説明

組電池、複合組電池、および組電池の製造方法

【課題】 効率的に組電池を製造する手段を提供する。
【解決手段】 インクジェット方式を用いて基板上に形成された、集電体40、正極50、電解質層60、負極70からなる2以上の電池と、インクジェット方式を用いて形成された、前記電池を電気的に接続する導体部20とを有する組電池である。導体部20は、前記電池を電気的に接続可能な半導体部であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電池が組み合わされた組電池、および組電池が組み合わされた複合組電池に関する。本発明の電池は、例えば、電気自動車等のモータ駆動用電源として用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護運動の高まりを背景として、電気自動車(EV)、ハイブリット自動車(HEV)、燃料電池車(FCV)の導入が強く所望されており、これらのモータ駆動用電池の開発が行われている。これらのモータ駆動用電池としては、繰り返し充電可能な二次電池が使用される。EV、HEV、FCVは、高出力および高エネルギー密度を必要とするため、単一の大型電池で対応することは、事実上不可能である。そこで、所望の電圧が得られるように、電池を複数個直列に組み合わせた組電池を使用することが一般的である。
【0003】
しかしながら、接続部を介して電池を接続した場合、接続のための部品点数や組み付け工数が増加してしまい、製造の効率性が低下してしまう。また、接続部の電気抵抗によって出力が低下してしまう。さらに、接続部のための空間によって、電池の出力密度やエネルギー密度の低下がもたらされる。接続部の電気抵抗を減らし、接続部の占める体積を減少させる手段としては、例えば、集電体の両側に正極活物質と負極活物質とを配置したバイポーラー電池が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−95400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、効率的に組電池を製造する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、インクジェット方式を用いて基板上に形成された2以上の電池と、インクジェット方式を用いて形成された、前記電池を電気的に接続する導体部とを有する組電池である。
【0006】
また本発明は、インクジェット方式を用いて基板上に形成された2以上の電池と、インクジェット方式を用いて形成された、前記電池を電気的に接続可能な半導体部とを有する組電池である。
【0007】
また本発明は、正極活物質を含む正極インクをインクジェット方式で噴出して正極を形成する段階と、負極活物質を含む負極インクをインクジェット方式で噴出して負極を形成する段階と、導電性粒子を含む導体インクをインクジェット方式で噴出して、前記正極および前記負極の間に存在する導体部を形成する段階とを含む、組電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
インクジェット方式を用いて組電池を製造する場合、電池の接続のための特別な工程を省略し、組電池の製造効率を向上させることが可能である。また、電池を接続する導体部や半導体部の塗布箇所を変更することにより、単電池の直列および並列を簡単に変更できる。このため、必要な電圧に応じた設計変更が容易である。さらに、単電池の接続のために必要な空間を少なくでき、エネルギー密度の向上も図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の組電池の一実施態様は、インクジェット方式を用いて基板上に形成された2以上の電池と、インクジェット方式を用いて形成された、前記電池を電気的に接続する導体部とを有する組電池である。インクジェット方式とは、液体のインクをノズルから噴出させて、インクを対象物に付着させる印刷方式を意味する。インクジェット方式は、インクを噴出させる方式によって、ピエゾ方式、サーマルインクジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式に分類される。インクジェット方式の詳細については、組電池の製造方法についての記載箇所において詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の組電池の一実施態様の上面図である。図2は、図1の組電池の下面図である。なお、図1および図2において、説明の都合上、集電体および電解質は記載していない。図3は、図1および図2の電池の「III−III」面での断面模式図である。
【0011】
図1〜図3の組電池は、基板10上に配置された4つの単電池を有する。以下の説明においては、組電池と区別する便宜上、1つの正極および1つの負極からなる電池ユニットを「単電池」と記載する。図1の左上の単電池および右上の単電池は、上面側が正極、下面側が負極となるように配置されている。図1の左下の単電池および右下の単電池は、上面側が負極、下面側が正極となるように配置されている。
【0012】
