説明

細胞状態検出装置及び方法

【課題】細胞に蛍光色素等の試薬を作用することなく、非侵襲の状態で、容易に細胞の状態を検出することができる装置と、当該装置を用いた細胞の状態を検出する方法を提供する。
【解決手段】本発明の細胞状態検出装置は、細胞に励起光L1を照射する励起光照射手段1と、この励起光照射手段1からの励起光L1により細胞から発せられる自家蛍光L2を検出する自家蛍光検出手段7と、この自家蛍光検出手段7の検出結果に基づいて細胞の状態を出力する細胞状態出力手段8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の状態を検出する装置に関し、詳細には、再生医療などを行う際に利用される細胞状態検出装置及び細胞状態検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、幹細胞を培養して、体内へ導入する医療器具表面に付与することで人体との拒絶反応を低減させる技術や、各機能を有する細胞に培養する技術などが、組織工学の発展により、急速に進歩してきている。このような細胞培養技術においては、培養された細胞の状態を評価した上で、体内に導入する必要があるが、そのための細胞状態検出方法も組織工学の進歩とともに発展しつつある。このような細胞状態検出方法のひとつとして、特定の細胞を採取し、この細胞をフィルタ上にて培養した後、試薬(蛍光色素)を作用させたものを蛍光顕微鏡を用いて観察する方法が知られている。
【0003】
ここで、上記蛍光観察による細胞状態検出方法について説明する。フィルタ上の細胞に試薬(蛍光色素)を作用させたものに、特定の波長域の光(励起光)を照射する。これにより、細胞に作用させた蛍光色素から蛍光が発せられる。そして、当該蛍光を吸収フィルターを通過させて、特定の波長域の光がカットしたものを、接眼レンズを通して観察する。このとき、蛍光染色した細胞は生死の状態や分化の状態、或いは、細胞の種類により異なる光を放つので、直ちに細胞の状態や種類を判別することができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2592114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の方法では、細胞の状態を検出するために、上記の如く細胞に蛍光色素を作用させなければ成らないので、再生医療などの培養後に人体に戻す細胞の状態評価には不向きであった。また、継続的に同じ細胞をモニタリングすることも不可能であった。
【0005】
このような問題に鑑みて、本発明は、細胞に蛍光色素等の試薬を作用させることなく、非侵襲のままで的確に細胞の状態を検出することができる装置、或いは、細胞の状態を検出する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の細胞状態検出装置は、細胞に励起光を照射する励起光照射手段と、この励起光照射手段からの励起光により細胞から発せられる自家蛍光を検出する自家蛍光検出手段と、この自家蛍光検出手段の検出結果に基づいて細胞の状態を出力する細胞状態出力手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2は、請求項1に記載の細胞状態検出装置において、前記細胞状態出力手段は、細胞から発せられる自家蛍光強度、自家蛍光パターン、自家蛍光スペクトルパターンのうちの何れか一つ、又は、それらの組み合わせを出力し、若しくは、当該出力を処理した情報を出力することを特徴とする。ここで、自家蛍光パターンとは、細胞内での自家蛍光の分布である。
【0008】
本発明の請求項3は、請求項1又は請求項2に記載の細胞状態検出装置において、前記励起光照射手段は、細胞に対して非侵襲性の波長の励起光を当該細胞に照射することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項4は、請求項1又は請求項2に記載の細胞状態検出装置において、紫外領域及び赤外領域の波長を除く励起光を細胞に照射することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項5は、請求項1又は請求項2に記載の細胞状態検出装置において、前記励起光照射手段