説明

組成傾斜型酸素分離膜

【課題】 酸素透過性能が高く且つ還元耐久性の優れた酸素分離膜を提供する。
【解決手段】 酸素分離膜10,30によれば、La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7Ox等の混合伝導体から成る第1層12,32にLa0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9Ox等の混合伝導体から成る第2層14,34が積層された積層構造に構成される。そのため、酸素分離膜10,30は、還元膨張率が小さく且つ酸素透過性能の低い第1層12,32に、還元膨張率が大きく且つ酸素透過性能の高い第2層14,34が積層された組成傾斜型になる。したがって、前述したように第1層12,32を還元側に配置すれば、第2層14,34が還元雰囲気から保護され、延いては酸素分離膜全体の還元耐久性を十分に高めることができる。また、第1層12,32は十分に薄いので、これを構成する混合伝導体の酸素透過性能が低くとも、酸素分離膜全体の高い酸素透過性能を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合伝導体が用いられた酸素分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、酸素イオン伝導性を有する緻密なセラミック膜は、その一面側において気体から解離させ且つイオン化させた酸素イオンをその他面側において再結合させることにより、酸素をその一面から他面に選択的に透過させてその気体から連続的に酸素を分離する酸素分離膜エレメントに利用される。特に、酸素イオン伝導性に加えて電子伝導性を有する混合伝導体では、酸素分離膜内を酸素イオンの移動方向とは反対方向に電子が移動するため、解離面と再結合面とを電気的に接続して電子を再結合面から解離面に戻すための外部電極や外部回路等を設ける必要がない利点がある。このような酸素分離膜エレメントによれば、酸素を含む気体から容易に酸素を分離することができるため、例えば、深冷分離法やPSA(圧力変動吸着)法等に代わる酸素製造法として利用できる。
【0003】
また、上記のような酸素イオン伝導体は、炭化水素の部分酸化反応等の酸化用反応装置にも利用し得る。例えば、この酸素イオン伝導体を膜状に形成し、その一方の表面に空気等の酸素含有ガスを供給し、他方の表面すなわち酸素再結合側の表面にメタン(CH4)等の炭化水素を含む気体を供給すれば、透過した酸素イオンによってその炭化水素を酸化させることができる。そのため、GTL(Gas to Liquid:天然ガスから化学反応により液体燃料を合成する技術)や、燃料電池用水素ガスの製造等に利用できるのである。
【0004】
ところで、酸素分離に用いる混合伝導体として、LaSrCoFe系やLaGaO3系酸化物等のペロブスカイト化合物が優れていることが知られている(特許文献1〜8等参照)。しかしながら、LaSrCoFe系酸化物は還元膨張率が大きいことから、解離面側が還元雰囲気になる酸素分離膜用途では、割れが生じ易く耐久性が低いので、実用上問題がある。なお、還元膨張率(%)は、還元雰囲気下における熱膨張率をEred(%)、空気雰囲気下における熱膨張率をEair(%)としたとき、下記(1)式で与えられる。
[{(1+Ered/100)-(1+Eair/100)}/(1+Eair/100)]×100 ・・・(1)
【0005】
一方、LaGaO3系酸化物は、LaSrCoFe系酸化物に比較して還元耐久性が優るものの原料が高価であり、しかも、酸素イオン伝導性がやや劣り、機械的強度も低い問題がある。また、LaGaO3系酸化物は、水蒸気接触部でGa成分が分解することから、耐水蒸気性にも問題がある。因みに、炭化水素の部分酸化反応等においては、コーキング(すなわち炭素の析出)延いてはガス透過性能の低下を防止するために膜の一方側に水蒸気を流すシステム設計が望まれる。また、水蒸気を流さない場合にも、膜を透過した酸素と水素との反応により水蒸気が生成する。そのため、前述したような用途においては、酸素イオン伝導体に耐水蒸気性も要求されるのである。
【0006】
なお、LaGaO3系酸化物の強度を向上させるために、アルミナ粉末をLaSrGaMg系酸化物結晶の粒界に分散させた焼結体、LaGaO3系結晶の構造の一部をアルミニウム等で置換した焼結体、LaGaO3系結晶のGaの一部をアルミニウムやマグネシウム等で置換した(すなわちアルミニウムやマグネシウム等が固溶した)焼結体、LaGaO3系酸化物にチタンまたはバナジウムを含有させた焼結体等が提案されている(例えば特許文献9〜12等を参照)。しかしながら、これらは何れもGaを含むペロブスカイト化合物の機械的強度を向上させて還元安定性を高めることを図るものであって、Gaを含む場合における耐水蒸気性を何ら改善するものではない。
【特許文献1】特開平08−173776号公報
【特許文献2】特開平09−161824号公報
【特許文献3】特開平11−228136号公報
【特許文献4】特開平11−335164号公報
【特許文献5】特開2000−251534号公報
【特許文献6】特開2000−251535号公報
【特許文献7】特表2000−511507号公報
【特許文献8】特開2001−093325号公報
【特許文献9】特開2000−044340号公報
【特許文献10】特開2000−226260号公報
【特許文献11】特開2001−332122号公報
【特許文献12】特開2003−112973号公報
【特許文献13】国際公開第03/040058号パンフレット
【特許文献14】特開平05−151918号公報
【特許文献15】特開平07−296838号公報
【特許文献16】特開平09−266000号公報
【特許文献17】特開2001−052722号公報
【特許文献18】特開2002−015756号公報
【非特許文献1】高村 仁他「家庭用燃料電池実現のための新たな高効率天然ガス改質システムの構築−酸素透過膜を利用した接触部分酸化型メタン改質装置の開発−」(科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 第5回公開シンポジウム予稿集、2004年7月5日、49〜53頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本願出願人は、LaGaO3系酸化物に比較して原料が安価で酸素イオン伝導性が高く、且つLaGaO3系酸化物に比較して還元耐久性や耐水蒸気性の高い混合伝導体として、LaSrTiFeOx系酸化物(xは3またはそれよりも僅かに小さい値)等を提案した(特許文献13を参照)。
【0008】
上記のLaSrTiFeOx系酸化物は、AサイトおよびBサイトの組成比に応じて酸素透過性能や還元耐久性が変化する。例えば、La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9Oxは、0.5(mm)厚としたときの酸素透過速度が10(cc/min/cm2)以上と高い酸素透過性能を有するが、還元膨張率が0.4〜0.7(%)と大きいため還元耐久性が低い。これに対して、La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7Oxは、酸素透過速度が3(cc/min/cm2)に過ぎないが、還元膨張率が0.1(%)と小さく還元耐久性が高い。すなわち、LaSrTiFeOx系酸化物では、酸素透過性能と還元耐久性とがトレードオフの関係にあり、これらを共に高めることは不可能である。そのため、還元耐久性が要求される現在の一般的な工業用途では、0.5(mm)厚で2〜4(cc/min/cm2)以上の酸素透過性能が必要とされることから、これを満足する後者の組成が用いられることになる。
