説明

終減速軸のための潤滑剤組成物

潤滑粘度の油、1種以上の分散剤、および1種以上のリン化合物を含有する、終減速軸油のための潤滑剤組成物であって、100℃におけるこの潤滑剤組成物の動粘性率は、10mm/sより大きく、そしてこの分散剤の重量に基づく量は、このリン化合物、および必要に応じて存在し得る任意の硫黄化合物の重量に基づく量より大きい。本発明による潤滑組成物を含有する潤滑剤を用いて、歯車を潤滑させるための方法もまた、提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本願は、2005年12月15日に出願された、米国出願番号60/750,721に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、活性硫黄を含まず、リン含有化合物、多官能性分散剤を高粘度の潤滑組成物中に含有する、終減速伝動システムにおいて使用するための潤滑剤添加剤処方物に関する。
【背景技術】
【0003】
幹線道路用の自動車および/または幹線道路外用の自動車の車輪は、終減速軸ユニットによって駆動され得る。この終減速軸ユニットは、カウンターシャフトから受けたトルクを、終減速ユニットの歯車ハウジング内の歯車セットによってこれらの車輪の間に分配する。この終減速機内の歯車は、スパイラル傘歯車、ハイポイド歯車、平歯車およびはすば歯車、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない型の歯車であり得る。一例において、歯車の配置は、異なる歯車配置であり得る。これらの歯車は、潤滑を必要とする。
【0004】
歯車の潤滑剤の主要な機能は、磨耗、スカフィングおよび微細なピッチングに対する充分な保護を提供し、そしてシール、ゴムおよび複合材料の能力を提供し、同時に歯車設備の耐用寿命の間、認容可能な酸化安定性および清浄性を提供することである。従って、高い動力スループットおよび作動温度での作動が可能であり、一方で、シール、ゴムおよび複合材料の能力を提供する、歯車潤滑組成物が必要とされている。
【0005】
特許文献1は、(i)油溶性の硫黄含有極圧剤または磨耗防止剤、(ii)リンの酸の部分エステルの少なくとも1種の油溶性アミン塩、(iii)N−H結合を有するスクシンイミド分散剤;ならびに(iv)窒素含有無灰分散剤、カルボン酸のアミン塩およびリンの五価の酸の三ヒドロカルビルエステルのうちの少なくとも1つを含有する、歯車油組成物を開示する。1つの実施形態において、この歯車油組成物は、金属含有添加剤成分を本質的に欠く。
【0006】
特許文献2は、終減速軸ユニットにおいて使用するための歯車油組成物を開示し、この組成物は、(i)鉱油、(ii)ビニル芳香族−ジエンコポリマー、オレフィンコポリマーおよびこれらの混合物、(iii)100℃において少なくとも40mm/sの動粘性率を有する少なくとも1種のポリαオレフィン、ならびに(iv)歯車添加剤パッケージを含有する。
【特許文献1】米国特許第5,942,470号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1191090号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特に終減速軸において使用するための、ゴム、シールおよび複合材料の能力を提供し、同時に歯車を潤滑させる、処方物中に活性硫黄が存在しない高粘度の潤滑組成物を提供するという課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、終減速伝動システムにおいて使用するために適切な潤滑剤組成物を提供し、この組成物は、
(a)潤滑粘度の油;
(b)1種以上の分散剤;および
(c)1種以上のリン化合物
を含有し、
この潤滑剤組成物の100℃における動粘性率は、10mm/sより大きく;
この分散剤の重量に基づく量は、リン化合物および必要に応じて存在し得る任意の硫黄化合物の重量に基づく量より大きい。
【0009】
本発明は、終減速伝動システムを潤滑させるための方法をさらに提供し、この方法は、
(a)これらの歯車に、
(i)潤滑粘度の油;
(ii)1種以上の分散剤;および
(iii)1種以上のリン化合物
を供給する工程を包含し、
この潤滑剤組成物の100℃における動粘性率は、10mm/sより大きく;そして
この分散剤の重量に基づく量は、リン化合物および必要に応じて存在し得る任意の硫黄化合物の重量に基づく量より大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
種々の好ましい特徴および実施形態が、非限定的な例示によって以下に記載される。
【0011】
本発明の、終減速軸のために有用な潤滑剤組成物は、潤滑粘度の油、1種以上の清浄剤、およびリン化合物を含有する。
【0012】
(Lの油)
本発明の1つの成分は、潤滑粘度の油である。1つの実施形態において、この潤滑組成物は、潤滑粘度の天然油または合成油、未精製油、精製油、および再精製油を水素添加、水素化、水素処理(hydrofinishing)することにより誘導される油、あるいはこれらの混合物を含有する。
【0013】
潤滑粘度の油はまた、American Petroleum Institute (API) Base Oil Interchangeability Guidelinesに詳述されるように定義され得る。いくつかの実施形態において、潤滑粘度の油は、APIグループI、グループII、グループIII、グループIV、グループV、グループVIまたはこれらの混合物、あるいはAPIグループI、グループII、グループIIIまたはこれらの混合物を含有する。潤滑粘度の油が、APIグループII、グループIII、グループIV、グループVまたはグループVIの油である場合、この潤滑油の最大で40重量%まで、または最大で5重量%までが、APIグループIの油であり得る。
【0014】
潤滑粘度の油は、天然油であっても、合成油であっても、これらの混合物であってもよい。有用な天然油としては、動物油および植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)、ならびに鉱物潤滑油(例えば、液体石油、およびパラフィン系、ナフテン系、またはパラフィン系とナフテン系との混合物の溶媒処理または酸処理された鉱物潤滑油)が挙げられる。炭または頁岩から誘導される油もまた有用である。合成潤滑油としては、炭化水素油(例えば、重合オレフィンおよび相互重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマーなど));ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)などおよびこれらの混合物;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)ベンゼンなど);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェニルなど);アルキル化ジフェニルエーテル、ならびにこれらの誘導体、アナログおよびホモログなどが挙げられる。
【0015】
アルキレンオキシドポリマーおよびアルキレンオキシドインターポリマー、ならびにそれらの末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化などにより修飾された誘導体は、使用され得る公知の合成潤滑油の別のクラスを構成する。これらは、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合により調製される油、これらのポリオキシアルキレンポリマーのアルキルエーテルおよびアリールエーテル(例えば、約1000の平均分子量を有するメチル−ポリイソプロピレングリコールエーテル、約500〜1000の分子量を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、約1000〜1500の分子量を有するポリプロピレングリコールのジエチルエーテルなど)、あるいはこれらのモノカルボン酸エステルおよびポリカルボン酸エステル(例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、C3〜8の脂肪酸の混合エステル、またはカルボン酸ジエステル)により例示される。
【0016】
使用され得る合成潤滑油の別の適切なクラスは、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)の、種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)とのエステルを含む。これらのエステルの具体的な例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコールと2モルの2−エチルヘキサン酸とを反応させることにより形成される複雑なエステルなどが挙げられる。
