説明

細胞特異的ペプチドを含む機能性リポソーム

【課題】本発明は細胞特異的に作用するペプチドを組み込んだ機能性リポソーム、並びに該機能性リポソームを用いた、薬物及び遺伝子を標的とする細胞や組織に特定的に送達可能なデリバリーシステムの提供。
【解決手段】プロテオグリカンに結合するラミニン由来細胞接着性ペプチドを結合させた機能性リポソーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞特異的に結合し得る機能性リポソームに関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームの調製法が開発されて以来、種々の機能性リポソームが開発されてきた。例えば、機能的な分子構造を有する両親媒化合物を用いたリポソームや、高分子化合物からなるリポソーム、大きさを目的のサイズに合わせたリポソーム(非特許文献1を参照)等があり、pH応答性、温度応答性、標的部位への特異的認識能に優れたもの等種々の機能を有していた。
【0003】
医薬品の治療効果は、薬物が特定の標的部位に到達し、そこで作用することにより発現される。従って、薬物を有効に使用するためには、薬物を特定の標的部位に到達させることが必要である。薬物送達のための担体として、リポソームが注目されている。リポソームに標的特異性をもたせるために、リポソームの脂質の種類、組成比、粒子径、表面電荷を変化させるなどの種々の試みがなされている。また、細胞表面のインテグリンに結合するペプチドで修飾したリポソームについても報告されている(非特許文献2を参照)。
【0004】
【非特許文献1】Robert C. MacDonald et al.,Biochim Biophys Acta,1061, 297-303, (1991)
【非特許文献2】S.Kato et al. Dev. Growth Differ., 47 (3), 153-161 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は細胞特異的に作用するペプチドを組み込んだ機能性リポソーム、並びに該機能性リポソームを用いて、薬物や遺伝子を、標的とする細胞や組織に特定的に送達可能なデリバリーシステムを構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、先にラミニン由来の断片ペプチドであって、特定の機能を有するペプチドについて報告している(Connective Tissue Vol.31, 1999, p.227-234; 蛋白質 核酸 酵素 Vol.45, No.15 (2000), p.2479-2482; J. Biol. Chem., 276: 28779-28788, 2001;Connect. Tissue Res. 46: 142-152, 2005; 蛋白質 核酸 酵素 Vol.50, No.4 (2005), p.374-382等)。
【0007】
本発明者らは、これらのラミニン由来細胞接着性ペプチドでリポソーム表面を修飾することにより、細胞特異的な移行性を有する機能性リポソームが得られることを見出した。細胞上に発現するプロテオグリカン等に結合するという細胞接着性を有するラミニン由来ペプチドとして、30個以上のペプチドがあり、種々の物質に結合し得る。細胞の種類、細胞の状態等により表面に発現している物質の種類、量が異なっており、本発明者らは機能性リポソームを修飾するペプチドの種類及び量を変えることにより、特定の細胞に特異的に結合する機能性リポソームを得ることができることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] プロテオグリカンに結合するラミニン由来細胞接着性ペプチドを結合させた機能性リポソーム。
[2] プロテオグリカンに結合するラミニン由来細胞接着性ペプチドの少なくとも2種類を結合させた[1]の機能性リポソーム。
[3] ラミニン由来細胞接着性ペプチドが配列番号1〜配列番号43のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドの少なくとも1つである[1]の機能性リポソーム。
[4] ラミニン由来細胞接着性ペプチドが配列番号1〜配列番号43のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドの少なくとも2つである[1]の機能性リポソーム。
[5] プロテオグリカンが、シンデカンファミリーに属するプロテオグリカン、CD44及びジストログリカンからなる群から選択される[1]〜[4]のいずれかの機能性リポソーム。
[6] さらに、細胞膜通過ペプチドを結合させた[1]〜[5]のいずれかの機能性リポソーム。
[7] 細胞膜通過ペプチドがHIV・TATペプチドである[6]の機能性リポソーム。
