説明

結晶化ガラス及びその製造方法

【課題】材料の微細な熱処理加工に用いる熱源に適する材料を提供する。
【解決手段】光吸収能力に優れ、吸収した光を効率的に熱へ変化させることが可能な結晶化ガラスを提供する。具体的には、ガラスを熱処理することにより製造される結晶化ガラスであって、酸化物基準の質量%で、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、CuO、CeO、Pr、Sm、Eu、Tb、及びErから選ばれる1種以上の成分を1〜10%含有する、結晶化ガラスを提供する。好ましくは所望の物性、特に低熱膨張性に優れた結晶化ガラスを提供する。かかる結晶化ガラスは、レーザを用いた微細な熱処理加工の熱源として利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラスに関し、より詳しくは、光エネルギーを局所的に吸収し熱エネルギーに変換可能な結晶化ガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光エネルギーを吸収するガラスとしては、特定の波長域の光を吸収することで、該波長の影響を遮断する機能を付与したものが知られている。例えば、紫外線による材料の劣化や紫外線照射による皮膚ガンの発生等を防止するための紫外線吸収ガラス(特許文献1)、CCDイメージセンサなどの画像におけるノイズを防ぐIRカットフィルター用の赤外線吸収ガラスなどがある(特許文献2)。このような光エネルギーを吸収するガラスに求められる特性として、単位厚さあたりの光吸収能力があり、該能力は主に光を吸収する成分の種類及びその含有量によって決定される。
【0003】
しかし、吸収能力を高めようとして光を吸収する成分を多量に含有させることと、化学的・機械的耐久性や耐熱性等、別の物性を両立させることが難しい場合が多い。例えば赤外光を吸収する成分として二価のCuイオンが適しているとされているが、耐久性を実現するためにケイ酸塩系ガラスにCuを添加すると高温溶融過程でCuが一価のイオンに変化し、吸収能力が悪くなる。このような問題から赤外線吸収ガラスは燐酸塩系のものが多いが、燐酸塩系ガラスは化学的耐久性が低いという問題がある。リン酸塩系ガラスの耐候性を改善するためにフッ素を導入したフツ燐酸塩系ガラスもあるが、ケイ酸塩系ガラスの耐久性には程遠く、しかも熱膨張率が高いので、精密性が要求される用途に用いる場合、使用温度域が厳しく制限される。
【0004】
一方、ケイ酸塩系ガラスと同等なレベルの耐久性を有しつつ特定波長の吸収能力を向上させたガラスとして、ウェットゲル中に所望の成分を導入し、乾燥、焼成する方法で作られるガラスがある(特許文献3)。このガラスは優れた耐久性を有し、熱膨張係数においてもリン酸塩系のガラスより一桁ほど小さい6×10-7〜5×10-6/℃となるものを開示している。しかしながら、特許文献3に開示されたガラスは、室温近傍では上述のような優れた特性を示すものの、焼成温度の低さから推定するに、高温になった場合は、化学的・機械的耐久性及び低い熱膨張特性が維持され難いと考えられる。
【0005】
近年、光学系の小型化及び各種分野における光信号の利用拡大に伴い、材料、特にガラス材料をレーザ等を用いてナノオーダーで加工する技術の研究が盛んである。これらの技術は、大きく被加工物(加工されやすい性質を持つ材料)に関するものと、加工方法に関するものに分類できる。前者のレーザを用いた微細加工に適するガラス材料としては、例えばレーザ光吸収が大きく、加工部位に望ましい相変化が起こるもの等が研究されており(特許文献4)、後者の加工方法としては、例えば、Y分岐導波路構造、マッハツェンダ干渉器構造に用いる材料を作るため、レーザビームを走査機構を用いることなく、ガラス等の透明材料内部に照射して、複雑な二次元形状、又は三次元形状をした異質相を形成する方法が開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−048749号公報
【特許文献2】特開2004−083290号公報
【特許文献3】特開2000−313636号公報
【特許文献4】特開2003−12347号公報
【特許文献5】特開2004−196585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献4に開示されたような、レーザ照射部位を発熱させ非晶質から結晶を析出させる材料は、必然的に光を吸収する成分を含有しなければならず、この成分が光損失の原因となっていた。また、特許文献5に開示された方法は、いわゆる光誘起による相変化を起こすためフェムト秒レーザのような非常に高価な装置を必要とするだけでなく、相変化の態様(例えば高密度化、空洞化、結晶生成)や領域を滑らかに制御することが非常に難しく、実用化レベルには至っていない。本発明は、このようなレーザを用いた微細な加工を要する光学用部材、又はその加工プロセスに用いる材料に関するものであり、レーザによる精密な材料の加工を容易にすると同時に、生産性を向上させることができる、新規な材料を提供することを目的とする。具体的には、光吸収性、耐熱性、及び低熱膨張性に優れる結晶化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため種々の試験研究を重ねた結果、光エネルギーを吸収する元素を、TiO+ZrOを核形成剤としたSiO−Al−LiO系原ガラスに導入し、これを熱処理することで、広い温度範囲で優れた低膨張特性を有しつつ、レーザ等の光エネルギーを効率的に熱へ変換できる材料が得られることを見いだし、本発明をなすに至った。
【0009】