【0017】
合成油として有用なエステルとしてはまた、C5〜C22のモノカルボン酸とポリオールとから作製されるエステル、およびポリオールエステル(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトールなど)が挙げられる。
【0018】
潤滑粘度の油は、ポリ−α−オレフィン(PAO)であり得る。代表的に、PAOは、4個〜30個、または4個〜20個、または6個〜16個の炭素原子を有するモノマーから誘導される。有用なPAOの例としては、オクテン、デセン、これらの混合物などから誘導されるPAOが挙げられる。これらのPAOは、一般に、100℃において、2mm/s(cSt)〜20mm/s、または3mm/s〜15mm/s、または4mm/s〜12mm/s、または5mm/s〜10mm/s(cSt)の粘度を有し得る。有用なPAOの例としては、100℃で10mm/s(cSt)のポリ−α−オレフィン、100℃で12mm/s(cSt)のポリ−α−オレフィン、およびこれらの混合物が挙げられる。鉱油と上記PAOのうちの1種以上との混合物が、使用され得る。
【0019】
本明細書中で上に開示された型の、天然油または合成油のいずれかの未精製油、精製油、および再精製油(ならびにこれらのいずれかのうちの2種以上の混合物)が、本発明の潤滑剤において使用され得る。未精製油とは、さらなる精製処理なしで天然供給源または合成供給源から直接得られる油である。例えば、さらなる処理なしで使用される、レトルト操作から直接得られる頁岩油、一次蒸留から直接得られる石油、またはエステル化プロセスから直接得られるエステル油は、未精製油である。精製油は、これらが1以上の精製工程でさらに処理されて1以上の特性を改善されていることを除いて、未精製油と類似である。多くのこのような精製技術が当業者に公知であり、例えば、溶媒抽出、二次蒸留、酸抽出、塩基抽出、濾過、パーコレーションなどである。再精製油は、すでに使用された精製油に適用される、精製油を得るために使用されるプロセスと類似のプロセスによって得られる。このような再精製油はまた、再生油または再処理油として公知であり、そしてしばしば、使用済み添加剤および油分解生成物の除去のための技術によって、さらに処理される。
【0020】
さらに、液体合成手順に対してフィッシャー−トロプシュガスにより調製された油が公知であり、使用され得る。
【0021】
本発明の潤滑粘度の油は、潤滑剤組成物の約50重量%より多い量、または約60重量%より多い量、または約70重量%より多い量、または約80重量%より多い量、または約90重量%より多い量で存在し得る。
【0022】
(潤滑剤組成物)
潤滑油組成物は、1種以上の潤滑粘度の油(これは一般に、多量に(すなわち、約50重量%より多い量で)存在する)と、必要とされる添加剤とからなり得る。特定の実施形態において、油と添加剤との組み合わせである潤滑組成物は、100℃において、10mm/sより大きいか、12mm/sより大きいか、15mm/sより大きいか、または20mm/sより大きい動粘性率を有し得る。
【0023】
(分散剤)
本発明の分散剤は、周知であり、そしてスクシンイミド分散剤(例えば、N置換された長鎖アルケニルスクシンイミド)、マンニッヒ分散剤、エステル含有分散剤、脂肪ヒドロカルビルモノカルボン酸アシル化剤とアミンまたはアンモニアとの縮合生成物、アルキルアミノフェノール分散剤、ヒドロカルビル−アミン分散剤、ポリエーテル分散剤、ポリエーテルアミン分散剤、分散剤機能を有する粘度調整剤(例えば、分散剤機能を有するポリマー性粘度指数調整剤(VM))、あるいはこれらの混合物が挙げられ得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、N置換された長鎖アルケニルスクシンイミドは、平均して少なくとも8個、または30個、または35個から、350個まで、または200個まで、または100個までの炭素原子を含む。1つの実施形態において、長鎖アルケニル基は、少なくとも500の
【0025】
【化1】

(数平均分子量)によって特徴付けられるポリアルケンから誘導される。一般に、このポリアルケンは、500、または700、または800、または900から、5000まで、または2500まで、または2000まで、または1500もしくは1200までの
【0026】
【化2】

により特徴付けられる。1つの実施形態において、長鎖アルケニル基は、ポリオレフィンから誘導される。これらのポリオレフィンは、2個〜10個の炭素原子を有するモノオレフィンを含むモノマー(例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、および1−デセン)から誘導され得る。特に有用なモノオレフィン供給源は、35重量%〜75重量%のブテン含有量および30重量%〜60重量%のイソブテン含有量を有する、C精油所ストリームである。有用なポリオレフィンとしては、140〜5000、別の例においては、400〜2500、そしてさらなる例においては、140または500〜1500の数平均分子量を有するポリイソブチレンが挙げられる。このポリイソブチレンは、5%〜69%、第二の例においては50%〜69%、そして第三の例においては50%〜95%のビニリデン二重結合含有量を有し得る。
【0027】
スクシンイミド分散剤およびそれらの調製方法は、米国特許第4,234,435号および同第3,172,892号により完全に記載されている。
【0028】
別のクラスの分散剤は、エステル含有分散剤であり、これらは代表的に、高分子量のエステルである。これらの物質は、米国特許第3,381,022号により詳細に記載されている。
【0029】
マンニッヒ分散剤とは、ヒドロカルビル置換されたフェノールと、アルデヒドと、アミンまたはアンモニアとの反応生成物である。このヒドロカルビル置換されたフェノールのヒドロカルビル置換基は、10個〜400個の炭素原子、別の例においては30個〜180個の炭素原子、そしてさらなる例においては10個または40個〜110個の炭素原子を有し得る。このヒドロカルビル置換基は、オレフィンから誘導されてもポリオレフィンから誘導されてもよい。有用なオレフィンとしては、市販されているα−オレフィン(例えば、1−デセン)が挙げられる。
【0030】
ヒドロカルビル−アミン分散剤とは、ヒドロカルビル置換されたアミンである。このヒドロカルビル置換されたアミンは、米国特許第5,407,453号に記載されるように、塩素化されたオレフィンまたはポリオレフィン(例えば、塩素化ポリイソブチレン)と、アミン(例えば、エチレンジアミン)との混合物を、塩基(例えば、炭酸ナトリウム)の存在下で加熱することによって、形成され得る。
【0031】
ポリエーテル分散剤としては、ポリエーテルアミン、ポリエーテルアミド、ポリエーテルカルバメート、およびポリエーテルアルコールが挙げられる。ポリエーテルアミンおよびそれらの調製方法は、米国特許第6,458,172号の第4欄および第5欄により詳細に記載されている。
【0032】
別の実施形態において、分散剤は、処理済み分散剤であり得る。処理済み分散剤は、カルボン酸分散剤、アミン分散剤またはマンニッヒ分散剤を、試薬(例えば、尿素、チオ尿素、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換された無水コハク酸、ニトリル、エポキシド、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸(「ホウ酸化分散剤」を得るため))、リン化合物(例えば、リンの酸もしくは無水物)、または2,5−ジメルカプトチアジアゾール(DMTD))と反応させることにより得られ得る。これらは、以下の米国特許に記載されている:第3,200,107号、第3,282,955号、第3,367,943号、第3,513,093号、第3,639,242号、第3,649,659号、第3,442,808号、第3,455,832号、第3,579,450号、第3,600,372号、第3,702,757号、および第3,708,422号。
【0033】
1つの実施形態において、分散剤の重量に基づく量は、リン化合物および必要に応じて存在し得る任意の硫黄化合物の重量に基づく量より大きい。
【0034】
