説明

結晶化ガラスの製造方法

【課題】、酸化物ガラス中の広い領域に結晶を析出させることができ、酸化物ガラスの表面近傍や内部等の所望の領域に選択的に結晶を析出させることを可能とする結晶化ガラスの製造方法を提供すること。
【解決手段】鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の赤外線吸収元素を含む酸化物ガラスを含有する結晶化ガラス用材料に赤外線を照射して、前記結晶化ガラス用材料中の少なくとも一部の前記赤外線吸収元素を結晶化温度以上に加熱することにより、前記結晶化ガラス用材料中に金属酸化物の結晶を部分的に析出せしめて結晶化ガラスを得ることを特徴とする結晶化ガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物からなる結晶化ガラスは、析出結晶を選択することにより、高い透明性、広い透過波長域等の酸化物ガラス本来の特性と析出結晶に固有の特性とがガラスに付与されたものであり、全く新しい機能性材料として期待されている。
【0003】
このような結晶化ガラスの製造方法においては種々の方法が採用されており、酸化物ガラスの比較的広い領域に結晶を析出させる方法として、酸化物ガラスを結晶化開始温度以上に加熱する処理を施して結晶化を行う方法が採用されてきた。例えば、特開平7−010597号公報(特許文献1)や特開2006−327882号公報(特許文献2)においては、酸化物ガラスを加熱炉により熱処理して結晶を析出させて結晶化ガラスを得る方法が開示されている。また、特開2007−326772号公報(特許文献3)においては、酸化物ガラスを赤外線加熱により1000〜1400℃に加熱して結晶化させる方法が開示されている。しかしながら、このような特許文献1〜3に記載のような従来の結晶化ガラスの製造方法を利用した場合には、酸化物ガラスの表面から中心に向う深さ方向において表面から深さ数nm程度の表面近傍の領域に結晶を選択的に析出させたり、酸化物ガラスの内部に選択的に結晶を析出させることができなかった。このように、従来の結晶化ガラスの製造方法は、得られる結晶化ガラス中の所望の領域に選択的に結晶を析出させることができなかった。
【特許文献1】特開平7−010597号公報
【特許文献2】特開2006−327882号公報
【特許文献3】特開2007−326772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、酸化物ガラス中の広い領域に結晶を析出させることができ、酸化物ガラスの表面近傍や内部等の所望の領域に選択的に結晶を析出させることを可能とする結晶化ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の赤外線吸収元素を含む酸化物ガラスを含有する結晶化ガラス用材料を用い、その結晶化ガラス用材料に対して赤外線を照射し、前記結晶化ガラス用材料中の少なくとも一部の前記赤外線吸収元素を結晶化温度以上に加熱することにより、表面近傍や内部等の所望の領域に選択的に結晶を析出させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の赤外線吸収元素を含む酸化物ガラスを含有する結晶化ガラス用材料に赤外線を照射して、前記結晶化ガラス用材料中の少なくとも一部の前記赤外線吸収元素を結晶化温度以上に加熱することにより、前記結晶化ガラス用材料中に金属酸化物の結晶を部分的に析出せしめて結晶化ガラスを得ることを特徴とする方法である。
【0007】
上記本発明の結晶化ガラスの製造方法においては、前記結晶化ガラス用材料が前記赤外線吸収元素を0.1〜5質量%含有する酸化物ガラスであり、且つ、前記赤外線が照射された領域内において、前記結晶化ガラス用材料の表面近傍に結晶を析出せしめることが好ましい。
【0008】
また、上記本発明の結晶化ガラスの製造方法においては、前記結晶化ガラス用材料が、前記赤外線吸収元素を含有する酸化物ガラスからなる赤外線吸収層と、金属酸化物ガラスからなるガラス層とを備えることが好ましく、前記赤外線吸収層と、前記赤外線吸収層の周囲を覆うガラス層とを備えることがより好ましい。
【0009】
さらに、上記本発明の結晶化ガラスの製造方法においては、前記結晶の平均粒子径が10〜100nmであることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明の結晶化ガラスの製造方法においては、前記結晶化ガラス用材料に赤外線加熱炉により赤外線を照射することが好ましい。
【0011】