本発明の結晶化ガラスは、上述する耐熱性、光吸収性、及び、低熱膨張性に優れる材料であり、熱処理により変質化する組成を有する他の材料と組合わせると、前記他の材料に微細なパターンを加工することができ、特に優れた光学部材を構成することができる。即ち、他の材料に必要とされるのは、微細なパターンを形成可能な局所加熱であり、本発明の結晶化ガラスは、かかる微細パターンに沿った局所加熱の熱源となり得る。以下、具体的に、本発明において提供できるものを述べる。
【0010】
(1)酸化物基準の質量%で、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、CuO、CeO、Pr、Sm、Eu、Tb、及びErから選ばれる1種以上の成分を1〜10%含有する、結晶化ガラスを提供できる。
【0011】
(2)所定の波長からなるレーザ光に対して10cm−1以上の吸光係数を有する上記(1)に記載の結晶化ガラスを提供できる。
【0012】
(3)0〜500℃における熱膨張係数(α)が−30×10−7〜+30×10−7/℃の範囲である上記(1)又は(2)に記載の結晶化ガラスを提供できる。
【0013】
(4)500℃以上の耐熱温度を有することを特徴とする、上記(1)から(3)のいずれかに記載の結晶化ガラスを提供できる。
【0014】
(5)ヤング率が90GPa以上であることを特徴とする、上記(1)から(4)のいずれかに記載の結晶化ガラスを提供できる。
【0015】
(6)熱伝導率が1.0〜3.0W/(m・K)である上記(1)から(5)のいずれかに記載の結晶化ガラスを提供できる。
【0016】
(7)主結晶としてβ−石英、β−石英固溶体、及びβ−スポジュメンから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、上記(1)から(6)のいずれかに記載の結晶化ガラスを提供できる。
【0017】
(8)酸化物基準の質量%で、
SiO 40〜65%
Al 10〜30%
1〜13%
RnO 1〜10%
RO 0.5〜15%
TiO及び/又はZrO 1〜7%
As及び/又はSb 0〜2%
の各成分を含有する上記(1)から(7)のいずれかに記載の結晶化ガラスを提供できる。
(RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上)
【0018】
(9)所定の波長からなるレーザ光を吸収し、該吸収箇所において300℃以上の温度上昇を生じる上記(1)から(8)のいずれかに記載の結晶化ガラスを提供できる。
【0019】
(10)所定の波長からなるレーザ光を吸収し、他の物質への加熱源として用いられることを特徴とする、上記(1)から(9)のいずれかに記載の結晶化ガラスを提供できる。
【0020】
(11)上記(1)から(10)のいずれかに記載の結晶化ガラスからなる結晶化ガラス基板を提供できる。
【0021】
(12)上記(11)記載の結晶化ガラス基板を備える光導波路素子、回折格子、光スイッチ、波長可変光学素子、マイクロレンズアレイを提供できる。
【0022】
(13)酸化物基準の質量%で、
、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、CuO、CeO、Pr、Sm、Eu、Tb、及びErから選ばれる1種以上の成分 1〜10%、
SiO 40〜65%、
Al 10〜30%、
1〜13%、
RnO 1〜10%、
RO 0.5〜15%、
TiO及び/又はZrO 1〜7%、
As及び/又はSb 0〜2%、
の各成分を含有するガラスを作製し、前記ガラスを熱処理することを特徴とする上記(1)から(10)のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法を提供できる。
【0023】
(14)650〜750℃の温度で20〜60時間の1次熱処理を行い、次いで700〜800℃の温度で100〜200時間の2次熱処理を行うことを特徴とする上記(13)に記載の結晶化ガラスの製造方法を提供できる。
【0024】
(15)上記(1)から(10)のいずれかに記載の結晶化ガラスに任意の物質を接触させた状態で、前記結晶化ガラスにレーザ光を照射して照射箇所を発熱させ、前記発熱により前記物質を位置選択的に熱処理する方法を提供できる。
【0025】
(16)前記任意の物質は、前記結晶化ガラスに照射されるレーザ光を実質的に透過するものを用いることを特徴とする、上記(15)に記載の物質を位置選択的に熱処理する方法を提供できる。
【0026】
(17)前記任意の物質は非晶質であり、かつ前記結晶化ガラスからの発熱によって熱処理された部分が結晶化されることを特徴とする、上記(15)又は(16)に記載の、物質を位置選択的に熱処理する方法を提供できる。
【0027】
(18)上記(15)から(17)のいずれかに記載の方法を用いることを特徴とする、光導波路素子、回折格子、光スイッチ、波長可変光学素子、マイクロレンズアレイの製造方法を提供できる。
【0028】
本発明において提供できる結晶化ガラスの特徴について以下で詳細に説明する。なお、本明細書において、「結晶化ガラス」とは、ガラスを熱処理することによりガラス相中に結晶を析出させて得られる材料であり、非晶質固体と結晶からなる材料をいう。また、本明細書において、結晶化ガラスに含まれる成分は全て「酸化物基準の質量%」に表す。これは、本発明の結晶化ガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩等が溶融時に全て分解され、それぞれ電荷の釣り合う分だけの酸素と結合した酸化物を生成し、その酸化物の形で結晶化ガラス中に存在するという仮定を基に、当該生成された酸化物の質量比(%)によって含有される各成分を表記する方法である。
【0029】
