説明

組成物を検出及び分析するためのシステム及び方法

【課題】 部品の表面上でレーザプラズマ分光を実施し、詳細には堆積物の浸透から損傷を受けやすい皮膜によって保護されたターボ機械部品上に集積する堆積物の範囲を具体的に検出し、分析し、決定するためのシステム及び方法を提供すること。
【解決手段】本システムは、レーザエネルギー源と、レーザエネルギー源と相互接続されてレーザビームを受け取り、次に部品が静止状態の間に部品の表面上にレーザビームを配向し、表面区域を走査するプローブとを含む。該プローブは、部品の表面でレーザビームによって発生したレーザ誘起プラズマから放出される放射線を集めるように更に構成される。本システムは、プローブから放射線を伝搬し、放射線をスペクトル分析するために装備される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、総括的には組成物を検出及び分析するためのシステム及び方法に関する。より具体的には、本発明は、ターボ機械の運転環境における汚染物質の侵入によって損傷を受けやすい皮膜により保護されるタービン部品のような、高温に曝された部品に集積する汚染物質の範囲を検出、分析及び測定するためのシステム及び方法に関する。
【技術分野】
【0002】
発電及び推進力用に利用されるガスタービンを含むターボ機械の高温セクション部品は、下にある部品基材の温度を低下させることにより部品の耐用年数を引き延ばすために、遮熱コーティング(TBC)により保護されることが多い。セラミック材料及び具体的にはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)は、高温性能、熱伝導率が低いこと、並びにプラズマ溶射、フレーム溶射及び物理的気相成長法(PVD)技術による堆積が比較的容易であることに起因して、TBC材料として広く使用されている。空気プラズマ溶射(APS)のようなプラズマ溶射工程は、ある程度の不均一性及び多孔性によって特徴付けられる非柱状皮膜をもたらし、装置コストが比較的低く適用が容易であるといった利点を有する。ターボ機械の最大温度領域に使用するTBCは、多くの場合、歪み耐性の柱状粒子構造をもたらすPVD、具体的には電子ビームPVD(EBPVD)によって堆積される。ある程度の多孔性を有する同様の柱状微細構造は、他の原子及び分子蒸気処理を用いて生成することができる。
【0003】
有効であるために、TBCは、何回もの加熱及び冷却サイクル全体を通じて部品に強力に接着し且つ接着を維持する必要がある。後者の要件は、セラミック材料とこれらセラミック材料が保護する基材との間の熱膨張率(CTE)が異なることに起因して特に過酷な要求であり、この基材は、通常超合金であるが、セラミックマトリックス複合材料(CMC)も使用される。接着を促進してTBCの耐用年数を延ばすと共に、下にある基材を酸化及び高温腐食作用による損傷から保護するために、耐酸化性ボンドコートが利用される場合が多い。超合金基材上に用いるボンドコートは通常、MCrAlX(式中、Mは鉄、コバルト及び/又はニッケル、及びXはイットリウム、希土類元素、又は反応性元素)のような拡散アルミナイド皮膜又はオーバーレイコートの形態である。セラミックTBCの堆積及びタービン運転中などのその後の高温への曝露の間、これらボンドコートは、TBCをボンドコートに接着する強固接着アルミナ(Al)層又はスケールを形成する。
【0004】
TBCシステムの耐用年数は通常、ボンドコート酸化、界面応力の増大、及び結果として生じる熱疲労によって引き起こされる剥離事象によって制限される。この剥離は、ボンドコートとTBCとの間の酸化成長、及びTBC(セラミック)と基材(通常は金属)との間のCTE不整合に加え、ターボ機械の運転中にターボ機械の空気流内に存在する化合物でTBCが汚染される結果として促進される可能性がある。顕著な汚染物質には、カルシア、マグネシア、アルミナ及びシリカなどの様々な酸化物の混合物が含まれ、これらの存在は、周囲の空気が、泥、火山灰、セメント粉塵、及び/又はこれらの酸化物を含有する他の物質の粒子状物質を含有するときにより広く行きわたるようになる。高温で共に存在するときには、カルシア、マグネシア、アルミナ及びシリカは、本明細書でCMASと呼ばれる共晶化合物を形成することができる。CMASは、約1225℃の比較的低い溶融温度を有し(場合によってはその正確な組成にはあまり依存しない)、タービン運転時に溶融してTBCのより低温の表面領域内の気孔に浸透することができるようになり、ここでCMASが再凝固する。結果として、熱サイクル中のTBC剥離は、柱状及び多孔性粒子構造それぞれに侵入する溶融CMASの能力に起因して、柱状TBC、特にPVD及びAPSにより堆積されたTBCの歪み耐性特性を妨げる浸透及び凝固CMASから生じる可能性が高い。CMASの別の弊害は、ボンドコート及びTBCの下にある基材が、CMASの浸透に関連するアルカリ堆積物による腐食作用を受けやすいことである。最終的に、CMAS浸透の可能性は、ターボ機械の効率を高めるためにより高い運転温度が使用される程より高くなる点に留意されたい。
