説明

結晶化ガラスの製造方法および結晶化ガラス

【課題】フッ酸等の薬液を使用しなくても、結晶化ガラスの表面に微細な窪みや突起等を形成することができ、且つ使用環境の温度差が大きくても、熱衝撃により破損し難い結晶化ガラスの製造方法を創案すること。
【解決手段】本発明の結晶化ガラスの製造方法は、結晶性ガラスの一部に、X線、電子線、レーザーのいずれかを照射した後、結晶性ガラスを結晶化させて結晶化ガラスを作製することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラスの製造方法に関し、具体的には結晶性ガラスの一部に高エネルギー線を照射した後、結晶性ガラスを結晶化させて、結晶化ガラスの表面に微細な窪みや突起等を形成する方法に関する。また、本発明は、結晶化ガラスに関し、具体的には微細な窪みや突起等が形成された結晶化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器、光通信関連機器等は、省スペース化、軽量化、省資源化、高性能化等を目的として、部品の小型化、精密化が進んでいる。また、これらの部品として、結晶化ガラス(または結晶性ガラス)で構成されるマイクロレンズ、反射鏡、プリズム等が用いられている。
【0003】
これらの部品に結晶化ガラス(または結晶性ガラス)を用いるためには、結晶化ガラスの表面に微細加工を施す必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、結晶化ガラスにレーザーを照射することにより、結晶化ガラスに析出した結晶を融解させて、結晶の融解により生じる体積変化を利用して、マイクロレンズを作製する方法が記載されている。
【0005】
また、非特許文献1には、結晶性ガラスに紫外線を照射し、紫外線を照射した部分にLiSiO結晶を析出させた後、フッ酸でエッチングし、結晶性ガラスとLiSiO結晶のエッチングレートの差を利用して、レンズ形状に加工する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−062832号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ニューガラス大学院基礎課程テキスト」、社団法人ニューガラスフォーラム、2006年10月、p.4−11、4−12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の方法は、レンズ部と基質部の熱膨張係数の差が大きいため、使用環境の温度差が大きい場合、マイクロレンズが熱衝撃によって破損するおそれがある。
【0009】
また、非特許文献1に記載の方法は、環境や人体に対する影響が大きいフッ酸を用いるため、廃液の処理、薬液の管理等の問題が生じることに加えて、エッチング表面が粗くなるため、精密機器等に搭載できない場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、フッ酸等の薬液を使用しなくても、結晶化ガラスの表面に微細な窪みや突起等を形成することができ、且つ使用環境の温度差が大きくても、熱衝撃により破損し難い結晶化ガラスの製造方法を創案することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記技術的課題を解決すべく鋭意検討した結果、X線、電子線、レーザー等の高エネルギー線を結晶性ガラス(原ガラス)の所定部分に照射した後、この結晶性ガラスを熱処理により結晶化させると、照射部分の結晶化速度が非照射部分の結晶化速度より速くなって、結晶化の過程において照射部分と非照射部分で体積変化が生じ、その体積変化によって照射部分に凹部(窪み等)または凸部(突起等)が形成されることを見出すとともに、熱処理により照射部分と非照射部分に同種の結晶が析出することを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、結晶性ガラスの一部に、X線、電子線、レーザーのいずれかを照射した後、結晶性ガラスを結晶化させて結晶化ガラスを作製することを特徴とする。ここで、「結晶性ガラス」とは、熱処理により結晶が析出する性質を有するガラスを指す。
【0012】
