説明

組成物、並びに該組成物からなるフィルム及び光学部材

【課題】 種々の光学部材の原料として有用な新規な組成物を提供する。
【解決手段】 光機能性有機化合物の分子を吸着させたアスペクト比が1〜1.5の実質的に球状な無機粒子と、高分子材料とを少なくとも含有する組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ分野、オプトエレクトロニクス分野、フォトニクス分野において有用な新規なフィルム及び光学部材、並びにその製造に有用な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光学的に透明な高分子材料は、軽量及び安価で、量産性に優れていることから各種光学関連機器で広く用いられている。この高分子材料でフィルムや、板状、レンズ状の光学部材を形成する際に考慮しなければならない特性として、光学異方性が挙げられる。
液晶表示装置で用いられる偏光板等の保護フィルムには、光学異方性の小さいセルロースアセテート等の高分子材料が、及びカメラ、眼鏡やCD、DVD等の光ピックアップ装置などに用いられる高性能レンズには、高屈折率かつ光学異方性の小さい高分子材料が以前より用いられている。近年、機器の性能向上に伴い、これらのフィルムや光学部材に対しては、より光学的な等方性が望まれている。例えば、非複屈折性光学樹脂材料並びにその製造方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
一方で、フィルムや各種光学部材への機能性付与は、高分子材料そのものによる他に、高分子材料中に添加剤を加えることによってなされている。しかし、偏光特性が重視されるフィルムや光学部材中に新たな光機能性分子(例えば紫外線吸収剤など)を加える場合、分子により発現する光学異方性が問題となることも少なくなく、この問題を解決できる技術が望まれていた。
【特許文献1】特開2006−308682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、種々の光学部材の原料として有用な新規な組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、光を利用する様々な分野に利用される光学部材及びフィルムの製造に有用な新規な組成物、及び新規な製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、光機能性有機化合物の添加によって、光学異方性を発現させることなく、光機能性が付与された、光学部材及び光学フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1] 光機能性有機化合物の分子を吸着させたアスペクト比が1〜1.5の実質的に球状な無機粒子と、高分子材料とを少なくとも含有する組成物。
[2] 前記光機能性有機化合物が、紫外線吸収剤又は可視光領域に吸収を持つ色素である[1]の組成物。
[3] 前記光機能性有機化合物が、波長589nmの光に対する屈折率が1.55以上の有機化合物である[1]の組成物。
[4] 前記光機能性有機化合物が、前記高分子材料と親和性を有する置換基を有する[1]〜[3]のいずれかの組成物。
[5] 前記光機能性有機化合物が、下記一般式(1)で表されるホスホン酸基又はその塩、又は下記一般式(2)で表されるリン酸モノエステル基もしくはその塩を有する化合物である[1]〜[4]のいずれかの組成物:
一般式(1)
−PO3m
一般式(2)
−OPO3m
式中、Xはそれぞれ独立に、水素原子、あるいは1価もしくは2価の有機又は無機カチオンを表し、mは1又は2であるが、mが1の場合は、Xは2価の有機又は無機カチオンであり、mが2の場合は、2個のXはそれぞれ水素原子あるいは1価の有機又は無機カチオンである。
[6] 前記光機能性有機化合物が、下記一般式(3)で表される基を有する化合物である[1]〜[4]のいずれかの組成物:
一般式(3)
−Si(R13-n(OR2n
式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。
[7] 前記無機粒子が、平均粒子径3〜300nmの金属酸化物粒子である[1]〜[6]のいずれかの組成物。
[8] 前記無機粒子が、TiO2、ZnO、ZrO2である[1]〜[7]のいずれかの組成物。
[9] [1]〜[8]のいずれかの組成物から形成された光学フィルム。
[10] [1]〜[8]のいずれかの組成物から形成された光学部材。
[11] 光機能性有機化合物の分子をアスペクト比が1〜1.5の実質的に球状な無機粒子に吸着させた吸着無機粒子を高分子材料に添加して高分子組成物を得ること、及び該高分子組成物を成形することを含む光学部材の製造方法。
