説明

組織の修復あるいは再生に用いる組織工学装置

【課題】足場の表面上の細胞の分配がコントロール可能な装置を提供する。
【解決手段】組織の修復もしくは再生に用いる、支持足場層と細胞シート層で作られた組織工学装置。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、組織の修復もしくは再生に用いる組織工学装置に関する。特に、本発明は支持足場層と細胞シート層で作られた組織工学装置に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
近年、操作上有効な代替物での欠損臓器の代用に相当な注意と努力が向けられてきた。代替物は、例えば人工心臓などの完全に人工の装置から、別のほ乳類ドナーからの完全に自然の臓器までの範囲にわたる。心臓移植の分野は、人工心臓と生体ドナーからの自然の心臓まで双方の利用で特に奏功している。他の多くの臓器分野においては同等の成功は達成されていない。
【0003】
最近の組織工学と再生医療の出現は、損傷または病変した組織の形状と機能を修復および再生/再建する、代替的方法を提供する。組織工学的な方法は、究極的には組織機能を再建または改善することができる生物学的な代替物を作成するために、細胞および/または増殖因子と組み合わせた生体材料の利用を模索してきた。コロニー形成可能で再構築可能な足場材料の利用が、組織テンプレート、導血管、障壁、および貯蔵所として大規模に研究されてきた。特に、発泡体状、スポンジ状、ゲル状、ハイドロゲル状、織物状、不織布の形態の人工材料と天然材料が、組織の増殖誘導のための走化性物質を送達するためだけでなく、生物組織の再構成/再生のためにインビトロとインビボで用いられてきた。ある事例では、細胞は足場材料上に緩く播種され、直ちに体内に植え込まれる。もう一つの方法として、細胞は足場材料上に緩く播種され、植え込み前に一定期間培養されてもよい。
【0004】
しかし、細胞を緩く播種する場合、特に細胞の均一な分配が必要とされる際には、足場の表面上の細胞の分配をコントロールする能力に欠ける。必要とされるのは、足場の表面上の細胞の分配がコントロール可能な装置である。更に、細胞は例えば接着、増殖、および遊走のための細胞外マトリックスタンパク質といった補助因子が必要なため、緩く播種された細胞の生存率は損なわれる可能性がある。
【0005】
〔発明の概要〕
本発明は、組織の修復もしくは再生に用いるための、支持足場層と細胞シート層を有する組織工学装置である。
【0006】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、組織の修復もしくは再生に用いるための、支持足場層と細胞シート層とを備える組織工学装置である。図1は、本発明のある実施態様の模式図である。この図は、細胞シート層20と足場層30とを備える組織工学装置10を示す。
【0007】
本発明の組織工学装置10の製造法を図2に示す。選択された細胞22は、接種装置12、典型的には注射器またはピペットを用いることによって、例えばペトリ皿などの細胞増殖支持装置14上に播種される。細胞22は、細胞増殖支持装置14上で85%コンフルエンス以上、望ましくは約100%コンフルエンスに増殖される。85%コンフルエンス以上の細胞は、細胞増殖支持装置14上に細胞シート層20を形成する。細胞シート層20は次に細胞増殖支持装置14から分離され、組織工学装置10を作成するために足場層30の上に配置される。
【0008】
選択された細胞22は、自家組織細胞であっても、または同種間もしくは異種間由来であってもよい。
【0009】
細胞22は、細胞源として役割を果たす適切な臓器もしくは組織の処理によって得られてもよい。間質細胞を得るための臓器もしくは組織処理のための手法は、当業者に知られている。例えば、個々の細胞の懸濁液が得られるようにするため、組織もしくは臓器は機械的に破壊、および/または細胞間の相互作用を弱める消化酵素もしくはキレート化剤で処理されてもよい。典型的には、方法には機械的破壊、酵素処理、およびキレート化剤の組合せが含まれる。ある手法においては、組織もしくは臓器は切り刻まれ、同時に、もしくはその後に任意の数の酵素で単独もしくは組合せのいずれかで処理される。細胞の解離に有用な酵素の例は、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、DNase、プロナーゼ、ディスパーゼなどであるがこれらに限定されない。機械的破壊は、例えばブレンダー、ふるい、ホモジナイザー、圧力セルなどの使用により達成されてもよい。
【0010】
結果として得られた細胞懸濁液と細胞集団は、更に実質的に均質な細胞型の集団に分けられてもよい。これは、たとえばポジティブ選択法(例えば、クローン増殖と特定の細胞型の選択)、ネガティブ選択法(例えば、無用な細胞の溶解)、所定密度溶液中の比重に基づく分離、混合された集団中の細胞の特異的付着特性、蛍光活性化細胞選別装置(FACS)などの細胞分離のための標準的な手法を用いて達成されてもよい。これらの手法で得られた細胞は、培養皿上に播種するのに必要な十分な細胞数を得るための当業者に知られた標準的な細胞培養手法を用いて、培養物中で更に増やされた。
【0011】
あるいは、細胞は治療の取り組みを通じて取得されてもよい。
【0012】
自家組織細胞が用いられる場合、身体による免疫反応の考慮は最小限になるか、もしくは排除されるが、同種もしくは異種細胞を用いる場合には更に身体による前記の免疫反応の考慮を必要とすることもある。前記の処理方法はシクロスポリン、FK−506もしくはその他の前述の免疫治療薬による補助的免疫療法を必要とすることもある。あるいは、細胞は宿主の免疫反応を低減あるいは排除することができる遺伝物質を形質移入してもよい。
【0013】
本発明に従って利用され得る選択された細胞22は、軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、血管芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、尿路上皮細胞、平滑筋細胞、ケラチン生成細胞、β細胞、内皮細胞、線維細胞、血管内皮細胞、肝細胞、小腸上皮細胞、表皮角化細胞、骨髄間充織細胞、心筋細胞、椎間板細胞、口腔粘膜上皮、胃腸粘膜上皮、尿管上皮、同様にその他の臓器系由来の上皮、骨格関節滑膜、骨膜、軟骨膜、筋細胞(骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞)、心膜、硬膜、髄膜、ケラチン生成細胞前駆細胞、周皮細胞、グリア細胞、神経細胞、羊膜、胎盤膜、漿膜細胞(例えば、体腔を裏打ちする漿膜細胞)、未分化もしくは前分化の幹細胞もしくは前駆細胞、神経幹細胞もしくは前駆細胞、神経細胞、樹状細胞、および遺伝子組み換え細胞を含むがそれに限定されない。幹細胞は、限定なしに、造血細胞、間充織細胞、産後細胞、膵臓細胞、肝細胞、網膜上皮細胞、嗅球細胞、内皮細胞、筋細胞、脂肪由来細胞、腸骨稜細胞(ileac crest)、骨髄細胞、歯周靱帯細胞、卵形および真皮幹細胞、ならびに臓器特異的幹細胞および前駆細胞を含む。
【0014】
節足動物(昆虫)を含む任意の動物の細胞を使用することもでき、同様に生殖細胞と胚細胞を使用することもできる。実施例は、胚幹細胞、体幹細胞、神経幹細胞、メラニン細胞、血管平滑筋細胞、毛母細胞、星状細胞、小肝細胞、羊膜由来細胞、胎児肝臓由来細胞、胎児腎臓由来細胞、胎児肺由来細胞、および細胞系の定着細胞、HeLa細胞、FL細胞、KB細胞、HepG2細胞、WI−88細胞、MA104細胞、BSC−1細胞、Vero細胞、CV−1細胞、BHK−21細胞、L細胞、CL細胞、BAE細胞、BRL細胞、PAE細胞などを含む。
【0015】
ある実施態様において、遺伝子操作された細胞シート層20が作成される。遺伝子操作された細胞シート層20は細胞22の集団を含み、前記細胞集団のうちの少なくとも一つの細胞は、組織の回復、置換、維持、および診断を補助するための外因性のポリヌクレオチドが発現診断のための産物および/または治療のための産物(例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)を発現するように、外因性ポリヌクレオチドで少なくとも1細胞の細胞集団が形質移入される。本発明に用いることもできる「有益なタンパク質」(および同タンパク質をコード化する遺伝子)の例は、サイトカイン、増殖因子、ケモカイン、走化性ペプチド、メタロプロテイナーゼの組織阻害因子、ホルモン、血管新生の刺激もしくは阻害のいずれかを行う調節因子、免疫調節タンパク質、神経保護タンパク質、神経再生タンパク質、およびアポトーシス阻害因子を無制限に含む。より具体的には、望ましいタンパク質はエリスロポエチン(EPO)、EGF、VEGF、FGF、PDGF、IGF、KGF、IFN−α、IFN−δ、MSH、TGF−α、TGF−β、TNF−α、IL−1、BDNF、GDF−5、BMP−7、およびIL−6、を無制限に含む。
