説明

細胞死抑制活性強化タンパク質FNKを用いた音響外傷治療剤

【課題】 細胞死抑制活性強化タンパク質FNKを含む音響外傷の治療剤の提供。
【解決手段】 Bcl-xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちの少なくとも1つの置換を有するFNKタンパク質を有効成分として含む音響外傷の治療または予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞死抑制活性強化タンパク質FNKを含む音響外傷の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
音響外傷は、大音響を耳のそばで聞かされた直後から難聴となり、耳鳴りがしたり、めまいを起こすという傷害である。ロックコンサート等大音響のする場所にいたり、様々な原因で内耳がダメージを受けた場合にかかる疾患である。
【0003】
音響外傷は、急性音響性聴力障害ともいい、強烈な強大音に曝露され、蝸牛内の解剖学的構造に物理的、機械的損傷が惹起される狭義の音響外傷のほか、騒音性突発難聴、Akustishe Unfall、短時間曝露後の急性感音難聴、いわゆるディスコ難聴、衝撃的音響曝露後の急性感音難聴{NIPTS(noise induced permanent threshhold shift)から比較的長く残るNITTS(noise induced temporary threshold shift)までを含む}等がある(非特許文献4参照)。
【0004】
強大音響暴露により生じる難聴の発症機序は明らかではない。その原因として感覚細胞や蓋膜などへの物理的損傷と代謝異常による損傷があり、この両者が関わり合って聴力障害が生じると考えられる。後者の代謝障害には、内有毛細胞のグルタミン酸の過剰放出による興奮性毒性、有毛細胞の細胞内カルシウム濃度の上昇、機械的損傷や血流障害による細胞内酸素やグルコースの欠乏、血管条の血流低下と再灌流による障害が挙げられる。これらの病的条件下で産生される活性酸素による細胞毒性も重要視されている。神経栄養因子(非特許文献1参照)や抗酸化剤(非特許文献2および3参照)の前投与および暴露後の継続投与で音響外傷が軽減される研究報告がある。
【0005】
音響外傷は、受傷後12時間から24時間後に医師にかかることが多く、突発性難聴の治療に準じて、急性期にはステロイド剤,ビタミン製剤、アデノシン三燐酸、血流改善薬などを用いるが(非特許文献4参照)、現在のところ有効な治療方法も予防方法もない。
【0006】
【非特許文献1】Yamasoba T, et al. Hear Res. 146, 134-142 (2000)
【非特許文献2】Yamasoba T, et al. Brain Res. 784, 82-90 (1998)
【非特許文献3】Yamasoba T, et al. Brain Res. 815, 317-325 (1999)
【非特許文献4】耳鼻咽喉科・頭頸部外科クリニカルトレンド、野村恭也編、中山書店
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、細胞死抑制活性強化タンパク質FNKを含む音響外傷の治療剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、先にアポトーシス抑制タンパク質であるBcl-xLを改変してその活性を強化したタンパク質であるFNKを開発した(特開2001-120281号公報)。
【0009】
本発明者は、FNKの音響外傷に対する効果について鋭意検討を行った。
FNKは、従来用いられてきたアポトーシス抑制タンパク質では得られない程の優れた効果が得られる。また、FNKは、アポトーシスのみでなく、ネクローシスも含めた細胞死を抑制する(Zonal necrosis prevented by transduction of the artificial anti-death FNK protein. Asoh, S. et al., Cell Death Differ. 2005,in press.)。従って、FNKが抑制する細胞死はアポトーシスに限定されない。FNKの改変元となったBcl-xLは様々な生物種に存在するが、その配列は非常によく似ている。本件では、ラット由来のFNKを用いたが、いずれも細胞死抑制効果を有していることがわかり、その他の生物種由来のFNKでも同じような効果が予想される。従って、FNKを作製するにあたって、その改変元となるBcl-xLの生物種は限定されない。
【0010】
通常、タンパク質は細胞膜を通過できない。従って、細胞外からFNKを投与するためには、細胞膜を通過させるための手段が必要となる。そのため、FNKのN末端側にPTD(細胞膜通過ドメイン)を連結させた。本件では、TATをPTDとして用いたが、いずれも細胞死抑制効果を有していることがわかった。従って、このPTDは、細胞膜通過機能を有していればよく、特定の配列に限定されない。
【0011】
本発明者は、音響外傷に対してFNKおよびPTDを連結したFNKが音響外傷の治療および予防に効果があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の態様は以下の通りである。