本発明の結晶化ガラスは、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、CuO、CeO、Pr、Sm、Eu、Tb、及びErから選ばれる1種以上の成分を1〜10%含有する。これらの成分は、光エネルギーに対応するエネルギー順位間の遷移を励起し、光エネルギーを熱へ変換するための非常に重要な成分であり、少なすぎるとレーザ等の光吸収が足りず熱源として機能できなくなる。しかし多すぎるとガラスが失透しやすくなる、溶融性が悪化する、結晶化時に不安定になる等の問題がある。そのため、それぞれの成分において、好ましい含有量は1%以上であり、より好ましくは2%以上であり、最も好ましくは3%以上である。更に、これらの成分の総量として、好ましくは1%以上であり、より好ましくは2%以上であり、最も好ましくは3%以上である。一方、それぞれの成分において、好ましくは10%以下であり、より好ましくは9%以下であり、最も好ましくは8%以下である。更に、これらの成分の総量として、好ましくは10%以下であり、より好ましくは9%以下であり、最も好ましくは8%以下である。これらの成分はそれぞれ得意とする吸収波長帯が異なるので、本材料に吸収させる光の特定の波長に合わせて、これらの成分から最も適したものを含有させることが好ましい。例えば、1064nmの光(例えば、YAGレーザの光)を吸収させる場合、CoO、NiO、及び/又はCuOを含むことが好ましい。また、上記成分の中でも希土類成分に関しては、光吸収効果として個々は大きくはないが、それぞれを組み合わせる事により、対象の光に対しての大きな吸収効果を得ることができる。レーザの種類と、その主な波長及びその波長の光に対して吸収が大きい遷移金属の種類を表1にまとめる。
【0030】
【表1】

【0031】
また、これら成分の種類だけでなくその組合わせ及び含有量を調整することで、一定の連続的な波長域の光を吸収させることも可能である。これらの成分は、結晶化ガラスの成分の組成を後述する範囲に調整し、結晶化条件を調整することにより、より光吸収能力の高い状態として存在しやすくなる。
【0032】
本発明の結晶化ガラスは、上記の成分により光吸収能力を有するが、その吸光係数は、所定の波長、具体的には使用するレーザ光の波長(又は波長の範囲)に対して、好ましくは10cm−1以上、より好ましくは20cm−1以上、更に好ましくは30cm−1以上である。結晶化ガラスの吸光係数が小さすぎると吸収エネルギーが不十分で熱源となることができない。吸光係数について特に上限はないが、用途に応じた他の物性への要求が満たされる限りは、及び、製造条件を満足する限りは、吸光係数は大きいことが望ましい。ここで所定の波長とは、熱エネルギーへの変換が容易な光の波長を意味することができる。これは、使用するレーザの種類及び光吸収成分の種類によって異なるので限定されないが、現在最も実用化されているレーザの種類(エキシマー、YAGなど)を考慮すると、0.15〜1.08マイクロメートルの波長とすることが好ましい。
【0033】
本発明の結晶化ガラスは、広い温度範囲において優れた低熱膨張特性を有する。熱膨張係数が大きすぎると光エネルギーの吸収で昇温したとき周りの低温部分との間で温度差が広がり、熱膨張に起因する熱応力が発生し、ガラスセラミックスに変形が生じる。マイクロオーダー又はナノオーダーの精密な光学部品において、熱膨張係数は非常に厳しい条件をクリアしなければならないが、本結晶化ガラスによると優れた低膨張特性を広い温度領域において達成できるので、光学部品及びその製造工程に貢献できる。特に本ガラスセラミックスを被加工材料の加工熱源として用いる場合、熱による変形は加工位置にずれを生じさせたり、被加工材料の剥離、脱落を生じさせる深刻な問題となるが、本発明によるとこのような問題を回避しつつ良好な光学部材を製造することができる。より具体的には、0〜500℃の温度範囲で−30×10−7/℃以上が好ましく、−20×10−7/℃以上がより好ましく、−10×10−7/℃以上が最も好ましい。一方、+30×10−7/℃以下が好ましく、+20×10−7/℃以下がより好ましく、+10×10−7/℃以下が最も好ましい。
【0034】
本発明の結晶化ガラスは、優れた耐熱性を有する。ここで、耐熱性とは、本発明の結晶化ガラスの物理的及び/又は機械的性質及び/又は化学的性質が変化しないまでの温度が高いことを意味する。具体的には100時間熱処理しても熱膨張係数等特性に変化がなく、相転位が生じたり、機械的強度が不足し変形及び/又は破壊が生じることがない上限温度が高いことを意味する。相転位が生じると、物理的性質(例えば、密度、屈折率、吸光係数等)が変化して、その周りとの間に不必要な応力が生じることがあるので、例えば、ガラス転位点、結晶化温度、軟化温度、融点等の何れもが、或いは、何れかが、500℃以上が好ましく、550℃以上がより好ましく、600℃以上が最も好ましい。本発明のこのような優れた耐熱性は、レーザ等の光エネルギーを吸収して発熱しても破損、変形、又は変質を防止し、被加工材料の加工熱源として用いる場合においても、十分な加熱を行うことができるので好ましい。
【0035】
本発明の結晶化ガラスは高いヤング率を実現する。一般にヤング率は、その物質の結合の強さに依存することが多く、結合力が大きいとヤング率は高くなる。また、温度上昇によりヤング率は通常低下するが、急低下しないものが好ましい。変形を生じるおそれがあるからである。従って、ヤング率は、90GPa以上が好ましく、95GPa以上がより好ましく、100GPa以上が最も好ましい。精密部材として使用される場合、軽量化加工や超精密研磨、微細加工における微小欠陥の防止、同時に各種振動等の外部要因による悪影響の低減に対しても重要であるので、この範囲が好ましい。ヤング率の上限は特にないが、およそ300GPa以下が現実的な値である。
【0036】
本発明の結晶化ガラスは、光エネルギーを吸収して自身を加熱・昇温するために、所定の範囲内の熱伝導率を有する。熱伝導率が大きすぎると、加熱・昇温される前に結晶化ガラス全体に熱が広がってしまう。一方、熱伝導率が低すぎると、高温部分を熱源として熱を別の材料へ伝導させたくても十分な移動ができず、結局良い熱源として機能しなくなる。より具体的には、熱伝導率は、1.0W/m・K以上3.0W/m・K以下の範囲であることが好ましい。また、熱伝導率の代わりに、熱拡散率を用いて同様な範囲を規定できる。熱拡散率αは、熱伝導率をκ、密度をρ、比熱をCpとして、α=κ/ρCpで求められる。
