説明

経口用の慢性疼痛予防または治療剤

【課題】長期にわかって疼痛が持続することを特徴とする慢性疼痛を予防または治療するために有効な経口投与用の医薬組成物の提供。
【解決手段】(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤に(b)抗プラスミン剤を併用するか、または(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤に(b)抗プラスミン剤と(c)制酸剤を併用する。好ましくは非ステロイド性消炎鎮痛剤としては、イブプロフェンが用いられ、抗プラスミン剤としてはトラネキサム酸が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は慢性疼痛の予防または治療に用いられる医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
疼痛とは「実際に組織損傷が起こったか、または組織損傷の可能性があるとき、またはそのような損傷を表す言葉によって述べられる不快な感覚および情動体験」であると定義されている。
【0003】
疼痛というものは、身体に異常が生じたり、異常が生じる可能性があるときに訴えられるものと考えられている。それ故、異常な状態が治癒すれば、またその発生の可能性が消失すれば痛みは訴えられなくなる。
【0004】
ところが、異常な状態が治癒したにも関わらず、また明らかな異常な状態が存在しないにも関わらず訴えられる痛みが存在し、その苦悩を慢性的に訴え続ける場合がある。このような疼痛を慢性疼痛と呼んでおり、「疾患が通常治癒するのに必要な期間を超えているのにも関わらず訴え続けられる痛み」と定義されている(非特許文献1参照)。
【0005】
日本での慢性疼痛保有率は13.4%、約1,700万人であり、そのうち700万人は50歳以上であると推測されている。また、それらのうち痛みが和らいでいるヒトはわずか22.4%であり、残りの77.6%は不変であり、65.5%のヒトは治療を受けることを諦めたり、非受診者であったりとする報告がなされている。
【0006】
疼痛を抑制或いは除去することは医療上極めて重要である。しかし疼痛は個人的な感覚に依存するためその定義や分類が極めて難しく、それ故、その治療も非常に難しい場合がある。
【0007】
慢性疼痛をもたらす疾病としては、悪性腫瘍やリウマチ病などの難病を挙げることができる。しかし、疼痛と疼痛を引き起こした元来の疾患との関係が特定できないことも多く、また疾患そのものがもはや完治できない状態にある場合もある。さらにストレスまたは気候変動のような種々の環境の影響が疼痛のきっかけとなり、また疼痛を増強させることもある。
【0008】
腰痛(特に、椎間板ヘルニア、神経根圧迫症候群による腰痛)、頭痛(特に、片頭痛、緊張性頭痛、群発性頭痛など)、リウマチ痛(特に、リウマチ症疾患、変形性関節症、関節炎、関節周囲炎、または腱・腱鞭炎による痛み、線維筋痛など)、神経痛(特に、三叉神経痛、帯状ヘルペスによる痛みなど)、腫瘍関連疼痛(特に、脳腫瘍、骨転移などによる痛み)、幻肢痛(特に、切断術後、神経叢損傷など)は、慢性疼痛が最も頻繁に生じる態様であるといわれている。
【0009】
また、慢性疼痛は数年から数十年間続く場合がある。このため、慢性疼痛を患う患者はしばしば不安感や憂鬱感にかられ情緒不安定になる傾向がある。このため痛みを除去して慢性疼痛を治療すること、ならびに慢性疼痛の発症を予防することは、QOLの観点からも極めて重要である。
【0010】
疼痛の治療には、古くはステロイド剤が使用されていた。しかし、ステロイド剤は、多彩な効果を有する反面で種々の副作用をも生ずることから、現在ではステロイドとは異なる骨格を有し、鎮痛作用と共に抗炎症作用および解熱作用を併せ持つ非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)が広く用いられている。
【0011】
かかる非ステロイド性消炎鎮痛剤は、局所的な組織損壊により誘発され、数日から数週間で痛みがなくなる急性疼痛に極めて有効である。しかしながら、器質変化による炎症を伴う慢性疾患、即ち、慢性疼痛を生じやすいリウマチや関節炎などにみられる疼痛治療においては、その鎮痛効果は十分でない。
