組換え融合タンパク質のKEX2切断領域
本願発明は、KEX2部位及び前記KEX2部位の5’末端に直結したKEX2部位プレ配列を含むKEX2領域を含む融合DNA構成物、融合ポリペプチド、前記融合DNA構成物を含むベクター及び細胞、糸状真菌細胞から目的タンパク質を生成する方法及び細胞からの目的タンパク質の分泌及び/又は切断を促進する方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府が提供する研究開発による発明の権利に関する記述
本願発明の一部は、米国の国防総省国防高等研究事業局(DARPA)によるコントラクトナンバーW911NF−05−C−0072により資金が提供されている。従って、米国政府は、本願発明において所定の権利を有し得る。
【0002】
本願発明は、糸状菌からの機能的抗体タンパク質及び商業用酵素等の目的タンパク質における分泌の増加及び切断に関する。本願発明は、タンパク質切断に用いられるKEX2領域を組み込んだ融合DNA構成物、ベクター及び融合ポリペプチド及び目的タンパク質の生成方法を開示する。
【背景技術】
【0003】
真菌細胞でのタンパク質分泌の間、特定のタンパク質は、KEX2又はセリンペプチダーゼの「ケキシン(kexin)」ファミリー(EC3.4.21.61)のメンバーである、KEX2により切断される。KEX2は、当該タンパク質の分泌においてタンパク質基質で基本アミノ酸対(すなわち、「KEX2部位」)のC末端側に直結しているペプチド結合を切断する、高度に特異的なカルシウム依存的エンドペプチダーゼである。KEX2タンパク質は一般的に、活性部位のヒスチジン残基に近いシステイン残基を含有し、p−安息香酸水銀により抑制される。S.cerevisiaeのKEX2ペプチダーゼ(Fuller他、1989年、Proc.Natl.Acad.Sci.米国86:1434−1438ページ)であるこのグループの基礎的メンバーは、それらの分泌の間、α−因子フェロモン及びキラー・トキシン前駆体を切断する。
【0004】
融合ポリペプチドの生成は、大腸菌、酵母及び糸状菌を含む多くの微生物で報告されてきた。例えば、ウシキモシンは、全長グルコアミラーゼ(GAI)(Ward他、(1990年)Bio/technology8:435−440ページ、米国特許第6,265,204号及び米国特許第6,590,078号)への融合としてAspergillus nigerで生成される。ヒトインターロイキン6(hIL6)は、全長A.nigerグルコアミラーゼ(GAI)(Contreras他、(1991年)Biotechnology9:378−381ページ)への融合としてAspergillus nidulansで生成される。ニワトリ卵白リゾチーム(Jeenes他、(1993年)FEMS Microbiol.Lett.107:267−273ページ)及びヒトラクトフェリン(Ward他、(1995年)Bio/Technology13:498−503ページ)は、グルコアミラーゼの1−498残基への融合としてAspergillus nigerで生成される。ウシキモシンは、全長野生型アルファアミラーゼ(Korman他、(1990年)Curr.Genet.17:203−212ページ)との融合としてAspergillus nigerで、及びA.oryzaeグルコアミラーゼ(Tsuchiya他、(1994年)Biosci.Biotech.Biochem.58:895−899ページ)の切断型との融合によりAspergillus oryzaeで生成される。さらに、Shoemaker他、1981年、Bio/Technology1:691−696ページ、Nunberg他、(1984年)Mol.Cell.Biol.4:2306−2315ページ及びBoel他、(1984年)EMBO J.3:1097−1102ページも参照される。いくつかのこれらの融合タンパク質において、KEX2プロテアーゼ認識部位(Lys−Arg)は、グルコアミラーゼと目的タンパク質(例えば、Contreras他、1991年及びWard他、1995年)との間に挿入される。本願に係る発明者は、KEX2認識部位が、アミノ酸KEX2部位プレ配列を含むように操作すると、タンパク質分泌及び/又はタンパク質切断が融合タンパク質で増進され得ることを見出した。
【0005】
関連する具体的な文献には、次が含まれる。すなわち、Ward他、(2004年)Appl.Environ.Microbiol.70:2567−2576ページ、Goller他、(1998年)Appl.Environ.Microbiol.64:3202−3208ページ、LaGrange他、(1996年)Appl.Environ.Microbiol.62:1036−1044ページ、Bergquist他、(2002年)Biochem.Biotechnol.100:165−176ページ、Spencer他、(1998年)Eur.J.Biochem.258:107−112ページ、Jalving他、(2000年)Appl.Environ.Microbiol.66:363−368ページ、Brenner及びFuller(1992年)Proc.Natl.Acad.Sci.89:922−926ページ、Durand他、(1999年)Appl.Microbiol.Biotechnol.52:208−214ページ、Ahn他、(2004年)Appl.Microbiol.Biotechnol.64:833−839ページ、Gouka他、(1997年)ApplMicrobiolBiotechnol.47:1−11ページ、Broekhuijsen他、(1993年)J.Biotechnol.31:135−145ページ、MacKenzie他、(1998年)J.Biotechnol.63:137−146ページ及び公開特許出願第20040018573号及び第20050158825号である。米国特許第4,816,567号及び米国特許第6,331,415号も、組換え宿主細胞での免疫グロブリン分子の生成方法を開示する。上述の引用文献は、全ての目的において参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多数の方法が産業用酵素及び治療用タンパク質の生成に利用可能である一方で、バイアルによる汚染又は他の偶発的要因における危険性を制限した、相対的に迅速かつ高レベルに生成されたタンパク質を結果として生じる、タンパク質生成及び特に抗体生成等の治療用タンパク質生成の代替的方法の必要性が残る。本願発明は当該必要性に答えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
融合DNA構成物、ベクター、融合ポリペプチド、融合DNA構成物を含む細胞、及び細胞からの目的タンパク質の分泌及び/又は切断を増加する方法が提供される。さらに具体的に、本願発明に包含されるKEX2領域は、融合ポリペプチドに含まれ、融合ポリペプチド由来の目的タンパク質を切断する部位を与える。従って、本願発明は、タンパク質切断に用いられるKEX2領域に関連する。
【0008】
いくつかの実施形態において、本願発明は、融合ポリペプチドをコードする融合DNA構成物であって、プロモーター、シグナル配列をコードする第一DNA分子、キャリアタンパク質をコードする第二DNA分子、KEX2部位及び前記KEX2部位の5’末端に直結したKEX2部位プレ配列を含むKEX2領域をコードする第三DNA分子、及び目的タンパク質をコードする第四DNA分子を5’末端から操作可能な結合で含む前記融合DNA構成物に関する。この実施形態のいくつかの態様において、本願発明は、融合DNA構成物を含む、発現ベクター等のベクターに関連し、他の態様において本願発明は、ベクターを用いて形質転換されたか、又は融合DNA構成物を含む、宿主細胞に関する。
【0009】
他の実施形態において、本願発明は、融合ポリペプチドのアミノ末端から、分泌配列として機能的なシグナル配列を含む第一アミノ酸配列、キャリアタンパク質を含む第二アミノ酸配列、KEX2部位及び前記KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列を含むKEX2領域を含む第三アミノ酸配列、及び目的タンパク質を含む第四アミノ酸配列を含む融合ポリペプチドに関する。
【0010】
別の実施形態において、本願発明は、KEX2部位(B1B2)及び前記KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列(X4X3X2X1)を含むKEX2領域(X4X3X2X1B1B2)に関する。
【0011】
他の実施形態において、本願発明は、糸状真菌宿主細胞及び特にトリコデルマ細胞で目的タンパク質を生成する方法であって、本願発明に係る融合DNA構成物を含む糸状真菌宿主細胞を得る工程及び目的タンパク質の発現及び分泌を可能にする適した条件下で前記糸状真菌宿主細胞を培養する工程を含む。この実施形態のいくつかの態様において、目的タンパク質は、回収される。この実施形態の他の態様において、融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の切断が、KEX2部位プレ配列を欠いた同等な融合ポリペプチド由来の同じ目的タンパク質の切断より多い。この実施形態の他の態様において、融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の分泌が、KEX2部位プレ配列を欠いた同等な融合ポリペプチド由来の同じ目的タンパク質の分泌より多い。
【0012】
追加的な実施形態において、本願発明は、a)シグナル配列を含む親融合ポリペプチドのKEX2部位プレ配列、KEX2部位及び前記KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列を含むKEX2領域、及び目的タンパク質を含むアミノ酸配列を変異させ、前記KEX2部位プレ配列以外前記親融合ポリペプチドと同一な試験融合ポリペプチドのセットを生成する工程、b)糸状真菌細胞による前記試験融合ポリペプチド及び前記親融合ポリペプチドの分泌を評価する工程、c)前記親融合ポリペプチドと比較して分泌及び/又は切断が増加された試験融合ポリペプチドを特定する工程を含む分泌及び/又は切断の増加された目的タンパク質を特定する方法に関する。
【0013】
この実施形態の別の態様において、本願発明は、上述のように得られた複数の異なる試験融合ポリペプチドを試験する工程、及びどの前記異なる試験融合ポリペプチドがより多い分泌及び/又はタンパク質切断を有するかを決定する工程を含み、前記最適化されたKEX2部位プレ配列が、最も多い分泌及び/又はタンパク質切断を有する試験融合ポリペプチドの変異したKEX2部位プレ配列である、最適化されたKEX2部位プレ配列を特定する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
下記の詳細な説明の特定の態様は、添付の図と併せて読むことで最も良く理解される。慣行に従って、それらの図に記載される様々な特徴は一定の縮尺でないことが、強調される。つまり、様々な特徴の寸法は、明確にするために任意に拡大又は縮小される。添付される図面は以下である
【図1】図1は、キャリアタンパク質、KEX2領域及び目的タンパク質を含めた本願発明に係る融合ポリペプチドの実施形態を概略的に図解している。ここでキャリアタンパク質は、触媒ドメイン及びセロビオ加水分解酵素I(CBH1)タンパク質のリンカー領域部分を含むCBH1コア/リンカーとして図解され、前記目的タンパク質は、抗体L鎖(light chain)又はH鎖(heavy chain)として図解される。
【図2】図2は、融合ポリペプチドの発現に用いられるpTrex4−her2 L鎖DNA2.0プラスミドの遺伝子地図を表す。前記プラスミドは、トリコデルマ・リーセイcbh1プロモーター、CBH1シグナル配列及びキャリアタンパク質をコードするポリヌクレオチド、SpeI部位の後ろに直結するKEX2領域、抗体(トラスツズマブ)L鎖として図解される目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、トリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素(cbh1)ターミネータ、amdS Aspergillus nidulansアセトアミダーゼ(acetamidase)マーカーを含む。
【図3】図3A−Eは、図2のpTrex4−her2 L鎖DNA2.0プラスミドのヌクレオチド配列(配列番号103)(10885bp)を提供する。
【図4】図4は、後に実施例1、2、3及び4で記載されるKEX2領域配列を含む培養されたトリコデルマ・リーセイ細胞の上清のウエスタンブロット法を示す。レーン1は、分子量マーカー(Blue Plus 2、インビトロジェン参照)を表す。レーン2及び3は、GGGKR変異体(配列番号5)を表し、レーン4は、GGGKRGGG変異体(配列番号7)を表し、レーン5は、本願発明に包含されるVAVEKR変異体(配列番号9)KEX2領域を表し、レーン6及び7は、KRGGG変異体(配列番号2)を表す。
【図5】図5は、後に実施例5で記載される本願発明に包含されるKEX2領域を含む培養されたトリコデルマ・リーセイ細胞の上清のウエスタンブロット法を示す。レーン1は、上述の分子量マーカーを示す。レーン2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13は、それぞれVAVEKR(配列番号9)、VAVWKR(配列番号25)、VAVGKR(配列番号26)、VAVRKR(配列番号27)、VAVTKR(配列番号28)、VAVVKR(配列番号29)、VAVAKR(配列番号30)、VAVLKR(配列番号31)、VAVDKR(配列番号32)、VAVNKR(配列番号33)、VAVYKR(配列番号34)、VAVHKR(配列番号35)KEX2領域を示す。
【図6】図6は、後に実施例5、6、及び7で記載されるKEX2領域配列を含む培養されたトリコデルマ・リーセイ細胞の上清のウエスタンブロット法を示す。レーン1及び10は、上述の分子量マーカーを示す。レーン2、3、4、5、6、7、8、9、11、12、13、14、15及び16は、それぞれAAVEKR(配列番号38)、GAVEKR(配列番号37)、MAVEKR(配列番号36)、LAVEKR(配列番号39)、WAVEKR(配列番号40)、KAVEKR(配列番号41)、PAVEKR(配列番号42)、DAVEKR(配列番号51)、VAVEKR(配列番号9)、HAVEKR(配列番号52)、QAVEKR(配列番号47)、SAVEKR(配列番号46)、NVISKR(配列番号22)、及びSDVTKR(配列番号24)KEX2領域を示す。
【図7】図7は、後に実施例5で記載されるKEX2領域配列を含む培養されたトリコデルマ・リーセイ細胞の上清のウエスタンブロット法を示す。レーン1は、上述の分子量マーカーを示す。レーン2、3、4、5、6、7、8、9、10及び11は、それぞれVAVEKR(配列番号9)、VGVEKR(配列番号56)、VTVEKR(配列番号65)、VEVEKR(配列番号55)、VPVEKR(配列番号62)、VWVEKR(配列番号67)、VKVEKR(配列番号58)、VRVEKR(配列番号63)、VVVEKR(配列番号66)、及びVIVEKR(配列番号57)KEX2領域を示す。
【図8】図8は、後に実施例5で記載されるKEX2領域配列を含む培養されたトリコデルマ・リーセイ細胞の上清のウエスタンブロット法を示す。レーン1−11は、それぞれVADEKR(配列番号70)、VAAEKR(配列番号69)、VAFEKR(配列番号72)、VAGEKR(配列番号73)、VAIEKR(配列番号74)、VANEKR(配列番号76)、VALEKR(配列番号75)、VASEKR(配列番号79)、VAREKR(配列番号78)及びVAPEKR(配列番号83)KEX2領域を示す。
【図9】図9は、後に実施例8で記載されるVAVEKR(配列番号9)KEX2領域を含む培養されたA.niger細胞の上清のSDS−PAGEゲルを示す。レーン1は、分子量マーカー、Marker 12分子量基準(インビトロジェン)を示す。レーン2、3、及び4は、3つの形質転換体を示し、それぞれ形質転換体A10、A11及びA12に対応している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義
他で定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び化学的用語は、本願発明が属する技術分野の当業者に通常理解されるものと同様の意味を有する。Singleton他、微生物学及び分子生物学事典(DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY)、第二版、John Wiley and Sons発行、ニューヨーク州(1994年)、及びHale及びMarkham、ハーパー・コリンズ生物学事典(THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY)、Harper Perennial発行、ニューヨーク州(1991年)は、本明細書で使用される多くの語の一般的意味を含む技術の一部を提供する。それ以外に、特定の語は、明確さの目的及び容易な参照を可能とするため、以下に定義される。
【0016】
細胞、核酸、タンパク質又はベクターに関連して使用される「組換え」の語は、細胞、核酸、タンパク質又はベクターが異種核酸又はタンパク質の導入により、又は野生型核酸又はタンパク質の変異により修飾されたか、又は細胞がそのように修飾された細胞に由来することを指す。従って、例えば、組換え細胞は、野生型(非組換え型)の細胞で見られない核酸又はポリペプチドを発現するか、又は他に異常に発現した、不十分に発現した、過剰に発現した、又は発現のない野生型遺伝子を発現する。
【0017】
「遺伝子」は、ポリペプチド生成を伴い、個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)と同様に、例えば、プロモーター及びターミネータ等のコード領域に前後した領域を含むDNAセグメントを示す。
【0018】
「核酸」の語は、単鎖又は二本鎖DNA、RNA、及びそれらの化学修飾を包含する。「核酸」及び「ポリヌクレオチド」の語は、本明細書で置換可能に使用され得る。遺伝子情報は変質組織であることから、2以上のコドンが、所定のアミノ酸をコードするために用いられ得る。そのため、本願発明は、所定のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを包含する。
【0019】
「DNA構成物」の語は、適した宿主でタンパク質の発現に効果的な適したコントロール配列と操作可能に連結したDNA配列を意味する。このようなコントロール配列は、転写をもたらすプロモーター、転写をコントロールするための随意のオペレーター配列、mRNA上の適したリボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結をコントロールするエンハンサー及び配列を含む。
【0020】
「融合DNA構成物」又は「融合核酸」の語は、5’末端から3’末端に共に操作可能に連結され、融合ポリペプチドをコードする多くのポリヌクレオチド配列(例えば、シグナル配列をコードするDNA分子、キャリアタンパク質をコードするDNA分子、KEX2部位をコードするDNA分子及び目的タンパク質をコードするDNA分子)を含む核酸を示す。
【0021】
「ベクター」は、1以上の細胞型へ核酸を導入するよう設計されたポリヌクレオチド配列を示す。ベクターは、クローニングベクター、発現ベクター、シャトルベクター、プラスミド、ファージ粒子、カセット等を含む。
【0022】
「発現ベクター」は、外来細胞で異種DNA断片を組み込み、発現する性質を有するベクターを示す。多くの原核生物起源及び真核生物起源の発現ベクターは、商業的に入手可能である。
【0023】
「プロモーター」は、結合RNAポリメラーゼに含まれる制御配列であり、遺伝子の転写を開始する。
【0024】
「シグナル配列」の語は、細胞からの分泌に用いられる分泌系にタンパク質を導くタンパク質のアミノ末端におけるアミノ酸の配列を示す。当該シグナル配列は、分泌前にタンパク質から切断される。特定の場合において、シグナル配列は、「シグナルペプチド」又は「リーダーペプチド」と称される。シグナル配列の定義は、機能的なものである。シグナル配列は分泌工程中に切除され、細胞外タンパク質の成熟形態はシグナル配列を欠く。
【0025】
「転写コントロール下」の語は、転写の開始又は促進に寄与する要素へ操作可能に連結されることに依存したポリヌクレオチド配列、通常DNA配列の転写として当該技術分野によく理解される。
【0026】
「翻訳コントロール下」の語は、mRNAが形成された後に起こる制御方法を示すとして当該技術分野によく理解される。
【0027】
「操作可能に連結された」の語は、複数の要素が機能的に関連するように配列された並列状態を示す。例えば、配列の転写をコントロールする場合、プロモーターは、コード配列に操作可能に連結されている。「選択マーカー」の語は、導入された核酸又はベクターを含有する宿主を容易に選択することを可能にする、宿主で発現可能なタンパク質を示す。選択可能マーカーの例は、宿主細胞で栄養性優位等の代謝性優位を与える抗微生物剤(例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、又はクロラムフェニコール)及び/又は遺伝子を含むが、これらに限られない。
【0028】
「タンパク質」及び「ポリペプチド」の語は、本明細書で置換可能に使用される。本明細書で従来の1文字又は3文字コードがアミノ酸残基に使用される。
【0029】
「キャリアタンパク質」の語は、自然に分泌された真菌ポリペプチド由来のポリペプチド配列又はそれらの機能的部分を示す。
【0030】
免疫グロブリン(Ig)と置換可能に使用される「抗体タンパク質」の語は、抗原に特異的に結合する1以上のポリペプチドを含有するタンパク質を示す。当該語は、任意のアイソタイプの抗体、Fab、Fv、scFv、Fd、Fab’、Fv、F(ab’)2抗体を含むが、これらに限られない抗原への特定の結合を保持する抗体の断片、抗原への特定の結合を保持する抗体断片、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、二機能的(bi−functional)(すなわち二特異的(bi−specific))ハイブリッド抗体及び抗体の抗原−結合部分を含む融合タンパク質及び非抗体タンパク質が含まれる。
【0031】
抗体の単量体型は、H(heavy)及びL(light)の2つの異なる型の4つのポリペプチド鎖を含む。H及びL鎖の異なる型が認識される。当該L鎖は、構造的に2つのドメイン、可変領域(VL)及び定常領域(CL)に分割される。H鎖も別個の構造ドメインに分割される。例えば、γ‐H鎖は、アミノ末端から、可変領域(VH)、定常領域(CH1)、ヒンジ領域、第二定常領域(CH2)及び第三定常領域(CH3)を含む。
【0032】
「同等な融合ポリペプチド」の語は、KEX2部位プレ配列を除き、参照融合ポリペプチドと比較して同一のアミノ酸配列を有する融合ポリペプチドを示す。複数のポリペプチドがKEX2部位プレ配列での相違を除き、同一のアミノ酸配列を有する場合、第一KEX2部位プレ配列を有する第一融合ポリペプチドは、異なるKEX2部位プレ配列を有する第二融合ポリペプチドと同等である。
【0033】
「由来する」の語は、「に起源する」、「得られた」又は「から得られる」、及び「から単離される」の語を包含する。
【0034】
「宿主株」又は「宿主細胞」は、本願発明に包含されるポリペプチド、特に、組換え融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及び発現ベクター又はDNA構成物に適した宿主を意味する。特定の実施形態において、前記宿主株は、糸状真菌細胞とすることが出来る。「宿主細胞」の語は、細胞及びプロトプラストの両方を含む。
【0035】
「糸状菌」は、Eumycotinaの一部である全ての糸状体を示す(C.J.Alexopoulus(1962年)、Introductory Mycology、ウィリー、ニューヨーク州参照)。これらの糸状菌は、キチン、グルカン、及びその他の複合多糖類よりなる細胞壁を有する栄養菌糸体によって、特徴付けられる。本発明の糸状菌は、形態学的に、生理学的に、及び遺伝学的に酵母とは区別される。糸状菌による栄養成長は、菌糸伸長によるものであり、炭素異化は、絶対嫌気性である。
【0036】
「培養」の語は、適した条件下液体又は固形培地中で微生物細胞の個体数を増加させることを示す。
【0037】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドに関して「異種」の語は、宿主細胞で自然に起こらないポリヌクレオチド又はポリペプチドを示す。いくつかの実施形態において、前記タンパク質は、商業的に重要な産業用タンパク質であり、いくつかの実施形態において、前記異種タンパク質は、治療用タンパク質である。当該語は、自然発生の遺伝子、変異遺伝子、及び/又は合成遺伝子によりコードされるタンパク質を包含することが意図される。
【0038】
ポリヌクレオチド又はタンパク質に関した「同種」の語は、宿主細胞で自然に起こるポリヌクレオチド又はタンパク質を示す。
【0039】
本願発明で使用される「回収される」、「単離される」、及び「分離される」の語は、自然に関連付けられる少なくとも1の成分から移動される化合物、タンパク質、細胞、核酸又はアミノ酸を示す。
【0040】
本願発明で細胞に関連して用いられる「形質転換された」、「安定に形質転換された」及び「遺伝子組換え」の語は、前記細胞が、そのゲノムに結合した非野生型(例えば、異種)核酸配列又は野生型(例えば、同種)核酸配列の付加的コピーを有するか、又は複数の世代に渡って維持されるエピソームプラスミドを有する。
【0041】
本明細書において、「発現」という語は、ポリペプチドが遺伝子の核酸配列に基づいて生産される工程をいう。当該工程には、転写及び翻訳の両方が含まれる。
【0042】
本明細書において、「グリコシル化」タンパク質の語は、タンパク質上の特定のアミノ酸残基に付加されたオリゴ糖分子を有するタンパク質を意味する。
【0043】
「非グリコシル化」タンパク質は、タンパク質に付加されるオリゴ糖分子を有していないタンパク質をいう。
【0044】
細胞への核酸配列の挿入の文脈で「導入された」の語は、「トランスフェクション」、又は「形質転換」又は「形質導入」を意味し、及び真核又は原核細胞への核酸配列を組み込むことを含む。ここで前記核酸配列は、細胞ゲノム(例えば、染色体、プラスミド、プラスチド、又はミトコンドリアDNA)へ組み込まれるか、自律レプリコンへ転化されるか、又は一時的に発現され得る(例えば、トランスフェクトmRNA)。
【0045】
「KEX2」の語は、IUBMB酵素命名法に従ってEC3.4.21.61として定義され、活性を有するカルシウム依存的エンドペプチダーゼを示す。KEX2は、タンパク質分泌の間、基本アミノ酸対のC−末端に直結するペプチド結合(KEX2切断部位)を切断する。
【0046】
「KEX2領域」の語は、キャリアタンパク質のC−末端と融合ポリペプチド中の目的タンパク質のN−末端との間に位置する隣接した4から8のアミノ酸残基領域を示す。前記KEX2領域は、KEX2部位及び前記KEX2部位プレ配列を含む。
【0047】
「KEX2部位」の語は、タンパク質中の2のアミノ酸KEX2切断モチーフを示す。KEX2部位は、2の隣接する基本アミノ酸(例えば、リジン、ヒスチジン及び/又はアルギニン)を任意の順序(例えば、KK、RR、KR又はRK)で含有する。
【0048】
「KEX2部位プレ配列」の語は、KEX2部位の直前(すなわち、N−末端に直結した)2から6の隣接するアミノ酸[(X)n、ここでnは2から6]を示す。例えば、KEX2領域がVAVEKRとして定義される場合、「KR」モチーフは前記領域のKEX2部位、nは4であり、前記「VAVE」モチーフは前記領域のKEX2部位プレ配列に対応する。
【0049】
「変異体」の語は、参照タンパク質と比較して1以上の異なるアミノ酸を含有するタンパク質の領域を示す。
【0050】
「分泌タンパク質」の語は、タンパク質分泌の間、細胞から放出されるポリペプチドの領域を示す。いくつかの実施形態において、前記分泌タンパク質は、本願発明に係る組換え融合ポリペプチドから放出又は切断されるタンパク質である。
【0051】
「分泌」の語は、宿主細胞における膜から細胞外スペース及び周囲の培地へのタンパク質の選択的移動を示す。「決定」、「測定」、「評価(evaluating)」、「評価(assessing)」及び「分析」の語は、本明細書で置換可能に使用され、測定の任意の形態を示し、要素の存在又は非存在の決定を含む。これらの語は、定量的及び/又は定性的測定の両方を含む。評価は、相対的又は絶対的であることが出来る。
【0052】
「の存在を評価する」は、そのものの存在又は非存在の決定と同様に存在するものの量の決定を含む。
【0053】
他の用語の定義は、明細書を通じて記載され得る。
【0054】
発明の詳細な記載
典型的な実施形態がより詳細に記載される前に、本願発明は、記載される所定の実施形態に限定されず、当然に多様化され得ることが理解される。本願発明の範囲は、添付の請求項によってのみ限定されることから、本明細書で使用される専門用語は、所定の実施形態を記載する目的のみで用いられるものであり、限定することを意図しない。
【0055】
数値範囲が与えられた場合、その数値範囲の上限値と下限値の間に介在する数値の全てが、文脈から明確に別段の理解が得られない限り、下限値の単位の十分の一まで、本明細書に具体的に開示される。所定の数値範囲内の一定の数値又は介在数値と他の一定の数値又は介在数値の間の狭い数値範囲も全て本発明に含まれる。これらの狭い範囲の上限及び下限数値は、独立的にその狭い範囲に含まれ得る本発明の範囲となり得るか、又は範囲から除外される。また、上限、下限のいずれか又は両方が前記狭い範囲に含まれるか又は含まれない場合であっても、特別に除外される場合を除いて、これらの狭い範囲を含む各範囲も本願発明の中に包含される。記載される範囲が、上限、下限の一方又は両方の値を含む場合、これらのいずれか又は両方の値を除外する範囲も、本願発明に含まれる。
【0056】
ここで、典型的及び好ましい方法及び構成要素が記載されるが、本明細書で記載される方法及び構成要素と類似又は同等な任意の方法及び構成要素が、本願発明に係る実施又は試験において使用され得る。本明細書で言及される全ての刊行物は、当該刊行物の引用に関連した方法及び/又は構成要素を開示又は記載するものとして参照により本明細書に組み込まれる。
【0057】
本願発明及び添付される請求項で使用される単数形(英文で「a」、「an」及び「the」)は、文脈で明確に指示されない限り、複数の対象を含む。従って、例えば、「一遺伝子」の言及は、複数のこれらの候補物質を含み、「細胞」の言及は、1以上の細胞及び当業者に知られるそれらの同等物等の言及を含む。
【0058】
本明細書で開示される刊行物は、専らそれらの本願出願前に開示があったとの想定のみに基づいて記載されている。本明細書に記載されるいかなる事項も、本発明がそのような刊行物より後に出願されたことを認めるものと解釈されてはならない。さらに、提供される発行物の日付は、実際の公開日と異なる可能性があり、実際の公開日は別途確認を要するものである。
【0059】
融合ポリペプチド−
上述の通り、対象融合ポリペプチドは、a)シグナル配列、b)キャリアタンパク質、c)i)aKEX2部位及びii)KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列を含むKEX2領域、及びd)目的タンパク質を含む。
【0060】
図1は、本願発明に係る対象融合ポリペプチドを図解する。対象ポリペプチドの各部位(すなわち、「シグナル配列」、「キャリアタンパク質」、「KEX2領域」及び「目的タンパク質」)は、専ら明快さ及び便宜のために表示する。一般的に分泌中に切断されるN−末端領域及び分泌されるC−末端領域を含有することから、対象融合ポリペプチドは、「プロ(pro)タンパク質」又は「前駆体タンパク質」として言及される。
【0061】
シグナル配列及びキャリアタンパク質−
対象融合ポリペプチドのシグナル配列は、糸状真菌細胞からのタンパク質分泌を促進する任意のシグナル配列とすることが出来る。所定の実施形態において、当該対象融合ポリペプチドは、融合タンパク質が生成される糸状細胞から多く分泌されたことで知られるタンパク質に用いるシグナル配列を含むことが出来る。当該使用されるシグナル配列は、融合ポリペプチドが生成される細胞の内因性又は非内因性であるとすることが出来る。一定の態様においては、前記シグナル配列は、N−末端でシグナル配列を含有する「キャリア」を含むことができ、当該キャリアは、細胞内因性であり、細胞によって効率的に分泌されるタンパク質の少なくともN−末端の一部となる。
【0062】
適したシグナル配列及びキャリアは、当該技術分野で知られている(例えば、Ward他、Bio/Technology1990年8:435−440ページ及びPaloheimo他、Applied and Environmental Microbiology2003年69:7073−7082ページ参照)。適したシグナル配列及びキャリアタンパク質の例は、セロビオ加水分解酵素I、セロビオ加水分解酵素II、エンドグルカナーゼI、II及びIII、α−アミラーゼ、アスパルチルプロテアーゼ、グルコアミラーゼ、フィターゼ、マンナナーゼ、α及びβグルコシダーゼ、ウシキモシン、ヒトインターフェロン及びヒト組織プラスミノーゲン活性剤のシグナル配列及びキャリアタンパク質及びGwynne他、(1987)Bio/Technology5:713−719ページにより記載されるような合成コンセンサス真核シグナル配列を含む。
