説明

経口用組成物

【課題】苦味又は渋味物質による苦味または渋味が低減され、液体の形態、例えば分散液としたときに外観を損なわない透明性を有する経口用組成物を提供する。
【解決手段】苦味又は渋味物質、例えばイソα酸と、多価金属塩、例えば塩化第二鉄と、を含む水不溶化物並びに、分散剤、例えばゼラチン又はアラビアガムなどの水溶性高分子、を含む経口用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の三次機能に着目した、機能を有する食品素材の研究が盛んに行われている。ポリフェノール類やアミノ酸類、ペプチド類は、このような食品素材の代表である。これらの食品素材を加工し、食品やサプリメントとして使用する場合には、これらの食品素材の味、特に苦味や渋味について問題となることが多い。植物に起原する低分子の生理活性物質は、総じて苦味や渋味を有することが多く、健康機能を有する食品素材であっても、これらを必要量摂取することが困難となっていた。
【0003】
この様な素材の例として、イソフムロンなどのイソα酸が挙げられる。ホップの抽出物であるイソα酸は、ビール、発泡酒の醸造における役割に加えて、抗う蝕作用、抗骨粗鬆症作用、ピロリ菌増殖抑制作用又は血糖値改善作用などの様々な有用生理作用を有することが確認されている。これらを背景に、イソα酸をいわゆる健康食品、機能性食品などの健康志向の飲料・食品へ応用することが期待されている。
例えば、特許文献1には、改善されたバイオアベラビリティを有するホップ酸製剤が開示されており、これは、イソα酸にカルシウムなどの無機塩を加えてスラリーを形成させ、乾燥させて得られたものである。しかしながらイソα酸は独特の苦味を有し飲用もしくは食用に供する場合、必要量を含有すると強い不快感を伴う。そのためイソα酸類を高含有する飲料・食品の具現化は困難であった。
【0004】
この様な状況を鑑みて、苦味や渋味を軽減するための技術が幾つか提唱されている。
苦味を有する食物又は医薬品などにおける苦味をマスキングする方法としては、(1)アスパルテーム、アセスルファムカリウム等の人工甘味料を用いる方法(特許文献2及び特許文献3、参照)、(2)苦味成分をサイクロデキストリンに包接させる方法(特許文献4及び特許文献5、参照)、(3)苦味成分であるカテキンにカルシウム化合物を添加する方法(特許文献6、参照)又は(4)苦味成分にグルコン酸亜鉛等を添加する方法(特許文献7、参照)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−543942号公報
【特許文献2】特開平2−56416号公報
【特許文献3】特許第4347161号公報
【特許文献4】特開平3−236316号公報
【特許文献5】国際公開第2007/066773号パンフレット
【特許文献6】特開2007−289158号公報
【特許文献7】特開2006−6251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の方法は、苦味のマスキングする方法としては未だ十分なものではない。また、イソα酸のような苦味又は渋味物質に対して、金属塩を添加してスラリーを形成するといった不溶化処理を行った場合には、飲食用に供した際に口中に不快感が残り、ざらつきが感じられる傾向がある。
このように、苦味又は渋味物質を有効に摂取するために苦味又は渋味が低減された経口用組成物が得られていないのが実情である。
更に、不溶化処理した苦味又は渋味物質を含む組成物を、飲料のような液体の形態とした際に、この不溶化物が沈殿し、外観が悪いという問題がある。
【0007】
従って本発明は、苦味又は渋味物質による苦味または渋味が低減され、液体の形態、例えば分散液としたときに外観を損なわない透明性を有する経口用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
[1] 苦味又は渋味物質及び多価金属塩を含む水不溶化物と、分散剤とを含む経口用組成物。
[2] 前記多価金属塩が三価金属塩を含む[1]に記載の経口用組成物。
[3] 前記苦味又は渋味物質が有機酸を含む[1]又は[2]に記載の経口用組成物。
[4] 前記苦味又は渋味物質がホップ抽出物を含む[1]〜[3]のいずれかに記載の経口用組成物。
[5] 前記苦味又は渋味物質がイソα酸を含む[1]〜[4]のいずれかに記載の経口用組成物。
[6] 前記苦味又は渋味物質が、イソα酸及びα酸の組み合わせを含む[1]〜[5]のいずれかに記載の経口用組成物。
[7] 前記分散剤が、水溶性高分子及び界面活性剤からなる群より選択された少なくとも1種である[1]〜[6]のいずれかに記載の経口用組成物。
[8] 前記分散剤が水溶性高分子であり、前記水溶性高分子がゼラチン、アラビアガム、加工デンプン、プルラン、及びセルロース誘導体からなる群より選択された少なくとも1種である[1]〜[7]のいずれかに記載の経口用組成物。
[9] 前記多価金属塩の含有量が、前記苦味又は渋味物質の含有量に対してモル比で0.01倍以上100倍以下である[1]〜[8]のいずれかに記載の経口用組成物
[10] 前記分散剤の含有量が、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して質量比で0.1倍以上100倍以下である[1]〜[9]のいずれかに記載の経口用組成物
[11] 前記経口用組成物が分散粒子を含む分散液であり、該分散粒子が前記水不溶化物を含む[1]〜[10]のいずれかに記載の経口用組成物。
[12] 前記分散粒子の平均粒子径が300nm以下である[11]に記載の経口用組成物。
[13] 苦味又は渋味物質を含む組成物の苦味又は渋味を抑制する苦味又は渋味抑制方法であって、苦味又は渋味物質と、二価又は三価の多価金属塩及び分散剤とを組み合わせることを含む苦味又は渋味抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、苦味又は渋味物質による苦味または渋味が低減され、液体の形態を、例えば分散液としたときに外観を損なわない透明性を有する経口用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[経口用組成物]
本発明の経口用組成物は、苦味又は渋味物質及び多価金属塩を含む水不溶化物と、分散剤とを含む経口用組成物である。
本発明の経口用組成物では、苦味又は渋味物質が、多価金属塩によって水不溶性の固形物、即ち水不溶化物を形成することにより、苦味又は渋味物質による苦味又は渋味が低減(マスキング)される。更に、前記経口用組成物は、前記水不溶化物と分散剤とを含むので、水性媒体を分散媒とした場合には、水不溶化物が分散粒子の一部を構成して、外観を損なわない透明性を示す分散液の形態を採ることができる。
【0011】
本発明において「苦味又は渋味物質」とは、ヒトを被験体として行う味覚試験において苦味又は渋味を呈し得る物質を包括的に意味する。従って、本発明において用語「苦味物質」と用語「渋味物質」とは互換的に使用可能であり、これらの用語を使用する場合、概念上、明確に区別されなくてもよい。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本発明において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
以下、本発明について説明する。
【0012】
<水不溶化物>
本発明の経口用組成物は、苦味又は渋味物質及び多価金属塩を含む水不溶化物を含む。苦味又は渋味物質が水不溶化物として経口用組成物に含まれるので、苦味又は渋味物質による苦味又は渋味が効果的に低減(マスキング)される。
本発明における「水不溶化物」とは、25℃の水に対して完全に溶解することがない微細な固形物を意味する。水不溶化物の存在については、後述する粒径測定機により確認が可能であり、さらには限外濾過や透析によって、前記微細な固形物又は粒子を分離することによっても確認可能である。
【0013】
前記水不溶化物は、経口用組成物の形態に応じた形態で経口用組成物に含まれる。
例えば、経口用組成物が分散液の形態を採る場合には、分散粒子に含まれる。この場合、水不溶化物は、分散粒子の一部を構成していればよい。即ち、水不溶化物は、分散粒子の内部に包含されていてもよく、水不溶化物の一部が分散粒子の表面に露出するものであってもよい。経口用組成物が分散液の形態を採り、水不溶化物が分散粒子に含まれることにより、外観を損なわない透明性を示すことができる。
また、経口用組成物が粉末形態又は固形物形態である場合には、水不溶化物は、粉末の一部又は固形物の一部を構成する。なお、粉末状又は固形物形態の経口用組成物における水不溶化物は、粉末状又は固形物形態の経口用組成物を水性媒体と混合させた場合に、上述した分散液の場合と同様に、水性媒体中に分散する分散粒子に含まれる。水性媒体と組み合わせた後の分散液の形態の経口用組成物は、外観を損なわない透明性を示すことができる。
【0014】
水不溶化物の大きさは、経口用組成物の形態によって異なり、経口用組成物が分散液の形態を採るときに、後述する分散粒子の大きさと同一であり、粉末状又は固形物形態のときには、個々の粉末及び固形物としての大きさには特に制限はなく、粉末状又は固形物形態の経口用組成物を水性媒体と接触させて分散液とした場合に、後述する大きさの分散粒子を提供し得る大きさであればよい。
【0015】
−苦味物質又は渋味物質−
水不溶化物に含まれる苦味又は渋味物質は、後述する多価金属塩と共に25℃の水において水に不溶の形態を採り得る物質であればよい。
本発明における苦味物質としては、例えば、アセトアミノフェン、アンピシリン、アジスロマイシン、フェニルチオ尿素、キニーネ、ストリキニーネ、ニコチン、カフェイン、ナリンギン、リモニン、イポメアマロン、ククルビタチン、イソα酸(イソフムロン、イソコフムロン、又はイソアドフムロン等)、β酸(ルプロン、コルプロン、及びアドルプロン等)、カテキン、苦味ペプチド(Gly−Leu、Leu−Phe等)、タンニン酸、カフェ酸、没食子酸、ケルセチンなどが挙げられる。また渋味物質としては、カテキン(エピガロカテキンガレート、及びエピカテキンガレート等)、α酸(フムロン、コフムロン、及びアドフムロン等)、クロロゲン酸などが挙げられる。これらの苦味又は渋味物質は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。また、これらの苦味又は渋味物質は、精製物として用いてもよく、例えば、天然成分からの抽出物の形態として使用してもよい。
【0016】
前記苦味又は渋味物質は、好ましくは、酸性の苦味又は渋味物質を含むことができ、具体的には有機酸を含むことができる。有機酸の苦味又は渋味物質を用いることにより、高いマスキング効果を得ることが可能である。
ここで有機酸とは、例えばカルボン酸化合物、フェノール化合物、エノール化合物、チオール化合物を挙げることができる。前記有機酸には、上述した物質のうち、具体的にはα酸、イソα酸、β酸、カテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、タンニン酸、カフェ酸、没食子酸、ケルセチン、及びクロロゲン酸が該当する。本発明における苦味又は渋味物質として、タンニン酸、カフェ酸、没食子酸、クロロゲン酸であるカルボン酸化合物、と、α酸、イソα酸、β酸であるエノール化合物とから選択された少なくとも1つであることが好ましく、特にイソα酸が好適に用いられる。イソα酸は、如何なる形態で用いてもよいが、イソα酸を含有するホップ抽出物として容易に入手することが可能である。
【0017】
また、前記苦味又は渋味物質としては、上述した有機酸を単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、前記苦味又は渋味物質が、イソα酸とα酸との組み合わせを含むことができる。イソα酸とα酸との組み合わせを含む前記経口用組成物は、苦味又は渋味が低減されて、分散液としたときの外見を損なわないことに加えて、イソα酸の加熱安定性及び保存性を良好なものにすることができる。
なお、イソα酸とα酸とを組み合わせる場合には、その量比については特に制限はないが、例えば、イソα酸の質量に対して0.5倍〜10倍のα酸を組み合わせることができる。
【0018】
前記苦味又は渋味物質の経口用組成物における含有量は、苦味又は渋味物質の種類又は機能、或いは、経口用組成物の形態によって適宜変更することができる。例えば、経口用組成物が分散液の形態の場合、本苦味又は渋味物質の含有量は、一般に、経口用組成物の全質量の0.001質量%〜1質量%とすることができる。
【0019】
−多価金属塩−
水不溶化物に含まれる多価金属塩としては、二価以上の金属塩であることを要し、一価の金属塩では、苦味又は渋味物質に対する十分なマスキング効果が得られない。なお、多価金属塩はその一部が、水不溶化物を構成する成分として作用していればよく、経口用組成物を分散液の形態としたときに、水不溶化物を含む分散粒子を構成しない多価金属塩が系中に存在していてもよい。
また、多価金属塩であれば、無機化合物の多価金属塩であっても、カルボン酸などの有機化合物の多価金属塩であってもよく、無機及び有機の多価金属塩のいずれも、期待されるマスキング効果を得ることができる。
本多価金属塩としては、良好なマスキング効果の観点から、二価又は三価の金属塩が好ましく、例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、又は銅の塩であることが好ましい。
【0020】
カルシウム塩としては、例えば塩化カルシウム、L−アスコルビン酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、硫酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、L−グルタミン酸カルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム(別名第二リン酸カルシウム)、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム等が挙げられる。マグネシウム塩としては、例えば塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、L−グルタミン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム(別名第三リン酸マグネシウム)等が挙げられる。アルミニウム塩としては、例えば硫酸アルミニウムアンモニウム(別名アンモニウムミョウバン、乾燥物の別名焼アンモニウムミョウバン)、硫酸アルミニウムカリウム(別名ミョウバン又はカリウムミョウバン、乾燥物の別名焼ミョウバン)等が挙げられる。亜鉛塩としては、例えばグルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛が挙げられる。鉄塩としては、例えばクエン酸鉄(III)アンモニウム、乳酸鉄(II)、クエン酸鉄(II)、ピロリン酸第二鉄、塩化第二鉄等が挙げられる。銅塩としては、例えばグルコン酸銅、硫酸銅が挙げられる。これらを1つ又は2つ以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
これらの多価金属塩としては、苦味又は渋味物質のマスキング効果の観点から、カルシウム塩、アルミニウム塩、又は二価鉄塩若しくは三価鉄塩が好ましく、アルミニウム塩又は三価鉄塩のような三価の金属塩がより好ましい。中でも、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、クエン酸鉄(III)アンモニウム、塩化第二鉄、ピロリン酸第二鉄が特に好ましい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
前記経口用組成物における多価金属塩の含有量は、マスキング効果の観点から、苦味又は渋味物質の含有量に対して、質量比で0.01倍〜100倍であることが好ましく、0.1〜50倍であることがより好ましく、0.2倍〜10倍であることが特に好ましい。多価金属塩の含有量(質量)が、該苦味又は渋味物質の含有量(質量)に対して0.01倍以上であれば、十分なマスキング効果を得ることができ、100倍以下であれば、多価金属塩そのものの不快味の影響を抑えることができる。
【0023】
また、多価金属塩の前記経口用組成物における含有量は、上述した苦味又は渋味物質の含有量(質量)に対する含有量(質量)の範囲であることに加えて、多価金属塩と前記苦味又は渋味物質との反応性に基づき、更に良好なマスキング効果の観点から、苦味又は渋味物質の含有量(モル)に対して、モル比で0.01倍〜100倍であることが好ましく、0.05倍〜50倍であることがより好ましく、0.1倍〜10倍であることがより好ましく、0.2倍〜3倍であることが、特に好ましい。多価金属塩の含有量(モル)が、該苦味又は渋味物質の含有量(モル)に対して0.01倍以上であれば、十分なマスキング効果を得ることができ、100倍以下であれば、多価金属塩そのものの不快味の影響を抑えることができる。
【0024】
<分散剤>
本発明における分散剤は、水性媒体を分散媒としたときに苦味又は渋味物質及び多価金属塩を含む水不溶化物を含む分散粒子を形成すると共に、形成された該分散粒子の系中での分散安定性を向上させるために用いられる。また、苦味又は渋味物質を、分散粒子に含めることによって、苦味又は渋味物質の体内への吸収性も向上する。
本分散剤としては、水性媒体中で前記不溶化物を分散粒子の一部として分散させ得る物質が該当する。前記分散剤としては、水溶性高分子、界面活性剤、粘土物質、ラテックス、包接化合物等を挙げることができ、水不溶化物を含む分散粒子の分散安定性の観点から好ましく、水溶性高分子及び界面活性剤から選択された少なくとも1種であることが特に好ましい。これらの分散剤は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
水溶性高分子としては、タンパク、多糖類、及び合成高分子等が挙げられる。水溶性高分子の分子量としては、特に制限はないが、一般的には、1000〜1000000の範囲とすることができ、分散安定性の観点から3000〜300000の範囲であることがより好ましい。
タンパクとしては、例えば、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、ツェイン等が挙げられる。多糖類としては、例えば、セルロース、アミロース、アミロペクチン、デキストリン、デキストラン、プルラン、イヌリン、ガラクタン、マンナン、キシラン、アラビナン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、ペクチン酸、アルギン酸、アガロース、寒天、カラギーナン、フコイダン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ジェランガム、ネイティブジェランガム、キサンタンガム、キチン、キトサン、およびこれらの誘導体、例えばセルロース誘導体(ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、加工デンプン(ヒドロキシプロピルデンプン、オクテニルコハク酸デンプン、カルボキシメチルデンプン等)、アルギン酸誘導体(アルギン酸プロピレングリコール等)が挙げられる。更にはアラビアガム、カラヤガム、ガティガム等を挙げることができる。合成高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせ使用することができる。
これらの水溶性高分子のうち、ゼラチン、セルロース誘導体、加工デンプン、アラビアガム、プルランが、分散物形態の経口用組成物としたときの分散安定性の観点から特に好ましい。
【0026】
界面活性剤としては、経口用に使用可能な界面活性剤であればいずれであってもよく、一般に乳化剤として公知のものが挙げられる。このような界面活性剤としては、脂肪酸グリセリド(例えば、オレイン酸モノグリセリド、カプリル酸モノグリセリド、ラウリン酸モノグリセリド、カプリン酸モノグリセリド、カプリル酸ジグリセリド)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸ジグリセリン、デカオレイン酸デカグリセリン、トリオレイン酸ペンタグリセリン、モノラウリン酸デカグリセリン、モノミリスチン酸デカグリセリン、モノオレイン酸デカグリセリン、モノステアリン酸デカグリセリン、ジステアリン酸デカグリセリン、モノラウリン酸ペンタグリセリン、モノオレイン酸ペンタグリセリン、モノステアリン酸ペンタグリセリン)、ポリグリセリンポリリシノレート(例えば縮合リシノレイン酸テトラグリセリン、縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリン)、有機酸モノグリセリド(例えば、乳酸モノステアリン酸グリセリン、クエン酸モノステアリン酸グリセリン、クエン酸モノオレイン酸グリセリン、コハク酸モノステアリン酸グリセリン)、ソルビタン 脂肪酸エステル(例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート)、プロピレングリコール脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸プロピレングリコール、モノオレイン酸プロピレングリコール)、ポリソルベート(例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)、ショ糖脂肪酸エステル(例えばショ糖ジオレイン酸エステル、ショ糖ジステアリン酸エステル、ショ糖ジパルミチン酸エステル、ショ糖ジミリスチン酸エステル、ショ糖ジラウリン酸エステル、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノラウリン酸エステル)、ポロキサマー(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン−12−ヒドロキシステアリン酸)、リン脂質(例えばレシチン、リゾレシチン、リゾホスファチジン酸、酵素処理レシチン)、アルキル硫酸ナトリウム(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、コール酸類(例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ウルソデオキシコール酸ナトリウム)、サポニン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせ使用することができる。界面活性剤としては、苦味または渋味を抑制する効果の点で、レシチン、リゾレシチン、リゾホスファチジン酸が特に好ましい。
【0027】
前記分散剤として使用可能な粘土物質としては、カオリン、タルク、スメクタイト、ハイドロタルサイト等を挙げることができる。前記分散剤として使用可能な包接化合物としては、シクロデキストリン、シクロアミロース、クラスターデキストリン及びこれらの誘導体等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせ使用することができる。
【0028】
前記分散剤としては、前記経口用組成物を分散液の形態としたときの透明性及び分散粒子の安定性の観点から、中でも、水溶性高分子であることが好ましく、ゼラチン、アラビアガム、加工デンプン、セルロース誘導体、プルラン又はこれらの組み合わせであることがより好ましい。
【0029】
前記経口用組成物における分散剤の含有量は、前記経口用組成物を液体としたときの分散安定性の観点から、苦味物質又は渋味物質の含有量に対して、質量比で0.1倍〜100倍であることが好ましく、0.5倍〜50倍であることがより好ましく、1倍〜25倍であることが特に好ましい。分散剤の含有量が、該苦味物質あるいは渋味物質の含有量に対して質量比で0.1倍以上であれば、十分な分散安定性が得られ、水分散液として使用したときに沈殿の発生を抑制できる。一方、分散剤の含有量が、質量比で、苦味又は渋味物質の質量の100倍以下であれば、分散剤そのものの不快味の影響を抑えることができる。
【0030】
本発明の経口用組成物としては、苦味又は渋味物質のマスキング、又は分散液の形態としたときの安定性の観点から、以下のいずれかの態様とすることが好ましい:
(1) α酸、イソα酸、β酸、カテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、タンニン酸、カフェ酸、没食子酸、ケルセチン、及びクロロゲン酸からなる群より選択された少なくとも1種の苦味又は渋味物質と、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、及び銅からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三金属塩と、分散剤と、を含む経口用組成物;
(2) α酸、イソα酸、β酸、カテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、タンニン酸、カフェ酸、没食子酸、ケルセチン、及びクロロゲン酸からなる群より選択された少なくとも1種の苦味又は渋味物質と、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して、質量比で0.1〜50倍且つモル比で0.1倍〜10倍の含有量であって、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、及び銅からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三価の金属塩と、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して質量比で1倍〜25倍の含有量の分散剤と、を含む経口用組成物;
(3) ホップ抽出物である苦味又は渋味物質と、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して、質量比で0.1〜50倍且つモル比で0.1倍〜10倍の含有量であって、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、及び銅からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三価の金属塩と、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して質量比で1倍〜25倍の含有量の分散剤と、を含む経口用組成物;
(4) ホップ抽出物である苦味又は渋味物質と、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、クエン酸鉄(III)アンモニウム、塩化第二鉄、ピロリン酸第二鉄からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三価の金属塩と、分散剤と、を含む経口用組成物;
(5) α酸、イソα酸、β酸、カテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、タンニン酸、カフェ酸、没食子酸、ケルセチン、及びクロロゲン酸からなる群より選択された少なくとも1種の苦味又は渋味物質と、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して、質量比で0.1〜50倍且つモル比で0.1倍〜10倍の含有量であって、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、及び銅からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三価の金属塩と、分散剤と、を含む経口用組成物;
(6) イソα酸、β酸、カテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、タンニン酸、カフェ酸、没食子酸、ケルセチン、及びクロロゲン酸からなる群より選択された少なくとも1種の苦味又は渋味物質と、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して、質量比で0.1〜50倍且つモル比で0.1倍〜10倍の含有量であって、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、クエン酸鉄(III)アンモニウム、塩化第二鉄、ピロリン酸第二鉄からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三価の金属塩と、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して質量比で1倍〜25倍の含有量であって、ゼラチン、セルロース誘導体、加工デンプン、アラビアガム、及びプルランからなる群より選択された少なくとも1種の分散剤と、を含む経口用組成物。
【0031】
上記(1)〜(6)の各経口用組成物における金属塩は、分散物形態としたときの安定性及び好ましい外観の観点から、塩化第二鉄及びカリウムミョウバンの少なくとも一方を含むことができる。
上記(1)〜(6)の各経口用組成物の分散物形態における分散粒子の平均粒子径は、分散物形態としたときの安定性及び好ましい外観の観点から、1nm以上500nm以下、1nm以上300nm以下、又は1nm以上150nm以下とすることができ、このとき更に、金属塩を、塩化第二鉄及びカリウムミョウバンの少なくとも一方としてもよい。
上記(1)〜(6)の各経口用組成物における苦味又は渋味物質は、イソα酸とα酸との組み合わせを含むものとしてもよく、イソα酸とα酸との組み合わせを含む経口用組成物としたときには、分散物形態としたときの安定性及び好ましい外観の観点から、前記金属塩は塩化第二鉄及びカリウムミョウバンの少なくとも一方を含み、分散物形態における分散粒子の平均粒子径を1nm以上500nm以下、1nm以上300nm以下、又は1nm以上150nm以下とすることができる。
【0032】
<その他の成分>
本発明の経口用組成物は、上述した成分以外に、経口用組成物として通常使用されうる他の成分を、通常用いられる量で含んでもよい。このような他の成分としては、例えば、他の機能性成分、甘味料、香料、pH調整剤等を挙げることができる。
【0033】
機能性成分とは、生物体内に存在した場合に生体において所望の生理学的作用の発揮が記載され得る成分であり、例えば、ミネラル;ビタミンE等の脂溶性又は水溶性ビタミン;N−アセチルグルコサミン等の機能性アミノ糖;ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等の機能性ムコ多糖類;などを挙げることができる。
【0034】
前記甘味剤は、甘味を呈する材料であればどのようなものでもよい。例えば、果汁、糖類または人工甘味料などが挙げられる。
糖類としては、グルコース、果糖、ガラクトース、異性果糖などの単糖類;ショ糖、乳糖、パラチノースなどの二糖類;フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、パラチノースなどのオリゴ糖類;エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール等の単糖アルコール類;マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール等の二糖アルコール類;マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトール等の三糖アルコール類;オリゴ糖アルコール等の四糖以上アルコール類;粉末還元麦芽糖水飴等の糖アルコールが挙げられる。
人工甘味料としては、例えば、ステビア、アスパラテーム、サッカリン、グルチルリチン、ソーマチン、スクラロース等が挙げられる。
【0035】
前記香料としては、例えば天然香料及び合成香料等が挙げられる。上記天然香料としては、例えば草根、木皮、花、果実、果皮又はその他動植物を素材として常法に従って調整された香成分含有物等が挙げられる。上記天然香料は、天然素材を水蒸気蒸留法、圧搾法又は抽出法等によって処理して分離した精油等も含まれる。
【0036】
前記pH調整剤としては、特に制限はなく、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸、L−酒石酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、コハク酸、酢酸及びこれらの誘導体を好ましく挙げることができ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよいが、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩及びこれらの誘導体は含まれない。pH調整剤としては、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、乳酸及びこれらの誘導体であることがより好ましい。
【0037】
前記経口用組成物を粉末形態とする場合には、打錠適性や微粒子化適性等を持たせるため公知の賦形剤を含んでもよい。
賦形剤としては1種単独で又は2種以上を組み合わせ含んでもよい。賦形剤は一般的に用いられている水溶性物質であればよく、グルコース、果糖、乳糖、麦芽糖、ショ糖、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、マルトース、トレハロースや、アラビアガム、グアーガム、ペクチン、プルランなどの増粘多糖類などの単糖及び多糖類;ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクトース、マルトトリイトール、キシリトールなどの糖アルコール;塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの無機塩;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;デンプンに、エステル化、エーテル化処理又は末端還元処理を施したデンプン誘導体;その他に加工澱粉、ゼラチン分解物、寒天、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。この中でも、溶解性の面から単糖、多糖類、糖アルコール、無機塩が好ましい。
【0038】
この他、一般に飲食品に用いられる添加剤、例えば、滑沢剤、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、強化剤、製造用剤、香辛料抽出物等が添加されてもよい。
これらの成分は、単独で又は2つ以上を組み合わせ使用してもよい。
【0039】
本経口用組成物の形態は、液体、固体又は粉体のいずれであってもよい。
液体形態の経口用組成物は、水などの水性媒体を含み、分散粒子を含む液体(分散液)であって、ここで分散粒子が、前記水不溶化物を含むものである。
【0040】
一般に粒子径500nmを超えると散乱光が増加し、透明性が低下するため、水不溶化物を含む分散粒子の平均粒子径は、飲料等に使用した際の外観を損なわない透明性を得る観点から、500nm以下であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることが更に好ましく、150nm以下であることが更により好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。また、一般に分散粒子の平均粒子径は、1nm以上である。1nm以上500nm以下の粒子径とすることで、前記分散粒子を含む液体の透明性が向上し、経時での沈降も低減することが可能である。
【0041】
分散粒子の平均粒子径は、市販の粒度分布計等で計測することができる。粒度分布測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されている。
本発明における粒径測定では、粒径範囲及び測定の容易さから、動的光散乱法を適用する。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))等が挙げられる。
特に本発明における分散物の平均粒子径は、FPAR−1000を用いて測定した値であり、具体的にはContin法より得られる散乱強度分布のメジアン径を粒子径とする。
【0042】
粉体又は固体の形態の経口用組成物は、前記液体形態の経口用組成物を乾燥し、水性媒体以外の、液体形態の経口用組成物に含まれる成分から実質的に構成されたものである。固体の形態の経口用組成物は、例えば、前記粉末の形態の経口用組成物を、更に打錠などによって固体化されて構成されたものである。
【0043】
<pH>
前記経口用組成物のpHは特に制限されないが、苦味又は渋味抑制効果、摂取しやすさ及び保存性の観点から酸性、特に、20℃においてpH2.0〜6.0であることが好ましく、より好ましくは3.0〜5.0とすることができる。
【0044】
<経口用組成物の製造方法>
本発明の経口用組成物の製造方法は、水などの水性媒体に、苦味又は渋味物質、多価金属塩及び分散剤を組み合わせることを含む。本製造方法は、上述した各成分を組み合わせて液体形態の経口用組成物を得る工程を含むものであれば、特に制限されない。
前記組み合わせる工程としては、各成分を乳化又は分散する乳化又は分散工程を含むことができる。各成分の乳化又は分散には、スターラーやインペラー攪拌、ホモミキサー、連続流通式剪断装置等の剪断作用を利用する通常の乳化装置や、高圧ホモジナイザー、超音波分散機を使用してもよい。特に、微細な粒子を製造するには高圧ホモジナイザー、または超音波分散機の使用が好ましい。混合時の温度としては、特に制限はないが、有効成分の安定性の観点から10℃〜100℃であることが好ましい。
【0045】
本発明の経口用組成物の他の製造方法として、中和反応を利用した析出法を用いてもよい。具体的には、苦味または渋味物質のアルカリ溶液と、多価金属塩の酸性溶液とを混合することを含む。前記アルカリ溶液と酸性溶液との混合を、例えば迅速に行うことで粒子(水不溶化物)を得ることが可能である。この時、分散剤はどちらかの液に添加、もしくは前記アルカリ溶液及び前記酸性溶液を混合して粒子が形成された後に添加してもよい。
苦味物質又は渋味物質溶液と多価金属塩溶液との混合は、通常、溶液の混合に適用される条件をそのまま適用すればよく、例えば、4℃〜50℃、好ましくは4℃〜30℃の温度条件で、一方の液を攪拌しながら添加すればよい。粒子径を所望の範囲に制御するには迅速かつ均一に攪拌することが好ましく、攪拌状態の溶液に対して一定速度でもう一方の溶液を添加することが好ましい。
【0046】
粉体又は固体形態の経口用組成物を製造する場合は、前記液体形態の経口用組成物を噴霧乾燥等により乾燥させる工程を追加することで、粉末状態の組成物を得ることができる。
乾燥手段としては、公知の乾燥手段を用いることができ、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、熱風乾燥、高周波乾燥、超音波乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。これらの手段は単独で用いてもよいが、2種以上の手段を組み合わせて用いることもできる。
また、前記経口用組成物は、所定の形状に成形してもよい。前記経口用組成物を成形する場合には、例えば、前記粉末形態の経口用組成物を打錠すれよい。打錠方法としては、この目的で一般に適用されている方法をそのまま適用すればよく、特に制限はない。また前記経口用組成物を成形する際に取り得る形状については、特に制限はない。
【0047】
<用途>
前記経口用組成物は、形態に応じて種々の用途に適用可能である。例えば、液体形態、即ち、水不溶化物を含む分散粒子を含有する分散液とすることによって、透明性が良好な飲料等として好ましく用いることができる。この場合には、加熱殺菌等を行う前又は行った後で、容器に充填して、容器入り飲料又は液体医薬とすることができる。
【0048】
一方、粉末又は固体形態の経口用組成物とした場合には、粉末又は固体形態として、或いは必要時に他の水性媒体に分散させて、経口摂取する用途に適用可能である。また、前記経口用組成物を、錠剤、あるいはカプセルとして使用してもよく、その際には消化管内で容易に微分散することが期待できる。
この場合には、前記経口用組成物は、粉体又は固体として個別の容器又は区画に個別に収容して、粉末状又は固形の飲食品又は医薬とすることができる。粉末状又は固形の状態で摂取する食品又は医薬とした場合には、口内にて崩壊しても、苦味又は渋味物質の苦味又は渋味が効果的にマスキングされているため、摂取しやすい食品又は医薬となる。
【0049】
[苦味又は渋味抑制方法]
本発明の苦味又は渋味抑制方法は、苦味又は渋味物質を含む組成物の苦味又は渋味を抑制する苦味又は渋味抑制方法であって、苦味又は渋味物質と、二価又は三価の多価金属塩及び分散剤とを組み合わせることを含む苦味又は渋味抑制方法である。
本苦味又は渋味抑制方法によれば、苦味又は渋味物質が、二価又は三価の多価金属塩によって不溶化されて水不溶化物を形成し、且つ分散剤を含むことによって前記水不溶化物が液体中で分散粒子の一部を構成するため、苦味又は渋味物質による苦味又は渋味が低減(マスキング)される。
【0050】
前記苦味又は渋味抑制方法における苦味又は渋味物質、二価又は三価の多価金属塩及び分散剤については、上述した事項がそのまま適用でき、各成分の好ましい態様についても同一である。
【0051】
例えば、本発明の苦味又は渋味抑制方法としては、よりよいマスキング効果の点で、以下のいずれかの態様とすることが好ましい:
(1) α酸、イソα酸、β酸、カテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、タンニン酸、カフェ酸、没食子酸、ケルセチン、及びクロロゲン酸からなる群より選択された少なくとも1種の苦味又は渋味物質に、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、及び銅からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三価の多価金属塩と、分散剤とを組み合わせることを含む方法;
(2) α酸、イソα酸、β酸、カテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、タンニン酸、カフェ酸、没食子酸、ケルセチン、及びクロロゲン酸からなる群より選択された少なくとも1種の苦味又は渋味物質に、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して、質量比で0.1〜50倍且つモル比で0.1倍〜10倍の含有量であって、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、及び銅からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三価の金属塩と、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して質量比で1倍〜25倍の含有量の分散剤とを組み合わせることが含む方法;
(3) ホップ抽出物である苦味又は渋味物質に、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して、質量比で0.1〜50倍且つモル比で0.1倍〜10倍の含有量であって、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、及び銅からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三価の金属塩と、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して質量比で1倍〜25倍の含有量の分散剤と、を組み合わせる方法;
(4) ホップ抽出物である苦味又は渋味物質に、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、クエン酸鉄(III)アンモニウム、塩化第二鉄、ピロリン酸第二鉄からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三価の金属塩と、分散剤と、を組み合わせる方法;
(5) α酸、イソα酸、β酸、カテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、タンニン酸、カフェ酸、没食子酸、ケルセチン、及びクロロゲン酸からなる群より選択された少なくとも1種の苦味又は渋味物質に、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して、質量比で0.1〜50倍且つモル比で0.1倍〜10倍の含有量であって、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、及び銅からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三価の金属塩と、分散剤と、を組み合わせる方法;
(6) イソα酸、β酸、カテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、タンニン酸、カフェ酸、没食子酸、ケルセチン、及びクロロゲン酸からなる群より選択された少なくとも1種の苦味又は渋味物質に、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して、質量比で0.1〜50倍且つモル比で0.1倍〜10倍の含有量であって、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、クエン酸鉄(III)アンモニウム、塩化第二鉄、ピロリン酸第二鉄からなる群より選択された少なくとも1種の二価又は三価の金属塩と、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して質量比で1倍〜25倍の含有量であって、ゼラチン、セルロース誘導体、加工デンプン、アラビアガム、及びプルランからなる群より選択された少なくとも1種の分散剤と、を組み合わせることを含む方法。
【0052】
上記(1)〜(6)の各苦味又は渋味抑制方法における金属塩は、分散物形態としたときの安定性及び好ましい外観の観点から、塩化第二鉄及びカリウムミョウバンの少なくとも一方を含むことができる。
上記(1)〜(6)の各苦味又は渋味抑制方法において、得られた経口用組成物の分散物形態における分散粒子の平均粒子径は、分散物形態としたときの安定性及び好ましい外観の観点から、1nm以上500nm以下、1nm以上300nm以下、又は1nm以上150nm以下とすることができ、このとき更に、金属塩を、塩化第二鉄及びカリウムミョウバンの少なくとも一方としてもよい。
上記(1)〜(6)の各苦味又は渋味抑制方法における苦味又は渋味物質は、イソα酸とα酸との組み合わせを含むものとしてもよく、イソα酸とα酸との組み合わせを含む苦味又は渋味物質としたときには、得られた経口用組成物の分散物形態における安定性及び好ましい外観の観点から、前記金属塩は塩化第二鉄及びカリウムミョウバンの少なくとも一方を含み、得られた経口用組成物の分散物形態における分散粒子の平均粒子径を1nm以上500nm以下、1nm以上300nm以下、又は1nm以上150nm以下とすることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「質量%」は「質量/質量%」を意味し、「体積%」は「質量(g)/体積(mL)%」を意味する。
【0054】
[実施例1]
分散液1の調液
イソα酸30質量%原液(Hopsteiner社製、Iso−Extract30%)1gを精製水29gで希釈し、イソα酸1質量%水溶液を得た。同様にして塩化第二鉄六水和物(和光純薬工業(株)社製、以下塩化第二鉄と略す)1gを精製水99gで希釈し、塩化第二鉄1質量%水溶液を得た。
次に、攪拌子を入れた10mLバイアル瓶に精製水6.42g、塩化第二鉄1質量%水溶液500μL、ゼラチン(新田ゼラチン(株)社製、コラーゲンペプチドHBC−P20、分子量1.5万〜4万)75.7mgを加えてスターラーで攪拌し、これに前記イソα酸1質量%水溶液1mLを水中に一気に添加することで、鉄分散液(イソα酸濃度0.13質量%)8mLを得た(分散液1)。
【0055】
[実施例2]
分散液2の調液
実施例1のゼラチンを、アラビアガム(コロイドナチュレルインターナショナル(株)社製、インスタントガムAB、分子量20万)に変えた以外は同様にして、分散液2を得た。
【0056】
[実施例3]
分散液3の調液
実施例1のゼラチンを、プルラン(林原生物化学研究所(株)社製、日本薬局方プルラン、分子量7万)に変えた以外は同様にして、分散液3を得た。
【0057】
[実施例4]
分散液4の調液
実施例1のゼラチンを、ヒドロキシプロピルセルロース(東京化成工業(株)社製、以下HPCと略す、分子量1.5万〜3万)に変えた以外は同様にして、分散液4を得た。
【0058】
[実施例5]
分散液5の調液
実施例1のゼラチンを、オクテニルコハク酸デンプン(松谷化学工業(株)社製、エマルスターA1、分子量4500)に変えた以外は同様にして、分散液5を得た。
【0059】
[実施例6]
分散液6の調液
実施例1のゼラチンを、ポリビニルアルコール(和光純薬工業(株)社製、分子量66000)に変えた以外は同様にして、分散液6を得た。
【0060】
[実施例7]
分散液7の調液
実施例1のゼラチンを、リゾレシチン(キューピー(株)社製、LPL−20S)に変えた以外は同様にして、分散液7を得た。
【0061】
[実施例8]
分散液8の調液
実施例1の塩化第二鉄を、カリウムミョウバン十二水和物(和光純薬工業(株)社製、以下カリウムミョウバンと略す)に変えた以外は同様にして、分散液8を得た。
【0062】
[実施例9]
分散液9の調液
イソα酸30質量%原液(Hopsteiner社製、Iso−Extract30%)0.04g、オクテニルコハク酸デンプン(松谷化学工業(株)社製、エマルスターA1)0.048gに0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶解させ、イソα酸1質量%を含有する水溶液を得た。
次に、攪拌子を入れた10mLバイアル瓶に精製水7g、0.1規定塩酸1ml、および1質量%塩化カルシウム水溶液を1ml加えてスターラーで攪拌し、これに前記イソα酸1質量%水溶液1mlを水中に添加することで、分散液(イソα酸濃度0.1質量%)(分散液9)を得た。
【0063】
[実施例10]
分散液10の調液
イソα酸30質量%原液(Hopsteiner社製、Iso−Extract30%)1gとα酸(YAKIMA Chief社製、YC−CO2 Hop Extract)566mgを、エタノール4.5mLで希釈し、イソα酸5体積%エタノール溶液を得た。
同様にして塩化第二鉄六水和物(和光純薬工業(株)社製、以下塩化第二鉄と略す)1gを精製水19gで希釈し、塩化第二鉄5質量%水溶液を得た。
次に、攪拌子を入れた10mLバイアル瓶に、精製水5.87g、塩化第二鉄5質量%水溶液750μL、オクテニルコハク酸デンプン(松谷化学工業(株)社製、エマルスターA1、分子量4500)378mgを加えて攪拌子で攪拌し、これに前記イソα酸5体積%エタノール液1mLを一気に添加することで、鉄分散液(イソα酸濃度0.63体積%)8mLを得た。これをエタノール留去し、更に1mL精製水を足すことで、分散液(イソα酸濃度0.63質量%)(分散液10)を得た。
【0064】
[実施例11]
固体物1の調製
トレハロース(林原(株)社製)1gを、分散液(実施例5で得られた分散液5)20gに加えて溶解させた。これを5mL褐色バイアルに1mLずつ分注したのち、5mL褐色バイアルを−80℃で半日間冷却した。これを凍結乾燥機(AS−ONE社製、VFD−03)を用いて乾燥させることにより、粉末状の鉄分散液の固体物を得た(固体物1)。
【0065】
[実施例12]
固体物2の調製
分散液5を実施例10で得られた分散液10に変えた以外は実施例11と同様にして、粉末状の鉄分散液の固体物を得た(固体物2)。
【0066】
[比較例1]
分散液R1の調液
塩化第二鉄とゼラチンを添加しなかった点以外は実施例1と同様にして、分散液R1を得た。
【0067】
[比較例2]
分散液R2の調液
塩化第二鉄を添加しなかった点以外は実施例1と同様にして、分散液R2を得た。
【0068】
[比較例3]
分散液R3の調液
塩化第二鉄を添加しなかった点以外は実施例7と同様にして、分散液R3を得た。
【0069】
[比較例4]
分散液R4の調液
ゼラチンを添加しなかった点以外は実施例1と同様にして、分散液R4を得た。
【0070】
[比較例5]
分散液R5の調液
イソα酸30体積%原液(Hopsteiner社製、Iso−Extract30%)0.04g、γ−シクロデキストリン(和光純薬製)0.096gを0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液で希釈し、イソα酸1体積%を含有する水溶液を得た。
次に、攪拌子を入れた10mLバイアル瓶に精製水7.5g、0.1規定塩酸1.5mlを加えてスターラーで攪拌し、これに前記イソα酸1体積%水溶液1mlを水中に添加することで、分散液(イソα酸濃度0.1質量%)(分散液R5)を得た。
【0071】
<評価>
上記で得られた分散液1〜10、R1〜R5、固体物1〜2について、粒径測定及び外観評価及び苦味・渋味評価を行った。また、分散液5、10、R1、固体物1〜2について、加熱安定性・保存安定性評価を行った。これらの測定方法は以下の通りである。
苦味・渋味評価を行うのに先立ち、精製水900mLにL−(+)−酒石酸(和光純薬工業(株)社製)45.0mg、塩化カリウム(和光純薬工業(株)社製)2.24gを溶解させることで、基準液(pH3.5)を得た。
上記で得られた分散液1〜8と、分散液R1〜R4をそれぞれ8mLと、基準液92gとを混合して、評価用試料液を得た。また分散液9及びR5は、それぞれ10mLを基準液90gと混合して評価用試料液を得た。評価試料のpHはいずれもpH3.5である。
分散液10は、2mLを基準液98gと混合して評価用試料液を得た。また固体物1〜2は、100mgを1mLの精製水を加えて完全に溶解させたのち、得られた溶解液1gを更に基準液49gと混合することで評価用試料液を得た。
【0072】
(1)粒径測定
動的光散乱粒径分散測定装置FPAR−1000(大塚電子(株)製)を使用して、23℃にて粒径測定を行った。平均粒径の値はメジアン径で示した。結果を表1に示す。尚、表1中の「nd」は粒子を計測できず、溶解状態にあることを示す。
(2)外観評価
評価用試料液を調製後、23℃に2時間静置させて、各試料液の外観を目視にて観察した。2時間後に、沈殿が生じないものをA、沈殿が生じるものをCとした。結果を表1に示す。
(3)経時安定性評価
評価用試料液を調製後、50℃で14日間静置させて、各試料液の外観を目視にて観察した。14日間後に沈殿が生じないものをA、7日後は沈殿を生じないが、14日後では沈殿を生じたものをB、7日後には沈殿を生じたものをCとして評価した。結果を表1に示す。
【0073】
(4)苦味・渋味評価
味認識装置SA402B(インテリジェントセンサーテクノロジー(株)製)を使用して、苦味・渋味評価をおこなった。
得られた測定結果から下記データ解析をおこなうことで、苦味・渋味を算出した。即ち、得られた測定データから、基準液を共通サンプルとして補間加算及び補正処理をおこなうことで、測定毎の誤差をなくした。更に補正処理後データから、推定値計算をおこなうことで、センサー出力を基に人間が感じる味強度の違いを推定した。結果を表1に示す。
【0074】
(5)イソα酸の加熱安定性評価
評価用試料液を調製後、5mL褐色バイアルに4mL分注し、90℃の恒温槽で10分間の加熱をおこなった。また固体物1〜2については、それぞれ5mL褐色バイアルに100mg取り、90℃の恒温槽で10分間の加熱をおこなった。
加熱後の分散液5、10、R1と、0.1N水酸化ナトリウムと、テトラヒドロフランとを体積比で1:0.1:0.9の割合で混合し、攪拌することでそれぞれの加熱評価用試料液を得た。
また固体物1〜2については、各固体物100mgに対して1mLの精製水を加えて完全に溶解させたのち、更に基準液49gと混合することで試料液を作製した。この試料液と、0.1N水酸化ナトリウムと、テトラヒドロフランとを体積比で1:0.1:0.9の割合で混合し、攪拌することで加熱後試料液を得た。
加熱前の分散液についても、それぞれ同様の方法で調液し、加熱前試料液を得た。
加熱前試料液及び加熱後試料液のそれぞれについて、高速液体クロマトグラフによりイソα酸の定量をおこなった(カラム:資生堂(株)社製、CapcellPak C−18、検出器:UV検出器、検出波長:255nm)。標準試料としては、イソα酸30質量%原液(Hopsteiner社製、Iso−Extract30%)を用いた。加熱安定性は、加熱前試料液と加熱後試料液のイソα酸の面積比をそれぞれ算出し、分散液5における面積比を「1」としたときの相対値として評価した。結果を表2に示す。
【0075】
(6)イソα酸の保存安定性評価
評価用試料液を調製後、5mL褐色バイアルに4mL分注し、90℃の恒温槽で10分間の加熱をおこなった。また固体物1〜2については、それぞれ5mL褐色バイアルに100mg取り、45℃の恒温槽で1週間保管をおこなった。
保管後の分散液5、10、又はR1と、0.1N水酸化ナトリウムと、テトラヒドロフランとを体積比で1:0.1:0.9の割合で混合し、攪拌することでそれぞれの加熱評価用試料液を得た。
また固体物1〜2については、各固体物100mgに対して1mLの精製水を加えて完全に溶解させたのち、更に基準液49gと混合することで試料液を作製した。この試料液と、0.1N水酸化ナトリウムと、テトラヒドロフランとを体積比で1:0.1:0.9の割合で混合し、攪拌することで保管後試料液を得た。
保管前の分散液についてもそれぞれ同様の方法で調液し、保管前試料液を得た。
保管前試料液及び保管後試料液のそれぞれについて、高速液体クロマトグラフによりイソα酸の定量をおこなった(カラム:資生堂(株)社製、CapcellPak C−18、検出器:UV検出器、検出波長:255nm)。標準試料としては、イソα酸30質量%原液(Hopsteiner社製、Iso−Extract30%)を用いた。保存安定性は、保管前試料液と保管後試料液のイソα酸の面積比をそれぞれ算出し、分散液5における面積比を「1」としたときの相対値として評価した。結果を表2に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1に示されるように、多価金属塩と分散剤とを共に含む分散液1〜10はいずれも、沈殿は認められず、イソα酸のみを含む分散液R1よりも苦味及び渋味の評価値が低かった。なお、分散液R1は、金属塩も分散剤も含まないため、粒径は測定できず、また苦味評価値が18.1、渋味評価値が12.2と非常に高い値を示しており、イソα酸が完全に溶解しており、苦味・渋味成分として作用していると考えられる。
【0078】
特に、分散液1、8及び9の評価結果から、三価金属塩である塩化第二鉄及びカリウムミョウバンを用いることにより、外観が透明であることに加えて、より良好な苦味抑制及び渋味抑制効果が得られることが分かる。
また、分散液1〜7の評価結果から、分散剤の種類に拘わらず、外観が透明であり、苦味又は渋味が抑制できることが分かる。
また、イソα酸及びα酸の組み合わせを含む分散液10においても、苦味抑制及び渋味抑制効果が認められた。
【0079】
また分散液を粉末化した固体物1及び1は、水で再分散させた再分散液でも沈殿は認められず、外観が透明であることに加えて、苦味抑制及び渋味抑制効果が維持されていることが分かった。
【0080】
これに対して、金属塩を添加しなかった分散液R2、R3及びR5では、分散剤のみを用いても苦味・渋味を抑制できないことが分かる。
また、分散剤を添加しなかった分散液R4では、調液直後の分散液は懸濁しており、更に2時間経たないうちに凝集して沈殿が析出した。分散液R4の沈殿除去後の上澄み液の苦味評価値は0.4、渋味評価値は0.2であったことから、金属塩は効果的にイソα酸を不溶化できていると考えられるが、分散安定性が高くない。このため、分散液R4を飲食用に用いた場合には外観が良好とは言えず、また口内でざらつき等が生じる。
【0081】
【表2】



【0082】
表2に示されるように、上述したように外観が透明であり且つ良好な苦味又は渋味抑制効果があることに加えて、苦味又は渋味物質としてイソα酸とα酸を組み合わせて使用した場合(分散液10)では、イソα酸の加熱安定性・保存安定性が高くなるという予想外の効果が見出された。
また分散液5と、分散液5を粉末化した固体物1との比較において、上述したように外観が透明であり且つ良好な苦味又は渋味抑制効果があることに加えて、粉末状態にすることで、加熱時及び保管時におけるイソα酸の安定性が向上することが分かった。
なお、実施例10〜実施例12(分散液10、固体物1及び2)は、比較例1(分散液1)との対比においても、加熱安定性については5%、保存安定性については5%〜26%向上することが分かった。
【0083】
本発明によれば、苦味又は渋味物質による苦味または渋味が低減され、分散液としたときに外観を損なわない透明性を有する経口用組成物が提供できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
苦味又は渋味物質及び多価金属塩を含む水不溶化物と、分散剤とを含む経口用組成物。
【請求項2】
前記多価金属塩が三価金属塩を含む請求項1に記載の経口用組成物。
【請求項3】
前記苦味又は渋味物質が有機酸を含む請求項1又は請求項2に記載の経口用組成物。
【請求項4】
前記苦味又は渋味物質がホップ抽出物を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の経口用組成物。
【請求項5】
前記苦味又は渋味物質がイソα酸を含む請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の経口用組成物。
【請求項6】
前記苦味又は渋味物質が、イソα酸及びα酸の組み合わせを含む請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の経口用組成物。
【請求項7】
前記分散剤が、水溶性高分子及び界面活性剤からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の経口用組成物。
【請求項8】
前記分散剤が水溶性高分子であり、前記水溶性高分子がゼラチン、アラビアガム、加工デンプン、プルラン、及びセルロース誘導体からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1〜請求項7のいずれか1項記載の経口用組成物。
【請求項9】
前記多価金属塩の含有量が、前記苦味又は渋味物質の含有量に対してモル比で0.01倍以上100倍以下である請求項1〜請求項8のいずれか1項記載の経口用組成物。
【請求項10】
前記分散剤の含有量が、前記苦味又は渋味物質の含有量に対して質量比で0.1倍以上100倍以下である請求項1〜請求項9のいずれか1項記載の経口用組成物。
【請求項11】
前記経口用組成物が分散粒子を含む分散液であり、該分散粒子が前記水不溶化物を含む請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の経口用組成物。
【請求項12】
前記分散粒子の平均粒子径が300nm以下である請求項11に記載の経口用組成物。
【請求項13】
苦味又は渋味物質を含む組成物の苦味又は渋味を抑制する苦味又は渋味抑制方法であって、
苦味又は渋味物質と、二価又は三価の多価金属塩及び分散剤とを組み合わせることを含む苦味又は渋味抑制方法。

【公開番号】特開2012−167081(P2012−167081A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−276225(P2011−276225)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】