説明

組合せオイルコントロールリング

【課題】組合せオイルコントロールリングにサイドレールの単独回転を防止する機能を付与しその機能を長期間持続させる。また、フレッティング疲労に対する対策も提供する。さらに、低張力の組合せオイルコントロールリングにおいても、サイドレールの単独回転を防止できる組合せオイルコントロールリングを提供する。
【解決手段】上下二枚のサイドレールと、それらの間に介在し内周部に前記サイドレールの内周面を押圧する耳部を有するスペーサエキスパンダよりなる組合せオイルコントロールリングにおいて、前記耳部のサイドレール押圧面に略軸方向に延長する凹凸部を有し、前記凹凸部の凸面が角部を含む構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンに装着され、オイルコントロールを行う二枚のサイドレールとスペーサエキスパンダとからなる組合せオイルコントロールリングに関し、特にサイドレールの単独回転を防止する組合せオイルコントロールリングに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車エンジンは、環境対応のため、燃費の向上、低エミッション化、高出力化が図られ、特に燃費の向上を目指して、ピストン系摺動部のフリクション低減に着目した改良が進められている。ピストンリングの低張力化は特に重要で、中でもオイルコントロールリングの張力は、ピストンリングの全張力の50%以上を占めていることから、その張力を低減する対策が行われている。しかし、オイルコントロールリングの張力を低減することは、シリンダライナ壁面への追従性を低下させることにも繋がるため、オイル消費量を増加させてしまうという懸念が生じる。さらに、スペーサエキスパンダの耳部と呼ばれる突起でサイドレールの内周面を押圧することによって張力を発生させる3ピースオイルコントロールリングにおいては、上下に配置される二枚のサイドレールがそれぞれ単独に円周方向の回転運動を行い、上下のサイドレールの合口部が上下方向に重なってしまうという現象も起こりうる。その場合、合口部が掻き残した潤滑油が内燃機関の燃焼室に運び込まれ、潤滑油の供給が過剰となり、オイル消費増加の原因となる。
【0003】
上記のサイドレールがスペーサエキスパンダに対して単独で回転することを防止する方法として、例えば特許文献1には、耳部(特許文献1ではパッド部)表面に複数個の溝あるいは凹部を形成することが開示されている。複数個の溝あるいは凹部の形成によって面粗度が粗くなって回転運動が阻止される。
【0004】
特許文献2には、特許文献1と同様、耳部の接触面の表面粗さを粗くすることに加え、耳部(特許文献2では爪部)の曲率をサイドレールの内周の曲率に一致させて、サイドレールのスペーサエキスパンダに対する相対回転を阻止する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、耳部表面に細かい凹凸、例えば、ピッチ25〜250μm、高さ15〜180μmの鋸歯状を形成し、摩擦抵抗を増大して回転運動を阻止することが開示されている。このようなスペーサエキスパンダの耳部を加工する方法として、特許文献4には、図5(a)〜(c)にその概略が示される装置を用いて、耳部のサイドレール押圧面に、凹凸を形成した加工工具を圧接し、加工工具の細かい凹凸を転写形成することが開示されている。
【0006】
特許文献5には、耳部の外側に0.006〜0.060 mmの突起を形成することが開示されている。この場合、突起のみが大きな接触圧力でサイドレールに接触するため、サイドレールの相対回転が阻止できる。また、上記の特許文献3の問題点として、有効接触面積を減少させるとサイドレール内周面の摩耗を早め、細かい凹凸の深さまで早期に摩耗することが記載されている。
【0007】
特許文献6には、耳部中央部に突起が設けられ、突起の厚さを0.07〜0.2 mmとすることが開示されている。特許文献5と同様、接触面積を小さくすることにより接触面圧を高くし、回転を阻止する、という考え方が採用されている。ここでは、突起の厚さが厚いので長期に亘って効果が維持される。
【0008】
特許文献7には、耳部表面に2本以上の溝部と3本以上の平坦部とからなる周方向の凹凸を形成し、平坦部の周方向合計幅を耳部の周方向幅の30〜70%とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開昭59−99153号公報
【特許文献2】実開昭60−14261号公報
【特許文献3】実開平1−78768号公報
【特許文献4】特開平3−193221号公報
【特許文献5】実開平6−69522号公報
【特許文献6】特開2001−132840号公報
