説明

組織傷害の修復におけるストロマ細胞由来因子1のプロテアーゼ耐性変異体

本発明は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)およびマトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP-2)であるプロテアーゼによる消化に対して耐性になるよう変異させられているが、T細胞を誘引するネイティブSDF-1の能力は維持しているストロマ細胞由来因子1ペプチドに関する。変異体は、自己集合ペプチドにより形成された膜に付着させてもよく、次いで修復の促進を支援するため組織傷害の部位へ移植してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2007年6月22日出願の米国仮出願第60/929,353号および2006年10月23日出願の第60/853,441号に基づく優先権および恩典を主張する。これらの先の出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、細胞を誘引する能力は保存するが、プロテアーゼ、特にマトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP-2)および/またはジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV/CD26)による不活化に対して耐性となる様式で変異を有しているストロマ細胞由来因子1(SDF-1)ペプチドに関する。傷害を受けた組織に輸送された場合、これらの変異体は、組織修復を促進する。ペプチドは、胃腸管またはその他の潰瘍、事故、手術、または疾患に起因する創傷;および心筋梗塞の結果として傷害を受けた心組織を含む多くの状態の処置においても有用であるはずである。ペプチドは、創傷、潰瘍、または病変により引き起こされた傷害に対する感受性を減ずるための糖尿病患者の処置においても有用であるはずである。特に好ましい態様において、SDF-1の変異型は、自己集合ペプチドにより形成された膜を使用して傷害を受けた組織へと輸送される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ストロマ細胞由来因子1(SDF-1またはCXCL12)は、休止Tリンパ球、単球、およびCD34+幹細胞を誘引するケモカインファミリーの68アミノ酸のメンバーである。差次的なmRNAスプライシングの結果である二つの異なる型であるSDF-1αおよびSDF-1βとして一般に見出される(米国特許第5,563,048号(特許文献1))。これらの型は、SDF-1βがC末端において4アミノ酸(-Arg-Phe-Lys-Met)だけ延長されていることを除き、本質的に同一である。いずれの型のSDF-1も、最初、21アミノ酸長のシグナルペプチドを含んで作製され、それが切断されて活性ペプチドとなる(米国特許第5,563,048号(特許文献1))。本発明の目的のため、「SDF-1」という用語は、活性型のペプチド、即ち、シグナルペプチドの切断後のペプチドをさし、SDF-1αおよびSDF-1βの両方を包含することが理解されよう。
【0004】
全長68アミノ酸SDF-1配列が活性のために必要とされるわけではないことも示されている。SDF-1の少なくとも最初の8個のN末端残基を有するペプチドは、減少した効力ではあるが、完全ペプチドの受容体結合および生物活性を維持している。例えば、SDF-1、1-8、1-9、1-9ダイマー、および1-17は、Tリンパ球およびCEM細胞における細胞内カルシウムおよび走化性を誘導し、CXCケモカイン受容体4(CXCR4)に結合する。しかしながら、ネイティブSDF-1は5nMで最大半分の化学誘引物質活性を有するが、1-9ダイマーは500mMを必要とし、従って効力は100倍弱い。1-17および1-9モノマーアナログは、それぞれ400倍および3600倍、SDF-1より効力が弱い。より高いCXCR4受容体結合親和性を有する、C末端が環化されたSDF-1変種が記載されており、この型の環化は、望ましければ、本明細書に記載のペプチドに関して使用され得る。本発明の目的のため、SDF-1という用語は、C末端において短縮されているが、SDF-1の生物学的活性を維持している、即ち、Tリンパ球およびCEM細胞にとって走化性であり、CXCケモカイン受容体4(CXCR4)に結合するペプチドの型を含む。少なくとも、これらの短縮型は、ペプチドのN末端に最初の8個のアミノ酸を含む。
【0005】
SDF-1は、胚発生中(Nagasawa, et al., Nature 382:635-638 (1996)(非特許文献1); Zou et al., Nature 393:595-599 (1998)(非特許文献2))および幹細胞移植後(Lapidot, et al., Blood 106:1901-1910 (2005)(非特許文献3))の造血幹細胞の骨髄へのホーミングにおいて重要な役割を果たす。幹細胞ホーミングにおける役割に加え、SDF-1は、心臓発生および脈管形成においても重要である。SDF-1欠損マウスは周産期に死亡し、心室中隔形成、骨髄造血、および臓器特異的脈管形成における欠陥を有する(Nagasawa, et al., Nature 382:635-638 (1996)(非特許文献1); Zou et al., Nature 393:595-599 (1998)(非特許文献2))。異常に低いSDF-1レベルは、少なくとも部分的に、糖尿病患者に関連した創傷治癒障害の原因となること、および組織傷害の部位へのこのサイトカインの投与により障害が逆転し得ることも報告されている(Gallagher, et al., J. Clin. Invest. 117:1249-1259 (2007)(非特許文献4))。
【0006】
正常成体心臓において、SDF-1は恒常的に発現されているが、心筋梗塞後の数日間は発現がアップレギュレートされている(Pillarisetti, et al., Inflammation 25:293-300 (2001)(非特許文献5))。Askariらは、G-CSF療法と組み合わせて、SDF-1を過剰発現する安定的にトランスフェクトされた心繊維芽細胞の心筋内移植により、心筋梗塞の8週間後にSDF-1発現を増加させた(Lancet 362:697-703 (2003)(非特許文献6))。これは、心臓における骨髄幹細胞(c-KitまたはCD34陽性)および内皮細胞のより高い数に関連し、血管密度の増加および左心室機能の改善をもたらした。これらの研究は、天然に存在する心筋修復過程の不十分さは、一部、不適切なSDF-1の利用可能性に起因する可能性があることを示唆している。従って、心筋梗塞後の制御された様式でのSDF-1の輸送は、より多くの前駆細胞を誘引し、それにより組織修復を促進しうる(Penn, et al., Int. J. Cardiol. 95(Suppl. 1):S23-S25 (2004)(非特許文献7))。これとは別に、SDF-1の投与は、患者、特に糖尿病を有する患者における創傷または潰瘍の治癒を改善するために使用され得る。
【0007】
組織傷害の部位における薬物の持続的な輸送のために使用され得る一つの方法は、生物学的に適合性の膜の使用による。ある種のペプチドは、低濃度の単価金属カチオンの存在下でインキュベートされた場合に自己集合することができる(米国特許第5,670,483号(特許文献2);米国特許第6,548,630号(特許文献3))。集合は、非毒性で、非免疫原性であり、かつプロテアーゼに対して比較的安定なゲル様膜の形成をもたらす。膜は、一旦形成された後は、血清、水性溶液、および細胞培養培地において安定である。それらは、無菌条件下で作製され得、細胞の増殖を支持することができ、かつ動物の体内に移植された場合に徐々に消化される。これらの特徴のため、膜は、治療剤の輸送のための方策として十分に好適である(米国特許出願公開第20060148703号(特許文献4)および第20060088510号(特許文献5))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,563,048号
【特許文献2】米国特許第5,670,483号
【特許文献3】米国特許第6,548,630号
【特許文献4】米国特許出願公開第20060148703号
【特許文献5】米国特許出願公開第20060088510号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nagasawa, et al., Nature 382:635-638 (1996)
【非特許文献2】Zou et al., Nature 393:595-599 (1998)
【非特許文献3】Lapidot, et al., Blood 106:1901-1910 (2005)
【非特許文献4】Gallagher, et al., J. Clin. Invest. 117:1249-1259 (2007)
【非特許文献5】Pillarisetti, et al., Inflammation 25:293-300 (2001)
【非特許文献6】Lancet 362:697-703 (2003)
【非特許文献7】Penn, et al., Int. J. Cardiol. 95(Suppl. 1):S23-S25 (2004)
【発明の概要】
【0010】
本発明は、一部、傷害心組織の回復におけるストロマ細胞由来因子1(SDF-1)の有益な効果が、そのような組織に存在する高濃度のプロテアーゼである、マトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP-2)により制限されるということを仮説とした実験に基づく。より具体的には、MMP-2は、SDF-1を切断し、それにより前駆細胞を組織傷害の部位へ誘引するその能力を排除することが提唱された。
【0011】
この仮説を試験するため、本発明者らは、T細胞を誘引するその能力は保持しているが、MMP-2消化に対しては耐性であるSDF-1の変異型を開発した。mSDF-1ペプチドを、自己集合ペプチドにより形成された特別に設計された膜に付着させ、次いで心傷害の動物モデルにおいて試験した。膜に付着させられ、試験動物の心筋へと移植されたmSDF-1は、SDF-1または膜に付着していないmSDF-1より大きな程度に心回復を改善したことが見いだされた。
【0012】
さらに、本発明者らは、SDF-1の短縮型が生物活性を維持し、完全長ペプチドと同様に、4番目または5番目のアミノ酸の変異がプロテアーゼ消化からペプチドを保護することを見出した。
【0013】
その第一の局面において、本発明は、非変異SDF-1

