説明

結晶性マクロライドおよびその調製方法

【課題】医薬的に使用する化合物の局所性ガレヌス製剤、例えばクリーム、エマルジョンおよび軟膏の調製において使用される、A型およびB型のような結晶型の式I


の33-エピクロル-33-デゾキシアスコマイシンおよびそれらの種々互変異性体もしくは溶媒和型を提供すること。
【解決手段】結晶化誘発条件下またはA型もしくはBそれぞれの選択的結晶化誘発条件下、溶液から式Iの無定型化合物またはそれぞれ他のA型中の式I化合物もしくは他のB型中の式I化合物に適当に変換することを含む方法により、解決される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明はマクロライド化学に関係する。それは、結晶型の式I化合物
【化1】


即ち、{[1E-(1R,3R,4S)]1R,9S,12S,13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R}-12-[2-(4-クロロ-3-メトキシシクロヘキシル)-1-メチルビニル]-17-エチル-1,14-ジヒドロキシ-23,25-ジメトキシ-13,19,21,27-テトラメチル-11,28-ジオキサ-4-アザトリシクロ[22.3.1.0(4,9)]オクタコス-18-エン-2,3,10,16-テトラオンに関係し、以下では簡単に“33-エピクロル-33-デゾキシ-FR520”または“33-エピクロル-33-デゾキシアスコマイシン”と呼ぶ。
【0002】
単純に、この明細書で言及する式Iは、様々な互変異性体型の式I化合物を含むと理解すべきであり、その化合物は、特に溶液状態において、平衡状態にあり、そして溶媒和されており、例えば式
【化2】


および式
【化3】


の互変異性体型のような水和型である。
【0003】
式I化合物は無定型であることが知られており、例えばSandoz EP427680、実施例66aには無色泡樹脂型[1H-NMR=4.56 (m,H-33)]で記載されており、Merck EP480623、実施例53(物理化学的特性は記載されず)にも記載されている。様々な名前および炭素原子番号がその文献中で使用されている。
【0004】
本発明より以前では、式I化合物は結晶型で回収されることはなかった。
【0005】
分子のシクロヘキシル部分において、特にその4位(本明細書の式IおよびIcでは33位と記載している。)のハロゲン原子、特に塩素の存在がこの構造クラスの化合物群の結晶性に好ましくない影響を与えると考えられている。すなわち、EP427680においては、ハロゲン化されている最終生成物はいずれも結晶形で得られておらず、それらは無色泡または泡状樹脂であり、NMRスペクトルで特性化されている。
【0006】
同様に、専ら、シクロヘキシル部分がハロゲン化されたマクロライド最終生成物を対象とするEP480623において、具体的に開示された化合物のいずれについても融点のような結晶性を示唆するデータで特性化されているものはなく、その明細書中で殆どの最終生成物が物理化学的データによる特性化がなされておらず、特性化がなされている場合でも、それはマススペクトルで行われているに過ぎず、物理的状態を示すものではい。そして開示の4-クロロ最終生成物は全く特性化されていない。
【0007】
さらに、シクロヘキシル部分がハロゲン化された類似マクロライドも、例えばFisons WO91/13889、特に実施例42a)、42b)および49b)に開示されているが、その明細書中の化合物群も結晶形は得られておらず、泡または油として回収されているに過ぎない。
【0008】
結局、FK506から誘導される23員トリシクロマクロライドは、結晶形で得ることが困難であり、結晶形で得られるとしても、例えば、Merck WO97/8182からも明らかなように、塩を形成しうる塩基性置換基を有するマクロライド化合物(それは結晶形で得られるが酒石酸塩である。)に限られている。本発明化合物には、そのような塩基性置換基はない。
