説明

細菌分析装置

【課題】検体中に複数の形態の細菌が含まれていても、検体中の細菌の形態を判定することが可能な細菌分析装置を提供する。
【解決手段】細菌分析装置は、検体と試薬とを含む測定試料に光を照射する光源と、前記光源が前記測定試料に光を照射することによって生じる光を受光する受光部と、を備える検出部と、前記受光部により受光した光による信号に基づいて、前記検体中に含まれる細菌の大きさに関する情報、および前記細菌によって生じる蛍光情報をパラメータとするスキャッタグラムを生成するためのスキャッタグラムデータを取得するスキャッタグラムデータ取得手段と、前記スキャッタグラムデータ取得手段により取得されたスキャッタグラムデータに基づき、前記スキャッタグラム上の複数の領域に含まれる細菌の数を、それぞれの領域について取得する細菌数取得手段と、前記細菌数取得手段によって取得されたそれぞれの領域における細菌の数に基づいて、前記検体に含まれる細菌の形態を判定する形態判定手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の細菌を検出し、その形態を判定する細菌分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
検体中に含まれる細菌を検出し、その形態を判定することが、臨床検査および食品衛生検査などの分野で行われている。
【0003】
細菌を検出し、その形態を判定する方法としては寒天培養法が一般的である。これは試料を寒天培地に塗布し、所定時間培養して形成したコロニーを、顕微鏡を用いて観察者が分類する検査方法である。しかしこの寒天培養法は、基本的に用手法であるため処理が煩雑であり、また培養を要するため形態の判定まで時間がかかる。
【0004】
そこで、近年になって、フローサイトメーターなどの粒子測定装置を用いて細菌を検出し、その形態を判定する方法が提案されている。
【0005】
例えば、尿中に含有される細菌の形態を判定する方法として、細菌の大きさ情報と蛍光情報とをパラメータとするスキャッタグラムを作成し、スキャッタグラム上の細菌の分布状態を解析し、スキャッタグラム全体の粒子の分布状態より粒子の集合の傾きを算出し、算出された傾きに基づいて検体中の細菌の形態が桿菌であるか球菌であるかを判定する細菌測定方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−305173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、検体中には、単一形態の細菌のみが存在するとは限らず、桿菌、連鎖球菌、ブドウ球菌などの複数の形態の細菌が含まれる場合がある。粒子の集合の傾きに基づく上記特許文献1記載の細菌測定方法では、このように複数の形態の細菌が含まれる場合、細菌の形態を判定することが難しかった。
【0008】
本発明は、検体中に複数の形態の細菌が含まれていても、検体中の細菌の形態を判定することが可能な細菌分析装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は第1の局面から、検体と試薬とを含む測定試料に光を照射する光源と、前記光源が前記測定試料に光を照射することによって生じる光を受光する受光部と、を備える検出部と、前記受光部により受光した光による信号に基づいて、前記検体中に含まれる細菌の大きさに関する情報、および前記細菌によって生じる蛍光情報をパラメータとするスキャッタグラムを生成するためのスキャッタグラムデータを取得するスキャッタグラムデータ取得手段と、前記スキャッタグラムデータ取得手段により取得されたスキャッタグラムデータに基づき、前記スキャッタグラム上の複数の領域に含まれる細菌の数を、それぞれの領域について取得する細菌数取得手段と、前記細菌数取得手段によって取得されたそれぞれの領域における細菌の数に基づいて、前記検体に含まれる細菌の形態を判定する形態判定手段と、を備える細菌分析装置を提供する。
【0010】
第1の局面による細菌分析装置は、スキャッタグラムデータに基づき、前記スキャッタグラム上の複数の領域に含まれる細菌の数を、それぞれの領域について取得する細菌数取得手段と、前記細菌数取得手段によって取得されたそれぞれの領域における細菌の数に基づいて、前記検体に含まれる細菌の形態を判定する形態判定手段と、を備えるので、検体に複数の形態の細菌が含まれていても、検体中に含まれる細菌の形態を判定することが可能となる。
【0011】
本発明は前記第1の局面において、前記細菌数取得手段は、前記スキャッタグラムの原点を中心とする円の半径方向に分割された複数の前記領域に含まれる細菌の数を、それぞれの領域について取得してもよい。
