説明

組織を操作するための増殖因子改変タンパク質マトリクス

【課題】組織修復、再生、および/またはリモデリング、ならびに/もしくは薬物送達における使用のための、薬学的に活性な分子を含むマトリクスの使用を課題とする。
【解決手段】上記課題は、タンパク質を、マトリクスの分解、酵素作用、および/または拡散により放出されるように組込むことで解決された。1つの方法は、共有結合または非共有結合方法のいずれかにより、ヘパリンをマトリクスに結合させ、ヘパリン−マトリクスを形成することである。次いで、ヘパリンは、このタンパク質マトリクスに対するヘパリン結合増殖因子に非共有結合する。あるいは、架橋領域(例えば、第XIIIa因子基質)およびネイティブのタンパク質配列を含む融合タンパク質が、構築され得る。マトリクスと生理活性因子との間の分解可能な連結の組込みは、特に、長期の薬物送達が所望される場合(例えば、神経再生の場合)に有用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、組織の修復または再生、および/あるいは薬学的に活性な分子の制御された放出における使用のための、親和性結合相互作用を使用した、薬学的に活性な分子(薬学的に活性な分子(特に増殖因子)の融合タンパク質を含む)を含むマトリクスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
組織の修復または再生のために、細胞は創傷床(wound bed)に移動し、増殖し、マトリクス成分を発現するかまたは細胞外マトリクスを形成し、そして最終的な組織の形状を形成しなければならない。複数の細胞集団が、しばしばこの形態形成応答(これは頻繁に脈管細胞および神経細胞を含む)において関与するに違いない。マトリクスは、非常に増強されることが実証され、そしていくつかの場合、これを生じるために必須であることが見出された。天然の細胞は、細胞内部増殖マトリクスの影響による再構築に供され、これは全てタンパク質分解(例えば、プラスミン(フィブリンを分解する)およびマトリクスメタロプロテイナーゼ(コラーゲン、エラスチンなどを分解する)による)に基づく。このような分解は、高度に局在化され、そして移動細胞と直接的に接触する際にのみ生じる。さらに、特定の細胞シグナル伝達タンパク質(例えば、増殖因子)の送達は、きつく調節されている。天然のモデルにおいて、マクロ孔質(macroporous)細胞内部増殖マトリクスは使用されず、むしろ、局所的に、および要求される場合は細胞がマトリクス中に移動したときに、細胞が分解し得る微孔質マトリクスが使用される。
【0003】
増殖因子についての制御された送達デバイスは、いくつかの形態の増殖因子を隔離するために固定化されたヘパリンの使用に基づいて以前に設計された。例えば、Edelmanらは、アルギネート中のヘパリン結合SEPHAROSETMビーズを使用した。このビーズは、塩基性線維芽細胞増殖因子(「bFGF」)のヘパリンとの結合および解離に基づいて、bFGFをゆっくり放出する貯蔵庫として役立つ。
【0004】
二ドメインペプチド(これは第XIIIa因子基質配列および生理活性ペプチド配列を含む)が、フィブリンゲルに架橋され得ること、およびこの生理活性ペプチドがインビトロでその細胞活性を保持していることが実証された(非特許文献1)。ペプチドは、そのペプチドが由来するタンパク質全体の生理活性を部分的に模倣し得るがこの生理活性は通常はタンパク質全体の生理活性よりも低く、ときどき、ほんの短いペプチドで特定のタンパク質を模倣することは不可能である。従って、タンパク質全体(例えば、増殖因子または他の薬学的に活性な分子)をマトリクス中に組み込み得ることが所望される。
【0005】
タンパク質および増殖因子についての送達系が存在し、公知であるが、組織の移動細胞への増殖因子の提示および放出の制御ならびに細胞接着部位の制御を介したマトリクス中への細胞移動および組織内部増殖を促進する、修復において使用するためのマトリクスについての必要性が残る。この必要性は、天然において起こるように、マトリクスとの親和性相互作用を介して増殖因子を局所的に提示し得、そしてその影響および活性を局所的に保持し得るような内部増殖のマトリクスについて特に大きい。
【0006】
従って、インタクトな増殖因子分子の活性を保持する増殖因子がその中に組み込まれた組織の修復、再生および再構築のための、天然の生分解性マトリクスを提供することが本発明の目的である。
【0007】
増殖因子の制御および/または維持された放出のための、天然の生分解性マトリクスを提供することが、本発明のさらなる目的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Schense,J.C.ら(1999)Bioconj.Chem.10:75〜81
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
組織の修復、再生および/もしくは再構築ならびに/または薬物送達において使用するために、タンパク質は、タンパク質または多糖ポリマーのマトリクスまたはゲル中に組み込まれる。このタンパク質は、このマトリクスの分解によって、酵素作用および/または拡散によって放出されるように組み込まれ得る。実施例によって実証されるように、1つの方法は、ヘパリンを共有結合的または非共有的結合方法のいずれかによってマトリクスに結合させてヘパリン−マトリクスを形成することである。次いで、このヘパリンは、ヘパリン結合増殖因子をタンパク質マトリクスに非共有結合させる。結合されるべきタンパク質がネイティブなヘパリン結合配列を含まない場合、ネイティブなタンパク質配列および合成ヘパリン結合ドメインを含む融合タンパク質が構築され得る。あるいは、架橋領域およびネイティブなタンパク質配列を含む融合タンパク質が構築され得、そしてこの融合タンパク質は架橋によって隔離されて、マトリクスを形成し得る。この融合タンパク質またはペプチドドメインは、加水分解部位または酵素的切断部位を含む分解可能な結合を含み得る。これは、マトリクス中の異なる位置で、その位置および/またはマトリクス中における細胞活性に依存して、送達速度を変更することを可能にする。このアプローチは、長期の薬物送達が所望される場合、例えば、神経再生の場合(再生の相関的要素として空間的に薬物放出速度を変更すること(例えば、生存組織境界の付近では速く、そして損傷域中ではさらによりゆっくりと)が所望される場合)、特に有用であり得る。さらなる利点としては、送達系中のより低い総薬物用量、および、最大細胞活性の時点で放出されるべき薬物のよりも高い割合を可能にする、放出の空間的な制御が挙げられる。実施例は、細胞内部増殖および組織再生を最適に誘導したマトリクス中へ隔離された増殖因子、ヘパリン結合ドメインおよびヘパリンまたはヘパリン結合ペプチドの、最適化される比またはレベルを実証する。
【0010】
本発明は、例えば以下を提供する。
(項目1) ペプチドドメインまたはタンパク質を含む操作したタンパク質または多糖ポリマーであって、該ドメインまたはタンパク質が、ヘパリン結合タンパク質もしくはその部分または放出のための生理活性因子を結合する、操作したタンパク質または多糖ポリマー。
(項目2) 細胞増殖または内部増殖または生理活性因子の放出に適したマトリクスの形成のための共有結合またはイオン結合を含む、項目1に記載のポリマー。
(項目3) 酵素的にまたは加水分解により切断される切断部位をさらに含む、項目1に記載のポリマー。
(項目4) マトリクスを形成するタンパク質または多糖ポリマーとヘパリンまたはヘパリンペプチドの間の部位の切断により放出される、ヘパリンまたはヘパリンペプチドを含む、項目2に記載のポリマー。
(項目5) 架橋酵素の基質である少なくとも一つの領域を含む、項目1に記載のポリマー。
(項目6) 第XIIIa因子の基質である領域を含む、項目5に記載のポリマー。
(項目7) 前記ヘパリン結合タンパク質が増殖因子である、項目1に記載のポリマー。
(項目8) 前記増殖因子が、トランスフォーミング増殖因子β、骨形成タンパク質、線維芽細胞増殖因子、血管上皮増殖因子、インターロイキン−8、ニューロトロフィン−6、ヘパリン結合上皮増殖因子、肝細胞増殖因子、結合組織増殖因子、ミッドカイン、ヘパリン結合増殖関連分子、およびそれらの混合物からなる群より選択される、項目7に記載のポリマー。
(項目9) ヘパリンペプチドキメラを含む項目1に記載のポリマーであって、
トランスグルタミナーゼ基質および
ヘパリンまたはヘパリン様ペプチド、を含み
ここで該トランスグルタミナーゼ基質およびヘパリンまたはヘパリン様ペプチドがお互いに直接結合される、ポリマー。
(項目10) 前記トランスグルタミナーゼ基質は、ヘパリンまたはヘパリン様ペプチドに共有結合される架橋可能なタンパク質である、項目9に記載のポリマー。
(項目11) 前記架橋可能なタンパク質が、フィブリンである、項目10に記載のポリマー。
(項目12) 融合タンパク質を含む、項目9に記載のポリマー。
(項目13) 前記トランスグルタミナーゼ基質が、第XIIIa因子により架橋される、項目9に記載のポリマー。
(項目14) 前記基質が、NQEQVSPを含む、項目13に記載のポリマー。
(項目15) トランスグルタミナーゼ基質とヘパリンまたはヘパリンペプチドの間に酵素切断部位を含む、項目9に記載のポリマー。
(項目16) 前記酵素切断部位が、プラスミンおよびマトリクスメタロプロテイナーゼの群から選択される酵素により切断される、項目4に記載のポリマー。
(項目17) 操作したタンパク質または多糖ポリマーのマトリクスであって、該タンパク質または多糖が、共有結合またはイオン結合されて細胞増殖または内部増殖または生理活性因子の放出に適したマトリクスを形成し、該ポリマーが、ヘパリン結合タンパク質またはその部分、マトリクスからの放出のための生理活性因子、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるペプチドドメインまたはタンパク質を含む、操作したタンパク質または多糖ポリマーマトリクス。
(項目18) 前記ポリマーが、酵素的にまたは加水分解により切断される切断部位を含む、項目17に記載のマトリクス。
(項目19) 前記切断部位が、エステルおよびアミドからなる群より選択される、項目18に記載のマトリクス。
(項目20) 前記マトリクスを形成するタンパク質または多糖ポリマーとヘパリンまたはヘパリンペプチドまたは生理活性因子の間の切断部位を含む項目18に記載のマトリクス。
(項目21) 前記生理活性因子が、増殖因子である、項目17に記載のマトリクス。
(項目22) 前記増殖因子が、トランスフォーミング増殖因子β、骨形成タンパク質、線維芽細胞増殖因子、血管上皮増殖因子、インターロイキン−8、ニューロトロフィン−6、ヘパリン結合上皮増殖因子、肝細胞増殖因子、結合組織増殖因子、ミッドカイン、ヘパリン結合増殖関連分子、およびそれらの混合物からなる群より選択される、項目21に記載のマトリクス。
(項目23) 前記マトリクス形成タンパク質ポリマーが、フィブリンを含む項目17に記載のマトリクス。
(項目24) ヘパリン結合ペプチドおよび骨形成因子を含む項目22に記載のマトリクスであって、BMPに対するペプチドの比が、ほぼ等モルであるマトリクス。
(項目25) 切断部位が切断される場合に放出されるヘパリンを含む、項目20に記載のマトリクス。
(項目26) 前記ヘパリン結合ドメインが、アンチトロンビンIII、血小板第4因子、およびアミノ酸配列NCAMを含むタンパク質からなる群より選択されるタンパク質由来である、項目17に記載のマトリクス。
(項目27) 前記タンパク質または多糖ポリマーが、融合タンパク質である、項目17に記載のマトリクス。
(項目28) 前記融合タンパク質が、一つのドメインとしてのトランスグルタミナーゼ基質またはヘパリンまたはヘパリン結合ペプチドおよび第二の生理活性ドメインを含む、項目27に記載のマトリクス。
(項目29) 前記生理活性ドメインが、増殖因子である、項目28に記載のマトリクス。
(項目30) 前記増殖因子が、NGFβ、BDNF、NT−3、VEGF121、EGF、およびPDGFからなる群より選択される、項目29に記載のマトリクス。
(項目31) 前記マトリクスを形成するポリマーが、プロテアーゼインヒビターを含む、項目17に記載のマトリクス。
(項目32) ペプチドドメインまたはタンパク質を含む操作したタンパク質または多糖ポリマーを架橋することを含むマトリクスを作製するための方法であって、該ドメインまたはタンパク質が、ヘパリン結合タンパク質もしくはその部分または放出のための生理活性因子を結合する、方法。
(項目33) ヘパリンまたはヘパリンペプチドの放出のための項目32に記載の方法であって、前記マトリクスを形成するタンパク質または多糖ポリマーとヘパリンまたはヘパリンペプチドの間の部位の切断により放出されるヘパリンまたはヘパリンペプチドを含むポリマーを架橋することを含む、方法。
(項目34) 前記マトリクスが、該マトリクスから放出される生理活性因子を含む、項目32に記載の方法。
(項目35) 前記マトリクスが、ある一つの部位で移植され、そして内部増殖および/または該マトリクス中での細胞の増殖を促進するように配置される、項目32に記載の方法。
(項目36) 前記マトリクスが、第XIII因子または第XIIIa因子に富む前駆体から、フィブリンマトリクス中に外因性物質を組み込む、項目32に記載の方法。
(項目37) ペプチドドメインまたはタンパク質を含む操作したタンパク質または多糖ポリマーを移植することを含む生理活性因子の制御された放出のための方法であって、該ドメインまたはタンパク質は、ヘパリン結合タンパク質もしくはその部分または放出のための生理活性因子を結合し、該ポリマーが、移植前または移植時に架橋される、方法。
(項目38) 前記マトリクスが、放出される生理活性因子に結合するヘパリンまたはヘパリンペプチドを含むポリマーを含む、項目37に記載の方法。
(項目39) 放出される生理活性因子を提供することをさらに含む項目38に記載の方法であって、該生理活性因子が、マトリクスの分解、ヘパリンもしくはヘパリンペプチドを放出するためのポリマーの切断、またはヘパリンもしくはヘパリン結合ペプチドが結合した生理活性因子の拡散により、放出される方法。
(項目40) 前記生理活性因子が、細胞の修復、再生または再構築を促進する、項目37に記載の方法。
(項目41) 前記生理活性因子が、細胞の修復または再生を阻害する、項目37に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、プラスミン分解されたペプチド含有フィブリンゲルおよび遊離ペプチドの蛍光検出クロマトグラムである。PI1〜7−ATIII121〜134ペプチドが取り込まれた分解したフィブリンゲル(−)、取り込まれたペプチドを含む分解したフィブリンゲルに遊離状態で添加された同じペプチドを有する分解したフィブリンゲル(…)、および遊離ペプチド単独(−−)のサイズ排除クロマトグラフィーを示す。N末端ロイシン残基は、ダンシル化した(dLと省略される)。遊離ペプチドは、より低い分子量に対応して、凝固の間にフィブリン中に取り込まれたペプチドが溶出する時間よりも長い時間で溶出された。これは、分解したフィブリンへの共有結合、従って第XIIIa因子活性の作用を介する共有結合的な取り込みを実証する。
【図2】図2は、48時間でのDRG神経突起の伸長に対するマトリクス結合bFGFの効果のグラフである。平均値および平均の標準偏差が示される。(は、改変されていないフィブリンと比較してp<0.05であることを示す)。
【図3】図3は、フィブリンマトリクス中のDRG神経突起の伸長に対する固定化された−NGF融合タンパク質の効果のグラフである。平均値および平均の標準誤差が示される。 は、ネイティブなNGFを示す。 は、TG−P−NGFを示す。 は、TG−P−NGFを示す。は、培養培地中のNGFを有する改変されていないフィブリンに対してp<0.0001であることを示す。この結果は、マトリクスに結合した−NGFが、フィブリンマトリクスを介して、培地中の同じ濃度のNGFと比較して、神経突起の伸長を増強することを実証する。
【図4】図4は、ビオチン標識−NGFを使用して直接的ELISAで定量した、外因性第XIIIa因子基質を使用した−NGF融合タンパク質のフィブリンマトリクス中への取り込みの量のグラフである。−NGF融合タンパク質の取り込み効率は、試験された濃度の範囲にわたって比較的一定であった。
【図5】図5は、dLNQEQVSPLRGD(配列番号1)の、外因性第XIII因子が添加されたフィブリンゲル中への取り込みのグラフである。1U/mLを添加した場合、取り込みのレベルは、25molのペプチド/molのフィブリノーゲンよりも多くが達成され得るように増加した。
【図6】図6は、二ドメインペプチド(dLNQEQVSPLRGD(配列番号1))の、希釈していないフィブリン接着剤(glue)中への取り込みのグラフである。3つの別々のキットを試験し、そしてそれぞれの場合において高レベルの取り込みが観察され得、これは25molペプチド/molフィブリノーゲンに達した。最大取り込みのために必要とされる外因性ペプチドの濃度は、少なくとも5mMであり、これは、作製される高度に濃いフィブリンマトリクス中への、拡散の限界におそらく起因する。取り込みのレベルは非常に一致しており、それぞれのキットは、同様の取り込みプロフィールを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
本明細書中に記載される場合、組織の修復、再生または再構築を、増殖因子が放出可能に取り込まれた天然のマトリクスを使用して増強するための方法が開発された。先行技術のマトリクスを越えるいくつかの利点が存在する:天然のマトリクスは生体適合性および生分解性であり、そして移植時に、インビトロまたはインビボで形成され得る;全長の増殖因子タンパク質が取り込まれ得、そして全部の生理活性を保持し得る;この増殖因子は、この増殖因子をどのように、およびいつ、およびどの程度放出するかについての制御を提供する技術を使用して放出可能に組み込まれ得、その結果このマトリクスは、直接的または間接的に組織修復のために、制御された放出ビヒクルとしてこのマトリクスを使用して、使用され得る。
【0013】
(I.マトリクスおよび増殖因子)
(A.マトリクス材料)
1つ以上のポリマー材料をマトリクス内での細胞内部増殖または細胞のマトリクス中への移動を可能にするのに十分なポリマー間間隙を有するポリマーマトリクスを形成する、イオン的、共有結合的、またはその組合わせによって架橋してマトリクスが形成される。
【0014】
好ましい実施形態において、このマトリクスはタンパク質で形成され、最も好ましくは、マトリクスが移植されるべき患者において天然に存在するタンパク質で形成される。最も好ましいタンパク質はフィブリンであるが、他のタンパク質(例えば、コラーゲンおよびゼラチン)もまた使用され得る。多糖および糖タンパク質もまた使用され得る。いくつかの実施形態において、イオン結合または共有結合によって架橋され得る合成ポリマーを使用することもまた可能である。
【0015】
このマトリクス材料は、好ましくは、天然に存在する酵素によって生分解可能である。分解の速度は、架橋の程度およびマトリクス中にプロテアーゼインヒビターを含むことによって操作され得る。
【0016】
(B.分解可能な結合)
マトリクスを形成するタンパク質は、分解可能な結合を含むことを介して改変され得る。代表的に、これらは酵素切断部位(例えば、トロンビンによる切断のための部位)である。さらに、融合タンパク質またはペプチドキメラ(これはフィブリンゲルに架橋される)は、接着部位(すなわち、第XIIIa因子基質またはヘパリン結合ドメイン)と生理活性タンパク質(すなわち、増殖因子または酵素)との間に切断可能な部位を含むようにさらに改変され得る。これらの部位は、非特異的な加水分解(すなわち、エステル結合)によって切断され得るか、または特異的な酵素的分解(タンパク質分解性分解または多糖分解のいずれか)のための基質であり得るかのいずれかである。これらの分解可能な部位は、フィブリンゲルから生理活性因子のより特異的な放出の操作を可能にする。例えば、酵素活性に基づく分解は、ゲルを介したこの因子の拡散によるよりもむしろ、細胞プロセスによって制御されるべき生理活性因子の放出を可能にする。
【0017】
この分解部位は、一次タンパク質配列に対してわずかな改変を伴うかまたは改変を伴わずに生理活性因子の放出を可能にし、これはこの因子のより高い活性を生じ得る。さらに、この分解部位は、は、因子の放出がいくつかの多孔性材料から拡散されるよりもむしろ、細胞特異的なプロセス(例えば、局在化したタンパク質分解)によって制御されることを可能にする。これは、材料中の細胞の位置に依存して因子が同じ材料中で異なる速度で放出されることを可能にする。細胞特異的タンパク質分解活性は、長期間にわたって生じる神経の再生などの適用にきわめて重要である。これはまた、必要な総増殖因子の量を減少させる。なぜなら、この増殖因子の放出は、細胞プロセスによって制御されるからである。増殖因子の保存およびその生理活性は、初期バースト放出における生理活性因子の有意な量の欠失を特徴的に生じる拡散制御放出デバイスの使用に対する、細胞特異的タンパク質分解活性の開発の明らかな利点である。
【0018】
タンパク質分解性分解のために使用され得る酵素は、多数である。タンパク質分解的分解部位は、コラゲナーゼ、プラスチン、エラスターゼ、ストロメライシン、またはプラスミノーゲンアクチベーターのための基質を含み得る。例示的な基質を、以下に列挙する。P1〜P5は、タンパク質分解が生じる部位から、このタンパク質のアミノ末端に向かってアミノ酸の1〜5位を示す。P1’〜P4’は、タンパク質分解が生じる部位から、このタンパク質のカルボキシ末端に向かってアミノ酸の1〜4位を示す。
【0019】
(表1:プロテアーゼのサンプル基質配列)
【0020】
【表1】