【0012】
また、非ステロイド性消炎鎮痛剤は、内服薬として投与されると胃や十二指腸において糜爛、出血、穿孔などの粘膜障害を生じるため、頻繁に、また長期間服用することは困難であり、疼痛が長期間持続するような症状に対して効果的な予防または/および治療剤ではなかった。
【0013】
なお、慢性疼痛を予防または治療するための医薬組成物を開示する文献としては例えば、特許文献1や2がある。しかしながら、前者は非ステロイド性消炎鎮痛剤と局所麻酔剤を併用した外用剤であり、後者はテルグリドまたはプロテルグリドを使用することを開示するものであり、本発明の構成を開示するものではない。
【非特許文献1】日本慢性疼痛学会ホームページ、理事長挨拶[平成20年3月31日検索] インターネット<URL http://www.mansei-t.jp/chairman.htm>
【特許文献1】特開2005−68035号公報
【特許文献2】特開2007−254470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述するように、慢性疼痛は、不快な疼痛が持続的に長期間継続するため、患者の日常生活や社会生活に支障を来たして精神的な抑鬱状態を誘発するなど、疼痛に加えて副次的な問題を伴う。このため、慢性疼痛を改善(治療)し、またその発症を予防するための有効な医薬品の開発が待望されている。
【0015】
そこで、本発明の目的は、慢性疼痛に対して優れた抑制効果を有する経口医薬組成物(内服剤)を提供することである。さらに経口投与されても胃粘膜障害が少なく安全性の高い、慢性疼痛の予防または/および治療のための経口医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、かかる課題を解決するために、鋭意検討を重ねていたところ、非ステロイド性消炎鎮痛剤、特にフェニルプロピオン酸系消炎鎮痛剤に抗プラスミン剤を併用することによって、当該消炎鎮痛剤の効果が長期にわたって持続することを確認した。さらに、本発明者らは、非ステロイド性消炎鎮痛剤と抗プラスミン剤との組み合わせに、さらに制酸剤、特に乾燥水酸化アルミニウムゲルを併用することによって、消炎鎮痛剤の効果持続性はそのままに、非ステロイド性消炎鎮痛剤の胃粘膜障害性が顕著に低減することを確認した。
【0017】
これらのことから、非ステロイド性消炎鎮痛剤と抗プラスミン剤とを組み合わせてなる組成物、ならびに非ステロイド性消炎鎮痛剤と抗プラスミン剤と制酸剤とを組み合わせてなる組成物が、慢性疼痛を予防または/および治療するための医薬組成物として有効であること、特に非ステロイド性消炎鎮痛剤と抗プラスミン剤と制酸剤とを組み合わせてなる組成物は、胃粘膜障害が少なくて安全性が高く、経口に適した慢性疼痛の予防または/および治療剤として有用であることを確認して本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を包含するものである。
項1.(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤、および(b)抗プラスミン剤を含有することを特徴とする経口用の慢性疼痛の予防または/および治療剤。
項2.さらに(c)制酸剤を含有する、項1に記載する慢性疼痛の予防または/および治療剤。
項3.(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤がフェニルプロピオン酸系消炎鎮痛剤である項1または2に記載する慢性疼痛の予防または/および治療剤。
項4.フェニルプロピオン酸系消炎鎮痛剤がイブプロフェンである項1乃至3のいずれかに記載する慢性疼痛の予防または/および治療剤。
項5.(b)抗プラスミン剤がトラネキサム酸である項1乃至4のいずれかに記載する慢性疼痛の予防または/および治療剤。
【発明の効果】
【0019】