は、400nm以上600nm以下の波長の励起光を細胞に照射することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項6は、請求項1又は請求項2に記載の細胞状態検出装置において、前記励起光照射手段は、細胞から発せられる自家蛍光が可視光となる励起光を当該細胞に照射することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項7に記載の細胞状態検出方法は、細胞に励起光を照射し、当該励起光により前記細胞から発せられる自家蛍光の状態から当該細胞の状態を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、細胞に蛍光色素等の試薬を作用させることなく、非侵襲のままで的確に細胞の状態を検出することができる装置、或いは、細胞の状態を検出する方法を摸索することにより、細胞の状態(例えば、細胞の生死、細胞のViability(生きの良さ)、細胞の種類、細胞の分化度合い)によって自家蛍光の強度が異なることが実験で確かめられた。
【0014】
そこで、請求項1に記載の細胞状態検出装置によれば、細胞に励起光を照射する励起光照射手段と、この励起光照射手段からの励起光により細胞から発せられる自家蛍光を検出する自家蛍光検出手段と、この自家蛍光検出手段の検出結果に基づいて細胞の状態を出力する細胞状態出力手段とを備えたので、例えば、請求項2の如き前記細胞状態出力手段は、細胞から発せられる自家蛍光強度、自家蛍光パターン、自家蛍光スペクトルパターンのうちの何れか一つ、又は、それらの組み合わせを出力し、若しくは、当該出力を処理した情報を出力するものとすれば、当該出力情報に基づき、細胞の状態を判別することができる。
【0015】
このように、本発明の細胞状態検出装置を用いて、細胞から発せられる自家蛍光を自家蛍光検出手段にて検出し、その結果に基づいて細胞状態出力手段により細胞の状態を出力することで、細胞の状態や種類を判別することが可能となる。これにより、細胞に試薬を作用させることなく、細胞の状態や種類を判別することが可能となる。特に、本発明の細胞状態検出装置を使用すれば、細胞を非侵襲のまま、容易に状態や種類等を判別できるので、再生医療などの培養後に人体に戻す細胞の状態評価に有用となる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、上記請求項1又は請求項2に記載の発明において、励起光照射手段は、細胞に対して非侵襲性の波長の励起光を当該細胞に照射するので、励起光の照射により細胞が損傷する不都合を未然に回避することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明において、紫外領域及び赤外領域の波長を除く励起光を細胞に照射するので、励起光の照射により細胞が損傷する不都合を未然に回避することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明において、励起光照射手段は、400nm以上600nm以下の波長の励起光を細胞に照射するので、効果的に細胞から自家蛍光を発生させることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の細胞状態検出装置において、励起光照射手段は、細胞から発せられる自家蛍光が可視光となる励起光を当該細胞に照射するので、細胞状態出力手段から出力された自家蛍光を目視で判別することができる。
【0020】
これにより、細胞状態出力手段として、自家蛍光検出手段にて検出した自家蛍光に特別な処理を施すことなく出力させる装置、例えば、画像を表示するディスプレイのような簡単な構成とすることができるので、コストの低減や装置の簡素化を図ることができるようになる。
【0021】