【0016】
本発明の別の状況では、細胞シート層20の細胞22、およびその子孫細胞は、継続的に目的とする遺伝子産物を産生するように設計されることもできる。別の状況では、細胞は一時的に産物を産生するのみとすることもできる。例えばDNA分子のような外因性ポリヌクレオチドによる細胞の形質転換法もしくは形質移入法は、当業者によく知られており、例えばカルシウム−リン酸もしくはDEAE−デキストランを介した形質移入、プロトプラスト融合、電気穿孔、リポソームを介した形質移入、直接マイクロインジェクション法およびアデノウイルス感染などの手法を含む。最も広く用いられる方法は、カルシウム−リン酸もしくはDEAE−デキストランを介した形質移入法である。永続的および一時的な形質移入の方法は知られており、本出願中で更に述べられる。遺伝子操作された細胞を有する組織シート利用のある特定の利点は、比較的少数の遺伝子操作された細胞を単純に播種する場合と比較して、大量の細胞を利用する事もできる点である。別の望ましい実施態様では、細胞標品グラフトは、それぞれ異なる治療物質を望ましい治療濃度で産生する多数の改変された細胞型を含む。前述の実施態様は、薬剤開発のためのスクリーニングとして有用である。
【0017】
本発明の別の状況では、細胞シート層20は、外因的に添加された細胞外マトリックスタンパク質、例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、インテグリン、グリコサミノグリカン(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸など)、エラスチン、およびフィブリンで強化された細胞22を備えるようにすることもできる。本発明の一部の実施態様では、細胞シート層20は外因的に添加された、例えば血管内皮細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、上皮細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子、肝細胞成長因子、インスリン様成長因子、および形質転換因子といった増殖因子および/またはサイトカインに組み込んでもよい。
【0018】
選択された細胞22は、ガラス、セラミック、もしくは表面処理済みの人工ポリマー上で培養されてもよい。例えば、ガンマ線照射もしくはシリコン被覆のような表面処理の対象とされてきたポリスチレンが細胞培養のための表面として使用されてもよい。85%コンフルエンス以上に増殖した細胞22は、細胞増殖支持装置14上に細胞シート層20を形成する。細胞シート層20は、例えばトリプシンもしくはディスパーゼといったタンパク質分解酵素を用いて細胞増殖支持装置14上から分離されてもよい。非酵素的な細胞の分離も使用されてもよい。非限定的な例は、酵素処理に関連した損傷のリスクを低減した上で、培養中の接着した細胞を穏和に取り除くように意図された非酵素的細胞分離溶液である、CELLSTRIPPER(Mediatech, Inc., Herndon, VA)の商標名で販売されているキレート剤混合物である。
【0019】
あるいは、培養された細胞22が回収された細胞増殖支持装置14の表面は、タンパク質分解酵素もしくは化学材料なしに細胞が分離する材料から作られた基盤であってもよい。当該の基盤の材料は、支持材と支持材上の被覆を備えることもでき、前記の材料において被覆は、水に対する臨界溶解温度が0℃から80℃の範囲内のポリマーもしくは共重合体から形成される。
【0020】
臨界溶解温度は、以下のように定義される。特定の材料が水と混合される場合、混合物は溶解性が乏しいために特定の温度で二つの層に分けられるが、特定の温度より加熱されるかもしくは冷却されるかのいずれかであった場合、最終的には材料は完全に水で溶解され、均一な溶液に変わる。その特定の温度が「臨界溶解温度」として定義される。均一溶液が加熱された場合に出来た場合、臨界溶解温度は「上部臨界溶解温度」と呼ばれる。均一溶液が冷却された場合に出来た場合、臨界溶解温度は「下部臨界溶解温度」と呼ばれる。
【0021】
ポリマーもしくは共重合体は、0℃から80℃、望ましくは20℃から50℃の範囲内に上部臨界溶解温度もしくは下部臨界溶解温度がある必要がある。80℃よりも高い場合には、培養された、もしくは増殖した細胞は死ぬ可能性がある。0℃より低い場合には、細胞の増殖率は非常に低くなる可能性があり、もしくは細胞が死ぬ可能性がある。
【0022】
ポリマーもしくは共重合体は、ある親水性モノマーの重合もしくは共重合により調製してもよい。モノマーの非限定的な例は、例えばメタクリルアミドのようなアクリルアミド;例えばN−エチルアクリルアミド(N-ethyl acrylamide)、N−n−プロピルアクリルアミド(N-n-propyl acrylamide)、N−n−プロピルメタクリルアミド(N-n-propyl methacrylamide)、N−イソプロピルアクリルアミド(N-isopropyl acrylamide)、N−イソプロピルメタクリルアミド(N-isopropyl methacrylamide)、N−シクロプロピルアクリルアミド(N-cyclopropyl acrylamide)、N−シクロプロピルメタクリルアミド(N- cyclopropyl methacrylamide)、N−エトキシエチルアクリルアミド(N-ethoxyethyl acrylamide)、N−エトキシエチルメタクリルアミド(N-ethoxyethyl methacrylamide)、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(N-tetrahydrofurfuryl acrylamide)、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(N-tetrahydrofurfuryl methacrylamide)のようなN−置換したアクリルアミドもしくはメタクリルアミド;例えばN,N−ジメチルアクリルアミド(N,N-dimethyl acrylamide)、N,N−ジメチルメタクリルアミド(N,N-dimethyl methacrylamide)、N,N−エチルメチルアクリルアミド(N,N-ethylmethyl acrylamide)、N,N−ジエチルアクリルアミド(N,N-diethyl acrylamide)のようなN,N−ジ−置換したアクリルアミドもしくはメタクリルアミド;1−(1−オクソ−2−プロペニル)−ピロリジン(1-(1-oxo-2-propenyl)-pyrrolidine)、1−(1−オクソ−2−プロペニル)−ピペリジン(1-(1-oxo-2-propenyl)-piperidine)、4−(1−オクソ−2−プロペニル)−モルホリン(4-(1-oxo-2-propenyl)-morpholine)、1−(1−オクソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン(1-(1-oxo-2-methyl-2-propenyl)-pyrrolidine)、1−(1−オクソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピペリジン(1-(1-oxo-2-methyl-2-propenyl)-piperidine)、4−(1−オクソ−2−メチル−2−プロペニル)-モルホリン(4-(1-oxo-2-methyl-2-propenyl)-morpholine)など;例えばメチルビニルエーテル(methyl vinyl ether)のようなビニルエーテル(vinyl ether)などで代表される。
【0023】
追加のモノマーは、以下の一般化学式(I)、
【化1】

のアクリルアミド誘導体を含み、