【0009】
それゆえ、今回、式I化合物の結晶化に成功したのは驚くべきことである。
【0010】
本発明は式I化合物の結晶型に関係する。結晶型は、溶媒和型、例えば水和型であるか、もしくは無水型、または互変異性体として得られる。
【0011】
結晶型の式I化合物の最初の回収は化合物の最初の合成から数年後であり、最初は無定型のみが得られ、さらにその後の最初の結晶化において化合物は無定型から実に容易に結晶化が誘発されることとなった。そのため、今では、最初に用いた再結晶条件(無定型化合物のエタノール性溶液に水を加えることを含む)の延長線上の種々の実験条件を用い、結晶物質を容易に作成することが出来る。
【0012】
本発明は、結晶型の式I化合物、またはそれらの互変異性体もしくは溶媒和型を調製する方法にも関係し、結晶誘発条件下、溶液から式I無定型化合物を適切に変換することを含む。
【0013】
本発明は、当該方法により調製される限り、結晶型の式I化合物またはそれらの互変異性体もしくは溶媒和型にも関係し、結晶型から生成される限り、例えば溶解されている状態の非結晶性の式I化合物またはそれらの互変異性体もしくは溶媒和型にも関係する。
【0014】
本発明の方法は通常の方法に有効である。結晶が形成する正確な条件は今では経験的に決定され、数多くの方法が実施可能であり、それらの方法は無定型の式I化合物のエタノール性溶液に水を最初に加えることを含む。
【0015】
結晶誘発条件は、メタノール、エタノール、イソプロパノールもしくは水またはそれらの混合物のような適当な結晶誘発溶媒の使用を通常含む。通常、無定型化合物は通常の温度少なくとも10℃で溶媒に溶解する。溶液は、溶媒に何れか1種以上の無定型化合物および溶媒和物、例えば水和、メタノレート、エタノレート、イソプロパノレートおよびアセトニトリレートを溶解することにより調製する。次いで、結晶を溶液からの変換により形成し、約10℃と溶媒の沸点との間の温度で結晶化が生じる。溶解および結晶化は種々の通常方法で行い得る。例えば、無定型化合物は溶媒または溶媒混合物に溶解し得、それは高温で容易に可溶化するが、低温では可溶量が減少する。高温で溶解後、溶液から望ましい結晶が生ずるまで冷却する。適当な溶媒は酢酸メチルおよび酢酸エチルのようなエステル、トルエンおよびアセトニトリルを含む。化合物が容易に溶解、好ましくは30℃での溶解量が少なくとも1重量%である良好な溶媒、および溶解量の少ない、好ましくは30℃での溶解量が約0.01重量%以下である貧溶媒を含む混合溶媒を用いることも出来る。ただし、選択溶媒混合物を用いると低温、通常低くとも10℃の混合物からの結晶化が可能となることが条件である。
【0016】
さらに、異なる溶媒における結晶の溶解性の相違を使用し得る。例えば、無定型化合物は、約30℃で溶解量が少なくとも1重量%である溶媒といった可溶性の高い良好な溶媒に溶解し、その後、約30℃での溶解量が約0.01重量%以下である溶媒といった溶解性の低い貧溶媒と溶液を混合する。そのため、約10℃を超える温度に通常に維持しつつ良好な溶媒中の化合物溶液を貧溶媒に加えるか、また約10℃を超える温度に通常に維持しつつ貧溶媒を良好な溶媒中の化合物溶液に加えることが出来る。良好な溶媒の例に、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールのような低級アルコール、ならびにアセトン、テトラヒドロフランおよびジオキサンを含む。貧溶媒の例に、水、ヘキサンおよびジエチルエーテルを含む。好ましくは、結晶化は約10℃から約60℃の範囲の温度で生ずる。
【0017】