(多糖基質)
酵素分解は、酵素(例えば、ヘパリナーゼ、ヘパリチナーゼ、およびコンドロイチン分解酵素ABC)についての多糖基質を伴って生じ得る。これらのそれぞれの酵素は、多糖基質を有する。全てのヘパリン結合系におけるヘパリンの存在によって、ヘパリナーゼについての基質は、すでにこれらの系の中に構築されている。
【0021】
(タンパク質分解基質)
タンパク質分解基質は、ペプチドキメラまたはヘパリンペプチドキメラのいずれかのペプチド合成の間に添加され得る。このヘパリン結合ペプチドキメラは、プロテアーゼ基質(例えば、上記のプラスミンについての基質のうちの1つ)を第XIIIa因子基質とヘパリン結合ドメインとの間に挿入することによってタンパク質分解性分解配列を含むように改変され得る。このヘパリン−ペプチドキメラは、プロテアーゼ基質(例えば、上記のプラスミンについての基質のうちの1つ)を第XIIIa因子基質とヘパリンドメインとの間に挿入することによってタンパク質分解性分解配列を含むように改変され得る。高いKおよび低いKcatを有する基質を使用して、プロテアーゼの活性部位を占有しながらも切断をゆっくりにし得る。プラスミンについての基質以外の切断基質を使用して、マトリクス分解と独立した生理活性因子の放出を可能にし得る。
【0022】
(オリゴエステル)
オリゴエステルドメインは、キメラの第XIIIa因子基質と、ヘパリン結合ドメインまたはヘパリンドメインのいずれかとの間に、ペプチド合成工程の間同様に挿入され得る。これは、乳酸のオリゴマーのようなオリゴエステルを使用して達成され得る。
【0023】
非酵素的分解基質は、酸または塩基触媒機構によって加水分解を受ける任意の結合で構成され得る。これらの基質は、オリゴエステル(例えば、乳酸のオリゴマーまたはグリコール酸のオリゴマー)を含み得る。これらの材料の分解速度は、オリゴマーの選択を介して制御され得る。
【0024】
(C.ヘパリン;ヘパリン結合ペプチド)
マトリクスは、ヘパリンおよび/またはヘパリン結合フラグメントを含むことを介して改変され得、これはヘパリンに結合するタンパク質に直接的または間接的に結合する。後者の場合、このペプチドはヘパリンに結合し得、次いでこれはヘパリン結合部位を含む因子に結合するために利用可能であるか、またはこのペプチドはそれ自体が特定のヘパリン結合増殖因子によって結合されるヘパリン部分を含み得る。これらは、以下においてより詳細に議論されるような標準的な技術を使用して、マトリクス材料に結合され得る。
【0025】
好ましい実施形態において、ヘパリンは、ペプチドキメラおよびヘパリンそれ自体からなる2部の系(two−part system)を使用して、フィブリンゲルに非共有結合的に結合される。このペプチドキメラは、2つのドメイン(第XIIIa因子基質および多糖結合ドメイン)からなる。一旦、このペプチドキメラがフィブリンゲル中に架橋すると、このペプチドキメラは非共有結合的相互作用によってヘパリン(または他の多糖)に結合する。
【0026】
多くのタンパク質が、ヘパリン結合親和性を有することが見出されている。これらのタンパク質およびそれらのヘパリン結合ドメインの配列のいくつかを、以下の表2に列挙する。これらはまた、ポリマーマトリクスによって送達され得る生理活性因子に関する節で議論される。
【0027】
【表2】