【特許文献7】特開2003−148617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その課題は、組合せオイルコントロールリングにサイドレールの単独回転を防止する機能を付与し、さらにその機能を長期間持続させることにある。また、近年、サイドレールの回転には、シリンダライナの真円度、ピストンとシリンダライナのクリアランス、及びピストンの形状等に起因して起こるピストンの首振り現象が影響していることが分かってきた。このピストンの首振り現象により、耳部に突起を有するオイルコントロールリングは、振動、繰り返し応力、変動応力などを受け、すなわちフレッティング疲労を受け、損傷部から疲労亀裂が発生、進展して突起部を破損してしまうという問題にも繋がっていた。本発明は、このフレッティング疲労に対する対策も提供することを課題とする。さらに本発明は、低張力の組合せオイルコントロールリングにおいても、サイドレールの単独回転を防止できる組合せオイルコントロールリングを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、基本的に、耳部が組合せオイルコントロールリングの略軸方向に延長する凹凸部を有し、凸面が角部を含むことによって摩擦抵抗を増大し、サイドレールの回転運動を阻止するものとする。本発明者らは、万が一、角部が摩耗したとしても接触面積を所定の値以上に増加させない形状の凹凸形状とし、またフレッティング疲労にも強い本発明の特徴的形状とすることによって突起部の破損を防ぎ、さらに低張力仕様においても、サイドレールの単独回転を防止できることに想到した。
【0012】
すなわち、本発明の組合せオイルコントロールリングは、上下二枚のサイドレールと、それらの間に介在し内周部に前記サイドレールの内周面を押圧する耳部を有するスペーサエキスパンダよりなる組合せオイルコントロールリングにおいて、前記耳部のサイドレール押圧面に略軸方向に延長する凹凸部を有し、前記凹凸部の凸面が角部を含むことを特徴とする。前記角部は、スパイク波形により構成されることが好ましく、周方向の一方に傾斜し、前記角部が前記凸面の端部及び/又はスパイク波形により構成されていることがより好ましい。また、前記凸面の傾斜角度θは、1〜30°の範囲にあることが好ましく、1〜20°の範囲がより好ましく、1〜10°の範囲がさらに好ましい。ここで、傾斜角度θは、耳部のサイドレール押圧面に接する面方向との角度とする。
【0013】
さらに、前記凹凸部の断面は略台形波形形状であることが好ましく、前記凹凸部の凸面の端部から構成される角部は鈍角であることがより好ましく、前記凹凸部の凸面と凹面を繋ぐ面が外に凸形状であることがさらに好ましい。また、前記凸面の前記凹面からの高さ(h)の前記凹凸部の凸部底面の幅(m)に対する比(h/m)が0.5〜10%であることが好ましく、実際の寸法としては、前記凸面の前記凹面からの高さ(h)が0.5〜20μmであることが好ましく、0.5μm以上6μm未満がより好ましい。
【0014】
さらに、本発明の組合せオイルコントロールリングは、設定される張力に応じて、前記耳部に含まれる前記凸面の周方向長さの合計が前記耳部の周方向長さの30〜70%であることが好ましい場合、20〜50%であることが好ましい場合、又は15〜25%であることが好ましい場合がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の組合せオイルコントロールリングは、耳部に組合せオイルコントロールリングの略軸方向に延長する凹凸部を有し、前記凹凸部の凸面に角部を含むことによって摩擦抵抗を増大し、サイドレールの回転運動を阻止することが可能となる。凸面が周方向の一方に傾斜していれば、凸面の一端の角部では理屈上確実にサイドレールに線接触し、回転運動の阻止効果が高まり、スパイク波形を含めば、サイドレールとの摩擦抵抗をさらに増大するという観点でより効果的である。万が一、鋭い先端部を有するスパイク波形の角部が摩耗したとしても、凸面の一端の線状の角部は容易に摩耗しない。また凸部の比率を所定の範囲に制御することにより、接触面圧を高くし、サイドレールの回転運動を阻止し続けることが可能となる。さらに前記凹凸部の断面が略台形波形形状、又は略台形波形形状であって前記凹凸部の凸面と凹面を繋ぐ面が外に凸形状とすれば、使用中のフレッティング運動に起因する凸部の摩耗、特に凸部の破損を阻止することが可能となる。さらに、低張力の組合せオイルコントロールリングにおいても、凸面の比率を所定の範囲に制御することにより、接触面圧を高くし、サイドレールの回転運動を阻止し続けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の組合せオイルコントロールリングの断面図である。
