説明

組織線維化阻害剤

【課題】 生体組織の線維化を効果的に抑制し得る組織線維化阻害剤、これを産業上有効利用できる態様の組成物を提供する。
【解決手段】 アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分、該可溶成分をエタノール濃度が44%未満の含水エタノールで抽出した不溶残渣、望ましくはエタノール濃度が29%の含水エタノールに可溶の成分であり且つエタノール濃度が43%の含水エタノールに不溶の残渣を有効成分としてなる組織線維化阻害剤が提供される。又、該組織線維化阻害剤を含有してなる飲食品が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アガリクス茸の菌糸体培養物から得られる抽出物又はその分画物を有効成分としてなる組織線維化阻害剤に係り、又、該組織線維化阻害剤を利用してなる飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肝臓、肺、腎臓、膵臓、皮膚等の組織の線維化は重篤な疾患につながる。例えば、肝臓疾患においては、まず急性肝炎が起き、それらの一部が慢性化すると慢性肝炎となり、長い歳月を経て肝硬変に進行する。それに肝癌が進行すれば致命的になる。急性肝炎が治癒しなければ慢性肝炎に至るが、同時に肝細胞の連続的な損傷に伴う再生が見られ、殆どの場合十分な肝機能を保っている。しかし、その一方では、壊死した肝細胞を貧食するためにマクロファージが活性化し、他方では、伊東細胞と呼ばれる脂肪摂取細胞等が線維産生細胞に形質転換し、増殖される。それらの線維産生細胞が線維を増生し、肝小葉を破壊する。それに肝細胞増殖が伴って肝硬変を引き起こし、その結果肝機能が徐々に低下して、肝不全あるいは肝硬変合併症を引き起こし死に至る。かかる線維化を抑制できれば、肝硬変の予防ができ、十分な肝機能を保つ慢性肝炎患者の長期生存が期待できる。又、肝癌は主に肝硬変に合併するため、肝硬変の予防は肝癌の予防につながる最も望ましい治療法である。
【0003】
肝炎は主にウィルス性肝炎とアルコール性肝炎に分類される。急性ウィルス性肝炎の10〜50%は慢性肝炎に移行し、慢性肝炎の有効な治療法がないため、該患者の多くは組織の線維化が進行し、肝硬変に至る。慢性肝炎期に徐々に進行する肝臓の線維化は線維産生細胞が増殖し、線維素を分泌することにより起こる。又、アルコール性肝炎では、脂肪肝に続いて早期から肝臓の線維化が進行する。線維化はウィルス性肝炎の場合と同様に線維産生細胞が増殖し、繊維素を分泌することにより起こる。従って、線維産生細胞の増殖、線維素の分泌を抑制することができれば、肝臓の線維化は抑制され、肝硬変や肝癌の発生を抑制することが期待でき、これらの治療や改善に有効である。
【0004】
現在利用されている肝臓疾患治療薬には、インターフェロン等の抗ウィルス薬、肝細胞の機能低下を補う肝機能改善薬、炎症を沈静化するための抗炎症薬、あるいは肝癌を治療するための抗癌剤等がある。しかしながら、肝疾患への進行を阻止できるものはない。上記以外の肝臓疾患治療薬として、肝硬変への移行を抑制するための肝線維化抑制薬が望まれているが、現在臨床に使用されているものはない。更に、肺、腎臓、膵臓あるいは皮膚等の組織においても、線維化は重篤な疾患につながるが、線維化を抑制する物質も臨床で使用されているものはないのが実状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる現状に鑑み、本発明は、組織の線維化を効果的に抑制し得る組織線維化阻害剤を開発し、これを産業上有効利用できる態様の組成物として提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明者の一人は、アガリクス茸菌糸体の熱水抽出物及びこれを特定濃度の含水エタノールで分画した成分に組織線維化抑制効果があることを見出し、先に特許出願した(特願2005−164251号)。その後、更に検討を重ねた結果、組織の線維化をより一層効果的に抑制することができる組織繊維化阻害剤を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、前記課題を解決するための手段として、本発明では、(1)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出して得られる抽出物を有効成分としてなる組織線維化阻害剤が提供される。ここで、前記抽出物は、(2)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を得、次いで該水可溶成分をエタノール濃度が43%の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣であることが望ましい。又、前記不溶残渣は、(3)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を、エタノール濃度が29%の含水エタノールで抽出して得られる可溶成分であり、且つ、エタノール濃度が43%の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣であることが望ましい。
【0008】
又、本発明では、(1)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出して得られる抽出物、(2)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を得、次いで該水可溶成分をエタノール濃度が43%の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣、又は、(3)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を、エタノール濃度が29%の含水エタノールで抽出して得られる可溶成分であり、且つ、エタノール濃度が43%の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣、のいずれかを有効成分として含有してなることを特徴とする組織線維化阻害剤が提供される。
【0009】
更に、本発明では、(1)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出して得られる抽出物を有効成分としてなる組織線維化阻害剤、(2)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を得、次いで該水可溶成分をエタノール濃度が44%未満の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣を有効成分としてなる組織線維化阻害剤、又は、(3)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を、エタノール濃度が29%の含水エタノールで抽出して得られる可溶成分であり、且つ、エタノール濃度が43%の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣を有効成分としてなる組織線維化阻害剤、を含有してなる組織の線維化抑制用飲食品が提供される。
【0010】
更にまた、本発明では、組織の線維化を抑制するために、(1)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出して得られる抽出物、(2)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を更にエタノール濃度が44%未満の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣、又は、(3)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を、エタノール濃度が29%の含水エタノールで抽出して得られる可溶成分であり、且つ、エタノール濃度が43%の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣、を使用する手段が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組織線維化阻害剤は、組織における線維の形成を抑制することができ、従って、組織線維化に起因する肝硬変や肝癌、肺線維症、間質性肺炎等の重篤な疾患、心筋梗塞後の心筋線維化、冠動脈形成後の血管内皮肥厚等の病態形成の発生を阻止することが可能となる。本発明で用いるアガリクス菌糸体抽出物やその分画物は安全性に問題なく、又、アガリクス菌糸体抽出物やその分画物を簡便且つ低コストで製造できるため、早期の臨床応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明で使用するアガリクス茸(学名:アガリクス ブラゼイ ムリル(Agaricus blazei Murill))は、担子菌類ハラタケ属に属するもので、別名カワリハラタケ、ヒメマツタケ等とも称されている。アガリクス茸の菌糸体はアガリクス茸の種菌を培養して得ることができる。菌糸体の培養は担子菌類の培養に通常用いられる固体培養法(菌床培養、ビン培養等)又は液体培養法のいずれでもよいが、培養物の製造管理や品質安定性の点から液体培養法が好ましい。
