説明

結晶方位決定装置

【課題】本発明は、知識と経験の少ない作業者であっても、FIM試料の結晶方位及び粒界角度を容易に決定する装置を提供すると共に、結晶粒サイズが小さくて従来方位決定が困難であった試料でも結晶方位を決定する装置を提供する。
【解決手段】測定試料中の結晶粒に対する電界イオン顕微鏡(FIM)像の画像データ取込手段と、取り込んだFIM像中の特定結晶方位極点に対して対象結晶粒の理論結晶方位極点を一致するように回転操作する手段と、前記回転操作の結果から特定結晶方位極点の結晶方位極点(l,m,n)を決定する手段と、FIM像と決定した結晶方位極点(l,m,n)を重ねて表示する手段とを少なくとも有することを特徴とする結晶方位決定装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元アトムプローブ(3D−AP)測定あるいは電界イオン顕微鏡(FIM)測定において用いられる結晶方位決定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、結晶方位の決定は、X線回折のコッセル線図形、電子線回折のチャネリングパターン(ECP)、電子線後方散乱回折パターン(EBSP)及び菊池パターンを解析することにより行われてきた。しかしながら、3D−AP測定やFIM測定に用いる試料は、その先端が直径10nm程度の曲率となる針状の形状であるため、コッセル線図形とECP及びEBSPは空間分解能が不足したり、試料表面が平面でないことから、解析不可能であって、このような試料の粒界角度決定には、菊池パターン解析が行われてきた(非特許文献1)。
【0003】
菊池パターン解析法では、結晶粒界を形成する二つの結晶粒間の成す角度を決定するために、試料を加工した後、TEM(透過型電子顕微鏡)で、菊池パターンと呼ばれる回折像を各々の結晶粒に対して撮り、そのパターンを解析することにより、各々の結晶粒の結晶方位を決定し、粒界の角度を決定していた。この方法では、解析に経験と知識を必要とする上、1日程度の作業時間が必要であり、多くの試料を短時間で解析することは不可能であった。
【0004】
また、測定したい結晶粒のサイズが小さい場合には、菊池パターンが得られず、結晶方位を決定できない場合があった。このため、非習熟者でも、短時間に、あるいは微細な結晶粒を持つ試料でも使用できる結晶方位測定方法やその装置が求められていた。
【0005】
【非特許文献1】J. A. Vevables and C. J. Harland: Phil. Mag., Vol.27, p.1193 (1973)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記状況を鑑み、知識と経験の少ない作業者であっても、FIM試料の結晶方位及び粒界角度を容易に決定することが可能な装置を提供すると共に、結晶粒サイズが小さくて従来方位決定が困難であった試料でも結晶方位を決定することが可能な装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その発明の要旨は以下の通りである。
(1) 測定試料中の結晶粒に対する電界イオン顕微鏡像の画像データを取り込む画像データ取込手段と、取り込んだ電界イオン顕微鏡像中の特定結晶方位極点に対して、対象結晶粒の理論結晶方位極点を一致するように回転操作する手段と、前記回転操作の結果に基づいて前記特定結晶方位極点の結晶方位極点(l,m,n)を決定する手段と、前記電界イオン顕微鏡像と決定した前記結晶方位極点(l,m,n)とを重ねて表示する手段と、を少なくとも有することを特徴とする、結晶方位決定装置。
(2) 前記結晶方位極点(l,m,n)を、少なくとも3点表示することを特徴とする、(1)に記載の結晶方位決定装置。
(3) 測定試料の電界蒸発前後それぞれの電界イオン顕微鏡像の画像データを取り込む画像データ取込手段と、取り込んだぞれぞれの前記電界イオン顕微鏡像について、電界イオン顕微鏡像中の特定結晶方位極点に対して対象結晶粒の理論結晶方位極点を一致するようにそれぞれ回転操作する手段と、前記回転操作の結果に基づいて、それぞれの前記特定結晶方位極点の結晶方位極点(l,m,n)を決定する手段と、電界蒸発前後の前記結晶方位極点(l,m,n)から結晶粒間の結晶回転角度を決定する手段と、を少なくとも有することを特徴とする、結晶方位決定装置。