結晶化の過程において、照射部分と非照射部分の体積変化によって照射部分に凹部または凸部が形成されるメカニズムは、詳細には検証されていないが、本発明者は、高エネルギー線を照射することにより、照射部分のガラス結合が部分的に切断されて、照射部分が非照射部分よりも構成元素が移動しやすくなり、結果として、照射部分の結晶化が進行しやすくなり、照射部分に凹部や凸部が形成されたものと推定している。なお、結晶化により体積が収縮する場合、つまり結晶性ガラスの密度が結晶化ガラスの密度より大きい場合に、照射部分に凹部を形成することができる。また、結晶化により体積が膨張する場合、つまり結晶性ガラスの密度が結晶化ガラスの密度より小さい場合に、照射部分に凸部を形成することができる。
【0013】
本発明の結晶化ガラスの製造方法によれば、結晶化終了後、照射部分と非照射部分に同種の結晶が析出し、且つその析出量の差が小さいため、照射部分と非照射部分の熱膨張係数の差がほとんど生じず、結果として、使用環境の温度差が大きくても、結晶化ガラスが熱衝撃によって破損する事態が生じ難い。また、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、複数の凹部または凸部を一括して形成できるため、結晶化ガラスの製造効率を高めることができる。
【0014】
本発明の結晶化ガラスの製造方法によれば、結晶化後に凹部または凸部のエッチングや研磨等が不要になるため、結晶化ガラスの表面状態を維持できるとともに、薬液の廃液処理、薬液の管理等の問題が生じないため、環境的負荷を軽減することができる。
【0015】
第二に、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、結晶性ガラスの一部にX線を照射することを特徴とする。
【0016】
第三に、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、X線をCuターゲットから発生させることを特徴とする。このようにすれば、Cuターゲットが入手しやすいことに起因して、結晶化ガラスの製造コストを低廉化することができる。
【0017】
第四に、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、X線をRhターゲットから発生させることを特徴とする。このようにすれば、高エネルギーのX線を発生させることが可能になるため、結晶化ガラスの製造効率を高めることができる。
【0018】
第五に、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、結晶性ガラスと結晶化ガラスの密度差が0.01g/cm以上になるように、結晶化ガラスを作製することを特徴とする。ここで、「密度」は、周知のアルキメデス法等で測定することができ、また結晶化ガラスの組成等から概算することもできる。
【0019】
第六に、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、結晶化ガラスに主結晶としてβ‐石英固溶体を析出させることを特徴とする。ここで、「主結晶」とは、最も析出量が多い結晶を指す。
【0020】
第七に、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、結晶化ガラスがLiO−Al−SiO系結晶化ガラスであることを特徴とする。ここで、「LiO−Al−SiO系」とは、LiO、Al、SiOを必須成分として含み、その合量が50質量%以上の場合を指す。
【0021】
第八に、本発明の結晶化ガラスは、表面に凹部または凸部を備え、且つそれらを包囲する基質部(凹部または凸部以外の表面領域)を備える結晶化ガラスにおいて、凹部または凸部が、X線、電子線、レーザーのいずれかの照射後に結晶化されてなることを特徴とする。ここで、「凹部」は、円形の窪み形状、溝形状等の種々の形状を含み、また「凸部」は、円形の突起形状、線状の隔壁形状等の種々の形状を含む。また、凹部または凸部の個数は一つでもよく、複数であってもよい。
【0022】
第九に、本発明の結晶化ガラスは、表面に凹部または凸部を備え、且つそれらを包囲する基質部を備える結晶化ガラスにおいて、凹部または凸部の熱膨張係数が、[基質部の熱膨張係数±20×10−7/℃]の範囲内であることを特徴とする。ここで、「熱膨張係数」は、ディラトメーター等で測定することができ、また析出結晶量、析出結晶種等から概算することもできる。
【0023】
第十に、本発明の結晶化ガラスは、表面に凹部または凸部を備え、且つそれらを包囲する基質部を備える結晶化ガラスにおいて、凹部または凸部に析出した主結晶が、基質部に析出した主結晶と同一であることを特徴とする。
【0024】