(D.生理活性因子)
発育中の生物および成体の両方において形態発生に関与する多くの増殖因子は、細胞外マトリクス分子に結合する。この親和性は、形態形成物質の作用の局所モードを提供し、制御できない遠位の影響を妨げる。この影響の局所化に関与するこの主なマトリクス親和性相互作用は、へパリンとヘパリン−表面プロテオグリカンについてである。ヘパリンに結合する増殖因子としては、なかでも、トランスフォーミング増殖因子(「TGF」)−βスーパーファミリー(骨形成タンパク質、「BMP」を含む)、線維芽細胞増殖因子(「FGF」)ファミリー、および血管上皮増殖因子(「VEGF」)が挙げられる。一般的に、ヘパリンを結合すると考えられる増殖因子は、生理的レベルより高いNaCl濃度(140mM以上)でヘパリン親和性カラムから溶出する。さらなる「ヘパリン結合」増殖因子としては、インターロイキン−8、ニューロトロフィン−6、ヘパリン結合上皮増殖因子、肝細胞増殖因子、結合組織増殖因子、ミッドカイン、およびヘパリン結合増殖関連分子が挙げられる。これらの増殖因子は、組織修復を調節することが示されている。
【0028】
ヘパリン結合ドメインは、増殖因子の多くの異なるファミリーに天然に存在する。ヘパリンを結合する1つ以上のメンバーを有するこれらのファミリーの1つは、線維芽細胞増殖因子である(Presta,M.ら、(1992)Biochemical and Biophysical Research Communications.185:1098〜1107)。ヘパリンを結合するさらなる増殖因子としては、トランスフォーミング増殖因子、骨形成因子、インターロイキン−8、ニューロトロフィン−6、血管内皮細胞増殖因子、ヘパリン結合上皮増殖因子、肝細胞増殖因子、結合組織増殖因子、ミッドカイン、およびヘパリン結合増殖関連分子が挙げられる(Goetz,R.ら、(1994).Nature.372:266−269;Kaneda,N.ら、(1996)J.Biochem.119:1150〜1156;Kiguchi,K.ら、(1998)Mol.Carcinogensis.22:73〜83;Kinosaki,M.ら、(1998)Biochim.Biophys.Acta.1384:93〜102;McCaffrey,T.ら、(1992)J.Cell.Physiol.152:430〜440;Nolo,R.ら、(1996)Eur.J.Neurosci.8:1658〜1665;Spillmann,D.,ら、(1998).Journal of Biological Chemistry.273:15487−15493;Steffen,C.ら、(1998)Growth Factors. 15:199〜213.Tessler,S.ら、(1994)J.Biol.Chem.269:12456〜12461)。これらの因子は、血管系、皮膚、神経および肝臓を含む多くの異なる型の組織における治癒を促進する可能性を示している。従って、これらの物質は、使用されて、適切な増殖因子を選択することによって身体の多くの異なる部分において創傷治癒を促進し得る。
【0029】
(II.生理活性因子の取り込みおよび/または放出方法)
マトリクス中の増殖因子または他の生理活性タンパク質の取り込みに対する好ましい実施形態において、このマトリクスは、フィブリンおよび外因性分子から形成され、凝固の間にフィブリン中に取り込まれる基質を含む。外因性ペプチドは、2つのドメイン(そのうちの1つは、XIIIaなどの架橋酵素に対する基質であるドメイン)を含むように設計され得る。第XIIIa因子は、凝固の間は活性なトランスグルタミナーゼである。この酵素(通常トロンビンによる切断によって第XIII因子から形成される)は、グルタミン側鎖およびリジン側鎖の間に形成されるアミド結合を介してフィブリン鎖を互いに接着するように機能する。この酵素はまた、凝固の間に他のタンパク質をフィブリンに接着するように機能する(例えば、タンパク質α2プラスミンインヒビター)。このタンパク質のN末端ドメイン(特に、配列NQEQVSP(配列番号20))は、第XIIIa因子に対して有効な基質として機能するように示されている。次いで、このペプチドの第二のドメインは、生理活性因子(例えばペプチド、またはタンパク質、または多糖)であるように選択され得る(Sakiyama−Elbertら、(2000)J.Controlled Release 65:389−402および本明細書中)。このように、外因性生理活性因子は、凝固の間にフィブリン中に第XIIIa因子基質を介して組み込まれ得る。
【0030】
(A.タンパク質の放出におけるヘパリン親和性の使用)
治癒およびフィブリンへの再生において目的の多くの生理活性タンパク質を取り込む単純な方法は、本明細書に記載の方法の1つによってヘパリンをフィブリンゲルへ接着し、そしてヘパリンを使用してヘパリン結合タンパク質(例えば、ヘパリン結合増殖因子)を分離することである。これは、2つの方法のうち1つ(直接的にヘパリン結合ペプチドをフィブリンゲルへ架橋してヘパリンをこのペプチドに非共有結合的に結合する(ヘパリン結合ドメインおよび第XIIIa因子基質を含む二機能性ペプチドを使用する)ことによってか、またはヘパリン−ペプチドキメラを直接的にカップリングする(このヘパリンは第XIIIa因子基質を含むペプチドに化学的に接着される)ことによってのいずれか)で達成され得る。取り込みの方法によらず、取りこまれたヘパリンは、次いで、フィブリンゲルにおいてタンパク質(例えば、ヘパリン結合親和性を有する増殖因子)を、タンパク質が自然に細胞外マトリクスに分離される方法に類似の様式で分離し得る。ヘパリンはまた、タンパク質分解性分解からこれらの因子を保護し、そしてこれらの因子がマトリクスから放出されるまでその活性を延長し得る。
【0031】
(ヘパリン結合ペプチドの取り込みを介するヘパリンの取り込み)
共有結合的または非共有結合的なフィブリンゲルへのヘパリンの接着は、これらの材料に新規な機能を追加する。ヘパリンの接着は、フィブリンマトリクスがヘパリン結合タンパク質(増殖因子を含む)をタンパク質を傷つけない様式で結合することを可能にし、そしてゲルからのタンパク質の遊離拡散を防ぐ。このことは、2つの機能のうちの1つ(ゲルの分解またはタンパク質のいくつかの他の高親和性タンパク質(例えば、細胞表面レセプター)への結合のいずれか)によってヘパリン結合タンパク質の徐放を可能にする。
【0032】
ヘパリンは、ペプチドキメラおよびヘパリン自体からなる2部分系を使用して非共有結合的にフィブリンへ接着され得る。このペプチドキメラは、2つのドメイン(第XIIIa因子基質および多糖結合ドメイン)からなる。一旦、このペプチドキメラがフィブリンゲルに架橋されると、非共有結合相互作用によってヘパリン(または他の多糖)を接着する。
【0033】
自発的にヘパリンを結合しない増殖因子を分離するために、フィブリンに接着し得る機能性の付加を介してこのタンパク質を改変することが必要である。このことは、いくつかの方法で達成し得る。例として、これは、第XIIIa因子基質の付加を介してまたはヘパリン結合ドメインを得られた融合タンパク質に付加することによって達成され得る。
【0034】
合成された第XIIIa因子基質の付加は、ネイティブな増殖因子配列および融合タンパク質のアミノ末端またはカルボキシ末端のいずれかで第XIIIa因子基質を含む融合タンパク質を発現することによって達成され得る。この改変は、DNAレベルでなされる。タンパク質全体は、固相化学合成によって合成するという点で困難性を示す。増殖因子をコードするこのDNA配列は、細菌性発現のために最適なコドン使用を適合される。次いで、このDNA配列は、細菌性DNAに頻繁に生じるコドンを使用して所望の第XIIIa因子基質について決定される。
【0035】
一連の遺伝子フラグメントは、DNA合成の前に設計される。ほとんどのDNA合成のエラー頻度(約50bp毎のエラーを含む)に起因して、遺伝子は、約100bp長になるように構築される。これは、適切なDNA配列を含むコロニーを見出すためにスクリーニングされなければならないコロニーの数を減少する。1つの遺伝子が終了し、そして次に始まる位置は、この遺伝子中の天然に存在する独特の制限酵素切断部位に基づいて選択され、可変長のフラグメント(またはオリゴヌクレオチド)を生じる。このプロセスは、所定のDNA配列中の制限酵素部位の位置および頻度を同定するソフトウェアの使用によっておおいに援助される。
【0036】
一旦、遺伝子フラグメントが首尾良く設計されると、共通の制限酵素部位は、各フラグメントの末端に含まれて、各フラグメントのクローニングプラスミドへのライゲーションを可能にする。例えば、各遺伝子フラグメントへのEcoRI部位およびHindIII部位の付加により、pUC19のポリリンカークローニング領域への挿入が可能になる。次いで、各遺伝子フラグメントの3’1本鎖および5’1本鎖は、クローニングベクターへの挿入のために適切な粘着末端を用いる標準的な固相合成を使用して合成される。次いで、切断および脱塩に続いて、1本鎖フラグメントは、PAGEによって精製され、そしてアニーリングされる。リン酸化の後、アニーリングされたフラグメントは、クローニングベクター(例えば、pUC19)へライゲーションされる。
【0037】
ライゲーション後、このプラスミドを、DH5−F’コンピテントセルへ形質転換し、そしてイソプロピル−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)/5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−D−ガラクトピラノシド(X−gal)プレート上にプレートして、遺伝子フラグメントの挿入についてスクリーニングする。次いで、遺伝子フラグメントを含む得られたコロニーを、適切な長さの挿入についてスクリーニングする。これは、アルカリ溶解ミニプレッププロトコールによって形質転換された細胞のコロニーからプラスミドを精製すること、および遺伝子フラグメントのいずれかの末端に存在する制限酵素部位でこのプラスミドを消化することによって達成される。アガロースゲル電気泳動による適切な長さのフラグメントの決定の際に、このプラスミドを、配列決定する。
【0038】
適切な配列を有する遺伝子フラグメントを含むプラスミドを同定する場合、次いでこのフラグメントを切断し、そして使用して、全遺伝子を構築する。各時点で、1つのプラスミドを、挿入点で酵素を用いて切断し、そしてプラスミドの脱リン酸化後にアガロースゲルから精製する。その間に、挿入されるべきフラグメントを含む第2のプラスミドをまた、切断して、そして挿入されるべきフラグメントを、アガロースゲルから精製する。次いで、この挿入DNAを、脱リン酸化プラスミドへライゲーションする。このプロセスは、全遺伝子が構築されるまで続く。次いで、この遺伝子を、発現ベクター(例えば、pET14b)へ移動し、そして発現のための細菌へ形質転換する。この最終ライゲーション後、全遺伝子を、配列決定されて、正しいことを確認する。
【0039】
融合タンパク質の発現は、細菌がmid−log期増殖に達するまで細菌を増殖し、次いで、融合タンパク質の発現を誘導することで達成される。発現は、約3時間続き、次いで細胞を収穫する。細菌細胞ペレットを得た後、この細胞を、溶解する。この細胞膜および細胞屑を、Triton X100を用いて細胞溶解ペレットを洗浄することで除去し、封入体を相対的に純粋な形式にする。この融合タンパク質を、高い尿素濃縮物を使用して可溶化し、そしてヒスチジン親和性クロマトグラフィーによって精製する。次いで、生じたタンパク質を、尿素の量をゆっくりと減少するように透析することで徐々に復元し、そして凍結乾燥する。
【0040】
(ヘパリン−ペプチドキメラの取り込みを介するヘパリンの取り込み)
多糖片(ヘパリン−第XIIIa因子基質ペプチドキメラ)は、凝固の間にフィブリンに取り込まれて、固定化されたヘパリン部位を提供して、増殖因子を結合してその放出を遅くし得る。ヘパリン(または他の多糖(例えば、ヘパリン硫酸またはコンドロイチン硫酸))は、ヘパリン−ペプチドキメラを構築することで第XIIIa因子を使用して直接フィブリンに接着され得る。このキメラは、2つのドメイン(第XIIIa因子基質からなるペプチドドメインおよび多糖ドメイン(例えば、ヘパリン))を含む。これらのキメラは、改変されたヘパリン(または別の多糖)(例えば、ペプチドカップリングがヘパリン分子上で生じる部位を制御するように独特な反応基を1つの末端で含む)を使用して作製される。ペプチド上の独特な官能基(例えば、カップリングが所望されるペプチドの末端のみに存在する側鎖)の使用を介して、ペプチド上のカップリングの位置は、さらに制御され得る。ヘパリンの鎖(末端とは反対)に沿った第XIIIa因子基質ペプチドを取り込むこと、および1つのヘパリン鎖あたり1つより多いこのようなペプチドを取り込むことでさえ、可能でもあるが、好ましいアプローチは、単一の第XIIIa因子基質ペプチドをヘパリンの1つの末端で取り込むことである。次いで、これらのキメラは、第XIIIa因子の酵素的活性によって、凝固の間にフィブリンゲルに共有結合的に架橋され、ヘパリンのフィブリンゲルへの直接接着を可能にし得る。
【0041】
(タンパク質の放出速度を決定する際のヘパリンの濃度の役割)
増殖因子:ヘパリン−ペプチドキメラの最適比、または増殖因子:ヘパリン:ヘパリン結合ペプチドの最適比ならびにヘパリン−ペプチドキメラまたはフィブリンへ取り込まれたヘパリン結合ペプチドの最適密度の決定は、重要である。ヘパリンに対する相対的に強い親和性にもかかわらず、ヘパリン結合増殖因子は、短い時間の尺度でマトリクスから解離する。従って、過剰な結合部位は、増殖因子が再びマトリクスに結合する前に拡散しないことを確実にする。この平衡はまた、解離部位に近く隣接する細胞表面レセプターへの遊離増殖因子の結合を可能にする。徐放のこの方法は、増殖因子の比較的長期な結合および増殖因子の局所細胞への速やかな放出の両方を提供する。本明細書中で記載されるように、高い比(従って放出の低い速度)が、最も所望される生物学的応答を提供する場合は、いつもではない。特に、いくつかの増殖因子の場合、放出のより速やかな速度が所望される場合があり得る。
【0042】
どのような増殖因子に対する結合部位の比が、非常に緩やかな増殖因子放出によって決定される場合、細胞増殖用途に最適であるかを数学的に予測することが試みられている。マトリクスからの増殖因子の受動放出の速度は、ヘパリン結合性長因子に対するペプチドおよびヘパリンの比を介して調節され得、ヘパリン結合増殖因子と比較してより過剰なヘパリンおよびヘパリン結合ペプチドは、より緩やかな受動放出を導くことが示された。しかし、このような方法を使用して、最適の放出特性を予測することが常に可能なわけではない。例えば、この例は、BMP−2が有利により速やかに物質(等モルにより近いBMP−2に対するヘパリンおよびヘパリン結合ペプチドの比を有する)から放出され得ることを示す。いくつかの場合において、より良い結果は、より低いヘパリン対増殖因子比で得られる。
【0043】