式中、R1は水素原子、1から6の炭素原子を含む直鎖アルキル基もしくは分岐アルキル基、またはC3−6シクロアルキル基を示し、R2およびR3はそれぞれ独立に1から6の炭素原子を含むアルキル基を示すか、または、R2およびR3は環を形成するために組み合わされてもよく、Xは水素原子、アミノ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、もしくはCOOR4基を示し、式中R4はC1−6の直鎖アルキル基もしくは分岐アルキル基、C3−6シクロアルキル基、フェニル基、置換されたフェニル基、ベンジル基または置換されたベンジル基を示し、Yはアミノ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、カルボキシル基またはCOOR4基を示し、式中R4はC1−6の直鎖アルキル基もしくは分岐アルキル基、C3−6シクロアルキル基、フェニル基、置換されたフェニル基、ベンジル基または置換されたベンジル基を示す。
【0024】
ポリマーは以下の一般化学式(II)
【化2】

の同一のもしくは異なる反復単位からなってもよく、
式中、R1は水素原子、1から6の炭素原子を含む直鎖アルキル基もしくは分岐アルキル基、またはC3−6シクロアルキル基を示し、R2およびR3はそれぞれ独立に1から6の炭素原子を含むアルキル基を示すか、または、R2およびR3は環を形成するために組み合わされてもよく、Xは水素原子、アミノ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、もしくはCOOR4基を示し、式中R4はC1−6の直鎖アルキル基もしくは分岐アルキル基、C3−6シクロアルキル基、フェニル基、置換されたフェニル基、ベンジル基または置換されたベンジル基を示し、Yはアミノ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、カルボキシル基またはCOOR4基を示し、式中R4はC1−6の直鎖アルキル基もしくは分岐アルキル基、C3−6シクロアルキル基、フェニル基、置換されたフェニル基、ベンジル基または置換されたベンジル基を示す。
【0025】
共重合体は上述の一般化学式(II)の異なるもしくは同一の反復単位、および一般化学式(III)
【化3】

の異なるもしくは同一の反復単位からなってもよく、
式中、R1は水素原子、1から6の炭素原子を含む直鎖アルキル基もしくは分岐アルキル基、またはC3−6シクロアルキル基を示し、R5は1から6の炭素原子を含む直鎖アルキル基もしくは分岐アルキル基、またはC3−6シクロアルキル基を示し、R6は1から6の炭素原子を含む直鎖アルキル基もしくは分岐アルキル基、またはC3−6シクロアルキル基を示し、あるいは、R5およびR6は−CH−基が一つの員に結合した三員環、四員環、五員環、または六員環を形成するために組み合わされてもよい。
【0026】
臨界溶解温度を調節するため、支持材と支持材上の被覆部との間の相互作用を増強するため、もしくは基盤材料の親水特性と疎水特性との間のバランスをコントロールするために、上記に掲載されたモノマーもしくはその他のモノマーの共重合体、グラフトポリマーもしくは共重合体、またはポリマーの混合物を用いることもできる。本発明のポリマーもしくは共重合体は、ポリマーの本来の特性が有害に影響されるのでない限りは架橋されてもよい。
【0027】
支持材は、例えば、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリル酸)(poly(methyl methacrylate))、ポリフッ化ビニリデン(Polyvinylidine dirluoride, PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ビニルポリマー、セラミック、金属、ガラスおよび、変性ガラスといったポリマーなどの任意の材料から作成することもできる。細胞増殖支持装置14の形状は限定されないが、典型的には、ペトリ皿、シャーレ、繊維、粒子、および任意の種類の容器(例えば、フラスコ)が細胞培養に用いられてもよい。
【0028】
ポリマーもしくは共重合体は、支持材上に化学的な方法で、もしくは物理的な方法で結合されてもよい。化学的な方法では、電子ビーム、ガンマ線照射、紫外線照射、コロナ処理、プラズマ処理が利用されてもよい。支持材とその被覆が互いに反応可能な基を持つ場合には、有機反応(例えば、ラジカル反応、アニオン反応、もしくはカチオン反応)も利用されてもよい。物理的な方法では、ポリマー自体、もしくは支持材との融和性を有するマトリックスとポリマーとの組合せが支持材上に被覆され、従って、物理的な吸着力によって結合する。マトリックスの例は、グラフト、または支持材を形成するモノマーもしくは支持材との融和性を有するその他のモノマーと前述のポリマーとのブロック共重合体である。
【0029】
増殖もしくは培養した細胞シート層20を回収もしくは分離するために、基盤材料は上部臨界溶解温度もしくは下部臨界溶解温度を越えて加熱もしくは冷却され、ひいては細胞シート層20を分離し、細胞シート層20を回収するために等張液で洗浄される。
【0030】
別の実施態様では、細胞シート層20は非接着表面上で十分な密度で細胞22を培養することにより作成される。前記の実施態様は、細胞間のデスモソーム構造、および細胞間の結合性により再生され、配向性が損なわれずに保たれているので、ごく少数の構造上の欠陥しかもたない細胞シート層20をもたらす。
【0031】
前記の実施態様では、細胞増殖支持装置14は、本来的に非接着性であってもよく、もしくは当業者によく知られた表面被覆によって非接着性にされてもよい。市販されている細胞増殖支持装置は、例えばCorning(登録商標)超低級付着性表面細胞培養製品(Ultra Low Attachment surface cell culturing products)(ニューヨーク州コーニング所在のコーニング社(Corning Inc., Corning NY))などを含む。前述の製品は親水性であり中性に荷電されており、ポリスチレン表面に共有結合されたヒドロゲル層を有する。タンパク質およびその他の生体分子は疎水性相互作用もしくはイオン相互作用を通じて受動的にポリスチレン表面に吸収されるため、前記のヒドロゲル表面は、これらの力を介して必然的に非特異的な固定化を阻害し、その後の細胞接着を阻害する。その他の生体適合性の非接着材料は、ePTFE、ポリスチレン、ステンレス鋼、およびいくつかの架橋されたセルロース誘導体を含む。それらの例は、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(hydroxyethyl cellulose)、ヒドロキシプロピルセルロース(hydoroxypropyl cellulose)、メチルセルロース(methyl cellulose)、チルセルロース(thyl cellulose)、およびメチルチルセルロース(methyl thyl cellulose)などの架橋されたヒドロキシアルキルセルロース(hydroxyalkyl celluloses)を含む。同様に含まれる架橋されたカルボキシアルキルセルロースは、エチレングリコールジグリシジルエーテル(ethylene glycol diglycidyl ether, EGDGE)もしくは1,4ブタンジオールジグリシジルエーテル(1,4 butanediol diglycidyl ether)で架橋されたカルボキシメチルセルロースである。その他の材料は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリル酸)(poly(2-hydroxyethyl methacrylate))(Cellform(登録商標)、カリフォルニア州アーヴィン所在のMPバイオメディカル社(MP Biomedicals, Irvine, CA))、アガロース、および架橋アガロースなどである。
【0032】
細胞シート層20の作成には、細胞外マトリックスタンパク質の産生を促進するために、細胞集団22(均一または不均一な)は一般的に入手可能な培地成分中で非接着性培養基上で培養される。長期の培養期間後、密着した細胞シートを作るのに十分な細胞外マトリックスタンパク質が産生される。
【0033】
細胞は、細胞シート層20を形成させるのに十分な様々な密度で細胞増殖支持装置14上に播種されてもよい。前述の密度は、様々な細胞型で異なり、至適化の必要がある。軟骨細胞の場合、細胞密度は1,000細胞/cm2から100,000細胞/cm2の範囲にわたってもよい。適切な培地(例えば、D−MEM培地、MEM培地、HamF12培地、HamF10培地)は細胞増殖支持装置14に加えられる。次に、細胞22が皿の底に定着するように、必要とされる密度の細胞22が細胞増殖支持装置14に加えられる。あるいは、必要とされる数の細胞22が培地中に懸濁され、支持装置14に加えられてもよい。前記の場合、細胞は皿の底に接着せず、細胞−細胞間接着が細胞シート層20を作る。細胞シート層20を細胞増殖支持装置14から回収できるまで、培養は数日間から数週間継続される。培養の間、培地は必要であれば交換されてもよい。通常、培地は培養0.6日から2日毎に交換される。細胞の増殖、生存率、および/または細胞−細胞接着を促進する薬剤の添加が培養過程中に用いられてもよい。細胞外マトリックスタンパク質の産生を増加させ、より強固なシート層を作成するために、例えば、アスコルビン酸、レチノイン酸、および銅などの添加を利用することもできる。細胞外マトリックスタンパク質の産生を刺激可能な増殖因子、あるいは増殖因子、微量元素、ビタミン類などの組合せを利用することもできる。