【0012】
また、本発明は前記第1の局面において、前記領域は、前記スキャッタグラム上において、前記スキャッタグラムの原点を含む所定の領域が除かれた領域であってもよい。前記スキャッタグラムの原点を含む所定の領域は、原点から離れた領域と比較して狭い領域であるため、このような領域を除くことによって、細菌数取得手段によって取得される細菌数の精度がよくなり、これにより、細菌の形態をさらに精度よく判定することができる。
【0013】
また、本発明は前記第1の局面において、前記形態判定手段は、前記細菌数取得手段によって取得されたそれぞれの領域における細菌の数に基づいて、前記スキャッタグラムにおける前記領域の分布位置と細菌の数とをパラメータとする度数分布図を生成するための度数分布データを取得し、取得した前記度数分布データに基づいて領域を選択し、選択した領域の前記スキャッタグラムにおける分布位置に基づいて、前記検体に含まれる細菌の形態を判定してもよい。
【0014】
また、本発明は前記第1の局面において、前記形態判定手段は、前記度数分布データに基づき、前記スキャッタグラム上で両側に隣接する領域に含まれる細菌の数よりも含まれる細菌の数が大きい領域を選択してもよい。
【0015】
また、本発明は前記第1の局面において、前記形態判定手段は、前記スキャッタグラム上で両側に隣接する領域に含まれる細菌の数よりも含まれる細菌の数が大きい領域を複数選択し、選択したそれぞれの領域に基づいて、検体に含まれる複数の細菌の形態を判定してもよい。
【0016】
また、本発明は前記第1の局面において、前記形態判定手段によって判定された形態に属する細菌の数を取得する形態毎細菌数取得手段をさらに備えてもよい。
【0017】
また、本発明は前記第1の局面において、前記形態判定手段は、検体中に含まれる細菌に桿菌が含まれるか否かを判定してもよい。
また、本発明は前記第1の局面において、前記形態判定手段は、検体中に含まれる細菌に連鎖球菌が含まれるか否かを判定してもよい。
また、本発明は前記第1の局面において、前記形態判定手段は、検体中に含まれる細菌にブドウ球菌が含まれるか否かを判定してもよい。
【0018】
また、本発明は前記第1の局面において、前記検体と蛍光試薬とを混合することにより、測定試料を調製する試料調製部をさらに備え、前記受光部は、前記測定試料に光を照射することにより生じる散乱光を受光する散乱光受光部と、前記測定試料に光を照射することにより生じる蛍光を受光する蛍光受光部とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、検体中に複数の形態の細菌が含まれていても、検体中に含まれる細菌の形態を判定することが可能な細菌分析装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に示す実施形態に基づいてこの発明を記述する。なお、これによってこの発明が限定されるものではない。
【0021】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態による細菌分析装置は、フローセルを流れる測定試料に光を照射することによって得られる前方散乱光および側方蛍光の信号に基づき、検体としての尿中に含まれる細菌を分析する装置である。細菌分析装置1は、図1に示すように、尿中に含まれる細菌をフローサイトメーターにより光学的に測定する測定装置2と、測定装置2から出力された測定値を処理して分析結果を得る制御装置3とにより構成されている。
【0022】
測定装置2には、図2に示すように、検体分配部201と、試料調製部202と、光学検出部203と、光学検出部203による出力の増幅を行うアナログ信号処理回路204と、アナログ信号処理回路204の出力をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ205と、デジタル信号に対して所定の波形処理を行うデジタル信号処理回路206とが設けられている。さらに、測定装置2には、デジタル信号処理回路206に接続されたメモリ207と、アナログ信号処理回路204およびデジタル信号処理回路206に接続されたCPU208と、CPU208に接続されたLANアダプタ209とが設けられている。制御装置3は、LANアダプタ209を介して測定装置2にLAN接続されている。また、アナログ信号処理回路204、A/Dコンバータ205、デジタル信号処理回路206およびメモリ207は、光学検出部203が出力する電気信号に対する信号処理回路210を構成している。また、測定装置2には、CPU208に接続されたBBURAM(Battery Backup RAM)などからなるメモリ211が設けられている。