(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤と(b)抗プラスミン剤とを併用してなる本発明の組成物、ならびに(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤と(b)抗プラスミン剤と(c)制酸剤とを併用してなる本発明の組成物によれば、非ステロイド性消炎鎮痛剤の消炎鎮痛効果が長期にわたって維持できるため、リウマチや関節炎などの疾患の治療剤として好適に使用することができ、それらの疾患から発症する慢性疼痛の予防剤として、また、発症した慢性疼痛の治療剤として好適に使用することができる。なかでも(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤に、(b)抗プラスミン剤と(c)制酸剤とを組み合わせてなる本発明の医薬組成物は、(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤の胃粘膜障害が顕著に低減されてなるため、安全性の高い経口用の慢性疼痛の予防剤若しくは治療剤、または予防治療剤として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
I.慢性疼痛予防または/および治療剤(慢性疼痛予防治療剤)
本発明の慢性疼痛予防治療剤は、(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤(以下、これを単に「(a)成分」ともいう)に加えて、(b)抗プラスミン剤(以下、これを単に「(b)成分」ともいう)を含有するか、または当該(b)成分と(c)制酸剤(以下、これを単に「(c)成分」ともいう)を含有することを特徴とする。すなわち、本発明は、急性疼痛に対して鎮痛効果のある(a)成分に、(b)成分を併用するか、または(b)成分と(c)成分を併用することによって、(a)成分の消炎鎮痛効果を長時間持続させることを可能とし、この結果、疼痛が長期間継続する疾患を改善(治療)できるため、そこから発症する慢性疼痛を予防することができ、また、発症した慢性疼痛を改善(治療)することができるというものである。
【0021】
(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤
本発明において非ステロイド性消炎鎮痛剤((a)成分)としては、主としてオータコイドであるシクロオキシゲナーゼ阻害作用を有するものを挙げることができる。尚、シクロオキシゲナーゼには、シクロオキシゲナーゼI型とII型が存在することが知られているが、本発明で使用される非ステロイド性消炎鎮痛剤は、I・II型非選択的阻害作用を有するものである。
【0022】
かかる非ステロイド性消炎鎮痛剤としては、好ましくはフェニルプロピオン酸骨格を有する消炎鎮痛剤(フェニルプロピオン酸系消炎鎮痛薬)を挙げることができる。より具体的には、例えばアルミノプロフェン、イブプロフェン、オキサプロジン、ザルトプロフェン、チアプロフェン酸、ナブメトン、ナプロキセン、フェノプロフェン(カルシウム塩)、プラノプロフェン、フルルビプロフェンまたはロキソプロフェン(ナトリウム塩)を挙げることができる。好ましくは、フルルビプロフェン、イブプロフェン、プラノプロフェンであり、より好ましくはイブプロフェン〔化学名:2-(4-イソブチルフェニル)プロピオン酸〕である。なお、これらは一種単独、または二種以上を任意に組み合わせて使用することができる。例えば、二種以上の組み合わせとしては、好ましくはイブプロフェンと他の(a)成分との組み合わせを挙げることができる。
【0023】
これらの成分は、水和物または溶媒和物として配合されていてもよく、例えばロキソプロフェンは、ロキソプロフェンナトリウム・2水和物として用いることができる。
【0024】
本発明の慢性疼痛予防治療剤中に含まれる(a)成分の割合としては、制限はされないが、成人(体重60kg基準。以下同じ。)に対する一日投与あたりの慢性疼痛予防治療剤に含まれる(a)成分の量として、100〜1200mg、好ましくは100〜1000mg、より好ましくは100〜600mg、さらに好ましくは150〜600mgを挙げることができる。
【0025】
慢性疼痛予防治療剤100重量%中の(a)成分の含有割合は、成人一日あたりの投与量が上記範囲となるように、2〜92重量%、好ましくは5〜50重量%の範囲から適宜調整することができる。
【0026】
(b)抗プラスミン剤