のN末端から4番目および/または5番目の変化を特徴とするSDF-1の変異型(mSDF-1)に関する。従って、4番目のアミノ酸がS以外のアミノ酸へと変化させられ、かつ/または5番目のアミノ酸がL以外のアミノ酸へと変化させられる。前述のように、全長SDF-1ペプチドの短縮型は、最初の8アミノ酸(上に示された配列において強調されている)が存在することを条件として生物学的活性を維持し、これらの短縮型も第4位および/または第5位を変異させることによりプロテアーゼ耐性にされ得る。本発明は、これらの生物学的に活性な短縮変異体も含む。換言すると、本発明は、SEQ ID NO:52の残りの配列の全部またはアミノ酸9〜68として示される任意の一部の分だけC末端において任意で延長されている、SEQ ID NO:52の少なくともアミノ酸1〜8のアミノ酸配列を含むペプチドを含む。いかなる場合にも、ペプチドは、4位にS以外のタンパク新生アミノ酸が存在し、かつ/または5位にL以外のタンパク新生アミノ酸が存在することを除き、SEQ ID NO:52に与えられたものに対応する配列を有するであろう。
【0014】
本発明の目的のため、全てのペプチド配列がN末端(左端)からC末端(右端)へと記述され、特記しない限り、全てのアミノ酸が「タンパク新生」アミノ酸、即ち、アラニン(A);アルギニン(R);アスパラギン(N);アスパラギン酸(D);システイン(C);グルタミン酸(E);グルタミン(Q);グリシン(G);ヒスチジン(H);イソロイシン(I);ロイシン(L);リジン(K);メチオニン(M);フェニルアラニン(F);プロリン(P);セリン(S);トレオニン(T);トリプトファン(W);チロシン(Y);またはバリン(V)のL異性体である。変異体SDF-1ペプチドは本明細書において「mSDF-1」、「mSDF」、またはSDF(NqN')と略記され得、ここで、Nは最初に存在するアミノ酸の一文字表記であり、qはペプチドのN末端からの位置であり、N'はNと入れ替わったアミノ酸である。SEQ ID NO:52はSDF-1αの完全長配列を示すが、この配列は最大4個のアミノ酸、特に配列-R-F-K-MによってC末端において延長されてもよいことも理解されるであろう。従って、本発明は、SDF-1αおよびSDF-1β(米国特許第5,563,048号を参照のこと)の両方の変異型を含む。いくつかの例において、N末端におけるアミノ酸の付加により変異させられたペプチドは、「Xp-R」と略記され、ここで、Xはタンパク新生アミノ酸であり、pは整数であり、Rは延長前のペプチドである。特記しない限り、全ての薬学的に許容される塩を含む全ての薬学的に許容されるペプチドの型が使用され得ることも理解されるであろう。
【0015】
mSDF-1ペプチドは、非変異SDF-1の感度の少なくとも1/10の(例えば、本明細書に記載のジャーカットT細胞遊走アッセイにおいて最大応答の50%を得るために必要とされる有効濃度により決定されるような)感度で化学誘引物質活性を維持していなければならない。さらに、mSDF-1ペプチドは、マトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP-2)による切断によるこの化学誘引物質活性の損失に対して耐性でなければならない。好ましくは、mSDF-1の不活化の速度は、SDF-1の不活化の速度の1/2未満(より好ましくは1/4または1/10未満)である。
【0016】
一つの態様において、mSDF-1ペプチドは、配列:

を有し、ここで、XはS以外の20のタンパク新生アミノ酸のうちのいずれかである。これらのペプチドのうち最も好ましいものは、配列:

を有するSDF(S4V)である。SEQ ID NO:53および54は、SDF-1ペプチドの完全配列を示す。しかしながら、短縮された型のペプチドが、最初の8個のN末端アミノ酸が存在する限り、活性を維持するであろうことが理解されるであろう。これらも、本発明の一部であり、4位および/または5位のアミノ酸を変異させることによりプロテアーゼ耐性にされ得る。
【0017】
もう一つの態様において、mSDF-1ペプチドは、配列:

を有し、ここで、XはL、W、またはE以外の20のタンパク新生アミノ酸のうちのいずれかである。これらのペプチドのうち最も好ましいものは、配列:

を有するSDF(L5P)である。この場合も上記と同様に、短縮されており、かつSEQ ID NO:55または56の少なくとも最初の8アミノ酸を有するペプチドは、本発明に含まれる。それらは、上に示された配列から付加的なアミノ酸によってC末端において延長されていてもよい。
【0018】
上に提示された最も長いmSDF-1ペプチドは、68アミノ酸長である。しかしながら、特記しない限り、化学誘引物質活性またはMMP-2耐性を実質的に変化させることなく、一つの付加的なタンパク新生アミノ酸がN末端に付加され得ることも理解されるであろう。さらに、N末端におけるアミノ酸の付加は、第二の一般的なペプチダーゼである、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV/CD26、本明細書において「DPPIV」と略記される)による消化に対してペプチドを耐性にする効果を有するため、好ましい態様を表す。
【0019】
DPPIVは、腎近位尿細管、腸上皮細胞、肝臓、胎盤、および肺に発現し、N末端から2番目の位置にプロリンを有するペプチドを切断する110kDの糖タンパク質である(Kikawa, et al., Biochim. Biophys. Acta 1751:45-51 (2005))。SDF-1は、(前記SEQ ID NO:52に見られるように)2番目の位置にプロリンを有しており、従ってこのプロリンとその後のバリンとの間でDPPIVにより切断される(Narducci, et al., Blood 107:1108-1115 (2006); Christopherson, Exp. Hematol. 34:1060-1068 (2006))。
【0020】
DPPIVのタンパク分解効果を排除するための一つの手段は、SDF-1の2位のプロリンを変化させることであろう(SEQ ID NO:52を参照のこと)。しかしながら、このプロリンは、SDF-1の生物学的活性にとって不可欠であり、従って、交換されることはできず、その結果治療的に有効なペプチドを維持する。しかしながら、SEQ ID NO:52のN末端に1〜4個のアミノ酸(または有機基)を付加することにより、活性が維持され、DPPIV耐性ペプチドが作製され得る。例えば、DPPIV切断に対する耐性は、ペプチドのN末端にセリンを付加することにより入手され得ることが実験的に見出されている。
【0021】
従って、もう一つの局面において、本発明は、ペプチドXp-SDF-1に関し、ここで、Xは好ましくは任意のタンパク新生アミノ酸であり、pは1〜4の整数であり、SDF-1はSEQ ID NO:52に示された通りである。好ましい態様において、n=1である。pが1より大きい場合、2〜4個の付加されたアミノ酸の各々は、独立に、本明細書に記載のタンパク新生アミノ酸のうちのいずれかから選出され得る、即ち、1番目の位置にこれらのタンパク新生アミノ酸のうちのいずれかが存在し得、2番目の位置にもいずれかが存在し得る、等であることが理解されるであろう。
【0022】
SDF-1は、N末端に「プロテアーゼ保護有機基」を付加することによってもDPPIVに対して耐性にされ得る。「プロテアーゼ保護有機基」とは、SDF-1のN末端のアミノ酸に付加された場合に、(例えば、本明細書に記載のジャーカットT細胞遊走アッセイにより決定されるような)未修飾SDF-1の化学誘引物質活性の少なくとも10%(好ましくは少なくとも50%または80%)を維持し、さらに、未修飾SDF-1の不活化の速度の50%未満の速度で(より好ましくは25%または10%未満の速度で)DPPIVにより不活化される修飾されたペプチドをもたらす、タンパク新生アミノ酸以外の有機基と、本明細書において定義される。例えば、Xは、R1-(CH2)d-であり得、ここで、dは0〜3の整数であり、R1は水素(ただし、R1が水素である場合、dは少なくとも1でなければならない);分岐または直鎖のC1〜C3アルキル;直鎖または分岐のC2〜C3アルケニル;ハロゲン、CF3;-CONR5R4;-COOR5;-COR5;-(CH2)qNR5R4;-(CH2)qSOR5;-(CH2)qSO2R5、-(CH2)qSO2NR5R4;およびOR5から選択される(ここで、R4およびR5は各々独立に水素または直鎖もしくは分岐のC1〜C3アルキルである)。Xに有機基が使用される場合、pは1であるべきである。さらに、Xは、1〜4個のアミノ酸がSDF-1に付加されるよう、前述のようなタンパク新生アミノ酸を表し得、これらの付加されたアミノ酸のうちの一つまたは複数がプロテアーゼ保護有機基と置換されてもよい。
【0023】
式Xp-SDF-1において、SDF-1は、任意で、前記のようなSEQ ID NO:52の4位および/または5位の任意の変異を含み得る。従って、本発明は、Xおよびpが前記定義の通りであり、mSDF-1がSEQ ID NO:53;SEQ ID NO:54;SEQ ID NO:55;およびSEQ ID NO:56から選択されるXp-mSDF-1型のペプチドを包含する。これらの二重変異ペプチドは、DPPIVおよびMMP-2の両方に対して耐性であると考えられる。
【0024】
本発明は、上記mSDF-1、Xp-SDF-1、またはXp-mSDF-1の配列のいずれかが、生物学的に適合性の膜を形成することができる自己集合ペプチドに連結された融合タンパク質も包含する。プロテアーゼ耐性SDF-1が付着している膜は、組織傷害、特に心組織傷害、創傷(事故、手術、もしくは疾患の結果を問わない)、または潰瘍の部位において患者に移植され得、長期間にわたりその部位においてSDF-1生物学的活性を維持すると考えられる。融合タンパク質は、プロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドのC末端を直接自己集合ペプチドのN末端に接合させることにより形成されてもよいし、または二つのペプチドがリンカー配列により接合されてもよい。従って、本発明は、式:A-(L)n-(R)qの融合タンパク質を含み、ここで、nは0〜3の整数であり、qは1〜3の整数であり、Aは前記プロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドのうちの一つ(すなわちmSDF-1、Xp-SDF-1、またはXp-mSDF-1)であり、Lは3〜9アミノ酸長のリンカー配列であり、Rは


