説明

結晶性多孔質シリカ化合物−強酸性陽イオン交換樹脂複合体およびその調製方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、結晶性多孔質シリカ化合物と強酸性陽イオン交換樹脂との複合体、その調製方法およびこの複合体からなる触媒に関する。
【0002】
【従来の技術】強酸性陽イオン交換樹脂であるナフィオン(登録商標、デュポン社製)は、イオン交換樹脂やイオン交換膜としてだけでなく、固体強酸触媒等としても広く応用されている。固体酸触媒としてのナフィオンは(市販されているNR-50(登録商標、デュポン社製)がその代表的例)、アルコールやカルボン酸等の含酸素化合物を用いる反応において優れた触媒作用を示す。これは、アルコール等が触媒を膨潤し触媒の細孔が拡がるので、基質と触媒作用を持つ強酸性のスルホン酸基が容易に接触できるからである。
【0003】しかしながら、反応基質が炭化水素の反応系では、反応が極端に遅くなる。これは、炭化水素が触媒の膨潤をほとんど引き起こさず、触媒の細孔が小さいままであるので、触媒内への反応基質の拡散が遅いからである。強酸性触媒による炭化水素の変換反応は、工業的にも重要であり、ナフィオン触媒の汎用性を向上させるには、この欠点を克服する必要がある。
【0004】最近、デュポンの研究グループは、無機多孔質固体である非晶質シリカとナフィオンとの複合体(SAC-13(登録商標、デュポン社製))を調製し、この複合体を炭化水素の反応に用いると、基質が触媒内で速く拡散し、良好な速度で反応が進行することを報告した(M.A.Harmerら,J.Am.Chem.Soc.,vol.118,7708頁,1996年)。
【0005】しかしながら、上記複合体では、シリカがアモルファス(非晶質)であり、細孔の大きさにばらつきがあるので、単にナフィオン固体中のスルホン酸基と基質との接触を促進するのみで、スルホン酸基の触媒特性の改良までには至らなかった。
【0006】一方、近年、メソ孔を有する結晶性多孔質シリカ(メソポーラスシリカ)に関する研究も盛んである。このような結晶性多孔質シリカとして、例えば、MCM-41(J.S.Beckら,J.Am.Chem.Soc.,vol.114,10834頁、1992年)が挙げられる。このメソ細孔シリカは、ある定まった直径の細孔が一次元に配列したものであり、その特異な反応場は新しい反応性、選択性をもたらすと期待されている。
【0007】メソ細孔化合物についても、触媒特性の改良等を目的として、有機物との複合化が望まれている。これまでに、細孔表面にメチル基等の簡単な有機基を導入し、固体表面の親水性を下げ、疎水性を向上させる試みが行われている(例えば、N. Igarashiら,Chem. Lett., 1頁,1999年)。しかしながら、メソ孔を形成する結晶化過程において、通常130℃以上の高温が必要となるので、複雑な有機化合物の導入は困難である。事実このような化合物は未だ報告されておらず、結晶性多孔質シリカ化合物と有機高分子との複合体は全く知られていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、新規な結晶性多孔質シリカ化合物と有機高分子との複合体、その調製方法およびこの複合体からなる触媒を提供することを主な目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】発明者は、鋭意研究を重ねた結果、結晶性多孔質シリカ化合物と強酸性陽イオン交換樹脂との複合体を調製できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】即ち、本発明は、下記の複合体、その調製方法およびその用途を提供するものである。
1.結晶性多孔質シリカ化合物と強酸性陽イオン交換樹脂との複合体。
2.結晶性多孔質シリカ化合物が、メソポーラスシリカである上記1に記載の複合体。
3.強酸性陽イオン交換樹脂が、スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂である上記1に記載の複合体。
4.ケイ素アルコキシド、カチオン型界面活性剤、強酸性陽イオン交換樹脂および溶媒を混合したものを加熱することを特徴とする結晶性多孔質シリカ化合物と強酸性陽イオン交換樹脂との複合体の調製方法。
5.カチオン型界面活性剤が、第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩および水酸化四級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする上記4に記載の複合体の調製方法。
6.結晶性多孔質シリカ化合物と強酸性陽イオン交換樹脂との複合体からなるスチレンまたはスチレン誘導体の二量化反応の触媒。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明の複合体は、結晶性多孔質シリカ化合物と強酸性陽イオン交換樹脂との複合体である。
