説明

組換えタンパク質の高レベルを産生する安定した哺乳動物細胞系を作製するための方法

本発明は、増大したタンパク質産生能を有する安定した哺乳動物細胞系を作製するための新規の方法、並びに関心対象の生物製剤タンパク質の高レベルの発現のための発現ベクター及び関連方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、「Method to Generate Stable Cell Lines for High−level Production of Recombinant Proteins」という表題の2006年5月4日に出願された米国仮出願第60/746,490号の、米国特許法第119条第(e)項の規定に基づく利益を主張する。本仮出願の開示は、その全ての内容が全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明の技術分野
本発明は、一般に、組換えタンパク質産生の分野に関し、より具体的には、生物製剤タンパク質の産生のための安定した産生細胞系の作製に関する。
【背景技術】
【0003】
哺乳動物細胞は、生物製剤タンパク質を製造するために広く使用されている。複雑な翻訳後修飾を含む抗体等のタンパク質の産生のため、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、典型的には、安定した哺乳動物産生細胞系の作製のために選択される宿主細胞である。哺乳動物遺伝子発現ベクターの設計及び精巧さに関して、近年、著しい進歩を遂げたにもかかわらず、哺乳動物細胞中での生物製剤タンパク質の頑強な産生は、通例の事項とはなっていない。組換えタンパク質の大規模な産生のための発現系を開発するには、細胞増殖の特徴、導入遺伝子発現レベル、翻訳後修飾の性質及び程度、関心対象のタンパク質の生物活性並びに規制上の問題及び経済的な考慮を含む多くの因子を注意深く考慮することが必要である。
【0004】
哺乳動物宿主細胞中への形質移入後、関心対象の生物製剤タンパク質に関するコード化配列(すなわち、導入遺伝子)を含む発現ベクターは通常、宿主細胞のゲノム中に無作為に組み込まれる。典型的には、ある細胞中において、組込みは、単一の位置で生じ、その結果、異なる細胞は異なる位置(染色体上の位置)で組込みを示すことが期待され得る。哺乳動物のゲノムのサイズが大きいため、無作為な組込みの工程は、一般に、変動する最適下の発現レベルによって特徴付けられる形質移入された宿主細胞を与える。この結果は、高い転写活性によって特徴付けられるゲノムの部位(すなわち、ホットスポット)中に、導入遺伝子が無作為に組み込まれる可能性が低いという事実によるところが大きい。驚くべきことではないが、形質移入された宿主細胞の圧倒的大部分は、導入遺伝子によってコードされるタンパク質産物を低レベルで産生するに過ぎない。それゆえ、形質移入された宿主細胞の多くは、関心対象のタンパク質を産生している細胞を同定するために選別される必要がある。
【0005】
導入遺伝子の増幅は通常、生物学的評価及び産業的製造の目的のために必要とされる規模で生物製剤タンパク質を産生できる細胞系を作製することが必要とされる。従って、発現ベクターは、典型的には、増幅可能なマーカーを含む。例えば、発現ベクター中での増幅可能なマーカーとしてのジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子を包め、選択のためにメトトレキサート(MTX)を使用することによって、DHFRCHO細胞の遺伝子コピー数を、細胞1個あたり50コピー又はそれ以上まで増加させることができる(Omasa T et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering,Vol.94,No.6,pp600−605,2002)。産生細胞系を作製するために段階的な遺伝子増幅戦略を使用することの周知の欠点には、増幅プロトコールに由来する異なるクローンのタンパク質発現レベルが2桁を超え得る広い範囲にわたり得るという事実、この戦略には変異細胞系を使用することが必要であるという事実、及び選択薬としてのMTXの継続的存在が高いコピー数の細胞系を不安定にし得る細胞遺伝学的不均一性を促進するという事実が含まれる。後者に関する考慮は、産生細胞系のための規制認可過程に照らして、特に望ましくない。さらに、高い産生のための遺伝子増幅過程は、退屈で時間がかかる(おそらく、最長4ないし6ヶ月間を要する。)。歴史的には、次善の代替的な産生系はCOS細胞中での大規模な一過性発現であり、これは、より迅速であるが、より労力を要する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、高レベルの組換え遺伝子発現が可能な安定した細胞系が作製される頻度を増大させる方法に対する要望が本分野において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
本明細書中に開示されている本発明は、外来性のコード化配列の組込みのための所望の標的としての宿主細胞ゲノム内での位置として、内在性ウイルス配列を活用することによって、組換えタンパク質の高レベルでの発現が可能な、安定した哺乳動物細胞系を作製するための方法を提供する。組換えタンパク質を高レベルで産生できる安定したCHO細胞系を作製する能力は、退屈な段階的増幅手法又は大規模な一過性COS形質移入の何回ものラウンドを実施しなければならないことに対する代替策を提供する。開示されている本発明はCHO細胞中で実施することができるので、研究者は、CHO細胞が無血清培地中で十分に増殖し、能率化された産生及び精製過程を容易にする規模で馴致培地を簡単に作製するという事実を活用することが可能となる。
【0008】
一態様において、本発明は、1)ゲノム内に組み込まれたRNA分子のDNAコピーを有する受け手の哺乳動物宿主細胞に、a)哺乳動物レトロウイルスGag−Pr断片をコードするDNA断片(配列番号4)と、及びb)関心対象のタンパク質をコードするDNA配列を含む発現カセットに隣接するように配置された哺乳動物レトロウイルスEnv断片をコードするDNA断片(配列番号5)とを含む組換え発現ベクターを形質移入し、これにより形質移入された受け手の宿主細胞を形成する工程;2)前記形質移入された受け手の宿主細胞を単離する工程及び3)宿主細胞の前記タンパク質産生能を決定する工程を含む、増大したタンパク質産生能を有する安定した哺乳動物細胞系を作製するための方法を提供する。RNA分子の組み込まれたDNAコピーは、レトロウイルスプロウイルス、レトロウイルス様DNA配列、レトロトランスポゾン及びレトロ転写産物であり得る。
【0009】
本発明の本態様の具体的な実施形態において、宿主細胞は、CHO細胞であり、哺乳動物レトロウイルスGag−Pr断片をコードするDNA断片は、発現カセットに対して5’に配置された配列番号4からなるポリヌクレオチド配列を含み、哺乳動物レトロウイルスEnv断片をコードするDNA断片は、発現カセットに対して3’に配置された配列された配列番号5からなるポリヌクレオチド配列を含む。別の実施形態において、宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NSOミエローマ細胞、サル腎臓COS細胞、サル腎臓線維芽細胞CV−1細胞、ヒト胚性腎臓293細胞、ヒト乳癌SKBR3細胞、ヒトジャーカットT細胞、イヌ腎臓MDCK細胞及びヒト子宮頸癌Hela細胞の群から選択することができる。
【0010】
別の実施形態において、本発明は、a)CHOレトロウイルスgagタンパク質遺伝子由来のDNA断片と、及びb)哺乳動物宿主細胞中での導入遺伝子の直接的な発現に必要とされる調節配列に作用可能に連結された発現カセットを含むDNA配列に隣接するように配置されたCHOレトロウイルスenv遺伝子由来のDNA断片とを含む、哺乳動物発現ベクターを提供する。本発明によって提供される発現ベクターは、pABMM48(配列番号3)及びpABME15(配列番号6)によって例示される。
【0011】
別の態様において、本発明は、CHOレトロウイルスGag−Pr(配列番号4)及び、CHO細胞によって有される内在性レトロウイルス配列との相同的組換えによって組み合わせることができるCHOレトロウイルスEnv断片(配列番号5)をコードするポリヌクレオチド配列を提供し、これにより、高い転写活性によって特徴付けられる宿主細胞の位置(すなわち、ホットスポット)において、発現カセットの、宿主細胞のゲノムへの組込みが容易になる。本発明の本態様の具体的な実施形態において、ポリヌクレオチド配列には、発現カセットに作用可能に連結された調節要素が含まれる。さらに具体的には、本発明は、レトロウイルスGagPr(配列番号4)と及び哺乳動物宿主細胞中での直接的な発現に必要とされる制御配列に連結された抗体をコードする発現カセットに隣接するように配置されたレトロウイルスEnvタンパク質をコードするDNA配列(配列番号5)との両者をコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は、高い転写活性によって特徴付けられる哺乳動物宿主細胞のゲノムのある部位中に組み込まれた本発明の発現ベクターを含む哺乳動物宿主細胞を提供する。本明細書に示されているように、高い転写活性によって特徴付けられる宿主細胞ゲノム内の一部位に発現ベクターを誘導する(又は標的化させる)能力によって、発現カセットに隣接する哺乳動物レトロウイルス配列由来のDNA断片を欠如する発現ベクターを形質移入された宿主細胞の産生能に比べて増大したタンパク質産生能によって特徴付けられる受け手の宿主細胞が作製される。
【0013】