【0005】
CMASによる浸透に耐性を示す皮膜材料を見出すために様々な研究が実施されてきた。注目すべき実施例は、同一出願人による米国特許第5660885号、第5683825号、第5871820号、第5914189号、第6465090号、第6627323号、第6720038号、及び第6890668号、並びに米国特許出願第2007/0116883号である。これらの公報の保護皮膜は、一般的にはCMASに対して不透過性、犠牲的、又は非湿潤性であるように説明することができる。不透過性皮膜は、溶融CMASの浸透を物理的に阻止し、犠牲皮膜は、CMASと反応してその溶融温度及び/又は粘度を高めることによって浸透性を化学的に阻止し、更に、非湿潤性皮膜は、固体TBCと溶融CMASとの間の引力を低下させる。
【0006】
上記のような皮膜技術の進歩にもかかわらず、ターボ機械部品のTBC上のCMASを検出する能力は、極めて望ましいものになる。しかしながら、CMASの存在の確認には化学分析を必要とし、この化学分析は、従来の装置を使用した場合にはタービンから部品を取り外す必要があり、これは厄介な問題である。結果として、CMAS検出は通常、定期保守計画中に行われ、主として目視観察に基づいている。従って、CMASの存在を検出するためにより好都合且つあまり邪魔にならない技術に対する必要性が引き続きある。また、TBC及びTBCが保護する部品の耐用寿命を予測する能力が存在する場合には、CMASの存在に基づいて予測することが望ましいものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5660885号明細書
【特許文献2】米国特許第5683825号明細書
【特許文献3】米国特許第5871820号明細書
【特許文献4】米国特許第5914189号明細書
【特許文献5】米国特許第6465090号明細書
【特許文献6】米国特許第6627323号明細書
【特許文献7】米国特許第6720038号明細書
【特許文献8】米国特許第6890668号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2007/0116883号明細書
【特許文献10】米国特許第6762836号明細書
【特許文献11】米国特許第7016035号明細書
【特許文献12】米国特許第7064825号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、総括的にはレーザプラズマ分光を実施し、ターボ機械の高温ガス経路内の高温でCMASの浸透から損傷を受けやすい皮膜によって保護されたターボ機械部品に集積するCMASの範囲を検出、分析、及び決定することができるシステム及び方法を提供する。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、本システムは、総括的にはレーザエネルギー源と、レーザエネルギー源と相互接続されてレーザビームを受け取るプローブとを含む。プローブは、外側部材と外側部材の内部にある少なくとも第1及び第2の内側部材とを含み、第1及び第2の内側部材の少なくとも1つが外側部材の内部で回転可能である。第1及び第2の内側部材の各々は、レーザビームを集束するためのレンズとプローブから出る前にレーザビームを再配向する手段とを備える。プローブは、プローブを出たレーザビームを部品の表面上に配向し且つ表面区域を走査するために部品が静止している間に操作できるように、プローブがターボ機械部品に十分に近接して固定的に位置決めすることができる外部構成を有する。プローブは、部品の表面でレーザビームによって発生したレーザ誘起プラズマから放出される放射線を集めるように更に構成される。最後に、本システムは、プローブから放射線を伝搬するための手段と、プローブから伝搬された放射線をスペクトル分析するための手段とを更に含む。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、本方法は、一般に、レーザエネルギー源によりレーザビームを発生させる段階と、レーザビームをターボ機械部品に隣接して固定的に位置決めされたプローブに伝搬する段階と、レーザビームがプローブを出て部品の表面上に配向され、表面区域を走査するために部品が静止している間に操作されるようにプローブを作動する段階と、部品の表面でレーザビームによって発生したレーザ誘起プラズマから放出される放射線をプローブで集める段階と、プローブから放射線を伝搬する段階と、プローブから伝搬された放射線をスペクトル分析する段階とを含む。プローブは、ボアスコープ・プローブでターボ機械を検査するのに用いる既存のサイトホール・ポートのような開口部を通してターボ機械に挿入されるように適合することができる。
