説明

組織染色用シートおよびその使用方法

【課題】簡便に1枚のスライドプレート上で少なくとも1種類以上の抗体又はプローブを用いて蛋白質や遺伝子の発現の局在を可視化可能とする組織染色用シートおよびその使用方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基材2の片面に粘着層3を有し、基材2に複数の貫通孔4を設けた。また複数の貫通孔4はそれぞれ独立した区画を形成した。組織染色用シート1の粘着層3をスライドプレートに密着させることができるため貫通孔4部分の区画内の抗体やプローブ等が他の区画内に混入することなく、簡易に1枚のスライドプレート上で少なくとも1種類以上の抗体又はプローブを用いて蛋白質や遺伝子の発現の局在を可視化可能である。さらに、複数の貫通孔4を設けているため、効率よく免疫染色を行うことができ、作業効率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理標本の免疫染色又はin situハイブリダイゼーションの際に使用する組織染色用シートおよびその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、免疫染色は病理検査領域に広く普及しており、病理診断には必須の技術となっている。免疫染色で使用される抗体数はあらゆる病変に対応できるように年々増加しており、一検体あたり数種類または十数種類の抗体が使用されている。このように複数の抗体を使用した免疫染色においては、検体を固定した1枚のスライドプレートに対して1抗体のみの染色が行われていた。従って、使用する抗体の数と同数のスライドプレートを準備する必要があり、検体を固定したスライドプレートを複数枚作製するのに手間がかかるといった問題があった。
【0003】
このような問題を解決するものとして、非水溶性の液体が充填された免疫染色用のペン(パップペン)が知られている。免疫染色用ペンの使用方法は、スライドプレート上の検体の周りに、囲い(サークル)を作るだけである。この免疫染色用ペンを用いることにより、非水溶性の囲いの中に抗体などの液体を分注した際、抗体などの液体の流出を防止することができるため、1枚のスライドプレートで複数の囲いを作成することで数種類の抗体を染色することができるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のように免疫染色用ペンを用いることにより、1枚のスライドプレートで数種類の抗体を染色することができるものの、1枚のスライドプレートあたり多くとも2〜3個の囲いしか作成できず、その結果2〜3種類の抗体しか使用できないといった問題があった。従って、依然として検体を固定したスライドプレートを複数枚作製する必要があった。また、毎回免疫染色用ペンで囲いを作成する必要があり煩雑であった。しかも、液状のペンで囲いを作っているため囲いの高さが不均一で囲いの外へ抗体が流出してしまうなどの問題もあった。
【0005】
そこで、本発明は、簡便に1枚のスライドプレート上で少なくとも1種類以上の抗体又はプローブを用いて蛋白質や遺伝子の発現の局在を可視化可能とする組織染色用シートおよびその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1記載の組織染色用シートは、基材の片面に粘着層を有し、前記基材に単数又は複数の貫通孔を設けたことを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2記載の組織染色用シートは、請求項1において、前記貫通孔は独立した区画を形成することを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項3記載の組織染色用シートは、請求項1又は2において、前記基材の材質が疎水性であることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項4記載の組織染色用シートの使用方法は、請求項1〜3のいずれかに記載の組織染色用シートの使用方法であって、被検体を載置したスライドプレート上に前記組織染色用シートを貼着し、前記組織染色用シートの貫通孔内への抗体又はプローブの分注と洗浄を行い、前記被検体を染色した後、前記組織染色用シートを前記スライドプレートから剥離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1記載の組織染色用シートによれば、組織染色用シートの粘着層をスライドプレートに密着させることができるため貫通孔部分の区画内の抗体やプローブ等が他の区画内に混入せず、簡便に1枚のスライドプレート上で少なくとも1種類以上の抗体又はプローブを用いて蛋白質や遺伝子の発現の局在を可視化することが可能である。さらに、複数の貫通孔を設けているため、効率よく免疫染色やin situハイブリダイゼーションを行うことができる。また、スライドプレートの使用枚数を節約することができる。