[1] Bcl-xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちの少なくとも1つの置換を有するFNKタンパク質を有効成分として含む音響外傷の治療または予防剤。
【0013】
[2] Bcl-xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl-xLタンパク質から選択される[1]の音響外傷の治療または予防剤。
【0014】
[3] FNKタンパク質のN末端側に細胞膜通過ペプチドが連結している、[1]または[2]の音響外傷の治療または予防剤。
【0015】
[4] 細胞膜通過ペプチドが、以下のペプチド(i)〜(xiii)のいずれかから選択される[3]の音響外傷の治療または予防剤。
(i) 6〜12個のアルギニンからなるペプチド、
(ii) 6〜12個のリシンからなるペプチド、
(iii) 6〜15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、
(iv) (i)から(iii)のいずれかのペプチドにおいて、数個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド、
(v) 配列番号11で表される(i)のペプチド、
(vi) 配列番号13で表される(iii)のペプチド、
(vii) 配列番号15で表される(iv)のペプチド、
(viii) 配列番号17で表されるペプチド、
(viiii) 配列番号18で表されるペプチド、
(x) 配列番号19で表されるペプチド、
(xi) 配列番号20で表されるペプチド、
(xii) 配列番号21で表されるペプチド、ならびに
(xiii) 配列番号22で表されるペプチド
【発明の効果】
【0016】
実施例に示すように、音響外傷を有する被験体に本発明のFNKまたはPTDを連結したFNKを投与することにより、音響外傷を治療することができ、また、予め大音響に曝露されることがわかっている被験体に本発明のFNKまたはPTDを連結したFNKを投与することにより、音響外傷を予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の音響外傷治療剤または予防剤が有効成分として含む細胞死抑制活性強化タンパク質であるFNKは、がん原遺伝子であるBcl-2遺伝子(Science 226(4678):1097-1099, 1984; Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81(22):7166-7170, 1984; Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83(14):5214-5218, 1986; Cell47(1):19-28, 1986)のホモログからなるBcl-2ファミリーに属するBcl-xL遺伝子(Cell 74(4):597-608, 1993)を改変することにより得られる。
【0018】
FNKは、Bcl-xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちのいずれか1つ、いずれか2つまたは3つのアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する。好ましくは3つが置換されている。FNKをコードする遺伝子は、Bcl-xL遺伝子のコード領域において、第22番目のTyrをコードするトリプレットコドン(tac)をPheをコードするコドン(tttまたはttc)に置換する塩基の置換、第26番目のGlnをコードするコドン(cag)をAsnをコードするコドン(aatまたはaac)に置換する塩基の置換および第165番目のArgをコードするコドン(cgg)をLysをコードするコドン(aaaまたはaag)に置換する塩基の置換のうちのいずれか1つ、いずれか2つまたは3つの置換を有するように塩基配列を変異させることにより得られる。FNKタンパク質をコードするDNA配列およびアミノ酸配列の一例として、ラット由来のものをそれぞれ配列番号1および2に、ヒト由来のものをそれぞれ配列番号3および4に示す。
【0019】
本発明で用いるFNKはいかなる動物種由来のBcl-xLタンパク質を改変したものでもよく、例えばヒト、マウス、ラット、ブタ、イヌ由来のBcl-xLタンパク質が挙げられる。図3にヒト、マウス、ラット、ブタ、イヌ由来のBcl-xLタンパク質のアラインメントを示す。また、ヒト、マウス、ラット、ブタおよびイヌ由来のBcl-xLタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号5〜9に示す。図3において、いずれの動物種由来のBcl-xLタンパク質のアミノ酸配列においても、第22番目のアミノ酸はTyrであり、第26番目のアミノ酸はGlnであり、165番目のアミノ酸はArgである。