単電池は、集電体40、正極50、電解質層60、負極70、および集電体40が、この順序で積層した構造を有する。図3には、電解質層60が、複数の単電池により共有される態様を示したが、単電池ごとに別々の電解質層が配置されてもよい。また、図3の上面側には、各単電池について1枚の集電体40が配置されているが、図示するように電池が、電気伝導性を有する導体部20によって電気的に接続される場合には、一枚の集電体が複数の単電池によって共有されてもよい。
【0013】
電気的な接続について図面を用いて説明すると、左上に配置された単電池および右上に配置された単電池は、上面側に形成された導体部20によって、正極側が電気的に接続されている(図1)。同様に、左下の単電池と右下の単電池とは、上面側に形成された導体部20によって、負極側が電気的に接続されている。一方、左上の電池および右上の電池は、負極側においては、絶縁部30により隔絶され、電気的に接続されていない(図2)。同様に、左下の単電池と右下の単電池とは、下面側においては、絶縁部30により隔絶され、電気的に接続されていない。
【0014】
左上の単電池と左下の単電池とは、下面側において、導体部20によって正極と負極とが接続されている(図2)。同様に、右上の単電池と右下の単電池とは、下面側において、導体部20によって正極と負極とが接続されている。
【0015】
組電池における単電池の接続は、左上の単電池と左下の単電池とは直列に接続されている。また、右上の単電池と右下の単電池とも直列に接続されている。そして、2つの電池が直列に接続された組み合わせが、並列に接続されている。つまり、図4に示すように、2並列−2直列の組電池である。
【0016】
インクジェット方式を用いて電池を作製する場合、導体部の塗布部位を制御するだけで、簡単に直列および並列を変更し、組電池の電圧を調整することが可能である。例えば、組電池の出力を向上させたい場合には、導体部20を図5および図6に記載されているように形成し、各単電池を直列に接続する。図5は、本発明の組電池の他の実施態様の上面図である。図6は、図5の組電池の下面図である。なお、図5および図6において、説明の都合上、集電体および電解質は記載していない。
【0017】
組電池における単電池の接続は、左下→左上→右下→右上の順に単電池が直列に接続されている。つまり、図7に示すように、4直列の組電池である。
【0018】
本発明の組電池の他の実施態様は、インクジェット方式を用いて基板上に形成された2以上の電池と、インクジェット方式を用いて形成された、前記電池を電気的に接続可能な半導体部とを有する組電池である。単電池を接続する導体部に代えて、外部からの制御により導体と絶縁部とを制御でき、導体としての性質を有する半導体部を配置する。本願において「電気的に接続可能」とは、少なくともある環境下においては、電気的に接続することを意味する。半導体部は、例えば、有機半導体を含む半導体インクを用いて、インクジェット方式により形成される。
【0019】
図8は、本発明の組電池の一実施態様の上面図である。図9は、図8の組電池の下面図である。なお、図8および図9において、説明の都合上、集電体および電解質は記載していない。図10は、図8および図9の電池の「X−X」面での断面模式図である。
【0020】
電気的な接続について図面を用いて説明すると、左上に配置された単電池および右上に配置された単電池は、半導体部80によって、電気的に接続可能に配置されている。半導体部80は、半導体信号線90によって、導体と絶縁部との制御が可能となっている。組電池の出力が必要な場合には、半導体信号線90を通じた制御により、図5および図6に示される態様になるように単電池を直列に接続する。これにより、組電池の出力を高めることが可能である。組電池に出力が必要でない場合や、組電池のいずれか1つが故障した場合には、半導体信号線90を通じた制御により、図1および図2に示される態様になるように単電池を2並列−2直列に接続する。
【0021】
なお、組電池の組み合わせや、半導体部の配置箇所は特に限定されない。組電池を構成する単電池の数は、2以上の任意の数から選択される。組電池における単電池の数および接続の仕方は、電池に求める出力および容量に応じて決定されるとよい。組電池を構成した場合、単電池と比較して電池としての安定性が増し、1つのセルの劣化による電池全体への影響を低減しうる。半導体部の配置箇所は、組電池に期待する出力変動に応じて決定すればよい。例えば、2並列−2直列と4直列とを変更できるようにしたい場合には、図8に示すように上面にのみ半導体部を配置すればよい。つまり、図9における半導体部80は、導体部20であってもよい。半導体部に含まれる有機半導体などの半導体材料は一般に高価であること、および、半導体部を制御するための半導体信号線の形成コストを考慮すると、半導体部の配置数をできるだけ少なくすることによって、組電池の製造コストを抑制することが好ましい。
【0022】
続いて、単電池および組電池を構成する材料について説明する。
【0023】
基板10は、絶縁性材料であれば、特に限定されない。絶縁性材料としては、例えば、樹脂が挙げられる。
【0024】