請求項7に記載の細胞状態検出方法によれば、細胞に励起光を照射し、当該励起光により細胞から発せられる自家蛍光の状態から当該細胞の状態を検出するので、細胞に試薬を作用させることなく、細胞の状態や種類を判別することが可能となる。特に、本発明の方法により、細胞を非侵襲のまま、状態や種類を判別することができるので、再生医療などの培養後に人体に戻す細胞の状態評価に有用となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を詳述する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の一実施例の細胞状態検出装置10の構成を示す模式図である。細胞状態検出装置は、検出対象となる細胞に励起光L1を照射する励起光照射手段1(光源)と、この励起光照射手段1からの励起光L1により細胞から発せられる自家蛍光L2を検出する自家蛍光検出手段7と、自家蛍光検出手段7の検出結果に基づいて細胞の状態を出力する細胞状態出力手段8などにより構成されている。本実施例の細胞状態検出装置10は、励起光照射手段1からの光をダイクロイックミラー2で反射させて、細胞の収納された培養容器4の下面から細胞に照射することにより、当該細胞から自家蛍光を発生させる落射式の検出装置である。即ち、励起光照射手段1(光源)からの励起光L1を、ダイクロイックミラー2、対物レンズ3を介して、細胞の収納された培養容器4の下面から細胞に照射し、当該励起光L1の照射により細胞から発せられた自家蛍光L2を培養容器4の下側に設置した前記対物レンズ3、ダイクロイックミラー2、吸収フィルター6を順次通過させて、当該自家蛍光L2から特定の波長の光を除去したものを接眼レンズ9により集光し、これを自家蛍光検出手段7により検出して、その検出結果に基づき、細胞状態出力手段8により細胞の状態を出力する構成とされている。
【0024】
上記励起光照射手段1は、観測対象である細胞に対して非侵襲性の波長の励起光L1を細胞に照射するものであり、ランプ(例えば、水銀ランプ等)と光学フィルタとレンズから構成されている。即ち、上記ランプの光は、種々の成分の波長を含んでいるが、光学フィルタを通過させることで、特定波長以外の光のみが光学フィルタによりカットされ、特定波長の光(予め設定された波長の光)のみが光学フィルタを透過し、この通過した光が励起光L1として、レンズを介して励起光照射手段1から射出される。
【0025】
当該励起光照射手段1から細胞に照射される励起光L1は、当該励起光L1の照射により細胞に損傷を与える恐れがある紫外領域及び赤外領域の波長を除く波長の光とする。このように励起光照射手段1から細胞に照射される励起光L1を非侵襲性の波長の励起光L1とし、特に、紫外領域及び赤外領域の波長を除く励起光L1とすることで、励起光L1の照射により細胞が損傷する不都合を未然に回避することができる。加えて、励起光照射手段1から細胞に照射される励起光L1の波長を、細胞から発せられる自家蛍光L2が可視光となるように設定すれば、後述する細胞状態出力手段8から出力された自家蛍光L2を目視することができるので、細胞状態出力手段8として後述するディスプレイなどの簡単な装置を適用することが可能となる。また、実際に細胞に照射する励起光L1の波長は、蛍光分光光度計にて検出対象となる細胞の蛍光度を測定することにより決定した。尚、後述するヒト間葉系幹細胞の検出には、400nm以上600nm以下の波長の励起光L1を照射しることで、細胞から効果的に自家蛍光L2を発生させることが可能である。
【0026】
一方、前記自家蛍光検出手段7は、細胞から発せられる自家蛍光を検出できるものであれば、どのような検出手段であっても良く、例えば、自家蛍光を一点毎に検出するフォトダイオード等の光検出素子や、自家蛍光を二次元的に検出し蛍光像を撮像するCCD撮像素子を用いても構わない。また、細胞状態出力手段8は、前記自家蛍光検出手段7の結果に基づき、細胞の状態を出力するための手段であり、具体的には、自家蛍光検出手段7の出力結果に基づき、細胞から発せられる自家蛍光強度、自家蛍光パターン、自家蛍光スペクトルパターンのうち何れか一つ、又は、それらを組み合わせたものを出力し、若しくは、当該出力を処理した情報を出力できるものであれば、どのようなものであっても適用可能である。例えば、細胞状態出力手段8として、パソコン等を用いることも可能である。
【0027】
また、パソコン以外にも、前述の如き励起光照射手段1が細胞から発せられる自家蛍光が可視光となる励起光L1を細胞に照射するものとすれば、自家蛍光検出手段7をCCD映像素子とし、且つ、細胞状態出力手段8を当該CCD映像素子で撮像した画像を表示するディスプレイ、或いは、撮像した画像をプリントするプリンタとすることも可能である。このように、励起光照射手段1から細胞に照射される励起光L1を細胞から発せられる自家蛍光L2が可視光となるように設定すれば、細胞状態出力手段8としてディスプレイのような簡単な装置を適用することが可能となるので、コストの低減や装置全体の簡素化を図ることができるようになる。