【0037】
本発明の結晶化ガラスは、β−石英、β−石英固溶体、及びβ−スポジュメンから選ばれる少なくとも1種以上の結晶を主結晶として含有する。上記β−石英固溶体とは、β石英の結晶構造を保ったまま、異種原子が一部置換又は侵入した固溶体結晶をいう。β−石英固溶体には、β−ユークリプタイト(LiO−Al−2SiO)及び、それに、Mg、Zn等が一部置換又は侵入したβ−ユークリプタイト固溶体を含む。本明細書において、主結晶相とは、析出比が比較的大きい結晶相全てを指す。すなわち、X線回折におけるX線チャート(縦軸はX線回折強度、横軸は回折角度)において、もっとも析出割合の多い結晶相のメインピーク(最も高いピーク)のX線回折強度を100とした場合、各析出相のメインピーク(各結晶相における最も高いピーク)のX線回折強度の比(以下、X線強度比という)が、30以上あるもの全てを主結晶相という。なお、主結晶相以外の結晶のX線強度比は20未満が好ましく、更に好ましくは10未満、最も好ましくは5未満である。
【0038】
これらの「主結晶」は、本発明の好ましい低膨張特性を構成する上で、必須の結晶であり、他のどの結晶よりも多く含まれるものである。本発明の結晶化ガラスにおいて、低膨張特性は、負の平均線膨張係数を有する主結晶相を析出させ、ガラス相が有する正の膨張係数と結晶相が有する負の膨張係数を相殺させることによって得ることができる。低膨張特性を得るためには、結晶化ガラスの主結晶相には、β−石英(β−SiO)、及び/又はβ−石英固溶体(β−SiO固溶体)を含有することが好ましい。析出する結晶相に関係する結晶化ガラスの成分の組成を後述する範囲に調整し、結晶化条件を調整することにより、低膨張特性が得られやすくなる。
【0039】
本発明の結晶化ガラスは、前述したように負の平均線膨張係数を有する主結晶相を析出させ、正の平均線膨張係数を有するガラスマトリックス相と相まって、全体として極低膨張特性を実現しているので、正の平均線膨張係数を有する結晶相、すなわち、二珪酸リチウム、珪酸リチウム、α−石英、α−クリストバライト、α−トリジマイト、Zn−ペタライトをはじめとするペタライト、ウォラストナイト、フォルステライト、ディオプサイト、ネフェリン、クリノエンスタタイト、アノーサイト、セルシアン、ゲーレナイト、フェルスパー、ウィレマイト、ムライト、コランダム、ランキナイト、ラルナイト及びこれらの固溶体等を含まないことが好ましい。また、これらに加えて、良好な機械的強度を維持するためには、Hf−タングステン酸塩やZr−タングステン酸塩をはじめとするタングステン酸塩、チタン酸マグネシウムやチタン酸バリウムやチタン酸マンガンをはじめとするチタン酸塩、ムライト、3ケイ酸2バリウム、Al・5SiO及びこれらの固溶体等も含まないことが好ましい。
【0040】
本発明の結晶化ガラスは、酸化物基準の質量%で、40〜65%のSiO、10〜30%のAl、1〜13%のP、1〜10%のRnO、0.5〜15%のRO、1〜7%のTiO及び/又はZrO、0〜2%のAs及び/又はSbの各成分を含有する原ガラスを結晶化させることで得られるが、原ガラスの組成範囲を上記のように限定した理由について以下に述べる。
【0041】
SiOは本発明の結晶化ガラスにおけるガラスフォーマーであり、主結晶成分としても機能する有用な成分である。この成分が過少であると析出結晶の不安定化が懸念される反面、過多であれば、ガラスの溶融性が悪化する。より具体的には、SiOは、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上が最も好ましい。一方、SiOは、65%以下が好ましく、63%以下がより好ましく、62%以下が最も好ましい。
【0042】
Alはガラスフォーマーであると同時に溶融性を向上させ、主結晶相成分の構成要素として機能する有用な成分である。この成分が過少であると、溶融性が悪化する、所望の結晶相が十分析出されなくなる等の問題がある反面、過多であれば、ガラスが失透しやすくなる。より具体的には、Alは、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上が最も好ましい。一方、30%以下が好ましく、28%以下がより好ましく、26%以下が最も好ましい。
【0043】
は、本発明の結晶化ガラスの溶融性及び低熱膨張特性を向上させる有用な成分である。この成分が過少であると溶融性及び低熱膨張特性が悪くなる反面、過多であればガラスが非常に失透し易くなる。従ってPは、1%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上が最も好ましい。一方、Pは、13%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0044】
更に、PとSiOの質量百分率の比、PとAlの質量百分率の比がそれぞれ、P/SiO=0.02〜0.21、P/Al=0.05〜0.70であると、熱膨張特性を著しく向上させることができる。より容易に前記効果を得るには、P/SiOの値は0.07以上とすることが好ましく、0.10以上とすることがより好ましい一方、0.20以下とすることが好ましく、0.18以下とすることがより好ましい。また、P/Alの値は0.10以上とすることが好ましく、0.20以上とすることがより好ましい一方、0.60以下とすることが好ましく、0.50以下とすることがより好ましい。
【0045】