【0013】
培養の培地としては、特に制限はなく、菌の発育に必要な栄養分が含まれていればよい。すなわち、グルコース、シュークロース、マルトース、澱粉等の炭素源、硫安、硝安、硝酸ソーダ、尿素等の窒素源、バガス、麦芽エキス、ペプトン、V−8ジュース、麹エキス、酵母エキス、酵母粉、玉葱エキス、コーンスティープリカー、米糠、脱脂米糠、ふすま等の天然の複合栄養源、リン酸、塩酸等の無機酸、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄等のミネラル類、カロテノイド、アスコルビン酸、トコフェロール、ビオチン、ナイアシン、シアノコバラミン等のビタミン類、その他微量元素を適宜に利用できる。
【0014】
培養方法は通常好気条件がよく、例えば、振とう培養法あるいは通気撹拌培養法が用いられる。培養温度は約25℃〜約30℃が好ましい。培養pHは5〜7が好適であり、望ましくは5.5〜6.5である。培養時間は、培養条件により異なるが、菌糸体の生育があれば差し支えなく、最大の菌糸体が生育する日数がよく、通常は約1週間〜約4ヵ月である。通気撹拌培養では、撹拌速度が80〜150rpm、通気量が0.5〜1.5vvmで培養するのが好ましい。培養終了後、菌糸体を含む培養物を常法により滅菌し、2〜5倍量(V/V)の常温水に懸濁させ、菌糸体を破砕する。
【0015】
本発明に係る抽出物は、前述のようにして得た菌糸体を抽出処理して得ることができる。すなわち、菌糸体の前記懸濁液に水を加え、常法により抽出処理して水に可溶の成分を得る。この場合、水は45℃以下でよく、常温水を使用するのが簡便である。懸濁液と水との比率(V/V)は、例えば、懸濁液1に対して水1〜6倍量が望ましい。抽出時間は、抽出温度により異なるが、概ね0.5〜3時間であり、可溶成分が十分に溶け出るまで行うのが好ましい。次いで、濾過又は遠心分離等の公知分離手段を用いて不溶残渣を除去して水溶液を採取し、該水溶液を適宜に濃縮、乾燥処理に供して本発明に係る水可溶成分を得る。尚、前記抽出処理は、1回目の水不溶残渣に2回以上同条件で抽出処理を繰り返すことによって水可溶成分の収量を増やすことができる。又、前記の濃縮、乾燥処理は、加熱による成分変質を防止するため、減圧濃縮乾燥法、凍結乾燥法で処理するのがよい。かかる方法により得られる水可溶成分は、前記抽出溶液から不溶残渣を除去した溶液の形態又はこれを濃縮乾燥した形態で本発明に用いることができる。尚、乾燥物とした場合は、次に行うエタノール分画処理に先立ち、5〜15倍量(V/W)の水に溶解し、更に不溶物があればこれを濾過又は遠心分離で取り除くことが望ましい。
【0016】
次いで、エタノール分画処理により、エタノール濃度が44%(V/V)未満の含水エタノールに不溶な残渣成分を回収する。すなわち、前記の水可溶成分にエタノール濃度が44%(V/V)未満となるようにエタノールを加え、15〜25℃で、1〜3時間、適宜に撹拌及び静置した後、濾過又は遠心分離して不溶残渣を回収する。分離された残渣に含まれる前記含水エタノールに不溶な成分は、そのまま本発明に用いることができるが、更に精製処理を施してもよい。又、適当な濃縮操作により濃縮し、濃縮液として用いることもできる。
【0017】
本発明では、エタノール濃度が44%(V/V)未満の含水エタノールに不溶な残渣成分を採取するために、次に述べるようなエタノール濃度勾配分画処理を施すことが望ましい。すなわち、前記の水可溶成分に、例えば、エタノール濃度が17%(V/V)となるようにエタノールを加え、15〜25℃で、1〜3時間、適宜に撹拌及び静置した後、濾過又は遠心分離して不溶画分(17%エタノール不溶残渣)及び可溶画分(17%エタノール可溶液体)を採取する。次に、前記可溶画分にエタノール濃度が29%(V/V)となるようにエタノールを加え、同様に処理して不溶画分(29%エタノール不溶残渣)及び可溶画分(29%エタノール可溶液体)を採取する。以後、同様に処理して不溶画分(38%エタノール不溶残渣)及び可溶画分(38%エタノール可溶液体)を採取し、更に不溶画分(43%エタノール不溶残渣)及び可溶画分(43%エタノール可溶液体)を採取する。
【0018】
このように分画処理した場合、いずれの不溶画分も本発明の所望の効果を奏するが、とりわけ、38%エタノール不溶残渣すなわちアルコール濃度が29%の含水エタノールに可溶の成分であり且つアルコール濃度が38%の含水エタノールに不溶の残渣、及び、43%エタノール不溶残渣すなわちアルコール濃度が38%の含水エタノールに可溶の成分であり且つアルコール濃度が43%の含水エタノールに不溶の残渣、において顕著な所望効果を奏する。とくに後者が最も望ましい。