からなる群より選択される自己集合ペプチドである。
【0025】
最も好ましい自己集合ペプチドは、q=1である

であり;好ましいプロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドは、SDF(S4V)およびXp-SDF(S4V)、特にp=1であるものである。接合された場合、得られる融合タンパク質は、簡便のため、SDF(S4V)-RADまたはXp-SDF(S4V)-RADと略記される。好ましいリンカー配列は、n=1であり、Lが

である場合に起こる。最後のものはMMP-2切断部位(「MCS」)を表す。

は、MCSのスクランブルされたバージョンを表し、「SCR」と略記される。驚くべきことに、この配列も、MCSより低い速度ではあるが、MMP-2切断を受けることが見出された。リンカー配列を含有する好ましい融合タンパク質は、

である。この場合も上記と同様に、pは好ましくは1である。
【0026】
もう一つの局面において、本発明は、前記のプロテアーゼ耐性ペプチドまたは融合タンパク質のうちのいずれかをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、これらの核酸がプロモーター配列に機能的に連結されているベクター、およびこのベクターで形質転換された宿主細胞に関する。「機能的に連結された」という用語は、正常な機能を果たすことを可能にする様式で接合された遺伝因子をさす。例えば、ペプチドをコードする配列は、その転写がプロモーターの制御下にあり、作製された転写物がペプチドへと正確に翻訳される場合に、プロモーターと機能的に連結されている。
【0027】
プロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドおよび融合タンパク質をコードする好ましい核酸は、

を含む。
【0028】
もう一つの局面において、本発明は、mSDF-1、Xp-SDF-1、またはXp-mSDF-1ペプチドが付着している、米国特許出願公開第20060148703号および第20060088510号に記載されたような自己集合ペプチドから形成された生物学的に適合性の膜に関する。「生物学的に適合性の」という用語は、膜が非毒性であり、免疫応答を誘発することなく患者に移植され得ることを示す。膜へと集合するペプチドの0.1〜10%(および好ましくは0.5〜5%)が、変異体SDF-1と結合している。結合は共有結合性であってもよいし、または非共有結合性であってもよい。非共有結合は、プロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドが、膜マトリックスに単純に捕捉されている場合、およびプロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドがビオチン/アビジン結合により膜中の自己集合ペプチドに結合している場合に起こる。本明細書において使用される、「アビジン」という用語はストレプトアビジンも含むものとする。任意で、他の治療剤、例えば、PDGFまたはインターロイキン8が、膜に付着していてもよい。
【0029】
分子を連結するためのビオチンおよびアビジンの使用は、当技術分野において周知であり、膜形成の前または後のいずれかに、プロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドを自己集合ペプチドに付着させるために、標準的な方法論が使用され得る。自己集合膜に関連してビオチン/アビジンを使用するための具体的な方法論は、米国特許第20060088510号に記載されており、この方法論が、サイトカインが付着している膜の形成に適用され得る。ビオチン/アビジン基とプロテアーゼ耐性ペプチドとの間の立体干渉を防止するため、二つの間にスペーサーが含まれてもよい。スペーサーは、1〜15(好ましくは1〜10)脂肪酸または1〜15(好ましくは1〜10)アミノ酸の形態をとり得、さらに少なくとも12オングストロームかつ250オングストローム以下だけ、プロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドを自己集合ペプチドから隔離するべきである。この型のスペーサーを組み入れるための方法論は、当技術分野において周知である。好ましい態様において、膜中に使用された自己集合ペプチドの約1%がプロテアーゼ耐性SDF-1に付着している。膜を構成する自己集合ペプチドが均質であること、即ち、全てのペプチドが同一であることも好ましい。
【0030】
別法として、プロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドは、ペプチド結合により、膜の一部である自己集合ペプチドと接合され得る、即ち、プロテアーゼ耐性SDF-1は、直接または介在するリンカーアミノ酸配列を介して自己集合ペプチドと接合されている融合タンパク質の一部であり得る。前記融合タンパク質のうちの任意のものが使用され得、