【0028】
また、細胞から発せられる自家蛍光L2が可視光となり、且つ、細胞状態出力手段8としてパソコンを使用する場合には、上述の如きCCD映像素子が撮像した画像をそのままディスプレイに表示するだけでも勿論構わないが、それ以外にも、他えば、画像に何らかの処理(増幅等)を加えてディスプレイに出力しても良いし、画像データに基づき細胞の判別(生死の判別や、種類の判別等)を行い、その結果をディスプレイやプリンタに表示する等、様々の出力が可能である。
【0029】
他方、可視領域以外の波長の光が自家蛍光L2として発せされる場合には、当該自家蛍光L2を目視することが不可能であるため、細胞状態出力手段8は、自家蛍光検出手段7の結果に基づき、細胞から発せられる自家蛍光強度、自家蛍光パターン、自家蛍光スペクトルパターンをデータ処理装置(パソコン等)で処理し、数値や可視光に変換して出力するものとする。
【0030】
また、前述したダイクロイックミラー2は、ある特定の波長の光だけを透過し、それ以外の波長の光を反射する、所謂バンドパスフィルターであり、前記吸収フィルター6は、特定の波長の光を除去するフィルターである。
【0031】
尚、本発明において上述した細胞とは、人の細胞は勿論、それ以外にも細菌や微生物などの様々の細胞を総称したものである。本実施例では、細胞としてヒト間葉系幹細胞を用いるが、それ以外に、例えば、細菌や微生物の状態検出などに本発明の細胞状態検出装置を用いても差し支えない。
【0032】
以上の構成で、次に本実施例の細胞状態検出装置10を用いて細胞状態検出方法について説明する。本実施例では、ヒト間葉系幹細胞を培養し、トリプシン処理で剥離した後、収集した細胞を対象1とし、対象1と同じヒト間葉系幹細胞を同様に培養し、トリプシン処理で剥離した後、収集した細胞を70℃で20分間熱処理したものを対象2としてそれぞれの細胞状態の検出を行った。即ち、対象1及び対象2に用いた細胞は同一であるが、対象1は生細胞であり、対象2は対象1を加熱処理した死細胞である点でのみ両対象は異なる。
【0033】
先ず、前記自家蛍光検出手段7として蛍光分光光度計を使用した場合について説明する。この場合、細胞に470nmと530nmの2種類の波長の励起光L1をそれぞれ照射して検出を行った。上述の如くヒト間葉系幹細胞を培養し、トリプシン処理で剥離した後、収集した細胞が封入された培養容器4(対象1)、或いは、ヒト間葉系幹細胞を培養し、トリプシン処理で剥離した後、収集した細胞を70℃で20分間加熱処理した細胞が封入された培養容器4(対象2)を細胞状態検出装置10の所定の位置に装着する。そして、励起光照射手段1から発せられる励起光L1の波長を、470nm、或いは、530nmの何れかに設定する。尚、ダイクロイックミラー2は、少なくとも励起光L1以下の波長の光を反射して、それより長い波長の光を透過する特性を有するものを使用する。また、当該ダイクロイックミラー2は、予め励起光照射手段1からの励起光L1を反射して、前記培養容器4内に照射するように予め角度調整されているものとする。
【0034】
そして、細胞状態検出装置10の電源を投入すると、励起光照射手段1から設定された波長(470nm、或いは、530nm)の励起光L1が発せられる。この励起光L1は、ダイクロイックミラー2により反射されて、対物レンズ3を経て培養容器4内に照射される。これにより、培養容器4内の細胞に励起光L1が照射され、細胞から自家蛍光L2が発せられる。このとき、細胞から発せられた自家蛍光L2は、細胞に照射された励起光L1より長い波長の光となる。
【0035】
そして、細胞からの自家蛍光L2は、対物レンズ3により集光され、ダイクロイックミラー2を通過する。また、細胞に照射され、反射した励起光L1も対物レンズ3を介して、ダイクロイックミラー2に至る。このとき、ダイクロイックミラー2は、前述の如く励起光L1以下の波長は反射し、それより長い波長の光を透過するため、励起光L1は当該ダイクロイックミラー2を通過することなく、反射されて励起光照射手段1に戻ることとなる。