【図2】本発明のスペーサエキスパンダの一部であって、耳部のサイドレール押圧面に略軸方向に延長した凹凸部が形成された図である。
【図3】図2のA−A断面図であって、(a)は凸面がスパイク波形を含む略矩形の凸部断面、(b)は凸面が傾斜した凸部断面、(c)は凸面が傾斜し且つスパイク波形を含む凸部断面、を示した図である。なお(b)及び(c)には傾斜角度θが定義される。
【図4】図2のA−A断面図であって、(a)〜(d)は凸面が傾斜した凹凸部の断面形状が略台形波形形状で且つ凸面と凹面を繋ぐ面が平面又は外に凸形状であり、(b)及び(d)は凸面がスパイク形状を含む。凸面の凹面からの高さ(h)が、(a)及び(b)では比較的大きな場合、(c)及び(d)では小さな場合、を示している。
【図5】凹凸部の断面形状において、(a)は凸面の周方向長さの合計が耳部の周方向長さの約40%、(b)は凸面の周方向長さの合計が耳部の周方向長さの約20%の図である。
【図6】(a)はスペーサエキスパンダの耳部を加工する装置の正面概略図、(b)は加工時のスペーサエキスパンダと加工ローラの配置関係を示す断面図、(c)は加工ローラの部分図である。
【図7】サイドレール単独回転評価試験装置を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の組合せオイルコントロールリングの実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、ピストン(1)のオイルリング溝(5)に、組合せオイルコントロールリングを装着した状態を示し、スペーサエキスパンダ(2)と、その上下に装着された一対のサイドレール(3、3)が、収納されている。スペーサエキスパンダ(2)の耳部(6)は、サイドレール(3、3)の内周面をシリンダ内壁(7)に向かって押圧してピストン外周面(4)とシリンダ内壁(7)との間をシールするだけでなく、オイルリング溝(5)の側面のシールも行えるように傾斜面に形成されている。
【0018】
図2は、スペーサエキスパンダを内周側から見た図であり、軸方向に波形形状をしており、その波形の上下に、一方のサイドレールを押圧する上部耳部(6a)と、他方のサイドレールを押圧する下部耳部(6b)が形成されている。耳部には、略軸方向に延長する凹凸部が形成されており、凸面の接触面積を小さくして接触圧力を高めているので、サイドレールの単独回転を防止することができる。さらにA−A断面は、図3に示すように、略矩形波形形状を示し、凹面(61)、凸面(62)及び凹面(61)と凸面(62)を繋ぐ面(以下「側面」という。)(63)からなり、凸面(62)は角部(64、65)を含んでいる。角部(64、65)がピン留めのようにサイドレールの動きを止める働きをして、サイドレールの回転運動が阻止される。凸部(62)が角部(64、65)を含むという観点では、凸部が一方に傾斜していて角部を端部(65)としてもよいし、スパイク波形(64)を含んでもよい。スパイク波形の高さは、最大で1〜5μmのものが好ましく、1〜3μmがより好ましい。端部(65)の場合は、角部が長さをもち線状の角部となるため理屈上はサイドレールに線接触し、スパイク波形(64)の角部に比べて破損しにくい。図3の凹凸形状を略矩形波形形状と呼ぶのは、凸面がスパイク波形を含み平面でない場合や一方に傾斜した場合を考慮してのことである。後に示す加工ローラによる塑性加工に起因して凸面の幅(m’)が凸部底面の幅(m)に対し僅かに小さくなるが、意図して略台形波形形状としないかぎり略矩形波形形状と呼ぶこととする。図3(a)では凸面は傾斜していないが、図3(b)及び(c)では凸面が一方に傾斜している。傾斜角度を図中に定義しているが、その傾斜角度は1〜30°が好ましく、1〜20°がより好ましく、1〜10°がさらに好ましい。すなわち、端部(65)は角部といっても、その角度は先端部の破損しにくい60°以上であることが好ましく、70°以上がより好ましく、80°以上がさらに好ましい。
【0019】
さらにA−A断面は、図4に示すように略台形波形形状を示し、側面(63)は平面又は凸面形状であることが好ましい。凸部が略台形形状で、側面(63)が平面又は凸面形状をしているため、フレッティング運動による振動、繰り返し応力、変動応力などを受けても、応力集中を回避し、凸部の破損や摩耗を防ぐことができる。凸面形状は、当然に、曲面形状でも多面形状でも凸面であればよい。例えば、断面が円弧状の場合、任意の曲率半径をもつ円弧形状とする。端部の角度は鈍角であることが好ましいが、端部が角部であるためには凸面が円弧に接する場合を除く。図4において、凹凸部の断面を略台形波形形状と呼ぶのは、側面が平面でない場合や、凸面そのものも一方に傾斜していたりスパイク波形(64)を含んでいたりする場合を考慮してのことである。