【0011】
本発明のシステム及び方法は、好ましくは部品に致命的な損傷を引き起こさずに、部品に対して迅速な現場検査及び測定を実施することができる。検査及び分析は、ターボ機械が運転中でなくて冷却状態にあるときに、日常的な保守又は検査計画中に行うことができる。このような検査は、前の検査の結果と前の検査以降の部品の作動状態とに基づいて計画することができる。
【0012】
本発明の他の目的及び利点は、以下の詳細な説明からより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】タービンブレードが取り付けられた高圧タービンディスクの実施例を示す部分斜視図。
【図2】図1に示すブレードの翼形部表面上の遮熱コーティング(TBC)システムの部分断面図。
【図3】本発明の実施形態によるCMAS検出及び分析システムを概略的に描いた図。
【図4】図2のCMAS検出及び分析システムで用いるのに好適なビーム集束及び操向プローブの概略図。
【図5】図2のCMAS検出及び分析システムで用いるのに好適なビーム集束及び操向プローブの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、発電及び推進力用の使用されるガスタービンを含むターボ機械のタービン部品に関して説明されるが、本発明は、熱的及び化学的に過酷な環境内で作動する様々な部品で利用できる点は理解されたい。議論する目的で、高圧タービン組立体10の一部分が図1に示されている。タービン組立体10は、全体的には公知のタイプのものとして表わされ、ディスク14に取り付けられた高圧タービンブレード12を含む。ブレード12は、鉄、ニッケル又はコバルト基の超合金で作ることができるが、通常はニッケル基超合金が好ましい。ブレード12は、ディスク14の外周に形成されたダブテールスロット18と相互に連結するダブテール16によりタービンディスク14に個々に係止される。各ブレード12は、翼形部20及びプラットホーム22を有し、ターボ機械の運転中にこれらに高温燃焼ガスが向けられ、従って、これらの表面は、酸化、高温腐食及び浸食並びにCMASによる汚染によって過酷な作用を受ける。
【0015】
翼形部12の表面は、TBCシステム24によって保護され、図2では、ブレード12の表面の上にある金属ボンドコート26を含むように示されている。ターボ機械の部品用のTBCシステムで広く実施される場合、ボンドコート26は、MCrAlX合金のオーバーレイコート、又は拡散アルミナイド又は拡散プラチナアルミナイドのような拡散皮膜などのアルミニウムリッチ組成とすることができ、これらの全ては、当技術分野で公知である。アルミニウムリッチボンドコートは、ボンドコート26の酸化の結果として成長する酸化アルミニウム(アルミナ)スケール28を生じる。アルミナスケール28は、断熱材料で形成されたTBC30をボンドコート26に化学的に結合する。図2のTBC30は、柱状粒子32の歪み耐性微細構造を有するものとして表わされる。当技術分野で公知のように、このような柱状微細構造は、EBPVDのような物理的気相成長(PVD)技術を用いてTBC30を堆積することによって得ることができる。本発明はまた、空気プラズマ溶射(APS)を含むプラズマ溶射のような方法によって堆積された非柱状TBCにも適用可能である。このタイプのTBCは、溶融「スプラット」の形態であり、結果として不規則な平坦化(従って非柱状)粒子並びにある程度の不均一性及び多孔性により特徴付けられる微細構造をもたらす。先行技術のTBCと同様に、本発明のTBC30は、ブレード12に対する必要な熱保護を提供するのに十分な厚さまで堆積することを意図している。TBC30用の一般的な材料は、約3から約8重量パーセントのイットリア(3−8%YSZ)を含有する組成物のようなイットリア安定化ジルコニア(YSZ)であるが、非安定化ジルコニア、或いはマグネシア、セリア、スカンジア又は他の酸化物によって部分的又は完全に安定化されたジルコニアを非限定的に含む他のセラミック材料を使用することができる。
【0016】