【0009】
しかしながら、混合伝導体膜の酸素透過性能が高いほど、同量の酸素量を得るために必要な酸素分離膜エレメントの寸法を小さくでき、延いては装置の低コスト化および小型化が容易になる。例えば、La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9Ox並の10(cc/min/cm2)程度の酸素透過速度を有していれば、La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7Oxを用いる場合と比較して、エレメント寸法を半分以下にできる。そのため、高い還元耐久性を有すると共に、単位膜面積当たりの酸素透過速度が可及的に高い混合伝導体膜が望まれていた。
【0010】
また、実際に工業用途上必要な酸素透過性能は例えば10(cc/min/cm2)以上であり、前述した「0.5(mm)厚で2〜4(cc/min/cm2)」との値は、酸素透過性能が膜厚に略反比例することに基づき、0.1(mm)程度まで膜厚を薄くして必要な酸素透過性能を確保することを前提としている。しかしながら、このような薄い膜は自立不能であるため、多孔質支持体上に緻密質膜を形成する非対称膜構造を採る必要がある。これに対して、0.5(mm)厚で10(cc/min/cm2)以上の酸素透過性能が得られるのであれば、非対称膜構造として酸素透過性能の極めて高い酸素分離膜を構成することが可能であるだけでなく、膜厚を自立可能な0.5(mm)として多孔質支持体を無用とすることも可能である。後者によれば工程が簡単になるので大幅な低コスト化が可能になる。
【0011】
なお、還元膨張率が同程度であれば、機械的強度が高いほど、還元膨張によって発生する応力に対する抵抗力が高くなり、延いては割れが生じ難くなる。そのため、還元膨張率を低くすることに代えて機械的強度を例えば2〜3倍程度に高めることも考えられるが、現実的には困難である。
【0012】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、酸素透過性能が高く且つ還元耐久性の優れた酸素分離膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
斯かる目的を達成するための本発明の組成傾斜型酸素分離膜の要旨とするところは、(a)一般式(Ln1-xAex)MO3(但し、Lnはランタノイドのうちの1種または2種以上の組合せ、AeはBa、Sr、Caのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、MはTi,Zr,Al,Ga,Nb,Ta,Fe,Co,Ni,Cu,Cr,Mn,Rh,Pd,Pt,およびAuのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、0≦x≦1。以下、一般式Cという。)で表される第1の混合伝導体から成る第1層と、(b)前記一般式Cで表され且つ前記第1の混合伝導体よりも還元膨張率が大きい第2の混合伝導体から成り前記第1層に積層された第2層とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0014】
このようにすれば、酸素分離膜は、第1の混合伝導体から成る第1層に第2の混合伝導体から成る第2層が積層された積層構造に構成される。この積層構造において、第2層を構成する第2の混合伝導体は、第1層を構成する第1の混合伝導体よりも還元膨張率が大きい特性を有するが、上記一般式Cで表されるペロブスカイト化合物は酸素透過性能と還元耐久性とがトレードオフの関係にある。そのため、上記酸素分離膜は、相対的に還元膨張率が小さく且つ酸素透過性能の低い第1層に、相対的に還元膨張率が大きく且つ酸素透過性能の高い第2層が積層された積層体、すなわち、相互に組成の異なる2つの混合伝導体を酸素イオンの透過方向に積層した組成傾斜型の酸素分離膜になる。
【0015】
したがって、酸素分離膜を使用するに際して、相対的に還元膨張率が小さい第1層を還元雰囲気側に配置すれば、相対的に酸素透過性能の高い第2層がその第1層によって還元雰囲気から保護される。このとき、第1層内には、その膜厚やこれを構成する第1の混合伝導体の組成に応じて、還元雰囲気側から第2層に向かうに従って高くなるように酸素分圧の傾斜が形成されるため、第1層と第2層との界面における酸素分圧はその傾斜の程度に応じて高くなる。そこで、それら膜厚や組成を、第1層自体の還元膨張が十分に抑制され且つ前記界面における酸素分圧が十分に低くなるように定めることによって、還元膨張率の大きい第2層の還元膨張を抑制し、延いては酸素分離膜全体の還元耐久性を十分に高めることができる。
【0016】
ところで、第1層は酸素透過性能が低い第1の混合伝導体で構成されているが、混合伝導体の酸素透過速度は膜厚に略反比例する。すなわち、混合伝導体の組成が同一であれば、膜厚を薄くするほど酸素透過性能が高められる。そのため、膜厚を適宜定めることにより、第1の混合伝導体の酸素透過性能が低くとも、酸素分離膜全体を第2の混合伝導体で構成した場合に対する酸素透過性能の低下を抑制し、延いては十分に高い酸素透過性能を得ることができる。例えば、酸素分離膜全体を第2の混合伝導体で構成した場合における酸素透過速度よりも、第1層内における酸素透過速度が高くなるようにその第1層の膜厚を設定すれば、その第1層を積層することによる酸素透過速度の低下が殆ど無視できるので、第2層のみで構成する場合と同程度の酸素透過性能を得ることができる。
【0017】
上記により、要求される還元耐久性と所望する酸素透過性能とを比較考量して、第1層および第2層の膜厚や、第1の混合伝導体および第2の混合伝導体の組成を定めることによって、酸素透過性能が高く且つ還元耐久性に優れた酸素分離膜が得られる。
【0018】
なお、本願において、前記一般式Cで表されるペロブスカイト化合物には、その一般式Cの表示に拘らず、酸素数が3のものの他にそれよりも僅かに小さいものも含まれる。本発明において有効な酸素数は、酸素分圧によっても異なるので一義的に定めることはできないが、例えば、2.4〜3の範囲が好適である。
【0019】
因みに、前記特許文献14〜16には、固体電解質膜と電極層(空気極または燃料極)間を組成傾斜させる技術が記載されている。これらは熱膨張差を緩和し或いは三相界面を増大することを目的とするものであって、固体電解質膜自体を組成傾斜させる本発明とは構成および目的が何れも相違する。
【0020】
また、前記特許文献17には、固体電解質部に中間層(固体電解質)を形成して、空気極における電圧降下を低下させる技術が、前記特許文献18には、固体電解質部を積層してイオン輸率を1に近づける技術が、それぞれ記載されているが、何れも還元耐久性を考慮したものではなく、本発明とは構成自体も相違する。
【0021】
また、前記非特許文献1には、CeO2酸化物イオン伝導体にフェライト化合物を混合した疑似混合伝導体、フェライト添加量の異なる2組成の膜を積層した酸素透過膜が記載されているが、膜表面における酸素交換反応を改善することを目的とするものであり、還元耐久性を考慮したものではない。
【0022】
ここで、好適には、前記第1層は0.14(%)未満の還元膨張率を有し、且つ前記第2層は0.14(%)以上の還元膨張率を有するものである。このようにすれば、第1層の還元膨張率が十分に小さく、且つ第2層の酸素透過性能が十分に高いことから、酸素製造やGTLおよび燃料電池用の水素製造等に一層好適である。一層好適には、第1層の還元膨張率は0.13(%)以下であり、更に好適には、0.10(%)以下である。また、一層好適には、第2層の還元膨張率は0.20(%)以上であり、更に好適には、0.30(%)以上である。第1層と第2層の還元膨張率は、0.10(%)以上相違することが好ましく、0.20(%)以上相違することが更に好ましい。