なお、本発明の結晶化ガラスの製造方法によって、酸化物ガラス中の比較的広い領域に結晶を析出させる際に酸化物ガラスの表面近傍や内部等の所望の領域に選択的に結晶を析出させることが可能となる。この理由を本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明においては、結晶化ガラスを製造するための材料として、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の赤外線吸収元素を含む酸化物ガラスを含有する結晶化ガラス用材料を用い、その結晶化ガラス用材料に赤外線を照射して、前記材料中の前記赤外線吸収元素周辺の領域を結晶化温度以上に加熱する。そのため、加熱された赤外線吸収元素の近傍の領域においては、所定の金属酸化物が結晶として析出される。このように、本発明においては、従来の結晶化ガラスの製造方法のように酸化物ガラスを全体的に加熱することなく、赤外線の照射によって酸化物ガラス中の前記赤外線吸収元素を選択的に加熱することにより、前記結晶化ガラス用材料中の前記赤外線吸収元素の近傍に金属酸化物の結晶を選択的に析出させる。そのため、所望の領域に金属酸化物の結晶を選択的に析出させることが可能となるものと本発明者らは推察する。また、本発明においては、前記赤外線吸収元素を選択的に加熱せしめることにより結晶化を選択的に図ることができるため、前記結晶化ガラス用材料の表面の広い領域に対して同時に赤外線を照射して加熱し、広い領域の所望の位置に効率よく金属酸化物の結晶を析出させることが可能であり、ベルトコンベアを用いた工業ラインのような大量、大面積の結晶化にも利用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸化物ガラス中の広い領域に結晶を析出させることができ、酸化物ガラスの表面近傍や内部等の所望の領域に選択的に結晶を析出させることを可能とする結晶化ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
本発明の結晶化ガラスの製造方法は、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の赤外線吸収元素を含む酸化物ガラスを含有する結晶化ガラス用材料に赤外線を照射して、前記結晶化ガラス用材料中の少なくとも一部の前記赤外線吸収元素を結晶化温度以上に加熱することにより、前記結晶化ガラス用材料中に金属酸化物の結晶を部分的に析出せしめて結晶化ガラスを得ることを特徴とする方法である。
【0015】
先ず、本発明の結晶化ガラスの製造方法に用いる結晶化ガラス用材料について説明する。このような結晶化ガラス用材料は、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の赤外線吸収元素を含む酸化物ガラスを含有するものである。
【0016】
このような酸化ガラス中の前記赤外線吸収元素は赤外線を吸収し、これにより発熱するものである。このような赤外線吸収元素としては、地殻埋蔵量の観点から、鉄、ニッケル、マンガン、バナジウムがより好ましく、流通量の観点から、銅、鉄が特に好ましい。また、このような赤外線吸収元素は、前記酸化物ガラス中に酸化物の形態で含有されていることが好ましく、酸化ガラス中に酸化物の状態で共有結合を形成して含有されていることがより好ましい。なお、このような赤外線吸収元素は、単独の粒子(酸化物の粒子を含む)の形態で酸化物ガラス中に含有されていてもよい。
【0017】
また、前記酸化物ガラスに含有される前記赤外線吸収元素以外の成分は特に制限されず、加熱により結晶を析出させることが可能な酸化物ガラスを構成し得る公知の成分を適宜用いることができる。このような赤外線吸収元素以外の成分としては、例えば、チタン酸化物、ビスマス酸化物、ホウ素酸化物、アルミニウム酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ金属の酸化物、珪素酸化物、ゲルマニウム酸化物、ニオブ酸化物、リン酸化物、テルル酸化物等が挙げられる。また、このような赤外線吸収元素以外の成分は、製造する結晶化ガラスの用途等に応じて、種々の成分を適宜組み合わせて用いることができる。
【0018】
このような酸化物ガラスとしては特に制限されるものではないが、化学的安定性に優れ且つ高い屈折率を有するチタン酸化物を結晶として析出させることができるという観点からは、チタン酸化物、ビスマス酸化物、ホウ素酸化物、アルミニウム酸化物及びアルカリ土類金属の酸化物を組み合わせた酸化物ガラス、光学非線形性を有するフレスノイト結晶を析出するという観点から、チタン酸化物、ゲルマニウム酸化物、珪素酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、及び、前記赤外線吸収元素の酸化物を組み合わせた酸化物ガラスが好ましい。
【0019】
このような赤外線吸収元素を含む酸化物ガラスを含有する結晶化ガラス用材料は、前記酸化物ガラスを含有する以外は特に制限されるものではなく、前記酸化物ガラスからなるものであっても、前記酸化物ガラスに他の金属酸化物ガラスを組み合わせた多層構造の材料であってもよい。また、このような結晶化ガラス用材料及び前記酸化物ガラスは透明なものであっても不透明なものであってもよく、また、その形状等も特に制限されない。
【0020】