【0011】
本発明の請求項2記載の組織染色用シートによれば、組織染色用シートの粘着層をスライドプレートに密着させることにより貫通孔部分の区画内の抗体やプローブ等が他の区画内に混入しないため、1枚のスライドプレートで精度よく検査を行うことができる。
【0012】
本発明の請求項3記載の組織染色用シートによれば、抗体又はプローブを貫通孔の区画内に分注した際に、他の区画内に抗体又はプローブが浸透するのを防止し、少なくとも1種類以上の抗体やプローブを1枚のスライドプレートで反応させることができる。また、抗体又はプローブを分注後、洗浄することができる。
【0013】
本発明の請求項4記載の組織染色用シートの使用方法によれば、容易に少なくとも1種類以上の抗体又はプローブを用いて蛋白質や遺伝子の発現の局在を可視化することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書において、免疫染色とは、被検体である組織切片上の対象物(抗原)に対する特異抗体を反応させ、さらに抗原抗体反応、あるいは化学反応を巧みに組み合わせて特異抗体と標識酵素の免疫複合体を形成し、最終的に標識酵素の発色反応によって抗原の存在を可視化するものである。また、in situハイブリダイゼーションとは、標識したDNAプローブ或いはRNAプローブを用いて、被検体組織中の目的遺伝子(mRNA)とハイブリッドを形成させ、被検体の細胞や組織を染色し、遺伝子(mRNA)の細胞或いは組織での局在を可視化するものである。
【0015】
以下、本発明の一実施形態を示す組織染色用シートについて、図面を参照しながら説明する。図1の(a)は本発明に係わる組織染色用シートの一実施形態を示す平面図であり、図1の(b)は図1(a)に示す平面図におけるX−X’線の断面を示す断面図である。
【0016】
本発明の組織染色用シート1は、基材2の片面に粘着層3を有し、基材2に複数の貫通孔4を設けている。また、複数の貫通孔4はそれぞれ独立した区画を形成している。図1では18個の貫通孔4が設けられているが、1回の検査で多くのサンプルを検査できる利点からこれよりも多い孔数であってもよく、勿論少ない孔数や1個の孔であってもよい。また、貫通孔4の形状は、例えば、丸形、四角形、三角形等の種々の形状に成形してもよく、特に限定されるものではない。さらに、貫通孔4から貫通孔4までのピッチ、貫通孔4の大きさも、適宜変更可能である。
【0017】
基材2の材質は、疎水性であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,ポリエステル,ポリエチレン等の樹脂類等が挙げられる。また、粘着層3の粘着剤としては、例えば、アクリル系, ゴム系, シリコーン系, ウレタン系の粘着剤が挙げられ、これらの1種または2種以上の粘着剤を適宜組み合わせて使用してもよい。また、基材2や粘着層3の厚さは、特に限定されるものではない。
【0018】
組織染色用シート1のサイズは、スライドプレートに貼着することから、市販のスライドプレートと略等大状のものが好ましく、例えば、日本規格の26×76mmのスライドガラスを用いる場合、組織染色用シート1のサイズは26×76mm、米国規格の3×1インチのスライドガラスを用いる場合、組織染色用シート1のサイズは3×1インチ、ヨーロッパ規格の25×75mmのスライドガラスを用いる場合、組織染色用シート1のサイズは25×75mmとすることが好ましい。勿論、これらのサイズよりも小さい又は大きいものであってもよい。
【0019】
次に、上述の構成からなる組織染色用シート1の使用方法を説明する。図2は、本発明の組織染色用シートの使用方法の一実施形態である工程を示す説明図である。なお、ここでは免疫染色における組織染色用シートの使用方法を説明する。
【0020】
工程1では、常法の標本作製法に従って、スライドプレート5に載置されパラフィンなどの包埋剤で包埋された組織切片等の被検体6を、染色に先立って包埋剤をキシレン等を用いて除去し、被検体6を露出させる。
【0021】
工程2では、組織染色用シート1の粘着層3を、被検体6が載置されたスライドプレート5の面に貼着する。その後、貫通孔4に各々異なる抗体を分注し、被検体6上の抗原に結合しなかった余分の抗体を1回目の洗浄操作により除去する。1回目の洗浄操作後、標識抗体を分注し、スライドプレート5上に固定された抗原に結合した抗体に標識抗体を反応させる。次いで、抗体に結合しなかった標識抗体を2回目の洗浄操作により除去する。2回目の洗浄操作後、染色基質を分注し、標識抗体が結合した部位を染色基質により染色する。染色後、余分の染色基質を3回目の洗浄操作により除去する。なお、標識抗体としては、例えば抗イムノグロブリン、抗IgG、抗IgM、抗IgA、抗IgEなどの抗体を、ペルオキシダ−ゼ、アルカリ性フォスファタ−ゼなどの酵素、またはビオチンなどで標識したものを挙げることができる。また、染色基質としては、標識抗体が例えばペルオキシダ−ゼの場合、ジアミノベンチジンなどが用いられる。