導体部20は、インクジェット方式を用いて形成可能な材料から構成される。好ましくは、電子伝導性は有するが、電池における電荷運搬体として機能するイオンに対しては伝導性を有さない材料が用いられる。例えば、導体部20は、アルミニウム粒子、SUS粒子、カーボン微粒子、銀粒子、金粒子、銅粒子、チタン粒子、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの導電性粒子からなる。合金粒子が用いられてもよい。
【0025】
導電性粒子を含む導体部は、導電性粒子を結着させるバインダーをさらに含むことが好ましい。構成材料としてバインダーを用いることで、導電性粒子の結着を高め、電池の信頼性を高めることができる。バインダーは、印加される電圧に耐えうる材料から選択されることが好ましい。
【0026】
バインダーは、好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの混合物である。これらの材料は電位窓が非常に広く、正極電位および負極電位の双方に対して幅広い範囲で安定であり、接着性を高めることが可能である。より好ましくは、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンが用いられる。ポリフッ化ビニリデンは信頼性が高く、両電極のバインダーとして用いられることが多いため、それぞれの電極との接着性を高めることが可能である。
【0027】
絶縁部30は、導電性を有さない部位である。導電性を有さない材料であれば、特に限定されない。絶縁部として用いられる材料としては、好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの混合物などが挙げられる。場合によっては、絶縁部30は、大気であってもよい。つまり、絶縁部に相当する部位に、物質を何も配置せず、通常は絶縁性を有する周辺雰囲気を、絶縁部として用いる。
【0028】
集電体40は、アルミニウム箔や銅箔などの金属箔から形成されてもよい。集電体は、導体部30と同様、導電性粒子から構成されてもよい。集電体を導電性粒子から構成する場合には、導体部と同様、バインダーを用いることが好ましい。導電性粒子の具体例およびバインダーの具体例については、導体部について記載したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0029】
正極50および負極70の構成については、特に限定されず、公知の正極および負極が適用可能である。正極には正極活物質、負極には負極活物質が含まれる。正極活物質および負極活物質は、電池の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0030】
例えば、電池がリチウム二次電池である場合には、正極活物質としては、LiCoOなどのLi・Co系複合酸化物、LiNiOなどのLi・Ni系複合酸化物、スピネルLiMnなどのLi・Mn系複合酸化物、LiFeOなどのLi・Fe系複合酸化物などが挙げられる。この他、LiFePOなどの遷移金属とリチウムのリン酸化合物や硫酸化合物;V、MnO、TiS、MoS、MoOなどの遷移金属酸化物や硫化物;PbO、AgO、NiOOHなどが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0031】
リチウム二次電池に用いられる負極活物質としては、結晶性炭素材や非結晶性炭素材などの炭素材料や、LiTi12などの金属材料が挙げられる。具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボンなどが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。
【0032】
電極は、導電助剤、イオン伝導性ポリマー、支持塩などの他成分を含んでいてもよい。導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイトなどが挙げられる。導電助剤を含ませることによって、電極で発生した電子の伝導性を高めて、電池性能を向上させうる。イオン伝導性ポリマーとしては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)などが挙げられる。支持塩は、電池の種類に応じて選択すればよい。電池がリチウム二次電池である場合には、LiBF、LiPF、Li(SOCFN、LiN(SO、などが挙げられる。
【0033】
活物質、リチウム塩、導電助剤などの電極の構成材料の配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して決定することが好ましい。
【0034】
電解質層60は、液体、ゲル、固体のいずれの相であってもよい。電池が破損した際の安全性や、液絡の防止のための電池構造の複雑化の観点からは、電解質層は、ゲルポリマー電解質層、または全固体電解質層であることが好ましい。
【0035】
電解質としてゲルポリマー電解質層を用いることで、電解質の流動性がなくなり、集電体への電解質の流出をおさえることが可能になる。ゲル電解質のホストポリマーとしては、PEO、PPO、PVdF、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF−HFP)、PAN、PMA、PMMAなどがあげられる。また、可塑剤としては通常リチウムイオン電池に用いられる電解液を用いることが可能である。
