結晶材料の格子歪分布評価方法及び格子歪分布評価システム
【課題】走査透過型電子顕微鏡を用いて簡易に歪の分布解析を行う結晶材料の格子歪評価方法、評価システムを提供する。
【解決手段】結晶材料の格子歪評価方法は、結晶構造を有する試料に対して晶帯軸方向に電子線を照射し、試料により回折される複数の回折波の内、特定方向に回折される特定の回折波を選択して検出する工程と、上記電子線を照射し特定の回折波を選択して検出する工程を、試料上を走査しつつ繰り返し、試料について各点での回折強度から特定の回折波に対応する方向の歪分布像を得る工程と、を含む。格子歪が生じると励起誤差が変化し回折強度は変化するので歪分布像が得られる。
【解決手段】結晶材料の格子歪評価方法は、結晶構造を有する試料に対して晶帯軸方向に電子線を照射し、試料により回折される複数の回折波の内、特定方向に回折される特定の回折波を選択して検出する工程と、上記電子線を照射し特定の回折波を選択して検出する工程を、試料上を走査しつつ繰り返し、試料について各点での回折強度から特定の回折波に対応する方向の歪分布像を得る工程と、を含む。格子歪が生じると励起誤差が変化し回折強度は変化するので歪分布像が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶材料の格子歪分布評価方法及び格子歪分布評価システムに関する。特に、半導体装置などに用いられる結晶材料の格子歪分布について電子線回折を用いて評価する方法及び評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
LSIデバイスの製造において、各種材料を使用することで発生する応力は半導体装置に用いられる結晶構造に格子歪を発生する。そして格子歪は結晶材料の性質を示す重要な物理量のひとつである。応力及び格子歪はLSIデバイスプロセスに用いられる多種多様な材料による機械的な物性値の違いやプロセス中の熱処理によって変化する。この格子歪は結晶欠陥等を誘発しデバイス不良を引き起こす原因となる。また、近年では、例えば格子歪を利用してシリコンの電子・正孔移動度の向上を図るなど、この格子歪を積極的に利用して、結晶材料の物性向上を狙ったものもある。このように格子歪をうまく利用すればデバイスの性能向上が期待できる。その半面、うまく制御しないとデバイス動作さえ危うい結晶欠陥を生じてしまう。従って、結晶材料の応力及び格子歪を評価し、プロセス条件を最適化することはLSIデバイス開発においては不可欠である。
【0003】
従来、半導体装置を初めとする結晶材料の応力及び格子歪の評価には、X線回折法、ラマン分光法などが用いられてきたが、デバイスの微細化に伴い従来の応力・格子歪評価法では空間的な分解能が低く、十分な結果を得ることが困難になって来ている。そこで、電子線を用いた局所的な応力・格子歪評価法として収束電子線回折法(Convergent−Beam Electron Diffraction法。以下、CBED法と呼ぶ。)、ナノビーム回折法(Nano−Beam electron Diffraction法。以下、NBD法と呼ぶ。)が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、CBED法を用いた結晶材料の歪評価装置及びその評価方法が記載されている。また、非特許文献1には、NBD法を用いたSOI MOSFETの歪評価が記載されている。さらに、特許文献2、3には、回折コントラストを用いて即時的に格子歪を二次元的に評価する方法、非特許文献2には、熱散漫散乱電子強度を用いた歪評価の方法が記載されている。特許文献4には、局所的な応力・格子歪評価が必要になる微細デバイス構造の一例としてトレンチゲート型トランジスタを有する半導体装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−36729号公報
【特許文献2】特開2004−93263号公報
【特許文献3】特開2006−242914号公報
【特許文献4】特開2007−123551号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Usuda et al., “Strain characterization in SOI and strained−Si on SGOI MOSFET channel using nano−beam electron diffraction(NBD)”, Materials Science and Engineering B124−125(2005), 143頁〜147頁
【非特許文献2】N.Nakanishi et al., “Strain Mapping Technique for Performance Improvement of Strained MOSFETs with Scanning Tranmission Electron Microscopy”, IEDM2008, 431頁〜434頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記CBED法、NBD法は、あくまで一次元的な点での評価であり、格子歪がデバイス特性に与える影響を議論するには不十分である。また、CBED法、NBD法に基づく評価であっても、原理的には評価点を多くとり二次元的な分布を得ることは可能である。しかし、解析法が複雑であり時間を要するため効率的でない。また、これらの評価方法は評価装置として確立されたものではなく、透過型電子顕微鏡の応用として知られているに過ぎない。すなわち、信頼性の高い結果を得るためには熟練した技術が必要である。
【0008】
また、特許文献2、3や非特許文献2に記載されているような評価方法では、あらゆる方向の格子歪が加算され測定されるため、電流方向に沿った格子歪の影響を議論するには不十分である。一般的にLSIデバイスはシリコン等の半導体ウェハー上に平面的に形成され、電流は一方向に流れるように設計されている。その為、歪がデバイス特性に与える影響を議論するには、各種方向の歪分布や主歪、剪断格子歪といった方向成分を考慮した歪の評価が必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の視点によれば、結晶構造を有する試料に対して晶帯軸方向に電子線を照射し、前記試料により回折される複数の回折波の内、特定方向に回折される特定の回折波を選択して検出する工程と、前記電子線を照射し、前記特定の回折波を選択して検出する工程を、前記試料上を走査しつつ繰り返し、前記試料について各点での回折強度から前記特定の回折波に対応する方向の歪分布像を得る工程と、を含む結晶材料の格子歪分布評価方法が提供される。
【0010】
本発明の第2の視点によれば、電子線を試料に照射し前記試料を透過又は前記試料により回折された回折波を検出する走査透過型電子顕微鏡と、前記試料を走査して前記試料を透過又は回折された回折波のうち、特定の回折波を選択して結像し、歪分布像を得る歪分布像抽出部と、を備える結晶材料の格子歪分布評価システムが提供される。
【0011】
本発明の第3の視点によれば、走査透過型電子顕微鏡と、前記走査透過型電子顕微鏡を制御し、かつ、前記走査透過型電子顕微鏡の測定データを処理するコンピュータと、を備える評価システムにおいて、電子線を結晶構造を有する試料に照射し前記試料を透過又は前記試料により回折された回折波を検出するように前記走査透過型電子顕微鏡を制御する処理と、前記試料を走査して前記試料を透過又は回折された回折波のうち、特定の回折波を選択して結像し、歪分布像を得る処理と、を前記コンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の各視点によれば、特定の回折波を選択して歪分布像を得るので、回折波を選択して評価を行うことにより、方向ごとの歪分布像を得ることができる。さらに方向ごとの歪分布像から結晶欠陥の危険性を予知したり応力源を特定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による結晶材料の格子歪分布評価システム全体のブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による結晶材料の格子歪分布評価方法のフローチャートである。