本発明が特に関心があるのは、TBC30の表面38上の堆積物36のような、図2に示されたCMASによる作用に対してTBC30が影響を受けやすいことである。上記で議論されたように、CMASは、溶融されると柱状及び非柱状TBC内に間隙、空隙、その他によって形成される気孔34に浸透し、その後熱サイクル中にTBC剥離を促進するように再凝固することができる比較的低溶融化合物である。この問題に対処するために、本発明は、ターボ機械ハードウェア上のCMAS堆積物の早期検出のためのシステム及び方法を提案する。本システム及び方法は、有利には、タービンからブレード12を取り外すことなく利用することができ、TBC30を損傷することなくCMASの存在を検出することができる。そうすることによって、本発明はまた、TBC30及び従ってTBC30が保護するブレード12の耐用寿命を予測するための能力を提供する。
【0017】
図3は、本発明の実施形態によるCMAS検出及び分析システム40のブロック図である。システム40は、レーザ誘起破壊分光法(LIBS)及びレーザ誘起プラズマ分光法(LIPS)としても知られるレーザパルス分光法(LPS)を利用する。当技術分野で知られるように、LPSは、物質の小部分を蒸発させ(切除)てスペクトル分析のために後で収集される物質内の元素の特徴的な原子輝線を含む発光プラズマを発生させるのに十分な出力密度で物質上にパルスレーザビームを投影することを伴う。図3では、レーザビーム42は、ブレード12のTBC皮膜表面上にパルス状に投影(例えば、図1及び2)されるように表され、結果としてTBC30の小部分及びTBC表面38上のあらゆる堆積物36の蒸発を生じ(例えば、図2)、発光プラズマ(図示せず)を発生する。次にLPS技術は、プラズマ内の特徴的な原子輝線(特性放射線)を利用して、TBC30上又は内部に存在するあらゆる堆積物の組成を検出し分析する。皮膜及び皮膜堆積物の組成を分析するためのLPS技術の利用は、同一出願人によるBenicewicz他の米国特許第6762836号、Wu他の米国特許第7016035号、及びViertl他の米国特許第7064825号に開示されており、組成及びLPSベースシステムの作動に関するこれらの内容は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0018】
本発明は、ブレード12の様々な比較的大きな表面領域、並びにターボ機械の高温ガス経路内の他の部品表面上に現れることができるCMAS堆積物に関する。従って、図3に示すシステム40の好ましい態様は、TBC30の比較的大きな表面領域を横断するレーザビーム42を投影する能力である。本発明の別の好ましい態様によれば、レーザビーム42は、ブレード12がタービン内に設置されたままである間にタービン組立体10のブレード12に配向することができる。
【0019】
システム40は、電磁スペクトルの近赤外線領域においてエネルギーを発生する、Nd:YAGレーザ44によりパルスレーザビーム42を発生するように図3に表わされている。他のレーザ発生器は、例えば、可視及び紫外領域においてエネルギーを発生する「エキシマー(励起二重体)」タイプを利用することができる点は予測できる。レーザ44から、ビーム42は、ビーム分割光学素子46を通過した後、コヒーレントファイバ束のようなファイバ光学素子48を介してブレード12に伝送されて、ビーム集束及び操向プローブ50によりブレード12の表面上に集束される。LPSシステムにおいて一般的であるように、レーザ44は、基本波長又は調和波長のいずれかのレーザ光、或いは標的物質(この場合は、TBC30の表面38上のCMAS堆積物36である)の発光プラズマを蒸発及び形成するのに十分に高い集光強度を発生させることができるあらゆる高ピーク出力パルスレーザを発生するよう動作される。従って、検出される主な元素は、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム及びシリコンの酸化物である。この目的のための好適なレーザビーム出力密度は、約3GW/cm以上であると考えられる。タービン組立体10がタービン内に設置されたままの間にレーザの使用を可能にするために、レーザ44は、好ましくは小型で可搬性であり、レーザビーム42に意図せずに曝露されるリスクを制限するため光不透過性ハウジング(図示せず)内に収容されるのが好ましい。
【0020】