【0036】
また、電解質として全固体電解質層を用いた場合も、電解質の流動性がなくなるため、集電体への電解質の流出がなくなる。
【0037】
ゲルポリマー電解質は、PEO、PPOなどの全固体型高分子電解質に、通常リチウムイオン電池で用いられる電解液を含ませることにより作製される。PVdF、PAN、PMMAなど、リチウムイオン伝導性をもたない高分子の骨格中に、電解液を保持させることにより作製されてもよい。ゲルポリマー電解質を構成するポリマーと電解液との比率は、特に限定されず、ポリマー100%を全固体高分子電解質、電解液100%を液体電解質とすると、その中間体はすべてゲルポリマー電解質の概念に含まれる。また、全固体電解質は高分子あるいは無機固体などLiイオン伝導性を持つ電解質すべてが含まれる。
【0038】
電解質層中には、イオン伝導性を確保するために支持塩が含まれることが好ましい。電池がリチウム二次電池である場合には、支持塩としては、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SO、またはこれらの混合物などが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。PEO、PPOのようなポリアルキレンオキシド系高分子は、前述の通り、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SOなどのリチウム塩をよく溶解しうる。また、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度が発現する。
【0039】
半導体部80は、インクジェットにより塗布可能な材料であれば、特に限定されない。例えば、有機半導体を含むインクを用いて、半導体部が形成される。有機半導体としては、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、これらの誘導体などのアセン分子材料;フタロシアニン系化合物、アゾ系化合物、ペリレン系化合物、これらの誘導体などの顔料;ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、ジフェニルメタン化合物、スチルベン化合物、アリールビニル化合物、ピラゾリン化合物、トリフェニルアミン化合物、トリアリールアミン化合物、これらの誘導体などの低分子化合物;ポリ−N−ビニルカルバゾール、ハロゲン化ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂、これらの誘導体など高分子化合物;フルオレノン系、ジフェノキノン系、ベンゾキノン系、アントラキノン系、インデノン系、ポリチオフェン系、及び、ポリフェニレンビニレン系化合物などが挙げられる。
【0040】
半導体信号線90は、半導体部80の導電性を制御するために使用される。半導体信号線を構成する材料は、特に限定されないが、導体部20と同様の材料が用いられうる。半導体信号線90、95により半導体部80の導電性を制御するには、例えば、半導体に5ボルトの電圧を印加し、半導体スイッチをオンにするといった手法が用いられる。
【0041】
本発明の組電池は、さらに、直列、並列、または直列および並列を組み合わせて配列され、複合組電池を構成してもよい。「複合組電池」とは、2以上の組電池モジュールが電気的に組み合わされた電池を意味する。直列、並列化することで容量および電圧を、所望の範囲に調節することが可能になる。
【0042】
図11は、本発明の組電池100が、2直列−2並列に配置された複合組電池である。組電池100は、導体110によって、電気的に接続される。組電池が配置される基板や導体の種類や形状は、特に限定されず、公知の材料から適宜選択すればよい。新たに開発された材料が転用されても、勿論良い。
【0043】
図12は、図8〜図10に示した、半導体部80が形成された組電池105が直列に配置された複合組電池である。この場合には、組電池105の電気的接続を制御できるように、半導体信号線90が複合組電池の基板に形成されることが好ましい。半導体信号線90を通じた組電池105の制御により、直列の複合組電池、および並列の複合組電池のうち、適切な複合組電池を選択することができる。
【0044】
複合組電池においては、組電池を電気的に接続する導体に、前記組電池の直列および並列を制御するための半導体が形成されていてもよい。図13は、組電池100を電気的に接続する導体110に、半導体120と半導体125が形成されている複合組電池である。半導体120が絶縁部として、半導体125が導体としての性質を有する場合には、組電池100は直列に接続される。半導体120が導体として、半導体125が絶縁部としての性質を有する場合には、組電池100は並列に接続される。つまり、半導体信号線90を通じた半導体120の制御と、半導体信号線95を通じた半導体125の制御により、複合組電池の直列および並列を切り替えることが可能である。
【0045】
半導体120および半導体125の構成材料は、導体および絶縁部を制御可能であれば、特に限定されない。半導体部80に関して例示した有機半導体の他、無機化合物からなる各種半導体材料が用いられうる。
【0046】