【0012】本発明の複合体における結晶性多孔質シリカ化合物部分は、規則的な細孔構造を有する多孔質シリカ化合物であれば特に制限されず、一次元的細孔によって構成されたほぼ均一な規則的細孔構造を有していることが好ましい。一次元的細孔構造とは、筒状の細管が同一方向に整列し、更に積層している状態を示す。このような化合物としては、例えば、メソポーラスシリカ化合物などを挙げることができる。このようなメソポーラスシリカ化合物としては、例えば、MCM-41、MCM-48, MCM-50, FSM-16等が挙げられる。或いは、例えば、ジルコニウム、チタン等の酸化物を含むメソポーラスシリカ化合物であってもよい。
【0013】本発明の複合体における(結晶性多孔質シリカ化合物部分の)細孔の大きさは、メソ孔であれば特に制限されない。本発明の複合体における細孔の大部分(これを以下主細孔という)の直径は、メソ孔である限り特に制限されないが、通常1〜10nm程度、好ましくは1〜5nm程度、特に好ましくは2〜4nm程度である。複合体における主細孔の細孔全体に占める割合は、特に制限されないが、通常約70%以上、好ましくは85〜100%程度である。主細孔の細孔全体に占める割合が約85%以上であって、主細孔の直径が2〜4nm程度であるメソポーラスシリカ化合物部分を有する複合体が特に好ましい。なお、複合体の細孔の値および主細孔の細孔全体に占める割合は、窒素吸着法の吸着等温線からBJH(Barnett-Joyner-Halenda)法を用いて算出した値とする。
【0014】複合体の比表面積は、特に制限されないが、窒素吸着によるBET比表面積として、通常200〜1000m2/g程度、好ましくは400〜800m2/g程度である。複合体の細孔容積は、特に制限されないが通常0.1〜1cm3/g程度、好ましくは0.4〜0.8cm3/g程度である。本発明におけるBET比表面積および細孔容積の値は、窒素吸着の吸着等温線により算出した値とする。
【0015】本発明の複合体における強酸性陽イオン交換樹脂部分は特に制限されないが、イオン交換樹脂部分がpKa≦3程度の酸性度を示すことが好ましい。さらに、強酸性陽イオン交換樹脂部分が、約130℃以下において分解しない複合体が特に好ましい。本発明の複合体における強酸性陽イオン交換樹脂部分としては、例えば、スルホン酸基などの官能基を有するイオン交換樹脂を例示することができる。スルホン酸基を有するイオン交換樹脂としては、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂(例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)等)等を例示することができる。
【0016】複合体の形状は、特に制限されず、用途等に応じて、粒状、膜状等の所望の形状とすることができる。或いは、必要に応じて公知のバインダーを加え、成形することができる。
【0017】本発明の複合体は、例えば、ケイ素アルコキシド、カチオン型界面活性剤、強酸性陽イオン交換樹脂および溶媒を混合したものを加熱する方法等により調製することができる。
【0018】混合する順番等は、特に制限されず、例えば、(i)強酸性陽イオン交換樹脂のアルコール溶液および(ii)カチオン型界面活性剤を含む水溶液を別途調製し、これらを混合した後に、ケイ素アルコキシドを混合してもよい。次に、得られた混合物を加熱して複合体を得る。原料を混合した際に、沈殿が生じるが、溶液および沈殿物の全てを加熱する。
【0019】用いるケイ素アルコキシドは、少なくとも1種のC1〜C3アルコキシ基を有するケイ素化合物であれば特に制限されない。例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどを例示できる。
【0020】用いる強酸性陽イオン交換樹脂は、特に制限されず、得られる複合体の強酸性陽イオン交換樹脂部分が所望のものとなるよう適宜選択すればよい。pKa≦3程度の酸性度を示す強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。例えば、スルホン酸基等を官能基として有する強酸性陽イオン交換樹脂を例示することができる。スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂としては、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂(例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)等)等を例示することができる。
【0021】強酸性陽イオン交換樹脂は、アルコール等の溶媒に溶解させたものを用いるのがよい。或いは、一旦溶解させた後、溶媒を留去することによりゲル状となったものを用いてもよい。
【0022】強酸性陽イオン交換樹脂の量は、種類等により適宜設定することができるが、重量比で、シリカに対して通常20%以下程度であり、好ましくは5〜10%程度である。
【0023】用いるカチオン型界面活性剤は、特に制限されないが、水溶液中でミセルを形成できるものが好ましい。例えば、第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩、水酸化四級アンモニウム塩等を例示することができる。
