説明

組み換えトランスフェリン変異体

本発明は、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質であって、ここで、Ser415を、Asn413で当該トランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させるとともに/あるいは、Thr613を、Asn611でトランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させるタンパク質を提供する。これはまた、当該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、並びに当該組み換えタンパク質を作製及び使用する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み換えトランスフェリン変異体及びこの配列を含んでなるタンパク質、特に、N−結合型グリコシル化を阻止し、且つ野生型タンパク質の生物活性を保持する変異体に関する。本出願はまた、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び当該組み換えタンパク質を作製及び使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書における従来公開文献の列挙又はそれについての議論は、当該文献が技術水準の一部であるか、又は公知の知識であることを必ずしも認めるものではない。
【0003】
進行中の新規バイオ医薬は370以上あると推定される。バイオ薬物の作製は、複雑且つ多大な時間を要するプロセスである。細胞は、厳密に維持及び制御された条件下、巨大なステンレスの発酵タンクで増殖させなければならない。タンパク質が細胞から分泌される場合もあるが、そうでない場合は、細胞を破砕して、タンパク質を抽出及び精製できる。かかる方法を試験し、考案し、及びスケールアップすると、バイオ医薬は、大量に作製できる。これは、巨大なステンレスのタンク中で慎重に制御され、注目の遺伝子又は抗体を含むよう形質転換された宿主細胞が増殖することにより行われる。細胞は、生きたままで、標的タンパク質を作製するよう刺激され、これは温度(摂氏1度未満で変化させられることが多い)、酸素、酸性度(たとえわずかにpHレベルが変化しても、細胞は容易に死滅する)、培地成分及びその他の可変物のバランス等の正確な培養条件でなされる。適切な培地又は血清中での慎重な培養(この期間は、作製されるタンパク質及び生物の性質によって変動する)の後、当該タンパク質は培養物から単離され、全ての精製ステップで厳密に試験され、そして医薬活性のある製品に製剤化される。これらの工程の全ては、食品医薬品局(FDA)規則に厳密に準拠する(http://www.bio.org/pmp/factsheet1.asp, "A Brief Primer on Manufacturing Therapeutic Proteins")。
【0004】
細胞の生存能力を補助するのに使用できる細胞培養培地には多くの種類があり、例えばDMEM培地(H. J. Morton, 1970, In Vitro, 6, 89)、F12培地(R. G. Ham, 1965, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 53, 288)及びRPMI1640培地(J. W. Goding, 1980, J. Immunol. Methods, 39, 285; JAMA, 1957, 199, 519)がある。ただし、当該培地(たいてい「基本培地」と呼ばれる)は通常、大半の動物細胞が必要とする栄養分が著しく不足している。典型的には、これらの不足を克服するため、基本培地に血清を添加しなければならない。一般的に、ウシ胎仔血清(FBS、ウシの胎仔から採取)、ヒト血清、ブタ血清及びウマ血清を、かなりの濃度で使用する。
【0005】
適切な細胞増殖のために、血清の使用が所望され、且つ多くの場合それが必要であるが、これにはいくつかの不都合がある。一定の増殖特徴を有する血清を得ることは困難である。さらに、血清の生化学的複雑さにより、注目のタンパク質の下流工程が複雑になるため、製造コストが増加する可能性がある。この問題を解消するため、血清を除外し、代わりに特定の成分を添加している。
【0006】
これらの成分の1つにトランスフェリンがある。ヒト血清トランスフェリン(HST)は、通常のヒト血漿中に約2〜4g/lで存在する、主要な鉄結合タンパク質である(van Campenhout et al, 2003, Free Radic. Res., 37, 1069-1077)。生理学的にそれは、吸収及び貯蔵部位から、利用部位への鉄の安全な運搬において機能する。その鉄への高い親和性は、細胞外環境において鉄触媒性のフリーラジカル反応から受ける損傷の影響を低減し(von Bonsdorff et al, 2001, Biologicals, 29, 27-37)、その結果の低濃度の遊離鉄は、多くの生物に対して静菌性であり(von Bonsdorff et al, 2003, FEMS Immunol. Med. Microbiol., 37, 45-51);より直接的な抗細菌効果をもたらすこともある(Ardehali et al, 2003, J. Biomed. Mater. Res. A, 66, 21-28)。
【0007】
HSTは、分子量約80 kDaの単量体糖タンパク質であり、2個の鉄を非常に強く、しかし可逆的に結合できる。これは、2つの球状ローブを含んでなり(N−ローブ及びC−ローブと呼ばれる)、各々は深い割れ目で分離された2つのサブドメインで構成され、ここに鉄イオン及び相乗的な炭酸アニオンの結合部位が含まれる。多くの細胞型において、鉄は、特定のトランスフェリン受容体(TfR)に対する鉄含有型のホロトランスフェリンの結合により捕捉され、その後Fe3+/HST/TfR複合体のエンドサイトーシスが行われる。鉄は、HST/TfR複合体が細胞表面に戻った後、鉄未含有型のアポトランスフェリンがその循環に再び放出される場所から、エンドソームの酸性条件に放出される(MacGillivray et al, 1998, Biochemistry, 37, 7919-7928; Hirose, 2000, Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 1328-1336; Hemadi et al, 2004, Biochemistry, 43, 1736-1745)。
【0008】
HSTは、肝臓で698残基のタンパク質として産生される。19残基のリーダー配列は、分泌の際に除去され、配列番号1のアミノ酸配列を有するおよそ80 kDaの成熟糖タンパク質を産生する。成熟トランスフェリンのおよそ75 kDaのポリペプチド鎖は、19個のジスルフィド結合を含んでおり、予測pIは6.64である。N−ローブ及びC−ローブは、それぞれ1〜331及び333〜679残基から形成される(Steinlein et al, 1995, Protein. Expr. Purif., 6, 619-624)。C−ローブは2つのN−結合型グリコシル化部位、Asn413及びAsn611を含有する(上記の通り、配列番号1に下線で示した)。セリン32のO−結合型グリコシル化部位も、ベビーハムスター腎臓細胞(Gomme et al, 2005, Drug Discov. Today, 10, 267-273)及び酵母P.パストリス(Bewley et al, 1999, Biochemistry, 38, 2535-2541)由来の組み換え発現体から産生されたN−ローブトランスフェリンで確認されている。
【0009】
任意の動物又は哺乳類のトランスフェリンは、例えばHST又はウシ血清トランスフェリン(BST)等の細胞培養培地中で使用してもよい。
【0010】
ただし、動物由来成分、例えばトランスフェリンを用いる場合、細胞培養物への病原体汚染の可能性のリスクに対する関心が高まっている。BSTの場合、狂牛病(BSE)に関与すると考えられるプリオンの存在は、血液画分によるBSTの作製に関連する具体的な問題である。HSTについては、HSTが血液画分から作製される場合、肝炎及びHIV様の免疫不全性ウイルスによる汚染可能性のリスクがある。
【0011】
組み換えトランスフェリン培地は、細胞の培養用の標準血清含有培地の優れた代替物である。これには、組成物のより良好な規定などの複数の利点があるとともに、動物由来の病原体による汚染のリスクがないことが非常に重要である。
【0012】
ヒト及び動物の血液運搬性疾患に対する関心が高まっているため、動物由来のトランスフェリン、及び従来の血清含有培地のものに相当する培養能力を有するその他の従来から知られる動物由来の成分を含まない培地の発見に対する関心が高まっている。当業界には、疾患の移動の点で使用の危険性はないが、好適な濃度で必要な栄養分及び増殖因子の全てを提供し、細胞の増殖を最適化する細胞培養培地に対する継続的な必要性が存在する。
【0013】
近年の取り組みの大半は、細胞生存能力及び/又は細胞増殖及び/又はタンパク質作製を犠牲にすることなく、基本培地に適切な栄養分を補充し、血清の添加を回避することにより、無血清培地を開発している。当該成分の例としては、ウシトランスフェリン及びヒトトランスフェリン;ウシアルブミン及びヒトアルブミン;天然(動物)又は組み換え供給源由来の特定増殖因子、例えば上皮増殖因子(EGF)又は線維芽細胞増殖因子(FGF);脂肪酸、ステロール及びリン脂質等の脂質;脂質誘導体及び複合体、例えばホスホエタノールアミン、エタノールアミン及びリポタンパク質;タンパク質及びステロイドホルモン、例えばインスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、ヒドロコルチゾン及びプロゲステロン;ヌクレオチド前駆体;及び特定の微量元素(Waymouth, C., in: Cell Culture Methods for Molecular 及び Cell Biology, Vol. 1: Methods for Preparation of Media, Supplements, and Substrata for Serum-Free Animal Cell Culture, Barnes, D. W., et al., eds., New York: Alan R. Liss, Inc., pp. 23-68 (1984), and by Gospodarowicz, D., Id., at pp 69-86 (1984)で概説されている)が挙げられる。
【0014】
ただし、ここに列挙する従来技術の大半は、動物由来成分を含んでなる培地についてさらに記載している。
【0015】
Bowman と Yang(1991年に許可された米国特許第5,026,651号)は、HSTをコードするcDNA配列の単離について開示する(ここで開示された配列は、参照により本願に組み込まれる)。すなわち、HSTコードベクターを構築するとともに、それらを発現させ組み換えHSTを作製するためにいくらか時間をかける、技術的な可能性は存在する。ただし、配列番号1について上で記載の通り、HSTの配列には、N−結合型グリコシル化のための2つのコンセンサス部位がある。Lau等(1983, J. Biol. Chem., 258, 15225-15260)は、オリゴサッカリルトランスフェラーゼが、タンパク質の−Asn−X−Thr/Ser配列(式中、Xは任意のアミノ酸)に含まれるアスパラギン残基に対する糖鎖の転移を触媒することを報告している。HSTの配列は、2つの当該コンセンサス配列、それぞれアミノ酸N413及びN611から開始する配列を含有し、その両方ともが、N413及びN611でN−結合型グルコシル化をもたらすオリゴサッカリルトランスフェラーゼにより認識される。選択される組み換え宿主細胞の性質は、HST産物のグリコシル化合物のレベル及びタイプに対し大きな影響を及ぼし、これがヒトにおける潜在的に不所望な抗原性効果を持つ異種接合型HST産物を作製に導くことを可能にする。言い換えれば、非ヒト細胞において組み換えて作製したHSTは、血清由来のHSTと比較して、全く異なるグリコシル化がなされる可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第一の態様によれば、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質であって、そのSer415を、Asn413で当該トランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させる、組み換えタンパク質を提供する。Ser415を、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させないアミノ酸に変異させてもよい。例えば、Ser415を、保存的アミノ酸、グリシン又はアラニンに変異させてもよい。アラニンが好ましい。
【0017】
本発明の第一の態様による、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質は、Asn611に対する変異であって、その位置でグリコシル化させないアミノ酸に変異させるような変異を含んでもよい。Asn611を、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させないアミノ酸に変異させてもよい。例えば、Asn611を、保存的アミノ酸に変異させても、あるいはアスパラギン酸もしくはグルタミンに変異させてもよい。
【0018】
本発明の第一の態様による、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質は、Val612に対する変異であって、Asn611でグリコシル化させないアミノ酸に変異させるような変異を含んでもよい。Val612を、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させないアミノ酸に変異させてもよい。例えば、Val612を、プロリン、システイン又はトリプトファンに変異させてもよい。
【0019】
本発明の第二の態様によれば、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質であって、そのThr613を、Asn611でトランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させる、組み換えタンパク質を提供する。Thr613を、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させないアミノ酸に変異させてもよい。Thr613を、保存的アミノ酸、例えばグリシン、バリン、アラニン又はメチオニンに変異させてもよい。アラニンが好ましい。
【0020】
本発明の第二の態様による、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質は、Asn413に対する変異であって、その位置でグリコシル化させないアミノ酸に変異させるような変異を含んでもよい。Asn413を、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させないアミノ酸に変異させてもよい。例えば、Asn413を、保存的アミノ酸に変異させても、あるいはアスパラギン酸もしくはグルタミンに変異させてもよい。
【0021】
本発明の第一の態様による、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質は、Lys414に対する変異であって、Asn413でグリコシル化させないアミノ酸に変異させるような変異を含んでもよい。Lys414を、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させないアミノ酸に変異させてもよい。例えば、Lys414を、プロリン、システイン又はトリプトファンに変異させてもよい。
【0022】
本発明の第三の態様によれば、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質であって、そのSer415を、本発明の第一の態様に従って変異させるとともに、Thr613を、本発明の第二の態様に従って変異させる組み換えタンパク質を提供する。本発明の第三の態様による、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質はまた、本発明の第一及び第二の態様で上に記載した手順による、Asn413、Lys414、Asn611及び/又はVal612の任意、又は全ての位置での変異体を含んでなる。
【0023】
本発明の第三の態様の好ましい実施態様は、変異S415A、T613Aを有するヒトトランスフェリンタンパク質の配列を含んでなるか、当該タンパク質からなるタンパク質であってもよい。このタンパク質を例示する配列は、N−結合型グリコシル化のための2つの−N−X−S/T−認識配列内の、S415A及びT613A変異体で、配列番号2として提示する。
【0024】
本発明の第四の態様によれば、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質であって、ここでAsn413でグリコシル化をさせないアミノ酸へのSer415における変異及び/又はAsn611でグリコシル化をさせないアミノ酸へのThr613における変異に加えて、タンパク質のO−結合型グリコシル化を低減させる少なくとも1つのさらなる変異が導入される組み換えタンパク質を提供する。タンパク質のO−結合型グリコシル化を低減させる少なくとも1つの変異の好ましい例としては、Ser32での変異、例えばS32A又はS32Cがある。
【0025】
本発明の第五の態様によれば、本発明の第一、第二、第三又は第四の態様のいずれか1つの態様によって上で定義される、トランスフェリン変異体の配列を含んでなるタンパク質をコードする配列を含んでなるポリヌクレオチドを提供する。例えば、本発明の第五の態様による、ポリヌクレオチドヌクレオチドは、配列番号2の配列を含んでなるか、又は当該配列からなるタンパク質をコードしてもよい。かかるポリヌクレオチド配列は、配列番号3の配列を有していてもよい。
【0026】
配列番号3において、ヒトトランスフェリンcDNAのS415及びT613コドン(全米バイオテクノロジー情報センターのヌクレオチド配列NM−001063由来)は、アラニンのコドンを、S.セレビシアエ(S. cerevisiae)で好まれるGCTに変更する(37%、http://www.yeastgenome.org/codon-(アンダーバー)usage.shtml)。このため、セリン415のAGCコドンを、位置1243から1245でGCTに変更するとともに、スレオニン613のためのACTコドンを、1837の位置でアデニンをグアニンに変えることによりGCTに変更した。
【0027】
本発明の第五の態様によるポリヌクレオチドは、分泌リーダー配列を含んでもよい。すなわち、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる、組み換えタンパク質をコードする配列は、分泌リーダー配列をコードするポリヌクレオチド配列に作動的に結合してもよい。例えば、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる、組み換えタンパク質をコードする配列は、その5'末端で、分泌リーダー配列をコードするポリヌクレオチド配列の3'末端に作動的に結合してもよい。
【0028】
本発明の第六の態様によれば、本発明の第五の態様によるポリヌクレオチドを含んでなるプラスミドを提供する。ある実施態様によれば、当該プラスミドは、タンパク質ジスルフィドイソメライズ(isomerise)をコードするポリヌクレオチド配列をさらに含んでなる。当該プラスミドは、2μmのプラスミドでもよい。
【0029】
本発明の第七の態様によれば、本発明の第五又は第六によるポリヌクレオチド又はプラスミドの使用であって、宿主細胞を形質転換するとともに、それにより本発明の第一、第二、第三又は第四の態様のいずれか1つの態様によるトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質を作製する、使用を提供する。
【0030】
本発明の第八の態様によれば、本発明の第一、第二、第三又は第四の態様のいずれか1つの態様によるトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質を発現できる宿主細胞の製造方法であって、ここで当該方法が、本発明の第五又は第六の態様によるポリヌクレオチド又はプラスミドを用意するステップ;宿主細胞を用意するステップ;ポリヌクレオチド又はプラスミドで、宿主細胞を形質転換するステップ;及び形質転換宿主細胞をセレクションするステップ、を含んでなる方法を提供する。
【0031】
本発明の第九の態様によれば、本発明の第一、第二、第三又は第四の態様のいずれか1つの態様によるトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質を発現できる宿主細胞の製造方法であって、ここで当該方法が、本発明の第五又は第六の態様によるポリヌクレオチド又はプラスミドを含有する宿主細胞を用意するステップ;及びトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質の発現が可能となる条件下で宿主細胞を培養するステップ、を含んでなる方法を提供する。当該方法は、発現組み換えタンパク質を単離するステップをさらに含んでなる。当該方法はまた、担体又は希釈剤と共に単離組み換えタンパク質を製剤化するとともに、単位投薬形態で処方されたタンパク質を任意に提示するステップ、又は単離組み換えタンパク質を凍結乾燥するステップをさらに含んでなる。
【0032】
本発明の第七、第八又は第九で定義される宿主細胞は、任意の型の宿主細胞であってよい。例えば、細菌性又は酵母の(又はその他の真菌の)宿主細胞であってもよい。細菌宿主細胞は、クローニング目的において特に有用であるだろう。酵母宿主細胞は、プラスミドに存在する遺伝子の発現に特に有用であるだろう。ある実施態様によれば、宿主細胞は酵母細胞であり、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)、又はピキア(Pichia)族のもの、例えばサッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)及びピキア・メンブラナエファシエンス(Pichia membranaefaciens)、又はジゴサッカロマイセス・ロウキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)、ジゴサッカロマイセス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailii)、又はクルイベロマイセス・ドルスフィララム(Kluyveromyces drosphilarum)がある。さらなる実施態様によれば、宿主細胞は、真菌細胞であってもよく、例えば、アスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ(Trichoderma)、フサリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum)、ピキア・アングスタ(Pichia angusta)又はハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)がある。
【0033】
本発明の第十の態様によれば、本発明の第一、第二、第三又は第四の態様のいずれか1つの態様によるトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質を含んでなるとともに、グルタミン、インスリン、インスリン様増殖因子、アルブミン、エタノールアミン、フェチュイン、ビタミン、リポタンパク質、脂肪酸、アミノ酸、亜セレン酸ナトリウム、ペプトン及び抗酸化物からなる群から選択される1以上の成分を含んでなる、哺乳類細胞培養培地を提供する。
【0034】
本発明の第十一の態様によれば、哺乳類細胞の培養方法であって、当該方法は、本発明の第一、第二、第三又は第四の態様のいずれか1つの態様によるトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質を含んでなるとともに、グルタミン、インスリン、インスリン様増殖因子、アルブミン、エタノールアミン、フェチュイン、ビタミン、リポタンパク質、脂肪酸、アミノ酸、亜セレン酸ナトリウム、ペプトン及び抗酸化物からなる群から選択される1以上の成分を含んでなる哺乳類細胞培養培地において、細胞をインキュベートするステップを含んでなる方法を提供する。
【0035】