活性形態においてヘパリン含有送達システムが増殖因子を送達する能力は、骨形成の異所性モデルにおいて試験され、ここで送達システムおよびBMP−2を含有するフィブリンマトリクスは、ラットにおいて皮下に移植された。このモデルにおいて、骨形成のために好ましい条件は、1:1の低いヘパリン対増殖因子比であった。より高い比(例えば、5:1またはそれより大きい)の付加は、骨形成に対して阻害性であった。これらの結果は、以前に公開されていた研究に基づいては予期されず、かつ低いヘパリン対増殖因子比はBMP−2の送達において予期されない用途を有することが示唆される(実施例5を参照のこと)。
【0044】
外因性第XIII因子のフィブリノーゲン調製物への添加を、使用して、フィブリンマトリクスと共に取り込まれたヘパリン結合ペプチドの数を増加し得、ヘパリン結合ペプチドがヘパリンに対する固定化部位および細胞接着部位の両方を利用することが可能になる。ペプチド濃度におけるこの増加は、このような物質が軸索伸長、および細胞移動の他の形式を、細胞接着部位としてのヘパリン結合ドメインの使用を介して促進する能力を高め得た。ヘパリン結合ペプチドが接着ペプチドとして作用し、従ってフィブリン中の細胞移動の速度を高め得ることが示されている(Sakiyama,S.E.ら、(1999)FASEB J.13:2214−2224)。しかし、この応答は、クロット中の1モルのフィブリノーゲンあたり約8モルの取り込まれたペプチドを必要とした。従って、ヘパリン結合増殖因子の持続放出において親和性部位として使用するヘパリンに結合するためのこれらのヘパリン結合ペプチドの多数の使用は、ヘパリン結合ペプチドの有益な接着効果を取り除き得る。この制限は、より高いレベルの外因性ヘパリン結合ペプチドの取り込みによって克服され得る。この取り込みは、フィブリノーゲン調製物へのより高いレベルの第XIIIa因子の添加を介して達成され得、従って、ペプチドが同時に両方の効果を有することを可能にする。従って、1モルフィブリノーゲンあたり8モルのペプチドより大きい比(すなわち、1モルフィブリノーゲンあたり25モルのペプチド)でのさらなるペプチドの取り込みは、薬剤送達のためにヘパリン結合ペプチドが細胞接着部位およびヘパリン固定化部位として両方を利用することを可能にするのに有用であり得た。例えば、5%のヘパリン結合部位を、使用して、薬物送達のためにヘパリンを固定化し得、そして他の95%は、細胞接着ドメインとして利用するために占有されず、かつ遊離のままであり、従ってヘパリン結合ペプチドが、同じ物質中で細胞接着ドメインおよび増殖因子固定化部位の両方として使用されることを可能にする。ヘパリン結合ペプチドのこの二重使用は、外因性第XIIIa因子から利益を得る。これは、相対的に高い数のヘパリン結合部位は、フィブリン物質中における細胞接着および細胞移動を高めるためにフィブリンへ取り込まれなければならない(1モルのフィブリノーゲンあたり8モルのペプチド)ことが示されているからである。
【0045】
(ヘパリン親和性部位の組み込みのための二ドメイン(bi−domain)ペプチドの使用)
ペプチド−ペプチドキメラ(1方のドメイン上に第XIIIa基質を有し、他方のドメイン上にヘパリン結合ペプチドを有する)の多くの可能性のある組み合わせが存在する。これらの異なる組み合わせは、異なる利点および不利な点を有する。例えば、いくつかの第XIIIa基質は、他よりもさらに効率的に取り込まれる。さらに、異なるヘパリン結合ペプチドは、ヘパリンに対して異なる親和性を有する。このペプチドの可能性のある免疫原性が、1つのさらなる検討事項である。ヒトタンパク質の配列に基づいてペプチド配列を利用することが可能であるけれども、これらの2つのヒト配列の間の融合は、新しく、そして決して患者の免疫系によってはみられない。従って、このような融合が免疫原性であり、そしてどれか一方のタンパク質に対して、または融合部位自体に対して抗体を誘導する危険性がある程度存在する。一般に、ペプチド配列が短いほど、長いポリペプチド配列よりも抗原性応答を誘導する傾向が小さくなる。従って、α2プラスミンインヒビター第XIIIa因子基質およびアンチトロンビンIIIヘパリン結合ドメインを有するキメラは、例えば、血小板第4因子由来のヘパリン結合ドメインと対応する二ドメインペプチドよりも抗原性応答を誘導する可能性が幾分か大きいようである。
【0046】
フィブリンネットワーク内にヘパリンを固定するために用いた二ドメインキメラが免疫原性である可能性を低下させるさらなるアプローチは、1つのドメインにおいては、第XIIIa基質(例えば、タンパク質α2プラスミンインヒビターから)、および他方のドメインとしてヘパリン鎖を用いて、2つの間の共有結合により、直接、ペプチド−ヘパリンキメラを形成することである。この様式では、天然ではないペプチド配列が融合部位に存在し、そのため免疫学的相互作用の可能性は非常に低い。
【0047】
(タンパク質の放出における融合タンパク質の使用)
当業者は、ヘパリンに対する親和性によるタンパク質の放出における融合タンパク質の使用をさらに考慮し得る。ここでは、ヘパリンに結合しない生理活性タンパク質の融合物がヘパリン結合ドメインを用いて構築されて、ヘパリンに結合する融合タンパク質を生じ得る。さらに、ヘパリンに対する親和性を介したフィブリン内の生理活性タンパク質の組み込みに対する代替として、このタンパク質は、第XIIIa因子を用いて直接組み込まれ得る。それらが第XIIIa因子について基質ドメインを保有する場合、天然にまたは組み換えタンパク質内への組み込みのいずれかによって、生物学的に活性なタンパク質および第XIIIa基質ドメインを有する融合タンパク質を形成することが可能である。
【0048】
上記の融合タンパク質のいずれかの合成は、分子生物学的技術を利用することによって達成され得る。これを行うために、このタンパク質鎖内のアミノ末端もしくはカルボキシ末端、または可能性としては他のいずれかに融合した配列を架橋もしくは結合することで、目的のタンパク質配列全体を含む融合タンパク質が作製され得る。これはDNAレベルで行われる。なぜなら、第XIIIa因子架橋基質またはヘパリン結合ドメインのいずれかをコードする配列は、例えば、もとのタンパク質のコドンの初めまたは終わりに挿入され得るからである。これらの改変されたタンパク質が発現される場合は、主なタンパク質ドメインのアミノ末端もしくはカルボキシ末端、または他のいずれかに目的のさらなるドメインを含む。タンパク質合成のために設計された自然の機構を使用することにより、高い忠実度を有する大きいタンパク質を合成および精製することが可能になる。
【0049】
標準的な分子生物学的技術を用いて、タンパク質配列またはDNA配列が既知である任意の増殖因子の融合タンパク質を作製し得、ヘパリン結合ドメインまたは酵素基質のような新規のドメインの付加が可能になる。これらの融合タンパク質は、このタンパク質のN末端またはC末端のいずれかに対して、または例えば、このタンパク質鎖内に新規なドメインを付加するように構築され得る。この改変は、増殖因子をコードするDNA配列、および架橋または結合の配列(例えば、ヘパリン結合ドメイン)をコードするDNA配列の両方を含む遺伝子を構築することによってDNAレベルで作製される。次いで、このDNAを発現プラスミドに連結し、そして細菌に形質転換する。発現の誘導の際、細菌は大量の融合タンパク質を生成する。発現後、このタンパク質は細胞溶解物から精製され、そして再折り畳み(リフォールディング)されなければならない。精製はしばしば、高レベルで発現された哺乳動物タンパク質が細菌内で封入体を形成する傾向によって単純になる。
【0050】
(組み込みのための融合タンパク質の設計)
組み換え融合タンパク質は、いくつかの異なるスキームを用いてフィブリンゲル中に組み込まれ得る。最初の設計において、第XIIIa基質は、このタンパク質に直接組み込まれた。この改変されたタンパク質が、フィブリンの重合化の間に存在する場合、このタンパク質は、二ドメインペプチドと同様の様式でフィブリンマトリクスに直接組み込まれる。別の方法は、ヘパリン結合ドメインを組み込むために合成された融合タンパク質を含む。この実施例において、二結合ペプチド、ヘパリン、およびヘパリン結合融合タンパク質が、フィブリン重合化混合物に含まれる。重合化の間、二ドメインペプチドは、フィブリンゲルに架橋される。この二ドメインペプチドは、ヘパリン結合配列に加えて、第XIIIa因子基質配列を含む。このヘパリンは、フィブリンゲルに組み込まれた二ドメインペプチドに結合し、そしてフィブリンマトリクスにトラップされる。このトラップされた(entrapped)ヘパリンは、操作されたヘパリン結合ドメインに対する結合によってフィブリン内のヘパリン結合融合タンパク質を隔離するように働く。この組み込みは、架橋されたペプチドが細胞に制御されたタンパク質分解を通じてゲルから除去されるまで、この増殖因子を隔離するのに十分安定であることが示されている。
【0051】
この技術は、第XIIIa基質配列と目的のタンパク質との間に酵素分解部位を組み込むことによってさらに改変され得る。この酵素分解部位のKおよびkcatの注意深い選択により、分解がタンパク質マトリクスの前もしくは後のいずれかで生じるように、そして/または類似のもしくは類似していない酵素を利用することにより、マトリクスを、各タイプのタンパク質および適用について仕立てられている分解部位の位置で分解するように制御され得る。この新しいタンパク質は、上記のようなフィブリンマトリクスに直接架橋され得る。しかし、酵素分解部位を組み込むことは、タンパク質分解の間、タンパク質の遊離を変更する。細胞由来プロテアーゼが、隔離されたタンパク質に到達する場合、このプロテアーゼは、新しく形成された分解部位でこの操作されたタンパク質を切断する。得られた分解産物は、遊離したタンパク質を含む。この遊離したタンパク質は、いまやどのような操作された融合配列も、どのような分解フィブリンもほぼ含まない。従って、この遊離タンパク質は、ネイティブの増殖因子の一次配列にほぼ同一であり、そして潜在的にさらに生理活性である。類似の方法がヘパリン結合融合タンパク質で用いられ得る。次いでこれらの新しいタンパク質は、プロテアーゼ分解部位、および新しいヘパリン結合ドメインを含む。このヘパリン結合融合タンパク質は、ヘパリン結合ペプチドの共有結合(固定)を介したフィブリンへのヘパリンの組み込みによってこのマトリクス中に隔離される。ここでも、付加された新しいプロテアーゼ分解部位を考慮すれば、この放出されたタンパク質は、天然のタンパク質に対する一次配列と同一である。
【0052】
(III.使用方法)
本明細書に記載されたポリマーは、移植の前にまたは移植時に、架橋されて、組織の修復、再生、もしくは再構築、および/または生理活性因子の放出のためのマトリクスを形成し得る。ある場合には、移植部位で組織に対してマトリクスを一致させるために投与の部位で架橋を誘導することができる。他の場合には、移植の前にマトリクスを調製することが都合がよく、このマトリクスがヘパリンまたはヘパリン結合ペプチド(増殖因子のような他の生理活性分子に結合するために用いられる)を取り込む場合には、これらの因子は、移植の前にまたは移植の時点でこのマトリクスに添加され得る。もともと充填された因子が放出された場合には、これらの生理活性因子を有するマトリクスを、同様に「再充填(re−fill)する」ことも、ある場合には都合よい。
【0053】
架橋は、内因性の架橋剤の添加によって、またはポリマーが第XIIIa因子基質を含む場合には、手術手順の間、または移植の部位に局所的にトロンビンを付与することにより、達成され得る。
【0054】
細胞はまた、移植の前にもしくは移植の時点で、または移植の後でさえ、ポリマーの架橋の時点もしくはその後のいずれかで添加されて、マトリクスを形成し得る。これは、細胞増殖または内殖を促進するように設計された間質性空間を生成するようにマトリクスを架橋することに対する追加であり得るか、またはその代わりであり得る。
【0055】
ほとんどの場合、細胞成長または増殖を促進するようにマトリクスを移植することが所望され得るが、いくつかの場合には、細胞増殖の速度を阻害するために生理活性因子が用いられる。特定の適用は、手術後の接着の形成を阻害することである。
【0056】
以下の例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。組成物および方法は、好ましい実施形態に関して記載されているが、本発明の、概念、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の組成物、方法およびこの方法の工程のまたはこの工程の順序に対して、バリエーションが適用され得ることが当業者には明白である。
【0057】
(実施例1:増殖因子に結合するヘパリン結合ペプチドを介したヘパリンの間接的カップリング)
標準的な固相合成によって、第XIIIa因子基質およびヘパリン結合ドメインの両方を含むペプチドキメラを合成した。サンプルペプチドは、以下の配列:dLNQEQVSPK(A)FAKLAARLYRKA(配列番号21)を含むペプチドであり、ここでこのペプチドのN末端は、第XIIIa因子基質を含み、そしてイタリック体の配列(ここで、後半に表記した(A)FAKLAARLYRKAはイタリック体である)は、ATIIIのヘパリン結合ドメイン由来の改変ペプチドを含む(dLは、ダンシルロイシンを示し、これを用いて、蛍光によるこのペプチドの検出が可能になる)。
【0058】
サイズ排除クロマトグラフィーを用いて、以前に開発された組み込み方法を用いた、フィブリンゲルに架橋したペプチドの量を決定した。アンチトロンビンIII由来のヘパリン結合ドメインおよび蛍光標識を含む二ドメインペプチドを、重合化の間、フィブリンゲルに組み込んだ。遊離のペプチドをゲルから洗浄し、そしてフィブリンネットワークをプラスミンで分解した。分解産物を高速液体クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー)によって分析して、1モルあたりのフィブリノーゲン(UV吸収)に存在するペプチドの量を(蛍光によって)決定した。ペプチド改変ゲルからの蛍光シグナルは、遊離のペプチドだけからのシグナルよりも早期の溶出時間で出現し、このことは改変ゲル中に存在した全てのペプチドがフィブリンに架橋されたことを示した(図1)。プラスミンで分解したペプチドネットワークおよびフィブリンネットワークの両方について既知の濃度標準に基づいた定量によって、1モルあたりのフィブリノーゲンに8.7±0.2モルのペプチドが組み込まれたことが示された(n=10)。
【0059】
共有結合した二ドメインペプチド(その1ドメインは、第XIIIa因子基質であり、そしてその1ドメインは、アンチトロンビンIIIに基づくヘパリン結合ドメインである)をまた含むフィブリン細胞内殖マトリクス由来のヘパリン結合増殖因子の放出のためのこのアプローチを評価するために、後根神経節を以下に示すような、種々の条件下で、フィブリンゲル内で3次元的に培養した。
【0060】
(ヘパリン結合ペプチドの使用のための架橋プロトコール)
1)4LのTris緩衝化生理食塩水(33mM Tris)(pH7.4)に対して24時間フィブリノーゲン(8mg/ml)を透析する
2)0.2μmシリンジフィルターを用いてフィブリノーゲンを濾過滅菌する
3)以下のペプチド溶液を作製する:
【0061】
【表3】

