説明

細胞洗浄遠心機

【課題】本体チャンバとドアカバー間の隙間に潜り込んで溜ったドレン液が洗浄処理後にドアを開けたときにチャンバ以外の部分に流れ落ちて筺体上部の周りを汚すことのないメンテナンス性の良い細胞洗浄遠心機を提供すること。
【解決手段】駆動源であるモータと、ロータと、該ロータ上に円形列に回動自在に装着された複数の試験管ホルダと、該試験管ホルダに保持された複数の試験管内に洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、前記ロータと前記試験管ホルダ及び前記洗浄液分配素子の周りを覆う本体チャンバ17と、該本体チャンバ17の上部を覆うドアカバー18と、該ドアカバー18の外周に嵌着されて前記本体チャンバ17とドアカバー間18を密閉するカバーパッキン19を備えた細胞洗浄遠心機において、前記カバーパッキン19の内周面と前記ドアカバー18の外周面との間に円筒状の空間Sを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心力を利用して赤血球等の生体細胞を洗浄するための細胞洗浄遠心機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞洗浄遠心機は、輸血検査時の抗グロブリン試験、交差適合試験、不規則抗体スクリーニング等において血液中の赤血球を生理食塩水等の洗浄液で洗浄して懸濁液中の余分な抗体等を除去するために用いられている。
【0003】
この種の細胞洗浄遠心機は、駆動源であるモータと、該モータによって回転駆動されるロータと、該ロータ上に円形列に回動可能に装着された複数の試験管ホルダと、ロータに装着された洗浄液分配素子と、磁気コイルへの通電により発生する磁気吸引力によって前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に吸着保持する磁気素子を備えている。
【0004】
ここで、上記試験管ホルダは、試験管を保持する磁性部材であって、前記ロータと共に回転して遠心力によって外周水平方向に回動し、ロータと共に回転するボウルと当接して、試験管を所定角度に保持した状態で回転するものである。又、前記洗浄液分配素子は、ロータと共に回転して試験管ホルダに保持された試験管の内部に洗浄液を供給するものである。
【0005】
ところで、特許文献1には、洗浄遠心機の洗浄液分配素子が開示されており、この洗浄液分配素子は、内面が円錐形状の容器の底面外周から放射状に設置されたノズルを有しており、これがロータと共に回転することによって、その中央から注入された洗浄液を等分に分配し、試験管ホルダに保持された複数の試験管の内部にノズルから洗浄液を供給することを特徴としている。
【0006】
又、特許文献2には、ロータと共に回転する洗浄液分配素子に孔を穿設し、この孔から試験管ホルダの保持された各試験管内に洗浄液を供給する構成が開示されている。又、この特許文献2には、磁気素子を使用して試験管ホルダをロータに保持させること構成も開示されている。
【0007】
更に、特許文献3及び4には、ロータに試験管ホルダをリムや回転部材を用いて垂直方向に対して小さな角度傾けて保持したまま低速で回転駆動し、試験管から洗浄液の上澄液を排出する技術が開示されている。
【0008】
又、特許文献5には、磁気素子によってロータに試験管ホルダを垂直方向よりも小さな角度で傾けた状態で保持し、ロータを低速で回転させつつ、試験管ホルダに保持された試験管から洗浄液の上澄液を排出する技術が開示されている。
【0009】
他方、細胞洗浄遠心機として、洗浄液注入工程、遠心工程、上澄液排出工程及び揺動工程を含む洗浄プロセスを順次自動的に実行する自動血球洗浄遠心機が知られている。例えば、非特許文献1に示されているように、本出願人によって製品名「himacMC450」として販売されている自動血球洗浄遠心機が周知である。この自動血球洗浄遠心機を用いた洗浄プロセスは次の手順によって実行される。
(1)先ず、準備として、自動血球洗浄遠心機のドアを開け、血球等の生体細胞が収容された試験管をロータの試験管ホルダにセットした後にドアを閉める。尚、通常、生体細胞を入れた試験管は24本使用するのが一般的であるが、検体数が少ないときには、試験管数を12本としてロータのバランスが崩れないように試験管ホルダに試験管を1本おきにセットして洗浄することもある。