また、従来技術(例えば、特許文献6)は凸面の凹面に対する高さ(h)が大きいほど長寿命であることを示しているが、本発明者らの鋭意研究の結果、逆に、サイドレールの単独回転が防止できれば、高さ(h)が小さいほど長寿命であることに想到した。凸面の凹面に対する高さ(h)が小さいほど、フレッティング運動による凸部の受ける応力が小さいからである。凸面の凹面からの高さ(h)の凸部底面の幅(m)に対する比(h/m)が0.5〜10%であることが好ましく、実際の寸法としては、凸面の凹面からの高さ(h)が0.5〜20μmであることが好ましく、0.5μm以上6μm未満がより好ましい。ここで凸面の凹面からの高さ(h)は、凸面が傾斜している場合は高いほうの高さとし、スパイク波形の高さは含まない。これらの凹凸形状や、ピッチ(m+n)、m、m’、n、h等の寸法は、接触式又は非接触式(例えば、レーザー)の形状測定装置(表面粗さ測定装置も含む)を用いて測定できる。
【0020】
耳部の周方向長さに対する凸面の周方向長さの比率は、組合せオイルコントロールリングの張力を考慮して決めればよい。すなわち、低張力の場合ほど、凸面の周方向長さの比率を小さくして所定の接触面圧が得られるようにすればよい。組合せオイルコントロールリングの張力に応じて、耳部に含まれる凸面の周方向長さの合計が耳部の周方向長さの30〜70%、20〜50%、又は15〜25%とすることが好ましい。図5は、耳部に含まれる凸面の周方向長さの比率を変えた実施態様を示すが、(a)は耳部に含まれる凸面の周方向長さmの合計(Σm)が耳部の周方向長さ(Σ(m+n))の約40%、(b)は耳部に含まれる凸面の周方向長さmの合計(Σm)が耳部の周方向長さ(Σ(m+n))の約20%の場合の凹凸形状を示すものである。
【0021】
本発明の組合せオイルコントロールリングに使用されるスペーサエキスパンダの耳部は、基本的に、特許文献4によって教示される図6に示す方法で加工される。すなわち、耳部のサイドレール押圧面(6)に、所望の凹凸を形成した加工ローラ(100)を圧接し、加工ローラ加工面(110)の凹凸を耳部のサイドレール押圧面(6)に転写形成(以下「ロール成形」という。)する。耳部の凹凸形状は、加工ローラ(100)の凹凸形状を反転した形状となるので、凸部や凹部の周方向長さ(m、m’、n)、傾斜角度θ、側面(63)の曲率、スパイク波形等は、加工ローラの凹凸形状、表面性状及び加工時の潤滑条件によって決まる。ここで、m’は周方向に平行な距離とし、傾斜角度θに依らないものとして扱うこととする。また、凸面の高さ(h)は加工ローラの圧接深さによって決まる。加工ローラに設けた凹部の深さが加工ローラの圧接深さよりも深い場合は、凸面はロール成形前の耳部表面、すなわち耳部成形時の剪断加工面のままとなる。傾斜角度θが小さい場合は、傾斜していない凸面(すなわち、θ=0)の矩形波形形状の凹凸形状の加工ローラ(100)を用いても、図6のスペーサエキスパンダのセットされた下部ローラ(200)の回転軸と、加工ローラ(100、100)の両方の回転軸が、スペーサエキスパンダの流動方向に垂直な軸上から平行にオフセットすることによっても、凸面が一方向に傾斜した台形波形形状の凹凸部を形成することができる。また、耳部の凸面のスパイク波形は、耳部成形時の剪断加工由来のスパイク波形を残すこと、又は加工ローラの加工面の表面性状及びスペーサエキスパンダ耳部と加工ローラ間加工面の潤滑条件を無潤滑とすることによって形成可能となる。
【0022】
実施例1
組合せオイルリングの呼び径75 mm、組合せ呼び径2.0 mm、組合せ厚さ2.5 mmとなるSUS304製のスペーサエキスパンダと幅0.4 mmのSUS 440製サイドレールを成形した。スペーサエキスパンダは、SUS304製の帯材からギア成形による局部的な曲げと剪断による耳長さ(耳部の周方向長さ)1.28 mmの耳部成形の後、耳部に凹凸形状がピッチ:0.18 mm、h:0.02 mm、m=0.09 mmなる略矩形形状となるように、また加工ローラの加工面の表面粗さRvが3.2μm、無潤滑の加工条件でロール成形を行い、最後にコイリングにより真円に成形された。
【0023】
得られた組合せオイルリングは、図7に示すサイドレール単独回転評価装置を用いて評価した。この評価装置(300)は、疑似オイルリング溝(301)を有するホルダー(ピストン)(302)に、組合せオイルリングを装着し、円筒(擬似シリンダ)(303)内で、支柱(304)に設けた支点(305)を中心に首振り運動させ、サイドレールの単独回転を評価するものである。試験は、スペーサエキスパンダのジョイント位置に対して、上下二枚のサイドレールを、スペーサエキスパンダのジョイント位置からそれぞれ反対方向に30°ずらして組み付けた組合せオイルコントロールを上記ホルダー(擬似ピストン)(302)に装着し、首振り角度αを0.5°毎に、0.5°から7.5°まで、10往復/秒の速度で10分間ずつ首振り運動させることによって行い、サイドレールの単独回転が起こる首振り角度によって、サイドレール単独回転防止能力を評価するものである。回転が開始する首振り角度が大きいほどサイドレールが回転しづらい構造であると評価できる。実施例1の組合せオイルコントロールリングのサイドレール単独回転開始角度は6.5°であった。