本発明の方法の他の実施態様では、通常の温度、低くとも約10℃で、当該温度で可溶が不完全、好ましくはわずかに可溶するのみの溶媒に固体無定型を懸濁する。懸濁液は、固体微粒子を分散し、溶媒中に不完全に溶解したままの状態を生ずる。好ましくは、固体は攪拌により、例えばシェイキングまたはスターリングにより懸濁状態が維持される。懸濁液は、出発固体から結晶に変換するために約10℃以上の通常温度で維持される。適当な溶媒に懸濁された無定型固体化合物は溶媒和物、例えば水和、メタノレート、エタノレート、イソプロパノレートまたはアセトニトリレートであってもよい。無定型粉末は溶媒和物を乾燥することにより得られる。
【0018】
結晶化を誘発するために溶液に結晶物質の“種”を加えることが好ましい。
【0019】
結晶型の式I化合物は容易に単離し得る。その単離は、例えば結晶媒質から濾取または遠心分離(望ましいならば冷却後)し、洗浄し乾燥し、さらに同様の条件を用い再結晶してもよい。
【0020】
最初の回収により、この明細書中で“A型”と名付けた結晶型の物質が生じ、その一方、驚くべきことに少なくとも1つの他の結晶型の化合物を回収でき(この明細書中では“B型”と名付ける)、その化合物は溶解性のような種々の特性において式Aとは相違するという知見が更に得られた。そのため、本発明は、このような結晶型の式I化合物またはそれらの互変異性体もしくは溶媒和型に関係し、更に特にA型およびB型に関係する。A型が好ましい。
【0021】
A型は室温で通常水和型である。水和型は約110℃の加熱により可逆的に脱水できる。それによってA型が得られる。水和型は室温でより安定な状態のA型の状態である。B型は室温でも通常水和型にならない。それはA型よりも熱力学的に安定な型である。
【0022】
この明細書で定義する結晶型は、他の型を多くとも約0.5%(w/w)、例えば多くとも約0.1%(w/w)含むときに“結晶学的に純粋”であるとしている。そのため、例えば“結晶学的に純粋なA型”は約0.5%(w/w)以下、例えば約0.1%(w/w)以下のB型および/または無定型物を含む。
【0023】
A型およびB型の調製は通常の手段で行われ得、出発は無定型物質または個々のB型もしくはA型、もしくはその混合物の何れかから始まる。通常、出発物質は適当な溶媒に溶解され、好ましくはA型またはB型の何れかを生成する条件下その溶媒から結晶または再結晶し、結晶学的に純粋なA型またはB型を生ずる。
【0024】
そのため、本発明は、結晶性A型の式I化合物またはそれらの互変異性体もしくは溶媒和型の調製の変法を含み、A型の選択的結晶化を誘発する条件下、溶液から他のA型中の式I化合物またはそれらの互変異性体もしくは溶媒和型に適当に変換することを含む。その変法により調製されるときはA型中の式I化合物にも関係する。
【0025】
逆に言えば、本発明は、結晶性B型の式I化合物またはそれらの互変異性体もしくは溶媒和型の調製の変法を含み、B型の選択的結晶化を誘発する条件下、溶液からB型以外の式I化合物を適当に変換することを含む。その変法により調製される限り、本発明はB型の式I化合物にも関係する。
【0026】
A型の調製の場合、出発物質を、適当な溶媒、好ましくはエタノール/水、好ましくは9.5:0.5(v/v)の割合の溶媒に通常溶解する。溶解のための温度は約60℃から約75℃、好ましくは約70℃である。溶媒に対する出発物質の割合は重量比で約1:5から約1:6、好ましくは約1:5(w/w)である。溶液を濾過し、次いで低温、好ましくは約70℃から約20℃、約10℃に冷却し、A型が不溶性である水のような液体を注意深く加える。それにより過飽和溶液が生ずる。A型の結晶が自然に生じるが、好ましくは過飽和溶液を結晶学的に純粋な数個のA型の結晶で種植えする。融解顕微鏡(melt microscope)を使って種晶(seeding crystal)の純度を調べることは通常有益である。さらに、注意深く攪拌しならがら液体を加えるとA型の結晶がさらに得られる。低温、即ち約20℃未満および結晶学的に純粋なA型の結晶による種植えによりB型の結晶の形成は妨げられると考えられる。B型は熱力学的に、より安定であるから、長く攪拌しすぎると逆効果となり、特に約10℃以上では逆効果となる。
【0027】