分散剤の重量が、リン化合物および任意の硫黄化合物の重量に基づく量より大きいか否かを決定する目的で、これらの成分は、油なしの状態に基づいて考慮される。さらに、処理済みであるか、またはリン化合物もしくは硫黄化合物と塩形成もしくは錯化している任意の分散剤は、個々の構成成分として処理される。すなわち、その分子の分散剤部分は、分散剤と合計され、そしてリンまたは硫黄の後処理剤、塩形成剤または錯化剤は、リン化合物および硫黄化合物と合計される。
【0035】
本発明の分散剤は、潤滑剤組成物の約0.5重量%〜約8.0重量%、または約1.0重量%〜約5.0重量%、または約2重量%〜約3重量%の量で存在し得る。
【0036】
(リン化合物)
本発明の別の成分は、リン化合物であり、これには、リンの酸、リンの酸の塩、リンの酸のエステル、またはこれらの混合物が挙げられる。リンの酸またはエステルは、式(RX)(RX)P(X)のものまたはその塩であり得、ここで各Xは独立して、酸素原子または硫黄原子であり、nは、0または1であり、mは、0または1であり、m+nは、1または2であり、そしてR-、R、およびRは、水素またはヒドロカルビル基であり、そして好ましくは、R、R、またはRのうちの少なくとも1つは、水素である。従って、この成分は、リンの酸およびリン酸、チオリンの酸およびチオリン酸、ならびに亜リン酸エステル、リン酸エステル、チオ亜リン酸エステル、およびチオリン酸エステルを含む。これらの物質のうちの特定のものは、互変異性形態で存在し得ること、およびこのような互変異性体の全ては、上記式により包含され、本発明の範囲内に含まれることが意図されることが、留意される。例えば、リンの酸および特定の亜リン酸エステルは、水素の位置のみが異なる少なくとも2つの様式:
【0037】
【化3】

で書かれ得る。これらの構造の各々が、本発明によって包含されることが意図される。
【0038】
リン含有酸は、少なくとも1つのホスフェート、ホスホネート、ホスフィネートまたはホスフィンオキシドであり得る。これらの五価のリンの誘導体は、式:
【0039】
【化4】

により表され得、この式において、R、RおよびRは、上で定義されたとおりである。リン含有酸は、少なくとも1つのホスファイト、ホスホナイト、ホスフィナイト、またはホスフィンであり得る。これらの三価のリンの誘導体は、式:
【0040】
【化5】

によって表され得、この式において、R、RおよびRは、上で定義されたとおりである。一般に、R、RおよびRにおける炭素原子の総数は、少なくとも8個であり、そして1つの実施形態においては少なくとも12個であり、そして1つの実施形態においては少なくとも16個である。有用なR基、R基およびR基の例としては、水素、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソオクチル基、デシル基、ドデシル基、オレイル基、C18アルキル基、エイコシル基、2−ペンテニル基、ドデセニル基、フェニル基、ナフチル基、アルキルフェニル基、アルキルナフチル基、フェニルアルキル基、ナフチルアルキル基、アルキルフェニルアルキル基、およびアルキルナフチルアルキル基が挙げられる。別の実施形態において、R基、R基およびR基は、フェニルである。
【0041】
1つの実施形態において、上記構造におけるX原子のうちの少なくとも2個が酸素であり、その結果、この構造は、(RO)(RO)P(X)となり、そして別の実施形態においては、(RO)(RO)P(X)Hとなる。この構造は、例えば、R、R、およびRが水素である場合、リン酸に対応し得る。リン酸は、その酸自体(HPO)およびそれに等価な他の形態(例えば、ピロリン酸、および85%リン酸(水性)を含むリン酸の無水物(これは、普通に入手可能な市販等級の物質である))として存在する。これらの式はまた、RおよびRのうちの一方または他方がそれぞれアルキルであり、そしてR-が水素である場合、亜リン酸水素モノアルキルまたは亜リン酸水素ジアルキル(例えば、亜リン酸水素ジブチル(亜リン酸エステル))に対応し得るか、あるいはR、R、およびRの各々がアルキルである場合、亜リン酸トリアルキルエステルに対応し得、各場合において、nは0であり、mは1であり、そして残りのXはOである。この構造は、nおよびmが各々1である場合、リン酸または関連する物質に対応する。例えば、X原子のうちの1つが硫黄であり、そしてR、R、およびRのうちの1個、2個、または3個がそれぞれアルキルである場合、リン酸エステル(例えば、モノチオリン酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、またはトリアルキルエステル)であり得る。
【0042】
リン酸およびリンの酸は、市販されている周知の物品である。チオリン酸およびチオリンの酸は、同様に周知であり、そしてリン化合物と硫黄元素または他の硫黄供給源との反応によって、調製される。チオリンの酸を調製するためのプロセスは、Organic Phosphorus Compounds,第5巻,第110頁〜第111頁,G.M.Kosolapoffら,1973に詳細に報告されている。
【0043】
上記リンの酸の塩もまた、周知である。塩としては、アンモニウム塩およびアミン塩、ならびに金属塩が挙げられる。亜鉛塩(例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛)は、特定の用途において有用である。本発明の1つの実施形態において、亜鉛含有量は、0.05重量%未満、または0.02重量%未満、または0.01重量%未満である。
【0044】
本発明のリン含有量は、潤滑剤組成物の約0.001重量%〜約0.2重量%、または約0.005重量%〜約0.15重量%、または約0.01重量%〜約0.12重量%の量であり得る。1つの実施形態において、潤滑剤組成物に上記レベルのリン含有量を付与するために必要とされるリン化合物の量は、この潤滑剤組成物の約0.01重量%〜約2重量%、または約0.1重量%〜約1.5重量%であり得る。
【0045】
(ジメルカプトチアジアゾール)
本発明の潤滑剤組成物は、ジメルカプトチアジアゾールをさらに含有し得る。1つの実施形態において、上記腐食防止剤は、ジメルカプトチアジアゾールまたはジメルカプトチアジアゾール誘導体である。適切なチアジアゾールの例としては、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールまたはヒドロカルビル置換された2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールまたはヒドロカルビルチオ置換された2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールが挙げられる。いくつかの実施形態において、ヒドロカルビル置換基上の炭素原子の数は、1個〜30個、2個〜25個、4個〜20個、または6個〜16個を含む。適切な2,5−ビス(アルキル−ジチオ)−1,3,4−チアジアゾールの例としては、2,5−ビス(tert−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert-−デシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert−ウンデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert−ドデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert−トリデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert−テトラデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert−ペンタ-デシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert−ヘキサデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert−ヘプタデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert−オクタデシル-ジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert−ノナデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールまたは2,5−ビス(tert−エイコシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールが挙げられる。さらに、ジメルカプトチアジアゾールまたはその誘導体は、油溶性分散剤とジメルカプトチアジアゾールとの組み合わせによって提供され得る。別の実施形態において、上記腐食防止剤は、ホルムアルデヒドを使用して2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(このチアジアゾールは、インサイチュで生成する)とカップリングされたヘプチルフェノール;20%油、17.75%S、5.5%Nである。