【0024】第4級アンモニウム塩としては、例えば、R1R2R3R4NX[式中、R1〜R4は同一又は相異なって、直鎖状アルキル基を示し、XはF、Cl、Br、I等のハロゲン原子を示す]を例示することができる。R1〜R4で示される直鎖状アルキル基の炭素数は、通常1〜25程度であり、好ましくは1〜20程度である。これらの中では、R2〜R4の少なくとも一つがメチル基である第4級アンモニウム塩が好ましく、R2〜R4がメチル基である第4級トリメチルアンモニウム塩が特に好ましい。第4級アルキルトリメチルアンモニウム塩の具体例として、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0025】アルキルアミン塩としては、R1R2R3NHX[式中、R1〜R3は、同一又は相異なって、直鎖状アルキル基を示し、XはF、Cl、Br、I等のハロゲン原子を示す]を例示することができる。R1〜R3として示される直鎖状アルキル基の炭素数としては、8〜25が好ましく、特に8〜17が好ましい。アルキルアミン塩の具体例として、トリオクチルアンモニウムクロライド、トリオクチルアンモニウムブロマイド、トリデシルアンモニウムクロライド、トリデシルアンモニウムブロマイド、トリドデシルアンモニウムクロライド、トリドデシルアンモニウムブロマイド、トリヘキサデシルアンモニウムクロライド、トリヘキサデシルアンモニウムブロマイド、トリオクタデシルアンモニウムクロライド、トリオクタデシルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0026】水酸化四級アンモニウム塩としては、例えば、R1R2R3R4NOH[式中、R1〜R4は同一又は相異なって、直鎖または分子状のC1〜C3のアルキルを示す]を例示することができる。これらの中では、R2〜R4の少なくとも一つがメチル基である水酸化第4級アンモニウム塩が好ましく、特にR1〜R4がメチル基である第4級テトラメチルアンモニウム塩が好ましい。水酸化四級アンモニウム塩の具体例として、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化トリメチルエチルアンモニウム、水酸化トリメチルプロピルアンモニウム、水酸化ジメチルジエチルアンモニウム等が挙げられる。
【0027】これらのカチオン型界面活性剤は、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。2種以上を組み合わせて使用する場合には、(i)第4級アンモニウム塩およびアルキルアミン塩からなる群から選択される少なくとも一種と(ii)少なくとも一種の水酸化第四級アンモニウム塩の組み合わせが好ましい。
【0028】カチオン型界面活性剤の量は、用いる界面活性剤の種類等に応じて適宜設定することができるが、ケイ素アルコキシドに対してモル比で通常5〜50%程度であり、好ましくは10〜30%程度である。或いは、溶液とした時に、臨界ミセル濃度以上であればよい。
【0029】用いる溶媒は、特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;水;これらの混合溶液等を例示できる。
【0030】ケイ素アルコキシド、カチオン型界面活性剤、強酸性陽イオン交換樹脂および溶媒の混合物を加熱する温度は、特に制限されないが、通常110〜150℃程度、好ましくは120〜140℃程度である。加熱時間は、特に制限されないが、通常0.5〜5日程度、好ましくは1〜2日程度である。反応圧力は、通常0.2〜1MPa程度、好ましくは0.4〜0.6MPa程度である。加熱をする際の雰囲気は特に制限されず、空気等の酸化性雰囲気下でもよいし、窒素、ハロゲン等の不活性ガス雰囲気下でもよい。
【0031】加熱後、濾別等の公知の方法を用いて複合体を回収し、必要に応じて乾燥してもよい。更に、必要に応じて、得られた複合体をH2SO4、HCl等の酸を含む溶液(溶媒:メタノール、エタノール等のアルコール、水、これらの混合溶媒など)に分散させ撹拌してもよい。この際には、必要に応じて、加熱・還流等を行ってもよいし、この操作を数回繰り返してもよい。更に、必要に応じて、複合体を120〜170℃程度で、10〜20時間程度再度加熱してもよい。
【0032】本発明の複合体は、固体酸触媒等として好適に使用できる。本発明の複合体は、スチレン、スチレン誘導体などの二量化反応の触媒、特に環化を伴わないスチレン、スチレン誘導体などの二量化反応の触媒として好適に使用することができる。
【0033】反応原料であるスチレン誘導体としては、ビニル基部分および/またはベンゼン環部位を置換されたスチレンなどを例示することができる。
【0034】スチレン誘導体のビニル基部分の置換基としては、C1〜C5程度の直鎖/分枝状アルキル基などを例示することができる。具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、n-ペンチル基などを例示できる。ビニル基部分を置換されたスチレン誘導体としては、α-メチルスチレン、β-メチルスチレンなどを例示できる。
