説明

細胞活動検出用センサー及び細胞活動検出方法

【課題】一つの細胞ないし細胞集団からの経時的な情報を逐次得る手段及び方法を提供する。
【解決手段】本発明は、少なくとも2種類以上の検出用粒子を備え、細胞の活動に由来する物質を検出する細胞活動検出用センサーであって、前記検出用粒子は、検出する物質に応じた光学特性を示す検出用成分を含有し、前記検出用粒子の種類は、前記検出用成分の種類に応じて異なるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の活動に由来する情報を検出する細胞活動検出用センサー、及び当該細胞活動検出用センサーを用いる細胞活動検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム、セロームといったオミックス解析技術は、生命現象をそれぞれ遺伝子、転写、タンパク質、代謝の総体として解析し、生体そのものを解析しようとする技術体系である。オミックスの技術や思想は、生命現象の記述という最も基礎的な学問分野から、医学、産業分野で利用されるようになっている。
【0003】
ゲノム解析では、高速DNAシーケンサを用いた配列解析技術の発達により可能となったが、最近では、次世代のゲノム配列解析技術として固体表面上に数多くのDNAプローブを種類毎に区分けして固定したDNAマイクロアレイ(DNAチップ)を用いたシーケンシング バイ ハイブリダイゼーションやマイクロリアクタービーズを用いたハイスループットパイロシーケンシングが現実のものとして研究されるようになっている。トランスクリプトーム解析では、すでにDNAマイクロアレイ(DNAプローブアレイやDNAチップも同一目的のための技術)が実用化され、多くの研究者に用いられている。プロテオーム解析には、種々のタンパク質をプローブとして(一般的には抗体をプローブ)アレイ状に固定したプロテインアレイチップが用いられるようになっている。
【0004】
DNAマイクロアレイやプロテインアレイチップを作るには光化学反応と半導体工業でよく用いられるリソグラフィーを用いて区画された多数のセルに設計された配列のオリゴマーを一塩基づつ合成して行く方法(非特許文献1参照),あるいはDNAプローブやタンパク質プローブを各区画に一つ一つ植え込んでいく方法(非特許文献2参照)がある。
【0005】
これらのマイクロアレイは、いずれもスライドガラスやシリコン平面状に区画を区切り、多数のプローブをアレイ状に整列させた構造をしている。いずれの方法も、試料としては、細胞や組織を破砕して細胞内に存在するDNA(ゲノム解析用)、RNA(トランスクリプトーム解析用)あるいはタンパク質(プロテオーム解析用)を抽出し、プローブチップと反応させ、チップ上に捕捉した物質を何らかの方法で標識して検出するのが一般的である。特にDNAやRNAの分析には、一旦抽出したDNAやRNAをPCRなどで増幅する前処理を行い、この段階で、試料DNA或いはRNAを転写したcDNAに蛍光標識を行う。タンパク質を増幅することができないので、イムノアッセイと同じように標識物に酵素を用いて信号増幅するケースがある。
【0006】
検出に関しては、チップ基板上のプローブに蛍光標識したDNA断片やmRNAやこれを逆転写したcDNAなどの試料ポリヌクレオチド(以下単に試料ポリヌクレオチド)をハイブリダイズさて基板上に導入される蛍光体を蛍光スキャナーで検出する。あるいは、試料ポリヌクレオチドをハイブリダイズさせた後に、プローブと隣接して試料ポリヌクレオチドに相補的な蛍光標識オリゴをライゲーション反応で連結したり、DNAポリメラーゼを用いて蛍光標識dNTP基質を反応させたりして、基板上に導入する蛍光体を検出する。最近では、酸化還元反応を利用した電気化学的な検出を行う方法も実用になっている。
【0007】
タンパク質の場合は抗原抗体反応のようなアフィニティー反応を利用して、基板上に特定タンパク質などを捕捉した後、質量分析機で分析したり、蛍光標識抗体や酵素標識抗体でサンドイッチ反応をおこない、基板上に残る蛍光体や酵素活性を検出したりする方法、電気化学発光を用いる検出法がある。電気化学発光法の一例では、電極表面に抗原捕捉用の抗体でタンパク質を捕捉する。捕捉したタンパク質に対してルテニウム錯体標識した抗体でサンドイッチ反応を行う(非特許文献3参照)。電極表面ではルテニウムが酸化され、TPAのレドックス反応とカップルさせて還元するときに励起状態となったルテニウムの電子が基底状態に落ちる時に光を発する。高感度で定量的な検出を目的とした検出法としては、通常の顕微鏡検出が可能な700 mm程度の粒子を標識に用いて、基板上で反応した粒子数をカウンターでカウントして目的物質を定量検出するイムノアッセイの報告がある(非特許文献4参照)。
【0008】
メタボロームやセロームでは生体や細胞の代謝状況や活動状況を解析するのであるが、実質的に代謝産物を網羅的に解析する方法は、現状では質量分析法がもっとも現実的な方法である。個別の物質に対して細胞内の特定物質の局在化や量の経時変化を測定する方法も開発されている。たとえば、カルシウムやマグネシウムといったイオンを測定する材料としては各種イオントラッカーが開発され、イオンチャンネルの研究に多用されていることは周知の事実である。これは細胞内に存在するイオンに配位する蛍光化合物を用いて、当該イオンの細胞内空間的分布を測定する技術である。他の例としてはグリーン フルオレッセイン プロテイン(GFP)を用いて、細胞内特定タンパク質の局在化を経時的に追跡する方法をあげることができる。
【0009】
他方、細胞を基板上のマイクロストラクチャーで培養しながら光学的あるいは電気化学的に計測する研究が行われている。これらは、細胞の形状観察や細胞電位の変化を計測するため、細胞を連続的に生きたまま情報を得ることが出来る(特許文献1〜4参照)。
【非特許文献1】Science 251, 767-773(1991)
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 4613-4918(1996)
【非特許文献3】Clin. Chem., 37, 1534-1539 (1991)
【非特許文献4】Anal. Biochem. 202, 120-125 (1992)
【特許文献1】特開2006−42671号公報
【特許文献2】特開2006−94703号公報
【特許文献3】特開2006−112846号公報
【特許文献4】特開2006−115723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
DNAマイクロアレイやプロテインアレイチップあるいは質量分析法を用いて生体、特に細胞の情報を得る上での最大の問題となるのは、これらの解析手法を行うためには細胞や組織を破壊して含まれるDNAなりRNAなりタンパク質、そして代謝産物を分析しなくてはならない点にある。そもそも、生命現象を記述するには、各種マイクロアレイや質量分析を用いてある瞬間の情報を得るだけでは不十分で、連続した時間の中で物質がどのように変化するかを捉える必要がある。また、細胞はお互いに相互作用しているのであるから、細胞間の空間的な位置関係を考慮して各細胞の生理的挙動を記述することが必要である。