【0063】
いくつかの実施形態において、トリコデルマ(例えばトリコデルマ・リーセイ)が宿主細胞として使用される場合、トリコデルマ・リーセイマンナナーゼI(Man5A、又はMANI)、トリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素II(Cel6A又はCBHII)、エンドグルカナーゼI(Cel7b又はEGI)、エンドグルカナーゼII(Cel5a又はEGII)、エンドグルカナーゼIII(Cel12A又はEGIII)、キシラナーゼI又はII(XynIIa又はXynIIb)又はトリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素I(Cel7a又はCBHI)のシグナル配列又はキャリアが、融合ポリペプチドに使用され得る。
【0064】
他の実施形態において、アスペルギルス(例えばA.niger)が宿主細胞として使用される場合、前記A.nigerグルコアミラーゼ(GlaA)又はアルファアミラーゼのシグナル配列又はキャリアは、融合ポリペプチドに使用され得る。Aspergillus niger及びAspergillus awamoriグルコアミラーゼは、同一のアミノ酸配列を有する。当該酵素の2つの形態は、一般的に培養上清で認められる。GAIは、全長形態(アミノ酸残基1−616)であり、GAIIは、アミノ酸残基1−512を含む天然のタンパク質分解断片である。GAIは、伸張されたリンカー領域により連結される2つの分離ドメインとして折り畳まれることが知られている。2つのドメインは、471残基の触媒ドメイン(アミノ酸1−471)及び108残基のでんぷん結合ドメイン(アミノ酸509−616)で、この2つのドメイン間のリンカー領域は36残基(アミノ酸472−508)である。GAIIは、でんぷん結合ドメインを欠く。Libby他、(1994年)Protein Engineering7:1109−1114ページを参照にされたい。いくつかの実施形態において、キャリアタンパク質として使用され、シグナル配列を含むグルコアミラーゼは、アスペルギルス又はトリコデルマグルコアミラーゼの触媒ドメインと95%、96%、97%、98%及び99%より多い配列同一性を有する。「触媒ドメイン」の語は、タンパク質の触媒活性を有するタンパク質のアミノ酸配列の構造部分又は領域を示す。
【0065】
特定の実施形態において、前記シグナル配列及び前記キャリアタンパク質は同じ遺伝子から得られる。いくつかの実施形態において、前記シグナル配列及び前記キャリアタンパク質は異なる遺伝子から得られる。
【0066】
キャリアタンパク質は、分泌ポリペプチドの成熟配列の全部又は一部を含み得る。いくつかの実施形態において、全長分泌ポリペプチドが使用される。しかし、分泌ポリペプチドの機能部分が使用され得る。本願発明で使用される、分泌ポリペプチド又は文法上同等物の「部分」は、端を切断された(truncated)分泌ポリペプチドであり、切断されたにも関わらず、正常な構造に折り畳まれる能力を保持する分泌ポリペプチドである。
【0067】
いくつかの場合において、分泌ポリペプチドの切断(truncation)は、機能的タンパク質が生物学的機能を保持することを意味する。いくつかの実施形態において、分泌ポリペプチドの前記触媒ドメインが使用されるが、他の機能的ドメイン、例えば基質結合ドメイン等も使用され得る。一の実施形態において、グルコアミラーゼが、前記キャリアタンパク質(すなわち、Aspergillus nigerからのグルコアミラーゼ)として使用された場合、好ましい機能的部分は、酵素の触媒ドメインを保持し、アミノ酸1−471を含む(WO03089614、例えば、実施例10参照)。他の実施形態において、CBHIが、キャリアタンパク質(すなわち、トリコデルマ・リーセイからのCBHI)として使用された場合、好ましい機能的部分は、酵素の触媒ドメインを保持する。WO05093073の図2の配列番号1を参照すると、ここでトリコデルマ・リーセイCBHIシグナル配列、トリコデルマ・リーセイCBHI触媒ドメイン(触媒コア又はコアドメインとしても呼ばれる)及びトリコデルマ・リーセイCBHIリンカーをコードする配列が開示される。いくつかの実施形態において、シグナル配列を含めた、CBHIキャリアタンパク質は、WO05093073の図2の配列番号1と95%、96%、97%、98%及び99%より多い配列同一性を有する。
【0068】
一般に、キャリアタンパク質が切断されたタンパク質である場合、C−末端が切断されている(すなわち、無傷のN−末端を含有する)。或いは、前記キャリアタンパク質は、N−末端が切断されるか、又は随意に両端が切断され、機能的部分が残される。一般的に、キャリアタンパク質を含む分泌タンパク質のこのような部分は、50%より多い、70%より多い、80%より多い及び90%より多い分泌タンパク質、好ましくは分泌タンパク質のN−末端部分を含む。いくつかの実施形態において、前記キャリアタンパク質は、触媒ドメインに加えてリンカー領域を含む。本明細書での実施例の融合構成物において、CBHIタンパク質のリンカー領域部分の一部をキャリアタンパク質に使用した。
【0069】
本願発明で使用される、分泌配列として機能的なシグナル配列を含む第一アミノ酸配列は、第一DNA分子によりコードされる。キャリアタンパク質を含む第二アミノ酸配列は、第二DNA配列によりコードされる。しかし、上述の通りシグナル配列及びキャリアタンパク質は、同じ遺伝子から得ることが出来る。
【0070】
KEX2領域−
KEX2領域は、KEX2部位(B1B2)及び前記KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列((X)n=2−6)を含む。いくつかの実施形態において、KEX2領域は、in vivoで融合ポリペプチドから目的タンパク質のアミノ末端で切断(分離)する手段を提供する。本願発明に包含される融合ポリペプチドのKEX2領域は、キャリアタンパク質と目的タンパク質との間に自然発生する領域ではない。
【0071】
KEX2領域のC−末端で起こるKEX2切断部位は、野生型糸状真菌プロテアーゼ(例えば、野生型アスペルギルスKEXB様プロテアーゼ又は野生型トリコデルマKEX2プロテアーゼ)によって切断され得る。目的タンパク質は、KEX2部位の下流での部位に直結する箇所において本願発明にかかる融合ポリペプチドから切断される。
【0072】
KEX2部位は、アミノ酸配列「B1B2」を含有し、ここでB1及びB2は、それぞれ独立に基本アミノ酸である。好ましくは、KEX2部位は、KK、KR、RK又はRRのいずれか、好ましくはKR、を含む。
【0073】
KEX2部位プレ配列は、アミノ酸配列(X)n=2−6を含み、ここでXは、任意のアミノ酸及びnは、2から6、好ましくは4である。本明細書で定義されるKEX2領域は、本願発明に係る融合ポリペプチドを含むキャリアタンパク質において前記キャリアタンパク質のC−末端では自然に見られない。いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、キャリアタンパク質のC−末端上にある自然に発生する隣接する(X)n=2−6アミノ酸残基と異なるアミノ酸配列である。しかし、隣接する(X)n=2−6アミノ酸残基は、キャリアタンパク質の他の部分で見られることがあり、KEX2部位(B1B2)と連結され得るが、前記KEX2領域は、目的タンパク質のN−末端とは、付着しない。
【0074】
いくつかの実施形態において、KEX2部位プレ配列が、X4X3X2X1B1B2として定義される場合、
a)X1、X2及びX3はGではないか、
b)X2及びX3がG、X4がA、又はX3がSである場合、X1はSではないか、
c)X3がA及びX2がSである場合、X4がTではないか、又は
d)X1はDではない。
【0075】
いくつかの好ましい実施形態において、KEX2領域は、X4X3X2X1B1B2であり、ここでB1B2は、KRであり、さらに
a)X1、X2及びX3はGではないか、
a)X2及びX3はG、X4はA、又はX3はSである場合、X1はSではないか、
b)X3はA及びX2はSである場合に、X4はTではないか、又は
c)d)X1はDではない。
【0076】
他の実施形態において、KEX2部位プレ配列はX4X3X2X1と定義され、ここで
a)X4はV、S、N、L、又はKであり、
a)X3はA、V、D、W、E又はPであり、
b)X2はV、I、L又はFであり、さらに
c)X1はE、S、T又はYである。
【0077】
さらに他の実施形態において、KEX2部位プレ配列はX4X3X2X1として定義され、ここで、
a)X4はV、N、又はLであり、
a)X3はA、V、D、W、E又はPであり、
b)X2はV、I、L又はFであり、さらに
c)X1はE又はYである。
【0078】
さらに別の実施形態において、前記X4X3X2X1KRより成るKEX2領域は、X4がVであり、X3がAであり、X2がVであり、X1がE又はY及びそれらの組み合わせである群から選択され得る。
【0079】
いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、VAVE(配列番号84)、NVIS(配列番号85)、SDVT(配列番号86)、VAVY(配列番号87)、LAVE(配列番号88)、KAVE(配列番号89)、VAIE(配列番号90)、VALE(配列番号91)、VAFE(配列番号92)、VWVE(配列番号93)、VEVE(配列番号94)、及びVPVE(配列番号95)から成る群より選択され得る。
【0080】
いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、KSRS(配列番号109)、SRIS(配列番号111)、GGGS(配列番号110)、TSTY(配列番号96)、ASIS(配列番号97)、ATAS(配列番号98)、TASQ(配列番号99)、TASL(配列番号100)、SVIS(配列番号101)、NVIS(配列番号85)、GGG、TSRD(配列番号102)、SPMD(配列番号106)、DLGE(配列番号107)、又はTPTA(配列番号108)ではない。
【0081】
好ましいKEX2領域は、上述の通りX4X3X2X1B1B2として定義される一方、前記KEX2部位プレ配列は、6アミノ酸残基を含むことができ、いくつかの実施形態において、前記KEX2領域は、1以上のアミノ酸残基を含むことが出来る。他の実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、たったの2又は3アミノ酸残基(X3X2X1B1B2又はX2X1B1B2)のみを含むことが出来る。この実施形態において、
a)X1、X2及びX3はG(例えばGGGB1B2又はGGB1B2)でなく、
a)X2及びX3はG、又はX3はS(例えばSX2S又はSGS)である場合、X1はSではなく、さらに
b)X1はDではない。
【0082】
いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、KEX2部位プレ配列を欠く同等な融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の切断及び/又は分泌と比較して促進された宿主細胞由来の目的タンパク質の切断及び/又は分泌を提供する。
【0083】
いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、最適化されたKEX2部位プレ配列である。最適化されたKEX2プレ配列は、本願発明に包含されるが、他の変異体KEX2部位プレ配列と比較してより多い又はより効率的な宿主細胞からの切断又は分泌を提供するKEX2プレ配列である。
【0084】
いくつかの実施形態において、本願発明に包含される前記融合ポリペプチドは、KEX2プレ配列として最適化されたKEX2プレ配列を含む。前記最適化されたKEX2プレ配列は、任意のシグナル配列、分泌タンパク質由来の任意のキャリア領域、任意のKEX2部位、又は任意の目的タンパク質と共に使用され得る。最適化されたKEX2部位プレ配列を含有する対象KEX2領域は、非自然発生であることが出来る。特定の実施形態において、最適化されたKEX2部位プレ配列を含有する対象KEX2領域は、糸状真菌細胞から分泌された任意のタンパク質では見られない。
【0085】
目的タンパク質−
前記目的タンパク質(又は前記キャリアタンパク質)は、糸状真菌細胞から分泌されることが出来るタンパク質の任意の部分であることができ、当該タンパク質は、いわゆる産業用酵素、治療用タンパク質、ホルモン、構造タンパク質、プラズマタンパク質、食品添加物及び食料等を含む。目的タンパク質は、異種又は同種タンパク質とすることができ、それぞれ真菌発現宿主に関して同種又は異種であり得る部分的又は完全なポリペプチドの組み合わせを含むハイブリッドポリペプチドを含むことが出来る。前記目的分泌タンパク質は、細菌(例えばバチルス属及びシュードモナス属)、真菌(例えばアスペルギルス、トリコデルマ、フミコーラ、又はケカビ種)、ウイルス(例えば肝炎ウイルスA又はB又はアデノウイルス)、哺乳類(例えばヒト又はマウス)、及び植物源に由来することが出来る。目的タンパク質は、遺伝子操作された変異と同様に自然発生のタンパク質の対立遺伝子変異を含む。
【0086】
一の実施形態において、前記目的タンパク質は、例えば、でんぷん加水分解α−アミラーゼ、アルカリ性α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、セルラーゼ等のカルボヒドラーゼ、デキストラナーゼ、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペントサナーゼ(pentosanase)、キシラナーゼ、インベルターゼ、ラクトース、ナリンガナーゼ(naringanase)、ペクチナーゼ又はプルラナーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、ブロメライン、フィシン、中性プロテアーゼ、パパイン、ペプシン、ペプチダーゼ、レンネット、レンニン、キモシン、ズブチリシン、サーモリシン、アスパラギン酸プロテイナーゼ、又はトリプシン等のプロテアーゼ、グルコアミラーゼ又はアルファアミラーゼ等の粒状でんぷん加水分解酵素、トリグリセリダーゼ、ホスホリパーゼ、プレガストリックエステラーゼ、ホスファターゼ、フィターゼ、アミダーゼ、イミノアシラーゼ、グルタミナーゼ、リゾチーム、又はペニシリンアシラーゼ等のリパーゼ又はエステラーゼ、グルコース異性体等の異性体、例えば、ラッカーゼ等のフェノール酸化酵素、例えば、アミノ酸オキシダーゼ、カタラーゼ、クロロペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、水酸化ステロイドデヒドロゲナーゼ又はペルオキシダーゼ等の酸化還元酵素、アセト乳酸デカルボキシラーゼ、アスパラギン酸β−デカルボキシラーゼ、フマラーゼ又はヒスタダーゼ(histadase)等のリアーゼ、サイクロデキストリングリコシルトランスフェラーゼ又はアシルトランスフェラーゼ等のトランスフェラーゼ、又はリガーゼ等の酵素とすることが出来る。所定の実施形態において、前記タンパク質は、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、キチナーゼ、グルコアミラーゼ、アルファアミラーゼ、クチナーゼ、フィターゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、ラッカーゼ、マンノシダーゼ、ミュータン分解酵素(mutanase)、ペクチン分解酵素、ポリフェノールオキシダーゼ、リボヌクレアーゼ又はトランスグルタミナーゼとすることが出来る。
【0087】
他の実施形態において、当該目的タンパク質は、治療用タンパク質(すなわち、治療用生物学的活性を有するタンパク質)とすることが出来る。適した治療用タンパク質の例は、エリスロポエチン、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、インターフェロン−o等のサイトカイン、及び顆粒球−CSF、GM−CSF、因子VIII、因子IX、及びヒトタンパク質C等の凝固因子、アンチトロンビンIII、トロンビン、可溶性IgE受容体α鎖、免疫グロブリンG(IgG)、IgG断片、IgG融合体、IgM又はIgA等の免疫グロブリン、インターロイキン、ウロキナーゼ、キマーゼ、及び尿素トリプシン抑制剤、IGF−結合タンパク質、表皮成長因子、成長ホルモン−放出因子、アネキシンV融合タンパク質、アンギオスタチン、血管内皮成長因子−2、骨髄前駆抑制因子−1、破骨細胞分化抑制因子、α−1−抗トリプシン、α−胎児タンパク質、DNase II、ヒトプラスミノーゲンのクリングル3、グルコセレブロシダーゼ、TNF結合タンパク質1、卵胞刺激ホルモン、細胞傷害Tリンパ球関連抗原4−Ig、膜貫活性剤及びカルシウムモジュレータ及びサイクロフィリンリガンド、可溶性TNF受容体Fc融合体、グルカゴン様タンパク質1及びIL−2受容体作用薬を含む。
【0088】
いくつかの好ましい実施形態において、前記目的タンパク質は、クラスG、A、M、E又はDのいずれかの免疫グロブリンである。(米国特許第4,816,567号及びその免疫グロブリン構造に関する引用文献参照)。他の好ましい実施形態において、モノクローナル抗体等の前記抗体タンパク質は、H又はL鎖及びそれらの断片を含む。別の実施形態において、ヒト化抗体は、目的タンパク質(例えばトラスツズマブ(ハーセプチン))としての所定の目的物である。いくつかの好ましいモノクローナル抗体断片の具体例は、H鎖の切断型であり、例えば、H鎖(Fd)がヒンジ領域及びCH2及びCH3ドメインを欠くFab断片、H鎖がヒンジ領域を含むが、CH2及びCH3ドメインを欠くFab’断片、及びヒンジ領域に連結したFab部分を含むF(ab’)2断片等の一部の定常領域を除去する。(Verma他、(1998年)J.Immunological Methods216:165−181ページ及びPennell及びEldin(1998年)Res.Immunol.149:599−603ページ)。また、目的物は、単鎖抗体(ScFv)及び単一ドメイン抗体(例えば、ラクダ抗体)である。
【0089】
いくつかの特に好ましい実施形態において、本願発明に係る融合ポリペプチドは、操作可能な結合で、シグナル配列、キャリアタンパク質、KEX2領域及び以下の目的タンパク質を含む。
【0090】
融合DNA構成物及びベクター−
いくつかの実施形態において、本願発明は、上述の融合ポリペプチドをコードする融合DNA構成物であって、プロモーター、シグナル配列をコードする第一DNA分子、キャリアタンパク質をコードする第二DNA分子、KEX2部位及び前記KEX2部位の5’末端に直結したKEX2部位プレ配列を含むKEX2領域をコードする第三DNA分子、及び目的タンパク質をコードする第四DNA分子を5’末端から操作可能な結合で含む融合DNA構成物を提供する。遺伝子コードが知られていることから、対象融合ポリペプチドの描写が与えられれば、これらの核酸の設計及び生成は、当業者の間で明白である。特定の実施形態において、前記核酸は所定の宿主細胞で融合ポリペプチドの発現のためにコドン最適化(codon optimized)される。コドン使用表は多くの糸状菌種に有用なことから、対象融合ポリペプチドをコードするコドン最適化された核酸の設計及び生成は当業者に明白である。
【0091】
プロモーター−
糸状真菌宿主細胞で対象核酸の転写を導くのに適したプロモーターの例は、Aspergillus oryzae TAKAアミラーゼ、Rhizomucor mieheiアスパラギン酸プロテイナーゼ、Aspergillus niger中性アルファ−アミラーゼ、Aspergillus niger酸性安定アルファ−アミラーゼ(Korman他(1990年)Curr.Genet.17:203−212ページGines他、(1989年)Gene79:107−117ページ)、Aspergillus niger又はAspergillus awamoriグルコアミラーゼ(glaA)(Nunberg他、(1984年)Mol.Cell Biol.4:2306−2315ページ、Boel E.他、(1984年)EMBO J.3:1581−1585ページ)、Rhizomucor mieheiリパーゼ、Aspergillus oryzaeアルカリ性プロテアーゼ、Aspergillus oryzaeトリオースリン酸異性体、Aspergillus nidulansアセトアミダーゼ(Hyner他、(1983年)Mol.Cell Biol.3:1430−1439ページ)、Fusarium venenatumアミログルコシダーゼ、Fusarium oxysporumトリプシン様プロテアーゼ(WO96/00787)、トリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素I(Shoemaker他(1984年)欧州特許公開第0137280号)、トリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素II、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼI、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼII、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼIII、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼIV、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼV、トリコデルマ・リーセイキシラナーゼI、トリコデルマ・リーセイキシラナーゼII、トリコデルマ・リーセイベータ−キシロシダーゼ、さらに、NA2−tpiプロモーター(Aspergillus niger中性アルファ−アミラーゼ及びAspergillus oryzaeトリオースリン酸異性体の遺伝子に由来するプロモーターのハイブリッド、及びそれらの変種、切断されたプロモーター、及びハイブリッドプロモーターの遺伝子から得られる。Yelton他、(1984年)Proc.Natl.Acad.Sci.米国81:1470−1474ページ、Mullaney他、(1985年)Mol.Gen.Genet.199:37−45ページ、Lockington他、(1986年)Gene33:137−149ページ、Macknight他、(1986年)Cell46:143−147ページ、Hynes他、(1983年)Mol.Cell Biol.3:1430−1439ページも参照にされる。SV40早期プロモーター(Barclay他(1983年)Molecular and Cellular Biology3:2117−2130ページ)等のより精度の高い真核プロモーターも有用である。プロモーターは、構成的又は誘導的プロモーターとすることが出来る。いくつかの好ましいプロモーターは、トリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素I又はII、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼI、II又はIII、及びトリコデルマ・リーセイキシラナーゼIIを含む。
【0092】
ベクター−
対象ポリヌクレオチドは、例えば、ファージ、プラスミド、ウイルス、又はレトロベクター等のベクターで提供され得る。特定の実施形態において、前記ベクターは、糸状真菌細胞で対象融合ポリペプチドを発現する発現ベクターとすることが出来る。組換えタンパク質の発現に用いられるベクターは、当該技術分野でよく知られている(Ausubel他、分子生物学における簡易プロトコール(Short Protocols in Molecular Biology)、第3版、Wiley&Sons出版、1995年、Sambrook他、分子クローニング:研究マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、第二版、(1989年)Cold Spring Harbor出版、ニューヨーク州)。
【0093】
本願発明に係る融合DNA構成物は、例えば、欧州特許公開第0215594号等に一般的に記載されるような公知技術を用いて構成され得る。
【0094】
目的タンパク質(例えば、免疫グロブリン)をコードする天然又は合成ポリヌクレオチド断片は、糸状真菌細胞で導入及び複製が可能な異種核酸構成物又はベクターに組み込まれることが出来る。
【0095】
本願発明に包含されるDNA構成物又はより具体的な融合DNA構成物が生成された場合、それは当該技術分野で知られる任意の数のベクターに組み込まれ得る。好ましいDNA構成物はプロモーター配列を含む一方、いくつかの実施形態において前記ベクターは、形質転換されるために、リボソーム結合部位、転写開始及び終了配列、ターミネータ配列、ポリアデニル化シグナル、エンハンサー及び又は活性剤等の宿主で機能的な他の制御配列を含む。いくつかの実施形態において、目的タンパク質及びKEX2領域をコードするポリヌクレオチドは、適切な制限エンドヌクレアーゼ部位で標準的処理により、プロモーター、シグナル配列及びキャリアタンパク質を含むベクターへ挿入される。このような処理及び関連サブクローニング処理は、当業者の知識の範囲内であると思われる。
【0096】
転写が終了するために発現宿主により認識されるターミネータ配列は、発現する融合タンパク質をコードする融合DNA構成物の3’末端に操作可能に連結され得る。当業者は、糸状菌と共に使用される多様なターミネータ配列をよく認識している。非限定的な例は、Aspergillus nidulans trpC遺伝子(Yelton M.他、(1984年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA81:1470−1474ページ)由来のターミネータ又はAspergillus nigerグルコアミラーゼ遺伝子(Nunberg他(1984年)Mol.Cell.Biol.4:2306−2353ページ)由来のターミネータ又はトリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素I遺伝子由来のターミネータを含む。
【0097】
ポリアデニル化配列は、ポリアデノシン残基を転写されたmRNAに添加するため、転写物が発現宿主により認識される場合のDNA配列である。例は、Aspergillus nidulans trpC遺伝子(Yelton M.他、(1984年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA81:1470−1474ページ)又はAspergillus nigerグルコアミラーゼ遺伝子(Nunberg他(1984年)Mol.Cell.Biol.4:2306−2315ページ)、A.oryzae又はA.nigerアルファアミラーゼ遺伝子及びRhizomucor mieheiカルボキシルプロテアーゼ遺伝子由来のポリアデニル化配列である。いずれの真菌ポリアデニル化配列も、本願発明において機能的であることが多い。
【0098】
別の実施形態において、前記融合DNA構成物を含む融合DNA構成物又はベクターは、選択可能マーカー遺伝子を含有し、形質転換された宿主細胞の選択を可能にする。選択マーカー遺伝子は、当該技術分野で知られ、使用する宿主細胞によって変更される。選択可能マーカーの例は、抗微生物耐性を与えるもの(例えばハイグロマイシン、ブレオマイシン、クロロアンフェニコール(chloroamphenicol)及びフレオマイシン)を含むがそれらに限られない。栄養選択マーカー等の代謝優位を与える遺伝子も本願発明で使用される。いくつかのこれらのマーカーは、amdSを含む。栄養要求性欠損を補完する遺伝子をコードする配列も、選択マーカーとして使用され得る(例えば、pyr4欠損A.nidulans、A.awamori又はトリコデルマ・リーセイのpyr4補完(complementation)及びargB欠損株のargB補完)。Kelley他、(1985年)EMBO J.4:475−479ページ、Penttila他、(1987年)Gene61:155−164ページ及びKinghorn他(1992年)糸状菌の応用分子遺伝学(Applied Molecular Genetics of Filamentous Fungi)、Blackie Academic and Professional、Chapman and Hall出版、ロンドンが参考にされる。
【0099】
宿主細胞−
本願発明に係る融合DNA構成物を含む宿主細胞も提供される。特定の実施形態において、前記宿主細胞は、糸状真菌宿主細胞とすることが出来る。いくつかの実施形態において、前記細胞は、GRASの地位である、すなわち、FDAにより安全であると認証された(Generally Recognized as Safe)タンパク質の生成に使用された経歴を有する株の糸状真菌細胞であることが出来る。所定の実施形態において、前記対象真菌細胞は、以下の種の細胞であり得る。すなわち、トリコデルマ属(例えば、トリコデルマ・リーセイ(従来T.longibrachiatumとして分類され、現在Hypocrea jecorinaとしても知られている)、Trichoderma viride、Trichoderma koningii、及びTrichoderma harzianum))、ペニシリン属種:フミコーラ属種(例えば、Humicola insolens及びHumicola griseα)、クリソスポリウム属種(例えば、C.lucknowense)、グリオクラディウム属種、アスペルギルス属種(例えば、Aspergillus oryzae、Aspergillus niger、Aspergillus nidulans、Aspergillus kawachi、Aspergillus aculeatus、Aspergillus japonicus、Aspergillus sojae、及びAspergillus awamori)、フザリウム属種、ケカビ属種、アカパンカビ属種、ボタンタケ属種、又はエメリセラ(Emericella)属種(Innis他、(1985年)Sci.228:21−26ページ)等である。いくつかの実施形態において、対象真菌細胞は、Aspergillus oryzae、ATCC11490、ATCC22342、ATCC44733、ATCC14331、NRRL3112を含むAspergillus nigerの株及びそれらに由来する株であることが出来る。いくつかの実施形態において、対象真菌細胞は、RL−P37(Sheir−Neiss他(1984年)Appl.Microbiol.Biotechnology20:46−53ページ)の機能的同等物を含むトリコデルマ属株であることが出来る。有用なトリコデルマ宿主株は、NRRL15709、ATCC13631、ATCC26921(QM9414)ATCC32098、ATCC32086、及びATCC56765(RUTC−30)を含む。
【0100】
いくつかの実施形態において、宿主細胞は、野生型遺伝子が欠損又は不活性化されたものとすることが出来る。いくつかの実施形態において、好ましい宿主細胞は、不活性化されたプロテアーゼ遺伝子(例えばアスパルチルプロテアーゼ)を有し、Berka他(1990年)Gene86:153−162ページ及び米国特許第6,509,171号が参照にされる。いくつかの実施形態において、好ましい宿主細胞は、不活性化されたセルラーゼ遺伝子(例えばcbh1、cbh2及びegl1、及びegl2)を有し、WO05/001036で開示されるトリコデルマ・リーセイのクワド欠損(quad deleted)株が参照される。
【0101】
上述の融合DNA構成物は、例えば、宿主細胞の核ゲノムに存在するか、又は宿主細胞で複製するプラスミドに存在することが出来る。
【0102】
形質転換−
DNA構成物又はベクターの宿主細胞への導入は、形質転換、エレクトロポレーション、核マイクロインジェクション、形質導入、トランスフェクション、(例えば、リポフェクション介在及びDEAE−デキストリン介在トランスフェクション)、カルシウムリン酸DNA沈殿物とのインキュベーション、DNAコートマイクロ入射核の高速度砲撃、及びプロトプラスト融合等の技術を含む。一般的な形質転換技術が当該技術分野で知られている(例えば、上記Ausubel他、(1987年)、第9章、及び上記Sambrook(1989年)及びCampbell他、(1989年)Curr.Genet.16:53−56ページ参照)。WO05/001036、米国特許第6,022,725号、米国特許第6,103,490号、米国特許第6,268,328号、[公開米国特許出願第20060041113号、第20060040353号、第20060040353号、及び第20050208623号]も参照にされ、これらの発行物は参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