【0023】
また、好適には、前記第1層は厚さ寸法を0.5(mm)としたときに3(cc/min/cm2)以上の酸素透過速度を有し、且つ前記第2層は厚さ寸法を0.5(mm)としたときに8(cc/min/cm2)以上の酸素透過速度を有するものである。このようにすれば、第1層の酸素透過速度が比較的高く且つ第2層の酸素透過速度が十分に高いことから、酸素透過性能が一層高く且つ還元耐久性に一層優れた酸素分離膜が得られる。一層好適には、第1層の酸素透過速度は5(cc/min/cm2)以上であり、第2層の酸素透過速度は10(cc/min/cm2)以上である。
【0024】
また、好適には、前記第1層および前記第2層は緻密質である。このようにすれば、酸素分離膜を気体が分子のまま透過し得ないため、分離性能の高い酸素分離膜が得られる。なお、本発明において「緻密質」とは、酸素透過膜の使用時において、その酸素分離膜が曝される雰囲気中の気体分子をそのまま厚み方向に透過させない組織を、酸素分離膜が有していることを意味する。すなわち、ここでいう緻密性は一義的に定められるものではなく、予定されている使用態様において上述した特性を有していれば足りる。
【0025】
また、好適には、前記第1層の厚さ寸法は、0.2(mm)以下である。このようにすれば、相対的に酸素透過性能の低い第1層の膜厚が十分に薄いことから、酸素透過性能の一層高い酸素分離膜が得られる。なお、第1層は、第2層を覆うことによって還元雰囲気から保護するものであれば足り、例えば完全に覆うものであることが好ましいが、厚さ寸法の下限値は特になく、工業的には例えば1(μm)程度が下限値である。第1層がこの程度の厚さ寸法であっても、十分な還元耐久性を得ることができる。
【0026】
一方、第2層の膜厚は、高い酸素透過性能を得るためには可及的に薄いことが好ましく、後述するように多孔質支持体上に酸素分離膜を形成する場合には、膜厚寸法の下限値は特にないが、緻密な膜を形成できる程度の厚さ寸法とすることが好ましい。一方、多孔質支持体を用いない自立膜の場合には、酸素分離膜全体が自立可能な厚さ寸法、例えば0.5(mm)程度以上の厚さ寸法になるように第2層の厚さ寸法を定めればよい。
【0027】
また、酸素分離膜は、前記第1層および第2層が積層された2層構造に限られず、これらの何れとも組成が相違することにより還元膨張率が異なるものとされた他の層が、第1層から第2層に向かう積層方向において順次に還元膨張率が大きくなるように更にこれらに積層された、3層以上の構成としても良い。積層数が多くなるほど工程的には不利であるが、接している層相互の熱膨張率の差を小さくできるため、製造過程や使用中に温度変化に曝された場合にも破損し難くなる利点がある。
【0028】
また、好適には、前記第1層および第2層は、互いに同系統の材料から成るものである。このようにすれば、熱膨張係数等の相違が小さくなるので、製造過程や使用中の温度変化に起因する破損が生じ難い酸素分離膜が容易に得られる。すなわち、このような破損を抑制するためには、第1層および第2層をそれぞれ構成する混合伝導体の熱膨張係数の差が可及的に小さいことが望ましい。そのため、このような条件を満足するのであれば、構成材料は特に限定されないが、同系統の材料とすることが好ましいのである。なお、同系統の材料としては、例えば、構成元素が同一でその割合のみが相違するものや、一つ或いは複数の構成元素の一部を他の元素で置換したもの等が挙げられる。また、3層以上の積層構造にされる場合にも、全てが同系統の材料で構成されることが好ましいが、熱膨張係数の相違を十分に小さくできるのであれば、同系統の材料で無くとも差し支えない。
【0029】
なお、本発明の混合伝導体を構成するペロブスカイト化合物は、前記一般式Cに明示した元素の他に、Zn,In,V,Sn,Ge,Ce,Mg,Sc,Y等の他の元素が特性に実質的に影響を与えない程度の範囲で含まれていても差し支えない。また、第1層および第2層は、上記ペロブスカイト化合物の他に、製造上排除することが困難な微量のAl2O3、SiO2、MgO、ZrO2等を含み得る。これらは微量が含まれていても特性に著しい影響を与えることはないが、何れもイオン伝導の抵抗になることから含有量は可及的に少ないことが望ましい。
【0030】
また、好適には、前記第1の混合伝導体は、前記元素MがFe,Ti,Zr,Al,Co,Mn,Niの何れかである。このようにすれば、これらをBサイトに含む(Ln1-xAex)MO3化合物は、還元耐久性が比較的高く且つ酸素透過速度も比較的高く、これらのバランスが良いことから、特に好ましい。また、Bサイトに、FeまたはCoを含むものは、電子伝導性が高くなることから一層好ましい。
【0031】
また、好適には、本発明の酸素分離膜は、多孔質支持体上にその一面全体を覆って備えられる。この多孔質支持体は、酸素分離膜の一面側および他面側の何れに位置させられても良い。このように多孔質支持体上に酸素分離膜が固定された酸素分離膜エレメントに構成すれば、ガス拡散係数の十分に高い多孔質支持体は、その内部を気体が容易に通過させられるので、適当な厚さ寸法に構成することにより、酸素透過速度に影響を与えることなく酸素分離膜エレメントの機械的強度を高め得る。しかも、酸素分離膜エレメントの機械的強度が多孔質支持体で確保されることから、酸素分離膜の厚さ寸法を酸素透過速度が膜厚で律速されない程度まで薄くすることが可能となるため、その表面積を増大させることによる透過速度向上効果が一層顕著に得られる。なお、このような多孔質支持体が備えられる場合において、更に酸素解離触媒層または酸素再結合触媒層が設けられる場合には、一方が酸素分離膜の表面に、他方が酸素分離膜と多孔質支持体との間にそれぞれ設けられてもよいが、その他方は、多孔質支持体の表面に、好適にはこれに浸透させられた状態で設けられても良い。
【0032】
なお、上記態様において「一面全体を覆って」とは、酸素分離膜エレメントの使用時において、多孔質支持体の一面が酸素分離膜のその多孔質支持体とは反対側に位置する面と同一空間内に曝されないことを意味するものである。例えば、非使用状態において酸素分離膜が設けられた多孔質支持体の一面が部分的に露出させられていても、その部分が使用時に装置等によって覆われるものであれば、そのような態様も上記「一面全体を覆って」に含まれる。
【0033】
また、好適には、前記酸素分離膜および前記多孔質支持体は、同材料から成るものである。このようにすれば、両者の熱膨張係数が一致することから、製造工程や使用時に加熱或いは冷却された場合にも、熱膨張量の相違に起因して破損することが好適に抑制される。
【0034】
また、好適には、前記酸素分離膜および前記多孔質支持体は、相互に異なる組成の材料から成るものである。酸素分離膜エレメント全体の強度は支持体によって確保する必要があることから、支持体と酸素分離膜とは求められる特性が相違するため、例えば要求される強度が比較的高い場合には、酸素分離膜と支持体とを相互に異なる材料で構成することが望ましい。このような支持体構成材料としては、例えば、ジルコニア、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素等が好適である。
【0035】