【0022】
工程3では、工程2の染色操作が終了したスライドプレート5から組織染色用シート1を剥離する。なお、図2の工程3に示す図は、組織染色用シート1を剥離した状態のものであって、染色された抗原のみが可視化される。その後、染色された抗原などの乾燥を防ぐために、スライドプレート5上の抗原にエンテランニュー等の封入剤を滴下し、封入する。
【0023】
以上の工程1〜工程3において、本発明の組織染色用シートの使用方法は、被検体6を載置したスライドプレート5上に組織染色用シート1を貼着し、組織染色用シート1の貫通孔4内への抗体等の分注と洗浄を行い、被検体6を染色した後、組織染色用シート1をスライドプレート5から剥離するので、容易に少なくとも1種類以上の抗体染色を1枚のスライドプレート上で実施可能である。また、抗体を各々の貫通孔4に分注した際、貫通孔4がそれぞれ独立した区画を形成しているため、他の区画にある被検体6、或いは他の貫通孔4に分注した抗体と混合する虞がない。さらに、ある貫通孔4に分注した抗体などが、他の貫通孔4に流出することなく、少なくとも1種類以上の抗体を1枚のスライドプレートで反応させることができる。さらに、組織染色用シート1をスライドプレート5に貼着するのみであるため、貼着後の染色工程の手間を軽減することが可能である。
【0024】
以上の本発明の組織染色用シート1によれば、組織染色用シート1の粘着層3をスライドプレート5に密着させることができため、貫通孔4部分の区画内の抗体等が他の区画内に混入せずに、簡易に1枚のスライドプレート上で少なくとも1種類以上の抗体の染色が可能である。さらに、複数の貫通孔4を設けているため、効率よく免疫染色を行うことができる。また、スライドプレートの使用枚数を節約することができる。また、抗体を貫通孔4に分注するため、少量の抗体で反応させることができ、抗体を節約することができる。さらに、貫通孔4部分の区画内の抗体等が他の区画内に混入しないため、1枚のスライドプレートで精度よく検査を行うことができる。
【0025】
また、本発明の組織染色用シートは、in situハイブリダイゼーションにおいても使用可能である。具体的には、被検体6を載置したスライドプレート上に組織染色用シート1を貼着し、組織染色用シート1の貫通孔4内へ標識化したDNAプローブあるいはRNAプローブの分注を行い、被検体6組織中のmRNAとハイブリダイズさせる。そして、洗浄により被検体6組織中のmRNAに該プローブがハイブリダイズした複合体と、ハイブリダイズしない遊離状態のプローブとの分離を行い、遊離プローブを除去する。そして、被検体6組織中のmRNAにハイブリダイズした標識プローブを染色又は発色させた後、組織染色用シート1をスライドプレート5から剥離した。その後、常法により封入した。
【0026】
なお、標識化したプローブの標識物質としては、例えば放射性物質,蛍光物質,化学または生物発光物質,酵素および生物学的親和性物質などが挙げられる。また、プローブとしては、化学合成したオリゴヌクレオチド,DNAポリメラーゼを用いて合成したDNAプローブ,RNAポリメラーゼを用いて合成したRNAプローブを挙げることができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。
【実施例1】
【0028】
図3は本発明の組織染色用シート1の実施例を示し、上記実施形態と同一部分に同一符号を付す。図3に示すように、ポリプロピレン製の基材2の裏面に、粘着層3を形成した部分の組織染色用シート1には、縦10×横5個の計50個の貫通孔4が等間隔に設けられている。また、組織染色用シート1の上面には、貫通孔4の位置を識別するための数字(1〜10)及び英字(A〜E)が付されている。また、組織染色用シート1の一端には、組織染色用シート1を貼ったり剥がしたりするための把手部7が設けられ、把手部7は基材2のみからなっている。
【0029】
なお、組織染色用シート1は、24×70mmの寸法となるように裁断され、約0.1〜2mmの厚さを有する。また、本実施例の組織染色用シート1は柔軟性を有し、被検体6が透けて見えるように透明なシートである。
【0030】
次に、本実施例の組織染色用シート1を用いて免疫染色を行った。被検体6を載置したスライドプレート上に組織染色用シート1を貼着し、組織染色用シート1の貫通孔4内への抗体等の分注と洗浄を行い、被検体6を染色した後、組織染色用シート1をスライドプレート5から剥離した。その後、常法により封入した。
【0031】