(2)次に、洗浄液注入工程として、モータによってロータを加速回転させ、その遠心力によって試験管ホルダ内の試験管下部を外方に回動させ、試験管を垂直方向からロータの中心軸に対して一定の角度に傾けた状態となるよう、ロータ(モータ)を回転させる。このとき、送液ポンプ動作をオン(ON)状態(ポンプに給電した状態)にすることにより、ロータと共に回転する洗浄液分配素子を介して洗浄液を試験管に注入する。すると、血球は、洗浄液注入の勢いによって攪拌されて洗浄される。
(3)次に、遠心工程において、例えばロータ(モータ)を3000rpmで45秒間回転させて遠心処理する。これによって血球は試験管の底部に沈殿し、血清等の不要物質は上澄に残る。
(4)次に、上澄液排出工程において、磁気コイルへの通電をオン(ON)状態として磁気素子動作をオン(ON)し、該磁気素子に発生する吸引力によって試験管ホルダをほぼ垂直状態又は上方に小さな角度で開いた状態に吸着して固定する。この状態で再びロータを例えば400rpmの低速で回転させると、試験管の上部は小さな角度で開いた状態又は垂直状態となるため、上澄液は遠心力によって試験管の壁面を上昇して外部へ排出される。そして、ロータ(モータ)の回転を直ちに停止すると、沈殿した血球のみが試験管内に残る。
(5)次に、揺動工程において、ロータの回転と停止を交互に小刻みに繰り返すか、或いはロータの正回転と逆回転を交互に小刻みに繰り返すことによって試験管ホルダに保持された試験管に揺動を与え、試験管の底に血球を沈殿させ、固着した血球を解す。
(6)以上の(2)〜(5)の工程を白球洗浄の1サイクルとして、通常、このサイクルを3〜4回繰り返した後、自動血球洗浄遠心機のドアを開けて試験管を取り出すことによって洗浄を完了する。
【0010】
ここで、従来の細胞洗浄遠心機の本体チャンバとドアカバーとの密閉構造を図7及び図8に基づいて説明する。
【0011】
図7は従来の細胞洗浄遠心機のカバーパッキンによる本体チャンバとドアカバーとの密閉状態を示す部分断面図、図8は開けられたドアを内側から見た部分斜視図であり、図7に示すように、ドア103の内面には、筐体102内に収容された不図示のロータとこれに支持された複数の試験管ホルダ及び洗浄液分配素子の周りは本体チャンバ117によって覆われている。又、ドア103の内面には、チャンバ117の上部を覆うドアカバー118が設けられており、該ドアカバー118の外周には、ゴム等の弾性体によってリング状に成形されたカバーパッキン119が嵌着されている。
【0012】
上記カバーパッキン119は、図7に示すように、外側方に向かって開口する断面C字状に成形されており、図示のようにドア102を閉じると、該カバーパッキン119がチャンバ117の上面開口部の周縁に密着してチャンバ117内をシールし、チャンバ117からの液漏れを確実に防ぐ。
【特許文献1】特開昭50−022693号公報
【特許文献2】実開平2−081640号公報
【特許文献3】特公昭48−027267号公報
【特許文献4】特開昭60−150857号公報
【特許文献5】実開昭54−167860号公報
【非特許文献1】日立工機株式会社ホームページ「日立自動血球洗浄機 MC450」、<URL:http://www.hitachi-koki.co.jp/himac/products/centrifuges/smal_centrifuges/mc450/mc450.html >
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記従来の細胞洗浄遠心機においては、試験管の本数を例えば正規の本数の1/2の12本としたときに試験管が無いために本体チャンバ117に洗浄液がそのまま吐出されて底に溜まった場合や、操作するオペレータの何らかの事情により液排出口が閉じられて排出上澄液が排出されにくい構造になっている場合には、本体チャンバ117の底に溜まった洗浄液や排出上澄液(以下、これらを「ドレン液」と総称する)がロータや試験管ホルダ及び洗浄液分配素子の回転によって生じる空気の流れにより本体チャンバ117の底に沿ってロータの周りを回転する。このドレン液の流れは、本体チャンバ117の底部や内周部に凹凸があると乱流となり、本体チャンバ117と対向する位置に設けられたドアカバー118の方に舞い上がる。そして、その舞い上がったドレン液は、本体チャンバ117の内周壁やドアカバー118の外周面に霧状又は液滴状になって付着するとともに、本体チャンバ117とドアカバー118の間の隙間に潜り込んで液状となって溜まる。