プラズマを発生するためのレーザビーム42による励起後、プラズマの遅延分光計側を用いて、プラズマ内の様々な特定の過渡種を検出し測定する。レーザビーム42は、好ましくは多重測定が実施されるようにパルス化され、各測定はレーザパルスに従う。TBC30中の元の元素(YSZで形成された場合には、ジルコニウム、イットリウム、及び酸素など)の知見を用いて、プラズマから放射されたこれらの特性原子輝線(特性放射線)の強度を測定することによって、プラズマ中の元素を検出し、その量を定量的に決定することができる。検出及びスペクトル分析は、プローブ50でプラズマから放射される特性放射線を集めて、該特性放射線をファイバ光学素子48を通してビーム分割光学素子46に導いて戻し、ビーム分割光学素子46が放射線を高速デジタル分光計60に配向することにより実施される。分光計60は、放射線を増倍電荷結合デバイス(ICCD)62又は例えば光ダイオードアレイ(PDA)のような別の好適なアレイ検出器上にスペクトルで分散させて集束する。次いで、コンピュータ64を利用して、ICCD62から得られたスペクトルデータを表示、記憶、及び操作することができる。コンピュータ64は、好ましくは、リアルタイムで複数プラズマ事象からの発光スペクトルを分析することができ、将来の評価のためにデータを表示又は保存する。これらの動作を実施するための様々な市販のソフトウエアパッケージが公知であり、コンピュータ64をプログラムするために利用可能であるが、本明細書では詳細には検討しない。
【0021】
システム40の実施は、CMASの構成元素、すなわちカルシウム、マグネシウム、アルミニウム及びシリコンの固有波長の強度を測定し比較する段階を含む。従って、分光計60は、好ましくは、少なくとも4つの元素を選択的に追跡するためのスペクトル範囲を有するが、より多くの元素の追跡も予測できる。励起効率の自然差違に対して適切な補正を用いて、補正された強度の比率は、レーザビーム42によって蒸発したこれら及び他の元素の比率を提供し、CMAS堆積物36の化学量論的組成を確定することができる。TBC30上に存在するCMAS堆積物36の量及び化学的性質の検出並びに定量的決定に加えて、CMAS元素の特性スペクトルは、深さの関数として特徴付けることができ、この深さの関数から、CMASがTBC30に浸透した発生度及び場合によってはその範囲を測定することもできる。いずれの場合においても、タービン運転時間、温度、その他などの他の利用可能なデータとCMAS測定値とを組み合わせることによって、ブレード12上に存在するCMAS堆積物36の量に基づいてTBC30及びTBC30が保護するブレード12の寿命を予測することが可能である。
【0022】
図3は更に、システム40の運転をタービン組立体10の回転と同期させるためのデバイス66に接続されたコンピュータ64を更に示している。コンピュータ64及び同期デバイス66は、タービン組立体10が固定され、増分的に回転され、又は連続的に回転される間にシステム10によって個々に順次的に分析することができるように、システム40を制御することができる。従って、システム40は、ターボ機械のシャットダウン又は運転中に検査を実施することができる。コンピュータ64はまた、プローブ50の温度を制御するために冷却システム68に結合されて示されている。このような能力は、任意選択的なものであるが、システム40に対して想定される好ましい用途に照らして望ましく、このシステム40におけるプローブ50は、ボアスコープを用いた検査用の発電タービンのタービン壁に共通して見出されるサイトホール・ポート、又はこの目的のために設置することができる付加的な検査ポートなどを通って、シャットダウンの間にタービンに挿入されるように構成される。図3では、プローブ50は、ブレード12の比較的広い表面領域の調査を可能にするためにレーザビーム42の好適な操作が望ましいように、タービン壁72中のサイトホール・ポート70の内部にほぼ固定位置にあるものとして表わされている。この目的のために、プローブ50は、レンズ52及び54並びにビームデフレクタ56及び58の複合セットを含む組立体であるように表わされ、このビームデフレクタは、プリズムとして描かれているが、連接型ミラー配列を含む、レーザビーム42を再配向することができる他の光学デバイスを用いることができることは明らかになる。
【0023】