また、好適には、前記多孔質支持体は、平均細孔径rが0.1<r<20(μm)の範囲内、気孔率pが5<p<80(%)の範囲内である。酸素透過速度の低下を抑制し且つ酸素分離膜エレメントの強度を可及的に高めるためには、この範囲内が好ましい。細孔径および気孔径が小さくなり過ぎると、多孔質支持体のガス透過抵抗が大きくなることから、酸素分離膜を薄くしてもこの多孔質支持体が律速因子になるため、酸素透過速度が著しく低下する。一方、細孔径および気孔径が大きくなり過ぎると、機械的強度が低下して支持体としての機能が失われる。
【0036】
また、好適には、前記酸素分離膜の一面および他面の少なくとも一方には、前記酸素の解離または再結合を促進するための触媒層が備えられる。このようにすれば、触媒層によって酸素の解離或いは再結合が促進されることから、一層効率の高い酸素分離膜エレメントが得られる。一層好適には、一面および他面の一方に酸素解離触媒層および酸素再結合触媒層の一方が、一面および他面の他方に酸素解離触媒層および酸素再結合触媒層の他方が、それぞれ設けられる。なお、触媒層は、緻密質に構成されていても、多孔質に構成されていてもよく、酸素分離膜でこれを兼ねることもできる。
【0037】
また、好適には、前記酸素解離触媒層は、La-Sr-Co系酸化物、La-Sr-Mn系酸化物、白金系元素である。一層好適には、LaxSr1-xCoO3(0≦x≦1、好適にはx=0.6)から成るものである。このような触媒によれば、酸素分離膜の一面側に供給された気体中の酸素が好適にイオン化され、これを透過して他面側に導かれる。なお、触媒層は、上記材料の他、SmxSrCoO3(0≦x≦1、好適にはx=0.5)、La1-xSrxMnO3(0≦x≦1、好適にはx=0.15)、La1-xSrxCo1-yFeyO3(0≦x≦1、0<y<1、好適にはx=0.9、y=0.1)等も好適に用いられる。なお、酸素解離触媒層は、酸素分離膜と同じ材料で構成することもでき、その場合には、その酸素分離膜の一部で酸素解離触媒層を構成し得る。
【0038】
また、好適には、前記酸素再結合触媒層は、Ni、Co、Ru、Rh、Pt、Pd、Ir等を含むものである。好適には、NiOが還元されることにより形成されたNiから成るものである。このような触媒によれば、酸素分離膜の他面側に導かれた酸素イオンが好適に再結合させられ、その他面側から酸素が回収される。また、酸素解離触媒層および酸素再結合触媒層が上述したような何れの材料で構成される場合にも、酸素は粒界または粒内を透過し得るため、多孔質はもちろん緻密質の触媒層も形成し得る。
【0039】
また、本発明の酸素分離膜は、その一面側に酸素を含む気体を供給するための第1気体供給路と、その他面側に所定の化合物を含む気体を供給するための第2気体供給路と、その他面側において酸素と前記所定の化合物との反応により生成された気体を回収するための気体回収路とを、含む反応器にも好適に用いられる。このようにすれば、第1気体供給路からその一面側に酸素を含む気体が、第2気体供給路からその他面側に所定の化合物を含む気体がそれぞれ供給され、酸素とその所定の化合物との反応により生成された気体が気体回収路から回収される。そのため、安価且つ高効率で耐久性の高い反応器が得られる。
【0040】
また、本発明の酸素分離膜は、前述した酸素製造や炭化水素の部分酸化反応等の他、一面側にNOxを供給することにより、その還元にも用いることができる。
【0041】
また、好適には、前記酸素分離膜は全体が平坦な板状を成すものである。また、触媒層が備えられた態様においては、その一面に前記酸素解離触媒層が、他面に前記酸素再結合触媒層がそれぞれ備えられたものである。このような板状の酸素分離膜が多孔質支持体上に備えられ且つ触媒層が備えられた態様では、別途形成された酸素分離膜の両面に触媒層が設けられた後、多孔質支持体に固着され、或いは、多孔質支持体上に一方の触媒層、酸素分離膜、および他方の触媒層が順次に形成されることによって酸素分離膜エレメントが製造される。上記平坦な板状としては、円板状、矩形板状等が挙げられる。
【0042】
また、好適には、前記酸素分離膜は一端が閉じた筒状を成すものであり、触媒層が備えられる態様においては、その内周面および外周面の一方が前記酸素解離触媒層が備えられた前記一面に相当し、他方が前記酸素再結合触媒層が備えられた前記他面に相当するものである。酸素分離膜は、平坦なものに限られず、このような立体的なものであっても良い。なお、内周面側に気体の供給される態様では、例えば、筒状の酸素分離膜の内側に気体導入管を挿入し、その先端から気体を供給すればよい。
【0043】
また、好適には、前記多孔質支持体は一端が閉じた筒状を成し、前記酸素分離膜、または前記二種の触媒層および酸素分離膜はその内周面または外周面に順次に積層されることによって設けられたものである。このようにすれば、酸素分離膜エレメントが筒状を成す態様においても多孔質支持体によってその機械的強度を確保することができる。
【0044】
また、本発明の酸素分離膜は、例えば、前記第1の混合伝導体材料粉末および前記第2の混合伝導体材料粉末にそれぞれ所定のバインダーを混合して所定粒径に造粒する工程と、造粒粉を所定形状にそれぞれ成形する工程と、成形体に所定温度の焼成処理を施して第1の混合伝導体から成る膜と第2の混合伝導体から成る膜とをそれぞれ得る工程と、それら2つの膜を重ね合わせて所定の焼成処理を施すことによって相互に接合する工程とを、含む工程によって製造される。上記成形工程と焼成工程との間には、必要に応じて、成形体を等方圧で加圧(例えば湿式静水圧加圧)する工程と、成形体を大気中で焼成温度よりも十分に低温で加熱することによって有機物を分解除去する工程とが実施される。また、焼成後には必要に応じて機械研磨工程が施される。
【0045】
また、上記所定の成形工程は、例えば、前記第1の混合伝導体材料粉末を含む第1のスラリーおよび前記第2の混合伝導体材料粉末を含む第2のスラリー中にセラミック焼結体から成る所定の多孔質支持体を順次に浸漬して、その多孔質支持体の表面にそれら第1のスラリーおよび第2のスラリーを塗布するものである。このようにすれば、その多孔質支持体に塗布されたスラリーを焼成することにより、多孔質支持体上にその塗布厚みに応じた膜厚で形成された第1層および第2層から成る組成傾斜型酸素分離膜が固着された酸素分離膜エレメントが得られる。
【0046】
また、本発明の酸素分離膜は、例えば、第1の混合伝導体材料粉末および第2の混合伝導体材料粉末を含むスラリーを用いてグリーンシートを成形する工程と、それらグリーンシートを重ね合わせて同時に焼成処理を施す工程とを、含む工程によって製造することもできる。
【0047】
また、多孔質支持体上に酸素分離膜を製膜する場合には、上記のようなスラリーをディップコートする工程と、これに焼成処理を施す工程とを、含む工程によって製造することもできる。更に、その多孔質支持体上にスパッタリングや溶射等によって第1層〜第3層すなわち酸素分離膜を形成してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0049】
図1は、本発明の一実施例の酸素分離膜10の構成を説明するための断面構造を模式的に示す図である。酸素分離膜10は、20(mm)程度の直径を備えて全体が0.5(mm)程度の厚さ寸法の薄板円板状を成すものであり、第1層12,第2層14,および第3層16が積層された積層体に構成されている。これら3層の外周端面はガラス等から成るシール部材18で気密にシールされている。
【0050】
上記の第1層12〜第3層16は、何れも、例えば一般式(Ln1-xAex)MO3で表されるランタン系ペロブスカイト化合物で構成された緻密な膜である。このペロブスカイト化合物は、酸素イオン伝導性および電子伝導性を共に有する混合伝導性セラミックスである。そのため、緻密質でありながら、その一面20または他面22に接した酸素をイオン化して例えばその他面22から一面20に向かって透過させることができる。
