説明

経皮的薬剤配達装置

【課題】薬理学的活性物質を経皮的に配達する。
【解決手段】複数の角質層−穿刺微細突出物12を有する部材14、および部材上の乾燥被膜12を含んでおり、当該被膜は乾燥前に、一定量の薬理学的活性物質の水溶液を含んでいる成る装置。前記薬理学的活性物質が約1mg未満の量を投与される時に治療的に有効であるほど十分に強力であり、前記物質が約50mg/mlを超える水溶性を有し、かつ前記水溶液が約500センチポアズ未満の粘度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚上における物質の経皮的配達の投与および促進に関する。より具体的には、本発明は薬理学的活性物質の乾燥被膜を有する皮膚穿刺微細突出物を使用して表皮角質層を通して強力な薬理学的活性物質を投与するための経皮的薬剤配達システムに関する。薬剤の配達は、微細突出物が患者の皮膚を穿刺し、患者の間隙液が活性物質と接触して、それを溶解する時に容易にされる。
【背景技術】
【0002】
薬剤はもっとも一般的には経口または注射のいずれかにより投与される。不幸なことには、多数の医薬は、それらが吸収されないかまたは血流中に侵入する前に悪影響を受け、所望の活性をもたないために、経口投与されると完全に無効であるかまたは本質的に減少された効力を有する。他方では、投与中に全く医薬の変化がないことを保証するが、血流中への医薬の直接注射は困難で、不都合で、痛みを伴ない、そして不快な方法であり、時々患者に認容されないことになる。
【0003】
従って、経皮的配達は原則的に、本方法を使用しない場合には、皮下注射または静脈内注入により配達される必要があると考えられる薬剤の投与法を提供する。経皮薬剤配達はこれらの両分野に改善をもたらす。経皮配達は経口配達に比較すると、消化管の苛酷な環境を回避し、胃腸管の薬剤代謝を迂回し、最初はパス(first−pass)効果を減少し、そして消化酵素および肝臓の酵素による可能な不活性化を回避する。反対に、消化管は経皮投与中薬剤にさらされない。実際、アスピリンのような多数の薬剤は消化管上に副作用を有する。しかし、多数の症例において、受動的経皮経路による多数の薬剤の配達速度または流動速度は治療的に有効であるためにはあまりに制約される。
【0004】
本明細書で使用される「経皮的」の用語は皮膚層上の物質の通過を意味する全般的用語として使用される。「経皮的」の用語は皮膚の実質的な切開または穿刺(例えば、外科用ナイフによる切開または皮下用針による皮膚の穿刺)を伴なわない、皮膚をとおって、局所組織または全身循環系への物質(例えば、薬剤のような治療的物質)の配達を意味する。経皮的薬剤配達には、受動的拡散による並びに電気(例えば、イオン電気導入法)および超音波(例えば、音声伝達法)を含む外部エネルギー源による配達が含まれる。薬剤は角質層および表皮の双方にわたって拡散するが、角質層中の拡散速度がしばしば制約段階である。治療的投与量を達成するためには多数の化合物は単純な受動的経皮拡散により達成することができるものより高い配達速度を必要とする。注射に比較すると、経皮的物質配達は関連する疼痛を排除し、感染の可能性を減少する。
【0005】
理論的には、蛋白質は胃腸管の分解を受け易く、低下した胃腸管取込みを示し、経皮装置は注射より患者により許容されるので、物質投与の経皮経路は多数の治療的蛋白質の配達には有利であることができると考えられる。しかし、医学的に有用なペプチドおよび蛋白質の経皮的流量はしばしば、これらの分子の大きいサイズ/分子量のために、治療的に有効であるために不十分である。しばしば、配達速度または流量は所望の効果をもたらすのには不十分であるかまたは、物質が目標部位に到達する前に、例えば、患者の血流中で分解される。
【0006】
経皮薬剤配達システムは概括的に、薬剤を投与するために、受動的拡散に依存し、他方、積極的経皮薬剤配達システムは薬剤を配達するために外部エネルギー源(例えば、電気)に依存する。受動的経皮薬剤配達システムがより一般的である。受動的経皮システムは、そこで薬剤が皮膚をとおって患者の身体組織または血流中に拡散する皮膚と接触するよ
うになっている、高濃度の薬剤を含有する薬剤の溜めを有する。経皮薬剤流量は皮膚の状態、薬剤分子のサイズおよび物理的/化学的特性、並びに皮膚全体の濃度勾配に影響される。多数の薬剤に対する皮膚の低い透過性のために、経皮配達は限定された適用を有していた。この低い透過性は主として、脂質の二層により囲まれたケラチン繊維(ケラチノサイト)で充填された平坦な、死亡細胞から成る一番外側の皮膚層の、角質層に起因される。脂質の二層のこの高度に配列された構造物が角質層に比較的非透過性の特性を与える。
【0007】
受動的経皮拡散性薬剤流量を増加する一つの一般的方法は、薬剤の皮膚透過性促進剤で皮膚を前以て処理するかまたは、それと同時配達することを伴なう。透過性促進剤は、薬剤が配達される身体の表面に適用すると、そこを通過する薬剤の流量を高める。しかし、経皮的蛋白質流量を促進するこれらの方法の効果はそれらのサイズのために、少なくともより大きい蛋白質に対しては制約されてきた。
【0008】
積極的輸送システムは角質層をとおる薬剤流量を補助するために外部エネルギー源を使用する。経皮薬剤配達のためのこのような促進の1種は「電気輸送」と呼ばれる。この機序は電圧を使用し、それが皮膚のような身体の表面を通過する物質の輸送を補助するために電流の適用をもたらす。他の積極的輸送システムは外部エネルギー源として超音波(音声輸送)および熱を使用する。
【0009】
更に、経皮的に配達される物質の量を増加するために、一番外側の皮膚層を機械的に透過または破壊してそれにより皮膚中への経路を形成する多数の試みが実施されてきた。乱刺器具(scarifiers)として知られた初期のワクチン接種装置は概括的に、皮膚に適用され、適用部位を引っ掻くかまたは小さい切り傷を作る複数の尖叉または針を有した。ワクチンは皮膚に局所的に(例えば、Rabenauに布告された特許文献1)または乱刺器具の尖叉に適用される湿った液体として(例えば、Galyに布告された特許文献2またはChacornacに布告された特許文献3またはKravitzに布告された特許文献4)のいずれかで適用された。一部は、患者を感作させるために有効であるためにはごく少量のワクチンが皮膚に配達される必要があるので、乱刺器具が皮膚内ワクチン配達のために示唆されてきた。更に、過剰量は最少量と同様に満足な感作を達成するので、配達されるワクチンの量は特に重要ではない。しかし、薬剤を配達するために乱刺器具を使用する際の重大な欠点は経皮薬剤流量および配達された結果的投与量を決定する点の困難である。更に、撓み、穿刺に抵抗する皮膚の、弾性の、変形する、跳ね返る性質のために、小型の穿刺要素がしばしば皮膚に均等に穿刺せず、そして/または皮膚透過時に物質の液体被膜をすべて払拭する。更に、皮膚の自己治癒過程により、角質層からの穿刺要素の除去後に、皮膚に形成された穿刺または裂傷が閉鎖する傾向があった。従って、皮膚の弾性の性状が、皮膚中へのこれらの要素の透過時に小型の穿刺要素に適用されてあった活性物質の被膜を除去するように働く。更に、穿刺要素により形成された小さい切り傷は装置の除去後に急速に治癒し、従って穿刺要素により形成された通路中の物質の通過を制約し、順次これらの装置の経皮流量を制約する。