本発明において抗プラスミン剤((b)成分)とは、生体内においてフィブリンを分解するプラスミンの作用を阻害する作用を有する成分を意味する。かかる作用を有する抗プラスミン剤としては、例えば、トラネキサム酸、イプシロン-アミノカプロン酸、α2-マクログロブリン、α1-アンチトリプシン、α2-プラスミンインヒビター、アンチトロンビンIII、C1インヒビター、アプロチニン、アルギン酸ナトリウム、ウリナスタチン、ゼラチン、トロンビン、ヘモコアグラーゼ、メシル酸アドレノクロムグアニルヒドラゾン、メシル酸ガベキサート、メシル酸カモスタット、メシル酸ナファモスタットなどを挙げることができる。好ましくはトラネキサム酸〔4-(aminomethyl)cyclohexane-1-carboxylic acid〕を挙げることができる。なお、これらは一種単独、または二種以上を任意に組み合わせて使用することができる。例えば、二種以上の組み合わせとしては、好ましくはトラネキサム酸と他の(b)成分との組み合わせを挙げることができる。
【0027】
本発明の慢性疼痛予防治療剤中に含まれる(b)成分の割合としては、特に制限されないが、成人に対する一日投与あたりの慢性疼痛予防治療剤に含まれる(b)成分の量として、50〜1000mg、好ましくは50〜800mg、より好ましくは100〜800mgを挙げることができる。
【0028】
また、(a)成分の消炎鎮痛効果について、その持続性を向上させ、かつ胃粘膜障害を抑制できる点から(b)成分の割合として、(a)成分100重量部に対して4〜1000重量部、好ましくは8〜800重量部、より好ましくは17〜533重量部を挙げることができる。
【0029】
慢性疼痛予防治療剤100重量%中の(b)成分の含有割合は、成人一日あたりの投与量が上記範囲となるように、また(a)成分に対する割合が上記範囲となるように、0.5〜80重量%、好ましくは5〜50重量%の範囲から適宜調整することができる。
【0030】
(c)制酸剤
本発明において制酸剤((c)成分)とは、出過ぎた胃酸を中和することで胃内のpHを調整し、胃粘膜への刺激を抑える作用を有するものである。かかる制酸剤としては、例えば、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈生成物、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム・炭酸カルシウム共沈生成物(沈降炭酸カルシウム)、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、烏賊骨、石決明、ボレイ等の無機系の制酸剤;アミノ酢酸、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート等のアミノ酸系の制酸剤;ならびにロートエキス等が挙げられる。好ましくは乾燥水酸化アルミニウムゲルである。なお、これらは一種単独、または二種以上を任意に組み合わせて使用することができる。例えば二種以上の組み合わせとしては、好ましくは乾燥水酸化アルミニウムゲルと他の(c)成分との組み合わせを挙げることができる。
【0031】
本発明の慢性疼痛予防治療剤中に含まれる(c)成分の割合としては、特に制限されないが、成人に対する一日投与あたりの慢性疼痛予防治療剤に含まれる(c)成分の量として、65〜1200mg、好ましくは65〜1000mg、より好ましくは100〜1000mgを挙げることができる。
【0032】
また(a)成分に(b)成分と(c)成分とを併用することで、(a)成分が有する消炎鎮痛効果を向上させ、かつ胃粘膜障害を軽減するために用いられる(b)成分と(c)成分の好適な割合として、(a)成分100重量部に対して、(b)成分については通常4〜1000重量部、好ましくは8〜800重量部、より好ましくは17〜533重量部;(c)成分については通常5〜1200重量部、好ましくは10〜1000重量部、より好ましくは16〜667重量部の範囲を挙げることができる。
【0033】
慢性疼痛予防治療剤100重量%中の(c)成分の含有割合は、成人一日あたりの投与量が上記範囲となるように、また(a)成分に対する割合が上記範囲となるように、1〜90重量%、好ましくは5〜50重量%の範囲から適宜調整することができる。
【0034】
慢性疼痛予防治療剤