図4及び5は、ブレード12の翼形部20のような複雑な表面上のCMAS測定を可能にすることができる特徴部を備えた、ビーム操向及び集束プローブ50についての構成を描いている。プローブ50は、2つの内側スリーブ76及び78を含み且つ支持する外側スリーブ74を有して表わされている。スリーブ74、76、及び78は、管状形状であるのが好ましいが、必ずしも断面が円形である必要はない。更に、内側スリーブ76及び78の少なくとも1つ及び好ましくは両方は、軸受80によって支持され、該軸受により、スリーブ76及び78が、外側スリーブ74と共に共通軸の周りを回転し、外側スリーブ74内で直線的に(長手方向に)並進することが可能になる。図3に示す実施を用いる場合、外側スリーブ74は、好ましくはサイトホール・ポート70と緊密に嵌合するような大きさ及び構成にされる。ファイバ光学素子48は、第1の内側スリーブ76に結合され、レーザビーム42をレンズ52に配向し、次いで、公知の光学原理に基づいてビーム42をビームデフレクタ56上に集束する。図4及び5から明らかなように、レンズ52及びビームデフレクタ56の第1のセットは、第1の内側スリーブ76内に取り付けられ、レンズ54及びビームデフレクタ58の第2のセットは、第2の内側スリーブ78内に取り付けられ、これらのうちの第2のセットは、プローブ50がサイトホール・ポート70内に取り付けられたときに、翼形部20に最も近くに配置されるプローブ50の遠位端部に配置される。
【0024】
一方又は両方の内側スリーブ76及び78を回転及び/又は並進させることによって、ビームデフレクタ56及び58は、広い範囲の焦点深度をカバーすることができ、更に、図4及び5を比較することで明らかなように翼形部20の表面上、及び任意選択的に更に翼形部20から離れた様々な場所に向けてビーム42を偏向し集束することができる。コンピュータ64が用いるためにビーム42を集束するためのパラメータの表を求めることができる。ブレード12に対するプローブ50の位置が、翼形部データに対して既知である場合には、翼形部20についてのCADデータを用いて、CMAS堆積物36についてビーム42で走査されるときに、翼形部20の表面上に移動焦点を提供することができる。実際には、翼形部表面のラスター走査領域は、プローブ50によって調べることができる。CMAS浸透及びこの結果として生じる損傷は、タービン運転中に翼形部20の表面にわたって存在する様々な温度レベルによって影響を受けるので、このような能力は特に有益である。様々なタービンの運転状態中に翼形部20上の高温スポットの知見を用いて、プローブ50を利用し、CMAS堆積物36の傾向が最も高い可能性がある翼形部20のある表面区域を特に調べることができる。
【0025】
プローブ50は、外側スリーブ74内及び互いに対してスリーブ76及び78を回転し直線的に並進するようにコンピュータ64によって制御される電動ユニット82(図3)を備えることができる。このようにして、コンピュータ64を利用して、互いに対して内側スリーブ76及び78を直線的に移動させることによって様々な焦点距離にビーム42を集束し、互いに対して一方又は両方の内側スリーブ76及び78を回転させることによってビーム42を操向することができ、その結果プローブ50は、多様な走査を実施することができる。例えば、2つの内側スリーブ76及び78が、コンピュータ64によって反対方向に同速度で回転するように制御される場合、ビーム42は、翼形部20の表面上でライン走査を実施する。スリーブ76及び78が、同方向(時計回り又は反時計回りのいずれか)であるが異なる速度で回転する場合には、ビーム42は、螺旋状走査或いはほぼ円形走査を実施するよう操作することができる。走査速度を段階的にすることによって、ビーム42が実施する走査は、一連のリングを含むパターンの形態とすることができる。当業者であれば、スリーブ76及び78を互いに対して同方向、反対方向、同速度、及び異なる速度で回転及び直線的に並進させることができる結果として、付加的な走査パターンも実施可能であり、本発明の範囲内にある点は理解されるであろう。
【0026】
当業者はまた、ビームデフレクタ56及び58用のプリズムの代わりにミラーを用いる場合には、デフレクタ56及び58の向きは、図4及び5に示すのとは異なるものになるが、翼形部20の表面を走査するためのビーム42操作の全体の概念は同じであることは理解されるであろう。ミラーを用いる場合、図4及び5に示す平面に垂直な平面でビーム42を偏向するために、直交ミラーが更に利用されることになる。
【0027】
以上のことから、システム40及びプローブ50を用いて、定期保守計画に限定されることなく、且つ単に目視観察に依存することなく、タービンブレード12(並びにタービンの他の高温ガス経路の部品)に対するCMAS堆積物36の重大度を検出、測定、及び評価することができる点は理解できる。或いは、システム40及びプローブ50は、保守ベースから状態ベースへのCMAS検査計画を変更するための基礎を提供する。CMAS堆積物36の量及び場所、並びにCMAS堆積物36及び他のあらゆる堆積物の何らかの化学的プロフィールの変化の知見を用いて、TBC剥離及び最終的には部品の故障につながるCMAS溶融の発生を最小限にするようターボ機械の熱プロフィールを調整できることは予測できる。