本発明の第十二の態様によれば、本発明の第一、第二、第三又は第四の態様のいずれか1つの態様によるトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質、及び医薬的に許容される担体を含んでなる医薬組成物を提供する。
【0036】
ここで本発明を、以下の非限定的な実施例及び図を参照して例示する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1a】図1aは実施例で言及するプラスミドの、プラスミドマップを示す。
【図1b】図1bは実施例で言及するプラスミドの、プラスミドマップを示す。
【図2】図2は実施例で言及するプラスミドの、プラスミドマップを示す。
【図3】図3は実施例で言及するプラスミドの、プラスミドマップを示す。
【図4】図4は実施例で言及するプラスミドの、プラスミドマップを示す。
【図5】図5は実施例で言及するプラスミドの、プラスミドマップを示す。
【図6】図6は実施例で言及するプラスミドの、プラスミドマップを示す。
【図7】図7は実施例で言及するプラスミドの、プラスミドマップを示す。
【図8】図8は実施例で言及するプラスミドの、プラスミドマップを示す。
【図9】図9は実施例で言及するプラスミドの、プラスミドマップを示す。
【図10】図10は実施例で言及するプラスミドの、プラスミドマップを示す。
【図11】図11は、pDB2973及びpDB2974を含む、様々なS.セレビシアエ株からの、トランスフェリン(S415A、T613A)分泌のRIE分析を示す。10 mL BMMD 振とうフラスコに、300μL 凍結保存酵母ストックを3重に播種し、4日間30℃でインキュベートした。ロケット(rocket)免疫電気泳動ゲルの1ウェル当たり、5μLの細胞上清をロードした。プラズマTfスタンダードの濃度は、μg/mLである。50μLヤギ抗−Tf/50mLアガロースゲル。プレシピン(Precipin)をクマシーブルーで染色した。
【図12】図12は、pDB2973及びpDB2974を含む専売株から分泌された、組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)のSDS−PAGE分析を示す。10 mL BMMD 振とうフラスコに、300μL 凍結保存酵母ストックを3重に播種し、4日間30℃でインキュベートした。20μLの上清を、GelCode(登録商標)ブルーリージェント(Blue reagent)(Pierce)を用いて、非還元SDS−PAGE(4〜12%、NuPAGE(登録商標)、MOPSバッファ、InVitrogen)で分析した。図12のゲル1において、各レーンは以下のサンプルに対応する:1=20μL シーブループラスマーカー(SeeBlue Plus Markers);2=20μL 株1 pSAC35 s/n (ネガティブコントロール); 3= 20μL 株1 pDB2973 s/n; 4=20μL 株1 pDB2973 s/n; 5=20μL 株2; 6=pDB2973 s/n; 6=20μL 株3 pDB2973 s/n; 7=20μL 株4 pDB2973 s/n; 8=20μL 株1 pDB2974 s/n; 8=20μL 株1 pDB2929 s/n(ポジティブコントロール); 10=20μL シーブループラスマーカー。図12のゲル2において、各レーンは以下のサンプルに対応する:1=20μL シーブループラスマーカー; 2=20μL 株1 pSAC35 s/n (ネガティブコントロール); 3=20μL 株1 pDB2974 s/n; 4=20μL 株1 pDB2974 s/n; 5=20μL 株2 pDB2974 s/n; 6=20μL 株3 pDB2974 s/n; 7=20μL 株4 pDB2974 s/n; 8=20μL 株1 pDB2973 s/n; 9=20μL 株1 pDB2929 s/n (ポジティブコントロール); 10=20μL シーブループラスマーカー。
【図13】図13は、組み換えトランスフェリン(N413Q、N611Q)及びトランスフェリン(S415A、T613A)の分析用TBE−ウレアゲル分析を示す。サンプルを、以下の実施例に記載のプロトコルに従って調製した。20 μgのサンプルを、6% TBEウレアPAGE(Invitrogen)で分離し、クマシーG250(Pierce)で染色した。レーン1〜3は、株1[pDB2929]サンプルを示し;レーン4〜6は株1[pDB2973]サンプルを示し;レーン1及び4は、精製組み換えトランスフェリン変異体を示し;レーン2及び5は、組み換えアポトランスフェリン変異体を示し;レーン3及び6は、組み換えホロトランスフェリン変異体を示す。
【図14】図14は、プラスミドpDB3191の構造を示す。
【図15】図15は、プラスミドpDB3753の構造を示す。
【図16】図16は、プラスミドpDB3768の構造を示す。
【図17】図17は、それぞれ、pDB2973、pDB3773、pDB3765、pDB3768又はpDB3778を含有するS.セレビシアエ株の株1からの分泌物、組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)、組み換えトランスフェリン(S415C、T613A)、組み換えトランスフェリン(S415A、T613C)、組み換えトランスフェリン(S32A、S415A、T613A)、及び組み換えトランスフェリン(S32C、S415A、T613A) のRIE分析を示す。10 mL BMMD 振とうフラスコに、200μL 凍結保存酵母ストックを2重に播種し、5日間30℃でインキュベートした。4μの2重培養上清のサンプルを、ロケット免疫電気泳動ゲルの1ウェル当たりにロードした。プラズマTfスタンダードの濃度は、μg/mLである。30μLヤギ抗−Tf/50mLアガロース。プレシピン(Precipin)をクマシーブルーで染色した。図17のゲル1は、それぞれpDB3237、pDB3773又はpDB3765を含有するS.セレビシアエ株の株1からの分泌物、組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)、組み換えトランスフェリン(S415C、T613A)、及び組み換えトランスフェリン(S415A、T613C)のRIE分析を示す。図17のゲル2は、それぞれpDB3237、pDB3768又はpDB3778を含有するS.セレビシアエ株の株1からの分泌物、組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)、組み換えトランスフェリン(S32A、S415A、T613A)、及び組み換えトランスフェリン(S32C、S415A、T613A)のRIE分析を示す。
【図18】図18は、それぞれ、pDB2973、pDB3773、pDB3765、pDB3768又はpDB3778を含有するS.セレビシアエ株の株1からの分泌物、組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)、組み換えトランスフェリン(S415C、T613A)、組み換えトランスフェリン(S415A、T613C)、組み換えトランスフェリン(S32A、S415A、T613A)、及び組み換えトランスフェリン(S32C、S415A、T613A) の非還元SDS−PAGE分析を示す。10 mL BMMD 振とうフラスコに、200μL 凍結保存酵母ストックを2回播種し、5日間30℃でインキュベートした。20μLの上清を、GelCode(登録商標)ブルーリージェント(Blue reagent)(Pierce)を用いて、非還元SDS−PAGE(4〜12%、Bis/Tris(登録商標)、MOPSバッファ、InVitrogen)で分析した。図18のゲル1において、各レーンは以下のサンプルに対応する: 1=20μL シーブループラスマーカー; 2=20μL 株 1 [pDB3237] s/n; 3= 20μL 株 1[pDB3237] s/n; 4=20μL 株 1[pDB3773] s/n; 5=20μL 株 1[pDB3773] s/n; 6=株 1[pDB3765] s/n; 7=20μL 株 1[pDB3765] s/n。図18のゲル2において各レーンは以下のサンプルに対応する:1=20μL シーブループラスマーカー; 2=サンプルなし; 3=20μL 株 1[pDB3237] s/n; 4=20μL 株 1[pDB3237] s/n; 5=20μL 株 1 [pDB3768] s/n; 6=20μL 株 1 [pDB3768] s/n; 7=株 1 [pDB3778]s/n; 8=20μL 株 1 [pDB3778] 上清。
【図19】図19は、組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)及び組み換えトランスフェリン(S415C、T613A)の分析用TBE−ウレアゲル分析を示す。サンプルを、以下の実施例に記載のプロトコルに従って調製した。5 μgのサンプルを、6% TBEウレアPAGE(Invitrogen)で分離し、クマシーG250(Pierce)で染色した。レーン1〜2は、株1[pDB3237]サンプルを示し;レーン1は無イオン組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)を示し;レーン2及び3は、イオン保持組み換えトランスフェリン変異体を示す。
【図20】図20は、精製組み換えヒトトランスフェリン(S415A、T613A)と比較した、株 1 [pDB3237]、株 1 [pDB3773]及び株 1 [pDB3765]から発現した組み換えトランスフェリン上清の分析用TBE−ウレアゲル分析を示す。図20のゲル1は、レーン1〜2は、精製組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)を示し;レーン3〜4は、株 1 [pDB3237]サンプルを示し;レーン1及び3は無イオン調製物を示し;レーン2及び4は、鉄保持調製物を示す。図20のゲル2は、レーン1〜2は精製組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)サンプルを示し;レーン3〜4は、株 1 [pDB3773]サンプルを示し;レーン1及び3は、鉄未含有型調製物を示し;レーン2及び4は、鉄保持調製物を示す。図20のゲル3は、レーン1〜2は、精製組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)サンプルを示し;レーン3〜4は、株 1 [pDB3765]サンプルを示し;レーン1及び3は、鉄未含有型調製物を示し;レーン2及び4は、鉄保持調製物を示す。
【図21】図21は、株 1 [pDB3237]、株 1 [pDB3778] 及び株 1 [pDB3768]から発現した、組み換えトランスフェリン上清の分析用TBE−ウレアゲル分析を示す。図21のゲル1は、レーン1〜2は、精製組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)サンプルを示し;レーン3〜4は、株 1 [pDB3768]サンプルを示し;レーン1及び3は、鉄未含有型調製物を示し;レーン2及び4は、鉄保持調製物を示す。図21のゲル2は、レーン1〜2は、株 1 [pDB3237]サンプルを示し;レーン3〜4は、株 1 [pDB3778]サンプルを示し;レーン1及び3は、鉄未含有型調製物を示し;レーン2及び4は、鉄保持調製物を示す。
【図22】図22は、精製鉄保持調製物組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)の表面プラズモン共鳴(SPR)解析を示す。
【図23A】図23Aは、組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)、組み換えトランスフェリン(S32C、S415A、T613A)及び組み換えトランスフェリン(S32A、S415A、T613A)の、ESI−TOF質量分析を用いる分析から得られる、逆重畳(deconvolved)質量スペクトルを示す図23A〜CのうちのスペクトルAを示す。スペクトルAは、株1[pDB3237]の細胞高密度発酵物から精製した組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)の質量スペクトルを示す。ピーク同定A)未修飾分子(理論質量 75098 Da)、B)未修飾分子+1ヘキソース(理論質量 75259 Da)。
【図23B】図23Bは、組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)、組み換えトランスフェリン(S32C、S415A、T613A)及び組み換えトランスフェリン(S32A、S415A、T613A)の、ESI−TOF質量分析を用いる分析から得られる、逆重畳(deconvolved)質量スペクトルを示す図23A〜CのうちのスペクトルBを示す。スペクトルBは、株1[pDB3778]の細胞高密度発酵物から精製した組み換えトランスフェリン(S32C、S415A、T613A)の質量スペクトルを示す。ピーク同定C)未修飾分子(理論質量 75114 Da)。
【図23C】図23Cは、組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)、組み換えトランスフェリン(S32C、S415A、T613A)及び組み換えトランスフェリン(S32A、S415A、T613A)の、ESI−TOF質量分析を用いる分析から得られる、逆重畳(deconvolved)質量スペクトルを示す図23A〜CのうちのスペクトルCを示す。スペクトルCは、株1[pDB3768]の細胞高密度発酵物から精製した組み換えトランスフェリン(S32A、S415A、T613A)の質量スペクトルを示す。ピーク同定D)未修飾分子(理論質量 75130 Da)。
【図24】図24は、プラスミドpDB3237のプラスミドマップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質に関する。「組み換え」により、宿主細胞において、遺伝子改変された(すなわち、非天然の)遺伝子配列の発現により作製したタンパク質を意味する。一般的に、本発明の組み換えタンパク質は、トランスフェリン変異体をコードする核酸構築物で好適な宿主細胞を形質転換すること、発現に適した条件下で形質転換した宿主細胞を培養すること、及び当該細胞により発現されたトランスフェリン変異体配列を含んでなる組み換えタンパク質を回収することにより調製する。
【0039】
トランスフェリンの変異体は、部位特異的変異導入等の標準的技術、例えば以下の例に報告されるもの等により作製できる。
【0040】
本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質は、配列番号1で規定されるHST配列における特定のアミノ酸のグリコシル化の変異及び/又は阻止により規定される(とりわけ、配列番号1のSer415;配列番号1のAsn611;配列番号1のVal612;配列番号1のThr613;配列番号1のAsn413;配列番号1のLys414)。ただし、本発明は、トランスフェリンの2つのグリコシル化部位コンセンサス配列における、セリンのスレオニンアミノ酸の機能及び役割についての進歩した理解に基づくものであり、本願において、配列番号1で規定されるトランスフェリンタンパク質の完全且つ正確な配列に、特定の変異を導入するものに限定するものではない。
【0041】
HSTには、等電点電気泳動(IFE)により明らかにされている通り、多くの変種が存在する(Constans et al, 1980, Hum. Genet., 55, 111-114; Namekata et al, 1997, Hum. Genet., 100, 457-458)。少なくとも22種の変種が、電気泳動とノイラミニダーゼ処理、及び鉄での飽和により検出されている。これらの変種は、特定のアミノ酸置換又は削除を規定するため一般的な特徴づけができる、その主要なアミノ酸配列が異なる。さらに、変異体は、鉄含量の違い(第二の決定因子)及びN−結合型グリカン鎖の違い(第三の決定因子(de Jong et al, 1990, Clin. Chim. Acta, 190, 1-46))を伴って生じる。
【0042】
ヨーロッパにおいては、人口の95%以上の人がTfC表現型であると指定されている(de Jong et al, 1990, op. cit.)。1987年には、C−変種の総数は、16であると請求された。2つの主要な変種全体は、暫定的にTfC1及びTfC2と指定され、そのうちTfC1が最も一般的であると予想されており、およそ0.74及び0.82の頻度で発生する(Kuhnl & Spielmann, 1978, Hum. Genet., 43, 91-95; Kuhnl & Spielmann, 1979, Hum. Genet., 50, 193-198; Weidinger et al, 1980, Z. Rechtsmed., 85, 255-261)。コドン570でのC/T置換は、TfC1のプロリンを、TfC2のセリンに置換した。先住民のエスキモーから、C1亜種が、未解決の有名なトランスフェリンとして確認されており、これは強い選択優位性を示す(de Jong et al, 1990, op. cit.)。TfC1表現型は異種接合型であり、制限断片長多型(RFLP)の解析に基づき、2つのサブタイプに分類できる(Beckman et al, 1998, Hum. Genet., 102, 141-144)。
【0043】
配列番号1は、成熟TfC1タンパク質配列に基づいており、また(配列番号2において)提示する改変配列は、これはオリゴ糖トランスフェラーゼ認識配列内のセリン415及びスレオニン613を、それぞれそのAsn413及びAsn611部位でのN−結合型グリコシル化を阻止するため、アラニン残基に変更した配列である。
【0044】
ヒトの集団においてもトランスフェリンの多様性の観点から、またさらに本発明は、本出願中配列番号1で規定されるトランスフェリンタンパク質の完全且つ正確な配列に限定されないトランスフェリンの、2つのグリコシル化部位コンセンサス配列におけるアミノ酸である、セリン及びスレオニンの機能及び役割についての理解の進歩に基づくものでありるため、当業者は、本明細書で使用される「トランスフェリン」が、配列番号1で規定されるタンパク質に加えて、その他のトランスフェリンタンパク質のことを言うために使用されてもよいことを理解するであろう。例えば、他の天然及び非天然トランスフェリン配列を、用語「トランスフェリン」に包含してもよく、ここでこれらは、配列番号1のSer415及び/又はThr613に相当するアミノ酸を含む。
【0045】
配列番号1のSer415及び/又はThr613に相当するアミノ酸は、典型的にN−X−S又はN−X−T(式中、Xは任意のアミノ酸、例えばリジン又はバリンであり、典型的にはシステイン、トリプトファン又はプロリンではない)の配列を有するトランスフェリンタンパク質であって、N−結合型グリコシル化コンセンサス部位に存在するセリン又はスレオニンである(すなわち、オリゴサッカリルトランスフェラーゼ酵素に認識される配列内である)。ただし、当該Ser415及び/又はThr613相当するアミノ酸は、相当物であるために、Ser415(つまり、トランスフェリンタンパク質のN−末端から415アミノ酸)又はThr613(つまり、トランスフェリンタンパク質のN−末端から613アミノ酸)と同じ位置である必要はない。例えば、当業者は、配列番号1の配列及びそのトランケート型の単純な配列比較により、配列番号1のN−末端トランケート型におけるSer415及びThr613の相当物の位置を容易に決定できるであろう。本明細書において、相当物とは機能的相当物であり、トランスフェリン分子内のアミノ酸は、それがトランスフェリンタンパク質のN−結合型グリコシル化部位内の第三アミノ酸であり(第一はAsn)であるとともに、トランスフェリンタンパク質のN−末端に最近接するグリコシル化部位である場合、配列番号のSer415に相当すると言える。同様に、トランスフェリン分子内のアミノ酸は、それがトランスフェリンタンパク質のN−結合型グリコシル化部位内の第三アミノ酸であり(第一はAsn)であるとともに、トランスフェリンタンパク質のN−末端に最近接するグリコシル化部位である場合、配列番号1のThr613に相当すると言える。
【0046】
配列番号1のAsn413、配列番号1のLys414、配列番号1のAsn611、及び配列番号1のVal612の相当物も、同じ手法を用いて速やかに決定できる。Asn413及びAsn611の相当物は、それぞれSer415及びThr613の相当物から(N末端方向に)2アミノ酸離れたところにあるはずである。Lys414の相当物は、Asn413及びSer415の相当物がその両側に隣接する任意のアミノ酸があり得る。Val612の相当物は、Asn611及びThr615の相当物がその両側に隣接する任意のアミノ酸があり得る。
【0047】
すなわち、本発明のトランスフェリンタンパク質は、配列挿入、削除及び置換により、本発明の第一、第二及び第三の態様で既に規定された改変以外の点で、配列番号1の配列と異なってもよい。従って、トランスフェリンタンパク質は、配列番号1のアミノ酸Asn413、Lys414、Ser415、Asn611、Val612及びThr613の相当物を含有するものであれば、トランスフェリンファミリー(Testa, Proteins of iron metabolism, CRC Press, 2002; Harris & Aisen, Iron carriers and iron proteins, Vol. 5, Physical Bioinorganic Chemistry, VCH, 1991)及びその誘導体、例えばトランスフェリン、変異体トランスフェリン(Mason et al, 1993, Biochemistry, 32, 5472; Mason et al, 1998, Biochem. J., 330(1), 35)、トランケート型トランスフェリン、トランスフェリンローブ(Mason et al, 1996, Protein Expr. Purif., 8, 119; Mason et al, 1991, Protein Expr. Purif., 2, 214)、ラクトフェリン、変異体ラクトフェリン、トランケート型ラクトフェリン、ラクトフェリンローブ又は上記のもののその他のペプチド、ポリペプチド又はタンパク質との融合体(Shin et al, 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, 2820; Ali et al, 1999, J. Biol. Chem., 274, 24066; Mason et al, 2002, Biochemistry, 41, 9448)のうちの任意の1つとすることができる。
【0048】
本発明のトランスフェリン変異体は、別のタンパク質、特に例えば以下に記載のような生物活性タンパク質と任意に融合してもよい。当該融合体は、N−又はC−末端においてであっても、又は挿入体を含んでもよい。当業者は、オープンリードフレームが、任意の配列を含んでなるタンパク質をコードしてもよいし、それが天然タンパク質(例えば酵素原)、又は変種、又は天然タンパク質の断片(例えば、あるドメインであってもよい);又は全合成タンパク質;又は異なるタンパク質の単一又は多型融合体(天然又は合成)であってもよい。トランスフェリン融合体の例としては、米国特許出願第2003-026778号、第2003-0221201号及び第2003-0226155号公報、Shin et al (1995) Proc. Natl. Acad. Sci USA. 92m 2820, Ali et al. (1999) J Biol Chem 274, 24066, Mason et al. 2002, Biochemistry 41, 9448に記載のものがあり、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0049】
本発明のトランスフェリン変異体を、例えば国際公開第2008/007146号で開示されるような当業界で既知の方法を用い、任意にナノボディ(nanobody)に組み込んでもよい。
【0050】
トランスフェリンは、ヒトトランスフェリンであっても、そうでなくてもよい。本明細書で「ヒトトランスフェリン」なる用語は、ヒト由来のトランスフェリンと同じ、又はその変種もしくは断片である物質を意味する。「変種」には、挿入体、削除体及び置換体があり、保存的又は非保存的のいずれであってもよい。
【0051】
トランスフェリンの変異体は、本発明に含まれる。当該変異体は、変化した免疫原性を有していても、そうでなくてもよい。トランスフェリン変異体は、金属イオン及び/又はトランスフェリン受容体等の他のタンパク質との天然の結合において変化してもしなくてもよい。
【0052】
また、ヒトトランスフェリン又はヒトトランスフェリン類似体の、天然の多型変種を含む。
【0053】