本明細書中に開示され、権利請求されている方法、ベクター及び形質移入された宿主細胞は、増大した組換えタンパク質産生能を有する安定した哺乳動物(例えば、CHO細胞)産生細胞系の作製に有用である。適切な産生細胞系は、1)そのゲノム内にRNA分子の組み込まれたDNAコピーを有する受け手の哺乳動物宿主細胞に、a)哺乳動物レトロウイルスGag−PrをコードするDNA断片と、及びb)組換え抗体等(これに限定されるわけではない。)の関心対象の生物製剤タンパク質をコードするDNA配列を含む発現カセットに隣接するように配置された哺乳動物レトロウイルスEnv断片をコードするDNA断片とを含む組換え発現ベクターを形質移入し、これにより、形質移入された受け手の宿主細胞を形成することによって調製可能である。本発明の本態様の具体的な実施形態において、哺乳動物宿主細胞は、CHO細胞であり、第一のDNA断片は、発現カセットに対して5’に配置された配列番号4に記載されているヌクレオチド配列からなるCHOレトロウイルスGag−Prポリヌクレオチド配列をコードし、第二のDNA断片は、発現カセットに対して3’に配置された配列番号5に記載されているヌクレオチド配列からなるCHOレトロウイルスEnv断片ポリヌクレオチドをコードする。
【0014】
本発明はまた、1)ゲノム内に組み込まれたRMA分子のDNAコピーを有する受け手の哺乳動物宿主細胞に、a)哺乳動物レトロウイルスGag−PrをコードするDNA断片(配列番号4)と、及びb)組換えタンパク質をコードするDNA配列を含む発現カセットに隣接するように配置された哺乳動物レトロウイルスEnv断片をコードするDNA断片(配列番号5)とを含む組換え発現ベクターを形質移入し、これにより形質移入された受け手の宿主細胞を形成する工程;2)形質移入された受け手の宿主細胞を単離する工程;3)増大したタンパク質産生に適した条件下で、工程2)の単離された宿主細胞を培養する工程を含む、安定した哺乳動物産生細胞系において組換えタンパク質の高レベルを産生するための方法も提供する。
【0015】
具体的な実施形態において、本発明は、抗体の高レベルを作製するための方法を提供する。遺伝子増幅工程を必要とせずに、本発明を使用して作製される安定した細胞系は、1日あたり細胞1個あたり10pg以上、好ましくは20pg、より好ましくは30pgの産生レベルで抗体を産生する能力を有する。その産生レベルで、最適化された細胞培養条件で、抗体のL当りg単位が産生される。
【0016】
本発明は、さらに、そのゲノム中に内在性レトロウイルス配列を有する受け手の哺乳動物細胞に、相同的組換えによって前記内在性レトロウイルス配列と組み合わせることができる少なくとも1つの組換えポリヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド配列に作用可能に連結された発現カセットを含む発現ベクターを形質移入することを含む、哺乳動物細胞の形質移入の効率を調節するための方法を提供する。本発明の本態様の具体的な実施形態において、方法は、関心対象の生物製剤タンパク質の高レベルを産生することができる形質移入された受け手の宿主細胞の頻度を増大させる手段を提供する。
【0017】
発明の詳細な説明
本明細書及び特許請求の範囲において使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈に別段の明確な記載がなければ複数形の参照を含む。
【0018】
本明細書で使用される「産生細胞系」という語は、組換えDNA技術を使用して構築する発現ベクターで形質転換又は形質移入されており、組換えタンパク質をコードする配列を含有する宿主細胞を指す。形質転換とは、発現ベクター等の核酸の付加によって受け手の宿主細胞を修飾することを指す。形質移入とは、化学的手段又は電気穿孔法によって、受け手の宿主細胞中に核酸を導入することを指す。発現されたタンパク質は、好ましくは、発現ベクターの設計(例えば、分泌リーダーの包含)に応じて、培養上清中に分泌される。
【0019】
本明細書で使用される「発現」という語は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写される過程及び/又は転写されたmRNA(「転写産物」ともいう。)が、その後、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に翻訳される過程を指す。転写産物及びコードされたポリペプチドは、遺伝子産物と総称される。ポリヌクレオチドが、ゲノムDNA由来である場合、発現には、真核細胞中でのmRNAのスプライシングが含まれ得る。
【0020】
相同的組換えは、同一又は非常に類似した(すなわち、相同的な)配列の伸展(塩基対の数百ないし数千)内でDNA分子の破壊及び再結合を通じて生じる遺伝的再編成の一種である。DNAベクターのゲノムの一領域中への相同的組換えは、ほぼ全ての細胞種で実施可能であるが、低頻度で生じる。相同的組換えの頻度の増大は、(1)ベクターDNAの直鎖化;(2)組換えに対する配列相同性の最大化;(3)形質移入されたDNAの3’ヒドロキシルのジデオキシヌクレオチドによる修飾によって達成可能である。
【0021】
本発明のポリヌクレオチド又は核酸は、RNAの形態又はDNAの形態であり得、前記DNAは、cDNA、ゲノムDNA又は合成DNAを含む。「ポリヌクレオチド」、「核酸」、「ヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」という語は、互換的に使用される。本用語は、あらゆる長さのヌクレオチドの重合体形態を指し、デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチドの何れか又はこれらの類縁体を指す。ポリヌクレオチドは、あらゆる3次元構造を有し得、公知又は非公知の何れかの機能を発揮し得る。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的な例である。遺伝子又は遺伝子断片のコード領域又は非コード領域、連鎖解析から規定される座位、エクソン、イントロン、伝令RNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐鎖ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、何れかの配列の単離されたDNA、何れかの配列の単離されたRNA、核酸プローブ及びプライマー。
【0022】
「ベクター」とは、好ましくは自己複製する、挿入された核酸分子を宿主細胞中に及び/又は宿主細胞間に転移させる核酸分子である。「発現ベクター」とは、適切な宿主細胞中に導入された場合、転写され、ポリペプチドへと翻訳されることができるポリヌクレオチド配列である。「発現系」は通常、所望の発現産物を生じるように機能することができる発現ベクターを含む適切な宿主細胞を言外に含む。
【0023】
「遺伝子」、「遺伝子断片」及び「コード化配列」という語は、本明細書において互換的に使用される。これらの語は、転写及び翻訳された後に特定のタンパク質をコードできる少なくとも1つの翻訳領域を含有するポリヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチドが、コード化領域全体又はそのセグメントを包含し得る少なくとも1つの翻訳領域を含有する限り、遺伝子又は遺伝子断片は、ゲノム又はcDNAであり得る。
【0024】
本明細書で使用される「異種性の」という語は、比較されている実体の残りとは遺伝子型として異なる実体に由来することを意味する。例えば、その元のコード化配列から取り出され、元の配列以外のコード化配列に作用可能に連結されたプロモーターは、異種性のプロモーターである。ポリヌクレオチド、ポリペプチドに適用される「異種性の」という語は、ポリヌクレオチド又はポリペプチドが、比較されている実体の残りのものとは遺伝子型が異なる実態に由来することを意味する。例えば、異種性のポリヌクレオチド又は抗原は、異なる種起源、異なる細胞種及び異なる個体の細胞の同一種に由来し得る。
【0025】
ポリヌクレオチドに適用される「組換え」という語は、ポリヌクレオチドが、天然に見出されるポリヌクレオチドとは異なるコンストラクトをもたらすクローニング工程、制限工程及び/又は連結工程の多様な組み合わせの産物であることを意味する。
【0026】
本明細書で使用される「作用可能に連結された」又は「作用上連結された」という語は、そのように記載されている成分が、それらの所期の様式で機能できるような関係にあるような様式で並置されているDNA配列を表すために使用される。例えば、プロモーターは、配列の転写を調節する場合、コード化配列に作用可能に連結されており、又はリボソーム結合部位は、翻訳可能なように配置される場合、コード化配列に作用可能に連結される。シグナル配列のためのDNA(分泌リーダー)は、ポリペプチドの分泌に関与する前駆体として発現される場合、ポリペプチドに関するDNAに作用可能に連結されている。一般に、作用可能に連結されたとは、連続的であることを意味する。
【0027】
本明細書で使用される「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という語は、本明細書において互換的に使用され、あらゆる長さのアミノ酸の重合体を指す。重合体は、線形、環状又は分岐鎖であり得、修飾されたアミノ酸を含み得、非アミノ酸によって中断され得る。前記語は、例えば、硫酸化、グリコシル化、脂質付加、アセチル化、リン酸化、ヨウ素化、メチル化、酸化、タンパク質分解処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、転移RNAにより仲介されるタンパク質へのアミノ酸の付加(アルギニル化など)、ユビキチン化又は他の操作(標識成分の連結など)等を介して修飾されたアミノ酸重合体も包含する。本明細書で使用される「アミノ酸」という語は、グリシン及びD型光学異性体又はL型光学異性体の両者及びアミノ酸類縁体を含む、天然及び/又は非天然アミノ酸又は合成アミノ酸を指す。
【0028】