【図3】(a)評価対象とする半導体装置の結晶に対する電子線の入射方向と(b)回折波の方向を示す図である。
【図4】特定の回折波の回折像から歪分布像が得られる原理を説明する図である。(a)逆格子点とエバルト球と励起誤差との関係を示す図と、(b)格子歪が生じた場合の逆格子点と励起誤差との関係を示す図である。
【図5】(a)、(b)、(c)は、それぞれ、X方向の歪の解析に用いる(a)回折波を示す図と、(b)回折波強度像と、(c)応力解析図である。また、(d)、(e)、(f)は、それぞれ、Y方向の歪の解析に用いる(d)回折波を示す図と、(e)回折波強度像と、(f)応力解析図である。
【図6】(a)回折波強度像と、(b)回折波強度と格子歪の大きさとの換算スケールと、(c)NBD法を用いて求めた回折波強度と格子歪の検量線を示す図である。
【図7】格子歪分布から格子歪を解析する方法を示すフローチャートである。
【図8】活性領域の結晶軸に対してSTI界面が垂直に形成されている場合の(a)平面図及び(b)その応力方向を示す拡大図と、結晶軸に対してSTI界面がテーパー角を持って形成されている場合の(c)平面図及び(d)その応力方向を示す拡大図である。
【図9】(a)、(b)は、それぞれ、各点での主歪の大きさと方向から応力源を特定する方法を示す図である。
【図10】試料に対して垂直な応力が加わった場合の(a)応力の加わる方向を示す図及び(b)逆格子点の移動する方向を示す図である。
【図11】試料に対して複雑な応力が加わった場合の(a)応力の加わる方向を示す図及び(b)逆格子点の移動する方向を示す図である。
【図12】試料に照射する電子線の(a)収束角が大きい場合の逆空間に形成されるエバルト球の広がりを示す図及び(b)収束角が小さい場合の逆空間に形成されるエバルト球の広がりを示す図である。
【図13】第4の実施形態による結晶材料の格子歪分布評価システム全体のブロック図である。
【図14】第4の実施形態における矩形絞りの(a)平面図及び(b)試料に電子線が照射されるイメージを示す斜視図である。
【図15】第4の実施形態において(a)矩形絞り長辺方向の電子線照射断面(YZ断面)と逆格子点との関係を示す図及び(b)電子線照射平面(XY面)と逆格子点との関係を示す図である。
【図16】第4の実施形態における矩形絞りの一例を示す平面図である。
【図17】第4の実施形態による結晶材料の格子歪分布評価方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態の概要について説明する。例えば、図1に示すような走査透過型電子顕微鏡を用いて、図3(a)に示すような薄片化した半導体装置の試料に対して電子線を入射すると、図3(b)に示すように透過波と回折波を観測することができる。図5(a)〜(c)と(d)〜(f)のように異なった方向に回折された回折波からそれぞれ回折された方向に対応する結晶の歪分布像を得ることができる。さらにNBD法など既知の方法を用いて歪分布像を定量化し、定量化された複数方向の歪分布像から、剪断歪分布、主歪分布を把握することができ、歪の原因を特定するとともに、結晶欠陥の発生の危険性を予知することもできる。なお、この概要の説明で引用した図面は専ら理解を助けるための例示であり、図示の態様に限定することを意図するものではない。
【0015】
次に各実施形態について図面を用いてより具体的に説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態による結晶材料の格子歪分布評価システム全体のブロック図である。図1の評価システム10は、走査透過型の電子顕微鏡100と、電子顕微鏡を制御し、かつ、電子顕微鏡100の測定データを処理する計算処理装置200を備えている。
【0017】
電子顕微鏡100は、試料の観測に用いる電子線を出力する電子線源110と、電子線源110から出力された電子線を評価試料300に照射する照射系レンズ装置120と、電子線を評価試料300の微小なスポット領域へ集束する対物レンズとなる結像系レンズ装置150を備えている。評価試料300を透過する電子線、又は評価試料300により前方回折された電子線は、投影系レンズ装置160によって、再び電子線検出器190に集束する。
【0018】
また、電子線源が照射する電子線により評価試料300上を走査するために走査コイル130が設けられている。走査コイルにより電子線は評価試料300上を走査する。また、評価試料300を透過する電子線、又は、評価試料300により前方回折された電子線のうち、特定の電子線を選択して電子線検出器に集束されるために偏向コイル170が設けられている。また、走査コイル130や照射系レンズ装置120、結像系レンズ装置150、投影系レンズ装置160を制御する走査コイル・レンズ制御装置180が設けられている。また、走査コイル・レンズ制御装置180は、偏向コイル170の制御も行う。
【0019】
さらに、評価試料300の結晶軸の方向と、電子線の照射方向を揃えるため、評価試料300の姿勢を制御する試料姿勢制御装置140が設けられている。試料姿勢制御装置140により、評価試料300の向きを微調整して、評価試料300の結晶軸の方向を電子線の照射方向に揃えることができる。
【0020】
試料姿勢制御装置140及び走査コイル・レンズ制御装置180は、計算処理装置200と接続されており、計算処理装置200の制御部210により、試料姿勢制御装置140及び走査コイル・レンズ制御装置180の制御が行われる。また、電子線検出器190も、計算処理装置200と接続され、電子線検出器190が検出した測定データが計算処理装置200により処理される。
【0021】
計算処理装置200には、入力装置270、記憶装置280、表示装置290が接続されている。入力装置270は、キーボートやマウス等の操作インターフェイスを備え、オペレータの指示に基づいて、評価システム10全体の動作を制御することができる。また、記憶装置280は、測定データや評価システム全体の動作制御や測定データの解析を行うプログラムを格納することができる。さらに、表示装置290は、電子線検出器190で検出した測定データを画像データとして表示したり、計算処理装置200で評価分析した評価分析結果を表示したりすることができる。
【0022】
計算処理装置200は、内蔵する機能として、電子顕微鏡100の動作を制御する制御部210と、電子線検出器190で検出したデータから歪分布像を抽出する歪分布像抽出部220と、電子線検出器190で観測された回折像の位置からNBD法等により格子歪の大きさを定量する歪定量部230、さらに、複数の方向の定量化された歪分布像等から評価試料の各領域に対する応力を解析する応力解析部240の機能を備えている。
【0023】
次に、図2の結晶材料の格子歪分布評価方法のフローチャートに基づいて、半導体デバイスにおける格子歪の評価方法を説明する。図2のステップS1では、FIB(Focused Ion Beam)等を用いて均一な厚さを有する半導体デバイスの断面TEM(Transmission Electron Microscope)試料を作製する。このときの試料膜厚は200nm以下であり、かつ、半導体デバイスの寸法に応じて可能な限り試料厚み方向に構造分布を有さないように(すなわち、厚さ方向には同一構造であるとみなせるように)調整して試料を作製することが望ましい。