また、RnOは、ガラス溶融性向上機能が期待される成分であり、含有させることが好ましい。この含有量が過少であると、溶融性の悪化が懸念される。一方、過大であれば、ガラスが失透するおそれがある。より具体的には、RnOは、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、3%以上が最も好ましい。一方、RnOは、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下が最も好ましい。RnO成分のうち特にLiOは、ガラス溶融性向上機能が期待されるだけでなく、β−石英固溶体を構成する構成要素となる重要な成分である。LiOのこのような効果を十分に享受するためには、その含有量は1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、3%以上が最も好ましい。一方、LiOは、8%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、6%以下が最も好ましい。
【0046】
また、RnO成分のうちNaO、KO、RbO、CsOから選ばれる1種以上は、ガラス溶融性向上機能が期待される成分であるが、本発明の結晶化ガラスにおいては、任意成分であり、含まれなくてもよい。NaO、KO、RbO、CsOのうち少なくとも1種以上の成分を含有させる場合、これらの含有量は、4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下が最も好ましい。
【0047】
また、RO(MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOから選ばれるいずれか1種以上)は、ガラス溶融性向上機能が期待される成分である。
【0048】
MgOはβ−石英固溶体の構成要素としての機能が期待でき、溶融性を向上させる有用な成分であるので、0.5%以上含有されることが好ましく、0.6%以上がより好ましく、0.7%以上が最も好ましい。しかしその量が多すぎるとガラスが失透するおそれがあるので、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0049】
CaOは溶融性を向上させる有用な成分であるので、必須ではないが、0.5%以上含有されることが好ましく、0.6%以上がより好ましく、0.7%以上が最も好ましい。しかしその量が多すぎるとガラスが失透するおそれがあるので、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0050】
SrOは溶融性を向上させる有用な成分であるので、必須ではないが、0.5%以上含有されることが好ましく、0.6%以上がより好ましく、0.7%以上が最も好ましい。しかしその量が多すぎるとガラスが失透するおそれがあるので、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。BaOは溶融性を向上させる有用な成分であるので、必須ではないが、0.5%以上含有されることが好ましく、0.6%以上がより好ましく、0.7%以上が最も好ましい。しかしその量が多すぎるとガラスが失透するおそれがあるので、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0051】
ZnOはβ−石英固溶体の構成要素としての機能が期待でき、溶融性を向上させる有用な成分であるので、0.5%以上含有されることが好ましく、0.6%以上がより好ましく、0.7%以上が最も好ましい。しかしその量が多すぎるとガラスが失透するおそれがあるので、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0052】
RO成分の含有量が過少であると、溶融性の悪化が懸念されるが、過大であれば、ガラスが失透するおそれがあるので、より具体的には、ROは、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上が最も好ましい。一方、ROは、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0053】
TiO及び/又はZrOは、いずれも結晶核形成剤として有用な成分であり、示差熱分析で表わされる結晶化ガラスの熱的特性を制御するのに有効な成分である。この含有量が過少であると、結晶析出の不安定化が懸念される。一方、過大であれば、ガラスが失透するおそれがある。これらの成分はどちらか一方のみを含有しても、両方を含有しても良いが、その総量の下限は、1%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましく、2%以上が最も好ましい。一方総量の上限は、7%以下が好ましく、6.5%以下がより好ましく、6%以下が最も好ましい。
【0054】
また、As及び/又はSbは、必須成分ではないが、脱泡材としての機能が期待されるので、任意に添加できる成分である。これらの成分を含有させ脱泡効果を享受しようとする場合、その量は0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.4%以上が最も好ましい。一方、その量が多すぎると他の物性を劣化させるおそれがあるので、2%以下が好ましく、1.8%以下がより好ましく、1.6%以下が最も好ましい。しかし、これらの成分は環境へ悪影響を及ぼすおそれがあるため、環境への影響を考慮した場合はこれらの成分は含まないことが好ましい。
【0055】
本発明の結晶化ガラスは光エネルギーを吸収する成分の働きによってレーザ光の照射箇所において十分な温度上昇を生じる。具体的には温度上昇によって達成する温度が300℃以上であることが好ましい。ここで、光の吸収箇所において300℃以上とならない場合は、熱源として十分機能できなくなる。300℃以下で好ましい変化(又は変質)をする光学部材用の物質が少ないからである。特に加熱処理により非晶質の被加熱材料を結晶化させる用途に用いるためには、昇温により400℃以上、更に好ましくは500℃以上を達成できる結晶化ガラスが好ましい。