【0051】
上記の第1層12は、La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7OxやLa0.6Sr0.4Zr0.3Fe0.7Ox等(但し、x=2.4〜3程度)から成るもので、例えば、0.1(mm)程度の厚さ寸法を備えている。また、第2層14は、La0.6Sr0.4Ti0.2Fe0.8OxやLa0.6Sr0.4Zr0.2Fe0.8Ox等から成るもので、例えば、0.1〜0.2(mm)程度の厚さ寸法を備えている。また、第3層16は、La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9OxやLa0.6Sr0.4Zr0.1Fe0.9Ox等から成るもので、例えば、0.2〜0.3(mm)程度の厚さ寸法を備えている。すなわち、第1層12〜第3層16は、互いに組成が相違し、酸素分離膜10は、厚み方向において組成の異なる膜が積層された組成傾斜膜である。
【0052】
また、上記の第1層12を構成する混合伝導体(すなわち第1の混合伝導体)は、例えば0.06〜0.10(%)程度の小さい還元膨張率と、3.3(cc/min/cm2)程度の低い酸素透過速度(厚さ寸法が0.5(mm)のときの値。以下、特に断らない限り同じ。)とを有している。また、第2層14を構成する混合伝導体(すなわち、第2の混合伝導体)は、0.08〜0.32(%)程度の還元膨張率と、5.9〜6.1(cc/min/cm2)程度の酸素透過速度とを有している。また、第3層16を構成する混合伝導体(すなわち、第3の混合伝導体)は、0.28〜0.7(%)程度の大きい還元膨張率と、11.0(cc/min/cm2)以上の高い酸素透過速度とを有している。
【0053】
そのため、酸素分離膜10は、第1層12から第3層16に向かうに従って還元膨張率が大きくなると共に、酸素透過速度が高くなる層構造を備えている。しかしながら、酸素透過速度の低い混合伝導体から成る第1層12は、0.1(mm)程度の薄い膜であり、酸素透過速度は膜厚に反比例するため、各層の酸素透過速度を0.5(mm)厚で単層のときの測定値と膜厚とから算出すると、第1層12が15(cc/min/cm2)程度、第2層14が15〜30(cc/min/cm2)程度、第3層16が18〜25(cc/min/cm2)程度である。そのため、酸素透過速度が低い混合伝導体から成る第1層12および第2層14における酸素透過速度が、酸素分離膜10全体の酸素透過速度の律速にならないことから、酸素分離膜10の酸素透過速度は、第3層16を構成する混合伝導体で全体を構成した場合と同等の高い値になる。
【0054】
なお、上記の第1層12〜第3層16の各々について膜厚に基づいて算出した酸素透過速度は、それら各層を前記のような膜厚を以て単層で構成した場合の値である。本実施例の積層構造では、後述する図2に示されるように各層内で酸素分圧の傾斜が形成されるが、酸素透過速度は膜の両面における酸素分圧の比の関数である(後述する(2)式参照)。そのため、積層したときの酸素透過速度は、各層の両面における酸素分圧に応じて低くなることから、全体を第3層16で構成した場合よりも第1層12および第2層14の厚さ寸法および構成材料に応じた値だけ低い値になる。
【0055】
以上のように構成される酸素分離膜10は、一面20および他面22上に触媒層24,26をそれぞれ設けて、還元膨張率の小さい第1層12を還元側、例えばメタン等の燃料供給側に位置させ、その反対側に位置する第3層16を酸化側、例えば空気等の酸素含有ガス供給側に位置させて用いられる。そのため、還元膨張率の大きい第2層14や第3層16が、その第1層12によって還元雰囲気から保護されるため、酸素分離膜10等の還元耐久性が高められる。
【0056】
なお、酸化側に設けられる酸素解離触媒層26は、他面22における酸素の解離およびイオン化を促進するために設けられたものであり、例えばLa0.6Sr0.4CoO3から成る多孔質層が10(μm)程度の一様な厚さ寸法を以て他面22の略全面に形成される。
【0057】
また、還元側に設けられる酸素再結合触媒層26は、一面20における酸素イオンの再結合を促進するために設けられたものであり、例えばNiOから成る多孔質層が100(μm)程度の一様な厚さ寸法を以てその一面20の略全面に形成される。
【0058】
図2に層構成を模式的に示す酸素分離膜30は、相対的に還元膨張率が小さく酸素透過速度が低い第1の混合伝導体から成る第1層32に、相対的に還元膨張率が大きく酸素透過速度が高い第2の混合伝導体から成る第2層34を積層した、2層構造の組成傾斜型酸素分離膜である。前記図1に示す酸素分離膜10は3層構造に構成されているが、本発明は、このような2層構造のものにも、酸素分離膜10の一面20または他面22に他の層を積層した4層以上の構造のものにも適用し得る。
【0059】
なお、2層構造の場合には、第1層32は、La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7Ox、La0.9Sr0.1Ti0.1Fe0.9Ox、La0.6Sr0.4Zr0.2Fe0.8Ox、La0.8Sr0.2Zr0.1Fe0.9Ox等から成るもので、例えば、0.05〜0.1(mm)程度の厚さ寸法を備えている。また、第2層34は、La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9Ox、La0.5Sr0.5Ti0.1Fe0.9Ox、La0.6Sr0.4Zr0.1Fe0.9Ox、La0.5Sr0.5Zr0.1Fe0.9Ox等から成るもので、例えば、0.3〜0.4(mm)程度の厚さ寸法を備えている。この場合、酸素分離膜30全体の膜厚は、例えば0.35〜0.5(mm)程度である。
【0060】
また、上記のように2層構造とされる場合では、第1層32を構成する混合伝導体は、0.08〜0.10(%)程度の小さい還元膨張率と、3.1〜6.1(cc/min/cm2)程度の低い酸素透過速度とを有している。また、第2層34を構成する混合伝導体は、0.21〜0.7(%)程度の大きい還元膨張率と、8.9(cc/min/cm2)以上の高い酸素透過速度とを有している。この構成でも、第1層32は酸素透過速度の低い混合伝導体で構成されているが、膜厚が薄いため、計算上の酸素透過速度は、例えば、15〜30(cc/min/cm2)程度の高い値になる。すなわち、2層構造の場合にも、3層構造の場合と同様に、酸素分離膜30の酸素透過速度が、第2層34すなわち酸素透過速度の高い混合伝導体で全体を構成した場合と同程度の高い値になる。
【0061】
また、このような2層構造の酸素分離膜30も、還元膨張率の小さい第1層32を還元側に、還元膨張率の大きい第2層34を酸化側に位置させて用いられ、その第1層32によって第2層34が還元雰囲気から保護されることによって、酸素分離膜30の還元耐久性が高められる。上記の図2に示す太線は、雰囲気中および膜内における酸素分圧P1〜P3(すなわち酸素分圧勾配)を模式的に表したものである。なお、図中に示した白抜きの矢印は、酸素分離膜30内における酸素イオンおよび電子の動きを表している。この図2を用いて、第2層34が保護される原理を説明する。
【0062】
一般に、混合伝導体から成る膜の酸素透過速度j(O2)(mol/sec/cm2)は、下記(2)式で与えられる。下記(2)式において、Rは気体定数、Tは絶対温度(K)、σe(S/cm)は電子伝導率、σi(S/cm)は酸素イオン伝導率、Fはファラデー定数、tは膜厚(cm)、Ph、Plは膜の両面における酸素分圧(但し、Ph>Pl)である。