図14は、半導体120および半導体125にフォトトランジスタを用い、有機ELを点灯させることで、半導体120および半導体125のスイッチをオンする方法を採用した複合組電池である。有機EL用電源線(140、145)に電源を供給することにより、有機EL130および有機EL135を点灯させる。有機EL130および有機EL135が点灯すると、半導体120および半導体125が導体としての性質を有する。半導体120が導体として、半導体125が絶縁部としての性質を有する場合には、組電池100は並列に接続される。つまり、有機EL用電源線140を通じた半導体120の制御と、有機EL用電源線145を通じた半導体125の制御により、複合組電池の直列および並列を切り替える。
【0047】
組電池または複合組電池は、好ましくは、車両の駆動用電源や補機用電源として用いられうる。本発明の組電池または複合組電池は、電池電圧を自在に変更することができるため、車両への適用自由度が増す。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、電車に適用することも可能である。
【0048】
続いて、本発明の組電池の製造方法について説明する。本発明の組電池を製造するにあたっては、電池がインクジェット方式を用いて形成され、また、電池を電気的に接続する導体部がインクジェット方式を用いて形成される。「インクジェット方式を用いて形成される」とは、形成の過程の少なくとも一部において、インクジェット方式が採用されることを意味し、構成要素の全てをインクジェット方式で作製することを意味するわけではない。ただし、製造工程の簡素化の観点からは、インクジェット方式を用いる工程が多いことが好ましい。好ましくは、少なくとも正極、負極、および導体部をインクジェット方式により形成する。つまり、好ましくは、正極活物質を含む正極インクをインクジェット方式で噴出して正極を形成する段階と、負極活物質を含む負極インクをインクジェット方式で噴出して負極を形成する段階と、導電性粒子を含む導体インクをインクジェット方式で噴出して、前記正極および前記負極の間に存在する導体部を形成する段階とを含む製造方法によって、組電池が製造される。
【0049】
インクジェット方式とは、液体のインクをノズルから噴出させて、インクを対象物に付着させる印刷方式を意味する。インクジェット方式は、インクを噴出させる方式によって、ピエゾ方式、サーマルインクジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式に分類される。
【0050】
ピエゾ方式は、インクを溜めるインク室の底に配置された、電流が流れることによって変形するピエゾ素子の変形によって、インクをノズルから噴出させる方式である。サーマルインクジェット方式は、発熱ヒーターによって、インクを加熱し、インクが気化する際の水蒸気爆発のエネルギーでインクを噴出させる方式である。バブルジェット(登録商標)方式も、サーマルインクジェット方式と同様、インクが気化する際の水蒸気爆発のエネルギーでインクを噴出させる方式である。サーマルインクジェット方式とバブルジェット(登録商標)方式とは、加熱する部位が異なるが、基本的な原理は同じである。
【0051】
インクジェット方式を用いて集電体を作製する場合、薄く均一な集電体を効率よく作製することが可能である。
【0052】
インクジェット方式を用いることにより、形成される層を均一かつ薄くすることが可能であり、電池の特性やエネルギー密度を向上させることができる。また、電池同士を電気的に接続するための特別な工程を省略できるため、組電池製造の効率が向上する。
【0053】
インクジェット方式を用いて作製する際には、集電体インク、正極インク、負極インク、電解質インク、導体インク、半導体インク、絶縁部インクなどの、各構成要素を形成するためのインクを準備して、インクジェット装置を用いてインクを噴出させる。
【0054】
集電体インクに含まれる成分としては、導電性粒子、バインダー、および溶媒が挙げられる。導電性粒子およびバインダーの具体例については、上述の通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0055】
正極インクに含有される成分としては、正極活物質、バインダー、導電助剤、および溶媒が挙げられる。正極インクは、1種であっても、複数であってもよい。正極活物質、導電助剤については、上記説明した化合物が用いられうる。バインダーとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの混合物が挙げられる。正極活物質および導電助剤の凝集を防止するために、分散剤が用いられてもよい。分散剤としては、ポリオキシステアリルアミンなどの、分散作用を有する化合物が用いられうる。
【0056】
負極インクに含有される成分としては、負極活物質、バインダー、導電助剤、および溶媒が挙げられる。負極インクは、1種であっても、複数であってもよい。正極活物質、導電助剤については、上記説明した化合物が用いられうる。バインダーとしては、正極インクに用いられるのと同様のバインダーが用いられうる。
【0057】