ある実施態様によれば、本発明の第一、第二又は第三の態様で規定するトランスフェリンタンパク質は、配列番号1の配列と、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%。92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列相同性を有するはずである。配列相同性は、当業者に既知の方法、例えば、国際公開第2006/136831号に記載の方法に従って計算してもよい。
【0054】
一般的に、ヒトトランスフェリンの変種又は断片は、配列番号1の配列を有するタンパク質の5%、10%、15%、20%、30%、40%又は50%(好ましくは少なくとも80%、90%又は95%)リガンド結合能(例えばイオン結合能)を質量対質量で有するはずである。トランスフェリン又は試験サンプルの鉄結合能は、以下に示す通りに決定できる。
【0055】
本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなるタンパク質は、少なくともSer415(又はその相当物)の変異であって、それがAsn413(又はその相当物)でグリコシル化させないアミノ酸に置き換えるような変異、及び/又はThr613(又はその相当物)の変異であって、それがAsn611(又はその相当物)でグリコシル化させないアミノ酸に置き換えるような変異、を含んでなる。「グリコシル化させない」により、当該変異されたアミノ酸と同じグリコシル化部位内のAsnアミノ酸(すなわち、Ser415の変異に関連するAsn413、及びThr613変異に関連するAsn611)は、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をコードする遺伝子が、本願の実施例に示すプロトコルに従ってS.セレビシアエ宿主株(ここで選択される当該S.セレビシアエ宿主株は、配列番号1の配列からなるタンパク質のAsn413及びAsn611でのN−結合型グリコシル化を行うことができる)で発現される場合に、N−結合型グリコシル化されることが検出できないことを意味する。
【0056】
タンパク質は、本発明のトランスフェリン変異体の配列であって、Asn413でグリコシル化をさせないアミノ酸へのSer415における変異及び/又はAsn611でグルコシル化をさせないアミノ酸へのThr613における変異に加え、タンパク質のO−結合型グルコシル化を低減させる、少なくとも1つのさらなる変異が導入される配列を含んでもよい。「O−結合型グルコシル化を低減させる」により、天然トランスフェリン分子においてO−結合型グリコシル化が関連付けられるアミノ酸がグリコシル化できないアミノ酸に変異されること、又は天然トランスフェリン分子において観察されるよりも低度O−グリコシル化をもたらすようなアミノ酸と関連するアミノ酸への変異を意味する。かかる変異に適する位置は、配列番号1の位置32であり、より好ましくはS32A又はS32Cである。
【0057】
ある実施態様によれば、変異体のグリコシル化を阻止するための、本発明のトランスフェリン変異配列にさせる、かかる(1以上の)変異は、当該トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させない。これは、変異体であって、配列番号1のSer32;配列番号1のSer415;配列番号1のAsn611;配列番号1のVal612;配列番号1のThr613;配列番号1のAsn413;配列番号1のLys414(又はこれらの相当物)のうちの任意のものに対し、グリコシル化を阻止するために作られた変異体以外の、問題のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質と同じ配列を有する「コントロール」タンパク質との比較で評価され、ここで任意に、当該問題の組み換えタンパク質及びそのコントロールは、同じ発現システムで発現させるとともに、同じ方法を用いて単離する。
【0058】
かかる変異体の、コントロールと比較した生物機能は、少なくとも1つ、又は1以上の鉄結合能、受容体結合能、鉄取り込み量、及び細胞培養機能のことを言う。
【0059】
鉄結合能とは、鉄を可逆的に結合するトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質の能力のことを言う。すなわち、ある実施態様によれば、変異体のグリコシル化を阻止するため、本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質においてなされる、トランスフェリン配列の変異は、コントロールトランスフェリンの鉄結合能の、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は実質的に100%(また、任意に、コントロールトランスフェリンの鉄結合能の、150%、140%、130%、120%、110%、105%、104%、103%、102%、101% 又は実質的に100%以下)を有する場合、変異体の生物機能を実質的に低減させないと考えられる。鉄結合能は、タンパク質の、その鉄未含有状態及び完全な鉄保有状態における、470nm:280nmの吸収比率を用いる分光光度法で決定できる。試薬は、特に言及しない限り、鉄未含有である。鉄は、0.1 M クエン酸、0.1 M 酢酸、10 mM EDTA pH 4.5に対する透析によりトランスフェリン又は試験サンプルから除去できる。タンパク質は、100mM HEPES, 10mM NaHCO3 pH8.0中、およそ20mg/mLである。アポトランスフェリン(即ち、鉄未含有状態のコントロールトランスフェリン)(Calbiochem, CN Biosciences, Nottingham, UK)の470nm:280nmの吸収比率は、280 mMでの吸収が分光光度的に正確に測定できるよう水で希釈する(0% 鉄結合)。2 mLの1 M NaOH中の191 mg ニトロ三酢酸を溶解させ20 mMの鉄−ニトロ三酢酸(FeNTA)溶液を調製し、その後、2 mLの0.5 M塩化第二鉄を添加する。脱イオン化水50 mLで希釈する。用事調製した20 mM FeNTAの十分過剰量を添加することにより、のアポ−(コントロール)トランスフェリンに鉄を完全に保有させ(100%鉄結合)、その後、470nm:280nmの吸収比率測定前に、残存FeNTAを除去するため、100mM HEPES, 10mM NaHCO3 pH8.0に対して、ホロトランスフェリン調製物を完全に透析する。試験サンプルを用いてこの工程を繰り返し(即ち、問題のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質)たものは、当初鉄未含有状態であり、最終的比率をコントロールと比較する。
【0060】
別の実施態様によれば、本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質においてなされる、トランスフェリン配列の変異は、コントロールトランスフェリンの受容体結合能の、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は実質的に100%(また、任意に、コントロールトランスフェリンの受容体結合能の、150%、140%、130%、120%、110%、105%、104%、103%、102%、101% 又は実質的に100%以下)を有する場合、変異体の生物機能を実質的に低減させないと考えられる。受容体結合能は、リアルタイムでの生体分子相互作用研究の技術に基づく、無標識の表面プラズモン共鳴(SPR)、又は放射標識鉄取り込みアッセイ(以下参照)により決定できる。
【0061】
鉄取り込み能とは、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質の、鉄結合、及びトランスフェリン受容体への結合、及びその後の受容体介在型エンドサイトーシスを介しての細胞による内部移動能力のことを言う。すなわち、別の実施態様によれば、変異体のグリコシル化を阻止するため、本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質においてなされる、トランスフェリン配列の変異は、コントロールトランスフェリンの鉄取り込み能の、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は実質的に100%(また、任意に、コントロールトランスフェリンの鉄取り込み能の、150%、140%、130%、120%、110%、105%、104%、103%、102%、101% 又は実質的に100%以下)を有する場合、変異体の生物機能を実質的に低減させないと考えられる。鉄取り込み能は、ヒト赤血白血病K562細胞を用いる55Fe取り込みアッセイにおいて放射標識トランスフェリンの受容体介在型運搬により決定できる。この赤血白血病細胞系列は、この経路によるトランスフェリンと鉄供与体の受容体介在型エンドサイトーシスのモデルの開発において標準的であった(Klausner et al, 1983, J. Biol. Chem., 258, 4715-4724; Bates & Schlabach, 1973, J. Biol. Chem., 248, 3228-3232)。あるいは、トランスフェリンサンプルを、競合アッセイにおいて互いに比較することができ、例えば、2つの未標識組み換えトランスフェリンを、血漿トランスフェリンコントロールによる放射標識鉄取り込みの阻害能と比較する。
標識したジ三価鉄(diferric)トランスフェリンからの鉄イオン−55の取り込みのために、標準条件(重炭酸バッファ化、5% CO2、抗生物質、10%ウシ胎仔血清)下、RPMI細胞培地中で培養したK562赤血白血病細胞を、HEPES−バッファ及び1 mg/mLのウシ血清アルブミン含有の無血清培地で洗浄し、この培地中1000万細胞/mlの濃度で使用する。試験サンプルを、等モル濃度のアポトランスフェリンとして調製する。トランスフェリンに、鉄源としてニトロ三酢酸鉄を用いる標準手法によって、鉄を保持させることができる。55Feで標識した、コントロールタンパク質の漸増濃度溶液又は各々の試験タンパク質サンプル(0, 25, 100, 200, 400, 800, 1600 nM)を、25 μlの培地と混合し、300 μlの細胞懸濁物の添加により反応を開始した。並行実験の第二系を、非特異的結合が未標識ジ三価鉄トランスフェリンの100倍過剰量存在下で実施する。37℃で25分間経過後、氷浴に浸漬することにより反応を停止させ、60μlの細胞懸濁物を3滴、新しい管に移し、この細胞を冷却しながら遠心分離し、その後再びジエチルフタレート/ジブチルフタレートの油層を添加する。上清を除去し、細胞ペレットを計数バイアルに移し、0.5 M KOH + 1% Triton X-100ですすいだ。一晩分解後、ライセートを1M HClで中性化し、Readysolvシンチレーションカクテルと混合するとともに、Packard液体シンチレーションカウンターで計数する。結果物は、fmol 55Fe/百万細胞で示すことができ、これはトランスフェリン受容体の解離計数(Kd)を計算するために使用できる。一晩分解後、ライセートを1M HClで中性化し、Readysolvシンチレーションカクテルと混合するとともに、Packard液体シンチレーションカウンターで計数する。
【0062】
競合実験のために、漸増濃度のコントロールジ三価鉄タンパク質及び試験対象のジ三価鉄サンプル(0, 25, 100, 200, 400, 800, 1600 nM)を、25μlの培地中の55Feで標識した、100 んMの天然ジ三価鉄血漿トランスフェリンと混合できる。300μlの細胞懸濁物の添加により反応を開始させる。37℃で25分経過後、氷浴に浸漬させることにより反応を停止させ、60μlの細胞懸濁物を3滴、新しい管に移し、この細胞を冷却しながら遠心分離し、その後再びジエチルフタレート/ジブチルフタレートの油層を添加する。上清を除去し、細胞ペレットを計数バイアルに移し、0.5 M KOH + 1% Triton X-100ですすいだ。一晩分解後、ライセートを1M HCl及び/で中性化し、Readysolvシンチレーションカクテルと混合するとともに、Packard液体シンチレーションカウンターで計数する。
【0063】
別の実施態様によれば、変異体のグリコシル化を阻止するため、本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質においてなされる、トランスフェリン配列の変異は、コントロールトランスフェリンの細胞培養機能の、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は実質的に100%(また、任意に、コントロールトランスフェリンの細胞培養機能の、150%、140%、130%、120%、110%、105%、104%、103%、102%、101% 又は実質的に100%以下)を有する場合、変異体の生物機能を実質的に低減させないと考えられる。細胞培養機能は、Keenan et al, 2006, Cytotechnology, 51, 29-37に記載の方法(当該方法は、参照により本明細書に組み込まれる)により決定できる。
【0064】
本明細書に示す通り、「保存的」アミノ酸置換なる用語は、同じグループ内でなされ、典型的には実質的にタンパク質機能に影響しない置換のことを言う。ある実施態様によれば、以下の図を保存的置換アミノ酸置換を決定するために使用してもよい。
【0065】
【化1】

【0066】
別の実施態様によれば、「保存的」アミノ酸置換とは、塩基性アミノ酸(例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(例えば、グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(例えば、グルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(例えば、ロイシン、イソロイシン、バリン)、芳香族アミノ酸(例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)及び小アミノ酸(例えばグリシン、アラニン、セリン、スレオニン、メチオニン)のグループ内と同じグループ内でなされる置換のことを言う。
【0067】
従って、例えばSer415の保存的置換には、グリシン又はアラニンが含まれる。Thr613の保存的置換には、グリシン、アラニン、バリン又はメチオニンが含まれる。Asn413及び/又はAsn611の保存的置換には、グルタミン酸及びアスパラギン酸が含まれる。
【0068】
非保存的置換には、別のグループのアミノ酸による、あるグループのアミノ酸の置換が包含される。例えば、非保存的置換には、極性アミノ酸から、疎水性アミノ酸への置換があり得る。
【0069】
本発明の第一、第二又は第三の態様のいずれか1つの態様により上記規定されたトランスフェリン変異体の配列を含んでなるタンパク質をコードする配列を含んでなる、ポリヌクレオチド(例えば、DNA又はRNA分子)を作製してもよい。組み換えトランスフェリン変異体の配列を含んでなるタンパク質をコードする遺伝子でもよい。
【0070】
トランスフェリン変異体の配列を含んでなるタンパク質は、トランスフェリン変異体の配列を含んでなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列(典型的には、任意の所与の生物での標準コドン使用頻度による)を含んでなり、これはオープンリーディングフレーム(ORF)と言われる。さらに遺伝子は、オープンリーディングフレームをコードしない、いくつかのポリヌクレオチド配列(「非コード領域」と呼ばれる)を含んでもよい。
【0071】
当該遺伝子における非コード領域は、ORFに作動的に結合する、1以上の調節配列を含有してもよく、これはオープンリーディングフレームの転写及び/又は得られた転写物の翻訳をさせる。
【0072】
「調節配列」なる用語は、ある配列が作動的に結合するORFの発現(即ち、転写及び/又は翻訳)を調整する(即ち、促進又は減速させる)配列のことを言う。典型的に調節領域には、プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位等が含まれる。当業者は、調節領域の選択は、意図する発現系次第であることを理解するであろう。例えば、プロモーターは、構成的でも誘導性であってもよく、また細胞−もしくは組織−特異的でも、それに対して非特異的であってもよい。
【0073】
好適な調節領域は、鎖長が、5bp、10bp、15bp、20bp、25bp、30bp、35bp、40bp、45bp、50bp、60bp、70bp、80bp、90bp、100bp、120bp、140bp、160bp、180bp、200bp、220bp、240bp、260bp、280bp、300bp、350bp、400bp、450bp、500bp、550bp、600bp、650bp、700bp、750bp、800bp、850bp、900bp、950bp、1000bp、1100bp、1200bp、1300bp、1400bp、1500bp 又はそれ以上のものがあり得る。
【0074】
当業者は、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をコードする遺伝子が、非コード領域及び/又は調節領域をさらに含んでもよいことを認識するはずである。当該非コード領域及び調節領域は、天然の非コード領域及び/又はシャペロンORFに通常関連する調節領域に限定されるものではない。
【0075】
発現系(即ち、宿主細胞)が、酵母、例えばサッカロマイセス・セレビシアエである場合、S.セレビシアエに適するプロモーターには、PGK1遺伝子、GAL1又はFGAL10遺伝子、TEF1、TEF2、PYK1、PMA1、CYC1、PHO5、TRP1、ADH1、ADH2、遺伝子であって、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、グルコキナーゼ、α−接合因子フェロモン、a−接合因子フェロモンの遺伝子、PRB1プロモーター、PRA1プロモーター、GPD1プロモーター、及び5'調節領域の部分と、他の5'調節領域の部分ともの、又は上流活性部位とのハイブリッドに関連するハイブリッドプロモーター(例えば、欧州特許第A−258 067号のプロモーター)がある。
【0076】
好適な転写終結シグナルは当業界で周知である。宿主細胞が真核性である場合、転写終結シグナルは、好ましくは真核遺伝子の3'フランキング配列であり、これは転写終結及びポリアデニル化のための適正なシグナルを含有する。好適な3'フランキング配列は、例えば、使用されるコントロール配列の発現に自然に結合する遺伝子等、即ち、プロモーターに対応するものでもよい。あるいは、これらは異なってもよい。その場合で、且つ宿主細胞が酵母、好ましくはS.セレビシアエの場合、S.セレビシアエ ADH1、ADH2、CYC1、又はPGK1遺伝子の終結シグナルが好ましい。
【0077】
転写で、任意の隣接遺伝子、例えば2μm遺伝子に、全て読み込まれること、及びその逆を阻止するため、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター及びオープンリーディングフレームを、転写終結配列がプロモーター及びオープンリーディングフレームの上流及び下流の両方に位置するように、転写終結配列と隣接させることは有益である。
【0078】
ある実施態様によれば、酵母、例えばサッカロマイセス・セレビシアエ等の好ましい調節配列には:酵母プロモーター(例えば、サッカロマイセス・セレビシアエPRB1プロモーター)で、欧州特許第431 880号に教示されるもの;及び転写ターミネーター、好ましくはサッカロマイセスADH1由来のターミネーターで、欧州特許第60 057号に教示されるものがある。
【0079】
転写読み込みを最小化するため、即ち伸長非天然融合タンパク質の作製を回避するために、例えばUAA、UAG又はUGA等の転写終止コドンをコードする、1以上のDNA配列を組み込むための非コード領域が有益である。転写終止コドンUAAが好ましい。
【0080】
「作動的に結合する」なる用語は、調節配列が、その意図する順序でORFに影響を与させるようにORFと関係を形成するよう、遺伝子中の任意の非コード領域内に、調節配列を置くことを意味する。即ち、ORFと「作動的に結合した」調節領域は、調節配列と同じ条件下で、意図した順序で、調節領域が、ORFの転写及び/又は翻訳に影響を及ぼすことができるように置かれる。
【0081】
ある好ましい実施態様によれば、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質が分泌される。この場合、分泌リーダー配列をコードする配列は、オープンリーディングフレームに含まれてもよい。即ち、本発明の第四の態様によるポリヌクレオチドが、分泌リーダー配列をコードするポリヌクレオチド配列に作動的に結合するトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をコードする配列を含んでもよい。リーダー配列は、必ずしもそうではないが一般的に、ORFの一次翻訳産物のN−末端に位置し、必ずしもそうではないが一般的に、「変異体」タンパク質を生み出すために、分泌プロセスの過程でタンパク質を切り出す。即ち、ある実施態様によれば、リーダー配列において「作動的に結合する」なる用語は、トランスフェリンへ変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をコードする配列が、その5'末端で、及びインフレームで、分泌リーダー配列をコードするポリヌクレオチド配列の3'末端に結合することを意味することもある。あるいは、分泌リーダー配列をコードするポリヌクレオチド配列は、インフレームで、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質の配列をコードする配列内に位置してもよいし、又はトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質のコード配列の3'末端に位置してもよい。
【0082】
多数の天然又は人工のポリペプチドリーダー配列(分泌前領域及び前/後領域とも呼ばれる)は、宿主細胞由来の分泌タンパク質用として使用又は開発されている。リーダー配列は、新生タンパク質を、周囲培地、又は時には細胞膜周辺腔に細胞由来タンパク質を排出する細胞機構に向かわせる。
【0083】
真核種、例えばサッカロマイセス・セレビシアエ、ジゴサッカロマイセス株、クルイベロマイセス・ラクティス及びピキア・パストリス等におけるタンパク質の作製については、既知のリーダー配列には、S.セレビシアエ酸ホスファターゼタンパク質(Pho5p)(欧州特許第366 400号を参照)、インベルターゼタンパク質(Suc2p)(Smith et al. (1985) Science, 229, 1219-1224を参照)及び熱ショックタンパク質−150(Hsp150p)(国際公開第95/33833号を参照)がある。さらに、S.セレビシアエ接合因子アルファ−1タンパク質(MHα−1)、及びヒトリゾチーム及びヒト血清アルブミン(HSA)タンパク質由来のリーダー配列が使用されており、限定するものではないが、後者はヒトアルブミン分泌用として特に使用されている。国際公開第90/01063号には、MFα−1及びHSAリーダー配列の融合体が開示されている。さらに、天然トランスフェリンリーダー配列は、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質の直接的セレクションに使用してもよいし、しなくてもよい。
【0084】
本発明の第五の態様によるポリヌクレオチドは、本発明の第六の態様によるプラスミドに組み込まれてもよい。当業者は、任意の好適なプラスミド、例えばセントロメアプラスミド等を使用してもよいことを理解するだろう。その他の好適なプラスミドには、酵母−相当の2μmベースプラスミドがある。国際公開第2005/061718号は、好適なプラスミドの記載を豊富に提供しており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。さらに、国際公開第2005/061718号に記載の通り、プラスミドは、トランスフェリン変異体の配列を含んでなるタンパク質用のプラスミドをコードする遺伝子との共発現のために、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)等のシャペロンをコードする遺伝子を含んでもよい。
【0085】
本発明の第五及び第六の態様による、ポリヌクレオチド又はプラスミドは、宿主細胞を形質転換するために使用することができる。宿主細胞は、任意の細胞型でよい。宿主細胞は、動物(例えば哺乳類、鳥類、虫類等)、植物、真菌又は細菌細胞であっても、そうでなくてもよい。細菌及び真菌、例えば酵母の宿主細胞が好ましいが、そうでなくてもよい。
【0086】