【0028】
有利には、システム40及びプローブ50は通常、一連の小さなパルスを用いて所望の分析を実施することができ、除去される物質の量は、あらゆる所与の場所で使用されるレーザパルスの強度及び数により調整可能である。好適な結果は、約20ミル(約0.5ミリメートル)の直径の表面領域から物質の約1ナノメートルを蒸発させることによって得ることができると想定されるが、これよりも多いか少ない量も可能である。表面分析は、表面処理を必要とせずに実施することができる。その結果、本発明の注目すべき潜在的利点は、部品に対して致死的損傷を引き起こすことなくターボ機械内の部品に対して実施する迅速な現場検査及び測定能力を含むことができる。このような検査は、前の検査の結果と前の検査以降の部品の作動状態とに基づいて計画することができる。更に、システム40及びプローブ50は、プローブ50の遠隔作動を可能にするよう構成することができる。
【0029】
本発明を特定の実施形態に関して説明してきたが、当業者は他の形態を採用できることは明らかである。例えば、開示された実施形態を参照しながら示され説明された装置及び機器の代わりに、機能的に同等の装置及び機器を使用できることは予測できる。更に、開示された本発明は、ターボ機械部品上へのCMAS堆積物の検出に限定されず、表面のスペクトル分析が望ましい他の環境において適用することができる。従って、本発明の範囲は、添付の請求項によってのみ限定されるものとする。
【符号の説明】
【0030】
10 タービン組立体
12 タービンブレード
14 ディスク
16 ダブテール
18 ダブテールスロット
20 翼形部
22 プラットホーム
24 TBCシステム
26 ボンドコート
28 酸化アルミニウム(アルミナ)スケール
30 TBC
32 柱状粒子
36 堆積物
38 表面
40 システム
42 レーザビーム
44 レーザ
46 ビーム分割光学素子
48 ファイバ光学素子
50 プローブ
52、54 レンズ
56、58 ビームデフレクタ
60 分光計
62 増倍電荷結合デバイス(ICCD)
64 コンピュータ
66 デバイス
68 冷却システム
70 サイトホール・ポート
72 タービン壁
74、76、78 スリーブ
80 軸受
82 電動ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品の表面上でレーザプラズマ分光を実施するためのシステムであって、
レーザエネルギー源と、
前記レーザエネルギー源と相互接続されてレーザビームを受け取るプローブと、
を備え、
前記プローブが、外側部材と該外側部材の内部にある少なくとも第1及び第2の内側部材とを含み、前記第1及び第2の内側部材の少なくとも1つが前記外側部材の内部で回転可能であり、前記第1及び第2の内側部材の各々が、レーザビームを集束するためのレンズと前記プローブから出る前にレーザビームを再配向する手段とを含み、前記プローブが、該プローブから出たレーザビームを部品の表面上に配向し且つ前記表面区域を走査するために前記部品が静止している間に操作できるように、前記プローブが前記部品に十分に近接して固定的に位置決めすることができる外部構成を有し、前記プローブが、前記部品の表面で前記レーザビームによって発生したレーザ誘起プラズマから放出される放射線を集めるように構成されており、
前記システムが更に、
前記プローブから放射線を伝搬するための手段と、
前記プローブから伝搬された放射線をスペクトル分析するための手段と
を備えるシステム。
【請求項2】
前記伝搬手段が、前記レーザビームを前記レーザエネルギー源から前記プローブに伝搬する、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記第1の内側部材のレンズが、前記第1の内側部材の再配向手段上にレーザビームを集束し、前記第1の内側部材の再配向手段が、前記第2の内側部材の再配向手段上にレーザビームを配向し、前記第2の内側部材の再配向手段が、前記第2の内側部材のレンズ上にレーザビームを配向する、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記レーザビームを前記部品上に複数の様々なパターンで走査するために、前記レンズの作動手段と、前記プローブの再配向手段とを更に備える、請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記作動手段が、前記第1及び第2の内側部材を個々に回転及び直線並進させるように動作可能である、請求項4記載のシステム。
【請求項6】