【0063】
【数1】

【0064】
上記(2)式を適用すれば、第1層32内における酸素透過速度j(O2)1(mol/sec/cm2)は下記(3)式で、第2層34内における酸素透過速度j(O2)2(mol/sec/cm2)は下記(4)式で、それぞれ表される。なお、これら(3)(4)式において、添字1が付されているものは第1層32の電子伝導率や膜厚等を表しており、添字2が付されているものは第2層34の電子伝導率や膜厚等を表している。
【0065】
【数2】

【0066】
そのため、各混合伝導体の電子伝導率等の特性や、第1層32および第2層34における酸素透過速度等が判っていれば、上記(3)(4)式から第1層32と第2層34との界面36における酸素分圧P2を求めることができる。例えば、酸素分圧P1=1×10-23(atm)、P3=2×10-1(atm)、第1層32の層厚を0.1(mm)、第2層34の層厚を0.4(mm)、第1層32を構成する混合伝導体をLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3、第2層34を構成する混合伝導体をLa0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9O3としてそれらの特性を当てはめると、P2=10-10〜10-8(atm)程度の値が得られる。すなわち、図2に示されるように、酸素分圧は第1層32内を還元側雰囲気から第2層34に向かうに従って急激に高められるので、界面36における酸素分圧P2は、例えば還元側の酸素分圧P1の1010倍以上に大きくなる。そのため、第2層34が還元膨張率の大きい混合伝導体で構成されていても、これに負荷される還元力は還元側の1/1010以下になるため、その還元膨張延いては破損が好適に抑制されるのである。
【0067】
下記の表1は、上記の構成例において、第1層32および第2層34の膜厚と、膜全体の酸素透過速度および界面36における酸素分圧P2(何れも計算値)との関係をまとめたものである。この表1に示されるように、膜厚を薄くするほど酸素透過速度が高くなると共に、界面36における酸素分圧P2が低下するが、その酸素分圧P2は、還元側の酸素分圧P1に比較して著しく高い値に維持される。第1層32の層厚を1/10程度に薄くすると、酸素分圧P2は2桁程度低くなるから、層厚を1(μm)程度にしても、界面36における酸素分圧P2は10-10〜10-9(atm)程度の比較的高い値に保たれる。
【0068】
【表1】

【0069】
したがって、第2層34を還元雰囲気に曝さないように完全に覆うのであれば、第1層32の厚さ寸法は極めて薄くとも差し支えない。すなわち、上記の表1によれば、第1層32の膜厚の下限値は実質的に無いものといえるが、緻密膜で形成することができる膜厚は、工業的には1(μm)程度が限界であり、これが事実上の下限値である。
【0070】
なお、3層構造の酸素分離膜10の場合にも、第2層14および第3層16を還元雰囲気から保護する作用は上述した2層構造の場合と同様である。すなわち、第1層12を0.1(mm)程度の膜厚で設けるだけで、第1層12と第2層14との界面、第2層14と第3層16との界面における酸素分圧がそれぞれ著しく低下させられる。
【0071】
上述したように、本実施例の酸素分離膜10,30によれば、La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7Ox等の混合伝導体から成る第1層12,32にLa0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9Ox等の混合伝導体から成る第2層14,34が積層された積層構造に構成される。そのため、酸素分離膜10,30は、還元膨張率が小さく且つ酸素透過性能の低い第1層12,32に、還元膨張率が大きく且つ酸素透過性能の高い第2層14,34が積層された組成傾斜型になる。したがって、前述したように第1層12,32を還元側に配置すれば、第2層14,34が還元雰囲気から保護され、延いては酸素分離膜全体の還元耐久性を十分に高めることができる。また、第1層12,32は十分に薄いので、これを構成する混合伝導体の酸素透過性能が低くとも、酸素分離膜全体の高い酸素透過性能を得ることができる。上記により、要求される還元耐久性と所望する酸素透過性能とを比較考慮して、第1層12,32および第2層14,34の膜厚や、それらを構成する混合伝導体の組成を定めることによって、酸素透過性能が高く且つ還元耐久性に優れた酸素分離膜10,30が得られる。
【0072】
図3は、上記の酸素分離膜10の製造方法を説明するための工程図である。造粒工程P1では、例えば市販の平均粒径が1(μm)程度のLaSrTiFeOx系粉末やLaSrZrFeOx系粉末に、水、有機バインダー等の成形助剤、および分散剤を混合してスラリーを作成し、例えばスプレー・ドライヤーを用いて60(μm)程度の平均粒径の原料粉末を噴霧造粒する。次いで、加圧成形工程P2では、造粒した原料粉末を例えば100(MPa)程度の適当な圧力でプレス成形して、例えば直径が30(mm)程度で、厚さ寸法が3(mm)程度の円板状の成形体を得る。なお、上記成形体寸法は前記寸法の第1層12等が得られるように焼成収縮や研磨代を考慮して定めた値である。また、必要に応じ、静水圧加圧成形(すなわちCIP)により150(MPa)程度の加圧処理を施すことができる。
【0073】
次いで、焼成工程P3では、上記の成形体を例えば大気中において200〜500(℃)程度の温度で10時間程度保持して有機物を分解除去した後、更に大気中において1300〜1600(℃)程度の温度で3時間程度保持することにより、この成形体を焼成する。厚み研磨工程P4においては、このようにして得られた緻密な焼結体に平面研削盤等を用いて機械研磨加工を施し、例えば0.05〜0.5(mm)程度の予め定められた厚さ寸法の薄膜体に加工する。
【0074】
次いで、積層・接合工程P5では、作成した組成の相互に異なる2〜3枚の薄膜体を重ね合わせ、大気中において1300〜1600(℃)で焼成処理を施す。これにより、それら重ね合わせた複数の薄膜体が相互に接合され、組成の相互に異なる複数の層が厚み方向に積層された組成傾斜膜すなわち酸素分離膜10,30が得られる。
【0075】
このような酸素分離膜10,30は、その両面20,22に前記のように触媒層を設けて用いられる。触媒担持工程P6では、例えば平均粒径が2(μm)程度の市販のLa0.6Sr0.4CoO3粉末を有機溶剤と混合してスラリーを調製し、これを一面20に塗布して触媒を印刷担持すると共に、例えば平均粒径が7(μm)程度の市販のNiO粉末を有機溶剤と混合してスラリーを調製し、これを他面22に塗布して触媒を印刷担持する。そして、焼き付け工程P7において、例えば1000(℃)程度の温度で1時間程度の時間保持して、一面20および他面22に触媒層をそれぞれ焼き付けることにより、前記の酸素分離膜10,30が得られる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の更に具体的な実施例を説明する。下記の表2は、前記の酸素分離膜10,30を構成する第1層12〜第3層16、第1層32、第2層34の組成例と、それぞれの還元膨張率、酸素透過速度、および還元耐久性をまとめたものである。なお、表2の「組成名」欄には、各組成の混合伝導体を意味するものとして後述する表3、4において用いた略称を示した。まず、各層を構成するこれら16種類の混合伝導体の特性について説明する。
【0077】
【表2】

【0078】