ある実施態様によれば、宿主細胞は、酵母細胞、例えば、サッカロマイセス、クルイベロマイセス、又はピキア族のもの、例えばサッカロマイセス・セレビシアエ、クルイベロマイセス・ラクティス、ピキア・パストリス及びピキア・メンブラナエファシエンス又はジゴサッカロマイセス・ロウキシイ、ジゴサッカロマイセス・バイリイ、ジゴサッカロマイセス・フェルミンタティ(Zygosaccharomyces fermentati)、又はハンセヌラ・ポリモルファ(別名ピキア・アングスタ)又はクルイベロマイセス・ドルスフィララムが好ましい。
【0087】
あるさらなる実施態様によれば、宿主細胞は、真菌細胞、例えば、アスペルギルス・ニゲル、アスペルギルス・オリザエ、トリコデルマ、フサリウム・ベネナタム、ピキア・アングスタ又はハンセヌラ・ポリモルファがある。
【0088】
例えば酵母宿主細胞等の宿主細胞であって、タンパク質のO−グリコシル化に関与する、1以上のタンパク質マンノシルトランスフェラーゼを、例えば遺伝子コード配列の崩壊により欠損する細胞の使用に、特に有利な可能性がある。国際公開第94/04687号は、1以上のPMT遺伝子を欠損する酵母種を開示するとともに、さらに国際公開第2005/061718号において議論されており、この内容は参照により本明細書に組み込まれる。あるいは、酵母はある1つのPMT遺伝子の活性を阻害する化合物の存在下で培養できる(Duffy et al, “Inhibition of protein mannosyltransferase 1 (PMT1) activity in the pathogenic yeast Candida albicans”, International Conference on Molecular Mechanisms of Fungal Cell Wall Biogenesis, 26-31 August 2001, Monte Verita, Switzerland, Poster Abstract P38; the poster abstract may be viewed at http://www.micro.biol.ethz.ch/cellwall/)。
【0089】
ある実施態様によれば、宿主細胞は、PDI等のシャペロン、又は別のシャペロンであって、国際公開第2005/061718号、第2006/067511号又は第2006/136831号に記載のシャペロンを過剰発現してもよい。この内容は参照により本明細書に組み込まれる。例えば、宿主細胞は、その内因性複製物に加え、シャペロン(例えばPDI)遺伝子の1以上の追加の染色体複製物を含んでもよいし、又は例えば内因性シャペロン(例えばPDI)遺伝子の過剰発現を引き起こすように遺伝子改変してもよい。
【0090】
動物細胞の形質転換に適する方法は、当業界で周知であり、例えば、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の使用がある。Wolkowicz et al, 2004, Methods Mol. Biol., 246, 391-411は、細胞培養技術での使用のため、組み換え核酸配列を、哺乳類細胞へ送達するためのレンチウイルスベクターの使用について記載している。Fassler, 2004, EMBO Rep., 5(1), 28-9は、レンチウイルス導入遺伝子ベクター及び導入遺伝子システムの作製におけるその使用について概説している。脊椎動物細胞に関して、かかる細胞の形質移入に有用な試薬、例えばリン酸カルシウム及びDEAE−デキストラン又はリポソーム製剤等は、Stratagene Cloning Systems、又はLife Technologies Inc., Gaithersburg, MD 20877, USAから入手可能である。
【0091】
原核性宿主細胞の形質転換に関しては、例えば、Cohen et al (1972) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 69, 2110 and Sambrook et al (2001) Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NYを参照されたい。
【0092】
酵母細胞の形質転換は、Sherman et al (1986) Methods In Yeast Genetics, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, NYに記載されている。Beggs (1978) Nature 275, 104-109の方法も、有用である。S.セレビシアエの形質転換方法は、欧州特許第251 744号、第258 067号及び国際公開第90/01063号に一般的に教示されており、これら全ては参照により本明細書に組み込まれる。
【0093】
エレクトロポレーションも、細胞の形質転換にとって有用であり、且つ真菌(例えば酵母)細胞、植物細胞、細菌細胞及び動物(例えば脊椎動物)細胞を形質転換する、当業界で周知の技術である。エレクトロポレーションによる酵母の形質転換のための方法は、Becker & Guarente (1990) Methods Enzymol. 194, 182に記載がある。
【0094】
上記規定のポリヌクレオチド又はプラスミドは、上記の標準技術を用いて宿主に導入してもよい。一般的に、ポリヌクレオチド又はプラスミドは、全ての宿主に形質転換するわけではないため、形質転換宿主細胞を選択する必要がある。すなわち、ポリヌクレオチド又はプラスミドは、選択可能なマーカー、限定するものではないが例えば、細菌選択可能マーカー及び/又は酵母選択可能マーカー等を含んでもよい。典型的な細菌選択可能マーカーは、β−ラクタマーゼ遺伝子であるが、多くの他のものが当業界で既知である。典型的な酵母選択可能マーカーには、LEU2、TRP1、HIS3、HIS4、URA3、URA5、SFA1、ADE2、MET15、LYS5、LYS2、ILV2、FBA1、PSE1、PDI1及びPGK1がある。
【0095】
あるセレクション技術には、形質転換細胞における選択可能な形質のためにコードするDNA配列マーカーを、任意の必要なコントロール要素と共に、ポリヌクレオチド又はプラスミドに組み込むことが含まれる。これらのマーカーには、E.coli及びその他の細菌での培養のための、ジヒドロフォレートレダクターゼ、G418、ネオマイシン、アンピシリン(即ち、β−ラクタマーゼ)又はゼオシン耐性遺伝子がある。ゼオシン耐性ベクターは、Invitrogenから入手可能である。あるいは、当該選択可能な形質のための遺伝子は、所望の宿主細胞を同時形質転換のために使用される、別のベクター上でも可能である。
【0096】
形質転換が成功した細胞を確認する別の方法としては、ポリヌクレオチド又はプラスミドの導入の結果得られる細胞を増殖し、任意に組み換えポリペプチド(すなわち、プラスミド上のポリヌクレオチド配列によりコードされ、且つ宿主細胞と異種接合型であるポリペプチド)の発現を可能にするすることが必要である。組み換えポリペプチドは、本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質であっても、そうでなくてもよい。細胞を、採取及び溶解させるとともに、Southern (1975) J. Mol. Biol. 98, 503 or Berent et al (1985) Biotech. 3, 208に記載の方法 又は当業界で一般的なその他のDNA及びRNA分析方法等を用いて、そのDNA又はRNA画分に、組み換え配列が存在するかを調べる。あるいは、形質転換細胞の培養物の上清中のポリペプチドの存在は、抗体を用いて検出できる。
【0097】
組み換えDNAの存在を直接評価することに加え、DNAがタンパク質の発現を方向付けることができる場合、形質転換の成功を周知の免疫的方法により確認できる。例えば、発現ベクターでの形質転換が成功した細胞は、適切な抗原性を示すタンパク質を作製する。形質転換されたと思われる細胞のサンプルを回収するとともに、好適な抗体を用いてタンパク質を評価する。
【0098】
以下の形質転換した宿主細胞は、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質の発現を可能にする条件下で培養できる。当業者に既知であり、その教示の観点から適切な条件を、本明細書に開示する。培養培地は、非選択的でもよいし、又は本発明の第四又は第五の態様のポリペプチド又はプラスミドの宿主細胞の維持培地(maintenance)に対して選択的に働きかけてもよい。
【0099】
その結果作製された、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質は、細胞内に存在しても、あるいは分泌される場合は、宿主細胞の培養培地及び/又はペリプラズム空間に存在してもよい。従って、当該培養宿主細胞、組み換え生物又は培養培地から、発現組み換えタンパク質を単離するさらなるステップを実施することが適切なこともある。
【0100】
「培養宿主細胞、組み換え生物又は培養培地から、発現組み換えタンパク質を単離する」ステップは、細胞固定化、細胞分離及び/又は細胞破砕を任意に含んでなるが、細胞固定化、分離及び/又は破砕についての1又は複数のステップとは異なる、少なくとも1回の他の精製ステップを常に含んでなる。
【0101】
細胞固定化技術、例えばカルシウムアルギン酸ビーズを用いる細胞包埋等は、当業者に周知である。同様に、細胞分離技術、例えば遠心分離、濾過(例えば、クロスフロー濾過、エクスパンデッドベッド(expanded bed)クロマトグラフィ等)は当業界で周知である。同様に、細胞の破砕方法は、ビーズミル、超音波処理、酵素的暴露等が当業者に周知である。
【0102】
当業界で既知の技術は、発現組み換えタンパク質を回収するために使用できる。ある実施態様によれば、トランスフェリン変異体配列を含んでなる発現組み換えタンパク質は、宿主により分泌され、特定の精製組み換えタンパク質を作製する上清の遠心分離及び回収により、細胞培養培地から回収される。
【0103】
特定の精製組み換えタンパク質は、1又は複数のタンパク質精製ステップにより、上清からさらに精製してもよい。トランスフェリンを精製するための方法は、例えば、米国特許第5,986,067号;第6,251,860号;第5,744,586号;及び米国特許第5,041,537号で開示されている。これらの文献は、組み換え宿主細胞からではなくむしろ、血漿からのトランスフェリンの精製に言及しているが、それでもここで使用されるいくつかのステップは、有効に適用される。さらに、タンパク質精製のために有用であることがわかっている任意の既知の技術を使用してもよい。好適な方法には、硫酸アンモニウムもしくはエタノール沈殿、酸もしくは溶媒抽出、アニオンもしくはカチオン交換クロマトグラフィ、ホスホセルロースクロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィ、レクチンクロマトグラフィ、濃縮、希釈、pH調整、ダイアフィルトレーション、限外濾過、高機能液体クロマトグラフィ(HPLC)、逆相HPLC、伝導率調整等がある。例えば、ある実施態様によれば、1又は複数のイオン交換ステップを使用してもよい。例えば、カチオン交換ステップは、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質に対して、ポジティブ又はネガティブモードで実行するカチオン交換の後に、任意に(精製ステップに干渉してもしなくても)、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質に対して、ポジティブ又はネガティブモードで実行するアニオン交換を行い、これは順序が逆でもよい。
【0104】
すなわち、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる、単離組み換えタンパク質は、アポトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質として、鉄未含有型(即ち「アポ」)状態で提供しても、又はホロトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質を作製する当業界で既知の技術を用いるホロ化(即ち、Fe3+イオンでの飽和)を受けさせてもよい。トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質の、最終的に製造された調整物は、部分的又は完全にホロ化されていてもよい。例えば、その鉄結合能は、99%、95%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又は実質的に 0% 未満でもよい。鉄結合能は、例えば欧州特許第1 094 835 B1号に記載の方法(パラグラフ49〜51参照、当該内容は参照により、本明細書に組み込まれる)で決定してもよい。
【0105】
トランスフェリン変異体の配列を含んでなる単離組み換えタンパク質は、例えば限外濾過又は透析等の当業界で既知の技術を用いて、その濃度又は環境を改変するよう操作してもよい。ある実施態様によれば、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる単離組み換えタンパク質は、濃度がおよそ、10-4 g.L-1、10-3 g.L-1、0.01 g.L-1、0.02 g.L-1、0.03 g.L-1、0.04 g.L-1、0.05 g.L-1、0.06 g.L-1,0.07 g.L-1、0.08 g.L-1、0.09 g.L-1、0.1 g.L-1、0.2 g.L-1、0.3 g.L-1、0.4 g.L-1、0.5 g.L-1、0.6 g.L-1、0.7 g.L-1、0.8 g.L-1、0.9 g.L-1、1 g.L-1、2 g.L-1、3 g.L-1、4 g.L-1、5 g.L-1、6 g.L-1、7 g.L-1、8 g.L-1、9 g.L-1、10 g.L-1、15 g.L-1、20 g.L-1、25 g.L-1、30 g.L-1、40 g.L-1,50 g.L-1、60 g.L-1、70 g.L-1、70 g.L-1、90 g.L-1、100 g.L-1、150 g.L-1、200 g.L-1、250 g.L-1、300 g.L-1、350 g.L-1、400 g.L-1、500 g.L-1、600 g.L-1、700 g.L-1、800 g.L-1、900 g.L-1、1000 g.L-1、又はそれ以上で提供されてもよい。濃度1〜100 g.L-1、例えば10〜50 g.L-1、15〜25 g.L-1、又は18〜22 g.L-1、例えばおよそ20 g.L-1が好ましい。
【0106】
トランスフェリン変異体を含んでなる単離組み換えタンパク質はまた、例えば0.22μm濾過等の既知の技術を用いて滅菌してもよい。
【0107】
商業的又は工業的に受容可能なレベルの純度は、トランスフェリンエン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質がその意図した目的に適する状態する、比較的粗い精製方法により得てもよい。商業的又は工業的に受容可能なレベルの純度まで精製したタンパク質調製物は、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質に加えて、例えば宿主細胞又はそれ由来の破片等の細胞構成成分を含んでもよい。あるいは、高分子量構成成分(例えば、宿主細胞又はそれ由来の破片)は、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質、及び任意に、細胞培養プロセスに由来する機能的に許容されるレベルの低分子量汚染物を含んでなる組成物の作製のために、除去(例えば濾過又は遠心分離)をしてもよいし、しなくてもよい。
【0108】
トランスフェリン変異体の配列を含んでなる単離組み換えタンパク質は、医薬的に許容されるレベルの純度を達成するよう精製しても、しなくてもよい。タンパク質は、それが本質的に発熱物質未含有で、当該タンパク質の活性に関連しない医療作用を引き起こすことなく医薬有効量で投与できる場合、医薬的に許容されるレベルの純度を有する。
【0109】
トランスフェリン変異体の配列を含んでなる得られた単離組み換えタンパク質は、任意の既知の用途に使用してよく、用途としては、様々な症状を治療するための患者への静脈投与、及び培養培地への補充、及びその他のタンパク質の製剤中の賦形剤としての用途がある。
【0110】
本発明の単離組み換えタンパク質は、当業界で周知の方法を用いる医薬組成物として製剤化してもよいし、血漿トランスフェリン等のトランスフェリンにより治療可能であると知られる適応症の治療のために投与されてもよい。トランスフェリンの臨床的使用の例としては、米国特許出願第10/405,612号がある。
【0111】
本発明の単離組み換えタンパク質はまた、一般的医療的使用、被覆及び生体材料等のトランスフェリンの既知の用途の活用のために使用してもよい。本発明のタンパク質を使用できる生体材料の例としては、Ghosh et al (2008) Angew. Chem. Int. Ed 47, 2217-2221 で言及されるものがあり得る。
【0112】
本発明の方法は、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる単離組み換えタンパク質を、担体又は希釈剤と共に製剤化するステップ、及びその結果ある単位投薬形態で製剤化されたタンパク質を任意に提示するステップをさらに含んでなるものであっても、そうでなくてもよい。
【0113】
本発明のプロセスにより得られるトランスフェリン変異体の配列を含んでなる単離組み換えタンパク質を単独で投与することは可能であるが、1又は複数の許容される担体又は希釈剤と共に、医薬製剤として提示することが好ましい。(1又は複数の)タンパク質又は(1又は複数の)希釈剤は、所望のタンパク質と適合するという意味で「許容可能」でなければならず、その受取人に対して有害であってはならない。典型的には、担体又は希釈剤は、滅菌され且つ発熱物質未含有の水又は生理食塩水である。
【0114】
トランスフェリン変異体の配列を含んでなる、任意に製剤化された組み換えタンパク質は、単位投薬形態で、例えば錠剤、カプセル、注射剤等で提示されるだろう。
【0115】
あるいは、本発明の方法は、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる単離組み換えタンパク質を凍結乾燥するステップをさらに含んでも、そうでなくてもよい。
【0116】
上記議論の通り、本発明の第十の態様は、本発明の第一、第二、第三又は第四の態様のいずれか1つの態様によるトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質と、及びグルタミンン、インスリン、アルブミン、エタノールアミン、フェチュイン、ビタミン、リポタンパク質、脂肪酸、アミノ酸、亜セレン酸ナトリウム、ペプトン、インスリン様増殖因子及び抗酸化物からなる群から選択される1又は複数の構成成分とを含んでなる哺乳類細胞培養培地を提供する。
【0117】
本発明の第十の態様のある実施態様によれば、当該組成物は、(i)基本培地;(ii)トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質;及びインスリン、亜セレン酸ナトリウム、グルタミン、アルブミン、ペプトン、エタノールアミン、フェチュイン、ビタミン、リポタンパク質、脂肪酸、インスリン様増殖因子及びアミノ酸からなる群から選択される1又は複数の構成成分を含んでなる。
【0118】
組成物は、本発明によるトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質を、例えば、0.0001-10%、0.0005-7.5%、0.001-5.0%の範囲で、最も具体的には 0.05-3.0% (w/v)の範囲で含んでもよい。
【0119】
組成物は、アルブミンを、0.001-1000 mg/Lの範囲で、より具体的には0.01-500 mg/Lの範囲、さらにより具体的には0.01-100 mg/Lの範囲及び最も具体的には0.04-10 mg/Lの範囲で含んでもよい。かかるアルブミンは組み換えアルブミンでもよく、この場合、無血清供給源から得ること、及び任意の他の動物由来タンパク質をこの組成物に添加する前は、実質的にそれを未含有であることが好ましく、例えば国際公開第2000/044772号に記載のものがある。この内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0120】
組成物は、インスリンを、0.01-1000 mg/Lの範囲で、より具体的には0.01-500 mg/Lの範囲、さらにより具体的には0.1-100 mg/Lの範囲、例えば1-50 mg/L、及び最も具体的には4-20 mg/Lの範囲で含んでもよい。かかるインスリンは組み換えインスリンでもよく、この場合、無血清供給源から得ること、及び任意の他の動物由来タンパク質をこの組成物に添加する前は、実質的にそれを未含有であることが好ましい。
【0121】
組成物は、リポタンパク質を、0.0001-10 mg/Lの範囲で、より具体的には0.005-7.5 mg/Lの範囲、さらにより具体的には0.1-5.0 mg/Lの範囲、及び最も具体的には0.75-3.5 mg/Lの範囲で含んでもよい。かかるリポタンパク質は組み換えリポタンパク質でもよく、この場合、無血清供給源から得ること、及び任意の他の動物由来タンパク質をこの組成物に添加する前は、実質的にそれを未含有であることが好ましい。
【0122】
組成物は、IGFを、0.00001-50 mg/Lの範囲で、より具体的には0.001-5.0 mg/Lの範囲、さらにより具体的には0.01-1.0 mg/Lの範囲、及び最も具体的には0.04-0.2 mg/の範囲で含んでもよい。かかるIGFは組み換えIGFでもよく、この場合、無血清供給源から得ること、及び任意の他の動物由来タンパク質をこの組成物に添加する前は、実質的にそれを未含有であることが好ましい。
【0123】
本発明の第十の態様の別の実施態様によれば、当該組成物は、(i)基本培地;(ii)本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質;(iii)インスリン;(iv)亜セレン酸ナトリウム;及び/又は(v)アルブミンを含んでなる。
【0124】
組成物は、アルブミン(任意に、上記の組み換えアルブミン)を、少なくとも2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5又は9 mg/ml;本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質を、少なくとも3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、7.0、10、15又は20 μg/ml;インスリン(任意に、上記の組み換えインスリン)を、およそ5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、10.5、11、11.5、12、15又は20 μg /ml;亜セリン酸ナトリウムを、少なくとも1、2、3、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、6.7、7.0、7.5、8.0、9.0、10、15又は20 μg /L含んでもよい。
【0125】
ある特定の実施態様によれば、細胞培養培地は、アルブミンをおよそ4 mg/ml;本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をおよそ5.5 μg/ml;インスリンをおよそ10 μg/ml;亜セリン酸ナトリウムをおよそ6.7 μg/L、基本培地中に含んでもよい。
【0126】
本発明の第九の態様の別の実施態様によれば、当該組成物は、(i)基本培地;(ii)アルブミン(任意に、上記の組み換えアルブミン);(iii)グルタミン;(iv)インスリン(任意に、上記の組み換えインスリン);(v)本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質;及び/又は(vi)エタノールアミンを含んでなる。当該組成物は、グルタミンをおよそ1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10 mM;アルブミンをおよそ0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1,2、3,4、5、6,7、又は8% (w/v);インスリンをおよそ1、2、3、4、5、6、7、8、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、13、14、15、16、17、18、19、20 mg/L;本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をおよそ0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.95、1、1.5、2、2.5、3,4、5、6、又は7 mg/L;及びエタノールアミンをおよそ1、2、3、4、5、6、7、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、13、14、15、16、17、18、19又は20 μM、基本培地中に含んでもよい。