便利がよいのは、初期段階として、出発物質を、アルコールのような極性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、好ましくはエタノールに、またはアセトンに、特にアセトンに、好ましくは沸騰温度で好ましくは完全に溶解し、溶媒は乾燥するまで蒸発させる。
【0028】
B型の調製のために、出発物質を、A型の上記調製のような溶媒に、好ましくはエタノール/水 9.5:0.5(v/v)に再び溶解する。溶解のための温度を再び約60℃から約75℃、好ましくは約70℃にし、生じた溶液を濾過する。溶媒に対する出発物質の割合は、A型を調製する場合よりも幾分少なく、好ましくは約1:7(w/w)である。しかし、冷却はB型を調製するときよりも高く、好ましくは約20℃、例えば25℃または30℃であり、更に仕上げもその温度または同様の温度で行う。B型の結晶を用いたシーディングは任意であるが、結晶化はより促進され、例えば温度について許容範囲が広がる。過飽和溶液の形成速度もまた、得られる結果に幾分効果を与えると考えられ、速い過飽和によりB型の形成が増加する。
【0029】
溶媒和物、例えば水和物は、通常の方法で相当する非溶媒和型に変換され得、逆に適当に溶媒和型を加熱することにより、または溶媒和可能な結晶型の非溶媒和型を冷却することにより変換し得る。
【0030】
同一の2つの結晶型は、以下の物理化学的データにより特性解析がされる
1)A型
様子:白から灰色がかった白、良好な結晶粉末(エタノール/水由来);
DSS(10°K/分)で測定した融点:約132℃で融解開始;
溶解度(5℃):水:不溶性
メタノール、エタノール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、
ジイソプロピルエーテル:>100mg/ml
ヘキサン:<10mg/ml;
溶解度(25℃):アセトン、アセトニトリル、エタノール、酢酸エチル、
イソプロパノール、メタノール:>50mg/ml
水:<1mg/ml;
クリームの油相中の溶解度(オレイルアルコール/ミグリオール812 4:6):2.49%;
化学的純度:98.5%;
熱重量分析:融解までの乾燥減少質量:1.46%(カールフィッシャー滴定);
形態(SEM):棒状および塊(1-100μm);
吸湿性(熱重量分析により吸収量を測定):1.49%(1日、相対湿度92%);1.78%(1週間、25℃、相対湿度75%);
DSCカーブ:図1参照(Perkin Elmer DSC-7 ディファレンシャル・スキャンニング・カロリーメーター;40℃から200℃で測定、スキャン加熱速度10°K/分);
FT−IRスペクトル:図3および5参照(PE FT-IRスペクトルメーター1725X;KBr、パラフィンオイル;スキャンレンジ4000-400m-1)
X線粉末回折パターン:図6参照(Scintag XDS 2000 粉末回折計;Scintag, Santa Clara, CA, USA);スキャン速度0.5° または 1°/分(2θ値)
【0031】
2)B型
DSC(10°K/分)で測定した融点:約159℃で融解開始;
溶解度(5℃):水:0.3mg/ml
メタノール:46.8mg/ml
エタノール:18.1mg/ml
酢酸エチル:>50mg/ml
ジエチルエーテル:9.3mg/ml
ジイソプロピルエーテル:1.9mg/ml
ヘキサン:0.8mg/ml;
溶解度(25℃):水:0.4mg/ml
メタノール:>50mg/ml
エタノール:34.4mg/ml
酢酸エチル:>50mg/ml
ジエチルエーテル:16.3mg/ml
ジイソプロピルエーテル:3.1mg/ml
ヘキサン:1.5mg/ml;
TMFクリームの油相中の溶解度(オレイルアルコール/ミグリオール812 4:6):0.37%;
化学的純度:99.9%;
熱重量分析:融解までの乾燥減少質量:<0.05%;
形態(SEM):針状;