【0011】
もちろん、従来の方法でも、いろいろな空間に存在する細胞群を刻々の時間で破壊して空間的時間的な連続性を持たせる解析が行われているが、同一の細胞ないし細胞群を用いるわけではないので、統計的な処理による平均化したデータが得られることになる。このため、たとえば、多細胞系の組織の特定細胞を刺激したときに、離れた位置の細胞(ここではレポーター細胞ということにする)の反応がどのようになるかを計測することを考えると、明らかに問題になる。すなわち、経時測定のため、刺激細胞とレポーター細胞のセットを多数得て、刺激後のレポーター細胞のレスポンスを測定計測したとしても、各細胞の状態を正確にコントロールすることが困難なために、多くの実験を繰り返して、統計処理することになり、重要な信号がノイズに埋もれてしまう。たとえ、統計処理によりノイズに埋もれないデータが得られ、見かけ上連続して解析した結果が得られても、実際は同一の細胞や組織の状態を経時的に追いかけているわけではない。
【0012】
昨今の生物学では、個々の細胞が外界や隣接する細胞とどのような影響を与え合いながら機能しているかを調べる研究が盛んになりつつあるが、このような目的には、上記のように従来の細胞を破壊してその成分を調べる方法は適切ではないことが多い。また、再生医療に用いるエンブリオニックステムセルのような基本的に1細胞の取り扱いが必要な場合は、細胞を分析のために破壊することはできない。これらは分化誘導して利用するわけであるが、分裂初期の段階からの細胞状態の追跡とコントロールが必要となる。
【0013】
イオントラッカーやGFPを用いる方法では、細胞内の当該イオンや特定タンパク質の局在を経時的に計測できるが、その利用範囲は限られたものである。なぜなら、イオントラッカーでは、カルシウムやマグネシウムなどのイオンに利用が限られる。GFPあるいはその類似のフルオレッセインプロテインを用いる方法では、遺伝子組み換えの技術を用いて標的タンパク質にフルオレッセインプロテインを組み替えたフュージョンタンパク質を生産させて、蛍光測定することになる。したがって、本来のタンパク質のサイズが異なり、また、活性に影響している可能性があり、必ずしもネイティブの細胞と同じ情報が得られるのと保障は無い。さらに、これらの方法では、測定できる物質が無機イオンやフュージョン可能なタンパク質に限られるため、糖や脂肪酸や核酸やタンパク質の代謝にかかわる物質、特に低分子有機物を追跡することは困難である。質量分析を用いる方法としては、従来から、呼気マススペクトログラムのように、揮発性成分を質量分析機で一網打尽に計測する方法が研究されているが、個別細胞や細胞集団レベルでの計測を行うには、測定下限限界の点で、現状では現実性が低いといわざるをえない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、一つの細胞ないし細胞集団(組織の特定機能を行っていると思われる同一機能の細胞群)からの経時的な情報を逐次得る手段及び方法を提供することにある。さらに、細胞は使いきりではなく生きた状態のまま、逐次解析ができる手段及び方法を提案することを目的とする。
【0015】
本発明は、少なくとも2種類以上の検出用粒子を備え、細胞の活動に由来する物質を検出する細胞活動検出用センサーであって、前記検出用粒子は、検出する物質に応じた光学吸収特性を示す検出用成分を含有し、前記検出用粒子の種類は、前記検出用成分の種類に応じて異なるものである。前記検出用粒子は、その蛍光特性、核磁気共鳴特性、磁気特性、光学吸収特性、粒径またはこれらの組み合わせに基づき、その種類が識別可能であるように構成することができ、特に検出用粒子の種類が多数となる場合にこのような構成は有用である。
【0016】
前記検出用成分は、好ましくは金属配位ポルフィリン誘導体及び/又は金属配位フタロシアニン誘導体を含む。金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体は、細胞が産出する有機化合物の検出に有用である。前記検出用粒子の粒径は、好ましくは0.1〜10μmとなるようにする。また、好ましくは、前記検出用粒子がガス透過性層を備え、前記検出用粒子の外部からのガスは前記ガス透過性層を透過して前記検出用成分に到達するように構成する。
【0017】
検出用粒子が細胞内に導入して使用される場合は、細胞に与える物理的なダメージを少なくするために、前記検出用粒子は、グアニジル基を有する化合物を含む最表面層を有するように構成されていることが好ましい。このような構成により、細胞表面の細胞膜のりん脂質とのインタラクションを容易とし、スムーズに検出用粒子が細胞内には入り込むようにすることができる。グアニジル基を有する化合物としてはアルギニンが挙げられる。検出用粒子の最表面の狭い範囲にグアニジル基が少なくとも6残基程度存在するように固定されていることが好ましく、アルギニンを含有する場合は、アルギニン分子が狭い範囲に少なくても6分子程度存在するのが好ましい。勿論、アルギニンやグアニジル基を有するオリゴマーやポリマーを固定して用いてもよい。
【0018】
また、本発明は、上記細胞活動検出用センサーを用いて細胞の活動に由来する物質を検出する細胞活動検出方法であって、前記複数の検出用粒子を細胞内及び/又は細胞外に配置する配置工程、前記検出用粒子の光学吸収特性を測定する測定工程、及び前記測定工程の測定結果に基づき細胞の活動を解析する解析工程を有するものである。
【0019】
前記配置工程は、例えば、前記複数の検出用粒子を細胞内に分散させる工程を有する。また、前記配置工程は、例えば、前記複数の検出用粒子を細胞の近傍に、前記細胞に接触状態及び/又は非接触状態で配置する工程を有する。
【0020】
前記解析工程は、好ましくは、位置情報に対応させて検出物質に関する情報を取得する工程を有するようにする。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、細胞の活動により産出される物質を、細胞の内部及び/又は外部で検出することができ、さらに生きた状態の細胞について経時的に計測することができる。このため、同一細胞に関する生化学的な変化を連続してモニターすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、少なくとも2種類以上の検出用粒子を備え、細胞の活動に由来する物質を検出する細胞活動検出用センサーであって、前記検出用粒子は、検出する物質に応じた光学吸収特性を示す検出用成分を含有し、前記検出用粒子の種類は、前記検出用成分の種類に応じて異なる、細胞活動検出用センサーである。
【0023】