[8] 配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるAG73ペプチド及びHIV・TATペプチドを結合させた[7]の機能性リポソーム。
[9] ラミニン由来細胞接着性ペプチドが、機能性リポソームの特定の細胞への特異性を高めるように選択された[1]〜[8]のいずれかの機能性リポソーム。
[10] 薬物又は遺伝子を送達しようとする細胞の表面に発現するプロテオグリカンの種類及び量を決定し、高発現しているプロテオグリカンに特異的に結合するラミニン由来細胞接着性ペプチドを選択しリポソームに結合することを含む、[1]〜[9]のいずれかの機能性リポソームを作製する方法。
[11] [1]〜[9]のいずれかの機能性リポソームを含む、グリコプロテインを発現している細胞を標的とした医薬送達担体。
[12] さらに、医薬又は遺伝子を含む、[1]〜[9]のいずれかの機能性リポソーム。
[13] [12]の医薬又は遺伝子を含む機能性リポソームを含む、機能性リポソーム製剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のラミニン由来細胞接着性ペプチドで修飾した機能性リポソームは、細胞表面のプロテオグリカンと特異的に結合し得る。従って、本発明の機能性リポソームは表面にプロテオグリカンを高発現している細胞に医薬、遺伝子等を送達するための送達担体として用いることができる。さらに、細胞の種類、状態等により、表面に発現しているプロテオグリカンの種類及び量が異なっており、またラミニン由来細胞接着性ペプチドの種類により、特異的に結合するプロテオグリカンの種類が異なっている。従って、医薬、遺伝子を送達しようとする細胞に発現しているプロテオグリカンに特異的に結合するラミニン由来細胞接着性ペプチドを組合せてリポソームに結合させることにより、特定の細胞に対して特異性の高いリポソームを得ることができる。例えば、癌細胞に抗癌剤を送達する場合、癌の種類により発現しているプロテオグリカンの種類及び量が異なっており、特定の癌細胞に高発現しているプロテオグリカンに特異的なラミニン由来細胞接着性ペプチドをリポソームに結合させることにより、該特定の癌細胞を標的として医薬を送達することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の機能性リポソームは、細胞膜上に存在するプロテオグリカンに結合するペプチドを表面に有する。
【0011】
プロテオグリカンは、血管内皮細胞、神経細胞等の細胞、あるいは癌細胞、創傷治癒細胞等の異常細胞に高発現しており、本発明の機能性リポソームはこれらのプロテオグリカンを高発現している細胞に特異的に結合し得る。従って、本発明の機能性リポソームは、これらの細胞を標的として、医薬等のデリバリーに用いることができる。
【0012】
本発明の機能性リポソームが標的とするプロテオグリカンとしては、膜貫通型ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)であるシンデカンファミリー(シンデカン1、シンデカン2、シンデカン3及びシンデカン4)、CD44、ジストログリカン等が挙げられる。
【0013】
細胞の種類、細胞の状態、細胞異常の種類により、発現する各プロテオグリカンの量や種類は異なっている。例えば、シンデカンファミリーは癌細胞に高発現し、CD44はメラノーマ細胞等の癌細胞に高発現し、ジストログリカンは、筋ジストロフィーにおける変性部位の細胞に高発現している。
【0014】
これらのプロテオグリカンに結合するペプチドとして、ラミニン由来細胞接着性ペプチドが挙げられる。ラミニン由来細胞接着性ペプチドとは、ラミニンの5個〜20個のアミノ酸からなる断片ペプチドであって、細胞表面のプロテオグリカン等の特定の物質に結合するペプチドをいう。本発明の機能性リポソームに結合させるラミニン由来細胞接着性ペプチドとして、例えば以下のペプチドが挙げられる。以下では、ペプチド名称、そのアミノ酸配列および一部のペプチドについては、ペプチドが結合する物質を示す。
ラミニンのα1鎖由来のペプチド
A-3 LWVTVRSQQRGLF(配列番号1)
A-10 GTNNWWQSPSIQN(配列番号2)
A-12 WVTVTLDLRQVFQ(配列番号3)
A-13 RQVFQVAYIIIKA(配列番号4) シンデカン、αVβ3インテグリン、α5β1インテグリン
A-24 LLEFTSARYIRL(配列番号5)
A-25 YIRLRLQRIRTL(配列番号6)
A-51 SINNTAVMQRLT(配列番号7)
A-55 GGFLKYTVSYDI(配列番号8)
A-64 RDQLMTVLANVT(配列番号9)
A-112 VLIKGGRARKHV(配列番号10)
A-119 LSNIDYILIKAS(配列番号11)
A-167 NLLLLLVKANLK(配列番号12)
A-208 AASIKVAVSADR(配列番号13) 110kDタンパク質
AG-10 NRWHSIYITRFG(配列番号14) α6β1インテグリン
AG-22 SSFHFDGSGYAM(配列番号15)
AG-32 TWYKIAFQRNRK(配列番号16) α6β1インテグリン
AG-56 SLVRNRRVITIQ(配列番号17)
AG-73 RKRLQVQLSIRT(配列番号18) シンデカン
EF-1 DYATLQLQEGRLHFMFDLG(配列番号19) α2β1インテグリン
【0015】
ラミニンのβ1鎖由来のペプチド
B-7 AFGVLALWGTRV(配列番号20)
B-20 HLIMTFKTFRPA(配列番号21)
B-23 KTWGVYRYFAYD(配列番号22)
B-30 RIQNLLKITNLR(配列番号23)
B-31 TNLRIKFVKLHT(配列番号24)
B-54 KRLVTGQR(配列番号25)
B-62 GPGVVVVERQYI(配列番号26)
B-98 DPGYIGSR(配列番号27) 67kDタンパク質
B-133 DSITKYFQMSLE(配列番号28)
B-160 VILQQSAADIAR(配列番号29)
【0016】
ラミニンのγ1鎖由来のペプチド
C-3 LWPLLAVLAAVA(配列番号30)
C-16 KAFDITYVRLKF(配列番号31) シンデカン、αVβ3インテグリン、α5β1インテグリン
C-28 TDIRVTLNRLNTF(配列番号32)
C-35 LPFFNDRPWRRAT(配列番号33)
C-57 APVKFLGNQVLSY(配列番号34)
C-64 SETTVKYIFRLHE(配列番号35)
C-68 TSIKIRGTYSER(配列番号36)
【0017】
ラミニンのα2鎖由来のペプチド
A2G78 GLLFYMARINHA (配列番号37) ジストログリカン
EF2 DFGTVQLRNGFPFFSYDLG(配列番号38) シンデカン
【0018】
ラミニンのα3鎖由来のペプチド
A3G75 KNSFMALYLSKG(配列番号39) シンデカン
EF3 RDSFVALYLSEGHVIFALG (配列番号40) シンデカン
【0019】
ラミニンのα4鎖由来のペプチド
A4G82 TLFLAHGRLVFM(配列番号41) シンデカン
EF4 DFMTLFLAHGRLVFMFNVG(配列番号42) シンデカン
【0020】
ラミニンのα5鎖由来のペプチド
A5G27 RLVSYNGIIFFLK(配列番号43) CD44
【0021】
本発明のペプチドはラミニン由来細胞接着性ペプチドのうちの少なくとも1種、好ましくは2種以上のペプチドが結合している。これらのペプチドはそれぞれ特有の機能を有し、例えば癌転移を促進し若しくは抑制し、または癌細胞の浸潤を促進する機能を有する。癌転移を促進し若しくは抑制し、又は癌細胞の浸潤を促進する機能を有するペプチドは、癌細胞に特異的に結合するので、それらを結合させた機能性リポソームは癌細胞に特異的に作用し、癌細胞への医薬の送達に好適に用いることができる。癌転移を促進するラミニン由来細胞接着性ペプチドとして、例えばA-10、A-13、A-51、A-64、A-119、A-208、C-16、AG-73が挙げられ、癌転移を抑制するラミニン由来細胞接着性ペプチドとして、例えばB-98が挙げられる。また、癌細胞の浸潤を促進するラミニン由来細胞接着性ペプチドとして、例えば、AG10、AG32が挙げられる。
【0022】
さらに、血管新生を促進するものは創傷治癒を促進することが予想され、神経突起伸張を促進するものは神経再生の促進が期待される。血管新生を促進するラミニン由来細胞接着性ペプチドとしてA-13、C-16が挙げられ、神経突起伸張を促進するラミニン由来細胞接着性ペプチドとして、A-13、A-208、C-16、AG-73、A3G75が挙げられる。
【0023】
上記アミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、細胞接着性を有するペプチドもラミニン由来細胞接着性ペプチドに包含される。ここで、1又は数個とは、1〜5個、好ましくは1個若しくは2個をいう。
【0024】
本発明の機能性リポソームはさらに、ラミニン由来細胞接着性ペプチド以外のペプチドが結合していてもよい。ラミニン由来細胞接着性ペプチド以外のペプチドとして、例えば、アルギニン、リシンを含む塩基性アミノ酸を主に含む細胞膜通過ペプチドが挙げられる。細胞膜通過ペプチドを機能性リポソームに結合させることにより、ラミニン由来細胞接着性ペプチドとプロテオグリカンとの相互作用により細胞に結合したリポソームが細胞膜を通過し細胞中に導入され、細胞中に医薬を送達することが可能になる。
【0025】
このような細胞膜通過ペプチドとして、6個から12個、好ましくは7個から11個、さらに好ましくは8個のアルギニンのみ(Arg-8ペプチド)またはリシンのみからなるペプチド等が挙げられる。また、5個から15個のアルギニンおよびリシンからなるペプチド、ならびに前記アルギニンのみまたはリシンのみからなるペプチドまたはアルギニンおよびリシンからなるペプチドにおいて、数個、好ましくは1個から8個のアミノ酸がグリシンに置換されたペプチド等が挙げられる。さらに、細胞膜通過ペプチドとして、HIV-1・TATの細胞膜通過ドメイン(protein transduction domain)GRKKRRQRRRPPQ(配列番号44)やショウジョウバエのホメオボックスタンパク質アンテナペディアの細胞膜通過ドメインRQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号45)等が挙げられる。これらは例示であり、本発明の機能性リポソームに結合させる細胞膜通過ペプチドはこれらには限定されず、すべての細胞膜通過機能を有するペプチドが包含される。
【0026】
本発明の機能性リポソームに結合するラミニン由来細胞接着性ペプチド及び細胞膜通過ペプチドの結合量は、脂質含量に対して1〜5%が好ましい。
【0027】
ラミニン由来細胞接着性ペプチドは、ペプチドにより結合特異性が異なり、異なる物質に結合し得る。一方、細胞はその状態により表面に発現するプロテオグリカンの種類や量が異なる。例えば、上記ラミニン由来細胞接着性ペプチドのうち、AG73は、特に肝癌細胞に特異的に結合し得る。
【0028】
本発明の機能性リポソームに複数の種類のラミニン由来細胞接着性ペプチドを結合させるに当たって、ラミニン由来細胞接着性ペプチドの種類と混合比を変えることにより、特定の状態にある細胞に特異的に結合する機能性リポソームを製造することができる。
【0029】
本発明の機能性リポソームを用いて薬物等を送達しようとする標的細胞の表面に発現しているプロテオグリカンの種類及び量に関する情報を得て、該情報に基づいて、前記細胞への特異性が高まるように、機能性リポソームに結合させる複数のラミニン由来細胞接着性ペプチドを選択すればよい。この際、高発現しているプロテオグリカンに結合するラミニン由来細胞接着性ペプチドを選択すればよい。薬物等を送達しようとする細胞の表面に発現しているプロテオグリカンの種類及び量は公知の情報を利用して決定することもできるし、標的細胞を採取し、公知の方法で測定することもできる。
【0030】
本発明の機能性リポソームは、構成脂質として、フォスファチジルコリン類、フォスファチジルエタノールアミン類、フォスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類、フォスファチジルグリセロール類、等のリン脂質を含み、さらにガングリオシド類、糖脂質類、コレステロール類等を含んでいてもよい。リン脂質としては、ジオレオイルフォスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルフォスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミンジ(DSPE)、ミリストイルフォスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルフォスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルフォスファチジルコリン(DSPC)、DBPC等が挙げられるが、これらには限定されない。また、これらの構成脂質の複数を組合せて含んでいてもよい。
【0031】
本発明の機能性リポソームは、超音波照射法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法、薄膜法、逆層蒸発法、エタノール注入法、脱水−再水和法等の公知の方法に従い製造することができる。例えば、構成脂質を含むクロロホルム溶液を調製し、フラスコ等に入れ、エバポレーターを用いて乾燥させることにより、フラスコ底に脂質の薄膜を形成させ、緩衝液を入れ、超音波処理することによりリポソームを形成させることができる(超音波法)。また、緩衝液中に分散させ、市販のエクストルーダーを用いて形成させることもできる。本発明の機能性リポソームの平均粒子径は、数十nm〜数百nm、好ましくは50nm〜150nmである。
【0032】
リポソームにラミニン由来細胞接着性ペプチド及びその他のペプチドを結合させるには、上記のリポソームの構成脂質または構成脂質の脂肪酸部分をペプチドの末端、例えばN末端に結合させてリポソームと混合すればよい。例えば、ステアリン酸にペプチドを結合させて、ステアリル化ペプチドを作製し、リポソームと混合すればよい。
【0033】
また、リポソーム表面にペプチドを結合させることもできる。例えば、リポソームを、NaIO4、Pb(O2CCH3)4、NaBiO3等の酸化剤で処理して、リポソーム膜面に存在するガングリオシドを酸化し、次いで、NaBH3CN、NaBH4等の試薬を用いて、ペプチドとリポソーム膜面上のガングリオシドを、還元的アミノ化反応により結合させることにより、ペプチドを結合させることもできる。
【0034】
ペプチドは、スペーサーを介して結合させてもよく、スペーサーとしては、例えばグリシン2〜10個からなる、好ましくは5個からなるポリグリシンが挙げられるが、これには限定されない。
【0035】
本発明の機能性リポソームは医薬を体内に送達するためのドラッグデリバリーシステム(DDS)の医薬送達用担体として用いることができる。本発明の機能性リポソームに、医薬効果を有する化合物を含ませることにより、プロテオグリカンを表面に発現している特定の細胞に機能性リポソームが到達し、その組織または器官の細胞に機能性リポソームが取り込まれ、医薬効果を有する化合物を放出する。
【0036】
医薬効果を有する化合物は限定されず、抗癌剤等の特定の疾患に対する医薬化合物等を用いることができる。遺伝子治療用DNA、RNA、siRNA等も用いることができる。
【0037】
また、本発明の機能性リポソームは、遺伝子を細胞に導入するための試薬としても用いることができる。
【0038】
医薬効果を有する化合物は、機能性リポソームの中に封入させてもよいし、機能性リポソームの表面に結合させてもよい。医薬効果を有する化合物を機能性リポソーム中に封入させるには、例えばリポソームを製造する際に、医薬効果を有する化合物を添加すればよい。
【0039】
本発明の医薬効果を有する化合物を含む機能性リポソーム製剤は、医薬組成物として、種々の形態で投与することができる。このような投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、坐薬などによる非経口投与を挙げることができる。これらの医薬組成物は、公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、ゲル化剤、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射剤は、本発明の機能性リポソームを通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。
【0040】
本発明の機能性リポソームを含む医薬組成物の投与量は、疾患の重篤度等により適宜決定できるが、本発明の組成物の医薬的に有効量を患者に投与すればよい。ここで、「医薬的に有効量を投与する」とは、各種疾患を治療するのに適切なレベルの薬剤を患者に投与することをいう。本発明の医薬組成物の投与回数は適宜患者の症状に応じて選択される。
【実施例】
【0041】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0042】
方法
1.プラスミドDNAのcondensation
ルシフェラーゼをコードしたプラスミドDNA(pCMV/GL3)とpoly-L-lysine(PLL)を電荷比(負電荷/正電荷)=2.4(重量としてはいずれも12.5μgづつ)になるように生理食塩水中で混合し、静電的相互作用により複合体を形成し、プラスミドDNAのコンパクションをおこなった。
【0043】
2.プラスミドDNAのリポソームへの封入とAG73修飾
クロロホルムに溶解したdioleoylphosphatidylglycerol(DOPG)およびdioleoylphosphatidylethanolamine(DOPE)のモル比が2:9(DOPG:DOPE=25 nmol:112.5 nmol)になるように両脂質溶液をナス型フラスコに採取し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を減圧除去し、lipid filmを調製した。
【0044】
Lipid filmに上記の方法で調製したPLL/pCMVGL3複合体を含む生理食塩水を添加し、vortexingおよびバス型ソニケーターにより5分間超音波照射し、PLL/pCMV GL3複合体のリポソームへの封入操作を行った。さらに、AG73ペプチドのN−末端にスペーサーとしグリシン残基を5個挿入しさらにステアリン酸を付加したstearyl-AG73をリポソーム懸濁液に添加し、ステアリル基をアンカーにしてAG73で膜表面を修飾したリポソームを調製した。AG73によるリポソーム膜表面の修飾は、シンデカン高発現細胞293T-Sへの結合性で評価した。
【0045】
3.細胞への遺伝子導入および遺伝子発現の評価