が特に好ましい。膜は、本明細書に記載の自己集合ペプチドが水中では凝集しないが、低濃度の単価金属カチオンの存在下では膜へと集合するという事実を利用することにより、融合タンパク質から(または自己集合ペプチドから)作製され得る。従って、例えば、融合タンパク質は、自己集合が起こらない条件の下で作製され、次いで膜形成を促進する条件、例えば、低い単価金属カチオン濃度へと曝され得る。最終的な結果は、患者へ移植され得、高度に集中したSDF-1生物学的活性を移植の部位において維持するであろうマトリックスである。または、融合タンパク質が、自己集合を誘導するには低すぎる単価カチオン濃度で、注射可能な薬学的組成物に組み入れられ、次いでインビボで膜形成を誘導するため患者へ投与されてもよい。
【0031】
変異SDF-1ペプチドは、MMP-2および/またはDPPIVによる切断に対して耐性であるが、ネイティブSDF-1の化学誘引物質活性の少なくとも一部(少なくとも10%、および好ましくは25%、50%、または80%を上回る)を維持している。従って、それらは、MMP-2(またはDPPIV)が高濃度で存在する傷害を受けた心組織のような部位において使用するために理想的に適している。さらに、MMP-2切断部位が、望ましければ、SDF-1ペプチドを自己集合ペプチドと接合しているリンカー領域に置かれてもよい。これは、プロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドが時間の経過と共に移植された膜から放出されることを可能にするであろう。
【0032】
前記組成物は、幹細胞の誘引が再生または治癒を誘導する可能性がある高濃度のMMP-2および/またはDPPIVを特徴とする任意の疾患または状態の処置において有用であるべきである。これは、発作、四肢虚血;創傷治癒;および糖尿病性潰瘍のような炎症性および虚血性の疾患の処置を含むであろう。特に好ましい態様において、本発明は、前記の生物学的に適合性のペプチド膜または融合タンパク質の任意のものを傷害の部位またはその付近に注射または移植することにより、例えば、心臓発作後の傷害を受けた心組織を処置する方法に関する。好ましくは、膜は、患者の傷害を受けた組織、例えば心筋に直接、注射または移植されるであろう。膜は体液によりプロテアーゼ耐性SDF-1が洗浄除去されるのを防止するのに十分な大きさであるべきであり、T細胞の損傷の部位への遊走を促進するために十分な量のmSDF-1が存在するべきである。これらのパラメータに関する案内は、本明細書に記載の実験により提供される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の説明
本発明は、MMP-2および/またはDPPIV切断に対して耐性になるよう変異しており、かつ自発的に集合するペプチドにより形成された膜によって輸送されるSDF-1に、組織を曝すことにより、傷害を受けた組織、例えば傷害を受けた心組織の回復が促進されるという概念に基づく。自己集合ペプチドは、米国特許第5,670,483号および米国特許第6,548,630号(参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)に記載されている。因子を膜に付着させる方法および治療剤の心組織への輸送における膜の使用も記載されている(参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第20060148703号および第20060088510号を参照のこと)。膜を作製し使用するための同じ手法が、本発明に適用され得る。
【0034】
自己集合ペプチドの説明
自己集合のために使用されるペプチドは、少なくとも12残基長であり、疎水性アミノ酸および親水性アミノ酸を交互に含有しているべきである。約200アミノ酸より長いペプチドは、溶解度および膜安定性に関する問題を提示する傾向があり、従って回避されるべきである。理想的には、ペプチドは約12〜24アミノ酸長であるべきである。
【0035】
自己集合ペプチドは相補的でなければならない。これは、一つのペプチドのアミノ酸が、もう一つのペプチドのアミノ酸とイオン結合または水素結合を形成することができなければならないことを意味する。イオン結合は、酸性アミノ酸側鎖と塩基性アミノ酸側鎖との間に形成されるであろう。疎水性塩基性アミノ酸は、Lys、Arg、His、およびOrnを含む。親水性酸性アミノ酸はGluおよびAspである。イオン結合は、一つのペプチドの酸性残基ともう一つのペプチドの塩基性残基との間に形成されるであろう。水素結合を形成するアミノ酸はAsnおよびGlnである。ペプチドに組み入れられ得る疎水性アミノ酸は、Ala、Val、Ile、Met、Phe、Tyr、Trp、Ser、Thr、およびGlyを含む。
【0036】
自己集合ペプチドはまた、「構造的に適合性」でなければならない。これは、それらが、結合する際に、相互に本質的に一定の距離を維持しなければならないことを意味する。ペプチド間距離は、対における各アミノ酸の側鎖上の非分岐原子の数を合計することにより、各々のイオン化または水素結合対について計算され得る。例えば、リジンは5個、グルタミン酸は4個の非分岐原子を側鎖上に有している。異なるペプチド上のこれらの二つの残基間の相互作用は、9原子のペプチド間距離をもたらすであろう。EAKの繰り返し単位のみを含有しているペプチドにおいては、全てのイオン対がリジンおよびグルタメートを含み、従って、一定のペプチド間距離が維持されるであろう。従って、これらのペプチドは、構造的に相補的であろう。ペプチド間距離の変動が複数の原子(約3〜4オングストローム)の分だけ変動するペプチドは、適切にゲルを形成しないであろう。例えば、二つの結合したペプチドが、9原子間隔のイオン対および7原子間隔の他のイオン対を有するのであれば、構造的相補性の要件が満たされていないと考えられる。相補性および構造的適合性の完全な考察は、米国特許第5,670,483号および第6,548,630号に見出され得る。
【0037】
膜は、均質なペプチドの混合物または不均質なペプチドの混合物のいずれかから形成され得ることも認識されるべきである。この文脈で「均質な」という用語は、相互に同一のペプチドを意味する。「不均質な」とは、相互に結合するが構造的に異なるペプチドを示す。均質なペプチドが使用されるか、または不均質なペプチドが使用されるかに関わらず、アミノ酸の配置、長さ、相補性、および構造的適合性に関する要件が適用される。さらに、ペプチドの末端残基のカルボキシル基およびアミノ基は、標準的な基を使用して保護されてもよいし、または保護されなくてもよいことが認識されるべきである。
【0038】
ペプチドの作製
本発明の自己集合ペプチドおよびプロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドは、標準的なN-tert-ブトキシカルボニル(t-Boc)化学を使用した固相ペプチド合成およびn-メチルピロリドン化学を使用したサイクルにより作製され得る。ペプチドは、合成された後、逆相カラムでの高圧液体クロマトグラフィのような手法を使用して精製され得る。純度もHPLCにより査定され得、正確な組成の存在は、アミノ酸分析により決定され得る。mSDF-1ペプチドに適した精製手法は、実施例セクションに記載される。
【0039】
融合タンパク質は、化学合成されてもよいし、または組換えDNA技術を使用して作製されてもよい。これらのタンパク質の完全配列は本明細書に記載され、それらの作製において使用され得るDNA配列の例が提供される。
【0040】
SDF-1の自己集合ペプチドとの結合
いくつかの戦略が、プロテアーゼ耐性SDF-1を自己集合ペプチドに付着させるために使用され得る。一つの戦略は、増殖因子PDGF-BBの組織への輸送において有効であることが以前に示されている非共有結合性の結合である(Hsieh, et al., J. Clin. Invest. 116:237-248 (2006))。
【0041】
第二の付着戦略は、プロテアーゼ耐性SDF-1をビオチン化し、四価ストレプトアビジンをリンカーとして使用して、ビオチン化ペプチドに結合させるビオチン-サンドイッチ法(Davis, et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 103:8155-8160 (2006))である。これを達成するには、プロテアーゼ耐性SDF-1を、ビオチン化のためのアクセプターペプチド(APと呼ばれる;Chen, et al., Nat. Methods 2:99-104 (2005))の15アミノ酸配列とカップリングさせることができる。SDF-1の活性部位はアミノ末端付近に位置しているため、融合タンパク質は、追加の配列をC末端に組み入れることにより作製されるべきである。アクセプターペプチド配列は、大腸菌(E.coli)酵素ビオチンリガーゼ(BirA;Chen, et al., Nat.Methods 2:99-104 (2005))による部位特異的ビオチン化を可能にする。多くの商業的なキットがタンパク質をビオチン化するために利用可能である。しかしながら、これらのキットの多くは、非特異的な様式でリジン残基をビオチン化し、これは、SDF-1のN末端リジンが受容体の結合および活性にとって重要であることが示されているため(Crump, et al., EMBO J. 16:6996-7007 (1997))、mSDF-1活性を減少させ得る。ビオチン化された自己集合ペプチドは、MIT Biopolymers laboratoryにより作製され、ネイティブ自己集合ペプチドと1対100の比率で混合された場合、ナノファイバーの自己集合は妨害されないはずである(Davis, et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 103:8155-8160 (2006))。