【0034】
細胞増殖支持装置14上に作成された細胞シート層20は、鉗子を用いて細胞シート層20を穏和に剥離させることによって支持装置14から回収することもできる。あるいは、細胞シート層20は、細胞シート層20がポリマーシートと接着するように、ポリマー膜と密接に接触させられる。合わされた細胞シートおよびポリマーの裏当ては、次にピンセットで取り除かれてもよい。細胞シート層20の剥離は、細胞22を培養するのに用いた培養液中だけでなく、その他の等張液中で行われてもよい。適切な溶液が個別の対象物に従って選択されてもよい。細胞シート層20との密接な接触を達成するために用いられてもよいポリマー膜の例は、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidine difluoride, PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース、およびその誘導体のほか、キチン、キトサン、コラーゲン、ポリウレタン、および、既知の生体吸収性の天然および人工のポリマーで作られたその他のそのようなフィルム、もしくはメッシュ、などである。裏打ち層は連続的であっても、あるいは開口部が設けられていても(網状に作られていても)よい。裏打ち層は、平面もしくは起伏があってもよい。起伏は、例えば型押しによって作られてもよい。適切に起伏が付けられたフィルムは、開口部を有してもよい。
【0035】
別の実施態様において、細胞シート層20は補強細胞シートで構成されてもよい。補強細胞シートは、細胞22を支持装置14に播種する前に支持装置14の底に生分解性もしくは非生分解性の補強材を置くことによって形成されてもよい。補強材は、例えば織布、編み物、編みひも、有孔フィルム、メッシュ、および不織布のような織物構造体を含むがそれらに限定されない。そうして得られる細胞シート層20は、更なる強度を細胞シート層20に与える補強材を組み込んだことになり、前期細胞シート層20は裏打ち層の必要なしに操作することもできる。望ましい補強材は、ポリ(グリコール酸/乳酸)(poly(glycolic acid-co-lactic acid))共重合体、もしくはPGA/PLA、VICRYL(ニュージャージー州サマヴィル所在のエシコン社(Ethicon, Inc., Somerville, NJ))の商品名で市販されている繊維を含む編まれたメッシュもしくは不織メッシュである。メッシュは、Corning(登録商標)超低級付着性皿(Ultra Low attachment dish)の底に置かれてもよい。次に、細胞は細胞−細胞相互作用を形成し、またメッシュと相互作用した場合にはメッシュにも結合するように皿上に播種されてもよい。前記の過程は、より良い強度と操作特性を持つ補強細胞シートを生じさせる。前記の補強細胞シートは、除去を補助する更なる裏打ちポリマーもしくは足場を必要としない。
【0036】
また細胞シート層20は、細胞シートの中央にメッシュがなく、周囲のみがメッシュで補強されるようメッシュのリングで作られてもよい。
【0037】
細胞シート層20は、本発明の足場層30上に配置される。足場層30は、三次元の足場、もしくは枠組みである。足場層30は、例えば通常平面、通常筒状あるいはチューブ状といった様々な形状に形作られてもよく、または、検討中の修正構造のために必要、もしくは望まれるように完全に自由形状であってもよい。前記の三次元システム中で増殖させた場合、細胞シート層20からの増殖中の細胞は、インビボで天然に見いだされる対応する組織に類似した成熟組織の構成要素を形作るために十分に成熟し、適切に分離する。
【0038】
限定を意図しない例として、足場層30は、足場構造が(1)細胞シートをその後の劣化なしに支持し、(2)播種時から組織移植体(tissue transplant)が宿主組織によって再形成されるまで細胞シートを支持し、(3)播種された細胞シートがインビトロでそれ自身を支持するために十分な機械的統合性を有する組織構造へと付着、増殖、分化できるように、設計することもできる。
【0039】
本発明の状況に用いられる可能性がある足場の例は、例えば織布、編み物、編みひも、メッシュ、不織布、および整経された編み物;多孔質発泡体、半多孔質発泡体、および有孔フィルムもしくはシート、ならびに前記構造の組合せである複合構造体を含む。不織布マットは、例えば、天然もしくは人工のポリマーを含む繊維を用いて作られてもよい。
【0040】
本発明の足場層30は、望ましくは生体適合ポリマーから作られる。本発明に従い、様々な生体適合ポリマーがマットと多孔体を形成するのに用いられてもよい。生体適合ポリマーは、人工ポリマー、天然ポリマー、もしくはそれらの組合せとすることもできる。本出願で使用される場合、「人工ポリマー」の語は、例えポリマーが自然に生じる生体適合材料から作られたとしても、天然に見いだされないポリマーを表す。「天然ポリマー」の語は、自然に生じるポリマーを表す。
【0041】
本発明で用いられる生体適合ポリマーは、生分解性もしくは非生分解性とすることもできる。生分解性ポリマーは、湿った生体組織に曝された場合、容易に小さな断片に分解する。これらの断片は体に吸収されるか、あるいは体内を素通りする。より詳しくは、生分解された断片は、体に吸収されるか、あるいは体から消失されるため、体が保持する永続的な微量の断片または残留断片がないので、永続的な慢性の異物反応を誘起しない。
【0042】
足場が一つ以上の人口ポリマーを含む実施態様では、適切な生体適合人工ポリマーは、脂肪族ポリエステル、ポリ(アミノ酸)、コポリ(エーテル−エステル)(copoly(ether-esters))、シュウ酸ポリアルキレン(polyalkylenes oxalates)、ポリアミド、チロシン由来のポリカーボネート、ポリ(イミノカーボネート)(poly(iminocarbonate))、ポリオルトエステル(polyorthoester)、ポリオキサエステル(polyoxaester)、ポリアミドエステル(polyamidoester)、アミノ基含有ポリオキサエステル、ポリ(無水物)(poly(anhydrides))、ポリホスファゼン(polyhosphazenes)、ポリ(フマル酸プロピレン)( poly(propylene fumarate))、ポリウレタン(polyurethane)、ポリ(エステルウレタン)(poly(ester urethane))、ポリ(エーテルウレタン)(poly(ether urethane))、および混合物とその共重合体から成る群から選択されたポリマーを含むこともできる。また、本発明に用いる適切な人工ポリマーは、コラーゲン、ラミニン、グリコサミノグリカン、エラスチン、スロンビン、フィブロネクチン、デンプン、ポリ(アミノ酸)、ゼラチン、アルギナート、ペクチン、フィブリン、酸化セルロース、キチン、キトサン、トロポエラスチン、ヒアルロン酸、絹、リボ核酸、デオキシリボ核酸、ポリペプチド、タンパク質、多糖類、ポリヌクレオチド、およびその組み合わせに見いだされた配列に基づく人工ポリマーを含んでもよい。
【0043】
本発明の目的のために、脂肪族ポリエステルは、ラクチド(乳酸、D−ラクチド、L−ラクチド、メソラクチドを含む)、グリコリド(グリコール酸を含む)、イプシロン−カプロラクトン(epsilon-caprolactone)、p−ジオキサノン(1,4−ジオキサン−2−オン)(p-dioxanone (1,4-dioxan-2-one))、トリメチレンカーボネート(1,3−ジオキサン−2−オン)(trimethylene carbonate (1,3-dioxan-2-one))、トリメチレンカーボネートのアルキル誘導体、および、その混合物などのモノマーのホモポリマーと共重合体を含むがそれに限定されない。本発明で用いられる脂肪族ポリエステルは、直線構造、分岐構造、もしくは星構造をもつホモポリマーあるいは共重合体(ランダム、ブロック、分割された、先細になったブロック、グラフト、トリブロックなど)であってもよい。