トリコデルマ属に組換えで導入されたタンパク質の発現は、米国特許第6,022,725号、米国特許第6,268,328号、Harkki他(1991年)、Enzyme Microb.Technol.13:227−233ページ、Harkki他、(1989年)Bio Technol.7:596−603ページ、欧州特許第244,234号、第215,594号、及びNevalainen他、「トリコデルマ属の分子生物学及び同異種両方の遺伝子発現への応用(The Molecular Biology of Trichoderma and its Application to the Expression of Both Homologous and Heterologous Genes)」、MOLECULAR INDUSTRIAL MYCOLOGY、Leong及びBerka編集、Marcel Dekker社出版、ニューヨーク州(1992年)129−148ページ)に開示される。Cao他、(2000年)Protein Sci.9:991−1001ページ、Yelton他、(1984年)Proc.Natl.Acad.Sci.81:1470−1471ページ、米国特許第6,590,078号、及びBerka他、(1991年)が参照にされ、アスペルギルス株の形質転換には、酵素生物工学の応用(Applications of Enzyme Biotechnology)、Kelly及びBaldwin編集、Plenum発行、ニューヨーク州も参照にされる。
【0104】
一の実施形態において、トリコデルマ属種の形質転換への調整は、真菌菌糸からのプロトプラストの調整を含む(Penttila他、(1987年)Gene61:155−164ページ参照)。いくつかの実施形態において、前記菌糸体は発芽増殖性胞子から得られる。
【0105】
一般的に、細胞は、生理塩及び栄養素を含有する標準的培地で培養される(例えば、Pourquie,J.他、(BIOCHEMISTRY AND GENETICS OF CELLULOSE DEGRADATION)、Aubert,J.P.他編集、Academic発行、71−86ページ、1988年及びIlmen,M.他、(1997年)Appl.Environ.Microbiol.63:1298−1306ページ参照)。一般的な商業用に調製された培地(例えば、酵母麦芽エキス(YM)ブロス、Luria Bertani(LB)ブロス及びサブローデキストロース(SD)ブロスも本願発明で使用される。前記糸状真菌に用いられる好ましい培養条件は、当該技術分野で知られ、科学文献で及び/又はAmerican Type Culture Collection(ATCC)及びFungal Genetics Stock Center等の菌源から見つけることが出来る。
【0106】
いくつかの実施形態において、免疫グロブリンが目的タンパク質免疫グロブリンである場合、発現細胞は親細胞系統の培養に通常使用される条件下で培養される。一般的に、細胞は、上記Ilmen他、(1997年)で開示される等の生理塩及び栄養素を含有する標準的培地で培養される。目的レベルの免疫グロブリンを発現するまで、培養条件も標準的(例えば、25−30℃における回転式振盪培養機上の振盪フラスコでのインキュベーション)である。
【0107】
タンパク質生成方法−
糸状真菌細胞における目的タンパク質の生成方法も本願発明に包含される。いくつかの実施形態において、これらの方法は、本願発明に係る融合DNA構成物又はベクターを含む糸状宿主細胞を得る工程及び目的タンパク質の発現及び分泌を可能にする適した条件下で糸状宿主細胞を培養する工程を含む。宿主細胞の培養地(すなわち、対象宿主細胞及び成長培地を含有する組成)が、上述の融合ポリペプチドの分泌タンパク質を含有し得る一方で、いくつかの実施形態において前記目的タンパク質は、培養地から回収される。他の実施形態において、前記目的タンパク質は精製される。タンパク質は、任意の便宜的な方法により成長培地から回収され得る。
【0108】
いくつかの実施形態において、対象真菌細胞は、バッチ式又は継続的発酵条件下で培養され得る。従来のバッチ式発酵は、閉鎖系であり、ここで前記培地の組成は発酵の開始で準備が完了され、発酵中は人為的変更が行われない。従って、発酵の開始で前記培地は、目的微生物が接種される。この方法において、発酵は前記系への任意成分の追加なしに行われることが可能とされる。通常、バッチ式発酵は、炭素源の追加に関して「バッチ式」であると見なされ、pH及び酸素濃度等のコントロール因子において頻繁に試みられる。バッチ式系の代謝及びバイオマス組成は、発酵が終了する時間まで常に変化する。バッチ式培養内において、細胞は静的誘導期から対数高成長期を通り、最終的に成長が減少又は停止する静止期まで発育する。非処理の場合、静止期の細胞は最終的に死滅する。一般に、対数期の細胞は、最終生成物の生成バルク量に影響する。
【0109】
標準的バッチ式系の変形は、本願発明で使用される「流加発酵」系である。この典型的バッチ式系の変形において、前記基質は発酵が進行するにつれて徐々に添加される。異化代謝産物抑制により細胞の代謝が抑制される傾向がある場合、及び培地における基質量の制限が望ましい場合に、流加系は有益である。流加系における実際の基質濃度の測定は、困難であり、従って、pH、溶解酸素等の測定可能な因子及びCO2等の消耗気体の分圧の変化に係る基準について試算される。バッチ式及び流加発酵は一般的であり、当該技術分野に知られている。
【0110】
継続的発酵は開放系であり、指定発酵培地は継続的にバイオリアクターへ添加され、等量の条件培地が過程において同時に回収される。継続的発酵は、一般的に一定高密度での培養で維持され、細胞は主に対数期成長にある。
【0111】
継続的発酵は、細胞成長及び/又は最終生成物濃度に影響する一因子又は任意数の因子の調節(modulation)を可能にさせる。例えば、一の実施形態において、炭素源又は窒素源等の栄養素の限定は、定率で維持され、他の全てのパラメーターは、加減され得る。他の系において、成長に影響する多くの因子は、継続的に変化し得る一方、培地濁度により測定される前記細胞の濃度は一定に保たれる。継続的な系は、定常状態の成長条件を維持する。従って、培地が取り除かれたための細胞の損失は、発酵における細胞成長率とバランスが保たれるようにする。生成物の形成率を最大にする技術と同様に継続的発酵方法に用いる栄養素及び成長因子の調節方法は、公知である。
【0112】
発現及び分泌−
融合ポリペプチドをコードする融合DNA構成物を含む糸状真菌細胞における目的タンパク質の生成は、融合ポリペプチドの目的タンパク質の分泌をもたらす。菌における分泌工程の間、糖鎖は、分泌されるタンパク質に付着し、グリコシル化タンパク質を生成し得る。本願発明において、目的タンパク質(例えば、抗体)の生成は、グリコシル化又は非グリコシル化タンパク質を含み得る。
【0113】
いくつかの実施形態において、対象融合ポリペプチドの前記分泌タンパク質は一般的に、同等な(すなわち、同じ細胞型、同じ条件で成長した)糸状真菌細胞により生成されるが、KEX2部位プレ配列を欠く同等な融合ポリペプチドの目的分泌タンパク質の量より多い量で糸状真菌細胞の培養地に存在する。本願発明に係る融合ポリペプチド由来の目的タンパク質を生成する対象細胞の培養は、別の同等タンパク質を発現するが、本願発明に包含されるKEX2部位プレ配列を有さない同等な細胞培養と比較して成長培地における目的タンパク質を5%より多く、10%より多く、20%より多く、40%より多く、60%より多く、80%より多く、100%より多く、150%より多く、200%より多く、300%より多く、500%より多く、及び1000%より多く含有し得る。
【0114】
いくつかの実施形態において、目的タンパク質(例えば、全長抗体)の発現及び分泌レベルは、0.5g/Lより多い。通常1.0g/Lより多い目的タンパク質が、培養地から回収され得る。1.5、2.0及び3.0g/Lより多い再現可能なレベルが達成される。いくつかの実施形態において、目的タンパク質の発現及び分泌レベルは、10g/Lより多く、さらに20g/Lより多い。
【0115】
本願発明に係るいくつかの実施形態において、前記組換え融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の切断は、KEX2部位プレ配列を欠く同等な組換え融合ポリペプチド由来の同じ目的タンパク質の切断より多い。いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の効率で切断された融合タンパク質をもたらす。ここで、効率100%は、完全に切断された融合ポリペプチド由来の目的分泌タンパク質をもたらす。
【0116】
特定の実施形態において、タンパク質切断効率は、生じた切断量の決定、例えば、切断タンパク質量対非切断タンパク質量の決定等により算出される。一の実施形態において、タンパク質切断量は、成長培地で細胞培養の体積当たり、成長培地における切断タンパク質量対非切断融合タンパク質量の割合を決定することにより算出され得る。
【0117】
KEX2部位プレ配列又は最適化されたKEX2部位プレ配列を含有する融合ポリペプチドは、特定の実施形態において、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%又は100%の効率で切断される融合ポリペプチドをもたらす。ここで効率100%は、完全に切断された目的タンパク質である。
【0118】
他の実施形態において、前記対象融合ポリペプチドの分泌効率は、前記タンパク質を分泌する細胞の成長培地において前記融合ポリペプチドの分泌部分の量を決定することにより算出され得る。この測定は、定量的、定性的、相対的又は絶対的に行い得る。一の実施形態において、対象融合体を分泌する細胞の成長培地における分泌タンパク質の量は、最適化されたKEX2プレ配列を含有しない同等な融合ポリペプチドを生成する細胞により分泌された分泌タンパク質量より、少なくとも10%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも2倍、少なくとも5倍、又は少なくとも10倍多い。
【0119】
いくつかの実施形態において、分泌及び/又は切断の増加は、GGGB1B2で定義される基準KEX2領域に対して測定され得る。ここでB1B2はKK、KR、RK又はRR及び好ましくはKRである。1つの実施形態において、対象融合体を分泌する細胞の成長培地中の分泌タンパク質又は目的タンパク質の量は、本質的に同等な条件下、同等な宿主で同等な融合ポリペプチドにより分泌タンパク質又は分泌された目的タンパク質の量より、少なくとも10%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、及び少なくとも10倍多い。
【0120】
スクリーニング方法−
最適化されたKEX2部位プレ配列を特定するスクリーニング方法も提供される。これらの方法は、a)親融合ポリペプチドのKEX2部位プレ配列を変異し、試験ポリペプチドを生成する工程及びb)糸状真菌細胞による試験融合ポリペプチドの分泌を評価する工程を含み得る。特定の実施形態において、試験融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の分泌及び/又は切断は、親融合タンパク質の分泌及び/又は切断と比較される。所定の実施形態において、当該方法は、培養の体積当たり、成長培地で融合ポリペプチドの分泌タンパク質の量と細胞で融合ポリペプチドの分泌部分の量とを比較して評価する工程、又は成長培地で組換え融合ポリペプチドの分泌タンパク質の量を評価する工程を含む。他の実施形態において、前記方法は、成長培地で融合ポリペプチドから放出された又は切断された分泌タンパク質(目的タンパク質)の量と(例えば、キャリアタンパク質に付着した)融合ポリペプチドの型に残る分泌タンパク質の量とを比較して、評価する工程を含む。
【0121】
これらのスクリーニング分析において、前記親融合タンパク質は、図1で概略的に図解される、アミノ酸配列を有し、ここでXはアミノ酸である。特定の実施形態において、前記親融合タンパク質及び前記試験融合タンパク質は、それらのKEX2部位プレ配列を除き、同一である。親組換え融合タンパク質及び試験組換え融合タンパク質は、KEX−2部位プレ配列の1つ、2つ、3つ又は4つのアミノ酸で異なることが出来る。変異は、アミノ酸置換、挿入又は欠失とすることができ、さらに、2又は3の変異がある場合、前記変異は、隣接アミノ酸、非隣接アミノ酸、又は隣接及び非隣接アミノ酸の組み合わせとすることが出来る。
【0122】
一の実施形態において、親融合ポリペプチドの前記KEX2部位プレ配列は、変異され、それぞれ異なるKEX2部位プレ配列を含有する複数の異なる試験融合ポリペプチドを生成することができる。その後、糸状真菌細胞による前記試験融合ポリペプチド及び前記親融合ポリペプチドの分泌及び/又は切断が評価される。
【0123】
これらの方法は、一般的に知られるプロトコール(例えば、Ward他(1990年)Bio/Technology8:435−440ページ及びSpencer(1998年)Eur.J.Biochem.258:107−112ページ等参照)を用いて実施され得る。当該プロトコールでは、ベクターは細胞へ導入され、前記細胞は培養され、前記細胞培養の細胞タンパク質の存在が分析される。一の実施形態において、本願発明に係る融合体をコードする組換え核酸(その構造は図1に示される)は、変異され、試験ポリペプチドをコードする核酸を生成し、2つの核酸は、同等な糸状真菌細胞(上の一覧に示される任意の宿主細胞とすることが出来る)の形質転換に使用される。2つの細胞系統は、同等な条件下で培養され、タンパク質の分泌部分の分泌及び/又は切断効率が評価される。前記親融合タンパク質のシグナル配列、分泌タンパク質、KEX2部位及びKEX2部位プレ配列は、上の一覧に示されるものを含め任意の知られたシグナル配列、分泌タンパク質、KEX2部位又はKEX2部位プレ配列とすることが出来る。
【0124】
上述の通り、前記タンパク質分泌又は切断効率は、例えば、異なる培養間で成長培地の分泌部分の絶対量又はノーマライズされた量の比較、又はタンパク質の分泌部分の量と、タンパク質の非分泌部分の量との比較による等、多くの異なる方法により評価され得る。当該評価は、例えば、定量的、定性的、相対的又は絶対的に行うことが出来る。
【0125】
最適化されたKEX2部位プレ配列は、上述の方法に係る複数の異なる試験融合タンパク質を試験する工程、及びどの異なる試験融合タンパク質が最も効率的に分泌された及び/又は切断されたかを決定する工程により特定されることができる。ここで前記最適化されたKEX2部位プレ配列は、最も効率的に分泌された試験組換え融合タンパク質のKEX2部位プレ配列である。
【0126】
コントロール培養より少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも70%及び少なくとも95%より多くの分泌タンパク質又はより多くの目的タンパク質を含有する細胞の培養は、KEX2部位プレ配列によりこれらの細胞からのタンパク質分泌及び/又は切断が増加されることを示す。
【実施例】
【0127】
以下の実施例は、当業者に本願発明をどのように生成し、使用するかの完全な開示及び記載を提供するためにある。そして、発明者が彼らの発明として見なす範囲を限定することを意図せず、また、以下の実験が全て又は実施された唯一の実験であると述べるものではない。使用される数(例えば、量、温度等)に関して正確さを保証にする取り組みがされているが、若干の実験誤差及び偏差のあり得ることも考慮すべきである。別段の表示がない限り、パーツは重量によるパーツ、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏(℃)、圧力は大気圧又はそれに近い。また、以下の略記が適用される。すなわち、M(モル)、μM(マイクロモル)、N(ノーマル)、mol(モル)、mmol(ミリモル)、μmol(マイクロモル)、nmol(ナノモル)、g(グラム)、mg(ミリグラム)、kg(キログラム)、μg(マイクログラム)、L(リットル)、ml(ミリリットル)、h(時間)、min(分間)、PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)、kDa(キロダルトン)、及びbp(塩基対)である。以下の分析及び方法が下記の実施例で使用される。
【0128】
A.pTrex4ベクターの構成:
合成DNAは、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)へクローン化され、以下で記載される実施例での使用に適切な発現プラスミドを産生した。
【0129】
pTrex4はpTrex2の修飾形であり、pTrex3g発現ベクターに由来する。pTrex3gの構成は、WO05/001036の実施例6で詳細に記載される。つまり、前記pTrex3gは、大腸菌ベクターpSL1180(Pharmacia社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)に基づき、当該ベクターは、64六量体制限酵素認識配列を含有する拡張された複数のクローニング部位を有するpUC118プラスミドに基づいたベクターである。Gateway destination ベクター(Hartley、J.L.他、(2000年)Genome Research10:1788−1795ページ)として設計され、トリコデルマ・リーセイcbh1遺伝子のプロモーターとターミネータ領域との間の任意の目的オープンリーディングフレームのGateway Technology(インビトロジェン)を用いた挿入を可能にした。
【0130】
pTrex4−her2L鎖DNA2.0の詳細は、以下(図2及び図3)である。前記プラスミドのサイズは、10885kb(配列番号103)である。pSL1180のポリリンカー領域へ挿入されたものは、DNAの以下のセグメントである。
【0131】
トリコデルマ・リーセイcbh1のプロモーター領域由来のDNAの2.2bpセグメント、
トリコデルマ・リーセイcbh1シグナル配列(下線)、触媒ドメイン、リンカー(イタリック体)(1570塩基)(配列番号104)のDNA配列
ATGTATCGGAAGTTGGCCGTCATCTCGGCCTTCTTGGCCACAGCTCGTGCTCAGTCGGCCTG
CACTCTCCAATCGGAGACTCACCCGCCTCTGACATGGCAGAAATGCTCGTCTGGTGGCACTTGCACTCAACAGACAGGCTCCGTGGTCATCGACGCCAACTGGCGCTGGACTCACGCTACGAACAGCAGCACGAACTGCTACGATGGCAACACTTGGAGCTCGACCCTATGTCCTGACAACGAGACCTGCGCGAAGAACTGCTGTCTGGACGGTGCCGCCTACGCGTCCACGTACGGAGTTACCACGAGCGGTAACAGCCTCTCCATTGGCTTTGTCACCCAGTCTGCGCAGAAGAACGTTGGCGCTCGCCTTTACCTTATGGCGAGCGACACGACCTACCAGGAATTCACCCTGCTTGGCAACGAGTTCTCTTTCGATGTTGATGTTTCGCAGCTGCCGTAAGTGACTTACCATGAACCCCTGACGTATCTTCTTGTGGGCTCCCAGCTGACTGGCCAATTTAAGGTGCGGCTTGAACGGAGCTCTCTACTTCGTGTCCATGGACGCGGATGGTGGCGTGAGCAAGTATCCCACCAACACCGCTGGCGCCAAGTACGGCACGGGGTACTGTGACAGCCAGTGTCCCCGCGATCTGAAGTTCATCAATGGCCAGGCCAACGTTGAGGGCTGGGAGCCGTCATCCAACAACGCAAACACGGGCATTGGAGGACACGGAAGCTGCTGCTCTGAGATGGATATCTGGGAGGCCAACTCCATCTCCGAGGCTCTTACCCCCCACCCTTGCACGACTGTCGGCCAGGAGATCTGCGAGGGTGATGGGTGCGGCGGAACTTACTCCGATAACAGATATGGCGGCACTTGCGATCCCGATGGCTGCGACTGGAACCCATACCGCCTGGGCAACACCAGCTTCTACGGCCCTGGCTCAAGCTTTACCCTCGATACCACCAAGAAATTGACCGTTGTCACCCAGTTCGAGACGTCGGGTGCCATCAACCGATACTATGTCCAGAATGGCGTCACTTTCCAGCAGCCCAACGCCGAGCTTGGTAGTTACTCTGGCAACGAGCTCAACGATGATTACTGCACAGCTGAGGAGGCAGAATTCGGCGGATCCTCTTTCTCAGACAAGGGCGGCCTGACTCAGTTCAAGAAGGCTACCTCTGGCGGCATGGTTCTGGTCATGAGTCTGTGGGATGATGTGAGTTTGATGGACAAACATGCGCGTTGACAAAGAGTCAAGCAGCTGACTGAGATGTTACAGTACTACGCCAACATGCTGTGGCTGGACTCCACCTACCCGACAAACGAGACCTCCTCCACACCCGGTGCCGTGCGCGGAAGCTGCTCCACCAGCTCCGGTGTCCCTGCTCAGGTCGAATCTCAGTCTCCCAACGCCAAGGTCACCTTCTCCAACATCAAGTTCGGACCCATTGGCAGCACCGGCAACCCTAGCGGCGGCAACCCTCCCGGCGGAAACCCGCCTGGCACCACCACCACCCGCCGCCCAGCCACTACCACTGGAAGCTCTCCCGGACCTACTAGT
トリコデルマ・リーセイcbh1シグナル配列、触媒ドメイン、リンカー(480アミノ酸)のアミノ酸配列が以下に表される(配列番号105)。
【0132】
MYRKLAVISAFLATARAQSACTLQSETHPPLTWQKCSSGGTCTQQTGSVVIDANWRWTHATNSSTNCYDGNTWSSTLCPDNETCAKNCCLDGAAYASTYGVTTSGNSLSIGFVTQSAQKNVGARLYLMASDTTYQEFTLLGNEFSFDVDVSQLPCGLNGALYFVSMDADGGVSKYPTNTAGAKYGTGYCDSQCPRDLKFINGQANVEGWEPSSNNANTGIGGHGSCCSEMDIWEANSISEALTPHPCTTVGQEICEGDGCGGTYSDNRYGGTCDPDGCDWNPYRLGNTSFYGPGSSFTLDTTKKLTVVTQFETSGAINRYYVQNGVTFQQPNAELGSYSGNELNDDYCTAEEAEFGGSSFSDKGGLTQFKKATSGGMVLVMSLWDDYYANMLWLDSTYPTNETSSTPGAVRGSCSTSSGVPAQVESQSPNAKVTFSNIKFGPIGSTGNPSGGNPPGGNPPGTTTTRRPATTTGSSPGPTS
前記プラスミドは、cbh1ターミネータ、A.nidulans amdS選択マーカー及び抗体L鎖をコードするヌクレオチドも含有する。
【0133】
B.トリコデルマ・リーセイの微粒子銃形質転換:
以下の全ての実施例において、形質転換はクオド(quad)欠損誘導体(Δchb1、Δcbh2、Δegl1、及びΔegl2)で行われ、適切なpTrex4ベクターを有するRL−P37(Sheir−Neiss他、(1984年)Appl.Microbiol.Biotechnol.20:46−53ページ、米国特許第4,797,361号)に本来由来するトリコデルマ・リーセイ株(WO05/001036)が以下に概要されるプロトコールで使用された。
【0134】
トリコデルマ株由来の胞子の懸濁液(およそ5×108胞子/ml)を調整した。100μl−200μlの胞子懸濁液をMMアセトアミド培地プレートの中央に広げた。MMアセトアミド培地は、以下の組成を有した。すなわち、0.6g/Lアセトアミド、1.68g/LCsCl、20g/Lグルコース、20g/L KH2PO4、0.6g/L CaCl2.2H2O、1ml/L1000×微量元素塩溶液、20g/L Noble寒天、pH5.5である。1000×微量元素塩溶液は、5.0g/l FeSO4.7H2O、1.6g/l MnSO4−H2O、1.4g/l ZnSO4.7H2O及び1.0g/l CoCl2.6H2Oを含有した。前記胞子懸濁液をMMアセトアミド培地の表面で乾燥させた。
【0135】
微粒子銃形質転換方法によるトリコデルマ株の形質転換をBio−Rad(ハーキュリーズ、カルフォルニア州)からのBiolistic(登録商標)PDS−1000/He Particle Delivery Systemを用いて生産者の説明書に従って行った(WO05/001036及びUS2006/0003408参照)。
【0136】
C.アスペルギルスの形質転換−
アスペルギルス形質転換プロトコールは、キャンベル法(Campbell他、(1989年)、Curr.Genet.16:53−56ページ)の改良である。Aspergillus nigerの形質転換法の詳細は、WO03089614及び米国特許公開第20050153399号にも開示される。形質転換体を、SDSゲル及びウェスターンブロットでタンパク質生成のために分析し、生成されたタンパク質の量に基づいて形質転換体を選択した。
【0137】
D.発現ベクターを用いて形質転換されたトリコデルマ・リーセイ及びAspergillus niger株の発酵:
通常Foreman他、(2003年)J.Biol.Chem.278:31988−31997ページに記載される発酵プロトコールに従った。
【0138】
E.プロフロ(Proflo)培地は、30g/L α−ラクトース、6.5g/L (NH4)2SO4、2g/L KH2PO4、0.3g/L MgSO4.7H2O、0.2g/L CaCl2、1ml/L1000×微量元素塩溶液、2ml/L 10%Tween80、22.25g/L プロフロコットンシード−フラワー(Traders Protein、メンフィス、テネシー州)、0.72g/L CaCO3を含有した。
【0139】
F.指定培地は、5g/L (NH4)2SO4、33g/L PIPPSバッファー、9g/Lカザミノ酸、4.5g/L KH2PO4、1g/L CaCl2、1g/L MgSO4.7H2O、5ml/L Mazu DF60−P消泡剤(Mazur Chemicals、ガーニー、イリノイ州)、1ml/L 1000×微量元素塩溶液を含有した。加圧滅菌の後、40mlの40%ラクトースを添加した。
【0140】
G.1000×微量元素塩溶液は、5.0g/l FeSO4.7H2O、1.6g/l MnSO4.H2O、1.4g/l ZnSO4.7H2O及び1.0g/l CoCl2.6H2Oを含有した。
【0141】
H.タンパク質分析は、標準的SDSゲル及びウェスターンブロット分析により行った。
【0142】
実施例1
トラスツズマブ(KRGGG(配列番号2)を含有するL鎖発現株)KEX2切断部位の構成
抗体4D5−8の公知アミノ酸配列(Carter他、Proc.Natl.Acad.Sci.1992年、89:4285−4289ページ)に係るトラスツズマブのL鎖をコードするDNA(配列番号1)を、DNA2.0インク(1455Adams Drive、Menlo Park、CA94025)を用いて合成した。
【0143】
ACTAGTAAACGCGGTGGCGGTGATATTCAAATGACACAATCTCCTTCTTCTCTGTCAGCCTCAGTGGGCGACCGTGTGACGATTACTTGCCGCGCCTCTCAGGACGTTAACACTGCCGTCGCATGGTACCAGCAGAAGCCAGGCAAGGCGCCCAAGCTTCTGATTTACAGCGCTTCGTTCCTGTACTCTGGCGTGCCATCCCGCTTCTCTGGCAGCCGAAGCGGCACGGATTTCACCCTGACCATTTCGTCCCTGCAGCCCGAGGATTTCGCCACGTATTACTGCCAGCAGCACTACACCACTCCACCCACCTTTGGCCAAGGAACGAGAGTCGAAATCACTCGCACGGTCGCTGCCCCTTCAGTCTTCATCTTCCCCCCCAGCGACGAACAGCTGAAGTCTGGTACGGCCAGCGTCGTTTGCTTGCTTAATAACTTCTATCCGCGAGAGGCGAAGGTCCAATGGAAGGTTGATAACGTTCTGCAGTCCGGCAATTCGCAGGAGAGCGTGACCGAGCAGGATTCAAAGGATAGCACCTACTCACTCAGCAGCACCCTGACGTTGTCCAAGGCCGATTACGAGAAGCATAAGTTGTATGCATGCGAGGTCACCCACCAGGGACTGTCAAGCCCAGTTACCAAGTCGTTCAATCGAGGCGAGTGCTAAGGCGCGCC(配列番号1)。
【0144】
DNAによりコードされるL鎖は、N−末端でKRGGG(配列番号2)KEX2切断部位を含有した。制限部位SpeI及びAscIを、クローニングを目的として含めた。前記合成DNAを、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングし、pTrex4−her2 L鎖DNA2.0と名づけた発現プラスミドを産生した(図2)。結果として得られたプラスミドは、KEX2部位から分離されたトリコデルマCBHIコア/リンカー領域及び抗体L鎖を含有する融合タンパク質をコードした。前記プラスミドは、Xbal制限酵素を用いて設計し、WO05001036、実施例5で記載されるクワド削除株に由来するトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体が得られ、それらを新しいプレートへ移した。20の安定した形質転換体を選択し、プロフロ培地で2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンブロットデータ(図4)は、90%以上の融合タンパク質が最良のL鎖生成株(形質転換体1010−18、KRGGG変異体)で切断されていることを示した。しかし、GGGは、好ましくない切断抗体L鎖のN−末端に残る。ウェスターンブロットで2つのL鎖分子の二量化による結果である約50kdのバンドが検出された。
【0145】
実施例2
GGGKR(配列番号5)KEX2切断部位を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
2つのプライマー(GGACTAGTGGTGGCGGTAAACGCGATATTCAAATGACACAATCTC、配列番号3及びAAGGCGCGCCTTAGCACTCGCCTCGATTG、配列番号4)をインビトロジェン(1600 Faraday Avenue、カールズバッド、CA92008)により合成し、トラスツズマブL鎖DNAの増幅に用いた。
【0146】
結果として得られたPCR断片は、N−末端でGGGKR(配列番号5)配列kex2部位を含有する抗体L鎖をコードした。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−GGGKR−her2 DNA2と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドを、Xbal制限酵素を用いて消化し、上述のトリコデルマ・リーセイ株へ標準的技術を用いて微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。全部で21の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清を用いた。形質転換体1010−B5(GGGKR変異体)及び形質転換体1010−B6(GGGKR変異体)からの95%以上のタンパク質が、未切断融合タンパク質であったことがウェスターンブロットにより示された(図4)。150kdのバンドもウェスターンブロットで検出された。それは、2つのCBH1コア−L鎖融合分子の二量体化による結果の可能性がある。
【0147】
実施例3
GGGKRGGG(配列番号7)KEX2切断部位を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
2つのオリゴ、GGACTAGTGGCGGTGGCAAACGCGGTGGCGGTGATATTC(配列番号6)及びAAGGCGCGCCTTAGCACTCGCCTCGATTG(配列番号4)を、インビトロジェンにより合成し、L鎖DNAの増幅に使用した。結果として得られたPCR断片は、L鎖及びKEX2切断に用いられるGGGKRGGG(配列番号7)配列をコードした。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−GGGKRGGG−her2 L鎖DNA2.0と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドを、Xbal制限酵素を用いて消化し、上述の通りトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。10以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。3の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンゲルデータは、形質転換体1011−1(GGGKRGGG変異体)において、90%以上の融合タンパク質が切断されたことを示した(図4)。しかし、好ましくない切断抗体L鎖のN−末端でGGGが残った。
【0148】
実施例4
VAVEKR(配列番号9)KEX2領域を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
VAVEKR(配列番号9)KEX2領域は、トリコデルマ・リーセイ高pIキシラナーゼ、Xyn2のプロ領域(Torronen他、(1992年)Biotechnol.10:1461−1465ページ)に自然に見られる。本願発明に係る融合ポリペプチドを構成するために、2つのオリゴ、GGACTAGTGTCGCCGTTGAGAAACGCGATATTCAAATGACACAATCTCC(配列番号8)及びAAGGCGCGCCTTAGCACTCGCCTCGATTG(配列番号4)を、インビトロジェンにより合成し、L鎖DNAの増幅に使用した。
【0149】