また、このような結晶化ガラス用材料としては、結晶化ガラス用材料の表面近傍(好ましくは結晶化ガラス用材料の表面に対して垂直な方向における表面からの厚みが500nm以下となる領域)に選択的に結晶を析出させるという観点からは、前記赤外線吸収元素を酸化物換算で0.1〜5質量%含有する酸化物ガラスが好ましく、0.1〜1質量%含有する酸化物ガラスがより好ましい。このような赤外線吸収元素の含有比率が前記下限未満では、赤外線を照射する際に表面近傍以外の領域(内部の領域)にまで赤外線が透過し、内部の領域に存在する赤外線吸収元素も赤外線により加熱されるため、表面近傍の領域において選択的に結晶を析出させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、目的の結晶の析出を阻害したり、透明で均一なガラスの作製が困難となる傾向にある。
【0021】
また、このような結晶化ガラス用材料としては、表面側の領域(表面近傍)に選択的に結晶を析出させるという観点からは、組成が、チタン酸化物5〜25モル%、ビスマス酸化物3〜15モル%、ホウ素酸化物45〜75モル%、アルミニウム酸化物5〜25モル%、アルカリ土類金属の酸化物2〜15モル%、及び、前記赤外線吸収元素の酸化物0.1〜5モル%である酸化物ガラスが好ましい。
【0022】
表面側の領域に選択的に結晶を析出させるという観点から好適に用いられる前記酸化物ガラスからなる前記結晶化ガラス用材料の製造方法は、前記赤外線吸収元素を含有する酸化物ガラスを製造することが可能な方法であればよく、特に制限されず、例えば、酸化物ガラスの原料となる種々の金属酸化物と前記赤外線吸収元素の酸化物との混合物を溶融させた後、冷却する方法を採用してもよい。
【0023】
また、このような結晶化ガラス用材料としては、その構造により結晶を析出させる領域を効率よく選択できるという観点からは、前記赤外線吸収元素を含有する酸化物ガラスからなる赤外線吸収層と、金属酸化物ガラスからなるガラス層とを有する結晶化ガラス用材料が好ましい。このようなガラス層を形成する金属酸化物ガラスとしては、前記酸化物ガラスにおいて説明した赤外線吸収元素以外の成分と同様のものを用いて得られるガラスが挙げられる。また、このような金属酸化物ガラスは赤外線吸収元素を含有しない以外は前記酸化物ガラスと同様のものとしてもよい。なお、このような結晶化ガラス用材料においては、前記ガラス層と前記赤外線吸収層とが接する部位の近傍及び/又は前記赤外線吸収層中において金属酸化物の結晶を選択的に析出させることができる。
【0024】
また、このような赤外線吸収層と前記ガラス層とを有する結晶化ガラス用材料としては、結晶化ガラス用材料の内部の領域に選択的に結晶を析出させることができるという観点から、前記赤外線吸収層と前記赤外線吸収層の周囲を覆う前記ガラス層とを有するものがより好ましい。このような結晶化ガラス用材料としては、具体的には、前記赤外線吸収層からなるコア部と、そのコア部を覆う前記ガラス層とを備えるコアシェル型の材料や、中心部に存在する特定の組成物(ガラス組成物であってもよい)からなる第一層と、前記第一層の周囲に形成された前記赤外線吸収層からなる第二層(中間層)と、前記第二層の周囲に形成された前記ガラス層からなる第三層(最外層)とを備える多層構造の材料等が挙げられる。なお、このような多層構造の材料を結晶化ガラス用の材料とした場合には、第二層と第三層とが接している部位の近傍及び/又は第二層中に選択的に結晶を析出させることが可能となり、結晶の析出した領域の屈折率のみを変化させることが可能となるため、第一層(中心層)を光伝達部とする光ファイバを効率よく製造できる。また、多層構造の結晶化ガラス用材料においては、前記ガラス層を複数層有していてもよく、この場合には、得られる結晶化ガラスの用途に応じて、全ての層に同じ金属酸化物ガラスを用いてもよく、一部又は全ての層において異なる種類の金属酸化物ガラスを用いてもよい。
【0025】
さらに、このような赤外線吸収層においては、前記赤外線吸収元素の含有比率が、前記赤外線吸収層の総量に対して0.1〜5質量%であることが好ましく、0.1〜1質量%であることが好ましい。このような含有比率が前記下限未満では、前記赤外線吸収層と前記ガラス層とが接している部位の近傍及び/又は前記赤外線吸収層中に選択的に結晶を析出させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、目的の結晶の析出を阻害したり、透明で均一なガラスの作製が困難となる傾向にある。なお、このような赤外線吸収層を形成する酸化物ガラスとしては特に制限されるものではないが、化学的安定性に優れ且つ高い屈折率を有するチタン酸化物を結晶として析出させることができるという観点からは、組成が、チタン酸化物10〜20モル%、ゲルマニウム酸化物30〜50モル%、珪素酸化物20〜30モル%、アルカリ土類金属の酸化物30〜40モル%、及び、前記赤外線吸収元素の酸化物0.5〜3モル%である酸化物ガラスが好ましい。
【0026】