【0024】
図3(a)に半導体デバイスの評価試料の一例を示す。図3(a)の半導体デバイスは一般的なシリコン結晶を用いたMOSFETが形成された半導体デバイスである。図3(a)では、活性領域310の単結晶シリコンに対して、X軸方向が<110>、Y軸方向が<001>となるように半導体デバイスの断面TEM試料を作製している。X軸方向の中央には、活性領域310が形成され、X軸方向の両端には、素子分離領域320が形成されている。また、半導体デバイスの表面(Y軸方向の正方向)には、ゲート350が形成され、ゲート350のX軸方向の両側には、活性領域310に接してコンタクトプラグ340が形成されている。
【0025】
次に、図1の評価システム10の(走査透過型)電子顕微鏡100内の評価試料300の位置にステップS1で作製した試料を設置する。このときに、試料姿勢制御装置140を用いて評価試料300の晶帯軸に沿って電子線が入射するように評価試料300の姿勢制御を行う(図2のステップS2)。なお、ここでは、電子線が入射する晶帯軸をSi<110>方向に取っている。なお、図3(a)のX軸と電子線が入射する晶帯軸方向は直交する方向であるが、結晶の対称性からは、表記は同一の<110>になる。すなわち、図3(a)において、X軸、Y軸に共に直交する方向から電子線が入射するように姿勢制御を行う。
【0026】
次に、電子線を評価試料300上に集束したときに試料後方(電子線の進行方向に対しては前方)に形成される電子回折パターンより特定の回折波が電子線検出器190に取り込まれるように偏向コイル170を用いて調整する(図2のステップS3)。すなわち、図3(a)において、X軸<110>、Y軸<001>、それぞれに直交する方向から電子線を評価試料300に入射したときに、評価試料300の後方(電子線の進行方向に対しては前方)の電子線検出器190付近には、図3(b)に示すように、透過波の他、002回折波、004回折波、111回折波、220回折波のような複数の回折波が集束する。このとき、活性領域310の結晶面と回折波は対応しており、例えばX方向の格子歪の評価の場合は220回折波、Y方向の格子歪の評価の場合は004回折波、又は、002回折波が電子線検出器190に取り込まれるように偏向コイル170を制御する。すると、上記透過波、各回折波のうち、特定の回折波のみが電子線検出器190に取り込まれる。
【0027】
このようにして特定の回折波のみが電子線検出器に取り込まれるように偏向コイル170を固定した状態で、走査コイル130を制御し、評価試料300上を走査し、特定の方向(図3(a)の例では、X<110>方向、又は、Y<001>方向)の歪分布に対応したコントラスト像を得ることができる(図2のステップS4、S5)。
【0028】
ここで、格子歪について定量的な評価が必要なければ(ステップS6でNo)、各方向の歪分布像を取得して処理を終了する(ステップS7)。格子歪について定量的な評価が必要であれば(ステップS6でYes)、NBD法等により歪量を定量し、定量的な歪分布像を得る(ステップS8、S9)。例えば、図6(c)に示すように、NBD法を用いて数点の回折波強度と格子歪を測定し、その測定値から直線回帰により検量線を得ることができる。この検量線に基づいて、図6(b)のような回折波強度と格子歪の大きさとの換算スケールを、図6(a)の回折波強度像と共に表示することにより、特定方向の歪分布を定量化して表示することができる。
【0029】
なお、図3(a)では、電子線を入射する方向の晶帯軸をSi<110>方向に取ってTEM試料を作製した場合を例に説明したが、電子線を入射する方向の晶帯軸をSi<100>方向に取っても回折波による分布歪の評価は可能であり、任意の結晶軸の方向に対して分布歪の評価が可能である。
【0030】
次に、図4を用いて、上記で説明した方法により歪に対応したコントラスト像が得られる原理について説明する。図4(a)には逆格子空間での逆格子点及び入射電子線とエバルト球を図示している。結晶に入射された電子線は、ブラッグBraggの法則により入射角に対して2θの方向に回折される。そしてその強度は図4(a)に示す逆格子点とエバルト球の距離である励起誤差Sgで決まる。ここで、g:逆格子ベクトル、k:波数ベクトル、d:格子面間隔、a:格子定数、h,k,l:格子面指数、λ:電子線波長とすると、励起誤差Sgは、[数1]の関係が成立する。
【0031】
【数1】
【0032】
結晶材料に応力が働き格子歪が生じた場合、逆格子点は図4(b)に示すように図面で左右方向に移動することになる。その結果、逆格子点が移動すると励起誤差Sgが変化するため回折強度が変化する。逆格子点が移動したときの励起誤差Sgは、[数2]であらわすことができる。
【0033】
【数2】
【0034】
ここで通常の電子顕微鏡で用いられる電子線波長は0.0197[Å](加速電圧300kVの時)程度であり、波長の逆数で与えられるエバルト球半径に対して評価する格子歪は最大でも数%程度であるため、励起誤差Sgと格子歪の関係は直線近似で問題ない。また、回折強度に影響を与える要因として消衰距離ξgがあるが、これは主に試料厚みに依存したパラメータであり、試料厚み、入射強度に応じて変化するものである。本実施形態において、FIB法で試料を作製すれば、十分に均質な厚みを有した試料が作製可能であり、入射方向も一定で試料上を走査するため回折強度に与える影響はないとみなせる。
【0035】
複雑な構造を有する微細デバイスでは格子歪分布も複雑になるためNBD法やCBED法では詳細な歪分布の評価は時間を要するが、第1の実施形態の方法によれば即時的に歪分布像を得ることができる。
【0036】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、各方向の定量的な歪分布像を出力する所まで説明したが、第2の実施形態では、第1の実施形態の出力結果に基づいて、さらに、主歪分布や任意の方向における剪断歪分布を出力し、結晶歪の原因を把握すると共に、結晶欠陥の危険性を予知することができる。図7は、第2の実施形態の処理手順を示すフローチャートである。
【0037】
第2の実施形態を説明するにあたって、評価の一例としてシリコンLSIデバイスにおいて一般的に用いられる浅溝素子分離構造(STI)が活性領域に及ぼす応力による格子歪の評価の例を図8に示す。図8(a)は、STI界面が活性領域の結晶方向と揃った方向に形成されている場合の平面図であり、図8(b)はその界面近傍の拡大図である。また、図8(c)は、STI界面が活性領域の結晶構造に対してテーパー角を持って形成されている場合の平面図であり、図8(d)はその界面近傍の拡大図である。
【0038】
図8(a)、図8(b)のように活性領域の結晶方向と揃った方向にSTI界面が形成されている場合は、一般的には、活性領域の結晶構造に対して垂直な方向から応力が働く。しかし、図8(c)、図8(d)のように活性領域の結晶構造に対してSTI界面がテーパー角を持って形成されている場合は、X方向、Y方向の歪だけではなく、X方向、Y方向に沿った剪断歪も伴う。このような剪断歪は半導体装置において、結晶欠陥を誘発することが知られている。このため剪断歪が結晶欠陥を引き起こさないように製造工程や設計工程の制御が必要となる。
【0039】
しかし、このような剪断歪はX方向、Y方向の歪評価のみからは判断できない。また、STI界面垂直方向の歪が最も大きくなることから、歪が最大となる主歪の方向を特定することが出来れば、歪の原因となる応力源の特定が可能となり、半導体製造プロセスへのフィードバックが容易になる。そこで第1の実施形態で得られた結像条件の違う異なる方向に対する格子歪分布像から剪断歪、主歪を解析する第2の実施形態による解析方法を説明する。