第十一に、本発明の結晶化ガラスは、結晶化ガラスがLiO−Al−SiO系結晶化ガラスであることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例(試料No.1)と比較例(試料No.2)のXRD測定の結果を示すチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の結晶化ガラスの製造方法は、結晶性ガラスの一部に、X線、電子線、レーザー等の高エネルギー線を照射する。これらの高エネルギー線は、ガラス結合を部分的に切断できるため、照射部分の結晶化速度を速めることができる。
【0027】
本発明の結晶化ガラスの製造方法において、高エネルギー線を集光して、スキャンすることにより、パターニングすることができ、またフォトマスクを通して照射することもできる。
【0028】
X線は、取り扱いが容易な点で好適である。X線として、ターゲットにCu、Mo、Rh等を用いたものや、その一部をフィルタで除去したもの等が挙げられる。
【0029】
電子線は、焦点を小さく絞ることができるため、微細加工を行ないやすい性質を有する。
【0030】
レーザーは、エネルギー密度が高いため、短時間でガラス結合を切断することができる。レーザーとして、COレーザー、半導体レーザー、He−Neレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、赤外レーザー等が挙げられる。これらのレーザー等は、取り扱いが容易な点で好適である。
【0031】
ガラス結合の切断の度合いは、高エネルギー線のエネルギー密度や結晶性ガラスの吸収係数等により相違する。したがって、本発明の結晶化ガラスの製造方法において、高エネルギー線の照射に当たり、結晶性ガラスの材質や加工形状に応じて、高エネルギー線の照射強度や時間等を調整することが好ましい。
【0032】
本発明の結晶化ガラスの製造方法において、結晶化前に結晶性ガラスの表面を研磨し、結晶化後に結晶化ガラスの表面を研磨しないことが好ましい。このようにすれば、結晶化ガラスの表面精度を維持した上で、結晶化ガラスの製造効率を高めることができる。また、結晶性ガラスは、研磨効率の観点から、板状が好ましい。
【0033】
本発明の結晶化ガラスの製造方法において、結晶性ガラスの表面を火造り面とし、その状態を維持した上で、結晶性ガラスを結晶化し、結晶化ガラスを作製することが好ましく、結晶化後に結晶化ガラスの表面を研磨しないことがより好ましい。このようにすれば、結晶化ガラスの表面精度を維持した上で、結晶化ガラスの製造効率を高めることができる。なお、フロート法、オーバーフローダウンドロー法等で結晶性ガラスを成形すれば、火造り面の表面精度を高めることができる。
【0034】
本発明の結晶化ガラスの製造方法において、結晶性ガラスと結晶化ガラスの密度差が0.01g/cm以上、0.03g/cm以上、特に0.06g/cm以上になるように、結晶化ガラスを作製することが好ましい。このようにすれば、結晶化の過程において高エネルギー線の照射部分と非照射部分で体積変化が生じやすくなるため、その体積変化によって照射部分に凹部または凸部を形成しやすくなる。
【0035】
本発明の結晶化ガラスの製造方法において、結晶性ガラスの材質は特に限定されず、LiO、SiO、Al以外にも、種々の成分を含有することができる。例えば、溶融性を促進しつつ、熱膨張係数を調整する成分として、NaO、KO、MgO、ZnO、BaO等を、核形成剤としてTiO、ZrO等を、核形成を促進する成分としてP等を、清澄剤としてAs、Sb、SnO、Cl、SO等を添加することができる。
【0036】
本発明の結晶化ガラスの製造方法において、結晶化ガラスとして、LAS系結晶化ガラスを用いることが好ましい。LAS系結晶化ガラスは、結晶化の過程において、約10〜50nmの大きさのβ‐石英固溶体等が析出しやすいため、結晶化後に結晶化ガラスの表面を研磨しなくても、結晶化ガラスの表面品位を維持することができる。また、LAS系結晶化ガラスは、透明性を付与することが可能であるとともに、熱膨張係数が低く、且つ耐熱性が高いため、寸法安定性に優れる。
【0037】
本発明の結晶化ガラスの製造方法において、LAS系結晶化ガラスを用いる場合、結晶性ガラス(または結晶化ガラス)の組成として、質量%で、SiO 55〜75%、Al 15〜30%、LiO 2〜5%、NaO 0〜3%、KO 0〜3%、MgO 0〜5%、ZnO 0〜3%、BaO 0〜5%、TiO 0〜5%、ZrO 0〜4%、P 0〜5%、SnO 0〜2.5%を含有するように、結晶性ガラスのガラス原料を調合することが好ましい。上記組成範囲内の結晶化ガラスは、β−石英固溶体が析出しやすいため、熱膨張係数が低く、且つ耐熱性が高い。なお、明示の成分以外の成分であっても、特性を大きく損なわない限り、15%まで添加可能である。