結果として得られたPCR断片は、L鎖及びKEX2切断に用いられるVAVEKR(配列番号9)配列をコードする。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−VAVE−her2L鎖DNA2.0と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドを、Xbal制限酵素を用いて消化し、上述の通りトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。6の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンゲルデータは、形質転換体1012−2(VAVEKR変異体、配列番号9)において、95%以上の融合タンパク質が切断されたことを示した(図4)。
【0150】
実施例5
VAVEKR(配列番号9)KEX2領域の変異体を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
トラスツズマブ抗体L鎖をコードするDNA(配列番号10)をGeneart(Josef−Engert−Strasse11、93053 Regesburg、ドイツ)により合成した。
【0151】
ACTAGTAAGCGCGGCGGCGGCGAGGTCCAGCTCGTCGAGAGCGGCGGCGGCCTCGTCCAGCCCGGCGGCAGCCTCCGCCTCAGCTGCGCCGCCAGCGGCTTCAACATCAAGGACACCTACATCCACTGGGTCCGCCAGGCCCCCGGCAAGGGCCTCGAGTGGGTCGCCCGCATCTACCCCACCAACGGCTACACCCGCTACGCCGACAGCGTCAAGGGCCGCTTCACCATCAGCGCCGACACCAGCAAGAACACCGCCTACCTCCAGATGAACAGCCTCCGCGCCGAGGACACCGCCGTCTACTACTGCAGCCGCTGGGGCGGCGACGGCTTCTACGCCATGGACTACTGGGGCCAGGGCACCCTCGTCACGGTCTCCAGCGCCAGCACCAAGGGCCCAAGCGTCTTTCCCCTCGCCCCCAGCAGCAAGAGCACCAGCGGCGGCACCGCCGCCCTCGGCTGCCTCGTCAAGGACTACTTCCCCGAGCCCGTCACTGTCAGCTGGAACAGCGGCGCTCTCACCAGCGGCGTCCACACCTTCCCCGCCGTCCTCCAGAGCAGCGGCCTCTACAGCCTCAGCAGCGTCGTCACCGTCCCCAGCAGCAGCCTCGGCACCCAGACCTACATCTGCAACGTCAACCACAAGCCCAGCAACACCAAGGTCGACAAGCGCGTCGAGCCCAAGAGCTGCGACAAGACCCACACCTGCCCCCCCTGCCCCGCCCCCGAGCTGCTCGGCGGCCCCTCCGTCTTTCTCTTCCCCCCCAAGCCCAAGGACACCCTCATGATCAGCCGCACCCCCGAGGTCACCTGCGTCGTCGTCGATGTCAGCCACGAGGACCCCGAGGTCAAGTTCAACTGGTACGTCGACGGCGTCGAGGTCCACAACGCCAAGACCAAGCCCCGCGAGGAGCAGTACAACAGCACCTACCGCGTCGTCAGCGTCCTGACCGTCCTCCACCAGGACTGGCTCAACGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTCTCCAACAAGGCCCTCCCCGCCCCCATCGAAAAGACCATCAGCAAGGCCAAGGGCCAGCCCCGCGAGCCCCAGGTCTACACCCTCCCCCCCAGCCGCGAGGAGATGACCAAGAACCAGGTCTCCCTCACCTGCCTGGTCAAGGGCTTCTACCCCAGCGACATCGCCGTCGAGTGGGAGAGCAACGGCCAGCCCGAGAACAACTACAAGACCACCCCCCCCGTCCTCGACAGCGACGGCAGCTTCTTCCTCTACAGCAAGCTCACCGTCGACAAGAGCCGCTGGCAGCAGGGCAACGTCTTTAGCTGCAGCGTCATGCACGAGGCCCTCCACAACCACTACACCCAGAAGAGCCTCAGCCTCAGCCCCGGCAAGTAAGGCGCG(配列番号10)
当該DNAは、KRGGG(配列番号2)及びヒト抗体L鎖をコードする。2つの制限部位SpeI及びAscIをクローニングの目的のために含めた。前記ヌクレオチド配列を変異させ、部位特異的突然変異生成により内部KEX2部位を取り去った(Stratagene、11011North Torrey Pines Road、ラ・ホーヤ、CA92037)。また、PCR反応で前記突然変異生成に用いた2つのプライマーは、TCGAGATCACCCGCACCGTCGCGGCGCCAAG(配列番号11)及びCGACGGTGCGGGTGATCTCGACCTTGGTGCCCTGG
CCG(配列番号12)である。結果として得られたL鎖をコードするDNAは、DNA配列で2つの置換ヌクレオチドを含有し、それによりアミノ酸がKからTに変更した。2つのオリゴ、GGACTAGTGTCGCCGTTGAGAAACGCGACATCCAGATGACCCAGAGC(配列番号13)及びCTAAAGGGAACAAAAGCTGGAGC(配列番号14)を、インビトロジェンにより合成し、L鎖DNAの増幅に使用した。結果として得られたPCR断片は、L鎖及びVAVEKR(配列番号9)をコードした。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−VAVE−her2L鎖Geneart(KR−TR)と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドを、Xbal制限酵素を用いて消化し、H鎖発現プラスミドを有するトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で同時形質転換した。40以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。20の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンゲルデータは、VAVEKR変異体(形質転換体17−43)において、90%以上の融合タンパク質が切断されたことを示した(図5)。
【0152】
VAVEKR(配列番号9)のKEX2部位プレ配列のグルタミン残基におけるアミノ酸変異を産生するために、変性プライマー(GGACTAGTGTCGCCGTTNNSAAACGCGACATCCAGATGACCCAGAG(配列番号15)を合成し、PCR反応でリバースプライマー(配列番号14)と共に、PCR断片プールを産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。13のクローンをシークエンスし、7の変異体を生成した(表1)。全ての7プラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。40以上の形質転換体を、それぞれの変異体から得、新しいプレートに移した。3つの変異体(VAVWKR(配列番号25)、VAVGKR(配列番号26)及びVAVRKR(配列番号27))の第一セットとして、それぞれの変異体から15の安定した形質転換体を選択した。4つの変異体(VAVTKR(配列番号28)、VAVVKR(配列番号29)、VAVAKR(配列番号30)及びVAVLKR(配列番号31))の第二セットとして、それぞれの変異体から11の安定した形質転換体を選択した。選択した形質転換体を、プロフロ培地中2日間28℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。
【0153】
新しいプライマー(GGACTAGTGTCGCCGTTNACAAACGCGACATCCAGATGACCCAGAG配列番号16)を合成し、PCR反応でリバースプライマー(配列番号14)と共に、複合配列(multiple sequences)を有するPCR断片を産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。10のクローンをシークエンスし、4の変異体(VAVDKR(配列番号32)、VAVNKR(配列番号33)、VAVYKR(配列番号34)及びVAVHKR(配列番号35))を生成した。前記プラスミドを上述の通りトリコデルマ株へ微粒子銃で形質転換した。40以上の形質転換体を、それぞれの変異体から得、新しいプレートに移した。それぞれの変異体から10の安定した形質転換体を選択し、プロフロ培地中2日間28℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。
【0154】
それぞれのグルタミン残基変異体から1つの形質転換体(最良のL鎖生成形質転換体)を比較のために選択した。ウェスターン分析により、変異体VAVYKR(配列番号34)が他のいずれの変異体よりも多くのL鎖を生成したことが示された。VAVTKR(配列番号28)及びVAVDKR(配列番号32)変異体は、より多くの融合タンパク質を有していたことから非効率的な切断であることが示された(図5)。
【0155】
KEX2プレ配列部位(VAVEKR、配列番号9)の第一バリン残基でのアミノ酸変異を産生するため、変性プライマー(GGACTAGTNNSGCCGTCGAGAAGCGCGACATCCAGATGACCCAGAG、配列番号17)を合成し、PCR反応でリバースプライマーCTAAAGGGAACAAAAGCTGGAGC(配列番号14)と共に、複合配列を有するPCR断片を産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。30のクローンをシークエンスし、13の変異体(MAVEKR(配列番号36)、GAVEKR(配列番号37)、AAVEKR(配列番号38)、LAVEKR(配列番号39)、WAVEKR(配列番号40)、KAVEKR(配列番号41)、PAVEKR(配列番号42)、RAVEKR(配列番号43)、NAVEKR(配列番号44)、TAVEKR(配列番号45)、SAVEKR(配列番号46)、QAVEKR(配列番号47)及びEAVEKR(配列番号48))を生成した。新しいプライマー(GGACTAGTNWCGCCGTCGAGAAGCGCGACATCCAGATGACCCAGAG配列番号18)を設計、合成し、PCR反応でリバースプライマーCTAAAGGGAACAAAAGCTGGAGC(配列番号14)と共に、複合配列を有するPCR断片を産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。19のクローンをシークエンスし、5の変異体(YAVEKR(配列番号49)、FAVEKR(配列番号50)、DAVEKR(配列番号51)、HAVEKR(配列番号52)及びIAVEKR(配列番号53))を生成した。以下の11変異体(MAVEKR(配列番号36)、GAVEKR(配列番号37)、AAVEKR(配列番号38)、LAVEKR(配列番号39)、WAVEKR(配列番号40)、KAVEKR(配列番号41)、PAVEKR(配列番号42)、HAVEKR(配列番号52)、DAVEKR(配列番号51)、SAVEKR(配列番号46)及びQAVEKR(配列番号47))を含有する前記プラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。
【0156】
20以上の形質転換体を、それぞれの変異体から得、新しいプレートに移した。それぞれの変異体から8の安定した形質転換体を選択し、プロフロ培地中2日間28℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質SDS−PAGEにより分析した。それぞれの変異体から1つの形質転換体(最良の生成形質転換体)を選択した。ウェスターン分析により、全ての変異体がL鎖を生成したことが示された(図6)。LAVEKR(配列番号39)を除いて、全ての変異体が95%未満の切断を示した。当該変異体は、VAVEKR(配列番号9)変異体より効果的なKEX2切断を示した。
【0157】
KEX2領域(VAVEKR、(配列番号9))のアラニン残基におけるアミノ酸変異を産生するために、変性プライマー(GGACTAGTGTCNNSGTTGAGAAAGGCGACATCCAGATGACCCAGAGC、配列番号19)を合成し、PCR反応でリバースプライマー(配列番号14)と共に、複合配列を有するPCR断片を産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。96のクローンをシークエンスし、15の変異体(VDVEKR(配列番号54)、VEVEKR(配列番号55)、VGVEKR(配列番号56)、VIVEKR(配列番号57)、VKVEKR(配列番号58)、VLVEKR(配列番号59)、VMVEKR(配列番号60)、VNVEKR(配列番号61)、VPVEKR(配列番号62)、VRVEKR(配列番号63)、VSVEKR(配列番号64)、VTVEKR(配列番号65)、VVVEKR(配列番号66)、VWVEKR(配列番号67)及びVYVEKR(配列番号68))を生成した。5のプラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体を、それぞれの変異体から得、新しいプレートに移した。5の変異体(VGVEKR(配列番号56)、VTVEKR(配列番号65)、VWVEKR(配列番号67)、VEVEKR(配列番号55)及びVPVEKR(配列番号62))の第一セットとして、10の安定した形質転換体を選択した。4の変異体(VKVEKR(配列番号58)、VRVEKR(配列番号63)、VVVEKR(配列番号66)及びVIVEKR(配列番号57))の第二セットとして、10の安定した形質転換体を選択した。選択した形質転換体を、プロフロ培地中2日間28℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質SDSゲルにより分析した。それぞれの変異体から1の形質転換体(最良の生成形質転換体)を比較のために選択した(表1)。ウェスターン分析(図7)は、3つの変異体VGVEKR(配列番号56)、VEVEKR(配列番号55)及びVWVEKR(配列番号67)で唯一遊離L鎖が検出されたことを示した。前記変異体VPVEKR(配列番号62)は、より少ない遊離L鎖及びいくつかの切断されていないCBHI−軽融合(light fusion)を生成した。
【0158】
KEX2部位(VAVEKR、配列番号9)の第二バリン残基におけるアミノ酸変異を産生するために、変性プライマー(GGACTAGTGTCGCCNNSGAGAAACGCGACATCCAGATGACCCAGAG、配列番号20)を合成し、PCR反応でリバースプライマー(配列番号14)と共に、複合配列を有するPCR断片を産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。36のクローンをシークエンスし、15の変異体(VAAEKR(配列番号69)、VADEKR(配列番号70)、VAEEKR(配列番号71)、VAFEKR(配列番号72)、VAGEKR(配列番号73)、VAIEKR(配列番号74)、VALEKR(配列番号75)、VANEKR(配列番号76)、VAQEKR(配列番号77)、VAREKR(配列番号78)、VASEKR(配列番号79)、VATEKR(配列番号80)、VAWEKR(配列番号81)、VAYEKR(配列番号82)及びVAPEKR(配列番号83))を生成した。プラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体を、それぞれの変異体から得、新しいプレートに移した。8の変異体(VAAEKR(配列番号69)、VADEKR(配列番号70)、VAEEKR(配列番号71)、VAFEKR(配列番号72)、VAGEKR(配列番号73)、VANEKR(配列番号76)、VALEKR(配列番号75)及びVAIEKR(配列番号74))の第一セットとして、10の安定した形質転換体を選択した。2の変異体(VASEKR(配列番号79)及びVAREKR(配列番号78)の第二セットとして、8の安定した形質転換体を選択した。4個の形質転換体のみをVAPEKR(配列番号83)変異体に選択した。選択した形質転換体を、プロフロ培地中2日間28℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清を分析した。それぞれの変異体から1の形質転換体(最良の生成形質転換体)を比較のために選択した(表1)。ウェスターン分析(図8)により融合体のバンドがゲル上で観察されなかったことから、VAIEKR(配列番号74)及びVALEKR(配列番号75)が融合ポリペプチドの完全な切断を産生したことが示された。切断は100%ではなかったが、VAFEKR(配列番号72)が最も量の多い抗体L鎖を生成したことがウェスターンブロット(図8)により示された。
【表1】
【0159】
実施例6
NVISKR(配列番号22)KEX2領域を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
NVISKRKEX2領域は、A.nigerグルコアミラーゼ(glaA)のプロ配列において自然に見られる。融合ポリペプチドを構成するために、オリゴ、GGACTAGTAACGTCATCAGCAAGCGCGACATCCAGATGACCCAGAGC(配列番号21)をインビトロジェンにより合成し、リバースプライマー(配列番号14)と共にL鎖DNAの増幅に使用した。結果として得られたPCR断片は、L鎖及びkex2切断に用いられるNVISKR(配列番号22)配列をコードする。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−NVIS−her2 L鎖geneart(KR−TR)と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。10の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンゲル分析により、95%以上の融合タンパク質が切断されたことを示した(図6)。
【0160】
実施例7
SDVTKR(配列番号24)KEX2領域を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
オリゴ、GGACTAGTAGCGACGTCACCAAGCGCGACATCCAGATGACCCAGAGC(配列番号23)をインビトロジェンにより合成し、リバースプライマー(配列番号14)と共にL鎖DNAの増幅に使用した。結果として得られたPCR断片は、L鎖及びkex2切断に用いられるSDVTKR(配列番号24)配列をコードする。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−SDVT−her2 L鎖geneart(KR−TR)と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。10の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンゲル分析により、50%以上の融合タンパク質が切断されたことを示した(図6)。
【0161】
実施例8
Aspergillus nigerにおけるVAVEKR(配列番号9)KEX2領域を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
前記実施例5からのプラスミド(pTrex4−VAVE−her2 L鎖geneart(KR−TR)をSpeI及びAscIを用いて消化した。AscI切断部位のDNA断片の末端をT4DNAポリメラーゼを用いて平滑にした。前記断片を1.2%アガロースゲル上で単離し、A.niger発現プラスミド(米国特許公開番号第20050153399号で開示されるpSLGAMpR2−BBI)へ連結した。当該プラスミドを、NheI及びBstEIIを用いて切断し、T4DNAポリメラーゼを用いてBstEII切断末端を平滑にした。pSLGAMpR2−VAVE−her2 LC geneartと名づけられた新しいプラスミドを米国特許公開番号第20050153399号で開示されるdgr246:ΔGAP:pyr−株に由来するA.niger株dgr246:Δamy5;pyr−に形質転換した。α−アミラーゼのタンパク質レベルの相違は、変異により当該プラスミド中で大幅に減少する。
【0162】
pepA遺伝子欠損を有するdgr246P2株に由来するdgr246ΔGAP:pyr2−はpyrGマイナスであり、突然変異生成及びスクリーニングの様々な処理又は異種遺伝子生成物(Ward、M.他、1993年、Appl.Microbiol.Biotech.39:738−743ページ及びそれの引用文献)の改善された生成の選択を経ている。dgr246ΔGAP:pyr2−株を構築するため、glaA(グルコアミラーゼ)遺伝子を、全く同じ欠失プラスミド(pΔGAM NB−Pyr)及びFowler、T.他(1990年)Curr.Genet.18:537−545ページにより報告された工程を用いてdgr246 P2株で欠失した。つまり、選択可能マーカーとしてAspergillus nidulans pyrG遺伝子により置換されたglaA遺伝子のプロモーター及びコード領域の末端又は一部のいずれかにおいてglaA隣接配列を有する直鎖DNA断片を用いた形質転換により、欠失した。glaA隣接配列及びpyrG遺伝子を含有する直鎖断片が染色体glaA部位において結合する形質転換体を、サザーンブロット分析により特定した。この変異は、形質転換株dgr246ΔGAPで起こった。当該形質転換体からの胞子をフッ化オロチン(fluoroorotic)酸を含有する培地へプレートし、自然耐性変種をvan Hartingsveldt,W.(1987年)Mol.Gen.Genet.206:71−75ページで開示されるように得た。これらのうちの1つ、dgr246ΔGAP:pyr2−は、野生型pyrG遺伝子を持つプラスミドを用いて形質転換により補足され得るウリジン栄養要求株として示される。
【0163】
20以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。17の形質転換体をPromosoy培地中5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質SDSPAGE及びウェスターン分析に用いた。全ての形質転換体が、抗体L鎖を生成したことがデータにより示された。形質転換体#A12は、ほとんどの抗体L鎖を生成し、60−70%の融合タンパク質が切断された(図9)。
【0164】
前述の記載は、典型的な実施形態の本質を単に説明している。本明細書で明確に記載又は示されていないが、本願発明に係る本質を具体化し、その概念及び範囲に含まれる様々なアレンジが当業者により、考案されることが理解される。さらに、本明細書で列挙される全ての実施例及び条件用語は、原則として、本願発明に係る本質及び当該技術分野の促進が発明者により与えられるコンセプトの理解について読者を助けること、また、具体的に列挙される実施例及び条件に限定することなしに解釈されることを意図している。
【0165】
その上、特定の実施例と同様に本願発明に係る本質、態様、及び実施形態を列挙する本明細書の全ての記載は、それらの構造的及び機能的同等物の両方を包含することを意図している。加えて、これらの同等物は、現在知られている同等物及び将来開発される同等物、すなわち、構造に関わらず同等に機能するよう開発されたすべての要素、の両方を含むことを意図される。従って、本願発明に係る範囲は、本明細書で示され、記載される典型的実施形態に限られることを意図しない。
【技術分野】
【0001】
連邦政府が提供する研究開発による発明の権利に関する記述
本願発明の一部は、米国の国防総省国防高等研究事業局(DARPA)によるコントラクトナンバーW911NF−05−C−0072により資金が提供されている。従って、米国政府は、本願発明において所定の権利を有し得る。
【0002】
本願発明は、糸状菌からの機能的抗体タンパク質及び商業用酵素等の目的タンパク質における分泌の増加及び切断に関する。本願発明は、タンパク質切断に用いられるKEX2領域を組み込んだ融合DNA構成物、ベクター及び融合ポリペプチド及び目的タンパク質の生成方法を開示する。
【背景技術】
【0003】
真菌細胞でのタンパク質分泌の間、特定のタンパク質は、KEX2又はセリンペプチダーゼの「ケキシン(kexin)」ファミリー(EC3.4.21.61)のメンバーである、KEX2により切断される。KEX2は、当該タンパク質の分泌においてタンパク質基質で基本アミノ酸対(すなわち、「KEX2部位」)のC末端側に直結しているペプチド結合を切断する、高度に特異的なカルシウム依存的エンドペプチダーゼである。KEX2タンパク質は一般的に、活性部位のヒスチジン残基に近いシステイン残基を含有し、p−安息香酸水銀により抑制される。S.cerevisiaeのKEX2ペプチダーゼ(Fuller他、1989年、Proc.Natl.Acad.Sci.米国86:1434−1438ページ)であるこのグループの基礎的メンバーは、それらの分泌の間、α−因子フェロモン及びキラー・トキシン前駆体を切断する。
【0004】
融合ポリペプチドの生成は、大腸菌、酵母及び糸状菌を含む多くの微生物で報告されてきた。例えば、ウシキモシンは、全長グルコアミラーゼ(GAI)(Ward他、(1990年)Bio/technology8:435−440ページ、米国特許第6,265,204号及び米国特許第6,590,078号)への融合としてAspergillus nigerで生成される。ヒトインターロイキン6(hIL6)は、全長A.nigerグルコアミラーゼ(GAI)(Contreras他、(1991年)Biotechnology9:378−381ページ)への融合としてAspergillus nidulansで生成される。ニワトリ卵白リゾチーム(Jeenes他、(1993年)FEMS Microbiol.Lett.107:267−273ページ)及びヒトラクトフェリン(Ward他、(1995年)Bio/Technology13:498−503ページ)は、グルコアミラーゼの1−498残基への融合としてAspergillus nigerで生成される。ウシキモシンは、全長野生型アルファアミラーゼ(Korman他、(1990年)Curr.Genet.17:203−212ページ)との融合としてAspergillus nigerで、及びA.oryzaeグルコアミラーゼ(Tsuchiya他、(1994年)Biosci.Biotech.Biochem.58:895−899ページ)の切断型との融合によりAspergillus oryzaeで生成される。さらに、Shoemaker他、1981年、Bio/Technology1:691−696ページ、Nunberg他、(1984年)Mol.Cell.Biol.4:2306−2315ページ及びBoel他、(1984年)EMBO J.3:1097−1102ページも参照される。いくつかのこれらの融合タンパク質において、KEX2プロテアーゼ認識部位(Lys−Arg)は、グルコアミラーゼと目的タンパク質(例えば、Contreras他、1991年及びWard他、1995年)との間に挿入される。本願に係る発明者は、KEX2認識部位が、アミノ酸KEX2部位プレ配列を含むように操作すると、タンパク質分泌及び/又はタンパク質切断が融合タンパク質で増進され得ることを見出した。
【0005】
関連する具体的な文献には、次が含まれる。すなわち、Ward他、(2004年)Appl.Environ.Microbiol.70:2567−2576ページ、Goller他、(1998年)Appl.Environ.Microbiol.64:3202−3208ページ、LaGrange他、(1996年)Appl.Environ.Microbiol.62:1036−1044ページ、Bergquist他、(2002年)Biochem.Biotechnol.100:165−176ページ、Spencer他、(1998年)Eur.J.Biochem.258:107−112ページ、Jalving他、(2000年)Appl.Environ.Microbiol.66:363−368ページ、Brenner及びFuller(1992年)Proc.Natl.Acad.Sci.89:922−926ページ、Durand他、(1999年)Appl.Microbiol.Biotechnol.52:208−214ページ、Ahn他、(2004年)Appl.Microbiol.Biotechnol.64:833−839ページ、Gouka他、(1997年)ApplMicrobiolBiotechnol.47:1−11ページ、Broekhuijsen他、(1993年)J.Biotechnol.31:135−145ページ、MacKenzie他、(1998年)J.Biotechnol.63:137−146ページ及び公開特許出願第20040018573号及び第20050158825号である。米国特許第4,816,567号及び米国特許第6,331,415号も、組換え宿主細胞での免疫グロブリン分子の生成方法を開示する。上述の引用文献は、全ての目的において参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多数の方法が産業用酵素及び治療用タンパク質の生成に利用可能である一方で、バイアルによる汚染又は他の偶発的要因における危険性を制限した、相対的に迅速かつ高レベルに生成されたタンパク質を結果として生じる、タンパク質生成及び特に抗体生成等の治療用タンパク質生成の代替的方法の必要性が残る。本願発明は当該必要性に答えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
融合DNA構成物、ベクター、融合ポリペプチド、融合DNA構成物を含む細胞、及び細胞からの目的タンパク質の分泌及び/又は切断を増加する方法が提供される。さらに具体的に、本願発明に包含されるKEX2領域は、融合ポリペプチドに含まれ、融合ポリペプチド由来の目的タンパク質を切断する部位を与える。従って、本願発明は、タンパク質切断に用いられるKEX2領域に関連する。
【0008】
いくつかの実施形態において、本願発明は、融合ポリペプチドをコードする融合DNA構成物であって、プロモーター、シグナル配列をコードする第一DNA分子、キャリアタンパク質をコードする第二DNA分子、KEX2部位及び前記KEX2部位の5’末端に直結したKEX2部位プレ配列を含むKEX2領域をコードする第三DNA分子、及び目的タンパク質をコードする第四DNA分子を5’末端から操作可能な結合で含む前記融合DNA構成物に関する。この実施形態のいくつかの態様において、本願発明は、融合DNA構成物を含む、発現ベクター等のベクターに関連し、他の態様において本願発明は、ベクターを用いて形質転換されたか、又は融合DNA構成物を含む、宿主細胞に関する。
【0009】
他の実施形態において、本願発明は、融合ポリペプチドのアミノ末端から、分泌配列として機能的なシグナル配列を含む第一アミノ酸配列、キャリアタンパク質を含む第二アミノ酸配列、KEX2部位及び前記KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列を含むKEX2領域を含む第三アミノ酸配列、及び目的タンパク質を含む第四アミノ酸配列を含む融合ポリペプチドに関する。
【0010】
別の実施形態において、本願発明は、KEX2部位(B1B2)及び前記KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列(X4X3X2X1)を含むKEX2領域(X4X3X2X1B1B2)に関する。
【0011】
他の実施形態において、本願発明は、糸状真菌宿主細胞及び特にトリコデルマ細胞で目的タンパク質を生成する方法であって、本願発明に係る融合DNA構成物を含む糸状真菌宿主細胞を得る工程及び目的タンパク質の発現及び分泌を可能にする適した条件下で前記糸状真菌宿主細胞を培養する工程を含む。この実施形態のいくつかの態様において、目的タンパク質は、回収される。この実施形態の他の態様において、融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の切断が、KEX2部位プレ配列を欠いた同等な融合ポリペプチド由来の同じ目的タンパク質の切断より多い。この実施形態の他の態様において、融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の分泌が、KEX2部位プレ配列を欠いた同等な融合ポリペプチド由来の同じ目的タンパク質の分泌より多い。
【0012】
追加的な実施形態において、本願発明は、a)シグナル配列を含む親融合ポリペプチドのKEX2部位プレ配列、KEX2部位及び前記KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列を含むKEX2領域、及び目的タンパク質を含むアミノ酸配列を変異させ、前記KEX2部位プレ配列以外前記親融合ポリペプチドと同一な試験融合ポリペプチドのセットを生成する工程、b)糸状真菌細胞による前記試験融合ポリペプチド及び前記親融合ポリペプチドの分泌を評価する工程、c)前記親融合ポリペプチドと比較して分泌及び/又は切断が増加された試験融合ポリペプチドを特定する工程を含む分泌及び/又は切断の増加された目的タンパク質を特定する方法に関する。