本明細書で使用される「抗体」という語は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性のある部分を指し、すなわち、抗原を特異的に結合する(「抗原と免疫反応する」)抗原結合部位を含有する分子を指す。構造上、最も単純な天然の抗体(例えば、IgG)は、4つのポリペプチド鎖、すなわち、ジスルフィド結合によって相互接続された2つの重鎖(H鎖)及び2つの軽鎖(L鎖)を含む。免疫グロブリンは、IgD、IgG、IgA、IgM及びIgE等の分子の幾つもの種類を含む分子の大きなファミリーを表す。「免疫グロブリン分子」という語には、例えば、ハイブリッド抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体及びこれらの断片が含まれる。抗体断片の非限定的な例には、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなるFab断片;(4)VH及びCH1ドメインからなるFd断片;(5)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFv断片;(6)蝶番領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片であるF(ab’)2断片、(7)より短いリンカーを有する2つの同一の単一鎖Fvからなる二重特異性抗体;(8)より合わせコイルドメインの一対の相互作用によって安定化されるFvからなるccFv抗体が含まれる。
【0029】
非ヒト(例えば、齧歯類又は霊長類)抗体に対して使用される「ヒト化」という語は、ハイブリッド免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小の配列を含有するこれらの断片である。多くの場合、ヒト化抗体は、受け手の相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ又は霊長類等の非ヒト種のCDR由来の残基(ドナー抗体)によって置換されているヒト免疫グロブリン(受け手抗体)である。幾つかの事例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。
【0030】
導入遺伝子組込み部位は、組換え遺伝子の転写速度に対して(位置効果として本分野で呼ばれる。)顕著な効果を及ぼすことが知られている。無作為な組込み及び遺伝子発現停止に関する負の効果を克服するために、幾つもの戦略が使用されてきた。例えば、ある研究者は、導入遺伝子をインスレーター配列、境界要素、又は足場/マトリックス付着領域等の保護的シス調節要素と隣接することによって、無作為な組込みと関連した望ましくない結果を克服するという成功を報告している(Bode J et al,Crit Rev Eukaryot Gene Expr.6(2−3):115−38.1996)。これらの要素は、高い転写活性を得るために良いと信じられている人工的なゲノム環境を提供する目的で、発現ベクター中に含まれる。それゆえ、これらの要素は、細胞のゲノムにおける位置効果を克服し、位置に比較的関係なく導入遺伝子を発現させる。これらのアプローチは、組換え遺伝子の高レベルの発現を可能にする形質転換体の頻度を増大させる上で程度の異なる成功を報告してきた(Phi−Van L et al,Mol Cell Biol,10(5):2302−7, 1990;Scippel AE et al,米国特許第5731178号、1998年3月24日;Girod PA et al,Biotechnol Bioeng.5;91(1):1−11, 2005;Mermod N et al,米国特許第7129062号、2006年10月31日)。
【0031】
位置効果を回避する別の戦略は、宿主細胞のゲノムの転写活性領域へ導入遺伝子の組み込みを標的化するための遺伝子標的化戦略を設計及び実施することである。転写活性のある領域は通常、組換えタンパク質の高レベルの発現が可能な細胞から同定される。これらの高レベルの産生細胞系は、形質移入された細胞の多量を選別することから単離される。例の1つは、組換えタンパク質の高レベルの発現が可能な細胞系を選別するための翻訳上損傷を受けた優性の選択可能なマーカーを含有するDNAベクター(Neospla)を使用することである(米国特許第5648267号)。Neosplaベクターにおいて、選択マーカーであるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(Neo)遺伝子は、2つのエクソンに人工的に分岐されている。さらに、米国特許第5830698号は、相同的組換えによる部位特異的組込みのための3つのneoエクソンを含有する2つのベクター(作製プラスミド及び標的プラスミド)の使用を記載した。1つのneoエクソンを含有する作製プラスミドの機能は、宿主細胞中に標的部位を作製することである。2つのneoエクソンを含有する標的ベクターによる相同的組換えの後、機能的neo遺伝子を有する高レベルの産生細胞は、他の低レベルの細胞から選別される。このアプローチの後、1個あたり1日あたり0.3ないし4.5pgの抗体生産性を有する細胞系を単離した。
【0032】
本明細書中に開示されている本発明は、可能なホットスポットを示すことが知られており、従って、相同的組換えによる導入遺伝子の組込みのための標的として外来性コード化配列の高レベルの発現を誘導する可能性があると推定される宿主細胞ゲノム内で、あらかじめ存在する内在性DNA配列を標的化することを基礎としている。内在性ホットスポット配列に対して相同的であるように設計されたヌクレオチド配列と隣接するコード化配列を含む導入遺伝子の導入は、相同的組換えによる外来性コード化配列の組込みを促進する。この戦略は、導入遺伝子の高レベルの発現及びその結果得られる関心対象の生物製剤タンパク質の産生によって特徴付けられる安定した細胞系の産生のために、哺乳動物宿主細胞中に存在する内在性レトロウイルス配列を利用する新規方法を提供する。
【0033】
内在性レトロウイルス及びレトロウイルス様配列は、ほぼ全ての哺乳動物ゲノム中に存在する。ヒトゲノムの配列決定による最近の知見は、ヒト及びマウスのゲノムの約8ないし10%が、(構造タンパク質をコードする)gag、pol(ウイルス酵素)及びenv(表面外被タンパク質)を含む少なくとも3つの遺伝子並びに末端反復配列(LTR)を含有する感染性レトロウイルスと類似した配列からなると思われることを明らかにする(Griffiths DJ,Genome Biology,2:1017.1−1017.5, 2001;Nature 420:520−562, 2002)。蓄積されたデータは、レトロウイルスの組込みが、ゲノム中で完全に無作為というわけではないことを示唆している。HIV感染の場合、最新の研究は、レトロウイルスの組込みが、活性遺伝子を好むことを示した。報告された全ての組込み部位に関する分析は、92.5%の組込み部位が、マトリックス付着領域(MAR)と隣接していることを示した(Biochem Biophys Res Commun.2004, 322:672−7)。Bode Jら(Biochemistry,1996, 35:2239−52)は、レトロウイルスが、足場又はマトリックス付着領域(S/MAR)を選択的に標的にすることを観察している。
【0034】
レトロウイルスは、そのRNAゲノムを、宿主染色体中に組込まれるおよび安定した遺伝要素として作用するDNAへ逆転写する能力に関して全体的な構造的類似性(5’−LTR−gag−pol−env−LTR翻訳領域)の高い程度によって特徴付けられる。内在性レトロウイルスは、多くの種において存在することが知られており、例えば、公表された研究は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が、転写活性のある全長のC型プロウイルス配列を含有することを示している(Lie YS,et al,J Virol.68(12):7840−9. 1994)。CHO細胞は、C型レトロウイルス配列の細胞1個あたり約100ないし300コピーの間を有すると推測されている(Dinowitz et al,Dev Biol Stand.76:201−7. 1992)。組換えの頻度が低い(1/100ないし1/1000)ので、複数の組込みを有する可能性は低い。
【0035】
多くの齧歯類細胞系とは異なり、CHO細胞は、感染性レトロウイルスの検出可能なレベルを生じない。しかしながら、C型レトロウイルス様粒子が、電子顕微鏡によってCHO細胞中で検出され、これは、レトロウイルス感染とは異なり、内在性起点上に関係するとされた。基礎を成す機序は完全には理解されていないが、レトロウイルスのプロウイルスが好ましい染色体部位内に選択的に組み込む傾向があることは明白である。特に、レトロウイルスの組込みの過程が、転写活性のある遺伝子を好むことが観察されている。
【0036】
本願中に開示されている本発明は、発現ベクターの標的化された(又は誘導された)組込みのためのホットスポットとして、これらのレトロウイルス配列を利用する。より具体的には、本発明は、安定した哺乳動物産生細胞系の作製のための標的としてあらかじめ存在する又は内在性のウイルス配列を利用する。例えば、CHOレトロウイルス部位は、関心対象の生物製剤タンパク質をコードする発現カセットを含む導入遺伝子の誘導された組込みのための標的とすることができる。本明細書で示されるように、内在性CHOレトロウイルス配列と相同的組換えの可能なgag及びEng遺伝子断片を有する隣接する抗体遺伝子は、レトロウイルス標的化配列を含まないベクターで形質移入された宿主細胞から産生される抗体のレベルと比較して、10倍以上高いIgG1タンパク質を発現する安定した細胞系が作製される。
【0037】
内在性レトロウイルスのプロウイルス配列による相同的組換えを誘導するように設計されたDNA配列を含む発現ベクターを利用する詳細な記載の実施例8ないし10に記載されている形質移入実験の結果は、本発明の発現ベクターが、レトロウイルスDNA配列の非存在下での同一の調節要素及び発現カセットを全て含むベクターで作製された形質移入体よりも高レベルの抗体産生が可能であるより多くの形質移入体(受け手により形質移入された宿主細胞)を生じることを確立している。