【0035】スチレン誘導体のベンゼン環部位の置換基としては、C1〜C4程度の直鎖/分枝状アルキル基などを例示することができる。具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などを例示できる。ベンゼン環における置換部位は、特に制限されず、o-位、p-位、m-位のいずれでもよい。スチレン誘導体における置換基の数は、通常1〜3程度、好ましくは1である。ベンゼン環部位を置換されたスチレン誘導体としては、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-エチルスチレン、p-イソプロピルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどを例示できる。
【0036】本発明の複合体の使用量は、所定の効果が得られる限り特に制限されないが、原料となるスチレンまたはスチレン誘導体に対して、重量比で通常1〜20%程度、好ましくは5〜10%程度である。
【0037】反応時間は、通常2〜10時間程度、好ましくは4〜6時間程度である。反応温度は、通常30〜100℃程度、好ましくは50〜70℃程度である。二量化反応を行う際には、原料であるスチレン、スチレン誘導体などを必要に応じてトルエン、ヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルムなどの溶媒に溶かしてもよい。
【0038】本発明の触媒を使用する場合には、使用する前に活性を高めるための前処理を行うことができる。例えば、複合体を使用する前に真空下で加熱処理を行うことができる。或いは、イオン交換等の公知の方法を用いて、複合体の強酸性陽イオン交換樹脂部分をH+型としておいてもよい。このような前処理を行わない場合にも、本発明の触媒は一定の触媒活性を発揮することができる。
【0039】本発明の触媒は、一旦使用した後、必要に応じて、強酸性溶液中において撹拌する方法等により再生することができる。
【0040】
【発明の効果】本発明によれば、規則的な細孔を有する無機固体と有機高分子との複合体を得ることができる。
【0041】本発明の触媒を用いると、高選択的にスチレンおよびスチレン誘導体の二量化反応を行うことができる。本発明の触媒によると、α-メチルスチレンの二量化反応において、短時間で2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテンを得ることができる。
【0042】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0043】実施例1:MCM-41型結晶性多孔質シリカ化合物−ナフィオン複合体の調製ナフィオンの5%プロパノール溶液2mlを、減圧蒸留し、十分に溶媒を留去してゲル状物を得た。得られたゲル状物(約0.1g)にエタノール1.5mlを加え、十分に攪拌して溶解させた。この溶液を水酸化テトラメチルアンモニウム(1.44g)およびヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(1.64g)を蒸留水15mlに溶解させたもの(前者は水に易溶。後者は水に不溶で界面活性剤であるのでミセルを形成。)に加え、室温でよく撹拌した。次いで、この溶液に、激しく攪拌しながらテトラエトキシシラン(6.44g)をゆっくり加えた。この段階で、白い沈殿が生成した。ついで、沈殿および溶液の全てをテフロン製のビーカーに移し、ビーカーをステンレス製のオートクレーブに入れた。オートクレーブを密閉し、空気雰囲気下、130℃で24時間加熱した。圧力は、加熱により自然昇圧された。反応終了後、ビーカー中に生成した白色沈殿を濾別し、多量の蒸留水で洗浄し、空気中60℃で、12時間乾燥した。次いで、この沈殿をエタノール300mlと濃硫酸3mlの混含溶液に加え、18時間還流した。還流後、沈殿を濾別し、多量のエタノールでよく洗浄し、空気中で150℃で14時間乾燥し、結晶性多孔質シリカ化合物−強酸性陽イオン交換樹脂複合体を得た。
【0044】生成した固体の結晶性を粉末X線回折で分析したところ、メソ孔を有する結晶性多孔質シリカ化合物であるMCM-41と同様の回折パターンが得られた。また、窒素吸着のデータより、BET比表面積は609m2/gであった。得られた複合体の主細孔の直径は2.9nm、主細孔の細孔全体に占める割合は約88%、細孔容積は0.641cm3/gであり、MCM-41とほぼ同様の結果を得た。赤外線吸収スペクトルでは、MCM-41に帰属される吸収の他に、ナフィオンに帰属される1150、1250cm-1の吸収も観測され、全ての結果が複合体形成を支持した。
【0045】実施例2ナフィオンの5%プロパノール溶液5mlを、減圧蒸留し、十分に溶媒を留去してゲル状物を得た。得られたゲル状物(約0.25g)にエタノール1.5mlを加え、十分に攪拌して溶解させた。この溶液を用いて、実施例1と同様の方法で結晶性多孔質シリカ化合物−強酸性陽イオン交換樹脂複合体を得た。
【0046】得られた複合体の粉末X線回折は、MCM-41と同様であった。また、窒素吸着のデータより、BET比表面積は569m2/g、主細孔の直径2.9nm、主細孔の細孔全体に占める割合は約85%、細孔容積0.621cm3/gであった。