【0042】
第三のターゲティング戦略は、変異SDF-1と自己集合ペプチドとの融合タンパク質の構築による、プロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドの自己集合ナノファイバーへの直接的な組み込みである。例えば、mSDF-1がSEQ ID NO:35の16アミノ酸配列とカップリングされ得る。融合タンパク質のこの「RAD」部分は、集合する間にナノファイバー足場に組み込まれると考えられる。
【0043】
膜の形成
本明細書に記載の自己集合ペプチドおよび融合タンパク質は、水中では膜を形成しないが、低濃度の単価金属カチオンの存在下では集合すると考えられる。これらのカチオンの有効性の順序は、Li+>Na+>K+>Cs+である(米国特許第6,548,630号)。5mMという単価カチオンの濃度が、ペプチドが集合するために十分であるはずであり、5Mもの高い濃度もやはり有効である。単価カチオンと会合したアニオンは、本発明にとって重要でなく、アセテート、クロリド、スルフェート、フォスフェート等であり得る。
【0044】
自己集合ペプチドの初期濃度は、形成された膜の最終的なサイズおよび厚さに影響するであろう。一般的に、ペプチド濃度が高いほど、膜形成の程度も高くなる。形成は0.5mMまたは1mg/mlもの低いペプチド濃度で起こり得る。しかしながら、膜は、好ましくは、よりよい取り扱い特徴を促進するため、より高い初期ペプチド濃度、例えば10mg/mlで形成される。全体的に、ペプチド溶液に塩を添加するよりも、塩溶液にペプチドを添加することにより膜を形成させる方が一般により優れている。
【0045】
膜の形成はpHまたは温度による影響を比較的受けない。にもかかわらず、pHは12未満に維持されるべきであり、温度は一般に4〜90℃の範囲にあるべきである。100mMまたはそれ以上の濃度の二価金属カチオンは、不適切な膜形成をもたらし、回避されるべきである。同様に、0.1%またはそれ以上のドデシル硫酸ナトリウムの濃度は回避されるべきである。
【0046】
膜形成は、単純な目視検査によって観察され得、これは、望ましければコンゴレッドのような染料により補助され得る。膜の完全性も、染料を用いて、または用いずに顕微鏡的に観察され得る。
【0047】
薬学的組成物および投与量
プロテアーゼ耐性SDF-1ペプチドまたは融合ペプチドが付着した膜は、生理食塩水、リンゲル溶液、およびその他の薬剤または賦形剤のような担体を含有する薬学的組成物へと組み込まれ得る。剤形は、一般に、特に心組織への、移植または注射のために設計されるが、例えば創傷の処置においては、局所処置も有用であろう。全ての剤形が当技術分野において標準的な方法を使用して調製され得る(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th ed. A. Oslo. ed., Easton, PA (1980)を参照のこと)。
【0048】
熟練した実務者は、臨床医学において十分に確立されている方法を使用して、臨機応変に投与量を調整するであろうと予想される。最適な投与量は、当技術分野において公知の方法により決定され、患者の年齢、疾患の状態、およびその他の臨床的に関連のある要因のような要因によって影響されるであろう。
【0049】
実施例
実施例1:SDF-1変異体の生物学的効果およびプロテアーゼ耐性
SDF-1の精製および発現
成熟SDF-1αのDNA配列はヒトcDNAからpET-Sumoベクターへとクローニングされ得、Sumoプロテアーゼによる切断(69AAのSDF-1型を与える)を容易にするため追加のN末端セリン残基が組み込まれ得る。融合タンパク質は、RAD配列またはAP配列を逆方向プライマーに組み込むことにより作製され得る。Sumo-SDF-1融合タンパク質はRosetta DE3大腸菌において発現され、37℃で1.5(600nm)の光学密度にまで増殖される。細胞は0.25mMイソプロピルβ-D-チオガラクトシドで4時間誘導され、遠心分離により採集される。下記の通り、SDF-1αは3段階の手法により精製され得;全ての段階が21℃で実施される。
【0050】
4-L増殖からの細胞を300mlの溶解緩衝液(6Mのグアニジン、20mMのフォスフェート(pH7.8)、500mMのNaCl)で溶解し、ホモジナイズした。3000gでの遠心分離により細片を収集する。第一の精製段階は、SUMO-SDF-1α融合タンパク質内に存在するポリ-ヒスチジンタグの、ニッケル-NTAによる捕捉からなっていた。ニッケル-NTA樹脂を洗浄緩衝液(8Mの尿素、500mMのNaCl、20mMのフォスフェート(pH6.2))で洗浄し、結合したタンパク質をpH4で溶出させた。さらなる精製および酸化的リフォールディングは、カチオン交換HPLCカラムで実施した。試料を結合緩衝液(8Mの尿素、30mMの2-メルカプトエタノール、1mMのEDTA、50mMのトリス pH8)に調整し、HPLCカラムに負荷した。Sumo-SDF-1のリフォールディングを、リフォールディング緩衝液(50mMのトリス pH8、75mMのNaCl、0.1mMの還元型グルタチオン、および0.1mMの酸化型グルタチオン)の2時間の実行によりカラム上で実施した。Sumo-SDF-1を段階勾配(0.5から1MのNaCl)により溶出させ、濃縮した。SUMO-SDF-1融合タンパク質を、50mMのトリス pH8、500mMのNaCl中で、Sumoプロテアーゼ1(1U/50μgタンパク質)により切断した。試料を0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)に調整し、最終精製段階のためC18逆相HPLCカラムに負荷した。カラムを0.1%TFA中30から40%アセトニトリルの直線勾配に供した。SDF-1を含有している画分を凍結乾燥させ、再懸濁させた。精製されたSDF-1の活性をジャーカットTリンパ細胞株の遊走により試験した。
【0051】
SDF-1構築物の修飾
SDF-1融合構築物を次の三つの配列のうちの一つによる挿入変異誘発により修飾した:一つの配列は、MMP-2分解感受性であり(MMP分解部位またはMCS)、もう一つの配列はランダムな順序であるが同一アミノ酸を含有しており(スクランブル配列またはSCR)、第三の配列はリンカーとして6個のグリシンを含有している。
【0052】
ケモカインにおけるMMP切断部位の変異
MMP-2によりSDF-1をN末端の活性部位において切断し、N末端テトラペプチドおよび不活性SDF-1(5-68)を得る。Netzel-Arnettら(Biochemistry 32:6427-6432 (1993))により記載されたMMP-2の基質配列に基づき、MMP-2切断に対してSDF-1を耐性にするために、4個の異なるアミノ酸の特異的変異誘発を実施した。4個の異なる構築物を発現させ、SDF-1について記載されたようにして精製した。4個の異なる変異のうち、SDF-1(L5W)およびSDF-1(L5E)はT細胞遊走に対する最小の活性を示した。対照的に、SDF-1(S4V)およびSDF-1(L5P)はネイティブSDF-1と同等の生物活性を示した。SDF-1(L5P)は精製がより困難であったため、SDF-1(S4V)をさらなる実験のため選択した。
【0053】
プロテアーゼ感受性および化学誘引物質活性に対する変異の効果
SDF-1の変異型を、100nMの濃度で、ジャーカットT細胞の遊走のアッセイにおいて試験した。このアッセイは、SDF-1(S4V)およびSDF-1(L5P)の両方が、T細胞遊走の促進における非変異SDF-1の活性の大部分を保持していることを示した。この活性はSDF-1(L5W)変異体およびSDF-1(L5E)変異体においては大きく減少していた。
【0054】
変異体を酵素と共に1時間インキュベートし、次いでSDS-PAGEによりインキュベーション産物を調査することにより、MMP-2による切断に対するペプチドの感受性を決定した。これは、変異体が、SDF-1とは異なり、切断を示す位置シフトを起こさないことを明らかにした。MMP-2インキュベーションは、ジャーカットT細胞遊走アッセイにより示されるように、SDF-1の化学誘引物質活性は減少させるが、SDF-1(S4V)の活性は減少させないことも見出された。これらの結果は、SDF-1のS4V変種が、ケモカイン生物活性を保持しているが、MMP-2による活性化に対しては耐性であることを示唆している。
【0055】
インビボデータ
ラットにおける心筋梗塞後の心機能に対する異なるSDF-1型の効果を評価するため、盲検無作為化試験を実施した。心室内圧および心室容積の測定のため、Millarカテーテルシステムにより駆出率を測定した。SDF-1(S4V)-6G-RADおよびSDF-1(S4V)-MCS-RADの両方が、MIのみの群と比較して、ラットにおける心筋梗塞の4週間後の心機能を有意に増加させた。これは、MMP-2耐性(SDF-1(S4V))および膜への付着の両方が心臓修復治療の成功にとって必要であることを示している。
【0056】
実施例2:SDF-1の短縮型を用いた実験
三つのSDF-1の短縮型を商業的に合成した;全てネイティブSDF-1の最初の17アミノ酸を含む。完全SDF-1タンパク質を用いた先の研究に基づき、MMP-2に対しより耐性にするために、SDF-1 17AAの二つの変種を設計した。