【0046】
1つの実施形態において、本発明のジメルカプトチアジアゾールは、潤滑剤組成物の約0.05重量%〜約8.0重量%、または約0.1重量%〜約4.0重量%、または約0.15重量%〜約2.0重量%の量で存在し得る。
【0047】
(摩擦調整剤)
上記潤滑剤組成物は、摩擦調整剤をさらに含有し得る。摩擦調整剤は、当業者に周知である。摩擦調整剤の有用なリストは、米国特許第4,792,410号に含まれている。米国特許第5,110,488号は、摩擦調整剤として有用な、脂肪酸の金属塩、特に、亜鉛塩を開示する。摩擦調整剤のリストは、以下を含む:ホウ酸化脂肪エポキシド、脂肪エポキシド、ホウ酸化アルコキシ化脂肪アミン、アルコキシ化脂肪アミン、脂肪アミン、ホウ酸化グリセロールエステル、ポリオールエステル、グリセロールエステル、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、脂肪イミダゾリン、カルボン酸とポリアルキレン−ポリアミンとの縮合生成物、硫化オレフィン、リン酸の部分エステルのアミン塩、亜リン酸ジアルキル、サリチル酸アルキルの金属塩、リン酸長鎖アルキルのエステル、長鎖アミノエーテルおよびにそのアルコキシ化バージョン、長鎖アルコキシ化アルコール、有機モリブデン化合物、またはこれらの混合物。
【0048】
これらの型の摩擦調整剤の各々の代表例が公知であり、そして市販されている。例えば、ホウ酸化脂肪エポキシドは、カナダ国特許第1,188,704号から公知である。これらの油溶性ホウ素含有組成物は、80℃〜250℃の温度で、ホウ酸または三酸化ホウ素を、式:
【0049】
【化6】

を有する少なくとも1種の脂肪エポキシドと反応させることにより調製される。この式において、R、R、RおよびRの各々は、水素または脂肪族基であるか、またはこれらのうちの任意の2個が、これらが結合するエポキシ炭素原子と一緒になって、環式基を形成する。この脂肪エポキシドは、好ましくは、少なくとも8個の炭素原子を含む。
【0050】
これらのホウ酸化脂肪エポキシドは、2種の物質の反応を包含するその調製方法によって特徴付けられ得る。試薬Aは、三酸化ホウ素または種々の形態のホウ酸のいずれか(メタホウ酸(HBO)、オルトホウ酸(HBO)およびテトラホウ酸(H)が挙げられる)であり得る。ホウ酸、および特に、オルトホウ酸が好ましい。試薬Bは、上記式を有する少なくとも1種の脂肪エポキシドであり得る。この式において、R基の各々は、最も頻繁には、水素または脂肪族基であり、少なくとも1つは、少なくとも6個の炭素原子を含むヒドロカルビル基または脂肪族基である。試薬A対試薬Bのモル比は、一般に、1:0.25〜1:4である。1:1〜1:3の比が好ましく、約1:2が、特に好ましい比である。ホウ酸化脂肪エポキシドは、単にこれらの試薬をブレンドし、そして80℃〜250℃、好ましくは100℃〜200℃の温度で、反応が起こるために充分な時間にわたって加熱することによって、調製され得る。所望であれば、この反応は、実質的に不活性な、通常は液体である有機希釈剤の存在下で行われ得る。この反応の間、水が発生し、蒸留により除去され得る。
【0051】
非ホウ酸化脂肪エポキシド(上記「試薬B」に対応する)もまた、摩擦調整剤として有用である。
【0052】
ホウ酸化アミンは、一般に、米国特許第4,622,158号から公知である。ホウ酸化アミン摩擦調整剤(ホウ酸化アルコキシ化脂肪アミンが挙げられる)は、上記のようなホウ素化合物と、対応するアミンとの反応によって、好都合に調製される。このアミンは、単純な脂肪アミンであっても、ヒドロキシ含有第三級アミンであってもよい。ホウ酸化アミンは、上記のようなホウ素反応物質をアミン反応物質に添加し、そして得られた混合物を50℃〜300℃、好ましくは100℃〜250℃または150℃〜230℃で、攪拌しながら加熱することによって調製され得る。この反応は、副生成物である水がこの反応混合物から発生するのが止み、この反応の完了を示すまで、続けられる。
【0053】
ホウ酸化アミンを調製する際に有用なアミンのうちでも、商標「ETHOMEEN」により公知であり、Akzo Nobelから入手可能な、市販のアルコキシ化脂肪アミンである。これらのETHOMEENTM材料の代表的な例は、ETHOMEENTM C/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]−ココ−アミン);ETHOMEENTM C/20(ポリオキシエチレン-[10]ココアミン);ETHOMEENTM S/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]ダイズアミン);ETHOMEENTM T/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]−獣脂アミン);ETHOMEENTM T/15(ポリオキシエチレン−[5]獣脂アミン);ETHOMEENTM 0/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]オレイル−アミン);ETHOMEENTM 18/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]−オクタデシルアミン);およびETHOMEENTM 18/25(ポリオキシエチル−エン[15]−オクタデシルアミン)である。脂肪アミンおよびエトキシ化脂肪アミンはまた、米国特許第4,741,848号に記載されている。
【0054】
アルコキシ化脂肪アミンおよび脂肪アミン自体(例えば、オレイルアミン)は、一般に、本発明における摩擦調整剤として有用であり得る。このようなアミンは、市販されている。
【0055】
1つの実施形態において、摩擦調整剤は、脂肪酸とアミンまたはその混合物との縮合生成物であり得る。このアミンは、ポリアミンであってもモノアミンであってもよい。脂肪酸とアミンとの縮合がモノアミンである場合、その生成物は、アミドエステルであり得る。
【0056】
モノアミンの例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、およびドデシルアミンが挙げられる。第二級モノアミンの例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、およびエチルヘキシルアミンが挙げられる。モノアミンはまた、1個〜6個または1個〜4個のヒドロキシル基を含むアミノアルコールであり得る。アミノアルコールの例としては、トリ−(ヒドロキシプロピル)アミン、トリス−(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)−エチレンジアミン、およびN,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミンが挙げられる。
【0057】
ポリアミンは、非環式であっても環式であってもよい。1つの実施形態において、これらのポリアミンは、エチレンポリアミン、プロピレンポリアミン、ブチレンポリアミンおよびこれらの混合物からなる群より選択されるアルキレンポリアミンであり得る。プロピレンポリアミンの例としては、プロピレンジアミンおよびジプロピレントリアミンが挙げられ得る。
【0058】
1つの実施形態において、エチレンポリアミンは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−(2−アミノエチル)−N’−[2−[(2−アミノエチル)アミノ]エチル]−1,2−エタンジアミン、ポリアミン蒸留器ボトムスおよびこれらの混合物からなる群より選択される。
【0059】
1つの実施形態において、脂肪酸は、ポリアミンと縮合され得る。代表的に、その縮合生成物は、ヒドロカルビルアミド、ヒドロカルビルイミダゾリンおよびこれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物であり得る。1つの実施形態において、その縮合生成物は、ヒドロカルビルイミダゾリンである。別の実施形態において、その縮合生成物は、ヒドロカルビルアミドである。なお別の実施形態において、その縮合生成物は、ヒドロカルビルイミダゾリンとヒドロカルビルアミドとの混合物である。1つの実施形態において、その縮合生成物は、ヒドロカルビルイミダゾリンとヒドロカルビルアミドとの混合物である。
【0060】