【0040】
第2の実施形態で用いる試料は、第1の実施形態と同様にFIB加工されたTEM試料を用いる。従って、試料奥行き方向(電子線透過方向)の応力成分はFIB加工時の応力緩和によりゼロとなる。その結果、2次元応力近似が可能となる。以下、2次元応力状態での格子歪について説明する。
【0041】
図3(b)において、220回折波を用いた強度分布の結像からX方向の歪分布(εxx)、004回折波を用いた結像からY方向の歪分布(εyy)、111回折波を用いた結像から斜め35.3度方向の歪分布(εθ、θ=35.3度)を得ることができる(図7のステップS21)。各歪分布像の取得後、回折波強度を定量化するためにNBD法を用いて定量化を行う(図7のステップS22)。例えば歪分布像の中で特異点3点をNBD測定し回折強度の歪定量化を行う。すでに述べたように回折強度と歪量は直線近似しても問題ない。
【0042】
次に3方向(X方向、Y方向、θ=35.3度の方向)の歪分布から剪断歪を算出する(図7のステップS23)。各歪の間には、[数3]の関係があり、計算により剪断歪γxyが得られる。なお、[数3]において、X方向の歪はεxx、Y方向の歪はεyy、θ方向の歪はεθであるとする。
【0043】
【数3】
【0044】
次に、[数3]を変形して[数4]が得られる。すなわち、測定したεxx、εyyと計算により求めた剪断歪γxyからεθを計算することができる。
【0045】
【数4】
【0046】
このεθにおいて適当な方向θを選べば、最大歪が得られる方向が求められる。この方向の歪は主歪と言われており、この計算により主歪の方向も求められることになる。すなわち、[数4]において、歪量εθが最大となるθが主歪の方向であり、そのときのεθが主歪の大きさになる。例えば、図9に示すように各点での主歪の値を矢印の長さ、その方向を矢印の向きとして出力することにより応力源を特定することが可能となる(図7のステップS24)。
【0047】
さらに、[数5]により任意の方向θでの剪断歪γθも得ることができる(図7のステップS25)。シリコン単結晶の場合、Si(111)面が滑り面であるので、この面上、例えばθ=54.7度、−54.7度の時の剪断歪分布像を得ることにより、結晶欠陥の発生の危険性を予知することができる。
【0048】
【数5】
【0049】
すなわち、第2の実施形態によれば、定量化された複数の方向の歪分布から[数3]、[数4]を用いて任意の方向の歪εθを求めることができるので、εθの最大歪が得られる方向より、主歪の大きさと方向を求めることができる。さらに、主歪の大きさと方向から図9に示すように応力源を特定することができる。
【0050】
また、[数5]により任意の方向θでの剪断歪γθも得ることができる。剪断歪は半導体装置において結晶欠陥の原因となるので、第2の実施形態によれば、結晶欠陥の危険性を予知することができる。
【0051】
[第3の実施形態]
図1に示す評価システム10における計算処理装置200は、必ずしも専用の計算処理装置である必要はなく、EWS、PC等の汎用のコンピュータに記憶装置280に格納されている専用の評価プログラムを実行させることにより、汎用のコンピュータと電子顕微鏡100と電子顕微鏡100の周辺装置となる試料姿勢制御装置140、走査コイル・レンズ制御装置180、電子線検出器190に評価システム10としての機能を実現させることもできる。この場合、表示装置290、入力装置270、記憶装置280は、その汎用のコンピュータに接続可能である周辺装置を用いることができる。また、計算処理装置200は、汎用のコンピュータに記憶装置280に格納されている評価プログラムを実行させることにより、汎用のコンピュータを制御部210、歪分布像抽出部220、歪定量部230、応力解析部240として機能する計算処理装置200として機能させることができる。すなわち、第3の実施形態によれば、コンピュータに専用のプログラムを実行させることにより、走査透過型電子顕微鏡と、走査透過型電子顕微鏡を制御し、かつ、前記走査透過型電子顕微鏡の測定データを処理するコンピュータに、第1の実施形態、第2の実施形態で説明した評価システムとして機能させ、評価方法を実行させることができる。
【0052】
[実施例1]
次に、図1〜4を用いて説明した第1の実施形態による評価方法を例えば、特許文献4に記載されているようなトレンチゲートを有する微細デバイスに適応した実施例1について説明する。図5(a)、(b)は、それぞれ、X<100>方向の歪の解析に用いた(a)回折波を示す図と、(b)回折波強度像である。また、図5(d)、(e)は、それぞれ、Y<001>方向の歪の解析に用いた(d)回折波を示す図と、(e)回折波強度像である。実施例1では、図5(b)と、図5(e)に示すように格子歪を歪が生じている方向に分けて表示することができるので、容易に歪の状態を把握することができる。さらに、図5(b)、(e)のような回折波強度像は、たとえば、図5(c)、(f)のような応力解析図にして示すこともできる。なお、図5(c)、(f)は、図5(b)、図5(e)の測定とは別に行ったプロセスシミュレーション結果による応力解析図である。
【0053】
以上説明したように本発明による各実施形態によれば、即時的に格子歪を方向成分に分離して評価でき、さらにNBD法を用いて歪定量化を行うことができる。その結果からさらに計算処理装置を用いて各点での歪量から特許文献2、3や非特許文献2では測定できなかった剪断歪分布や主歪分布を得ることができる。その結果、剪断歪分布からは結晶欠陥の危険性を予知でき、主歪分布からは応力源の特定が可能となる。
【0054】
[第4の実施形態]
次に、第1乃至第3の実施形態、実施例1を用いて説明した本発明の原理を元に歪方向の分離性能(ここではX方向歪とY方向歪の分離)を向上した第4の実施形態による評価システム及び評価方法について説明する。
【0055】
図10(a)に示すような評価試料300に対して垂直方向(X方向)から応力が加わり垂直方向に歪が生じる理想的な垂直歪の場合、図10(b)に示すようにX方向の歪を評価しようとしたときには注目逆格子点はX方向にしか動かない。しかし、評価試料300が実際のLSIデバイスである場合には、図11(a)に示すように応力は複雑な方向に加わることにより、せん断歪等を含んでおり複雑な格子歪が発生している。その為、図11(b)に示すようにX方向の歪分布を評価する注目逆格子点はX方向だけでなく、Y方向にも動いてしまう。その結果、注目回折波で取得した格子歪分布像には、Y方向の歪やせん断歪の成分が重畳され、X方向の歪測定に誤差を与えてしまう。
【0056】
そこで歪方向の分離性能を向上させる為、各種検討を行なった結果、結晶試料(評価試料300)に照射する電子線の平行度が良いほど、歪分布像のコントラストが向上することを見出した。図12(a)と図12(b)には、結晶試料に照射する電子線について、
それぞれ収束角大の場合と、収束角小(結晶試料に収束する照射波の平行度良)の場合の逆空間に形成されるエバルト球の広がりを示す。図12(a)に示す様に、収束された電子線の収束角が大きいと、あらゆる方向から電子が結晶試料に入射される為、逆空間に形成されるエバルト球は広がりを持つようになる。その結果、平均的にみた励起誤差は一様となり、歪コントラストが弱くなる。
【0057】