【0127】
ある特定の実施態様によれば、細胞培養培地は、グルタミンをおよそ4mM;アルブミンをおよそ0.5%;インスリンをおよそ10 mg/L;本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をおよそ1 mg/L;及び/又はエタノールアミンをおよそ10 μM、基本培地中に含んでもよい。
【0128】
本発明の第九の態様の別の実施態様によれば、当該組成物は、(i)基本培地;(ii)アルブミン(任意に、上記の組み換えアルブミン);及び以下の、(iii)グルタミン;(iv)インスリン(任意に、上記の組み換えインスリン);及び(v)本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質からなる群から選択される1又は複数の構成成分を含んでなる。ある実施態様によれば、当該組成物は、グルタミンをおよそ1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10 mM;アルブミンをおよそ0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、3.5〜5、5〜10、10〜20% (w/v);インスリンをおよそ1、2、3、4、5、6、7、8、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20 mg/L;及び/又は本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をおよそ0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.95、1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、又は7 mg/L含んでなる。ある特定の実施態様によれば、当該組成物は、グルタミンをおよそ4mM;アルブミンをおよそ1 % (w/v);インスリンをおよそ10 mg/L、及び/又は本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をおよそ1 mg/L、基本培地中に含んでなる。
【0129】
本発明の第九の態様の別の実施態様によれば、当該組成物は、(i)基本培地;(ii)グルタミン;(iii)組み換えアルブミン(任意に、上記の組み換えアルブミン);(iv)インスリン(任意に、上記の組み換えインスリン);及び/又は(v)本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質;及び/又は(vii)ペプトンを含んでもよい。ある実施態様によれば、当該組成物は、グルタミンをおよそ1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10 mM;アルブミンをおよそ0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、3.5〜5、5〜10、10〜20% (w/v);インスリンをおよそ1、2、3、4、5、6、7、8、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20 mg/L;本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をおよそ0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.95、1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、又は7 mg/L;及び/又はペプトンをおよそ0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、1、2又は3 % (w/v)含んでなる。ある特定の実施態様によれば、当該組成物は、グルタミンをおよそ4mM、アルブミンをおよそ1 % (w/v)、インスリンをおよそ10 mg/L、本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をおよそ1 mg/L、及び/又はペプトンをおよそ0.1 % (w/v)、基本培地中に含んでなる。
【0130】
本発明の実施態様によれば、ペプトン又はペプトン混合物は、タンパク質加水分解物であり、これは加水分解した動物又は植物タンパク質から得られる。かかるペプトンは、屠殺したウマの精製ゼラチンからの動物副産物から、又は植物原料得ることができる。動物又は植物原料からのタンパク質は、酸、熱又は様々な酵素調製物を用いて加水分解できる。使用され得るペプトン混合物には、SPYペプトン、「プリマトン(Primatone)PL」及び/又は「プリマトンHS」があり、この両者はいずれも市販されている(Sheffield, England 又は; Quest International (IPL:5X59051), PRIMATONE(登録商標) RL)。あるいは、ペプトンは、非動物由来産物、例えば植物由来ペプトンから作製することができる。
【0131】
本発明の第九の態様の別の実施態様によれば、当該組成物は、(i)基本培地;(ii)グルタミン;(iii)アルブミン(任意に、上記の組み換えアルブミン);(iv)インスリン(任意に、上記の組み換えインスリン);(v)本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質;及び/又は(vii)フェチュイン(例えばペデルセン(Pedersen))を含んでもよい。ある実施態様によれば、当該組成物は、グルタミンをおよそ1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10 mM;アルブミンをおよそ0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、3.5 to 5、5 to 10、10 to 20% (w/v);インスリンをおよそapproximately 1、2、3、4、5、6、7、8、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、13、14、15,16、17、18、19、or 20 mg/L;本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をおよそ0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.95、1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、又は7 mg/L;及び/又はフェチュインをおよそ2、3、4、5、6、7、8、9、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、16、17、18、19、20 μg/ml含んでもよい。ある特定の実施態様によれば、本発明の組成物は、グルタミンをおよそ4 mM、アルブミンをおよそ1 % (w/v)、インスリンをおよそ10 mg/L、本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をおよそ1 mg/L、及び/又はフェチュイン(例えばペデルセン)をおよそ12.5 μg/ml、基本培地中に含んでなる。
【0132】
本発明の第九の態様の別の実施態様によれば、当該組成物は、(i)基本培地;(ii)アルブミン(任意に、上記の組み換えアルブミン);(iii)グルタミン;(iv)インスリン(任意に、上記の組み換えインスリン);(v)本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質;及び/又は(vii)ビタミンEを含んでもよい。ある実施態様によれば、当該組成物は、グルタミンをおよそ1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10 mM;アルブミンをおよそ.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、3.5〜5、5〜10、10〜20% (w/v);インスリンをおよそ1、2、3,4、5、6、7、8、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20 mg/L;本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をおよそ0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.95、1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、又は7 mg/L;及び/又はビタミンEをおよそ、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10マイクロモラー含んでもよい。ある特定の実施態様によれば、本発明の組成物は、グルタミンをおよそ4 mM、アルブミンをおよそ1 % (w/v)、インスリンをおよそ10 mg/L、本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をおよそ1 mg/L、ペプトンをおよそおよそ0.1% (w/v)、フェチュイン(例えばペデルセン)をおよそ12.5 μg/ml、及び/又はビタミンEをおよそ5 μM、含んでなる。
【0133】
さらなる実施態様によれば、当該組成物は、国際公開第2005/070120号(参照によりここに組み込まれる)において表1に挙げられた任意の培地を含んでもよい。別の実施態様によれば、無血清培地は、動物成分未含有のハイブリドーマ培地(Hybridoma Media)でも、Ex−Cell(JRH Biosciences, Inc.)でもよい。
【0134】
本発明の別の態様によれば、組成物であって、細胞培養培地として有用であり、当該培地で培養される細胞により作製される生物産物、例えばタンパク質の収率を上昇させるのに役立つ組成物を提供する。ある実施態様によれば、組成物は、生物産物の収率を、少なくとも25%、30%、50%、l00%、200%又は300%上昇させる。別の実施態様によれば、作製される生物産物は、ペプチド、例えば治療用又は診断用のペプチド、ポリペプチド、タンパク質、モノクローナル抗体、免疫グロブリン、サイトカイン(例えばインターフェロン)、インテグリン、抗原、増殖因子、細胞周期タンパク質、ホルモン、神経伝達物質、受容体、融合ペプチド、血液タンパク質及び/又はキメラタンパク質等があり得る。
【0135】
作製される生物産物は、以下のリストから選択される生物産物を含んでも、そうでなくてもよく、かかるリストには、4-1BBリガンド、5−へリックスタンパク質、ヒトC−Cケモカイン、ヒトL105 ケモカイン、huL105−3と呼ばれるヒトL105 ケモカイン、ガンマ−インターフェロンに誘導されるモノカイン (MIG)、部分的CXCR4B タンパク質、血小板塩基性タンパク質 (PBP)、a1−抗トリプシン、ACRP-30 相同体; 補体成分(Complement Component) C1q C、アデノイド発現ケモカイン(ADEC)、aFGF; FGF-1、AGF、AGF タンパク質、アルブミン、エトポシド、アンジオンスタチン、炭疽ワクチン、コラプシン特異的抗体、アンチスタチン(antistasin)、抗−TGF ベータファミリー抗体、抗スロンビンIII、APM−1; ACRP−30; ファモキシン、アポ−リポタンパク質種、アリルスルファターゼ B、b57 タンパク質、BCMA、ベータ−トロンボグロブリン タンパク質 (beta-TG)、bFGF; FGF2、血液凝固因子、BMP プロセシング酵素フューリン、BMP-10、BMP-12、BMP-15、BMP-17、BMP-18、BMP-2B、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-9、骨形態形成タンパク質−2、カルシノトン、カルパイン−10a、カルパイン−10b、カルパイン−10c、癌ワクチン、カルボキシペプチダーゼ、C-C ケモカイン、MCP2、CCR5 変種、CCR7、CCR7、CD11a Mab、CD137; 4-1BB 受容体タンパク質、CD20 Mab、CD27、CD27L、CD30、CD30リガンド、CD33 免疫毒素、CD40、CD40L、CD52 Mab、セレブス(cerebus)タンパク質、ケモカインエオタキシン、ケモカインhIL-8、ケモカインhMCP1、ケモカインhMCP1a、ケモカインhMCP1b、ケモカインhMCP2、ケモカインhMCP3、ケモカインhSDF1b、ケモカインMCP-4、ケモカインTECK及びTECK変種、ケモカイン様 タンパク質 IL-8M1 全長及び成熟、ケモカイン様タンパク質 IL-8M10 全長及び成熟、ケモカイン様タンパク質 IL-8M3、ケモカイン様タンパク質 IL-8M8 全長及び成熟、ケモカイン様タンパク質 IL-8M9 全長及び成熟、ケモカイン様タンパク質 PF4-414 全長及び成熟、ケモカイン様タンパク質 PF4-426 全長及び成熟、ケモカイン様タンパク質 PF4-M2 全長及び成熟、コレラワクチン、コンドロモデュリン様タンパク質、c−キットリガンド; SCF; マスト細胞増殖因子; MGF; 線維肉腫誘導幹細胞因子、CNTF 及びその断片(例えば、CNTFAx15(Axokine(商標)))、プレフォーム及び活性型の両方における凝固因子、コラーゲン、補体C5 Mab、結合組織活性化タンパク質-III、CTAA16.88 Mab、CTAP-III、CTLA4-Ig、CTLA-8、CXC3、CXC3、CXCR3; CXC ケモカイン受容体 3、シアノビリン(cyanovirin)−N、ダルベポエチン、エキソダス(exodus)指定物、huL105−7指定物、DIL-40、Dnase、EDAR、EGF 受容体 Mab、ENA-78、エンドスタチン、エオタキシン、上皮好中球活性化タンパク質-78、EPO 受容体; EPOR、エリスロポエチン(EPO) 及び EPO 模倣物、ユートロピン(Eutropin)、エキソダスタンパク質、因子IX、因子VII、因子VIII、因子X and、因子XIII、FAS リガンド阻害タンパク質(DcR3)、FasL、FasL、FasL、FGF、FGF-12; 線維芽細胞増殖因子相同因子−1、FGF-15、FGF-16、FGF-18、FGF-3; INT-2、FGF-4; HST-1; HBGF-4、FGF-5、FGF-6; ヘパリン結合分泌形質転換因子−2(heparin binding secreted transforming factor-2)、FGF-8、FGF-9; グリア活性化因子、フィブリノーゲン、flt-1、flt-3 ligand、卵巣刺激ホルモンアルファサブユニット、卵巣刺激ホルモンベータサブユニット、フォリトロピン、フラクタルカイン、筋原線維タンパク質 トロポニン I、FSH、ガラクトシダーゼ、ガレクチン−4、G-CSF、GDF-1、遺伝子治療、グリオーマ誘導増殖因子、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド、グルコセレブロシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコシダーゼ、グリコデリン−A; プロゲステロン関連子宮内膜タンパク質、GM-CSF、ゴナドトロピン、顆粒球走化性タンパク質-2 (GCP-2)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子、成長ホルモン、成長関連オンコジーン−アルファ(GRO-アルファ)、成長関連オンコジーン−ベータ(GRO-ベータ)、成長関連オンコジーン−ガンマ (GRO-ガンマ)、hAPO-4; TROY、hCG、B型肝炎(hepatitus)表面抗原、B型肝炎ワクチン、HER2 受容体 Mab、ヒルジン、HIV gp120、HIV gp41、HIV 阻害ペプチド、HIV 阻害ペプチド、HIV 阻害ペプチド、HIV プロテアーゼ阻害ペプチド、HIV-1 プロテアーゼ阻害因子、HPV ワクチン、ヒト6CKine タンパク質、ヒトAct-2 タンパク質、ヒト脂肪生成阻害因子、ヒトB細胞刺激因子−2受容体、ヒトベータ−ケモカインH1305 (MCP-2)、ヒトC-C ケモカインDGWCC、ヒトCC ケモカインELC タンパク質、ヒトCC 型ケモカインインターロイキン C、ヒトCCC3 タンパク質、ヒトCCF18 ケモカイン、SLC (第二リンパ様ケモカイン)と呼ばれるヒトCC型ケモカインタンパク質、ヒトケモカインbeta-8 short forms、ヒトケモカインC10、ヒトケモカインCC-2、ヒトケモカインCC-3、ヒトケモカインCCR-2、ヒトケモカインCkベータ-7、ヒトケモカインENA-78、ヒトケモカインエオタキシン、ヒトケモカインGROアルファ、ヒトケモカインGROアルファ、ヒトケモカインGROベータ、ヒトケモカインHCC-1、ヒトケモカインHCC-1、ヒトケモカインI-309、ヒトケモカインIP-10、ヒトケモカインL105−3、ヒトケモカインL105−7、ヒトケモカインMIG、ヒトケモカインMIG-ベータ タンパク質、ヒトケモカインMIP-1アルファ、ヒトケモカインMIP1ベータ、ヒトケモカインMIP-3アルファ、ヒトケモカインMIP-3ベータ、ヒトケモカインPF4、ヒトケモカインタンパク質 331D5、ヒトケモカインタンパク質 61164、ヒトケモカイン受容体 CXCR3、ヒトケモカインSDF1アルファ、ヒトケモカインSDF1ベータ、ヒトケモカインZSIG-35、ヒトChr19Kine タンパク質、ヒトCKベータ-9、ヒトCKベータ-9、ヒトCX3C 111 アミノ酸 ケモカイン、ヒトDNAX インターロイキン-40、ヒトDVic-1 C-C ケモカイン、ヒトEDIRF Iタンパク質配列、ヒトEDIRF IIタンパク質 配列、ヒトエオシノサイト(eosinocyte)CC型ケモカインエオタキシン、ヒト好酸球発現ケモカイン(EEC)、ヒト速筋線維トロポニンC、ヒト速筋線維トロポニンI、ヒト速筋線維トロポニンサブユニットC、ヒトヒト速筋線維トロポニンサブユニットIタンパク質、ヒトヒト速筋線維トロポニンサブユニットT、ヒトヒト速筋線維トロポニンT、ヒト胎児脾臓発現ケモカイン、FSEC、ヒトGM-CSF 受容体、ヒトグロ−アルファケモカイン、ヒトグロ−ベータ ケモカイン、ヒトグロ−ガンマ ケモカイン、ヒトIL-16タンパク質、ヒトIL-1RD10タンパク質配列、ヒトIL-1RD9、ヒトIL-5 受容体アルファ鎖、ヒトIL-6受容体、ヒトIL-8受容体タンパク質 hIL8RA、ヒトIL-8受容体タンパク質 hIL8RB、ヒトIL-9受容体タンパク質、ヒトIL-9 受容体タンパク質変種番号3、ヒトIL-9 受容体タンパク質変種断片、ヒトIL-9 受容体タンパク質変種断片番号3、ヒトインターロイキン1デルタ、ヒトインターロイキン10、ヒトインターロイキン10、ヒトインターロイキン18、ヒトインターロイキン18誘導体、ヒトインターロイキン-1ベータ前駆体、ヒトインターロイキン-1 ベータ 前駆体、ヒトインターロイキン-1 受容体副(accessory)タンパク質、ヒトインターロイキン-1 受容体アンタゴニストベータ、ヒトインターロイキン-1型-3 受容体、ヒトインターロイキン-10 (前駆体)、ヒトインターロイキン-10 (前駆体)、ヒトインターロイキン-11受容体、ヒトインターロイキン-12 40 kD サブユニット、ヒトインターロイキン-12 ベータ-1 受容体、ヒトインターロイキン-12 ベータ-2 受容体、ヒトインターロイキン-12 p35 タンパク質、ヒトインターロイキン-12 p40 タンパク質、ヒトインターロイキン-12 受容体、ヒトインターロイキン-13 アルファ 受容体、ヒトインターロイキン-13 ベータ 受容体、ヒトインターロイキン-15、クローンP1由来ヒトインターロイキン-15 受容体、ヒトインターロイキン-17 受容体、ヒトインターロイキン-18 タンパク質 (IL-18)、ヒトインターロイキン-3、ヒトインターロイキン-3 受容体、ヒトインターロイキン-3変種、ヒトインターロイキン-4 受容体、ヒトインターロイキン-5、ヒトインターロイキン-6、ヒトインターロイキン-7、ヒトインターロイキン-7、ヒトインターロイキン-8 (IL-8)、ヒト細胞内IL-1 受容体アンタゴニスト、ヒトIP-10及びHIV-1 gp120 高頻度可変性領域融合タンパク質、ヒトIP-10及びヒトMuc-1 コアエピトープ(VNT)融合タンパク質、ヒト肝臓及びケモカイン(LARC)、ヒトLkn-1 全長及び成熟 タンパク質、ヒト乳房関連ケモカイン(MACK)タンパク質 全長及び成熟、ヒト成熟ケモカインCkベータ-7、ヒト成熟グロ−アルファ、敗血症の治療に使用されるヒト成熟グロ−ガンマポリペプチド、ヒトMCP-3及びヒトMuc-1コアエピトープ(VNT)融合タンパク質、ヒトMI10タンパク質、ヒトMI1Aタンパク質、ヒト単球ケモアトラクタント因子hMCP-1、ヒト単球ケモアトラクタント因子hMCP-3、ヒト単球走化性プロタンパク質 (MCPP) 配列、ヒトニューロタクチンケモカイン様ドメイン、ヒト非ELR CXC ケモカインH174、ヒト非ELR CXC ケモカインIP10、ヒト非ELR CXC ケモカインMig、ヒトPAI-1成熟体、IL-16活性を有するヒトタンパク質、IL-16活性を有するヒトタンパク質、ヒト第二リンパ様ケモカイン(SLC)、ヒトSISDタンパク質、ヒトSTCP-1、ヒトストローマ細胞誘導ケモカイン、SDF-1、リンパ球混合ヒトT細胞反応発現ケモカイン(TMEC)、ヒト胸腺及び活性調整サイトカイン(TARC)、発現ヒト胸腺、ヒトTNF-アルファ、ヒトTNF-アルファ、ヒトTNF-ベータ (LT-アルファ)、ヒト型 CC ケモカインエオタキシン3 タンパク質配列、ヒト型II インターロイキン-1 受容体、ヒト野生型インターロイキン-4 (hIL-4) タンパク質、ヒトZCHEMO-8 タンパク質、ヒト化抗−VEGF抗体、及びその断片、ヒト化抗−VEGF抗体、及びその断片、ヒアルロニダーゼ、ICE 10 kDサブユニット、ICE 20 kDサブユニット、ICE 22 kDサブユニット、イズロネート−2−スルファターゼ、イズロニダーゼ、IL-1アルファ、IL-1ベータ、IL-1阻害因子(IL-1i)、IL-1成熟体、IL-10受容体、IL-11、IL-11、IL-12 p40サブユニット、IL-13、IL-14、IL-15、IL-15受容体、IL-17、IL-17受容体、Il-17受容体、Il-17 受容体、IL-19、IL-1i断片、IL1-受容体アンタゴニスト、IL-21 (TIF)、融合タンパク質含有IL-3、IL-3成熟タンパク質、IL-3変種、IL-3変種、IL-4、IL-4変異タンパク質、IL-4変異タンパク質Y124G、IL-4変異タンパク質Y124X、IL-4 変異タンパク質、Il-5受容体、IL-6、Il-6 受容体、IL-7 受容体クローン、IL-8 受容体、IL-9成熟タンパク質変種(Met117 バージョン)、免疫グロブリン又は免疫グロブリンベースの分子又はその両方の断片 (例えば、Small Modular ImmunoPharmaceutical(商標)(「SMIP」) 又はdAb、Fab’断片、F(ab’)2、scAb、scFv 又は scFv断片)、限定するものではないが、例えばプラスミノーゲン、インフルエンザワクチン、インヒビンアルファ、インヒビンベータ、インスリン、インスリン様増殖因子、インテグリンMab、インターアルファトリプシン阻害因子、インターアルファトリプシン阻害因子、インターフェロンガンマ-誘導可能タンパク質 (IP-10)、インターフェロン (例えば、インターフェロンα種及びサブ種、インターフェロンβ種及びサブ種、インターフェロンγ種及びサブ種)、インターロイキン6、インターロイキン8 (IL-8) 受容体、インターロイキン8 受容体 B、インターロイキン-1アルファ、インターロイキン-2 受容体関連タンパク質 p43、インターロイキン-3、インターロイキン-4 変異タンパク質、インターロイキン-8 (IL-8) タンパク質、インターロイキン-9、インターロイキン-9 (IL-9)成熟タンパク質 (Thr117バージョン)、インターロイキン(例えば、IL10、IL11及びIL2)、インターロイキン (例えばIL10、IL11及びIL2)、日本脳炎ワクチン、カリクレイン阻害因子、ケラチノサイト増殖因、クニッツドメインタンパク質 (例えばアプロチニン、アミロイド前駆体タンパク質及び国際公開第03/066824号に記載のもの、アルブミン融合体を伴っても伴わなくてもよい)、クニッツドメインタンパク質 (例えばアプロチニン、アミロイド前駆体タンパク質及び国際公開第03/066824号に記載のもの、アルブミン融合体を伴っ
