成分であるPMLタンパク質に対する抗体を用いて免疫染色を行うことにより、PMLボディを標識することができる。さらに、Lamin A/C、エメリン、RanBP2等の核膜や核膜孔複合体に特異的に局在している物質を標的とした免疫染色を行うことにより、核膜を標識することができる。
【0030】
一方、核酸は、公知の核酸染色剤の中から、適宜選択して用いることにより、標識することができる。例えば、核酸染色剤としてDNAインターカレータを用いることができる。DNAインターカレータとしては、例えば、DAPI(4‘,6−diamino−2−phenylindole)、PI(propidium iodide)、Hoechst33258、Hoechst33342、7−AAD(7Amino actinomycin D)、DRAQ5(登録商標)(Biostatus社製)、Sytox(登録商標)(インビトロジェン社製)、YOYO(登録商標)(インビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0031】
また、核酸は酸性物質であることから、核酸染色剤として塩基性色素を用いることもできる。このような色素を用いた染色として、例えば、HE染色、パパニコロウ染色、フォイルゲン染色、メチル緑・ピロニン染色等が挙げられる。
【0032】
本発明においては、核酸染色剤としては、DNAインターカレータ等のように、細胞内の核酸量を反映可能な染色剤であることが好ましい。細胞内の核酸量依存的に染色される核酸染色剤を用いた場合には、一細胞核内に存在するDNA量が多い場合や凝集している場合には、DNA量が少ない場合や凝集していない場合よりも強く染色される。このため、後述するように、撮像された核酸の標識画像を解析することにより、細胞周期を判断することができる。
【0033】
本発明においては、1種類の構造体を解析するものであってもよく、複数種類の構造体を解析するものであってもよい。なお、各構造体及び核酸は、標識画像上で互いに区別して検出可能なように、それぞれ異なる種類の染色剤等を用いて標識する。例えば、複数種類の構造体を蛍光免疫染色し、DAPI等の蛍光性核酸染色剤を用いて核酸を染色する場合、各構造体を染色する蛍光物質の蛍光特性と、蛍光性核酸染色剤の蛍光特性とが、互いに異なっていることが好ましい。なお、蛍光特性が異なるとは、FITCとローダミンのように、励起光照射により発される蛍光の波長が、区別して検出し得るほど異なることを意味する。その他、例えば、1種類の構造体をDAB法等の酵素抗体法により標識し、その他の種類の構造体及び核酸を、互いに蛍光特性の異なる蛍光物質を用いてそれぞれ標識してもよく、また、核酸を非蛍光性の核酸染色剤を用いて標識し、各種構造体を互いに蛍光特性の異なる蛍光物質を用いてそれぞれ標識してもよい。
【0034】
その他、遺伝子組み換え技術により、構造体が予め標識された細胞を作製し、この細胞を解析に用いることもできる。例えば、構造体に特異的に局在するタンパク質に適当な蛍光特性を持つ蛍光物質を融合させた融合タンパク質をコードする遺伝子が導入されており、当該融合タンパク質が発現している細胞を用いてもよい。
【0035】
次に、工程(b)として、工程(a)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する。また、工程(c)として、工程(a)において標識された細胞の、解析対象である構造体の標識画像を、標識された構造体の種類ごとに別個に取得する。それぞれの標識画像は、構造体や核酸の標識方法に応じて、常法により取得することができる。具体的には、例えば、1種類又は複数種類の構造体及び核酸を、互いに蛍光特性の異なる蛍光物質を用いて標識した場合、共焦点レーザ顕微鏡等を用いて、解析対象である構造体と核酸が標識された細胞に対して、各蛍光物質の蛍光特性に応じた波長の励起光を順次照射し、発された蛍光を検出して撮像することにより各標識画像を取得することができる。また、構造体や核酸を、酵素抗体法等のように非蛍光物質により標識した場合には、透過光を撮像することにより、各標識画像を取得することができる。なお、同じ細胞に対して、核酸の標識画像と各構造体の標識画像とを取得する。
【0036】
これらの画像は、CCDカメラ等の細胞の撮像に通常用いられる撮像装置を用いて撮像し取得することができる。例えばCCDカメラによる撮像は、通常、個々のXY位置に対して1枚あるいは複数枚の画像を撮像する。レンズの焦点位置を例えばZとし、これに垂直な面にXY面を設定して撮像ポイントを特定する場合が多い。CCDカメラで撮像された各チャンネルの画像は白黒画像であり、明るさごとに例えば0〜4096の値を各XY位置(画像の画素)に割り当て、各画素の輝度を記録している。
【0037】
また、これらの画像は、細胞を入れた細胞観察用容器を、イメージングサイトメータ等の蛍光画像の取得装置に設置して行うことができる。画像を取得する細胞は、細胞観察用容器に接着していればよく、必ずしも固定化処理がなされている必要はない。なお、細胞観察用容器への細胞の固定方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、自然乾燥させてもよく、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒド、メタノール等の細胞固定架橋剤を呈することにより、細胞観察用容器へ細胞を固定することができる。
【0038】
細胞観察用容器としては、一般的に細胞染色に用いられるものであれば、特に限定されるものではないが、スライドガラス又はマルチウェルプレートであることが好ましい。
スライドガラス又はマルチウェルプレートを用いて、イメージングサイトメータ等を用いることにより、多数の検体も迅速かつ簡便に処理することが可能となる。
【0039】
工程(b)及び(c)は、どちらを先に行ってもよく、同時に行ってもよい。なお、同時に行うとは、1ショット(1顕微鏡視野)ごとに、構造体の種類ごとの標識画像と核酸の標識画像とを別個に取得し蓄積することを意味する。また、工程(b)は工程(d)の前に終了している必要があるが、工程(c)は、工程(d)において構造体の標識画像を使用しない場合には工程(e)の前に終了していればよい。
【0040】
次いで、工程(d)として、工程(b)において取得された核酸の標識画像(以下、「核酸標識画像」と略記することがある。)に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する。
【0041】
本発明において、標識画像の解析は、公知の画像解析の手法を適宜組み合わせることにより行うことができる。基本的な細胞画像解析や自動細胞認識においては、画像に適当な輝度の閾値を設定することにより、標識画像中の標識された領域の決定は、画像に適当な輝度の閾値を設定することにより行う。例えば、輝度値が設定された閾値より上の点(画素)を1、それ以外を0というように二値化を行い、さらに1となった画素からなる領域を個々に切り分ける(1の島ごとに切り分けて番号付けを行う)ことによって、個々の細胞核や構造体を認識する。
【0042】
具体的には、予め、核酸標識画像中の細胞核を認識するための細胞核用閾値及び細胞核用面積閾値を設定しておき、核酸標識画像から、各画素(ピクセル)が細胞核用閾値以上の輝度の値(以下、「輝度値」という。)を有する一塊の領域をメインオブジェクトとして認識する。このオブジェクト中の各画素の輝度値の勾配から、当該オブジェクトの境界を分離し、閉じた領域のうち細胞核用面積閾値以上の面積を有する領域を抽出し、細胞核領域として決定する。
【0043】
なお、ここでいう輝度とは、例えば濃淡画像においては濃淡を表す値であり、画像中の各ピクセル(画素)の明るさを表す値である。また、ここでいう面積とは、領域の正確な面積の数値のみならず、領域に含まれる画素の数を意味しても良い。
【0044】
ここで、細胞核用閾値及び細胞核用面積閾値は、解析する対象の細胞の種類、核酸の標識に用いた染色剤の種類等を考慮して適宜設定されるものである。例えば、解析対象の細胞と同種の細胞を予め核酸染色剤を用いて染色し、核酸標識画像を取得した後、当該核酸標識画像から細胞核領域の輝度値や面積値を測定し、得られた測定値に基づいて設定することができる。
【0045】