【0019】
本発明では、前記の水可溶成分に、例えば、エタノール濃度が29%(V/V)となるようにエタノールを加え、15〜25℃で、1〜3時間、適宜に撹拌及び静置した後、濾過又は遠心分離して不溶画分(29%エタノール不溶残渣)及び可溶画分(29%エタノール可溶液体)を採取し、これに引き続いて、前記可溶画分にエタノール濃度が43%(V/V)となるようにエタノールを加え、同様に処理して不溶画分(43%エタノール不溶残渣)を採取することによっても同様の所望効果が発現する。すなわち、アルコール濃度が29%の含水エタノールに可溶の成分であり且つアルコール濃度が43%の含水エタノールに不溶の残渣が顕著な所望効果を奏する。
【0020】
本発明の組織線維化阻害剤は、前述したアガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した抽出物(水可溶成分)、望ましくは該抽出物(水可溶成分)をエタノール濃度が44%未満の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣、より望ましくは前記抽出物(水可溶成分)をエタノール濃度が29%の含水エタノールで抽出して得られる可溶成分であり且つエタノール濃度が43%の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣、更に望ましくは前記抽出物(水可溶成分)をエタノール濃度が38%の含水エタノールで抽出して得られる可溶成分であり且つエタノール濃度が43%の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣、を有効成分としてなるものである。この場合、これに適宜、薬学的に許容される公知の担体あるいは添加剤、例えば、賦形剤、滑沢剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、酸化防止剤、安定剤、矯味矯臭剤等を併用して錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等の経口的に投与する製剤とすることが好ましい。
【0021】
本発明に係る前記有効成分の有効投与量は、1日あたり約50mg〜約1,500mg(成人)とするのが好ましい。
【0022】
本発明の前記組織線維化阻害剤は、これを飲食品の形態にして利用することもでき、公知の飲食品に配合することも可能である。とくに健康増進を図る栄養補助食品、特定保健用食品、機能性食品、健康食品、濃厚流動食や嚥下障害用食品の治療食等とするのが好ましい。飲食品の形態はとくに制限されず、好適にはドリンク剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ペースト剤等を例示することができる。又、野菜ジュース、果汁飲料、清涼飲料、茶等の飲料類、スープ、ゼリー、プリン、ヨーグルト、ケーキプレミックス製品、菓子類、ふりかけ、味噌、醤油、ソース、ドレッシング、マヨネーズ、植物性クリーム、味噌、焼肉用たれや麺つゆ等の調味料、麺類、うどん、蕎麦、スパゲッティ、蒲鉾やソーセージ等の畜肉魚肉加工食品、ハンバーグ、コロッケ、ふりかけ、佃煮、ジャム、牛乳、クリーム、バター、スプレッドやチーズ等の粉末状、固形状又は液状の乳製品、マーガリン、パン、ケーキ、クッキー、チョコレート、キャンディー、グミ、ガム等の各種一般加工食品に添加して使用することもできる。
【0023】
これらの飲食品を製造するには、本発明の組織線維化阻害剤及び公知の原材料を用い、あるいは公知の原材料の一部を本発明の組織線維化阻害剤で置き換え、公知の方法によって製造すればよい。例えば、本発明の組織線維化阻害剤と、必要に応じてグルコース(ブドウ糖)、デキストリン、乳糖、澱粉又はその加工物、セルロース粉末等の賦形剤、ビタミン、ミネラル、動植物や魚介類の油脂、たん白(動植物や酵母由来の蛋白質、その加水分解物等)、糖質、色素、香料、酸化防止剤、その他の食用添加物、各種栄養機能成分を含む粉末やエキス類等の素材とともに混合して粉末、顆粒、ペレット、錠剤等の形状に加工したり、常法により前記例の一般食品に加工処理したり、これらを混合した液状物をゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース等で被覆してカプセルを成形したり、各種飲料(ドリンク類を含む)の形態に加工する。
【0024】