本発明の慢性疼痛予防治療剤は、上記(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤に加えて、(b)抗プラスミン剤を含有するか、または(b)抗プラスミン剤と(c)制酸剤を含有するものであればよいが、本発明の消炎鎮痛効果の持続性ならびに胃粘膜障害の軽減効果に悪影響を与えるものでなければ、例えば消炎、鎮痛または解熱の用途で用いられる他の薬効成分の配合を特に制限するものではない。
【0035】
より具体的には、ビタミン類(ビタミンA,D,E,K,Uなどの脂溶性ビタミン類;ビタミンB,C,Pなどの水溶性ビタミン類);解熱・鎮痛・消炎薬(スルピリンなどのピリン系解熱鎮痛薬;サリチル酸ナトリウム、アスピリン、エテンザミド、サリチルアミド、サザピリンなどのサリチル酸系薬剤、アセトアミノフェンなどのアニリン系薬剤、フルフェナム酸、メフェナム酸などのフェナム酸系薬剤、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシンなどのアリール酢酸系薬剤、フェニルブタゾン、オキシフェニルブタゾンなどのピラゾリジン系薬剤、ブコロームなどのピリミジン系薬剤、ピロキシカムなどのオキシカム系薬剤、イソプロピルアンチピリンなど);抗ヒスタミン薬(フマル酸クレマスチン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミンなど);鎮咳薬(例えば、リン酸コディン、リン酸ジヒドロコディン、クロペラスチン、デキストロメトルファン、ベンゾナテートなど);去痰薬(例えば、塩酸ブロムヘキシン);塩酸L−システイン、塩酸L−メチルシステイン、アセチルシステインなどの粘膜溶解液;カルボシステインなどの粘液修復薬;塩化リゾチームなどの消炎酵素剤;グリチルリチン酸などの抗炎症剤;アリルイソプロピルアセチル尿素などの催眠鎮静剤;塩酸アンブロキソールなどの粘液潤滑薬;塩酸テルビナフィンなどの抗真菌剤;気管支拡張薬又は喘息治療薬(例えばシュードエフェドリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸テルブタリン、イソプロテレノール、サルブタモール、テルブタリンなどのβ2−アドレナリン受容体刺激薬、テオフィリン、アミノフィリン、プロキシフィリンなどのキサンチン系薬剤、クロモグリク酸など);制酸剤;アミノ酸類;生薬などが例示できる。これらの薬効成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0036】
本発明の慢性疼痛予防治療剤の剤型は、経口投与固体製剤であれば特に制限されない。例えば、散剤、錠剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、トローチ、チュアブル錠およびドライシロップ剤などが挙げられる。また、薬効成分の放出性を制御した製剤形態を有するものであってもよい(例えば、速放性製剤、徐放性製剤など)。また、好ましくは錠剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)である。かかる剤型を有する製剤は、当業界の慣用法に従って調製することができる。
【0037】
本発明の慢性疼痛予防治療剤は、上記の経口投与形態に製剤化するため、またその安定化のために、薬学上経口投与に許容される各種の担体並びに添加剤を配合することもできる(例えば、局方または「医薬品添加物事典」(薬事日報社発行)などが参照できる。)。
【0038】
経口投与剤用の担体または添加剤としては、コハク化ゼラチン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、炭酸カルシウム、カルメロースナトリウムなどの基剤;グリセリン脂肪酸エステル、大豆レシチン、メチルセルロース、モノステアリン酸グリセリンなどの乳化剤;乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビトール、トウモロコシデンプン、部分α化デンプン、結晶セルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、タルク、マクロゴール400などの賦形剤;デンプン、α−デンプン、寒天、ゼラチン、アラビアガム、デキストリン、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、結晶セルロースなどの結合剤;炭酸カルシウム、クロスポピドン、デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、無水ケイ酸などの滑沢剤;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びプルロニックなどの懸濁化剤;ポリソルベート80、ラウロマクロゴール、コレステロールなどの界面活性剤;沈降炭酸カルシウム、アラビアゴム、プルラン、カルナウバロウ、ヒドロキシプロピルメチルフタレートなどのコーティング剤;白糖、ブドウ糖、サッカリンナトリウム、ソルビトール、クエン酸、及びアスパルテームなどの矯味剤;濃グリセリン、トリアセチン、D-ソルビトールなどの可塑剤;パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クエン酸水和物などの保存剤;酸化チタン、薬用炭、銅クロロフィリンナトリウムなどの着色剤等を挙げることができる。また上記成分の他、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、通常医薬品の添加物として許容される安定剤、分散剤、流動化剤、緩衝剤、湿潤剤、粘稠剤、防腐剤、pH調整剤、溶剤、溶解補助剤などの任意成分を所望に応じて添加することもできる。
【0039】
本発明の慢性疼痛予防治療剤は、前述する固体または液体の経口製剤(内服製剤)として調製され、投与することができる。本発明の慢性疼痛予防治療剤の投与量は、患者の年齢、性別、治療すべき症状の程度、及び投与方法により左右されるが、中に含まれている(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤の成人に対する1日あたりの投与量が100〜1200mg、好ましくは100〜600mg、より好ましくは150〜600mg;(b)抗プラスミン剤の成人に対する1日あたりの投与量が50〜1000mg、好ましくは50〜800mg、より好ましくは100〜800mg:(c)制酸剤の成人に対する1日あたりの投与量が65〜1200mg、好ましくは65〜1000mg、より好ましくは100〜1000mgの範囲になる量を挙げることができる。この投与範囲であれば、1日に1〜数回に分けて投与することもできる。
【0040】
本発明の経口用の医薬組成物は、好適には慢性疼痛の発生および持続を抑制し、疼痛を鎮静化する目的で使用することができる(慢性疼痛の予防または/および治療)。しかし有効成分である非ステロイド性消炎鎮痛剤、好ましくはフェニルプロピオン酸系消炎鎮痛薬、特にイブプロフェンは、鎮痛作用に加えて、消炎作用および解熱作用をも有しているため、炎症を伴う疼痛や発熱に対しても有効に使用することもできる。
【0041】
本発明の慢性疼痛予防治療剤、特に非ステロイド性消炎鎮痛剤としてフェニルプロピオン酸系消炎鎮痛薬に分類されるイブプロフェンを含有する慢性疼痛予防治療剤は、腰痛(特に、椎間板ヘルニア、神経根圧迫症候群による腰痛)、頭痛(特に、片頭痛、緊張性頭痛、群発性頭痛など)、リウマチ痛(特に、リウマチ症疾患、変形性関節症、関節炎、関節周囲炎、または腱・腱鞭炎による痛み、線維筋痛など)、神経痛(特に、三叉神経痛、帯状ヘルペスによる痛みなど)、腫瘍関連疼痛(特に、脳腫瘍、骨転移などによる痛み)、または幻肢痛(特に、切断術後、神経叢損傷など)などから発症する慢性疼痛を予防し、また、発症した慢性疼痛を鎮静化することを目的として好適に使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実験例および実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0043】
実験例1
本発明の慢性疼痛予防治療剤における消炎鎮痛効果の持続性を評価するために、抗炎症作用を指標として以下の実験を行った。なお、(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤としてフェニルプロピオン酸系消炎鎮痛薬に分類されるイブプロフェンを、(b)抗プラスミン剤としてトラネキサム酸を、(c)制酸剤として乾燥水酸化アルミニウムゲルを用いた。
【0044】
<試験試料の調製>