【0014】
ところで、図7に示す従来の細胞洗浄遠心機の回転室120には、取り外し可能なチャンバ117とドアカバー118との密閉構造においては、洗浄処理終了後にドア102を開けたとき、ドアカバー118の表面に付着したドレン液はドアカバー118に与えられた振動により移動する程度で垂れ落ちないが、チャンバ117とドアカバー118の外表面108a間の隙間に潜り込んで液状となって溜ったドレン液は、ドアカバー118が持ち上げられた勢いにより垂れ流れ、カバーパッキン119の密閉面を伝わって垂れ落ち、ドレン液がチャンバ上部107a以外の部分に落ちてしまい、筺体上面102aの周りを汚してしまうという問題が発生する可能性がある。
【0015】
又、チャンバ上部117aのカバーパッキン119の密閉面と接触する密閉面117bと平行になっていない場合には、チャンバ117とドアカバー118間の隙間に潜り込んで液状となって溜ったドレン液がカバーパッキン119とチャンバ117間の完全密着していない密閉面の空間に潜り込み、洗浄処理終了後にドア102を開けたときにドアカバー118から流れてくるドレン液が少なくても、このカバーパッキン119の密閉面に付着したドレン液滴がカバーパッキン119の密閉面に沿って流れ落ち、ドレン液がチャンバ117以外の部分に落ちてしまい、筺体上面102aの周りを汚してしまう可能性がある。
【0016】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、本体チャンバとドアカバー間の隙間に潜り込んで溜ったドレン液が洗浄処理後にドアを開けたときにチャンバ以外の部分に流れ落ちて筺体上部の周りを汚すことのないメンテナンス性の良い細胞洗浄遠心機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、駆動源であるモータと、該モータによって回転駆動されるロータと、該ロータ上に円形列に回動自在に装着された複数の試験管ホルダと、該試験管ホルダに保持された複数の試験管内に洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に保持する保持手段と、前記ロータと前記試験管ホルダ及び前記洗浄液分配素子の周りを覆う本体チャンバと、該本体チャンバの上部を覆うドアカバーと、該ドアカバーの外周に嵌着されて前記本体チャンバとドアカバー間を密閉するカバーパッキンとを備えた細胞洗浄遠心機において、前記カバーパッキンの内周面と前記ドアカバーの外周面との間に円筒状の空間を形成したことを特徴とする。
【0018】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記カバーパッキンの支持部の厚さをリップ部の厚さより薄くして支持部に弾力性を持たせたことを特徴とする。
【0019】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記カバーパッキンのリップ部を支持する支持部をカバーパッキン取付部の幅方向中央に対して反ドアカバー側にオフセットさせたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の発明によれば、カバーパッキン内周面とドアカバーの外周面との間に円筒状の空間を形成したため、本体チャンバとドアカバー間の隙間に潜り込んで液状となって溜ったドレン液がドアを開ける際にドアカバーを持ち上げた勢いにより垂れ流れたとき、カバーパッキンとドアカバー間の空間を作るために設けられたカバーパッキンの内周面が障壁となって密閉面にはドレン液が流れず、ドレン液はカバーパッキンとドアカバー間の空間によって作られた溝に沿ってドアカバーの外周を流れ、本体チャンバに設けられた所定位置に落下する。このため、筺体上部への液垂れが防がれ、ドレン液によって周囲が汚染されることがなく、細胞洗浄遠心機に高い信頼性が確保される。
【0021】
請求項2記載の発明によれば、カバーパッキンの支持部の厚さをリップ部の厚さより薄くして支持部に弾力性を持たせたため、カバーパッキンの密閉面を構成する部位が本体チャンバと僅かに非平行であった場合であっても、カバーパッキンの密閉面と本体チャンバの密閉面が平行になり易くなるために密閉性が向上し、カバーパッキンと本体チャンバ間の完全密着していない密閉面の空間に潜り込んで溜ったドレン液の量が減少し、カバーパッキンの密閉面に付着するドレン液が減るためにドレン液滴の液垂れをなくすことができる。
【0022】
請求項3記載の発明によれば、カバーパッキンのリップ部を支持する支持部をカバーパッキン取付部の幅方向中央に対して反ドアカバー側にオフセットさせたため、カバーパッキンとドアカバー間に一層大きな空間を形成することができ、カバーパッキンとドアカバー間に溜められるドレン液量が増し、ドアを開けたときにカバーパッキンとドアカバー間の空間によって作られた溝に沿って流れるドレン液の流れが優先となってリップ部の密閉面へのドレン液の流れをなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は本発明に係る細胞洗浄遠心機の全体構成を示す断面図、図2は同細胞洗浄遠心機の各洗浄処理工程における試験管ホルダの動作状態を示す要部断面図である。
【0025】
本発明に係る細胞洗浄遠心機1は、図1に示すように、矩形ボックス状の筐体(フレーム)2と、該筐体2の上部を開閉するドア3を備えており、筐体2内には、駆動軸(回転軸)4を有するモータ5が備えられ、更に筺体2には、回転室20が設けられており、該回転室20の内側には、筺体2の上部まで延びているチャンバ上部17aを有する取り外し可能なチャンバ17が配置されている。そして、回転室20のチャンバ17で仕切られる空間、ロータ室21内には、前記モータ5の駆動軸4に連結されて回転駆動されるロータ6が組み込まれている。更に又、ロータ6上には、複数(例えば24個)の試験管ホルダ7が平面視で円形列に配置されており、各試験管ホルダ7は、ロータ6の外周に上下方向に回動可能に装着されている。そして、各試験管ホルダ7内には、予め赤血球等の生体細胞が適量収容された試験管8が保持される。尚、試験管ホルダ7はステンレス(SUS)等の磁性材料によって構成されている。
【0026】
又、細胞洗浄遠心機1は、試験管ホルダ7をロータ6に垂直又は垂直に近い小さい角度で保持するための保持手段として、磁力によって試験管ホルダ7を吸着するための磁気素子9を備えている。この磁気素子9は、円盤状の上部磁性体部材9aと下部磁性体部材9bと、これらの上部磁性体部材9aと下部磁性体部材9bによって挟み込まれるように設置された絶縁導線のリング状の磁気コイル9cを備えている。これらの磁性体部材9a,9bと磁気コイル9cは、モータ5の駆動軸4に固定されており、ロータ6と共に一体的に回転する。尚、回転する磁気コイル9cには、制御装置10から電流が不図示の一対のスリップリングを介して供給される。
【0027】
而して、磁気コイル9cに電流が通電されると該磁気コイル9cに磁場を生じ、例えばSUS430材等の磁性材料によって構成された試験管ホルダ7は、上部磁性体部材9aと下部磁性体部材9bと共に磁気回路を形成するため、上部磁性体部材9a及び下部磁性体部材9b(磁気素子9)に強く吸着される。即ち、磁気素子9の磁気コイル9cに電流を通電することによって、磁気素子9(磁性体部材9a,9b)は1個の磁石として作用し、磁性材料から成る試験管ホルダ7を吸着する。尚、本実施の形態では、上部磁性体部材9aの外径は下部磁性体部材9bのそれよりも大きく設定されており、このため、磁性体部材9a,9b(磁気素子9)の吸着面は、図2(3)に示すように、試験管8が鉛直線に対して上方に所定角度θ1(約8°)開いた状態になるように試験管ホルダ7を吸着することができる。
【0028】
上述のように磁気素子9の動作をオンすることによって、試験管ホルダ7は、図2(3)に示すように、垂直又は垂直に近い小さい角度θ1傾斜した状態で吸着され、磁気素子9の動作をオフして吸着力を解除することによって、試験管ホルダ7は、回転速度に応じて作用する遠心力によって水平方向に回動する。この磁気素子9の動作を小刻みにオン/オフすることにより試験管ホルダ7を図2(4)に示すように揺動させることができる。
【0029】