[12] 前記高分子組成物をフィルム状に成形することを含む[12]の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、光機能性有機化合物の分子を、球状無機粒子に吸着した状態で高分子材料中に存在させることにより、該有機分子に由来する光学異方性を発現させることなく、光機能性を付与することを可能にしている。
即ち、本発明によれば、光機能性有機化合物の添加によって、光学異方性を発現させることなく、光機能性が付与された光学部材及び光学フィルムを提供することができる。
さらに、本発明の組成物を用いることにより、所望の光学特性を示すフィルム及び光学部材を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明の組成物について詳しく説明する。
なお、本明細書において[〜]とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0008】
本発明は、光機能性有機化合物の分子を吸着させたアスペクト比が1〜1.5の実質的に球状な無機粒子と、高分子材料とを少なくとも含有する組成物に関する。本発明の組成物では、高分子材料中に、球状無機粒子に吸着した状態の光機能性有機分子を存在させることにより、高分子材料が示す光学異方性をほとんど変化させることなく、有機分子の持つ光機能性を付加している。その結果、従来の技術と比較して、より自由度の高い分子設計等が可能である。
【0009】
本発明の一例として、紫外線または可視光領域に吸収を持つ棒状有機分子を吸着させた球状無機粒子と、高分子材料とを含有する組成物が挙げられる。前記棒状有機分子は、その分子末端で、無機粒子表面に吸着しているのが好ましい。この態様の組成物を用いてフィルムを作製すると、有機分子に由来する光学異方性を発現することなく、高分子材料自体が有する光学異方性を維持したまま、紫外線または可視光領域に吸収を持つフィルムが形成可能であると考えられる。
【0010】
また、本発明の組成物の他の例として、高屈折率を有する棒状有機分子を吸着させた球状無機粒子と、高分子材料とを含有する組成物が挙げられる。前記棒状有機分子は、その分子末端で、無機粒子表面に吸着しているのが好ましい。この態様の組成物を用いて光学部材を作製すると、有機分子に由来する光学異方性を発現することなく、無機粒子が有する高い屈折率に加えて、棒状有機分子の屈折率を加算した、高屈折率を有する光学部材が形成可能であると考えられる。
【0011】
以下、本発明の組成物の調製に用いられる種々の材料について説明する。
[球状無機粒子]
本発明における球状無機粒子は、一次粒子の平均粒径について特に制限はないが、一般には3〜300nmであるのが好ましく、3〜100nmであるのがより好ましく、3〜30nmであるのがさらに好ましい。形状は等方的であるのが好ましく、一般的にはアスペクト比で1〜1.5であり、1〜1.3がより好ましく、1〜1.1がさらに好ましい。
【0012】
無機粒子としては、金、銀、白金、パラジウム、シリコン、ゲルマニウムのような単体金属、III−V系化合物半導体、金属のカルコゲナイド(たとえば酸化物、硫化物、セレン化物、またはそれらの複合体)、またはペロブスカイト構造を有する化合物(たとえばチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等)、金属フッ化物(フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等)、金属酸化物などを使用することができる。
【0013】
好ましい金属のカルコゲナイドとして、アルミニウム、珪素、チタン、錫、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ又はタンタルの酸化物;カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン又はビスマスの硫化物;カドミウム又は鉛のセレン化物;カドミウムのテルル化物が挙げられる。他の化合物半導体としては亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウムのリン化物;ガリウム−ヒ素又は銅−インジウムのセレン化物;銅−インジウムの硫化物;等が挙げられる。さらには、Mxyz又はM1x2yz(M、M1及びM2はそれぞれ金属元素、Oは酸素、x、y及びzは価数が中性になる組み合わせの数を表す)のような複合物も好ましく用いることができる。
無機粒子としては金属酸化物が好ましく、特にTiO2、ZnO、及びZrO2が好ましい
【0014】
[光機能性有機化合物]