【0038】
以下、上記のように組成範囲を限定した理由を説明する。
【0039】
SiOの含有量が55%より少ないと、熱膨張係数が高くなり過ぎる。一方、SiOの含有量が75%より多いと、溶融性が低下しやすくなる。SiOの好適な含有範囲は60〜75%である。
【0040】
Alの含有量が15%より少ないと、化学的耐久性が低下し、またガラスが失透しやすくなる。一方、Alの含有量が30%より多いと、ガラスの粘度が大きくなり過ぎて、溶融性が低下しやすくなる。Alの好適な含有範囲は17〜27%である。
【0041】
LiOの含有量が2%より少ないと、熱膨張係数が高くなり過ぎる。一方、LiOの含有量が5%より多いと、結晶物が白濁しやすくなり、またガラスが失透しやすくなる。LiOの好適な含有範囲は2〜4.8%である。
【0042】
NaOの含有量が3%より多いと、結晶物が白濁しやすくなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎる。NaOの好適な含有範囲は0〜1%である。
【0043】
Oの含有量が3%より多いと、結晶物が白濁しやすくなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎる。KOの好適な含有範囲は0〜1%である。
【0044】
MgOの含有量が5%より多いと、結晶物が白濁しやすくなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎる。また、ZnOの含有量が3%より多いと、結晶物が白濁しやすくなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎる。ZnOの好適な含有範囲は0〜1%である。さらに、BaOの含有量が5%より多いと、結晶物が白濁しやすくなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎる。BaOの好適な含有範囲は0〜1.5%である。
【0045】
TiOの含有量が5%より多いと、ガラスが失透しやすくなる。TiOの好適な含有範囲は1〜5%である。また、ZrOの含有量5%より多いと、ガラスが失透しやすくなる。ZrOの好適な含有範囲は0.5〜4%である。
【0046】
の含有量が5%より多いと、結晶物が白濁しやすくなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎる。Pの好適な含有範囲は0〜4%である。
【0047】
SnOの含有量が2.5%より多いと、色調が濃くなり過ぎたり、ガラス溶融が困難になったり、ガラスが失透しやすくなる。SnOの好適な含有範囲は0.1〜2%である。なお、SnOの含有量が0.1%より少ないと、清澄効果を享受し難くなる。
【0048】
なお、本発明の結晶化ガラスの製造方法において、LAS系結晶化ガラスとして、日本電気硝子社製ネオセラムN−0、GC−190、Schott社製ROBAX等が好適に使用可能である。
【0049】
本発明の結晶化ガラスの製造方法において、結晶化ガラスの平均熱膨張係数が−10〜10×10−7/℃になるように、結晶性ガラスのガラス原料を調合することが好ましい。平均熱膨張係数が範囲外になると、耐熱性、耐熱衝撃性を確保し難くなる。
【0050】
本発明の結晶化ガラスは、表面に凹部または凸部を備え、且つそれらを包囲する基質部を備える結晶化ガラスにおいて、凹部または凸部が、X線、電子線、レーザーのいずれかの照射後に結晶化されてなることを特徴とする。本発明の結晶化ガラスの技術的特徴(好適な特性、好適な組成、好適な構成等)は、本発明の結晶化ガラスの製造方法の説明の欄に記載した内容と重複するため、便宜上、その記載を省略する。
【0051】
本発明の結晶化ガラスは、表面に凹部または凸部を備え、且つそれらを包囲する基質部を備える結晶化ガラスにおいて、凹部または凸部の熱膨張係数が、[基質部の熱膨張係数±20×10−7/℃]、好ましくは[基質部の熱膨張係数±10×10−7/℃]、より好ましくは[基質部の熱膨張係数±5×10−7/℃]、更に好ましくは[基質部の熱膨張係数±2×10−7/℃]の範囲内であることを特徴とする。凹部または凸部の熱膨張係数が、[基質部の熱膨張係数±20×10−7/℃]の範囲外になると、使用環境の温度差が大きい場合、結晶化ガラスが熱衝撃によって破損しやすくなる。