図3に示されている動物種以外の動物種由来のBcl-xLタンパク質においても、これら3箇所のアミノ酸は保存されていると考えられ、本発明のFNKタンパク質は由来動物種を問わず、Bcl-xLタンパク質のアミノ酸配列において、第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちのいずれか1つ、いずれか2つまたは3つのアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。また、本発明のFNKタンパク質は、各種動物由来のFNKタンパク質が有するアミノ酸配列において、第22番目、第26番目および165番目のアミノ酸以外のアミノ酸の1個または数個のアミノ酸が置換したアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質、またはFNKタンパク質が有するアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、FNKタンパク質活性を有するタンパク質も包含する。一般に、遺伝子には個体特異的な遺伝的多型が知られている。ヒトのBcl-xLタンパク質においても、FNKタンパク質活性に影響を与えない部位にアミノ酸置換(遺伝的多型)がある場合があり、例えば、配列番号5に表すヒトBcl-xLタンパク質のアミノ酸配列において、第70番目のGlyがAlaに置換されているものが知られている。本発明のFNKタンパク質は、このような個体特異的なアミノ酸置換であって、FNKタンパク質活性に大きな影響を与えないアミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をも包含する。
【0020】
本発明のFNKタンパク質は、本明細書に記載のBcl-xLタンパク質もしくはFNKタンパク質のアミノ酸配列またはBcl-xL遺伝子もしくはFNKタンパク質をコードするDNAの塩基配列情報を基に、得ることができる。例えば、特開2001-120281号公報には、ラット由来のFNKタンパク質について記載されており、該公報の記載に従って本発明のFNKタンパク質を得ることができる。
【0021】
本発明の音響外傷治療剤に用いるFNKタンパク質のN末端側には、細胞膜通過ドメイン(PTD)が連結していてもよい。
【0022】
細胞膜通過ドメインはアルギニン、リシンを含む塩基性アミノ酸を種に含む細胞膜通過ペプチドからなり、アミノ酸の光学異性体(D体、L体)に依存しない。細胞膜通過ペプチドとしては種々のものが知られており、本発明においてはいかなる細胞膜通過ペプチドを用いることができる。
【0023】
細胞膜通過ペプチドとして、6個から12個、好ましくは7個から11個、さらに好ましくは9個または10個のアルギニンのみまたはリシンのみからなるペプチド、5個から15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、ならびに前記アルギニンのみまたはリシンのみからなるペプチドまたはアルギニンおよびリシンからなるペプチドにおいて、数個、好ましくは1個から8個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド等が挙げられる。例としてアルギニン9個からなるペプチド(R9、配列番号10および11)、アルギニン7個およびリシン2個からなるペプチド(K2R7、配列番号12および13)、アルギニン7個およびグリシン6個からなるペプチド(R7G6、配列番号14および15)等が挙げられる。これらの細胞膜通過ペプチドを連結するとき、FNKタンパク質のアミノ酸配列の第1番目のメチオニンは残しておいてもよいし、除去してもよい。
【0024】
また、細胞膜通過ペプチドとして、HIV-1・TATの細胞膜通過ドメイン(protein transduction domain)YGRKKRRQRRR(配列番号16および17)やショウジョウバエのホメオボックスタンパク質アンテナペディアの細胞膜通過ドメインRQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号18)が挙げられる。その他、VP22のC末端(267-300)ペプチドDAATATRGRSAASRPRERPRAPARSASRPRRPVE(配列番号19)、HIV-1/Rev(34-50)ペプチドTRQARRNRRRRWRERQR(配列番号20)、FHV/coat(35-49)ペプチドRRRRNRTRRNRRRVR(配列番号21)、K-FGFのN末端(7-22)の疎水性領域AAVALLPAVLLALLAP(配列番号22)等が挙げられる。
【0025】
また、FNKタンパク質と細胞膜通過ペプチドの間にスペーサー配列を有していてもよい。スペーサー配列はアミノ酸数個からなりその配列には限定はないが、例えば、1個から5個、好ましくは1個から3個、さらに好ましくは1個のグリシンが挙げられる。
【0026】
これらの細胞膜通過ペプチドは、それぞれの細胞膜通過ペプチドをコードするDNAをFNKをコードするDNAと連結して融合DNAを作製し、この融合DNAを遺伝子工学の手法により大腸菌等の宿主細胞で発現させることによって、N末端側に細胞膜通過ペプチドを連結したFNKタンパク質を作製することができる。あるいはまた、2価の架橋剤(例えば、EDCやβ-アラニン等を介して、FNKタンパク質と細胞膜通過ペプチドを結合させる方法によって細胞膜通過ペプチドを連結したFNKタンパク質を作製することができる。