【0023】
検体分配部201は、ピペットと、ピペット内に所定量の検体(尿)を吸引し、吸引した検体を吐出するためのポンプなどを備え、所定量の検体を検体容器から吸引し、試料調製部202に供給するように構成されている。
【0024】
また、試料調製部202は、検体分配部201により供給された検体と、図示しない試薬容器から供給された希釈液および染色液とを混合することにより測定試料の調製を行う混合容器と、混合容器で調製された測定試料をシース液とともに後述する光学検出部203のシースフローセル203c(図3参照)に供給するためのポンプなどを備える。
【0025】
ここで、希釈液にはUFIIパック−BAC(シスメックス株式会社製)を、染色液にはUFIIサーチ−BAC(シスメックス株式会社製)をそれぞれ用いることができる。
【0026】
光学検出部203は、図3に示すように、レーザ光を出射する発光部203aと、照射レンズユニット203bと、レーザ光が照射されるシースフローセル203cと、発光部203aから出射されるレーザ光が進む方向の延長線上に配置されている集光レンズ203d、ピンホール203eおよびフォトダイオード(PD)203fと、発光部203aから出射されるレーザ光が進む方向と交差する方向に配置されている集光レンズ203g、ダイクロイックミラー203h、光学フィルタ203i、ピンホールを有するピンホール板203jおよび光電子倍増管(PMT)203kと、ダイクロイックミラー203hの側方に配置されているフォトダイオード(PD)203lとを含んでいる。
【0027】
発光部203aは、シースフローセル203cの内部を通過する測定試料を含む試料流に対して光を出射するために設けられている。また、照射レンズユニット203bは、発光部203aから出射された光を平行光にするために設けられている。また、PD203fは、シースフローセル203cから出射された前方散乱光を受光するために設けられている。
【0028】
ダイクロイックミラー203hは、シースフローセル203cから出射された側方散乱光および側方蛍光を分離するために設けられている。具体的には、ダイクロイックミラー203hは、シースフローセル203cから出射された側方散乱光をPD203lに入射させるとともに、シースフローセル203cから出射された側方蛍光をPMT203kに入射させるために設けられている。また、PD203lは、側方散乱光を受光するために設けられている。また、PMT203kは、側方蛍光を受光するために設けられている。また、PD203f、203lおよびPMT203kは、それぞれ、受光した光信号を電気信号に変換する機能を有する。
【0029】
アナログ信号処理回路204は、図3に示すように、アンプ204a、204bおよび204cを含んでいる。また、アンプ204a、204bおよび204cは、それぞれ、PD203f、203lおよびPMT203kから出力された電気信号を増幅するために設けられている。
【0030】
図2に戻り、LANアダプタ209はEthernet(登録商標)インターフェースであり、測定装置2は、LANアダプタ209により、所定の通信プロトコル(TCP/IP)を使用してLANケーブルにより接続された制御装置3との間でデータの送受信が可能である。
【0031】
制御装置3は、図1に示すように、パーソナルコンピュータ(PC)などから構成されている。また、制御装置3は、制御部301と、表示部302と、入力デバイス303とを含んでいる。制御装置3は、ユーザの操作を受け付け、測定装置2に動作命令を送信し、測定装置2から測定データを受信し、その測定データを処理して分析結果を表示する機能を有する。
【0032】
また、制御部301は、図4に示すように、CPU301aと、ROM301bと、RAM301cと、ハードディスク301dと、読出装置301eと、入出力インターフェース301fと、画像出力インターフェース301gと、通信インターフェース301iとにより構成されている。CPU301a、ROM301b、RAM301c、ハードディスク301d、読出装置301e、入出力インターフェース301f、画像出力インターフェース301gおよび通信インターフェース301iは、バス301hによって接続されている。
【0033】
CPU301aは、ROM301bに記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM301cにロードされたコンピュータプログラムを実行するために設けられている。ROM301bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されており、CPU301aに実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータなどが記録されている。
【0034】
RAM301cは、SRAMまたはDRAMなどによって構成されている。RAM301cは、ROM301bおよびハードディスク301dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU301aの作業領域として利用される。
【0035】
ハードディスク301dは、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムなど、CPU301aに実行させるための種々のコンピュータプログラムおよびそのコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。
【0036】
読出装置301eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、またはDVD−ROMドライブなどによって構成されており、可搬型記録媒体304などに記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。
【0037】
また、ハードディスク301dには、例えば、米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインターフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。
【0038】
入出力インターフェース301fは、例えば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェース、およびD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェースなどから構成されている。
【0039】
入出力インターフェース301fには、キーボードおよびマウスからなる入力デバイス303が接続されており、ユーザがその入力デバイス303を使用することにより、制御装置3にデータを入力することが可能である。また、入出力インターフェース301fには、プリンタなどからなる出力デバイス306が接続されている。
【0040】
通信インターフェース301iは、Ethernet(登録商標)インターフェースであり、制御装置3は、通信インターフェース301iにより、所定の通信プロトコル(TCP/IP)を使用してLANケーブルにより接続された測定装置2との間でデータの送受信が可能である。
【0041】
画像出力インターフェース301gは、LCDまたはCRTなどで構成された表示部302に接続されており、CPU301aから与えられた映像信号を表示部302に出力するようになっている。表示部302は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0042】
次に、図5に示されるフローチャートを用いて、本実施形態による細菌分析装置1のCPU208およびCPU301aによる処理手順について説明する。
【0043】
まず、CPU301aは、操作者からの測定開始指示があるまで待機する処理を実行し(ステップS11)、操作者から測定開始指示が入力されると(ステップS11においてYES)、測定装置2に測定開始信号を送信する(ステップS12)。
【0044】
一方、CPU208は、CPU301aからの測定開始信号の受信を待機する処理を実行し(ステップS21)、CPU301aからの測定開始信号を受信すると(ステップS21においてYES)、検体の測定処理を実行する(ステップS22)。
【0045】
この測定処理では、まず、検体分配部201が、検体を検体容器から吸引し、試料調製部202に供給する。次に、試料調製部202が、検体から吸引された検体と、図示しない試薬容器から吸引された試薬(希釈液および染色液)から測定試料を調製し、シース液とともに光学検出部203のシースフローセル203cに供給する。
【0046】
シースフローセル203cの内部を通過する測定試料を含む試料流に対して、発光部203aにより光が照射されると、測定試料に含まれる細菌によって、シースフローセル203cから前方散乱光、側方散乱光および側方蛍光が出射される。前方散乱光、側方散乱光および側方蛍光はそれぞれPD203f、PD203lおよびPMT203kによって受光される。