【0038】
本発明の哺乳動物発現系註で発現され得るポリペプチドの例には、インターロイキン−2、インターフェロン、ヒトインスリン、ヒト成長ホルモン、エリスロポエチン、GM−CSF、G−CSF、卵胞刺激ホルモンα、組織プラスミノーゲン活性化因子、血小板細胞由来増殖因子、腫瘍壊死因子、TNF受容体、グルコセレブロシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ等の、(ヒト化抗体又はその断片を含む)抗体、ヒトサイトカイン、増殖因子、増殖因子受容体、酵素並びにB型肝炎抗原、ジフテリア毒素タンパク質等の組換えワクチンを含む(但し、これらには限定されない。)、関心対象の全ての生物製剤タンパク質が含まれ得る。
【0039】
関心対象のポリペプチドは、本明細書中に開示されているベクターコンストラクトによる哺乳動物宿主細胞の形質転換又は形質移入など、本明細書中に開示されている方法の使用を通じた何れかの手段によって作製することが可能である。本発明の宿主細胞は、培養チューブ、フラスコ、回転瓶、振盪フラスコ又は発酵槽中での増殖など(但し、これらに限定されるわけではない。)、本分野で公知のあらゆる方法又は想定されるあらゆる方法によって増殖又は培養され得る。ポリペプチド産物の単離及び/又は精製は、本開示の実施例7に記載されている方法に従って、又は本分野で公知の何れかの手段によって実施可能である。
【0040】
特定の理論に拘泥することを望むものではないが、高産生細胞系のより高い頻度が、発現ベクターによって利用される組込み部位の性質及び位置に関与すると考えられている。より具体的には、本発明の発現ベクターは、導入遺伝子を転写ホットスポットへ誘導すると信じられている。本効果は、活発に転写された遺伝子を好むことが知られているレトロウイルスの組込みの過程の結果であると考えられている。発現カセットを哺乳動物宿主細胞のゲノムの転写ホットスポット中に選択的に導入できる発現ベクターを設計することができることによって、安定した産生細胞系の作製及び生物製剤タンパク質の産生に適した製造過程の開発が容易となる。
【0041】
産生細胞系を作製するのに使用するように設計された発現ベクターの要素、及び適切な宿主細胞中に発現ベクターを導入するように選択された形質転換プロトコールは、関心対象のタンパク質を作製するために使用されている哺乳動物細胞培養系の性質に依存する。当業者は、多くの異なるプロトコール及び宿主細胞を承知しており、彼らの選択した細胞系の要求に基づいて、所望のタンパク質の産生のための適切な系を選択することができる。
【0042】
最新のデータは、CHO細胞の細胞外レトロウイルス様粒子が、チャイニーズハムスター生殖系列中に存在する内在性プロウイルス要素の産物であることを示唆した(Anderson KP et al,Dev.Biol.Stand.75:123−132, 1991)。多くの内在性レトロウイルスは、初期の接合子分裂中に、生殖細胞中で高度に転写され、その結果、プロウイルスの組込みのより多くのコピーを生じる。内在性レトロウイルスの有害な結果に対抗するために、転写を遮断するためのプロモーターのDNAメチル化、及びコード化配列を変化させるためのDNA又はRNA編集を含む、数多くの細胞防御戦略が、ウイルス増幅を相殺にすることに関与してきた。因子の状況として、本発明のためのCHOゲノムDNAから増幅されたレトロウイルスgag及びenv断片は、コード化領域の内部に終止コドンを有する。それゆえ、ウイルス5’末端反復配列(LTR)中の内在性ウイルスプロモーターは、LTR配列の下流に組み込まれる場合、導入遺伝子発現のための活性を有するプロモーターでない場合があり得る。エンハンサー、プロモーター、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列等の適切な翻訳調節要素が、導入遺伝子に作用可能に連結されるために必要とされる。
【0043】
内在性レトロウイルスゲノムによる相同的組換えを達成するために、ウイルス配列に対する相同性を有する配列の2つが、導入遺伝子に隣接するのに必要とされる。哺乳動物細胞中での効率的な組換えに関して報告されている最小の相同性は、200bpである。相同性の長さがより長ければ、効率がより高くなり得ると一般的に考えられている。好ましくは、DNA相同性断片の1kbないし5kbが、組換えに使用され得る。多くのレトロウイルスは、8ないし11kbの大きさ内の遺伝子構造:5’LTR−gag−pol−env−3’LTRを共有している。下流の精製にとって有害な完全なウイルス粒子を生じる完全なウイルスゲノムを除き、原則として、数百ないし数千bpの長さを有するウイルスゲノムの2つの末端に由来するあらゆる2つの断片を相同的組換えに使用することができる。隣接しているウイルス配列は、完全に合成可能であり、又は本発明において実施されるように、宿主ゲノムから増幅可能である。
【0044】
真核生物cDNA配列の最適な発現は、発現カセットに隣接する5’及び3’非翻訳配列並びに翻訳開始コドンの周りのヌクレオチド構成などの幾つもの構造的特徴を注意深く検討することを必要とする。真核細胞では、ほとんどのmRNAの翻訳は、「走査モデル」に従って開始される。しかしながら、翻訳開始の走査モデルは、内部リボソーム進入部位(IRES)として知られる内部部位において、キャップ非依存的に翻訳される多くのウイルスの及び幾つかの細胞のメッセージに対しては当てはまらない。細胞のトランス作動性タンパク質が、IRES要素に結合し、リボソームの結合及び翻訳の開始を容易にすると考えられている。本発明のベクター等の頑強な多シストロン性ベクターは、典型的には、IRES要素を利用して、内部リボソームが、第二の及びその後の転写単位に結合するのを容易にする。
【0045】
本発明はまた、適切な宿主細胞のゲノム内のホットスポット中に外来性コード化配列(すなわち遺伝子)を組み込むように誘導することができ、これにより生物製剤タンパク質の製造において使用するのに適したタンパク質産生の高いレベルを可能にする産生細胞系を作製できる相同的組換えベクターも提供する。
【0046】
一般的にいえば、組換え発現ベクターには、哺乳動物及び/又はウイルスの遺伝子に由来する適切な翻訳調節要素に作用可能に連結されたタンパク質配列をコードするcDNA由来の又は合成のポリヌクレオチド(例えば、DNA)配列が含まれる。このような調節要素には、典型的には、転写プロモーター、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに、転写及び翻訳の終止を調節する配列が含まれる。哺乳動物発現ベクターはまた、複製起点、発現されるべき遺伝子(例えば、コード化配列)に連結された適切なプロモーター及びエンハンサー、ポリアデニル化部位、スプライスドナー及びアクセプター部位等の他の5’又は3’隣接配列、並びに転写終止配列等の非転写要素も含み得る。場合によって、宿主中で複製する能力を付与する複製起点、及び形質転換の認識を容易にするための選択可能な遺伝子も含まれ得る。
【0047】
哺乳動物細胞を形質転換する際に使用するために設計された発現ベクター中の転写及び翻訳調節配列が、ウイルス源から取得され得ることは周知である。例えば、共通して使用されるプロモーター及びエンハンサーは、サルウイルス40(SV40)、ヒトサイトメガロウイルス、ポリオーマ又はアデノウイルス2由来である。発現を駆動するために、ウイルスゲノムプロモーター、調節配列及び/又はシグナル配列を利用することであるが、ただし、このような調節配列は、宿主細胞と適合性である。外来性(すなわち、異種性)DNA配列の発現に必要とされる他の遺伝的要素を提供するために、SV40ウイルスゲノムに由来するDNA配列、例えばSV40開始点、初期及び後期プロモーター、エンハンサー、スプライシング部位及びアデニル化部位を使用し得る。
【0048】
慣用のレトロウイルスベクターは、(1)ウイルス5’末端反復配列(LTR)中のプロモーター;(2)ウイルス粒子中へのベクターRNAの直接的な組込みに対するウイルス被包シグナル(ψ又はE);(3)第一鎖及び第二鎖DNA合成の開始のための転移RNA結合部位(PBS)及びポリプリン路(PPT)並びにテンプレート間でのDNA合成の転移に必要とされるウイルスRNAの両末端にある末端反復配列(LTR)を含む、逆転写に必要とされるシグナル;並びに(4)組込みに必要とされるウイルスLTRの末端に配置される短い部分的に逆転した反復を典型的に含む多くのシス作動性ウイルス要素を含まなければならない。対照的に、本発明の発現ベクターは、導入遺伝子の末端にある上述のウイルス要素の幾つかを含み得るが、上に列挙されている要素全てを含み得るわけではなく、これに基づくと、定義上、ウイルスベクターではない。さらに、本発明における発現ベクターRNAは、細胞感染のために、ウイルス粒子中に被包されない。
【0049】
ほぼ全ての哺乳動物細胞中に内在性レトロウイルスが存在するので、産生宿主細胞系を作製するために多様な哺乳動物細胞培養系を使用することができる。適切な宿主細胞の例には、内在性レトロウイルス配列、レトロウイルス様DNA配列、レトロトランスポゾン及びレトロ転写産物を有する細胞系、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NSOミエローマ細胞、サル腎臓COS細胞、サル腎臓線維芽細胞CV−1細胞、ヒト胚性腎臓293細胞、ヒト乳癌SKBR3細胞、ヒトジャーカットT細胞、イヌ腎臓MDCK細胞、ヒト子宮頸癌Hela細胞が含まれる。異なる種に由来する細胞系でのレトロウイルスの変動のため、発現ベクターに対するレトロウイルス配列は異なり得る。好ましくは、導入遺伝子に隣接する配列は、形質移入のための個々の細胞系から増幅され、又は同一細胞系から単離されたウイルス配列から合成される。
【0050】