吸湿性(熱重量分析により吸収量を測定):1日、相対湿度92%および1週間、25℃、相対湿度75%:なし;
DSCカーブ:図2参照(Perkin Elmer DSC-7;40℃から200℃、スキャン加熱速度10°K/分);
FT−IRスペクトル:図4および5参照(PE FT-IRスペクトルメーター1725X;KBr、パラフィンオイル;スキャンレンジ4000-400m-1);
X線粉末回折パターン:図6参照(Scintag XDS 2000 粉末回折計);スキャン速度0.5° または 1°/分(2θ値)
【0032】
3)参考のために無定型の相当するFT-IRスペクトルを図7に示す。
化合物全ての型の特性解析データを更に以下に示す。
旋光度:[α]20=-48.0°(±0.2°)(CDCl);
TLC:R=0.18(シリカゲル;ヘキサン/酢酸エチル2:1)
=0.62(シリカゲル;ヘキサン/酢酸エチル1:1);
H-NMR(CDCl):2配座異性体(Z:E=1:2)主な配座異性体d[ppm]の特徴的なシグナル:5.35 (d,J = 1.7 Hz, H-26, 5.12 (d,J = 9.0 Hz, H-29), 5.05 (d,J = 9.4 Hz, H-20), 4.60 (d,J = 5.0 Hz, H-2), 4.56 (m,w1/2 = 10 Hz, H-33), 4.43 (d, J = 13.8 Hz, H-6e), 3.66 (dd, J = 9.6 Hz, J = 1.0 Hz, H-14), 3.92 (m,H-24), 2.80 (dd, J = 15.9 Hz, J = 2.7 Hz, H-23a)
13C-NMR(CDCl):2配座異性体(Z:E=1:2)主な配座異性体d[ppm]の特徴的なシグナル:213.7 (C-22), 196.3 (C-9), 169.1 (C-1), 164.8 (C-8), 138.8 (C-19), 132.5 (C-28), 129.2 (C-29), 122.0 (C-20), 97.0 (C-10), 79.2 (C-32), 76.7 (C-26), 75.2 (C-15), 73.7 (C-14), 72.9 (C-13), 70.2 (C-24), 59.3 (C-33), 56.7 (C-2), 54.7 (C-21), 48.6 (C-18), 39.2 (C-6), 42.7 (C-23), 39.4 (C-25), 34.7 (C-30), 34.6 (C-11), 32.8 (C-12), 32.1 (C-35), 31.7 (C-34), 27.7 (C-3), 26.4 (C-17), 25.5 (C-31), 24.5 (C-5), 24.2 (C-36), 21.1 (C-4), 20.6 (17-Me), 16.2 (11-Me), 15.9 (19-Me), 14.2 (28-Me), 11.7 (C-37), 9.3 (25-Me)
上記NMRスペクトルにおいて、炭素原子番号は以下の式Icに示した通りである。
【化4】

【0033】
略語
DMSO: ジメチルスルホキシド
DSC: ディファレンシャル・スキャンニング・カロリーメーター
FT-IR: フーリエ変換した赤外線
m.p.: 溶解温度
r.h.: 相対湿度
SEM: スキャンニング電子顕微鏡
T: トランスミッション
TG: 熱重量分析
THF: テトラヒドロフラン
TLC: 薄相クロマトグラフィー
【0034】
図の説明
図1:A型のDSCカーブ(水和物)
図2:B型のDSCカーブ(無水物)
図3:A型のFT-IRスペクトル(水和物)
(%T=パーセントトランスミッション)
図4:B型のFT-IRスペクトル
(%T=パーセントトランスミッション)
図5:A型(水和物)およびB型とのFT-IRスペクトルの比較
(%T=パーセントトランスミッション)
A型(水和物)=グラフは90%Tから始まる
B型=グラフは82%Tから始まる
図6:A型(水和物)およびBのX-線粉末回折パターン