【0047】
PD203f、PD203lおよびPMT203kによって受光された光信号によって生成される電気信号は、それぞれアンプ203a、203bおよび203cによって増幅され、A/Dコンバータ205によってデジタル変換される。A/Dコンバータ205によってデジタル変換されたデジタル信号は、デジタル信号処理回路によって所定の波形処理が施され、メモリ207に記憶される。
【0048】
このメモリ207に記憶されるデジタル信号は、シースフローセル203cを細菌が通過する度に生じる前方散乱光および側方蛍光のパルス信号を含んでいる。そして、CPU208は、前方散乱光および側方蛍光のそれぞれについて、各パルス信号の高さを取得する。ここで、前方散乱光のパルス信号の高さは、シースフローセル203cを1つの細菌が通過したことによって生じた前方散乱光の強度を示しており、側方蛍光のパルス信号の高さは、同様にシースフローセル203cを1つの細菌が通過したことによって生じた側方蛍光の強度を示している。また、前方散乱光のパルス信号の高さは、細菌の大きさを反映しており、側方蛍光のパルス信号の高さは、細菌に含まれる核酸の染色度合いを反映している。
【0049】
そして、CPU208は、各パルス信号の高さに基づいて、シースフローセル203cを通過した各細菌についての前方散乱光強度および側方蛍光強度のデータ群を生成する。以下、このデータ群を測定データとよぶ。
【0050】
次に、CPU208はこの測定データをCPU301aへ送信する(ステップS23)。CPU301aは、測定開始信号送信後、CPU208からの測定データの受信を待機する処理を実行し(ステップS13)、測定データを受信した場合(ステップS13においてYES)、受信した測定データの分析処理を実行し(ステップS14)、分析処理の結果を表示部302に表示する(ステップS15)。ステップS14およびS15については後述する。
【0051】
一方、CPU208は、ステップS23のあと、シャットダウンを行うか否かを判定し(ステップS24)、シャットダウンを行う場合(ステップS24においてYES)、シャットダウンを実行し(ステップS25)、処理を終了する。シャットダウンを行わない場合(ステップS24においてNO)、再び測定開始信号の受信を待機する処理を行う(ステップS21)。
【0052】
また、CPU301aは、ステップS15のあと、シャットダウンを行うか否かを判定し(ステップS16)、シャットダウンを行う場合(ステップS16においてYES)、シャットダウンを実行し(ステップS17)、処理を終了する。シャットダウンを行わない場合(ステップS16においてNO)、再び操作者からの測定指示を待機する処理を実行する(ステップS11)。
【0053】
次に、ステップS14における分析処理について、図6に示すフローチャートを用いて説明する。
【0054】
まず、CPU301aはCPU208から送信された測定データを取得する(ステップS141)。
【0055】
次に、ステップS141で取得した測定データに基づくスキャッタグラムを作成する(ステップS142)。作成されるスキャッタグラムは、前方散乱光強度を縦軸とし、側方蛍光強度を横軸とする2次元スキャッタグラムである。この処理において、各細菌は、その前方散乱光強度および側方蛍光強度に応じて、スキャッタグラム上の所定位置にプロットされる。
【0056】
図7は、ステップS141の処理で取得した測定データに基づき、ステップS142の処理で作成されるスキャッタグラムの例示である。
【0057】
次に、CPU301aは、ステップS142で作成したスキャッタグラム中の複数の領域に含まれる細菌の数を、それぞれに領域について計数する処理を実行する(ステップS143)。
【0058】
この処理について、図8に示す模式図を用いて説明する。図8に示すように、スキャッタグラム中の複数の領域は、領域D0,D1,D2,D3・・・で示される。これらの領域D0,D1,D2,D3・・・は、スキャッタグラムの原点Oを中心とする仮想の円Aの半径方向d0、d1、d2、d3、d4・・・に分割された領域であり、かつ、ハッチング付で示され、原点Oを含む領域Bが除かれた領域である。
【0059】
また、領域D0,D1,D2,D3・・・は、角度X毎に分割されている。Xは、任意に定めることができ、例えば、1度に設定してもよいし、10度に設定してもよい。このようにして設定された複数の領域のそれぞれについて、CPU301aは、含まれている細菌を計数する。
【0060】