本発明の細胞活動検出用センサーは、検出用粒子を細胞内に配置して検出を行ってもよいし、検出用粒子を細胞近傍に配置して検出を行ってもよいし、又は検出用粒子を細胞内と細胞近傍に配置して検出を行ってもよい。細胞近傍に配置する場合は、培養中の細胞に検出用粒子をばらまいてこれを細胞の表面に吸着させてもよいし、あらかじめ基板の上に複数種類の検出用粒子を固定しておきその上で細胞培養を行って細胞の近傍に複数種の検出用粒子が配置されるような構造としてもよい。基板上に複数種の検出用粒子を固定するには、お互いに識別可能な要素を持つ粒子群の各粒子に各々異なる有機化合物検出用プローブが固定され、粒子群が基板上にランダムに固定された構造で、基板上の粒子群がランダムに固定された領域のいかなる位置でも細胞を培養しながら個々の細胞の放出する有機化合物を解析できるように粒子を基板上に固定しておくことにより上記課題を解決できる。
【0024】
本発明の細胞活動検出用センサーは、細胞の活動に由来する物質を検出することができるように構成され、例えば、細胞の活動により細胞が放出する物質を検出することができるように構成される。物質の検出としては、例えば、物質の種類を特定する検出、さらには量を特定する検出、放出される物質の種類の変化の検出、着目した物質の放出量の変化の検出等が挙げられる。
【0025】
検出用粒子の種類は、含有される検出用成分の種類に対応する。検出用成分としては、生体物質親和性化合物を用いることができる。検出する物質としては、例えば、細胞が放出する有機化合物が挙げられ、かかる有機化合物を検出する検出用成分として、例えば金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を用いることができる。金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体は、細胞が産出する有機化合物の検出に特に適している。その他に、Richardtの色素として知られるSolvatochromicsや、水素イオン検出用のメチルレッドやキシレノールブルー等を用いることができる。
【0026】
金属配位ポルフィリン誘導体は、中心部の金属配位座とその周辺の疎水性ポルフィリン残基とポルフィリン残基の側鎖と物質のインタラクションから、特定の分子群ないし残基群を配位することができる(Nature 406, 710- 713(1990)、Angew. Chem. Int. Ed. 44, 4528-4532(2005))。特定分子群が配位した金属配位ポルフィリン誘導体は、特定分子群が配位していない金属配位ポルフィリン誘導体(以下フリーの金属配位ポルフィリン誘導体)と光吸収スペクトルが異なる。このため、インタラクションした特定分子群の量を光学的に測定することができる。ポルフィリンの側鎖と配位金属を変えると、異なる分子群ないし残基群がインタラクションするようになるので、種々金属配位ポルフィリン誘導体を用意することでいろいろな有機化合物分子群や有機化合物中の残基群を検出することができる。金属配位フタロシアニン誘導体も同様に中心部の金属配位座とその周辺の疎水性ポルフィリン残基とシアニン残基の側鎖と物質のインタラクションから、特定の分子群ないし残基群を配位することができる。このようにポルフィリンもフタロシアニンも実質的には同一な化合物の性質を持っている。
【0027】
これら金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体は疎水性が強く、生体への影響もあると予想されるので、直接細胞内、あるいは細胞近傍に添加することは好ましくない場合がある。また、たとえ細胞内や細胞近傍に添加したとしても、金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体に有機化合物等の生体関連物質が配位する分子の割合は低く、生体関連物質が配位していないフリーの金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体が計測の妨げとなるので、検出が困難となる。生体関連物質が配位した金属配位ポルフィリン誘導体の比率を上げるため、金属配位ポルフィリン誘導体の濃度を低下させると、生体関連物質の配位反応速度が遅くなり、そもそも、体積あたりの分子数が少なくなり検出下限を割って測定できなくなる場合がある。また、複数種の生体関連物質を検出する場合、多種類の金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を同時に添加することになり、お互いの金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体のスペクトルが干渉しあって、ノイズ成分となるので、微量検出がより困難になる。
【0028】
そこで、本発明では、検出用成分である金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体の濃度を維持し、複数種用いたときでもお互いの干渉が無く測定できるようにするために、金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を粒子に含有させて用いる。なお、金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を粒子に含有させる形態としては、金属配位ポルフィリン誘導体の光学吸収スペクトルが測定できる形態であれば限定されることはなく、例えば、検出用粒子の核の表面に塗布し固定した形態、検出用粒子を構成する材料内に混合し検出用粒子を形成してなる形態等が挙げられる。
【0029】
細胞の大きさは一般的に動物細胞で長径10〜30μm、植物細胞で長径10〜100μm程度である。検出用粒子を細胞内に配置して使用する場合、検出用粒子の粒径は、細胞の長径の約1/10以下であることが好ましい。したがって、検出用粒子を細胞内に配置して使用する場合、検出用粒子の粒径は好ましくは1000nm以下とする。細胞内に配置する検出用粒子の個数が複数個である場合、粒径はさらに小さい方が好ましい。本発明の細胞活動検出方法においては、検出用成分の光学吸収スペクトルを測定し、かかる測定結果に基づいて細胞の活動の解析を行う。この場合、対物レンズの透過光や反射光を回折格子で波長分散させ、CCD2次元センサーを用いて光学吸収スペクトルを得る一般的な条件下では、検出用粒子の粒径の下限値は、対物レンズの開口数と波長λにより決定される次式の分解能で決定される。
【0030】
分解能=0.61λ/開口数
金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体の吸収波長は400〜600nmの可視光領域であるので、開口数が0.64のレンズを用いる場合、375〜572nmの粒径が解析できる一応の下限値となる。ただし、かかる値は通常の対物レンズで透過光や反射光計測を行った場合である。エバネッセンス波を用いるニアフィールド顕微光学系を用いれば、さらに分解能が上がることは一般に知られた事実で、この場合上記で示した粒径より小さな粒子、たとえば粒径50nmの粒子であっても、各粒子を区別して光学吸収スペクトルを測定することが可能である。
【0031】