また、このような赤外線吸収層と前記ガラス層とを有する結晶化ガラス用材料の製造方法としては特に制限されないが、例えば、金属酸化物ガラスを調製した後にそのガラスのいずれかの面に前記赤外線吸収元素を含有する酸化物ガラスからなる層を積層せしめる方法や、前記赤外線吸収元素を含有する酸化物ガラスを準備した後、その酸化物ガラスの周囲を覆うように前記ガラス層を積層せしめる方法等を適宜採用してもよい。なお、前記金属酸化物ガラスを調製する方法や、そのガラスに他のガラス層を積層させる方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。このように、結晶化ガラス用材料は、目的とする構造に応じて公知の方法を利用しながら適宜製造することができる。更に、このような結晶化ガラス材料の大きさや各層の厚みは特に制限されず、結晶化ガラスの用途等に応じて適宜種々調整することができる。
【0027】
次に、前記結晶化ガラス用材料に赤外線を照射して結晶化ガラスを得る工程について説明する。かかる結晶化ガラスを得る工程は、結晶化ガラス用材料に赤外線を照射して、前記結晶化ガラス用材料中の少なくとも一部の前記赤外線吸収元素を結晶化温度以上に加熱することにより、前記結晶化ガラス用材料中に金属酸化物の結晶を部分的に析出せしめて結晶化ガラスを得る工程である。
【0028】
このように、本発明においては、前記結晶化ガラス用材料に赤外線を照射して、前記結晶化ガラス用材料中の少なくとも一部の前記赤外線吸収元素を結晶化温度以上に加熱する。すなわち、本発明においては、前記結晶化ガラス用材料に赤外線を照射することにより、赤外線の照射された領域内に存在する赤外線吸収元素に赤外線を吸収させて、前記領域内に存在する赤外線吸収元素を加熱せしめ、赤外線吸収元素の温度を結晶化温度以上にする。これにより、結晶化温度以上に加熱された赤外線吸収元素の近傍において、金属酸化物の結晶が析出する。
【0029】
ここで、図1を参照しながら「結晶化温度」を説明する。すなわち、本発明にいう「結晶化温度」は、示差熱分析(DTA)により測定されるDTA曲線において、結晶化による発熱が観測され始める温度であり、具体的には、昇温速度10℃/分で加熱して測定されるDTA曲線において、ガラス転移温度以上の温度領域において現れるプラトー(平坦)部の接線L1と、結晶化による発熱が確認される温度以上の温度領域の曲線部における最初の変曲点P1の接線L2との交点P2における温度である。また、ここにいう「ガラス転移温度(Tg)」は、ガラス転移が起こる温度以下の温度領域における直線部の接線L3とガラス転移領域の曲線の勾配が最大になる点における接線L4との交点P3における温度である。
【0030】
このような加熱の際の温度の条件は、結晶化温度以上であればよいが、より確実に結晶を析出させるという観点から、前記加熱温度の下限が、結晶化開始温度(Tx)であることがより好ましい。なお、結晶化開始温度は、示差熱分析(DTA)により求めることができる。また、このような加熱の際の加熱温度の上限は、結晶化ガラス用材料中の前記酸化物ガラスの組成、析出させる金属酸化物の結晶の種類、目的とする結晶の大きさ(平均粒子径等)等によっても異なるものであり、一概に言えるものではなく、目的とする結晶の種類や大きさ等に応じて適宜調整すればよい。
【0031】
このような加熱の際の温度条件としては、析出させる金属酸化物の種類や用いる酸化物ガラスの種類によっても異なるものであるため、一概には言えないが、例えば、前記酸化物ガラスがチタン酸化物、ビスマス酸化物、ホウ素酸化物、アルミニウム酸化物及びアルカリ土類金属の酸化物を含有する酸化物ガラスであり、酸化チタンの結晶を析出させる場合には、600〜640℃(より好ましくは610〜630℃)とすることが好ましい。
【0032】
また、このような結晶化ガラス用材料に照射する赤外線としては、波長700〜2000nmの範囲にピークを有する赤外線であることが好ましく、800〜1500nmの範囲にピークを有する赤外線であることがより好ましい。このような赤外線の波長のピークが前記下限未満では、赤外線のエネルギーの熱への変換効率が低く効率的な温度の上昇が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると照射赤外線により材料の温度が上昇し、位置選択的な結晶化の達成が困難となる傾向にある。
【0033】
さらに、このような赤外線としては、非可干渉性の赤外線を用いる。このような非可干渉性の赤外線を用いることにより、前記結晶化ガラス用材料の表面の広い面積に効率よく赤外線を照射することが可能となる。なお、ここにいう「非可干渉性の赤外線」とは、広帯域(好ましくは波長の長さが最大の波長と最小の波長の差が100nm以上)なスペクトルを有する赤外線であることを意味する。
【0034】