図1は、画像解析における細胞核領域の具体的な決定方法を模式的に示した図である。図1(A)は1つの細胞を模式的に示した図である。図中、領域101は核(細胞核)を、領域102は細胞質を、それぞれ示している。まず、画像解析において、細胞一つ一つを自動的に識別するために、DAPI等の核酸染色剤で染色されたこの領域101、すなわち細胞核領域103をメインオブジェクトとして認識するような領域を設定する{図1(B)}。具体的には、核酸染色剤により染色された部分の面積の最大値と最小値及び蛍光強度を測定し、各画素が細胞核用閾値以上の輝度値を有する領域のうち細胞核用面積閾値以上の面積を有する領域を抽出し、細胞核領域として決定する。
【0046】
さらに、細胞密度が高く、細胞が込み合っているような場合がある場合は、領域分割を行う手法の一つとして知られているウォーターシェッド(Watershed)アルゴリズム手法を用いることが好ましい。該手法は、マークと呼ばれる領域の中心を隣接画素へと広げていくことによって領域を得るものであり、この機能を同時に使用することにより、個々の細胞を認識するよう設定する{図1(C)}。図1(C)に示すように、2つの重なり合う細胞は、ウォーターシェッド機能を用いない場合には1つの細胞核として認識されるが{図1(C―a)}、ウォーターシェッド機能を用いることにより、2つの細胞核として認識できるようになる{図1(C―b)}。細胞核の認識は、他にも、エッジ認識や隣接する細胞のくびれを認識されることによっても同様に行うことができる。
【0047】
測定された輝度値の解析時には、画像処理の一つの方法としてローリングボールを使ったバックグランド補正を行ってもよい。また、決定された全ての細胞核領域に対して、以降の解析を行ってもよいが、核の誤認識を排除するため、細胞核領域の面積(Area)と、例えば、サーキュラリティーファクターをはじめとする細胞核の形状を記述ファクター(その他、円周ペリメータ、MAXフェレット、エロンゲーションファクター等)とにより、特定の形状的特徴を備える細胞核を有する細胞集団を選択し、当該細胞集団に含まれる細胞に対してのみ以降の解析を行うことにより、ノイズを排除して解析を行うことが好ましい。
【0048】
さらに、工程(e)として、解析対象である標識した構造体の、細胞核領域中における存在量、局在、形態等を測定する。具体的には、まず、工程(c)において取得された各構造体の標識画像(以下、「構造体標識画像」と略記することがある。)のそれぞれに対して、核酸標識画像から決定された各細胞核領域に相当する領域に含まれる各画素の輝度値を測定する。得られた測定値を、予め決定しておいた閾値(構造体用閾値)と比較し、1画素当たりの輝度値がこの構造体用閾値以上である領域(画素の集合)を構造体染色領域として決定する。決定される構造体染色領域は、構造体の種類や細胞の状態等により異なり、1の細胞核領域中で1の領域として決定される場合もあり、複数の領域として決定される場合もある。決定された全構造体染色領域中の各画素の輝度値の統計値、全構造体染色領域の総面積、全構造体染色領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定する。なお、輝度値の統計値とは、当該領域に含まれる全画素の輝度値の合計値であってもよく、1画素当たりの平均値であってもよく、1画素当たりの最大値であってもよい。
【0049】
構造体用閾値は、標識の際のノイズを排除し、標識の有無を認識するための閾値である。この閾値は、構造体の種類や標識方法に依存して変動するものであるため、構造体の種類及び標識方法の種類ごとに、それぞれ構造体用閾値を設定しておく。例えば、解析対象の細胞と同種の細胞を予め染色し、構造体標識画像を取得した後、当該標識画像から構造体領域の輝度値や面積値を測定し、得られた測定値に基づいて設定することができる。その他、例えば、構造体標識画像中の当該構造体が存在していないことが明らかな領域(バックグラウンド)の1画素当たりの輝度値やその統計値等を構造体用閾値としてもよく、経験的に取得された閾値であってもよい。
【0050】
その後、工程(f)として、測定された統計値に基づき、構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する。例えば、測定された統計値が、予め対照細胞を同様に処理して測定された輝度値の統計値よりも大きい場合には、解析された細胞では、対照細胞よりも当該構造体の細胞核内における存在量が多いことが分かる。
【0051】
また、構造体染色領域(細胞核領域中の1画素当たりの輝度値が構造体用閾値以上である領域、すなわち、構造体標識画像中の標識された領域)の面積や周囲長を測定することにより、細胞核領域内における当該構造体の形態や局在を解析することができる。例えば、測定された輝度値の統計値が対照細胞とほぼ同等であるにも関わらず、測定された面積値や周囲長値が、予め対照細胞を同様に処理して測定された面積値や周囲長値よりも大きい場合には、当該構造体は、解析された細胞において、対照細胞よりも細胞核内に広く分散していることが分かる。逆に、測定された面積値や周囲長値が、対照細胞よりも小さい場合には、当該構造体は、解析された細胞において、対照細胞よりも細胞核内で凝集していることが分かる。
【0052】
本発明においては、細胞核領域に加えて、細胞質領域を決定し、解析対象である構造体の細胞核領域の存在量と細胞質領域の存在量とを比較することにより、当該構造体の細胞内における局在を解析することができる。
【0053】
細胞質領域は、工程(d)において決定された細胞核領域に基づいて設定することができる。具体的には、決定された細胞核領域の外周部分を内周とするドーナツ型の領域であって、ドーナツ型の幅が等間隔である(当該領域の外周上の各点から内周までの最短距離(すなわち幅)が、外周上の全ての点において等しい)領域を、細胞質領域として決定することができる。細胞質領域の作成においては、ドーナツ型の幅(細胞核領域の外周部分と内周部分との距離)を自由に設定することができる。例えば、予め、解析に用いる細胞の細胞膜と核酸を染色した染色画像を取得し、細胞核の外周から細胞膜までの距離を測定しておき、この測定値に基づいて細胞質領域の幅(厚み)を決定してもよい。また、一般的に細胞質の厚みは、細胞の種類等にかかわらずほぼ同程度であることから、細胞核領域の外周から細胞質領域の外周までの距離を10〜30ピクセル程度とすることもできる。
【0054】
また、工程(a)において、細胞質を別途標識し、工程(b)において、さらに、標識された細胞の細胞質の標識画像を取得し、取得された細胞質の標識画像に基づいて細胞質領域を決定してもよい。細胞質の標識は、撮像された画像上で、核酸や解析対象である構造体と視覚的に区別し得るように標識し得る方法であれば特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知のいずれの手法を用いてもよい。
【0055】
図2は、画像解析における細胞質領域の具体的な決定方法を模式的に示した図である。図中、領域103は細胞核領域を、領域102は細胞質を、領域104は構造体標識領域(1画素当たりの輝度値が構造体用閾値以上である領域)を、領域105は細胞質領域を、それぞれ示している。測定対象である構造体が細胞核外に移行している場合、図2に示すように、当該細胞の細胞質が漏れなく含まれ、かつ細胞核領域が除かれるドーナツ型の領域を、細胞質領域として設定する。
【0056】
また、本発明の構造体解析方法においては、さらに、下記工程(g)を有することが好ましい。
(g)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞周期を判断する工程。
解析対象である細胞の細胞周期を判断することにより、構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態と、細胞周期との相関関係を解析することができる。
【0057】
細胞周期のS期には細胞核内の染色体が2n本から4n本となり、これがM期には染色体として凝集した後分裂し、分裂後の娘細胞(つまり、G0期)にはもとの2n本となる。つまり、細胞周期の各期によって、DNA含有量と凝集度(密度)が変化する。一方で、核酸をDNAインターカレータ等のように、細胞内の核酸量を反映可能な染色剤によって染色した場合、細胞核内のDNA量(ploidy)、すなわち染色体数に依存して、細胞核は強く染色される。このため、細胞を蛍光性核酸染色剤により染色した場合に、細胞核領域の全画素の輝度値の合計値(総蛍光量)と1画素当たりの最大輝度値(最大蛍光量)から、およその細胞周期を判断することができる。すなわち、正常な細胞においては、G0/G1期の細胞(染色体数=2n)が最も総蛍光量が小さく、G2/M期の細胞(染色体数=4n)が最も総蛍光量が大きく、S期の細胞(染色体数=2n〜4n)の総蛍光量は両者の間の値となる。