【0052】
本発明の結晶化ガラスは、表面に凹部または凸部を備え、且つそれらを包囲する基質部を備える結晶化ガラスにおいて、凹部または凸部に析出した主結晶が、基質部に析出した主結晶と同一であることを特徴とする。このようにすれば、凹部または凸部の熱膨張係数や表面状態が、基質部の熱膨張係数や表面状態に整合しやすくなるため、結晶化ガラスの信頼性を高めることができる。
【0053】
本発明の結晶化ガラスにおいて、凹部は、基質部よりも0.05〜2mm、特に0.1〜0.5mm窪んでいることが好ましい。また、本発明の結晶化ガラスにおいて、凸部は、基質部よりも0.05〜2mm、特に0.1〜0.5mm突出していることが好ましい。このようにすれば、凹部または凸部が微細構造になるため、マイクロレンズ等の精密部品に適用しやすくなる。
【0054】
本発明の結晶化ガラスにおいて、凹部または凸部の表面粗さ(Ra)は0.2μm以下、0.1μm以下、特に0.05μm以下が好ましい。このようにすれば、凹部または凸部に反射膜等を均一に成膜しやすくなる。ここで、「表面粗さ(Ra)」は、JIS B601:2001に準拠した方法で測定した値を指す。
【0055】
本発明の結晶化ガラスは、微細構造の凹部または凸部に反射膜等を形成し、凹面鏡または凸面鏡に用いることができ、またマイクロレンズ(マイクロレンズアレイ)に用いることもできる。
【実施例1】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。但し、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0057】
板状の結晶化ガラス(LAS系結晶化ガラス、日本電気硝子株式会社製ネオセラムN−0)を30mm角に切り出し、白金ルツボを用いて、電気炉内でリメルトした。リメルト条件は、1600℃15時間とした。得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出した後、耐熱ローラーを用いて5mm厚となるように成形し、板状の結晶性ガラスを得た。この結晶性ガラスに対し、十分にアニール処理を行った。
【0058】
次に、結晶性ガラスを切断加工した後、両面を鏡面研磨して45mmφ×3mm厚の円板を作製した。続いて、円板の中央部分(直径35mm)にX線を40分間照射した。なお、電圧50KV、電流値50mAでRhターゲットにより発生したX線を用いた。
【0059】
最後に、780℃で1時間熱処理した後、850℃で1時間熱処理することにより、結晶性ガラスを結晶化させて、結晶化ガラスを作製した。得られた結晶化ガラスの表面を観察したところ、円盤の中央部分が窪んだ形状(直径35mmで0.2mm窪んだ形状)を確認することができた。
【0060】
東京精密株式会社製Surfcomを用いて、鏡面研磨後の結晶性ガラスの表面粗さ(Ra)と結晶化ガラスの表面粗さ(Ra)を測定した。表面粗さ(Ra)の測定に際し、走査距離を10mm、走査速度を0.3mm/分とした。その結果、鏡面研磨後の結晶性ガラスの表面粗さ(Ra)は0.01μmであり、結晶化ガラスの表面粗さ(Ra)も0.01μmであった。つまり、結晶化前後で表面粗さ(Ra)は、ほとんど変化していなかった。なお、表面粗さ(Ra)は、JIS B601:2001に準拠した方法で測定した値である。
【実施例2】
【0061】
以下のようにして、本発明の実施例(試料No.1、5、7)および比較例(試料No.2〜4、6、8、9)を作製した。但し、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0062】
(試料No.1の作製)
板状の結晶化ガラス(LAS系結晶化ガラス、日本電気硝子株式会社製ネオセラムN−0)を30mm角に切り出し、白金ルツボを用いて、電気炉内でリメルトした。リメルト条件は、1600℃15時間とした。得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出した後、耐熱ローラーで5mm厚となるように成形し、板状の結晶性ガラスを得た。この結晶性ガラスに対し、十分にアニール処理を行った。
【0063】
次に、結晶性ガラスを切断加工した後、両面を鏡面研磨して15mm×15mm×1mm厚の板を作製した。続いて、XRD(リガク株式会社製 RINT3100)を用いて、この板にX線を照射した。なお、電圧50KV、電流値50mAでCuターゲットに電子を照射して発生したX線を用い、2θ=117〜113°の範囲を0.1°/分で照射した。
【0064】