前記作動手段が、前記第1及び第2の内側部材を同方向、反対方向、同速度、及び異なる速度で回転及び直線的に並進するよう作動可能な電動ユニットを備える、請求項4記載のシステム。
【請求項7】
前記伝搬手段が、前記第1の内側部材の前記レンズ上にレーザビームを投影する、請求項1記載のシステム。
【請求項8】
前記部品の表面が皮膜によって形成され、前記レーザエネルギー源及び前記プローブが、前記皮膜上の堆積物を蒸発させるよう協働して適合され、前記スペクトル分析手段が、前記堆積物を選択的に検出して化学的に分析し、前記堆積物を定量的に測定するように適合される、請求項1記載のシステム。
【請求項9】
前記堆積物が、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム及びシリコンの酸化物を含有する、請求項8記載のシステム。
【請求項10】
前記部品がターボ機械のタービン部品であり、前記プローブが、前記ターボ機械の一部分に取り付けられるように構成される、請求項1記載のシステム。
【請求項11】
部品の表面上でレーザプラズマ分光を実施する方法であって、
レーザエネルギー源によりレーザビームを発生させる段階と、
前記レーザビームを前記部品に隣接して固定的に位置決めされたプローブに伝搬する段階と、
前記レーザビームが前記プローブから出て、前記部品の表面上に配向され、前記表面区域を走査するために前記部品が静止している間に操作されるように前記プローブを作動する段階と、
前記部品の表面で前記レーザビームによって発生したレーザ誘起プラズマから放出される放射線を前記プローブで集める段階と、
前記プローブから前記放射線を伝搬する段階と、
前記プローブから伝搬された放射線をスペクトル分析する段階と
を含む方法。
【請求項12】
前記作動段階が、前記レーザビームを前記部品上に複数の様々なパターンで走査する段階を含むことを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記プローブが、外側部材と該外側部材の内部にある少なくとも第1及び第2の内側部材とを備え、前記作動段階が、前記外側部材の内部で前記第1及び第2の内側部材の少なくとも1つを回転及び直線的に並進させるうちの少なくとも1つ含むことを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記作動段階が更に、前記第1の内側部材のレンズを用いて前記レーザビームを前記第1の内側部材の再配向手段上に集束する段階と、前記再配向手段を用いて前記レーザビームを前記第2の内側部材の再配向手段上に配向する段階と、前記第2の内側部材の再配向手段を用いて前記レーザビームを前記第2の内側部材のレンズ上に配向する段階とを更に含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記作動段階が、同方向、反対方向、同速度、及び異なる速度のうちの少なくとも1つに従って前記第1及び第2の内側部材を選択的に回転及び直線的に並進させる段階を更に含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記部品の表面が皮膜によって形成され、前記レーザビームが前記皮膜上の堆積物を蒸発させ、前記放射線がスペクトル分析され、前記堆積物を検出して化学的に分析し、前記堆積物を定量的に測定することを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項17】
前記堆積物が、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム及びシリコンの酸化物を含有することを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記堆積物が前記皮膜内の気孔に浸透した範囲を検出する段階を更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記皮膜が遮熱コーティングである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記部品がターボ機械のタービン部品であり、前記プローブが前記ターボ機械の一部分に取り付けられる、請求項19記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−162757(P2009−162757A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531(P2009−531)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】