そこで、第4の実施形態では、図13、図14に示す様な矩形の可動絞り(矩形絞り121)を提案する。図13は、第4の実施形態による結晶材料の格子歪分布評価システム10a全体のブロック図である。図13の評価システム10aについて、図1に示す第1の実施形態による評価システム10と異なる部分について説明する。図13の評価システム10aは、照射系レンズ装置120aに矩形絞り121(開口部(孔)の形状が矩形である照射絞り)を設けている。矩形絞り121は、図14(a)の平面図に示すように矩形の開口部(孔)を備えている。図14(b)の評価試料300に電子線が照射されるイメージを示す斜視図に示すように電子線源110(図13参照)から照射される電子線のうち、矩形絞り(照射絞り)121により絞られた電子線は結像系レンズ装置150(図13参照)によって評価試料300に収束する。また、図13の評価システム10aは、計算処理装置200aに設けられる制御部210aが矩形絞り121を含む照射系レンズ装置120aの制御も行う。
【0058】
この矩形絞り121を照射系レンズ装置120a内に組み込むことでX方向の電子線収束角とY方向の電子線収束角に非対称性を持たせることが出来る。その結果、逆格子点の一方向のみの変位を強調した回折強度変化を得ることが出来る。
【0059】
図15を用いて詳細に説明する。図15(a)は矩形絞り長辺方向の電子線断面と逆格子点の関係(図12(a)と同じ)を示しており、図15(b)は図15(a)点線部分のXY断面(0次の逆格子面)を示す。Y方向の電子線収束角は高角度である為、あらゆる角度で入射した電子線により広がりを持ったエバルト球が形成されているが、X方向は平行度の高い電子線であるため、0次の逆格子面上には現れない。その結果、Y方向の逆格子点の移動は、動く方向では励起誤差が小さくなるが、一方では励起誤差が大きくなる。すなわち、Y方向の電子線収束角は高角度であるので、収束する電子線のうち、Y方向への逆格子点の移動により、一方向から収束する電子線による励起誤差が小さくなったとしても他方向から収束する電子線による励起誤差が大きくなるため、結果として回折強度に変化は見られない。しかし、X方向の移動は、平行度の高い電子線であるため、回折強度を変化させる。その結果、矩形絞り短辺方向歪の誤差の低減された格子歪分布の取得が可能となる。
【0060】
なお、ここでは、透過波に対して検出しようとする特定の回折波の回折する方向に対して長辺が直交し、短辺が回折する方向と平行になるように矩形絞り121を設定している。たとえば、図3(b)において、透過波に対してX方向に回折される220回折波を検出しようとするときは、矩形絞り121の向きを、長辺がY軸に平行し、短辺がX軸に平行になるように調節する。同様に、図3(b)において、透過波に対してY方向に回折される002回折波、又は、004回折波を検出しようとするときは、矩形絞り121の向きを、長辺がX軸に平行し、短辺がY軸に平行になるように調節する。また、短辺と長辺の長さの比は、長辺が短辺より長ければ一応の効果は得られるが、歪誤差を低減するためには、長辺の長さが短辺の長さの4倍以上であることが望ましい。
【0061】
図16は矩形絞りの一例で、同一金属板上に複数の矩形孔を有した絞りである。図16の矩形絞り121は、X方向評価用矩形孔401、Y方向評価用矩形孔402、111方向評価用矩形孔403を備えている。こうすることによって、X方向、Y方向、111方向の歪方向分離性の良い歪分布像の取得が可能となる。通常、照射レンズ系は複数の電子線レンズと偏向器、絞りを有しているので前段のレンズと絞りにより任意の方向に長辺を持った矩形孔を選択することが出来る。
【0062】
図17は、第4の実施形態による結晶材料の格子歪分布評価方法のフローチャートである。図17において、図2の第1の実施形態による評価方法のフローチャートと比べると、ステップS3で特定の回折波を検出器に取り込む前に、検出しようとする特定の回折波に合わせて矩形絞り121を調整している(ステップS31)。矩形絞り121の調整(ステップS31)は、ステップS3において特定の回折波を検出器に取り込む前ならば、どの時点で行ってもよい。たとえば、矩形絞り121が図16に示すような複数の孔(開口部)を備えた矩形絞りであるならば、照射系レンズ装置120aの前段レンズの制御により検出しようとする特定の回折波に合わせた孔を選択することができる。または、矩形絞り121と評価試料300とのそれぞれXY平面における相対的な方向を矩形絞り121、及び/又は、評価試料300等をXY平面上で回転させることにより調整するものであってもよい。その他、第1の実施形態とほぼ同一である点については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0063】
なお、上述した第4の実施形態は第2の実施形態による主歪分布や任意の方向における剪断歪分布の解析と組み合わせられることは言うまでもない。第4の実施形態によれば、歪方向の分離性能を向上させることができるので、主歪分布や任意の方向における剪断歪分布の解析の精度をさらによくすることが期待できる。また、第4の実施形態は、第3の実施形態で説明したEWS、PC等の汎用のコンピュータに専用の評価プログラムを実行させることにより実施することもできる。第4の実施形態の評価システムとして機能させるコンピュータプログラムには、電子顕微鏡100aに対して評価試料300に対する矩形絞り121の開口部(孔)の相対的な方向を制御するプログラムが含まれる。
【0064】
なお、国内優先権の主張の基礎となる先の出願の当初記載事項(特許請求の範囲、明細書、図面を含む)については、先の出願の出願日を優先日(基準日)として判断するものとし、今回追加した記載事項に影響されず、それが無いものとして判断すべきものである。なお、今回追加した事項は、請求項15−18、第4の実施形態[0054]−[0064]、図10−17及びこれらに関連する事項に限られている。
【0065】
本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施例ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の特許請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、特許請求の範囲及び図面を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
10、10a:評価システム
100、100a:電子顕微鏡
110:電子線源
120、120a:照射系レンズ装置
121:照射絞り(矩形絞り)
130:走査コイル
140:試料姿勢制御装置
150:結像系レンズ装置
160:投影系レンズ装置
170:偏向コイル
180:走査コイル・レンズ制御装置
190:電子線検出器
200、200a:計算処理装置(コンピュータ)
210、210a:制御部
220:歪分布像抽出部
230:歪定量部
240:応力解析部
270:入力装置
280:記憶装置
290:表示装置
300:評価試料(結晶試料)
310:活性領域
320:素子分離領域
340:コンタクトプラグ
350:ゲート
401:X方向評価用矩形孔
402:Y方向評価用矩形孔
403:111方向評価用矩形孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶材料の格子歪分布評価方法及び格子歪分布評価システムに関する。特に、半導体装置などに用いられる結晶材料の格子歪分布について電子線回折を用いて評価する方法及び評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