【0056】
本発明の結晶化ガラスは、他の物質への加熱源としての用途に好適である。具体的には、熱処理により相変化又は結晶析出が生じる材料に対する局所的かつ位置選択的な熱源として好適である。本発明の結晶化ガラスは、高い光吸収能力を有すると同時に、所望の熱伝導率を有するので、レーザ等の光エネルギーの照射部位においてのみ、高い温度上昇を生じ、微細熱処理の熱源となり得る。また、低い熱膨張特性及び耐熱性により加熱膨張による熱処理位置のズレや、破損の憂いがない。特に本発明の結晶化ガラスを用いた基板を作成しその上に、被加工材料を成膜等の方法で配置又は接着させ、基板の被加工材料と接する位置に焦点を合わせてレーザ照射をすると基板材を局所的に加熱することができ、これによって従来では不可能であった、微細かつ位置選択的な材料の熱処理が可能になる。しかも膨張による被加工物の歪みや剥離を防止できる。
【0057】
本発明の結晶化ガラスを用いれば、被加工物の結晶化領域を利用した能動的な光路制御素子を容易に製造することができる。すなわち、本発明の材料と、熱処理によって屈折率の変化または非線形効果を有する相変化等が生じる被加工物とを組合わせて、レーザ等により所望の微細なパターンを加工した部材を提供できる。特に、被加工物にレーザ光等を吸収し熱源となる組成を含有させる必要がないので、前記光路制御素子において、光損失のないものを提供することができる。また、本発明の材料は強度においても優れた特性を有するので、これを基体にする場合、特殊な光制御効果を持たせる被加工材料において材料選択の幅が広がるといったメリットがある。例えば、本材料からなる基板に、機能性材料を組み合わせ、前記材料の所望の箇所に相変化領域を形成した光導波路素子、回折格子、光スイッチ、波長可変光学素子、マイクロレンズアレイ等に適用される。しかし、同じ構成を要する光学部材であればこれに限定されない。
【0058】
上記した特徴により本発明の結晶化ガラスは、被加工材料の微細かつ位置選択的な熱処理方法を提供することができる。また、本発明の結晶化ガラスを用いた被加工材料の熱処理方法は、光導波路、回折格子、光スイッチ、波長可変光学素子、マイクロレンズアレイ等の能動的な光学素子を製造するための有用な手段となり得る。レーザを用いた材料の微細加工における既往技術に多いのが、ガラス等の被加工材料に直接レーザ光を照射する方法であるが、この方法によると、ガラス中にレーザ光の空間分布が存在することから、より表面に近い照射領域から深さ方向に従って、変質化度の分布(例えば析出結晶の大きさ、又は屈折率の分布等)が生じてしまうおそれがある。このような分布は光を誘導する部材との接合時において、その両者の形状の違いにより、導波する光の接合損失の原因となる。しかし本発明の結晶化ガラスにレーザを照射させ間接的に加熱する方法では、被加工材料は空間的に制限されていることから、レーザ光照射により変質化する領域の深さ方向への大きさはほぼ変化しない。このことより、既往技術において致命的であった光の接合ロスを改善できる。
【0059】
本発明による結晶化ガラスは以下の方法により製造する。まずガラス原料を秤量、調合し、坩堝などに入れ、約1500℃〜1600℃で溶融し、原ガラスを得、金型に鋳込むか、または熱間成形等の操作により、所望の形状に成形し徐冷する。
【0060】
次に、結晶を析出させるための熱処理を行う。まず、650℃〜750℃の温度、好ましくは下限が680℃及び/又は上限が720℃の温度で20〜60時間の間保持し、核形成を促す。
【0061】
核形成後、750℃〜800℃の温度で結晶化する。この温度が750℃より低いと主結晶相が十分に成長し難く、800℃より高いと原ガラスが軟化変形若しくは再熔解し易くなるため望ましくない。好ましくは下限が770℃及び/又は上限が790℃の温度で結晶化する。結晶化処理の時間は、目的とする結晶相の種類及び体積比によって100〜200時間の間で適宜選択することができる。
【発明の効果】
【0062】
以上のように、本発明の結晶化ガラスは、優れた光吸収能力、広い温度範囲における低熱膨張特性、耐熱性、機械的加工性を有する材料である。また、本発明の結晶化ガラスを用いれば、微小な領域を位置選択的に加熱することが可能であり、加熱により光の能動的制御に適する相変化を起こす材料の加熱に用いれば、光スイッチ、光導波路素子、回折格子、マイクロレンズアレイ等の光学用部材を、容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施例に関し、結晶化ガラス製の基板の表面上に形成された非晶質薄膜の上からレーザ光を当て、基板表面近傍を加熱することにより該薄膜の熱処理を施す原理を示す模式図。
【図2】本発明の実施例の結晶化ガラスの基板に付着された非晶質膜の上からレーザ光を当て、変質化した熱処理領域を示す顕微鏡写真の白黒図。
【図3】本発明の実施例に関し、結晶化ガラス製の基板の表面上に形成された非晶質薄膜の上からレーザ光を当てる様子の模式図。(a)は基板表面近傍を加熱してパターンを形成(パターン熱源)、(b)はそのパターンが転写されたようすを模式的に分解図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について詳しく説明するが、以下の記載は、本発明の実施例を説明するためになされるもので、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。また、同一若しくは同種類の要素については、同一若しくは関連性のある符号を用い、重複する説明は省略する。
【実施例】
【0065】
[実施例]
まず、酸化物、炭酸塩、塩化物、硫化物、硝酸塩等の原料を混合し、これを通常の溶解装置を用いて約1500〜1600℃の温度で溶解し攪拌均質化した後、成形、冷却しガラス成形体を得た。その後これを650〜750℃で約40時間熱処理して結晶核形成後、750〜850℃で約100時間熱処理結晶化して、実施例1〜10の結晶化ガラスを得た。