本発明の組成物は、光機能性有機化合物の分子を吸着させた無機粒子を含有する。前記光機能性有機化合物の一例としては、光機能性を発現する基と、球状無機粒子への吸着基とを有する有機化合物が挙げられる。なお、本明細書において、「光機能性」の意義は最も広義に解釈するものとし、所定の波長域又は波長の光が対象の有機化合物を通過すると、入射前後でその光の強度、進行方向、偏光状態等、その光の状態を決定する種々のパラメータの少なくとも一つを変化させる性質、並びに刺激によって光を放出するルミネセンス性のいずれも含む意味で用いるものとする。有機分子は、その形状が完全に等方性であるものは少なく、異方性形状のものが多い。従って、そのまま高分子材料に添加すると、該有機化合物の分子に起因して光学異方性が発現してしまい、等方性が求められる光学部材の用途に適さない。また、所望の特性を得るために光学部材を設計する際にも、光機能性有機化合物による光学異方性への寄与分を考慮しなくてはならず、設計が困難であるし、又制約もある。本発明では、光機能性有機化合物を球状無機粒子に吸着させた状態で高分子材料に添加することで、前記した種々の問題を解決している。
【0015】
光機能性の具体例としては、紫外、可視光に対する吸収特性、高屈折率性、及び蛍光・燐光を発する特性が挙げられる。
光機能性有機化合物の一例として、紫外吸収剤が挙げられる。該紫外線吸収剤の有する吸収極大波長は、300〜400nmが好ましく、330〜380nmであるのがより好ましく、350〜380nmであるのがさらに好ましい。吸収極大波長が前記範囲であると、良好な紫外線吸収性と無色透明性を併せ持つ高分子材料が得られるので好ましい。
紫外域に吸収を有する官能基としては、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッドアニリド系などが好適に挙げられる。
光機能性有機化合物の他の例として、可視光域に吸収を示す色素が挙げられる。該色素の吸収波長は、400〜700nmであるのが好ましく、450〜650nmであるのがより好ましい。吸収波長が前記範囲であると、幅広い用途へと適用可能であるので好ましい。
可視光域に吸収を有する基としては、アゾ系、アントラキノン系、ベンゾジフラノン系、縮合メチン系等を好ましく用いることができる。
光有機性化合物の他の例として、蛍光及び燐光を発する特性の有機化合物が挙げられる。その官能基としては、紫外線吸収剤及び色素の官能基の例と同様である。
【0016】
光機能性化合物の他の例として、高屈折率性の有機化合物が挙げられる。前記高屈折率性化合物の屈折率は、波長589nmで1.55以上が好ましく、より好ましくは1.57以上であり、さらに好ましくは1.6以上である。屈折率が上記範囲であると、高分子材料に効果的に高屈折率を付与できるので好ましい。屈折率は、高ければ高いほどよいが、通常は、1.7以下である。高屈折率を付与する基としては、不飽和結合またはスルフィド結合を含む化合物が好ましく挙げられる。
【0017】
前記光機能性有機化合物の分子は、無機粒子への吸着が容易である様に、吸着基を有する。該吸着基は、前記光機能性基としても機能していてもよく、その場合は、別途吸着基を有する必要はない。吸着基の好ましい例としては、無機粒子の種類等によって異なるが、例えば、無機粒子が金を含む材料からなる場合は、メルカプト基、ジスルフィド基が好ましい例としてあげられる。また無機粒子が金属酸化物からなる場合には、COOH基、OH基、SO3H基、及び後述する一般式(1)又は(2)で表される基のような酸性基、アミノ基あるいはオキシム、ジオキシム、ヒドロキシキノリン、サリチレート又はα−ケトエノレートのようなキレート化基、及び、後述する一般式(3)で表される基が好ましい例としてあげられ、一般式(1)、(2)の酸性基又は(3)で表される基がより好ましい例としてあげられる。また、無機粒子が金属炭酸塩からなる場合には、吸着基は後述する一般式(1)又は(2)で表される基であるのが好ましい。
【0018】
好ましい吸着基の例として、下記一般式(1)で表されるホスホン酸基もしくはその塩、下記一般式(2)で表されるリン酸モノエステル基(2)もしくはその塩、又は下記一般式(3)で表される基が挙げられる。
一般式(1)
−PO3m
一般式(2)
−OPO3m
一般式(3)
−Si(R13-n(OR2n
下記一般式(1)及び(2)中、Xはそれぞれ独立に、水素原子、あるいは1価もしくは2価の有機又は無機カチオンを表し、mは1又は2であるが、mが1の場合は、Xは2価の有機又は無機カチオンであり、mが2の場合は、2個のXはそれぞれ水素原子あるいは1価の有機又は無機カチオンである。
前記式中、mが2であり、2つのXがともに1価の有機又は無機カチオンの場合、双方は同一であっても異なっていてもよいが、コスト上、同一のものが好ましい。
【0019】