他方、後述のように、洗浄処理工程の他の工程(遠心工程(図2(2)参照)において、磁気素子9の動作をオフして吸着力を解除した状態でロータ6を高速で回転させれば、遠心力によって試験管ホルダ7が水平方向に回動する。これによって、試験管8を保持する試験管ホルダ7が水平方向に回動し、試験管ホルダ7はその下部がロータ6と共に回転するボウル11に当たるまで傾き、該試験管ホルダ7に保持された試験管8内の血球等の試料が遠心分離される。例えば、磁気素子9の動作をオフして吸着力を解除した状態でモータ5を3000rpmで回転させることによって試験管ホルダ7の下端部がボウル11に当接したとき、試験管ホルダ7は、試験管8と鉛直線(ロータ中心軸6aと平行な線)が成す角度θ2が約40°となるように回動する。尚、モータ5には例えば誘導モータが使用され、その回転数(回転速度)は制御装置10によって制御される。
【0030】
又、本発明に係る細胞洗浄遠心機1は、複数の試験管8内に洗浄液を供給するための洗浄液分配素子12を備えている。この洗浄液分配素子12は、ロータ6と一体に回転するようにロータ6上に構成されており、この洗浄液分配素子12に洗浄液を供給するための洗浄液供給路13が設けられている。この洗浄液供給路13には送液ポンプ14が結合されており、この送液ポンプ14の動作電源を制御装置10によってオン(ON)させることによって、不図示の細胞洗浄液容器から洗浄液を洗浄液供給路13を通して細胞洗浄遠心機1の上部に位置する洗浄液供給ノズル13aに供給することができる。後述する洗浄液注入工程(図2(1)参照)では、洗浄液供給ノズル13aから下方に噴出した洗浄液は、ロータ6と一体で高速回転する洗浄液分配素子12の中央部内に入り、該洗浄液分配素子12内の遠心力によって外周に分流され、試験管ホルダ7に保持された試験管8と同数(24本)の各流路に分岐され、洗浄液分配素子12の外周に形成された注入口から勢い良く各試験管8内に注入される。
【0031】
以上のように構成された細胞洗浄遠心機1によって例えば輸血検査等を行うための血球洗浄プロセスを図2に基づいて以下に説明する。
(1)洗浄液注入行程:
先ず、図2(1)に示す洗浄液注入工程においては、予め赤血球等の生体細胞が適量収容された24本の試験管8を保持する同数(24本)の試験管ホルダ7は、モータ5(ロータ6)の最高回転数(回転速度)が3000rpmに達するように加速回転されることによって遠心力が与えられる。前述のように、細胞洗浄液(例えば、生理食塩水)は、遠心力によって洗浄液分配素子12内の外周に分流され、試験管ホルダ7に保持された試験管8と同数(24本)の各流路に分岐され、洗浄液分配素子12の外周から勢い良く各試験管8内に注入される。注入された洗浄液は、洗浄液分配素子12の外側に位置する各試験管8の内壁に当たり、壁面を伝わり試験管8内の底部にある生体細胞を浮遊させて懸濁状態を作り出す。そして、試験管8に適量の洗浄液が注入されると、制御装置10によって送液ポンプ14の動作が停止されて洗浄液注入工程が終了する。
(2)遠心工程:
引き続き、図2(2)に示すように、浮遊している生体細胞が試験管8の底部に沈殿し、血清等の不要物質が上澄に残るような高速回転の条件、例えば本実施の形態では3000rpmで35秒間ロータ6の高速回転を継続して遠心分離を行う。そして、遠心分離後にモータ5の回転を停止する。
(3)上澄液排出工程:
次に、図2(3)に示すように、制御装置10よって磁気素子9の磁気コイル9cに通電すると(即ち、磁気素子9の動作をON状態にすると)、磁気素子9は磁性材料から成る試験管ホルダ7を吸着してこれを保持する。前述のように、磁気素子9の上部磁性体部材9aの外径は下部磁性体部材9bのそれよりも若干大きく設定されているため、磁気素子9の試験管ホルダ7を吸着する面は上方に所定角度θ1(約8°)だけ開いており、従って、試験管ホルダ7とこれに保持された試験管8は、上方に同角度θ1(約8°)傾いたほぼ垂直状態に近い状態で保持される。
【0032】
次に、磁気素子9に通電した状態で、モータ5を回転数約400rpmの低速で回転させと、試験管8内の上澄液は、400rpmの回転による遠心力によって試験管8の内壁面を上昇して外部へ排出され、試験管8の底部にある赤血球等の生体細胞はそのまま底部に残る。
(4)揺動工程:
上澄液排出工程が終了すると、次の揺動工程において、図2(4)に示すように、モータ5は小刻みに回転と停止を繰り返す。これによって、試験管ホルダ7は、回転による遠心力で外周方向に振られ、停止と共に磁気素子9に衝突することにより揺動を与えられ、試験管8の底部に沈殿して固着した細胞塊を解す作用を果たす。
【0033】
以上説明した工程を1洗浄サイクルとして、このサイクルを3〜4回繰り返すことによって試験管8内の赤血球等の生体細胞を洗浄し、抗体等の異物をより完全に分離して取り除くことができる。
【0034】
以上のようにして洗浄された赤血球等の生体細胞が残った試験管8は、細胞洗浄遠心機1のドア3を開けて外部に取り出される。
【0035】
次に、本発明の要旨を図3〜図6に基づいて説明する。
【0036】
図3は本発明に係る細胞洗浄遠心機において細胞洗浄後にドアを開けた状態を示す部分斜視図、図4は同細胞洗浄遠心機のカバーパッキンによる本体チャンバとドアカバーとの密閉状態を示す部分断面図、図5は図3のA部を矢印B方向から見た図、図6は別形態に係るカバーパッキンによる本体チャンバとドアカバーとの密閉状態を示す部分断面図である。
【0037】
図3に示すように、筐体2の上部を開閉する前記ドア3は、ヒンジ16によって筐体2の上部に上下回動可能に取り付けられており、筐体2内に収容されたロータ6とこれに支持された複数の試験管ホルダ7及び洗浄液分配素子12の周りは本体チャンバ17によって覆われている。又、ドア3の内面には、ロータ室21内の上部開口部を覆うドアカバー18が設けられており、該ドアカバー18の外周には、ゴム等の弾性体によってリング状に成形されたカバーパキン19が嵌着されている。
【0038】
上記カバーパッキン19は、図4に示すように、外側方に向かってC字状に略直角に折り曲げられたリップ部19aとこれを支持する支持部19bを備えており、図示のようにドア3を閉じると、該カバーパッキン19のリップ部19aがチャンバ17の密閉面17bに密着してロータ室21内をシールし、本体チャンバ17からの液漏れを確実に防ぐ。
【0039】
而して、本発明は、図4に示すようにドア3を閉じてカバーパッキン19が本体チャンバ17の上面開口部の周縁に密着している状態において、該カバーパッキン19の内周面とドアカバー18の外周面との間に円筒状の空間Sを形成したことを特徴としている。具体的には、カバーパッキン19のリップ部19aの内径をドアカバー18の外径よりも大きく設定することによって、カバーパッキン19の内周面とドアカバー18の外周面との間に円筒状の空間Sが形成されている。
【0040】
上述のようにカバーパッキン19の内周面と本体チャンバ17の外周面との間に円筒状の空間Sが形成されると、本体チャンバ17とドアカバー18の間隙に潜り込んで液状となって溜っていたドレン液は、図5に示すようにドア3を開けても、ドアカバー18の外周面との間に空間Sを形成するために設けられたカバーパッキン19のリップ部19aの内周面が障壁となってリップ部19aの密閉面へは流れず、カバーパッキン19とドアカバー18間の空間Sによって作られた溝に沿ってドアカバー18の外周を流れ、本体チャンバ17内の所定位置に落下する。このため、ドレン液がチャンバ上部17a以外の筺体2aには落下せず、周囲が汚れることがなく、細胞洗浄遠心機1のメンテナンスが簡単になる。
【0041】
ところで、図4に示すようなカバーパッキン19を用いた場合、該カバーパッキン19のリップ部19aの密閉面が本体チャンバ17の密閉面に対して傾いていると、カバーパッキン19と本体チャンバ17とは線接触によって密閉性は確保されるものの、その勾配によって形成された空間に僅かにドレン液が溜り、その勾配部分に貯まったドレン液がドア3を開いたときに垂れ落ちることがある。
【0042】
そこで、図6に示すように、カバーパッキン19’リップ部19a’の断面形状を逆T字状とし、該リップ部19a’の本体チャンバ17と接する密閉面を本体チャンバ17と平行になるようにすることによって、カバーパッキン19’と本体チャンバ17の密閉性が高められ、カバーパッキン19’のリップ部19a’の密閉面と本体チャンバ18の密閉面に勾配が形成されなくなる。このため、本体チャンバ17とドアカバー18の間隙に潜り込んで液状となって溜っていた殆どのドレン液は、図5に示すようにドア3を開けると、カバーパッキン19’とドアカバー18間の空間S’によって作られた溝に沿ってドアカバー18の外周を流れ、本体チャンバ17内の所定位置に落下する。