【0047】実施例3:α-メチルスチレンの二量化反応による2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテンの合成α-メチルスチレン0.591g(5mmol)をトルエン5mlに溶かした。この溶液に実施例1と同様にして調製したMCM-41型結晶性多孔質シリカ化合物−ナフィオン複合体50mgを加え、アルゴン雰囲気下、60℃において激しく撹拌しながら反応を行った。反応液を随時採取し、ガスクロマトグラフィーで生成物を分析した。
【0048】比較として、MCM-41型結晶性多孔質シリカ化合物−ナフィオン複合体の代わりに、強酸性陽イオン交換樹脂であるナフィオンNR-50、アンバーリスト-15または非晶質シリカ-ナフィオン複合体であるSAC-13(いずれも市販品)を触媒として用いて、同様の反応を行った。結果を図1に示す。無触媒またはMCM-41型結晶性多孔質シリカ化合物−ナフィオン複合体の代わりにMCM-41を触媒として用いた場合には、全く反応は進行しなかった。
【0049】図1から明らかなように、本発明のMCM-41型結晶性多孔質シリカ化合物−ナフィオン複合体を用いた場合には、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテンが高選択的に生成した。また、この複合体を用いた場合には、他の触媒に比して短時間で高い収率が得られた。
【0050】実施例4:スチレンの二量化反応による1,3-ジフェニルブタンの合成スチレン0.52g(5mmol)をトルエン10mlに溶解させた溶液に実施例1と同様にして調製したMCM-41型結晶性多孔質シリカ化合物−ナフィオン複合体50mgを加え、アルゴン雰囲気下、70℃において24時間激しく撹拌しながら反応を行った。反応液を採取し、ガスクロマトグラフィーで生成物を分析した。スチレンの2量体である1,3-ジフェニルブタンが収率10%で得られた。
【0051】MCM-41型結晶性多孔質シリカ化合物−ナフィオン複合体の代わりに、非晶質シリカ-ナフィオン複合体であるSAC-13(市販品)を触媒として用いた場合には、1,3-ジフェニルブタンの収率は6%であった。無触媒またはMCM-41型結晶性多孔質シリカ化合物−ナフィオン複合体の代わりにMCM-41を触媒として用いた場合には、反応は全く進行しなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3に記載したα-メチルスチレンの二量化反応における2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテンの収率(%)の経時変化を示す。

【特許請求の範囲】

【請求項1】 (i)強酸性陽イオン交換樹脂のアルコー
ル溶液および(ii)カチオン型界面活性剤を含む水溶液を別途調製し、これらを混合した後に、ケイ素アルコキシドを混合し、得られた混合物を加熱することを特徴とする結晶性メソポーラスシリカと強酸性陽イオン交換樹脂との複合体の調製方法。
【請求項2】 強酸性陽イオン交換樹脂が、スルホン酸
基を有する強酸性陽イオン交換樹脂である請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】 カチオン型界面活性剤が、第4級アンモ
ニウム塩、アルキルアミン塩および水酸化四級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載の調製方法。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載の調製方
法により製造される結晶性メソポーラスシリカと強酸性陽イオン交換樹脂との複合体。
【請求項5】 請求項4に記載の複合体からなるスチレ
ンまたはスチレン誘導体の二量化反応の触媒。
【請求項6】 (i)強酸性陽イオン交換樹脂のアルコー
ル溶液および(ii)カチオン型界面活性剤を含む水溶液を別途調製し、これらを混合した後に、ケイ素アルコキシドを混合し、得られた混合物を加熱してなる触媒。
【請求項7】 スチレンまたはスチレン誘導体の二量化
反応の触媒である請求項6に記載の触媒。

【図1】
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【特許番号】特許第3498135号(P3498135)
【登録日】平成15年12月5日(2003.12.5)
【発行日】平成16年2月16日(2004.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−65845(P2000−65845)
【出願日】平成12年3月10日(2000.3.10)
【公開番号】特開2001−252575(P2001−252575A)
【公開日】平成13年9月18日(2001.9.18)
【審査請求日】平成12年3月10日(2000.3.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【参考文献】
【文献】特開 昭60−239318(JP,A)
【文献】国際公開00/000287(WO,A1)