ても伴わなくてもよい)、LACI、ラクトフェリン、潜在型TGF-ベータ結合タンパク質II、レプチン、肝発現ケモカイン-1 (LVEC-1)、肝発現ケモカイン-2 (LVEC-2)、LT-アルファ、LT-ベータ、黄体形成ホルモン、ライム病ワクチン、リンホタクチン、マクロファージ誘導型ケモカイン類似体MDC (n+1)、マクロファージ誘導型ケモカイン類似体MDC-eyfy、マクロファージ誘導型ケモカイン類似体MDC-yl、マクロファージ誘導型ケモカイン、MDC、マクロファージ誘導型ケモカイン(MDC)、マスピン; プロテアーゼ阻害因子5、MCP-1 受容体、MCP-1a、MCP-1b、MCP-3、MCP-4 受容体、M-CSF、メラノーマ阻害タンパク質、膜結合タンパク質、Met117 ヒトインターロイキン 9、MIP-3 アルファ、MIP-3 ベータ、MIP−ガンマ、MIRAP、修正ランテス(Modified Rantes)、本明細書に記載のないモノクローナル抗体、MP52、変異体インターロイキン 6 S176R、筋原線維収縮タンパク質トロポニンI、ナトリウム利尿ペプチド、神経増殖因子−ベータ、神経増殖因子−ベータ2、ニューロピリン−1、ニューロピリン−2、ニューロタクチン、ニューロトロフィン−3、ニューロトロフィン−4、ニューロトロフィン−4a、ニューロトロフィン−4b、ニューロトロフィン−4c、ニューロトロフィン−4d、ニューロトロフィル活性化ペプチド−2 (NAP-2)、NOGO-66受容体、NOGO-A、NOGO-B、NOGO-C、PTECと呼ばれる新規ベータ−ケモカイン、N−末端修飾ケモカインGroHEK/hSDF-1アルファ、N−末端修飾ケモカインGroHEK/hSDF-1ベータ、N−末端修飾ケモカインmet-hSDF-1 アルファ、N−末端修飾ケモカインmet-hSDF-1 ベータ、OPGL、骨原性タンパク質-1; OP-1; BMP-7、骨原性タンパク質-2、OX40; ACT-4、OX40L、オキシトシン (ニューロフィジン I)、副甲状腺ホルモン、パッチド(Patched)、パッチド-2、PDGF-D、百日咳毒素、下垂体発現ケモカイン(PGEC)、胎盤増殖因子、胎盤増殖因子-2、プラスミノーゲン活性化阻害因子-1; PAI-1、プラスミノーゲン活性化阻害因子-2; PAI-2、プラスミノーゲン活性化阻害因子-2; PAI-2、血小板誘導型増殖因子、血小板誘導型増殖因子Bv-sis、血小板誘導型増殖因子前駆体 A、血小板誘導型増殖因子前駆体 B、血小板Mab、血小板誘導型内皮細胞増殖因子(PD-ECGF)、血小板誘導型増殖因子A鎖、血小板誘導型増殖因子B鎖、敗血症の治療に使用されるポリペプチド、プレプロアポリポタンパク質「ミラノ(milano)」変種、プレプロアポリポタンパク質「パリ(paris)」変種、プレスロンビン、霊長類CCケモカイン「ILINCK」、霊長類CXCケモカイン「IBICK」、プロインスリン、プロラクチン、プロラクチン2、プロサプタイド(prosaptide)、プロテアーゼ阻害ペプチド、プロテインC、プロテインS、プロスロンビン、プロウロキナーゼ、RANTES、RANTES 8-68、RANTES 9-68、RANTESペプチド、RANTES受容体、組み換えインターロイキン-16、レジスチン、レトロウイルスプロテアーゼ阻害因子、レトロウイルスワクチン、RSV Mab、分泌型及び膜貫通型ポリペプチド、分泌型及び膜貫通型ポリペプチド、血清コリンエステラーゼ、血清タンパク質 (例えば、血液凝血因子)、可溶性BMP受容体キナーゼタンパク質-3、可溶性VEGF受容体、幹細胞阻害因子、スタフィロコッカスワクチン、ストロマ誘導因子-1アルファ、ストロマ誘導因子-1 ベータ、サブスタンスP (タキキニン)、T1249ペプチド、T20ペプチド、T4エンドヌクレアーゼ、TACI、Tarc、TGF-ベータ 1、TGF-ベータ 2、Thr117 ヒトインターロイキン 9、トロンビン、トロンボポエチン、トロンボポエチン誘導体1、トロンボポエチン誘導体2、トロンボポエチン誘導体3、トロンボポエチン誘導体4、トロンボポエチン誘導体5、トロンボポエチン誘導体6、トロンボポエチン誘導体7、胸腺発現ケモカイン(TECK)、甲状腺刺激ホルモン、ダニ抗凝固ペプチド、Tim-1タンパク質、TNF-アルファ前駆体、TNF-R、TNF-RII; TNF p75受容体; デスレセプター、tPA、トランスフェリン、形質転換増殖因子β、トロポニンペプチド、トランケート型単球走化性タンパク質 2 (6-76)、トランケート型単球走化性タンパク質 2 (6-76)、トランケート型RANTES タンパク質 (3-68)、腫瘍壊死因子、尿酸オキシダーゼ、ウロキナーゼ、バソプレシン (ニューロフィジン II)、VEGF R-3; flt-4、VEGF受容体; KDR; flk-1、VEGF-110、VEGF-121、VEGF-138、VEGF-145、VEGF-162、VEGF-165、VEGF-182、VEGF-189、VEGF-206、VEGF-D、VEGF-E; VEGF-X、ウィルブランドの因子、野生型単球走化性タンパク質2、野生型単球走化性タンパク質2、ZTGF-ベータ9及びその変種、断片及び類似体がある。
【0136】
生物産物は、アルブミン融合体を含んでも含まなくてもよい。好適なアルブミン融合体には、米国特許第6905688号に記載のもの、及びアルブミンと融合した治療用タンパク質が、上記の生物産物を融合したアルブミン融合体が含まれる。
【0137】
上記の通り、本発明の第十一の態様は、哺乳類細胞の培養方法であって、本発明の第九の態様による細胞培養培地において細胞をインキュベーションすること、を含んでなる方法を提供する。本発明の細胞培養培地は、接着細胞培養用、懸濁細胞培養用、又はハイブリドーマ細胞、モノクローナル抗体作製細胞、ウイルス作製細胞、形質移入細胞、癌細胞及び/又は組み換えペプチド作製細胞のための培養培地として使用してもよいし、使用しなくてもよい。組成物は、真核細胞、例えば植物及び/又は動物細胞等を培養するために使用してもよい。細胞は、哺乳類細胞、魚類細胞、虫細胞、両生類細胞又は鳥類細胞があり得る。その他細胞型は、MK2.7細胞(ATCCカタログ番号CRL1909、抗−ネズミ−VCAM IgGl発現ハイブリドーマ細胞)、HEK 293細胞、PER-C6細胞、CHO細胞、COS細胞、5L8ハイブリドーマ細胞、ダウジ(Daudi)細胞、EL4細胞、HeLa細胞、HL-60細胞、K562細胞、ジャーカット細胞、THP-1細胞、Sp2/0細胞; 及び/又は国際公開第2005/070120号、表II(ここに参照により組み込まれる)に挙げられるハイブリドーマ細胞、又は本明細書に記載されるか、もしくは当業者に既知である、任意のその他の細胞型、からなる群から選択できる。
【0138】
基本培地は、限定するものではないが、ダルベッコの修正イーグル培地(DMEM)、基礎培地(Minimal Essential Medium)(MEM)、基本培地イーグル(BME)、RPMI1640、F−10、F−12、α基礎培地(αMEM)、グラスゴーの基礎培地(G−MEM)、及び/又はイスコブ(Iscove)の修正ダルベッコ培地を含んでもよい。
【0139】
本発明はまた、真核細胞の培養方法であって、本発明の細胞培養培地として有用であり、及び/又は培養物における細胞の培養の補助に適する条件下で細胞を維持する組成物を、当該細胞と接触させることを含む、培養方法を提供する。具体的な実施態様によれば、細胞は癌細胞又はハイブリドーマ細胞である。他の実施態様によれば、組織外植片及び培養物を培養する方法であって、本明細書に記載の細胞培養培地組成物と、組織を接触させることを含む方法が提供される。
【0140】
ある実施態様によれば、当該方法には、組成物であって以下の:(i)基本培地;(ii)組み換えアルブミン;(iii)グルタミン;(iv)インスリン(任意に、上記の組み換えインスリン);(v)本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質;及び/又は(vi)エタノールアミンを含む組成物と、ハイブリドーマ細胞とを接触させること、及び/又は培養物中のハイブリドーマ細胞の培養の補助に適する条件下で細胞を維持すること、が含まれる。特定の実施態様によれば、当該方法には、組成物であって(i)基本培地;(ii)アルブミンおよそ0.5% (w/v);(iii)グルタミンおよそ4 mM;(iv)インスリンおよそ10 mg/L;(v)本発明のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質およそ1 mg/L;(vi)エタノールアミンおよそ1 0 μMを含む組成物と、ハイブリドーマとを接触させることが含まれる。
【0141】
実施例
【実施例1】
【0142】
発現ベクターの構築
発現プラスミドを、−N−X−S/T−モチーフ内のセリン−415及びスレオニン−613に対する変異を有する非グリコシル化組み換えトランスフェリンの作製用に構築した。RIE、SDS−PAGE、ウレアゲル分析、質量分析、N−末端配列決定、及びインビトロ(in vitro)でのヒト赤血白血細胞への鉄運搬により決定する場合、最初のS.セレビシアエ株(株1)[pDB2929]から作製される場合の既報の非グリコシル化組み換えトランスフェリン変異体、N413Q、N611Qと、株1[pDB2973]から作製される場合の新規な非グリコシル化組み換えトランスフェリン変異体、S415A、T613Aとの間で、量及び質に有意な差は観察されなかった。
【0143】
オリゴサッカリルトランスフェリンは、配列−Asn−X−Thr/Ser−(式中、Xは、プロリン又はアスパラギン酸以外の任意のアミノ酸である(de Jong et al, 1990, Clin Chim Acta, 190, 1; Lau et al, 1983, J Biol Chem, 258, 15255))内のアスパラギン残基への、ピロホスホリルドリコール由来のオリゴ糖鎖の転移を触媒する。小胞体内のこの配列モチーフで、分泌タンパク質のN−結合型グリコシル化が起きる。
【0144】
ただし、立体障害のために、タンパク質のうち全ての可能性ある部位のうちおよそ3分の1しかグリコシル化されない。ヒトトランスフェリンにおいては、2つの可能性ある部位、アスパラギン−413及びアスパラギン−611(共にC−ローブ内)が利用可能であり、いずれの部位も利用される。S.セレビシアエからヒトトランスフェリンを分泌させる従来の試みは、広範に及ぶ異種接合産物をもたらし、これは非ヒト宿主細胞におけるヒトトランスフェリンの組み換え産物に関する以前の観察と同じで、アスパラギン−413及びアスパラギン−611での過剰マンノシル化(hyper-mannosylation)のためであると考えられる(データは示さない)。
【0145】
ここでは、セリン−415及びスレオニン−613を、アラニン残基に変更することによる、アスパラギン−413及びアスパラギン−611での非グリコシル化を阻止する、組み換えトランスフェリン変異体の産物について記載する。
【0146】
プラスミドpDB2504(図1a)は、ヒトトランスフェリンのためのNotI発現カセットを含有するpBST(+) (Sleep et al, 2001, Yeast, 18, 403-441)であり、これは、成熟トランスフェリンタンパク質の残基413及び611に対するコドンがN−結合型グリコシル化を阻止するよう変異されず、それぞれアスパラギン残基をコードするAAT及びAACである点を除けば、pBST(+) (Sleep et al, 2001, Yeast, 18, 403-441)における発現カセットと同じである。
【0147】
pDB2504のグリコシル化ヒトトランスフェリンDNA配列におけるセリン−415及びスレオニン−613に対するコドンは、アラニンに対するサッカロマイセス・セレビシアエの好ましいコドン、ここではGCTに変異させた(37%、http://www.yeastgenome.org/codon−(アンダーバー)usage.shtml)。これは、StratageneのQuickChang(商標) Site-Directed Mutagenesis Kitの製品手順書に従って達成した。S415A変異を誘導するために、変異原オリゴヌクレオチドCF156(配列番号4)及びCF157(配列番号5)を使用するとともに、T613A変異を誘導するために、変異原オリゴヌクレオチドCF158(配列番号6)を使用した(表1)。
【0148】
【表1】

【0149】
変異生成を、HpaI、SphI及び仔牛腸アルカリホスファターゼで消化後、アプラマイシン選択可能なE.coliクローニングベクターpDB2685(図1b、また国際公開第2005/061719号も参照)に、サブクローニングした、1,154 bpのHpaI-SphI pDB2504断片で行った。コンピテントE.coli DH5αを、そのライゲーション産物で形質転換し、アプラマイシン耐性コロニーをセレクションした(35μg.mL-1アプラマイシン)。プラスミドpDB2958(図2)を、HpaI、SphI、EcoRI 及び NdeIで制限酵素処理することにより確認した。
【0150】
プラスミドpDB2958は、オリゴヌクレオチドCF156及びCF157(表1)で変異させ、S415A変異(modification)を導入するとともに、プラスミドpDB2970(図3)を作製した。当該反応産物で、コンピテントE.coli DH5αをアプラマイシン耐性に形質転換するとともに、プラスミドDNAを4つのアプラマイシン耐性コロニーから単離した。その後これらのプラスミドを、オリゴヌクレオチドCF158 及び CF159で変異させ、T613A変異を誘導するとともに、プラスミドpDB2971(図4)を作製した。アプラマイシンコロニーを単離し、S415A変異を誘導するために使用される4つの反応の各々に由来する2つのクローンからプラスミドDNAを調製した。S415A及びT613A変異を確認するDNA配列決定のために、8つのプラスミド調製物のうち3つを最初に選択し、その各々は別々のT613A変異生成反応から得た。
【0151】
DNA配列決定には、オリゴヌクレオチドDS 181 (配列番号8)、DS182 (配列番号9)、DS183 (配列番号10)、DS184 (配列番号11)、DS185 (配列番号12)、DS186 (配列番号13)、DS187 (配列番号14)、M13順方向(配列番号15)及びM13逆方向 プライマー(配列番号16)(表2)を使用した。
【0152】
【表2】

【0153】
3つ全てのプラスミドは、予想したS415A及びT613A変異を含んでいたが、1つは、1,154 bpのHpaI-SphI領域内のどこかに追加のアデニン挿入物も含んでいた。結果的に、正しいpDB2971プラスミドクローンのうちの1つの前駆プラスミドを、同じプライマーで配列決定し、完全な1,154 bpのHpaI-SphI領域内に、予想したpDB2970配列を含むことを示した。
【0154】
S415A及びT613A変異を含む1,154 bpのHpaI-SphI pDB2971断片を、ゲル精製により単離し、pDB2928(図5、国際公開第2005/061718号も参照)由来の、5,312 bpのHpaI-SphIでライゲーションし、これをHpaI、SphI、AccI及び仔牛腸アルカリホスファターゼでの消化後に精製した。AccIの追加により、未処理の1,154のbp HpaI-SphI断片を3重に消化したことになる。そのライゲーション産物で、コンピテントE.coli DH5αをアンピシリン耐性に形質転換するとともに、プラスミドDNAをセレクションしたクローンから調製した。mHSA−プレリーダー配列を用いる、非グリコシル化組み換えヒトトランスフェリン分泌のための、NotI 発現カセットを含有する、pBST(+)-ベースのプラスミドpDB2972(図6)を、HpaI、SphI、NotI及びNdeIでの制限酵素処理により確認した。
【0155】
プライマーDS181、DS182、DS184、DS185、DS186及びDS187(表2)でのDNA配列決定により、1,154 bpのHpaI-SphI領域の正しい配列及び隣接配列を確認した。その後、NotI及びScaIでの消化後に、3,256 bpの発現カセットをpDB2972から単離した。これを、NotI及び仔牛腸アルカリホスファターゼで消化したpDB2690(図7、国際公開第2005/061718号も参照)でライゲーションした。そのライゲーション産物で、コンピテントE.coli DH5αをアンピシリン耐性に形質転換するとともに、プラスミドDNAをセレクションしたクローンから調製した。pDB2973(図8)及びpDB2974(図9)を確認するために、HindIII、NotI、BamHI、NdeI及びEcoRIでの制限酵素処理を使用した。1,154 bpのHpaI-SphI領域の正しいDNA配列及び隣接配列を、両方のプラスミドを用いて確認した。トランスフェリン遺伝子は、pDB2973においてはLEU2と同じ方向で転写され、一方pDB2974においては反対方向に転写される。
【実施例2】
【0156】
HST変異体の作製及び分析
pDB2973及びpDB2974で、S.セレビシアエ株(株1)を、ロイシン原栄養性に形質転換した。酵母を、修正リチウム酢酸法(Sigma yeast transformation kit, YEAST-1, protocol 2; Ito et al, 1983, J. Bacteriol., 153, 16; Elble, 1992, Biotechniques, 13, 18)を用いて形質転換した。形質転換体を、BMMD−寒天プレートでセレクションし、その後BMMD−寒天プレートでパッチアウト(patched out)した。BMMDの組成は、Sleep et al., 2002, Yeast, 18, 403に記載がある。10mL BMMD 振とうフラスコ培養物(24時間、30℃、200rpm)から、凍結保存したストックを、20% (w/v)トレハロース中で調製した。
【0157】
3つの10mL BMMD 振とうフラスコ培養物を、pDB2973及びpDB2974を含有する各々の株と共にインキュベートし、4日間、30℃で増殖させた。コントロールの目的で、株1[pDB2929](図10、国際公開第2005/061718号も参照)を同様に増殖させた。pDB2929は、S.セレビシアエ SKQ2n PDI1遺伝子、及びN413Q、N611Q変異トランスフェリン遺伝子を含有し、これはLEU2と同じ方向に転写される。上清を、RIE及び非還元SDS−PAGEで分析した。RIE分析は、組み換えトランスフェリンが、pDB2973及びpDB2974(図11)を含有する全ての株から分泌されることを示した。発現力価は、pDB2973を含有する全ての株が、pDB2974と比較してわずかに高いようであった。pDB2973及びpDB2929から得られる力価は、同等のようであった。
【0158】
従って、RIEによれば、被験株の振とうフラスコ培養の間に分泌される代替の非−N−グリコシル化変異体間では、そのレベルに有意な差異はないようであった。
【0159】
組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)分泌物の非還元SDS−PAGE分析は、図12に示される。pDB2973及びpDB2974を含有する様々なS.セレビシアエ株(株1〜4)は、ネガティブコントロール株の不存在下で、株1[pDB2929]由来のトランスフェリン(N413Q、N611Q)バンドと共に移動するタンパク性バンドを全て分泌した。SDS−PAGEで観察されたトランスフェリン(S415A、T613A)バンドの収率は、RIEにより観察された力価と一致した。さらに、このSDS−PAGE分析により、株1[pDB2973]由来のトランスフェリン(S415A、T613A)バンドと、株1[pDB2929]由来のトランスフェリン(N413Q、N611Q)バンドとでは有意な差異はないようであった。トランスフェリン(S415A、T613A)バンドの染色が現れないことにより、アスパラギン−413及びアスパラギン611での高頻度のグリコシル化の阻止を成功させる、セリン−415及びスレオニン−613のアラニン残基への変異を示した。
【0160】
株1[pDB2973]遺伝子の高密度細胞発酵により、〜1.74 g・L-1(n=4)の収量が得られ、これは株1[pDB2929]の生産性と同程度であった。株1[pDB2973]由来のトランスフェリン(S415A、T613A)の特徴付けから、株1[pDB2929]由来のトランスフェリン(N413Q、N611Q)と機能的に同等であることが示された。精製(SP-FF及びDE-FF)及びウレアゲル分析(図13)から、この代替の非グリコシル化変異体は同等であるようだった。
【0161】
ウレアゲル電気泳動を、市販のミニゲル(6%の均一TBEウレア、Invitrogen)を用い、Makey及びSealの修正方法(Monthony et al, 1978, Clin. Chem., 24, 1825-1827; Harris & Aisen, 1989, Physical biochemistry of the transferrins, VCH; Makey & Seal, 1976, Biochim. Biophys. Acta., 453, 250-256; Evans & Williams, 1980, Biochem. J., 189, 541-546)を用いて実施した。およそ10 μgタンパク質を含有するサンプルを、TBE−ウレアサンプルバッファ(Invitrogen)で1:1希釈し、180V、550〜600Vhで分離させ、GelCode(登録商標)ブルーリージェント(Pierce)で染色した。アポトランスフェリンを、0.1 M クエン酸、0.1 M 酢酸、10 mM EDTA、pH 4.5に対して透析することにより調製した。溶液を濾過し(0.22μm)、Vivaspin polyethersulphone 10,000 NMWCO遠心分離濃縮機を用いて10 mg/mlまで濃縮し、10倍量の水、その後、0.1 M HEPES、0.1 M NaHCO3、pH 8.0に対してダイアフィルトレートした(diafilter)。サンプルを、濃縮機からすすぎながら回収し、終濃度を5 mg/mlにした。50 μl 分割量への10 μl 1mM FeNTAの添加により、この溶液から再構成ホロトランスフェリンを調製し、電気泳動分析前に、鉄結合の完了のために、10分間静置してCO2を溶解させた。この技術は、異なる鉄保有状態である4つの分子形態、即ちアポトランスフェリン、C−ローブ及びN−ローブ結合型モノ三価鉄トランスフェリン及びホロトランスフェリンを分離する(移動度上昇のため)。トランスフェリンの4つの形態の分離は、6M ウレアでの部分的変性によるものと考えられ、ここで任意のローブにおける鉄結合は、立体構造の変化を引き起こし、変性に対する耐性が増加することになる。すなわち、ローブにおける鉄の存在により、電気泳動の移動度がより高いよりコンパクトな構造となる。N−ローブは、C−ローブよりもジスルフィド結合が少ないため(それぞれ8対11)、鉄の不存在下でより折りたたみが少なく、鉄がC−ローブへ結合したモノ三価鉄状態の移動度が最も低くなる。
【0162】
質量分析により、異なる非グリコシル化トランスフェリン変異体間での予測した質量差が確認され、トランスフェリン(S415A、T613A)における正しいタンパク質の一次配列の良好な証拠が提供された(データは示さない)。トランスフェリン(S415A、T613A)は、翻訳後修飾に関しても、トランスフェリン(N413Q、N611Q)と同等であった(データは示さない)。
【0163】
さらに、インビトロでのK562細胞への鉄運搬能について、株1[pDB2973]由来の組み換えトランスフェリン(S415A、T613A)は、株1[pDB2929]由来のトランスフェリン(N413Q、N611Q)と同等であった(表3)。
【0164】
表3−インビトロでのヒト赤血白血病K562細胞による、ヒト血漿コントロール及び組み換えトランスフェリンからの、総鉄取り込み、非特異的取り込み、見かけの親和性及び相関係数(r2
取り込みデータは、25分でのfmol Fe/百万細胞、見かけの親和性は、トランスフェリンnM(系統誤差を調整していない、推定濃度)
【0165】
【表3】

【0166】
ここで留意するべきこととして、最大取り込みがその濃度より高く見えるが、この図は関連していない。常に最大取り込みは、天然のトランスフェリンコントロールのものであるので、組み換えサンプルに対するこの差異は、統計的異常値(statistical deviation)である。重要な図は、天然のトランスフェリンのものと比べて全てわずかに低い見かけの親和性定数と、実験データの質を表す相関係数のみである。端的に言うと、当該組み換えトランスフェリンは全て、赤血球系細胞への鉄の運搬能において、少なくとも天然のものと同程度に良好であると言える。