本明細書で提供される例は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系CHO−DG44が、本発明の方法において使用するのに適していることを確立している。グリシン、チミジン及びヒポキサンチンに関して栄養要求性であるDHFRCHO細胞は、一般に使用されている宿主細胞であり、増幅可能な優性マーカーとしてDHFRcDNAを使用して、DHFR表現型に形質転換可能である。本発明において、DHFRの選択可能なマーカーは発現ベクター中に構築され、必要であれば、遺伝子増幅のために使用することができる。一般的にいえば、同一のゲノム背景を有するCHO−k1、CHO−S、GS−CHO等の他のCHO細胞系も、本発明の実施例に記載されているベクターを使用する組換えタンパク質発現に適している。
【0051】
形質移入という語は、宿主細胞中に外来DNAを導入するための本分野で認められた多様なプロトコールを指す(Kaufman,R.J.Meth.Enzymology 185:537(1988)参照)。形質変換プロトコールの選択は、宿主細胞並びに導入遺伝子及びタンパク質産物の性質に依存する。適切なプロトコールの基礎的な要件は、まず、宿主細胞中に関心対象のタンパク質をコードする外来性DNAを導入すること、並びに安定した発現可能な様式で異種性DNAを組み込んだ宿主細胞を単離及び選択できることである。
【0052】
宿主細胞中に外来性DNAを導入するために一般的に使用される方法には、リン酸カルシウム沈殿又はDEAE−デキストラン仲介性形質移入が含まれる。あるいは、誘導されたDNAを宿主細胞の細胞質中に導入するために電気穿孔法を使用することができ、又は、脂質核酸複合体が培養細胞に適用される場合には、宿主細胞中への核酸の取り込みを容易にする脂質核酸複合体若しくはリポソームを形成できる試薬(例えば、リポフェクチン(登録商標)試薬若しくはリポフェクタミン(登録商標)試薬、Gibco BRL、Gaithersburg,MD)を使用することができる。
【0053】
関心対象の遺伝子を増幅する方法も望ましく、典型的には、選択可能な表現型を付与する選択遺伝子の使用を包含する。一般的にいえば、「選択遺伝子」とは、検出可能なタンパク質として遺伝子を発現する細胞において表現型を付与する遺伝子である。選択遺伝子の一般的に使用される例には、抗生物質抵抗性遺伝子が含まれるが、これに限定されるわけではない。例えば、薬物(又は選択試薬)が細胞培養物に外来的に添加される場合、有用な優性選択可能なマーカーには、ネオマイシン、カナマイシン又はハイグロマイシンに対する耐性を付与する微生物由来の抗生物質抵抗性遺伝子が含まれる。
【0054】
遺伝子増幅の過程は、関心対象の生物製剤タンパク質をコードする発現カセットを含む導入遺伝子のコピー数を増大するために日常的に使用される。例えば、(DFR)チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系中でジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子増幅系が使用される場合、形質移入されたCHO細胞は、毒性薬物(すなわち、MTX)を含有する培地中で培養される。この薬物は、コードされたマーカー遺伝子によって発現される酵素を阻害する。選択は、MTXの存在下では、細胞のほとんどが生き残らないが、数個の細胞、特に形質移入された選択可能なマーカー遺伝子のより多くの数を含有する細胞が生き残るという事実を基礎としている。目的の遺伝子のコピー数は、マーカー遺伝子の数と相関しており、マーカー遺伝子の数と共に増大する。それゆえ、MTX濃度を増大する過程は、高い生産性の細胞系に関して同時に選択する。
【0055】
段階的な増幅は、通常の方法から得られた典型的な細胞である、1日細胞1個あたり1pgを下回る数の低レベル産生細胞にとって特に重要である。高レベルの生産性を達成するために、細胞中の導入遺伝子の数は、30ないし50コピーまで増幅される必要があり、前記細胞の本来の生産性に応じて、複数の工程によるMTX濃度は高い(すなわち、1mM)。1日あたり細胞1個あたり約3pgの生産性を有するneosplaベクターから得られた比較的高レベルの産生細胞でさえ、治療用抗体を産生するために、MTXの低濃度(50nM)で細胞1個あたり約10コピーの導入遺伝子まで増幅される必要がある(米国特許第5830698号)。本発明の発現ベクターは、ネオマイシン及びDHFRという2つの2つの選択可能なマーカーを有する。培地中のMTXにより、導入遺伝子は、必要であれば増幅可能である。しかしながら、レトロウイルス隣接配列を有するベクターから単離された細胞の本来の生産性レベルが高いので、段階的な増幅過程は、ほとんどの場合必要ではないであろう。例えば、実施例10において単離された細胞系1D1は、最適化されていない条件(通常の振盪フラスコ)下で、抗体の約20pg/個/日の生産性を有する。治療用組換えタンパク質の産生に十分であるほどより高い最適化された培養条件を用いて、発酵槽中で、さらにずっと高いpg/個/日の数(すなわち30ないし40pg/個/日)に到達することが可能である。第一列中に示される米国特許において報告された方法を使用して報告された生産性に対する、本発明の方法を用いた細胞系の生産性の比較を、表1に提供する。
【0056】
【表1】

【0057】
本開示と共に提供される例及び図は、安定した哺乳動物細胞系を作製するための本発明の組成物及び方法を使用して得られる結果を示す。以下の実施例は、本発明の実施形態を例示することを意図したものであり、いかなる意味においても、本発明の範囲を限定すべきではない。本開示を読むことによって、多くの修飾及び変形が当業者に自明である。このような修飾及び変形は、本発明の一部を構成する。
【0058】
別段の記載がなければ、本発明の実施は、当業者の技術常識に属する細胞生物学、分子生物学、細胞培養などを使用する。本明細書で引用される全ての公報及び特許出願は、本発明が冠する技術分野における当業者の技術水準を示しており、その全ての内容が全体として参照により本明細書によって組み入れられる。
【実施例1】
【0059】
哺乳動物細胞におけるIgG発現のためのpABMM1ベクターの構築
以下の3工程によって、バックボーンベクターpcDNA6/His−5Aから、pABMM1(配列番号1)を作製した。第一に、合成ポリA、ベクターpcDNA3からPCRによって増幅されるSV40プロモーター、CHO−K細胞のRNAからRT−PCRによって増幅されるDHFR cDNA、合成SP163(VEGFの5’UTR由来の内部リボソーム進入部位)及びベクターpcDNA3からPCRによって増幅されるネオマイシンcDNAである5個のDNA断片から、重複するPCRを通じて、2つの選択剤DHFR/ネオマイシンのための発現カセットをコードするDNA断片を構築した。ポリA−SV40プロモーター−DHFR−SP163−ネオマイシンのDNA断片をベクターpcDNA6/His−5A中に、NheI及びDraIII制限部位によってクローン化した。
【0060】
第二に、ヒト抗体シグナルペプチド、部分的Jkセグメント及びヒトk定常部をコードするDNA断片を、上述の修飾されたpcDNA6ベクター中のpCMVプロモーターの下流に挿入した。シグナル配列が、サイレント変異によってNheI部位を有するヒト抗体VK VI−A14から合成され、Ck定常部が、ヒト脾臓mRNA(Clonetech)からRT−PCRによって増幅されるPCR構築から、このDNA断片を作製した。
【0061】
第三の工程は、SalI部位によってDHFR/ネオマイシン選択マーカーの下流に、抗体重鎖発現カセットを挿入することであった。CMVプロモーター、重鎖シグナル配列、部分的JHセグメント、及びヒトIgG1のCH1ないしCH3を含むこの重鎖断片を、PCR構築を通じて作製した。アミノ酸LKをコードするAflII部位配列を有するヒト抗体VH3_3−23(DP47)から、重鎖シグナル配列を合成した。ヒトIgG1抗体CH1ないしCH3に関するcDNAを、ヒト脾臓mRNAからRT−PCRによって増幅した。
【実施例2】
【0062】
哺乳動物細胞におけるIgG発現のためのpABMM72ベクターの構築
pABMM72(配列番号2)は、pABMM1由来であった。pABMM1ベクター中のDHFR/ネオマイシンのためのSV40プロモーターを、BamHI/NcoI部位における内部リボソーム進入配列SP163によって置換すると、抗体軽鎖、DHFR、及びpABMM72ベクター中の単一CMVプロモーターから駆動されるネオマイシンに関する1つの転写物を得た。さらに、抗VEGF抗体重鎖及び軽鎖可変部遺伝子VH及びVkを、NheI/BsiWI部位及びAflII/XhoI部位によってそれぞれ、このベクター中にクローン化した。
【実施例3】
【0063】
哺乳動物細胞におけるIgG発現のためのpABMM48ベクターの構築
以下に記載されるとおり、pABMM48(配列番号3)をpABMM1ベクターから構築した。第一に、抗体(抗VEGF抗体)重鎖及び軽鎖可変部遺伝子VH及びVkを、NheI/BsiWI部位及びAflII/XhoI部位によってそれぞれ、このベクター中にクローン化した。第二に、レトロウイルスGag−Pr遺伝子断片に関するDNA断片1540bpを、軽鎖のCMVプロモーターの上流のBglII部位中に挿入した。レトロウイルスGag−Pr DNA断片(配列番号4)を、PCRによって、CHO−DG44細胞から増幅した。前記DNA断片には、切断されたgag−prタンパク質(アミノ酸30ないし381、及び383ないし545、その間に終止コドンを有する。)をコードする2つの翻訳領域があり、マウス白血病ウイルスgag−polポリタンパク質(全長1736個のアミノ酸)と61%(317/518)同一である。第三に、レトロウイルスEnv遺伝子に関するDNA断片1462bp(配列番号5)を、PCRによってCHO−DG44細胞から増幅し、重鎖発現カセットの下流のSalI部位中に挿入した。Env断片には、2つの切断型被包タンパク質(アミノ酸72ないし305、及び339ないし492)をコードする2つの翻訳領域があり、マウス白血病ウイルスgPr80被包タンパク質(全長652個のアミノ酸)と58%(118/202)同一であった。