飲食品に配合する本発明の組織線維化阻害剤の比率は、飲食品の形態、配合原料や成分、使用頻度、組織線維化阻害剤中の有効成分含量等のちがいにより一律に規定しがたいが、飲食品中のアガリクス茸由来の前記有効成分の含量が約0.1重量%〜約90重量%となるように、その他の飲食品用原料を適宜に組み合わせて処方を設計すればよい。約0.1重量%を下回るような飲食品では所望の効果を期待できず、約90重量%を超えるような飲食品は実用的な利便性に劣る。かくして得られる本発明の飲食品は、アガリクス茸由来の前記有効成分の1日あたり摂取量(成人)の目安を約50mg〜約1,500mg、望ましくは約80mg〜約1,000mg、さらに望ましくは約100mg〜約500mgとして摂取することができる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。各例において、%及び部はいずれも重量基準である。
【0026】
(製造例1)
(1)アガリクス茸菌糸体培養物の水抽出物の調製
アガリクス茸(Agaricus blazei Murill)の種菌をポテト・デキストロース寒天培地に播種して30℃で2週間培養した。この培養菌体を、3L培養フラスコを用いて、大豆ペクチン、リン酸二水素カリウム、硫化マグネシウム、フルクトース、スクロース及び酵母エキスを含む液体培地1L中で、7日間振とう培養した。更に、この培養物を、前記液体培地35Lを仕込んだ50Lジャーファーメンターで、5日間、撹拌通気培養した(28℃、100rpm、0.5vvm)。これにより得た菌糸体培養液を減圧下に濃縮及び凍結乾燥した後、粉砕し、60タイラーメッシュの篩にかけ、通過した粉粒物を40℃の温風で乾燥してアガリクス茸菌糸体培養物(乾燥物)を得た。次いで、この菌糸体培養物に3倍量(V/W)の水を加え、45℃で2時間、ゆるやかに撹拌しながら抽出処理を行い、セライト助剤を用いて濾過して濾液を採取し、これを減圧乾燥して本発明に係る水抽出物(水可溶成分:試料1)を得た。同様の抽出操作を2回繰り返し行った。収量は培養濾液1L当り380mgであった。
【0027】
(2)アガリクス茸菌糸体培養物の熱水抽出物の調製
前記(1)において、水を加えて45℃で2時間抽出することに代えて85℃で1時間抽出すること以外は同様に処理して熱水抽出物(比較試料1)を得た。収量は培養濾液1L当り400mgであった。
【0028】
(3)アガリクス茸子実体の水抽出物の調製
前記(1)において、抽出原料を市販のアガリクス茸子実体(乾燥細断物)に置き換え、同様に抽出処理して子実体の水抽出物(比較試料2)を得た。収量は乾燥茸100g当り40gであった。
【0029】
(製造例2)
(1)アガリクス茸菌糸体培養物の水抽出物のエタノール分画
製造例1の(1)で得たアガリクス茸菌糸体培養物の水抽出物5gに10倍量(V/W)の水を加えて溶解し、少量の不溶物を遠心分離して除去した。この水溶液にエタノール濃度が43%(V/V)となるようにエタノールを添加し、室温で1時間適宜撹拌後、遠心分離(10,000×g、20分間)し、不溶画分(43%エタノール不溶残渣:試料2)1,220mgを採取した。
【0030】
(2)アガリクス茸菌糸体培養物の水抽出物のエタノール濃度勾配分画
製造例1の(1)で得たアガリクス茸菌糸体培養物の水抽出物5gに10倍量(V/W)の水を加えて溶解し、少量の不溶物を遠心分離して除去した。この水溶液にエタノール濃度が17%(V/V)となるようにエタノールを添加し、室温で1時間適宜撹拌後、遠心分離(10,000×g、20分間)し、不溶画分(17%エタノール不溶残渣:試料3)180mg及び可溶画分(17%エタノール可溶液体)を採取した。次に、該可溶画分にエタノール濃度が29%(V/V)となるようにエタノールを添加し、同様に処理して不溶画分(29%エタノール不溶残渣:試料4)210mg及び可溶画分(29%エタノール可溶液体)を採取した。更に、この可溶画分にエタノール濃度が38%(V/V)となるようにエタノールを添加し、同様に処理して不溶画分(38%エタノール不溶残渣:試料5)350mg及び可溶画分(38%エタノール可溶液体)を採取した。引き続き、この可溶画分にエタノール濃度が43%(V/V)となるようにエタノールを添加し、同様に処理して不溶画分(43%エタノール不溶残渣:試料6)480mg及び可溶画分(43%エタノール可溶液体)を採取した。更に引き続き、この可溶画分にエタノール濃度が55%(V/V)となるようにエタノールを添加し、同様に処理して不溶画分(55%エタノール不溶残渣:比較試料3)475mg及び可溶画分(55%エタノール可溶液体:乾燥後の収量3,300mg:比較試料4)を採取した。
【0031】
(試験例1)
(1)組織線維化抑制試験(その1)