上記の表2において、還元膨張率は、大気中とH25%+N295%雰囲気中とで熱膨張率をそれぞれ測定し、前記(1)式に従って算出した。
【0079】
また、酸素透過速度は、上記の各組成から成る0.5(mm)厚の混合伝導体薄板を前記図3に示される工程に従って製造し、その薄板の両面に前記触媒を焼き付けたものを試料として、図4に示される反応器40において、酸素分離膜10に代えて試料を配設することによって測定した。
【0080】
なお、上記の反応器40は、例えば両端を開放されたアルミナ等のセラミックスから成る円筒管42、44が、酸素分離膜10を挟んで上下に配置され、且つ、それらの内周側に例えばアルミナ等のセラミックスから成る気体導入管48,50が挿入されたものである。酸素分離膜10は、酸素再結合触媒層が設けられている一面20が円筒管44側に位置し、酸素解離触媒層が設けられている他面22が図4における上側すなわち円筒管42側に位置する向きで配置される。また、円筒管42,44の外周側にはヒータ56,56が配置されている。また、円筒管42,44と酸素分離膜10とは、例えばガラス系等の封着材58,58によって気密に封着されている。なお、気体導入管48,50は、酸素分離膜10の表面から気体供給に必要な距離だけ離隔して配置されている。
【0081】
このような反応器40において、ヒータ56で装置内を1000(℃)程度の温度に加熱しつつ、気体導入管48から空気すなわち酸素を含む気体を円筒管42内に導入すると共に、燃料側すなわち気体導入管50から純メタンガス等の炭化水素を導入する。空気導入量は例えば10〜500(cc/min)程度であり、メタンガス導入量は例えば10〜200(cc/min)程度である。なお、測定に先立ち、例えばヒータ56によって円筒管44内を1000(℃)程度の温度に加熱しつつ、例えば水素10(%)とアルゴン90(%)との混合ガスを気体導入管50から円筒管44内に供給し、還元雰囲気下で加熱する。これにより、一面20に備えられている酸素再結合触媒層すなわちニッケル酸化物が部分的に或いは完全に還元され、酸素再結合触媒としての機能が発揮されるようになる。
【0082】
上記のように気体導入管48から導入された空気は、酸素分離膜10の表面および酸素解離触媒層に接触しつつ、気体導入管48と円筒管42との間に形成された排気路60を通って図4に矢印で示されるように排気される。このとき、酸素分離膜10およびその他面22に設けられた酸素解離触媒層の酸素解離作用およびイオン化作用により、空気中の酸素が解離されてイオン化させられるので、その酸素イオンは、酸素イオン伝導性を有する酸素分離膜10を通って他面22側から一面20側に向かって図4に矢印で示されるように輸送される。
【0083】
そして、一面20に到達した酸素イオンは、混合伝導体から成る酸素分離膜10およびその一面20に設けられた酸素再結合触媒層の再結合作用により酸素分子となり、その一面20から取り出される。これにより、酸素が他面22側から一面20側に透過することになる。しかしながら、混合伝導体から成る酸素分離膜10は緻密質であると共に他の気体はイオン化させられないので、酸素以外の気体は全く透過しない。すなわち、空気から純度の極めて高い酸素が製造される。
【0084】
また、このようにして透過した酸素は、イオンのまま或いは再結合させられた後、気体導入管50から導入されたメタンガス等とその一面20上、酸素再結合触媒層内、或いはそれらの近傍において反応させられ、下記(5)式に示されるようなメタンの部分酸化反応が生じる。生成された一酸化炭素と水素との合成ガスは、気体導入管50と円筒管44との間に形成された回収路62から回収される。回収された合成ガスは、例えば、液体燃料合成等に用いられる。なお、以上の説明から明らかなように、気体導入管50からメタンガスを導入しない場合には、回収路62から酸素を回収することができ、反応器40を酸素製造装置として用いることができる。
CH4+1/2O2 → CO+2H2 ・・・(5)
【0085】
また、前記表2に示す還元耐久性は、上記の試験を連続して実施して、還元側で回収された合成ガス中の窒素量を測定し、その変化から窒素リーク率LNを下記(6)式に従って求めて判断した。◎は3〜10時間で窒素リーク率の増大が無かったもの、○は3時間以内に窒素リーク率が1(%)以下の範囲で増大したもの、△は3時間以内に窒素リーク率が1〜3(%)の範囲で増大したもの、×は3時間以内に窒素リーク率が3(%)以上増大したものである。10時間で窒素リーク率の増大がなければ、長時間に亘る十分な還元耐久性があるものと考えられる。
N =[N2量(cc/min)/全ガス量(cc/min)]×100 ・・・(6)
【0086】
図5は、上記のようにして測定された各試料の還元膨張率および酸素透過速度の関係、すなわち表2に掲げたデータを二次元図表に表したものである。◇は前記表2のLSTF1〜8のデータであり、●はLSZF1〜8のデータである。酸素透過速度は、上記の試験を24時間連続して行って、合成ガスおよび排気ガスをガスクロマトグラフィで測定し、合成ガス中の酸素濃度と流量、および酸素分離膜10の酸素透過部面積から算出した。
【0087】
上記の表2および図5に示されるように、酸素分離膜10の各層を構成する混合伝導体は、何れも、還元膨張率と酸素透過速度とが略比例し、還元膨張率を小さくして還元耐久性を高めようとすると、酸素透過速度が低くなる特性を有している。酸素分離膜10の一般的な用途では、還元割れを発生させないためには、還元膨張率が0.14(%)未満であることが望ましいが、そうすると、LSTF系では6(cc/min/cm2)以下、LSZF系では4(cc/min/cm2)以下の材料に限定される。そのため、従来のように酸素分離膜10を単層で構成し、単に組成を変更するだけでは、還元耐久性および酸素透過速度を共に高くすることは不可能である。
【0088】
表3に示す実施例1〜20は、上記の表2に掲げた混合伝導体で前記第1層12等を構成した2層または3層の積層構造(すなわち組成傾斜膜)の層構成例である。第3層の欄に「なし」と記したものは、2層構造を意味する。また、表4に示す比較例1〜15は、表2に掲げた混合伝導体を用いた単層または本発明の範囲外の積層構造とした層構成例である。
【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
実施例1〜4、7〜12、15〜20は、還元膨張率が0.10(%)と小さいLSTF3、LSTF8、LSZF7、または0.08(%)と小さいLSZF2(すなわち還元耐久性が◎のもの)で第1層32を構成すると共に、還元膨張率が0.4(%)以上のLSTF1、0.36(%)のLSTF5、0.28(%)のLSZF1、または0.21(%)のLSZF5、すなわち還元膨張率が大きいもので第2層34を構成した2層構造とすることによって、第1層32から第2層34に向かうに従って還元膨張率が大きくなる傾斜組成としたものである。これらの構成例では、還元側に位置させる第1層32が還元割れの抑制に十分な0.14(%)未満の還元膨張率を有する一方、酸化側に位置させる第2層34が8.9(cc/min/cm2)以上の極めて高い酸素透過速度を有する。
【0092】