1価の有機又は無機カチオンとしては、リン酸の塩を形成し得るものであればよく、1価の有機カチオンとしては、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、モノエタノールアンモニウムイオン、トリメチルベンジルアンモニウムイオン、トリエチルベンジルアンモニウムイオン、ジ(ヒドロキシエチル)アンモニウムイオン、N−メチルピリジニウムイオン、テトラメチルグアニジウムイオン、テトラメチルホスホニウムイオン等が例として挙げられ、この中でもテトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、トリメチルベンジルアンモニウムイオン、トリエチルベンジルアンモニウムイオン、N−メチルピリジニウムイオンが好ましく、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオンがさらに好ましい。また、1価の無機カチオンとしては、アンモニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどが例として挙げられ、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンが好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオンが更に好ましい。
【0020】
2価の有機又は無機カチオンとしては、リン酸の塩を形成し得るものであればよく、2価の有機カチオンとしては、上記有機アンモニウムがメチレン基、アルキルエーテル等の連結基で連結した物が例として挙げられる。また、2価の無機カチオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオンなどが例として挙げられ、この中でもカルシウムイオンが好ましい。
【0021】
上記一般式(3)中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。前記アルキル基の例には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基及びn−ブチル基が含まれる。nは2又は3が好ましく、3であることがより好ましい。
【0022】
前記吸着基と、光機能性を発現し得る基の間に連結基が存在してもよい。連結基としては、例えば、炭素数1〜18、好ましくは1〜10の置換もしくは無置換の直鎖あるいは分岐アルキレン;炭素数1〜18、好ましくは1〜10の置換もしくは無置換のエーテル結合が介在する直鎖あるいは分岐アルキレン;炭素数6〜18、好ましくは6〜12の置換もしくは無置換のアリーレン;O、NH、S、CONH、NHCO、OCONH、NHCONH、及び5又は6員複素環が挙げられる。ここに挙げた2種類以上の連結基を複合してもよい。
【0023】
前記光機能性有機化合物の分子は、高分子材料との親和性を有する置換基をさらに有しているのが好ましい。該置換基と高分子材料との親和性については、高分子材料と該置換基のそれぞれの溶解度パラメータ(SP値)を参考に推測することができ、sp値が互いに近いことが好ましい。ここで、sp値の計算は例えばJournal of Paint Technology誌,42巻,76頁,1970年に記載のHoyらによる方法を参照することができる。また、高分子材料のSP値は、以下の式
SP=a1×SP1+a2×SP2+a3×SP3+…
に従い計算により求めることができる。ここで、式中のSP1、SP2およびSP3は各重合体の単量体成分に含まれる単量体を単独で重合した際に得られるそれぞれのホモポリマーのSP値を表し、「POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION」に記載されている値を引用した値である。また、上記式中のa1、a2およびa3は各重合体を形成するのに用いた単量体成分に含まれる単量体のそれぞれの質量分率を表す。
該置換基の好ましい例は、当然のことながら用いる高分子材料によって異なる。多くの場合、直鎖あるいは分岐アルキル基が有効に機能する場合が多いが、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル系ポリマーの場合には、CO基、COO基を置換基として有するものが好ましく、セルロースアシラート系ポリマーの場合には、エーテル基を置換基として有するもの(好ましくはアルコキシアルキルオキシ基、特に好ましくは3−メトキシブトキシ)、糖誘導体を置換基として有するものが好ましい。
【0024】
以下に、本発明に用いられる、無機粒子への吸着基と光機能性を有する有機化合物の具体例を示すが、本発明の範囲はこれのみに限定されるものではない。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
前記光機能性有機化合物の分子は、例えば、以下の方法により無機粒子に吸着させることができる。
まず、球状無機粒子の分散液を準備する。分散液の調製には、メチルエチルケトン、アルコール等の有機溶媒、水、及びそれらの混合溶媒が用いられる。次にこの分散液と、光機能性有機化合物とを混合する。前記分散液を前記光機能性有機化合物の溶液に滴下するのが好ましい。その後、充分に攪拌し、溶媒を除去することで、光機能性有機化合物を無機粒子に吸着させることができる。