(4) 粒界を含む測定試料表面の電界イオン顕微鏡像の画像データを取り込む画像データ取込手段と、取り込んだ電界イオン顕微鏡像中の粒界を判別する手段と、粒界で区別されるそれぞれの結晶粒の電界イオン顕微鏡像について、電界イオン顕微鏡像中の特定結晶方位極点に対して対象結晶粒の理論結晶方位極点を一致するようにそれぞれ回転操作する手段と、前記回転操作の結果に基づいて、それぞれの前記特定結晶方位極点の結晶方位極点(l,m,n)を決定する手段と、それぞれの前記結晶方位極点(l,m,n)に基づいて、粒界を挟んだ結晶粒間の結晶回転角度を決定する手段と、を少なくとも有することを特徴とする、結晶方位決定装置。
(5)コンピュータに、測定試料中の結晶粒に対する電界イオン顕微鏡像の画像データを取り込む画像データ取込機能と、取り込んだ電界イオン顕微鏡像中の特定結晶方位極点に対して、対象結晶粒の理論結晶方位極点を一致するように回転操作する機能と、前記回転操作の結果に基づいて前記特定結晶方位極点の結晶方位極点(l,m,n)を決定する機能と、前記電界イオン顕微鏡像と決定した前記結晶方位極点(l,m,n)とを重ねて表示する機能と、を実現させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、結晶方位を測定する者は、画面にFIM像と同時に表示されている対応する結晶方位極点を入力装置により移動させて、FIM像上の実結晶方位極点と計算上の結晶方位極点とを一致させるだけで、その試料の結晶方位を容易に測定できる。
【0009】
また、同じ試料内の注目する粒界を挟む2箇所において上記の手順で結晶方位を決定することにより、容易に粒界の成す角度を決定できる。
【0010】
さらに、菊池パターンを得るには、良好な結晶性と試料を貫通する数十nm以上の単結晶領域が必要であるのに対して、FIM像は試料最表面の原子の位置に対応するので、試料先端部の半径5nm程度の単結晶部があれば、測定可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
FIM像は、先端径が10nm程度の針状試料に高電圧をかけ、真空中に導入されたHe等のガスが先端部でイオン化されると同時に、電界によって加速され、ほぼ直線状に蛍光スクリーンに到達して、発光するのを観測する方法である。イオン化は、試料表面の高電界部分で起こり易い。また、試料表面は、原子レベルのスケールでは滑らかではなく、結晶格子に基づき、原子層によるステップが生じる。このステップ部分にある原子は、近傍の原子に比べて相対的に飛び出しているため、その原子上では周りより高電界となる。その結果、ステップ上の原子が観察スクリーン上で輝点として観測される。このステップのパターンは、試料の結晶構造に固有で、指数の小さい極点の周りでは、間隔が大きく、周りの対称性等のパターンから、容易にその極点のミラー指数を知ることができる。
【0013】
一方、スクリーン上の位置と試料表面上の位置とは一対一で対応し、その関係は幾何学的に決定できるので、スクリーン上の極点の位置から、試料表面上の極点の位置を算出でき、その結果、試料表面部の結晶方位を定めることができる。
【0014】
また、FIM像は、試料最表面の原子配列の情報であることと、直径10nmの半球面上の1/3の領域でも、低指数の極点を複数点観測できることから、菊池パターンが観測できないような細粒組織の試料であっても、FIM像の極点情報から、結晶方位を決定できる。
【0015】
発明者らは、この点に着目し、誰でも測定を迅速にでき、かつ結晶方位の測定誤差を小さくするために、以下のような装置を発明するに至った。
【0016】
以下に、図1を参照しながら、本実施形態に係る結晶方位決定装置について、詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る結晶方位決定装置の装置構成例を説明するための説明図である。
【0017】
本実施形態に係る結晶方位決定装置は、例えば、FIM像と計算上の極点を同時に表示する画像表示装置、極点位置のパラメータを制御するための入力及びプログラム作動に必要な入力をする入力装置、及び、プログラムを実行するに必要な処理を実行するCPUとプログラムやデータを保存する記憶装置と外部画像出力を直接又はデジタルデータの形で取り込む機能を有する計算機から構成される。
【0018】
本実施形態に係る結晶方位決定装置は、入力装置により制御された結晶方位に対応する極点のスクリーン上の位置を計算し、FIM像と共に表示する機能と、入力装置によってFIM像上の極点と計算上の極点との位置の差異を小さくして結晶方位を決定する機能と、を有する装置である。さらに、この方位を装置内に記憶し、同一試料内の異なる結晶粒の方位を同様の手法で決定し、前者と比較することにより、二つの結晶粒方位間の回転軸と回転角を決定する機能を有している(図1参照)。