金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体の中には蛍光を持つものもある。生体関連物質とのインタラクションで金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体の蛍光スペクトルが変化するので、生体関連物質の検出に利用できる。この場合も粒径50nm程度の検出用粒子であっても蛍光強度が十分あれば計測できる。粒径が小さい方が、多量の粒子を細胞内に投入できるので、細胞内の検出対象物質の空間分布を測定する場合には有利となる。また、より多数種の金属配位ポルフィリン誘導体粒子や金属配位フタロシアニン誘導体粒子を用いる上でも、粒径が小さい方が1種あたりの投入できる粒子数が増えるので限られた空間しかない細胞中において複数種の物質を計測する上で有利となる。
【0032】
検出用粒子の種類が多くなる場合は、後に述べるように、例えば、金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体の吸収波長と、さらには使用する検出用粒子の蛍光特性、核磁気共鳴特性、磁気特性、光学吸収特性(検出用成分由来の特性を除く)、粒径またはこれらの組み合わせに基づいて検出用粒子の種類を識別できるようにすることが好ましい。金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体の吸収波長と検出用粒子の粒径の組み合わせでお互いに識別できるようにする場合、吸収波長の短い金属配位ポルフィリン誘導体を粒径の小さい粒子に含有させ、波長の長い金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を粒径の大きい粒子に含有させることが好ましい。
【0033】
また、金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体が、細胞に毒性や活性を与えることがある場合に備えて、これを防ぐために細胞質や細胞表面と金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体が直接接触しないように、金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を検出用粒子の核の表面に塗布した場合、さらにその表面にガス透過性層を形成するようにする。ガス透過性層の材料としては、ポリフルオロカーボン系分子層や細胞層と同様な2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと疎水性基質のコポリマーが好ましく用いられる。あるいは、シリコンポリマーを用いることができる。これらのガス透過性薄層は、検出用成分である金属配位ポルフィリン誘導体の反応性の点で薄いほうがよく、特に0.2μm以下の厚みである場合によい結果を得ることができるので好ましい。すなわち、粒子の構造が、核、内郭、外郭の少なくとも3層構造で、核は無機化合物ないし有機性ポリマーの固体からなり、核の表面でかつ外郭に覆われる内郭には金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体等の生体物質親和性化合物が固定されており、外郭はガス透過性物質からなる構造であることが好ましい。
【0034】
検出用粒子の核となる部分の材料は、特に限定されることはない。例えば、ポリスチレンが好ましく用いられる。ポリスチレン粒子を作成するときに金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を混合し金属配位ポルフィリン誘導体を含む核を形成し、その表面にシリコンポリマーやポリフルオロカーボン層を形成したり、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと疎水性基質のコポリマーを吸着したりすることで表面がガス透過性層で覆われた検出用粒子を得ることができる。あるいは、ポリスチレン粒子表面は疎水性であるので、これに金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を吸着させた後、シリコンエラスターポリマーを吸着することで、核はポリスチレン、その表面に金属配位ポルフィリン誘導体層や金属配位フタロシアニン誘導体層、最表面にガス透過性層を有する検出用粒子とすることができる。このほか検出用粒子の核の材料には、シリコンやガラスの無機質を用いることもできる。シリコンの場合は、無機質粒子表面に直接金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を吸着させてもよいし、より汎用的にはシラン処理して表面に疎水性有機層を設けてそこに金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を結合させてもよい。金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体の吸着には、有機溶媒に溶解した金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を塗布した後、溶媒を蒸発させる方法と、真空蒸着の技術を利用して粒子表面に固定する方法をとることができる。
【0035】
このようにして調製した検出用粒子は、好ましくは複数種類を混合して用いる。たとえば256種の金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を各々含有させた粒子群を細胞に鈍食作用を用いて細胞内に取り込ませたとする。例えば、1〜10個程の検出用粒子が各細胞内に入り込む。あるいは、細胞表面にとどまっている粒子もある。これら粒子は細胞内に局在したり分散したりしているが、粒子は1個ごと個別に認識することができる。光の波長とサイズの関係から、光の吸収を用いて測定すると、区別して測定できるのは400nm間隔程度に存在する粒子なので、多数の粒子がかかる間隔以下で配置されるような多量の粒子が細胞内に取り込まれないようにすることが好ましい。
【0036】
このようにして細胞内や細胞表面に存在する金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体には細胞が産生する有機化合物が金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体の性質にしたがって配位し、粒子の光学吸収スペクトルや蛍光スペクトルが変化する。顕微分光法を用いて、顕微画像として捕らえた粒子のスペクトルを解析することで、細胞内外の特定の分子群(あるいは分子中の特定残基群)の量を測定することができる。顕微画像で粒子の位置の情報も得られるので、細胞内外の特定分子群の分布を得ることができる。一定時間間隔で粒子の位置を追跡しながらスペクトル変化を測定することにより、同一細胞からの情報を連続して得ることができる。
【0037】
金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体等の種類が少ない場合は、金属ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体等の自身のスペクトル、特に配位金属原子団の吸収極大それ自身を識別用のインデックスとして用いることができる。しかし、使用する金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体等の種類が多くなると、自身のスペクトルだけでは区別できなくなるので、他のインデックスが必要となる。