【実施例4】
【0064】
哺乳動物細胞におけるIgG発現のためのpABME15ベクターの構築
pABME15ベクターは、pABMM79ベクター(配列番号6)由来であった。1561bpで1個のBglII部位を、7628bpで1個のSalI部位を除去し、3029bpで1個のNotI部位を、7500bpで1個のAscI部位を挿入することによって、pABMM48からベクターpABMM79を作製した。この工程は、発現ベクター中の各機能的セグメントに関して独特の制限部位を導入することである。ネオマイシン発現に抗体軽鎖カセットを付着させるため、まず、pABMM79由来のXbaI−XhoI断片を、pBluescript SK(+)ベクター中にクローン化し、次に、この修飾されたpBluescript SK(+)ベクター由来のNotI−MluI断片を使用して、pABMM79中の相当する断片を置換した。本工程は、新たなベクター中にpCMV−L鎖−SP163−ネオマイシン−SV40ポリAの発現カセットを生じた。さらに、SP163−DHFRに関するDNA断片を、AscI部位によって抗体重鎖の下流に挿入した。本工程によって、pABME15ベクター(配列番号7)中に、pCMV−重鎖−SP163−DHFR−合成ポリAのカセットが作製された。抗体軽鎖発現に対する選択マーカーネオマイシン、抗体重鎖発現に対するDHFRの付着は、重鎖及び軽鎖の両者の発現を確実にし、DNA再構成から抗体の何れかの鎖を損失する可能性を防止する。
【実施例5】
【0065】
CHO−DG44の培養及び形質移入
90%CHO−S−SFM II(Invitrogen/GIBCO)及び10%CHO Ex細胞無血清培地(JRH)を含有し、8mMグルタミン及び0.3%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrgen/GIBCO)を有する無血清培地を有する懸濁液中で、チャイニーズハムスター卵巣細胞系CHO−DG44を培養した。簡潔には、50mL無血清増殖培地を含有する250mL振盪フラスコに細胞を播種し、37℃、5%CO2の恒温器中で130rpmの振盪速度で増殖させた。細胞に新鮮な培地を当日供給し、1日おきに2つの振盪フラスコ中に分割した。細胞生存率が95%超であり、細胞の30%ないし50%が分裂している中間対数相にある細胞のみを形質移入に使用した。
【0066】
ベクターDNAを有する細胞の形質移入を電気穿孔法によって実施した。まず、ベクターDNAを制限酵素BglII(pABMM72用)又はHindIII(pABMM48及びpABME15用)で線形化した。1000rpmで5分間遠心分離することによって細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、1×10個/mLの密度で氷冷PBS中に再懸濁した。次に、細胞400μLをベクターDNA20μgと混合し、電気穿孔用の氷冷しておいた0.4cmキュベットに転移した。Biorad Gene Pulser IIを、最大500Vの容量、0.350KVの電位、及び600μFの電気容量に設定した。衝撃を与えた後、細胞を室温に15分間置き、30mL培地を有する50mL遠心チューブに転移し、次に、増殖及び選択のため、3個の96ウェルプレート中に播種した。
【実施例6】
【0067】
抗体検出のためのELISAアッセイ
抗IgG ELISAアッセイを使用して、CHO細胞培養物中のヒトIgGを定量した。簡潔には、0.5M炭酸緩衝液(pH9.6)中の1μg/mLでヒトIgG Fc(Calbiochem)に対する抗体で96ウェルプレートを被膜し、4℃で一晩定温放置した。次に、PBST中の5%乳を使用して、プレートを室温で1時間ブロッキングした。連続希釈による細胞培養上清を各ウェルに添加し、室温で1時間定温放置した。その間、濃度が明らかなヒトIgGタンパク質(Sigma)を標準物質として、並行して同一プレートに添加した。PBSTで3回洗浄した後、3%乳−PBST中の二次抗体(ヤギ抗ヒトIgGκ鎖−HRP接合体、Sigma)を室温で1時間添加した。最後に、安定した過酸化物基質緩衝液(Pierce)中のABTS基質を添加して、発色させた。プレートリーダー(SpectraMax Plus,Molecular Devices)上で30分間発色させた後、405nmでの吸光度を測定した。IgGの標準物質直線は、0ないし12.5ng/mL内で作成した。光学密度の読み取りに従って、標準曲線から、細胞培養上清中のヒトIgGの濃度を算出した。
【実施例7】
【0068】
抗体の産生及び精製
CHO Ex細胞培地(JRH)、8mMグルタミン(GIBCO)、0.3%抗生物質(GIBCO)を含有する産生培地中で、IgG産生のために選択された安定したクローンを増殖した。簡潔には、30mL産生培地を有する250mL振盪フラスコ中で、20万ないし30万個/mLの密度で細胞を播種した。37℃、5%CO2の恒温器中で、振盪器を130rpmの速度に設定した。当日、細胞に新鮮な培地を供給した。培養物が累積的に1Lに到達するまで、培地を1日おきに交換した。次に、100万個/mLの細胞密度で、産生培地1Lを有する3Lの振盪フラスコに細胞を転移し、37℃、5%CO2の恒温器中で、80rpmの振盪速度で増殖した。細胞密度が、300万ないし400万個/mLに到達するまで、毎日ないし1日おきに、細胞に50mLの新鮮な産生培地を供給した。次に、培養温度を33℃に移行し、IgG産生を促進した。細胞生存率が、80ないし85%以下になるまで、毎日又は1日おきに、50mLの新鮮な産生培地を細胞に供給した。上清を回収し、遠心分離によって細胞を除去した。
【0069】
細胞培養物から回収された上清をまず、0.4μmのフィルターで濾過し、50kDaカットオフフィルターを使用して、Pall正接流濾過装置を通じて100ないし200mLに濃縮した。次に、5mL/分の流速で、試料をMabSelect(プロテインA)カラム(25mm×200mm、CV=98.2mL、Pmax=40)に負荷した。緩衝液A(50mM HEPES,150mM NaCl,pH7.0)の5カラム容積及び緩衝液B(50mM酢酸ナトリウム、pH5.0)の5カラム容積で洗浄した後、緩衝液C(100mM酢酸、22mMリン酸、pH2.0)の5カラム容積でIgGタンパク質を溶出した。OD280で拾ったヒトIgGの画分を回収及び組み合わせ、1Mトリス−HCl(pH9.0)の5%画分容積でpHを中和した。pH中和中に形成された沈殿物を、10,000rpmで30分間遠心分離することによって除去した。TSK−GEL SuperSW3000カラム(Tosoh Bioscience)を装備したAgilent 1100HPLCシステム(Agilent)での分子ふるい高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)を使用して、精製された抗体をさらに分析した。簡潔には、希釈された試料10μLをTSK−GEL SuperSW3000カラムに流速0.25mL/分で負荷した。0.05%(w/v)アジ化ナトリウムを有するリン酸緩衝塩類溶液PBSを移動相に使用した。280nmの紫外線シグナルをモニターして、タンパク質の拾い上げを決定した。アッセイ中、ゲル濾過のための分子量マーカータンパク質(29kDないし660kD、Sigma)を標準物質として使用した。
【実施例8】
【0070】
ベクターの組込みに関する分析
ゲノムDNAは、安定した細胞系から抽出される。簡潔には、細胞を1200rpmで10分間遠心分離することによって回収し、PBSで2回洗浄し、核溶解緩衝液(10mMトリスEDTA、pH8.0、0.4M NaCl)で1回洗浄する。核溶解緩衝液3mL中で再懸濁した後、100μLのプロテイナーゼK(10mg/mL)及び10%SDS400μLを添加することによって細胞を溶解し、45℃で一晩定温放置する。次に、溶解液からの上清を使用して、DNAを調製する。容積全体の1/10の3M酢酸ナトリウム(pH5.2)及び容積全体の3倍の100%冷イソプロパノールを添加することによって、ゲノムDNAを沈殿させ、70%エタノールで洗浄する。DNAの乾燥ペレットを200μLのH2O中に再懸濁する。
【0071】
ゲノムDNAを制限酵素EcoRIで消化し、Lambda DASH II/EcoRIベクターキット(Stratagene,USA)の一部であるあらかじめ消化しておいたLambda DASH IIベクターのEcoRI部位中に連結した。製造元の説明書(Gigapack III Gold Packaging Extract;Stratagene,USA)に従って、被包抽出物を使用して、組換えλファージを被包する。ファージ宿主としてXL1−Blue MRFの細菌系を使用して、得られたライブラリのうち、約1×10個のプラーク形成単位(pfu)をNZYアガープレート上に播種し、37℃で一晩定温放置する。製造元の説明書に従って、ライブラリを増幅して、ライブラリの高い力価のストックの安定した多量を調製する。
【0072】
大きな150mmNZYアガープレート上に50000pfu/プレートでライブラリを播種し、37℃で一晩定温放置する。ニトロセルロースメンブレン(Stratagene,USA)を各NZYアガープレート上に2分間配置し、ファージの粒子をメンブレンに転移させる。針を使用して、配向のためにメンブレン及びアガーに孔を開ける。メンブレンを1.5M NaCl及び0.5M NaOHの溶液で2分間変性した後、1.5M NaCl及び0.5Mトリス−HCl(pH8)中で5分間中和する。0.2Mトリス−HCl(pH7.5)及び2×SSC溶液緩衝液を含有する溶液中でメンブレンを30秒間すすぐ。最後に、UVトランスイルミネーターを使用して、DNAをメンブレンに架橋する。ゲノムDNAライブラリをサザンブロット分析によってスクリーニングする。ヒト抗体重鎖及び軽鎖定常部を含有する2つのDNAプローブを標識し、スクリーニングに使用する。スクリーニングから単離された陽性クローンをDNA配列決定によって分析し、組込み部位の配列を決定する。