【0044】
足場が少なくとも一つの天然ポリマーを含む実施態様において、天然ポリマーの適切な例は、フィブリンベースの材料、コラーゲンベースの材料、ヒアルロン酸ベースの材料、糖タンパク質ベースの材料、セルロースベースの材料、絹、およびそれらの組合せを含むがそれに限定されない。限定を目的としない例として、生体適合性の足場はコラーゲンベースの小腸粘膜下組織、骨膜、滑液、および羊膜を含んでもよい。
【0045】
当業者は、本発明の生体適合性の足場層30形成のための適切な材料の選択がいくつかの要因に依存することを理解するだろう。これらの要因は、インビボでの機械的な性能、つまり材料に対する細胞付着、増殖、遊走、および分化の面での細胞反応、生体適合性、ならびに任意で生分解動態を含む。その他の関連要因は、化学組成、構成要素の空間分布、ポリマーの分子量、および結晶化度を含む。
【0046】
本発明のある実施態様において、米国特許第6,355,699号に述べられているような、例えばフリーズドライもしくは凍結乾燥のような処理で形成されるポリ(イプシロン−カプロラクトン−グリコール酸)(poly(epsilon-caprolactone-co-glycolic acid))共重合体などを含む発泡体を足場30とすることもできる。別の実施態様では、本発明の細胞シート20は、繊維強化された発泡体の複合構造体であってもよい発泡体の足場30上に播種される。
【0047】
別の実施例では、織布、不織布、整経された編み物(つまりレースの様な構造)および編みひもを含む織物が、足場30として用いられる。典型的な実施態様では、強化構成要素はメッシュの様な構造を有する。織物構造を作るのに用いられる繊維は、単繊維、糸、より糸、編みひも、もしくは繊維の束であってもよい。これらの繊維は、例えばポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリジオキサノン(PDO)、ポリトリメチレンカーボネート(PTMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、共重合体、もしくはその混合物などの任意の生体適合性材料から作られてもよい。ある実施態様では、繊維はポリ乳酸とポリグリコール酸95:5mol比の共重合体からなる。繊維は、もしくは生体吸収性ガラスで作られてもよい。バイオガラス、カルシウムリン酸含有ガラス、または吸収時間をコントロールするために添加された様々な量の鉄粒子を含むカルシウムリン酸ガラスは、ガラス繊維となるように紡ぎ出し、織物構造に用いることのできる材料の例である。また、繊維を作る単繊維は、鞘/芯構造の単繊維を作り出すために同時押出しされてもよい。前記の単繊維は生分解性ポリマーの鞘を備え、この鞘は、別の生分解性ポリマーで構成される一つ以上の芯を取り囲む。吸収が遅い芯を取り囲む吸収が早い鞘を有する単繊維は、組織の内殖ために長期の支持が必要な場合において望ましい可能性がある。生体再吸収性金属が同様に用いられてもよい。
【0048】
更に別の実施態様では、足場30はフェルトである。このフェルトは、例えばPGA、PLA、PCL共重合体もしくは混合物、またはヒアルロン酸といった生体吸収性材料から作られたマルチフィラメント糸からなっていてもよい。ある有利な糸は、ポリ(グリコール酸−酪酸)共重合体もしくはPLGAで作られ、VICRYL(ニュージャージー州サマヴィル所在のエシコン社(Ethicon, Inc., Somerville, NJ))の商品名で販売され、マットを作るのに用いられる。糸は、捲縮、切断、梳綿、および穿刺からなる標準的な織物加工技術を用いてフェルトになる。
【0049】
更に別の実施態様では、足場30は、薄く、組織の内殖を可能にする孔を備えた有孔ポリマーシートで作られてもよい。前記のシートは、前述の足場材料のためのものと同じポリマーおよび共重合体で作られてもよい。
【0050】
普通の当業者は、一層以上の足場30が本発明の組織工学装置10に用いられてもよいことを理解するだろう。更に、同じ構造と化学的性質、もしくは異なる構造と化学的性質の足場30(例えばメッシュ)の層は、機械的強度が選りすぐれた組織工学装置10を加工するために互いの上に重層されてもよい。足場30は遺伝物質、サイトカイン、および細胞22の生存、増殖、分化を促進する増殖因子を組み込む可能性があるため、更なる利点をもたらす可能性がある。足場30へのこれらの有益な因子の組み込みの様々な方法は、当業者に知られた被覆を含むがこれに限定されない。
【0051】
また、選択された様々な細胞22を備える細胞シート層20は、よりすぐれた細胞性能を持つ組織工学装置10を加工するために互いの上に重層されてもよい。多層細胞シートはいくつかの方法で作られてもよい。例えば、第一の細胞タイプの第一の細胞シート層を非接着性の表面に置き、次に第二の細胞タイプの第二の細胞シート層を第一の細胞シート層上に置き、第一の細胞シート層に接着させる。薄層を重ねて作られる細胞シート層の細胞の種類は、同一もしくは異なってもよい。例えば、単層の細胞シートもしくは多層シートは、足場のつやのある面に置かれた膀胱由来の尿路上皮細胞と足場の外側の表面上に置かれた平滑筋細胞のシートで作られてもよい。更に、ケラチン生成細胞は同様の操作で調整された線維芽細胞シートおよび/または血管内皮細胞シートを重ねて置かれてもよい。前記の技術は、インビボの皮膚組織にさらに近い製品を実現させるにあたって非常に効果的である。例えばシートに内皮細胞を散布することは、血管網(脈管の血管(vasovasorum))の成長を助ける。
【0052】
積層される細胞シート層の数は限定されない。概ね積層される細胞シート層の数は1から10であり、望ましくは1から5であり、さらに望ましくは1から3である。
【0053】
足場30は、例えば修復、置換、増補される体内の特定の構造のような、有用な形に成形されてもよい。
【0054】
本発明で使用を意図された組織工学装置10は、本発明の細胞シート層20に加えて、任意の増殖因子、薬剤、もしくはその他の成分、例えば組織の治癒もしくは成長を促進するか、あるいは、血管新生もしくは神経分布もしくはその免疫調節剤を刺激するか、あるいは、治療結果もしくは本発明の実践を強化もしくは向上させる生理活性剤と組み合せて植え込まれてもよい。
【0055】
一部の実施態様では、インビボで見いだされる細胞の微小環境を培養において再現し、インビボの植え込みもしくはインビトロの使用に先立って細胞が増殖する程度を変化させることは有用である。細胞シート層20は、例えばひも状、管状、短繊維状など、植え込みのために望まれる形状に成形される前後に足場30上に配置されてもよい。足場30上への細胞シート層20の配置後、足場30は望ましくは適切な培地中でインキュベートされる。インキュベーション期間中、細胞シート層20中の細胞22は増殖し、足場30を覆い隠し、例えば、足場30の任意の間隙空間を埋めるもしくは部分的に埋めてもよい。修復もしくは再生される組織のインビボの細胞密度を反映した適切な程度に細胞が増殖するのは望ましいが必要ではない。
【0056】
別の状況では、本発明の細胞シート層20は、細胞集団によって提供される細胞外マトリックス材料を提供するため、実質的に脱細胞化(decellularize)される。いくつかの場合には、組織工学装置の全体もしくは一部を脱細胞化するか、もしくは変性させることが有利な可能性がある。脱細胞化されたシートは、低下した免疫原性レベルを有していてもよく、また、より良いマトリックスを提供することもできる。また組織工学装置10の脱細胞化もしくは変性は、装置の機械的特性を強化することもできる。細胞シート層20は様々な技術を用いて脱細胞化、変性もしくは化学的に修飾されてもよい。最も単純な実施態様では、組織工学装置10は細胞を殺すために風乾されるか、もしくは凍結乾燥されてもよい。熱ショック、音響処理、pH変化、浸透圧ショック、機械的破砕、もしくは毒素の添加も、細胞死もしくはアポトーシスを誘導することができる。同様に、組織工学装置10は、例えばパラホルムアルデヒドなどの薬剤を用いて、架橋もしくは固定されてもよい。組織の脱細胞化もしくは変性のためのその他の処理が、照射、界面活性剤(SDSまたはtriton x100)、酵素(RNAase、DNAase)、もしくは溶媒(アルコール、アセトン、もしくはクロロホルム)を用いて可能である。非生理的なイオン強度の低張液および/または高張液での処理は、脱細胞化過程を促進することができる。これらの様々な脱細胞化溶液は、全般的に処理溶液として適切である。プロテアーゼも組織の脱細胞化に効果的に利用されてもよい。前述の手法は、組織全てもしくは一部の脱細胞化、変性もしくは化学的な修飾の手法の実施例の一部にすぎず、本発明の範囲の限定を意図しない。