【0038】
このインデックスとして本発明では、第一に、種々蛍光体を粒子に混入させ、この種々蛍光体の蛍光波長の違いをインデックスとして用いる。インデックス用の蛍光体は、フルオレッセイン系やローダミン系、フタロシアニン系、BODIPYなどを用いることができ、特に限定されないが、金属配位ポルフィリン誘導体等の生体物質親和性化合物の吸収極大バンドと異なる波長域の蛍光色素を用いるようにする。金属配位ポルフィリン誘導体等の生体物質親和性化合物と同一波長の蛍光体を用いると、消光が起きる可能性がある。異なる2〜3種類の蛍光色素の量比を違えた組み合わせの粒子群を作成して識別可能としてもよい。いずれにせよ、異なる蛍光色素でインデックスした粒子群と異なる金属配位ポルフィリン誘導体等を1対1で組み合わせることで、識別可能な金属配位ポルフィリン誘導体等の生体物質親和性化合物を有する検出用粒子を得ることができる。400nm〜800nmの波長領域に8種類程度のお互いに識別可能な蛍光体を得ることができる。これら蛍光体の励起には複数のレーザー光源を用いる。エネルギートランスファーを利用することで、複数蛍光体の励起用レーザー光源の数を少なくすることもできる。
【0039】
また、本発明は、検出用粒子の種類がその核の核磁気共鳴特性で識別できるように構成され、これをインデックスとしてもよい。数T/mmの傾斜磁場を持つ顕微NMRを用いることで細胞内等に分布した検出用粒子の種類を識別する。
【0040】
また、本発明は、検出用粒子そのものが磁性体で、磁場特性で検出用種類が識別できるように構成されていてもよい。磁場検出としてはSQUIDを用いることができる。
【0041】
また、本発明は、粒子の形状、特に粒径により検出用粒子の種類を識別できるように構成されていてもよい。異なる粒径の粒子に異なる金属ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体等を固定することで、粒子を指標にポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体等の種類を同定できる。粒子の粒径バラつきが、CV=2〜5%程度見込まれるので、粒径としては400nm〜600nmの範囲で例えば4段のお互いに粒径で識別できる粒子群を準備することができる。この場合、使用する粒径が4段と少ないので、金属ポルフィリン誘導体等の生体物質親和性化合物自身の極大吸収波長と組み合わせたり、別の蛍光色素のインデックスと組み合わせたりするのが実用的である。
【0042】
上記のように金属配位ポルフィリン誘導体等の生体物質親和性化合物を内包する粒子を細胞活動検出用センサーとして使用して細胞の情報を得る方法としては、細胞活動検出用センサーを細胞外に配して情報を得る方法、細胞内部に挿入して情報を得る方法、またはこれらを併用する方法がある。細胞外部に細胞活動検出用センサーを構成する検出用粒子を配する場合は、培養中の細胞に粒子を添加して細胞に吸着させる方法と、あらかじめ培養基板に粒子を固定しておき、その上で細胞を培養する方法を取ることが出来る。細胞内部に検出用粒子を挿入するには、細胞のファゴトーシスやエンドサイトーシスを利用できる細胞ではそれを使用して検出用粒子を挿入する。ファゴトーシスやエンドサイトーシス活性が低い細胞に用いる場合、検出用粒子の表面にアルギニン等のグアニジル基を有する化合物を固定することで、細胞透過性を増強することが好ましい。グアニジル基を有する化合物は、シランカップリング反応などを介して共有結合で検出用粒子表面に固定してもよいし、例えばガス透過性層を形成する材料内にポリマーの状態で配合しコーティングして使用しても効果がある。
【0043】
(第1の実施形態)
本実施形態は、複数種類の検出用粒子を備えた細胞活動検出用センサーに関する。図1は、細胞検出用センサーを構成する検出用粒子の断面を模式的に表した図である。本実施形態の検出用粒子1は、その中心部を構成する核2と、核2の表面に形成されている金属配位ポルフィリン誘導体又は金属配位フタロシアニン誘導体等の検出用成分を含む検出層3からなる。核2は、ポリスチレンからなる粒径が400μmの粒子である。検出層3は、核2に検出用成分を吸着させて作成する。
【0044】
検出用成分の核2への吸着法としては、適当な溶媒に任意の金属配位ポルフィリン誘導体又は金属配位フタロシアニン誘導体等の検出用成分を溶解した溶液を核2に塗布し、過剰の溶液を洗浄除去した後、乾燥させて吸着させる方法をとることが出来る。使用する溶媒や洗浄液に関しては、吸着させる金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体等の検出用成分ごとに最適なものが異なるが、一般的には、次の方法で行うことが出来る。まず金属配位ポルフィリン誘導体等を1mMの濃度でエタノールに溶解し、同じくエタノールに懸濁した0.5%(w/v)のポリスチレン粒子を等容量混合する。30分間穏やかに攪拌した後、10000Gで30分間遠心してポリスチレン粒子を回収する。沈殿物は、金属配位ポルフィリン誘導体又は金属配位フタロシアニン誘導体等が吸着することにより、色調が変化する。色調は、使用する金属配位ポルフィリン誘導体等の種類により赤系の色調、青系の色調等様々である。ポリスチレン粒子の色の変化により金属配位ポルフィリン誘導体等の吸着状態を判別することができる。ポリスチレン粒子の色の変化が小さいことにより金属配位ポリスチレン誘導体等の吸着量が少ないと判別される場合があるが、使用したポリスチレン粒子が界面活性剤などでコーティングされていることが原因である場合がある。これを防ぐために、ポリスチレン粒子をあらかじめ純水とエタノールで洗浄しておくことが好ましい。それでも吸着量が少ないときは、混合液のアルコール濃度を下げる。沈殿したポリスチレン粒子を20%エタノールでリンス後、純水でリンスし乾燥するようにする。
【0045】