電解質層を作製するために用いられる電解質インクに含有される成分としては、電解質またはその原料、および溶媒が挙げられる。電解質インク中には、少なくとも電解質またはその原料が含有される。原料を用いて、インクジェット方式による塗布後に重合させる製法を採用した場合には、インクの粘度を低く抑えることが可能であり、インクジェット装置における詰まりを防止することができる。
【0058】
導体インクに含有される成分としては、導電性粒子、バインダー、および溶媒が挙げられる。導電性粒子およびバインダーの具体例については、上述の通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0059】
半導体インクに含有される成分としては、半導体化合物、および溶媒が挙げられる。半導体化合物は、形成される部位に応じて選択すればよい。例えば、半導体部80を形成する場合には、好ましくはインクジェットによる塗布がしやすい有機半導体が用いられる。有機半導体の具体例は、上述の通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0060】
絶縁部インクに含有される成分としては、導電性を有さない化合物、および溶媒が挙げられる。導電性を有さない化合物の具体例は、上述の通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0061】
各インクの溶媒は、特に限定されないが、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルカーボネート(DMC)、アセトニトリルが挙げられる。溶媒の量の増減によって、インクの粘度を制御することが可能である。
【0062】
各インク中に含有される成分の配合比は、特に限定されない。ただし、インクの粘度は、インクジェット方式が適用できる程度に低くあることが好ましい。その一方、作業効率を向上させる観点からは、含有成分の濃度は高いほど好ましい。粘度を低く保つ方法としては、インクの温度を上昇させる方法が挙げられる。含まれる化合物を、粘度が低くなるように改良してもよい。インクジェット装置に供給される各インクの粘度は、特に限定されないが、好ましくは1〜100cP程度である。
【0063】
各インクを準備したら、インクジェット方式によりインクを噴出させて、集電体、電極および電解質層を形成する。インクジェット装置のノズルから噴出されるインクの量は、非常に微量であり、しかも、略等体積の量を噴出させることが可能である。したがって、電極インクの付着によって形成される電極および電解質層は、非常に薄く、かつ、均一である。また、インクジェット方式を用いれば、集電体、電極および電解質層の厚さや形状が、精密に制御されうる。
【0064】
インクジェット装置が採用するインク噴出機構は、ピエゾ方式、サーマルインクジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式のいずれでもよい。形成される層の形状は、予め決定しておくとよい。コンピューター上において作成された像に基づいて、層が形成されるようにしておくと、作業性に優れる。コンピューターを用いた層の形状決定および作製は、一般に広く知られている、コンピューターおよびプリンタを用いた画像作成およびプリントアウトの作業と同様に行うことが可能である。従って、この分野において発達した知見を援用できる点で、本発明は工業的生産の実現が、比較的容易であるといえる。金属箔のような薄い材料に塗布する場合には、薄い材料を直接プリンタに供給する事は困難であるため、A4版上質紙などの台紙にこれらを貼り付け、これをプリンタに供給し、印刷するとよい。
【0065】
インクジェット装置は、電池作製のための装置を作製してもよいし、市販のプリンタを改良して用いてもよい。例えば、インクの溶媒により、インクジェットプリンターのインク導入部分にあるプラスチック部品が溶解する問題を防止するため、インク導入部分にある部品を金属製の部品と交換し、インク溜から直接金属部品にインクを供給させる。また、インク中の活物質が沈殿することを防止するため、インク溜りを常に回転翼を用いて攪拌してもよい。
【0066】
インクジェット装置より噴出される粒子の体積は、好ましくは、1〜100ピコリットルの範囲である。噴出される粒子の体積が少なすぎると、振動低減が不充分になる虞がある。一方、噴出される粒子の体積が多すぎても、振動低減が不充分になる虞がある。インクジェット装置を用いて噴出される粒子の体積は、略同一であり、製造される電極および電池は、非常に均一性が高い。
【0067】
インクジェット方式による噴出回数は、集電体、電極および電解質層の厚さおよび構成材料の比率に応じて決定されるとよい。1回の印刷では厚さが不足する場合には、同一面に対して、2回以上印刷を繰り返せばよい。つまり、同じインクを、同一の基材に重ねて印刷する。それにより、所望の厚さを有する集電体、電極および電解質層が形成される。インクジェット方式で各層を形成する場合には、形成される各層の均一性が非常に高いため、何回も積層させた場合であっても、高い均一性が維持されうる。
【0068】
集電体、正極、電解質層、および負極のすべてをインクジェット方式で製造する場合の、インクの塗布手順については特に限定されない。一台のインクジェット装置を用いて、全ての層を作製してもよいし、正極用のインクジェット装置、電解質層用のインクジェット装置、および負極用のインクジェット装置を準備し、流れ作業により電池を製造してもよい。