【0057】
脱細胞化は、複数の段階のうちのいくつか、もしくは全てが異なる処理を伴うような複数の段階によって段階的に実施されてもよい。例えば、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、およびホスホリパーゼの強力な混合液を組織の脱細胞化のために高濃度で用いることもありえる。脱細胞化された細胞外マトリックスは、次に別の組織シートもしくは別の脱細胞化シートに利用されてもよい。例えば、脱細胞化層の上に生きた層を広げることもできる。
【0058】
本発明の新規の優れた方法を用いて作成される組織工学装置10は、組織工学の新しい分野に不可欠な部分となり得る。組織工学装置10は、脊髄、神経、骨、軟骨、靱帯、腱、心臓弁、食道、子宮頸部、膀胱、肺組織、腎臓、皮膚、筋膜、および皮膚、血管、心筋パッチ、血管パッチ、心臓弁およびさらに複雑な臓器を作るその他の組織を含むがそれに限定されない体内のその他の標的組織と臓器のための生体工学の組織代替物に用いられてもよい。組織工学装置10は、それ自体が機能することもでき、もしくは別のシステムの構成要素ともなり得る。例えば細胞タイプに基づいて、特定の臓器機能をシミュレートする体外装置の要素を提供し得る。例えば、体外腎臓ろ過ユニットである。この組織工学装置は、機能的に有益なタンパク質の貯蔵庫、つまりEPOとして機能し得る。
【0059】
本発明の組織工学装置10は、例えばトレハロース、グリセロール、ソルビトールといった当業者に知られた賦形剤を用いることによって、凍結保存もしくはフリーズドライして供給されることも可能である。
【0060】
本発明の組織工学装置10は、細胞シートだけで作られ得る機械的に健全な生きた組織と臓器の作成を初めて可能にする。さらに、シートに基づく組織工学は、全ての拒絶合併症を回避して、製品もしくは患者自身の細胞から作られた組織と臓器への扉を開く。
【0061】
三次元組織構造は、例えばインビトロでの薬剤の浸透性試験にも利用することもでき、また、動物実験の代替モデルとして、あるいは移植のための臓器としても利用することができる。
【0062】
〔実施例1〕
細胞は細胞シートの調製に供され、組織工学装置作成への最初の段階として分解性の不織布の足場と組み合わされた。筋骨格への応用のための骨芽細胞/軟骨細胞ならびに尿生殖器への応用のための尿路上皮/膀胱平滑筋細胞がテストされた。細胞は足場への沈着の前に培養された。
【0063】
ブタの尿路上皮細胞は、ラーマンら(Rahman, Z et al.,)による「正常ヒト膀胱からの尿路上皮細胞の単離および初代培養」("Isolation and primary culture urothelial cells from normal human bladder,")Urol. res. 15 (1987) (6), pp.315-320で述べられているように単離された。細胞は、ケラチン生成細胞無血清培地(Keratinocyte Serum Free Medium)(カリフォルニア州カールズバッド所在のインビストロゲン社(Invitrogen, Carlsbad, CA))で組織培養用のプラスチックフラスコ中で培養された。培養は、5% CO2で37℃でインキュベートされた。実験に用いられた細胞は継代数1と2の間だった。
【0064】
ヒト膀胱平滑筋細胞は、Cambrex(CC−2533;メリーランド州ウォーカーズビル所在のカンブレックス(Cambrex, Walkersville, MD))から購入された。細胞は筋細胞増殖培地、SmGM−2(CC−3182;メリーランド州ウォーカーズビル所在のカンブレックス(Cambrex, Walkersville, MD))で組織培養用のプラスチックフラスコ中で培養された。培養は、5% CO2で37℃でインキュベートされた。実験に用いられた細胞は継代数3と5の間だった。
【0065】
ヒト骨芽細胞は、Cambrex(CC−2533;メリーランド州ウォーカーズビル所在のカンブレックス(Cambrex, Walkersville, MD))から購入された。細胞は平滑骨芽細胞増殖培地、OGM(CC−3207;メリーランド州ウォーカーズビル所在のカンブレックス(Cambrex, Walkersville, MD))で組織培養用のプラスチックフラスコ中で培養された。培養は、5% CO2で37℃でインキュベートされた。実験に用いられた細胞は継代数3と4の間だった。
【0066】
ウシ軟骨組織は、ウシ成獣の関節丘から採収された。初代ウシ軟骨細胞は、4℃でのO/Nコラゲナーゼ消化により軟骨組織から単離された。細胞は軟骨細胞増殖培地、CGM(CC−3216;メリーランド州ウォーカーズビル所在のカンブレックス(Cambrex, Walkersville, MD))で組織培養用のプラスチックフラスコ中で培養された。培養は、5% CO2で37℃でインキュベートされた。実験に用いられた細胞は継代数3と4の間だった。
【0067】
また上述の細胞タイプは、熱応答性シャーレ上でシートとして培養された。細胞は、セルシード社(CellSeed,Inc.)(日本国東京)から供給された35ミリメーターのp(NIPAAM)被覆シャーレ上に播種された。セルシード社(CellSeed,Inc.)はAからGまで細胞接着もしくは剥離の度合いが様々な数種類のシャーレを製造している。シャーレは、良好な細胞接着から良好な細胞剥離、強力な細胞剥離までの範囲に及ぶ。細胞は、下記の表1に示されたような培養密度まで増殖された。
【表1】

【0068】
足場材料は55g/cm3で厚さ2mmのPGA不織メッシュからなり、全ての処理群で同一だった。繊維サイズは12〜15μmである。足場は、50/50mol%のPLGA(ミズーリ州セントルイス所在のシグマ社(Sigma, St. Louis, MO),Mw 40,000〜75,000)の5%溶液で、PLGAを硬化させる塩化メチレン(ミズーリ州セントルイス所在のシグマアルドリッチ社(Sigma Aldrich, St. Louis, MO))中で被覆された。足場は、直径35mmの円の形状に切り取られ、エチレンオキサイド滅菌を用いて滅菌された。次に、細胞シートは足場と共に共培養された。単層細胞シートの場合は、第一の細胞タイプの細胞シートは、熱応答性シャーレで培養する間、500μLのフィブリノーゲン(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に80mg/mL、ミズーリ州セントルイス所在のシグマ社(Sigma, St. Louis, MO))を添加することにより埋め込まれ、400μLのウシ、スロンビン溶液(ウィスコンシン州ミドルトン所在のジョーンズファーマ社(Jones Pharma, Inc., Middleton, WI))でゼラチン化された。埋め込まれた細胞シートは、次に100mmの組織培養ポリスチレンシャーレ中の足場の上に重層された。30mLの増殖培地がシャーレに添加され、シャーレは培養器中に2日間置かれた。下記の表2に示されたような所定の細胞タイプに対して適切な培地が用いられた。培地は毎日2回交換された。インキュベーション後、装置は反転され、第二の細胞タイプで足場の反対側に対して処理が繰り返された。30mLの増殖培地がシャーレに添加され、シャーレは培養器中に4日間置かれた。従って、足場装置のためのインキュベーション時間の合計は、6日だった。
【表2】

【0069】
多層細胞シートの場合、最初の細胞シートは単一シート用に上述されたように、埋め込まれ、ゼラチン化された。細胞シートは熱応答性シャーレ中の第二の細胞シート上に移され、二つのシートはシャーレの外に持ち上げられ、別のシート上に移動された。細胞シートは、望む数のシートが得られるまで前述の方法で重層された。望みの数のシートが得られた時点で、多層シートは、約45分間インキュベートされ、次に100mmの組織培養ポリスチレンシャーレ中の足場の上に移動され、500μLのフィブリノーゲン(PBS中に80mg/mL)に埋め込まれ、400μLのスロンビン溶液でゼラチン化された。30mLの増殖培地がシャーレに添加され、シャーレは培養器中に2日間置かれた。下記の表2に示されたような所定の細胞タイプに対して適切な培地が用いられた。培地は毎日2回交換された。インキュベーション後、装置は反転され、第二の細胞タイプで足場の反対側に対して処理が繰り返された。30mLの増殖培地がシャーレに添加され、シャーレは培養器中に4日間置かれた。足場装置のためのインキュベーション時間の合計は、6日だった。
【0070】