ここで、領域Bを除くのは、前方散乱光強度および側方蛍光強度が小さい領域では、前方散乱光強度および側方蛍光強度が大きい領域と比較して各領域D0,D1,D2,D3の範囲が狭いためである。すなわち、このような狭い領域を計数の範囲から除くことにより、より正確な細菌の計数が可能となる。
【0061】
次に、CPU301aは、度数分布データを生成する処理を実行する(ステップS144)。ここで生成される度数分布データは、各領域D0,D1,D2,D3・・・と、それぞれの領域に含まれる細菌の数とが対になったデータ群である。
【0062】
そして、CPU301aは、ステップS144で生成した度数分布データに基づいて、図9および図10に示すようなヒストグラム(度数分布図)を作成する(ステップS145)。このヒストグラムは、横軸が、各領域D0,D1,D2,D3・・・を分割している方向d0、d1、d2、d3、d4・・・のd0方向からの角度を示している。すなわち、横軸は、小さい方から順に、各領域D0,D1,D2,D3・・・が割り当てられおり、スキャッタグラムにおける領域の分布位置に対応する。一方、このヒストグラムの縦軸は、各領域D0,D1,D2,D3・・・に含まれる細菌数(すなわち、ステップS143で計数された細菌の数)を示している。
【0063】
そして、CPU301aは、ステップS145で作成されたヒストグラムに基づいて、領域を選択する処理を実行する(ステップS146)。具体的には、ステップS145で作成されたヒストグラムにおいて細菌数がピークとなっている領域を選択する。ここで、細菌数がピークとなっている領域とは、ヒストグラムの頂上であり、図8に示すスキャッタグラム上で両側に隣接する領域に含まれる細菌数よりも、含まれる細菌数が大きい領域が該当する。例えば、図9に示すヒストグラムでは、細菌数のピークはP1で示され、細菌数がピークP1となっている領域Dlが選択される。一方、図10に示すヒストグラムでは、細菌数のピークはP2およびP3で示され、細菌数がピークP2となっている領域Dmおよび細菌数がピークP3となっている領域Dnが選択される。
【0064】
なお、ここで選択されるピークは、1つに設定しておいてもよいし、複数に設定しておいてもよい。ピークを1つに設定する場合には、細菌の形態が1種類判定され、ピークを複数に設定する場合には、細菌の形態が複数判定されることとなる。
【0065】
次に、CPU301aは、ステップS146で選択された領域に基づいて、細菌の形態を判定する処理を実行する(ステップS147)。この処理では、選択された領域を分割している方向d0、d1、d2、d3、d4・・・のd0方向からの角度によって、細菌の形態が判定される。どの角度をどの細菌の形態に割り当てるかは、実験データに基づいて定めることが可能であるが、例えば、低角度領域(例えば、0度〜25度)を桿菌に割り当て、中角度領域(例えば、25度〜45度)を連鎖球菌に割り当て、高角度領域(例えば、45度〜80度)をブドウ球菌に割り当ててもよい。
【0066】
上記の割り当てを使用すると、例えば、図9に示すヒストグラムでは、選択された領域Dlを分割している方向のd0方向からの角度は、約40度であるので、検体には、連鎖球菌が含まれていると判定される。図10に示すヒストグラムでは、選択された領域Dmを分割している方向のd0方向からの角度は約10度であり、選択された領域Dnを分割している方向のd0方向からの角度は約60度であるので、検体には、桿菌とブドウ球菌とが含まれていると判定される。
【0067】
また、CPU301aは、S141で取得した測定データに基づいて、検体に含まれる細菌の総数を計数する(ステップS148)。
【0068】
このようにして計数および判定された細菌の総数および細菌の形態は、ステップS15(図5参照)において、図11に示す分析結果画面302に表示される。この分析結果画面302は、計数結果表示領域302aと、スキャッタグラム表示領域302bと、形態表示領域302cとを含んでいる。計数結果表示領域302aには、ステップS148で計数された細菌の総数302eが、他の分析項目の計数結果とともに表示される。スキャッタグラム表示領域302bには、ステップS142で作成されたスキャッタグラム302dが、他の分析項目のスキャッタグラムとともに表示される。形態表示領域302cには、ステップS147で判定された細菌の形態が表示される。図11に示す分析結果画面302は、細菌の形態が連鎖球菌であると判定された場合を示している。なお、細菌の形態が判定された場合、本実施形態のように、当該細菌の存在を示唆するような表示をしてもよいし、当該細菌の存在を断定するような表示をしてもよい。