【0057】
ジャーカットTリンパ細胞株を用いて遊走実験を実施した。短縮されたSDF-1 17AAは、ネイティブSDF-1より500倍弱い効力を有していたが、誘導された最大の遊走はネイティブSDF-1に類似していた。従って、全長タンパク質と比較して500倍高い濃度を使用すれば、Tリンパ球の同じ遊走応答が観察されるはずである。変異したSDF-1(S4V) 17AAおよびSDF-1(L5P) 17AAは、変異を有しないSDF-1 17AAより3倍弱い効力を有していた。これは、ネイティブSDF-1とSDF-1(S4V)との間に見られたシフトと類似している。
【0058】
MMP-2によるペプチドの切断実験を実施した。2nmolのSDF-1 17AA、SDF-1(S4V) 17AA、およびSDF-1(L5P) 17AAを、室温で1時間、MMP-2と共にインキュベートした。タンパク質をSDS-PAGE上で流したところ、SDF-1 17AAの切断は示されたが、SDF-1(S4V) 17AAまたはSDF-1(L5P) 17AAの切断は示されなかった。従って、これらの短縮タンパク質は、依然として生物活性を有し、かつMMP-2耐性でもあるため、治療的に有用であり得る。
【0059】
本明細書中に引用された全ての引用文献は、参照によりその全体が組み入れられる。以上本発明を十分に説明したが、本発明は、本発明の趣旨もしくは範囲またはそれらのいかなる態様にも影響を与えることなく、広範かつ等価な条件、パラメータ等の範囲内で実施され得ることが当業者によって理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Xp-SDF-1、mSDF-1、およびXp-mSDF-1からなる群より選択される式を有するペプチドを含む単離された変異体ストロマ細胞由来因子1であって、
(a)Xがタンパク新生アミノ酸またはプロテアーゼ保護有機基であり;
(b)pが1〜4の整数であり;
(c)SDF-1が、SEQ ID NO:52の少なくともアミノ酸1〜8のアミノ酸配列を含み、かつSEQ ID NO:52の残りの配列の全部またはアミノ酸9〜68として示される任意の一部の分だけC末端において任意で延長されたペプチドであり;
(d)Xp-SDF-1がT細胞に対する化学誘引物質活性を有しており、かつSDF-1が不活化される速度の半分未満の速度でジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)により不活化され;
(e)mSDF-1が、SDF-1のN末端から4番目および/または5番目のアミノ酸における変異を含むSDF-1の型であり;
(f)mSDF-1がT細胞に対する化学誘引物質活性を有しており、かつSDF-1が不活化される速度の半分未満の速度でマトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP-2)により不活化され、
(g)Xp-mSDF-1がT細胞に対する化学誘引物質活性を有しており、かつSDF-1が不活化される速度の半分未満の速度でDPPIVにより不活化され、かつSDF-1が不活化される速度の半分未満の速度でMMP-2により不活化される
単離された変異体ストロマ細胞由来因子1。
【請求項2】
mSDF-1またはXp-mSDF-1のいずれかを含む、単離された変異体ストロマ細胞由来因子1であって、該mSDF-1が、
(a)SEQ ID NO:53のアミノ酸配列を含み;
(b)SDF-1の感度の少なくとも1/10の感度でT細胞に対する化学誘引物質活性を維持しており;かつ
(c)SDF-1の不活化の速度の四分の一未満の速度でマトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP-2)により不活化される
請求項1記載の単離された変異体ストロマ細胞由来因子1。
【請求項3】
mSDF-1がSEQ ID NO:54のアミノ酸配列を特徴とするSDF(S4V)である、請求項2記載の単離された変異体ストロマ細胞由来因子1。
【請求項4】
mSDF-1またはXp-mSDF-1のいずれかの式を含む、単離された変異体ストロマ細胞由来因子1であって、該mSDF-1が、
(a)SEQ ID NO:55のアミノ酸配列を含み;
(b)SDF-1の感度の少なくとも1/10の感度でT細胞に対する化学誘引物質活性を維持しており;かつ
(c)SDF-1の不活化の速度の四分の一未満の速度でマトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP-2)により不活化される
請求項1記載の単離された変異体ストロマ細胞由来因子1。
【請求項5】
mSDF-1が、SEQ ID NO:56のアミノ酸配列を特徴とするSDF(L5P)である、請求項4記載の単離された変異体ストロマ細胞由来因子1。
【請求項6】
式:A-(L)n-(R)qを含む融合タンパク質であって、Aが請求項1記載の単離された変異体ストロマ細胞由来因子1であり、nが0〜3の整数であり;qが1〜3の整数であり;Lが3〜9アミノ酸のリンカー配列であり、かつRが