ポルフィリン誘導体化合物としては、Nature418、399−402(2002)記載のポルフィリン化合物(金属を含まないアポタイプ)として、H2T(2,6-OHPh)P、H2T(3,5-pyrimidyl)P、H2TPP、H2T(2-pyridyl)P、H2T(3-pyridyl)P、H2T(4-pyridyl)P、H2tris(4-pyridyl)P、H H2trans-bis(4-pyridyl)P、H2cis-bis(4-pyridyl)P、H2mono(4-pyridyl)P、Angewandte ChemieInt. Ed. 44, 4528-4532 (2005)記載の5,10,15,20-tetrakis(2’,6’-bis(tert-butyldimethylsilyloxyl)phenyl)porphylyneなどが使用できる。これらアポポルフィリン誘導体の中心配位金属としては、Fe3+のほか、Sn4+, Co3+, Cr3+, Mn3+, Co2+, Cu2+, Ru2+,Zn2+,Ag2+、ユーロピウムやルテニウムなどの3A、4A、5A、6A、7A族、8族、1B、2Bに属するほとんどの遷移金属イオンのほか、Al, Ga, In, Tl, Si, Ge, Sn, Pb, As, Sb, Bi, Se, Te, Prのイオンが利用できる可能性がある。これらのアポポルフィリン誘導体と種々金属(半金族も含む)配位化合物の組み合わせから、任意の金属配位ポルフィリン誘導体を選択する。フタロシアニン誘導体としては、いわゆるフタロシアニンのほかに、周辺フェニル基がナフトールに置換された構造や、これらフェニル基やナフトール基に側鎖を付加したもの等の種々構造のものを用いることが出来る。フタロシアニン誘導体等の中心配位金属としては、Fe3+、Sn4+, Co3+, Cr3+, Mn3+, Co2+, Cu2+, Ru2+,Zn2+,Ag2+、ユーロピウムやルテニウムなどの3A、4A、5A、6A、7A族、8族、1B、2Bに属するほとんどの遷移金属イオンのほか、Al, Ga, In, Tl, Si, Ge, Sn, Pb, As, Sb, Bi, Se, Te, Prのイオンが利用できる可能性がある。ポルフィリン誘導体と同様に種々金属(半金族も含む)配位化合物の組み合わせから、任意の金属配位フタロシアニン誘導体を選択する。
【0046】
ここでは、粒径400nmの単一径粒子に金属ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を固定する例について述べた。このようにして作成した検出用粒子はそのまま細胞に添加して使用することができる。複数種の検出用粒子を同時に使用する場合には、金属配位ポルフィリン誘導体の吸収波長で識別すればよく、最大で5〜6種類程度のセンサー粒子を同時に細胞計測に使用できる。
【0047】
検出用粒子の種類がさらに多い場合は、各検出用粒子の種類を識別可能とするために、さらに他のインデックスを組み合わせてもよい。
【0048】
例えば、検出成分として用いる金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体の吸収波長と、検出用粒子の粒径及び蛍光のインデックスを組み合わせる。まず、検出用センサーを構成する検出用粒子として、粒子径が405nm、450nmの2種を選ぶ。このほかに、500nm粒子を加えて3種、さらに粒径のバリエーションを増やすことも可能である。405nm、450nmの2種では、粒子の粒径バラつきはSD=2%であるので、お互いに5σ以上で分離できる。
【0049】
さらに、検出用粒子のインデックス用蛍光体として、sulforhodamine 101(λex=594nm、λem=515nm)、Cy−5(λex=650nm、λem=670nm)の2種類を用いる。sulforhodamine 101とCy−5の2種類の蛍光体の量を8段に変化させた組み合わせの粒子を用いる。すなわち、sulforhodamine 101の相対量を0、14、28、43、57、71、86、100とした8種に対し、各々Cy−5の相対量が0、14、28、43、57、71、86、100の8種を含むすべての組み合わせ64種の粒子を得る。これで粒径インデックス2段ないし3段、蛍光インデックス64段の2×64=128段ないし3×64=192段の粒子識別が可能である。さらに、金属配位ポルフィリン誘導体のソーレー(Soret)バンドやほかの金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体の最大吸収波長を400nm以下帯、400〜450nm帯、450nm以上帯の3段に分類する。金属配位ポルフィリン誘導体のソーレーバンドや金属配位フタロシアニン誘導体の最大吸収波長等をインデクシングに追加することで、全体の組み合わせは384〜576段の粒子センサーの識別が可能である。金属配位ポルフィリン誘導体のソーレーバンドは400〜450nm帯に集中しているが、この帯域をさらにサブ帯域に分類して用いることも可能である。いずれにせよ、粒径、蛍光、ソーレー帯の組み合わせを工夫することで、256段以上の検出用粒子の識別が可能となる。
【0050】
(第2の実施形態)
本実施形態は、複数種の検出用粒子を備えた細胞活動検出用センサーに関する。図2は、細胞活動検出用センサーを構成する検出用粒子の断面を模式的に示す図である。本実施形態における検出用粒子4は、第1の実施形態における検出用粒子1とは、検出層3の外側にさらにガス透過性層5を備える点のみ異なるのでこの点のみを説明し、他の説明は省略する。
【0051】
本実施形態の検出用粒子4は、ガス透過性層5を備えることにより、検出層3中の検出用成分が細胞と直接接触させることなく、細胞の活動に由来する物質を検出することが可能となる。本実施形態の検出用粒子4は、主に揮発性の有機化合物を検出するのに適している。
【0052】
本実施形態の検出用粒子4の作成法を示す。第1の実施形態の検出用粒子1と同様の方法で、粒径が400μmのポリスチレン粒子表面に金属配位ポルフィリン誘導体や金属配位フタロシアニン誘導体を含む検出層3を形成する。次に、検出層3の表面に、0.2%の2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと疎水性基質のコポリマーの25%エタノール溶液を1ml添加し、15分間放置する。そして、洗浄して真空乾燥する。この工程により、検出層3の表面が親水性でガス透過性のあるガス透過性層5で覆われた検出用粒子4が得られる。2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと疎水性基質のコポリマーとしては、疎水性の大きな骨格を持つものが適している。
【0053】
(第3の実施形態)
本実施形態は、細胞膜透過能を持つ複数種類の検出用粒子を備えた細胞活動検出用センサーに関する。検出用粒子の表面にはアルギニン等のグアニジル基を有する化合物を固定することで、細胞透過性を増強する。グアニジル基を有する化合物は、図1で示した中心部を構成する核2と、核2の表面に形成されている金属配位ポルフィリン誘導体又は金属配位フタロシアニン誘導体等の検出用成分を含む検出層3からなる例では、実質的に核の表面に直接グアニジル基が結合している。すなわち、核2に島状にグアニジル基を露出させて残りの部分に、金属配位ポルフィリン誘導体又は金属配位フタロシアニン誘導体等を固定すればよい。島状にグアニジル基を露出させる方法としては、サブマイクロメーターサイズの大きさのガラスやジルコニウムやシリコンの無機粒子に、グアニジル基を有するシランカップリング剤とあらかじめカルボキシル基を側鎖に有する金属配位ポルフィリン誘導体又は金属配位フタロシアニン誘導体等と3−アミノプロピルトリメトキシシランを脱水縮合して調製することができる。
【0054】
化合物を混合した溶液でシランカップリング処理することで、無機粒子表面はグアニジル基と金属配位ポルフィリン誘導体又は金属配位フタロシアニン誘導体等がキメラ状に結合する。その後、金属配位ポルフィリン誘導体又は金属配位フタロシアニン誘導体等を吸着させることで、表面にグアニジル基と金属配位ポルフィリン誘導体又は金属配位フタロシアニン誘導体等を有するセンサー粒子を得ることが出来る。
【0055】
図3で示した3層構造の粒子においては、最外層のガス透過性層を形成するときに、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと疎水性基質のコポリマーにドデシル基のようなエチレン基が連なった疎水性残基の片方の末端にグアニジル基が存在する構造の化合物とを10対1程度混在させてコーティングすることにより作成される。
【0056】
(実施例1)
本実施例では、第2の実施形態の細胞活動検出用センサーを用いて細胞内の有機化合物の分布を検出する実験例について述べる。ここでは、細胞活動検出用センサーとして、金属配位ポルフィリン誘導体の種類が異なる64種の検出用粒子を用いる。各検出用粒子は、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと疎水性基質のコポリマーでの表面コーティングよりなるガス透過性層5を有する。また、各検出用粒子は、sulforhodamine 101とCy−5の蛍光インデックスと粒径405nm、450nmの粒径インデックスで128段にインデクシングしたもののうち、sulforhodamine 101とCy−5の相対量を0、14、43、71、86、100と100、14、43、71、86、0とした36種種類と、2種類の粒径との組み合わせにより64段となるように選択されたものが使用されている。検出用粒子に固定されている金属配位ポルフィリン誘導体として、Sn(TPP)Cl2, Co(TPP)Cl, Cr(TPP)Cl, Mn(TPP)Cl, Co(TPP), Cu(TPP), Ru(TPP), Zn(TPP), Ag(TPP), Fe(TFPP)Cl、フタロシアニンとして、Al(III) PhthalocyanineやZn(II) Phthalocyanineなどが含まれる。
細胞内の有機化合物の分布を検出するために、まず細胞試料の調製と、細胞培養基板の作成を行う。細胞試料の調製法を述べる。ヒトの鼻腔から採取した神経幹細胞をマイクロスフェアー法で培養する。マイクロスフェアーをホッピングによりばらばらにして神経幹細胞懸濁液を得る。
【0057】
図3は本実施例で使用する細胞培養チップを模式的に示す上面図であり、図4は図3のA−A断面図である。図3、図4に示すように、細胞培養チップ10は、基板11と、基板11上に設けられている隔壁部材12とを有し、基板11上の隔壁部材12によって囲まれている内部領域が細胞培養槽13となっている。細胞培養槽13の底面には複数の凹状のドット部が形成されており、各ドット部に細胞を固定できるように構成されている。
【0058】
以下、細胞培養チップ10の作成方法を説明する。表面にコラーゲン層14が形成されている直径40mmで厚さ0.11mmのガラス基板11をスピンコーターに装着し、温度を50℃に保持する。1%アガロース水溶液1mlをガラス基板11に塗布し直ちに50rpmで5秒間回転させ、続いて200rpmで15秒間回転させる。ガラス基板11を一旦湿度70%以上、温度室温に放置し、アガロースのゲル化を促進する。この状態でアガロースゲル層15の厚さは10μm以下となる。アガロースゲル層15を形成した基板11のアガロースゲル層15上の外周部に200μm厚のポリエステルテープを貼り隔壁部材12とする。ポリエステルテープは撥水性なので、テープの内側の領域に水溶液を保持することができる。すなわち隔壁部材12として機能する。
【0059】
隔壁部材12の内側の領域に純水を添加し、基板11面に1480nmのレーザーを照射し、レーザー照射部のアガロースゲル層15をドット状に規則的に除去する。除去された凹部がドット部16となる。図3、図4はレーザー照射により6×6個のドット部16が形成されている状態を示す。各ドット部16では、アガロースゲル層15が除去されコラーゲン層14が露出している。各ドット部16の大きさ、及び各ドット部16間の距離は特に限定されないが、各ドット部16において一つの神経幹細胞が固定され、各ドット部16に固定されている神経幹細胞間で神経回路が形成可能な値とする。隔壁部材12の内側の領域が細胞培養槽13となる。
【0060】
以上のように作成した細胞培養チップ10を用いて、神経幹細胞を培養し、細胞の活動に由来する物質の検出を行う。以下、その方法を説明する。
【0061】
細胞培養チップ10の細胞培養槽13に所定の培養液を添加する。次に、上記のように調製した神経幹細胞懸濁液からキャピラリーピペットで細胞を吸い上げて、細胞を1個ずつ基板上の各ドット部16に放出し、5%CO雰囲気37℃で培養を続けるとドット部16の表面に細胞が固着する。あるいは、所定の濃度の神経幹細胞懸濁液を細胞培養槽13の底面に均一に塗布し培養してもよい。この場合であっても、アガロースゲル層15が形成されている面には細胞が固着しないので、ドット部16に細胞を固着させることができる。
【0062】
固着した神経幹細胞は分化し、いずれアクソンとデンドロームを伸ばし始める。このとき、神経回路の形成が容易となるように、隣接するドット部16間に1450nmレーザーを照射し、溝17を形成してもよい。図3では、細胞及び神経回路の図示は省略するが、一部において溝17が形成されている状態を示す。
【0063】
図5は、図3の領域18内の神経細胞アレイ回路の状態を模式的に示した図である。ドット部16e〜i内のそれぞれの神経細胞20e〜iからはそれぞれ一対のアクソン21e〜iとデンドローム22e〜iが伸びて、それぞれのアクソンとイントロンが接触しギャップジャンクションが形成されて、神経細胞アレイ回路23が形成される。
【0064】
次に、検出用粒子を細胞培養槽13内の培地に添加し、さらに6時間培養を続ける。かかる工程により検出用粒子が各細胞に取り込まれる。この状態で上清の培地を新しいものと交換すると、細胞内に取り込まれた検出用粒子と細胞表面に吸着した検出用粒子が存在する状態となる。
【0065】
図6は、説明のため、ドット部16内に固着され、神経細胞アレイ回路を形成している二つの細胞20e,20fにおいて、検出用粒子が内部及び表面に配置されている状態の断面で示すイメージ図である。図6においては、簡略化して検出用粒子として3種の検出用粒子24、25、26を示す。
【0066】
以上の工程により、神経幹細胞の活動に由来する物質の検出準備が完了する。以下、検出工程について説明する。
【0067】
図3にもどり、各ドット部16a〜kに固着された細胞により形成された神経細胞アレイ回路23のドット部16aに固着されている末端細胞に、刺激物質として、例えばハロペリドールを添加する。すると、検出用粒子内の金属配位ポルフィリン誘導体がハロペリドール分子を配位しスペクトルが変化する。図7はハロペリドールを添加した細胞の検出用粒子のうち、4種の検出用粒子50,51,52,53の差吸光度(ΔA)を予想される変化曲線を示したものである。Tはハロペリドールを添加した点であり、横軸は時間である。各検出用粒子の蛍光スペクトルから金属配位ポルフィリン誘導体の種類を同定し、金属配位ポルフィリン誘導体と細胞由来有機化合物の配位によるスペクトル変化から細胞の活動状況を識別する。個別の細胞由来有機化合物の同定も可能であるが、同定できない場合でも、各検出用粒子のスペクトル変化パターンを得ることにより、細胞の活動状況を捉えることができる。