【0069】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態による細菌分析装置について説明する。第2実施形態による細菌分析装置は、判定された形態に属する細菌を計数する点でのみ第1実施形態による細菌分析装置と異なり、他の点は同一である。
すなわち、第2実施形態による細菌分析装置においては、CPU301aが、ステップS148(図6参照)の後、ステップS147で判定された形態に応じて、図13に示すような、領域a1、a2、またはa3を設定する(図12のステップS149)。領域a1〜a3は、予めRAM301cやハードディスク301d等に記憶されていてもよいし、スキャッタグラム上の細菌の分布状態に応じてCPU301cが設定してもよい。CPU301aは、例えば、判定された形態が桿菌である場合には領域a1を設定し、判定された形態が連鎖球菌である場合には領域a2を設定し、判定された形態がブドウ球菌である場合には領域a3を設定する。なお、CPU301aは、判定された形態が複数ある場合には、それぞれの形態について領域を設定する。
【0070】
そして、CPU301aは、設定された領域内に含まれる細菌を計数する(ステップS150)。この計数結果は、所定の形態に属する細菌の数を示している。なお、CPU301aは、設定された領域が複数ある場合には、設定されたそれぞれの領域内に含まれる細菌を計数する。
このようにして計数された所定の形態に属する細菌の数は、ステップS15(図6参照)において、分析結果画面302(図11参照)に表示される。所定の形態に属する細菌の数は、計数結果表示領域302aに表示されてもよいし、形態表示領域302cに表示されてもよい。
【0071】
図14および15は、ステップS149における領域設定の変形例を示す図である。この変形例では、CPU301aは、ステップS145(図6参照)で得られたヒストグラム上に領域を設定する。例えば、図9に示すヒストグラムが得られた場合、CPU301aは、図14に示す境界b1およびb2を設定し、境界b1およびb2に挟まれた領域内の細菌を計数する。この計数結果は、ステップS147で判定された形態に属する細菌の数を示している。同様に、図10に示すヒストグラムが得られた場合、CPU301aは、図15に示す境界b3、b4およびb5を設定し、境界b3およびb4に挟まれた領域、および境界b4およびb5に挟まれた領域のそれぞれについて細菌を計数する。なお、境界b1〜b5は、固定の境界であってもよいし、得られたヒストグラムに応じて位置を変更してもよい。
【0072】
なお、上記第1および第2実施形態による細菌分析装置1は、領域D0,D1,D2・・・に領域Bは含まれていないが、本発明はこれに限定されるものではなく、領域D0,D1,D2・・・に領域Bを含んでいてもよい。
【0073】
また、上記第1および第2実施形態による細菌分析装置1は、細菌の形態として桿菌、連鎖球菌、およびブドウ球菌を判定しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、長桿菌などの他の形態の細菌を判定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1施形態による細菌分析装置を示した斜視図である。
【図2】図1に示した第1実施形態による細菌分析装置の測定装置の構成を示したブロック図である。
【図3】図1に示した第1実施形態による細菌分析装置の測定装置の光学検出部の構成を説明するための図である。
【図4】図1に示した第1実施形態による細菌分析装置の制御装置の構成を示したブロック図である。
【図5】図1に示した第1実施形態による細菌分析装置のCPU208およびCPU301aによる処理を示したフローチャートである。
【図6】図5に示したフローチャートにおけるステップS14の処理の詳細を示したフローチャートである。
【図7】図6に示したフローチャートにおけるステップS142で作成したスキャッタグラムの例示である。
【図8】図6に示したフローチャートにおけるステップS143の処理を説明するためのスキャッタグラムの模式図である。
【図9】図6に示したフローチャートにおけるステップS145において作成されるヒストグラムの例示である。
【図10】図6に示したフローチャートにおけるステップS145において作成されるヒストグラムの例示である。
【図11】図1に示した第1実施形態による細菌分析装置によって表示される分析結果画面を示す図である。
【図12】本発明の第2施形態による細菌分析装置のCPU301aによる処理を示したフローチャートである。