からなる群より選択される自己集合ペプチドである、融合タンパク質。
【請求項7】
AがmSDF-1またはXp-mSDF-1のいずれかであり;かつSEQ ID NO:53〜SEQ ID NO:56のいずれか一つのアミノ酸配列を含む、請求項6記載の融合タンパク質。
【請求項8】
n=1であり、かつLが

からなる群より選択される、請求項7記載の融合タンパク質。
【請求項9】
AがSEQ ID NO:54のmSDF-1ペプチドである、請求項8記載の融合タンパク質。
【請求項10】
q=1であり、かつRが

である、請求項9記載の融合タンパク質。
【請求項11】
請求項1記載の単離された変異体ストロマ細胞由来因子1または請求項6記載の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項12】
SEQ ID NO:60〜63からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項11記載の核酸。
【請求項13】
SEQ ID NO:1〜SEQ ID NO:51からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する一つまたは複数の自己集合ペプチドを含み、かつ該自己集合ペプチドの0.1〜10%が請求項1記載の単離された変異体ストロマ細胞由来因子1と結合している、生物学的に適合性のペプチド膜。
【請求項14】
前記の単離された変異体ストロマ細胞由来因子1が、ビオチン/アビジン結合により、生物学的に適合性のペプチド膜中の自己集合ペプチドと結合している、請求項3記載の生物学的に適合性のペプチド膜。
【請求項15】
前記の単離された変異体ストロマ細胞由来因子1を、一つまたは複数の前記自己集合ペプチドから、少なくとも14オングストロームかつ250オングストローム以下だけ隔離するスペーサーが存在する、請求項13記載の生物学的に適合性のペプチド膜。
【請求項16】
mSDF-1ペプチドがペプチド結合により生物学的に適合性のペプチド膜中の自己集合ペプチドと共有結合している、請求項3記載の生物学的に適合性のペプチド膜。
【請求項17】
請求項1記載の変異体ストロマ細胞由来因子1を、傷害を受けた組織に局所投与することを含む、傷害を受けた組織の修復を補助するために患者を処置する方法。
【請求項18】
傷害を受けた組織への局所投与の後に、前記変異体ストロマ細胞由来因子1が、生物学的に適合性の膜に付着するか、または生物学的に適合性の膜を形成する自己集合ペプチドに付着する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
患者が、発作;四肢虚血;外傷による組織傷害;および糖尿病性潰瘍からなる群より選択される疾患または状態のために処置される、請求項17記載の方法。
【請求項20】
患者が心組織の傷害のために処置される、生物学的に適合性のペプチド膜を該患者の心筋へ注射または移植することを含む、請求項17記載の方法。

【公表番号】特表2010−507391(P2010−507391A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534607(P2009−534607)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/022394
【国際公開番号】WO2008/051505
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(503146324)ザ ブリガム アンド ウィメンズ ホスピタル インコーポレイテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】The Brigham and Women’s Hospital, Inc.
【Fターム(参考)】