【0019】
続いて、図2を参照しながら、結晶方位とスクリーンへの投影図との関係を詳細に説明する。図2は、結晶方位とスクリーンへの投影図との関係を説明するための説明図である。
【0020】
図2に示したように、破線の矢印で示される基準となる方位の結晶軸が回転して実線の矢印で示される結晶軸となる。この結晶軸に基づき、仮想球面(試料先端部に対応)上に任意の極点を定めることができる。この極点が点Qを光源としてスクリーンに投影される。
【0021】
スクリーン上の極点の位置は、結晶回転の三つの自由度(φ、θ、ψ)、出力画面上の倍率δ、及び、イオンの軌跡を直線で表したときの中心点の位置ε(図2参照)の5つのパラメータで決定できる。一つの極点の位置情報は2つの自由度を持つので、5つのパラメータを決定するには少なくとも3つの極点の位置情報が必要となるが、パラメータεは試料や装置によらずほぼ一定で殆ど差が無いことが分かったので、実質的な自由度が4つとなり、二つの極点の位置情報があれば、結晶方位を決定できる。もっとも、結晶方位をより正確に決定するには、3つ以上の極点の位置が合致するようにパラメータを決定する方が望ましい。
【0022】
次に、各パラメータについて詳細に説明するが、パラメータの具体的な表し方には任意性があり、下記のパラメータの表記が本発明を制限するものではない。また、以下の説明では、簡単のために、立方晶系について記述するが、他の結晶系でも同様である。
【0023】
図2のように、試料先端の曲率半径と一致する半径を持つ仮想球面Sを考え、試料結晶の方位を示すミラー指数(l,m,n)に対応する極点Pl,m,nをS上にとる。結晶座標の方位は、基準となる座標からの回転によって表される。例えば、FIM装置に固定された座標系Xを用いて、基準となる向きの結晶の結晶方位極点(l,m,n)の仮想球面上の位置座標ベクトルがPl,m,nで表記されるとき、実試料の対応する結晶方位極点(l,m,n)の仮想球面上の位置座標ベクトルP’l,m,nは、回転行列ρを用いて、
P’l,m,n = ρ×Pl.m.n
と表すことができる。回転行列ρは、X軸周りの回転φ、Y軸周りの回転θ、Z軸周りの回転ψの適当な組合せであるオイラー角によって表すことができる。例えば、その組合せのうち、よく用いられる、X軸周りにφ°、Y軸周りにθ°、Z軸周りにψ°の順に回転させるタイプのオイラー角で表した回転行列ρは、φ、θ、ψを用いて、以下のようになる。
【0024】
【数1】

【0025】
図3は、歪および倍率のパラメータについて説明するための説明図である。画像表示装置上の画像は蛍光スクリーン上の画像の倍率とは異なるので、本発明者らは、試料先端の仮想球面に接する仮想スクリーン上に射影される像を基準にして、倍率δを決めて画像表示装置に表示させた。画像の歪み方に関わるパラメータεは、イオンの軌跡の延長線の交点Qと半径Rの仮想球面の中心Oとの距離をRで規格化したパラメータである。
【0026】
図3のように、試料表面を離れたイオンは直線的にスクリーンに到達する。その軌跡の延長線が1点に交わるが、その交点Q、即ち球面をスクリーンに射影する光源Qは、仮想球面Sの中心ではなく、より後方であることが経験的に知られている。仮想球面上の点Pと仮想スクリーン上の点P”は、光源位置Qが決まれば、次の関係で結ばれる。
【0027】
【数2】

【0028】
光源位置は、パラメータδ(=QO/R)等で規定できる。
【0029】
スクリーン(出力画面)上の点P’は、仮想スクリーン上の点P”に対する倍率パラメータε(=P’O’/P”O”)で決定できる。
【0030】
以上の関係式と回転行列を用いて、任意の極点Pl,m,nのスクリーン上の理論上の位置を計算でき、FIM像と同時に表示できる。
【0031】
回転行列ρの3つのパラメータ、及び、光源位置と倍率に関係する二つのパラメータを、入力装置により調整し、FIM装置から得たFIM像上の極点とその極点の理論上の位置とを画面上で一致させれば、回転行列が決定でき、結晶方位も定まる。この際に、一つの極点のスクリーン上の位置の自由度が2であるのに対し、決めるべきパラメータは5つあるので、全てのパラメータを決定するには少なくとも3つの極点位置を同時に一致させる必要がある。より正確にパラメータを決定するには、3つよりも多くの極点について、理論上の極点位置と合わせることが望ましい。
【0032】