4)トロンビン溶液を作製する:5ml TBSに100単位含有
5)各ペプチド溶液に1.4mlのフィブリノーゲンを添加する
6)ゲルを作製する:20μlのTBS+50mM CaCl、40μlのトロンビン溶液(20単位/ml)、および340μlのペプチド溶液+フィブリノーゲンを添加する(上記の溶液を6ゲル作製する)
7)37℃で1時間インキュベートする
8)24時間で5回洗浄する。最初の4回は1mlのTBSを用い、最後の1回はニューロン培地を用いる
9)8日目にニワトリ胚後根神経節を解剖する
10)各ゲルに1つの神経節を置いて、37℃で1時間置く
11)各ゲルに1mlの神経培地を添加する
12)24時間後培地を交換する。
【0062】
後根神経節を用いたこれらの研究の結果を図2に示す。ペプチドおよびヘパリンなしで添加した場合、bFGFは、神経突起成長を増強せず、このことは、用いた洗浄プロトコールが十分であることを示す。神経突起増強は、用量依存性の様式で結合したbFGFの1μg/mlおよび5μg/mlの両方の添加によって増大する。1.0μg/mlの結合したVEGFの添加によって、神経突起伸長は増大せず、このことはbFGFの効果が、新脈管形成を促進する能力には因らないことを示唆した。
【0063】
(実施例2:ヘパリン−ペプチドキメラの合成)
還元的アミノ化を介して、N末端上に第XIIIa因子基質を、およびC末端にポリリジンを含むペプチドを、一方の末端に特有のアルデヒド基を有するヘパリンオリゴサッカライドにカップリングすることによって、ヘパリン−ペプチドキメラを合成する。以下の配列dLNQEQVSPLKKKG(配列番号22)を有するペプチドを、標準的な固相ペプチド化学で合成する。ヘパリンオリゴサッカライドを、ヘパリンの標準的亜硝酸分解によって作製し、切断されたオリゴサッカライドの還元末端上にアルデヒドの形成を生じる。カップリングの間、リジン側鎖のアミノ基は、ヘパリンオリゴサッカライドの還元末端上のアルデヒドを攻撃して、シッフ塩基を形成する。次いでこのシッフ塩基を還元して安定な生成物を形成する。サンプルカップリングプロトコールは以下に示す。当業者はまた、ヘパリンをさらに単純なα2プラスミンインヒビター基質部位NQEQVSP(配列番号20)にカップリングし得る。第一級アミンは、ペプチドのN末端にのみ存在する。ペプチドが、従来どおり固相樹脂上に合成されるとき、N末端はダングリングに曝露され、そしてN末端上のαアミンが脱保護され、第一級アミンが反応に利用可能である。ヘパリンの反応型は、Grainger,Dら(1988)J.Biomed.Mat.Res.22:231〜249に記載のように、特定の酸での切断によって容易に形成され、末端アルデヒド基とヘパリンフラグメントを形成し得る。この反応性アルデヒドは、樹脂(その上に縮合された)に結合されたままのペプチドを通過し、シッフ塩基(水素化ホウ素シアンナトリウムで容易に還元されてさらに安定な型である二級アミンを形成し得る)に結合されるペプチド−ヘパリンキメラを形成し得る。
【0064】
他のアプローチが使用され得る。例えば、アルデヒドヘパリンは、上記されたのと同様に、過剰のエチレンジアミンとの反応およびシッフ塩基の還元によって第一級アミノヘパリンに変換され得る。遊離残基エチレンジアミンからの精製は、透析によって達成され得る。このアミンヘパリンは、まだ保護されているE残基上のカルボキシル基を有する固相樹脂からペプチドを切断することによって、続いてペプチド合成からの標準的試薬を用いたC末端上のカルボキシル基の活性化によって、続いてこのE残基上のカルボキシル基の脱保護によって、このC末端カルボキシル基上に縮合され得る。
【0065】
(カップリングプロトコール:)
1)50mMのホウ酸緩衝液(pH9)中に、1.8mMのペプチドおよび1.8mMの亜硝酸分解ヘパリンを溶解する。30分間反応させる
2)160mM NaCNBHを添加し、12時間反応させる
3)240mM NaCNBHを添加し、12時間反応させる
4)希塩酸でpH7に調整する
5)最終濃度1MにNaClを添加する
6)4Lの脱イオン水に対して24時間透析する
7)凍結乾燥して反応生成物を得る
8)サイズ排除クロマトグラフィーによって反応収率を分析する
9)陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて、所望の生成物の精製を達成する
(ヘパリン−ペプチドキメラの使用のための架橋プロトコール:を使用する)
1)4LのTris緩衝化生理食塩水(33mM Tris)(pH7.4)に対して24時間フィブリノーゲン(8mg/ml)を透析する
2)0.2μmシリンジフィルターを用いてフィブリノーゲンを濾過滅菌する
3)以下のキメラ溶液を作製する:
【0066】
【表4】

4)トロンビン溶液を作製する:5ml TBSに100単位含有
5)各キメラ溶液に1.4mlのフィブリノーゲンを添加する
6)ゲルを作製する:20μlのTBS+50mM CaCl、40μlのトロンビン溶液(20単位/ml)、および340μlのキメラ溶液+フィブリノーゲンを添加する(上記の溶液を6ゲル作製する)
7)37℃で1時間インキュベートする
8)24時間で5回洗浄する。最初の4回は1mlのTBSを用い、最後の1回はニューロン培地を用いる
9)8日目にニワトリ胚後根神経節を解剖する
10)各ゲルに1つの神経節を置いて、37℃で1時間置く
11)各ゲルに1mlの神経培地を添加する
12)24時間後培地を交換する。
【0067】
(実施例3:融合タンパク質およびペプチドキメラにおける分解部位)
(第XIIIa因子基質を含む−NGF融合タンパク質およびプラスミン分解部位)
−NGF融合タンパク質を、−NGF融合タンパク質がフィブリンマトリクスに酵素的に架橋することを可能にする内因性架橋基質を用いて発現し、これは薬物送達系のベース材料として役立つ。プラスミン基質は、この架橋基質と融合タンパク質の−NGFドメインとの間に位置し、これは分解リンカーとして働き、そして酵素切断によって−NGFがそのネイティブの配列とほとんど同一の形態でこのマトリクスから放出されることを可能にする。このNGF融合タンパク質を、第XIIIa因子のトランスグルタミナーゼ活性によってフィブリンに共有結合し、そしてこれを細胞関連酵素活性に応答して活性な増殖因子を放出するこの送達系の能力を決定するために、神経再生のインビトロモデルにおいて試験した。
【0068】
(遺伝子合成)
2つの−NGF融合タンパク質を、組換えタンパク質発現によって作製した。各タンパク質は、2−プラスミンインヒビター、NQEQVSPL(配列番号23)由来のトランスグルタミナーゼ(TG)第XIIIa因子基質からなるタンパク質のN末端に、架橋基質を含んだ。各−NGF融合タンパク質はまた、このタンパク質のC末端にネイティブの−NGF配列を含んだ。2つのプラスミン基質(P)(機能的プラスミン基質(LIK/MKP、ここで/は切断部位を示す)または非機能的プラスミン基質(LINMKP)のいずれか)のうちの1つを、架橋基質と融合タンパク質の−NGFドメインとの間に配置し、ここで、プラスミン基質における切断部位のリジン残基を、プラスミン基質を非機能的にするために、アスパラギン(asparigin)残基に変更した。機能的プラスミン基質を含む融合タンパク質を、TG−P−NGFと示し、そして、非機能的プラスミン基質を含む融合タンパク質を、TG−P−NGFと示す。
【0069】
発現するタンパク質配列は、以下である:
【0070】
【表5】