脂肪酸は、ヒドロカルビルカルボン酸から誘導され得る。この脂肪酸のヒドロカルビル基は、代表的に、8個以上、10個以上、13個以上または14個以上の炭素原子を含む(カルボキシ基の炭素を含む)。脂肪酸上に存在する炭素原子の数は、代表的に、8個〜30個、12個〜24個または16個〜18個の範囲である。他の適切なカルボン酸としては、ポリカルボン酸もしくはカルボン酸、または2個〜4個(例えば、2個)のカルボニル基を有する酸無水物が挙げられ得る。ポリカルボン酸としては、コハク酸および無水物、ならびに不飽和モノカルボン酸と不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸およびイタコン酸)とのディールス−アルダー反応生成物が挙げられ得る。いくつかの実施形態において、脂肪カルボン酸は、8個〜30個、10個〜26個または12個〜24個の炭素原子を含む脂肪モノカルボン酸である。
【0061】
適切な脂肪酸の例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸、エイコサン酸(eicosic acid)、およびトール油酸が挙げられ得る。
【0062】
グリセロールのホウ酸化脂肪酸エステルと非ホウ酸化脂肪酸エステルとの両方が、摩擦調整剤として使用され得る。グリセロールのホウ酸化脂肪酸エステルは、グリセロールの脂肪酸エステルをホウ酸と一緒に、反応水を除去しながら煮沸することによって調製される。通常、各ホウ素が反応混合物中に存在する1.5個〜2.5個のヒドロキシル基と反応するために充分なホウ素が存在する。この反応は、60℃〜135℃の範囲の温度で、任意の適切な有機溶媒(例えば、メタノール、ベンゼン、キシレン、トルエン、または油)の存在下または非存在下で、実施され得る。
【0063】
グリセロールの脂肪酸エステル自体は、当該分野において周知である種々の方法によって調製され得る。これらのエステルのうちの多く(例えば、モノオレイン酸グリセロールおよび獣脂酸グリセロール)は、商業規模で製造される。有用なエステルは、油溶性であり、そして通常、C8〜C22の脂肪酸またはその混合物(例えば、天然産物中に見出され、以下により詳細に記載される)から調製される。グリセロールの脂肪酸モノエステルが、通常使用されるが、モノエステルとジエステルとの混合物もまた使用され得る。例えば、市販のモノオレイン酸グリセロールは、45重量%〜55重量%のモノエステルおよび55重量%〜45重量%のジエステルの混合物を含有し得る。
【0064】
脂肪酸は、上記グリセロールエステルを調製する際に使用され得る。脂肪酸はまた、それらの金属塩、アミド、およびイミダゾリンを調製する際に使用され得、これらの任意のものもまた、摩擦調整剤として使用され得る。通常使用される脂肪酸は、6個〜24個の炭素原子、好ましくは、8個〜18個の炭素原子を含む脂肪酸である。これらの酸は、分枝鎖であっても直鎖であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。適切な酸としては、2−エチルヘキサン酸、デカン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、ラウリン酸、およびリノレン酸、ならびに天然産物(獣脂、パーム油、オリーブ油、落花生油、トウモロコシ油、および牛脚油)由来の酸が挙げられる。特に好ましい酸は、オレイン酸である。通常使用される金属塩としては、亜鉛塩およびカルシウム塩が挙げられる。例は、オーバーベース化カルシウム塩および塩基性オレイン酸−亜鉛塩錯体(これは、一般式ZnOleateOにより表され得る)である。通常使用されるアミドは、アンモニアまたは第一級アミンもしくは第二級アミン(例えば、ジエチルアミンおよびジエタノールアミン)との縮合により調製されるアミドである。脂肪イミダゾリンは、酸とジアミンまたはポリアミン(例えば、ポリエチレンポリアミン)との環状縮合生成物である。これらのイミダゾリンは、一般に、構造:
【0065】
【化7】

によって表される。この構造において、Rは、アルキル基であり、そしてR’は、水素またはヒドロカルビル基もしくは置換されたヒドロカルビル基(その一部として−(CHCHNH)−を含み得る)である。1つの実施形態において、摩擦調整剤は、C8〜C24の脂肪酸と、ポリアルキレンポリアミンとの縮合生成物、特に、イソステアリン酸とテトラエチレンペンタミンとの生成物である。カルボン酸とポリアルキレンアミンとの縮合生成物は、一般に、イミダゾリンまたはアミドであり得る。
【0066】
硫化オレフィンは、摩擦調整剤として使用される周知の市販の物質である。特に通常使用される硫化オレフィンは、米国特許第4,957,651号および同第4,959,168号の詳細な教示に従って調製される硫化オレフィンである。これらの特許に記載されるのは、(1)少なくとも1種の多価アルコールの脂肪酸エステル、(2)少なくとも1種の脂肪酸、(3)少なくとも1種のオレフィン、および(4)少なくとも1種の一価アルコールの脂肪酸エステルからなる群より選択される2種以上の反応物質の、同時に硫化された(cosulfurized)混合物である。
【0067】
反応物質(3)(オレフィン成分)は、少なくとも1種のオレフィンを含む。このオレフィンは、代表的に、脂肪族オレフィンであり、通常、4個〜40個の炭素原子、好ましくは、8個〜36個の炭素原子を含む。末端オレフィン、またはα−オレフィンが、通常使用され、特に、12個〜20個の炭素原子を有するものが使用される。これらのオレフィンの混合物が市販されており、そしてこのような混合物は、本発明において使用されることが企図される。
【0068】
上記反応物質のうちの2種以上の同時に硫化された混合物は、適切な反応物質の混合物を硫黄の供給源と反応させることによって調製される。硫化されるべき混合物は、10重量部〜90重量部の反応物質(1)、または0.1重量部〜15重量部の反応物質(2);または10重量部〜90重量部、頻繁には15重量部〜60重量部、より頻繁には25重量部〜35重量部の反応物質(3)、または10重量部〜90重量部の反応物質(4)を含有し得る。この混合物は、反応物質(3)と、反応物質(1)、(2)および(4)として識別される反応物質の群のうちの少なくとも1種の他のメンバーとを含有する。この硫化反応は、一般に、高温で、攪拌しながら、必要に応じて不活性雰囲気中で、そして不活性溶媒の存在下で行われる。このプロセスにおいて有用な硫化剤としては、硫黄元素(これが好ましい)、硫化水素、ハロゲン化硫黄と硫化ナトリウム、および硫化水素と硫黄または二酸化硫黄との混合物が挙げられる。代表的に、1モルのオレフィン結合あたり、頻繁には0.5モル〜3モルの硫黄が使用される。
【0069】
本発明において使用するための別の型の摩擦調整剤は、リン酸の部分エステルのアミン塩であり得る。これに関する有用なアミンは、第三級脂肪族第一級アミン(商品名PrimeneTMのもとで販売されている)である。
【0070】
本発明において使用するための別の摩擦調製剤は、亜リン酸ジアルキルであり得る。亜リン酸ジアルキルは、一般に、式(RO)PHOのものである。この式に示されるような亜リン酸ジアルキルは、代表的に、少量の式(RO)(HO)PHOの亜リン酸モノアルキルと共に存在する。これらの構造において、用語「R」は、従来どおりに、アルキル基を表す。このアルキルが実際にはアルケニルであることがもちろん可能であるので、用語「アルキル」および「アルキル化」は、本明細書中で使用される場合、このホスファイト中で飽和アルキル基以外のものを包含する。このホスファイトは、このホスファイトを実質的に親油性にするために充分なヒドロカルビル基を有するべきである。代表的に、これらのヒドロカルビル基は、実質的に分枝していない。多くの適切なホスファイトが市販されており、そして米国特許第4,752,416号に記載されるように合成され得る。このホスファイトは、R基の各々において、8個〜24個の炭素原子を含むのが通常である。代表的に、この亜リン酸ジアルキルは、ジアルキル基の各々に、12個〜22個の炭素原子、最も通常には、16個〜20個の炭素原子を含む。1つの実施形態において、この亜リン酸ジアルキルは、オレイル基から形成され得、従って、各脂肪基中に18個の炭素原子を有する。
【0071】
サリチル酸アルキルの金属塩としては、長鎖(例えば、C12〜C16)アルキル置換されたサリチル酸塩のカルシウム塩および他の塩が挙げられる。
【0072】
アミドは、アンモニアまたは第一級アミンもしくは第二級アミン(例えば、ジエチルアミンおよびジエタノールアミン)との縮合によって調製されたアミドであり得る。脂肪イミダゾリンとしては、酸と、ジアミンまたはポリアミン(例えば、ポリエチレンポリアミン)との環状縮合生成物が挙げられ得る。このイミダゾリンは、構造:
【0073】
【化8】

によって表され得、この構造において、Rは、アルキル基であり、そしてR’は、水素またはヒドロカルビル基もしくは置換されたヒドロカルビル基(−(CH2CH2NH)n−基を含む)である。1つの実施形態において、この摩擦調整剤は、C8〜C24の脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとの縮合生成物であり得、例えば、イソステアリン酸とテトラエチレンペンタミンとの生成物であり得る。カルボン酸とポリアルキレンアミン(xiii)との縮合生成物は、イミダゾリンまたはアミドであり得る。
【0074】
本発明の潤滑組成物は、少量のカルボン酸の亜鉛塩を含有し得る。これらの亜鉛塩は、酸性であっても、中性であっても、塩基性(オーバーベース化)であってもよい。これらの塩は、亜鉛含有試薬と、カルボン酸またはその塩との反応から調製され得る。これらの塩の調製の有用な方法は、亜鉛酸化物とカルボン酸とを反応させることである。有用なカルボン酸は、本明細書中で上に記載されたカルボン酸である。好ましいカルボン酸は、式RCOOHのカルボン酸であり、この式において、Rは、脂肪族炭化水素基または脂環式炭化水素基である。特に好ましいものは、Rが脂肪基(例えば、ステアリル基、オレイル基、リノレイル基、パルミチル基など)であるものである。より好ましいものは、中性塩を調製するために必要とされる量より化学量論的に過剰に亜鉛が存在する、亜鉛塩である。亜鉛が、化学量論的量の約1.1倍〜約1.8倍、特に、化学量論的量の1.3倍〜1.6倍で存在する塩が、好ましい。これらのカルボン酸亜鉛は、当該分野において公知であり、そして米国特許第3,367,869号(これは、本明細書中に参考として援用される)に記載されている。金属塩としてはまた、カルシウム塩が挙げられ得る。例としては、オーバーベース化カルシウム塩が挙げられ得る。
【0075】
1つの実施形態において、摩擦調整剤は、上記アミンと、ヒドロキシ酸またはヒドロキシチオ酸またはその反応性等価物との縮合生成物であり得る。XがOである例において、このアミドは、式R3COOHによって表され得るヒドロキシ酸の誘導体であり得る。このヒドロキシ酸(または場合によってはヒドロキシチオ酸)において、R3は、1個〜約6個の炭素原子のヒドロカルビル基、またはこのようなヒドロカルビル基の、そのヒドロキシル基を介したアシル化剤(これには、硫黄含有アシル化剤が挙げられ得る)との縮合により形成される基であり得る。すなわち、R3上の−OH基は、それ自体が潜在的に反応性であり得、そしてさらなる酸性物質またはその反応性等価物と縮合して、例えば、エステルを形成し得る。従って、このヒドロキシ酸は、例えば、1以上のさらなる酸(例えば、グリコール酸)の分子と縮合し得る。適切なヒドロキシ酸の例は、グリコール酸(すなわち、ヒドロキシ酢酸HO−CH2−COOH)である。グリコール酸は、実質的に純粋な形態でか、または70%水溶液としてかのいずれかで、市販により入手可能であり得る。R3が1個より多くの炭素原子を含む場合、ヒドロキシ基は、1位の炭素(α)上またはその鎖中の別の炭素(例えば、β)上に存在し得る。炭素鎖自体は、直鎖であっても、分枝鎖であっても、環状であってもよい。
【0076】
なお別の実施形態において、摩擦調整剤は、式:
NR
により表される第三級アミンを含有し得、この式において、R1およびR2は、各々独立して、少なくとも約6個の炭素原子(例えば、約8個〜20個の炭素原子、または約10個〜約18個、または約12個〜約16個の炭素原子)のアルキル基であり、そしてR3は、ポリヒドロキシル含有アルキル基またはポリヒドロキシル含有アルコキシアルキル基である。1つの実施形態において、このアミンは、ジ−ココアルキルアミンまたは同族アミンの生成物を含み得る。ジ−ココアルキルアミン(またはジ−ココアミン)とは、上記式におけるR基のうちの2個が主としてヤシ油由来のC12基である、第二級アミンである。1つの実施形態において、R3は、ポリオール含有アルキル基(すなわち、2個以上のヒドロキシ基を含む基)、または1個以上のヒドロキシ基と1個以上のアミン基とを含む基であり得る。例えば、R3は、−CH2−CHOH−CH2OHまたはそのホモログであり得、例えば、約3個〜約8個の炭素原子、または約3個〜約6個の炭素原子、または約3個〜約4個の炭素原子、および2個、3個、4個またはそれより多くのヒドロキシ基(通常、1個の炭素原子あたり1個以下のヒドロキシ基)を含む。従って、代表的な得られる生成物は、式:
R1R2N−CH2−CHOH−CH2OH
またはそのホモログによって表され得、この式において、R1およびR2は、上記のように、独立して、約8個〜約20個の炭素原子のアルキル基であり得る。このような生成物は、ジアルキルアミンと、エポキシド化合物またはハロゲン化ヒドロキシ(例えば、クロロヒドロキシ、ブロモヒドロキシおよび/もしくはヨードヒドロキシ)化合物との反応によって得られ得る。具体的には、第二級アミンとグリシドール(2,3−エポキシ−1−プロパノール)または「クロログリセリン」(すなわち、3−クロロプロパン−1,2−ジオール)との反応は、上記のような条件下で行われ得る。ジココアミンと1モル以上のグリシドールまたはクロログリセリンとの反応に基づくような物質は、摩擦調整性能を提供する際に有用であり得る。反応が、多モルのグリシドールまたはクロログリセリン、あるいは他のエポキシアルカノールまたはクロロジオールを用いる場合、二量体またはオリゴマーのエーテル含有基(すなわち、ヒドロキシル置換されたアルコキシアルキル基)が得られ得る。
【0077】
別の実施形態において、摩擦調整剤は、以下の縮合生成物のうちの1つ以上を含有し得る:イソステアリン酸/トリスヒドロキシメチルアミノメタン(「THAM」)(2:1のモル比);イソステアリン酸/2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール(2:1のモル比);オクタデシル無水コハク酸/エタノールアミン/イソステアリン酸(1:1:1のモル比);または上記の物質のいずれかをプロピレンオキシドと、例えば、1:1のモル比で組み合わせたもの。特定の実施形態において、縮合生成物の成分のうちの1つまたは2つは、分枝鎖を含み得る。
【0078】
各型の縮合生成物において、カルボン酸またはその等価物は、特定の例において示されるとおりであり得るか、または天然の植物油および動物脂から誘導されるかもしくは合成的に生成された類似のカルボン酸であり得る。これらのカルボン酸は、一般に、約8個〜約30個の炭素原子の範囲であり、実質的に直鎖の性質である。あるいは、これらのカルボン酸は、約10個〜約24個の炭素原子、または約12個〜約22個の炭素原子、または約16個〜20個の炭素原子を含み得る。カルボン酸またはその等価物は、直鎖であっても分枝鎖であってもよい。例としては、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、トール油酸、炭化水素の酸化から誘導される酸、置換コハク酸、アクリレートまたはメタクリレートとアルコールとの付加から誘導されるエーテル酸などが挙げられ得る(エーテル酸の反応生成物は、必要なヒドロカルビル基を含み得る。ただし、これらの基は、エーテル官能性の存在にもかかわらず、「ヒドロカルビル」の定義において下に記載されるような実質的に炭化水素の特徴を示す)。酸の混合物(例えば、イソステアリン酸およびオクタデシルコハク酸またはオクタデシル無水コハク酸)もまた使用され得、このような混合物は、アミノアルコール(例えば、エタノールアミン)と反応する場合に有用である。
【0079】
アミノアルコールは、アミン官能性とアルコール官能性との両方を含む分子であり得る。このアミン官能性は、少なくとも1つの置換可能な水素を含む窒素原子(すなわち、第一級アミンまたは第二級アミン)の形態であり得る。使用され得るアミノアルコールの例としては、トリス−ヒドロキシメチルアミノメタン、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、およびエタノールアミンが挙げられ得る。使用され得る他のアミノアルコールとしては、3−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、4−アミノ−1−ブタノール、5−アミノ−1−ペンタノール、2−アミノ−1−ペンタノール、2−アミノ−1,2−プロパンジオール、2−アミノ−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン、N−N’−ビス−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、および1−アミノプロピル−3−ジイソプロパノールアミンが挙げられ得る。上記アミノアルコールのうちの2種以上のものの混合物が使用され得る。