【0010】
経皮的薬剤配達を促進するために小さい皮膚穿刺要素を使用するその他の装置は、すべてがそれらの全体を引用により取込まれている、特許文献5、Godshall等に布告された特許文献6、Ganderton等に布告された特許文献7、Gross等に布告された特許文献8、Lee等に布告された特許文献9、Gerstel等に布告された特許文献10、Kravitz等に布告された特許文献11、および特許文献12−24に開示されている。これらの装置は皮膚の一番外側層(すなわち角質層)を穿刺するための様々な形態およびサイズの穿刺要素を使用する。これらの参考文献に開示された穿刺要素は概括的に、薄い平らな部材(例えば、パッドまたはシート)から垂直に延伸する。幾つかのこれらの装置の穿刺要素は極めて小さく、幾つかは約25〜400μmのみのディメンション(すなわちミクロブレードの長さおよび幅)および約5〜50μmのみのミクロ
ブレードの厚さをもつ。これらの小型の穿刺/切開要素はそれに対応して、そこを通過する増加された経皮的物質配達のために角質層に小さな微細スリット/微細切開を形成する。
【0011】
概括的に、これらのシステムは薬剤を維持するための溜めおよび更に、装置自体の中空の刺叉によるような、薬剤を溜めから角質層をとおって移動させるための配達システムを含む。液体の薬剤の溜めを有するこのような装置の一例は、特許文献25に開示されている。溜めは小型の管状要素をとおして、皮膚中に液体の薬剤を通過させるために圧力をかけなければならない。これらのような装置の欠点には更なる複雑さおよび、加圧可能な液体溜めを追加するための経費および圧力駆動配達システムの存在による複雑さが含まれる。
【特許文献1】米国特許第5,487,726号明細書
【特許文献2】米国特許第4,453,926号明細書
【特許文献3】米国特許第4,109,655号明細書
【特許文献4】米国特許第3,136,314号明細書
【特許文献5】欧州特許第0407063号明細書
【特許文献6】米国特許第5,879,326号明細書
【特許文献7】米国特許第3,814,097号明細書
【特許文献8】米国特許第5,279,544号明細書
【特許文献9】米国特許第5,250,023号明細書
【特許文献10】米国特許第3,964,482号明細書
【特許文献11】米国特許第RE25,637号明細書
【特許文献12】国際公開第96/37155号パンフレット
【特許文献13】国際公開第96/37265号パンフレット
【特許文献14】国際公開第96/17648号パンフレット
【特許文献15】国際公開第97/03718号パンフレット
【特許文献16】国際公開第98/11937号パンフレット
【特許文献17】国際公開第98/00193号パンフレット
【特許文献18】国際公開第97/48440号パンフレット
【特許文献19】国際公開第97/48441号パンフレット
【特許文献20】国際公開第97/48442号パンフレット
【特許文献21】国際公開第99/64580号パンフレット
【特許文献22】国際公開第98/28037号パンフレット
【特許文献23】国際公開第98/29298号パンフレット
【特許文献24】国際公開第98/29365号パンフレット
【特許文献25】国際公開第93/17754号パンフレット
【特許文献26】米国特許第6.083,196号明細書
【特許文献27】米国特許第6,050,988号明細書
【特許文献28】米国特許第6,091,975号明細書
【特許文献29】米国暫定特許出願第60/276,762号明細書
【特許文献30】米国特許第5,916,524号明細書
【特許文献31】米国特許第5,743,960号明細書
【特許文献32】米国特許第5,741,554号明細書
【特許文献33】米国特許第5,738,728号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の装置および方法は、物質を含有する乾燥被膜で被覆されている微細突出物を有する微細突出物装置を使用して、薬理学的活性物質を経皮的に配達することによりこれらの制約を克服する。本発明は、高い有効度の薬理学的活性物質で複数の角質層穿刺微細突
出物を被覆することにより、好ましくは、哺乳動物、そしてもっとも好ましくはヒトの角質層をとおして薬理学的活性物質を配達する装置および方法に関する。物質は複数の皮膚穿刺微細突出物上の乾燥被膜として配達される時に治療的に有効であるために十分強力であるように選択される。更に、物質は微細突出物を被覆するために必要な溶解度および粘度をもつ被覆水溶液を形成するために十分な水溶性をもたなければならない。
【0013】
本発明の好ましい態様は角質層をとおって有益な物質を配達するための装置から成る。装置は複数の、そして好ましくは多数の、角質層穿刺微細突出物を有する部材を含んで成る。微細突出物はそれぞれ、500μm未満の長さを有するか、または500μより長い場合は、微細突出物が500μmを超えない深度まで皮膚を透過することを確保するための手段が提供される。これらの微細突出物はその上に乾燥した被膜を有する。乾燥前の被膜は高い強度の薬理学的活性物質の水溶液を含んで成る。薬理学的活性物質は1回適用当たり約1mg未満、そして好ましくは約0.25mg未満の投与量で医薬として有効であるように十分強力である。薬理学的活性物質は微細突出物を有効に被覆するために、約50mg/mlを超える水溶性をもつように選択され、組成物は約500センチポアズ(cp)未満の粘度を有する。溶液は、微細突出物の表面上に一旦被覆されると、医薬として有効量の薬理学的活性物質を提供する。その被膜を更に当該技術分野で知られた乾燥法を使用して微細突出物上で乾燥する。
【0014】
本発明のもう1種の好ましい態様は、薬理学的活性物質を経皮的に配達するための装置の製法から成る。その方法は、複数の角質層穿刺微細突出物を有する部材を提供することを含んで成る。薬理学的活性物質の水溶液を微細突出物に適用し、次に乾燥すると、そのうえに乾燥物質含有の被膜を形成する。薬理学的活性物質は1回適用当たり約1mg未満、そして好ましくは約0.25mg未満の用量で医薬として有効であるために十分に強力である。微細突出物を有効に被覆するためには、薬理学的活性物質は約50mg/mlより大きい、好ましくは約100mg/mlより大きい水溶性をもたなければならず、被覆溶液は約500cp未満、好ましくは約50cp未満の粘度をもたなければならない。組成物は、薬理学的活性物質がその条件のために不活性にさせられない限り、どんな温度でも調製することができる。微細突出物の表面上に一旦被覆された溶液は医薬として有効量の薬理学的活性物質を提供する。
【0015】
被膜の厚さは好ましくは、微細突出物の厚さより薄く、より好ましくは厚さは50μm未満であり、そしてもっとも好ましくは、25μm未満である。概括的に、被膜の厚さは微細突出物上で測定された平均厚さである。
【0016】
微細突出物を被覆するための薬理学的活性物質は約1mg未満、そして好ましくは約0.25mg未満の量の活性物質を経皮的に投与される時に、治療的に有効であるように十分な強度をもつように選択される。もっとも好ましい物質はACTH(1−24)、カルシトニン、デスモプレッシン、LHRH、LHRH類似体、ゴセレリン、ロイプロリド、PTH、バソプレッシン、デアミノ[Val4,D−Arg8]アルギニンバソプレッシン、ブセレリン、トリプトレリン、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、FSH、EPO、GM−CSF、G−CSF、IL−10、グルカゴン、成長ホルモン放出因子(GRF)およびそれらの医薬として許容できる塩を含むこれらの物質の類似体、から成る群から選択される。
【0017】
被膜は既知の被覆法を使用して微細突出物に適用することができる。例えば、微細突出物を物質の被覆用水溶液中に浸漬することができる。あるいはまた、被覆溶液を微細突出物上に噴霧することができる。好ましくは、噴霧液は約10〜200ピコリッターの液滴サイズを有する。より好ましくは、液滴サイズおよび配置は、被覆溶液が微細突出物上に直接析出され、そして微細突出物を有する部材の他の「非穿刺」部分には析出されないよ
うに、印刷技術を使用して制御される。
【0018】
本発明のもう1種のアスペクトにおいて、角質層穿刺微細突出物はシートから形成され、そこで微細突出物がシートを刻み取りまたは切り取ることにより形成され、次に微細突出物がシートの面から折りまたは曲げ出される。薬理学的活性物質の被膜は微細突出物の形成前にシートに適用することができるが、好ましくは、被膜は微細突出物が切り出されまたは刻み出された後に、しかしシートの面から折り出される前に適用される。より好ましいものは、微細突出物がシートの面から折りまたは曲げ出された後の被覆である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
今度は本発明を付記の図面および図に具体的に示された好ましい態様につき、より詳細に説明されるであろう。
【0020】
定義:
別記されない限り、本明細書に使用される下記の用語は下記の意味を有する。「経皮的」の用語は局所または全身治療のための、物質の皮膚中そして/または皮膚をとおる配達を意味する。「経皮流量」の用語は経皮的配達速度を意味する。本明細書で使用される「共配達」の用語は1種もしくは複数の補助的物質が物質が配達される前、物質の経皮的流動の前およびその間、物質の経皮的流動中、物質の経皮的流動の間およびその後、そして/または物質の経皮的流動の後のいずれかに経皮的に投与されることを意味する。更に、2種以上の物質が微細突出物上に被覆されて、物質の共配達物をもたらすことができる。
【0021】
本明細書で使用される「薬理学的活性物質」の用語は、約1mg未満、そして好ましくは約0.25mg未満の量で投与される時に、薬理学的に有効な非免疫原性薬剤または、非免疫原性薬剤を含有する物質の組成物または混合物を意味する。従って、「薬理学的活性物質」の用語は、非常に少投与量で薬理学的に有効な非常に強力な薬剤のみを包含し、特にワクチンを除外する。このような高度に強力な薬理学的活性物質の例には、それらに限定はされないが、黄体形成放出ホルモン(LHRH)、LHRH類似体(例えば、ゴセレリン、ロイプロリド、ブセレリン、トリプトレリン、ゴナドレリンおよびナプファレリン、メノトロピン(ウロフォリトロピン(FSH)およびLH))、バソプレッシン、デスモプレッシン、コルチコトロピン(ACTH)、ACTH類似体(例えば、ACTH(1−24))、カルシトニン、上皮小体ホルモン(PTH)、バソプレッシン、デアミノ[Val4,D−Arg8]アルギニンバソプレッシン、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、エリスロポイエチン(EPO)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インターロイキン−10(IL−10)およびグルカゴンが含まれる。2種以上の物質を本発明の方法で物質調製物中に取り入れることができ、「薬理学的活性物質」の用語の使用は2種以上のこれらの物質または薬剤の使用をどんな方法でも排除しないことを理解することができる。物質は様々な形態(例えば、遊離塩基、酸、帯電または非帯電分子、分子錯体の成分または非刺激性の薬理学的に許容できる塩)であることができる。更に、身体のpH、酵素、等で容易に加水分解される、物質の簡単な誘導体(例えば、エーテル、エステル、アミド等)を使用することもできる。
【0022】
「治療的有効量」または「治療的有効流量」の用語は、所望の治療的な、しばしば有益な結果をもたらすために必要な薬理学的活性物質の量または流量を意味する。被膜中に使用された物質の量は、所望の治療的結果を達成するための治療的有効量の物質を配達するために必要な量であろう。実際的には、これは、配達される具体的な薬理学的活性物質、配達部位、処置される状態の重篤度、所望の治療効果および被膜から皮膚組織中への物質の配達のための溶解および放出動力学、に応じて広範に変動するであろう。本明細書に記載の方法に従って微細突出物中に取込まれ、経皮的に配達された薬理学的活性物質の治療
的有効量の正確な範囲を規定することは実際的ではない。しかし、微細突出物は被膜を担持するための限定された表面積をもつサイズをもつので、概括的に、本発明の装置に使用されるこのような物質は強力な薬理学的活性物質として定義される。概括的に、所望の治療を達成するために必要な物質の量は約1mg未満、より好ましくは0.25mg未満である。
【0023】
「微細突出物」の用語は生存動物、特にヒトの皮膚の、下層の表皮層、または表皮および真皮層中に角質層をとおって穿刺または切開をするようになっている、穿刺要素を意味する。穿刺要素は出血をもたらすほど深部まで皮膚を穿刺するべきでない。具体的には穿刺要素は500μm未満、そして好ましくは250μm未満の刃長をもつ。微細突出物は具体的には約5〜50μmの幅および厚さを有する。微細突出物は異なった形状(例えば、針、中空の針、刃、ピン、抜き型、およびそれらの組み合わせ物)に形成することができる。
【0024】
本明細書で使用される「微細突出物アレー」の用語は角質層を穿刺するための、アレーに配列された複数の微細突出物を意味する。微細突出物アレーは薄いシートから複数の微細突出物を彫りまたは穿ち出し、そしてシートの面から微細突出物を折りまたは曲げて出し、図1に示されたような形態を形成することにより形成することができる。微細突出物アレーはまた、Zuckの特許文献26中に開示された1本もしくは複数のストリップ各々の縁に沿って微細突出物を有する1本以上のストリップを形成することによるような、他の知られた方法によっても形成することができる。微細突出物アレーは乾燥した薬理学的活性物質を保持する中空の針を含むことができる。
【0025】
シートまたは部材の領域の言及、およびシートまたは部材の領域についてのある特性の言及はシートの外側周囲または境界により限定される領域を意味している。
【0026】
「パターン被覆」の用語は微細突出物の選択された領域上へ物質を被覆することを表わす。2種以上の物質を1種の微細突出物アレー上にパターン被覆することができる。パターン被覆は微小ピペット被覆およびインク噴射被覆のような既知の微細−流体分配法を使用して、微細突出物に適用することができる。
【0027】
本発明はそれを必要とする患者に薬理学的活性物質を経皮的に配達するための装置を提供する。その装置はそれから延伸している複数の角質層穿刺微細突出物を有する。微細突出物は下層の表皮層または表皮および真皮層中に角質層をとおって穿刺するが、毛細管床に到達して、有意な出血をもたらすほど深部までは透過しないようになっている。微細突出物はその上に、薬理学的活性物質を含有する乾燥した被膜を有する。皮膚の角質層を穿刺時に、物質含有被膜は体液(細胞内液および細胞外液(例えば、間隙液))に溶解されて、局所または全身治療のために皮膚中に放出される。
【0028】
物質含有の被膜の溶解および放出の動力学は薬剤の性質、被覆方法、被膜の厚さおよび被膜の組成(例えば、被膜調製添加剤の存在)を含む、多数の因子に左右されるだろう。放出の動力学プロファイルに応じて、長時間(例えば、約8時間までの)の皮膚との穿刺関係に被覆微細突出物を維持することが必要であるかも知れない。これは接着剤を使用して皮膚に微細突出物部材を固定することにより、またはその全体を引用により取り入れられている、特許文献18に記載のような固定微細突出物を使用することにより達成することができる。
【0029】
図1は本発明による使用のための角質層穿刺微細突出物部材の一態様を表わす。図1は複数の微細突出物10を有する部材の一部分を示す。微細突出物10は開口部14を有するシート12から実質的に90°の角度で延伸する。シート12はシート12のための裏
材を含む配達パッチ中に取り入れられて、更に、皮膚にパッチを接着するための接着剤を含むことができる。この態様では、微細突出物は薄い金属シート12から複数の微細突出物を彫り出しまたは穿出し、そして、シートの面から微細突出物10を曲げることにより形成される。ステンレン鋼およびチタンのような金属が好ましい。金属の微細突出物部材は、それらの明細が引用により本明細書に取込まれている、Trautman等の特許文献26、Zuckの特許文献27、およびDaddona等の特許文献28に開示されている。本発明とともに使用することができる他の微細突出物部材はシリコンチップのエッチング法を使用してシリコンをエッチングすることにより、またはエッチングされた微細鋳型を使用してプラスチック成形することにより形成される。シリコンおよびプラスチック微細突出物部材はその明細が引用により本明細書に取込まれている、Godshall等の特許文献6に開示されている。
【0030】
図2は薬理学的活性物質含有被膜16を有する微細突出物10を有する微細突出物部材を表わす。被膜16は微細突出物10を一部または全部を覆うことができる。例えば、被膜は微細突出物上の乾燥パターン被膜中にあることができる。被膜は微細突出物が形成される前または後に適用することができる。
【0031】
微細突出物上の被膜は様々な既知の方法により形成することができる。1種のこのような方法は浸漬被覆である。浸漬被覆は微細突出物を薬剤含有被覆溶液中に一部または全体を浸漬することにより微細突出物を被覆するための手段と説明することができる。あるいはまた、装置全体を被覆溶液中に浸漬することができる。微細突出物部材の、皮膚を穿刺する部分のみを被覆することが好ましい。
【0032】
前記の部分浸漬法の使用により、被膜を微細突出物の先端のみに限定することができる。更に微細突出物の先端に被覆を限定するローラー被覆機序が存在する。この方法は、引用により全体を本明細書に取込まれている、2001年3月166日出願の特許文献29に記載されている。
【0033】
その他の被覆法には微細突出物上に被覆溶液を噴霧することが含まれる。噴霧は被覆組成物のエアゾール県濁液の形成を包含することができる。好ましい態様においては、約10〜200ピコリッターの液滴サイズを形成するエアゾール県濁液を微細突出物上に噴霧し、次に乾燥する。もう1種の態様においては、非常に少量の被覆溶液をパターン被膜18として微細突出物上に析出させることができる。パターン被膜18は微細突出物表面上に析出された液体を配置するための分配システムを使用して適用することができる。析出液の量は好ましくは、0.5〜20ナノリッター/微細突出物1個、の範囲にある。適当な正確に計量された液体分配装置の例は、その明細が引用により本明細書に取込まれている特許文献30−33に開示されている。微細突出物被覆溶液はまた、既知のソレノイド弁分配装置を使用するインク噴射法、場合により使用される流体起動手段および、概括的に電界の使用により制御される配置手段を使用することにより、適用することができる。本発明のパターン被膜を適用するためには、印刷産業からの他の液体分配法または当該技術分野で知られた類似の液体分配法を使用することができる。
【0034】
本発明に使用される被覆溶液は薬理学的活性物質の水溶液である。小型の角質層穿刺要素を適当な厚さに有効に被覆するためには、その水溶液は約500cp未満の、そして好ましくは約50cp未満の粘度をもたなければならない。前記のように、薬理学的活性物質は被覆溶液中で約50mg/mlを超える、そして好ましくは約100mg/mlを超える水溶性をもたなければならない。
【0035】
所望の被膜厚さはシートの単位面積当たりの微細突出物の密度および被膜組成物の粘度および濃度並びに選択された被覆法に依存する。より厚い被膜は角質層穿刺時に微細突出
物から剥離する傾向をもつために、概括的に、被膜の厚さは50ミクロメーター未満でなければならない。好ましい被膜の厚さは微細突出物表面から測定して10ミクロメーター未満である。概括的に被膜の厚さは被覆微細突出物上で測定した平均被膜厚さとして表わされる。より好ましい被膜の厚さは約1〜10ミクロメーターである。
【0036】
本発明に使用される物質は約1mg以下、好ましくは約0.25mg以下の用量を必要とする高度に強力な物質である。この範囲内の量は10cmまでの面積および、1cm当たり500微細突出物までの微細突出物密度を有するシート12を有する、図1に示したタイプの微細突出物アレー上に被覆することができる。
【0037】
前記の特性を有する好ましい薬理学的活性物質はデスモプレッシン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)およびLHRH類似体(例えば、ゴセレリン、ロイプロリド、ブセレリン、トリプトレリン)、PTH、カルシトニン、バソプレッシン、デアミノ[Val4,D−Arg8]アルギニンバソプレッシン、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、メノトロピン(ウロフォロトロピン(FSH)および黄体形成ホルモン(LH))、
エリスロポイエチン(EPO)、GM−CSF、G−CSF、IL−10、GRFおよびグルカゴンから成る群から選択される。
【0038】
すべての場合に、被膜を適用後に、被覆溶液を様々な手段により微細突出物上で乾燥する。好ましい態様においては、被覆された装置は外界室状態で乾燥される。しかし、様々な温度および湿度レベルを使用して微細突出物上の被覆溶液を乾燥することができる。更に、装置は加熱、凍結乾燥(lyophilized,freeze dried)または類似の方法を使用して被膜から水分を除去することができる。
【0039】
それらが被覆溶液の必要な溶解度および粘度の特徴並びに乾燥した被膜の物理的保全性に悪影響を与えない限り、他の既知の調製補助剤を被覆溶液に添加することができる。
【0040】
下記の実施例は当業者が本発明をより明確に理解し、実施することができるために与えられる。それらは本発明の範囲を限定するものと考えてはならず、単にその例として具体的に示すものと考えるべきである。
【0041】
[実施例1]
デスモプレッシンを 経皮的に配達するための被覆微細突出物装置を下記の方法で調製した。300mg/mlの濃度を有するデスモプレッシン水溶液を滅菌蒸留水にデスモプレッシン一酢酸塩(Des Plaines,ILのDiosynth,Inc.により販売)を添加することにより調製した。マーカーとしてチタン標識デスモプレッシンをデスモプレッシン溶液に添加した。図1に示したタイプのチタン微細突出物部材を使用した。微細突出物部材は円形(2cmの面積をもつ、1.16cmの直径のシート)を有し、微細突出物は360μmの長さおよび190微細突出物/cmの微細突出物密度を有した。微細突出物部材をデスモプレッシン水溶液に短時間浸漬し、室温で1晩放置乾燥させた。この手順は150〜250μg/シート1cmの量のデスモプレッシンを含有する被膜を有するデスモプレッシン被覆微細突出物部材をもたらした。
【0042】
前記のように調製した被覆微細突出物部材から皮膚をとおる薬剤吸収の動力学を評価するための配達動力学の研究を12匹の無毛モルモット(HGP)で実施した。適用したシステムは図7に示す。システム25はシート22と微細突出物部材20の間のLDPE(低密度ポリエチレン)シート22の皮膚に近位の側上に粘着フィルム24を有する低密度ポリエチレン(LDPE)シート22の中央部分に接着された、被覆された円形の微細突出物部材20から成った。LDPEシート22および粘着フィルム24は動物の皮膚に接
着された微細突出物部材を維持する粘着性上貼り物として働く。動物に微細突出物部材を適用する時に、1匹のHGPの脇腹の皮膚を両方向に(←→および↑↓)手で引き伸ばした。微細突出物を角質層に穿刺させるバネの装填された衝撃適用装置を使用して、システムを動物の皮膚に対して押し当てた。システムの適用後に、皮膚の引っ張り張力を解放し、HGPをVetwrapTM包帯で包帯し、1、2、または4時間、代謝ケージ内に個別に収容した。各時点で、4匹のHGPのシステムを外させ、残りの薬剤を皮膚から完全に洗浄し、動物をそのケージに返した。これらの時間中に全身に投与された薬剤の総量はシステム取り外し後の2日間の排泄尿の放射能を測定することにより決定し、IV注射後に排泄される率から補正した(以前の研究により、3H−デスモプレッシンの注射量の60%が48時間尿中に排泄されたことが示された)。装着の1、2および4時間中のHGPに配達されたデスモプレッシンの平均量(Mavg)は図3に示す。最初の2時間後に、更なる量の薬剤は吸収されなかった。配達されたデスモプレッシンの総量は約10ミクログラムであり、これは夜尿症の処置のためのヒトの治療的有効量であることが知られている。
【0043】
[実施例2A]
第2の実験を無毛モルモット(HGP)において実施した。すべての動物は実施例1に前記のものと同様なシステムを装着された。動物の1群(グループA)はシステムを1時間装着した。他の2群(グループBおよびC)においては、微細突出物装置は適用5秒後に外した。グループBにおいては、処置部位をシステムの取り外し直後に洗浄した。グループCにおいては、処置部位を洗浄せず、システム取り外し後1時間接着性裏材で閉塞した。グループA、BおよびCにおける、動物に配達されたデスモプレッシンの量は図4に示す。グループB(5秒間の配達後に即座に洗浄)は平均約5μgのデスモプレッシン配達をもたらした。グループC(適用5秒後に閉塞)はグループBに配達された量を有意には増加しなかった。グループA(1時間の配達)は平均18μgのデスモプレッシン配達をもたらした。これらの結果は、約5秒間のみ、被覆微細突出物を皮膚に穿刺関係に維持することが、最適ではないが、デスモプレッシンの実質的な配達をもたらし、そして皮膚に配達された薬剤が洗浄により除去されないことを示した。更に、長時間(1時間)の皮膚との微細突出物の接触は、より大量のデスモプレッシン配達をもたらす。
【0044】
[実施例2B]
薬剤デスモプレッシンで微細突出物アレーを被覆することの実行可能性を評価した。これらの研究において、被覆は微細突出物の先端に限定された。いくつかの微細突出物アレー(S250Ti、微細突出物の長さ250μm、321微細突出物/cm、2cmのディスク)を、3Hデスモプレッシンを添加した40重量%の酢酸デスモプレッシン溶液を使用して米国暫定特許(2001年3月16日出願、第60/276,762号)明細書に記載の装置を使用して先端被覆した。分析により、各微細突出物アレーは187±30μgのデスモプレッシンで被覆されたことが示された。SEM検査により、被膜が微細突出物から微細突出物に被膜の良好な均質性を伴なうガラス状非晶質マトリックスとして存在したことが示された。被膜は250μmの微細突出物の先端の115μmに限定された。被膜は微細突出物自体の上には不均一に分配されていることが認められた。大部分の固体被膜は、微細突出物の被覆領域の面の幾何学的中心上に中心をもつ、キャップと呼ばれる被膜の円形のドーム型の領域に位置しているように見えた。被膜の測定最大厚さは約18μmであり、他方、全被覆領域上の平均計算厚さは約13μmのみであった。
【0045】
デスモプレッシン先端被覆微細突出物アレーシステムから皮膚をとおる薬剤吸収の動力学を評価するために、無毛モルモットにつき研究を実施した。システムの適用は10ms未満中に、0.26Jのエネエルギーを配達する、衝撃適用装置により動物の脇腹に実施した。適用したシステムは接着剤を含むLDPE裏材の中心に接着された、被覆微細突出物アレー装置(7cmディスク)から成った。システムは5秒間または1時間皮膚上に
留まった。双方の時点のために3匹の動物群を使用した。システムを外した時点で、適用部位を完全に洗浄し、洗浄物の放射能含量を評価し、HGPをそれら個別の代謝ケージに返した。尿を2日間収集し、放射能含量を計量した。全身に配達された薬剤の総量は、システム取り外し後2日間の放射能の尿排泄を測定することにより決定し、iv注射後に排泄された率から補正した(以前の研究が、3H−デスモプレッシンの注射量の60%が48時間尿中に排泄されたことを示した)。使用されたシステムは残留放射能を差し引かれた。全身に配達されたデスモプレッシンの総量は5秒(白色棒)および1時間(斜線棒)の装着時間それぞれの後に、49±3μg(26%薬剤利用)および97±11μg(52%薬剤利用)であった(図8)。ごく少率の薬剤が皮膚表面に認められ(5秒で6%、1時間で9%)、そのバランスは微細突出物上に残留するデスモプレッシンから成った。
【0046】
[実施例3]
デスモプレッシン被膜の特性を下記の方法で評価した。フルオレセインナトリウム塩をデスモプレッシン300mg/mlの水溶液に添加した。0.001Mの最終濃度を達成するように、十分なフルオレセインナトリウム塩を添加した。
【0047】
チタンフォイル(0.025mmの厚さ)をこの溶液に短時間浸漬し、室温で1晩放置乾燥した。蛍光顕微鏡により、デスモプレッシンの乾燥フィルムが非晶質の本質をもち、透明なガラス様によく似た動態を示すことが示された。約2μmの厚さの被膜は柔軟性およびチタンシートに対する接着性に関して最良の動態を示すように見えた。約10μmより厚い被膜は脆く、割れ易いことが認められた。
【0048】
[実施例4A]
ヒト成長ホルモン(hGH)を滅菌蒸留水に添加して、約200mg/mlのhGH濃度および50cp未満の粘度を有するhGH水溶液を形成した。チタンフォイルを溶液に浸漬し、次に室温で1晩乾燥すると、hGH被膜を形成した。フォイルの適切な被膜は前記の方法を使用して顕微鏡により示された。hGHは、大量の治療的用量が必要なため、この方法で治療的目的のためには使用することができなかったが、それは、ずっと少量の治療的用量を必要とする、サイトカイン、特にインターフェロンの良好なモデルであると考えられる。同様に、チタンフォイルはオリゴ糖側鎖を含有する45,000ダルトンのポリペプチドのオボアルブミンの水溶液で被覆した。この溶液は約300mg/mlのオボアルブミン濃度および50センチポアズ未満の粘度を有した。チタンフォイルの適切な被膜は前記の方法を使用して顕微鏡により示された。オボアルブミンは治療法に使用されるかまたは本明細書に定義されたような薬理学的活性物質ではないが、それは卵胞刺激ホルモン(FSH)およびエリスロポイエチンのような大型の薬理学的物質の良好なモデルである。
【0049】
[実施例4B]
薬剤hGHにより微細突出物アレーを被覆する実行可能性を評価した。これらの研究では、被覆は微細突出物の先端に限定した。微細突出物アレー(S250Ti、微細突出物の長さ250μm、321微細突出物/cm、2cmのディスク)を、20重量%のhGH、20重量%の蔗糖の被覆溶液を使用して米国暫定特許明細書(2001年3月16日出願、第60/276,762号)に記載の装置を使用して先端被覆した。分析により、各微細突出物アレーは9.5±0.9μgのhGHで被覆されたことを示した。SEMは約100μmの被覆深度を伴なって微細突出物から微細突出物に良好な被膜の均一性を示した。しかし、微細突出物自体の上の被膜は不均一に分配されていることが認められた。大部分の固体被膜は微細突出物の被覆領域の面の幾何学的中心上に集まってキャップ状に配置されているように見えた。真空室内での2日間の貯蔵後、固体被膜は割れをもたない、非常に平滑な表面を示し、それは微細突出物に非常に堅く接着することが示された。被膜の最大測定厚さは約4μmであったが他方、全被覆領域にわたる平均計算厚さは約
1.7μmのみであった。
【0050】
hGH先端被覆微細突出物アレーシステムから皮膚をとおる薬剤吸収の動力学を評価するための研究を無毛モルモットで実施した。システムの適用を、10ミリ秒未満中に0.26Jのエネエルギーを配達する衝撃適用装置により麻酔動物の脇腹に実施した。適用されたシステムは接着剤の付いたLDPE裏材の中心に接着された被覆微細突出物アレー装置(7cmディスク)を含んで成った。システムは5秒間(n=3)または5分間(n=5)皮膚上に留まった。1群の動物(n=5)は10μgのhGHの皮下注射を受けた。ELISAによる血漿hGH測定のために時間をおいて採血した。投与されたhGH量はhGHのIV投与に比較した曲線下面積(AUC)計算に基づいて推定された。結果により、微細突出物アレーからのhGH配達は5秒間の装着時間(白色三角形)および5分間(黒色円)の装着時間により同様であることが示された(図9)。平均すると、5μgのhGHが各動物に配達され、それは被覆用量のほぼ50%に当たる。これはhGHの皮下投与後の65%の生物学的利用能に匹敵し、その結果は「X印」として示される(図9)。
【0051】
[実施例5]
オボアルブミンによる微細突出物装置被覆の実施可能性を評価した。200mg/mlのフルオレセイン標識オボアルブミンを含んで成る被覆水溶液を調製した。実施例1で使用されたタイプの微細突出物部材を被覆溶液中に短時間浸漬し、吹き付け乾燥し、室温で1晩放置乾燥した。その後の分析により、この被覆法が微細突出物部材1cm当たり200〜250μgのオボアルブミンで被覆された微細突出物をもたらしたことを示した。
【0052】
被覆微細突出物装置から皮膚中へのオボアルブミン吸収の動力学を評価するための研究を無毛モルモット(HGP)において実施した。適用システムは3.8cmディスク上に収納された、接着剤を伴なうLDPE裏材の中心に接着された被覆微細突出物装置を含んで成った。1匹のHGPの脇腹の皮膚をシステムの適用時に双方向に((←→および↑↓))手で引っ張った。微細突出物の適用を、システムを動物の皮膚に対して押し付けるバネ装填適用装置を使用して実施した。適用後に、引っ張り張力を解放し、HGPをVetwrapTM包帯で包帯し、30分間または1時間、代謝ケージ内に個別に収容した。各時点で、4匹のHGPはそれらのシステムを外され、残りの薬剤を皮膚から完全に洗浄し、動物をそのケージに返した。1群のHGPにおいて、適用の5秒後に微細突出物装置を外した(0時間点)。これらの時間中に皮膚中に配達されたオボアルブミンの平均総量(Mavg)は適用部位の8mmの皮膚生検を採取することにより決定された。次に皮膚生検試料をJ.T.Baker(NJ,USA)により市販されている水酸化ヒアミン(水酸化ジイソブチルクレソキシエトキシエチル)ジメチル)ベンジルアンモニウム)(エタノール中1M)に溶解し、存在するオボアルブミン量を蛍光測定器により決定した。結果により、80μgまでのオボアルブミンが1時間の適用時間中に皮内配達されたことが示された。5秒間の穿刺は約25μgの皮内配達オボアルブミンをもたらした。これらの結果は図5に示す。オボアルブミンは治療法に使用される薬理学的物質ではないが、それは卵胞刺激ホルモンおよびエリスロポイエチンのような大型の強力な薬理学的活性物質の良好なモデルである。
【0053】
[実施例6A]
実施例1に記載のものに類似の実験を、200、50および10mg/mlオボアルブミン濃度を含むオボアルブミン水溶液で被覆された同一の微細突出物システムを使用して、HGPで実施した。すべての群で、微細突出物装置を適用直後に外した。適用および分析は実施例1に記載のものと同様に実施した。結果はオボアルブミンの配達が微細突出物上に被覆された量を制御することにより制御することができることを示した。3種の各溶液濃度([C])に対する配達されたオボアルブミンの平均量(Mavg)は図6に示す

【0054】
[実施例6B]
薬剤オボアルブミンにより微細突出物アレーを被覆する実施可能性を評価した。これらの研究において、被覆は微細突出物の先端に限定した。微細突出物アレー(S250Ti、微細突出物の長さ250μm、321微細突出物/cm、2cmのディスク)を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識した20重量%のオボアルブミンを使用して米国暫定特許明細書(2001年3月16日出願、第60/276,762号)に記載の装置を使用して先端被覆した。分析により、各微細突出物アレーは4.6±0.5μgのオボアルブミンで被覆されたことが示された。SEM検査により、被膜が微細突出物から微細突出物に被膜の良好な均質性を伴なうガラス状非晶質マトリックスとして存在したことが示された。被覆は微細突出物の先端の150μmに限定された。
【0055】
オボアルブミンで先端被覆した微細突出物アレーシステムから皮膚をとおる薬剤吸収の動力学を評価するための研究を安楽死させた無毛モルモットにおいて実施した。システムの適用は10ms未満中に0.26Jのエネエルギーを配達する、衝撃適用装置により動物の脇腹に実施した。適用したシステムは接着剤を含むLDPE裏材の中心に接着された被覆微細突出物アレー(7cmディスク)を含んで成った。システムは5秒間または1時間皮膚上に留まった。双方の時点に対して3匹の動物群を使用した。装着時間の終結時に、システムを外し、あらゆる残留薬剤を皮膚から払拭した。これらの時間内に皮膚に配達されたオボアルブミンの総量は水酸化ヒアミン(メタノール中10%)中に8mmの皮膚生検を溶解することにより決定された。蛍光分析により定量分析を実施した。図10に示した結果により、80%を超えるオボアルブミン用量が5秒の装着時間後に配達された(白色棒)ことが示された。100%に近い量が1時間の装着時間後に配達された(充填棒)。
【0056】
本発明は具体的な実施例に関して説明されてきたが、本発明の精神および範囲から逸脱せずに、様々な修正および変更を当業者により容易に実施することができることを理解しなければならない。従って、前記の明細は例示的のみのものとして理解すべきであり、限定的意味に解釈してはならない。本発明は前記の請求の範囲によってのみ限定される。
【0057】
本発明の好ましい態様を整理して記載すれば、下記のとおりである。
1.薬理学的活性物質を経皮的に配達するための装置であって、
複数の角質層−穿刺微細突出物を有する部材および
部材上の乾燥被膜(ここで、当該被膜は乾燥前に、一定量の薬理学的活性物質の水溶液を含んで成る)、
を含んで成る装置であって、
ここで前記薬理学的活性物質が約1mg未満の量を投与される時に治療的に有効であるほど十分に強力であり、前記物質が約50mg/mlを超える水溶性を有し、かつ前記水溶液が約500センチポアズ未満の粘度を有する。
2.被膜が前記微細突出物のみの上にある、上記1の装置。
3.微細突出物が約500ミクロメーター未満の深度まで角質層に穿刺するようになっている、上記1の装置。
4.被膜の厚さが微細突出物の厚さ以下である、上記1の装置。
5.微細突出物が500ミクロメーター未満の長さおよび25ミクロメーター未満の厚さを有する、上記1の装置。
6.角質層穿刺微細突出物が薄いシートから複数の微細突出物を刻み取り、シートの面から微細突出物を折り出すことにより形成される、上記1の装置。
7.薬理学的活性物質がACTH(1−24)、カルシトニン、デスモプレッシン、LHRH、ゴセレリン、ロイプロリド、ブセレリン、トリプトレリン、他のLHRH類似体
、PTH、バソプレッシン、デアミノ[Val4,D−Arg8]アルギニンバソプレッシン、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、FSH、EPO、GM−CSF、G−CSF、IL−10、グルカゴン、GRF、それらの類似体および医薬として許容できるそれらの塩から成る群から選択される、上記1の装置。
8.前記薬理学的活性物質がデスモプレッシンである、上記1の装置。
9.前記被膜が浸漬被覆により適用される、上記1の装置。
10.前記被膜が噴霧被覆により適用される、上記1の装置。
11.前記被膜が約10ピコリッター〜約200ピコリッターの容量を有する液滴による噴霧被覆により適用される、上記1の装置。
12.前記被膜が隣接しない、上記1の装置。
13.前記薬理学的活性物質が約0.25ミリグラム未満の量を投与される時に、治療的に有効であるように十分に強力である、上記1の装置。
14.前記水溶液が約50センチポアズ未満の粘度を有する、上記1の装置。
15.前記部材の表面上の前記被膜の厚さが約50μm未満である、上記1の装置。
16.前記部材の表面上の前記被膜の厚さが約25μm未満である、上記1の装置。
17.前記被膜が更に補助薬を含んで成る、上記1の装置。
18.薬理学的活性物質を経皮的に配達するための装置の製法であって、
複数の角質層−穿刺微細突出物を有する部材を提供すること、
その部材上に薬理学的活性物質の水溶液を適用すること、および
部材上に乾燥した物質含有被膜を形成するために、前記適用水溶液を乾燥すること、
を含んで成る方法であって、
そこで、物質が約1mg未満の量を投与される時に、治療的に有効であるように十分強力であり、前記物質が約50mg/mlを超える水溶性をもち、前記水溶液が約500センチポアズ未満の粘度を有する方法。
19.水溶液が1種以上の前記微細突出物にのみ適用される、上記18の方法。
20.前記微細突出物が約500ミクロメーター未満の深度まで角質層を穿刺するようになっている、上記18の方法。
21.前記被膜の厚さが微細突出物の厚さより薄い、上記18の方法。
22.微細突出物が500ミクロメーター未満の長さおよび25ミクロメーター未満の厚さを有する、上記18の方法。
23.薬理学的活性物質がACTH(1−24)、カルシトニン、デスモプレッシン、LHRH、ゴセレリン、ロイプロリド、ブセレリン、トリプトレリン、他のLHRH類似体、PTH、バソプレッシン、デアミノ[Val4,D−Arg8]アルギニンバソプレッシン、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、FSH、EPO、GM−CSF、G−CSF、IL−10、グルカゴン、GRF、それらの類似体および医薬として許容できるそれらの塩から成る群から選択される、上記18の方法。
24.前記薬理学的活性物質がデスモプレッシンである、上記18の方法。
25.前記被覆が浸漬被覆により適用される、上記18の方法。
26.前記被覆が噴霧被覆により適用される、上記18の方法。
27.前記被覆が、約10ピコリッター〜約200ピコリッターの容量を有する液滴を噴霧被覆することにより適用される、上記18の方法。
28.部材上の前記被膜が隣接していない、上記18の方法。
29.前記薬理学的活性物質が約0.25ミリグラム未満の量を投与される時に、治療的に有効であるように十分強力である、上記18の方法。
30.前記水溶液が約50センチポアズ未満の粘度を有する、上記18の方法。
31.前記部材の表面上の被膜の厚さが50ミクログラム未満である、上記18の方法。
32.前記部材の表面上の被膜の厚さが25ミクログラム未満である、上記18の方法

33.前記被膜が更に補助薬を含んで成る、上記18の方法。
34.前記被膜が更に、前記部材1cm当たり1mg未満の前記薬理学的活性物質の添加物を含んで成る、上記18の方法。
35.前記被膜が更に、前記部材1cm当たり500ミクログラム未満の前記薬理学的活性物質の添加物を含んで成る、上記18の方法。
36.被膜組成物が微細流体(microfluid)析出法により微細突出物に適用される、上記18の方法。
37.微細流体析出法がインク噴射印刷である、上記37の方法。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】微細突出物アレーの一例の一部分の遠近図である。
【図2】微細突出物上に析出された被膜を有する図1の微細突出物アレーの遠近図である。
【図3】微細突出物アレーにより配達されたデスモプレッシン量を示すグラフである。
【図4】微細突出物アレーにより配達されたデスモプレッシン量を示すグラフである。
【図5】様々な適用時間にわたる微細突出物アレーにより配達されたオボアルブミン量を示すグラフである。
【図6】オボアルブミンの様々な被覆溶液を使用する、微細突出物アレーにより配達されたオボアルブミン量を示すグラフである。
【図7】実施例1に記載のシステムの側面断面図である。
【図8】実施例2Bに記載のように先端被覆された微細突出物アレーにより配達されたヒト成長ホルモン量を示すグラフである。
【図9】実施例4Bに記載のように先端被覆された微細突出物アレーにより配達されたヒト成長ホルモン量を示すグラフである。
【図10】実施例6Bに記載のように先端被覆された微細突出物アレーにより配達されたオボアルブミン量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬理学的活性物質を経皮的に配達するための装置であって、
複数の角質層−穿刺微細突出物を有する部材および
部材上の乾燥被膜(ここで、当該被膜は乾燥前に、一定量の薬理学的活性物質の水溶液を含んで成る)、
を含んで成る装置であって、
ここで前記薬理学的活性物質が約1mg未満の量を投与される時に治療的に有効であるほど十分に強力であり、前記物質が約50mg/mlを超える水溶性を有し、かつ前記水溶液が約500センチポアズ未満の粘度を有する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−75629(P2007−75629A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298066(P2006−298066)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【分割の表示】特願2002−591082(P2002−591082)の分割
【原出願日】平成13年10月26日(2001.10.26)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】