【0013】
この実施形態の別の態様において、本願発明は、上述のように得られた複数の異なる試験融合ポリペプチドを試験する工程、及びどの前記異なる試験融合ポリペプチドがより多い分泌及び/又はタンパク質切断を有するかを決定する工程を含み、前記最適化されたKEX2部位プレ配列が、最も多い分泌及び/又はタンパク質切断を有する試験融合ポリペプチドの変異したKEX2部位プレ配列である、最適化されたKEX2部位プレ配列を特定する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
下記の詳細な説明の特定の態様は、添付の図と併せて読むことで最も良く理解される。慣行に従って、それらの図に記載される様々な特徴は一定の縮尺でないことが、強調される。つまり、様々な特徴の寸法は、明確にするために任意に拡大又は縮小される。添付される図面は以下である
【図1】図1は、キャリアタンパク質、KEX2領域及び目的タンパク質を含めた本願発明に係る融合ポリペプチドの実施形態を概略的に図解している。ここでキャリアタンパク質は、触媒ドメイン及びセロビオ加水分解酵素I(CBH1)タンパク質のリンカー領域部分を含むCBH1コア/リンカーとして図解され、前記目的タンパク質は、抗体L鎖(light chain)又はH鎖(heavy chain)として図解される。
【図2】図2は、融合ポリペプチドの発現に用いられるpTrex4−her2 L鎖DNA2.0プラスミドの遺伝子地図を表す。前記プラスミドは、トリコデルマ・リーセイcbh1プロモーター、CBH1シグナル配列及びキャリアタンパク質をコードするポリヌクレオチド、SpeI部位の後ろに直結するKEX2領域、抗体(トラスツズマブ)L鎖として図解される目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、トリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素(cbh1)ターミネータ、amdS Aspergillus nidulansアセトアミダーゼ(acetamidase)マーカーを含む。
【図3】図3A−Eは、図2のpTrex4−her2 L鎖DNA2.0プラスミドのヌクレオチド配列(配列番号103)(10885bp)を提供する。
【図4】図4は、後に実施例1、2、3及び4で記載されるKEX2領域配列を含む培養されたトリコデルマ・リーセイ細胞の上清のウエスタンブロット法を示す。レーン1は、分子量マーカー(Blue Plus 2、インビトロジェン参照)を表す。レーン2及び3は、GGGKR変異体(配列番号5)を表し、レーン4は、GGGKRGGG変異体(配列番号7)を表し、レーン5は、本願発明に包含されるVAVEKR変異体(配列番号9)KEX2領域を表し、レーン6及び7は、KRGGG変異体(配列番号2)を表す。
【図5】図5は、後に実施例5で記載される本願発明に包含されるKEX2領域を含む培養されたトリコデルマ・リーセイ細胞の上清のウエスタンブロット法を示す。レーン1は、上述の分子量マーカーを示す。レーン2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13は、それぞれVAVEKR(配列番号9)、VAVWKR(配列番号25)、VAVGKR(配列番号26)、VAVRKR(配列番号27)、VAVTKR(配列番号28)、VAVVKR(配列番号29)、VAVAKR(配列番号30)、VAVLKR(配列番号31)、VAVDKR(配列番号32)、VAVNKR(配列番号33)、VAVYKR(配列番号34)、VAVHKR(配列番号35)KEX2領域を示す。
【図6】図6は、後に実施例5、6、及び7で記載されるKEX2領域配列を含む培養されたトリコデルマ・リーセイ細胞の上清のウエスタンブロット法を示す。レーン1及び10は、上述の分子量マーカーを示す。レーン2、3、4、5、6、7、8、9、11、12、13、14、15及び16は、それぞれAAVEKR(配列番号38)、GAVEKR(配列番号37)、MAVEKR(配列番号36)、LAVEKR(配列番号39)、WAVEKR(配列番号40)、KAVEKR(配列番号41)、PAVEKR(配列番号42)、DAVEKR(配列番号51)、VAVEKR(配列番号9)、HAVEKR(配列番号52)、QAVEKR(配列番号47)、SAVEKR(配列番号46)、NVISKR(配列番号22)、及びSDVTKR(配列番号24)KEX2領域を示す。
【図7】図7は、後に実施例5で記載されるKEX2領域配列を含む培養されたトリコデルマ・リーセイ細胞の上清のウエスタンブロット法を示す。レーン1は、上述の分子量マーカーを示す。レーン2、3、4、5、6、7、8、9、10及び11は、それぞれVAVEKR(配列番号9)、VGVEKR(配列番号56)、VTVEKR(配列番号65)、VEVEKR(配列番号55)、VPVEKR(配列番号62)、VWVEKR(配列番号67)、VKVEKR(配列番号58)、VRVEKR(配列番号63)、VVVEKR(配列番号66)、及びVIVEKR(配列番号57)KEX2領域を示す。
【図8】図8は、後に実施例5で記載されるKEX2領域配列を含む培養されたトリコデルマ・リーセイ細胞の上清のウエスタンブロット法を示す。レーン1−11は、それぞれVADEKR(配列番号70)、VAAEKR(配列番号69)、VAFEKR(配列番号72)、VAGEKR(配列番号73)、VAIEKR(配列番号74)、VANEKR(配列番号76)、VALEKR(配列番号75)、VASEKR(配列番号79)、VAREKR(配列番号78)及びVAPEKR(配列番号83)KEX2領域を示す。
【図9】図9は、後に実施例8で記載されるVAVEKR(配列番号9)KEX2領域を含む培養されたA.niger細胞の上清のSDS−PAGEゲルを示す。レーン1は、分子量マーカー、Marker 12分子量基準(インビトロジェン)を示す。レーン2、3、及び4は、3つの形質転換体を示し、それぞれ形質転換体A10、A11及びA12に対応している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義
他で定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び化学的用語は、本願発明が属する技術分野の当業者に通常理解されるものと同様の意味を有する。Singleton他、微生物学及び分子生物学事典(DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY)、第二版、John Wiley and Sons発行、ニューヨーク州(1994年)、及びHale及びMarkham、ハーパー・コリンズ生物学事典(THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY)、Harper Perennial発行、ニューヨーク州(1991年)は、本明細書で使用される多くの語の一般的意味を含む技術の一部を提供する。それ以外に、特定の語は、明確さの目的及び容易な参照を可能とするため、以下に定義される。
【0016】
細胞、核酸、タンパク質又はベクターに関連して使用される「組換え」の語は、細胞、核酸、タンパク質又はベクターが異種核酸又はタンパク質の導入により、又は野生型核酸又はタンパク質の変異により修飾されたか、又は細胞がそのように修飾された細胞に由来することを指す。従って、例えば、組換え細胞は、野生型(非組換え型)の細胞で見られない核酸又はポリペプチドを発現するか、又は他に異常に発現した、不十分に発現した、過剰に発現した、又は発現のない野生型遺伝子を発現する。
【0017】
「遺伝子」は、ポリペプチド生成を伴い、個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)と同様に、例えば、プロモーター及びターミネータ等のコード領域に前後した領域を含むDNAセグメントを示す。
【0018】
「核酸」の語は、単鎖又は二本鎖DNA、RNA、及びそれらの化学修飾を包含する。「核酸」及び「ポリヌクレオチド」の語は、本明細書で置換可能に使用され得る。遺伝子情報は変質組織であることから、2以上のコドンが、所定のアミノ酸をコードするために用いられ得る。そのため、本願発明は、所定のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを包含する。
【0019】
「DNA構成物」の語は、適した宿主でタンパク質の発現に効果的な適したコントロール配列と操作可能に連結したDNA配列を意味する。このようなコントロール配列は、転写をもたらすプロモーター、転写をコントロールするための随意のオペレーター配列、mRNA上の適したリボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結をコントロールするエンハンサー及び配列を含む。
【0020】
「融合DNA構成物」又は「融合核酸」の語は、5’末端から3’末端に共に操作可能に連結され、融合ポリペプチドをコードする多くのポリヌクレオチド配列(例えば、シグナル配列をコードするDNA分子、キャリアタンパク質をコードするDNA分子、KEX2部位をコードするDNA分子及び目的タンパク質をコードするDNA分子)を含む核酸を示す。
【0021】
「ベクター」は、1以上の細胞型へ核酸を導入するよう設計されたポリヌクレオチド配列を示す。ベクターは、クローニングベクター、発現ベクター、シャトルベクター、プラスミド、ファージ粒子、カセット等を含む。
【0022】
「発現ベクター」は、外来細胞で異種DNA断片を組み込み、発現する性質を有するベクターを示す。多くの原核生物起源及び真核生物起源の発現ベクターは、商業的に入手可能である。
【0023】
「プロモーター」は、結合RNAポリメラーゼに含まれる制御配列であり、遺伝子の転写を開始する。
【0024】
「シグナル配列」の語は、細胞からの分泌に用いられる分泌系にタンパク質を導くタンパク質のアミノ末端におけるアミノ酸の配列を示す。当該シグナル配列は、分泌前にタンパク質から切断される。特定の場合において、シグナル配列は、「シグナルペプチド」又は「リーダーペプチド」と称される。シグナル配列の定義は、機能的なものである。シグナル配列は分泌工程中に切除され、細胞外タンパク質の成熟形態はシグナル配列を欠く。
【0025】
「転写コントロール下」の語は、転写の開始又は促進に寄与する要素へ操作可能に連結されることに依存したポリヌクレオチド配列、通常DNA配列の転写として当該技術分野によく理解される。
【0026】
「翻訳コントロール下」の語は、mRNAが形成された後に起こる制御方法を示すとして当該技術分野によく理解される。
【0027】
「操作可能に連結された」の語は、複数の要素が機能的に関連するように配列された並列状態を示す。例えば、配列の転写をコントロールする場合、プロモーターは、コード配列に操作可能に連結されている。「選択マーカー」の語は、導入された核酸又はベクターを含有する宿主を容易に選択することを可能にする、宿主で発現可能なタンパク質を示す。選択可能マーカーの例は、宿主細胞で栄養性優位等の代謝性優位を与える抗微生物剤(例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、又はクロラムフェニコール)及び/又は遺伝子を含むが、これらに限られない。
【0028】
「タンパク質」及び「ポリペプチド」の語は、本明細書で置換可能に使用される。本明細書で従来の1文字又は3文字コードがアミノ酸残基に使用される。
【0029】
「キャリアタンパク質」の語は、自然に分泌された真菌ポリペプチド由来のポリペプチド配列又はそれらの機能的部分を示す。
【0030】
免疫グロブリン(Ig)と置換可能に使用される「抗体タンパク質」の語は、抗原に特異的に結合する1以上のポリペプチドを含有するタンパク質を示す。当該語は、任意のアイソタイプの抗体、Fab、Fv、scFv、Fd、Fab’、Fv、F(ab’)2抗体を含むが、これらに限られない抗原への特定の結合を保持する抗体の断片、抗原への特定の結合を保持する抗体断片、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、二機能的(bi−functional)(すなわち二特異的(bi−specific))ハイブリッド抗体及び抗体の抗原−結合部分を含む融合タンパク質及び非抗体タンパク質が含まれる。
【0031】
抗体の単量体型は、H(heavy)及びL(light)の2つの異なる型の4つのポリペプチド鎖を含む。H及びL鎖の異なる型が認識される。当該L鎖は、構造的に2つのドメイン、可変領域(VL)及び定常領域(CL)に分割される。H鎖も別個の構造ドメインに分割される。例えば、γ‐H鎖は、アミノ末端から、可変領域(VH)、定常領域(CH1)、ヒンジ領域、第二定常領域(CH2)及び第三定常領域(CH3)を含む。
【0032】
「同等な融合ポリペプチド」の語は、KEX2部位プレ配列を除き、参照融合ポリペプチドと比較して同一のアミノ酸配列を有する融合ポリペプチドを示す。複数のポリペプチドがKEX2部位プレ配列での相違を除き、同一のアミノ酸配列を有する場合、第一KEX2部位プレ配列を有する第一融合ポリペプチドは、異なるKEX2部位プレ配列を有する第二融合ポリペプチドと同等である。
【0033】
「由来する」の語は、「に起源する」、「得られた」又は「から得られる」、及び「から単離される」の語を包含する。
【0034】
「宿主株」又は「宿主細胞」は、本願発明に包含されるポリペプチド、特に、組換え融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及び発現ベクター又はDNA構成物に適した宿主を意味する。特定の実施形態において、前記宿主株は、糸状真菌細胞とすることが出来る。「宿主細胞」の語は、細胞及びプロトプラストの両方を含む。
【0035】
「糸状菌」は、Eumycotinaの一部である全ての糸状体を示す(C.J.Alexopoulus(1962年)、Introductory Mycology、ウィリー、ニューヨーク州参照)。これらの糸状菌は、キチン、グルカン、及びその他の複合多糖類よりなる細胞壁を有する栄養菌糸体によって、特徴付けられる。本発明の糸状菌は、形態学的に、生理学的に、及び遺伝学的に酵母とは区別される。糸状菌による栄養成長は、菌糸伸長によるものであり、炭素異化は、絶対嫌気性である。
【0036】
「培養」の語は、適した条件下液体又は固形培地中で微生物細胞の個体数を増加させることを示す。
【0037】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドに関して「異種」の語は、宿主細胞で自然に起こらないポリヌクレオチド又はポリペプチドを示す。いくつかの実施形態において、前記タンパク質は、商業的に重要な産業用タンパク質であり、いくつかの実施形態において、前記異種タンパク質は、治療用タンパク質である。当該語は、自然発生の遺伝子、変異遺伝子、及び/又は合成遺伝子によりコードされるタンパク質を包含することが意図される。
【0038】
ポリヌクレオチド又はタンパク質に関した「同種」の語は、宿主細胞で自然に起こるポリヌクレオチド又はタンパク質を示す。
【0039】
本願発明で使用される「回収される」、「単離される」、及び「分離される」の語は、自然に関連付けられる少なくとも1の成分から移動される化合物、タンパク質、細胞、核酸又はアミノ酸を示す。
【0040】
本願発明で細胞に関連して用いられる「形質転換された」、「安定に形質転換された」及び「遺伝子組換え」の語は、前記細胞が、そのゲノムに結合した非野生型(例えば、異種)核酸配列又は野生型(例えば、同種)核酸配列の付加的コピーを有するか、又は複数の世代に渡って維持されるエピソームプラスミドを有する。
【0041】
本明細書において、「発現」という語は、ポリペプチドが遺伝子の核酸配列に基づいて生産される工程をいう。当該工程には、転写及び翻訳の両方が含まれる。
【0042】
本明細書において、「グリコシル化」タンパク質の語は、タンパク質上の特定のアミノ酸残基に付加されたオリゴ糖分子を有するタンパク質を意味する。
【0043】
「非グリコシル化」タンパク質は、タンパク質に付加されるオリゴ糖分子を有していないタンパク質をいう。
【0044】
細胞への核酸配列の挿入の文脈で「導入された」の語は、「トランスフェクション」、又は「形質転換」又は「形質導入」を意味し、及び真核又は原核細胞への核酸配列を組み込むことを含む。ここで前記核酸配列は、細胞ゲノム(例えば、染色体、プラスミド、プラスチド、又はミトコンドリアDNA)へ組み込まれるか、自律レプリコンへ転化されるか、又は一時的に発現され得る(例えば、トランスフェクトmRNA)。
【0045】
「KEX2」の語は、IUBMB酵素命名法に従ってEC3.4.21.61として定義され、活性を有するカルシウム依存的エンドペプチダーゼを示す。KEX2は、タンパク質分泌の間、基本アミノ酸対のC−末端に直結するペプチド結合(KEX2切断部位)を切断する。
【0046】
「KEX2領域」の語は、キャリアタンパク質のC−末端と融合ポリペプチド中の目的タンパク質のN−末端との間に位置する隣接した4から8のアミノ酸残基領域を示す。前記KEX2領域は、KEX2部位及び前記KEX2部位プレ配列を含む。
【0047】
「KEX2部位」の語は、タンパク質中の2のアミノ酸KEX2切断モチーフを示す。KEX2部位は、2の隣接する基本アミノ酸(例えば、リジン、ヒスチジン及び/又はアルギニン)を任意の順序(例えば、KK、RR、KR又はRK)で含有する。
【0048】
「KEX2部位プレ配列」の語は、KEX2部位の直前(すなわち、N−末端に直結した)2から6の隣接するアミノ酸[(X)n、ここでnは2から6]を示す。例えば、KEX2領域がVAVEKRとして定義される場合、「KR」モチーフは前記領域のKEX2部位、nは4であり、前記「VAVE」モチーフは前記領域のKEX2部位プレ配列に対応する。
【0049】
「変異体」の語は、参照タンパク質と比較して1以上の異なるアミノ酸を含有するタンパク質の領域を示す。
【0050】
「分泌タンパク質」の語は、タンパク質分泌の間、細胞から放出されるポリペプチドの領域を示す。いくつかの実施形態において、前記分泌タンパク質は、本願発明に係る組換え融合ポリペプチドから放出又は切断されるタンパク質である。
【0051】
「分泌」の語は、宿主細胞における膜から細胞外スペース及び周囲の培地へのタンパク質の選択的移動を示す。「決定」、「測定」、「評価(evaluating)」、「評価(assessing)」及び「分析」の語は、本明細書で置換可能に使用され、測定の任意の形態を示し、要素の存在又は非存在の決定を含む。これらの語は、定量的及び/又は定性的測定の両方を含む。評価は、相対的又は絶対的であることが出来る。
【0052】
「の存在を評価する」は、そのものの存在又は非存在の決定と同様に存在するものの量の決定を含む。
【0053】
他の用語の定義は、明細書を通じて記載され得る。
【0054】
発明の詳細な記載
典型的な実施形態がより詳細に記載される前に、本願発明は、記載される所定の実施形態に限定されず、当然に多様化され得ることが理解される。本願発明の範囲は、添付の請求項によってのみ限定されることから、本明細書で使用される専門用語は、所定の実施形態を記載する目的のみで用いられるものであり、限定することを意図しない。
【0055】
数値範囲が与えられた場合、その数値範囲の上限値と下限値の間に介在する数値の全てが、文脈から明確に別段の理解が得られない限り、下限値の単位の十分の一まで、本明細書に具体的に開示される。所定の数値範囲内の一定の数値又は介在数値と他の一定の数値又は介在数値の間の狭い数値範囲も全て本発明に含まれる。これらの狭い範囲の上限及び下限数値は、独立的にその狭い範囲に含まれ得る本発明の範囲となり得るか、又は範囲から除外される。また、上限、下限のいずれか又は両方が前記狭い範囲に含まれるか又は含まれない場合であっても、特別に除外される場合を除いて、これらの狭い範囲を含む各範囲も本願発明の中に包含される。記載される範囲が、上限、下限の一方又は両方の値を含む場合、これらのいずれか又は両方の値を除外する範囲も、本願発明に含まれる。
【0056】
ここで、典型的及び好ましい方法及び構成要素が記載されるが、本明細書で記載される方法及び構成要素と類似又は同等な任意の方法及び構成要素が、本願発明に係る実施又は試験において使用され得る。本明細書で言及される全ての刊行物は、当該刊行物の引用に関連した方法及び/又は構成要素を開示又は記載するものとして参照により本明細書に組み込まれる。
【0057】
本願発明及び添付される請求項で使用される単数形(英文で「a」、「an」及び「the」)は、文脈で明確に指示されない限り、複数の対象を含む。従って、例えば、「一遺伝子」の言及は、複数のこれらの候補物質を含み、「細胞」の言及は、1以上の細胞及び当業者に知られるそれらの同等物等の言及を含む。
【0058】
本明細書で開示される刊行物は、専らそれらの本願出願前に開示があったとの想定のみに基づいて記載されている。本明細書に記載されるいかなる事項も、本発明がそのような刊行物より後に出願されたことを認めるものと解釈されてはならない。さらに、提供される発行物の日付は、実際の公開日と異なる可能性があり、実際の公開日は別途確認を要するものである。
【0059】
融合ポリペプチド−
上述の通り、対象融合ポリペプチドは、a)シグナル配列、b)キャリアタンパク質、c)i)aKEX2部位及びii)KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列を含むKEX2領域、及びd)目的タンパク質を含む。
【0060】
図1は、本願発明に係る対象融合ポリペプチドを図解する。対象ポリペプチドの各部位(すなわち、「シグナル配列」、「キャリアタンパク質」、「KEX2領域」及び「目的タンパク質」)は、専ら明快さ及び便宜のために表示する。一般的に分泌中に切断されるN−末端領域及び分泌されるC−末端領域を含有することから、対象融合ポリペプチドは、「プロ(pro)タンパク質」又は「前駆体タンパク質」として言及される。
【0061】
シグナル配列及びキャリアタンパク質−
対象融合ポリペプチドのシグナル配列は、糸状真菌細胞からのタンパク質分泌を促進する任意のシグナル配列とすることが出来る。所定の実施形態において、当該対象融合ポリペプチドは、融合タンパク質が生成される糸状細胞から多く分泌されたことで知られるタンパク質に用いるシグナル配列を含むことが出来る。当該使用されるシグナル配列は、融合ポリペプチドが生成される細胞の内因性又は非内因性であるとすることが出来る。一定の態様においては、前記シグナル配列は、N−末端でシグナル配列を含有する「キャリア」を含むことができ、当該キャリアは、細胞内因性であり、細胞によって効率的に分泌されるタンパク質の少なくともN−末端の一部となる。
【0062】
適したシグナル配列及びキャリアは、当該技術分野で知られている(例えば、Ward他、Bio/Technology1990年8:435−440ページ及びPaloheimo他、Applied and Environmental Microbiology2003年69:7073−7082ページ参照)。適したシグナル配列及びキャリアタンパク質の例は、セロビオ加水分解酵素I、セロビオ加水分解酵素II、エンドグルカナーゼI、II及びIII、α−アミラーゼ、アスパルチルプロテアーゼ、グルコアミラーゼ、フィターゼ、マンナナーゼ、α及びβグルコシダーゼ、ウシキモシン、ヒトインターフェロン及びヒト組織プラスミノーゲン活性剤のシグナル配列及びキャリアタンパク質及びGwynne他、(1987)Bio/Technology5:713−719ページにより記載されるような合成コンセンサス真核シグナル配列を含む。
【0063】
いくつかの実施形態において、トリコデルマ(例えばトリコデルマ・リーセイ)が宿主細胞として使用される場合、トリコデルマ・リーセイマンナナーゼI(Man5A、又はMANI)、トリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素II(Cel6A又はCBHII)、エンドグルカナーゼI(Cel7b又はEGI)、エンドグルカナーゼII(Cel5a又はEGII)、エンドグルカナーゼIII(Cel12A又はEGIII)、キシラナーゼI又はII(XynIIa又はXynIIb)又はトリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素I(Cel7a又はCBHI)のシグナル配列又はキャリアが、融合ポリペプチドに使用され得る。
【0064】
他の実施形態において、アスペルギルス(例えばA.niger)が宿主細胞として使用される場合、前記A.nigerグルコアミラーゼ(GlaA)又はアルファアミラーゼのシグナル配列又はキャリアは、融合ポリペプチドに使用され得る。Aspergillus niger及びAspergillus awamoriグルコアミラーゼは、同一のアミノ酸配列を有する。当該酵素の2つの形態は、一般的に培養上清で認められる。GAIは、全長形態(アミノ酸残基1−616)であり、GAIIは、アミノ酸残基1−512を含む天然のタンパク質分解断片である。GAIは、伸張されたリンカー領域により連結される2つの分離ドメインとして折り畳まれることが知られている。2つのドメインは、471残基の触媒ドメイン(アミノ酸1−471)及び108残基のでんぷん結合ドメイン(アミノ酸509−616)で、この2つのドメイン間のリンカー領域は36残基(アミノ酸472−508)である。GAIIは、でんぷん結合ドメインを欠く。Libby他、(1994年)Protein Engineering7:1109−1114ページを参照にされたい。いくつかの実施形態において、キャリアタンパク質として使用され、シグナル配列を含むグルコアミラーゼは、アスペルギルス又はトリコデルマグルコアミラーゼの触媒ドメインと95%、96%、97%、98%及び99%より多い配列同一性を有する。「触媒ドメイン」の語は、タンパク質の触媒活性を有するタンパク質のアミノ酸配列の構造部分又は領域を示す。
【0065】
特定の実施形態において、前記シグナル配列及び前記キャリアタンパク質は同じ遺伝子から得られる。いくつかの実施形態において、前記シグナル配列及び前記キャリアタンパク質は異なる遺伝子から得られる。
【0066】
キャリアタンパク質は、分泌ポリペプチドの成熟配列の全部又は一部を含み得る。いくつかの実施形態において、全長分泌ポリペプチドが使用される。しかし、分泌ポリペプチドの機能部分が使用され得る。本願発明で使用される、分泌ポリペプチド又は文法上同等物の「部分」は、端を切断された(truncated)分泌ポリペプチドであり、切断されたにも関わらず、正常な構造に折り畳まれる能力を保持する分泌ポリペプチドである。
【0067】
いくつかの場合において、分泌ポリペプチドの切断(truncation)は、機能的タンパク質が生物学的機能を保持することを意味する。いくつかの実施形態において、分泌ポリペプチドの前記触媒ドメインが使用されるが、他の機能的ドメイン、例えば基質結合ドメイン等も使用され得る。一の実施形態において、グルコアミラーゼが、前記キャリアタンパク質(すなわち、Aspergillus nigerからのグルコアミラーゼ)として使用された場合、好ましい機能的部分は、酵素の触媒ドメインを保持し、アミノ酸1−471を含む(WO03089614、例えば、実施例10参照)。他の実施形態において、CBHIが、キャリアタンパク質(すなわち、トリコデルマ・リーセイからのCBHI)として使用された場合、好ましい機能的部分は、酵素の触媒ドメインを保持する。WO05093073の図2の配列番号1を参照すると、ここでトリコデルマ・リーセイCBHIシグナル配列、トリコデルマ・リーセイCBHI触媒ドメイン(触媒コア又はコアドメインとしても呼ばれる)及びトリコデルマ・リーセイCBHIリンカーをコードする配列が開示される。いくつかの実施形態において、シグナル配列を含めた、CBHIキャリアタンパク質は、WO05093073の図2の配列番号1と95%、96%、97%、98%及び99%より多い配列同一性を有する。
【0068】
一般に、キャリアタンパク質が切断されたタンパク質である場合、C−末端が切断されている(すなわち、無傷のN−末端を含有する)。或いは、前記キャリアタンパク質は、N−末端が切断されるか、又は随意に両端が切断され、機能的部分が残される。一般的に、キャリアタンパク質を含む分泌タンパク質のこのような部分は、50%より多い、70%より多い、80%より多い及び90%より多い分泌タンパク質、好ましくは分泌タンパク質のN−末端部分を含む。いくつかの実施形態において、前記キャリアタンパク質は、触媒ドメインに加えてリンカー領域を含む。本明細書での実施例の融合構成物において、CBHIタンパク質のリンカー領域部分の一部をキャリアタンパク質に使用した。
【0069】
本願発明で使用される、分泌配列として機能的なシグナル配列を含む第一アミノ酸配列は、第一DNA分子によりコードされる。キャリアタンパク質を含む第二アミノ酸配列は、第二DNA配列によりコードされる。しかし、上述の通りシグナル配列及びキャリアタンパク質は、同じ遺伝子から得ることが出来る。
【0070】
KEX2領域−
KEX2領域は、KEX2部位(B1B2)及び前記KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列((X)n=2−6)を含む。いくつかの実施形態において、KEX2領域は、in vivoで融合ポリペプチドから目的タンパク質のアミノ末端で切断(分離)する手段を提供する。本願発明に包含される融合ポリペプチドのKEX2領域は、キャリアタンパク質と目的タンパク質との間に自然発生する領域ではない。
【0071】
KEX2領域のC−末端で起こるKEX2切断部位は、野生型糸状真菌プロテアーゼ(例えば、野生型アスペルギルスKEXB様プロテアーゼ又は野生型トリコデルマKEX2プロテアーゼ)によって切断され得る。目的タンパク質は、KEX2部位の下流での部位に直結する箇所において本願発明にかかる融合ポリペプチドから切断される。
【0072】
KEX2部位は、アミノ酸配列「B1B2」を含有し、ここでB1及びB2は、それぞれ独立に基本アミノ酸である。好ましくは、KEX2部位は、KK、KR、RK又はRRのいずれか、好ましくはKR、を含む。
【0073】
KEX2部位プレ配列は、アミノ酸配列(X)n=2−6を含み、ここでXは、任意のアミノ酸及びnは、2から6、好ましくは4である。本明細書で定義されるKEX2領域は、本願発明に係る融合ポリペプチドを含むキャリアタンパク質において前記キャリアタンパク質のC−末端では自然に見られない。いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、キャリアタンパク質のC−末端上にある自然に発生する隣接する(X)n=2−6アミノ酸残基と異なるアミノ酸配列である。しかし、隣接する(X)n=2−6アミノ酸残基は、キャリアタンパク質の他の部分で見られることがあり、KEX2部位(B1B2)と連結され得るが、前記KEX2領域は、目的タンパク質のN−末端とは、付着しない。
【0074】
いくつかの実施形態において、KEX2部位プレ配列が、X4X3X2X1B1B2として定義される場合、
a)X1、X2及びX3はGではないか、
b)X2及びX3がG、X4がA、又はX3がSである場合、X1はSではないか、
c)X3がA及びX2がSである場合、X4がTではないか、又は
d)X1はDではない。
【0075】
いくつかの好ましい実施形態において、KEX2領域は、X4X3X2X1B1B2であり、ここでB1B2は、KRであり、さらに
a)X1、X2及びX3はGではないか、
a)X2及びX3はG、X4はA、又はX3はSである場合、X1はSではないか、
b)X3はA及びX2はSである場合に、X4はTではないか、又は
c)d)X1はDではない。
【0076】
他の実施形態において、KEX2部位プレ配列はX4X3X2X1と定義され、ここで
a)X4はV、S、N、L、又はKであり、
a)X3はA、V、D、W、E又はPであり、
b)X2はV、I、L又はFであり、さらに
c)X1はE、S、T又はYである。
【0077】
さらに他の実施形態において、KEX2部位プレ配列はX4X3X2X1として定義され、ここで、
a)X4はV、N、又はLであり、
a)X3はA、V、D、W、E又はPであり、
b)X2はV、I、L又はFであり、さらに
c)X1はE又はYである。
【0078】
さらに別の実施形態において、前記X4X3X2X1KRより成るKEX2領域は、X4がVであり、X3がAであり、X2がVであり、X1がE又はY及びそれらの組み合わせである群から選択され得る。
【0079】
いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、VAVE(配列番号84)、NVIS(配列番号85)、SDVT(配列番号86)、VAVY(配列番号87)、LAVE(配列番号88)、KAVE(配列番号89)、VAIE(配列番号90)、VALE(配列番号91)、VAFE(配列番号92)、VWVE(配列番号93)、VEVE(配列番号94)、及びVPVE(配列番号95)から成る群より選択され得る。
【0080】
いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、KSRS(配列番号109)、SRIS(配列番号111)、GGGS(配列番号110)、TSTY(配列番号96)、ASIS(配列番号97)、ATAS(配列番号98)、TASQ(配列番号99)、TASL(配列番号100)、SVIS(配列番号101)、NVIS(配列番号85)、GGG、TSRD(配列番号102)、SPMD(配列番号106)、DLGE(配列番号107)、又はTPTA(配列番号108)ではない。