【0024】
実施例2〜6
耳部の凸面が表1に示す角度θ(3〜34°)だけ、一方に傾斜させた加工ローラを用いた以外は、実施例1と同様にスペーサエキスパンダを製作し、実施例1と同様にサイドレール単独回転の評価試験を行った。試験結果を実施例1の結果も含め、表1に示す。傾斜角度が3〜27°では、サイドレール単独回転評価試験装置の上限の首振り角度(7.5°)でもサイドレールは単独回転しなかった。
【0025】
実施例7〜11
ロール成形の加工条件を潤滑条件とした以外は、実施例2〜6と同様に、スペーサエキスパンダを製作し、実施例1と同様にサイドレール単独回転の評価試験を行った。試験結果を表1に示す。傾斜角度θが3〜27°では、サイドレール単独回転評価試験装置の上限の首振り角度(7.5°)でもサイドレールは単独回転しなかった。
【0026】
比較例1
ロール成形の加工条件を潤滑条件とした以外は、実施例1と同様に、スペーサエキスパンダを製作し、実施例1と同様にサイドレール単独回転の評価試験を行った。試験結果を表1にも示すが、サイドレール単独回転開始角度は5.5°だった。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例12〜16
耳部の凹凸形状がピッチ:0.18 mm、h:0.001〜0.01 mm、m:0.09〜0.12 mm、m’:0.078〜0.102 mm、θ:9°、側面:外に凸、となるような加工条件でロール成形を行った以外は、実施例1と同様にスペーサエキスパンダを製作し、実施例1と同様にサイドレール単独回転の評価を行った。耳部凹凸形状の仕様(凸面高さh、凸部底面の幅m、凸面の周方向長さm’、パラメータh/m、接触面積率等)と試験結果である単独回転開始角度を表2に示す。いずれの実施例においても、サイドレール単独回転評価試験装置の上限の首振り角度(7.5°)で、サイドレールは単独回転しなかった。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例17〜21
耳部の凹凸形状がピッチ:0.18 mm、h:0.001〜0.01 mm、m:0.059〜0.078 mm、m’:0.049〜0.060 mm、θ:9°、側面:外に凸、となるような加工条件でロール成形を行った以外は、実施例1と同様にスペーサエキスパンダを製作し、実施例1と同様にサイドレール単独回転の評価を行った。但し、スペーサエキスパンダの張力は、実施例1〜16よりもやや小さめに調整した。耳部凹凸形状の仕様(凸面高さh、凸部底面の幅m、凸面の周方向長さm’、パラメータh/m、接触面積率等)と試験結果である単独回転開始角度を表3に示す。何れの実施例においても、サイドレール単独回転評価試験装置の上限の首振り角度(7.5°)で、サイドレールは単独回転しなかった。
【0031】
【表3】

【0032】
実施例22〜26
耳部の凹凸形状がピッチ:0.18 mm、h:0.001〜0.01 mm、m:0.037〜0.053 mm、m’:0.028〜0.039 mm、θ:9°、側面:外に凸、となるような加工条件でロール成形を行った以外は、実施例1と同様にスペーサエキスパンダを製作し、実施例1と同様にサイドレール単独回転の評価を行った。但し、スペーサエキスパンダの張力は、実施例17〜21よりもさらに小さめに調整した。耳部凹凸形状の仕様(凸面高さh、凸部底面の幅m、凸面の周方向長さm’、パラメータh/m、接触面積率等)と試験結果である単独回転開始角度を表4に示す。何れの実施例においても、サイドレール単独回転評価試験装置の上限の首振り角度(7.5°)で、サイドレールは単独回転しなかった。
【0033】
【表4】

【0034】
実施例27〜33及び比較例2
実施例1(実施例27)、実施例3(実施例28)、実施例8(実施例29)、実施例14(実施例30)、実施例19(実施例31)、実施例24(実施例32)、実施例25(実施例33)、及び比較例2(比較例1)の組合せオイルコントロールリングについて、排気量が1500 cm3の4気筒ガソリンエンジンを用いて、耳部及びサイドレールの内周面の摩耗とオイル消費量を評価した。ここで、トップリングは外周バレルフェイス、セカンドリングは外周テーパーフェイスのリングを用いた。試験条件は、5,000 rpm、全負荷(WOT:Wide Open Throttle)、48時間の条件とした。試験結果を表5に示す。h/mが10%以下の実施例30、31、33では、摩耗量1 μm以下、オイル消費量10 g/hr以下であった。