【実施例9】
【0073】
pABMM72ベクターによる安定した細胞系の作製
37℃、5%CO2恒温器中で、130rpmの速度で250mL振盪フラスコ中の無血清培地中で、CHO−DG44細胞を増殖した。細胞は、培養5日後、96%の細胞生存率で、40%の細胞が分裂している中間対数相に到達した。氷冷PBSで2回洗浄した後、1×10個/mLの密度で、氷冷PBS中でCHO−DG44細胞を再懸濁し、氷上で15分間定温放置した。次に、BglII部位で線形化したpABM72ベクターDNA20μgと細胞400μLを混合し、氷冷しておいた電気穿孔用キュベットに移した。
【0074】
最大500Vの容量、0.350KVの電位及び600μFの電気容量の設定でBiorad Gene Pulser IIを使用して、電気穿孔を実施した。合計4回の電気穿孔を実施した。衝撃を与えた後、細胞を室温で15分間放置し、30mLの培地を有する50mLの遠心チューブに転移した。形質移入した細胞を増殖培地で洗浄し、各電気穿孔につき3枚の96ウェルプレート中に播種した。電気穿孔の2日(48時間)後、HT及び0.5mg/mLのG418を有する増殖培地を添加することによって、細胞を選択した。培地を3ないし4日ごとに50%だけ交換した。選択2ないし3週間後、顕微鏡下で増殖クローンが観察可能であった。各ウェルからの培養上清100μLを発現スクリーニングのために採取した(1枚の96ウェルプレートからの典型的なデータを図5Aに示した。)。これらの実験において、遺伝子増幅過程を実施しなかった。
【0075】
実施例5に記載されている抗ヒトFc/抗ヒトK鎖ELISAを実施し、個々のクローンの発現レベルを評価した。次に、ELISAの読み取りの高いクローンを24ウェルプレート、6ウェルプレート及び増殖用T75フラスコに転移した。この細胞増殖過程用に、合計50個のクローンを拾い上げた。T75フラスコ中での48時間の培養物から回収した上清を、定量的ELISAに使用した。各クローンに関してヒトIgG産生レベル(pg/個/日)を算出することによって、細胞系の生産性を評価した。表2は、上位6種のクローンから得られた結果を示している。
【0076】
【表2】

【0077】
最高値のクローン13−3−D6は、5×10個/mLの細胞密度で振盪フラスコ培養の10日後に1Lあたり54mgのIgGの全体的な生産を提供可能な1.09pg/個/日のレベルでヒトIgGを産生した。
【実施例10】
【0078】
pABMM48ベクターによる安定した細胞系の作製
90%CHO−S−SFM II(Invitrogen/GIBCO)と10%CHO Ex細胞無血清培地(JRH)とを含有し、HTを有する無血清培地を有する懸濁液中で、CHO−DG44細胞を培養した。簡潔には、50mL無血清増殖培地を含有する250mL振盪フラスコに細胞を播種し、37℃、5%CO2の恒温器中で130rpmの速度で振盪した。細胞に新鮮な培地を当日供給し、1日おきに2つの振盪フラスコ中に分割した。細胞生存率が96%であり、38%の細胞が分裂している中間対数相にある細胞のみを形質移入に使用した。氷冷PBSで2回洗浄した後、1×10個/mLの密度で、氷冷PBS中でCHO−DG44細胞を再懸濁し、氷上で15分間定温放置した。次に、HindIII部位で線形化したpABM48DNA20μgと細胞400μLを混合し、氷冷しておいた電気穿孔用キュベットに転移した。
【0079】
最大500Vの容量、0.350KVの電位及び600μFの電気容量の設定でBiorad Gene Pulser IIによって、電気穿孔法を実施した。合計4回の電気穿孔を実施した。衝撃を与えた後、細胞を室温で15分間放置し、30mLの培地を有する50mLの遠心チューブに転移した。形質移入した細胞を増殖培地で洗浄し、各電気穿孔につき3枚の96ウェルプレート中に播種した。電気穿孔の2日(48時間)後、HT及び0.5mg/mLのG418を有する増殖培地によって、細胞を選択した。培地を3ないし4日ごとに交換した。増殖クローンは、選択の2ないし3週間後に顕微鏡下で観察可能であった。各ウェルからの培養上清100μLを、発現スクリーニング用に採取した。合計約1000個のクローンをスクリーニングした。しかし、これらの実験において、遺伝子増幅過程を実施しなかった。
【0080】
実施例5に記載されている抗ヒトFc/抗ヒトK鎖ELISAを実施し、個々のクローンの発現レベルを評価した。図5BにおけるELISAデータは、pABMM48による形質移入の結果、産生クローンのより高い頻度が得られることを確立している。次に、ELISAの読み取りの高いクローンを24ウェルプレート、6ウェルプレート及び増殖用T75フラスコに転移した。この細胞増殖用に、合計50個のクローンを選択した。
【0081】
T75フラスコの48時間培養の上清を、定量的ELISAに使用して、48時間及び2日間での抗体濃度を細胞数で除することによって、ヒトIgGの産生レベル(pg/個/日(pcd))を測定した。pcd数は、48時間での細胞数のみを使用するため、過小評価され得、2日間の培養の間で最高の数である。ヒトIgG1の発現の高い上位9個のクローンを表3に示した。
【0082】
【表3】

【0083】
最高値のクローン1D1は、5×106個/mLの細胞密度で振盪フラスコ培養10日後に610mgのIgGを結果として産生可能な12.2pg/個/mL(T75フラスコから測定)のレベルでヒトIgGを産生した。(レトロウイルス配列を含む)pABMM48ベクターが、10倍以上高いIgG生産性によって特徴付けられることが、(レトロウイルス配列を含まない)pABMM72から生じた安定した細胞系からの発現レベルの比較によって明らかである(図6)。
【0084】
振盪フラスコ中での抗体産生のため、最良のクローン1D1をさらに規模拡大した。簡潔には、30mL産生培地を有する250mL振盪フラスコ中で、30万個/mLの密度で細胞を播種した。37℃、5%CO2の恒温器中で、振盪器を130rpmの速度に設定した。当日、細胞に新鮮な10%培地を供給した。培養物が0.5Lに到達するまで、培地を1日おきに交換した。次に、100万個/mLの細胞密度で、産生培地0.4Lを有する3Lの振盪フラスコ中に細胞を転移し、37℃、5%CO2の恒温器中で80rpmの振盪速度で増殖し、細胞密度が、400万個/mLに到達するまで、50mLの新鮮な産生培地を毎日供給した。次に、IgG産生のため、培養温度を33℃に移行した。細胞に50mLの新鮮な産生培地を毎日供給した。3日後、上清0.55Lを回収した。定量的ELISAのため、第1日、第2日、第3日の上清を回収した。図7にあるデータは、第1日ないし第3日のIgGの産生が、29.4mg/L、99.8mg/L及び227mg/Lであることを示した。
【0085】
培養上清中のIgGタンパク質を、以下に記載されるとおり精製した。上清をまず、0.4μmのフィルターで濾過し、50kDaカットオフフィルターを使用して、Pall正接流濾過装置を通じて100mLに濃縮した。次に、5mL/分の流速で、試料をMabSelect(プロテインA)カラム(25mm×200mm、CV=98.2mL、Pmax=40)に負荷した。緩衝液A(50mM HEPES,150mM NaCl,pH7.0)の5カラム容積及び緩衝液B(50mM酢酸ナトリウム、pH5.0)の5カラム容積で洗浄した後、緩衝液C(100mM酢酸、22mMリン酸、pH2.0)の5カラム容積でIgGタンパク質を溶出した。OD280で拾い上げたヒトIgGの画分を回収及び組み合わせ、1Mトリス−HCl(pH9)の5%画分容積でpHを中和した。pH中和中に形成された沈殿物を、10,000rpmで30分間遠心分離することによって除去した。
【0086】
3日間の培養のこの0.55Lから最終的に精製されたヒトIgGは、163mgであり、20pg/個/日の生産性を付与すると算出され、5×10個/mLの細胞密度で振盪フラスコ培養10日間によるIgG産生1gに変換された。さらに、分析用HPLCアッセイ用の分子ふるいカラムTSL−GEL Super SW3000(Tosoh)に、希釈された精製済みIgGタンパク質10μLを負荷した。HPLCデータは、IgGの唯一のシグナルピークで純度を確認した。
【0087】
これらの結果は、(レトロウイルス配列を含む)pABMM48ベクターにより形質移入されたCHO産生細胞系が、レトロウイルス配列を含まないベクターから作製されたクローンよりも多くの抗体を産生したことを確立している。本明細書に呈されるデータは、本発明の内在性レトロウイルス配列を含む発現ベクターの使用が、従来の発現ベクターと比較して、正規のベクターを使用して得られる1pg/個/日未満から、20pg/個/日まで、組換え抗体の細胞生産性を増大させることを示している。これは、細胞生産性が20倍増大したことを示す。
【0088】
【表4】


【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、哺乳動物発現ベクターpABMM1(配列番号1)の模式的な提示である。これは、pcDNA6/His−5Aに由来し、イー・コリ(E.coli)中での抗生物質による選択のためのアンピシリン抵抗性遺伝子、プラスミド複製開始点(pUCori)、哺乳動物細胞において選択するためのDHFR遺伝子及びネオマイシン遺伝子の発現カセット(pSV40−DHFR−IRES−ネオマイシン−ポリA)、抗体軽鎖発現カセット(pCMV−軽鎖−ポリA)及び抗体重鎖発現カセット(pCMV−重鎖−ポリA)を含む。
【図2】図2は、哺乳動物発現ベクターpABMM72(配列番号2)の模式的な提示である。これは、pABMM1ベクターに由来し、イー・コリ中での抗生物質による選択のためのアンピシリン抵抗性遺伝子(AMPr)、プラスミド複製開始点(pUCori)、抗体重鎖の発現カセット(pCMV−重鎖−ポリA)、並びに、2つのIRES配列によってDHFR遺伝子及びネオマイシン遺伝子が結合した、抗体軽鎖のための発現カセット(pCMV-軽鎖−SP163−DHFR−SP163−ネオマイシン−ポリA)を含む。VH遺伝子及びVk遺伝子は、VEGFに対する抗体の発現のため、このベクター中にクローニングされた。