細胞懸濁液は、細胞数が表3中に示されたような相当する細胞シートに一致するように足場上に播種された。細胞は1mLの培地中に再懸濁された。1mLの細胞懸濁液は、足場の中央に置かれ、細胞を足場に接着させるために45分間インキュベートされた。表2に示されたような所定の細胞タイプに対して適切な培地が用いられた。培地は毎日2回交換された。インキュベーション後、装置は反転され、第二の細胞タイプで足場の反対側に対して処理が繰り返された。次に、30mLの増殖培地がシャーレに添加され、シャーレは培養器中に4日間置かれた。足場装置のためのインキュベーション時間の合計は、6日だった。
【表3】

【0071】
次の細胞/足場装置は、上述の方法を用いて作成された。
1. 尿路上皮細胞シート1層+足場+ウシ平滑筋(BSM)細胞シート1層
2. 尿路上皮細胞懸濁液と同等の細胞シート1層+足場+BSM細胞懸濁液と同等の細胞シート1層
3. 骨芽細胞シート2層+足場+軟骨細胞シート2層
4. 骨芽細胞懸濁液と同等の細胞シート2層+足場+軟骨細胞懸濁液と同等の細胞シート2層
5. 尿路上皮細胞シート3層+足場+ウシ平滑筋(BSM)細胞シート3層
6. 尿路上皮細胞懸濁液と同等の細胞シート3層+足場+BSM細胞懸濁液と同等の細胞シート3層
7. 足場単独
【0072】
最後の細胞沈着の3日後、装置はメスを用いて約0.5cm2の断片に切り取られた。断片はフィブリノーゲン30μL(PBS中に80mg/mL)を加えることによりフィブリン接着剤に埋め込まれ、5μLのウシ、スロンビン溶液(ウィスコンシン州ミドルトン所在のジョーンズファーマ社(Jones Pharma, Inc., Middleton, WI))でゼラチン化された。埋め込まれたゼラチン化された装置は、培地中で37℃で一晩保存された。装置の断片は培地から取り除かれ、PBSで洗浄され、LIVE/DEAD細胞生存率染色と組織学的解析で特徴づけられた。
【0073】
LIVE/DEAD細胞生存率染色は、全ての操作後に足場に残っている細胞を視覚化すると同時に、足場中の細胞の生存状況の調査を可能にする。細胞はPBS中に1μmolのCalcein AM(オレゴン州ユージーン所在のモレキュラープローブ社(Molecular Probes, Eugene, OR))(生細胞染色)、およびPBS中に1μmolのEthidium(オレゴン州ユージーン所在のモレキュラープローブ社(Molecular Probes, Eugene, OR))(死細胞染色)に室温で1時間、同時に曝露された。染色後、Olympusの倒立型落射蛍光顕微鏡(ニューヨーク州メルビル所在のオリンパス(Olympus, Melville, NY))で適切な蛍光フィルターを用いて蛍光が視覚化された。典型的な像がデジタルカラービデオカメラとImageProソフトウェア(カリフォルニア州カールズバッド所在のメディアサイバネティクス社(Media Cybernetics, Carlsbad, CA))を用いて記録された。染色された細胞の大部分は生細胞で、少数の細胞のみが死細胞だった。更に、生細胞は、足場全体に渡って分散されており、二つの播種方法の間に明らかな異差は無かった。
【0074】
組織学解析用の試料は10%ホルマリンで固定され、パラフィン包埋、薄切、ヘマトキシリン/エオシン(H/E)染色とサフラニンO(SO)染色を行うためにパラゴン・バイオサービス社(Paragone Bioserveices)(メリーランド州ボルチモア所在(Baltimore, MD))に送られた。H/E染色でも播種方法に関わらず細胞が足場全体に存在することが確認された。更に、細胞シート1層を播種した足場と細胞シート3層(尿路上皮細胞/BSM細胞)で播種した足場の間に、細胞分散に明らかな違いはなかった。サフラニンO染色は同様の結果を示した。サフラニンO陽性の領域は、検査された足場のいずれにも検出されなかった。このことは、播種の方法に関わらず、細胞/足場装置のインビボ培養は検出可能なプロテオグリカン濃度の生成には不十分であることを示唆する。
【0075】
細胞は組織工学装置作成のための最初の段階として細胞シート調整に供され、不織布の生分解性足場と組み合わされた。再生医療が見込まれる筋骨格系として骨芽細胞/軟骨細胞、および尿生殖器への応用のための尿路上皮細胞/膀胱平滑筋細胞の二つの細胞系がテストされた。細胞懸濁液による従来の足場への播種方法に対して、細胞シートを用いた足場上への細胞の播種が比較された。生分解性で生体適合性の足場の細胞シートを用いた播種は、細胞懸濁液による播種と同等の細胞の生存率と分配をもたらす。従って、細胞シートを用いた足場への播種方法は一段階での適用とより制御された装置の取り扱いができる利点があり、従来の細胞懸濁液播種の方法に対する優れた代替方法である。
〔実施例2〕
【0076】
実施例1で調製された組織工学装置を用いて、SCIDマウスの皮下モデルにおいてインビボでの植え込みの試験的研究が行われた。Fox Chase SCID CB17SC/オスのマウス20匹がタコニック社(Taconic Inc.)(ニュージャージー州ジャーマンタウン所在(Germantown, NJ))から注文された。動物の平均齢は、研究時点で5週齢だった。動物は明らかな組織的バイアスなしに選択された。研究の期間は4週間だった。
【0077】
装置は、マウスの背にそれぞれ約5mmの長さの2箇所の皮膚切開部を作り皮下に植え込まれた。切開部は、腰部領域にわたって横方向に、触診された腸骨稜まで約5mm頭側に、正中線の両側に1箇所ずつ設けられた。同じ処理を施した装置が2箇所に置かれた。皮膚は、小さなポケットを作るために下層の結合組織から分離され、インプラントは切開部まで約10mm頭側に置かれた。皮膚の切開部はReflex 7金属創傷クリップ(メリーランド州ゲーサーズバーグ所在のセルポイント・サイエンティフィック社(CellPoint Scientific, Inc., Gaithersburg, MD))で縫合された。
【0078】
全マウスが手術と研究の期間を生き延びた。マウスは植え込み後4週間目にCO2吸引により安楽死させられた。植え込まれた部位の巨視的観察が記録された。覆っている皮膚と共に皮下植え込み部位が切除された。骨芽細胞/軟骨細胞が播種された足場以外は、覆っている皮膚と共に皮下植え込み部位が二分された。組織の半分は、パラフィン包埋と組織学的染色(H&E)のために、緩衝された10%ホルマリン固定液中に保存された。別の半分は、免疫組織学染色(総サイトケラチン、ケラチン7、抗α平滑筋アクチン)のために冷凍された。試料は細胞表現型の保持、足場への細胞浸潤および脈管化について組織学的に評価される。骨芽細胞/軟骨細胞が播種された足場は、パラフィン包埋と組織学的染色(H&EとサフラニンO)のために、緩衝された10%ホルマリン固定液中のみで保存された。
【0079】
巨視的観察では、以下の点が注目された。植え込み後4週間での犠牲については、インプラントは硬く触れ、これは組織の内殖を示している。インプラントはその形状を維持し、一部の症例では部分的に吸収された。インプラントはまた、ピンク色がかった色になり、脈管化を示した。
【0080】
本発明はその詳細の実施態様に関して示されまた述べられたが、その形の様々な変化と詳細が請求の範囲に記載されている発明の精神と範囲から逸脱せずに行われるだろうことが当業者には理解されるだろう。
【0081】
〔実施の態様〕
(1)組織の修復もしくは再生に用いられる組織工学装置において、
支持足場層と細胞シート層とを備える、組織工学装置。
(2)実施態様1に記載の組織工学装置において、
前記細胞シート層は、軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、血管芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、尿路上皮細胞、平滑筋細胞、ケラチン生成細胞、β細胞、内皮細胞、線維細胞、血管内皮細胞、肝細胞、小腸上皮細胞、表皮角化細胞、骨髄充織細胞、心筋細胞、椎間板細胞、口腔粘膜上皮、胃腸粘膜上皮、尿管上皮、骨格関節滑膜、骨膜、軟骨膜、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、心膜、硬膜、髄膜、ケラチン生成細胞前駆細胞、周皮細胞、グリア細胞、神経細胞、羊膜、胎盤膜、漿膜細胞、未分化幹細胞、未分化前駆細胞、前分化幹細胞、前分化前駆細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、樹状細胞、および遺伝子組み換え細胞からなる群から選択された細胞を備える、組織工学装置。