ヒト肝臓癌組織から摘出し細胞培養液(DMEM。以下同様)で洗浄した腫瘍組織を細切し、該腫瘍組織片を50mL三角フラスコ中でコラゲナーゼ含有細胞培養液(37℃)とともに振とう処理した後、ガーゼで濾過して細胞分散液を得、さらに遠心分離(1,000rpm、5分)して細胞を採取した。次いで、この細胞を10%牛胎児血清を含む細胞培養液に分散させ、常法により培養フラスコで静置培養して細胞分裂を示す細胞を得た。これを本試験における継代培養細胞株(HCC)とした。ヒト肝癌由来継代培養細胞を25cmの底面積をもつプラスチック製培養フラスコで継代培養した。5%牛胎児血清を含むDMEM培地(GIBCO社製)を用い、3日毎に新鮮な培地と交換した。コラーゲン線維の形成を観察するために、平角型回転培養管(幅10mm×全長150mm×厚さ10mm)にカバーグラス(幅10mm×全長40mm)を挿入し、底に敷いた状態にした。トリプシン処理で細胞をシングルセルにし、1×10個/mLの細胞浮遊液2mLを前記培養管に入れ、37℃で、5度の傾斜で静置培養した。細胞を前記培養管に播いてから4日後に、アガリクス茸の菌糸体培養物又は子実体から得た前記各種試料(試料1〜6及び比較試料1〜4)をそれぞれリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し1mg/mLに調整した溶液各々100μLを培養液に加え、培養を続けた。
【0032】
各試料を添加後、4日後、8日後及び11日後に細胞を10%ホルムアルデヒド溶液で固定した。コラーゲン線維はコラーゲン・ステインキット(コラーゲン技術研修会、コスモ・バイオ(株)製品:K61)で染色するために、カバーグラス上に固定された細胞を1昼夜水洗した。水洗した細胞を200μLの染色液で30分間室温染色した後、水洗して染色液を除いた。次いで、細胞を光学顕微鏡で観察し、コラーゲン線維の形成状態を調べた。尚、この染色液の場合、コラーゲン線維はシリウスレッドで赤く、他のタンパク質はファーストグリーンで緑色に染まる。コラーゲン線維形成能に及ぼす影響を、試料を添加しない対照試験の場合と比較して、コラーゲン線維形成が促進:×、強く促進:××、不変:△、抑制:○、強く抑制:○○、細胞毒性で観察不能:−の6段階で評価した。この結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
試料添加4日後では、いずれの場合も顕著なコラーゲン線維形成を観察することはできなかった。試料添加8日後では、対照試験においてコラーゲン線維の形成が観察された。これと比べて、試料1〜6の添加によりコラーゲン線維の形成が明らかに抑制され、とくに試料6(水抽出物の38%エタノール可溶成分であり且つ43%エタノール不溶残渣)の添加により顕著に抑制されることが確認された。これに対して、比較試料1〜3の添加では対照試験の場合と同様にコラーゲン線維形成が観察された。又、比較試料4の添加では、細胞の一部に細胞毒性によるものと考えられる細胞の剥離及び死細胞が見られ、コラーゲン線維形成状態の観察は不可能と判断した。更に、試料添加11日後では、対照試験において多数のコラーゲン線維の形成が観察された。一方、試料1〜6のいずれの添加によってもコラーゲン線維形成の抑制効果が認められ、とりわけ試料2(水抽出物の43%エタノール不溶残渣)、試料5(水抽出物の29%エタノール可溶成分であり且つ38%エタノール不溶残渣)及び試料6(水抽出物の38%エタノール可溶成分であり且つ43%エタノール不溶残渣)の場合は強い阻害効果が認められた。
【0035】
(試験例2)
(2)組織線維化抑制試験(その2)
前記試験例1の(1)組織線維化抑制試験(その1)において、ヒト肝癌由来培養細胞をヒト扁平上皮癌由来培養細胞(HSC)(Rikimaru K.等、In VitroCell Dev. Biol.、1990年、第26巻、第849頁〜第856頁に記載の方法で採取。)に置き換えて試験を行った。その結果、各種試料添加により同様のコラーゲン線維形成傾向が認められ、試料6をはじめとして本発明に係る試料によるコラーゲン線維形成抑制効果を確認した。
【0036】
(試作例)
(1)経口用組成物
アガリクス茸菌糸体培養物の水抽出物のエタノール濃度勾配分画物(試料6)20部及び澱粉分解物(松谷化学工業(株)製、商品名:パインデックス♯6)80部をV字型混合機に仕込み、混合して均質化した後、カプセル充填機に供して、常法により1粒当り内容量が300mgのゼラチン被覆ハードカプセル製剤を試作した。このカプセル製剤は経口摂取できる組織線維化抑制用組成物として利用できる。
【0037】
(2)顆粒剤