【0029】
[高分子材料]
本発明に用いられる高分子材料については特に制限はない。種々の高分子材料を用途に応じて用いることができる。使用可能な高分子材料の例には、「改訂 高分子合成の化学」(大津隆行著、発行:株式会社化学同人、1968)1〜4ページに記載があるポリマー種のいずれであってもよく、例えば、ポリオレフィン類、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリウレタン類、ポリカーボネート類、ポリスルホン類、ポリカーボナート類、ポリエーテル類、ポリアセタール類、ポリケトン類、ポリフェニレンオキシド類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリアリレート類、PTFE類、ポリビニリデンフロライド類、セルロース誘導体などが挙げられる。
【0030】
本発明の組成物から光学フィルムを製造する場合は、フィルム成形性が良好な高分子材料を選択するのが好ましい。例えば、セルロース誘導体(セルローストリアセテート等)、ポリオレフィン類、ポリカーボネート類、ポリスチレン類等が好ましい。
【0031】
本発明の組成物中には、その他、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤等)を添加することができる。他の添加剤の添加時期については特に限定されない。同時に添加してもよいし、いずれかを先に添加してもよい。
【0032】
[本発明の組成物を用いたフィルム及び光学部材]
本発明のフィルム及び光学部材は、種々の成形手段を用いて、公知慣用の方法により、本発明の組成物から成形することができる。例えば、フィルム状に成形する手段としては、溶液状態より製膜する方法或いは溶融状態より製膜する方法を挙げることができる。
【0033】
溶液状態より製膜する方法としては、例えばカーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等が用いることができる。
【0034】
溶液状態より製膜する方法に用いられる塗布液の溶剤には、前記所定の基を有する分子を吸着させた球状無機粒子を含む組成物を溶解、あるいは分散できる公知の溶剤を用いることができる。該溶剤の具体例としては、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶剤、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤が挙げられ、クロロホルム、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミドが好ましい。また、これらの溶剤を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
溶液状態より製膜する方法に用いられる基材としては、特に限定しないが、塗布溶剤によって膨潤あるいは溶解しないものが好ましい。また、塗布物の乾燥には公知の乾燥法を用いることができる。具体的には、室温乾燥、加温乾燥、送風乾燥、減圧乾燥が挙げられ、またこれらを組み合わせてもよい。
【0036】
溶融状態より製膜する方法としては、熱溶融プレス法あるいは溶融押出し法などを用いることができる。このうち、熱溶融プレス法としては、平板プレス、真空プレス等のバッチ法や連続ロールプレス法等の連続法が挙げられる。
【0037】
本発明の組成物を用いて光学部材を製造する方法としては、射出成型や押し出し成型などの公知の成型技術を用いることができる。すなわち、溶融状態にある前記高分子組成物中に、前記所定の基を有する分子を吸着させた球状無機粒子を分散させ、射出成型により樹脂成形を行うことで、本発明の板状、レンズ状の光学部材を作製できる。
【0038】
[用途]
本発明の組成物は、上記用途に限定されず、ディスプレイ材料を始め、オプトエレクトロニクス材料、フォトエレクトロニクス材料などの作製に用いられる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作などは本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0040】
[実施例1]
(光機能性有機分子を吸着させた球状ジルコニア粒子分散液の調製1)
球状無機粒子を含有する分散液(球状ZrO2メチルエチルケトン分散液、住友大阪セメント(株)製)を、無機粒子固形分と同質量の光機能性有機化合物(例示化合物C−11〜13)を含むアセトニトリル溶液(無機粒子に対し100倍質量部)に滴下し、10分間攪拌した。遠心分離(3000rpm、10分)により、アセトニトリルと余剰の化合物を除去したのち、残差にアセトニトリル(無機粒子に対し100倍質量部)を加え、10分間攪拌、除媒して、前記化合物が吸着した無機粒子を得た。得られた無機粒子に、無機粒子に対し99倍質量部の塩化メチレンを加え、光機能性有機化合物の分子を吸着させた球状ジルコニア粒子分散塩化メチレン分散液を調製した。