【0080】
摩擦調整剤中に存在する2つのヒドロカルビル基は、酸反応物質のヒドロカルビル部分を起源とし得る。この場合、2モルの酸が1モルのアミノアルコールと反応し、これによって、これらの2モルの各々が1個の長鎖ヒドロカルビル基を提供することが一般に望ましい。この比は、一般に、約1.2:1〜約3:1、または約1.6:1〜約2.5:1、または約1.9:1〜約2.1:1で変動し得る。いずれの反応生成物においても、生成物の混合物が存在し得、そして上記比のいずれかでの反応が、出発物質の相対量に部分的に依存して、いくらかの1:1付加体、2:1付加体、3:1付加体など、統計学的な比または他の比の付加体をもたらし得ることが認識される。生成物が1:1付加体の一部を含み得るという事実は、このような生成物を本発明の範囲から除かない。ただし、この生成物の少なくとも一部は、必要とされる2個のヒドロカルビル基を含む。2つの異なる種の酸が使用される場合、その比は、約1:1:1などであり得る。ただし、全てのこのような酸のモル数対全てのアミノアルコールのモル数の比は、通常、約2:1である。あるいは、アミノアルコール自体が1個の長鎖ヒドロカルビル基の供給源である場合、1分子あたり2個のヒドロカルビル基を提供するためには、約1:1の比が適切であり得る。
【0081】
1つの実施形態において、本発明の摩擦調整剤は、潤滑剤組成物の約0.01重量%〜約10重量%、または約0.2重量%〜約5重量%の量で存在し得る。
【0082】
(任意の性能物質)
上記組成物は、少なくとも1種のさらなる性能添加剤を必要に応じてさらに含有する。さらなる性能添加剤としては、酸化防止剤、清浄剤、腐食防止剤、磨耗防止剤、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0083】
酸化防止剤(すなわち、酸化抑止剤)としては、ヒンダードフェノール性酸化防止剤(例えば、2,6,−ジ−t−ブチルフェノール)、およびヒンダードフェノール性エステル(例えば、以下の式:
【0084】
【化9】

および具体的な実施形態においては
【0085】
【化10】

によって表される型のもの)が挙げられ、これらの式において、Rは、2個〜10個の炭素原子、1つの実施形態においては2個〜4個、そして別の実施形態においては4個の炭素原子を含む、直鎖または分枝鎖のアルキル基である。1つの実施形態において、Rは、n−ブチル基である。別の実施形態において、Rは、Ciba製のIrganox L−135TMに見出されるように、8炭素であり得る。これらの酸化防止剤の調製は、特許第6,559,105号に見出され得る。
【0086】
さらなる酸化防止剤としては、第二級芳香族アミン酸化防止剤(例えば、ジアルキル(例えば、ジノニル)ジフェニルアミン)、硫化フェノール性酸化防止剤、油溶性銅化合物、リン含有酸化防止剤、モリブデン化合物(例えば、ジチオカルバミン酸Mo)、有機スルフィド、ジスルフィド、およびポリスルフィド(例えば、ブタジエンとアクリル酸ブチルとの硫化ディールス−アルダー付加体)が挙げられ得る。酸化防止剤の徹底的なリストは、米国特許第6,251,840号に見出される。
【0087】
本発明に関連して使用されるEP/磨耗防止剤は、代表的に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の形態であり得る。1つの実施形態において、ジアルキルジチオホスフェート中の少なくとも50%のアルキル基(アルコールから誘導される)は、第二級基であり、すなわち、第二級アルコールに由来する。別の実施形態において、少なくとも50%のアルキル基が、イソプロピルアルコールから誘導される。
【0088】
潤滑剤組成物はまた、1種以上の腐食防止剤を含有し得る。本発明における腐食防止剤の役割は、金属表面に優先的に吸着されて保護フィルムを提供すること、または腐食性の酸を中和することである。これらの例としては、エチレンオキシド−プロピレンオキシドコポリマーから誘導されるポリエーテル、エトキシレート、コハク酸のアルケニル半エステル、ジチオリン酸亜鉛、金属フェノレート、塩基性のスルホン酸金属、脂肪酸およびアミン、トリアゾールおよびジメルカプトチアジアゾール、ならびに記載されたようなこれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
この組成物はまた、1種以上の清浄剤を含有し得、これらの清浄剤は、通常は塩であり、そして特に、オーバーベース化塩である。オーバーベース化塩、またはオーバーベース化物質は、単相の均質なニュートン系であり、金属と、この金属と反応する特定の酸性有機化合物との化学量論に従って存在するよりも過剰な金属含有量により特徴付けられる。オーバーベース化物質は、酸性物質(代表的に、無機酸または低級カルボン酸であり、好ましくは、二酸化炭素)を、酸性有機化合物、この酸性有機物質のための少なくとも1種の不活性な有機溶媒(例えば、鉱油、ナフサ、トルエン、キシレン)を含有する反応媒体、化学量論的に過剰な金属塩基、および促進剤を含有する混合物と反応させることによって、調製される。
【0090】
オーバーベース化組成物を作製する際に有用な酸性有機化合物としては、カルボン酸、スルホン酸、リン含有酸、フェノール、またはこれらの混合物が挙げられる。酸性有機化合物は、カルボン酸、またはスルホン基もしくはチオスルホン基を有するスルホン酸(例えば、ヒドロカルビル置換されたベンゼンスルホン酸)、およびヒドロカルビル置換されたサリチル酸である。オーバーベース化組成物を作製する際に有用な別の型の化合物は、サリキサレートである。本発明のために有用なサリキサレートの記載は、WO 04/04850に見出され得る。
【0091】
オーバーベース化塩を作製する際に有用な金属化合物は、一般に、第1族または第2族の任意の金属の化合物である(元素の周期表のCAS版)。金属化合物の第1族金属としては、第1a族のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム)、および第1b族の金属(例えば、銅)が挙げられる。第1族の金属は、通常、ナトリウム、カリウム、リチウムおよび銅である。金属塩基の第2族の金属としては、第2a族のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)、および第2b族の金属(例えば、亜鉛またはカドミウム)が挙げられる。代表的な第2族の金属は、マグネシウム、カルシウム、バリウム、または亜鉛であり、好ましくは、マグネシウムまたはカルシウムであり、より通常には、カルシウムである。
【0092】
本発明のオーバーベース化清浄剤の例としては、スルホン酸カルシウム、カルシウムフェネート、サリチル酸カルシウム、カルシウムサリキサレート、およびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
硫黄化合物としては、モノスルフィド、ジスルフィド、ポリスルフィド、硫化炭化水素、硫化オレフィン、硫化脂肪、硫化植物油またはこれらの任意の同時硫化された組み合わせなどの物質が挙げられ得る。
【0094】
上記任意の物質は、本発明中で、個々に存在してもその混合物として存在してもよい。
【0095】
本発明の1つの実施形態において、歯車を潤滑させるための方法が提供され、この方法は、これらの歯車に、本明細書中に記載されるような潤滑組成物を含有する潤滑剤を供給する工程を包含する。歯車におけるこの潤滑組成物の使用は、シールおよび複合材料の適合性、認容可能な摩擦性能および耐久性、認容可能な振動防止性能、認容可能な酸化抵抗性ならびに認容可能な歯車保護が挙げられるがこれらに限定されない、1つ以上の特性を付与し得る。
【0096】
上記物質のうちのいくつかは、最終処方物中で相互作用し得ることが公知であり、その結果、最終処方物の成分が最初に添加された成分と異なり得る。これによって形成された生成物(意図された用途で本発明の組成物を使用する際に形成される生成物を含む)は、容易に説明され得ないかもしれない。
【0097】
それにもかかわらず、全てのこのような改変および反応生成物は、本発明の範囲内に含まれる。本発明は、上記成分を混合することにより調製される組成物を包含する。
【0098】