【0081】
好ましいKEX2領域は、上述の通りX4X3X2X1B1B2として定義される一方、前記KEX2部位プレ配列は、6アミノ酸残基を含むことができ、いくつかの実施形態において、前記KEX2領域は、1以上のアミノ酸残基を含むことが出来る。他の実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、たったの2又は3アミノ酸残基(X3X2X1B1B2又はX2X1B1B2)のみを含むことが出来る。この実施形態において、
a)X1、X2及びX3はG(例えばGGGB1B2又はGGB1B2)でなく、
a)X2及びX3はG、又はX3はS(例えばSX2S又はSGS)である場合、X1はSではなく、さらに
b)X1はDではない。
【0082】
いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、KEX2部位プレ配列を欠く同等な融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の切断及び/又は分泌と比較して促進された宿主細胞由来の目的タンパク質の切断及び/又は分泌を提供する。
【0083】
いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は、最適化されたKEX2部位プレ配列である。最適化されたKEX2プレ配列は、本願発明に包含されるが、他の変異体KEX2部位プレ配列と比較してより多い又はより効率的な宿主細胞からの切断又は分泌を提供するKEX2プレ配列である。
【0084】
いくつかの実施形態において、本願発明に包含される前記融合ポリペプチドは、KEX2プレ配列として最適化されたKEX2プレ配列を含む。前記最適化されたKEX2プレ配列は、任意のシグナル配列、分泌タンパク質由来の任意のキャリア領域、任意のKEX2部位、又は任意の目的タンパク質と共に使用され得る。最適化されたKEX2部位プレ配列を含有する対象KEX2領域は、非自然発生であることが出来る。特定の実施形態において、最適化されたKEX2部位プレ配列を含有する対象KEX2領域は、糸状真菌細胞から分泌された任意のタンパク質では見られない。
【0085】
目的タンパク質−
前記目的タンパク質(又は前記キャリアタンパク質)は、糸状真菌細胞から分泌されることが出来るタンパク質の任意の部分であることができ、当該タンパク質は、いわゆる産業用酵素、治療用タンパク質、ホルモン、構造タンパク質、プラズマタンパク質、食品添加物及び食料等を含む。目的タンパク質は、異種又は同種タンパク質とすることができ、それぞれ真菌発現宿主に関して同種又は異種であり得る部分的又は完全なポリペプチドの組み合わせを含むハイブリッドポリペプチドを含むことが出来る。前記目的分泌タンパク質は、細菌(例えばバチルス属及びシュードモナス属)、真菌(例えばアスペルギルス、トリコデルマ、フミコーラ、又はケカビ種)、ウイルス(例えば肝炎ウイルスA又はB又はアデノウイルス)、哺乳類(例えばヒト又はマウス)、及び植物源に由来することが出来る。目的タンパク質は、遺伝子操作された変異と同様に自然発生のタンパク質の対立遺伝子変異を含む。
【0086】
一の実施形態において、前記目的タンパク質は、例えば、でんぷん加水分解α−アミラーゼ、アルカリ性α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、セルラーゼ等のカルボヒドラーゼ、デキストラナーゼ、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペントサナーゼ(pentosanase)、キシラナーゼ、インベルターゼ、ラクトース、ナリンガナーゼ(naringanase)、ペクチナーゼ又はプルラナーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、ブロメライン、フィシン、中性プロテアーゼ、パパイン、ペプシン、ペプチダーゼ、レンネット、レンニン、キモシン、ズブチリシン、サーモリシン、アスパラギン酸プロテイナーゼ、又はトリプシン等のプロテアーゼ、グルコアミラーゼ又はアルファアミラーゼ等の粒状でんぷん加水分解酵素、トリグリセリダーゼ、ホスホリパーゼ、プレガストリックエステラーゼ、ホスファターゼ、フィターゼ、アミダーゼ、イミノアシラーゼ、グルタミナーゼ、リゾチーム、又はペニシリンアシラーゼ等のリパーゼ又はエステラーゼ、グルコース異性体等の異性体、例えば、ラッカーゼ等のフェノール酸化酵素、例えば、アミノ酸オキシダーゼ、カタラーゼ、クロロペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、水酸化ステロイドデヒドロゲナーゼ又はペルオキシダーゼ等の酸化還元酵素、アセト乳酸デカルボキシラーゼ、アスパラギン酸β−デカルボキシラーゼ、フマラーゼ又はヒスタダーゼ(histadase)等のリアーゼ、サイクロデキストリングリコシルトランスフェラーゼ又はアシルトランスフェラーゼ等のトランスフェラーゼ、又はリガーゼ等の酵素とすることが出来る。所定の実施形態において、前記タンパク質は、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、キチナーゼ、グルコアミラーゼ、アルファアミラーゼ、クチナーゼ、フィターゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、ラッカーゼ、マンノシダーゼ、ミュータン分解酵素(mutanase)、ペクチン分解酵素、ポリフェノールオキシダーゼ、リボヌクレアーゼ又はトランスグルタミナーゼとすることが出来る。
【0087】
他の実施形態において、当該目的タンパク質は、治療用タンパク質(すなわち、治療用生物学的活性を有するタンパク質)とすることが出来る。適した治療用タンパク質の例は、エリスロポエチン、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、インターフェロン−o等のサイトカイン、及び顆粒球−CSF、GM−CSF、因子VIII、因子IX、及びヒトタンパク質C等の凝固因子、アンチトロンビンIII、トロンビン、可溶性IgE受容体α鎖、免疫グロブリンG(IgG)、IgG断片、IgG融合体、IgM又はIgA等の免疫グロブリン、インターロイキン、ウロキナーゼ、キマーゼ、及び尿素トリプシン抑制剤、IGF−結合タンパク質、表皮成長因子、成長ホルモン−放出因子、アネキシンV融合タンパク質、アンギオスタチン、血管内皮成長因子−2、骨髄前駆抑制因子−1、破骨細胞分化抑制因子、α−1−抗トリプシン、α−胎児タンパク質、DNase II、ヒトプラスミノーゲンのクリングル3、グルコセレブロシダーゼ、TNF結合タンパク質1、卵胞刺激ホルモン、細胞傷害Tリンパ球関連抗原4−Ig、膜貫活性剤及びカルシウムモジュレータ及びサイクロフィリンリガンド、可溶性TNF受容体Fc融合体、グルカゴン様タンパク質1及びIL−2受容体作用薬を含む。
【0088】
いくつかの好ましい実施形態において、前記目的タンパク質は、クラスG、A、M、E又はDのいずれかの免疫グロブリンである。(米国特許第4,816,567号及びその免疫グロブリン構造に関する引用文献参照)。他の好ましい実施形態において、モノクローナル抗体等の前記抗体タンパク質は、H又はL鎖及びそれらの断片を含む。別の実施形態において、ヒト化抗体は、目的タンパク質(例えばトラスツズマブ(ハーセプチン))としての所定の目的物である。いくつかの好ましいモノクローナル抗体断片の具体例は、H鎖の切断型であり、例えば、H鎖(Fd)がヒンジ領域及びCH2及びCH3ドメインを欠くFab断片、H鎖がヒンジ領域を含むが、CH2及びCH3ドメインを欠くFab’断片、及びヒンジ領域に連結したFab部分を含むF(ab’)2断片等の一部の定常領域を除去する。(Verma他、(1998年)J.Immunological Methods216:165−181ページ及びPennell及びEldin(1998年)Res.Immunol.149:599−603ページ)。また、目的物は、単鎖抗体(ScFv)及び単一ドメイン抗体(例えば、ラクダ抗体)である。
【0089】
いくつかの特に好ましい実施形態において、本願発明に係る融合ポリペプチドは、操作可能な結合で、シグナル配列、キャリアタンパク質、KEX2領域及び以下の目的タンパク質を含む。
【0090】
融合DNA構成物及びベクター−
いくつかの実施形態において、本願発明は、上述の融合ポリペプチドをコードする融合DNA構成物であって、プロモーター、シグナル配列をコードする第一DNA分子、キャリアタンパク質をコードする第二DNA分子、KEX2部位及び前記KEX2部位の5’末端に直結したKEX2部位プレ配列を含むKEX2領域をコードする第三DNA分子、及び目的タンパク質をコードする第四DNA分子を5’末端から操作可能な結合で含む融合DNA構成物を提供する。遺伝子コードが知られていることから、対象融合ポリペプチドの描写が与えられれば、これらの核酸の設計及び生成は、当業者の間で明白である。特定の実施形態において、前記核酸は所定の宿主細胞で融合ポリペプチドの発現のためにコドン最適化(codon optimized)される。コドン使用表は多くの糸状菌種に有用なことから、対象融合ポリペプチドをコードするコドン最適化された核酸の設計及び生成は当業者に明白である。
【0091】
プロモーター−
糸状真菌宿主細胞で対象核酸の転写を導くのに適したプロモーターの例は、Aspergillus oryzae TAKAアミラーゼ、Rhizomucor mieheiアスパラギン酸プロテイナーゼ、Aspergillus niger中性アルファ−アミラーゼ、Aspergillus niger酸性安定アルファ−アミラーゼ(Korman他(1990年)Curr.Genet.17:203−212ページGines他、(1989年)Gene79:107−117ページ)、Aspergillus niger又はAspergillus awamoriグルコアミラーゼ(glaA)(Nunberg他、(1984年)Mol.Cell Biol.4:2306−2315ページ、Boel E.他、(1984年)EMBO J.3:1581−1585ページ)、Rhizomucor mieheiリパーゼ、Aspergillus oryzaeアルカリ性プロテアーゼ、Aspergillus oryzaeトリオースリン酸異性体、Aspergillus nidulansアセトアミダーゼ(Hyner他、(1983年)Mol.Cell Biol.3:1430−1439ページ)、Fusarium venenatumアミログルコシダーゼ、Fusarium oxysporumトリプシン様プロテアーゼ(WO96/00787)、トリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素I(Shoemaker他(1984年)欧州特許公開第0137280号)、トリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素II、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼI、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼII、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼIII、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼIV、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼV、トリコデルマ・リーセイキシラナーゼI、トリコデルマ・リーセイキシラナーゼII、トリコデルマ・リーセイベータ−キシロシダーゼ、さらに、NA2−tpiプロモーター(Aspergillus niger中性アルファ−アミラーゼ及びAspergillus oryzaeトリオースリン酸異性体の遺伝子に由来するプロモーターのハイブリッド、及びそれらの変種、切断されたプロモーター、及びハイブリッドプロモーターの遺伝子から得られる。Yelton他、(1984年)Proc.Natl.Acad.Sci.米国81:1470−1474ページ、Mullaney他、(1985年)Mol.Gen.Genet.199:37−45ページ、Lockington他、(1986年)Gene33:137−149ページ、Macknight他、(1986年)Cell46:143−147ページ、Hynes他、(1983年)Mol.Cell Biol.3:1430−1439ページも参照にされる。SV40早期プロモーター(Barclay他(1983年)Molecular and Cellular Biology3:2117−2130ページ)等のより精度の高い真核プロモーターも有用である。プロモーターは、構成的又は誘導的プロモーターとすることが出来る。いくつかの好ましいプロモーターは、トリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素I又はII、トリコデルマ・リーセイエンドグルカナーゼI、II又はIII、及びトリコデルマ・リーセイキシラナーゼIIを含む。
【0092】
ベクター−
対象ポリヌクレオチドは、例えば、ファージ、プラスミド、ウイルス、又はレトロベクター等のベクターで提供され得る。特定の実施形態において、前記ベクターは、糸状真菌細胞で対象融合ポリペプチドを発現する発現ベクターとすることが出来る。組換えタンパク質の発現に用いられるベクターは、当該技術分野でよく知られている(Ausubel他、分子生物学における簡易プロトコール(Short Protocols in Molecular Biology)、第3版、Wiley&Sons出版、1995年、Sambrook他、分子クローニング:研究マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、第二版、(1989年)Cold Spring Harbor出版、ニューヨーク州)。
【0093】
本願発明に係る融合DNA構成物は、例えば、欧州特許公開第0215594号等に一般的に記載されるような公知技術を用いて構成され得る。
【0094】
目的タンパク質(例えば、免疫グロブリン)をコードする天然又は合成ポリヌクレオチド断片は、糸状真菌細胞で導入及び複製が可能な異種核酸構成物又はベクターに組み込まれることが出来る。
【0095】
本願発明に包含されるDNA構成物又はより具体的な融合DNA構成物が生成された場合、それは当該技術分野で知られる任意の数のベクターに組み込まれ得る。好ましいDNA構成物はプロモーター配列を含む一方、いくつかの実施形態において前記ベクターは、形質転換されるために、リボソーム結合部位、転写開始及び終了配列、ターミネータ配列、ポリアデニル化シグナル、エンハンサー及び又は活性剤等の宿主で機能的な他の制御配列を含む。いくつかの実施形態において、目的タンパク質及びKEX2領域をコードするポリヌクレオチドは、適切な制限エンドヌクレアーゼ部位で標準的処理により、プロモーター、シグナル配列及びキャリアタンパク質を含むベクターへ挿入される。このような処理及び関連サブクローニング処理は、当業者の知識の範囲内であると思われる。
【0096】
転写が終了するために発現宿主により認識されるターミネータ配列は、発現する融合タンパク質をコードする融合DNA構成物の3’末端に操作可能に連結され得る。当業者は、糸状菌と共に使用される多様なターミネータ配列をよく認識している。非限定的な例は、Aspergillus nidulans trpC遺伝子(Yelton M.他、(1984年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA81:1470−1474ページ)由来のターミネータ又はAspergillus nigerグルコアミラーゼ遺伝子(Nunberg他(1984年)Mol.Cell.Biol.4:2306−2353ページ)由来のターミネータ又はトリコデルマ・リーセイセロビオ加水分解酵素I遺伝子由来のターミネータを含む。
【0097】
ポリアデニル化配列は、ポリアデノシン残基を転写されたmRNAに添加するため、転写物が発現宿主により認識される場合のDNA配列である。例は、Aspergillus nidulans trpC遺伝子(Yelton M.他、(1984年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA81:1470−1474ページ)又はAspergillus nigerグルコアミラーゼ遺伝子(Nunberg他(1984年)Mol.Cell.Biol.4:2306−2315ページ)、A.oryzae又はA.nigerアルファアミラーゼ遺伝子及びRhizomucor mieheiカルボキシルプロテアーゼ遺伝子由来のポリアデニル化配列である。いずれの真菌ポリアデニル化配列も、本願発明において機能的であることが多い。
【0098】
別の実施形態において、前記融合DNA構成物を含む融合DNA構成物又はベクターは、選択可能マーカー遺伝子を含有し、形質転換された宿主細胞の選択を可能にする。選択マーカー遺伝子は、当該技術分野で知られ、使用する宿主細胞によって変更される。選択可能マーカーの例は、抗微生物耐性を与えるもの(例えばハイグロマイシン、ブレオマイシン、クロロアンフェニコール(chloroamphenicol)及びフレオマイシン)を含むがそれらに限られない。栄養選択マーカー等の代謝優位を与える遺伝子も本願発明で使用される。いくつかのこれらのマーカーは、amdSを含む。栄養要求性欠損を補完する遺伝子をコードする配列も、選択マーカーとして使用され得る(例えば、pyr4欠損A.nidulans、A.awamori又はトリコデルマ・リーセイのpyr4補完(complementation)及びargB欠損株のargB補完)。Kelley他、(1985年)EMBO J.4:475−479ページ、Penttila他、(1987年)Gene61:155−164ページ及びKinghorn他(1992年)糸状菌の応用分子遺伝学(Applied Molecular Genetics of Filamentous Fungi)、Blackie Academic and Professional、Chapman and Hall出版、ロンドンが参考にされる。
【0099】
宿主細胞−
本願発明に係る融合DNA構成物を含む宿主細胞も提供される。特定の実施形態において、前記宿主細胞は、糸状真菌宿主細胞とすることが出来る。いくつかの実施形態において、前記細胞は、GRASの地位である、すなわち、FDAにより安全であると認証された(Generally Recognized as Safe)タンパク質の生成に使用された経歴を有する株の糸状真菌細胞であることが出来る。所定の実施形態において、前記対象真菌細胞は、以下の種の細胞であり得る。すなわち、トリコデルマ属(例えば、トリコデルマ・リーセイ(従来T.longibrachiatumとして分類され、現在Hypocrea jecorinaとしても知られている)、Trichoderma viride、Trichoderma koningii、及びTrichoderma harzianum))、ペニシリン属種:フミコーラ属種(例えば、Humicola insolens及びHumicola griseα)、クリソスポリウム属種(例えば、C.lucknowense)、グリオクラディウム属種、アスペルギルス属種(例えば、Aspergillus oryzae、Aspergillus niger、Aspergillus nidulans、Aspergillus kawachi、Aspergillus aculeatus、Aspergillus japonicus、Aspergillus sojae、及びAspergillus awamori)、フザリウム属種、ケカビ属種、アカパンカビ属種、ボタンタケ属種、又はエメリセラ(Emericella)属種(Innis他、(1985年)Sci.228:21−26ページ)等である。いくつかの実施形態において、対象真菌細胞は、Aspergillus oryzae、ATCC11490、ATCC22342、ATCC44733、ATCC14331、NRRL3112を含むAspergillus nigerの株及びそれらに由来する株であることが出来る。いくつかの実施形態において、対象真菌細胞は、RL−P37(Sheir−Neiss他(1984年)Appl.Microbiol.Biotechnology20:46−53ページ)の機能的同等物を含むトリコデルマ属株であることが出来る。有用なトリコデルマ宿主株は、NRRL15709、ATCC13631、ATCC26921(QM9414)ATCC32098、ATCC32086、及びATCC56765(RUTC−30)を含む。
【0100】
いくつかの実施形態において、宿主細胞は、野生型遺伝子が欠損又は不活性化されたものとすることが出来る。いくつかの実施形態において、好ましい宿主細胞は、不活性化されたプロテアーゼ遺伝子(例えばアスパルチルプロテアーゼ)を有し、Berka他(1990年)Gene86:153−162ページ及び米国特許第6,509,171号が参照にされる。いくつかの実施形態において、好ましい宿主細胞は、不活性化されたセルラーゼ遺伝子(例えばcbh1、cbh2及びegl1、及びegl2)を有し、WO05/001036で開示されるトリコデルマ・リーセイのクワド欠損(quad deleted)株が参照される。
【0101】
上述の融合DNA構成物は、例えば、宿主細胞の核ゲノムに存在するか、又は宿主細胞で複製するプラスミドに存在することが出来る。
【0102】
形質転換−
DNA構成物又はベクターの宿主細胞への導入は、形質転換、エレクトロポレーション、核マイクロインジェクション、形質導入、トランスフェクション、(例えば、リポフェクション介在及びDEAE−デキストリン介在トランスフェクション)、カルシウムリン酸DNA沈殿物とのインキュベーション、DNAコートマイクロ入射核の高速度砲撃、及びプロトプラスト融合等の技術を含む。一般的な形質転換技術が当該技術分野で知られている(例えば、上記Ausubel他、(1987年)、第9章、及び上記Sambrook(1989年)及びCampbell他、(1989年)Curr.Genet.16:53−56ページ参照)。WO05/001036、米国特許第6,022,725号、米国特許第6,103,490号、米国特許第6,268,328号、[公開米国特許出願第20060041113号、第20060040353号、第20060040353号、及び第20050208623号]も参照にされ、これらの発行物は参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
トリコデルマ属に組換えで導入されたタンパク質の発現は、米国特許第6,022,725号、米国特許第6,268,328号、Harkki他(1991年)、Enzyme Microb.Technol.13:227−233ページ、Harkki他、(1989年)Bio Technol.7:596−603ページ、欧州特許第244,234号、第215,594号、及びNevalainen他、「トリコデルマ属の分子生物学及び同異種両方の遺伝子発現への応用(The Molecular Biology of Trichoderma and its Application to the Expression of Both Homologous and Heterologous Genes)」、MOLECULAR INDUSTRIAL MYCOLOGY、Leong及びBerka編集、Marcel Dekker社出版、ニューヨーク州(1992年)129−148ページ)に開示される。Cao他、(2000年)Protein Sci.9:991−1001ページ、Yelton他、(1984年)Proc.Natl.Acad.Sci.81:1470−1471ページ、米国特許第6,590,078号、及びBerka他、(1991年)が参照にされ、アスペルギルス株の形質転換には、酵素生物工学の応用(Applications of Enzyme Biotechnology)、Kelly及びBaldwin編集、Plenum発行、ニューヨーク州も参照にされる。
【0104】
一の実施形態において、トリコデルマ属種の形質転換への調整は、真菌菌糸からのプロトプラストの調整を含む(Penttila他、(1987年)Gene61:155−164ページ参照)。いくつかの実施形態において、前記菌糸体は発芽増殖性胞子から得られる。
【0105】
一般的に、細胞は、生理塩及び栄養素を含有する標準的培地で培養される(例えば、Pourquie,J.他、(BIOCHEMISTRY AND GENETICS OF CELLULOSE DEGRADATION)、Aubert,J.P.他編集、Academic発行、71−86ページ、1988年及びIlmen,M.他、(1997年)Appl.Environ.Microbiol.63:1298−1306ページ参照)。一般的な商業用に調製された培地(例えば、酵母麦芽エキス(YM)ブロス、Luria Bertani(LB)ブロス及びサブローデキストロース(SD)ブロスも本願発明で使用される。前記糸状真菌に用いられる好ましい培養条件は、当該技術分野で知られ、科学文献で及び/又はAmerican Type Culture Collection(ATCC)及びFungal Genetics Stock Center等の菌源から見つけることが出来る。
【0106】
いくつかの実施形態において、免疫グロブリンが目的タンパク質免疫グロブリンである場合、発現細胞は親細胞系統の培養に通常使用される条件下で培養される。一般的に、細胞は、上記Ilmen他、(1997年)で開示される等の生理塩及び栄養素を含有する標準的培地で培養される。目的レベルの免疫グロブリンを発現するまで、培養条件も標準的(例えば、25−30℃における回転式振盪培養機上の振盪フラスコでのインキュベーション)である。
【0107】
タンパク質生成方法−
糸状真菌細胞における目的タンパク質の生成方法も本願発明に包含される。いくつかの実施形態において、これらの方法は、本願発明に係る融合DNA構成物又はベクターを含む糸状宿主細胞を得る工程及び目的タンパク質の発現及び分泌を可能にする適した条件下で糸状宿主細胞を培養する工程を含む。宿主細胞の培養地(すなわち、対象宿主細胞及び成長培地を含有する組成)が、上述の融合ポリペプチドの分泌タンパク質を含有し得る一方で、いくつかの実施形態において前記目的タンパク質は、培養地から回収される。他の実施形態において、前記目的タンパク質は精製される。タンパク質は、任意の便宜的な方法により成長培地から回収され得る。
【0108】
いくつかの実施形態において、対象真菌細胞は、バッチ式又は継続的発酵条件下で培養され得る。従来のバッチ式発酵は、閉鎖系であり、ここで前記培地の組成は発酵の開始で準備が完了され、発酵中は人為的変更が行われない。従って、発酵の開始で前記培地は、目的微生物が接種される。この方法において、発酵は前記系への任意成分の追加なしに行われることが可能とされる。通常、バッチ式発酵は、炭素源の追加に関して「バッチ式」であると見なされ、pH及び酸素濃度等のコントロール因子において頻繁に試みられる。バッチ式系の代謝及びバイオマス組成は、発酵が終了する時間まで常に変化する。バッチ式培養内において、細胞は静的誘導期から対数高成長期を通り、最終的に成長が減少又は停止する静止期まで発育する。非処理の場合、静止期の細胞は最終的に死滅する。一般に、対数期の細胞は、最終生成物の生成バルク量に影響する。
【0109】
標準的バッチ式系の変形は、本願発明で使用される「流加発酵」系である。この典型的バッチ式系の変形において、前記基質は発酵が進行するにつれて徐々に添加される。異化代謝産物抑制により細胞の代謝が抑制される傾向がある場合、及び培地における基質量の制限が望ましい場合に、流加系は有益である。流加系における実際の基質濃度の測定は、困難であり、従って、pH、溶解酸素等の測定可能な因子及びCO2等の消耗気体の分圧の変化に係る基準について試算される。バッチ式及び流加発酵は一般的であり、当該技術分野に知られている。
【0110】
継続的発酵は開放系であり、指定発酵培地は継続的にバイオリアクターへ添加され、等量の条件培地が過程において同時に回収される。継続的発酵は、一般的に一定高密度での培養で維持され、細胞は主に対数期成長にある。
【0111】
継続的発酵は、細胞成長及び/又は最終生成物濃度に影響する一因子又は任意数の因子の調節(modulation)を可能にさせる。例えば、一の実施形態において、炭素源又は窒素源等の栄養素の限定は、定率で維持され、他の全てのパラメーターは、加減され得る。他の系において、成長に影響する多くの因子は、継続的に変化し得る一方、培地濁度により測定される前記細胞の濃度は一定に保たれる。継続的な系は、定常状態の成長条件を維持する。従って、培地が取り除かれたための細胞の損失は、発酵における細胞成長率とバランスが保たれるようにする。生成物の形成率を最大にする技術と同様に継続的発酵方法に用いる栄養素及び成長因子の調節方法は、公知である。
【0112】
発現及び分泌−
融合ポリペプチドをコードする融合DNA構成物を含む糸状真菌細胞における目的タンパク質の生成は、融合ポリペプチドの目的タンパク質の分泌をもたらす。菌における分泌工程の間、糖鎖は、分泌されるタンパク質に付着し、グリコシル化タンパク質を生成し得る。本願発明において、目的タンパク質(例えば、抗体)の生成は、グリコシル化又は非グリコシル化タンパク質を含み得る。
【0113】
いくつかの実施形態において、対象融合ポリペプチドの前記分泌タンパク質は一般的に、同等な(すなわち、同じ細胞型、同じ条件で成長した)糸状真菌細胞により生成されるが、KEX2部位プレ配列を欠く同等な融合ポリペプチドの目的分泌タンパク質の量より多い量で糸状真菌細胞の培養地に存在する。本願発明に係る融合ポリペプチド由来の目的タンパク質を生成する対象細胞の培養は、別の同等タンパク質を発現するが、本願発明に包含されるKEX2部位プレ配列を有さない同等な細胞培養と比較して成長培地における目的タンパク質を5%より多く、10%より多く、20%より多く、40%より多く、60%より多く、80%より多く、100%より多く、150%より多く、200%より多く、300%より多く、500%より多く、及び1000%より多く含有し得る。
【0114】
いくつかの実施形態において、目的タンパク質(例えば、全長抗体)の発現及び分泌レベルは、0.5g/Lより多い。通常1.0g/Lより多い目的タンパク質が、培養地から回収され得る。1.5、2.0及び3.0g/Lより多い再現可能なレベルが達成される。いくつかの実施形態において、目的タンパク質の発現及び分泌レベルは、10g/Lより多く、さらに20g/Lより多い。
【0115】
本願発明に係るいくつかの実施形態において、前記組換え融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の切断は、KEX2部位プレ配列を欠く同等な組換え融合ポリペプチド由来の同じ目的タンパク質の切断より多い。いくつかの実施形態において、前記KEX2部位プレ配列は少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の効率で切断された融合タンパク質をもたらす。ここで、効率100%は、完全に切断された融合ポリペプチド由来の目的分泌タンパク質をもたらす。
【0116】
特定の実施形態において、タンパク質切断効率は、生じた切断量の決定、例えば、切断タンパク質量対非切断タンパク質量の決定等により算出される。一の実施形態において、タンパク質切断量は、成長培地で細胞培養の体積当たり、成長培地における切断タンパク質量対非切断融合タンパク質量の割合を決定することにより算出され得る。
【0117】
KEX2部位プレ配列又は最適化されたKEX2部位プレ配列を含有する融合ポリペプチドは、特定の実施形態において、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%又は100%の効率で切断される融合ポリペプチドをもたらす。ここで効率100%は、完全に切断された目的タンパク質である。
【0118】
他の実施形態において、前記対象融合ポリペプチドの分泌効率は、前記タンパク質を分泌する細胞の成長培地において前記融合ポリペプチドの分泌部分の量を決定することにより算出され得る。この測定は、定量的、定性的、相対的又は絶対的に行い得る。一の実施形態において、対象融合体を分泌する細胞の成長培地における分泌タンパク質の量は、最適化されたKEX2プレ配列を含有しない同等な融合ポリペプチドを生成する細胞により分泌された分泌タンパク質量より、少なくとも10%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも2倍、少なくとも5倍、又は少なくとも10倍多い。
【0119】
いくつかの実施形態において、分泌及び/又は切断の増加は、GGGB1B2で定義される基準KEX2領域に対して測定され得る。ここでB1B2はKK、KR、RK又はRR及び好ましくはKRである。1つの実施形態において、対象融合体を分泌する細胞の成長培地中の分泌タンパク質又は目的タンパク質の量は、本質的に同等な条件下、同等な宿主で同等な融合ポリペプチドにより分泌タンパク質又は分泌された目的タンパク質の量より、少なくとも10%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、及び少なくとも10倍多い。
【0120】
スクリーニング方法−