各試験試料(実施例1〜2、比較例1〜4)の組成を表1に示す。各試験試料は、各成分を1%アラビアゴム水溶液に懸濁して、その5mL中に含まれる各成分の量が表1に示すmg数になるように調製した。すなわち、表1は、試験試料をラット体重1kgあたり5mL投与したときの各成分のmg数を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
<実験方法>
(1)体重120g前後のWistar系ラット(6週齢)(日本エスエルシー株式会社)42匹(6群×7匹)を、20〜25℃、12時間明条件−12時間暗条件、自由飲水、自由摂取の条件下で、1週間馴化させた後、15時間絶食させた。
(2)その後、表1に記載する各試験試料(実施例1〜2または比較例1〜4)を体重1kgあたり5mLの割合で経口投与した。
(3)経口投与から60分後に、足体積(注射直前の足体積)を測定するとともに、炎症惹起物質(カラゲニン)を当該足の裏の膨らみ部分に注射した。
(4)注射から1.5、3および5時間後に足体積を測定した(注射後の足体積)。
【0047】
注射前と注射後の各時点で測定した足容積から、下式に従って浮腫率を算出した。
【0048】
【数1】

【0049】
なお、コントロールとして、試験試料を投与しないラット群(7匹)(無処置群)に対しても上記(3)〜(4)の実験を行い、浮腫率を算出した。
【0050】
<実験結果>
各被験動物〔試験試料(実施例1〜2または比較例1〜4)投与群、および無処理群〕について、炎症惹起物質(カラゲニン)注射後5時間にわたって経時的に浮腫率(%)を算出した結果を図1に示す。図1から、イブプロフェン〔(a)成分〕にトラネキサム酸〔(b)成分〕を併用することによって(実施例1)、また、(a)成分にトラネキサム酸〔(b)成分〕と乾燥水酸化アルミニウムゲル〔(c)成分〕を併用することによって(実施例2)、浮腫(浮腫率の上昇)が抑制される時間が延長されること、すなわち浮腫を長期にわたって抑制することができることが分かった。
【0051】
通常、イブプロフェンの血中最高濃度到達期は服用後1時間、生物学的半減期は2時間であり、トラネキサム酸の血中最高濃度到達期は服用後2時間、生物学的半減期は3時間である。つまり、これらの薬効は服用後1〜2時間で最大に達し、2〜3時間で半減し、その後暫時低減する。この予想に反して、非ステロイド性消炎鎮痛剤(イブプロフェン)に抗プラスミン剤(トラネキサム酸)、または抗プラスミン剤(トラネキサム酸)と制酸剤(乾燥水酸化アルミニウムゲル)を併用すると、図1に示すように3時間を超えても薬効が維持された。
【0052】
このことから、非ステロイド性消炎鎮痛剤に抗プラスミン剤を併用するか、または非ステロイド性消炎鎮痛剤に抗プラスミン剤と制酸剤を併用することによって、非ステロイド性消炎鎮痛剤の消炎鎮痛効果が持続的に維持されることがわかる(持続性の付与)。つまり、非ステロイド性消炎鎮痛剤に、抗プラスミン剤、または抗プラスミン剤と制酸剤を組み合わせて含有する本発明の医薬組成物は、従来の非ステロイド性消炎鎮痛剤に比べて服用回数を減らすことができる。したがって、本発明の医薬組成物によれば、服用回数に伴って生じる粘膜障害などの副作用を軽減できため、疼痛が長期間持続するリウマチや関節炎といった症状に対して適用可能であり、そこから発症する慢性疼痛の予防剤として、また、疼痛が長期的に持続する慢性疼痛の治療剤として有効であると考えられる。
【0053】
実験例2
抗プラスミン剤と制酸剤の併用による非ステロイド性消炎鎮痛剤の胃粘膜障害軽減効果を評価した。なお、非ステロイド性消炎鎮痛剤としてフェニルプロピオン酸系消炎鎮痛薬に分類されるイブプロフェンを、抗プラスミン剤としてトラネキサム酸を、また制酸剤として乾燥水酸化アルミニウムゲルを用いた。
【0054】
<試験試料の調製>
各試験試料(実施例2〜14、比較例3〜8)の組成を表2に示す。各試験試料は、各成分を1%アラビアゴム水溶液に懸濁して、その5mL中に含まれる各成分の量が表1に示すmg数になるように調製した。すなわち、表2は、試験試料をラット体重1kgあたり5mL投与したときの各成分のmg数を示す。
【0055】
<実験方法>
(1)体重140−170gのDonryu系ラット(6週齢)(日本エスエルシー株式会社)77匹(11群×7匹)を、20〜25℃、12時間明条件−12時間暗条件、自由飲水、自由摂取の条件下で、1週間馴化させた後、18時間絶食させる。