アガリクス茸菌糸体培養物の水抽出物のエタノール分画物(試料2)50部及び澱粉分解物(松谷化学工業(株)製、商品名:パインデックス♯6)50部を流動コーティング装置に仕込み、常法により造粒し、アルミ製スティック状包装袋に充填して、1包当り内容量が2gの顆粒分包製剤を試作した。この顆粒製剤は経口摂取できる栄養補助食品として利用できる。
【0038】
(3)錠剤
アガリクス茸菌糸体培養物の水抽出物(試料1)30部、澱粉分解物(松谷化学工業(株)製、商品名:パインデックス♯6)30部及びマルチトール(東和化成工業(株)製、商品名:粉末マルチトールG−3)40部を混合機に仕込み、10分間撹拌混合した。この混合物を直打式打錠機に供して直径8mm、高さ4mm、重量180mg/個の素錠を作成した後、シェラックコーティングして錠剤形状の食品を試作した。この錠剤は経口摂取できる栄養補助食品として利用できる。
【0039】
(4)飲料
アガリクス茸菌糸体培養物の水抽出物のエタノール分画物(試料5)5部、無水結晶ブドウ糖(サンエイ糖化(株)製、商品名:無水結晶ブドウ糖TDA−S)50部、澱粉分解物(松谷化学工業(株)製、商品名:パインデックス♯6)45部及びクエン酸(DSMニュートリション(株)製、商品名:無水クエン酸FG)5部を20倍容の飲用水に溶かして飲料を試作した。この飲料は組織線維化抑制のための栄養食品として利用できる。
【0040】
(4)クッキー
家庭用ホイッパーにバター110部、ショートニング100部、上白糖90部及び牛乳100部を入れ、撹拌しながら鶏卵1個を加えて十分に混合した後、薄力粉200部、ベーキングパウダー1.5部及びアガリクス茸菌糸体培養物の水抽出物のエタノール濃度勾配分画物(試料6)10部を添加して十分に捏ねあわせた。これを30分間ねかせた後、金型で100個に分割し、オーブンで焼いてバタークッキーを試作した。このものは風味や食感で何ら違和感なく、市販製品と同様に食することができるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の組織線維化阻害剤は、生体組織の線維化を抑制・防止することができるため、組織線維化を伴う各種疾病を予防あるいは改善するための手段として有効活用でき、飲食品等の経口摂取する組成物として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出して得られる抽出物を有効成分としてなることを特徴とする組織線維化阻害剤。
【請求項2】
抽出物が、アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を得、次いで該水可溶成分をエタノール濃度が44%未満の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣である請求項1に記載の組織線維化阻害剤。
【請求項3】
不溶残渣が、アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を、エタノール濃度が29%の含水エタノールで抽出して得られる可溶成分であり、且つ、エタノール濃度が43%の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣である請求項2に記載の組織線維化阻害剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組織線維化阻害剤を含有してなることを特徴とする組織の線維化抑制用飲食品。
【請求項5】
組織の線維化を抑制するために、(1)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出して得られる抽出物、(2)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を更にエタノール濃度が44%未満の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣、又は、(3)アガリクス茸の菌糸体培養物を45℃以下の水で抽出した水可溶成分を、エタノール濃度が29%の含水エタノールで抽出して得られる可溶成分であり、且つ、エタノール濃度が43%の含水エタノールで抽出して得られる不溶残渣、の使用。

【公開番号】特開2008−50334(P2008−50334A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258016(P2006−258016)
【出願日】平成18年8月26日(2006.8.26)
【出願人】(500081990)ビーエイチエヌ株式会社 (35)
【出願人】(501111728)
【Fターム(参考)】