ヒト腎癌細胞由来293T細胞およびシンデカン高発現細胞293T-Sは、10% fetal calf serum(FCS ; Equitech-Bio)含有folate-free Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium (folate-free DMEM ; Sigma) (4mM glutamine, 0.15% NaHCO3, 100 U/ml penicillin, 100μg/ml streptomycin) 中で、5%CO2、37℃条件下で培養した。sub-confluenceに達した細胞をTrypsine-EDTA法によりディッシュから剥離し、3回洗浄後、10%FCS含有folate-free DMEM medium中に1×105 cells/mlの濃度に懸濁後、ディッシュに播種した。48時間後、プラスミドDNAを封入したAG73修飾リポソームをそれぞれの細胞の培地に加え、遺伝子導入を4時間行った。リン酸緩衝液で2回、細胞を洗浄後、さらに20時間培養し、遺伝子発現させた。細胞をリン酸緩衝液で洗浄後、細胞溶解液を加え、15分間室温で放置後、セルスクレイパーを用いて細胞懸濁液を回収後、150,000rpm、3分間遠心分離を行い、得られた上清中のルシフェラーゼ活性を測定キットで測定した。
【0046】
図1に結果を示す。図1の修飾率は、AG73の添加量より算出した。図1に示すように、AG73を結合させたリポソームを用いた場合にシンデカン発現細胞でのルシフェラーゼ活性が高く、リポソーム中のルシフェラーゼ遺伝子がより効率的に細胞中に導入された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】AG73修飾リポソームによるルシフェラーゼ遺伝子の導入・発現を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0048】
配列番号1から45:合成

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテオグリカンに結合するラミニン由来細胞接着性ペプチドを結合させた機能性リポソーム。
【請求項2】
プロテオグリカンに結合するラミニン由来細胞接着性ペプチドの少なくとも2種類を結合させた請求項1記載の機能性リポソーム。
【請求項3】
ラミニン由来細胞接着性ペプチドが配列番号1〜配列番号43のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドの少なくとも1つである請求項1記載の機能性リポソーム。
【請求項4】
ラミニン由来細胞接着性ペプチドが配列番号1〜配列番号43のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドの少なくとも2つである請求項1記載の機能性リポソーム。
【請求項5】
プロテオグリカンが、シンデカンファミリーに属するプロテオグリカン、CD44及びジストログリカンからなる群から選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載の機能性リポソーム。
【請求項6】
さらに、細胞膜通過ペプチドを結合させた請求項1〜5のいずれか1項に記載の機能性リポソーム。
【請求項7】
細胞膜通過ペプチドがHIV・TATペプチドである請求項6記載の機能性リポソーム。
【請求項8】
配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるAG73ペプチド及びHIV・TATペプチドを結合させた請求項7記載の機能性リポソーム。
【請求項9】
ラミニン由来細胞接着性ペプチドが、機能性リポソームの特定の細胞への特異性を高めるように選択された請求項1〜8のいずれか1項に記載の機能性リポソーム。
【請求項10】
薬物又は遺伝子を送達しようとする細胞の表面に発現するプロテオグリカンの種類及び量を決定し、高発現しているプロテオグリカンに特異的に結合するラミニン由来細胞接着性ペプチドを選択しリポソームに結合することを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の機能性リポソームを作製する方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の機能性リポソームを含む、グリコプロテインを発現している細胞を標的とした医薬送達担体。
【請求項12】
さらに、医薬又は遺伝子を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の機能性リポソーム。
【請求項13】
請求項12に記載の医薬又は遺伝子を含む機能性リポソームを含む、機能性リポソーム製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−13491(P2008−13491A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186318(P2006−186318)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者:日本DDS学会 刊行物名:第22回日本DDS学会 プログラム予稿集 掲載頁:302頁(1−C−29) 刊行物発行年月日:2006年5月10日
【出願人】(592068200)学校法人東京薬科大学 (32)
【Fターム(参考)】