【0027】
細胞膜通過ペプチドを連結したFNKタンパク質として、ヒトFNKタンパク質にK2R7ペプチドを連結させたもの(DNA配列を配列番号23に、アミノ酸配列を配列番号24に示す)、ヒトFNKタンパク質にR7G6ペプチドを連結させたもの(DNA配列を配列番号25に、アミノ酸配列を配列番号26に示す)、ヒトFNKタンパク質にR9ペプチドを連結させたもの(DNA配列を配列番号27に、アミノ酸配列を配列番号28に示す)、ヒトFNKタンパク質に1個のGlyをスペーサーとしてTatの細胞膜通過ドメインを連結させたもの(DNA配列を配列番号29に、アミノ酸配列を配列番号30に示す)およびラットFNKタンパク質に1個のGlyをスペーサーとしてTatの細胞通過ドメインを連結させたもの(DNA配列を配列番号31に、アミノ酸配列を配列番号32に示す)等が挙げられる。
【0028】
本発明のFNKを含む音響外傷治療剤が対象とする音響外傷は、強烈な強大音に曝露され、蝸牛内の解剖学的構造に物理的、機械的損傷が惹起される狭義の音響外傷のほか、騒音性突発難聴、Akustishe Unfall、短時間曝露後の急性感音難聴、いわゆるディスコ難聴、衝撃的音響曝露後の急性感音難聴{NIPTS(noise induced permanent threshhold shift)から比較的長く残るNITTS(noise induced temporary threshold shift)までを含む}等を含む。音響外傷において、FNKが代謝的損傷による細胞死を抑制していると考えられる。
【0029】
本発明のFNKまたはPTDを連結したFNKを有効成分として含む音響外傷治療剤または予防剤は、種々の形態で投与することができ、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、座薬などによる静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内の注射または配薬を含む非経口投与を挙げることができる。音響外傷治療剤または予防剤は、公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、FNKまたはPTDを連結したFNKを通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用してもよい。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。FNKは、そのタンパク質精製過程で7M Urea、2% SDS、1mM DTTで処理していながら活性は保持しているので、一般的にタンパク質が変性すると予想されるような添加物、例えばイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、アルコール等を使用することができる。また、必要に応じて、他の公知の成分、例えば、希釈剤、等張化剤、担体、pH安定剤、抗酸化剤、防腐剤、着色剤、安定化剤、溶解補助剤、粘度調整剤、香料等を加えてもよい。その投与量は、症状、年齢、体重および投与経路に依存するであろうから、医師の判断及び各患者の状況に応じて決定すべきである。有効用量は、in vitroにおける試験またはin vivoの動物モデル試験系から導かれる。一般的には1 ng〜1 mg/1kg体重の範囲で投与されることが望ましい。この1回投与量を1日1回あるいは数回に分けて投与する。
【0030】
音響外傷の治療のためには、大音響刺激を受けた後、数時間から数日の短期間内に投与することが望ましい。また、音響外傷の予防のためには、予め大音響の刺激を受けることが予測される場合に、投与しておけばよい。特に予防剤として用いる場合、騒音下就労に拘束されている者、強大音に曝露され得る音楽コンサート等の騒音環境下に行く予定がある者等に有効である。
【0031】
本発明の音響外傷治療剤または予防剤の効果は、聴性脳幹反応(ABR)を測定することにより確認することができる。
【0032】
本発明の音響外傷治療剤または予防剤により音響外傷による聴力損失を改善することができる。すなわち、本発明の音響外傷治療剤または予防剤は、音響外傷により障害を受けた聴力の改善剤でもある。
【0033】
本発明は、FNKまたはPTDを連結したFNKを投与して、音響外傷を治療または予防する方法を包含する。本発明は、さらに音響外傷治療または予防剤の製造のためのFNKまたはPTDを連結したFNKの使用をも包含する。
【実施例】
【0034】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0035】
実施例1 音響外傷治療剤