(配列番号24)、ここで、斜体の領域は、この発現ベクター由来のヒスチジンタグであり、そして下線を引かれた領域は、トロンビン切断部位である。この残基は、第XIIIa因子についての架橋基質配列であり、そして二重下線が引かれている領域は、プラスミン基質を示す。
【0071】
遺伝子構築のために使用したクローニングプラスミドは、pUC 18であった。この遺伝子のDNA配列は、5’から3’で以下のようである:
【0072】
【表6】

(配列番号25)。
【0073】
組換えタンパク質発現によって−NGF融合タンパク質を合成するために、このタンパク質をコードする遺伝子をクローニングした。一旦、この遺伝子フラグメントを設計すると、Eco RI部位およびHind III部位を各フラグメントの末端に付加して、これらのフラグメントのpUC18(Gibco,Basel,Switzerland)のポリクローニングリンカーへのクローニングを可能にした。各遺伝子フラグメントの3’および5’一本鎖オリゴヌクレオチドを、2つのクローニング制限部位に対する粘着性の末端を用いてMicrosynth(Balgach,Switzerland)によって合成した。この一本鎖オリゴヌクレオチドを、変性ポリ−アクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)を使用して精製し、各フラグメントについて最も高い分子量バンドをこのゲルから抽出し、そして対応する3’および5’リゴヌクレオチドフラグメントをアニールした。このアニールしたフラグメントを、T4 DNAキナーゼ(Boehringer Mannheim,Rotkreuz,Switzerland)でリン酸化し、そしてpUC 18に連結した。連結後、このプラスミドをDH5−F’コンピテント細胞へと形質転換し、そしてイソプロピル−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)/5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−D−ガラクトピラノシド(X−gal)/アンピシリン(Amp)プレートへとプレートして、このプラスミドへのこの遺伝子フラグメントの挿入についてスクリーニングした。挿入した遺伝子フラグメントを含むコロニー由来のプラスミドを、正確な配列を有する遺伝子フラグメントを含むコロニーを同定するために配列決定した。各フラグメントについての正確な配列を得た後、このフラグメントを、この融合タンパク質についての完全な遺伝子を形成するために、構築した。手短に言うと、フラグメント2を含むプラスミドを、酵素EcoR VおよびHind III(Boehringer Mannheim)で消化し、そしてこのフラグメントを、非変性PAGEによって精製した。フラグメント1を含むプラスミドを、酵素Eco RVおよびHind IIIで消化し、アルカリホスファターゼ(Boehringer Mannheim)で脱リン酸し、そしてこの消化したプラスミドを、アガロースゲル電気泳動で精製した。フラグメント2を、フラグメント1を含む消化したプラスミドに連結して、フラグメント1および2の両方を含むプラスミドを得た。このプラスミドをDH5−F’コンピテント細胞へと形質転換し、そしてAmpプレートにプレートした。得られたコロニーを、両方のフラグメントを含むプラスミドについてスクリーニングし、そしてこれらのプラスミドを配列決定した。このプロセスを、−NGF融合タンパク質についての完全な遺伝子が構築されるまで繰り返した。
【0074】
TG−P−NGF融合タンパク質のための遺伝子を、部位特異的変異誘発によってTG−P−NGF遺伝子から作製した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を、この遺伝子の所望の改変を含むプライマーを使用して、プラスミン基質をコードするこの融合タンパク質の遺伝子の領域を改変するために行った。テンプレートとしてTG−P−NGF遺伝子を使用して、2つの反応を行った(一方はプライマーAおよびプライマーBを用いて、そして他方はプライマーCおよびプライマーDを用いて)。
【0075】
プライマーA AACAGCTATG ACCATG(M13逆方向)
プライマーB GTTTCATGTT GATCAGCGGC AGT
プライマーC TGATCAACAT GAAACCCGTG GAA
プライマーD GTAAAACGACG GCCAGT(M13)
(配列番号26〜29)。この2つの反応からの産物を、アガロースゲル電気泳動によって精製し、そして第3の反応のためのプライマーとして使用した。プライマーAおよびDもまた、所望の産物を増幅(amply)するために第3の反応に添加した。この最終反応産物を、Eco RIおよびHind IIIで消化し、そしてアガロースゲル電気泳動によって精製した。このPCRフラグメントをpUC 18にクローニングし、そして正確なPCR産物を同定するために配列決定した。
【0076】
(タンパク質の発現)
この−NGF融合タンパク質の各々についての完全な遺伝子を、pUC18から消化して切り出し、そして発現ベクターpET14b(Novagen,Madison,Wisconsin)に連結した。この発現ベクターを、発現宿主BL21(DE3)pLysSへと形質転換し、融合タンパク質発現の厳密な調節を可能にした。この融合タンパク質を、これらが中間対数(mid−log phase)増殖期(600nmでの光学密度0.4〜0.6)に達するまでE.coliを増殖し、次いで培養培地への0.4mMのIPTGの添加によってタンパク質発現を誘導することによって、発現した。この細菌を、2時間後に、5500×gでの遠心分離によって収集した。収集後、この細胞を、1/10培地容量の20mM Tris HCl,250mM NaCl、pH8.0に懸濁した。リゾチーム(0.4mg/mL)およびDNase(5ng/mL)を、この収集した細胞に添加し、そしてこの溶液を37℃で30分間インキュベートした。この封入体を、10,000×gの遠心分離15分によって細胞溶解物から収集した。この封入体を含むペレットを、6Mのグアニジン塩酸塩(GuHCl)を含む40mL/リットルの培地容量の結合緩衝液5mM イミダゾール、0.5M NaCl,20mM Tris HCl,pH7.9)中、室温で90分間再懸濁した。この溶液中の不溶性物質を、20,000×gでの遠心分離20分によって収集し、そして溶解した融合タンパク質を含む上清を、さらなる精製のために保管した。
【0077】
(タンパク質の精製)
この融合タンパク質は、このタンパク質のN末端に精製のためのトロンビン切断可能ヒスチジンタグを有した。なぜなら、−NGF融合タンパク質のための遺伝子は、pET14bのNde I部位とBam HI部位との間に挿入さるためである。ニッケル親和性クロマトグラフィーを使用して、この−NGF融合タンパク質を精製した。His BindTM樹脂(Novagen)をクロマトグラフィーカラムにパッキングし(1リットルの培地容量当り2.5mLの吸着床容量)、Ni++を充填し、そして6MのGuHClを含む結合緩衝液で平衡化した(製造者の指示に従って)。融合タンパク質を含む上清を、5μmのシリンジフィルタで濾過し、そしてこのカラムにロードした。このカラムを、8Mの尿素を含む10カラム容量の結合緩衝液、および8Mの尿素を含む6カラム容量の洗浄緩衝液(20mM イミダゾール、0.5M NaCl、20mM Tris HCl、pH7.9)で洗浄した。この融合タンパク質を、8Mの尿素を含む4カラム容量の溶出緩衝液(1M イミダゾール、0.5M NaCl、20mM Tris HCl、pH7.9)で溶出した。この溶出画分中の−NGF融合タンパク質の存在を、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−PAGEによって確認した。
【0078】
(タンパク質の再折り畳み)
5倍過剰の氷冷折り畳み緩衝液(20mM Tris HCl、250mM NaCl、2mMの還元グルタチオンおよび0.2mMの酸化グルタチオン、pH8.0)を、この精製−NGF融合タンパク質に、1.3Mの最終尿素濃度が達成されるまでゆっくりと添加することによって、−NGF融合タンパク質を折り畳みした。この融合タンパク質を、攪拌しながら4℃で48時間再折り畳みした。この再折り畳み融合タンパク質を、10%のグリセロールを含む50倍過剰の貯蔵緩衝液(20mM Tris HCl、500mM NaCl、pH8.0)に対して、4℃で一晩透析した。この融合タンパク質を、VivaspinTMコンセントレータ(5000MWのカットオフ、Vivascience,Lincoln,UK)を使用する遠心分離によって、Bradfordアッセイで測定する場合に約300〜400μg/mLの濃度まで濃縮した。
【0079】
(−NGF融合タンパク質のフィブリンマトリクスへの取り込み)
フィブリンマトリクスへの−NGF融合タンパク質の取り込みの効率を決定するために、TG−P−NGF融合タンパク質をビオチンで標識して、直接酵素連結免疫吸収アッセイ(ELISA)による−NGFの定量化を可能にした。20倍モル過剰のスルホ−N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)LCビオチン(Pierce,Lausanne,Switzerland)を、N,N−ジメチルホルムアミド中の10mg/mLビオチンのストック溶液(37℃で10分間溶解した)からの1mg/mLの濃度で、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS、0.01M リン酸緩衝液、8g/L NaCl、0.2g/L KCl、pH7.4)中の−NGF融合タンパク質に添加した。この反応を、室温で2時間進めた。次いで、未反応のビオチンを、PD−10カラム(Amersham Pharmacia,Dubendorf,Switzerland)を使用するゲル濾過クロマトグラフィーによって除去した。
【0080】
既知量の標識された−NGFを、コーティング緩衝液(0.1M NaHCO、pH8)中、4℃で一晩96ウェルプレートに吸着させた。このウェルを、PBS中の1%ウシ血清アルブミン(BSA)で2時間、室温でブロックした。このウェルを、0.5% Tween−20を含むPBS(PBST緩衝液)中で3回洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に結合体化したストレプトアビジンを、PBS中で1μg/mLまで希釈し、そして各ウェルに1時間添加した。このウェルを、PBST緩衝液で3回洗浄し、次いでABTS(2,2’−アジノ(Azino)−ビス(3−エチルベンズ−チアゾリン−6−スルホン酸))展開溶液(0.1M NaC、0.05M NaHPO、0.1% ABTS、0.01% H、pH4.2)中でインキュベートした。1〜5分後、この反応を、等量の0.6% SDSの添加によって停止し、そして各ウェルの吸光度を、Bio−Tek Instruments(Winooski,Vermont)のEL311SXプレートリーダーを使用して405nmで測定した。405nmの吸光度に対する−NGF濃度の標準曲線を、直接ELISAアッセイからのこれらの測定を使用して作成した。
【0081】
プラスミノーゲンを含まないフィブリノーゲンを水に溶解し、そしてTris緩衝化生理食塩水(TBS,33mM Tris、8g/L NaCl、0.2g/L KCl)、pH7.4に対して24時間透析した。−NGF融合タンパク質を、5mM Ca++および4 NIH単位/mLのトロンビンと共に37℃で1時間インキュベートして、精製に使用したヒスチジンタグを除去した。この−NGF融合タンパク質溶液を、8mg/mLの濃度のフィブリノーゲンと同じ比率で混合し、そして37℃で60分間重合した。フィブリンマトリクスを、24時間にわたって5回洗浄し、そして各洗浄液を、このマトリクスから洗浄された−NGFの総量を決定するために保管した。24時間後、−NGFを含むフィブリンマトリクスを、0.1Uのブタプラスミンで分解した。洗浄液中の−NGFおよびマトリクスに残っている−NGFの量を、直接ELISAによって上記のように定量し、そして−NGF標準曲線を、実施した各ELISAについて作成した。
【0082】
−NGF融合タンパク質がフィブリンマトリクスに共有結合していることを直接示すために、ウエスタンブロットを行った。フィブリンマトリクスを作製し、そして取り込み定量アッセイにおいて記載したように洗浄した。このマトリクスを、上記のように、24時間かけて5回洗浄し、次いでプラスミンで分解した。この分解産物を、13.5%変性ゲルを使用するSDS−PAGEによって分離した。このゲルからのタンパク質を、活性化したImmobilon−PTMポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜(Millipore,Volketswil,Switzerland)に、400mAの電流を用いて1時間かけて移した。この膜を一晩乾燥した。膜に移したタンパク質(分子量マーカーを含む)を、0.2%のPonceau Sで染色することによって可視化した。この膜に結合した非特異的タンパク質を、TBS中の3% BSAで2時間ブロックした。この膜を、3%BSA中0.2μg/mLの濃度のヤギ抗ヒト−NGF抗体(R&D Systems,Minneapolis,Minnesota)と共に1時間インキュベートした。この膜を、TBSで5分間かけて3回洗浄し、そして二次抗体、3% BSA中0.5μg/mLの濃度のHRP結合体化ウサギ抗ヤギ免疫グロブリン(Dako Diagnostics,Zug,Switzerland)と共に30分間インキュベートした。この膜をTBSで3回洗浄し、次いでTBS中で1:5に希釈した増感した化学発光HRP基質(Pierce,Lausanne,Switzerland)と共に5分間インキュベートした。この膜から過剰の液体を除去し、そしてこれをプラスチックで覆い、そしてX線フィルムに5〜60秒間曝露した。
【0083】
フィブリンマトリクスの重合の間に存在する−NGF融合タンパク質についての分子量の増加が実際に観察されたが、架橋基質を欠く−NGFの場合、洗浄後このマトリクスには−NGFは観察されなかった。この結果は、NGF融合タンパク質が、第XIIIa因子のトランスグルタミナーゼ活性を介して、重合の間にフィブリンマトリクスに共有結合的に固定されたことを直接示した。
【0084】
(固定化−NGF融合タンパク質の生理活性)
共有結合的に固定された−NGF融合タンパク質が制御された様式で誘導される能力を決定するために、−NGF融合タンパク質を、重合の間にフィブリンマトリクスに組み込み、そしてこれらのマトリクスがインビトロで神経突起の伸長を増大する能力を、ニワトリDRGを使用してアッセイした。TG−P−NGFは、この培養培地にNGFが存在しない未改変フィブリンに対して350%を超えて神経突起伸長を増大すること、および培地にネイティブの10ng/mLのNGFを含む未改変フィブリンよりも50%増大することを見出した(図3)。TG−P−NGF(これは、非機能的プラスミン基質を含む)は、プラスミンによってネイティブの形態ではフィブリンマトリクスから切断され得ず、そして試験した濃度のいずれかでフィブリンマトリクス内に共有結合的に固定される場合、培養培地中のネイティブのNGFに対して有意な神経突起の伸長の増大を起こさなかった。しかし、TG−P−NGF(これは、機能的プラスミン基質を含む)は、プラスミンによってネイティブのNGFに非常に類似した形態でこのマトリクスから切断され得、そして培養培地に存在するネイティブのNGFの同様の用量と比較した場合でさえも、神経突起の伸長の増大が観察された。TG−P−NGF融合タンパク質についての用量応答効果を観察し、1〜5μg/mLの−NGF融合タンパク質が重合混合物に存在する場合に、最適な用量を達成した。これらの結果は、TG−P−NGF融合タンパク質が、フィブリンマトリクス内に固定される場合に生理活性を有することを実証し、これは、このタンパク質が細胞関連マトリクス分解によって活性な形態で放出され得ることを示唆する。PC12細胞活性アッセイにおける−NGF融合タンパク質の低い活性にもかかわらず、プラスミン分解可能な−NGF融合タンパク質がフィブリンに共有結合される場合、これは培養培地中のネイティブのNGFの同じ用量よりも神経突起の伸長のより高いレベルを促進した。これらの結果はまた、−NGF融合タンパク質が完全に活性化されていることを示唆し、これらはそのネイティブの構造に類似の形態でフィブリンマトリクスから放出されているに違いない。
【0085】
(−NGF融合タンパク質架橋の効率)
フィブリンマトリクスへの−NGF融合タンパク質の取り込みの効率を決定するために、このタンパク質をビオチンで標識し、そして重合混合物中にビオチン標識された−NGF融合タンパク質を含むフィブリンマトリクスについて直接ELISAを行った。ビオチン標識された−NGF融合タンパク質を、重合の間にフィブリンマトリクス中に取り込んだ。任意の未結合−NGF融合タンパク質を除去するために洗浄した後、このマトリクスをプラスミンで分解し、そして分解したマトリクス中の−NGFおよび洗浄液中の−NGFの量を定量した。フィブリンマトリクス中に取り込まれた−NGF融合タンパク質のパーセンテージは、重合混合物における−NGFの濃度の関数として図4に示される。試験した−NGF融合タンパク質の濃度範囲にわたって、融合タンパク質のうち50〜60%が、フィブリンマトリクスの重合の間に取り込まれた。この結果は、NGF融合タンパク質が、第XIIIa因子の作用を介してフィブリンマトリクスに効率的に取り込まれることを実証した。
【0086】
(ヘパリン結合メインおよびプラスミン分解部位を有する−NGF融合タンパク質)
NGFは、E.coli中で融合タンパク質として発現され得、これは、ヘパリン結合ドメインをN末端に、プラスミン基質を中央に、そしてNGF配列をこのタンパク質のC末端に含む。これは、所望の融合タンパク質をコードするDNAを含む合成遺伝子を構築することによって達成される。発現のためのこのタンパク質配列は、以下の通りである:
【0087】
【表7】