【0036】
他方、細胞から発せられた自家蛍光L2は、前述したように励起光L1より長い波長の光であるため、ダイクロイックミラー2を通過し、吸収フィルター6を通過する。この過程で、特定の波長の光が除去された後、接眼レンズ9を経て自家蛍光検出手段7(蛍光分光光度計)に入射する。自家蛍光検出手段7は、入射した自家蛍光L2の状態を検出する。この場合、自家蛍光検出手段7として蛍光分光光度計を用いるので、当該蛍光分光光度計の光検出素子にて自家蛍光L2の状態を検出し、当該検出情報は信号として細胞状態出力手段8(パソコンなど)に入力される。
【0037】
細胞状態出力手段8は入力された信号に基づいて、細胞から発せられる自家蛍光スペクトルパターンを出力する。図2は細胞に470nmの波長の励起光を照射した場合(B励起時)の出力結果であり、図3は細胞に530nmの波長の励起光を照射した場合(G励起時)の出力結果である。図2及び図3において、実線Aは対象1(生細胞)から得られたスペクトルであり、実線Bは対象2(対象2)から得られたスペクトルである。
【0038】
各対象(対象1及び対象2)に470nmの波長の励起光を照射した場合(B励起時)、両対象とも図2に示すように470nm付近と700nm付近の波長に蛍光度のピークが現れ、500nm〜570nm付近の波長に蛍光度の緩慢な上昇が見られる。470nm付近のピークは細胞に照射された励起光L1であるため、細胞から発せられた自家蛍光L2の波長は500nm〜570nm付近であると考えられる。また、図2から対象1の生細胞より、対象2の死細胞の方が蛍光度が大きいことが顕著である。
【0039】
また、各対象(対象1及び対象2)に530nmの波長の励起光を照射した場合、両対象とも、図3に示すように530nm付近の波長に蛍光度のピークが現れ、600nm〜700nm付近の波長に蛍光度の上昇が見られる。530nm付近のピークは細胞に照射された励起光L1であるので、細胞から発せられた自家蛍光L2の波長は600nm〜700nm付近であると考えられる。また、図2の結果と同様に対象1の生細胞より、対象2の死細胞の方が蛍光度が著しく大きいことが明らかとなった。
【0040】
このように、同一の細胞であっても、細胞の状態(本実施例では細胞の生と死)により細胞から発せられる自家蛍光スペクトルパターンが異なるので、本実施例の細胞状態検出装置10を用いて細胞の自家蛍光を検出し、当該自家蛍光スペクトルパターンを出力させることで、細胞に蛍光色素などの試薬を作用させること無く、細胞の状態を明確に判別することが可能である。
【0041】
次に、前記自家蛍光検出手段7としてCCDカメラ(CCD撮像素子)を使用した場合について説明する。この場合、上記図2の470nmの波長の励起光照射時より、図3の530nmの波長の励起光照射時の方が両対象から発せられる自家蛍光の蛍光度が大きくなった結果から、細胞に470nmの励起光L1を照射するより、530nmの励起光L1を照射した方が効果的に細胞から自家蛍光L2を発生させることができることが明らかであるので、励起光照射手段1から細胞に発せられる励起光L1の波長を530nmに設定して自家蛍光L2の検出を行った。
【0042】
先ず、上述の如くヒト間葉系幹細胞を培養し、トリプシン処理で剥離した後、収集した細胞が封入された培養容器4(対象1)、或いは、ヒト間葉系幹細胞を培養し、トリプシン処理で剥離した後、収集した細胞を70℃で20分間加熱処理した細胞が封入された培養容器4(対象2)を細胞状態検出装置10の所定の位置に装着する。そして、励起光照射手段1から発せられる励起光L1の波長を、530nmに設定する。尚、ダイクロイックミラー2は、少なくとも励起光L1である530nm以下の波長の光を反射して、それより長い波長の光を透過する特性を有するものを使用する。また、当該ダイクロイックミラー2は、予め励起光照射手段1からの励起光L1を反射して、前記培養容器4内に照射するように予め角度調整されているものとする。
【0043】
そして、細胞状態検出装置10の電源を投入すると、励起光照射手段1から設定された波長(530nm)の励起光L1が発せられる。この励起光L1は、ダイクロイックミラー2により反射されて、対物レンズ3を経て培養容器4内に照射される。これにより、培養容器4内の細胞に励起光L1が照射され、細胞から自家蛍光L2が発せられる。このとき、細胞から発せられた自家蛍光L2は、前記図3から明らかであるように細胞に照射された励起光L1より長い波長の光となる。
【0044】
そして、細胞からの自家蛍光L2は、対物レンズ3により集光され、ダイクロイックミラー2を通過する。また、細胞に照射され、反射した励起光L1も対物レンズ3を介して、ダイクロイックミラー2に至る。このとき、ダイクロイックミラー2は、前述の如く励起光L1以下の波長は反射し、それより長い波長の光を透過するため、励起光L1は当該ダイクロイックミラー2を通過することなく、反射されて励起光照射手段1に戻ることとなる。
【0045】
他方、細胞から発せられた自家蛍光L2は、前述したように励起光L1より長い波長の光であるため、ダイクロイックミラー2を通過し、吸収フィルター6を通過する。この過程で、特定の波長の光が除去された後、接眼レンズ9を経て自家蛍光検出手段7(CCDカメラ)に入射する。自家蛍光検出手段7は、入射した自家蛍光L2の状態を検出する。この場合、自家蛍光検出手段7としてCCDカメラを用いるので、当該CCDカメラのCCD映像素子にて自家蛍光L2の状態が撮像され、画像信号として細胞状態出力手段8に入力される。
【0046】
細胞状態出力手段8は入力された画像信号に基づいて、細胞の状態を出力する。本実施例では、細胞状態出力手段8として細胞から発せられる自家蛍光強度を出力するものとして、ディスプレイを用いるので、CCDカメラで撮像した画像がディスプレイに表示される。ここで、図4は、当該ディスプレイに表示された対象1(生細胞)の自家蛍光強度を示す写真を模式的に示した図であり、図5は対象2(死細胞)の自家蛍光強度を示す写真を模式的に示した図である。530nmの励起光L1を照射した際に、各細胞から得られた自家蛍光L2は赤色であったが(背景は黒色)、図4及び図5では、背景の色を反転させて白色とし、細胞から発せられる自家蛍光L2を黒色で示した。従って、細胞がより黒く示されている方が、蛍光強度が強く、背景との色調差が少ない(細胞がより白色に近い)程、蛍光強度が弱いことを示している。即ち、図4の対象1の生細胞では、蛍光強度が弱く、背景との色調差が大きい図5の対象2の死細胞では、蛍光強度が強いことがわかる。これにより、生細胞と死細胞とで、蛍光強度が顕著に相違し、明確な強度差があることがわかった。また、当該結果は前記図3に示す自家蛍光スペクトルパターンの結果と一致している。
【0047】
このように、同一の細胞であっても、細胞の状態(本実施例では細胞の生と死)により細胞から発せられる自家蛍光の蛍光強度が異なるので、本実施例の細胞状態検出装置10を用いて細胞の自家蛍光を検出し、蛍光強度を出力させることで、細胞に蛍光色素などの試薬を作用させること無く、細胞の状態を明確に判別することが可能である。
【0048】
尚、本実施例では、CCDカメラにて撮像された自家蛍光L2の画像に基づき、細胞状態出力手段8が当該細胞から発せられる自家蛍光強度をディスプレイに表示するものとしたが、単に自家蛍光強度をディスプレイに表示するだけでなく、当該画像に増幅などの処理を加えてディスプレイに出力しても構わない。また、画像データに基づき細胞の判別、例えば、本実施例の如く細胞の生死の判別を行う場合には、生細胞より死細胞の方が蛍光強度が高いことから、所定の閾値を設定して、細胞状態出力手段8が所定の閾値より蛍光強度が高い場合には死細胞、所定の閾値より蛍光強度が低い場合には生細胞であることを判別し、その結果をディスプレイやプリンタに表示するものとすることも可能である。
【0049】
また、細胞から発せられる自家蛍光L2を検出することで、細胞の種別の判断も行うことが可能となる。即ち、細胞の種類により各細胞から発せられる自家蛍光L2が異なることから、予め、種々細胞の自家蛍光L2を測定し、その測定結果を細胞状態出力手段8に入力しておき、細胞状態出力手段8は当該入力された情報に基づき、前述した蛍光検出手段7が、その結果をディスプレイやプリンタに出力することで、細胞の種別の判断も行うことができる。更には、細胞の分化の状態の検出などにも応用することが可能となる。特に、細胞状態検出装置10を使用することで、細胞を非侵襲のまま、容易に状態や種類等を判別できるので、再生医療などの培養後に人体に戻す細胞の状態評価を行うことができるようになる。