【0066】
[比較例]
比較例1の結晶化ガラスについては、上記と同様に、酸化物、炭酸塩、塩化物、硫化物、硝酸塩等の原料を混合し、これを通常の溶解装置を用いて約1400〜1500℃の温度で溶解し攪拌均質化した後、成形、冷却しガラス成形体を得た。その後これを530〜630℃で約10時間熱処理して結晶核形成後、720〜820℃で約10時間熱処理し結晶化して、結晶化ガラスを得た。また、比較例2のガラスについても、酸化物、炭酸塩、塩化物、硫化物、硝酸塩等の原料を混合し、これを通常の溶解装置を用いて約850〜950℃の温度で溶解し攪拌均質化した後、成形、冷却し、赤外線吸収ガラスを得た。
【0067】
表2〜表4に実施例1〜10、及び比較例1〜2の組成、吸光係数(cm−1)、0℃〜500℃の熱膨張係数(×10−7/℃)、耐熱温度(℃)、ヤング率(Gpa)、熱伝導率(W/(m・K))を示す。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
平均線膨張係数は押し棒式膨張率測定装置を用いて測定した。十分によく徐冷された、長さ50mm、直径4mmの試料を、毎分4℃の一定速度で昇温加熱しつつ、試料の伸びと温度を正確に測定し、得られた熱膨張曲線から、0〜+500℃の平均線膨張係数を求めた。
【0072】
吸光係数は、分光光度計を用いて測定した。測定サンプルの厚みは10mmを適用し、該当波長での吸収係数を得た。
【0073】
耐熱温度については、測定サンプルを650℃から750℃まで、10℃刻みに温度設定された加熱電気炉中で100時間以上保持し、物理的及び/又は機械的性質及び/又は化学的性質が変化しない温度の上限を耐熱温度とした。
【0074】
ヤング率は、超音波法により測定を行なった。固体中に伝わる超音波(横波と縦波)の伝わる速度により、ヤング率を算出している。
【0075】
熱伝導率については、JIS−R2618に規定されている非定常熱線法に準じた方法で行った。
【0076】
表2〜4に示されるとおり、本発明の結晶化ガラスの実施例は、全て熱膨張特性が0℃〜500℃における平均線膨張係数が0±10×10−7/℃の範囲にあり、優れた低膨張特性を示した。また、1064nm又は532nm波長の吸光係数が20cm−1以上、耐熱温度が全て650℃以上、熱伝導率が1.6〜2W/(m・K)、ヤング率が91〜98GPa以内であった。
【0077】
尚、実施例の結晶化ガラスのX線回折の結果、いずれも主結晶としてβ−石英、β−石英固溶体、及びβ−スポジュメンから選ばれる少なくとも1種以上の結晶を主結晶として含有していることが確認できた。一方、比較例1の結晶化ガラスからは正の平均線膨張係数を有する結晶、LiSi及びα−SiOが確認できた。
【0078】
(加工対象の加熱原理)
図1は、本発明の実施例の結晶化ガラスに、光スイッチ等の光路制御用の光集積回路に適する組成の材料を用いて、光エネルギー吸収特性や熱膨張特性に限定されることなく、光集積回路の光路を形成する原理を説明する模式図である。本実施例の結晶化ガラスからなる基板12の上に、被加工材料(例えば非晶質薄膜など)14がスパッタリング法等により形成される。この被加工材料14は、主に加熱処理によって特殊な光特性を担保できる変化領域(2次光非線形性に基づく電気光学効果を利用できるように2次光非線形性を持つ材料)が生じる組成からなる。この被加工材料の直下の基板12の加熱部位16に焦点を合わせた対物レンズ18により、レーザ光20が、被加工材料14上から照射される。被加工材料は、レーザ光に対して実質的に透明なものを用いる(光損失がなく好ましいからである。)。そうすることで被加工材料は加熱されることなく、加熱部位16が加熱される。そしてこの加熱部位16の温度が上がり、この熱が熱伝導及び界面間の熱伝達により被加工材料14内の局所部分を加熱し、屈折率等が異なる変質部位を生成する。
【0079】
(被加工材料の例:非晶質薄膜)
本発明の実施例1の結晶化ガラスを両面研磨した基板を作製し、その基板上に、スパッタリングにより、BTG系非晶質薄膜を形成した。まず、スパッタリングのターゲットとして、30BaO−15TiO−55GeOガラスを溶融急冷法により作製した。このターゲット板を用いて、キャノンアネルバ社製の高周波スパッタ装置(型番:L−250S−FH)により、以下の条件でスパッタリングを行った。
基板(直径2インチ):耐熱性低熱膨張ガラス 及び 赤外線吸収ガラス
成膜圧力:0.5Pa
混合ガス流量比(Ar:O)=1:1
成膜パワー:100W
基板ターゲット間距離:75mm
成膜時間:4時間
【0080】
上述のスパッタリングにより、実施例1の結晶化ガラスからなる基板の表面に、平均膜厚が約1μm、平均薄膜組成(ICPによる分析)が29BaO−23TiO−48GeO非晶質薄膜を形成した。
【0081】
非晶質薄膜の上から、約1080nmの光を発光するYAGレーザによりレーザ光を照射して、非晶質薄膜の熱処理を行った。レンズ倍率は×20、レーザの強度は1.8W、走査速度は5μm/sであった。図2は、実施例1の結晶化ガラスを基板に用いて行った結果を示す顕微鏡写真である(図中バーは、50μmを示す)。薄膜形成のためのスパッタリングには、30BaO−15TiO−55GeOガラス(BTG55ターゲット)を用いた(以下の実施例で同じ)。光学顕微鏡下において均質なパターニング形成に成功したことが分かる(膜厚:約1μm)。加熱された領域はX線回折パターンから高い二次光非線形性を発現すると考えられるBaTiGe(BTG)結晶及びBaGeに帰属されるピークが見られ、結晶化が確認できた。実施例2〜10による結晶化ガラスを基板に用いた実験においても、図2同様、良好な結晶化パターニングを確認できた。
【0082】