(配列番号30)、ここで、斜体の領域は、発現ベクター由来のヒスチジンタグであり、そして下線を引かれた領域は、トロンビン切断部位である。破線での下線は、ヘパリン結合配列を示し、そして二重下線は、プラスミン基質を示す。
【0088】
遺伝子構築のために使用したクローニングプラスミドは、pUC 18であった。この遺伝子のDNA配列は、5’から3’で以下の通りである:
【0089】
【表8】

(配列番号31)。
【0090】
この遺伝子を、マップに示されるように、pUC 18のポリリンカークローニング領域においてEcoRI部位とHindIII部位との間に挿入する。
【0091】
構築後、この遺伝子を発現ベクターに挿入する。次いで、発現および精製を、上記のように行う。
【0092】
(実施例4:自発的にヘパリンに結合する増殖因子の融合タンパク質)
(A.NGFとの第XIIIa基質融合タンパク質の生合成)
NGFは、E.coliにおいて融合タンパク質として発現され得、タンパク質のN末端に第XIIIa因子基質およびタンパク質のC末端にヒト−NGF配列を含む。これは、所望の融合タンパク質をコードするDNAを含む合成遺伝子を構築することにより達成される。この発現されるタンパク質配列は以下のようなものである。
【0093】
【表9】

ここで、イタリック体の領域は、発現ベクター由来のヒスチジンタグであり、そして下線の領域は、トロンビン切断部位である。これらの残基は、第XIIIa因子に対する架橋基質配列である。
【0094】
遺伝子構築に用いられたクローニングプラスミドは、pUC18(これは、ポリリンカークローニング領域の配列が逆であることを除いてpUC19と同一である)であった。New England Biolabsから入手したpUC19のマップを以下に示す。この遺伝子のDNA配列は、5’から3’に向かって以下のような配列である。
【0095】
【表10】

この遺伝子は、マップに示されるように、pUC18のポリリンカークローニング領域中のEcoRI部位とHindIII部位との間に挿入されている。遺伝子構築後、この遺伝子を、発現ベクターpET 14bのNdeI部位とBamHI部位との間に挿入する。Novagenから入手したpET 14bベクターのマップを以下に示す。この遺伝子の発現ベクターへの挿入後、プラスミドをBL21(DE3)pLysSコンピテント細胞中に形質転換する。この細胞を、約0.6のODに達するまで増殖させ、次いでIPTG(溶液中の最終濃度0.4mM)を用いて融合タンパク質の発現を誘導する。発現を2〜3時間継続する。この細胞を5分間氷上に静置し、次いで4℃にて5分間、5000×gでの遠心分離により収集する。それらを、0.25培養容量の冷50mM Tris−HCl(pH8.0)に25Cにて再懸濁する。これらの細胞を前回と同様に遠心分離し、ペレットを凍結する。細胞を解凍の際に溶解させる。
【0096】
この細胞溶解物を遠心分離し、上清を廃棄する。ペレットをTriton X100に再懸濁する。次いで、この溶液を遠心分離し、上清を廃棄する。ペレットを6M尿素に再懸濁し、そして融合タンパク質をヒスチジンアフィニティークロマトグラフィーにより精製する。ヒスチジンタグを重合の間にトロンビンにより切断し得、そして標準的な洗浄手順の間にゲルから洗浄し得る。
【0097】
(B.NGFのヘパリン結合ドメイン融合タンパク質の生合成)
NGFを、タンパク質のN末端にヘパリン結合ドメインおよびタンパク質のC末端にNGF配列を含む融合タンパク質としてE.coliにおいて発現し得る。これを、所望の融合タンパク質をコードするDNAを含む合成遺伝子を構築することにより達成する。この発現されるタンパク質配列は、以下のようなものである。
【0098】
【表11】

ここで、イタリック体の領域は、発現ベクター由来のヒスチジンタグであり、そして下線の領域は、トロンビン切断部位である。点線で下線を引いた領域は、ヘパリン結合配列である。
【0099】
遺伝子構築に用いられたクローニングプラスミドはpUC18であった。この遺伝子のDNA配列は、5’から3’に向かって以下のような配列である。
【0100】
【表12】

この遺伝子は、マップに示されるように、pUC18のポリリンカークローニング領域中のEcoRI部位とHindIII部位との間に挿入されている。構築後、この遺伝子を、発現ベクターに挿入する。次いで、発現および精製を、上記のように実施する。
【0101】
(実施例5:ヘパリン親和性の二ドメインペプチドを有するフィブリンマトリクスからのBMP2の送達)
フィブリンマトリクスに結合した骨形成因子がこの因子の放出を制御し得ること、およびこのマトリクスが移植される場合、皮下での異所性の骨が形成されることが実証された。この手順は骨欠陥における骨形成と異なるが、生理活性増殖因子のインビボでの放出を制御する能力を試験するための適切な方法を提供する。
【0102】
フィブリンゲルを、配列LNQEQVSPK(A)FAKLAARLYRKA(配列番号36)を有する異なる二ドメインペプチドを用いて合成した。このペプチドは、第1のドメインにおける2−プラスミンインヒビターについての第XIIIa因子基質配列および第2のドメインにおける抗トロンビンIIIのヘパリン結合ドメインの模倣物に由来する。BMP−2はヘパリン結合タンパク質であり、そして上記の配列に結合する。ゲルをペプチド(1mM)、ヘパリン、および組換えヒトBMP−2の存在下(ヘパリン:BMP−2の比が1:1および40:1)で重合した。
【0103】
等量の形態形成タンパク質、BMP−2を有するが、ヘパリンおよび二ドメインペプチドを欠くコントロールゲルを作製した。次いで、これらのゲルを、ラットに皮下移植し、そして2週間維持した。マトリクスを取り出したとき、ペプチド−ヘパリン放出系を含まなかったゲルから骨はほとんどから全く観察されなかったが、この系を含んだゲルは有意な骨形成を示した。
【0104】
これは、取り出されたマトリクスの質量において最も見出された。これを表3に示す。
【0105】
【表13】

この放出系は、マトリクス内での異所性の骨の形成を増強し、このことは、インビボでの放出系の可能性を実証する。
【0106】
(実施例6:外因性第XIII因子を用いたペプチドの組込み)
標準的な沈殿方法を通じて獲得した精製フィブリノーゲンは、二ドメインペプチドの組込みにおける制限因子(limiting reagent)として作用する少量の内因性第XIIIa因子を含む。これを、精製フィブリノーゲンを用いて実証した。内因性第XIIIa因子の濃度に基づき、8.2molペプチド/molフィブリノーゲンまでの濃度での二ドメインペプチドの組込みが可能であった。外因性第XIIIa因子の添加が、ペプチド組込みのレベルを増強することを実証した。これは特に、ゲル内の二ドメインペプチド濃度の制御に関係し、次に細胞接着にも影響をおよぼし、そしてヘパリンおよび増殖因子の組込みに対する上限も決定する。いくつかの場合、標準的な精製フィブリノーゲンを用いて可能な増加を超えて、細胞接着、ヘパリンの濃度、または増殖因子の濃度が増加することが利点であり得る。
【0107】
プールされた血漿から精製された外因性第XIII因子を用いて、二ドメインペプチド(dLNQEQVSPLRGD(配列番号1))をゲル中に組込んだ。1Uの外因性第XIII因子をフィブリンゲル1mL当たりに添加し、そして共有結合的に組込まれた二ドメインペプチドのレベルを、クロマトグラフィー分析を通して分析した。この結果を表5に示す。1U/mLの外因性第XIII因子を添加した場合、組込みのレベルは25molペプチド/molフィブリノーゲンに達した。この組込みのレベルは、可能な結合部位の数に基づく理論的な限界に近い。
【0108】
市販のフィブリン接着キットに組込まれる二ドメインペプチド(dLNQEQVSPLRGD(配列番号1))の能力もまた、実証した。Tissucolキットを入手し、次いで複数のサンプルに分画した。外因性の二ドメインペプチドを6mMまで添加し、そして組込みのレベルをクロマトグラフィー分析を通して分析した(図6)。ペプチド組込みのレベルを、3つの別々のキットについて広範囲の二ドメインペプチドの初期濃度にわたって試験した。組込みのレベルを測定した場合、最大組込みが5mMよりも大きい外因性ペプチドの濃度で生じたことが観察された。それは、これらの高密度マトリクスにおいて、拡散が組込みのプロセスにおいて役割を果たしはじめていることであり得る。しかし、非常に高レベルの組込みが、少なくとも25molペプチド/molフィブリノーゲンに達するレベルで観察された。さらに、広範囲の存在する可能性のあるタンパク質濃度を有するフィブリン接着キットの組成物において有意な可能性が存在する。しかし、これは、明らかに、二ドメイペプチドの組込みに有意に影響を及ぼさず、組込みのプロフィールは、試験された3つのキット全てについて同様であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋したマトリクス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−239964(P2010−239964A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67010(P2010−67010)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【分割の表示】特願2001−580946(P2001−580946)の分割
【原出願日】平成12年5月1日(2000.5.1)
【出願人】(501079026)
【出願人】(501393966)ウニヴェルジテート・チューリッヒ (13)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAET ZUERICH
【Fターム(参考)】