【実施例2】
【0050】
上記実施例の細胞状態検出装置10は、励起光照射手段1からの光をダイクロイックミラー2で反射させて、細胞の収納された培養容器4の下面から細胞に照射することにより、当該細胞から自家蛍光を発生させる落射式の検出装置としたが、本発明の細胞状態検出装置はこれに限定されるものではない。例えば、図6に示すような透過方の検出装置としても構わない。尚、図6において、図1と同一の符号が付されたものは、同様、或いは類似の効果を奏するものであるため、説明を省略する。
【0051】
この場合、励起光照射手段1(光源)からの励起光L1を、培養容器4の上側から当該培養容器4中に収納された細胞に照射し、この励起光L1の照射により細胞から発せられた自家蛍光L2を下側に設置された対物レンズ3にて集光する。そして、吸収フィルター6を通過させて、特定の波長の光が除去された自家蛍光L2を接眼レンズ9を介して自家蛍光検出手段7により検出し、検出された結果に基づき、細胞状態出力手段8により細胞の状態が出力される。
【0052】
本実施例で使用される自家蛍光検出手段7及び細胞状態出力手段8は、前記実施例と同様であるため説明を省略する。
【0053】
このように、本実施例の細胞状態検出装置20を用いても、細胞に蛍光色素などの試薬を作用させること無く、細胞の状態や種類を判別することが可能となる。
【実施例3】
【0054】
また、上記各実施例以外に、図7或いは図8に示すエバネッセント光を用いて自家蛍光を観測し検出するものとしても構わない。先ず、図7に示す細胞状態検出装置30について説明する。この場合、励起光照射手段1からの光が全反射する所定の角度で培養容器4に励起光L1を照射すると、培養容器4の下面で全反射が生じて、励起光L1は全てL3側に抜けるように見受けられるが、実際には培養容器4の下面から上側にエバネッセント光が生じることとなる。当該エバネッセント光は極めて薄い層であるため、遠方に伝播せず、目視では確認することは不可能である。
【0055】
しかしながら、エバネッセント光の到達する領域内(上記薄い層内)にある細胞(培養容器4中に収納された細胞)に当該エバネッセント光が照射されると、細胞はこのエバネッセント光を一旦吸収した後、自家蛍光を発する。このとき、細胞から発せられる自家蛍光は、通常の伝播光である。細胞から発せられた自家蛍光L2は、対物レンズ3により集光され、吸収フィルター6を通過する。この過程で、特定の波長の光が除去された後、接眼レンズ9を経て自家蛍光検出手段7に入射する。そして、前記各実施例で詳述したように自家蛍光検出手段7により当該自家蛍光が検出され、その結果に基づき、細胞状態出力手段8により細胞の状態が出力される。尚、本実施例で使用される自家蛍光検出手段7及び細胞状態出力手段8は、前記実施例と同様であるため説明を省略する。
【0056】
他方、図8に示す細胞状態検出装置40は、対物レンズ3から励起光L1を照射してエ培養容器4の下面から上側にバネッセント光を発生させ、当該エバネッセント光の照射により細胞から自家蛍光を発生させる装置の一例である。この場合、細胞から発せられた自家蛍光L2は、対物レンズ3により集光され、ダイクロイックミラー2を通過する。また、細胞に照射され、反射した励起光L1も対物レンズ3を介して、ダイクロイックミラー2に至る。このとき、ダイクロイックミラー2は、前述の如く励起光L1以下の波長は反射し、それより長い波長の光を透過するため、励起光L1は当該ダイクロイックミラー2を通過することなく、反射されて励起光照射手段1に戻ることとなる。
【0057】
ダイクロイックミラー2を通過した自家蛍光L2は、次に、吸収フィルター6を通過し、この過程で特定の波長の光が除去される。その後、当該吸収フィルター6を通過した自家蛍光L2は、接眼レンズ9を経て自家蛍光検出手段7に入射する。そして、前記各実施例で詳述したように自家蛍光検出手段7により当該自家蛍光が検出され、その結果に基づき、細胞状態出力手段8により細胞の状態が出力される。
【0058】