一方、比較例1、2の結晶化ガラス、及び、赤外線吸収ガラスを両面研磨した基板を作製し、その上にスパッタリングによりBTG系非晶質薄膜を形成した。その後、上記同様レーザを照射し薄膜の熱処理を行ったが、基板の照射領域が隆起し、薄膜の剥離が生じた。いずれの場合もレーザ光を吸収し高温となった材料が、その加熱部位の熱膨張により基板上の材料に熱応力を及ぼしたことが原因と考えられる。
【0083】
本発明の実施例にかかる結晶化ガラス基板上に薄膜を付け、その表面からレーザ光20で加熱する様子の概念図を図3に示す。図3(a)は基板表面近傍を加熱してパターン30を形成(パターン熱源)する様子を図示する。(b)ではそのパターン30が、変質相パターン32に転写される様子を、薄膜を持ち上げて模式的に分解図で示す。本発明の結晶化ガラスを熱源として用いる材料の加工方法によると、このように好ましい精密パターンを容易に製造することができる。
【符号の説明】
【0084】
12 結晶化ガラス
14 被加工材料
16 加熱部位
18 対物レンズ
20 レーザ光
30 レーザ照射により生じるパターン熱源
32 パターン熱源による熱処理箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、CuO、CeO、Pr、Sm、Eu、Tb、及びErから選ばれる1種以上の成分を1〜10%含有する、結晶化ガラス。
【請求項2】
所定の波長からなるレーザ光に対して10cm−1以上の吸光係数を有する請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
0〜500℃における熱膨張係数(α)が−30×10−7〜+30×10−7/℃の範囲である請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
500℃以上の耐熱温度を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
ヤング率が90GPa以上であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項6】
熱伝導率が1.0〜3.0W/(m・K)である請求項1から5のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項7】
主結晶としてβ−石英、β−石英固溶体、及びβ−スポジュメンから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項8】
酸化物基準の質量%で、
SiO 40〜65%
Al 10〜30%
1〜13%
RnO 1〜10%
RO 0.5〜15%
TiO及び/又はZrO 1〜7%
As及び/又はSb 0〜2%
の各成分を含有する請求項1から7のいずれかに記載の結晶化ガラス。
(RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上)
【請求項9】
所定の波長からなるレーザ光を吸収し、該吸収箇所において300℃以上の温度上昇を生じる請求項1から8のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項10】
所定の波長からなるレーザ光を吸収し、他の物質への加熱源として用いられることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の結晶化ガラスからなる結晶化ガラス基板。
【請求項12】
請求項11記載の結晶化ガラス基板を備える光導波路素子、回折格子、光スイッチ、波長可変光学素子、マイクロレンズアレイ。
【請求項13】
酸化物基準の質量%で、
、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、CuO、CeO、Pr、Sm、Eu、Tb、及びErから選ばれる1種以上の成分 1〜10%、
SiO 40〜65%、
Al 10〜30%、
1〜13%、
RnO 1〜10%、
RO 0.5〜15%、
TiO及び/又はZrO 1〜7%、
As及び/又はSb 0〜2%、
の各成分を含有するガラスを作製し、前記ガラスを熱処理することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項14】
650〜750℃の温度で20〜60時間の1次熱処理を行い、次いで700〜800℃の温度で100〜200時間の2次熱処理を行うことを特徴とする請求項13に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項15】
請求項1から10のいずれかに記載の結晶化ガラスに任意の物質を接触させた状態で、前記結晶化ガラスにレーザ光を照射して照射箇所を発熱させ、前記発熱により前記物質を位置選択的に熱処理する方法。
【請求項16】
前記任意の物質は、前記結晶化ガラスに照射されるレーザ光を実質的に透過するものを用いることを特徴とする、請求項15に記載の物質を位置選択的に熱処理する方法。
【請求項17】
前記任意の物質は非晶質であり、かつ前記結晶化ガラスからの発熱によって熱処理された部分が結晶化されることを特徴とする、請求項15又は16に記載の物質を位置選択的に熱処理する方法。
【請求項18】
請求項15から17のいずれかに記載の方法を用いることを特徴とする、光導波路素子、回折格子、光スイッチ、波長可変光学素子、マイクロレンズアレイの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150117(P2010−150117A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48289(P2009−48289)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】