図4は、本実施形態に係る画像表示装置の画像表示例を説明するための説明図である。例えば図4に示したように、図中の右側にFIM像と極点を同時に表示し、左上に現在解析中のFIM像の結晶回転のオイラー角と倍率、及び、(0,0,1)極のXY座標位置が表示されている。左中央に参照する結晶粒の回転のオイラー角を表示し、その下に、両者の間の回転角と回転軸の方位を表示している。左下は、パラメータ調整に用いるスライドバーを含むDirection Control Boxである。
【0033】
パラメータの入力は数値を直接入力しても良いが、図4に示すような、マウスや画面上のスクロールバー等で連続的に変化させて、その変化が即時に画面に反映できる方が、微調整し易いことと入力速度の観点で、望ましい。
【0034】
粒界角θは、粒界を挟む二つの結晶粒の結晶方位に対応する回転行列ρ、ρを上記の方法で決定した後、回転行列の性質から、ρ、ρ間の回転行列ρ=(ρ−1・ρの対角和をλとすると、
θ=cos−1{(λ−1)/2}
で求めることができる。ただし、結晶の対称性から等価な結晶方位極があるので、等価な全ての回転行列間の回転角の内、最小の角度が求めるべき粒界角となる。
【0035】
このような装置により、画面上で確認しながら極を一致させる作業は1〜2分で可能であり、FIM像を表示させてから、5分以内で結晶角を決定できる。また、FIM像の極点を判別するには、測定する結晶と同等のFIM像で極点が記入されているような参考図があれば、専門知識がなくとも簡単に判別できる。
【0036】
FIM像と極点とを一致させる、あるいは差を最小にする最善方位を効率よく決定するには、極の画面上の位置を決定するパラメータを連続的に調整でき、その結果が即座にFIM像と同時に表示される必要がある。例えば、図4の結晶方位決定装置上のスクリーンイメージのDirection Control Boxに示すように、パラメータの大きさを連続的に変化させるスライドバーをマウスやキーボードで調整することにより、結晶方位を含む5つのパラメータを調整する。図4では、パラメータ調整がし易いように、パラメータφ、θの代わりに、極点(0,0,1)がスクリーン上を水平に移動させるパラメータXと 垂直に移動させるパラメータYを用いている。
【0037】
結晶方位を決定する三つのパラメータと光源位置のパラメータ及びスクリーン上の倍率のパラメータの与え方には任意性があるが、方位決定する際の容易さから、図4の実施例のように、最も視認性の良い(001)極がスクリーン上で水平・垂直の二方向に移動するようにオイラーの回転角を調整する方が望ましい。また、同じ理由で光源の位置と倍率のパラメータを変えても、(001)極が動かないように、オイラー角も同時に調整する方が望ましい。
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、結晶方位を測定する者は、画面に表示されたFIM像からパターン認識し易い結晶方位極点を三点以上選び、画面にFIM像と同時に表示されている対応する結晶方位極点を入力装置により移動させて、FIM像上の実結晶方位極点と計算上の結晶方位極点とを2点以上一致させるだけで、その試料の結晶方位を測定できる。
【0039】
さらに、同じ試料内の注目する粒界を挟む2箇所において上記の手順で結晶方位を決定することにより、容易に粒界の成す角度を決定できる。
【0040】
また、画像認識によりFIM像から結晶方位極点を2箇所以上抽出し、対応する結晶方位極点と一致するようにパラメータを最適化することで、測定時間がさらに減り、未経験の測定者であっても、自動的に結晶方位や粒界角度を決定できる。
【0041】
したがって、従来のTEM観察と菊池パターン解析という高度な解析技術と一日程度要した解析時間が不要となる。
【0042】
一方、菊池パターンを得るには、良好な結晶性と試料を貫通する数十nm以上の単結晶領域が必要であるのに対して、FIM像は試料最表面の原子の位置に対応するので、試料先端部の半径5nm程度の単結晶部があれば、測定できる。
【0043】
なお、本発明によれば、コンピュータに、測定試料中の結晶粒に対する電界イオン顕微鏡像の画像データを取り込む画像データ取込機能と、取り込んだ電界イオン顕微鏡像中の特定結晶方位極点に対して、対象結晶粒の理論結晶方位極点を一致するように回転操作する機能と、前記回転操作の結果に基づいて前記特定結晶方位極点の結晶方位極点(l,m,n)を決定する機能と、前記電界イオン顕微鏡像と決定した前記結晶方位極点(l,m,n)とを重ねて表示する機能と、を実現させるためのプログラムが提供される。