また、このような赤外線の照射の際には、前記酸化物ガラスの広い領域において結晶を析出させるという観点から、前記結晶化ガラス用材料の表面積の少なくとも1´10−4の領域(なお、表面積が1´10−4未満の大きさの前記結晶化ガラス用材料の場合には、前記結晶化ガラス用材料の表面の全領域)に同時に赤外線を照射する。このように、赤外線の照射の際には結晶化ガラス用材料の表面の少なくとも1´10−4以上の領域に一度に赤外線を照射することにより、その赤外線が照射された領域から前記結晶化ガラス材料の内部に赤外線が透過し、その内部に存在する赤外線吸収元素に赤外線を吸収させて加熱することができるため、十分に広い領域において金属酸化物の結晶を選択的に析出させることが可能となる。さらに、このような赤外線の照射の際には、一度の処理で十分に広い領域に結晶を選択的に析出させるという観点から、前記結晶化ガラス用材料の表面の1´10−2以上の領域(なお、表面積が1´10−2未満の大きさの前記結晶化ガラス用材料の場合には、前記結晶化ガラス用材料の表面の全領域)に対して、同時に赤外線を照射することがより好ましい。
【0035】
また、このような赤外線の照射の際に用いる赤外線照射手段としては、結晶化ガラス用材料の表面の少なくとも1´10−4以上の領域に同時に赤外線を照射するために、赤外線加熱炉を用いることが好ましい。また、ここにいう「赤外線加熱炉」は、赤外線ヒータを備えるものであればよく、他の構成は特に制限されない。また、このような赤外線ヒータは、赤外線を照射できるものであればよく特に制限されず、公知の赤外線ヒータを適宜用いることができ、例えば、棒状、パネル状、ランプ状等の電気式の赤外線ヒータ、ラジアント方式や表面燃焼方式等のガス式の赤外線ヒータ等が挙げられる。なお、このような赤外線加熱炉としては市販のもの(例えばアルバック理工社製の「赤外線ゴールドイメージ炉」等)を用いてもよい。
【0036】
さらに、このような赤外線により結晶化温度以上に加熱する際の加熱速度としては、1〜100℃/分とすることが好ましく、10〜50℃/分とすることがより好ましい。加熱速度が前記下限未満では、作業効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、急激な加熱により変形を生じたり、クラック等が発生する傾向にある。
【0037】
また、前記結晶化ガラス用材料に赤外線を照射して、前記結晶化ガラス用材料中の少なくとも一部の前記赤外線吸収元素を結晶化温度以上に加熱する際においては、前記結晶化ガラス用材料を、ガラス転移温度(Tg)以上であって、前記結晶化温度(T)よりも20℃低い温度(T−20[℃])以下の温度に予め加熱(予備加熱)しておくことが好ましく、Tg以上(T−30)℃以下の範囲の温度に予備加熱しておくことがより好ましい。このような予備加熱の温度が前記下限未満では、急激な熱発生により試料の変形やクラックが発生する原因となる可能性が増加する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、選択的な結晶化の達成が困難となる傾向にある。このような予備加熱の際の加熱方法としては特に制限されず、加熱したアルミナやステンレス板等を物理的に接触させることによる加熱であっても、公知の熱源により雰囲気温度を前記予備加熱温度に維持することによる加熱であってもよい。このような予備加熱を施すことにより、赤外線照射の際に赤外線の照射された前記赤外線吸収元素を効率よく結晶化温度以上とすることができる。
【0038】
また、このような予備加熱の際の加熱速度としては、5〜100℃/分とすることが好ましい。加熱速度が前記下限未満では、作業効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、急激な加熱により変形を生じたり、クラック等が発生したりする傾向にある。更に、前記予備加熱後、結晶化温度以上に加熱する際の加熱速度としては、1〜50℃/分とすることが好ましい。加熱速度が前記下限未満では、作業効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、温度が設定温度を超えることにより位置選択的な結晶化の達成が困難となる傾向にある。
【0039】
また、前記結晶化ガラス用材料に赤外線を照射して、前記結晶化ガラス用材料中の少なくとも一部の前記赤外線吸収元素を結晶化温度(T)以上に加熱する際においては、雰囲気温度を、ガラス転移温度(Tg)以上、前記結晶化温度(T)よりも30度低い温度(T−30[℃])以下の範囲に維持することが好ましい。このような範囲に雰囲気温度を維持することにより、赤外線の照射により、赤外線吸収元素を効率よく結晶化温度以上とすることができ、効率よく結晶化を図ることができる傾向にある。
【0040】
さらに、前記結晶化ガラス用材料に赤外線を照射する際の赤外線の照射時間としては、特に制限されず、結晶化を図る材料の種類、結晶化を図る際の材料の温度、雰囲気温度等によっても異なるものであり、一概に言えるものではなく、所望の領域に所望の量の金属酸化物の結晶が析出するように適宜調整すればよい。
【0041】