【0167】
表3のデータは、競合アッセイから得られるが、このアッセイにおいては、血漿トランスフェリンは、鉄−55で放射標識し、2つの未標識組み換えトランスフェリン変異体を、放射標識した鉄−55による鉄−55運搬の阻害能で比較した。
【0168】
標準条件(重炭酸バッファ化、5% CO2、抗生物質、10% 仔牛血清)下、RPMI細胞培養培地で培養したK562真核細胞を、HEPESバッファ及び1mg/mlのウシ血清アルブミン含有の無血清培地で洗浄し、この培地中1000万細胞/mlの濃度で使用した。
【0169】
天然又はそれぞれジ三価鉄組み換えトランスフェリンサンプルの漸増濃度(0、25、100、200、400、800、1600 nM)を、55Feで標識された100 nMの天然ジ三価鉄血漿トランスフェリンと、25μlの培地中で混合した。未標識の天然ジ三価鉄トランスフェリンは、コントロールとして用いる。
【0170】
反応は、300μlの細胞懸濁物の添加により開始した。37℃で25分経過後、氷浴に浸漬することにより反応を停止させ、60μlずつ3つの細胞懸濁物を、新たな管に移し、ジエチルフタレート/ジブチルフタレートの油層添加後に、再び細胞を冷却しながら遠心分離した。上清を除去し、細胞ペレットを、カウンターバイアルに移し、0.5 M KOH+1% Triton X-100で溶解させた。ライセートを、一晩溶解後に1M HClで中性化させ、Readysolvシンチレーションカクテルと混合し、Packard液体シンチレーションカウンターで計数した。
【0171】
従って、セリン−415及びスレオニン−613の変異は、S.セレビシアエから分泌される組み換えトランスフェリンのN−結合型グリコシル化の阻止のための、−N−X−S/T−モチーフ内のアスパラギン残基の変異に対する、実行可能な代替となるようであった。
【0172】
従来の研究は、N413Q、N611Qトランスフェリン変異体が、非変異導入トランスフェリンと生物的に同等であると結論付けており(データは示さない)、これらの研究は、セリン−415及びスレオニン613の変異は、N413Q、N611Qトランスフェリン変異体と生物的に同等であるトランスフェリン変異体がもたらされることを示す。従って、セリン−415及びスレオニン−613の変異は、非変異導入トランスフェリンと生物的に同等なトランスフェリン変異体をもたらすと結論付けることができる。
【実施例3】
【0173】
トランスフェリン変異タンパク質発現プラスミドの構築
A. トランスフェリン変異タンパク質発現プラスミドの構築
本発明のトランスフェリン変種のための発現プラスミドは、Tf変異S415A、T613Aについての以下の記載と同様であると結論付けることができる。
トランスフェリン変異タンパク質は、部位特異的変異導入により、pDB3237と呼ばれるプラスミドの改変により作製される。変異原オリゴヌクレオチド配列の重複は、市販のキット(例えば、Stratagene’s Quikchange(商標)キット)で指示される方法を用いて選択された(1又は複数の)残基のコドンを、システイン残基をコードする任意のDNA配列(TGT又はTGC)に変更するために使用する。
【0174】
B.トランスフェリン(S415A, T613A)発現プラスミド、pDB3237の構築
重複オリゴヌクレオチドプライマーは、S.セレビシアエにおける発現のための最適コドンであり、インベルターゼリーダー配列及びヒトトランスフェリン(S415A, T613A)をコードする合成DNAを作製するために使用される。
【0175】
配列番号18は、Asn413及びAsn611部位でのN−結合型グリコシル化を阻止するため、セリン415及びスレオニン613をアラニン残基に変更した、成熟ヒトトランスフェリンC1変種タンパク質コード配列(ヌクレオチド124〜2160);2つの翻訳終止コドン(ヌクレオチド2161〜2166);インベルターゼリーダー(シグナル)タンパク質コード配列(ヌクレオチド67〜123);3'UTR及びADH1遺伝子ターミネーター部分からSphIクローニング部位(ヌクレオチド2167〜2359);5'UTR及びPRB1遺伝子プロモーターの部分からAflIIクローニング部位(ヌクレオチド1〜66)を含んでなる。
【0176】
インベルターゼリーダー(シグナル)タンパク質コード配列(ヌクレオチド67〜123)は、シグナルペプチドMLLQAFLFLLAGFAAKISA(配列番号19)をコードする。
【0177】
インベルターゼリーダー配列ヒトトランスフェリン(S415A, T613A)DNA配列は、2.357 kb断片を作製するため、SphI及びAflIIでの消化を完了させる。国際公開第00/44772号に記載のプラスミドpDB2241 (4.383 kb)は、4.113 kbの断片を作製するため、制限エンドヌクレアーゼSphI及びAflIIを用いる消化を完了させ、仔牛腸アルカリホスファターゼを用いてその後に脱リン酸化される。2.537 kbインベルターゼリーダー配列ヒトトランスフェリン(S415A, T613A)DNA断片は、プラスミドpDB3191 (図14)を作製するため、pDB2241由来の4.113 kbのSphI/AflII断片にライゲーションする。プラスミドpDB3191は、3.259 kbのインベルターゼリーダー配列ヒトトランスフェリン(S415A, T613A)発現カセットを切り離すため、NotI制限酵素エンドヌクレアーゼでの消化を完了させる。
【0178】
プラスミドpDB2690の構築は、国際公開第2005061719 A1号に記載がある。プラスミドpDB2690 (13.018 kb)は、制限酵素エンドヌクレアーゼNotIでの消化を完了させ、仔牛腸アルカリホスファターゼを用いる脱リン酸化し、3.259 kb NotIトランスフェリン(S415A, T613A)発現カセットとライゲーションして、LEU2遺伝子と反対側に、トランスフェリン(S415A, T613A)発現カセットを有する16.306 kb pDB3237を作製する(図24)。
【0179】
本発明のトランスフェリン変種のための代替の発現プラスミドは、プラスミドpDB3191(図14)に合成DNA断片をサブクローニングし、その後、pDB2690にNotIトランスフェリン変種発現カセットをサブクローニングすることにより作製できる。
【0180】
pDB3191(図14)のトランスフェリンDNA配列は、独自のAflII、XcmI、NcoI及びAccI制限酵素エンドヌクレアーゼ部位を含有する。変異の位置の案については、pDB3191のトランスフェリン発現カセット配列上にマッピングした(図14)。当該配列は、クローニングを促進するよう、AflII及びXcmI制限酵素エンドヌクレアーゼ部位が隣接する。さらにチオトランスフェリン変種を、AflIIとXcmIの制限酵素部位の間のDNA配列の変更により作製したが、そこには、Asn413部位でのN−結合型グリコシル化を阻止するためにセリン415をアラニンに変更した、成熟ヒトトランスフェリンC1変種タンパク質コード配列からXcmIクローニング部位までの部分(ヌクレオチド124〜1487);インベルターゼリーダー(シグナル)タンパク質コード配列(ヌクレオチド67〜123)及びPRB1遺伝子プロモーターからAflIIクローニング部位までの部分(ヌクレオチド1〜66)が含まれる。
【0181】
配列番号18は、O−結合型グリコシル化を阻止するためにセリン−32をアラニンに変更(ヌクレオチド216〜218)するとともに、Asn413部位でのN−結合型グリコシル化を阻止するためにセリン415をアラニンに変更した、成熟ヒトトランスフェリンC1変種タンパク質コード配列からXcmIクローニング部位までの部分(ヌクレオチド124〜1487);インベルターゼリーダー(シグナル)タンパク質コード配列(ヌクレオチド67〜123)及びPRB1遺伝子プロモーターからAflIIクローニング部位までの部分(ヌクレオチド1〜66)を含んでなる。この実施例ではコドン最適化DNAを使用したが、本発明では非コドン最適化DNAを使用してもよい。
【0182】
配列番号18の変種DNA配列は、1.479 kbの断片を作製するために、AflII及びXcmIでの消化を完了させた。プラスミドpDB3191(6.47 kb)は、4.991 kbの断片を作製するために、制限酵素エンドヌクレアーゼAflII及びXcmIを用いる消化を完了させ、その後エビアルカリホスファターゼを用いて脱リン酸化した。プラスミドpDB3753(図15)を作製するために、1.479 kbトランスフェリン(S32A, S415A)変種DNA断片を、pDB3191由来の4.991 kbのAflII/XcmI断片にサブクローニングした。
【0183】
トランスフェリン(S32A, S415A, T613A)変種サブクローニングプラスミドpDB3753は、適切な3.259 kbのトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)発現カセットを切り離すために、NotI制限酵素エンドヌクレアーゼでの消化を完了させた。
【0184】
プラスミドpDB2690の構築については、国際公開第2005061719 A1号に記載がある。プラスミドpDB2690 (13.018 kb)は、LEU2遺伝子と同じ配向(orientation)であるトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)変種発現カセットを有する、16.306 kbのプラスミドpDB3768を作製するため、制限酵素エンドヌクレアーゼNotI及びエビアルカリホスファターゼでの消化を完了させ、3.259 kbのNotI トランスフェリン(S32A, S415A, T613A)変種発現カセットとライゲーションした(図15)。
【0185】
S.セレビシアエ株(株1)を、プラスミドpDB3237又はpDB3768で、ロイシン原栄養性に形質転換した。酵母を、修正リチウム酢酸法(Sigma yeast transformation kit, YEAST-1, protocol 2; Ito et al, 1983, J. Bacteriol., 153, 16; Elble, 1992, Biotechniques, 13, 18)を用いて形質転換した。形質転換体を、BMMD−寒天プレートでセレクションし、その後BMMD−寒天プレートでパッチアウト(patched out)した。BMMDの組成は、Sleep et al., 2002, Yeast, 18, 403に記載がある。10mL BMMD 振とうフラスコ培養物(24時間、30℃、200rpm)から、凍結保存したストックを、20% (w/v)トレハロース中で調製した。
【0186】
C.トランスフェリン(S415C, T613A)発現プラスミド、pDB3773の構築
このプラスミドは、pDB3237の構築のための方法に相当する方法を用いて構築した。
【0187】
D.トランスフェリン(S415A, T613C)発現プラスミド、pDB3765の構築
このプラスミドは、pDB3237の構築のための方法に相当する方法を用いて構築した。
【0188】
E.トランスフェリン(S32C, S415A, T613A)発現プラスミド、pDB3778の構築
このプラスミドは、pDB3237の構築のための方法に相当する方法を用いて構築した。
【実施例4】
【0189】
組み換えトランスフェリン変異体を発現する酵母株の生産性
2つの10 mL BMMD 振とうフラスコ培養物を、pDB3237、pDB3773、pDB3765、pDB3778及びpDB3768含有の株1酵母株と共にインキュベートし、5日間30℃で増殖させた。上清をロケット免疫電気泳動(RIE)及び非還元SDS−PAGEにより分析した。RIE分析からは、組み換えトランスフェリンは、全てのpDB3237、pDB3773、pDB3765、pDB3768及びpDB3778を含有する株から分泌されたことが示された(図17及び図18)。発現力価は、組み換えトランスフェリン変異体S32C S415A、T613A及び組み換えトランスフェリン変異体S32A, S415A, T613Aをそれぞれ発現するpDB3778及びpDB3768を含有する株1(図17のゲル2)と比較した場合、組み換えトランスフェリン変異体S415A、T613Aを発現するpDB3237を含有する株1由来の力価は類似するようであり、これはこれらの構築物におけるセリン−32の変異が、生成物の収量を低減させないことを示すものである。反対に、組み換えトランスフェリン変異体S415C、T613A又は組み換えトランスフェリン変異体S415A、T613Cをそれぞれ発現するpDB3773又はpDB3765を含有する株1由来の発現力価(図17のゲル1)は、より低いようであり、これはN−結合型グリコシル化の阻止のための、セリン及びスレオニンをアラニン残基へ変異させることが好ましいことを示すものである。
【0190】
従って、RIEによれば、S415A及びT613A変異のみを含有する組み換えトランスフェリン変異体と比較して、S415A及びT613A変異並びにセリン−32での追加的変異を含有する組み換えトランスフェリン変異体間には有意な差異はないようであった。同様に、DSD−PAGE分析(図18のゲル2)によれば、株1[pDB3778]由来の組み換えトランスフェリン(S32C, S415A, T613A)バンド、又は株1[pDB3768]由来の組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)バンドと比較して、株1[pDB3237]由来の組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)バンドには、有意な差異はないようであった。
【0191】
ただs、REI分析によれば、「非保存的」変異、例えばセリン415をシステインに置換又はスレオニン−613をシステインに置換等を含む組み換えトランスフェリン変異体を発現した場合は、組み換えタンパク質の分泌量は減少した。これは、SDS−PAGE分析によって確認された(図18のゲル1)。
【0192】
高密度硫加発酵により、トランスフェリン(S32A, S415A, T613A)変種を発現する株1[pDB3768]は、2.26 mg.mL-1の収量を得るとともに、トランスフェリン(S32C, S415A, T613A)を発現する株1[pDB3768]は、1.95 mg.mL-1の収量を得るが、これはトランスフェリン(S415A, T613A)変種を発現する株1[pDB3237]で見られるものと類似する。ただし、高密度硫加発酵により、トランスフェリン(S415C, T613A)を発現する株1[pDB3773]は、〜1.06 mg.mL-1 (n=2)の収量を得るが、これはセリン−415のシステイン残基への「非保存的」置換が、生産性を有意に低下させることを示すものである。
【実施例5】
【0193】
組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S415A, T613C)と比較した、組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)のイオン結合能
株1[pDB3237]、株1[pDB3773]及び株1[pDB3765]の振とうフラスコの上清から精製した、組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S415A, T613C)と比較した、組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)のイオン結合能を、精製組み換えヒトトランスフェリン(S415A, T613A)標準のものと比較した。
【0194】
鉄保有精製組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)のために、以下の方法を使用した。重炭酸ナトリウムを、終濃度20 mMとなるように精製トランスフェリンに添加した。目標mol Fe3+.mol-1トランスフェリンとなる鉄量(10 mg.mL-1 (16.5-18.5% Fe)のクエン酸鉄アンモニウムの状態)を計算し、組み換えトランスフェリン/20 mM 重炭酸ナトリウム調製物に添加し、そして環境温度で最小60分混合させ、145 mM NaCl中で限外濾過した。
【0195】
鉄未含有型精製組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)の調製のため、同じサンプルを、0.1M クエン酸ナトリウム、0.1 M 酢酸ナトリウム、10 mM EDTA pH 4.5中、室温で180分インキュベートし、100 mM HEPES、10 mM 炭酸ナトリウムバッファ pH 8.0中で限外濾過した。
【0196】
5 μgサンプルを、6% TBEウレアPAGE(Invitrogen)で分離し、クマシーG250(Pierce)で染色した(図19)。この実験条件下で、精製組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)の鉄結合能は、組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)のものと異なっていた。同じホロ化(holisation)処置を施した、組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)サンプル(図19のレーン3)は、鉄で完全に飽和されているようではなく、組み換えトランスフェリン(S415A, T613A) (図19のレーン2)のものより低速で分析用TBEウレアゲルを移動するバンドを示した。これは、組み換え「ホロ−トランスフェリン」(S415C, T613A)サンプルが、組み換え「ホロ−トランスフェリン」(S415A, T613A)と同じ量の鉄を含有しないことを示すものである。
【0197】
200 mL BMMD 振とうフラスコで5日間増殖後の、振とうフラスコの上清として発現した組み換えトランスフェリン変種を、遠心分離により酵母バイオマスから単離した。上清サンプルを1 mLに濃縮し、10 mM HEPES バッファ pH 8中で透析した。この物質をRP−HPLCで分析してタンパク質濃度を得てから、2つのサンプルに分けた。一方のサンプルを、2倍に希釈して、0.1M クエン酸ナトリウム、0.1 M 酢酸ナトリウム、10 mM EDTA pH 4.5中で3時間インキュベートすることにより、アポ−トランスフェリン状態に変換し、他方のサンプルを、ホロ化(holoising)バッファ(0.5 M 炭酸塩、2.5 mg.ml-1 クエン酸鉄)中で3時間、2倍希釈することにより、アポ−トランスフェリンをジ三価鉄ホロ−トランスフェリン状態(鉄結合型)に変換できる方法により処理した。
【0198】
0.5 μgサンプルを、6% TBEウレアPAGE(Invitrogen)で分離し、クマシーG250(Pierce)で染色した。振とうフラスコ上清から単離した組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)(図19のゲル1のレーン3及び4)は、精製した鉄保有組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)(図20のゲル1のレーン1及び2)と、同じ結合特性を有するようであった。
【0199】
この実験条件下で、株1[pDB3773]及び株1[pDB3765]の振とうフラスコ上清からそれぞれ単離された、組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S415A, T613C)の鉄結合能は、株1[pDB3237]の振とうフラスコ上清から単離した組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)のものとは、異なるようであった。トランスフェリンが鉄を保有(load)するようにホロ化処理を施した、組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)サンプル(図20のゲル2のレーン4)は、精製組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)(図20のゲル2のレーン2)と比較して、いくつかの種では低移動度で、分析用TBEウレアゲルを移動したが、これは組み換え「ホロ−トランスフェリン」(S415C, T613A)が部分的に鉄で飽和され、2モルの鉄が結合している組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)ものと、2モル未満の鉄が結合している組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)とで均一ではないことを示すものである。
【0200】
トランスフェリンが鉄を保有するようにホロ化処理を施した、組み換えトランスフェリン(S415A, T613C)サンプル(図20のゲル3のレーン4)は、精製組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)(図20のゲル3のレーン2)と比較して、いくつかの種では低移動度で、分析用TBEウレアゲルを移動したが、これは組み換え「ホロ−トランスフェリン」(S415A, T613C)は本分析において均一ではなく、いくつかの組み換えトランスフェリン(S415A, T613C)は2モルの鉄を結合し、いくつかの組み換えトランスフェリン(S415A, T613C)は2モル未満のの鉄結合であることを示すものである。
【0201】
分析TBEウレアゲル電気泳動により、組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)の鉄結合能には、組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S415A, T613C)と比較して機能的な差異が存在するようであった。これにより、組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)変異体がN−結合型グリコシル化のコントロールとして好ましいことが示された。
【実施例6】
【0202】
組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)と比較した組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)の受容体結合能
組み換えトランスフェリン変種の受容体結合能を、表面プラズモン共鳴(SRP)で評価した。トランスフェリンサンプルの、トランスフェリン受容体への結合活性は、非侵襲的光学技術である表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて測定でき、ここでSPR応答は、分子の結合又は解離に伴う検出器表面での質量濃度における変化の測定値である。サンプルは、一定の流速の微小フロー系を介して、センサーチップ表面に送られる。この分析において、トランスフェリンサンプルがTfRに結合できる場合、その表面プラズモン波を作るTfRとTf分子との間の結合により、センサーチップ表面の質量が増加し、結合量に比例するSPRシグナルのシフトが、共鳴単位(RU)における変化として検出できる。1RUの応答は、約1pg .mm-2の表面濃度における変化に相当する。
【0203】
トランスフェリンとトランスフェリン受容体との間の相互作用解析のための、Biacoreセンサーチップを、トランスフェリン受容体抗体を最初に固定し、その後トランスフェリンの添加を行うことにより調製した。具体低には、抗−トランスフェリン受容体(抗−TfR)抗体を、アミンカップリング試薬を用いて25℃で、CM5センサーチップ(GE Healthcare カタログ番号 BR-1000-14)表面に固定した。CM5センサーチップフローセル上のカルボキシメチル化デキストリン表面を、N−ヒドロキシスクシニミド:N−エチル−N'−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(NHS:EDC)の添加により、活性スクシンアミドエステルに変換した。
【0204】
(トランスフェリン)受容体の特異結合は、トランスフェリン受容体以外の固定化タンパク質を有するセンサーチップを同時に調製し、サンプル見本をこのチップ上に流す場合の共鳴単位における変化を控除し、溶媒等によるいわゆるバルク効果を排除することにより確認できる。抗−TfR抗体(AbD Serotec カタログ番号MCA1148)を、10mM 酢酸ナトリウム pH 5.0 (GE Healthcare カタログ番号 BR-1003-50)で10 μg.mL-1に希釈し、フローセル2のみに注入した。一方50 μLのトランスフェリン受容体(TfR)(AbD Serotec カタログ番号 9110-300)(HBS−EP (10 mM HEPES, 150 mM NaCl, 3 mM EDTA, 0.005 % 界面活性剤 P-20, pH 7.4)で10-20 μg.mL-1に希釈されたもの)を、両方のフローセルに注入した。センサーチップ上の過剰なエステル基を塩酸エタノールアミン(1 M pH 8.5)を用いて不活性化した。