【0044】
かかるプログラムは、FIMに接続されたコンピュータが備える記憶部に格納され、コンピュータが備えるCPUに読み込まれて実行されることにより、そのコンピュータを上記の結晶方位決定装置として機能させる。また、コンピュータプログラムが記録された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。
【0045】
例えば、上記プログラムが実行されることにより、コンピュータが備えるCPUは、FIMが接続されているインターフェースを介してFIMから画像データを取り込み、取り込んだ画像データをコンピュータが備える記憶部やROM、RAM等に記憶するとともに、FIM像中の特定結晶方位極点の検出や理論結晶方位極点の算出を行う。また、対象結晶粒の理論結晶方位極点を一致するように回転操作する機能、結晶方位極点(l,m,n)を決定する機能、及び結晶粒間の結晶回転角度を決定する機能は、コンピュータが備えるCPU、ROM、RAM、ハードディスク等や、コンピュータに接続された入力装置および画像表示装置等が所定の処理を行うことで実現される。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
入力装置としてキーボードとマウスを、出力装置としてディスプレイを持つパーソナルコンピュータを用いて、結晶回転を定める三つのパラメータ(オイラー角)及び倍率と歪パラメータを出力画面上のスライドバーで入力し、それらの入力パラメータにより定まる特定方位の極点の内の極点をFIM像と共に表示させる様にプログラムした。
【0047】
また、図5に、本実施例1および以下に示す実施例2で用いた試料の断面模式図を示した。図5は、本実施例1および以下に示す実施例2で用いた試料の断面模式図を説明するための説明図である。
【0048】
図5−(1)は、粒界を含む試料の断面模式図である。図中の点A,Bは、TEMの菊池パターン解析による結晶方位測定点であり、破線は、実施例1での粒界通過後の測定時の試料断面模式図である。また、図5−(2)は、粒界を先端部に含む試料の断面模式図である。図中の点A’,B’は、TEMの菊池パターン解析による結晶方位測定点である。
【0049】
図5−(1)のような一個の粒界を内在するbcc−Feの試料1を準備し、TEMにより粒界の両側の単結晶部(図5−(1)の点A、B)の菊池パターンを得、それらを解析することにより、双方の単結晶間の結晶回転の角度θを決定した。TEM観察と菊池パターン解析に要した時間は1,2各々約10時間であった。
【0050】
次に、試料1を3D−AP装置にて試料原子を電界蒸発させ、図5−(1)の破線で示される粒界の手前の結晶粒Aを露出させて得られるFIM像IIを採取した後に、さらに試料先端を電界蒸発させ、点線に示すような異なる結晶粒Bを露出させてFIM像Iを採取した。得られたFIM像IIをディスプレイに表示させ、マウス及びキーボード入力により、単結晶部位の計算上の極点(0,0,1),(−1,0,1),(1,0,1)がFIM像の極点と合うようにパラメータを調節し、結晶方位の回転を決定した。これらの回転角を比較用に記録し(図6参照)、FIM像Iについて同様の操作をして、結晶方位の回転を決定した。FIM像I、IIの回転角の比較により、二つの結晶間の回転角を自動的に算出した。
【0051】
なお、図6は、本実施形態に係る画像表示装置の画像表示例を説明するための説明図であり、図中の右側に、実施例2で解析したFIM像と極点図を表示しており、破線は粒界を示している。また、図中の左側は、その解析結果である。
【0052】
菊池パターン解析の結果と比較した結果を表1にまとめた。粒界の回転角の菊池パターン解析から得た角と比較して、±2℃以内であった。また、FIM像を表示して、回転角を決定するまでの作業時間は一つの像に対して、5分以内であり、粒界の回転角を決定するまでの全作業時間は10分以内であった。
【0053】
(実施例2)
粒界を内在する別のbcc−Feの試料2を実施例1と同様にして、菊池パターンの解析により、二つの単結晶間の回転角度θを決定した。次に、3D−AP装置にて粒界が測定表面に現れるまで原子を電界蒸発させた後、FIM像を得た。図6のように、このFIM像を用いて、粒界を挟む二つの結晶粒について、実施例1と同様に結晶方位を決定し、二つの回転から粒界の回転角を自動的に算出させた。表1に示すように、菊池パターン解析との粒界角の測定値の差異は0.9°であった。また、FIM像を表示させて、回転角を得る作業時間は約8分であった。