【0058】
このため、核酸標識画像中の決定された細胞核領域に含まれる全画素の総蛍光量と最大蛍光量を測定し、これらの値から、細胞周期を判断することができる。なお、細胞周期の時期ごとに、細胞核領域の総蛍光量や最大蛍光量を予め測定しておき、これを基準値として用いることにより、簡便に各細胞の細胞周期を判断することができる。
【0059】
また、本発明の構造体解析方法においては、解析対象である細胞の細胞核の形態も解析することにより、構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態と細胞核の形態との相関や、構造体の局在等と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することができる。本発明においては、特に、細胞核の形成が不整である(すなわち、核異型である)のかどうか、正常であるのか否かを解析することが好ましい。細胞核の形態は、癌化や老化、分化等の重要な生命現象に依存して変形する場合がある。このため、細胞核の形態は、このような生命現象の指標とすることができる。つまり、構造体の細胞内における存在量、局在、又は形態と細胞核の形態との相関を解析することにより、癌化等の生命現象と構造体の細胞内における挙動との相関を解析し得ることが期待できる。なお、ここで、細胞内挙動とは、細胞内における発現(存在)の有無、存在量、局在等を意味する。
【0060】
具体的には、工程(a)〜(g)に加えて、さらに、下記工程(h)を有することにより、構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することができる。
(h)前記工程(d)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸方周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程。
ここで、凸包面積及び凸包周囲長は、当該領域中の各画素の任意の2要素を結ぶ閉線分を内部に含む、最小の凸多角形の面積及び周囲長として測定する。
【0061】
細胞核の形態は、画像解析において、オブジェクトの形態を解析する際に用いられる種々のパラメータを用いることにより解析することができる。このようなパラメータとして、例えば、(p)細胞核領域の凸包面積/細胞核領域の面積、(q)(細胞核領域の周囲長)2/細胞核領域の面積、(r)細胞核領域の凸包周囲長/細胞核領域の周囲長等が挙げられる。
【0062】
本発明においては、細胞核領域を決定した後、当該領域の周囲長、面積、真円度、当該領域の平均輝度値(当該領域中の各画素の輝度値の平均値)、当該領域の最大輝度値(当該領域中の各画素の輝度値の最大値)といったパラメータを、それぞれ単独で又は組み合わせることにより解析を行うことができるため、様々な方向から細胞核の異型を観察することが可能である。また、標識の強度(輝度値、染色の場合には染色強度)のみならず、形態からも解析を行うため、細胞核の微妙な変化や時間的変化も解析することができる。
【0063】
このように、本発明の構造体解析方法により、核膜や核内構造体等の構造体の細胞内、特に細胞核内における存在量、局在、形態等を解析することができる。また、細胞周期や細胞核の形態の解析と組み合わせることにより、解析対象である構造体の発現量の増減や形態、細胞核外への移行の有無等が、細胞周期や細胞核異型と相関性があるか否かを、簡便かつ高精度に解析することができる。具体的には、本発明の構造体解析方法を利用することにより、核小体の増加、例えばリボゾームの生合成の亢進(高い分裂能)や、PMLボディの低形成、傍核小体コンパートメントの出現等のような核内構造体の存在量の増減と、細胞周期や細胞核の形態との相関を解析することができる。また、細胞核のサイズ(大きさ)の相違や、染色体異常(分裂異常)、ゲノムDNAの低メチル化、ゲノムDNAの低メチル化やヘテロクロマチンの変化等のクロマチンの不均一化、細胞極性と分化の異常等の核の位置異常等を解析し得る。
【0064】
本発明の構造体解析方法を、生細胞を用いて行い、解析対象である構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態を、経時的に測定し解析することにより、当該構造体の細胞内挙動の時間変化をも解析することができる。
【0065】
構造体のうち、核膜を標識して解析する場合には、細胞核領域に加えて核膜領域を決定し、この核膜領域を解析することにより、核膜の状態と細胞周期との相関関係を解析することができる。具体的には、下記工程(a2)〜(g2)を有する。
(a2)核膜と細胞核内の核酸とを、それぞれ標識する工程と、
(b2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(c2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核膜の標識画像を取得する工程と、
(d2−1)前記工程(b2)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、
(d2−2)前記工程(d2−1)において決定された細胞核領域及び前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像に基づいて、各細胞における核膜領域を決定する工程と、
(e2)前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像中の、前記工程(d2−2)において決定された核膜領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定する工程と、
(f2)前記工程(e2)において測定された統計値に基づき、前記核膜領域を含む細胞の細胞核の形態又は核膜の状態を解析する工程。
【0066】
工程(a2)〜(d2−1)は、前述の核内構造体を標識した場合と同様に行うことができる。
【0067】
工程(d2−2)における核膜領域の決定は、具体的には、決定された細胞核領域を中心とし、当該領域の外周部分を含む等間隔のドーナツ型の領域を核膜領域として決定することができる。核膜領域の作成においては、細胞核領域の外周(最外線)からの、核膜領域の最内線(ドーナツ型の内周)までの距離及び最外線(ドーナツ型の外周)までの距離を自由に設定することができる。例えば、予め、解析に用いる細胞の核膜を染色した染色画像を取得し、核膜の厚みを測定しておき、この測定値に基づいて核膜領域の幅(厚み)を決定してもよい。また、一般的に核膜の厚みは、細胞の種類等にかかわらずほぼ同程度であることから、細胞核領域の外周から核膜領域の最内線までの距離を1〜5ピクセル、細胞核領域の外周から核膜領域の最外線までの距離を1〜5ピクセルとすることもできる。
【0068】
また、核膜領域の決定において、決定された細胞核領域を中心とし、当該領域の外周部分を含む等間隔のドーナツ型の領域を核膜領域として決定する際に、このドーナツ型の領域内に、核膜標識画像中の標識された領域(例えば、蛍光画像の場合には、蛍光強度が検出された画素からなる領域)が含まれるように核膜領域を決定することが好ましい。
【0069】
図3に、細胞核領域に基づいて核膜領域を決定する方法を模式的に示す。図中、領域103は細胞核領域を、領域102は細胞質を、領域106は核膜標識画像中の標識された領域を、領域107は核膜領域を、それぞれ示している。
【0070】
ここで、核膜標識画像中の標識された領域は、例えば、予め閾値(核膜用閾値)を設定しておき、核膜標識画像中に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値がこの核膜用閾値以上である領域(画素の集合)を抽出することにより決定することができる。核膜用閾値は、前記の構造体用閾値の一種であり、標識の際のノイズを排除し、標識の有無を認識するための閾値である。この閾値は、核膜の標識方法に依存して変動するものであるため、標識方法の種類ごとに、それぞれ核膜用閾値を設定しておく。例えば、核膜に特異的に局在するタンパク質を免疫染色することにより核膜を標識する場合には、当該タンパク質が発現していないことが既知の細胞や、ノックダウン処理等により当該タンパク質の発現を抑制した細胞を用いて、当該タンパク質の免疫染色を行い、測定された核膜の輝度値の統計値等を閾値とすることができる。その他、核膜標識画像中の核膜が存在していないことが明らかな領域(バックグラウンド)の1画素当たりの輝度値やその統計値等を核膜用閾値としてもよく、経験的に取得された閾値であってもよい。