【0041】
(セルロースアセテートブチレートフィルムの作製)
前記球状ジルコニア粒子塩化メチレン分散液300質量部に、塩化メチレン432質量部を加え、10分間攪拌した。攪拌しながら、セルロースアセテートブチレート(酢化度33%、ブチレート化度56%、重合度1000)100質量部を徐々に加え、光機能性有機分子が吸着した球状ジルコニア粒子含有セルロースアセテートブチレート溶液(セルロースアセテートブチレートに対し、球状ジルコニア粒子を3質量%含む)を調製した。
【0042】
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延し、セルロースアセテートブチレートフィルム(厚さ:82μm)を製造した。得られたフィルムを、130℃の条件で、30%の延伸倍率で自由端一軸延伸して、セルロースアセテートブチレートフィルム(厚さ:81μm)を製造した。
また、147℃の条件で、60%の延伸倍率で自由端一軸延伸して、セルロースアセテートブチレートフィルム(厚さ:82μm)を製造した。作製したセルロースアセテートブチレートフィルムについて、波長590nmにおけるRe(590)値及びRth(590)値を、上述の方法により測定した。
結果を表1に示す。
【0043】
なお、表1のNo.1及び8は、前記光機能性有機化合物の分子を吸着させた球状ジルコニア粒子を加えなかった以外は同様にして製造されたセルロースアセテートブチレートフィルムである。
また、表1中のNo.2〜4、及び9〜11は、光機能性有機分子が吸着した球状ジルコニア粒子塩化メチレン分散液の代わりに、光機能性有機化合物(3質量部)のみを加えた以外は同様にして製造されたセルロースアセテートブチレートフィルムである。

【0044】
【表1】

【0045】
なお、光機能性有機化合物を吸着させずに、球状ジルコニア粒子のみを添加することも試みたが、該粒子のドープ中への分散が極めて不十分なため、実験できなかった。
【0046】
表1に示した結果から、比較例(No.2〜4、No.9〜11)のフィルムでは、光機能性有機化合物(C−11、12及び13)を添加することにより、フィルムのRe(590)及びRth(590)が変化してしまったのに対し、本発明の実施例(No.5〜7、No.12〜14)では、該化合物を球状ジルコニア粒子に吸着させて添加しているので、未添加のフィルムと、Re(590)及びRth(590)がほぼ等しく、光機能性有機化合物によるレターデーションの発現を抑制できたことが理解できる。なお、本発明の実施例(No.5〜7、No.12〜14)のセルロースアシレートフィルムには、有機化合物C−11〜13が示すのと同様の屈折率上昇が認められた。
【0047】
[実施例2]
(光機能性有機化合物を吸着させた球状ジルコニア粒子分散液の調製2)
球状無機粒子を含有する分散液(球状ZrO2メチルエチルケトン分散液、住友大阪セメント(株)製)を、無機粒子固形分と同質量の光機能性有機化合物(例示化合物C−2)を含むアセトニトリル溶液(無機粒子に対し100倍質量部)に滴下し、10分間攪拌した。遠心分離(3000rpm、10分)により、アセトニトリルと余剰の化合物を除去したのち、残差にアセトニトリル(無機粒子に対し100倍質量部)を加え、10分間攪拌、除媒して、前記化合物が吸着した無機粒子を得た。得られた無機粒子に、無機粒子に対し99倍質量部の塩化メチレンを加え、前記分子を吸着させた球状ジルコニア粒子分散塩化メチレン分散液を調製した。
【0048】
(セルローストリアセテートフィルムの作製)
前記球状ジルコニア粒子塩化メチレン分散液200質量部に、塩化メチレン436質量部、メタノール95質量部を加え、10分間攪拌した。攪拌しながら、セルローストリアセテート(酢化度98%、重合度310)100質量部を徐々に加え、光機能性有機分子が吸着した球状ジルコニア粒子含有セルローストリアセテート溶液(セルローストリアセテート100質量部に対し、球状ジルコニア粒子を質量部含む)を調製した。同様に、セルローストリアセテート100質量部に対し、光機能性有機分子が吸着した球状ジルコニア粒子を4質量部、及び6質量部含むセルローストリアセテート溶液をそれぞれ調製した。
【0049】
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延し、セルローストリアセテートフィルム(厚さ:82μm)を製造した。作製したセルローストリアセテートフィルムについて、波長590nmにおけるRe(590)値及びRth(590)値を、上述の方法により測定した。結果を表2に示す。
なお、表2のNo.21は、前記分子を吸着させた球状ジルコニア粒子を加えない以外は同様にして製造されたセルローストリアセテートフィルムである。