最後に、780℃で1時間熱処理した後、850℃で1時間熱処理することにより、結晶性ガラスを結晶化させて、結晶化ガラス(試料No.1)を作製した。
【0065】
(試料No.2の作製)
X線を照射しなかった以外は、試料No.1と同様にして試料を作製した。
【0066】
(試料No.3の作製)
結晶化しなかった以外は、試料No.1と同様にして試料を作製した。
【0067】
(試料No.4の作製)
X線を照射せず、且つ結晶化しなかった以外は、試料No.1と同様にして試料を作製した。
【0068】
試料No.1〜4につき、東京精密株式会社製Surfcomを用いて、表面粗さ(Ra、Pt、Rd、Ry)を測定した。その結果を表1に示す。表面粗さ(Ra、Pt、Rd、Ry)の測定に際し、走査距離を10mm、走査速度を0.3mm/分とした。なお、表面粗さ(Ra、Pt、Rd、Ry)は、JIS B601:2001に準拠した方法で測定した値である。
【0069】
【表1】

【0070】
表1から明らかなように、試料No.1〜4は、表面粗さRa、Rq、Ryがほとんど同じであった。しかし、試料No.1のPt(最大断面高さに相当する)は、試料No.2〜4のPtよりも14倍以上大きかった。すなわち、試料No.1の表面には、試料No.2〜4よりも深さが14倍以上の凹部(窪み)が形成されていた。
【0071】
次に、試料No.1、2につき、XRDを行った。XRDに際し、40KV、40mAでCuターゲットに電子を照射して発生したX線を用い、2θ=10〜60°、スキャン速度1°/分の条件で測定した。その結果を図1に示す。
【0072】
図1から明らかなように、試料No.1と試料No.2は、結晶の析出量等がほぼ同等であるため、熱膨張係数もほぼ同等であると考えられる。
【0073】
(試料No.5の作製)
板状の結晶化ガラス(LAS系結晶化ガラス、日本電気硝子株式会社製ネオセラムGC−190)を30mm角に切り出し、白金ルツボを用いて、電気炉内でリメルトした。リメルト条件は、1600℃15時間とした。得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出した後、耐熱ローラーで5mm厚となるように成形し、板状の結晶性ガラスを得た。この結晶性ガラスに対し、十分にアニール処理を行った。次に、結晶性ガラスを切断加工した後、両面を鏡面研磨して15mm×15mm×1mm厚の板を作製した。作製した試料の表面に、EPMA(日本電子株式会社製JX−8900)を用いて加速電圧15KV、電流値5×10−8A、ビーム径1μm、スキャン速度10μm/秒の条件で直線状に2mmの長さで電子線を照射した。最後に、780℃1時間の条件で電子線照射後の試料を熱処理した後、更に850℃1時間の条件で熱処理することにより、結晶性ガラスを結晶化させて、結晶化ガラス(試料No.5)を作製した。
【0074】
(試料No.6の作製)
板状の結晶化ガラス(LAS系結晶化ガラス、日本電気硝子株式会社製ネオセラムN−0)を30mm角に切り出し、白金ルツボを用いて、電気炉内でリメルトした。リメルト条件は、1600℃15時間とした。得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出した後、耐熱ローラーで5mm厚となるように成形し、板状の結晶性ガラスを得た。この結晶性ガラスに対し、十分にアニール処理を行った。次に、結晶性ガラスを切断加工した後、両面を鏡面研磨して15mm×15mm×1mm厚の板を作製した。続いて、結晶性ガラスを780℃1時間の条件で熱処理した後、更に850℃1時間の条件で熱処理することにより、結晶性ガラスを結晶化させて、結晶化ガラスを作製した。最後に、この結晶化ガラスの表面に対して、試料No.5と同様の条件で電子線を照射した。
【0075】
(試料No.7の作製)
試料No.5の電子線の代わりに、COレーザーを用いた以外は試料No.5と同様にして試料No.7を作製した。なお、レーザーの照射条件は出力5W、スキャン速度0.1mm/秒であった。
【0076】
(試料No.8の作製)
試料No.6の電子線の代わりに、COレーザーを用いた以外は試料No.6と同様にして試料No.8を作製した。なお、レーザー照射条件はNo.7と同じである。
【0077】
試料No.5〜8の表面を観察したところ、試料No.5、7は、照射部分に線状の溝が形成されていたが、試料No.6、8は線状の溝が形成されていなかった。
【0078】