このようにして前記結晶化ガラス用材料に赤外線を照射して、前記結晶化ガラス用材料中の少なくとも一部の前記赤外線吸収元素を結晶化温度以上に加熱することにより、結晶化温度以上に加熱された赤外線吸収元素の近傍に金属酸化物の結晶を部分的に析出せしめることが可能となり、これにより所望の領域が結晶化された結晶化ガラスを得ることができる。このように、本発明においては、前記結晶化ガラス用材料の表面近傍や内部等の所望の位置に赤外線吸収元素を存在せしめ、その赤外線吸収元素を加熱することにより、所望の位置に選択的に結晶を析出させて結晶化ガラスを得るため、例えば、所望の領域の屈折率を変化させた特異な性質を有する光学材料等の製造方法としても好適に利用できる。また、このような本発明の結晶化ガラスの製造方法は、選択的に結晶化が可能であるとともに、広い領域に対して一度の処理で十分に結晶化を図ることが可能であるため、ベルトコンベアを用いた工業ラインのような大量、大面積の結晶化にも利用できる。
【0042】
また、このような本発明の結晶化ガラスの製造方法においては、析出させる金属酸化物の結晶の粒子径を様々なサイズ(10〜2000nm程度)とすることが可能である。このような結晶化ガラスにおける前記金属酸化物の結晶の平均粒子径としては特に制限されないが、10〜500nmであることがより好ましく、10〜100nmとすることが特に好ましい。本発明においては、このような結晶の平均粒子径は、用いる結晶化ガラス用材料の種類に応じて赤外線を照射する際の条件等を適宜調整することにより達成できる。このような金属結晶の平均粒子径は、表面X線用回折装置(リガク社製)を用いてXRD測定を行って、XRDの回折線幅から算出することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(調製例1)
炭酸カルシウム(CaCO)とチタン酸化物(TiO)とビスマス酸化物(Bi)と、ホウ素酸化物(B)と銅酸化物(CuO)とのモル比(CaCO:TiO:Bi:B:CuO)が、5:20:10:65:10:0.5となるように、前記各金属酸化物をそれぞれ秤量し、混合して混合物を得た。次に、純度99%のアルミナ坩堝を用いて前記混合物を1350℃の温度条件で溶融させて溶融物を得た。次いで、前記溶融物を、160℃の金属板上に流し出し、急冷却することによって赤外線吸収元素(Cu)を含有する酸化物ガラスからなる結晶化ガラス用材料(縦:1.0cm、横:1.0cm、厚み:0.1cm)を調製した。
【0045】
このようにして得られた結晶化ガラス用材料は、組成がTiO:18.2モル%、Bi:9.0モル%、B:58.8モル%、Al:9.0モル%、CaO:4.5モル%及びCuO:0.4モル%の酸化物ガラスであった。また、このようにして得られた結晶化ガラス用材料をTG−DTA測定により測定したところ、ガラス転移点は571℃であり、TiOの結晶化温度は600℃であり、且つTiOの結晶化開始温度は652℃であった。また、得られた酸化物ガラスは、十分に透明性の高いものであった。
【0046】
(実施例1)
先ず、調製例1で得られた結晶化ガラス用材料を、赤外線加熱炉(米倉製作所製)中に配置し、10℃/分の加熱速度で600℃となるまで予備的に加熱した。次いで、前記結晶化ガラスに対して赤外線(ピーク波長:1μm)を照射して1℃/分の加熱速度で加熱して前記結晶化ガラスの内部温度を630℃とし、更に、赤外線を照射し続けて前記結晶化ガラスの内部温度を630℃に3時間保持した後、4℃/分の平均冷却速度で室温(25℃)まで冷却して、結晶化ガラスを得た。
【0047】
(比較例1)
調製例1で得られた結晶化ガラス用材料を、そのまま比較のためのガラスとして利用した。
【0048】
(比較例2)
調製例1で得られた結晶化ガラス用材料を、電気炉を用いて10℃/分の加熱速度で加熱して600℃とし、次いで、1℃/分の加熱速度で加熱して630℃で3時間保持した後、4℃/分の平均冷却速度で室温まで冷却して比較のための結晶化ガラスを得た。
【0049】
[実施例1及び比較例1〜2で得られたガラスの特性の評価]
<表面状態の観測>
実施例1及び比較例1〜2で得られた各ガラスの表面の結晶構造を示す写真を図2に示す。また、実施例1及び比較例1〜2で得られた各ガラスについて、光の吸収スペクトルを測定した。実施例1及び比較例1〜2で得られた各ガラスの吸収スペクトルのグラフを図3に示す。
【0050】
図2及び図3に示す結果からも明らかなように、電気炉を用いて熱処理した比較のための結晶化ガラス(比較例2)は散乱光である青色を呈し、可視光領域の透明性が低いものとなっていた。一方、赤外線加熱炉を用いて熱処理を施した結晶化ガラス(実施例1)は、無処理品(比較例1)とほぼ同等の透明性を保っていることが確認され、比較例2で得られた結晶化ガラスよりも十分に透明性を有することが確認された。
【0051】
<X線回折による測定>
実施例1で得られた結晶化ガラス及び比較例2で得られた結晶化ガラスのXRDスペクトルを測定した。このようなXRDスペクトルの測定には、測定装置として、マック・サイエンス社製のM03X−HF22と、リガク社製の表面X線用回折装置を用いた。得られた結果を図4に示す。なお、図4中においては、ルチル型のチタン酸化物の結晶に由来する強度のピークが現れる部位(図中、○で示す。)、アナターゼ型のチタン酸化物の結晶に由来する強度のピークが現れる部位(図中、△で示す。)をそれぞれ記号で示す。また、実施例1で得られた結晶化ガラスのマック・サイエンス社製のM03X−HF22による測定結果には実施例1−1と示し、リガク社製の表面X線用回折装置による測定結果には実施例1−2と示す。