また、実施例5,6,13,14は、還元膨張率が0.10(%)程度と小さいLSTF3または0.06(%)程度と極めて小さいLSZF3(すなわち何れも還元耐久性が◎のもの)で第1層12を、還元膨張率が0.32(%)程度のLSTF2または0.08(%)程度と十分に小さいLSZF2で第2層14を、還元膨張率が0.4以上と大きいLSTF1または0.28(%)程度と比較的大きいLSZF1で第3層16を、それぞれ構成した3層構造とすることによって、第1層12から第3層16に向かうに従って還元膨張率が大きくなる傾斜組成としたものである。これらの構成例でも、還元側に位置させる第1層12が還元割れの抑制に十分な0.14(%)未満の還元膨張率にされる一方、酸化側に位置させる第3層16が11(cc/min/cm2)以上の極めて高い酸素透過速度とされている。また、それらの中間に位置する第2層14は、5.9〜6.1(cc/min/cm2)の中程度の酸素透過速度とされている。
【0093】
これに対して、比較例1〜4は、酸素透過速度の高い第3層16、第2層34と同一材料(すなわち還元耐久性が×〜○のもの)で単層に構成したものである。また、比較例5〜15は、0.14〜0.32(%)の中程度の還元膨張率の材料で第1層12、32を構成したものである。
【0094】
上記の実施例1〜20の特性を評価した結果を表5に、比較例1〜15の特性を評価した結果を表6にそれぞれ示す。
【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
上記の表5に示すように、第1層32を0.10(%)以下の還元膨張率の材料で構成すると共に、第2層34を8.9(cc/min/cm2)以上の酸素透過速度の材料で構成した実施例1〜4,7〜12,15〜20では、全て酸素透過速度が10(cc/min/cm2)以上であり、還元耐久性も◎評価(すなわち窒素リーク量の増大なし)であった。
【0098】
また、上記の表5に示すように、第1層12を0.10(%)以下の還元膨張率の材料で構成すると共に、第3層16を11(cc/min/cm2)以上の酸素透過速度の材料で構成した実施例5,6,13,14においても、全て酸素透過速度が13(cc/min/cm2)以上であり、還元耐久性も◎評価(すなわち窒素リーク量の増大なし)であった。
【0099】
これに対して、第1層32が0.14(%)以上の還元膨張率の材料で構成された比較例1〜15では、酸素透過速度は比較的高いものの、その第1層32の還元耐久性が不足する。そのため、分離膜全体としても、×〜○程度の還元耐久性に留まる。
【0100】
したがって、実施例によれば、第1層12,32に還元膨張率の小さい材料を用いると共に、酸化側に酸素透過速度の高い材料を用いることにより、還元耐久性および酸素透過性能が共に高い酸素分離膜10,30が得られることが明らかである。
【0101】
なお、上記の表5,6に掲げたデータでは、積層構造とした全ての実施例および比較例において、酸素分離膜に備えられた複数の層を構成する混合伝導体のうち、酸素透過速度が最も高いもの(第3層16および第2層34)によって酸素分離膜全体を構成した場合における値(前記表2を参照)よりも、酸素透過速度の測定値が高くなっている。しかしながら、前記表2に示した各組成のうち還元耐久性が◎以外の不十分なものは、還元割れが一部に生じた状態で酸素透過速度を測定しているため、それらの酸素透過速度は本来の値よりも低くなっているものと考えられる。
【0102】
表5に示す実施例では、酸素分離膜の膜厚の一部を低酸素透過速度の材料で置換したことによって、第3層16および第2層34を構成する材料のみで構成した場合よりも酸素透過速度が低くなるので、測定値からそれら構成材料の本来の値を推定すると、LSTF1,LSZF1では18(cc/min/cm2)以上、LSTF5,LSZF5では15(cc/min/cm2)以上の酸素透過速度が本来の値であると考えられる。
【0103】
また、還元耐久性は、第1層12,32の厚さ寸法が0.1(mm)でも、0.05(mm)でも十分に得られる。すなわち、第1層12、32は極めて薄い膜厚で形成されても差し支えない。しかも、第1層32の厚さ寸法が0.1(mm)、第2層34の厚さ寸法が0.4(mm)の実施例1,3,9,12と、材料の組み合わせがこれらと同一で第1層32の厚さ寸法が0.05(mm)、第2層34の厚さ寸法が0.3(mm)の実施例17〜20とを比較すれば、後者の方が各層および全体の厚さ寸法を薄くすることによって、著しく高い酸素透過速度を有することが判る。そのため、第1層12、32は、薄い方が好ましい。
【0104】
なお、前記表2〜6に掲げるものとは別に、第1層32を0.2(mm)厚のLSTF3で、第2層34を0.3(mm)厚のLSTF1で構成した2層構造の酸素分離膜を評価した。その結果、酸素透過速度は6.2(cc/min/cm2)に留まり、還元膨張率が0.14(%)未満の材料のうちで最も酸素透過性能が高いLSZF2と同程度であった。したがって、本発明の効果は、還元側に位置する第1層32の厚さ寸法を0.2(mm)以下に留めた場合に顕著である。
【0105】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の一実施例の酸素分離膜の要部断面を模式的に示す図である。
【図2】2層の傾斜構造の場合における膜内の酸素分圧勾配を説明する図である。
【図3】図1の酸素分離膜エレメントの製造方法を説明するための工程図である。
【図4】図1の酸素分離膜エレメントが用いられた反応器の構成を説明する図である。
【図5】図1の酸素分離膜を構成する各層の還元膨張率と酸素透過速度との関係を二次元図表に表したグラフである。
【符号の説明】
【0107】
10:酸素分離膜、12:第1層、14:第2層、16:第3層、18:シール部材、20:一面、22:他面、24:酸素再結合触媒層、26:酸素解離触媒層、30:酸素分離膜、32:第1層、34:第2層、36:界面、40:反応器、42、44:円筒管、48、50:気体導入管、56:ヒータ、58:封着材、60:排気路、62:回収路、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(Ln1-xAex)MO3(但し、Lnはランタノイドのうちの1種または2種以上の組合せ、AeはBa、Sr、Caのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、MはTi,Zr,Al,Ga,Nb,Ta,Fe,Co,Ni,Cu,Cr,Mn,Rh,Pd,Pt,およびAuのうちから選ばれる1種または2種以上の組合せ、0≦x≦1)で表される第1の混合伝導体から成る第1層と、
前記一般式で表され且つ前記第1の混合伝導体よりも還元膨張率が大きい第2の混合伝導体から成り前記第1層に積層された第2層と
を、含むことを特徴とする組成傾斜型酸素分離膜。
【請求項2】
前記第1層は0.14(%)未満の還元膨張率を有し、且つ前記第2層は0.14(%)以上の還元膨張率を有することを特徴とする請求項1に記載の組成傾斜型酸素分離膜。
【請求項3】
前記第1層は厚さ寸法を0.5(mm)としたときに3(cc/min/cm2)以上の酸素透過速度を有し、且つ前記第2層は厚さ寸法を0.5(mm)としたときに8(cc/min/cm2)以上の酸素透過速度を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の組成傾斜型酸素分離膜。
【請求項4】
前記第1層および前記第2層は緻密質であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の組成傾斜型酸素分離膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−69090(P2007−69090A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257140(P2005−257140)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】