最適化されたKEX2部位プレ配列を特定するスクリーニング方法も提供される。これらの方法は、a)親融合ポリペプチドのKEX2部位プレ配列を変異し、試験ポリペプチドを生成する工程及びb)糸状真菌細胞による試験融合ポリペプチドの分泌を評価する工程を含み得る。特定の実施形態において、試験融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の分泌及び/又は切断は、親融合タンパク質の分泌及び/又は切断と比較される。所定の実施形態において、当該方法は、培養の体積当たり、成長培地で融合ポリペプチドの分泌タンパク質の量と細胞で融合ポリペプチドの分泌部分の量とを比較して評価する工程、又は成長培地で組換え融合ポリペプチドの分泌タンパク質の量を評価する工程を含む。他の実施形態において、前記方法は、成長培地で融合ポリペプチドから放出された又は切断された分泌タンパク質(目的タンパク質)の量と(例えば、キャリアタンパク質に付着した)融合ポリペプチドの型に残る分泌タンパク質の量とを比較して、評価する工程を含む。
【0121】
これらのスクリーニング分析において、前記親融合タンパク質は、図1で概略的に図解される、アミノ酸配列を有し、ここでXはアミノ酸である。特定の実施形態において、前記親融合タンパク質及び前記試験融合タンパク質は、それらのKEX2部位プレ配列を除き、同一である。親組換え融合タンパク質及び試験組換え融合タンパク質は、KEX−2部位プレ配列の1つ、2つ、3つ又は4つのアミノ酸で異なることが出来る。変異は、アミノ酸置換、挿入又は欠失とすることができ、さらに、2又は3の変異がある場合、前記変異は、隣接アミノ酸、非隣接アミノ酸、又は隣接及び非隣接アミノ酸の組み合わせとすることが出来る。
【0122】
一の実施形態において、親融合ポリペプチドの前記KEX2部位プレ配列は、変異され、それぞれ異なるKEX2部位プレ配列を含有する複数の異なる試験融合ポリペプチドを生成することができる。その後、糸状真菌細胞による前記試験融合ポリペプチド及び前記親融合ポリペプチドの分泌及び/又は切断が評価される。
【0123】
これらの方法は、一般的に知られるプロトコール(例えば、Ward他(1990年)Bio/Technology8:435−440ページ及びSpencer(1998年)Eur.J.Biochem.258:107−112ページ等参照)を用いて実施され得る。当該プロトコールでは、ベクターは細胞へ導入され、前記細胞は培養され、前記細胞培養の細胞タンパク質の存在が分析される。一の実施形態において、本願発明に係る融合体をコードする組換え核酸(その構造は図1に示される)は、変異され、試験ポリペプチドをコードする核酸を生成し、2つの核酸は、同等な糸状真菌細胞(上の一覧に示される任意の宿主細胞とすることが出来る)の形質転換に使用される。2つの細胞系統は、同等な条件下で培養され、タンパク質の分泌部分の分泌及び/又は切断効率が評価される。前記親融合タンパク質のシグナル配列、分泌タンパク質、KEX2部位及びKEX2部位プレ配列は、上の一覧に示されるものを含め任意の知られたシグナル配列、分泌タンパク質、KEX2部位又はKEX2部位プレ配列とすることが出来る。
【0124】
上述の通り、前記タンパク質分泌又は切断効率は、例えば、異なる培養間で成長培地の分泌部分の絶対量又はノーマライズされた量の比較、又はタンパク質の分泌部分の量と、タンパク質の非分泌部分の量との比較による等、多くの異なる方法により評価され得る。当該評価は、例えば、定量的、定性的、相対的又は絶対的に行うことが出来る。
【0125】
最適化されたKEX2部位プレ配列は、上述の方法に係る複数の異なる試験融合タンパク質を試験する工程、及びどの異なる試験融合タンパク質が最も効率的に分泌された及び/又は切断されたかを決定する工程により特定されることができる。ここで前記最適化されたKEX2部位プレ配列は、最も効率的に分泌された試験組換え融合タンパク質のKEX2部位プレ配列である。
【0126】
コントロール培養より少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも70%及び少なくとも95%より多くの分泌タンパク質又はより多くの目的タンパク質を含有する細胞の培養は、KEX2部位プレ配列によりこれらの細胞からのタンパク質分泌及び/又は切断が増加されることを示す。
【実施例】
【0127】
以下の実施例は、当業者に本願発明をどのように生成し、使用するかの完全な開示及び記載を提供するためにある。そして、発明者が彼らの発明として見なす範囲を限定することを意図せず、また、以下の実験が全て又は実施された唯一の実験であると述べるものではない。使用される数(例えば、量、温度等)に関して正確さを保証にする取り組みがされているが、若干の実験誤差及び偏差のあり得ることも考慮すべきである。別段の表示がない限り、パーツは重量によるパーツ、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏(℃)、圧力は大気圧又はそれに近い。また、以下の略記が適用される。すなわち、M(モル)、μM(マイクロモル)、N(ノーマル)、mol(モル)、mmol(ミリモル)、μmol(マイクロモル)、nmol(ナノモル)、g(グラム)、mg(ミリグラム)、kg(キログラム)、μg(マイクログラム)、L(リットル)、ml(ミリリットル)、h(時間)、min(分間)、PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)、kDa(キロダルトン)、及びbp(塩基対)である。以下の分析及び方法が下記の実施例で使用される。
【0128】
A.pTrex4ベクターの構成:
合成DNAは、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)へクローン化され、以下で記載される実施例での使用に適切な発現プラスミドを産生した。
【0129】
pTrex4はpTrex2の修飾形であり、pTrex3g発現ベクターに由来する。pTrex3gの構成は、WO05/001036の実施例6で詳細に記載される。つまり、前記pTrex3gは、大腸菌ベクターpSL1180(Pharmacia社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)に基づき、当該ベクターは、64六量体制限酵素認識配列を含有する拡張された複数のクローニング部位を有するpUC118プラスミドに基づいたベクターである。Gateway destination ベクター(Hartley、J.L.他、(2000年)Genome Research10:1788−1795ページ)として設計され、トリコデルマ・リーセイcbh1遺伝子のプロモーターとターミネータ領域との間の任意の目的オープンリーディングフレームのGateway Technology(インビトロジェン)を用いた挿入を可能にした。
【0130】
pTrex4−her2L鎖DNA2.0の詳細は、以下(図2及び図3)である。前記プラスミドのサイズは、10885kb(配列番号103)である。pSL1180のポリリンカー領域へ挿入されたものは、DNAの以下のセグメントである。
【0131】
トリコデルマ・リーセイcbh1のプロモーター領域由来のDNAの2.2bpセグメント、
トリコデルマ・リーセイcbh1シグナル配列(下線)、触媒ドメイン、リンカー(イタリック体)(1570塩基)(配列番号104)のDNA配列
ATGTATCGGAAGTTGGCCGTCATCTCGGCCTTCTTGGCCACAGCTCGTGCTCAGTCGGCCTG
CACTCTCCAATCGGAGACTCACCCGCCTCTGACATGGCAGAAATGCTCGTCTGGTGGCACTTGCACTCAACAGACAGGCTCCGTGGTCATCGACGCCAACTGGCGCTGGACTCACGCTACGAACAGCAGCACGAACTGCTACGATGGCAACACTTGGAGCTCGACCCTATGTCCTGACAACGAGACCTGCGCGAAGAACTGCTGTCTGGACGGTGCCGCCTACGCGTCCACGTACGGAGTTACCACGAGCGGTAACAGCCTCTCCATTGGCTTTGTCACCCAGTCTGCGCAGAAGAACGTTGGCGCTCGCCTTTACCTTATGGCGAGCGACACGACCTACCAGGAATTCACCCTGCTTGGCAACGAGTTCTCTTTCGATGTTGATGTTTCGCAGCTGCCGTAAGTGACTTACCATGAACCCCTGACGTATCTTCTTGTGGGCTCCCAGCTGACTGGCCAATTTAAGGTGCGGCTTGAACGGAGCTCTCTACTTCGTGTCCATGGACGCGGATGGTGGCGTGAGCAAGTATCCCACCAACACCGCTGGCGCCAAGTACGGCACGGGGTACTGTGACAGCCAGTGTCCCCGCGATCTGAAGTTCATCAATGGCCAGGCCAACGTTGAGGGCTGGGAGCCGTCATCCAACAACGCAAACACGGGCATTGGAGGACACGGAAGCTGCTGCTCTGAGATGGATATCTGGGAGGCCAACTCCATCTCCGAGGCTCTTACCCCCCACCCTTGCACGACTGTCGGCCAGGAGATCTGCGAGGGTGATGGGTGCGGCGGAACTTACTCCGATAACAGATATGGCGGCACTTGCGATCCCGATGGCTGCGACTGGAACCCATACCGCCTGGGCAACACCAGCTTCTACGGCCCTGGCTCAAGCTTTACCCTCGATACCACCAAGAAATTGACCGTTGTCACCCAGTTCGAGACGTCGGGTGCCATCAACCGATACTATGTCCAGAATGGCGTCACTTTCCAGCAGCCCAACGCCGAGCTTGGTAGTTACTCTGGCAACGAGCTCAACGATGATTACTGCACAGCTGAGGAGGCAGAATTCGGCGGATCCTCTTTCTCAGACAAGGGCGGCCTGACTCAGTTCAAGAAGGCTACCTCTGGCGGCATGGTTCTGGTCATGAGTCTGTGGGATGATGTGAGTTTGATGGACAAACATGCGCGTTGACAAAGAGTCAAGCAGCTGACTGAGATGTTACAGTACTACGCCAACATGCTGTGGCTGGACTCCACCTACCCGACAAACGAGACCTCCTCCACACCCGGTGCCGTGCGCGGAAGCTGCTCCACCAGCTCCGGTGTCCCTGCTCAGGTCGAATCTCAGTCTCCCAACGCCAAGGTCACCTTCTCCAACATCAAGTTCGGACCCATTGGCAGCACCGGCAACCCTAGCGGCGGCAACCCTCCCGGCGGAAACCCGCCTGGCACCACCACCACCCGCCGCCCAGCCACTACCACTGGAAGCTCTCCCGGACCTACTAGT
トリコデルマ・リーセイcbh1シグナル配列、触媒ドメイン、リンカー(480アミノ酸)のアミノ酸配列が以下に表される(配列番号105)。
【0132】
MYRKLAVISAFLATARAQSACTLQSETHPPLTWQKCSSGGTCTQQTGSVVIDANWRWTHATNSSTNCYDGNTWSSTLCPDNETCAKNCCLDGAAYASTYGVTTSGNSLSIGFVTQSAQKNVGARLYLMASDTTYQEFTLLGNEFSFDVDVSQLPCGLNGALYFVSMDADGGVSKYPTNTAGAKYGTGYCDSQCPRDLKFINGQANVEGWEPSSNNANTGIGGHGSCCSEMDIWEANSISEALTPHPCTTVGQEICEGDGCGGTYSDNRYGGTCDPDGCDWNPYRLGNTSFYGPGSSFTLDTTKKLTVVTQFETSGAINRYYVQNGVTFQQPNAELGSYSGNELNDDYCTAEEAEFGGSSFSDKGGLTQFKKATSGGMVLVMSLWDDYYANMLWLDSTYPTNETSSTPGAVRGSCSTSSGVPAQVESQSPNAKVTFSNIKFGPIGSTGNPSGGNPPGGNPPGTTTTRRPATTTGSSPGPTS
前記プラスミドは、cbh1ターミネータ、A.nidulans amdS選択マーカー及び抗体L鎖をコードするヌクレオチドも含有する。
【0133】
B.トリコデルマ・リーセイの微粒子銃形質転換:
以下の全ての実施例において、形質転換はクオド(quad)欠損誘導体(Δchb1、Δcbh2、Δegl1、及びΔegl2)で行われ、適切なpTrex4ベクターを有するRL−P37(Sheir−Neiss他、(1984年)Appl.Microbiol.Biotechnol.20:46−53ページ、米国特許第4,797,361号)に本来由来するトリコデルマ・リーセイ株(WO05/001036)が以下に概要されるプロトコールで使用された。
【0134】
トリコデルマ株由来の胞子の懸濁液(およそ5×108胞子/ml)を調整した。100μl−200μlの胞子懸濁液をMMアセトアミド培地プレートの中央に広げた。MMアセトアミド培地は、以下の組成を有した。すなわち、0.6g/Lアセトアミド、1.68g/LCsCl、20g/Lグルコース、20g/L KH2PO4、0.6g/L CaCl2.2H2O、1ml/L1000×微量元素塩溶液、20g/L Noble寒天、pH5.5である。1000×微量元素塩溶液は、5.0g/l FeSO4.7H2O、1.6g/l MnSO4−H2O、1.4g/l ZnSO4.7H2O及び1.0g/l CoCl2.6H2Oを含有した。前記胞子懸濁液をMMアセトアミド培地の表面で乾燥させた。
【0135】
微粒子銃形質転換方法によるトリコデルマ株の形質転換をBio−Rad(ハーキュリーズ、カルフォルニア州)からのBiolistic(登録商標)PDS−1000/He Particle Delivery Systemを用いて生産者の説明書に従って行った(WO05/001036及びUS2006/0003408参照)。
【0136】
C.アスペルギルスの形質転換−
アスペルギルス形質転換プロトコールは、キャンベル法(Campbell他、(1989年)、Curr.Genet.16:53−56ページ)の改良である。Aspergillus nigerの形質転換法の詳細は、WO03089614及び米国特許公開第20050153399号にも開示される。形質転換体を、SDSゲル及びウェスターンブロットでタンパク質生成のために分析し、生成されたタンパク質の量に基づいて形質転換体を選択した。
【0137】
D.発現ベクターを用いて形質転換されたトリコデルマ・リーセイ及びAspergillus niger株の発酵:
通常Foreman他、(2003年)J.Biol.Chem.278:31988−31997ページに記載される発酵プロトコールに従った。
【0138】
E.プロフロ(Proflo)培地は、30g/L α−ラクトース、6.5g/L (NH4)2SO4、2g/L KH2PO4、0.3g/L MgSO4.7H2O、0.2g/L CaCl2、1ml/L1000×微量元素塩溶液、2ml/L 10%Tween80、22.25g/L プロフロコットンシード−フラワー(Traders Protein、メンフィス、テネシー州)、0.72g/L CaCO3を含有した。
【0139】
F.指定培地は、5g/L (NH4)2SO4、33g/L PIPPSバッファー、9g/Lカザミノ酸、4.5g/L KH2PO4、1g/L CaCl2、1g/L MgSO4.7H2O、5ml/L Mazu DF60−P消泡剤(Mazur Chemicals、ガーニー、イリノイ州)、1ml/L 1000×微量元素塩溶液を含有した。加圧滅菌の後、40mlの40%ラクトースを添加した。
【0140】
G.1000×微量元素塩溶液は、5.0g/l FeSO4.7H2O、1.6g/l MnSO4.H2O、1.4g/l ZnSO4.7H2O及び1.0g/l CoCl2.6H2Oを含有した。
【0141】
H.タンパク質分析は、標準的SDSゲル及びウェスターンブロット分析により行った。
【0142】
実施例1
トラスツズマブ(KRGGG(配列番号2)を含有するL鎖発現株)KEX2切断部位の構成
抗体4D5−8の公知アミノ酸配列(Carter他、Proc.Natl.Acad.Sci.1992年、89:4285−4289ページ)に係るトラスツズマブのL鎖をコードするDNA(配列番号1)を、DNA2.0インク(1455Adams Drive、Menlo Park、CA94025)を用いて合成した。
【0143】
ACTAGTAAACGCGGTGGCGGTGATATTCAAATGACACAATCTCCTTCTTCTCTGTCAGCCTCAGTGGGCGACCGTGTGACGATTACTTGCCGCGCCTCTCAGGACGTTAACACTGCCGTCGCATGGTACCAGCAGAAGCCAGGCAAGGCGCCCAAGCTTCTGATTTACAGCGCTTCGTTCCTGTACTCTGGCGTGCCATCCCGCTTCTCTGGCAGCCGAAGCGGCACGGATTTCACCCTGACCATTTCGTCCCTGCAGCCCGAGGATTTCGCCACGTATTACTGCCAGCAGCACTACACCACTCCACCCACCTTTGGCCAAGGAACGAGAGTCGAAATCACTCGCACGGTCGCTGCCCCTTCAGTCTTCATCTTCCCCCCCAGCGACGAACAGCTGAAGTCTGGTACGGCCAGCGTCGTTTGCTTGCTTAATAACTTCTATCCGCGAGAGGCGAAGGTCCAATGGAAGGTTGATAACGTTCTGCAGTCCGGCAATTCGCAGGAGAGCGTGACCGAGCAGGATTCAAAGGATAGCACCTACTCACTCAGCAGCACCCTGACGTTGTCCAAGGCCGATTACGAGAAGCATAAGTTGTATGCATGCGAGGTCACCCACCAGGGACTGTCAAGCCCAGTTACCAAGTCGTTCAATCGAGGCGAGTGCTAAGGCGCGCC(配列番号1)。
【0144】
DNAによりコードされるL鎖は、N−末端でKRGGG(配列番号2)KEX2切断部位を含有した。制限部位SpeI及びAscIを、クローニングを目的として含めた。前記合成DNAを、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングし、pTrex4−her2 L鎖DNA2.0と名づけた発現プラスミドを産生した(図2)。結果として得られたプラスミドは、KEX2部位から分離されたトリコデルマCBHIコア/リンカー領域及び抗体L鎖を含有する融合タンパク質をコードした。前記プラスミドは、Xbal制限酵素を用いて設計し、WO05001036、実施例5で記載されるクワド削除株に由来するトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体が得られ、それらを新しいプレートへ移した。20の安定した形質転換体を選択し、プロフロ培地で2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンブロットデータ(図4)は、90%以上の融合タンパク質が最良のL鎖生成株(形質転換体1010−18、KRGGG変異体)で切断されていることを示した。しかし、GGGは、好ましくない切断抗体L鎖のN−末端に残る。ウェスターンブロットで2つのL鎖分子の二量化による結果である約50kdのバンドが検出された。
【0145】
実施例2
GGGKR(配列番号5)KEX2切断部位を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
2つのプライマー(GGACTAGTGGTGGCGGTAAACGCGATATTCAAATGACACAATCTC、配列番号3及びAAGGCGCGCCTTAGCACTCGCCTCGATTG、配列番号4)をインビトロジェン(1600 Faraday Avenue、カールズバッド、CA92008)により合成し、トラスツズマブL鎖DNAの増幅に用いた。
【0146】
結果として得られたPCR断片は、N−末端でGGGKR(配列番号5)配列kex2部位を含有する抗体L鎖をコードした。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−GGGKR−her2 DNA2と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドを、Xbal制限酵素を用いて消化し、上述のトリコデルマ・リーセイ株へ標準的技術を用いて微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。全部で21の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清を用いた。形質転換体1010−B5(GGGKR変異体)及び形質転換体1010−B6(GGGKR変異体)からの95%以上のタンパク質が、未切断融合タンパク質であったことがウェスターンブロットにより示された(図4)。150kdのバンドもウェスターンブロットで検出された。それは、2つのCBH1コア−L鎖融合分子の二量体化による結果の可能性がある。
【0147】
実施例3
GGGKRGGG(配列番号7)KEX2切断部位を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
2つのオリゴ、GGACTAGTGGCGGTGGCAAACGCGGTGGCGGTGATATTC(配列番号6)及びAAGGCGCGCCTTAGCACTCGCCTCGATTG(配列番号4)を、インビトロジェンにより合成し、L鎖DNAの増幅に使用した。結果として得られたPCR断片は、L鎖及びKEX2切断に用いられるGGGKRGGG(配列番号7)配列をコードした。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−GGGKRGGG−her2 L鎖DNA2.0と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドを、Xbal制限酵素を用いて消化し、上述の通りトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。10以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。3の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンゲルデータは、形質転換体1011−1(GGGKRGGG変異体)において、90%以上の融合タンパク質が切断されたことを示した(図4)。しかし、好ましくない切断抗体L鎖のN−末端でGGGが残った。
【0148】
実施例4
VAVEKR(配列番号9)KEX2領域を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
VAVEKR(配列番号9)KEX2領域は、トリコデルマ・リーセイ高pIキシラナーゼ、Xyn2のプロ領域(Torronen他、(1992年)Biotechnol.10:1461−1465ページ)に自然に見られる。本願発明に係る融合ポリペプチドを構成するために、2つのオリゴ、GGACTAGTGTCGCCGTTGAGAAACGCGATATTCAAATGACACAATCTCC(配列番号8)及びAAGGCGCGCCTTAGCACTCGCCTCGATTG(配列番号4)を、インビトロジェンにより合成し、L鎖DNAの増幅に使用した。
【0149】
結果として得られたPCR断片は、L鎖及びKEX2切断に用いられるVAVEKR(配列番号9)配列をコードする。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−VAVE−her2L鎖DNA2.0と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドを、Xbal制限酵素を用いて消化し、上述の通りトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。6の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンゲルデータは、形質転換体1012−2(VAVEKR変異体、配列番号9)において、95%以上の融合タンパク質が切断されたことを示した(図4)。
【0150】
実施例5
VAVEKR(配列番号9)KEX2領域の変異体を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
トラスツズマブ抗体L鎖をコードするDNA(配列番号10)をGeneart(Josef−Engert−Strasse11、93053 Regesburg、ドイツ)により合成した。
【0151】
ACTAGTAAGCGCGGCGGCGGCGAGGTCCAGCTCGTCGAGAGCGGCGGCGGCCTCGTCCAGCCCGGCGGCAGCCTCCGCCTCAGCTGCGCCGCCAGCGGCTTCAACATCAAGGACACCTACATCCACTGGGTCCGCCAGGCCCCCGGCAAGGGCCTCGAGTGGGTCGCCCGCATCTACCCCACCAACGGCTACACCCGCTACGCCGACAGCGTCAAGGGCCGCTTCACCATCAGCGCCGACACCAGCAAGAACACCGCCTACCTCCAGATGAACAGCCTCCGCGCCGAGGACACCGCCGTCTACTACTGCAGCCGCTGGGGCGGCGACGGCTTCTACGCCATGGACTACTGGGGCCAGGGCACCCTCGTCACGGTCTCCAGCGCCAGCACCAAGGGCCCAAGCGTCTTTCCCCTCGCCCCCAGCAGCAAGAGCACCAGCGGCGGCACCGCCGCCCTCGGCTGCCTCGTCAAGGACTACTTCCCCGAGCCCGTCACTGTCAGCTGGAACAGCGGCGCTCTCACCAGCGGCGTCCACACCTTCCCCGCCGTCCTCCAGAGCAGCGGCCTCTACAGCCTCAGCAGCGTCGTCACCGTCCCCAGCAGCAGCCTCGGCACCCAGACCTACATCTGCAACGTCAACCACAAGCCCAGCAACACCAAGGTCGACAAGCGCGTCGAGCCCAAGAGCTGCGACAAGACCCACACCTGCCCCCCCTGCCCCGCCCCCGAGCTGCTCGGCGGCCCCTCCGTCTTTCTCTTCCCCCCCAAGCCCAAGGACACCCTCATGATCAGCCGCACCCCCGAGGTCACCTGCGTCGTCGTCGATGTCAGCCACGAGGACCCCGAGGTCAAGTTCAACTGGTACGTCGACGGCGTCGAGGTCCACAACGCCAAGACCAAGCCCCGCGAGGAGCAGTACAACAGCACCTACCGCGTCGTCAGCGTCCTGACCGTCCTCCACCAGGACTGGCTCAACGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTCTCCAACAAGGCCCTCCCCGCCCCCATCGAAAAGACCATCAGCAAGGCCAAGGGCCAGCCCCGCGAGCCCCAGGTCTACACCCTCCCCCCCAGCCGCGAGGAGATGACCAAGAACCAGGTCTCCCTCACCTGCCTGGTCAAGGGCTTCTACCCCAGCGACATCGCCGTCGAGTGGGAGAGCAACGGCCAGCCCGAGAACAACTACAAGACCACCCCCCCCGTCCTCGACAGCGACGGCAGCTTCTTCCTCTACAGCAAGCTCACCGTCGACAAGAGCCGCTGGCAGCAGGGCAACGTCTTTAGCTGCAGCGTCATGCACGAGGCCCTCCACAACCACTACACCCAGAAGAGCCTCAGCCTCAGCCCCGGCAAGTAAGGCGCG(配列番号10)
当該DNAは、KRGGG(配列番号2)及びヒト抗体L鎖をコードする。2つの制限部位SpeI及びAscIをクローニングの目的のために含めた。前記ヌクレオチド配列を変異させ、部位特異的突然変異生成により内部KEX2部位を取り去った(Stratagene、11011North Torrey Pines Road、ラ・ホーヤ、CA92037)。また、PCR反応で前記突然変異生成に用いた2つのプライマーは、TCGAGATCACCCGCACCGTCGCGGCGCCAAG(配列番号11)及びCGACGGTGCGGGTGATCTCGACCTTGGTGCCCTGG
CCG(配列番号12)である。結果として得られたL鎖をコードするDNAは、DNA配列で2つの置換ヌクレオチドを含有し、それによりアミノ酸がKからTに変更した。2つのオリゴ、GGACTAGTGTCGCCGTTGAGAAACGCGACATCCAGATGACCCAGAGC(配列番号13)及びCTAAAGGGAACAAAAGCTGGAGC(配列番号14)を、インビトロジェンにより合成し、L鎖DNAの増幅に使用した。結果として得られたPCR断片は、L鎖及びVAVEKR(配列番号9)をコードした。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−VAVE−her2L鎖Geneart(KR−TR)と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドを、Xbal制限酵素を用いて消化し、H鎖発現プラスミドを有するトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で同時形質転換した。40以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。20の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンゲルデータは、VAVEKR変異体(形質転換体17−43)において、90%以上の融合タンパク質が切断されたことを示した(図5)。
【0152】
VAVEKR(配列番号9)のKEX2部位プレ配列のグルタミン残基におけるアミノ酸変異を産生するために、変性プライマー(GGACTAGTGTCGCCGTTNNSAAACGCGACATCCAGATGACCCAGAG(配列番号15)を合成し、PCR反応でリバースプライマー(配列番号14)と共に、PCR断片プールを産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。13のクローンをシークエンスし、7の変異体を生成した(表1)。全ての7プラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。40以上の形質転換体を、それぞれの変異体から得、新しいプレートに移した。3つの変異体(VAVWKR(配列番号25)、VAVGKR(配列番号26)及びVAVRKR(配列番号27))の第一セットとして、それぞれの変異体から15の安定した形質転換体を選択した。4つの変異体(VAVTKR(配列番号28)、VAVVKR(配列番号29)、VAVAKR(配列番号30)及びVAVLKR(配列番号31))の第二セットとして、それぞれの変異体から11の安定した形質転換体を選択した。選択した形質転換体を、プロフロ培地中2日間28℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。
【0153】
新しいプライマー(GGACTAGTGTCGCCGTTNACAAACGCGACATCCAGATGACCCAGAG配列番号16)を合成し、PCR反応でリバースプライマー(配列番号14)と共に、複合配列(multiple sequences)を有するPCR断片を産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。10のクローンをシークエンスし、4の変異体(VAVDKR(配列番号32)、VAVNKR(配列番号33)、VAVYKR(配列番号34)及びVAVHKR(配列番号35))を生成した。前記プラスミドを上述の通りトリコデルマ株へ微粒子銃で形質転換した。40以上の形質転換体を、それぞれの変異体から得、新しいプレートに移した。それぞれの変異体から10の安定した形質転換体を選択し、プロフロ培地中2日間28℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。
【0154】
それぞれのグルタミン残基変異体から1つの形質転換体(最良のL鎖生成形質転換体)を比較のために選択した。ウェスターン分析により、変異体VAVYKR(配列番号34)が他のいずれの変異体よりも多くのL鎖を生成したことが示された。VAVTKR(配列番号28)及びVAVDKR(配列番号32)変異体は、より多くの融合タンパク質を有していたことから非効率的な切断であることが示された(図5)。
【0155】