【0035】
【表5】

【符号の説明】
【0036】
1 ピストン
2 スペーサエキスパンダ
3 サイドレール
4 ピストン外周面
5 オイルリング溝
6 耳部
6a 上部耳部
6b 下部耳部
7 シリンダ内壁
61 凹部(凹面)
62 凸部(凸面)
63 凸面と凹面を繋ぐ面(側面)
64 スパイク波形(角部)
65 端部(角部)
100 加工ローラ
110 加工面
200 下部ローラ
300 サイドレール単独回転評価試験装置
301 擬似オイルリング溝
302 ホルダー(擬似ピストン)
303 円筒(擬似シリンダ)
304 支柱
305 支点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下二枚のサイドレールと、それらの間に介在し内周部に前記サイドレールの内周面を押圧する耳部を有するスペーサエキスパンダよりなる組合せオイルコントロールリングにおいて、前記耳部のサイドレール押圧面に略軸方向に延長する凹凸部を有し、前記凹凸部の凸面が角部を含むことを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項2】
請求項1に記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記角部がスパイク波形により構成されることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記凸面が周方向の一方に傾斜し、前記角部が前記凸面の端部及び/又はスパイク波形により構成されていることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項4】
請求項3に記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記凸面の傾斜角度が1〜30°の範囲にあることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記凹凸部の断面形状が略台形波形形状であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項6】
請求項5に記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記凹凸部の凸面の端部から構成される角部が鈍角であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記凹凸部の前記凸面と凹面を繋ぐ面が外に凸形状であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記凸面の前記凹面からの高さ(h)の前記凹凸部の凸部底面の幅(m)に対する比(h/m)が0.5〜10%であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記凸面の前記凹面からの高さ(h)が0.5〜20μmであることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記凸面の前記凹面からの高さ(h)が0.5μm以上6μm未満であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記耳部に含まれる前記凸面の周方向長さの合計が前記耳部の周方向長さの30〜70%であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記耳部に含まれる前記凸面の周方向長さの合計が前記耳部の周方向長さの20〜50%であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれかに記載の組合せオイルコントロールリングにおいて、前記耳部に含まれる前記凸面の周方向長さの合計が前記耳部の周方向長さの15〜25%であることを特徴とする組合せオイルコントロールリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113322(P2013−113322A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257463(P2011−257463)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000139023)株式会社リケン (101)
【Fターム(参考)】