【0054】
この試料を再び、TEMにて観察し、菊池パターン解析をした。試料は、図5−(2)のように、先端部に粒界が来ており、小さい方の結晶粒の平均の直径は約3nmであった。B’部の菊池パターンは得られたが、小さい方結晶粒であるA’部では、解析できるくらい明瞭な菊池パターンは得られなかった。
【0055】
このように、本発明では菊池パターン等の従来手法では決定不可能な小さな結晶粒の方位解析も可能である。
【0056】
【表1】

【0057】
(実施例3)
再現性と作業の容易性を示すために、実施例1、2で得られたFIM像4枚について、FIM像を見た経験のない作業者Aが、結晶方位決定できるかどうかを調査した。発明者らは、作業者Aに、極の見え方と本発明装置の操作の仕方を、1枚のFIM像を実例にして、約15分で教えた。その後、作業者Aは、残りの3枚のFIM像について、本発明装置を用いて、結晶方位決定作業を行った結果、実施例1で得た結晶回転角との差異は最大1.5°であった。また、FIM像一枚の解析時間は最大9分であった。このように、未習熟者であっても、容易に結晶方位決定が可能である。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る結晶方位決定装置の装置構成を説明するための説明図である。
【図2】結晶方位とスクリーンへの投影図との関係を説明するための説明図である。
【図3】歪及び倍率のパラメータを説明するための説明図である。
【図4】本実施形態に係る画像表示装置の画像表示例を説明するための説明図である。
【図5】実施例で用いた各試料の断面模式図である。
【図6】本実施形態に係る画像表示装置の画像表示例を説明するための説明図である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料中の結晶粒に対する電界イオン顕微鏡像の画像データを取り込む画像データ取込手段と、
取り込んだ電界イオン顕微鏡像中の特定結晶方位極点に対して、対象結晶粒の理論結晶方位極点を一致するように回転操作する手段と、
前記回転操作の結果に基づいて前記特定結晶方位極点の結晶方位極点(l,m,n)を決定する手段と、
前記電界イオン顕微鏡像と決定した前記結晶方位極点(l,m,n)とを重ねて表示する手段と、
を少なくとも有することを特徴とする、結晶方位決定装置。
【請求項2】
前記結晶方位極点(l,m,n)を、少なくとも3点表示することを特徴とする、請求項1に記載の結晶方位決定装置。
【請求項3】
測定試料の電界蒸発前後それぞれの電界イオン顕微鏡像の画像データを取り込む画像データ取込手段と、
取り込んだぞれぞれの前記電界イオン顕微鏡像について、電界イオン顕微鏡像中の特定結晶方位極点に対して対象結晶粒の理論結晶方位極点を一致するようにそれぞれ回転操作する手段と、
前記回転操作の結果に基づいて、それぞれの前記特定結晶方位極点の結晶方位極点(l,m,n)を決定する手段と、
電界蒸発前後の前記結晶方位極点(l,m,n)から結晶粒間の結晶回転角度を決定する手段と、
を少なくとも有することを特徴とする、結晶方位決定装置。
【請求項4】
粒界を含む測定試料表面の電界イオン顕微鏡像の画像データを取り込む画像データ取込手段と、
取り込んだ電界イオン顕微鏡像中の粒界を判別する手段と、
粒界で区別されるそれぞれの結晶粒の電界イオン顕微鏡像について、電界イオン顕微鏡像中の特定結晶方位極点に対して対象結晶粒の理論結晶方位極点を一致するようにそれぞれ回転操作する手段と、
前記回転操作の結果に基づいて、それぞれの前記特定結晶方位極点の結晶方位極点(l,m,n)を決定する手段と、
それぞれの前記結晶方位極点(l,m,n)に基づいて、粒界を挟んだ結晶粒間の結晶回転角度を決定する手段と、
を少なくとも有することを特徴とする、結晶方位決定装置。
【請求項5】
コンピュータに、
測定試料中の結晶粒に対する電界イオン顕微鏡像の画像データを取り込む画像データ取込機能と、
取り込んだ電界イオン顕微鏡像中の特定結晶方位極点に対して、対象結晶粒の理論結晶方位極点を一致するように回転操作する機能と、
前記回転操作の結果に基づいて前記特定結晶方位極点の結晶方位極点(l,m,n)を決定する機能と、
前記電界イオン顕微鏡像と決定した前記結晶方位極点(l,m,n)とを重ねて表示する機能と、
を実現させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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