【0043】
又、図6に示すように、カバーパッキン19’の支持部19b’の厚さt2をリップ部19a’の厚さt1より薄くし(t1>t2)、支持部19b’に弾力性を持たせることによって、カバーパッキン19’と本体チャンバ17を密閉し易くなる。
【0044】
更に、図6に示すように、カバーパッキン19’のリップ部19a’を支持する支持部19b’をカバーパッキン取付部19c’の幅方向中央に対して反ドアカバー18側(図6の左側)にオフセットさせることによって、カバーパッキン19’とドアカバー18間に一層大きな空間S’を形成することができるため、カバーパッキン19’とドアカバー18間に溜められるドレン液量が増し、ドア3を開けたときにカバーパッキン19’とドアカバー18間の空間S’によって作られた溝に沿って流れるドレン液の流れが優先となってリップ部19a’の密閉面へのドレン液の流れをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る細胞洗浄遠心機の全体構成を示す断面図である。
【図2】本発明に係る細胞洗浄遠心機の各洗浄処理工程における試験管ホルダの動作状態を示す要部断面図である。
【図3】本発明に係る細胞洗浄遠心機において細胞洗浄後にドアを開けた状態を示す部分斜視図である。
【図4】本発明に係る細胞洗浄遠心機のカバーパッキンによる本体チャンバとドアカバーとの密閉状態を示す部分断面図である。
【図5】図3のA部を矢印B方向から見た図である。
【図6】本発明の別形態に係るカバーパッキンによる本体チャンバとドアカバーとの密閉状態を示す部分断面図である。
【図7】従来の細胞洗浄遠心機のカバーパッキンによる本体チャンバとドアカバーとの密閉状態を示す部分断面図である。
【図8】従来の細胞洗浄遠心機の開けられたドアを内側から見た部分斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 細胞洗浄遠心機
2 筐体
3 ドア
4 駆動軸
5 モータ
6 ロータ
7 試験管ホルダ
8 試験管
9 磁気素子
9a 磁気素子の上部磁性体部材
9b 磁気素子の下部磁性体部材
9c 磁気素子の磁気コイル
10 制御装置
11 ボウル
12 洗浄液分配素子
13 洗浄液供給路
13a 洗浄液供給ノズル
14 液送ポンプ
15 細胞洗浄液容器
16 ヒンジ
17 チャンバ
18 ドアカバー
19,19’ カバーパッキン
19a,19a’ カバーパッキンのリップ部
19b,19b’ カバーパッキンの支持部
19c’ カバーパッキン取付部
20 回転室
21 ロータ室
S,S’ 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源であるモータと、該モータによって回転駆動されるロータと、該ロータ上に円形列に回動自在に装着された複数の試験管ホルダと、該試験管ホルダに保持された複数の試験管内に洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に保持する保持手段と、前記ロータと前記試験管ホルダ及び前記洗浄液分配素子の周りを覆う本体チャンバと、該本体チャンバの上部を覆うドアカバーと、該ドアカバーの外周に嵌着されて前記本体チャンバとドアカバー間を密閉するカバーパッキンとを備えた細胞洗浄遠心機において、
前記カバーパッキンの内周面と前記ドアカバーの外周面との間に円筒状の空間を形成したことを特徴とする細胞洗浄遠心機。
【請求項2】
前記カバーパッキンの支持部の厚さをリップ部の厚さより薄くして支持部に弾力性を持たせたことを特徴とする請求項1記載の細胞洗浄遠心機。
【請求項3】
前記カバーパッキンのリップ部を支持する支持部をカバーパッキン取付部の幅方向中央に対して反ドアカバー側にオフセットさせたことを特徴とする請求項2記載の細胞洗浄遠心機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−153387(P2009−153387A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331552(P2007−331552)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】