本明細書中で使用される場合、用語「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は、その通常の意味で使用され、その意味は当業者に周知である。具体的には、この用語は、分子の残りの部分に直接結合する炭素原子を有し、そして主として炭化水素の特徴を有する基をいう。ヒドロカルビル基の例としては、炭化水素置換基(すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)置換基、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、ならびに芳香族置換された芳香族置換基、脂肪族置換された芳香族置換基、および脂環式置換された芳香族置換基、ならびに環が分子の別の部分を介して結合している環状置換基(例えば、2個の置換基が一緒になって環を形成する));置換された炭化水素置換基(すなわち、本発明の文脈においてその置換基の主として炭化水素の性質を変化させない非炭化水素基を含む置換基(例えば、ハロ(特に、クロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ));ヘテロ置換基(すなわち、本発明の文脈において、主として炭化水素の特徴を有するが、環内または鎖中に炭素以外のものを含み、その他は炭素原子からなる置換基)が挙げられる。ヘテロ原子としては、硫黄、酸素、窒素が挙げられ、そしてピリジル、フリル、チエニル、およびイミダゾリルなどの置換基を包含する。一般に、2個以下、好ましくは1個以下の非炭化水素置換基が、ヒドロカルビル中の10個ごとの炭素原子について存在する。代表的に、ヒドロカルビル基中には、非炭化水素置換基は存在しない。
【実施例】
【0099】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示される。これらの実施例は、特に有利な実施形態を記載する。これらの実施例は、本発明を説明するために提供されるが、本発明を限定することは意図されない。
【0100】
表1に見出される以下の処方物を、潤滑粘度の油中で調製する。この表において、添加剤成分の量は、油なしの状態を基礎とした重量%である。
【0101】
これらの潤滑剤を、FZGスカフィング試験、FZGトラクター歯車磨耗重量損失試験、テーパ状ローラベアリングローラ端部スカフィング試験、およびL−37試験において評価する。これらの試験の結果は、表2に見出され得る。
【0102】
FZGスカフィング試験を使用して、硬化スチールドラムを潤滑させるために使用される潤滑剤のスカフィング負荷容量を測定する。この試験を、ASTM−D5182に従って実施する。
【0103】
L−37試験を使用して、高速/低トルク状態および低速/高トルク状態における軸の負荷保有磨耗を評価する。この試験を、ASTM−D6121に従って実施する。
【0104】
FZGトラクター試験を使用して、歯車の歯の磨耗損失(ミリグラム)を評価する。この試験を、ASTM−D4998に従って実施する。
【0105】
テーパ状ローラベアリングローラ端部スカフィング試験を使用して、テーパ状ローラベアリングに対するスカフィング特徴または疲労寿命を評価する。試験条件は、以下のとおりである:テーパ状ローラベアリングを、試験油で、34874Nの負荷で、90℃の温度で潤滑させる。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

注:比較例1〜3は、市販のATFおよびトラクター用潤滑剤である。
注:比較例4は、市販のGL−5歯車油である。
【0108】
表2の結果は、本発明における低レベルのEP剤にもかかわらず、本発明(実施例1)が、市販の比較例1〜3と比較して驚くほど良好であり、そして比較例4の歯車油と同程度またはそれより良好な磨耗特徴を提供することを、明らかに示す。EP剤(例えば、歯車油(比較例4)中に見出される)は、シール損傷を引き起こすことが当該分野において周知である。
【0109】
上で参照された文献の各々は、本明細書中に参考として援用される。実施例においてを除いて、または他に明白に示される場合を除いて、材料の量、反応条件、分子量、炭素原子の数などを特定する、本明細書中の全ての数量は、用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。他に示されない限り、本明細書中で言及される各化学物質または組成物は、市販等級の物質であると解釈されるべきであり、これらは、異性体、副生成物、誘導体、および市販等級に存在すると通常理解されるような他の物質を含有し得る。しかし、各化学成分の量は、他に示されない限り、市販の物質中に通常存在し得るいずれの溶媒も希釈油も除いて提供される。本明細書中に記載される量、範囲、および比の上限および下限は、独立して組み合わせられ得ることが理解されるべきである。同様に、本発明の各要素についての範囲および量は、他の要素のいずれかについての範囲または量と一緒に使用され得る。本明細書中で使用される場合、「〜から本質的になる」との表現は、問題の組成物の基本的かつ新規な特徴に重大な影響を与えない物質の含有を可能にする。
【産業上の利用可能性】
【0110】
(産業上の用途)
本発明の潤滑組成物は、種々の機械デバイス(自動車、トラックが挙げられる)、および他の設備(例えば、手動変速機、自動変速機、自動化マニュアルトランスミッション(automated manual transmission)、連続可変変速機、デュアルクラッチトランスミッション(dual clutch transmission)、農場用トラクターの変速機、トランスアクスル、ヘビーデューティー動力シフト変速機(heavy duty power−shift transmission)およびウェットブレーキ(wet brake))、ならびに終減速軸伝動システムおよび歯車(例えば、自動車の歯車および農場用トラクターの歯車)における潤滑剤として適切である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤組成物であって、
(a)潤滑粘度の油;
(b)1種以上の分散剤;および
(c)1種以上のリン化合物、
を含有し;
100℃における該潤滑剤組成物の動粘性率は、10mm/sより大きく;
該分散剤の重量に基づく量は、該リン化合物および必要に応じて存在し得る任意の硫黄化合物の重量に基づく量より大きい、
潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記分散剤が、ホウ素化スクシンイミド分散剤、アミド/エステル分散剤、アミン分散剤、マンニッヒ分散剤、エステル分散剤、ジメルカプトチアジアゾール分散剤、またはこれらの混合物である、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記リン含有化合物が、亜リン酸水素ジブチルである、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、または2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールの誘導体をさらに含有する、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
摩擦調整剤をさらに含有する、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
前記摩擦調整剤が、ホウ酸化アルキルエポキシド、亜リン酸ジアルキル、モノオレイン酸グリセロール、モノオレイン酸ペンタエリトリトール、リン酸の部分エステルのアミン塩、脂肪酸の亜鉛塩、またはこれらの混合物である、請求項5に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
酸化防止剤、清浄剤、腐食防止剤、磨耗防止剤、またはこれらの混合物をさらに含有する、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
終減速軸伝動システムを潤滑する方法であって、
(a)該歯車に、
(i)潤滑粘度の油;
(ii)1種以上の分散剤;および
(iii)1種以上のリン化合物;
を供給する工程を包含し、
100℃における該潤滑剤組成物の動粘性率が、10mm/sより大きく;そして
該分散剤の重量に基づく量が、該リン化合物および必要に応じて存在し得る任意の硫黄化合物の重量に基づく量より大きい、
方法。

【公表番号】特表2009−520085(P2009−520085A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545994(P2008−545994)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/062172
【国際公開番号】WO2007/111741
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】