(2)その後4時間おきに計3回、表2に記載する各試験試料(実施例2〜14、比較例3〜8)を体重1kgあたり5mLの割合で経口投与する。
(3)最終投与から4時間後に、死亡したラット数を計測するとともに、生存するラットについてはエーテルで安楽死させて、胃を摘出する。
(4)摘出した胃を切開し、撮影して、ノギスを用いて内部潰瘍形成部の長径(潰瘍長径)を測定する。
【0056】
<実験結果>
各ラット群(実施例2〜14、比較例3〜8)について測定した死亡率と潰瘍長径を表2に合わせて示す。
【0057】
【表2】

【0058】
この結果から、イブプロフェン単独投与によって胃粘膜障害が生じること(比較例3)がわかる。また、乾燥水酸化アルミニウムゲルは、イブプロフェンによる胃粘膜障害に対しては保護効果に欠けることが分かる(比較例4〜8)。これに対して、イブプロフェンにトラネキサム酸と乾燥水酸化アルミニウムゲルの両方を組み合わせると、乾燥水酸化アルミニウムゲルの併用では改善がみられなかったイブプロフェンの胃粘膜障害(潰瘍)および死亡率が顕著に軽減することが判明した(実施例2〜14)。また、実施例1の組成からなる試験試料を用いた場合、胃粘膜障害に対する保護効果は比較例3と同様であった。
【0059】
これらのことから、非ステロイド性消炎鎮痛剤、特にフェニルプロピオン酸系消炎鎮痛薬として分類されるイブプロフェンに、特に抗プラスミン剤であるトラネキサム酸と制酸剤である乾燥水酸化アルミニウムゲルを組み合わせることにより、非ステロイド性消炎鎮痛剤が有する胃粘膜障害といった副作用の発生を防止できることが明らかになった。
【0060】
処方例1〜32:軟カプセル剤
表3および4に記載の処方例に従い、軟カプセル剤を調製した(処方例1〜32)。具体的には中鎖脂肪酸トリグリセリドに、グリセリン脂肪酸エステルを溶解・混合した後、有効成分を均一に懸濁させた内容物を、ゼラチンに適切な可塑剤、保存剤、着色剤を加えて、製したカプセル剤皮に充てんし、軟カプセル剤を得た。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
処方例33:顆粒剤
表5の処方例33に従って顆粒剤を調製した。具体的には、表5の処方例33に示す全成分を押し出し造粒法により造粒し、乾燥後整粒して顆粒剤を得た。
【0064】
処方例34:錠剤
表5の処方例34に従って錠剤を調製した。具体的には、表5の処方例34に示す全成分を回転式の打錠機で打錠し錠剤を得た。
【0065】
処方例35:硬カプセル剤
表5の処方例35に従って硬カプセル剤を調製した。具体的には、表5の処方例35に示す全成分を常法により硬カプセル剤を得た。
【0066】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実験例1において、試験組成物投与群(実施例1〜2、比較例1〜4)および無処置群について、カラゲニン接種後の経時的な浮腫率(%)を対比したグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤、および(b)抗プラスミン剤を含有することを特徴とする経口用の慢性疼痛予防または/および治療剤。
【請求項2】
さらに(c)制酸剤を含有する、請求項1に記載する慢性疼痛予防または/および治療剤。
【請求項3】
(a)非ステロイド性消炎鎮痛剤がフェニルプロピオン酸系消炎鎮痛剤である請求項1または2に記載する慢性疼痛予防または/および治療剤。
【請求項4】
フェニルプロピオン酸系消炎鎮痛剤がイブプロフェンである請求項1乃至3のいずれかに記載する慢性疼痛の予防または/および治療剤。
【請求項5】
(b)抗プラスミン剤がトラネキサム酸である請求項1乃至4のいずれかに記載する慢性疼痛予防または/および治療剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242360(P2009−242360A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94301(P2008−94301)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】