Mod. A=A型(水和物)
Mod. B=B型
左縦座標:密度(cps=秒あたりの数)
右縦座標:相対密度(%=パーセント)
上部横座標:レゾリューション
下部横座標:2θ角度(度)
図7:無定型のFT-IRスペクトル(%=パーセントトランスミッション)
【0035】
無定型の式I化合物は医薬として知られており、特に、全身性および局所性の抗炎症、免疫抑制および抗増殖剤として使用される。クリーム、エマルジョンおよび軟膏のような、医薬的使用に適当なガレヌス製剤の調製は困難である。そのため、化合物の無定型は、バルク状態では不安定となるという問題を抱えており、例えば、バルク物質の分解、吸湿性、溶解特性および物質全体の純度の低下に関し、正確に定義づけられた結晶型と比べて通常ガレヌス製剤に適当ではない。
【0036】
それゆえ、局所剤形、例えばクリーム、エマルジョンおよび軟膏(通常溶解状態ではあるが慎重に制御された条件下で化合物を含むことが望ましい)の調製におけるような上記不利の克服が示唆される場合、特徴的な式I化合物の結晶型の利用により、化合物のガレヌス製剤の調製における使用が特に示唆される。そのため、クリームの調製において、A型は約10分間で油相中に溶解するが、B型は約6時間かかる。それゆえ、特徴的な特性の結晶産物の使用に非常に有利であり、それによってA型またはB型が特に適用に依存して、例えば低い融点またはより高い溶解性が望ましいときにはA型が、高い融点または室温でより熱力学的に安定な生成物が適当であるときはB型が好ましくは用いられる。
【0037】
結晶型で得られる有効な効果は、例えば:
溶解状態のような最終薬剤物質中の溶媒残留が少ない
結晶により更なる精製が行われる効果
有効成分の高い安定性
製造プラントにおける簡易な取り扱い
である。
【0038】
結晶型の式I化合物は何れかの通常の方法で投与できるよう製剤化され得る。それは、好ましくは最終ガレヌス製剤の溶解状態であるのが好ましい。
【0039】
そのため、本発明は、A型およびB型のような結晶型の式I化合物またはそれらの互変異性体もしくは溶媒和型を含む(または製剤するときは何時でも)医薬組成物を含む。それは、抗炎症性、免疫抑制性および抗増殖性活性を有する医薬として使用され、または薬剤の調製に使用される、結晶型の式I化合物またはそれらの互変異性体もしくは溶媒和型も含む。
【0040】
以下の実施例は本発明を解説するものであるが、これらに限定するものではない。全ての温度は特記しない限り摂氏温度である。
【0041】
実施例1:結晶性33-エピクロル-33-33-デゾキシアスコマイシン(A型)
(エタノール中の無定型物の溶液より)
エタノール180ml中の無定型33-エピクロル-33-デゾキシアスコマイシン(無色泡樹脂)27gの溶液に、一時的ににごりが表われるまで室温で慎重に水を加える(水、約65ml)。溶液を4℃で16時間静置する。無色結晶が生ずる。水10mlを加え、混合物を4℃で更に4時間静置する。結晶物質を吸引で分離し、エタノールおよび水1:1(v/v)の氷冷混合物で洗浄し、減圧下(12mmHg)、20時間室温で乾燥する。標題化合物が得られる(収量18g;融点135-136℃;化学的純度98%以上、即ち、HPLCの分析検出限界以下の不純物;水和物)。
【0042】
実施例2:1%クリーム中のA型およびBの可溶化
a)クリーム製剤中のA型の溶解度は室温で約1%であると推定される。クリームの製造において、薬物は60-75℃で油相に完全に溶解する。溶解した薬物の一部が1%クリームから結晶化するかどうかおよび保存期間経過後結晶化するかどうか評価するために、ある一連のバッチで結晶を調べる。10のバッチの調査により、製造後ならびに5°、25°および40°での保存後、結晶は観察されない。約3ヶ月間の温度サイクル試験を行う試料中でさえ、結晶は検出されない。ある前製剤(preformulation)(1%)においてのみ、薬物結晶が25°1年の保存後散在して生じ、これは薬物の飽和に関し1%クリームがボーダーラインであることを示唆する。