また、試料No.5〜8につき、東京精密株式会社製Surfcomを用いて、表面粗さ(Ra)を測定した。その結果、試料No.5〜8は、表面粗さ(Ra)がすべて0.01μmであった。なお、表面粗さ(Ra)の測定に際し、走査距離を10mm、走査速度を0.3mm/分とした。なお、表面粗さ(Ra)は、JIS B601:2001に準拠した方法で測定した値である。
【0079】
(試料No.9の作製)
板状の結晶化ガラス(LAS系結晶化ガラス、日本電気硝子株式会社製ネオセラムN−0)を30mm角に切り出し、白金ルツボを用いて、電気炉内でリメルトした。リメルト条件は、1600℃15時間とした。得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出した後、耐熱ローラーで5mm厚となるように成形し、板状の結晶性ガラスを得た。この結晶性ガラスに対し、十分にアニール処理を行った。次に、結晶性ガラスを40mmφ×3mmの寸法に切断加工した。続いて、円板の中央部分30mmφにX線を1時間照射した。なお、電圧50KV、電流値60mAでRhターゲットにより発生したX線を用いた。最後に、780℃で1時間熱処理した後、850℃で1時間熱処理することにより、結晶性ガラスを結晶化させて、結晶化ガラス(試料No.9)を作製した。
【0080】
試料No.9は、照射面が凹になった。この試料の照射面を上方にして平盤上に載置した状態で試料の一端を平盤に押し付けたところ、他端と平板の間には約0.5mmの隙間が生じた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ガラスの一部に、X線、電子線、レーザーのいずれかを照射した後、結晶性ガラスを結晶化させて結晶化ガラスを作製することを特徴とする結晶化ガラスの製造方法。
【請求項2】
結晶性ガラスの一部にX線を照射することを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項3】
X線をCuターゲットから発生させることを特徴とする請求項2に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項4】
X線をRhターゲットから発生させることを特徴とする請求項2に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項5】
結晶性ガラスと結晶化ガラスの密度差が0.01g/cm以上になるように、結晶化ガラスを作製することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項6】
結晶化ガラスに主結晶としてβ‐石英固溶体を析出させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項7】
結晶化ガラスがLiO−Al−SiO系結晶化ガラスであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項8】
表面に凹部または凸部を備え、且つそれらを包囲する基質部を備える結晶化ガラスにおいて、凹部または凸部が、X線、電子線、レーザーのいずれかの照射後に結晶化されてなることを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項9】
表面に凹部または凸部を備え、且つそれらを包囲する基質部を備える結晶化ガラスにおいて、凹部または凸部の熱膨張係数が、[基質部の熱膨張係数±20×10−7/℃]の範囲内であることを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項10】
表面に凹部または凸部を備え、且つそれらを包囲する基質部を備える結晶化ガラスにおいて、凹部または凸部に析出した主結晶が、基質部に析出した主結晶と同一であることを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項11】
結晶化ガラスがLiO−Al−SiO系結晶化ガラスであることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の結晶化ガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2011−116636(P2011−116636A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248649(P2010−248649)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】