【0052】
図4に示す結果からも明らかなように、実施例1で得られた結晶化ガラスにおいては、マック・サイエンス社製のM03X−HF22による測定によってもピークはほとんど検出できないのに対して、リガク社製の表面X線用回折装置を用いると表面近傍にアナターゼ結晶とルチルの結晶の析出が確認された。このように表面X線用回折装置を用いた場合にのみ結晶のピークが測定されるのは、実施例1で得られた結晶化ガラスにおいては表面の近傍にのみ結晶が析出していたため、通常のX線回折による測定(マック・サイエンス社製のM03X−HF22による測定)では結晶を認識できず、薄膜X線回折による測定によってはじめて結晶が認識されるためである。一方、比較例2で得られた結晶化ガラスにおいては、ガラス内部のほぼ全領域に結晶が析出していることが確認された。
【0053】
また、実施例1で得られた結晶化ガラスに関して、ダイヤモンドスラリーを用いて表面から深さ500nmの領域を研磨した後に、結晶化ガラスの表面のXRDスペクトルをリガク社製の表面X線用回折装置により再度測定したところ、結晶の明確な回折パターンが確認できなかった。このような結果から、実施例1で得られた結晶化ガラスにおいては、アナターゼ型及びルチル型のチタン酸化物の結晶が表面近傍(表面からの深さが500nm以下となる領域)に析出していることが確認され、実施例1で採用した本発明の結晶化ガラスの製造方法を採用することにより、選択的に結晶化を図れることが分かった。また、実施例1で得られた結晶化ガラスにおいて、XRDの回折線幅から算出される結晶の平均粒径は10〜20nmであった。
【0054】
(調製例2)
3層構造の結晶化ガラス用材料を製造した。すなわち、先ず、組成がBaO:30.2モル%、TiO:10.1モル%、CeO:0.2モル%、Nb:2.5モル%、GeO:30.2モル%、SiO:22.2モル%、La:3.0モル%及びBi:1.6モル%となる酸化物ガラスA(直径3.8mm)を製造した。次に、前記酸化物ガラスAの周囲に、組成がBaCO:30モル%、TiO:15モル%、GeO:30モル%、SiO:25モル%及びCuO:0.5モル%となる赤外線吸収元素(Cu)を含有する酸化物ガラスBからなる赤外線吸収層を形成せしめた。なお、このような赤外線吸収層は、ガラス化後に各成分の含有比が上記比率となるように秤量したBaCO、TiO、GeO、SiO及びCuOの混合物を溶融し、中空ファイバを作製した後、前記酸化物ガラスAを中空部にセットし、同時に延伸することにより製造せしめた。次いで、前記赤外線吸収層の周囲に、組成がBaCO:30モル%、TiO:15モル%、GeO:30モル%及びSiO:25モル%となる酸化物ガラスCからなる最外層を形成し、酸化物ガラスAからなる第一層(コア)と、酸化物ガラスBからなる中間層(赤外線吸収層:第一クラッド)と、酸化物ガラスCからなる最外層(第二クラッド)とからなる結晶化ガラス材料を製造した。なお、酸化物ガラスCからなる最外層は、ガラス化後に各成分の含有比が上記比率となるように秤量したBaCO、TiO、GeO及びSiOの混合物を溶融し中空ファイバを作製した後、前記酸化物ガラスAと前記酸化物ガラスAを覆う前記酸化物ガラスBとからなる多層体を、その中空部にセットし、同時に延伸することにより製造せしめた。また、各層の直径は、それぞれ第一層(コア):6.5μm、中間層:24.5μm、最外層:125μmであった。なお、酸化物ガラスAのガラス転移点は706℃であった。また、酸化物ガラスBにおいて、ガラス転移点は694℃であり、フレスノイト結晶の結晶化温度は739℃であり、フレスノイト結晶の結晶化開始温度は789℃であった。更に、酸化物ガラスCにおいて、ガラス転移点は707℃であり、フレスノイト結晶の結晶化温度は766℃であり、フレスノイト結晶の結晶化開始温度は807℃であった。
【0055】
(実施例2)
調製例2で得られた結晶化ガラス用材料を赤外線加熱炉(米倉製作所製)中に配置し、10℃/分の加熱速度で600℃となるまで予備的に加熱した。次いで、前記結晶化ガラスに対して赤外線(ピーク波長:1μm)を照射しながら1℃/分の加熱速度で加熱して前記結晶化ガラスの内部温度を750℃とし、更に、赤外線を照射し続けて前記結晶化ガラスの内部温度を750℃に3時間保持した後、4℃/分の平均冷却速度で室温(25℃)まで冷却して、結晶化ガラスを得た。
【0056】
(比較例3)
調製例2で得られた結晶化ガラス用材料を、電気炉を用いて749℃に加熱し、749℃で3時間保持した後、4℃/分の平均冷却速度で室温まで冷却して比較のための結晶化ガラスを得た。
【0057】
[実施例2及び比較例3で得られたガラスの特性の評価]
<結晶化ガラスの断面の観測>
実施例2で用いた酸化物ガラス(結晶化ガラス用材料)の切断面を図5に示し、実施例2で得られた結晶化ガラスの切断面の写真を図6に示す。また、比較例3で用いた酸化物ガラス(結晶化ガラス用材料)の切断面を図7に示し、比較例3で得られた結晶化ガラスの切断面の写真を図8に並べて示す。