LSIデバイスの製造において、各種材料を使用することで発生する応力は半導体装置に用いられる結晶構造に格子歪を発生する。そして格子歪は結晶材料の性質を示す重要な物理量のひとつである。応力及び格子歪はLSIデバイスプロセスに用いられる多種多様な材料による機械的な物性値の違いやプロセス中の熱処理によって変化する。この格子歪は結晶欠陥等を誘発しデバイス不良を引き起こす原因となる。また、近年では、例えば格子歪を利用してシリコンの電子・正孔移動度の向上を図るなど、この格子歪を積極的に利用して、結晶材料の物性向上を狙ったものもある。このように格子歪をうまく利用すればデバイスの性能向上が期待できる。その半面、うまく制御しないとデバイス動作さえ危うい結晶欠陥を生じてしまう。従って、結晶材料の応力及び格子歪を評価し、プロセス条件を最適化することはLSIデバイス開発においては不可欠である。
【0003】
従来、半導体装置を初めとする結晶材料の応力及び格子歪の評価には、X線回折法、ラマン分光法などが用いられてきたが、デバイスの微細化に伴い従来の応力・格子歪評価法では空間的な分解能が低く、十分な結果を得ることが困難になって来ている。そこで、電子線を用いた局所的な応力・格子歪評価法として収束電子線回折法(Convergent−Beam Electron Diffraction法。以下、CBED法と呼ぶ。)、ナノビーム回折法(Nano−Beam electron Diffraction法。以下、NBD法と呼ぶ。)が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、CBED法を用いた結晶材料の歪評価装置及びその評価方法が記載されている。また、非特許文献1には、NBD法を用いたSOI MOSFETの歪評価が記載されている。さらに、特許文献2、3には、回折コントラストを用いて即時的に格子歪を二次元的に評価する方法、非特許文献2には、熱散漫散乱電子強度を用いた歪評価の方法が記載されている。特許文献4には、局所的な応力・格子歪評価が必要になる微細デバイス構造の一例としてトレンチゲート型トランジスタを有する半導体装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−36729号公報
【特許文献2】特開2004−93263号公報
【特許文献3】特開2006−242914号公報
【特許文献4】特開2007−123551号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Usuda et al., “Strain characterization in SOI and strained−Si on SGOI MOSFET channel using nano−beam electron diffraction(NBD)”, Materials Science and Engineering B124−125(2005), 143頁〜147頁
【非特許文献2】N.Nakanishi et al., “Strain Mapping Technique for Performance Improvement of Strained MOSFETs with Scanning Tranmission Electron Microscopy”, IEDM2008, 431頁〜434頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記CBED法、NBD法は、あくまで一次元的な点での評価であり、格子歪がデバイス特性に与える影響を議論するには不十分である。また、CBED法、NBD法に基づく評価であっても、原理的には評価点を多くとり二次元的な分布を得ることは可能である。しかし、解析法が複雑であり時間を要するため効率的でない。また、これらの評価方法は評価装置として確立されたものではなく、透過型電子顕微鏡の応用として知られているに過ぎない。すなわち、信頼性の高い結果を得るためには熟練した技術が必要である。
【0008】
また、特許文献2、3や非特許文献2に記載されているような評価方法では、あらゆる方向の格子歪が加算され測定されるため、電流方向に沿った格子歪の影響を議論するには不十分である。一般的にLSIデバイスはシリコン等の半導体ウェハー上に平面的に形成され、電流は一方向に流れるように設計されている。その為、歪がデバイス特性に与える影響を議論するには、各種方向の歪分布や主歪、剪断格子歪といった方向成分を考慮した歪の評価が必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の視点によれば、結晶構造を有する試料に対して晶帯軸方向に電子線を照射し、前記試料により回折される複数の回折波の内、特定方向に回折される特定の回折波を選択して検出する工程と、前記電子線を照射し、前記特定の回折波を選択して検出する工程を、前記試料上を走査しつつ繰り返し、前記試料について各点での回折強度から前記特定の回折波に対応する方向の歪分布像を得る工程と、を含む結晶材料の格子歪分布評価方法が提供される。
【0010】
本発明の第2の視点によれば、電子線を試料に照射し前記試料を透過又は前記試料により回折された回折波を検出する走査透過型電子顕微鏡と、前記試料を走査して前記試料を透過又は回折された回折波のうち、特定の回折波を選択して結像し、歪分布像を得る歪分布像抽出部と、を備える結晶材料の格子歪分布評価システムが提供される。
【0011】
本発明の第3の視点によれば、走査透過型電子顕微鏡と、前記走査透過型電子顕微鏡を制御し、かつ、前記走査透過型電子顕微鏡の測定データを処理するコンピュータと、を備える評価システムにおいて、電子線を結晶構造を有する試料に照射し前記試料を透過又は前記試料により回折された回折波を検出するように前記走査透過型電子顕微鏡を制御する処理と、前記試料を走査して前記試料を透過又は回折された回折波のうち、特定の回折波を選択して結像し、歪分布像を得る処理と、を前記コンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の各視点によれば、特定の回折波を選択して歪分布像を得るので、回折波を選択して評価を行うことにより、方向ごとの歪分布像を得ることができる。さらに方向ごとの歪分布像から結晶欠陥の危険性を予知したり応力源を特定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による結晶材料の格子歪分布評価システム全体のブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による結晶材料の格子歪分布評価方法のフローチャートである。
【図3】(a)評価対象とする半導体装置の結晶に対する電子線の入射方向と(b)回折波の方向を示す図である。
【図4】特定の回折波の回折像から歪分布像が得られる原理を説明する図である。(a)逆格子点とエバルト球と励起誤差との関係を示す図と、(b)格子歪が生じた場合の逆格子点と励起誤差との関係を示す図である。
【図5】(a)、(b)、(c)は、それぞれ、X方向の歪の解析に用いる(a)回折波を示す図と、(b)回折波強度像と、(c)応力解析図である。また、(d)、(e)、(f)は、それぞれ、Y方向の歪の解析に用いる(d)回折波を示す図と、(e)回折波強度像と、(f)応力解析図である。
【図6】(a)回折波強度像と、(b)回折波強度と格子歪の大きさとの換算スケールと、(c)NBD法を用いて求めた回折波強度と格子歪の検量線を示す図である。
【図7】格子歪分布から格子歪を解析する方法を示すフローチャートである。
【図8】活性領域の結晶軸に対してSTI界面が垂直に形成されている場合の(a)平面図及び(b)その応力方向を示す拡大図と、結晶軸に対してSTI界面がテーパー角を持って形成されている場合の(c)平面図及び(d)その応力方向を示す拡大図である。
【図9】(a)、(b)は、それぞれ、各点での主歪の大きさと方向から応力源を特定する方法を示す図である。
【図10】試料に対して垂直な応力が加わった場合の(a)応力の加わる方向を示す図及び(b)逆格子点の移動する方向を示す図である。