本実施例の組織染色用シート1によれば、基材2の片面に粘着層3を有し、基材2に複数の貫通孔4を設けたので、組織染色用シート1の粘着層3をスライドプレート5に密着させることができるため貫通孔4部分の区画内の抗体等が他の区画内に混入せず、簡易に1枚のスライドプレート上で多種類の抗体の染色が可能である。さらに、複数の貫通孔4を設けているため、効率よく免疫染色を行うことができる。また、抗体を貫通孔4に分注するため、少量の抗体で反応させることができ、抗体を節約することができる。また、スライドプレート5の使用枚数を節約することができる。
【0032】
本実施例の組織染色用シート1によれば、複数の貫通孔4はそれぞれ独立した区画を形成するので、貫通孔4の区画内の抗体等が他の区画内に混入しないため、1枚のスライドプレートで精度よく検査を行うことができる。
【0033】
本実施例の組織染色用シート1によれば、基材2の材質が疎水性であるので、抗体及び/又は染色液を貫通孔4の区画内に分注した際に、他の区画内に抗体や染色液が浸透するのを防止し、多種類の抗体を1枚のスライドプレートで反応させることができる。また、抗体や染色液を分注後、洗浄することができる。
【0034】
本実施例の組織染色用シート1の使用方法によれば、被検体6を載置したスライドプレート5上に組織染色用シート1を貼着し、組織染色用シート1の貫通孔4内への抗体の分注と洗浄を行い、被検体6を染色した後、組織染色用シート1をスライドプレート5から剥離するので、容易に多種類の抗体染色を1枚のスライドプレート上で実施可能である。
【0035】
また、実施例上の効果として、組織染色用シート1が柔軟性を有しているため、組織染色用シート1の粘着層3をスライドプレート5に密着させやすく、他の貫通孔4の独立した区画への抗体及び/又は染色液の浸透を防止することができる。さらに、粘着層3を有さない把手部7が組織染色用シート1に設けられているため、スライドプレート5への貼着や剥離操作を容易に行うことができる。
【実施例2】
【0036】
上述した実施例1の組織染色用シート1を用いてin situハイブリダイゼーションを行った。まず、被検体6を載置したスライドプレート上に組織染色用シート1を貼着し、組織染色用シート1の貫通孔4内へジゴキシゲニンで標識化したDNAプローブを分注し、被検体6組織中のmRNAとハイブリダイズさせた。次いで、過剰の標識プローブを洗浄した後、酵素標識した抗ジゴキシゲニン抗体(Fabフラグメント)を加え、結合させた。そして、酵素反応により標識核酸の存在部位を染色した後、組織染色用シート1をスライドプレート5から剥離した。その後、常法により封入した。
【0037】
本実施例の組織染色用シート1の使用方法によれば、被検体6を載置したスライドプレート5上に組織染色用シート1を貼着し、組織染色用シート1の貫通孔4内へのプローブの分注と洗浄を行い、被検体6を染色した後、組織染色用シート1をスライドプレート5から剥離するので、組織染色用シート1の粘着層3をスライドプレート5に密着させることができるため貫通孔4部分の区画内のプローブ等が他の区画内に混入せず、簡便に1枚のスライドプレート上で多種類のプローブを用いて遺伝子の発現の局在を可視化することが可能である。また、効率よくin situハイブリダイゼーションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)は本発明の組織染色用シートの一実施形態を示す平面図であり、(b)は(a)に示す平面図におけるX−X’線の断面を示す断面図である。
【図2】本発明の組織染色用シートの使用方法の一実施形態である工程を示す説明図である。
【図3】本発明の第1実施例における組織染色用シートの斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
1 組織染色用シート
2 基材
3 粘着層
4 貫通孔
5 スライドプレート
6 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面に粘着層を有し、前記基材に単数又は複数の貫通孔を設けたことを特徴とする組織染色用シート。
【請求項2】
前記貫通孔は独立した区画を形成することを特徴とする請求項1記載の組織染色用シート。
【請求項3】
前記基材の材質が疎水性であることを特徴とする請求項1又は2記載の組織染色用シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の組織染色用シートの使用方法であって、被検体を載置したスライドプレート上に前記組織染色用シートを貼着し、前記組織染色用シートの貫通孔内への抗体又はプローブの分注と洗浄を行い、前記被検体を染色した後、前記組織染色用シートを前記スライドプレートから剥離することを特徴とする組織染色用シートの使用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate