説明

結合層組成物

本発明は、ポリカーボネート、耐衝撃性改良剤、芳香族ビニルコポリマー、ならびにポリエステルカーボネートおよび/またはポリカーボネートポリシロキサンコポリマーの組合せを含み、優れた熱特性および機械特性とともにポリマー基材と特定のタイプの基材との双方との良好な接着性を有する、熱可塑性組成物に関する。この結合層組成物を含む物品および多層フィルムも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、結合層組成物、この結合層組成物を含む多層フィルム、それから製造された物品、その製造方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートおよびポリカーボネートブレンドから製造される多層フィルムは、耐候性、引っかき抵抗性、および高い光沢などの有用な特性を有し、成形品用の表面仕上げ層として使用することができる。さらに、これらの多層フィルムの1つまたは複数の層を、成形品の視覚効果を得るために着色剤および/または他の添加剤を保持するために使用する場合、これらの多層フィルムは成形品用の塗料交換層として有用である。このような多層フィルムが有用である物品には、自動車用途品、水平用途品、特に外装用途品、(サウナカバー、プールカバー、芝生および庭園用の備品、デッキリッド、外装パネルなどを含む)が含まれる。
【0003】
多層フィルムは、基材材料(例えばポリウレタンフォーム)でバックモールドすることができ、これにより多層フィルムに物理的支持およびその他の特性が賦与される。基材は、熱硬化性材料を選択することも、熱可塑性材料を選択することもできる。多層フィルムと基材との間の接着性を得るために、多層フィルムを、1つまたは複数の中間層(「結合層」という)を用いて構成することができる。この結合層は、熱安定性、ならびに表面仕上げ特性を有する上層と基材との間の接着性を得るために有用である。
【0004】
しかし、上述した用途等の用途に現在適した結合層は、新たな用途、例えば、異なる形状を有する用途、異なる加工条件を用いる用途、および/または異なる基材材料を用いる用途には適さない場合がある。さまざまな改良された熱特性および機械特性を有する結合層が望ましいより新しい用途には、例えば、異形押出、シート押出、吹込成形、熱成形、および当分野で知られている他のプロセスによって製造される用途であって、組成物が高温に長時間曝される用途が含まれる。異形押出、シート押出、吹込成形、および熱成形のようなプロセスは、より高い熱安定性、より高い弾性率、および流動性と衝撃性との良好なバランスを必要とする。加えて、低い弾性率を有する現在の結合層は、経時変化が良好ではなく、経時的に脆化することが多い。弾性率が低い材料は、過度に変形することなく応力を伝達しないため、機械的な用途に適さないことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3,511,895号
【特許文献2】米国特許第3,981、944号
【特許文献3】米国特許第5,414,045号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、多層フィルムにおいて、改善された熱特性および機械特性と、他の層および基材に対する改善された接着力とを有する結合層を製造するために好適な結合層組成物に対する当技術分野におけるニーズが、依然として存在する。
この結合層組成物を用いて製造される結合層は、望ましくは、現在の結合層組成物で得られるものより低い欠陥率(特に表面欠陥率)、ならびに流動性と衝撃性とのより良好なバランスをも与えることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ポリカーボネート、耐衝撃性改良剤、芳香族ビニルコポリマー、ならびにポリエステルカーボネートおよび/またはポリカーボネート−ポリシロキサンを含む結合層組成物を提供する。この結合層組成物は、改良された熱安定性、過度に変形することなく応力を伝達する高い弾性率を有し、表面欠陥の原因とはならない。
【0008】
1つの実施態様では、熱可塑性組成物は、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、耐衝撃性改良剤、および芳香族ビニルコポリマーを組み合わせた総質量に基づいて、
30〜50質量%のポリカーボネート;
15〜35質量%のポリエステルカーボネート;
25〜35質量%の耐衝撃性改良剤;および
0〜10質量%の芳香族ビニルコポリマー
を含み、ASTM D256に準拠して測定して、−20℃でのノッチ付アイゾッド衝撃強さが20kJ/mより高く、−40℃でのノッチ付アイゾッド衝撃強さが9kJ/mより高い。一部の実施態様では、この組成物は、ASTM D1238に準拠して、260℃にて5kg加重を使用して10分間かけて測定した場合の予熱6分から予熱18分までのメルトボリュームレイトの変化%として測定して、−10%〜+10%の溶融安定性を有する。一部の実施態様では、この組成物は、ASTM D256に準拠して測定して、−20℃でのノッチ付アイゾッド衝撃強さが25kJ/mより高く、−40℃でのノッチ付アイゾッド衝撃強さが10kJ/mより高い。一部の実施態様では、この組成物は、20質量%以下のポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーをさらに含む。一部の実施態様では、芳香族ビニルコポリマーが、SANを含み、このSANは、26〜28質量%のアクリロニトリルの含有率の組成を有していてよい。
【0009】
別の実施態様では、熱可塑性組成物は、ポリカーボネート、ポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマー、耐衝撃性改良剤、および芳香族ビニルコポリマーの組み合わせた総質量に基づいて、
55〜65質量%のポリカーボネート;
10〜20質量%のポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマー;
10〜25質量%の耐衝撃性改良剤;および
10〜20質量%の芳香族ビニルコポリマー
を含み、ポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーを含まない比較組成物より剥離強度が高い。一部の実施態様では、この組成物は、ポリエステルカーボネートを含む。一部の実施態様では、耐衝撃性改良剤はBulk ABSである。
【0010】
本発明は、この熱可塑性組成物を使用して製造される物品も包含する。
【0011】
別の実施態様では、物品は、
ポリマー基材と、
ポリカーボネートを含む上層;および
結合層
を含む多層フィルムと
を含み、前記結合層は熱可塑性組成物を含み、結合層は基材と上層との間に配設されている。
前記結合層が、基材と上層との間に積層されている
【0012】
別の実施態様では、多層フィルムは、ポリカーボネートを含む上層と、請求項1に記載の熱可塑性組成物と、ポリマー基材とを含む
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、多層フィルムおよび基材を含む物品の実施態様を示す。
【図2】図2は、多層フィルムおよび基材を含む物品の実施態様を示す。
【図3】図3は、多層フィルムおよび基材を含む物品の実施態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を、以下の記述および実施例によってより具体的に説明する。これらの実施例は、説明だけを意図するものであり、その多様な修飾および変形を当業者に明らかにするものである。
【0015】
本明細書および特許請求の範囲における用語「含む」は、「からなる」および「本質的にからなる」の内容を含む。本明細書において開示する全ての範囲は、その端点を含み、独立に組み合わせることができる。これらの範囲の端点および本明細書に記載した任意の値は、その正確な範囲および値に限定されない。すなわち、これらの範囲および値は、これらの範囲および/または値に近似した値を包含する大雑把なものである。
【0016】
本明細書において、近似した表現は、それに関連する基本的な機能に変化を引き起こすことなく変動可能である任意の量を表現するために適用され得る。したがって、例えば、用語「約」および「実質的に」によって修飾された値は、一部の場合には正確に特定された値に限定されない。少なくとも一部の場合には、近似した表現は、値を測定するための装置の精度に対応する。
【0017】
本発明は、ポリカーボネート、耐衝撃性改良剤、芳香族ビニルコポリマー、ならびにポリエステルカーボネートおよび/またはポリカーボネート−ポリシロキサンを含む結合層組成物を提供する。驚くべきことに、これらの組成物から製造される結合層が、優れた熱特性および機械特性を、ポリマー上層および特定タイプの基材の両方に対する接着性と共に有することが見出された。
【0018】
さらに、この結合層組成物は、優れた特性バランス、例えば、流動性と衝撃性とのバランス、特に低流動性衝撃性および低温衝撃性を有する。低い流動性は、本結合層組成物が使用されるプロセスの多くにおいて有利である。通常の射出成形プロセスでは、高い流動性が一般に有利である。
【0019】
本明細書において使用する「多層フィルム」は、結合層に加えて少なくとも1つの層(「上層」)を有するフィルムをいう。この上層それ自体は、単層であっても多層であってもよく、結合層は1層以上を含んでいてよい。
【0020】
1つの態様では、本発明の熱可塑性物は、ポリカーボネートを使用する。本明細書において、用語「ポリカーボネート」および「ポリカーボネート樹脂」は、式(1):
【化1】

(式中、R1の総数の60%を超えるR1基は、芳香族有機基であり、その残りは、脂肪族基、脂環式基、または芳香族基である)
の繰り返し構造カーボネート単位を有する組成物を意味する。
【0021】
1つの実施態様では、各R1は、芳香族有機基、例えば、式(2):
【化2】

(式中、A1およびA2の各々は、単環式二価アリール基であり、Y1は、A1をA2から分離する1個または2個の原子を有する架橋基である)
の基である。1つの例示的な実施態様において、1個の原子がA1をA2から分離する。この種の基の具体的な非限定的例は、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)2−、−C(O)−、メチレン、シクロヘキシル−メチレン、2−[2.2.1]−ビシクロヘプチリデン、エチリデン、イソプロピリデン、ネオペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン、およびアダマンチリデンである。この架橋基Y1は、炭化水素基であっても、メチレン、シクロヘキシリデン、もしくはイソプロピリデンなどの飽和炭化水素基であってもよい。
【0022】
ポリカーボネートは、式(3):
【化3】

(式中、Y1、A1およびA2は、上述したとおりである)
のジヒドロキシ化合物を含む、式:HO−R1−OHを有するジヒドロキシ化合物の界面反応によって製造することができる。一般式(4):
【化4】

[式中、RaおよびRbは、それぞれ、ハロゲン原子または一価炭化水素基を表し、同じであっても異なっていてもよく;pおよびqは、それぞれ独立して、0から4の整数であり、Xaは、式(5):
【化5】

(式中、RcおよびRdは、それぞれ独立に、水素原子または一価の直鎖もしくは環式の炭化水素基であり、Reは、二価炭化水素基である)
の群の1つを表す]
のビスフェノール化合物もまた含まれる。
【0023】
好適なジヒドロキシ化合物のいくつかの具体的で非限定的な例には以下が含まれる:レゾルシノール、4−ブロモレゾルシノール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルメタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソブテン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、trans−2,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ブテン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンチン、(アルファ,アルファ’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トルエン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アセトニトリル、2,2−ビス(3−メチルー4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−n−プロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−sec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1−ジブロモ−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチレン、1,1−ジクロロ−2,2−ビス(5−フェノキシ−4−ヒドロキシフェニル)エチレン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)2−ブタノン、1,6−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,6−ヘキサンジオン、エチレングリコールビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオリン、2,7−ジヒドロキシピレン、6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチルスピロ(ビス)インダン(「スピロビインダン ビスフェノール」)、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタリド、2,6−ジヒドロキシジベンゾ−p−ジオキシン、2,6−ジヒドロキシチアンスレン、2,7−ジヒドロキシフェノキサシン、2,7−ジヒドロキシ−9,10−ジメチルフェナジン、3,6−ジヒドロキシジベンゾフラン、3,6−ジヒドロキシジベンゾチオフェン、および2,7−ジヒドロキシカルバゾールなど、ならびに上述のジヒドロキシ化合物の少なくとも1種を含む組合せ。
【0024】
式(3)で表すことができるビスフェノール化合物の種類の具体的な例には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下「ビスフェノールA」または「BPA」と称する)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−1−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、2−フェニル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フタルイミジン(PPPBP)、および1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン(DMBPC)などが含まれる。上述のジヒドロキシ化合物の少なくとも1種を含む組合せも使用することができる。
【0025】
分岐ポリカーボネート、ならびに線状ポリカーボネートと分岐ポリカーボネートとのブレンドも有用である。分岐ポリカーボネートは、重合中に分岐剤を添加することによって製造することができる。これらの分岐剤には、ヒドロキシル、カルボキシル、カルボン酸無水物、ハロホルミル、および前述の官能基の混合物から選択される少なくとも3個の官能基を有する多官能性有機化合物が含まれる。具体的な例には、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、トリメリット酸トリクロライド、トリス−p−ヒドロキシフェニルエタン、イサチン−ビス−フェノール、トリス−フェノールTC〔1,3,5−トリス((p−ヒドロキシフェニル)イソプロピル)ベンゼン〕、トリス−フェノールPA〔4(4(1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−エチル)アルファ,アルファ−ジメチルベンジル)フェノール〕、4−クロロホルミルフタル酸無水物、トリメシン酸、およびベンゾフェノンテトラカルボン酸が含まれる。分岐剤は、0.05から5.0質量%の濃度で添加することができる。末端基が結合層組成物の選択した特性に重大な影響を与えないという条件で、あらゆる種類のポリカーボネート末端基は該結合層組成物が有用であることが企図される。
【0026】
質量平均分子量(Mw)は、ポリカーボネートの分子量の有用な測定値であり、Mwは、架橋スチレン−ジビニルベンゼンGPCカラムを使用するゲル透過クロマトグラフィー(GPC)法によって、1mg/mlの試料濃度で1.5ml/分の流速で測定し、ポリカーボネート標準を用いて較正する。好適なポリカーボネートは、2,000から100,000、特に5,000から75,000、より特に10,000から50,000、なおより特に15,000から40,000のMwを有し得る。
【0027】
1つの特定の実施態様において、ポリカーボネートは、ビスフェノールA由来の線状ホモポリマーであり、A1およびA2はそれぞれ、p−フェニレンであり、Y1はイソプロピリデンである。ポリカーボネートは固有粘度を有しうる。ポリカーボネートは、クロロホルム中、25℃で測定して、0.3から1.5デシリットル/グラム(dl/g)、特に0.45から1.0dl/gの固有粘度を有していてよい。ポリカーボネートは、架橋スチレン−ジビニルベンゼンカラムを使用するゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって測定し、ポリカーボネート標準に対して較正して、10,000から200,000、特に15,000から100,000、より特に17,000から50,000の質量平均分子量を有していてよい。
【0028】
1つの実施態様では、ポリカーボネートは、薄い物品およびフィルムの製造に適した流動特性を有する。メルトボリュームフローレイト(しばしばMVRと略す)は、所定の温度および負荷でオリフィスを通る熱可塑性物質の押出速度の測定値である。薄い物品およびフィルムの形成に好適なポリカーボネートは、260℃/5kgで測定して、1から70立方センチメートル/10分(cc/10分)、特に2から30cc/10分のMVRを有していてよい。異なる流動特性のポリカーボネートの混合物を、全体として所望の流動特性を達成するために使用することができる。
【0029】
本明細書において用いる「ポリカーボネート」および「ポリカーボネート樹脂」には、上述したポリカーボネート、他のポリマー単位と一緒にカーボネート単位を含むコポリマー、および上述の他の熱可塑性ポリマーとの組合せ、例えば、ポリカーボネートホモポリマーおよび/またはコポリマーとポリエステルとの組合せが含まれる。本明細書において用いる「組合せ」には、すべての混合物、ブレンド、アロイ、反応生成物などが含まれる。
【0030】
特定の好適なコポリマーは、ポリエステルカーボネートであり、ポリエステルポリカーボネートとしても知られている。このようなコポリマーは、式(1)の繰り返しカーボネート単位に加えて、式(6):
【化6】

(式中、Dは、ジヒドロキシ化合物由来の二価の基であり、例えば、アルキレン基が2から6個の炭素原子、特に2、3、もしくは4個の炭素原子を含む、C210アルキレン基、C620脂環式基、C620芳香族基、またはポリオキシアルキレン基であってよく;Tは、ジカルボン酸由来の二価の基であり、例えば、C210アルキレン基、C620脂環式基、C620アルキル芳香族基、またはC620芳香族基であってよい)
の繰り返しエステル単位をさらに含む。
【0031】
1つの実施態様では、DはC26アルキレン基である。別の実施態様では、Dは式(7):
【化7】

(式中、各Rfは、独立に、ハロゲン原子、C110炭化水素基、またはC110ハロゲン置換炭化水素基であり、nは0から4である)
の芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導される。ハロゲンは、通常は臭素である。式(7)によって表され得る化合物の例には、レゾルシノール、置換レゾルシノール化合物(例えば、5−メチルレゾルシノール、5−エチルレゾルシノール、5−プロピルレゾルシノール、5−ブチルレゾルシノール、5−t−ブチルレゾルシノール、5−フェニルレゾルシノール、5−クミルレゾルシノール、2,4,5,6−テトラフルオロレゾルシノール、2,4,5,6−テトラブロモレゾルシノールなど);カテコール;ヒドロキノン;置換ヒドロキノン(例えば、2−メチルヒドロキノン、2−エチルヒドロキノン、2−プロピルヒドロキノン、2−ブチルヒドロキノン、2−t−ブチルヒドロキノン、2−フェニルヒドロキノン、2−クミルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラメチルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラ−t−ブチルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラフルオロヒドロキノン、2,3,5,6−テトラブロモヒドロキノンなど);または上述の化合物の少なくとも1種を含む組合せなどが含まれる。
【0032】
これらのポリエステルを製造するために使用し得る芳香族ジカルボン酸の例には、イソフタル酸もしくはテレフタル酸、1,2−ジ(p−カルボキシフェニル)エタン、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ビス安息香酸、および上述の酸の少なくとも1種を含む混合物などが含まれる。1,4−、1,5−、または2,6−ナフタレンジカルボン酸などのように、縮合環を有する酸も存在しうる。具体的なジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、またはその混合物である。特定のジカルボン酸には、テレフタル酸対イソフタル酸の質量比が91:9から2:98であるイソフタル酸とテレフタル酸との混合物が含まれる。別の特定の実施態様では、Dは、C26アルキレン基であり、Tは、p−フェニレン、m−フェニレン、ナフタレン、二価の環状脂肪族基、またはこれらの混合物である。ポリエステルのこのクラスには、ポリ(アルキレンテレフタレート)が含まれる。
【0033】
1つの実施態様では、ポリエステル−ポリカーボネートのポリエステル単位は、イソフタル酸およびテレフタル酸の二酸(もしくはその誘導体)と、ジヒドロキシ化合物との組合せの反応から誘導され、イソフタレート単位対テレフタレート単位のモル比は、91:9から1:98、特に85:15から3:97、より特に80:20から5:95、なおより特に70:30から10:90である。1つの実施態様では、ジヒドロキシ化合物には、ビスフェノールAが含まれる。別の実施態様では、ジヒドロキシ化合物には、レゾルシノールが含まれる。
【0034】
1つの実施態様では、ポリエステル−ポリカーボネートには、ポリエステル単位を含むポリアリーレートが含まれ、このポリアリーレートは共重合して、アリーレート−エステルおよびカーボネートのブロックを形成することができる。式(8):
【化8】

(式中、各R1は、独立して、ハロゲンまたはC112アルキルであり、mは少なくとも1であり、pは0から3であり、各R2は、独立して、二価の有機基であり、nは少なくとも4である)
の構造単位を含むポリエステル−ポリカーボネートが含まれ得る。
【0035】
1つの実施態様では、中間層に使用するための特に好適なポリマーの組合せには、ビスフェノールAポリカーボネートポリマーおよびポリ(フタレート−カーボネート)(PPC)ポリマーが含まれ、ここで、PPCポリマーのポリエステル単位は、イソフタル二酸およびテレフタル二酸(またはこれらの誘導体)の組合せと、ビスフェノールAとの反応から誘導される。1つの特定の実施態様において、ポリ(フタレート−カーボネート)ポリマーは、式(9):
【化9】

のポリ(イソフタレート−テレフタレート−ビスフェノールA)−co−(ビスフェニールAカーボネート)であり得る。
【0036】
(式中、イソフタレート単位対テレフタレート単位の比は、50:50から99:1、特に85:15から97:3であり、ポリカーボネート単位を、混合したイソフタレート−テレフタレートポリエステル単位pと、ポリカーボネート単位qとの比が、99:1から1:99であり、より特に95:5から30:70となるようにビスフェノールAから誘導する)
のポリ(イソフタレート−テレフタレート−ビスフェノールA)−co−(ビスフェニールAカーボネート)でありうる。
【0037】
ポリカーボネート単位は、カルボニル源とジヒドロキシ化合物との反応から誘導される。1つの実施態様では、ジヒドロキシ化合物は、レゾルシノールとビスフェノールAとの混合物を含み、レゾルシノールカーボネート単位対ビスフェノールAカーボネート単位のモル比が0:100から99:1であるポリカーボネートを与える。別の実施態様では、ジヒドロキシ化合物はビスフェノールAである。
【0038】
ポリエステル−ポリカーボネートにおけるエステル単位対カーボネート単位のモル比は、最終組成物の所望の特性に依存して広範に、例えば1:99から99:1でさまざまであってよい。1つの実施態様では、ポリエステル−ポリカーボネートは、エステル単位対カーボネート単位のモル比が1:99から25:75、特に5:95から20:80である。別の実施態様では、ポリエステル−ポリカーボネートは、エステル単位対カーボネート単位のモル比が25:75から99:1、より特に30:70から90:10である。
【0039】
1つの実施態様では、ポリエステル−ポリカーボネートは、薄い物品およびフィルムの製造に適した流動特性を有し、MVRは、260℃/5kgで測定して、0.4から30cc/10分であってよい。異なる流動特性のポリカーボネートの混合物を使用して、全体として所望の流動特性を得てもよい。
【0040】
好適なポリカーボネートは、界面重合および溶融重合などの方法によって製造することができる。界面重合の反応条件はさまざまであってよいが、例示的な方法は、一般に、二価フェノール反応剤を苛性ソーダ水溶液または炭酸カリウム水溶液に溶解または分散させる工程と、得られた混合物を好適な水不混和性媒質に添加する工程と、制御したpH条件下、例えば8〜10のpHの下で、トリエチルアミンまたは相移動触媒などの好適な触媒の存在下で、反応剤とカーボネート前駆体とを接触させる工程とを含む。最も一般的に使用される水不混和性溶媒には、メチレンクロライド、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエンなどが含まれる。好適なカーボネート前駆体には、例えば、カルボニルブロマイドもしくはカルボニルクロライドなどのカルボニルハライド、または二価フェノールのビスハロホルメート(例えば、ビスフェノールA、ヒドロキノンなどのビスクロロホルメート)などのハロホルメート、またはグリコール(例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコールなどのビスハロホルメート)などがある。上述した種類のカーボネート前駆体を少なくとも1種を含む組合せも、使用することができる。
【0041】
使用することができる相移動触媒には、式:(R34+Xの触媒がある。式中、各R3は、同じか異なり、C110アルキル基であり;Qは、窒素原子またはリン原子であり;Xは、ハロゲン原子またはC18アルコキシ基もしくはC6188アリールオキシ基である。好適な相移動触媒には、例えば、[CH3(CH234NX、[CH3(CH234PX、[CH3(CH254NX、[CH3(CH264NX、[CH3(CH244NX、CH3[CH3(CH233NX、およびCH3[CH3(CH223NXなどが含まれる。式中、Xは、Cl-、Br-、C18アルコキシ基またはC618アリールオキシ基である。相移動触媒の有効量は、ホスゲン化混合物中のビスフェノールの質量に基づいて0.1から10質量%であってよい。別の実施態様では、相移動触媒の有効量は、ホスゲン化混合物中のビスフェノールの質量に基づいて0.5から2質量%であってよい。
【0042】
あるいは、溶融法を用いてポリカーボネートを製造することもできる。一般に、溶融重合プロセスでは、均一な分散液を形成するためにバンバリーミキサー[Banbury(登録商標)mixer]、二軸押出機などを使用して、エステル交換触媒の存在下、溶融状態で、ジヒドロキシ反応物質とジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネートエステルとを共反応させることによって製造することができる。揮発性一価フェノールを蒸留によってこの溶融反応物質から除去し、ポリマーを溶融した残留物として単離する。ポリカーボネートを製造するためのとりわけ有用な溶融プロセスでは、アリール基上に電子求引性置換基を有するジアリールカーボネートエステルを使用する。電子求引性置換基を有する具体的な有用なジアリールカーボネートエステルには、ビス(4−ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2−クロロフェニル)カーボネート、ビス(4−クロロフェニル)カーボネート、ビス(メチルサリチル)カーボネート、ビス(4−メチルカルボニルフェニル)カーボネート、ビス(2−アセチルフェニル)カーボネート、ビス(4−アセチルフェニル)カーボネート、または前述の少なくとも1種を含む組合せが含まれる。加えて、使用するエステル交換触媒には、上述した式:(R34+Xの相間移動触媒(式中、各R3、Q、およびXは、上述により定義したとおりである)が含まれていてよい。エステル交換触媒には、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムフェノレート、または前述の少なくとも1種を含む組合せが含まれる。
【0043】
連鎖停止剤(キャップ剤ともいう)を、重合中に含ませることができる。この連鎖停止剤は、分子量成長速度を制限し、それによってポリカーボネートの分子量を制御する。連鎖停止剤は、モノフェノール化合物、モノカルボン酸クロライド、および/またはモノクロロホルメートの少なくとも1つであってよい。
【0044】
例えば、連鎖停止剤として好適なモノフェノール化合物には、単環式フェノール(例えば、フェノール、C122アルキル置換フェノール、p−クミルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、ヒドロキシジフェニルなど);ジフェノールのモノエーテル(例えば、p−メトキシフェノールなど)などが含まれる。アルキル置換フェノールには、8から9個の炭素原子を有する分岐鎖アルキル置換基を有するものが含まれる。モノフェノールUV吸収剤を、キャップ剤として使用してもよい。このような化合物には、4−置換−2−ヒドロキシベンゾフェノンおよびその誘導体、アリールサリチレート、ジフェノールのモノエステル(例えば、レゾルシノールモノベンゾエートなど)、2−(2−ヒドロキシアリール)−ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、2−(2−ヒドロキシアリール)−1,3,5−トリアジンおよびその誘導体などが含まれる。特に、モノフェノール連鎖停止剤には、フェノール、p−クミルフェノール、および/またはモノ安息香酸レゾルシノールなどが含まれる。
【0045】
モノカルボン酸クロライドも、連鎖停止剤として好適であり得る。これらには、単環式モノカルボン酸クロライド(例えば、塩化ベンゾイル、C122アルキル置換塩化ベンゾイル、トルオイルクロライド、ハロゲン置換塩化ベンゾイル、塩化ブロモベンゾイル、塩化シンナモイル、塩化4−ナジミドベンゾイル、およびこれらの混合物など);多環式モノカルボン酸クロライド(例えば、トリメリト酸無水物クロライド、ナフトイルクロライドなど);ならびに単環式および多環式のモノカルボン酸クロライドの混合物などが含まれる。22個以下の炭素原子を有する脂肪族モノカルボン酸のクロライドが好適である。脂肪族モノカルボン酸の官能基化クロライド(例えば、アクリロイルクロライドおよびメタクリロイルクロライドなど)も好適である。単環式モノクロロホルメートを含むモノクロロホルメート、例えば、フェニルクロロホルメート、アルキル−置換フェニルクロロホルメート、p−クミルフェニルクロロホルメート、トルエンクロロホルメート、およびこれらの混合物なども好適である。
【0046】
ポリカーボネートは、界面重合によって製造することもできる。ジカルボン酸それ自体を用いるよりもむしろ、対応する酸ハロゲン化物、特に酸ジクロライドおよび酸ジブロマイドなどの酸の反応性誘導体を使用することが望ましい。したがって、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、またはそれらの混合物を使用することに代えて、イソフタロイルジクロライド、テレフタロイルジクロライド、およびそれらの混合物を用いることが望ましい。
【0047】
組成物は、ポリシロキサン−ポリカーボネートコポリマーをさらに含んでもよい。このコポリマーのポリシロキサン(本明細書においてポリジオルガノシロキサンともいう)ブロックは、式(10):
【化10】

(式中、Rの各存在は、同じか異なり、C113一価有機基である)
の繰り返しポリジオルガノシロキサン単位を含む。例えば、Rは、C1〜C13アルキル基、C1〜C13アルコキシ基、C2〜C13アルケニル基、C2〜C13アルケニルオキシ基、C3〜C6シクロアルキル基、C3〜C6シクロアルコキシ基、C6〜C14アリール基、C6〜C10アリールオキシ基、C7〜C13アラルキル基、C7〜C13アラルコキシ基、C7〜C13アルカリール基、またはC7〜C13アルカリールオキシ基であることができる。前述の基は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素、あるいはこれらの組合せで完全または部分的にハロゲン化されていてもよい。前述のR基の組合せは、同じコポリマー内で使用することができる。
【0048】
式(10)におけるDの値は、結合層組成物中の各成分の種類および相対的量、組成物の所望の特性ならびに同様の考慮事項に依存して広範に変わりうる。一般に、Dは、2から1,000、特に2から500、より特に5から100の平均値を有することができる。1つの実施態様では、Dは10から75の平均値を有し、なお別の実施態様では、Dは20から60の平均値を有する。Dが比較的低い値、例えば、40未満である場合、ポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーの比較的多い量を使用することが望ましい場合がある。逆に、Dが高い値、例えば、40を超える場合、ポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーの比較的少ない量を使用することが必要である場合がある。
【0049】
第1および第2の(またはさらなる)ポリシロキサン−ポリカーボネートの組合せを使用することができ、ここで第1のポリシロキサン−ポリカーボネートのDの平均値は、第2のポリシロキサン−ポリカーボネートのDの平均値より小さい。
【0050】
1つの実施態様では、ポリジオルガノシロキサンブロックは、式(11):
【化11】

【0051】
(式中、Dは上述したとおりであり;各Rは同じか異なり、上述により定義したとおりであり;Arは同じか異なり、置換または非置換のC6〜C30アリーレン基であり、式中、結合は芳香族部分に直接結合している)
の繰り返し構造単位によって与えられる。式(11)における好適なAr基は、C6〜C30ジヒドロキシアリーレン化合物、例えば、上述の式(3)、(4)、または(7)のジヒドロキシアリーレン化合物から誘導することができる。上述のジヒドロキシアリーレン化合物の少なくとも1種を含む組合せも使用することができる。好適なジヒドロキシアリーレン化合物の特定の例は、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)n−ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−1−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニルスルフィド)、および1,1−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパンである。前述のジヒドロキシ化合物の少なくとも1種を含む組合せも使用することができる。
【0052】
このような単位は、式(12):
【化12】

【0053】
(式中、ArおよびDは、上述したとおりである)
の対応するジヒドロキシ化合物から誘導することができる。式(12)の化合物は、相間移動条件下でジヒドロキシアリーレン化合物と、例えば、アルファ、オメガ−ビスアセトキシポリジオルガノシロキサンとを反応させることによって得ることができる。
【0054】
別の実施態様では、ポリジオルガノシロキサンブロックは、式(13):
【化13】

【0055】
(式中、Rは、上述したとおりであり、Dは1から1000であり、R1は、各出現ごとに独立に、二価のC1〜C30有機基であり、ポリマー化されたポリシロキサン単位は、その対応するジヒドロキシ化合物の反応残基である)
の単位を含む。特定の実施態様において、ポリジオルガノシロキサンブロックは、式(14):
【化14】

(式中、RおよびDは、上記に定義したとおりである)
の繰り返し構造単位によって与えられる。
【0056】
式(14)におけるR2は、二価のC2〜C8脂肪族基である。式(14)における各Mは、同じか異なり、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1〜C8アルキルチオ、C1〜C8アルキル、C1〜C8アルコキシ、C2〜C8アルケニル、C2〜C8アルケニルオキシ基、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C8シクロアルコキシ、C6〜C10アリール、C6〜C10アリールオキシ、C7〜C12アラルキル、C7〜C12アラルコキシ、C7〜C12アルカリール、またはC7〜C12アルカリールオキシであってよく、ここで、各nは、独立に、0、1、2、3、または4である。
【0057】
1つの実施態様では、Mは、ブロモもしくはクロロ、アルキル基(例えば、メチル、エチル、またはプロピルなど)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、またはプロポキシなど)、またはアリール基(例えば、フェニル、クロロフェニル、またはトリルなど)であり;R2は、ジメチレン基、トリメチレン基、またはテトラメチレン基であり;Rは、C18アルキル、ハロアルキル(例えば、トリフルオロプロピルなど)、シアノアルキル、またはアリール(例えば、フェニル、クロロフェニル、またはトリルなど)である。別の実施態様では、Rは、メチル、またはメチルとトリフルオロプロピルとの混合、またはメチルとフェニルとの混合である。なお別の実施態様では、Mはメトキシであり、nは1であり、R2は二価C1〜C3脂肪族基であり、Rはメチルである。
【0058】
式(14)の単位は、対応するジヒドロキシポリジオルガノシロキサン(15):
【化15】

【0059】
(式中、R、D、M、R2、およびnは、上述したとおりである)
から誘導することができる。このようなジヒドロキシポリシロキサンは、式(16):
【化16】

(式中、RおよびDは、前述により定義したとおりである)
のシロキサンハイドライドと脂肪族不飽和一価フェノールとの間の白金触媒付加反応によって製造することができる。
【0060】
好適な脂肪族不飽和の一価フェノールには、例えば、オイゲノール、2−アルキルフェノール、4−アリル−2メチルフェノール、4−アリル−2−フェニルフェノール、4−アリル−2−ブロモフェノール、4−アリル−2−t−ブトキシフェノール、4−フェニル−2−フェニルフェノール、2−メチル−4−プロピルフェノール、2−アリル−4,6−ジメチルフェノール、2−アリル−4−ブロモ−6−メチルフェノール、2−アリル−6−メトキシ−4−メチルフェノール、および2−アリル−4,6−ジメチルフェノールが含まれる。前述の少なくとも1種を含む混合物も使用することができる。
【0061】
ポリシロキサン−ポリカーボネートにおけるポリシロキサン単位対カーボネート単位の質量比は、さまざまであってよい。例えば、ポリシロキサン−ポリカーボネートは、1つの実施態様では、シロキサン単位対カーボネート単位の質量比が1:99から50:50、特に2:98から30:70、より特に3:97から25:75であってよい。
【0062】
1つの特定の実施態様では、ポリシロキサン−ポリカーボネートは、ポリシロキサン単位と、A1およびA2のそれぞれがp−フェニレンであり、Y1がイソプロピリデンであるビスフェノールAから誘導されるカーボネート単位とを含むことができる。ポリシロキサン−ポリカーボネートは、上述したとおりにゲル透過クロマトグラフィーによって測定して、2,000から100,000、特に5,000から50,000の質量平均分子量を有していてよい。ポリシロキサン−ポリカーボネートは、300℃/1.2kgで測定して、10分当たり1から35立方センチメートル(cc/10分)、特に2から30cc/10分のメルトボリュームフローレイト(しばしばMVRと略す)を有していてよい。異なる流動特性のポリシロキサン−ポリカーボネートの混合物を使用して、全体として所望の流動特性を達成することができる。
【0063】
本明細書に記述する結合層フィルムを製造するために用いる結合層組成物は、その衝撃抵抗性を増すために耐衝撃性改良剤を含む。1つの実施態様では、耐衝撃性改良剤を、ポリカーボネートを分解させる物質を全く含まないエマルジョン重合法によって製造する。例えば、1つの実施態様では、耐衝撃性改良剤を、塩基性物質、例えば、C630脂肪酸のアルカリ金属塩(例えば、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなど)、アルカリ金属炭酸塩、アミン(ドデシルジメチルアミン、ドデシルアミンなど)、およびアミンのアンモニウム塩などを全く含まない重合法によって製造する。このような物質は、通常エマルション重合における界面活性剤として使用され、ポリカーボネートのエステル交換および/または分解を触媒し得る。代わりに、イオン性硫酸塩、スルホン酸塩、またはリン酸塩の界面活性剤を、耐衝撃性改良剤、特に、耐衝撃性改良剤のエラストマー性基質部分の製造に使用することができる。好適な界面活性剤には、例えば、C122アルキルもしくはC725アルキルアリールのスルホン酸塩、C122アルキルもしくはC725アルキルアリールの硫酸塩、C122アルキルもしくはC725アルキルアリールのリン酸塩、置換シリケート、およびこれらの混合物などが含まれる。特定の界面活性剤は、C616、特にC812のアルキルスルホン酸塩である。実際には、脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ金属炭酸塩、および他の塩基性物質を含まないことを条件に、任意の上述した耐衝撃性改良剤を使用することができる。
【0064】
結合層組成物に使用するために適した耐衝撃性改良剤には、エラストマー改質グラフトコポリマーであって、(i)10℃未満、より特に−10℃未満、またはより特に−40℃から−130℃のTgを有するエラストマー性(例えば、ゴム状)ポリマー基材、と、(ii)このエラストマー性ポリマー基材にグラフトした硬質ポリマー上層とを含むエラストマー改質グラフトコポリマーが含まれる。知られているように、エラストマー改質グラフトコポリマーは、まずエラストマーポリマーを製造し、次いで、このエラストマーの存在下で硬質相の成分モノマーを重合させてグラフトコポリマーを得ることによって製造することができる。グラフトは、エラストマーコアにグラフト分岐またはシェル(shell)として結合することができる。シェルは、物理的にコアを被包するだけでもよく、あるいは、シェルは、部分的もしくは実質的に完全にコアにグラフトしていてもよい。
【0065】
エラストマー相として使用するために好適な材料には、例えば、共役ジエンゴム;共役ジエンと50質量%未満の共重合性モノマーとのコポリマー;エチレン−酢酸ビニルゴム;シリコンゴム;エラストマー性C18アルキル(メタ)アクリレート;または前述したエラストマーの少なくとも1種を含む組合せが含まれる。
【0066】
エラストマー相を製造するための好適な共役ジエンモノマーは、式(17):
【化17】

(式中、各Xbは、独立に、水素、C1〜C5アルキルなどである)
のものである。使用することができる共役ジエンモノマーの例には、これらだけに限定されないが、ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘプタジエン、メチル−1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン;1,3−および2,4−ヘキサジエン、ならびに前述の共役ジエンモノマーの少なくとも1種を含む混合物が含まれる。特定の共役ジエンホモポリマーには、ポリブタジエンおよびポリイソプレンが含まれる。
【0067】
共役ジエンゴムのコポリマー、例えば、共役ジエンと、それと共重合可能な1種または複数種のモノマーとの水性ラジカルエマルション重合によって製造されるものも使用することができる。共役ジエンとの共重合に好適なモノマーには、縮合芳香環構造を有するモノビニル芳香族モノマー(例えば、ビニルナフタレン、ビニルアントランセンなど)、または式(18):
【化18】

(式中、各Xcは、独立に、水素、C1〜C12アルキル、C3〜C12シクロアルキル、C6〜C12アリール、C7〜C12アラルキル、C7〜C12アルカリール、C1〜C12アルコキシ、C3〜C12シクロアルコキシ、C6〜C12アリールオキシ、クロロ、ブロモ、またはヒドロキシであり、Rは、水素、C1〜C5アルキル、ブロモ、またはクロロである)
のモノマーが含まれる。
【0068】
使用しうる好適なモノビニル芳香族モノマーの非限定的な例には、スチレン、3−メチルスチレン、3,5−ジエチルスチレン、4−n−プロピルスチレン、アルファ−メチルスチレン、アルファ−メチルビニルトルエン、アルファ−クロロスチレン、アルファ−ブロモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、テトラ−クロロスチレンなど、および前述の化合物の少なくとも1種を含む組合せが含まれる。スチレンおよび/またはアルファ−メチルスチレンを、共役ジエンモノマーと共重合可能なモノマーとして使用することができる。
【0069】
共役ジエンと共重合しうる他のモノマーは、モノビニルモノマーであり、例えば、イタコン酸、アクリルアミド、N−置換アクリルアミドもしくはメタクリルアミド、マレイン酸無水物、マレイミド、N−アルキル−、アリール−もしくはハロアリール−置換マレイミド、グリシジル(メタ)アクリレート、および一般式(19):
【化19】

(式中、Rは、水素、C1〜C5アルキル、ブロモ、またはクロロであり、Xcは、シアノ、C1〜C12アルコキシカルボニル、C1〜C12アリールオキシカルボニル、ヒドロキシカルボニルなどである)
のモノマーである。
【0070】
式(19)のモノマーの例には、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルファ−クロロアクリロニトリル、ベータ−クロロアクリロニトリル、アルファ−ブロモアクリロニトリル、アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、および上前述のモノマーの少なくとも1種を含む組合せが含まれる。例えば、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート、および2−エチルヘキシルアクリレートなどのモノマーは、共役ジエンモノマーと共重合可能なモノマーとして一般的に使用される。前述のモノビニルモノマーとモノビニル芳香族モノマーとの混合物も使用することができる。
【0071】
エラストマー相として使用するために好適な(メタ)アクリレートモノマーは、例えば、C18アルキル(メタ)アクリレート、特にC46アルキルアクリレート、例えば、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなど、および前述のモノマーの少なくとも1種を含む組合せのであってよく、架橋した粒子状エマルションホモポリマーまたはコポリマーを形成する。C18アルキル(メタ)アクリレートモノマーは、場合によって、15質量%以下の式(17)、(18)、または(19)のコモノマー15と混合して重合させることができる。例示的なコモノマーには、これらだけに限定されないが、ブタジエン、イソプレン、スチレン、メチルメタクリレート、フェニルメタアクリレート、ペネチルメタクリレート、N−シクロヘキシルアクリルアミド、ビニルメチルエーテルもしくはアクリロニトリル、および前述のコモノマーの少なくとも1種を含む混合物などが含まれる。場合によって、5質量%以下の多官能架橋性コモノマー、例えば、ジビニルベンゼン、グリコールビスアクリレートなどのアルキレンジオールジ(メタ)アクリレート、アルキレントリオールトリ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ビスアクリルアミド、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、アリル(メタ)アクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルアジペート、クエン酸のトリアリルエステル、リン酸のトリアリルエステルなど、ならびに前述の架橋剤の少なくとも1種を含む組合せなどが存在していてもよい。
【0072】
エラストマー相は、塊状法、エマルション法、懸濁法、溶液法、または組合せ法(例えば、バルク−懸濁法、エマルション−バルク法、バルク−溶液法、もしくはその他の技術など)によって、連続式、半回分式、または回分式プロセスを用いて重合させることができる。エラストマー基質の粒径は重要ではない。例えば、0.001から25マイクロメータ、特に0.01から15マイクロメータ、さらにより特に0.1から8マイクロメータの平均粒径を、重合させたゴムラテックスに基づくエマルジョンに使用することができる。0.5から10マイクロメータ、特に0.6から1.5マイクロメータの粒径を、バルク重合ゴム基質のために使用することができる。粒径は、簡易光透過法または毛細管流体力学的クロマトグラフィー(CHDF)によって測定することができる。エラストマー相は、粒子状の緩やかに架橋した共役ブタジエンまたはC46アルキルアクリレートゴムであってよく、特に70%を超えるゲル含量を有する。ブタジエンと、スチレンおよび/またはC46アルキルアクリレートゴムとの混合物も好適である。
【0073】
エラストマー相は、総グラフトコポリマーの5から95質量%、より特に20から90質量%、さらにより特に、エラストマー改質グラフトコポリマーの特に40から85質量%を占めていてよく、残りは硬質グラフト相である。
【0074】
エラストマー改質グラフトコポリマーの硬質相は、1種または複数のエラストマーポリマー基質の存在下で、モノビニル芳香族モノマーと、場合によって1種または複数のコモノマーとを含む混合物をグラフト重合させることによって形成させることができる。式(18)の上記モノビニル芳香族モノマーを、硬質グラフト相に使用することができ、この硬質グラフト相には、スチレン、アルファ−メチルスチレン、ジブロモスチレンなどのハロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ブチルスチレン、パラ−ヒドロキシスチレン、メトキシスチレンなど、または前述のモノビニル芳香族モノマーの少なくとも1種を含む組合せなどが含まれる。好適なコモノマーには、例えば、上記モノビニルモノマーおよび/または一般式(19)のモノマーなどが含まれる。1つの実施態様では、Rは水素またはC1〜C2アルキルであり、XcはシアノまたはC1〜C12アルコキシカルボニルである。硬質相に使用するために好適なコモノマーの特定の例には、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレートなど、および前述のコモノマーの少なくとも1種を含む組合せなどが含まれる。
【0075】
硬質グラフト相におけるモノビニル芳香族モノマーとコモノマーとの相対比は、エラストマー基質の種類、モノビニル芳香族モノマーの種類、コモノマーの種類、および耐衝撃性改良剤の所望の特性に依存して広範に変わりうる。硬質相は、一般に、100質量%までのモノビニル芳香族モノマー、特に30から100質量%、より特に50から90質量%のモノビニル芳香族モノマーを含むことができ、残りはコモノマーである。
【0076】
存在するエラストマー改質ポリマーの量に依存して、グラフト化されていない硬質ポリマーまたはコポリマーの分離したマトリックスまたは連続した相が、エラストマー改質グラフトポリマーと一緒に同時に得られる。典型的には、このような耐衝撃性改良剤は、該耐衝撃性改良剤の総質量に基づいて40から95質量%のエラストマー改質グラフトコポリマーと、5から65質量%のグラフト(コ)ポリマーとを含む。別の実施態様では、このような耐衝撃性改良剤は、該耐衝撃性改良剤の総質量に基づいて、15から50質量%、より特に15から25質量%のグラフト(コ)ポリマーと一緒に、50から85質量%、より特に75から85質量%のゴム改質グラフトコポリマーを含む。
【0077】
エラストマー改質耐衝撃性改良剤の別の特定の種類は、少なくとも1種のシリコンゴムモノマー;式:H2C=C(Rd)C(O)OCH2CH2e(式中、RdはハロゲンまたはC1〜C8線状もしくは分岐のアルキル基であり、Reは分岐のC3〜C16アルキル基である)を有する分岐アクリレートゴムモノマー;第1のグラフト結合モノマー;重合性アルケニル含有有機物質;および第2のグラフト結合モノマーから誘導される構造単位を含む。シリコンゴムモノマーには、例えば、環状シロキサン、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、(アクリルオキシ)アルコキシシラン、(メルカプトアルキル)アルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、またはアリルアルコキシシラン等が、単独あるいは組み合わせで含まれる。例えば、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、および/またはテトラエトキシシランなどが含まれる。
【0078】
例示的な分岐アクリレートゴムモノマーには、単独または組み合わせで、イソオクチルアクリレート、6−メチルオクチルアクリレート、7−メチルオクチルアクリレート、6−メチルヘプチルアクリレートなどが含まれる。重合性アルケニル含有有機物質は、単独または組み合わせで、例えば、式(18)もしくは(19)のモノマー、例えば、スチレン、アルファ−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、または非分岐(メタ)アクリレート(例えば、メチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレートなど)であってよい。
【0079】
少なくとも1種の第1のグラフト結合モノマーは、単独または組み合わせで、(アクリルオキシ)アルコキシシラン、(メルカプトアルキル)アルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン、またはアリールアルコキシシランであってよく、例えば、(ガンマ−メタクリルオキシプロピル)(ジメトキシ)メチルシランおよび/または(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシランであってよい。少なくとも1種の第2のグラフト結合モノマーは、単独または組み合わせで、少なくとも1個のアリル基を有するポリエチレン性不飽和化合物、例えば、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、またはトリアリルイソシアヌレートである。
【0080】
シリコン−アクリレート耐衝撃性改良剤組成物は、エマルション重合によって製造することができ、ここで、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸などの表面活性剤の存在下、30℃から110℃の温度で、少なくとも1種のシリコンゴムモノマーと少なくとも1種の第1のグラフト結合モノマーとを反応させて、シリコンゴムラテックスを形成させる。あるいは、シクロオクタメチルテトラシロキサンおよびテトラエトキシオルトシリケートなどの環状シロキサンを(ガンマ−メタクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシランなどの第1のグラフト結合モノマーと反応させて、100ナノメートルから2ミクロンの平均粒径を有するシリコンゴムを得ることができる。次いで、少なくとも1種の分岐アクリレートゴムモノマーを、このシリコンゴム粒子と、場合によってベンゾイルペルオキシドなどのラジカル発生重合触媒の存在下、アリルメタクリレートなどの架橋モノマーの存在下で重合させる。次いで、このラテックスを重合性アルケニル含有有機物質および第2のグラフト結合モノマーと反応させる。このグラフトシリコン−アクリレートゴム混成のラテックス粒子は、(凝固剤を用いた処理による)凝固によって水相から分離することができ、乾燥して微粉末として、シリコン−アクリレートゴム耐衝撃性改良剤組成物を製造することができる。この方法は、一般に、100ナノメートルから2マイクロメータの粒径を有するシリコン−アクリレート耐衝撃性改良剤を製造するために使用することができる。
【0081】
上述のエラストマー改質グラフトコポリマーを形成させるために知られた方法には、連続式、半回分式、または回分式プロセスを用いる、塊状法、エマルション法、懸濁法、溶液法、または組合せ法(例えば、バルク−懸濁法、エマルション−バルク法、バルク−溶液法、もしくはその他の技術など)が含まれる。
【0082】
ポリカーボネートのエステル交換および/または分解を触媒する可能性があるアルカリ金属などの塩基性物質を全く含まない、特定の耐衝撃性改良剤は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)またはBulk ABS耐衝撃性改良剤であって、そのブタジエン基質が、界面活性剤として、上述したスルホネート、スルフェート、またはホスフェートを使用して製造されるものである。ABSに加えてのその他の耐衝撃性改良剤の例には、これらだけに限定されないが、メタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)、アクリロニトリル−スチレン−ブチルアクリレート(ASA)、およびメチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(MABS)が含まれる。このような耐衝撃性改良剤の製造は、当分野で広く知られている。耐衝撃性改良剤は、一般に、ポリカーボネート、耐衝撃性改良剤、芳香族ビニルコポリマー、および場合により任意に含まれていてもよいポリエステルカーボネートおよび/またはポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーの100質量%に基づいて、2〜30質量%の量で存在する。
【0083】
1つの実施態様では、耐衝撃性改良剤には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)が含まれる。ABSは、当分野で知られているバルク重合法によって製造することができる。1つの実施態様では、ABSは、ポリカーボネートを分解する化合物を実質的に全く含まない。このような耐衝撃性改良剤を使用すると、優れた物理的特性(例えば、低温耐衝撃性および熱安定性)を、良好な加水分解安定性と共に有する熱可塑性組成物がもたらされる。
【0084】
ABS樹脂のためのさまざまなバルク重合法が知られている。マルチゾーンプラグフローバルク重合法では、連続的に互いに連結された一連の重合容器(あるいは塔)によって多段階反応ゾーンが備えられている。1種以上のモノマー中に溶解されたエラストマー性ブタジエンを用いて、硬質相を形成させ、このエラストマー溶液を反応系に供給する。熱的又は化学的に開始させることができる反応中、このエラストマーが硬質コポリマー(例えば、SAN)によってグラフト化される。バルクコポリマー(遊離のコポリマー、マトリックスコポリマー、または非グラフト化コポリマーとも称される)も、溶解されたゴムを含有する連続相内に形成される。重合が継続するにしたがって、遊離のコポリマーのドメインが、ゴム/コモノマーの連続相内に形成されて、2相系システムがもたらされる。重合反応が進行するにしたがって、より多くの遊離のコポリマーが形成され、エラストマー改質コポリマーが、遊離のコポリマー中の粒子として分散され初め、遊離のコポリマーが連続相となる(相が逆転する)。一部の遊離のコポリマーは、一般に、エラストマー改質コポリマー相内にも閉じこめられる。相が逆転した後、追加の加熱を用いて重合を完結させることができる。この基本的な方法のさまざまな変形が、米国特許第3,511,895号に記載されている。米国特許第3,511,895号には、連続的なバルクABS法により、3段階の反応系システムを用いて、制御可能な分子量分布と、ミクロゲル粒子径をもたらされることが記載されている。第一の反応器では、エラストマー/モノマー溶液を、反応混合物中に、激しい撹拌下で装入して、相当量の架橋が起こる前に、反応容器の物質全体に均一に、分離したゴム粒子を沈殿させる。第一反応器、第二反応器、および第三反応器の固体濃度を注意深く制御して、分子量を有益な範囲に落ち着かせる。米国特許第3,981,944号には、ニトリル基を含む不飽和モノマーおよび任意の他のコモノマーを添加する前に、スチレン性モノマーを用いてエラストマー粒子を抽出して、エラストマー粒子を溶解/分散させる方法記載されている。米国特許第5,414,045号には、プラグフローグラフト化反応器内で、スチレン性モノマー組成物、不飽和ニトリルモノマー組成物、およびエラストマー性ブタジエンポリマーを含む液体供給組成物を、相が逆転する前の点まで反応させ、そこから得られた第一重合生成物(グラフト化エラストマー)を、連続的に撹拌されたタンク反応器内で反応させて、相が逆転した第二の重合生成物を得、次いで、最終反応器内でさらに反応させた後、液化させて、所望の最終生成物を製造する方法が記載されている。さまざまな実施態様では、バルク重合されたABS(BASB)は、組成比で(nominal)15〜20質量%のブタジエンを含有し、組成比で15〜20質量%のアクリロニトリルを含有していてよい。微細構造は、逆転した相であり、SANマトリックス内のブタジエンまたはスチレン−ブタジエンエラストマー相中に、SANが閉じ込められた構造である。BABSは、プラグフロー反応器を、上述した撹拌した煮沸反応器と共に連続的に使用して、例えば、米国特許第3,981,944号および米国特許第5,414,045号に記述されているように製造することができる。
【0085】
本組成物は、芳香族ビニルコポリマー、例えば、スチレン性コポリマー(「ポリスチレンコポリマー」とも称される)も含む。本明細書において、用語「芳香族ビニルコポリマー」、「ポリスチレンコポリマー」、および「スチレン性コポリマー」は、バルク重合、懸濁重合、およびエマルジョン重合を含む、当分野で知られている方法によって、少なくとも1種のモノビニル芳香族炭化水素を使用して製造されるポリマーを包含する。ポリスチレンコポリマーは、ランダムコポリマーであっても、ブロックコポリマーであっても、あるいはグラフトコポリマーであってもよい。モノビニル芳香族炭化水素の例には、これらだけに限定されないが、アルキル−、シクロアルキル−、アリール−、アルキルアリール−、アラルキル−、アルコキシ−、アリールオキシ−置換ビニル芳香族化合物、および、これらとの組合せとしての他の置換ビニル芳香族化合物が含まれる。特定の例には、スチレン、4−メチル4−メチルスチレン、3,5−ジエチルスチレン、4−n−プロピルスチレン、α−メチルスチレン、α−メチルビニルトルエン、α−クロロスチレン、α−ブルモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、テトラクロロスチレン、およびこれらの組合せが含まれる。使用する有益なモノビニル芳香族炭化水素は、スチレンおよびα−メチルスチレンである。
【0086】
芳香族ビニルコポリマーは、コモノマー、例えば、ビニルモノマー、アクリル酸モノマー類、マレイン酸無水物類および誘導体類、ならびにこれらの混合物を含有する。本明細書において、ビニルモノマーは、少なくとも1個の重合可能な炭素−炭素二重結合を有する脂肪族化合物である。2個以上の炭素−炭素二重結合が存在する場合、選択により、これらは互いに共役していても共役していなくてもよい。好適なビニルモノマーには、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン(1−ブテン、2−ブテン、およびイソブテンを含む)、ペンテン、ヘキセン、および他の公知のもの;1,3−ブタジエン、2−メチルー1,3−ブタジエン(イソプレン)、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、および当分野で公知のもの;およびこれらの組合せが含まれる。
【0087】
アクリル酸モノマー類には、例えば、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアリールニトリル、β−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリル、およびβ−ブロモアクリロニトリル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、および当分野で知られている他のもの、およびこれらの混合物が含まれる。
【0088】
マレイン酸無水物類およびこれらの誘導体には、例えば、マレイン酸無水物、マレイミド、N−アルキルマレイミド、N−アリールマレイミド、またはアルキル−またはハロ−置換N−アリールマレイミド類、および当分野で知られている他のもの、およびこれらの混合物が含まれる。
【0089】
芳香族ビニルコポリマー中に存在するコモノマーの量は、さまざまであってよい。しかし、この濃度は、一般に、2%〜75%のモル%で存在する。この範囲内において、コモノマーのモルパーセントは、とりわけ50%以下であってよく、より特に40%以下であってよい。特定のポリスチレンコポリマー樹脂には、ポリ(スチレンマレイン酸無水物)、(一般に、「SMA」と称される)、およびポリ(スチレンアクリロニトリル)(一般に、「SAN」と称される)が含まれる。
【0090】
1つの実施態様では、芳香族ビニルコポリマーは、(a)芳香族ビニルモノマー成分と、(b)シアニドビニルモノマー成分とを含む。(a)の芳香族ビニルモノマー成分の例には、α−メチルスチレン、o−、m−、またはp−メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン、およびビニルナフタレンが含まれ、これらの物質は、独立に用いることも、組み合わせて用いることもできる。芳香族ビニルコポリマーにおける(a)対(b)の組成比には、特に全く制限はなく、問題となる用途に応じて選択されるべきものである。いくつかの実施態様では、芳香族ビニルコポリマーは、場合により、高いアクリロニトリル含量を有していてよく、芳香族ビニルコポリマーの(a)+(b)のうちの少なくとも26質量%、特に26〜35質量%の(b)を含有し、芳香族ビニルコポリマーの(a)+(b)のうちの75質量%未満、特に74〜65質量%の(a)を含有する。別の実施態様では、芳香族ビニルコポリマーは、場合により、芳香族ビニルコポリマーの(a)+(b)のうちの26質量%未満、特に2〜25質量%の(b)を含有し、芳香族ビニルコポリマーの(a)+(b)のうちの少なくとも75質量%、特に75〜98質量%の(a)を含有する。
【0091】
芳香族ビニルコポリマーの質量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン標準の分子量スケールで測定して、50,000〜200,000であってよい。
【0092】
当分野で知られているさまざまな添加剤を、結合層組成物に添加することができる。添加剤の混合物を使用してもよい。このような添加剤には、充填剤、強化剤、顔料、難燃剤、滴下防止剤、可塑剤、UV安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、ガンマ線安定剤、前述の少なくとも1種を含む組合せが、この様な添加剤が結合層組成物の有利な特性に悪影響を及ぼさない限りにおいて含まれる。添加剤は、組成物を形成させるための成分の混合過程における適切な時期に添加することができる。いくつかの実施態様では、各添加剤は、組成物中で加水分解的に経時変化した後で、ポリマーの分解を引き起こす化合物または分解性物質を発生する化合物を実質的に含まない。添加剤を含ませる場合には、特に指定しない限り、ポリカーボネート、耐衝撃性改良剤、芳香族ビニルコポリマー、ならびにポリエステルカーボネートおよび/またはポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーの合計質量は、特定した全ての化合物の質量%の合計で、結合組成物の100質量%を超えることはない。
【0093】
多層フィルム用の結合層を製造するために使用する結合層組成物は、当技術分野において一般に利用できる方法によって製造することができる。例えば、1つの実施態様における手順の1つの方法では、粉末ポリカーボネート樹脂と、任意の他の成分とを高速混合器で最初にブレンドする。これだけに限定されないが、手練りを含む他の低せん断処理で、このブレンドを達成することもできる。次いで、このブレンドを、ホッパーを介して二軸押出機のスロート(throat)の中に供給する。あるいは、1種または複数の成分を、スロートで押出機の中に直接、および/またはサイドスタッファを介して下流に供給することによって組成物に組み込むことができる。このような添加剤は、所望のポリマー樹脂と一緒にマスターバッチの中にコンパウンドし、押出機中に供給することができる。添加剤は、最終生成物に添加する前に、濃縮物を製造するためにポリカーボネートベース材料に添加してもよい。押出機は、一般に、組成物を流動性を与えるために必要とされる温度より高い温度〔通常、400°F(204℃)から650°F(343℃)〕で運転する。押出物を、水バッチの中で直ちにクエンチし、ペレット化する。この押出物を切断することによって製造したペレットは、1/4インチの長さまたは必要に応じてそれ未満の長さであってよい。このようなペレットは、層のその後の押出し、キャスティング、成型、成形、または形成のために使用することができ、ここで、この層は、以下にさらに記述するように、多層フィルムにおいて使用することができる。
【0094】
上述の組成物を使用して、多層フィルムと基材とを含む物品を形成させる。物品100の例示的な実施態様を図1に示す。図1は、上層110を有する多層フィルム101、基材130、およびその間に配設された結合層組成物を含む結合層120を示す。本明細書において「配設された」は、少なくとも部分的に接触していることを意味する。一部の実施態様では、結合層120は、多層フィルムに視覚的効果を与えるために着色剤および/または充填剤を含んでいてよい。
【0095】
結合層組成物は、ポリカーボネート、耐衝撃性改良剤、芳香族ビニルコポリマー、ならびにポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーおよび/またはポリエステルカーボネートを含む。結合層は、上層および基材の間に配設され、上層および/または基材に少なくとも部分的に接触している。上層および基材のそれぞれは、同じ表面特性を有していても、互いに異なる表面特性を有していてもよい。上層および基材は、同じ組成物を含んでいても、異なる組成物を含んでいてもよい。本結合層は、有益な熱特性および機械特性、ならびに結合層と隣接する各層との間の所望の界面接着特性を与えるために特に有用であり、特に、互いに直接接触した場合に、隣接する層の互いの接着力が弱い可能性がある場合に有用である。
【0096】
物品は、本明細書において基材層ともいう基材を含んでいてよい。基材は、多層フィルムが接触する任意の表面であってよい。特に、基材は、多層フィルムの構造的な裏当てとなる表面であってよい。物品は、基材のみ、上層のみ、あるいは両方を有していてよく、さらに追加の層を有していてもよい。
【0097】
基材は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、金属、セラミック、ガラス、セルロース材料、およびこれらの1種または複数種を含む組合せからなる群から選択される材料を含んでいてよい。多層フィルムおよび基材を含む物品を最終的な所望の形態に加工することができることを条件として、基材層の厚さに特定の限定は全くない。1つの実施態様では、基材は、熱可塑性ポリマーを含むポリマー基材である。熱可塑性ポリマーには、これらだけに限定されないが、ポリカーボネート、特に芳香族ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリアリーレンエーテル、ポリフェニレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリアリールエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアミド、ポリエステル、液晶ポリエステル、ポリエーテルエステル、ポリエーテルアミド、ポリエステルアミド、およびポリエステル−ポリカーボネート(本明細書において定義したとおり、結合層および/または多層フィルムの層に用いられるポリマー以外)などがある。基材層は、添加剤を含んでもよく、これらだけに限定されないが、本明細書において上述したとおり、着色剤、顔料、染料、耐衝撃性改良剤、安定剤、着色安定剤、熱安定剤、光安定剤、UVスクリーナー、UV吸収剤、難燃剤、ドリップ防止剤、充填剤、流動補助剤、可塑剤、エステル交換阻害剤、帯電防止剤、および離型剤などがある。
【0098】
好適な基材ポリカーボネート(本明細書において、時に「PC」という)は、本明細書において上述したとおり、ポリカーボネートまたはポリエステル−ポリカーボネートであってよい。特定の実施態様では、ポリカーボネートは、ビスフェノールAポリカーボネートホモポリマーおよび/またはコポリマーであってよい。
【0099】
ポリエステル基材には、本明細書において上述したポリエステルなどのポリエステルが含まれ得る。特に好適なポリエステルには、これらだけに限定されないが、ポリ(アルキレンジカルボキシレート)、特にポリ(エチレンテレフタレート)(以後、時に「PET」という)、ポリ(1,4−ブチレンテレフタレート)(以後、時に「PBT」という)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(ブチレンナフタレート)、ポリ(シクロヘキサンジメタノールテレフタレート)、ポリ(シクロヘキサンジメタノール−co−エチレンテレフタレート)、およびポリ(1,4−シクロヘキサンジメチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)などがある。ポリアリーレートも含まれ、この例には、ビスフェノールA、テレフタル酸、およびイソフタル酸由来の構造単位を含むものが含まれる。
【0100】
ポリウレタン基材には、長繊維注入ポリウレタン(LFI−PU)フォーム、および反応性射出成形ポリウレタンフォーム(RIM−PU)などが含まれうる。好適なポリウレタン基材は、ウレタン繰り返し単位を有する。芳香族、脂肪族、脂環式、または脂肪族および脂環式の混合のウレタン繰り返し単位を用いることができる。ウレタンは、典型的には、ジイソシアネートとジオールとの縮合によって製造する。このウレタンを製造するために使用するジイソシアネートおよびジオールは、同じかまたは異なっていてもよい、二価の芳香族基、脂肪族基、または、脂肪族および芳香族の基を含むことができる。二価の単位はまた、C6からC30、特にC6からC25、より特にC6からC20の芳香族基であってもよく、置換および非置換の芳香族が含まれる。
【0101】
脂肪族ポリイソシアネート成分は、4から20個の炭素原子を含む。例示的な脂肪族ポリイソシアネートには、イソホロンジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート;1,4−テトラメチレンジイソシアネート;1,5−ペンタメチレンジイソシアネート;1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート;1,7−ヘプタメチレンジイソシアネート;1,8−オクタメチレンジイソシアネート;1,9−ノナメチレンジイソシアネート;1,10−デカメチレンジイソシアネート;2,2,4−トリメチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート;2,2’−ジメチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート;3−メトキシ−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート;3−ブトキシ−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート;オメガ,オメガ’−ジプロピルエーテルジイソシアネート;1,4−シクロヘキシルジイソシアネート;1,3−シクロヘキシルジイソシアネート;トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート;およ前述の少なくとも1種を含む組合せが含まれる。好適な芳香族ポリイソシアネートには、トルエンジイソシアネート、メチレンビス−フェニルイソシアネート(ジフェニルメタンジイソシアネート)、メチレンビス−シクロヘキシルイソシアネート(水素化MDI)、ナフタレンジイソシアネートなどがある。
【0102】
好適なジオールには、式(4)と式(7)とに従う芳香族ジヒドロキシ化合物および本明細書に記述した芳香族ジヒドロキシ化合物、ならびにジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、メソ−2,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオールなど);脂環式アルコール(例えば、1,2−シクロペンタンジオール、1,2−シクロヘキサンジオールなど);分岐非環式ジオール(例えば、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール(ピナコール)、1,4−ジメチロールシクロヘキサンなど);ならびにポリオール類が含まれる。ポリエーテルウレタンおよび/またはポリエステルウレタンには、脂肪族のポリエーテルまたはポリエステルのポリオールと、脂肪族または芳香族のポリイソシアネートとの反応生成物が含まれ、これを使用することもできる。ポリエーテルポリオールは、1から12個の炭素原子の直鎖または分岐のアルキレンオキシドをベースとするものであってよい。
【0103】
好適な付加ポリマー(additive polymer)の基材には、ホモおよびコポリマー性脂肪族オレフィンポリマー、ならびに官能基化オレフィンポリマーが含まれ得、これらは、ポリカーボネートと相溶性であり、脂肪族オレフィンもしくは官能基化オレフィンまたは双方由来の構造単位を含むホモポリマーおよびコポリマー、そのアロイまたはブレンドである。例示的な例には、これらだけに限定されないが、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルブチラール)、ポリ(アクリロニトリル)、アクリルポリマー〔例えば、(メタ)アクリルアミドのアクリルポリマーまたはポリ(メチルメタアクリレート)(PMMA)などのアルキル(メタ)アクリレートのアクリルポリマーなど〕、ならびにアルケニル芳香族化合物のポリマー(例えば、シンジオタクチックポリスチレンを含むポリスチレンなど)が含まれる。一部の実施態様において、付加ポリマーの基材はポリスチレン(例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)コポリマーおよびアクリロニトリル−スチレン−アクリレート(ASA)コポリマーなど)であり、これらは、それぞれ、ブタジエンおよびアルキルアクリレートのエラストマー性ベースポリマー上にグラフトした熱可塑性、非エラストマー性のスチレン−アクリロニトリル側鎖を有していてよい。
【0104】
前述のポリマーの任意のブレンドを、基材として用いることもできる。典型的なブレンドには、これらだけに限定されないが、PC/ABS、PC/ASA、PC/PBT、PC/PET、PC/ポリエーテルイミド、PC/ポリスルホン、ポリエステル/ポリエーテルイミド、PMMA/アクリルゴム、ポリフェニレンエーテル−ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテル−ポリアミド、またはポリフェニレンエーテル−ポリエステルを含むブレンドが含まれる。該基材層は他の熱可塑性ポリマーを含みうるが、上記ポリカーボネートおよび/または付加ポリマーがしばしばその主要な割合を構成する。
【0105】
基材層には、硬化または未硬化の、または部分的に硬化された熱硬化性樹脂も含まれ得る。ここで、本文脈において用語「熱硬化性樹脂」の使用は、これらの選択肢のうちの任意のものをいう。好適な熱硬化性樹脂基材には、これらだけに限定されないが、エポキシ化合物、シアネートエステル、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート、アクリル化合物、アルキド類、フェノール−ホルムアルデヒド、ノボラック類、レゾール類、ビスマレイミド類、PMR樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド、尿素−ホルムアルデヒド、ベンゾシクロブタン、ヒドロキシメチルフラン、およびイソシアネートから誘導される基材が含まれる。熱硬化性樹脂基材は、熱可塑性ポリマー(例えば、これらだけに限定されないが、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、またはポリエステルを含む)をさらに含むことができる。熱硬化により硬化させる前に、熱可塑性ポリマーを熱硬化性モノマー混合物と混合することができる。
【0106】
熱可塑性または熱硬化性の基材層は、本明細書において上述した着色剤および/または充填剤を含むことができる。例示的な増量充填剤および強化充填剤、ならびに着色剤には、例えば、シリカ、ケイ酸塩、ゼオライト、二酸化チタン、石粉末、ガラス繊維、ガラス球、カーボン繊維、カーボンブラック、グラファイト、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、リトポン、酸化亜鉛、ケイ酸ジルコニウム、酸化鉄、珪藻土、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、粉砕石英、焼成クレー、タルク、カオリン、アスベスト、セルロース、木粉、コルク、綿および合成織物繊維、特に強化充填剤(例えば、ガラス繊維、カーボン繊維および金属繊維など)、ならびに着色剤(例えば、金属フレーク、ガラスフレーク、およびビーズなど)、セラミック粒子、他のポリマー粒子、染料および顔料(有機、無機、または有機金属であってよい)が含まれる。
【0107】
基材層には、セルロース材料、例えば、これらだけに限定されないが、木、紙、ダンボール、繊維ボード、パーチクルボード、合板、色画用紙、クラフト紙、硝酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、および同様のセルロース含有材料などが含まれ得る。セルロース材料と、熱硬化性樹脂(例えば、接着剤など)、熱可塑性ポリマー(特に、リサイクル熱可塑性ポリマー、例えば、PETまたはポリカーボネートなど)、または熱硬化性樹脂および熱可塑性ポリマーを含む混合物のいずれかとのブレンドを使用することができる。
【0108】
図1に示すように、1つの実施態様では、上層110は、多層フィルム100の外側表面を形成する単層である。この実施態様において、上層は、結合層の上に密着して配設され、表面層として機能する。この実施態様における結合層は、有利には、所望する場合にはその中に着色剤および他の添加剤を分散させることができる結合層組成物を含み、多層フィルムのための所望の表面仕上げ特性を与えることができる。
【0109】
この表面層は、一般に、熱可塑性ポリマーを含む。表面層における使用のために好適な熱可塑性ポリマーは、光透過性、向上した耐候性、耐化学性、および低い水吸収性を特徴とする熱可塑性ポリマーである。熱可塑性ポリマーが結合層の結合層組成物と良好な溶融相溶性を有することも一般に望ましい。好適な熱可塑性ポリマーは、ポリエステル−ポリカーボネートを含むポリカーボネート、またはポリエステルとポリカーボネートとのブレンドである。ブレンドにおいて使用するポリエステルは、環状脂肪族ポリエステル、ポリアリーレート、または環状脂肪族ポリエステルとポリアリーレートとの組合せであってよい。特に、ポリエステル−ポリカーボネートがとりわけ有用である。
【0110】
1つの実施態様では、ポリエステル−ポリカーボネートには、ポリアリーレートを含むポリエステル単位を含み、この単位は、共重合して、アリーレート−エステルブロックおよびカーボネートブロックを形成し得る。前述した式(8)の構造単位を含むポリエステル−ポリカーボネートが含まれ得る。式中、R、m、p、各R、およびnは上述したとおりである。特に、nは少なくとも10、より特に少なくとも20、最も特に30から150である。mは少なくとも3、より特に少なくとも10、最も特に20から200である。1つの例示的な実施態様において、mは20および50の量で存在する。1つの特定の実施態様では、耐候性組成物は、ポリ(イソフタレート−テレフタレート−レゾルシノール)−co−ポリカーボネートコポリマーである。
【0111】
別の実施態様では、上層は、例えば、図2の201で示すように2層を含む。図2に、表面層210、中間層220、および結合層230を有する多層フィルム201を含む物品200を示す。基材240は、結合層230の面に接して含まれる。1つの実施態様では、中間層220は、例えば、視覚的効果(optical effect)を与える着色剤および/または充填剤を含む添加剤を含む。別の実施態様では、結合層230および中間層220の1つまたは複数が添加剤を含むことができる。
【0112】
多層フィルムは、中間層をさらに含むことができ、ここで中間層は、結合層の表面に接触させることができる。1つの特定の実施態様では、第1の結合層を、中間層の第1の表面に接触させ、第2の結合層を、第1の結合層の反対にあるこの中間層の第2の表面に接触させる。別の実施態様では、上層は、表面層に加えて、表面層と結合層との間に配設された1つまたは複数の層を含み、その少なくとも1層は、第2の結合層でありうる。1つの特定の実施態様では、多層フィルムは、表面層、この表面層に接触した第1の結合層、および表面層の反対側の面上で第1の結合層に接触した第2の結合層を有する。別の特定の実施態様では、さらなる中間層を、第1および第2の結合層の間に配設する。中間層は、一般に、好適な熱可塑性ポリマーを含む。
【0113】
多層フィルムには、一方の層が結合層であり、他方の層が、基材、上層、または別の層として機能し得るフィルムまたはシートである、2つの層のみを含んでいてもよい。
【0114】
中間層における使用に好適な熱可塑性ポリマーは、好適なフィルム形成特性、例えば、着色性能、熱膨張係数、溶融流動性、延性、接着性、これらの特性の1つまたは複数を含む組合せを、当分野で知られた他の好適な特性と共に有し得る。
【0115】
好適な中間層には、本明細書において上述したポリカーボネートが含まれ得る。1つの特定の実施態様では、ポリカーボネートは、ポリマー(例えば、ポリエステル;ポリエステル−ポリカーボネート;ポリシロキサン−ポリカーボネート;耐衝撃性改良剤;これらの1種または複数の組合せなど)とのブレンドであってよい。中間層における使用に好適なポリマーの特定の例には、これらだけに限定されないが、ビスフェノールAポリカーボネート、ポリ(フタレート−カーボネート)(PPC)、ポリ(イソフタレート−テレフタレート−レゾルシノール)−co−(ビスフェノールAカーボネート)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンターポリマー、スチレン−アクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル−スチレン−アクリレートターポリマー、これらの1つまたは複数を含む組合せ、ならびに当分野で知られたものおよび本明細書において上述したものなどがある。
【0116】
1つの実施態様では、中間層に使用するためのとりわけ好適なポリマーの組合せには、ビスフェノールAポリカーボネートポリマーおよびポリ(フタレート−カーボネート)(PPC)ポリマーが含まれ、ここで、PPCポリマーのポリエステル単位は、イソフタル二酸およびテレフタル二酸(またはこれらの誘導体)の組合せとビスフェノールAとの反応から誘導される。1つの特定の実施態様では、ポリ(フタレート−カーボネート)ポリマーは、前述したとおりの式(9)のポリ(イソフタレート−テレフタレート−ビスフェノールA)−co−(ビスフェニールAカーボネート)であってよい。
【0117】
1つの実施態様では、中間層は、視覚的効果を賦与するための添加剤を含んでいてもよい。とりわけ、視覚的効果を賦与する用途のために好適な添加剤は、本明細書において上述した添加剤であり、例えば、着色剤および/または充填剤が含まれ得、この充填剤には、光反射性および/または屈折性の充填剤が含まれ得る。
【0118】
別の実施態様では、多層化フィルムにおいて中間層を使用することが望ましくない場合、例えば、多層フィルムが、結合層に接触している表面層を含み、基材がこの表面層の反対側の結合層の面に接触している場合などに、結合層は視覚的効果のために添加剤をさらに含むことができる。
【0119】
他の実施態様において、上層は、例えば、図3の301に示すように、3つ以上の層を含む。図3は、表面層310、第1の結合層320、中間層330、および第2の結合層340を有する多層フィルム301を含む物品300を示す。基材350は、第2の結合層340の面上に含まれる。1つの実施態様では、中間層330は、添加剤、例えば、視覚的効果を与えるための着色剤および/または充填剤を含む。別の実施態様では、第1の結合層320、中間層330、および第2の結合層340の1つまたは複数に、添加剤を含ませることができる。
【0120】
したがって、1つの実施態様では、上層には、結合層上に配設された表面層を含む。1つのさらなる実施態様では、中間層は、表面層と結合層との間に配設される。別のさらなる実施態様では、追加の結合層が、表面層と第2の結合層との間に配設され、ここで、第2の結合層は、ポリカーボネート、耐衝撃性改良剤、芳香族ビニルコポリマー、ならびにポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーおよび/またはポリエステルカーボネートを含み、中間層は、第1の結合層上に配設される。別の実施態様では、第2の結合層は、第1の結合層と表面層との間に配設することができる。
【0121】
多層フィルムにおいて視覚的効果を与えるための添加剤は、組合せの数のいずれ1つにおいて存在し得、ここで、例えば、着色剤が、充填剤と異なる層に存在することができ、または、着色剤および/または充填剤の異なる組合せが、異なる層に存在することができることが本明細書において企図される。本明細書において開示した多層フィルムは、開示した範囲内で、さまざまで有用な視覚的効果の組合せを与える添加剤および層のさまざまな組合せで使用しうること、および、本明細書に開示した多層フィルムは、添加剤と層との特定の組合せおよび/または数、ならびに上述した例示的な実施態様において開示したその組成物に限定されないことが、当業者によって理解される。したがって、本明細書において開示した多層フィルムは、開示したものに限定されると考えられるべきではない。
【0122】
一部の実施態様では、多層フィルムの結合層は、1から100ミル(25から2,540マイクロメータ)、特に2から75ミル(50から1,905マイクロメータ)、より特に3から60ミル(76から1,524マイクロメータ)、なおより特に5から50ミル(125から1,270マイクロメータ)の厚さを有しうる。表面層は、1から50ミル(25から1,270マイクロメータ)、特に2から40ミル(50から1,016ミクロン)、より特に3から30ミル(76から762マイクロメータ)、なおより特に5から20ミル(125から508ミクロン)の厚さを有しうる。中間層は、1から100ミル(25から2,540マイクロメータ)、特に5から75ミル(125から1,905ミクロン)、より特に8から60ミル(203から1,524マイクロメータ)、なおより特に10から50ミル(254から1,270ミクロン)の厚さを有しうる。多層フィルムは、3から500ミル(76から12,700マイクロメータ)、特に4から250ミル(102から6,350マイクロメータ)、より特に5から200ミル(125から5,080マイクロメータ)、なおより特に10から100ミル(254から2,540マイクロメータ)の合計厚さを有しうる。その他の実施態様では、厚さは、最終用途および適用方法次第で大幅に厚くても薄くてもよい。
【0123】
結合層、表面層および/または中間層、ならびに下層の基材の熱膨張係数(CTE)間の不整合は、非常に高い熱応力を生じさせ、最終的な多層フィルム物品において層間剥離を引き起こすことがある。本発明のさまざまな実施態様では、さまざまな熱膨張係数(CTE)を有する表面層および基材層、例えば、低いCTEの基材上の高いCTEの表面層を含む多層物品と共に適用するために、接着層を配合することができる。
【0124】
1つの実施態様では、層が結合層、表面層、中間層および基材を含む場合に、最も高いCTEを有する層と最も低いCTEを有する層との間の熱膨張係数(CTE)の差は、1℃当たり15ppm(ppm/℃)以下、特に10ppm/℃以下、より特に5ppm/℃以下、なおさらに特に2ppm/℃以下、の量でさまざまであってよい。
【0125】
多層フィルムは、当業者に知られた方法、例えば、押出法などを用いて製造することができる。特に、多層フィルムは、個々のフィルムとして押し出し、互いに接触させて多層フィルムを形成することができる。適用のための好適な方法には、コーティング層の分離したシートを製造した後、第2の層に適用する方法、および双方の層を同時に製造する方法が含まれる。あるいは、多層フィルムは、さらなる層と一緒に共押出する方法によって製造することができ、ここで、第1の層の第2の層への適用は溶融状態で行われる。このように、以下の例示的方法:成形、圧縮成形、熱成形、共射出成形、共押出、押出コーティング、溶融コーティング、オーバーモールディング、マルチショット射出成形、シート成形、および、第2の層の表面上にコーティング層材料のフィルムを配置した後にこの2つの層を(典型的には射出成形装置で、例えば、イン−モールド加飾成形法で)接着させる方法を用いることができる。
【0126】
多層フィルムは一般に、押し出し後、ロールミル法またはロールスタック法でシートを積層させることによって製造することができる。多層フィルムの個々の層の押し出しは、単軸押出機または2軸押出機において行うことができる。単軸押出機において層を押し出し、ロールミルで該層を積層させることが有益である。単軸押出機または2軸押出機で層を共押出し、場合によりロールミルで層を積層させることがさらに有益である。ロールミルは、選択により、2ロールまたは3ロールのいずれであってもよい。単軸押出機による層の共押出しが、一般に、多層フィルムの製造のために望ましい。
【0127】
1つの実施態様では、結合層および表面層の押出し工程で、添加剤(例えば、着色剤および/または充填剤)を、押出機に、ポリマーと一緒にその供給口に添加してもよい。別の実施態様では、結合層および表面層の共押出しで、添加剤をマスターバッチの形態で押出機に添加してもよい。ポリマーを押出機の口に供給する一方、マスターバッチを押出機の供給口または供給口の下流のいずれかに供給することもできる。1つの実施態様では、結合層の製造において、添加剤を供給口の下流にマスターバッチの形態で添加しながら、ポリマー(例えば、ポリカーボネート、耐衝撃性改良剤など)を単軸押出機の供給口に供給する。別の実施態様では、表面層の製造において、ポリマー(例えば、熱可塑性ポリマー)を単軸押出機の供給口に供給する。1つの特定の実施態様において、中間層も共押出しする場合において、添加剤をマスターバッチの形態で押出機に添加することができる。
【0128】
1つの実施態様では、結合層および表面層として選択した組成物を、共押出し前に個別に予備混合することができる。この場合において、予備混合した材料は、最初に、二軸押出機、単軸押出機、バスニーダー(buss kneader)、ロールミルなどで溶融ブレンドした後、さらなる共押出しのために、ペレット、シートなどの好適な形状にすることができる。次いで、予備混合した結合層および表面層の組成物、および選択した場合には中間層組成物を、共押出しのために各押出機の中に供給することができる。
【0129】
上述したように、最上層および結合層ならびに含まれる場合には中間層を、共押出しすることが望ましい。1つの実施態様では、多層フィルムの共押出しの1つの方法では、さまざまな押出機からの溶融流(押出物)は、フィードブロックダイに供給され、ここで、さまざまな溶融流が混合された後、ダイに入る。別の実施態様では、さまざまな押出機からの溶融流(押出物)は、多重マニホルド内部連結ダイに供給される。異なる溶融流が、ダイに別々に入り、最終ダイオリフィス内に入った所で一緒になる。さらに別の実施態様では、さまざまな押出機からの溶融流は、多重マニホルド外部連結ダイの中に供給される。この外部連結ダイは、異なる溶融流のために完全に分離したマニホルドと、ダイから離れるこれらの溶融流を別々に通し、ダイ出口を出てすぐ一緒にさせる独特のオリフィスとを有する。これらの層は、まだ溶融した状態で、ダイのすぐ下流で、組み合わされる。多層フィルムの製造において使用するダイは、フィードブロックダイである。1つの実施態様では、最上層および結合層、および含まれる場合は、中間層の共押出しのために使用する押出機は、それぞれ単軸押出機であることができる。
【0130】
基材は、多層フィルムの結合層と、積層(ラミネーション)、カレンダー加工、ローリング、あるいは、熱および/または圧力を用いて中間層を基材に結合させる方法によって接触させることができる。接着剤を、結合層を基材に結合させるために使用することもできる。基材を、結合層を含む多層フィルムと共押出して、多層構造を形成させることもできる。あるいは、基材を、結合層を含む多層フィルムに成形することもできる。基材の成形は、結合層の形成前に行っても結合層の形成後に行ってもよい。
【0131】
多層フィルムは、公知の方法を用いて基材と接触させることができる。例えば、圧縮成形におけるように熱および圧力を使用して、または真空成形もしくはハイドロフォーミングなどの他の成形技術を使用して、多層フィルムを基材層に接触させることができる。接着剤層を場合によって使用することができ、ここでは、接着剤層を、結合層の露出された面を有する多層フィルムの面に適用し、この接着剤層を基材に接触させることができる。あるいは、接着剤層を、基材層に適用することができ、結合層の露出された面を有する多層フィルムを、これに接触させることができる。既にフィルム形態にある接着剤については、この接着剤層を、多層フィルム中の結合層に隣接して形成させることが、その多層フィルムを形成させるプロセス(例えば、共押出など)の後または途中ででき、例えば熱および圧力を用いる加工を用いてこの多層フィルムを基材に接触させることによって、多層フィルムの一体部分を直接形成させることができる。接着剤層は熱および圧力なしに適用することができ(コールドプロセスと呼ばれる)、このことは、本発明の結合層組成物に加えて接着剤を使用することの利点である。
【0132】
あるいは、結合層、表面層、および場合により中間層を、共押出しして多層フィルムを形成させることができ、ここで、多層フィルムの露出された面は、結合層であることができる。多層フィルムと事前に形成された基材との組立ては、ラミネーションなどの既知の方法を用いて行うことができる。多層フィルム−基材アセンブリを、場合によって、成形前の物品の大よその形状に熱成形することができ、このアセンブリを成形することによって物品を形成させる。あるいは、基材を、多層フィルムの表面上に成形して、シートとしての多層フィルム−基材アセンブリを形成させることができる。このアセンブリは、切断し、形作り、区分化し、あるいは物品の大よその形状に事前に形成し、所望の形状に熱成形(thermoformed)および/または成形(molded)することができる。
【0133】
別の実施態様では、物品は以下を含む:(i)ポリカーボネート、耐衝撃性改良剤、芳香族ビニルコポリマー、およびビニルコポリマー、ならびに場合によりポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーおよび/またはポリエステルカーボネートを含む第1の結合層;(ii)結合層の面に配設された耐候性組成物を含む表面層;(iii)場合により、中間層および/または第1の結合層の表面層とは反対側の面に配設された第2の結合層、ここで、双方を使用する場合、第2の結合層は、中間層の第1の結合層とは反対側の面に配設することができる;および、(iv)基材層、ここで、この基材層は、第1の結合層、または場合によって使用された第2の結合層と、連続的な接触状態にある。結合層、表面層、場合によって中間層および/または第2の結合層を組み合わせて、多層フィルムを形成させる工程、この多層フィルムを1つの形状に熱成形および/または成形する工程、ならびに、基材を、多層フィルムの露出した結合層を有する面に基材を成形する工程を含む方法によって、物品を製造することができる。1つの実施態様では、物品に、硬化および/またはアニーリングのための熱処理を施すことができる。いくつかの実施態様では、2つの結合層の間または結合層と別の層との間に配設されたリサイクル層が存在する。このリサイクル層は、物品に追加的な構造をもたらすために用いることができる。2つの結合層間または結合層と別の層との間のリサイクル層を用いて使われなくなった材料を経済的に使用することができるが、このことは、その物品の最終特性に悪影響を与えない。
【0134】
特に、結合層、表面層、ならびに必要に応じて任意の中間層および/または第2の結合層を含む構造体を、溶融状態で基材層に適用させることが望ましい。これは、例えば、1つの実施態様では、結合層、表面層、ならびに必要に応じて任意の中間層および/または第2の結合層を含む構造体を射出成形型に装填する工程、その背後に基材を射出成形する工程によって達成することができる。この方法によって、イン−モールド加飾成形などが可能である。1つの実施態様では、基材層の双方の面に多層フィルムを設けることができる一方、別の実施態様では、多層フィルムを、基材の片面のみに適用することができる。
【0135】
1つの実施態様では、特に有用な成形方法は、長繊維射出成形(LFI)であり、ここで、基材材料および強化繊維(例えば、10から100ミリメートルの長さに切断されたガラスロービングなど)を、成形中の型内で同時に混合する。1つの特定の実施態様では、基材は長繊維射出成形ポリウレタン(LFI−PU)を含む。別の実施態様では、特に有用な方法は、反応射出成形(RIM)である。この方法では、それぞれ熱硬化性樹脂(例えば、ジイソシアネートおよびジオールなど)を含む少なくとも2つの成分であって反応後ポリウレタンを生成する成分を、型に注入する直前に混合する。これらの成分は、型に入ると反応する。1つの特定の実施態様でが、基材は、反応射出成形されたポリウレタン(RIM−PU)である。
【0136】
別の実施態様では、組成物を、(有利には、液体状態または溶融状態で)、型に注ぐ方法、あるいは、成形型内で外表面のためのフィルムを使用して、低温のポリマー組成物を回転成形型内のフィルムに対して成形する回転成形法を用いることができる。別の実施態様では、組成物は粉末の形態であり、この粉末を、加熱した金属表面上で加熱して層(外側の視認可能な表面であってよい層)を形成させる。その後、この層の後ろに、フォーム層を射出成形することができる。
【0137】
上述した多層フィルム、および基材に適用されて物品を形成した多層フィルムは、多層フィルムを、熱成形法(例えば、絵付成形(in-mold decorating)および厚シート成形など)によって基材と接触させることができるペイント置換層に特に有用である。
【0138】
本発明のさまざまな層成分を含む多層物品は、典型的に、基材層の通常の有利な特性に加えて、耐候性、例えば、初期光沢向上、初期色あい向上、紫外線に対する抵抗性および光沢の維持向上、衝撃強度の向上、ならびにその最終用途において遭遇する有機溶剤に対する抵抗性などによって明らかになり得る耐光性を特徴とする。いくつかの用途、例えば、自動車用とでは、「クラスA」の表面が有用であり、低い表面荒さ(これが結果的に表塩の視覚的外観に作用する)を有する結合層に基材を積層することによって得ることができる。コーティング層/基材の組合せなどの要因次第で、物品はリサイクル性能を有することができ、本発明の物品のさらなる生産のための基材として粉砕再生材料を使用することを可能とする。物品は、層間のCTE不一致から生じる低い内部熱応力を示すことが多い。物品は、例えば、熱安定性および加水分解安定性などの優れた環境的安定性を有し得る。っs
【0139】
本発明のさまざまな層成分を含む製造可能な物品には、以下のものが含まれる:航空機、自動車、トラック、軍用車(自動車、航空機、および水上乗物を含む)、スクーター、およびオートバイの外装および内装部品(パネル、クォーターパネル、ロッカーパネル、垂直パネル、水平パネル、セキュリティパネル、トリム、フェンダー、ドア、デッキリッド、トランクリッド、フード、ボンネット、ルーフ、バンパー、フェーシア、グリル、ミラーハウジング、ピラーアップリケ、クラッディング、車体のサイドモール、ホイールカバー、ハブキャップ、ドアハンドル、スポイラー、窓枠、前照灯ベゼル、前照灯、尾灯、尾灯ハウジング、尾灯ベゼル、ナンバープレートの囲い、ルーフラック、およびステップを含む);屋外乗物および装置用の囲い、ハウジング、パネルおよび部品;電気装置および電気通信装置用の囲い;屋外用家具;航空機の部材;ボートおよび海洋備品(トリム、囲い、およびハウジングを含む);船外機ハウジング;測深器ハウジング、水上バイク;ジェットスキー;プール;温泉;温水浴槽;階段;階段覆い;建物および建設用途(窓ガラス、ルーフ、窓、床、装飾窓備品または処理材など);絵画、塗装、ポスター、および同様のディスプレー品用処理ガラスカバー;光学レンズ;眼科用レンズ;矯正レンズ;眼内レンズ;壁パネル、およびドア;カウンター甲板;保護グラフィックス;屋外および屋内看板;自動金銭出納機用(ATM)の囲い、ハウジング、パネル、および部品;芝生および園芸用トラクター、芝刈り機、用具(芝生および園芸用具を含む)の囲い、ハウジング、パネル、および部品;窓およびドアトリム;スポーツ備品および玩具;スノーモービル用の囲い、ハウジング、パネル、および部品;RV車パネルおよび部品;運動場備品;靴ひも;プラスチック−木材組合せから作られた物品;ゴルフコースマーカー;ユーティリティピットカバー;コンピュータハウジング;デスクトップコンピュータハウジング;ポータブルコンピュータハウジング;ラップトップコンピュータハウジング;パームヘルド(palm−held)コンピュータハウジング;モニターハウジング;プリンターハウジング;キーボード;FAX機ハウジング;複写機ハウジング;電話機ハウジング;受話器ベゼル;携帯電話ハウジング;ラジオ送信機ハウジング;ラジオ受信機ハウジング;照明器具;照明装置;ネットワークインターフェイス装置ハウジング;変圧器ハウジング;空調機ハウジング;公共輸送用被覆または座席;電車、地下鉄、またはバス用の被覆または座席;計測器ハウジング;アンテナハウジング;サテライトディッシュ用被覆;被覆ヘルメットおよび人体保護具;被覆合成繊維織物または天然繊維織物;被覆写真用フィルムおよび写真用プリント;被覆塗装物品;被覆染色物品;被覆蛍光物品;被覆物品;および同様の用途。本発明は、物品上のさらなる製作作業、例えば、これらだけに限定されないが、成型、イン−モールド加飾成形、塗装オーブン内の焼付け、ラミネーション、および/または熱成形などを企図する。
【0140】
驚くべきことに、ポリカーボネート、耐衝撃性改良剤、および芳香族ビニルコポリマー、ならびにポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーおよび/またはポリエステルカーボネートのブレンドを含む結合層組成物から製造された結合層が、優れた熱特性および機械特性を有すると共に、この結合層を含む多層フィルムにおいて上層(例えば、中間層および/または表面層)への良好な接着性を有することが見出された。さらに、改良された、熱特性、機械特性、および結合層組成物から製造された結合層と基材との間の接着性が得られた。とりわけ、結合層の基材への接着性が、基材がポリカーボネート、LFI−PU、またはRIM−PUを含むいくつかの実施態様において改良された。
【0141】
ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、耐衝撃性改良剤、および芳香族ビニルコポリマー、ならびにポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーおよび/またはポリエステルカーボネートのブレンドを含む結合層組成物を含む多層フィルムと、基材との接着性は、商業的に入手可能な耐衝撃性ポリカーボネート材料の接着性と同等であり得る一方、他のより優れた物理的特性、例えば、熱安定性および優れた耐衝撃性を有する。
【0142】
上記特性を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【0143】
試料を、以下の方法を用いて製作した。全ての熱可塑性組成物を、30mmのWerner & Pfleiderer(登録商標)二軸押出機(9バレル、バレル7に真空口が設けられている)で、通常の溶融温度525°F(273℃)、25インチ(63.5cm)の真空、500rpmでコンパウンドした。「通常」成形は、35秒のサイクル時間で実施し、「厳しい(abusive)」成形は、6分のサイクル時間で実施した。二軸押出機は、ポリマー成分間の良好な混合をもたらすために十分な分配および分散混合要素を有していた。その後、組成物は、単独のマニフォールドダイおよびフィードブロックを備えた一軸押出機(以下にさらに記述する)を用いて、480°F(248℃)で押し出されて、多層フィルムを形成する。当業者であれば、この方法がこれらの時間および温度に限定されないことを理解するであろう。特定の構成が異なる最適の組合せを有するであろうからである。
【0144】
実施例の製造に用いた成分を表1に示す。これらの成分を、指定した配合および表2に示した割合に従った比較配合で混合した。さまざまな試験の結果を表3〜5に示す。試料は、ASTM標準に準拠して、あるいは以下に記述する他の特別な試験方法で、試験した。
【0145】
ノッチ付きアイゾット衝撃強度(NII)は、ASTM D256に準拠して、3.2mm(8分の1インチ)のバーで測定した。アイゾット衝撃強度ASTM D256を用いてプラスチック材料の耐衝撃性を比較した。結果は、ノッチ部分の試片で割れた試験片を破壊するために用いられた衝撃エネルギー(フート・ポンドを単位とする)として定義される。結果を、フート・ポンド/インチ(ft.lbf/in)の単位で示す。
【0146】
メルトボリュームレイト(MVR)を、ASTM D1238に準拠して、260℃にて5kgの荷重を用いて10分間かけて測定した。予熱時間は、表に示したとおり、6分または18分のいずれかを用いた。
【0147】
溶融安定性は、6分の予熱から18分の予熱に変えた場合のメルトボリュームレイトの変化パーセントを尺度とする。
【0148】
剥離強度は、以下の方法に従って測定した。複合フィルムの試料を1インチ幅細片に切り出し、Instron.製のInstron(登録商標)Peel Strength Testerを使用して、1分当たり10インチ(25.4cm)のクロスヘッド開離速度で90°剥離試験を用いて接着結合の剥離抵抗について試験した。使用した方法は以下のとおりである。試料を生産ラインから取った後、まず、10分間冷却する。細片スクライブ装置を用いて、7インチ(18cm)長の試料を機械方向に沿って、1インチ(2.5cm)幅に切断する。各細片をおよそ1インチ(2.5cm)剥離して戻し、剥離部分を二つ折にし、畳んだ部分を機器にクランプで固定する。この材料を90°の角度で、1分あたり10インチ(25.4cm)の速度で引き剥がす。各試料の異なる位置で3回測定する。平均剥離接着力を直線状の1インチ(2.54cm)の細片幅当たりのポンド単位の力(lb.)で記録する。次いで、剥離強度(P)を以下のとおりに計算した:P=[剥離負荷(ポンド)]/[試料幅(インチ)]。
【0149】
【表1】

【0150】
実施例X−1〜X−8およびXC−1(対照)を、表1の材料を用いて調製した。これらの試料の結果を用いて、一般化すべき新たな次の試料データを判断した。これらの試料は、異なるタイプの耐衝撃性改良剤(HRG,BABS、PC−ST、およびMBS)を用い、PCおよびSANと組み合わせて調製した。これらの試料の組成および結果を表2に示す。1つの対照サンプルXC−1を用いた。XC−1は、商業的に入手可能な代表的な耐衝撃性改良剤である。
【0151】
【表2】

【0152】
表2は、HRG(エマルジョンABS、試料X−3、X−4、およびXC−1)を有する試料は、はるかに安定性が低く、BABS(バルクABS)またはMBSを含有する材料より高いノッチ付きアイゾットΔを有することを明らかに示している。
【0153】
さらなる試料は、BABS単独、またはBABSおよびPC−STを耐衝撃性改良剤として、PCおよびSANと共に用いて、調製した。これらの組成を表3に示し、その結果を表4に示す。2つの対照サンプルXC−1(表2中のものと同一)およびXC−2(表2のXC−1と同じ配合を有し、良好な接着性を有するが溶融安定性に乏しいもの)も試験した。
【0154】
【表3】

【0155】
【表4】

【0156】
表4は、PC−ST、およびBABS(X−16およびXC−17)を含む耐衝撃性改良剤組成物を有するこれらの実施例が、最も良好であり最も一貫して高い接着性値を有し、HRGと耐衝撃性改良剤とを有する2種の対照試料に匹敵することを明らかに示している。接着性の結果には高い程度のばらつきがあるが、接着性を改良する可能性を示唆する他のパラメータのうち何らかの重大な影響を受けたパラメータは全くない。
【0157】
さらなる試料を、PC、PEC、BABS、およびSAN−2を用い、PC−STを用いないで調製した。これらの組成を、表5に示し、その結果を表6に示す。
【0158】
【表5】

【0159】
【表6】

【0160】
表6は、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、BABS、およびSANの特定の組合せにより、優れた特性、特に特定の用途に有益な特性を有する組成物がもたらされることを明らかに示している。これらの用途のために、優れた溶融安定性(6分と18分との間の粘度変化%が、ゼロに近いかまたは可能な限り変化しない)、および優れた低温衝撃強さ(高い方が良好である)を有することが有益である。30〜50質量%のポリカーボネート、15〜35質量%のポリエステルカーボネート、25〜35質量%のBABS、および、場合により0〜10質量%のSANを有する組成物により、表6の結果によって示されるとおり、最良または最適な結果がもたらされた(例えば、B−1、B−6、およびB−11を参照)。
【0161】
統計的なソフトウエアを用いて、相関関係および「最適」組成を決定した。選択において用いた基準は以下のとおりである:MVRを共押出における加工の改良のために最小化し;溶融安定性を、ゼロを目標として、+10%〜−10%の絶対的に制限し(溶融安定性は+10%〜−10%でなければならない)、この基準に適合しない材料を選択した用途において許容しないこととし;−20℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度が25kJ/mより大きいものを標的とし、−20℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度が20kJ/mより大きく、特に25kJ/mより大きいことを最低限の要件とし、この基準に適合しない材料を選択した用途において許容しないこととし;−40℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度が10kJ/mより大きいものを標的とし、−40℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度が9kJ/mより大きく、特に10kJ/mより大きいことを最低限の要件とし、この基準に適合しない材料を選択した用途において許容しないこととした。
【0162】
MVRを、重み1(線形応答)および重要度5で最適化した。溶融安定性を、重み1(線形応答)および重要度5で最適化した。−20℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度を、25kJ/m〜観測された最も高い値である53.64kJ/mの範囲に限定した。−40℃でのノッチ付きアイゾット衝撃強度を、10kJ/m〜観測された最も高い値である20.01kJ/mの範囲に限定した。MVRおよび溶融安定性に、同じ重みおよび重要度を与えたため、最適化の基準の差に起因する影響はなかった。最適値は、0.1より大きい重要度の値で得られる。
【0163】
分析の結果は以下のとおりである:
方程式1:MVR(6分、250℃、5kg)=+0.038154*PC−0.056958*PEC+0.17768*BABS+0.16343*SAN−2
R二乗値(R-Squared)=0.9808
方程式2:溶融安定性(6〜18)%=−0.068107*PC−0.26633*PEC+0.46231*BABS+0.47796*SAN−2
R二乗値=0.9217
方程式3:Ln(−20℃でのアイゾット衝撃強度)=+0.044707*PC+0.012098*PEC+0.039791*BABS−1.91842E−003*SAN−2
R二乗値=0.9370
方程式4:1/(−40℃でのアイゾット衝撃強度)=−2.18367E−003*PC+1.65722E−004*PEC+4.67902E−003*BABS+8.16127E−003*SAN−2
R二乗値=0.9559
【0164】
分析により示されるとおり、R二乗値は、いずれも非常に高く(0.92より高い)、データとの非常に良好な相関関係が示されている。この情報および得られたグラフから、4つの成分(PC、PEC、BABS、およびSAN−2)の望ましい量を算出することができる。これらの方程式を用いて、成分の最適な範囲を算出すると、以下のとおりである:
左上の境界:BABS+0.8929*SAN−2=28.6%
右上の境界:BABS+1.0035*SAN−2=34.27%
上限:PC=48.73%
下限:BABS+1.124*PC+0.3040*PEC−0.04987*SAN−2=80.89%
【0165】
本発明を、好ましい実施例を参照しながら記述したが、本発明の範囲から逸脱することなく、さまざまな変更がなされ、その要素に対して同等の物で置換することができることが当業者によって理解されるであろう。さらに、その本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正がなされうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、耐衝撃性改良剤、および芳香族ビニルコポリマーの総質量に基づいて、
30〜50質量%のポリカーボネート;
15〜35質量%のポリエステルカーボネート;
25〜35質量%の耐衝撃性改良剤;および
0〜10質量%の芳香族ビニルコポリマー
を含む熱可塑性組成物であって、
ASTM D256に準拠して測定して、−20℃でのノッチ付アイゾッド衝撃強さが20kJ/mより高く、−40℃でのノッチ付アイゾッド衝撃強さが9kJ/mより高い、熱可塑性組成物。
【請求項2】
ASTM D1238に準拠して、260℃にて5kg荷重を使用して10分間かけて測定した場合の予熱6分から予熱18分までのメルトボリュームレイトの変化%として測定して、−10%〜+10%の溶融安定性を有する、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
ASTM D256に準拠して測定して、−20℃でのノッチ付アイゾッド衝撃強さが25kJ/mより高く、−40℃でのノッチ付アイゾッド衝撃強さが10kJ/mより高い、請求項1または2に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
20質量%以下のポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーをさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記芳香族ビニルコポリマーが、SANを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
前記SANが、公称26〜28質量%のアクリロニトリル含量を有する、請求項5に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物を含む物品。
【請求項8】
ポリカーボネート、ポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマー、耐衝撃性改良剤、および芳香族ビニルコポリマーの総質量に基づいて、
55〜65質量%のポリカーボネート;
10〜20質量%のポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマー;
10〜25質量%の耐衝撃性改良剤;および
10〜20質量%の芳香族ビニルコポリマー
を含む熱可塑性組成物であって、
ポリカーボネート−ポリシロキサンコポリマーを含まない比較組成物より剥離強度が高い、熱可塑性組成物。
【請求項9】
ポリエステルカーボネートをさらに含む、請求項8に記載の熱可塑性組成物。
【請求項10】
前記耐衝撃性改良剤が、Bulk ABSである、請求項8または9に記載の熱可塑性組成物。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物を含む物品。
【請求項12】
ポリマー基材と、
ポリカーボネートを含む上層;および
結合層
を含む多層フィルムと
を含む物品であって、
前記結合層が、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物を含み、
前記結合層が、基材と上層との間に積層されている、物品。
【請求項13】
ポリマー基材と、
ポリカーボネートを含む上層;および
結合層
を含む多層フィルムと
を含む物品であって、
前記結合層が、請求項8〜10のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物を含み、
前記結合層が、基材と上層との間に配設されている、物品。
【請求項14】
ポリカーボネートを含む上層と、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物を含む結合層と、
ポリマー基材と
を含む、多層フィルム。
【請求項15】
ポリカーボネートを含む上層と、
請求項8〜10のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物を含む結合層と、
ポリマー基材と
を含む、多層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−527725(P2011−527725A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517642(P2011−517642)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/050194
【国際公開番号】WO2010/006226
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(508171804)サビック・イノベーティブ・プラスチックス・アイピー・ベスローテン・フェンノートシャップ (86)
【Fターム(参考)】