このように、エバネッセント光を用いて細胞の自家蛍光L2を検出して、当該検出結果を出力しても、上記各実施例と同様に細胞に蛍光色素などの試薬を作用させること無く、細胞の状態や種類を判別することが可能となる。特に、エバネッセント光を用いることで、培養容器4内に収容された細胞の極めて薄い層のみを検出することが可能となるので、ピントのあった部分に存在するある一つの細胞の自家蛍光を観測することも可能となり、且つ、当該細胞を継続的にモニタリングすることも可能となる。これにより、細胞の状態をより明確に検出することが可能となり、検出精度を飛躍的に向上させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施例の細胞状態検出装置の構成を示す模式図である。
【図2】470nmの波長の励起光を照射した場合の自家蛍光スペクトルパターンを示す図である。
【図3】530nmの波長の励起光を照射した場合の自家蛍光スペクトルパターンを示す図である。
【図4】530nmの波長の励起光を照射した場合の対象1(生細胞)の写真を模式的に示した図である。
【図5】530nmの波長の励起光を照射した場合の対象2(死細胞)の写真を模式的に示した図である。
【図6】本発明の他の実施例の細胞状態検出装置の構成を示す模式図である。
【図7】本発明のもう一つの他の実施例の細胞状態検出装置の構成を示す模式図である。
【図8】本発明の更にもう一つの他の実施例の細胞状態検出装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0060】
1 励起光照射手段(光源)
2 ダイクロイックミラー
3 対物レンズ
4 培養容器
6 吸収フィルター
7 自家蛍光検出手段
8 細胞状態出力手段
9 接眼レンズ
10、20、30、40 細胞状態検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞に励起光を照射する励起光照射手段と、
該励起光照射手段からの励起光により前記細胞から発せられる自家蛍光を検出する自家蛍光検出手段と、
該自家蛍光検出手段の検出結果に基づいて前記細胞の状態を出力する細胞状態出力手段とを備えたことを特徴とする細胞状態検出装置。
【請求項2】
前記細胞状態出力手段は、前記細胞から発せられる自家蛍光強度、自家蛍光パターン、自家蛍光スペクトルパターンのうちの何れか一つ、又は、それらの組み合わせを出力し、若しくは、当該出力を処理した情報を出力することを特徴とする請求項1に記載の細胞状態検出装置。
【請求項3】
前記励起光照射手段は、前記細胞に対して非侵襲性の波長の前記励起光を当該細胞に照射することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細胞状態検出装置。
【請求項4】
前記励起光照射手段は、紫外領域及び赤外領域の波長を除く前記励起光を前記細胞に照射することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細胞状態検出装置。
【請求項5】
前記励起光照射手段は、400nm以上600nm以下の波長の前記励起光を前記細胞に照射することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細胞状態検出装置。
【請求項6】
前記励起光照射手段は、前記細胞から発せられる自家蛍光が可視光となる前記励起光を当該細胞に照射することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の細胞状態検出装置。
【請求項7】
細胞に励起光を照射し、当該励起光により前記細胞から発せられる自家蛍光の状態から当該細胞の状態を検出することを特徴とする細胞状態検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−215419(P2007−215419A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36895(P2006−36895)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、健康安心プログラム/再生医療の早期実用化を目指した再生評価技術開発プロジェクトに係るフィージビリティスタディ委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】