聴性脳幹反応(ABR)はBio-Logic System Corp. 社 (Mundekein, IL, USA)のTraveler Express を用いて行った。200〜300gのプライエル反射(音刺激に対する反射性の耳介運動で、聴覚上位中枢が関与しない反射)正常のハレー系モルモットをケタラール(筋肉注射)で麻酔した。関電極を右耳後部、不関電極を左耳後部に、接地電極を背部にそれぞれ挿入した。右耳をスピーカーに向けて防音室内の定位置に置いた。2kHz、4kHz、8kHz、および20kHzの各周波数の音圧(dBSPL)を100dBSPLより5dBステップで減少させた。各周波数の各音圧において、信号を200回加算し、再現性のある波形の得られた最小音圧を聴覚閾値とした。
表1に実験開始前の聴力を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1は、それぞれモルモット7匹の実験開始前の各周波数での聴力とその平均値である。
【0038】
上記モルモットに対して4kHzを中心としたバンドノイズを125dBで5時間曝露した。曝露24時間後、PTD-FNKを生理食塩水に溶解し、0.15mg/kg腹腔内投与した。FNK非投与群には生理食塩水を投与した。
【0039】
ここで、ラットFNKタンパク質に1個のGlyをスペーサーとしてTatの細胞膜通過ドメインを連結させたタンパク質(DNA配列を配列番号31にアミノ酸配列を配列番号32に示す)を大腸菌で発現させ精製し、PTD-FNKとして用いた。この発現及び精製に関しては、既に報告されている方法を用いて行った(Asoh, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 17107-17112. (2002))。
モルモットに曝露1週間後、ABRを測定した。1週間後の測定結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
図1に、結果のグラフを示す。
表2および図1に示すように、明らかにFNK投与群で聴力が回復していることがわかる。
モルモットに曝露2週間後、再びABRを測定した。2週間後の測定結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
図2に、結果のグラフを示す。
表3および図2に示すように、明らかにFNK投与群で聴力が回復していることがわかる。
【0044】
本実施例に示すように、PTD-FNKを投与して全ての群において、有意に聴力の回復が認められた。このことから、PTD-FNKが音響外傷の治療に有効であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】FNKの音響外傷に対する治療効果を示す図である。
【図2】FNKの音響外傷に対する治療効果を示す図である。
【図3】ヒト、ラット、マウス、ブタおよびイヌ由来のBcl-xLタンパク質のアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0046】
配列番号10から32、合成

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bcl-xLタンパク質の第22番目のTyrのPheへの置換、第26番目のGlnのAsnへの置換および165番目のArgのLysへの置換のうちの少なくとも1つの置換を有するFNKタンパク質を有効成分として含む音響外傷の治療または予防剤。
【請求項2】
Bcl-xLタンパク質がヒト由来(配列番号5)、マウス由来(配列番号6)、ラット由来(配列番号7)、ブタ由来(配列番号8)およびイヌ由来(配列番号9)Bcl-xLタンパク質から選択される請求項1記載の音響外傷の治療または予防剤。
【請求項3】
FNKタンパク質のN末端側に細胞膜通過ペプチドが連結している、請求項1または2に記載の音響外傷の治療または予防剤。
【請求項4】
細胞膜通過ペプチドが、以下のペプチド(i)〜(xiii)のいずれかから選択される請求項3記載の音響外傷の治療または予防剤。
(i) 6〜12個のアルギニンからなるペプチド、
(ii) 6〜12個のリシンからなるペプチド、
(iii) 6〜15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、
(iv) (i)から(iii)のいずれかのペプチドにおいて、数個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド、
(v) 配列番号11で表される(i)のペプチド、
(vi) 配列番号13で表される(iii)のペプチド、
(vii) 配列番号15で表される(iv)のペプチド、
(viii) 配列番号17で表されるペプチド、
(viiii) 配列番号18で表されるペプチド、
(x) 配列番号19で表されるペプチド、
(xi) 配列番号20で表されるペプチド、
(xii) 配列番号21で表されるペプチド、ならびに
(xiii) 配列番号22で表されるペプチド

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−282574(P2006−282574A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104212(P2005−104212)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【Fターム(参考)】