【図13】本発明の第2施形態による細菌分析装置による、形態毎の細菌計数のための領域設定を説明するためのスキャッタグラムの模式図である。
【図14】本発明の第2施形態による細菌分析装置による、形態毎の細菌計数のための領域設定を説明するためのヒストグラムの模式図である。
【図15】本発明の第2施形態による細菌分析装置による、形態毎の細菌計数のための領域設定を説明するためのヒストグラムの模式図である。
【符号の説明】
【0075】
1 細菌分析装置
2 測定装置
3 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬とを含む測定試料に光を照射する光源と、前記光源が前記測定試料に光を照射することによって生じる光を受光する受光部と、を備える検出部と、
前記受光部により受光した光による信号に基づいて、前記検体中に含まれる細菌の大きさに関する情報、および前記細菌によって生じる蛍光情報をパラメータとするスキャッタグラムを生成するためのスキャッタグラムデータを取得するスキャッタグラムデータ取得手段と、
前記スキャッタグラムデータ取得手段により取得されたスキャッタグラムデータに基づき、前記スキャッタグラム上の複数の領域に含まれる細菌の数を、それぞれの領域について取得する細菌数取得手段と、
前記細菌数取得手段によって取得されたそれぞれの領域における細菌の数に基づいて、前記検体に含まれる細菌の形態を判定する形態判定手段と、を備える細菌分析装置。
【請求項2】
前記細菌数取得手段は、前記スキャッタグラムの原点を中心とする円の半径方向に分割された複数の前記領域に含まれる細菌の数を、それぞれの領域について取得する、請求項1記載の細菌分析装置。
【請求項3】
前記領域は、前記スキャッタグラム上において、前記スキャッタグラムの原点を含む所定の領域が除かれた領域である、請求項1または2に記載の細菌分析装置。
【請求項4】
前記形態判定手段は、前記細菌数取得手段によって取得されたそれぞれの領域における細菌の数に基づいて、前記スキャッタグラムにおける前記領域の分布位置と細菌の数とをパラメータとする度数分布図を生成するための度数分布データを取得し、取得した前記度数分布データに基づいて領域を選択し、選択した領域の前記スキャッタグラムにおける分布位置に基づいて、前記検体に含まれる細菌の形態を判定する、請求項1乃至3のいずれかに記載の細菌分析装置。
【請求項5】
前記形態判定手段は、前記度数分布データに基づき、前記スキャッタグラム上で両側に隣接する領域に含まれる細菌の数よりも含まれる細菌の数が大きい領域を選択する、請求項4に記載の細菌分析装置。
【請求項6】
前記形態判定手段は、前記スキャッタグラム上で両側に隣接する領域に含まれる細菌の数よりも含まれる細菌の数が大きい領域を複数選択し、選択したそれぞれの領域に基づいて、検体に含まれる複数の細菌の形態を判定する、請求項5に記載の細菌分析装置。
【請求項7】
前記形態判定手段は、前記細菌数取得手段によって取得されたそれぞれの領域における細菌の数に基づいて、前記検体に含まれる細菌の複数の形態を判定する、請求項1に記載の細菌分析装置。
【請求項8】
前記形態判定手段によって判定された形態に属する細菌の数を取得する形態毎細菌数取得手段をさらに備える、請求項1乃至7のいずれかに記載の細菌分析装置。
【請求項9】
前記形態判定手段は、検体中に含まれる細菌に桿菌が含まれるか否かを判定する、請求項1乃至8のいずれかに記載の細菌分析装置。
【請求項10】
前記形態判定手段は、検体中に含まれる細菌に連鎖球菌が含まれるか否かを判定する、請求項1乃至9のいずれかに記載の細菌分析装置。
【請求項11】
前記形態判定手段は、検体中に含まれる細菌にブドウ球菌が含まれるか否かを判定する、請求項1乃至10のいずれかに記載の細菌分析装置。
【請求項12】
前記検体と蛍光試薬とを混合することにより、測定試料を調製する試料調製部をさらに備え、
前記受光部は、前記測定試料に光を照射することにより生じる散乱光を受光する散乱光受光部と、前記測定試料に光を照射することにより生じる蛍光を受光する蛍光受光部とを備える、請求項1乃至11のいずれかに記載の細菌分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−19557(P2010−19557A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177546(P2008−177546)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】