また、表2中のNo.22〜24は、前記光機能性有機分子が吸着した球状ジルコニア粒子塩化メチレン分散液の代わりに、機能性有機化合物C−2(セルローストリアセテート100質量部に対し、2、4又は6質量部)のみを加えた以外は同様にして製造されたセルロースアセテートブチレートフィルムである。
【0050】
【表2】

【0051】
なお、光機能性有機化合物を吸着させずに、球状ジルコニア粒子のみを添加することも試みたが、該粒子のドープ中への分散が極めて不十分なため、実験できなかった。
【0052】
表2の結果から、比較例(No.22〜24)のフィルムでは、有機化合物C−2を添加することにより、フィルムのRth(590)が増加してしまったのに対し、本発明の実施例(No.25〜27)では、該化合物を球状ジルコニア粒子に吸着させて添加しているので、未添加のフィルムと、Re(590)及びRth(590)がほぼ等しく、光機能性有機化合物によるレターデーションの発現を抑制できたことが理解できる。なお、本発明の実施例(No.25〜27)のセルロースアシレートフィルムには、有機化合物C−2が示すのと同様の紫外線吸収特性が認められた。
【0053】
これらのことから、無機粒子への吸着基と光機能性を有する分子、好ましくはさらに高分子材料との親和性基を有する置換基を有する有機化合物の分子を吸着させた球状無機粒子を添加した高分子組成物を用いることにより、無機粒子へと吸着させず、該有機化合物単独で添加した高分子組成物では実現できなかった、添加剤による光学異方性発現が抑制された新規な高分子フィルムを作製できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光機能性有機化合物の分子を吸着させたアスペクト比が1〜1.5の実質的に球状な無機粒子と、高分子材料とを少なくとも含有する組成物。
【請求項2】
前記光機能性有機化合物が、紫外線吸収剤又は可視光領域に吸収を持つ色素である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記光機能性有機化合物が、波長589nmの光に対する屈折率が1.55以上の有機化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記光機能性有機化合物が、前記高分子材料と親和性を有する置換基を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記光機能性有機化合物が、下記一般式(1)で表されるホスホン酸基又はその塩、又は下記一般式(2)で表されるリン酸モノエステル基もしくはその塩を有する化合物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物:
一般式(1)
−PO3m
一般式(2)
−OPO3m
式中、Xはそれぞれ独立に、水素原子、あるいは1価もしくは2価の有機又は無機カチオンを表し、mは1又は2であるが、mが1の場合は、Xは2価の有機又は無機カチオンであり、mが2の場合は、2個のXはそれぞれ水素原子あるいは1価の有機又は無機カチオンである。
【請求項6】
前記光機能性有機化合物が、下記一般式(3)で表される基を有する化合物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物:
一般式(3)
−Si(R13-n(OR2n
式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。
【請求項7】
前記無機粒子が、平均粒子径3〜300nmの金属酸化物粒子である請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記無機粒子が、TiO2、ZnO、ZrO2である請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物から形成された光学フィルム。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物から形成された光学部材。
【請求項11】
光機能性有機化合物の分子をアスペクト比が1〜1.5の実質的に球状な無機粒子に吸着させた吸着無機粒子を高分子材料に添加して高分子組成物を得ること、及び該高分子組成物を成形することを含む光学部材の製造方法。
【請求項12】
前記高分子組成物をフィルム状に成形することを含む請求項12に記載の方法。

【公開番号】特開2008−266396(P2008−266396A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108829(P2007−108829)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】