【0069】
電極が形成された後は、乾燥により溶媒が除去される。電解質の原料がこの段階までに重合されて電解質とならない場合には、重合反応を進行させるとよい。例えば、光重合開始剤がインク中に含まれる場合には、所定の光を照射することにより、原料の重合反応を進行させるとよい。
【0070】
以下、図1〜3の組電池の製造方法の一実施形態について説明する。ただし、本発明の製造方法が、この実施態様に限定されるわけではない。
【0071】
まず、絶縁部である基盤10をインクジェットプリンターに供給し、準備しておいた導体部インク、集電体インク、絶縁部インクを、基盤10に塗布する。所定の厚さになるまで、インクジェット方式による塗布を繰り返す。これにより、導体部20、絶縁部30、および集電体40を形成する。塗布パターンは、通常のプリンターで行うように、塗布パターンをコンピューター上で作成しておき、それに基づいて各インクが塗布される形式が採用されうる。
【0072】
正極インク、負極インク、絶縁部インク、および導体部インクを、所定の厚さになるまでインクジェット方式で塗布する。これにより、図3における電解質層60の基板10側が形成される。電解質インクを、所定の厚さになるまで、インクジェット方式で塗布する。これにより電解質層60を形成する。正極インク、負極インク、絶縁部インク、および導体部インクを、所定の厚さになるまでインクジェット方式で塗布する。最後に、導体部インク、集電体インク、および絶縁部インクを、所定の厚さになるまで、インクジェット方式で塗布する。
【0073】
このようなインクジェット方式を用いた塗布により、図1〜3に示す組電池を作製することが可能である。また、塗布パターンを変更することにより、図5〜6に示す組電池を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の組電池の一実施態様の上面図である。
【図2】図1の組電池の下面図である。
【図3】図1および図2の電池の「III−III」面での断面模式図である。
【図4】2並列−2直列の組電池の接続を示す図である。
【図5】本発明の組電池の他の実施態様の上面図である。
【図6】図5の組電池の下面図である。
【図7】4直列の組電池の接続を示す図である。
【図8】本発明の組電池の一実施態様の上面図である。
【図9】図8の組電池の下面図である。
【図10】図8および図9の電池の「X−X」面での断面模式図である。
【図11】組電池100が、2直列−2並列に配置された複合組電池である。
【図12】組電池105が直列に配置された複合組電池である。
【図13】組電池100を電気的に接続する導体110に、半導体120が形成されている複合組電池である。
【図14】半導体120および半導体125にフォトトランジスタを用い、有機ELを点灯させることで、半導体120および半導体125のスイッチをオンする方法を採用した複合組電池である。
【符号の説明】
【0075】
10…基板、20…導体部、30…絶縁部、40…集電体、50…正極、60…電解質層、70…負極、80…半導体部、90…半導体信号線、95…半導体信号線、100…組電池、105…組電池、110…導体、120…半導体、125…半導体、130…有機EL、135…有機EL、140…有機EL電源用配線、145…有機EL電源用配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式を用いて基板上に形成された2以上の電池と、
インクジェット方式を用いて形成された、前記電池を電気的に接続する導体部と、
を有する組電池。
【請求項2】
インクジェット方式を用いて基板上に形成された2以上の電池と、
インクジェット方式を用いて形成された、前記電池を電気的に接続可能な半導体部と、
を有する組電池。
【請求項3】
請求項1に記載の組電池を、直列、並列、または直列および並列に組み合わせた複合組電池。
【請求項4】
請求項2に記載の組電池を、直列、並列、または直列および並列に組み合わせた複合組電池。
【請求項5】
前記組電池を電気的に接続する導体に、前記組電池の直列および並列を制御するための半導体が形成されている、請求項4に記載の複合組電池。
【請求項6】
請求項1または2の組電池、または請求項3〜5のいずれかの複合組電池を、駆動用電源として搭載する車両。
【請求項7】
正極活物質を含む正極インクをインクジェット方式で噴出して正極を形成する段階と、
負極活物質を含む負極インクをインクジェット方式で噴出して負極を形成する段階と、
導電性粒子を含む導体インクをインクジェット方式で噴出して、前記正極および前記負極の間に存在する導体部を形成する段階と、
を含む、組電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−172915(P2006−172915A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364122(P2004−364122)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】