【0071】
その他、核膜領域は、工程(c2)において取得された核膜の標識画像のみに基づいて決定することもできる。具体的には、核膜標識画像中に含まれる各画素の輝度値を測定し、各画素が核膜用閾値以上の輝度値を有する一塊の領域をメインオブジェクトとして認識する。このオブジェクト中の各画素の輝度値の勾配から、当該オブジェクトの境界を分離し、当該境界から一定距離、一定輝度を有する画素からなる領域を核膜領域と設定する。
【0072】
図4は、核膜の染色画像に基づいて核膜領域を決定する方法を模式的に示した図である。図中、領域101は細胞核を、領域106は核膜標識画像中の標識された領域を、それぞれ示している。当該領域106に基づき、核膜領域107が決定される。
【0073】
次いで、工程(e2)として、工程(c2)において取得された核膜の標識画像中の、工程(d2−2)において決定された核膜領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定する。輝度値の統計値の測定方法は、前述の工程(e)と同様にして行うことができる。核膜領域に含まれる各画素の輝度値の統計値としては、例えば、平均輝度値や最大輝度値等が挙げられる。
【0074】
さらに、工程(f2)として、工程(e2)において測定された統計値に基づき、前記核膜領域を含む細胞の細胞核の形態又は核膜の状態を解析する。例えば、平均輝度値、平均輝度値と最大輝度値との組み合わせ、又は〔核膜領域に含まれる各画素の輝度値/細胞核領域に含まれる各画素の輝度値〕等から、細胞核の形態や核膜の状態を解析することができる。なお、核膜の状態とは、核膜の形態に加えて、核膜が正常に形成されているか、又は形成異常であるかどうか、そもそも形成されていない(不形成)かどうか等を判断することができる。例えば、核膜領域の平均輝度値が小さい場合や、〔核膜領域に含まれる各画素の輝度値/細胞核領域に含まれる各画素の輝度値〕が小さい場合には、核膜が形成不全である、又は不形成であると判断することができる。また、最大輝度値が極端に大きい場合、核膜が形成異常であり、核膜構成要素が偏重していると判断することができる。
【0075】
さらに、核内構造体の解析と同様に、細胞周期や細胞核の形態の解析と組み合わせることにより、核膜の形態、形成異常や不形成の有無等が、細胞周期や細胞核異型と相関性があるか否かを、簡便かつ高精度に解析することができる。
【0076】
<細胞核の形態の解析方法>
前述したように、核酸標識画像に基づいて細胞核領域を決定した場合、この細胞核領域のみから、細胞核の形態を解析することができる。具体的には、下記工程を行うことにより、細胞核の形態を解析することができる。
(a3)細胞核内の核酸を標識する工程と、
(b3)前記工程(a3)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(d3)前記工程(b3)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、
(h3)前記工程(d3)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸包周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程。
【0077】
工程(a3)、(b3)、(d3)、及び(h3)は、それぞれ、前述の工程(a)、(b)、(d)、及び(h)と同様に行うことができる。
【0078】
<細胞画像解析装置>
本発明において、工程(a)〜(c)以外の工程は、これらの工程を実現可能な一の画像解析装置を用いて解析することができる。例えば、画像解析の分野において一般的に用いられている公知の画像解析装置又はこれを適宜改変した装置を用いることにより、解析することができる。細胞画像解析装置1は、パーソナルコンピュータやワークステーション等の情報処理装置を用いて構成されても良いし、顕微鏡などに組み込まれた専用装置として構成されても良い。例えば、顕微鏡やCCDカメラ等の細胞画像の撮像手段をさらに備える画像解析装置を用いることにより、工程(a)以外の全工程を、一の装置を用いて行うこともできる。
【0079】
図5(A)は、このような細胞画像解析装置の一実施形態である細胞画像解析装置1の機能構成を表す概略ブロック図である。細胞画像解析装置1は、光源2、CCDカメラ3、カメラコントローラ4、ステージコントローラ5、結像光学系6、パーソナルコンピュータ(図中、「PC」)7、PCモニタ8、及びキーボード9を備える。
【0080】
ステージコントローラ5は、スライドガラスやマルチウェルプレート等の画像を取得する細胞が含まれている細胞観察用容器が設置されたステージを制御する。光源2は、標識した細胞の画像を取得するために、ステージコントローラ5により制御されたステージに設置された細胞観察用容器中の細胞に、所望の波長の光を照射する。
【0081】
結像光学系6は、動作制御を指示するソフトウェアを介してフォーカス位置を自動で調整する。また、CCDカメラ3は、当該細胞観察用容器中の細胞の画像を取得し、カメラコントローラ4は、CCDカメラ3を制御する。パーソナルコンピュータ7は、光源2、CCDカメラ3、カメラコントローラ4、ステージコントローラ5、結像光学系6の動作制御を指示するソフトウェアを有している。
【0082】
また、パーソナルコンピュータ7は、CCDカメラ3により撮像された細胞の標識画像に基づいて、画素当たりの輝度値を測定し、当該測定結果に基づき、細胞核領域を決定したり、各構造体の構造体染色領域を決定したりする。さらに、構造体標識画像中の決定された細胞核領域及び構造体染色領域に基づき、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定する。かつ、工程(e)の結果に基づき、構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する。すなわち、前記工程(e)〜(f)における解析は、パーソナルコンピュータ7において行われる。さらに、パーソナルコンピュータ7は、得られた結果を保存し、測定及び解析結果を出力することもできる。解析結果等は、画像出力装置に文字又はグラフなどの図形として表示させることによって出力しても良いし、プリンターに印字させることによって出力しても良い。
【0083】
PCモニタ8やキーボード9は、パーソナルコンピュータ7の操作に用いられる。PCモニタ8は、CCDカメラ3により撮像された細胞の標識画像やパーソナルコンピュータ7から出力される結果等を表示するための画像出力装置としても用いられる。
【0084】
また、図5(B)は、細胞画像解析装置1の動作例を表すフローチャートである。当該フローチャートでは、構造体として核内構造体を標識した例を示す。まず、ステップ1として、核膜と核酸をそれぞれ標識した細胞の、核内構造体の標識画像(核内構造体標識画像)と核酸の標識画像(核酸標識画像)とを、それぞれ別個に撮像する。具体的には、まず、細胞観察用容器を、細胞画像解析装置1のステージに設置し、ステージコントローラ5により、適当な位置にセットする。次いで、当該細胞観察用容器中の細胞に対して光源2から標識に応じた光を照射し、結像光学系6によりフォーカス調整を行い、CCDカメラ3により、各標識画像を撮像する。
【0085】
次に、ステップ2として、パーソナルコンピュータ7において、核酸標識画像に基づき、細胞核領域を決定する。さらに、ステップ3として、同じくパーソナルコンピュータ7において、核内構造体標識画像に基づき、決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域を核内構造体標識領域として検出する。同様に、核酸標識画像に基づき、前述した方法により、核膜領域を検出する。その後、ステップ4として、核酸標識画像に基づき、前述した方法により、細胞質領域を検出する。なお、ステップ4は省略し、ステップ3から直接ステップ5を行っても良い。
【0086】
次いで、ステップ5として、ステップ2〜4において検出された各領域、特に細胞核領域中における核内構造体の存在量、局在、形態等を測定し、これらを示すパラメータの数値等を特徴量として抽出する。具体的には、ステップ3において決定された核内構造体標識領域中の各画素の輝度値の統計値、当該核内構造体標識領域の総面積、及び当該核内構造体標識領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、測定された統計値を、標識された核内構造体の特徴量として抽出する。
【0087】
最後に、ステップ6として、ステップ5で得られた特徴量に基づき、核内構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析し、結果を出力する。
【0088】
上述した本発明の細胞画像解析装置の一態様である細胞画像解析装置1の機能をコンピュータで実現するようにしても良い。その場合、各機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0089】
本発明の構造体解析方法は、このような細胞画像解析装置と、細胞画像を取得するための顕微鏡部及び撮像部、並びに撮像された画像を蓄積し記録する画像記録部とを備える、イメージングサイトメータを用いて行うことが好ましい。なお、本発明においてイメージングサイトメータとは、自動的に染色画像の取得と得られた染色画像の解析を行うことができる画像解析装置を意味する。例えば、スライドガラス上の細胞集団に対して、レーザを収束させたスポットで走査し、この細胞集団の個々の細胞が発する蛍光を検出し、走査画像データを画像処理することにより、個々の細胞のデータを抽出して測定するレーザ走査型サイトメータ(例えば、特開平3−255365号公報参照。)やこれを適宜改良したサイトメータ等が挙げられる。
【0090】
特に、取得された顕微鏡画像に基づき得られた解析データから、顕微鏡画像の画像データを呼び出す手段を有するイメージングサイトメータを用いることが好ましい。各解析データ、例えば、細胞核領域、細胞周期判定用画像の輝度値の統計値等のデータに対して画像データを迅速に確認することができるため、より信頼性の高い診断結果を得ることができるためである。また、解析結果をヒストグラムやドットプロットにより表示する手段を有していることが好ましい。本発明においては、ドットプロット表示がより望ましい。ドットプロット表示では、個々の細胞が1つ1つのドットとして表示されるため、解析結果をドットプロット表示することにより、個々の細胞情報を画像とともに瞬時に確認できる利点がある。
【0091】
また、本発明における標識画像の解析に、イメージングサイトメータを用いることにより、細胞核に加えて、構造体、核膜構造体や核膜の発現量に加えて、これらの位置情報、時間情報、形態情報をも得ることができる。すなわち、核内構造体の形状や細胞内においての局在、核異型及び核膜の有無や形状、時間的変化等から、ターゲットとする核内構造体や核異型、核膜を精度よくスループット解析することができる。特に、イメージングサイトメータを用いることにより、細胞が個々になっていない場合でも、ソフトウェア上で細胞個々を判断したり、解析対象を、画像を見ながら判断することができる。これらに基づき、様々な情報や画像の再確認等を行うことができ、精度の高い解析を行うことができる。また、様々な解析を組み合わせることで核異型と細胞の係わり合いも解析することが可能である。
【0092】
さらに、標識画像の撮影から解析までの一連の工程を全て自動で行うことができるため、1視野ずつ細胞を探すことなく撮影し解析することができる。つまり、目視により解析対象とする細胞を探した後に撮像する場合よりも、細胞を長時間露光することなく観察、評価することができるため、細胞へのダメージも最小限にとどめ、精度の高い評価が可能である。
【実施例】
【0093】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
[実施例1]
核スペックルに特異的に局在するSC35を免疫染色することにより、核スペックルを標識し、正常及び変異細胞群における核スペックルの形態を定量解析した。核膜孔複合体構成タンパク質で、細胞核内構造体の形成に関与するRanBP2(RAN binding protein 2)が減弱したHeLa細胞を変異細胞として用いた。
HeLa細胞を96ウェルプレートに播種後、RanBP2、及びコントロールとしてホタルルシフェラーゼ(GL3)を標的としたsiRNA (日本バイオサービス社製)をRNAiMAX (Invitrogen社製)でトランスフェクションしノックダウン処理を行い、72時間培養した。各細胞をPBSで1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド溶液で室温15分間固定処理した後、PBSで3回洗浄し、0.2%のTritonX−100で氷上5分間浸透処理した。その後、各ウェルに対して、0.5%のNGS(Normal Goat Serum)で3回洗浄・ブロッキング操作を行った後、一次抗体として抗SC35抗体(mouse、BD Pharmingen社製、カタログ番号:556363)及び抗RanBP2抗体(Rabbit、九州大学西本毅治教授より供与)を0.2%のBSAで希釈した溶液を添加し、1時間インキュベートした。さらに0.2%のNGSで3回洗浄を行った後、二次抗体としてcy3標識抗mouse抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製、カタログ番号:715−165−151)及びAlexa488標識抗Rabbit抗体(Invitrogen社製、カタログ番号:A11034)を0.2%のNGSで希釈した溶液を添加し、1時間インキュベートすることにより、細胞中のSC35及びRanBP2を標識(ラベル化)した。ラベル化した細胞を、PBSで1回洗浄した後、1μg/mlDAPI−PBS溶液中で5分間インキュベートし、核酸を染色した。PBSで1回洗浄後、ウェル中にPBSを満たした状態で撮像を行った。核酸標識画像(以下、「DAPI染色画像」)、核スペックル標識画像(以下、「Cy3(SC35)染色画像」)、及び核膜標識画像(以下、「Alexa488(RanBP2)染色画像」)は、CELAVIEW(オリンパス社製)を使用し、20倍対物レンズを用いて撮像し、CELAVIEW Analysis Soft(オリンパス社製)を用いて解析を行った。各標識画像を図6に示す。図中、「Contorol」がRanBP2ノックダウン未処理細胞を、「Knockdown」がRanBP2ノックダウン処理細胞を、それぞれ示す。
【0095】
まず、DAPI染色画像に基づき、細胞核をメインオブジェクトとして設定し、予め定めておいた蛍光強度の閾値により細胞核領域を決定し、その形態を認識させた。図7は、決定された細胞核領域を含む細胞(RanBP2ノックダウン処理細胞とコントロール細胞の両方を含む)に対して、細胞核領域の面積(Area;横軸)とサーキュラリティーファクター(Circularity Factor;縦軸)とをパラメータとして2次元に展開した図である。図中、実線で囲った領域(エリア1)に含まれる細胞を、以下の解析対象とする細胞集団として選択した。
【0096】
エリア1の細胞集団の各細胞に対して、1画素当たりの最大輝度値(Max Intensity DAPI;縦軸)と細胞核領域の全画素の輝度値の合計値(Total Intensity DAPI;横軸)をパラメータとして2次元に展開し(図8)、各細胞の細胞周期を決定した。エリア2をG1期の細胞、エリア3をG2期の細胞、エリア4を異数体細胞(aneuploidy)、エリア5をM期の細胞群として、それぞれ分類した。
【0097】
次に、決定された細胞核領域を中心とし、当該領域の外郭(外周部分)から2ピクセル内側を内側開始地点とする幅4ピクセルのドーナツ型の領域を核膜領域として設定し、Alexa488(RanBP2)染色画像から、核膜に発現しているRanBP2を解析した。RanBP2ノックダウン処理細胞とコントロール細胞群の各細胞に対して核膜領域を決定し、RanBP2の平均蛍光強度(核膜領域内の1画素当たりの平均蛍光強度:Mean Intensity RanBP2)を求め、細胞数(Counts)に対してプロットした。プロットした結果を図9に示す。図9(A)がRanBP2ノックダウン処理細胞群の結果であり、図9(B)がコントロール細胞群の結果である。RanBP2ノックダウン処理細胞群では、コントロール細胞群よりも、細胞分布のピークが、RanBP2の平均蛍光強度が低い方にシフトしていた。そこで、RanBP2が核膜に存在しているか否かを決定する閾値(図中の矢印)を決定し、RanBP2の発現が抑制された細胞集団をゲーティングした。その結果、RanBP2ノックダウン処理細胞では、95%以上の細胞においてRanBP2の発現が抑制されていることが分かった。
【0098】
さらに、決定された細胞核領域を中心とし、当該領域の外郭(外周部分)を内側開始地点とする幅30ピクセルのドーナツ型の領域を細胞質領域として設定し、Cy3(SC35)染色画像から、細胞核領域(つまり細胞核内)に存在する核スペックル量と、細胞質領域(つまり細胞核外)に存在する核スペックル量とを、それぞれ解析した。具体的には、エリア1の細胞集団の各細胞に対して細胞質領域を決定し、各細胞の細胞核領域と細胞質領域とのそれぞれの領域に対して、各領域内におけるCy3(SC35)の平均蛍光強度(領域内の1画素当たりの平均蛍光強度)を測定し、SC35が細胞核内と細胞核外のいずれに存在しているのかを解析した。図10は、RanBP2ノックダウン処理細胞(Knockdown)とノックダウン未処理のコントロール細胞(Contorol)のそれぞれにおける、SC35が細胞核内に存在していた細胞の割合と、細胞核外に存在していた細胞の割合を示した図である。この結果、コントロール細胞では、細胞核外にSC35(核スペックル)が存在する細胞はほぼ観察されなかったが、RanBP2ノックダウン処理細胞では、30%前後の細胞において、SC35が細胞核外に局在していた。また、各細胞の細胞周期ごと(G0G1期、G2期、及びaneuploidy)に分類したところ、図11に示すように、RanBP2ノックダウン処理細胞において、sc35(核スペックル)が細胞核外に局在する細胞は、G0G1期の細胞である割合が高かった。
【0099】
実施例1の結果から、本発明の構造体解析方法を用いることにより、核内構造体の形態、核膜の状態、さらに細胞周期との複合的な相関を簡便に解析し得ることが明らかである。
【0100】
[実施例2]
カハールボディに特異的に局在しているcoilinを免疫染色することにより、細胞中のカハールボディを標識し、細胞内における存在量や局在等を解析した。解析対象とする細胞としては、実施例1と同様に、RanBP2及びコントロールとしてホタルルシフェラーゼ(GL3)を標的とするsiRNAでノックダウン処理したHeLa細胞を用いた。
具体的には、HeLa細胞を35mm細胞培養ディッシュ中に設置したカバースリップ上に播種後、RanBP2、及びコントロールとしてホタルルシフェラーゼ(GL3)を標的としたsiRNA (日本バイオサービス社製)をRNAiMAX (Invitrogen社製)でトランスフェクションしノックダウン処理を行い、72時間培養した。各細胞をPBSで1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド溶液で室温15分間固定処理した後、PBSで3回洗浄し、0.2%のTritonX−100で氷上5分間浸透処理した。その後、各ウェルに対して、0.5%のNGS(Normal Goat Serum)で3回洗浄・ブロッキング操作を行った後、一次抗体として抗coilin抗体(mouse、BD Transduction Laboratories社製、カタログ番号:612074)を用い、二次抗体として抗cy3標識抗mouse抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社製、カタログ番号:715−165−151)を用いて実施例1と同様に細胞をラベル化した。その後PBSで1回洗浄した後、1μg/mlDAPI−PBS溶液中で5分間インキュベートし、核酸を染色した。ラベル化した細胞が付着したカバースリップを80%グリセロール−DABCO(1,4−diacobicyclo−[2,2,2]−octane)溶液中で封入し、蛍光顕微鏡IX−71(オリンパス社製)で撮像を行った。画像取得には20倍対物レンズ、CCDカメラC4742−95−12ERG(浜松ホトニクス社製)及び画像取得ソフトウェアLuimina vision Version 2.4(三谷商事)を用いた。核酸標識画像(以下、「DAPI染色画像」)及びカハールボディ標識画像(以下、「Cy3(coilin)染色画像」)について、TIFFフォーマットにて保存した画像を、CELAVIEW Analysis Soft(オリンパス社製)を用いて解析を行った。各標識画像を図12に示す。図中、「Contorol」及び「Knockdown」は図6と同様である。この結果、coilinは、未処理細胞では細胞核内に点状の像を示し、RanBP2ノックダウン処理細胞では細胞核全体に斑状の像を示した。
【0101】
まず、実施例1と同様にして、DAPI染色画像に基づき、各細胞の細胞核領域を決定し、その形態を認識させた。
次に、各細胞の細胞核領域内に存在するカハールボディの形状を、面積を指標として解析した。具体的には、各細胞の細胞核領域内中の、1画素当たりのCy3(coilin)の蛍光強度が予め定められた閾値以上である画素数を、Cy3(coilin)が局在する構造体(カハールボディ)の総面積とした。図13は、各細胞の細胞核領域に存在するカハールボディの総面積(Area coilin)を横軸とし、各面積の細胞数(Counts)を縦軸として示した図である。この結果、RanBP2ノックダウン細胞とコントロール細胞とでは、カハールボディの総面積に顕著な差があることが確認された。すなわち、総面積を指標とした画像解析により、撮像された標識画像と同様に、構造体の形状の差を解析し得ることが明らかとなった。
【0102】
[実施例3]
細胞核領域の形態から、各細胞の細胞核の形態を解析した。解析対象とする細胞としては、実施例1と同様に、RanBP2ノックダウン、及びコントロールHeLa細胞を用いた。細胞の培養、ラベル化と撮像は、一次抗体として抗LaminA/C抗体(mouse、Santa Cruz社製、カタログ番号:sc−7292)、二次抗体としてCy3標識抗mouse抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社製、社製、カタログ番号:715−165−151)を使用した以外は実施例2と同様である。各標識画像を図14に示す。図中、「Contorol」及び「Knockdown」は図6と同様である。
【0103】
実施例1と同様にして、DAPI染色画像に基づき、各細胞の細胞核領域を決定し、その形態を認識させた。次いで、この決定された細胞核領域の面積(細胞核面積)、周囲長(細胞核周囲長)、凸包の面積(凸包面積)、及び凸包の周囲長(凸包周囲長)をそれぞれ測定し、(p)細胞核領域の凸包面積/細胞核領域の面積、(q)(細胞核領域の周囲長)2/細胞核領域の面積、(r)細胞核領域の凸包周囲長/細胞核領域の周囲長を算出した。図15は、各細胞の〔(細胞核領域の周囲長)2/細胞核領域の面積〕(Perix2/Area)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図であり、図16は、各細胞の〔細胞核領域の凸包面積/細胞核領域の面積〕(ConvexHullRelative_Area)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図であり、図17は、各細胞の〔細胞核領域の凸包周囲長/細胞核領域の周囲長〕(ConvexHullRelative)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。各図のうち、(A)がRanBP2ノックダウン処理細胞群の結果であり、(B)がコントロール細胞群の結果である。また、(C)は、図(A)中の括弧で示した細胞群中の細胞のDAPI染色画像である。
【0104】
次に、細胞核の形態を、核膜領域に存在するLaminA/C量に基づいて解析した。具体的には、決定された細胞核領域を中心とし、当該領域の外郭(外周部分)から3ピクセル内側を内側開始地点とする幅6ピクセルのドーナツ型の領域を核膜領域として設定し、Cy3(LaminA/C)染色画像に基づいて、決定された各核膜領域内におけるCy3(LaminA/C)の平均蛍光強度(領域内の1画素当たりの平均蛍光強度)を測定した。図18は、各細胞の〔核膜領域内におけるCy3(LaminA/C)の平均蛍光強度〕(Mean Intensity Cy3)を横軸とし、細胞数(Counts)を縦軸として分布を示した図である。図18(A)がRanBP2ノックダウン処理細胞群の結果であり、図18(B)がコントロール細胞群の結果である。また、図18(C)は、図18(A)中の括弧で示した細胞群中の細胞のCy3(LaminA/C)染色画像である。
【0105】
これらの結果から、RanBP2ノックダウン細胞では、細胞核膜の形態が変形した核異型となることが分かった。本手法は癌組織などで見られる核膜の不整の定量解析に応用が可能である。また、本発明の構造体解析方法を用いることにより、細胞核の形態と核膜の状態との相関を簡便に解析し得ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の構造体解析方法を用いることにより、核内構造体や核膜の細胞内挙動、具体的には、核内構造体の細胞内における存在量や局在、細胞核の形態、並びに核膜の形成異常や不形成の有無を、イメージング解析により簡便かつ高精度に解析することができるため、試験試料の形態学的情報から疾患の診断及び治療に対するモニタリングのような医学的実施への応用において有用となり得るため、学術的分野のみならず、臨床検査等の分野においても利用が可能である。
【符号の説明】
【0107】
1…細胞画像解析装置1、2…光源、3…CCDカメラ、4…カメラコントローラ、5…ステージコントローラ、6…結像光学系、7…パーソナルコンピュータ、8…PCモニタ、9…キーボード、101…核、102…細胞質、103…細胞核領域、104…構造体標識領域、105…細胞質領域、106…核膜標識画像中の標識された領域、107…核膜領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞核を構成する構造体を解析する方法であって、
(a)細胞核を構成する1種類又は複数種類の構造体と細胞核内の核酸とをそれぞれ標識する工程と、
(b)前記工程(a)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(c)前記工程(a)において標識された細胞の、前記構造体の標識画像を、標識された構造体の種類ごとに別個に取得する工程と、
(d)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像に基づいて、細胞核領域を決定する工程と、
(e)前記工程(c)において取得された前記構造体の標識画像中の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定する工程と、
(f)前記工程(e)において測定された統計値に基づき、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する工程と、
を有することを特徴とする細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項2】
さらに、
(g)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞周期を判断する工程と、
を有し、前記構造体の細胞内における存在量と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする請求項1記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項3】
前記構造体が、核膜、核スペックル、カハールボディ、及びPMLボディからなる群より選択される1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項4】
前記構造体が核内構造体であり、
前記工程(d)において、さらに、決定された細胞核領域に基づいて、各細胞における細胞質領域を決定し、
前記工程(e)において、さらに、前記工程(c)において取得された前記構造体の標識画像中の、前記細胞質領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定することを特徴とする請求項2記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項5】
前記構造体が核内構造体であり、
前記工程(a)において、さらに、細胞質を標識し、
前記工程(b)において、さらに、前記工程(a)において標識された細胞の、細胞質の標識画像を取得し、
前記工程(d)において、さらに、取得された細胞質の標識画像に基づいて、各細胞における細胞質領域を決定し、
前記工程(e)において、さらに、前記工程(c)において取得された前記核内構造体の標識画像中の、前記細胞質領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定することを特徴とする請求項2記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項6】
さらに、
(h)前記工程(d)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸包周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程と、
を有し、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする請求項4又は5記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項7】
前記核内構造体が、核スペックル、カハールボディ、及びPMLボディからなる群より選択される1種であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項8】
細胞核を構成する構造体を解析する方法であって、
(a2)核膜と細胞核内の核酸とを、それぞれ標識する工程と、
(b2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(c2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核膜の標識画像を取得する工程と、
(d2−1)前記工程(b2)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、
(d2−2)前記工程(d2−1)において決定された細胞核領域及び前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像に基づいて、各細胞における核膜領域を決定する工程と、
(e2)前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像中の、前記工程(d2−2)において決定された核膜領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定する工程と、
(f2)前記工程(e2)において測定された統計値に基づき、前記核膜領域を含む細胞の細胞核の形態又は核膜の状態を解析する工程と、
を有することを特徴とする細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項9】
前記工程(d2−2)において、前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像に基づいて、各細胞における核膜領域を決定することを特徴とする請求項8記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項10】
さらに、
(g2)前記工程(b2)において取得された核酸の標識画像中の、前記工程(d2−1)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞周期を判断する工程と、
を有し、核膜の状態と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする請求項8又は9記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項11】
細胞核の形態を解析する方法であって、
(a3)細胞核内の核酸を標識する工程と、
(b3)前記工程(a3)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(d3)前記工程(b3)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、
(h3)前記工程(d3)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸包周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程と、
を有することを特徴とする細胞核の形態の解析方法。
【請求項1】
細胞核を構成する構造体を解析する方法であって、
(a)細胞核を構成する1種類又は複数種類の構造体と細胞核内の核酸とをそれぞれ標識する工程と、
(b)前記工程(a)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(c)前記工程(a)において標識された細胞の、前記構造体の標識画像を、標識された構造体の種類ごとに別個に取得する工程と、
(d)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像に基づいて、細胞核領域を決定する工程と、
(e)前記工程(c)において取得された前記構造体の標識画像中の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定する工程と、
(f)前記工程(e)において測定された統計値に基づき、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する工程と、
を有することを特徴とする細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項2】
さらに、
(g)前記工程(b)において取得された核酸の標識画像の、前記工程(d)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞周期を判断する工程と、
を有し、前記構造体の細胞内における存在量と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする請求項1記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項3】
前記構造体が、核膜、核スペックル、カハールボディ、及びPMLボディからなる群より選択される1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項4】
前記構造体が核内構造体であり、
前記工程(d)において、さらに、決定された細胞核領域に基づいて、各細胞における細胞質領域を決定し、
前記工程(e)において、さらに、前記工程(c)において取得された前記構造体の標識画像中の、前記細胞質領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定することを特徴とする請求項2記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項5】
前記構造体が核内構造体であり、
前記工程(a)において、さらに、細胞質を標識し、
前記工程(b)において、さらに、前記工程(a)において標識された細胞の、細胞質の標識画像を取得し、
前記工程(d)において、さらに、取得された細胞質の標識画像に基づいて、各細胞における細胞質領域を決定し、
前記工程(e)において、さらに、前記工程(c)において取得された前記核内構造体の標識画像中の、前記細胞質領域に含まれる各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、当該領域の総面積、及び当該領域の総周囲長からなる群より選択される1以上を測定することを特徴とする請求項2記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項6】
さらに、
(h)前記工程(d)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸包周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程と、
を有し、前記構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする請求項4又は5記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項7】
前記核内構造体が、核スペックル、カハールボディ、及びPMLボディからなる群より選択される1種であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項8】
細胞核を構成する構造体を解析する方法であって、
(a2)核膜と細胞核内の核酸とを、それぞれ標識する工程と、
(b2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(c2)前記工程(a2)において標識された細胞の、核膜の標識画像を取得する工程と、
(d2−1)前記工程(b2)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、
(d2−2)前記工程(d2−1)において決定された細胞核領域及び前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像に基づいて、各細胞における核膜領域を決定する工程と、
(e2)前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像中の、前記工程(d2−2)において決定された核膜領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定する工程と、
(f2)前記工程(e2)において測定された統計値に基づき、前記核膜領域を含む細胞の細胞核の形態又は核膜の状態を解析する工程と、
を有することを特徴とする細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項9】
前記工程(d2−2)において、前記工程(c2)において取得された核膜の標識画像に基づいて、各細胞における核膜領域を決定することを特徴とする請求項8記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項10】
さらに、
(g2)前記工程(b2)において取得された核酸の標識画像中の、前記工程(d2−1)において決定された細胞核領域に含まれる各画素の輝度値の統計値を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞周期を判断する工程と、
を有し、核膜の状態と細胞核の形態と細胞周期との相関関係を解析することを特徴とする請求項8又は9記載の細胞核を構成する構造体の解析方法。
【請求項11】
細胞核の形態を解析する方法であって、
(a3)細胞核内の核酸を標識する工程と、
(b3)前記工程(a3)において標識された細胞の、核酸の標識画像を取得する工程と、
(d3)前記工程(b3)において取得された核酸の標識画像に基づいて、各細胞における細胞核領域を決定する工程と、
(h3)前記工程(d3)において決定された細胞核領域の面積、当該細胞核領域の周囲長、当該細胞核領域の凸包面積及び凸包周囲長からなる群より選択される1以上を測定し、当該細胞核領域を含む細胞の細胞核の形態を解析する工程と、
を有することを特徴とする細胞核の形態の解析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−75278(P2011−75278A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223587(P2009−223587)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
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