【図11】試料に対して複雑な応力が加わった場合の(a)応力の加わる方向を示す図及び(b)逆格子点の移動する方向を示す図である。
【図12】試料に照射する電子線の(a)収束角が大きい場合の逆空間に形成されるエバルト球の広がりを示す図及び(b)収束角が小さい場合の逆空間に形成されるエバルト球の広がりを示す図である。
【図13】第4の実施形態による結晶材料の格子歪分布評価システム全体のブロック図である。
【図14】第4の実施形態における矩形絞りの(a)平面図及び(b)試料に電子線が照射されるイメージを示す斜視図である。
【図15】第4の実施形態において(a)矩形絞り長辺方向の電子線照射断面(YZ断面)と逆格子点との関係を示す図及び(b)電子線照射平面(XY面)と逆格子点との関係を示す図である。
【図16】第4の実施形態における矩形絞りの一例を示す平面図である。
【図17】第4の実施形態による結晶材料の格子歪分布評価方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態の概要について説明する。例えば、図1に示すような走査透過型電子顕微鏡を用いて、図3(a)に示すような薄片化した半導体装置の試料に対して電子線を入射すると、図3(b)に示すように透過波と回折波を観測することができる。図5(a)〜(c)と(d)〜(f)のように異なった方向に回折された回折波からそれぞれ回折された方向に対応する結晶の歪分布像を得ることができる。さらにNBD法など既知の方法を用いて歪分布像を定量化し、定量化された複数方向の歪分布像から、剪断歪分布、主歪分布を把握することができ、歪の原因を特定するとともに、結晶欠陥の発生の危険性を予知することもできる。なお、この概要の説明で引用した図面は専ら理解を助けるための例示であり、図示の態様に限定することを意図するものではない。
【0015】
次に各実施形態について図面を用いてより具体的に説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態による結晶材料の格子歪分布評価システム全体のブロック図である。図1の評価システム10は、走査透過型の電子顕微鏡100と、電子顕微鏡を制御し、かつ、電子顕微鏡100の測定データを処理する計算処理装置200を備えている。
【0017】
電子顕微鏡100は、試料の観測に用いる電子線を出力する電子線源110と、電子線源110から出力された電子線を評価試料300に照射する照射系レンズ装置120と、電子線を評価試料300の微小なスポット領域へ集束する対物レンズとなる結像系レンズ装置150を備えている。評価試料300を透過する電子線、又は評価試料300により前方回折された電子線は、投影系レンズ装置160によって、再び電子線検出器190に集束する。
【0018】
また、電子線源が照射する電子線により評価試料300上を走査するために走査コイル130が設けられている。走査コイルにより電子線は評価試料300上を走査する。また、評価試料300を透過する電子線、又は、評価試料300により前方回折された電子線のうち、特定の電子線を選択して電子線検出器に集束されるために偏向コイル170が設けられている。また、走査コイル130や照射系レンズ装置120、結像系レンズ装置150、投影系レンズ装置160を制御する走査コイル・レンズ制御装置180が設けられている。また、走査コイル・レンズ制御装置180は、偏向コイル170の制御も行う。
【0019】
さらに、評価試料300の結晶軸の方向と、電子線の照射方向を揃えるため、評価試料300の姿勢を制御する試料姿勢制御装置140が設けられている。試料姿勢制御装置140により、評価試料300の向きを微調整して、評価試料300の結晶軸の方向を電子線の照射方向に揃えることができる。
【0020】
試料姿勢制御装置140及び走査コイル・レンズ制御装置180は、計算処理装置200と接続されており、計算処理装置200の制御部210により、試料姿勢制御装置140及び走査コイル・レンズ制御装置180の制御が行われる。また、電子線検出器190も、計算処理装置200と接続され、電子線検出器190が検出した測定データが計算処理装置200により処理される。
【0021】
計算処理装置200には、入力装置270、記憶装置280、表示装置290が接続されている。入力装置270は、キーボートやマウス等の操作インターフェイスを備え、オペレータの指示に基づいて、評価システム10全体の動作を制御することができる。また、記憶装置280は、測定データや評価システム全体の動作制御や測定データの解析を行うプログラムを格納することができる。さらに、表示装置290は、電子線検出器190で検出した測定データを画像データとして表示したり、計算処理装置200で評価分析した評価分析結果を表示したりすることができる。
【0022】
計算処理装置200は、内蔵する機能として、電子顕微鏡100の動作を制御する制御部210と、電子線検出器190で検出したデータから歪分布像を抽出する歪分布像抽出部220と、電子線検出器190で観測された回折像の位置からNBD法等により格子歪の大きさを定量する歪定量部230、さらに、複数の方向の定量化された歪分布像等から評価試料の各領域に対する応力を解析する応力解析部240の機能を備えている。
【0023】
次に、図2の結晶材料の格子歪分布評価方法のフローチャートに基づいて、半導体デバイスにおける格子歪の評価方法を説明する。図2のステップS1では、FIB(Focused Ion Beam)等を用いて均一な厚さを有する半導体デバイスの断面TEM(Transmission Electron Microscope)試料を作製する。このときの試料膜厚は200nm以下であり、かつ、半導体デバイスの寸法に応じて可能な限り試料厚み方向に構造分布を有さないように(すなわち、厚さ方向には同一構造であるとみなせるように)調整して試料を作製することが望ましい。
【0024】
図3(a)に半導体デバイスの評価試料の一例を示す。図3(a)の半導体デバイスは一般的なシリコン結晶を用いたMOSFETが形成された半導体デバイスである。図3(a)では、活性領域310の単結晶シリコンに対して、X軸方向が<110>、Y軸方向が<001>となるように半導体デバイスの断面TEM試料を作製している。X軸方向の中央には、活性領域310が形成され、X軸方向の両端には、素子分離領域320が形成されている。また、半導体デバイスの表面(Y軸方向の正方向)には、ゲート350が形成され、ゲート350のX軸方向の両側には、活性領域310に接してコンタクトプラグ340が形成されている。
【0025】
次に、図1の評価システム10の(走査透過型)電子顕微鏡100内の評価試料300の位置にステップS1で作製した試料を設置する。このときに、試料姿勢制御装置140を用いて評価試料300の晶帯軸に沿って電子線が入射するように評価試料300の姿勢制御を行う(図2のステップS2)。なお、ここでは、電子線が入射する晶帯軸をSi<110>方向に取っている。なお、図3(a)のX軸と電子線が入射する晶帯軸方向は直交する方向であるが、結晶の対称性からは、表記は同一の<110>になる。すなわち、図3(a)において、X軸、Y軸に共に直交する方向から電子線が入射するように姿勢制御を行う。
【0026】
次に、電子線を評価試料300上に集束したときに試料後方(電子線の進行方向に対しては前方)に形成される電子回折パターンより特定の回折波が電子線検出器190に取り込まれるように偏向コイル170を用いて調整する(図2のステップS3)。すなわち、図3(a)において、X軸<110>、Y軸<001>、それぞれに直交する方向から電子線を評価試料300に入射したときに、評価試料300の後方(電子線の進行方向に対しては前方)の電子線検出器190付近には、図3(b)に示すように、透過波の他、002回折波、004回折波、111回折波、220回折波のような複数の回折波が集束する。このとき、活性領域310の結晶面と回折波は対応しており、例えばX方向の格子歪の評価の場合は220回折波、Y方向の格子歪の評価の場合は004回折波、又は、002回折波が電子線検出器190に取り込まれるように偏向コイル170を制御する。すると、上記透過波、各回折波のうち、特定の回折波のみが電子線検出器190に取り込まれる。