(3)実施態様1に記載の組織工学装置において、
前記細胞シート層が幹細胞を備える、組織工学装置。
【0082】
(4)実施態様3に記載の組織工学装置において、
前記幹細胞は、造血細胞、間葉細胞、産後細胞、膵臓細胞、肝細胞、網膜上皮細胞、嗅球細胞、内皮細胞、筋細胞、脂肪由来細胞、腸骨稜細胞、骨髄細胞、歯周靱帯細胞、卵形細胞および真皮細胞、ならびに臓器特異的幹細胞および前駆細胞からなる群から選択された、組織工学装置。
(5)実施態様1に記載の組織工学装置において、
前記細胞シート層は、細胞外マトリックスタンパク質をさらに備える、組織工学装置。
(6)実施態様5に記載の組織工学装置において、
前記細胞外マトリックスタンパク質は、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、インテグリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、キトサン、セルロース、酸化再生セルロース、エラスチン、およびフィブリンからなる群から選択される、組織工学装置。
(7)実施態様1に記載の組織工学装置において、
前記細胞シート層は、増殖因子をさらに備える、組織工学装置。
【0083】
(8)実施態様7に記載の組織工学装置において、
前記増殖因子は、血管内皮細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、表皮増殖因子、線維芽増殖因子、肝細胞増殖因子、インスリン様成長因子、脳由来神経栄養因子、増殖分化因子−5、赤血球生成促進因子(EPO)、および形質転換増殖因子からなる群から選択される、組織工学装置。
(9)実施態様1に記載の組織工学装置において、
前記細胞シート層は、補強材をさらに備える、組織工学装置。
(10)実施態様9に記載の組織工学装置において、
前記補強材が、織布、編み物、編みひも、フィルム、有孔フィルム、メッシュ、および不織布からなる群から選択される、組織工学装置。
(11)実施態様9に記載の組織工学装置において、
前記補強材が、ポリ(グリコール酸)/ポリ(乳酸)(poly(glycolic acid)/poly(lactic acid))共重合体繊維を備える不織布メッシュである、組織工学装置。
【0084】
(12)実施態様1に記載の組織工学装置において、
前記支持足場層は、ラクチド、グリコリド、イプシロン−カプロラクトン(epsilon-caprolactone)、1,4−ジオキサン−2−オン(1,4-dioxan-2-one)、1,3−ジオキサン−2−オン(1,3-dioxan-2-one)、および炭酸トリメチレン(trimethylene carbonate)のアルキル誘導体からなる群から選択されたモノマーを備える、生分解性のホモポリマー、共重合体もしくはポリマーブレンドを備える、組織工学装置。
(13)実施態様1に記載の組織工学装置において、
前記支持足場層は、フィブリンに基づく材料、コラーゲンに基づく材料、ヒアルロン酸に基づく材料、糖タンパク質に基づく材料、セルロースに基づく材料、および絹からなる群から選択されたポリマーを備える、組織工学装置。
(14)実施態様1に記載の組織工学装置において、
前記支持足場層は、織布、編み物、編みひも、不織布、整経された編み物、メッシュ、多孔質発泡体、半多孔質発泡体、および有孔シートからなる群から選択された、組織工学装置。
【0085】
(15)実施態様1に記載の組織工学装置において、
前記支持足場層は、ポリ(イプシロン-カプロラクトン)/ポリ(グリコール酸)(poly(epsilon-caprolactone)/poly(glycolic acid))共重合体を備える多孔質発泡体である、組織工学装置。
(16)実施態様1に記載の組織工学装置において、
前記支持足場層は、ポリグリコール酸を備える不織メッシュである、組織工学装置。
(17)実施態様16に記載の組織工学装置において、
前記支持足場層は、50/50molパーセントのポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(poly(lactic acid-co-glycolic acid))で被覆されている、組織工学装置。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明のある実施態様の模式図である。
【図2】図2は、本発明の組織工学装置の製造法の概要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織の修復もしくは再生に用いられる組織工学装置において、
支持足場層と細胞シート層とを備える、組織工学装置。
【請求項2】
請求項1に記載の組織工学装置において、
前記細胞シート層は、軟骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、血管芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、尿路上皮細胞、平滑筋細胞、ケラチン生成細胞、β細胞、内皮細胞、線維細胞、血管内皮細胞、肝細胞、小腸上皮細胞、表皮角化細胞、骨髄間充織細胞、心筋細胞、椎間板細胞、口腔粘膜上皮、胃腸粘膜上皮、尿管上皮、骨格関節滑膜、骨膜、軟骨膜、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、心膜、硬膜、髄膜、ケラチン生成細胞前駆細胞、周皮細胞、グリア細胞、神経細胞、羊膜、胎盤膜、漿膜細胞、未分化幹細胞、未分化前駆細胞、前分化幹細胞、前分化前駆細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経細胞、樹状細胞、および遺伝子組み換え細胞からなる群から選択された細胞を備える、組織工学装置。
【請求項3】
請求項1に記載の組織工学装置において、
前記細胞シート層が幹細胞を備える、組織工学装置。
【請求項4】
請求項3に記載の組織工学装置において、
前記幹細胞は、造血細胞、間葉細胞、産後細胞、膵臓細胞、肝細胞、網膜上皮細胞、嗅球細胞、内皮細胞、筋細胞、脂肪由来細胞、腸骨稜細胞、骨髄細胞、歯周靱帯細胞、卵形細胞および真皮細胞、ならびに臓器特異的幹細胞および前駆細胞からなる群から選択された、組織工学装置。
【請求項5】
請求項1に記載の組織工学装置において、
前記細胞シート層は、細胞外マトリックスタンパク質をさらに備える、組織工学装置。
【請求項6】
請求項1に記載の組織工学装置において、
前記細胞シート層は、増殖因子をさらに備える、組織工学装置。
【請求項7】
請求項6に記載の組織工学装置において、
前記増殖因子は、血管内皮細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、表皮増殖因子、線維芽増殖因子、肝細胞増殖因子、インスリン様成長因子、脳由来神経栄養因子、増殖分化因子−5、赤血球生成促進因子(EPO)、および形質転換増殖因子からなる群から選択される、組織工学装置。
【請求項8】
請求項1に記載の組織工学装置において、
前記細胞シート層は、補強材をさらに備える、組織工学装置。
【請求項9】
請求項1に記載の組織工学装置において、
前記支持足場層は、ラクチド、グリコリド、イプシロン−カプロラクトン、1,4−ジオキサン−2−オン、1,3−ジオキサン−2−オン、および炭酸トリメチレンのアルキル誘導体からなる群から選択されたモノマーを備える、生分解性のホモポリマー、共重合体もしくはポリマーブレンドを備える、組織工学装置。
【請求項10】
請求項1に記載の組織工学装置において、
前記支持足場層は、フィブリンに基づく材料、コラーゲンに基づく材料、ヒアルロン酸に基づく材料、糖タンパク質に基づく材料、セルロースに基づく材料、および絹からなる群から選択されたポリマーを備える、組織工学装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−523957(P2008−523957A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548345(P2007−548345)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2005/045732
【国際公開番号】WO2006/068972
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(591286579)エシコン・インコーポレイテッド (170)
【氏名又は名称原語表記】ETHICON, INCORPORATED
【Fターム(参考)】