【0068】
各細胞について、各検出用成分の差吸光度を測定した場合、値が大きい検出用成分について予想される差吸光度の相対値を図8に示す。図8(a)はハロペリドール添加前の、図8(b)はハロペリドール添加後の神経細胞アレイ回路23内の細胞(横軸)毎の特定の検出用成分に関する差吸光度(縦軸)を示す図である。なお、横軸には細胞が固定されているドット部の符号を記載している。ハロペリドール添加前では差吸光度がどれも一定の範囲内に収まっているが、ハロペリドール添加後においては、差吸光度がピークとなるような細胞位置が存在する。
【0069】
図9は、ハロペリドール添加後の神経細胞アレイ回路23における差吸光度のピーク位置を経時的に評価した場合に予想されるピーク位置を示す図である。図9においてTはハロペリドールを添加した時間を示している。縦軸は細胞が固着されているドット部の符号を記載している。図9に示すように、ピーク位置は、11の細胞からなる神経細胞アレイ回路23の両端で反射して振動しているようなパターンが得られると予想される。本神経細胞アレイ23においては、電気的な信号は一方向に流れるが、このような結果が得られるとすれば、物質レベルの解析では双方向に信号が伝達する機構があることが示唆されることになる。また、ハロペリドールの影響が一時的に収まるのではなく、繰り返し細胞に影響していることが示唆されることとなる。
【0070】
本実施例では、ハロペリドールを神経細胞アレイ回路23に添加し、細胞内に取り込んだ検出用粒子のスペクトルをモニターすることで細胞に対するハロペリドールの影響を見ている。同様に、種々化合物添加の影響を検出することができる。従来、このような化合物の生体に与える影響を調べようとすると、培養細胞に化合物を添加し、増殖速度変化があらわれるか、あるいは、半分の細胞が死滅するのにどのくらいの化合物量と時間が必要か、あるいは動物個体に投与して様子を見ることが行われていた。本発明を用いることで、細胞に与える影響、さらには、今回示したような人工的に再構成した擬似組織ともいえる細胞回路、これは、神経細胞回路以外にも、心筋細胞回路や肝細胞組織なども利用できる、と検出用粒子とを組み合わせることで、化合物の影響等を迅速にかつ定量的に示すことができるようになる。したがって、本発明を用いることで、貴重な生物個体試料を代替する形で、創薬、特に毒性試験を行うことのできる優れた方法に発展する潜在的な要素を持っている。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の細胞活動検出センサー及び細胞活動検出方法は、創薬における毒性試験等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】第1の実施形態の細胞検出用センサーを構成する検出用粒子の断面を模式的に表した図。
【図2】第2の実施形態の細胞検出用センサーを構成する検出用粒子の断面を模式的に表した図。
【図3】第1の実施例で使用する細胞培養チップを模式的に示す上面図。
【図4】図3のA−A断面図。
【図5】図3の領域18内の神経細胞アレイ回路の状態を模式的に示した図。
【図6】検出用粒子が内部及び表面に配置されている細胞の状態のイメージを示す断面図。
【図7】ハロペリドールを添加した際に予想される検出用粒子の変化曲線を示す図。
【図8】(a)はハロペリドール添加前の、(b)はハロペリドール添加後の各細胞の差吸光度の相対値を示す図。
【図9】ハロペリドールを添加後の神経細胞アレイ回路における差吸光度の予想されるピーク位置を経時的に評価した図。
【符号の説明】
【0073】
1、4、24、25、26 検出用粒子
2 核
3 検出層
5 ガス透過性層
10 細胞培養チップ
11 ガラス基板
12 隔壁部材
13 細胞培養槽
14 コラーゲン層
15 アガロースゲル層
16 ドット部
17 溝
23 神経細胞アレイ回路
20e、20f、20g、20h、20i 細胞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類以上の検出用粒子を備え、細胞の活動に由来する物質を検出する細胞活動検出用センサーであって、
前記検出用粒子は、検出する物質に応じた光学特性を示す検出用成分を含有し、
前記検出用粒子の種類は、前記検出用成分の種類に応じて異なる、細胞活動検出用センサー。
【請求項2】
前記検出用粒子は、その蛍光特性、核磁気共鳴特性、磁気特性、光学吸収特性、粒径またはこれらの組み合わせに基づき、その種類が識別可能である、請求項1に記載の細胞活動検出用センサー。
【請求項3】
前記検出用成分が、金属配位ポルフィリン誘導体及び/又は金属配位フタロシアニン誘導体を含む、請求項1又は2に記載の細胞活動検出用センサー。
【請求項4】
前記検出用粒子の粒径が0.1〜10μmである、請求項1乃至3いずれかに記載の細胞活動検出用センサー。
【請求項5】
前記検出用粒子がガス透過性層を備え、
前記検出用粒子の外部からのガスは前記ガス透過性層を透過して前記検出用成分に到達する、請求項1乃至4いずれかに記載の細胞活動検出用センサー。
【請求項6】
前記検出用粒子は、グアニジル基を有する化合物を含む最表面層を有する、請求項1乃至5いずれかに記載の細胞活動検出用センサー。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の細胞活動検出用センサーを用いて細胞の活動に由来する物質を検出する細胞活動検出方法であって、
前記複数の検出用粒子を細胞内及び/又は細胞外に配置する配置工程、
前記検出用粒子の光学吸収特性を測定する測定工程、及び
前記測定工程の測定結果に基づき細胞の活動を解析する解析工程を有する、細胞活動検出方法。
【請求項8】
前記配置工程は、前記複数の検出用粒子を細胞内に分散させる工程を有する、請求項7に記載の細胞活動検出方法。
【請求項9】
前記配置工程は、前記複数の検出用粒子を細胞の近傍に、前記細胞に接触状態及び/又は非接触状態で配置する工程を有する、請求項7又は8に記載の細胞活動検出方法。
【請求項10】
前記解析工程は、位置情報に対応させて検出物質に関する情報を取得する工程を有する、請求項7乃至9いずれかに記載の細胞活動検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−279015(P2007−279015A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2006−225732(P2006−225732)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(506249989)有限責任中間法人生命科学研究センター (2)
【Fターム(参考)】