バッチに用いた薬物および上記前製剤は100%のA型を含む。
【0043】
b)B型を含む薬物が製造クリームに完全に溶解するかどうか評価するために、および長期間の結晶化挙動を評価するために、式I化合物の全含有量に対し0%、1%、5%および10%B型を含む幾つかの前製剤(クリーム1%)を製造し、様々な温度で安定試験を行う。
これら前製剤の調製の間、クリームの油相中の結晶性B型の溶解速度は結晶性A型よりもかなり遅いことが観察された。製造直後に型を調べると、残存する結晶は観察されない。
これら型の長期に渡る結晶化の挙動についての情報を得るために、安定試料を6週間、3、6および9ヶ月保存後さらに調査する。保存を延長しても結晶は形成されないという結果となる。
【0044】
実施例3:33-エピクロル-33-デゾキシアスコマイシンの結晶性A型
(エタノール/イソプロパノール/水の溶液より)
33-エピクロル-33-デゾキシアスコマイシンB型(または他に粗A型、または無定型物質)10gをエタノール/イソプロパノール/水 9:0.5:0.5(v/v)の混合物10gに70℃で1:5(w/w)で溶解し、混合物を0.5μmフィルターで濾過(clearfiltration)する。結晶芽(crystallization germ)のない生じた溶液を10°に冷却し、水を加え溶液を可飽和する(生成物量に基き25%w/w)。種晶植えはA型の結晶0.06gで行い(次にサーマル顕微鏡で調査する)、水(生成物量の7.5倍を超える)を10℃で4時間に渡り慎重に加え、その後溶液を2時間その温度で攪拌する。標題化合物が得られる(水和物;9.3g)。
可能な限り結晶学的に純粋なA型の結晶でシードすることが望ましい。そのため、純度としてB型の結晶2%を含むA型の結晶を用いるシーディングにより、純度としてB型の結晶20%を含むA型の結晶を回収できる。しかしながら、低温において熱力学的により安定なB型の形成は明らかに阻害され、そのためA型およびBの両方の混合物1:1を用いる0℃のシーディングにより、A型75%を含む生成物を生ずる。
【0045】
実施例4:33-エピクロル-33-デゾキシアスコマイシンの結晶性B型
(エタノール/イソプロパノール/水中の溶液より)
33-エピクロル-33-デゾキシアスコマイシンA型(水和物)(または他に粗B型または無定型物質)25gを70℃でエタノール/イソプロパノール/水 9:0.5:0.5(v/v)の混合物75g中に1:7(w/w)で溶解し、混合物を完全濾過する。生じた溶液を30°に冷却し、B型の結晶0.1gでシードしてもよい。水(生成物量の3.5倍を超える)を慎重に4時間に渡って加え、標題化合物を得る(24.6g)。
【0046】
実施例5:33-エピクロル-33-デゾキシアスコマイシンの結晶性A型
(アセトン中の粗生成物溶液より)
アセトン1500ml中の粗33-エピクロル-33-デゾキシアスコマイシン(例えば以下のクロマトグラフィーで得られるような)(A型および/またはB型および/または無定型生成物を種々の量を含む)94.5gの溶液を48-52°(400-50mbar)で蒸発させる。生じた無定型泡をエタノール/イソプロパノール9.5:0.5(v/v)500mlに溶解する。溶液を48-52°(400-50mbar)で蒸発させる。生じた泡をエタノール/イソプロパノール 9.5:0.5(v/v)400mlに溶解し、加熱溶液(70-75°)を0.45μmフィルターで濾過する。溶液を30-40分間に渡り20-25°に冷却し、水200mlを加え、混合物をA型結晶でシードする。攪拌は20-25°で1時間続ける。懸濁液をつくり、それを0-5°に冷却し、更に4時間攪拌する。結晶を濾過し、前もって冷却したエタノール/水1:3(v/v)300mlで洗浄する。45-50°(10-20mbar、16時間)で乾燥すると、標題化合物(水和物;無色結晶)を得る。