【図3】図3は、哺乳動物発現ベクターpABMM48(配列番号4)の模式的提示である。これは、pABMM1ベクターに由来し、イー・コリ中での抗生物質選択のためのアンピシリン抵抗性遺伝子(AMPr)、プラスミド複製開始点(pUCori)、哺乳動物細胞において選択するためのDHFR遺伝子及びネオマイシン遺伝子の発現カセット(pSV40−DHFR−IRES−ネオマイシン−ポリA)、抗体軽鎖発現カセット(pCMV−軽鎖−ポリA)及び抗体重鎖発現カセット(pCMV−重鎖−ポリA)を含む。さらに、CHOレトロウイルスGag−Pr遺伝子由来のDNA断片を軽鎖発現カセットの上流に挿入し、CHOレトロウイルスEvn遺伝子由来のDNA断片を、抗体重鎖発現カセットの下流に配置した。VH遺伝子及びVk遺伝子は、VEGFに対する抗体の発現のため、このベクター中にクローニングされた。
【図4】図4は、哺乳動物発現ベクターpABME15(配列番号7)の模式的な提示である。これは、最初、pABMM48ベクターに由来し、イー・コリ中での抗生物質による選択のためのアンピシリン抵抗性遺伝子(AMPr)、プラスミド複製開始点(pUCori)、IRES配列によってネオマイシン遺伝子が結合した、抗体軽鎖のための発現カセット(pCMV−軽鎖−SP163−ネオマイシン−ポリA)、並びに、IRES配列によってDHFR遺伝子が結合した、抗体重鎖の発現カセット(pCMV−重鎖−Sp163−DHFR−ポリA)を含む。さらに、CHOレトロウイルスGag−Pr遺伝子由来のDNA断片を軽鎖発現カセットの上流に配置し、CHOレトロウイルスEnv遺伝子由来のDNA断片を、抗体重鎖発現カセットの下流に配置した。VH遺伝子及びVk遺伝子は、VEGFに対する抗体の発現のため、このベクター中にクローニングされた。
【図5】図5A及び5Bは、96ウェルプレート中で安定した細胞系を検出するための抗ヒト抗体ELISAアッセイの結果のグラフ表示を提供する。図5Aは、ベクターpABMM72から生じるCHO細胞系から得られる細胞上清中での組換え抗体発現の異なるレベルを示す。図5Bは、ベクターpABMM48から生じる培養上清中の組換え抗体の発現レベルを示す。
【図6】図6は、レトロウイルス配列を含む(M48クローン)又は含まない(M72クローン)発現ベクターから生じる異なる細部系の抗体産生度を示す。
【図7】図7は、3日間(すなわち、培養72時間)にわたるレトロウイルス配列を含むpABMM48で生じた1つの細胞系に由来する抗体産生の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)ゲノム内に組み込まれたRNA分子のDNAコピーを有する受け手の哺乳動物宿主細胞の宿主細胞に、a)哺乳動物レトロウイルスGag−Pr断片をコードするDNA断片及びb)関心対象のタンパク質をコードするDNA配列を含む発現カセットと隣接するように配置された哺乳動物レトロウイルスEnv断片をコードするDNA断片を含む組換え発現ベクターを形質移入し、これにより形質移入された受け手の宿主細胞を形成する工程;2)前記形質移入された受け手の宿主細胞を単離する工程並びに3)細胞系の産生能を決定する工程を含む、増大されたタンパク質産生能を有する安定した哺乳動物細胞系を作製するための方法。
【請求項2】
宿主細胞が、CHO細胞であり、及び哺乳動物レトロウイルスGag−Pr断片をコードするDNA断片が、発現カセットに対して5’に配置された配列番号4からなるポリヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
宿主細胞がCHO細胞であり、及び哺乳動物レトロウイルスEnv断片をコードするDNA断片が、発現カセットに対して3’に配置された配列番号5からなるポリヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NSOミエローマ細胞、サル腎臓COS細胞、サル腎臓線維芽CV−1細胞、ヒト胚性腎臓293細胞、ヒト乳癌SKBR3細胞、ヒトジャーカットT細胞、イヌ腎臓MDCK細胞及びヒト子宮頸癌Hela細胞の群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
RNA分子のDNAコピーが、レトロウイルスプロウイルス、レトロウイルス様DNA配列、レトロトランスポゾン及びレトロ転写産物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
a)哺乳動物レトロウイルスGag−Pr由来のDNA断片と、及びb)哺乳動物宿主細胞中での直接的な発現に必要とされる制御配列に作用可能に連結された関心対象のタンパク質を含む発現カセットをコードするDNA配列を含む発現カセットに隣接するように配置された哺乳動物レトロウイルスEnv遺伝子由来のDNA断片とを含む、哺乳動物発現ベクター。
【請求項7】
発現ベクターpABMM48(配列番号3)。
【請求項8】
発現ベクターpABME15(配列番号6)。
【請求項9】
抗体発現カセットに作用可能に連結されたCHOレトロウイルスGag−Prをコードするポリヌクレオチド配列(配列番号4)。
【請求項10】
抗体発現カセットに作用可能に連結されたCHOレトロウイルスEnvをコードするポリヌクレオチド配列(配列番号5)。
【請求項11】
哺乳動物レトロウイルスGagPrをコードするDNA配列(配列番号4)と、及び哺乳動物宿主細胞中での直接的な発現に必要とされる制御配列に作用可能に連結された関心対象のタンパク質をコードする発現カセットに隣接するように配置された哺乳動物レトロウイルスEnvタンパク質をコードするDNA配列(配列番号5)とを含む、発現ベクター。
【請求項12】
高い転写活性によって特徴付けられる宿主細胞のゲノムの一部位中に組み込まれた請求項6に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項13】
宿主細胞がCHO細胞である、請求項12に記載の宿主細胞。
【請求項14】
細胞が、CHOレトロウイルスGag−Pr及び発現カセットに隣接するCHOレトロウイルスEnv遺伝子由来のDNA断片を欠如する発現ベクターによって形質移入された宿主細胞の産生能に比べて増大されたタンパク質産生能によって特徴付けられる、請求項12に記載の宿主細胞。
【請求項15】
1)ゲノム内に組み込まれたRNA分子のDNAコピーを有する受け手の哺乳動物宿主細胞に、a)哺乳動物レトロウイルスGag−Pr断片をコードするDNA断片と及びb)抗体をコードするDNA配列を含む発現カセットに隣接するように配置された哺乳動物レトロウイルスEnv断片をコードするDNA断片とを含む組換え発現ベクターを形質移入し、これにより形質移入された受け手の宿主細胞を形成する工程;2)前記形質移入された受け手の宿主細胞を単離する工程及び3)細胞系の抗体産生能を決定する工程を含む、増大した抗体産生能を有する安定した哺乳動物細胞系を作製するための方法。
【請求項16】
宿主細胞がCHO細胞であり、並びに哺乳動物レトロウイルスGag−PrをコードするDNA断片が配列番号4を含み、及び哺乳動物レトロウイルスEnv断片をコードするDNA断片が配列番号5を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ゲノム内に組み込まれたRNA分子のDNAコピーを有する受け手の哺乳動物宿主細胞宿主細胞に、a)哺乳動物レトロウイルスGag−PrをコードするDNA断片(配列番号4)と及びb)組換えタンパク質をコードするDNA配列を含む発現カセットに隣接するよう配置された哺乳動物レトロウイルスEnv断片(配列番号5)とを含む発現ベクターを形質移入し、これにより、形質移入された受け手の宿主細胞を形成する工程;及び前記形質移入された受け手の宿主細胞を単離する工程;及び3)増大したタンパク質産生に適した条件下で、工程2)の単離された宿主細胞を培養する工程を含む、組換えタンパク質の高レベルを産生するための方法。
【請求項18】
組換えタンパク質が抗体である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ゲノム中に内在性レトロウイルス配列を有する受け手の哺乳動物細胞に、相同的組換えによって前記内在性レトロウイルス配列と組み合わせることができる少なくとも1つの組換えポリヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド配列に作用可能に連結された発現カセットを含む発現ベクターを形質移入することを含む、哺乳動物細胞の形質移入の効率を調節するための方法。
【請求項20】
哺乳動物細胞がCHO細胞であり、及び相同的組換えによって内在性レトロウイルス配列と組み合わせることができる組換えポリヌクレオチド配列がCHOレトロウイルスGag−Prをコードするポリヌクレオチド配列(配列番号4)と発現カセットに作用可能に連結されたCHOレトロウイルスEnv断片(配列番号5)とを含む、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−535065(P2009−535065A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509724(P2009−509724)
【出願日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/010779
【国際公開番号】WO2007/130543
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(508326493)アブマクシス・インコーポレイテツド (2)
【Fターム(参考)】