【0058】
図5〜8に示す結果からも明らかなように、実施例2で得られた結晶化ガラスにおいては、結晶化ガラス用材料の内部の層(赤外線吸収層)中に結晶が析出していることが確認された。これに対して、比較例3で得られた結晶化ガラスにおいては、結晶化ガラス用材料の最外層の表面側から結晶が析出していることが分かる。このような結果から、本発明の結晶化ガラスの製造方法(実施例2)によれば、ガラスの内部に選択的に結晶を析出させることが可能となることが分かった。また、このような3層構造の結晶化ガラス用材料を用いた場合においては、第一クラッド層において選択的に結晶が析出されており、コアの周囲を覆う第一クラッド層の屈折率を変化させることが可能であることが確認された。そのため、このような多層構造の結晶化ガラス用材料を用いることにより、コアを光伝送用に用いる光ファイバ等を容易に製造できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、酸化物ガラス中の広い領域に結晶を析出させることができ、しかも酸化物ガラスの表面近傍や内部等の所望の領域に選択的に結晶を析出させることが可能な結晶化ガラスの製造方法を提供することが可能となる。
【0060】
したがって、本発明の結晶化ガラスの製造方法は、酸化物ガラス中の所望の領域の結晶化を図れるため、光ファイバ等の機能性材料の製造方法として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ガラスのDTA曲線を示すグラフと結晶化温度の関係を示す図である。
【図2】実施例1及び比較例1〜2で得られた各ガラスの表面の結晶構造を示す写真である。
【図3】実施例1及び比較例1〜2で得られた各ガラスの吸収スペクトルを示すグラフである。
【図4】実施例1で得られた結晶化ガラス及び比較例2で得られた結晶化ガラスのXRDスペクトルを示すグラフである。
【図5】実施例2で用いた酸化物ガラス(結晶化ガラス用材料)の切断面の写真である。
【図6】実施例2で得られた結晶化ガラスの切断面の写真である。
【図7】比較例3で用いた酸化物ガラス(結晶化ガラス用材料)の切断面の写真である。
【図8】比較例3で得られた結晶化ガラスの切断面の写真である。
【符号の説明】
【0062】
L1…ガラス転移温度以上の温度域において現れるプラトー(平坦)部の接線、L2…結晶化による発熱が確認される温度以上の温度域の曲線部における最初の変曲点の接線、L3…ガラス転移が起こる前の温度領域における直線部の接線、L4…ガラス転移領域の曲線の勾配が最大となる点における接線、P1…結晶化による発熱が確認される温度以上の曲線部における最初の変曲点、P2…接線L1と接線L2との交点(結晶化温度)、P3…接線L3と接線L4との交点(ガラス転移温度)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の赤外線吸収元素を含む酸化物ガラスを含有する結晶化ガラス用材料に赤外線を照射して、前記結晶化ガラス用材料中の少なくとも一部の前記赤外線吸収元素を結晶化温度以上に加熱することにより、前記結晶化ガラス用材料中に金属酸化物の結晶を部分的に析出せしめて結晶化ガラスを得ることを特徴とする結晶化ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記結晶化ガラス用材料が前記赤外線吸収元素を0.1〜5質量%含有する酸化物ガラスであり、且つ、前記赤外線が照射された領域内において、前記結晶化ガラス用材料の表面近傍に結晶を析出せしめることを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記結晶化ガラス用材料が、前記赤外線吸収元素を含有する酸化物ガラスからなる赤外線吸収層と、金属酸化物ガラスからなるガラス層とを備えることを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記結晶化ガラス用材料が、前記赤外線吸収層と、前記赤外線吸収層の周囲を覆う前記ガラス層とを備えることを特徴とする請求項3に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記結晶の平均粒子径が10〜100nmであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記結晶化ガラス用材料に赤外線加熱炉により赤外線を照射することを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の結晶化ガラスの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−150086(P2010−150086A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330583(P2008−330583)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】