【0047】
実施例6:33-エピクロル--33-デゾキシアスコマイシンの結晶性A型
(アセトン中のB型の溶液より)
33-エピクロル-33-デゾキシアスコマイシンB型94.5gを沸騰アセトン1500mlに溶解する。次いで、アセトン溶液(B型のシードは全くない)を上記実施例5の通りに処理する。標題化合物を得る(水和物;無色結晶)。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】A型のDSCカーブ(水和物)
【図2】B型のDSCカーブ(無水物)
【図3】A型のFT-IRスペクトル(水和物)(%T=パーセントトランスミッション)
【図4】B型のFT-IRスペクトル(%T=パーセントトランスミッション)
【図5】A型(水和物)およびB型とのFT-IRスペクトルの比較(%T=パーセントトランスミッション);A型(水和物)=グラフは90%Tから始まる;B型=グラフは82%Tから始まる
【図6】A型(水和物)およびBのX-線粉末回折パターン;Mod. A=A型(水和物);Mod. B=B型;左縦座標:密度(cps=秒あたりの数);右縦座標:相対密度(%=パーセント);上部横座標:レゾリューション;下部横座標:2θ角度(度)
【図7】無定型のFT-IRスペクトル(%=パーセントトランスミッション)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】


の化合物またはその互変異性体もしくは溶媒和物の結晶。
【請求項2】
式Iの化合物またはその互変異性体もしくは溶媒和物の溶液から結晶誘発条件下に請求項Iの結晶を晶出させることを特徴とする、請求項1に記載の結晶調製法。
【請求項3】
式Iの化合物またはその互変異性体もしくは溶媒和物を約60〜75℃の温度で溶媒に溶解させ、得られた溶液をろ過し、冷却し、目的とする結晶が不溶性の液体を添加することを特徴とする、請求項2に記載の結晶調製法。
【請求項4】
式Iの化合物またはその互変異性体もしくは溶媒和物を約60〜75℃の温度で溶媒に溶解させ、その際式Iの化合物またはその互変異性体もしくは溶媒和物と溶媒の重量比を約1:5〜1:6とし、得られた溶液をろ過し、約20℃以下に冷却し、A型結晶が不溶性の液体を添加することによりA型結晶を晶出させることを特徴とする、請求項2記載の結晶調製法。
【請求項5】
A型結晶が不溶性の液体を添加した後、A型種晶を加えることを特徴とする、請求項4記載の結晶調製法。
【請求項6】
式Iの化合物またはその互変異性体もしくは溶媒和物を約60〜75℃の温度で溶媒に溶解させ、その際式Iの化合物またはその互変異性体もしくは溶媒和物と溶媒の重量比を約1:7とし、得られた溶液をろ過し、約20℃以上に冷却し、B型結晶が不溶性の液体を添加することによりB型結晶を晶出させることを特徴とする、請求項2記載の結晶調製法。
【請求項7】
B型結晶が不溶性の液体を添加した後、B型種晶を加えることを特徴とする、請求項6記載の結晶調製法。
【請求項8】
有効成分として請求項1に記載の結晶を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項9】
請求項2〜7の何れかに記載の結晶調製法で得られた、請求項1に記載の結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−151999(P2006−151999A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55107(P2006−55107)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【分割の表示】特願平11−506287の分割
【原出願日】平成10年6月26日(1998.6.26)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】