KEX2プレ配列部位(VAVEKR、配列番号9)の第一バリン残基でのアミノ酸変異を産生するため、変性プライマー(GGACTAGTNNSGCCGTCGAGAAGCGCGACATCCAGATGACCCAGAG、配列番号17)を合成し、PCR反応でリバースプライマーCTAAAGGGAACAAAAGCTGGAGC(配列番号14)と共に、複合配列を有するPCR断片を産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。30のクローンをシークエンスし、13の変異体(MAVEKR(配列番号36)、GAVEKR(配列番号37)、AAVEKR(配列番号38)、LAVEKR(配列番号39)、WAVEKR(配列番号40)、KAVEKR(配列番号41)、PAVEKR(配列番号42)、RAVEKR(配列番号43)、NAVEKR(配列番号44)、TAVEKR(配列番号45)、SAVEKR(配列番号46)、QAVEKR(配列番号47)及びEAVEKR(配列番号48))を生成した。新しいプライマー(GGACTAGTNWCGCCGTCGAGAAGCGCGACATCCAGATGACCCAGAG配列番号18)を設計、合成し、PCR反応でリバースプライマーCTAAAGGGAACAAAAGCTGGAGC(配列番号14)と共に、複合配列を有するPCR断片を産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。19のクローンをシークエンスし、5の変異体(YAVEKR(配列番号49)、FAVEKR(配列番号50)、DAVEKR(配列番号51)、HAVEKR(配列番号52)及びIAVEKR(配列番号53))を生成した。以下の11変異体(MAVEKR(配列番号36)、GAVEKR(配列番号37)、AAVEKR(配列番号38)、LAVEKR(配列番号39)、WAVEKR(配列番号40)、KAVEKR(配列番号41)、PAVEKR(配列番号42)、HAVEKR(配列番号52)、DAVEKR(配列番号51)、SAVEKR(配列番号46)及びQAVEKR(配列番号47))を含有する前記プラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。
【0156】
20以上の形質転換体を、それぞれの変異体から得、新しいプレートに移した。それぞれの変異体から8の安定した形質転換体を選択し、プロフロ培地中2日間28℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質SDS−PAGEにより分析した。それぞれの変異体から1つの形質転換体(最良の生成形質転換体)を選択した。ウェスターン分析により、全ての変異体がL鎖を生成したことが示された(図6)。LAVEKR(配列番号39)を除いて、全ての変異体が95%未満の切断を示した。当該変異体は、VAVEKR(配列番号9)変異体より効果的なKEX2切断を示した。
【0157】
KEX2領域(VAVEKR、(配列番号9))のアラニン残基におけるアミノ酸変異を産生するために、変性プライマー(GGACTAGTGTCNNSGTTGAGAAAGGCGACATCCAGATGACCCAGAGC、配列番号19)を合成し、PCR反応でリバースプライマー(配列番号14)と共に、複合配列を有するPCR断片を産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。96のクローンをシークエンスし、15の変異体(VDVEKR(配列番号54)、VEVEKR(配列番号55)、VGVEKR(配列番号56)、VIVEKR(配列番号57)、VKVEKR(配列番号58)、VLVEKR(配列番号59)、VMVEKR(配列番号60)、VNVEKR(配列番号61)、VPVEKR(配列番号62)、VRVEKR(配列番号63)、VSVEKR(配列番号64)、VTVEKR(配列番号65)、VVVEKR(配列番号66)、VWVEKR(配列番号67)及びVYVEKR(配列番号68))を生成した。5のプラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体を、それぞれの変異体から得、新しいプレートに移した。5の変異体(VGVEKR(配列番号56)、VTVEKR(配列番号65)、VWVEKR(配列番号67)、VEVEKR(配列番号55)及びVPVEKR(配列番号62))の第一セットとして、10の安定した形質転換体を選択した。4の変異体(VKVEKR(配列番号58)、VRVEKR(配列番号63)、VVVEKR(配列番号66)及びVIVEKR(配列番号57))の第二セットとして、10の安定した形質転換体を選択した。選択した形質転換体を、プロフロ培地中2日間28℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質SDSゲルにより分析した。それぞれの変異体から1の形質転換体(最良の生成形質転換体)を比較のために選択した(表1)。ウェスターン分析(図7)は、3つの変異体VGVEKR(配列番号56)、VEVEKR(配列番号55)及びVWVEKR(配列番号67)で唯一遊離L鎖が検出されたことを示した。前記変異体VPVEKR(配列番号62)は、より少ない遊離L鎖及びいくつかの切断されていないCBHI−軽融合(light fusion)を生成した。
【0158】
KEX2部位(VAVEKR、配列番号9)の第二バリン残基におけるアミノ酸変異を産生するために、変性プライマー(GGACTAGTGTCGCCNNSGAGAAACGCGACATCCAGATGACCCAGAG、配列番号20)を合成し、PCR反応でリバースプライマー(配列番号14)と共に、複合配列を有するPCR断片を産生するためのDNA増幅に用いた。前記混合PCR断片を、トリコデルマ発現ベクター(pTrex4)にクローニングした。36のクローンをシークエンスし、15の変異体(VAAEKR(配列番号69)、VADEKR(配列番号70)、VAEEKR(配列番号71)、VAFEKR(配列番号72)、VAGEKR(配列番号73)、VAIEKR(配列番号74)、VALEKR(配列番号75)、VANEKR(配列番号76)、VAQEKR(配列番号77)、VAREKR(配列番号78)、VASEKR(配列番号79)、VATEKR(配列番号80)、VAWEKR(配列番号81)、VAYEKR(配列番号82)及びVAPEKR(配列番号83))を生成した。プラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体を、それぞれの変異体から得、新しいプレートに移した。8の変異体(VAAEKR(配列番号69)、VADEKR(配列番号70)、VAEEKR(配列番号71)、VAFEKR(配列番号72)、VAGEKR(配列番号73)、VANEKR(配列番号76)、VALEKR(配列番号75)及びVAIEKR(配列番号74))の第一セットとして、10の安定した形質転換体を選択した。2の変異体(VASEKR(配列番号79)及びVAREKR(配列番号78)の第二セットとして、8の安定した形質転換体を選択した。4個の形質転換体のみをVAPEKR(配列番号83)変異体に選択した。選択した形質転換体を、プロフロ培地中2日間28℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、4日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清を分析した。それぞれの変異体から1の形質転換体(最良の生成形質転換体)を比較のために選択した(表1)。ウェスターン分析(図8)により融合体のバンドがゲル上で観察されなかったことから、VAIEKR(配列番号74)及びVALEKR(配列番号75)が融合ポリペプチドの完全な切断を産生したことが示された。切断は100%ではなかったが、VAFEKR(配列番号72)が最も量の多い抗体L鎖を生成したことがウェスターンブロット(図8)により示された。
【表1】
【0159】
実施例6
NVISKR(配列番号22)KEX2領域を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
NVISKRKEX2領域は、A.nigerグルコアミラーゼ(glaA)のプロ配列において自然に見られる。融合ポリペプチドを構成するために、オリゴ、GGACTAGTAACGTCATCAGCAAGCGCGACATCCAGATGACCCAGAGC(配列番号21)をインビトロジェンにより合成し、リバースプライマー(配列番号14)と共にL鎖DNAの増幅に使用した。結果として得られたPCR断片は、L鎖及びkex2切断に用いられるNVISKR(配列番号22)配列をコードする。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−NVIS−her2 L鎖geneart(KR−TR)と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。10の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンゲル分析により、95%以上の融合タンパク質が切断されたことを示した(図6)。
【0160】
実施例7
SDVTKR(配列番号24)KEX2領域を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
オリゴ、GGACTAGTAGCGACGTCACCAAGCGCGACATCCAGATGACCCAGAGC(配列番号23)をインビトロジェンにより合成し、リバースプライマー(配列番号14)と共にL鎖DNAの増幅に使用した。結果として得られたPCR断片は、L鎖及びkex2切断に用いられるSDVTKR(配列番号24)配列をコードする。前記PCR断片を制限酵素SpeI及びAscIを用いて消化し、pTrex4−SDVT−her2 L鎖geneart(KR−TR)と名づけられたプラスミドを産生するため、発現ベクターpTrex4にクローニングした。前記PCR断片の適合度を、DNAシークエンスにより分析した。前記プラスミドをトリコデルマ・リーセイ株へ微粒子銃で形質転換した。20以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。10の安定した形質転換体を選択し、それらをプロフロ培地中2日間30℃で成長させた。5mlの2日間後のプロフロ培養を、50mlの指定培地へ移した。当該培養を、5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質分析に用いた。ウェスターンゲル分析により、50%以上の融合タンパク質が切断されたことを示した(図6)。
【0161】
実施例8
Aspergillus nigerにおけるVAVEKR(配列番号9)KEX2領域を含有するトラスツズマブL鎖発現株の構成
前記実施例5からのプラスミド(pTrex4−VAVE−her2 L鎖geneart(KR−TR)をSpeI及びAscIを用いて消化した。AscI切断部位のDNA断片の末端をT4DNAポリメラーゼを用いて平滑にした。前記断片を1.2%アガロースゲル上で単離し、A.niger発現プラスミド(米国特許公開番号第20050153399号で開示されるpSLGAMpR2−BBI)へ連結した。当該プラスミドを、NheI及びBstEIIを用いて切断し、T4DNAポリメラーゼを用いてBstEII切断末端を平滑にした。pSLGAMpR2−VAVE−her2 LC geneartと名づけられた新しいプラスミドを米国特許公開番号第20050153399号で開示されるdgr246:ΔGAP:pyr−株に由来するA.niger株dgr246:Δamy5;pyr−に形質転換した。α−アミラーゼのタンパク質レベルの相違は、変異により当該プラスミド中で大幅に減少する。
【0162】
pepA遺伝子欠損を有するdgr246P2株に由来するdgr246ΔGAP:pyr2−はpyrGマイナスであり、突然変異生成及びスクリーニングの様々な処理又は異種遺伝子生成物(Ward、M.他、1993年、Appl.Microbiol.Biotech.39:738−743ページ及びそれの引用文献)の改善された生成の選択を経ている。dgr246ΔGAP:pyr2−株を構築するため、glaA(グルコアミラーゼ)遺伝子を、全く同じ欠失プラスミド(pΔGAM NB−Pyr)及びFowler、T.他(1990年)Curr.Genet.18:537−545ページにより報告された工程を用いてdgr246 P2株で欠失した。つまり、選択可能マーカーとしてAspergillus nidulans pyrG遺伝子により置換されたglaA遺伝子のプロモーター及びコード領域の末端又は一部のいずれかにおいてglaA隣接配列を有する直鎖DNA断片を用いた形質転換により、欠失した。glaA隣接配列及びpyrG遺伝子を含有する直鎖断片が染色体glaA部位において結合する形質転換体を、サザーンブロット分析により特定した。この変異は、形質転換株dgr246ΔGAPで起こった。当該形質転換体からの胞子をフッ化オロチン(fluoroorotic)酸を含有する培地へプレートし、自然耐性変種をvan Hartingsveldt,W.(1987年)Mol.Gen.Genet.206:71−75ページで開示されるように得た。これらのうちの1つ、dgr246ΔGAP:pyr2−は、野生型pyrG遺伝子を持つプラスミドを用いて形質転換により補足され得るウリジン栄養要求株として示される。
【0163】
20以上の形質転換体が得られ、新しいプレートへ移された。17の形質転換体をPromosoy培地中5日間28℃で成長させた。培養ブロスを遠心分離し、上清をタンパク質SDSPAGE及びウェスターン分析に用いた。全ての形質転換体が、抗体L鎖を生成したことがデータにより示された。形質転換体#A12は、ほとんどの抗体L鎖を生成し、60−70%の融合タンパク質が切断された(図9)。
【0164】
前述の記載は、典型的な実施形態の本質を単に説明している。本明細書で明確に記載又は示されていないが、本願発明に係る本質を具体化し、その概念及び範囲に含まれる様々なアレンジが当業者により、考案されることが理解される。さらに、本明細書で列挙される全ての実施例及び条件用語は、原則として、本願発明に係る本質及び当該技術分野の促進が発明者により与えられるコンセプトの理解について読者を助けること、また、具体的に列挙される実施例及び条件に限定することなしに解釈されることを意図している。
【0165】
その上、特定の実施例と同様に本願発明に係る本質、態様、及び実施形態を列挙する本明細書の全ての記載は、それらの構造的及び機能的同等物の両方を包含することを意図している。加えて、これらの同等物は、現在知られている同等物及び将来開発される同等物、すなわち、構造に関わらず同等に機能するよう開発されたすべての要素、の両方を含むことを意図される。従って、本願発明に係る範囲は、本明細書で示され、記載される典型的実施形態に限られることを意図しない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合ポリペプチドをコードする融合DNA構成物であって、
プロモーター、
シグナル配列をコードする第一DNA分子、
キャリアタンパク質をコードする第二DNA分子、
KEX2部位(B1B2)及び前記KEX2部位の5’末端に直結したKEX2部位プレ配列((X)n=2−6)を含むKEX2領域をコードする第三DNA分子、及び
目的タンパク質をコードする第四DNA分子
を前記構成物の5’末端から操作可能な結合で含む、前記融合DNA構成物。
【請求項2】
KEX2領域がX4X3X2X1KRである、請求項1に記載の融合DNA構成物。
【請求項3】
X4がV、S、N、L、又はK、
X3がA、V、D、W、E又はP、
X2がV、I、L又はF、及び
X1がE、S、T又はY
である、請求項2に記載の融合DNA構成物。
【請求項4】
X4がVである、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項5】
X3がAである、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項6】
X2がVである、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項7】
X1がE又はYである、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項8】
KEX2部位プレ配列がVAVE(配列番号84)、VAVY(配列番号87)、LAVE(配列番号88)、KAVE(配列番号89)、VAIE(配列番号90)、VALE(配列番号91)、VAFE(配列番号92)、VWVE(配列番号93)、VEVE(配列番号94)、及びVPVE(配列番号95)から成る群より選ばれる、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項9】
第一DNA分子及び第二DNA分子が、トリコデルマCBH1シグナル配列及びキャリアタンパク質又はトリコデルマエンドグルカナーゼシグナル配列及びキャリアタンパク質をコードする、請求項1に記載の融合DNA構成物。
【請求項10】
第一DNA分子及び第二DNA分子が、グルコアミラーゼシグナル配列及びキャリアタンパク質又はアルファアミラーゼシグナル配列及びキャリアタンパク質をコードする、請求項1に記載の融合DNA構成物。
【請求項11】
目的タンパク質が酵素である、請求項1に記載の融合DNA構成物。
【請求項12】
目的タンパク質が治療用タンパク質である、請求項1に記載の融合DNA構成物。
【請求項13】
治療用タンパク質が抗体である、請求項12に記載の融合DNA構成物。
【請求項14】
抗体がL鎖又はH鎖モノクローナル抗体である、請求項13に記載の融合DNA構成物。
【請求項15】
第一DNA分子及び第二DNA分子がCBH1シグナル配列及びキャリアタンパク質をコードし、第四DNA分子が抗体L鎖又はそれらの断片をコードする、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項16】
第一DNA分子及び第二DNA分子がグルコアミラーゼシグナル配列及びキャリアタンパク質をコードし、第四DNA分子が抗体L鎖又はそれらの断片をコードする、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項17】
請求項1に記載の融合DNA構成物にコードされる融合タンパク質。
【請求項18】
請求項1に記載の融合DNA構成物を含む宿主細胞。
【請求項19】
宿主細胞がトリコデルマ宿主細胞である、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項20】
トリコデルマ細胞がトリコデルマ・リーセイ細胞である、請求項19に記載の宿主細胞。
【請求項21】
請求項1に記載の融合DNA構成物を含むベクター。
【請求項22】
請求項21に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項23】
宿主細胞がトリコデルマ宿主細胞である、請求項22に記載の宿主細胞。
【請求項24】
糸状真菌細胞において目的タンパク質を生成する方法であって、
a)請求項1に記載の融合DNA構成物を含む糸状真菌宿主細胞を得る工程、
b)目的タンパク質の発現及び生成を可能にする適した条件で宿主細胞を培養する工程、及び
c)目的タンパク質を回収する工程
を含む方法。
【請求項25】
宿主細胞がトリコデルマ株である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
トリコデルマ細胞がトリコデルマ・リーセイ宿主細胞である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
目的タンパク質が免疫グロブリンである、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
免疫グロブリンがモノクローナル抗体である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
モノクローナル抗体がL鎖又はH鎖モノクローナル抗体又はそれらの断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
宿主細胞がトリコデルマ細胞、目的タンパク質がL鎖抗体、及びKEX2領域がX4X3X2X1KR、及びX4がV、及びX1がE、S、T又はYである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
組換え融合ポリペプチドから目的タンパク質を切断する方法であって、糸状真菌細胞において、請求項1に記載の融合DNA構成物にコードされる融合ポリペプチドを発現する工程であり、前記KEX2領域がタンパク質切断部位を提供し、さらに発現した融合ポリペプチドから切断される目的タンパク質を得る工程を含む方法。
【請求項32】
目的タンパク質が治療用タンパク質である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
目的タンパク質が抗体である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
目的タンパク質の切断がKEX2部位プレ配列を欠く同等な融合ポリペプチド由来の前記目的タンパク質の切断と比較して増加している、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
KEX2領域がX4X3X2X1KR、及びX4がV、及びX1がE、S、T又はYである、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
糸状真菌細胞からの抗体生成を増加させる方法であって、請求項3に記載の融合DNA構成物を含む糸状真菌細胞を得る工程、融合ポリペプチドの発現及び融合ポリペプチドの分泌を可能にする適した条件下で真菌細胞を培養する工程を含み、目的タンパク質の分泌がKEX2プレ配列を含まない同等な融合ポリペプチドの分泌と比較して増加している、前記方法。
【請求項37】
目的タンパク質の分泌が前記同等な融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の分泌と比較して少なくとも30%増加している、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
融合ポリペプチドのアミノ末端から第一アミノ酸配列を含む前記融合ポリペプチドであって、
a)分泌配列として機能的なシグナル配列、
b)キャリアタンパク質を含む第二アミノ酸配列、
c)KEX2部位(B1B2)及び前記KEX2部位の5’末端に直結したKEX2部位プレ配列((X)n=2−6)を含むKEX2領域を含む第三アミノ酸配列、及び
d)目的タンパク質を含む第四アミノ酸配列を含み、B1又はB2がK又はR、及びXが任意のアミノ酸残基である、
前記融合ポリペプチド。
【請求項39】
目的タンパク質の増加された分泌及び/又は切断を特定する方法であって、
a)シグナル配列を含む親融合ポリペプチドのKEX2部位プレ配列、KEX2部位(B1B2)及び前記KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列((X)n=4)を含むKEX2領域、及び目的タンパク質を含むアミノ酸配列を変異させ、前記KEX2部位プレ配列を除き前記親融合ポリペプチドと同一の試験組換え融合ポリペプチドのセットを生成する工程、
b)糸状真菌細胞による前記試験融合ポリペプチド及び前記親融合ポリペプチドの分泌及び/又は切断を評価する工程、及び
c)前記親融合ポリペプチドと比較して分泌及び/又は切断が増加された試験融合ポリペプチドを特定する工程
を含む方法。
【請求項40】
請求項39に記載の方法であって、さらに最適化されたKEX2部位プレ配列を特定する方法を含み、複数の異なる試験融合ポリペプチドを試験するする工程、及びどの前記異なる試験融合ポリペプチドがより多い分泌及び/又はタンパク質切断を有するかを決定する工程を含み、前記最適化されたKEX2部位プレ配列が、最も多い分泌及び/又はタンパク質切断を有する試験組み換え融合ポリペプチドの変異KEX2部位プレ配列である、前記方法。
【請求項1】
融合ポリペプチドをコードする融合DNA構成物であって、
プロモーター、
シグナル配列をコードする第一DNA分子、
キャリアタンパク質をコードする第二DNA分子、
KEX2部位(B1B2)及び前記KEX2部位の5’末端に直結したKEX2部位プレ配列((X)n=2−6)を含むKEX2領域をコードする第三DNA分子、及び
目的タンパク質をコードする第四DNA分子
を前記構成物の5’末端から操作可能な結合で含む、前記融合DNA構成物。
【請求項2】
KEX2領域がX4X3X2X1KRである、請求項1に記載の融合DNA構成物。
【請求項3】
X4がV、S、N、L、又はK、
X3がA、V、D、W、E又はP、
X2がV、I、L又はF、及び
X1がE、S、T又はY
である、請求項2に記載の融合DNA構成物。
【請求項4】
X4がVである、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項5】
X3がAである、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項6】
X2がVである、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項7】
X1がE又はYである、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項8】
KEX2部位プレ配列がVAVE(配列番号84)、VAVY(配列番号87)、LAVE(配列番号88)、KAVE(配列番号89)、VAIE(配列番号90)、VALE(配列番号91)、VAFE(配列番号92)、VWVE(配列番号93)、VEVE(配列番号94)、及びVPVE(配列番号95)から成る群より選ばれる、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項9】
第一DNA分子及び第二DNA分子が、トリコデルマCBH1シグナル配列及びキャリアタンパク質又はトリコデルマエンドグルカナーゼシグナル配列及びキャリアタンパク質をコードする、請求項1に記載の融合DNA構成物。
【請求項10】
第一DNA分子及び第二DNA分子が、グルコアミラーゼシグナル配列及びキャリアタンパク質又はアルファアミラーゼシグナル配列及びキャリアタンパク質をコードする、請求項1に記載の融合DNA構成物。
【請求項11】
目的タンパク質が酵素である、請求項1に記載の融合DNA構成物。
【請求項12】
目的タンパク質が治療用タンパク質である、請求項1に記載の融合DNA構成物。
【請求項13】
治療用タンパク質が抗体である、請求項12に記載の融合DNA構成物。
【請求項14】
抗体がL鎖又はH鎖モノクローナル抗体である、請求項13に記載の融合DNA構成物。
【請求項15】
第一DNA分子及び第二DNA分子がCBH1シグナル配列及びキャリアタンパク質をコードし、第四DNA分子が抗体L鎖又はそれらの断片をコードする、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項16】
第一DNA分子及び第二DNA分子がグルコアミラーゼシグナル配列及びキャリアタンパク質をコードし、第四DNA分子が抗体L鎖又はそれらの断片をコードする、請求項3に記載の融合DNA構成物。
【請求項17】
請求項1に記載の融合DNA構成物にコードされる融合タンパク質。
【請求項18】
請求項1に記載の融合DNA構成物を含む宿主細胞。
【請求項19】
宿主細胞がトリコデルマ宿主細胞である、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項20】
トリコデルマ細胞がトリコデルマ・リーセイ細胞である、請求項19に記載の宿主細胞。
【請求項21】
請求項1に記載の融合DNA構成物を含むベクター。
【請求項22】
請求項21に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項23】
宿主細胞がトリコデルマ宿主細胞である、請求項22に記載の宿主細胞。
【請求項24】
糸状真菌細胞において目的タンパク質を生成する方法であって、
a)請求項1に記載の融合DNA構成物を含む糸状真菌宿主細胞を得る工程、
b)目的タンパク質の発現及び生成を可能にする適した条件で宿主細胞を培養する工程、及び
c)目的タンパク質を回収する工程
を含む方法。
【請求項25】
宿主細胞がトリコデルマ株である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
トリコデルマ細胞がトリコデルマ・リーセイ宿主細胞である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
目的タンパク質が免疫グロブリンである、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
免疫グロブリンがモノクローナル抗体である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
モノクローナル抗体がL鎖又はH鎖モノクローナル抗体又はそれらの断片である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
宿主細胞がトリコデルマ細胞、目的タンパク質がL鎖抗体、及びKEX2領域がX4X3X2X1KR、及びX4がV、及びX1がE、S、T又はYである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
組換え融合ポリペプチドから目的タンパク質を切断する方法であって、糸状真菌細胞において、請求項1に記載の融合DNA構成物にコードされる融合ポリペプチドを発現する工程であり、前記KEX2領域がタンパク質切断部位を提供し、さらに発現した融合ポリペプチドから切断される目的タンパク質を得る工程を含む方法。
【請求項32】
目的タンパク質が治療用タンパク質である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
目的タンパク質が抗体である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
目的タンパク質の切断がKEX2部位プレ配列を欠く同等な融合ポリペプチド由来の前記目的タンパク質の切断と比較して増加している、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
KEX2領域がX4X3X2X1KR、及びX4がV、及びX1がE、S、T又はYである、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
糸状真菌細胞からの抗体生成を増加させる方法であって、請求項3に記載の融合DNA構成物を含む糸状真菌細胞を得る工程、融合ポリペプチドの発現及び融合ポリペプチドの分泌を可能にする適した条件下で真菌細胞を培養する工程を含み、目的タンパク質の分泌がKEX2プレ配列を含まない同等な融合ポリペプチドの分泌と比較して増加している、前記方法。
【請求項37】
目的タンパク質の分泌が前記同等な融合ポリペプチド由来の目的タンパク質の分泌と比較して少なくとも30%増加している、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
融合ポリペプチドのアミノ末端から第一アミノ酸配列を含む前記融合ポリペプチドであって、
a)分泌配列として機能的なシグナル配列、
b)キャリアタンパク質を含む第二アミノ酸配列、
c)KEX2部位(B1B2)及び前記KEX2部位の5’末端に直結したKEX2部位プレ配列((X)n=2−6)を含むKEX2領域を含む第三アミノ酸配列、及び
d)目的タンパク質を含む第四アミノ酸配列を含み、B1又はB2がK又はR、及びXが任意のアミノ酸残基である、
前記融合ポリペプチド。
【請求項39】
目的タンパク質の増加された分泌及び/又は切断を特定する方法であって、
a)シグナル配列を含む親融合ポリペプチドのKEX2部位プレ配列、KEX2部位(B1B2)及び前記KEX2部位のN末端に直結したKEX2部位プレ配列((X)n=4)を含むKEX2領域、及び目的タンパク質を含むアミノ酸配列を変異させ、前記KEX2部位プレ配列を除き前記親融合ポリペプチドと同一の試験組換え融合ポリペプチドのセットを生成する工程、
b)糸状真菌細胞による前記試験融合ポリペプチド及び前記親融合ポリペプチドの分泌及び/又は切断を評価する工程、及び
c)前記親融合ポリペプチドと比較して分泌及び/又は切断が増加された試験融合ポリペプチドを特定する工程
を含む方法。
【請求項40】
請求項39に記載の方法であって、さらに最適化されたKEX2部位プレ配列を特定する方法を含み、複数の異なる試験融合ポリペプチドを試験するする工程、及びどの前記異なる試験融合ポリペプチドがより多い分泌及び/又はタンパク質切断を有するかを決定する工程を含み、前記最適化されたKEX2部位プレ配列が、最も多い分泌及び/又はタンパク質切断を有する試験組み換え融合ポリペプチドの変異KEX2部位プレ配列である、前記方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2009−542258(P2009−542258A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519442(P2009−519442)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/014476
【国際公開番号】WO2008/048378
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(500284580)ジェネンコー・インターナショナル・インク (67)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/014476
【国際公開番号】WO2008/048378
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(500284580)ジェネンコー・インターナショナル・インク (67)
【Fターム(参考)】
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