【0205】
HBS−EPを、相互作用解析のためのラニングバッファ及び希釈バッファとして使用した。精製鉄保有組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)又は精製鉄保有組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)を、10 μg.mL-1に希釈し、50 μLを両方のフローセルに注入した。再現性を確保するために繰り返し試験を行い、サンプル注入の間に、10 mMの酢酸ナトリウム pH 4.5(GE Healthcare カタログ番号 BR-1003-5)を8〜12秒の注入することにより、調製したBiacoreセンサーチップ表面を、精製組み換えトランスフェリン変種の添加の間に再生させた。3回の注入がなされるまでは、必要とされるベースラインまで回復した。
【0206】
SPR解析によれば、精製鉄保有組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)の受容体結合能は、精製鉄保有組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)のものと異なるようであった。精製鉄保有組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)は、最大応答が59.3(n=3)であるが、精製鉄保有組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)は、最大応答が44.6(n=3)であり、これは、組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)のトランスフェリン受容体結合能における機能的差異を、組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)と比較したことを示すものである。これにより、組み換えトランスフェリン(S415C, T613A)変異体が、N−結合型グリコシル化のコントロールとして好ましいことが示された。
【実施例7】
【0207】
組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S32C, S415A, T613A)と比較した、組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)の質量分光分析
ESI−TOF質量分光分析は、翻訳後の変化及びタンパク質におけるその他の変更の研究のための強力な方法である。これは、± 0.01%の質量精度(トランスフェリンの場合数ダルトンまで)を提供でき、20ダルトン程度異なる種類を区別できる。
【0208】
組み換えトランスフェリン(S32C, S415A, T613A)、組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)のサンプルを、ESITOF質量分析により分析し、精製組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)のものと比較した。
【0209】
組み換えトランスフェリン(S32C, S415A, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)のサンプルをそれぞれ、株1[pDB3778]及び株1[pDB3237]の高密度細胞流加発酵物から精製し、一方、組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)を、株1[pDB3768]振とうフラスコ上清から、10000 Da分子量カットオフスピンカラム(Sartorius Vivaspin20-10000MWCO)で15 mLの上清を濃縮することにより精製した。組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)サンプルを、製品の指示書に従って遠心分離し、その後、15 mLの0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)を用いて再平衡化した。組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)サンプルを、1.2 mLの0.1% TFA中に再懸濁させ、微量遠心チューブに移した後、HPLC脱塩処理をした。0.5 mLの組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)サンプルを、逆相HPLC(RP.HPLC)を用いて、脱塩/濃縮した。
【0210】
全てのサンプルは、典型的には20〜100 nmol.mL-1の濃度で回収したタンパク質を、RP.HPLCを用いて脱塩/濃縮した試験タンパク質の水溶液として、質量分析用に調製した。RP.HPLC脱塩は、Brownlee Aquapore BU-300(C4)7mm, 100x2.1mm カラムで行われ、この方法は、溶媒Aとして0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)、及び溶媒Bとして70%(v/v) アセトニトリル、0.1%(v/v) TFAの2成分グラジエントを用い、280nmでのUV吸収で検出した溶出成分を回収して行った。飛行時間質量分析:サンプルを、ポジティブイオンモードのIonSpray(商標)源を備える、ハイブリッド四重極飛行時間質量分析(QqOaTOF, Applied Biosystems, QSTAR-XL(登録商標))に導入し、フロー注入解析(flow injection analysis (FIA))を用いた。能動的に調整した装置パラメータは、脱共役電位(Decoupling Potential)(DP)のみであり、これを典型的に250Vに設定した。典型的には、2分のサンプルスキャンを平均化した。タンパク質分析のために、TOF分析器を、ウマミオグロビン(Sigma)のプロトン化分子イオンに対してキャリブレーションし、分解能を典型的には12,000とした。装置制御及びデータの収集及び処理は、Analyst(商標) QS v1.1 ソフトウェア (Applied Biosystems)を用いて行った。
【0211】
トランスフェリン(S415A, T613A)の質量分光分析では2つのピークが示される(図23)。この場合、1つのピーク(図23の「A」印)は、整数質量が75097(理論質量が75098Da)の未修飾トランスフェリン(S415A, T613A)分子に相当する(図23のスペクトル1)。1個のヘキソース付加として想定される162ダルトン増加した大きなピーク(図23の「B」印)もある。この確率は、O−結合型グリコシル化を表す。セリン−32に変異を有する組み換えトランスフェリンの質量分光分析では、1のピークのみが示される。トランスフェリン(S32C, S415A, T613A)の質量分光分析では、主要な1のピークのみが示される。図23における「C」印は、整数質量が75112(理論質量が75114Da)である未フォールド状態のトランスフェリン(S32C, S415A, T613A)分子に相当する(図23のスペクトル2)。さらに、トランスフェリン()の質量分光分析では、主要な1のピークのみが示される。図23における「D」印は、整数質量が75082(理論質量が75080Da)である未フォールド状態のトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)分子に相当する(図23のスペクトル2)。この結果は、セリン−32の変異が、この位置でのO−結合型グリコシル化を阻止することを示す。
【実施例8】
【0212】
組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S32C, S415A, T613A)と比較した組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)のコンカナバリンA分析
コンカナバリンA(ConA)は、アルファ−マンノース残基を含有するオリゴ糖への高親和性のために、糖タンパク質の研究において広く使用されている。組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)、組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S32C, S415A, T613A)の精製サンプルを、ConAセファロース親和性クロマトグラフィに供し、そのロードサンプル及び溶出物の濃度を、ConA結合物質%を計算できるRP.HPLCにより決定した(表4)。
【0213】
表4:組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S32C, S415A, T613A)と比較した組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)のコンカナバリンA分析
【0214】
【表4】

【0215】
ConAカラムを、2 mL ディスポーザブルカラムに、4 mL 50% (v/v)スラリーConAセファロースビーズ:ConA平衡バッファ(100 mM NaOAc, 100 mM NaCl, 1 mM MgCl2, 1 mM MnCl2, 1 mM CaCl2 pH 5.5)を分配させることにより調製した。トランスフェリンサンプル(およそ20 mg.mL -1)を、ConA希釈バッファ(200 mM NaOAc, 85 mM NaCl, 2 mM MgCl2, 2 mM MnCl2, 2 mM CaCl2, pH 5.5)で1:1に希釈することにより、およそ10 mg.mL -1に調製した。希釈した「ロード」サンプルの濃度を、RP.HPLCにより確認した。ConAカラムを、5 mLのConA平衡バッファ(100 mM NaOAc, 100 mM NaCl, 1 mM MgCl2, 1 mM MnCl2, 1 mM CaCl2 pH 5.5)で排出及び平衡化させた。
【0216】
1 mlの組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)を2 mLのConAカラムにロードし、10 mLの組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)及び組み換えトランスフェリン(S32C, S415A, T613A)を2 mLのConAカラムにロードした。カラムをConA平衡化バッファで3回洗浄し、6 mLConA溶出バッファ(100 mM NaOAc, 100 mM NaCl, 0.5 M メチル−α−D−マンノピラノシド, pH 5.5)で溶出した。溶出サンプルの濃度を、RP.HPLCで決定した(表4)。
【0217】
組み換えトランスフェリン(S415A, T613A)のおよそ6.6%(n=10)が、ConAに結合したが、組み換えトランスフェリン(S32C, S415A, T613A)は0.25%(n=2)、組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)は0.15%(n=1)しかConAに結合できず、これは、トランスフェリンにおけるセリン−32の変異が、O−結合型グリコシル化の低減を引き起こし、組み換えトランスフェリン(S32A, S415A, T613A)が、組み換え産物のグリコシル化制御のための変異として好ましいことを実証するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質であって、そのSer415を、Asn413で当該トランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させる、組み換えタンパク質。
【請求項2】
Ser415を、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させないアミノ酸に変異させる、請求項1に記載の組み換えタンパク質。
【請求項3】
Ser415を、保存的アミノ酸、グリシン又はアラニンに変異させる、請求項1又は2に記載の組み換えタンパク質。
【請求項4】
Ser415をアラニンに変異させる、請求項3に記載の組み換えタンパク質。
【請求項5】
トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質であって、そのThr613を、Asn611でトランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させる、組み換えタンパク質。
【請求項6】
Thr613を、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させないアミノ酸に変異させる、請求項5に記載の組み換えタンパク質。
【請求項7】
Thr613を保存的アミノ酸に変異させる、請求項5又は6に記載の組み換えタンパク質。
【請求項8】
Thr613を、グリシン、バリン、アラニン又はメチオニンに変異させる、請求項5又は6に記載の組み換えタンパク質。
【請求項9】
Thr613をアラニンに変異させる、請求項8に記載の組み換えタンパク質。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の、Ser415を、Asn413でトランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させるとともに、請求項5〜9のいずれか1項に記載の、Thr613を、Asn611でトランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させる、トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質。
【請求項11】
Asn611を、その位置でトランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組み換えタンパク質。
【請求項12】
Asn611を、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させないアミノ酸に変異させる、請求項11に記載の組み換えタンパク質。
【請求項13】
Asn611を保存的アミノ酸に変異させる、請求項11又は12に記載の組み換えタンパク質。
【請求項14】
Asn611を、アスパラギン酸又はグルタミンに変異させる、請求項11〜13のいずれか1項に記載の組み換えタンパク質。
【請求項15】
Val612を、Asn611でトランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させるトランスフェリン変異体の配列を含んでなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組み換えタンパク質。
【請求項16】
前記アミノ酸が、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させない、請求項15に記載の組み換えタンパク質。
【請求項17】
Val612を、プロリン、トリプトファン又はシステインに変異させる、請求項15又は16に記載の組み換えタンパク質。
【請求項18】
Asn413を、その位置でトランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させる、請求項5〜9のいずれか1項に記載の組み換えタンパク質。
【請求項19】
Asn413を、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低減させないアミノ酸に変異させる、請求項18に記載の組み換えタンパク質。
【請求項20】
Asn413を、保存的アミノ酸、アスパラギン酸又はグルタミンに変異させる、請求項18又は19に記載の組み換えタンパク質。
【請求項21】
Lys414を、Asn413でトランスフェリン変異体をグリコシル化させないアミノ酸に変異させる、請求項5〜9のいずれか1項に記載の組み換えタンパク質。
【請求項22】
Lys414を、トランスフェリン変異体の生物機能を実質的に低下させないアミノ酸に変異させる、請求項21に記載の組み換えタンパク質。
【請求項23】
Lys414を、プロリン、トリプトファン又はシステインに変異させる、請求項21に記載の組み換えタンパク質。
【請求項24】
配列番号2に記載の配列を有するトランスフェリン変異体の配列を含んでなる、組み換えタンパク質。
【請求項25】
配列番号2に記載の配列からなる、組み換えトランスフェリン変異体。
【請求項26】
トランスフェリンが、O結合型グリコシル化を低減させる少なくとも1つの変異をさらに含んでなる、請求項1〜24のいずれか1項に記載の組み換えタンパク質。
【請求項27】
前記O結合型グリコシル化を低減させる少なくとも1つの変異が、配列番号1におけるSer32に相当する変異、好ましくはS32A又はS32Cである、請求項26に記載の組み換えタンパク質。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか1項に記載のトランスフェリン変異体の配列を含んでなるタンパク質をコードする配列を含んでなる、ポリヌクレオチド。
【請求項29】
配列番号3の配列を含んでなる、請求項28に記載のポリヌクレオチド。
【請求項30】
トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をコードする配列が、分泌リーダー配列をコードするポリヌクレオチド配列と作動的に結合する、請求項28又は29に記載のポリヌクレオチド。
【請求項31】
トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質をコードする配列が、その5'末端で、分泌リーダー配列をコードするポリヌクレオチド配列の3'末端と作動的に結合する、請求項30に記載のポリヌクレオチド。
【請求項32】
請求項28〜31のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含んでなるプラスミド。
【請求項33】
タンパク質ジスルフィド異性体をコードするポリヌクレオチド配列をさらに含んでなる、請求項32に記載のプラスミド。
【請求項34】
S.セレビシアエ(S. cerevisiae)2μmプラスミドである、請求項32又は33に記載のプラスミド。
【請求項35】
宿主細胞を形質転換し、それにより請求項1〜24のいずれか1項に記載のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質を作製するための、請求項28〜34のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド又はプラスミドの使用。
【請求項36】
請求項1〜24のいずれか1項に記載のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質を発現できる宿主細胞の製造方法であって、以下の
(a)請求項28〜34のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド又はプラスミドを用意するステップ、
(b)宿主細胞を用意するステップ、
(c)ポリヌクレオチド又はプラスミドで、宿主細胞を形質転換するステップ、及び
(d)形質転換宿主細胞をセレクションするステップ
を含んでなる製造方法。
【請求項37】
請求項1〜24のいずれか1項に記載のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質の製造方法であって、以下の
(a)請求項28〜34のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド又はプラスミドを含有する宿主細胞を用意するステップ、及び
(b)トランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質の発現が可能な条件下で宿主細胞を培養するステップ
を含んでなる製造方法。
【請求項38】
発現組み換えタンパク質を単離するステップをさらに含んでなる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
単離組み換えタンパク質を、担体又は希釈剤と共に製剤化するとともに、任意に、単位投薬形態で製剤化タンパク質を提供するステップをさらに含んでなる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
単離組み換えタンパク質を凍結乾燥するステップをさらに含んでなる、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記宿主細胞が酵母細胞、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)、クリベロマイセス(Kluyveromyces)、又はピキア(Pichia)属、例えば、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)及びピキア・メンブラナエファシエンス(Pichia membranaefaciens)、又はザイゴサッカロマイセス・ロウキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)、ザイゴサッカロマイセス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailii)、ザイゴサッカロマイセス・フェルメンタチ(Zygosaccharomyces fermentati)、又はクリベロマイセス・ドルスフィラルム(Kluyveromyces drosphilarum)である、請求項35に記載の使用、又は請求項36〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
請求項1〜27のいずれか1項に記載のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質、及び以下の、グルタミン、インスリン、インスリン様増殖因子、アルブミン、エタノールアミン、フェチュイン、ビタミン、リポタンパク質、脂肪酸、アミノ酸、亜セレン酸ナトリウム、ペプトン及び抗酸化物からなる群から選択される1以上の成分を含んでなる哺乳類細胞培養培地。
【請求項43】
請求項1〜27のいずれか1項に記載のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質、及び以下の、グルタミン、インスリン、インスリン様増殖因子、アルブミン、エタノールアミン、フェチュイン、ビタミン、リポタンパク質、脂肪酸、アミノ酸、亜セレン酸ナトリウム、ペプトン及び抗酸化物からなる群から選択される1以上の成分を含んでなる哺乳類細胞培養培地において、細胞をインキュベートするステップを含んでなる、哺乳類細胞の培養方法。
【請求項44】
請求項1〜27のいずれか1項に記載の組み換えタンパク質を含んでなる組成物。
【請求項45】
請求項1〜27のいずれか1項に記載のトランスフェリン変異体の配列を含んでなる組み換えタンパク質、及び医薬的に許容される担体、を含んでなる医薬組成物。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23A】
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【図23B】
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【図23C】
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【図24】
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【公表番号】特表2010−528671(P2010−528671A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511661(P2010−511661)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057508
【国際公開番号】WO2008/152140
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(509198343)ノボザイムス バイオファーマ デーコー アクティーゼルスカブ (11)
【Fターム(参考)】