【0027】
このようにして特定の回折波のみが電子線検出器に取り込まれるように偏向コイル170を固定した状態で、走査コイル130を制御し、評価試料300上を走査し、特定の方向(図3(a)の例では、X<110>方向、又は、Y<001>方向)の歪分布に対応したコントラスト像を得ることができる(図2のステップS4、S5)。
【0028】
ここで、格子歪について定量的な評価が必要なければ(ステップS6でNo)、各方向の歪分布像を取得して処理を終了する(ステップS7)。格子歪について定量的な評価が必要であれば(ステップS6でYes)、NBD法等により歪量を定量し、定量的な歪分布像を得る(ステップS8、S9)。例えば、図6(c)に示すように、NBD法を用いて数点の回折波強度と格子歪を測定し、その測定値から直線回帰により検量線を得ることができる。この検量線に基づいて、図6(b)のような回折波強度と格子歪の大きさとの換算スケールを、図6(a)の回折波強度像と共に表示することにより、特定方向の歪分布を定量化して表示することができる。
【0029】
なお、図3(a)では、電子線を入射する方向の晶帯軸をSi<110>方向に取ってTEM試料を作製した場合を例に説明したが、電子線を入射する方向の晶帯軸をSi<100>方向に取っても回折波による分布歪の評価は可能であり、任意の結晶軸の方向に対して分布歪の評価が可能である。
【0030】
次に、図4を用いて、上記で説明した方法により歪に対応したコントラスト像が得られる原理について説明する。図4(a)には逆格子空間での逆格子点及び入射電子線とエバルト球を図示している。結晶に入射された電子線は、ブラッグBraggの法則により入射角に対して2θの方向に回折される。そしてその強度は図4(a)に示す逆格子点とエバルト球の距離である励起誤差Sgで決まる。ここで、g:逆格子ベクトル、k:波数ベクトル、d:格子面間隔、a:格子定数、h,k,l:格子面指数、λ:電子線波長とすると、励起誤差Sgは、[数1]の関係が成立する。
【0031】
【数1】
【0032】
結晶材料に応力が働き格子歪が生じた場合、逆格子点は図4(b)に示すように図面で左右方向に移動することになる。その結果、逆格子点が移動すると励起誤差Sgが変化するため回折強度が変化する。逆格子点が移動したときの励起誤差Sgは、[数2]であらわすことができる。
【0033】
【数2】
【0034】
ここで通常の電子顕微鏡で用いられる電子線波長は0.0197[Å](加速電圧300kVの時)程度であり、波長の逆数で与えられるエバルト球半径に対して評価する格子歪は最大でも数%程度であるため、励起誤差Sgと格子歪の関係は直線近似で問題ない。また、回折強度に影響を与える要因として消衰距離ξgがあるが、これは主に試料厚みに依存したパラメータであり、試料厚み、入射強度に応じて変化するものである。本実施形態において、FIB法で試料を作製すれば、十分に均質な厚みを有した試料が作製可能であり、入射方向も一定で試料上を走査するため回折強度に与える影響はないとみなせる。
【0035】
複雑な構造を有する微細デバイスでは格子歪分布も複雑になるためNBD法やCBED法では詳細な歪分布の評価は時間を要するが、第1の実施形態の方法によれば即時的に歪分布像を得ることができる。
【0036】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、各方向の定量的な歪分布像を出力する所まで説明したが、第2の実施形態では、第1の実施形態の出力結果に基づいて、さらに、主歪分布や任意の方向における剪断歪分布を出力し、結晶歪の原因を把握すると共に、結晶欠陥の危険性を予知することができる。図7は、第2の実施形態の処理手順を示すフローチャートである。
【0037】
第2の実施形態を説明するにあたって、評価の一例としてシリコンLSIデバイスにおいて一般的に用いられる浅溝素子分離構造(STI)が活性領域に及ぼす応力による格子歪の評価の例を図8に示す。図8(a)は、STI界面が活性領域の結晶方向と揃った方向に形成されている場合の平面図であり、図8(b)はその界面近傍の拡大図である。また、図8(c)は、STI界面が活性領域の結晶構造に対してテーパー角を持って形成されている場合の平面図であり、図8(d)はその界面近傍の拡大図である。
【0038】
図8(a)、図8(b)のように活性領域の結晶方向と揃った方向にSTI界面が形成されている場合は、一般的には、活性領域の結晶構造に対して垂直な方向から応力が働く。しかし、図8(c)、図8(d)のように活性領域の結晶構造に対してSTI界面がテーパー角を持って形成されている場合は、X方向、Y方向の歪だけではなく、X方向、Y方向に沿った剪断歪も伴う。このような剪断歪は半導体装置において、結晶欠陥を誘発することが知られている。このため剪断歪が結晶欠陥を引き起こさないように製造工程や設計工程の制御が必要となる。
【0039】
しかし、このような剪断歪はX方向、Y方向の歪評価のみからは判断できない。また、STI界面垂直方向の歪が最も大きくなることから、歪が最大となる主歪の方向を特定することが出来れば、歪の原因となる応力源の特定が可能となり、半導体製造プロセスへのフィードバックが容易になる。そこで第1の実施形態で得られた結像条件の違う異なる方向に対する格子歪分布像から剪断歪、主歪を解析する第2の実施形態による解析方法を説明する。
【0040】
第2の実施形態で用いる試料は、第1の実施形態と同様にFIB加工されたTEM試料を用いる。従って、試料奥行き方向(電子線透過方向)の応力成分はFIB加工時の応力緩和によりゼロとなる。その結果、2次元応力近似が可能となる。以下、2次元応力状態での格子歪について説明する。
【0041】
図3(b)において、220回折波を用いた強度分布の結像からX方向の歪分布(εxx)、004回折波を用いた結像からY方向の歪分布(εyy)、111回折波を用いた結像から斜め35.3度方向の歪分布(εθ、θ=35.3度)を得ることができる(図7のステップS21)。各歪分布像の取得後、回折波強度を定量化するためにNBD法を用いて定量化を行う(図7のステップS22)。例えば歪分布像の中で特異点3点をNBD測定し回折強度の歪定量化を行う。すでに述べたように回折強度と歪量は直線近似しても問題ない。
【0042】
次に3方向(X方向、Y方向、θ=35.3度の方向)の歪分布から剪断歪を算出する(図7のステップS23)。各歪の間には、[数3]の関係があり、計算により剪断歪γxyが得られる。なお、[数3]において、X方向の歪はεxx、Y方向の歪はεyy、θ方向の歪はεθであるとする。
【0043】
【数3】
【0044】
次に、[数3]を変形して[数4]が得られる。すなわち、測定したεxx、εyyと計算により求めた剪断歪γxyからεθを計算することができる。
【0045】
【数4】
【0046】
このεθにおいて適当な方向θを選べば、最大歪が得られる方向が求められる。この方向の歪は主歪と言われており、この計算により主歪の方向も求められることになる。すなわち、[数4]において、歪量εθが最大となるθが主歪の方向であり、そのときのεθが主歪の大きさになる。例えば、図9に示すように各点での主歪の値を矢印の長さ、その方向を矢印の向きとして出力することにより応力源を特定することが可能となる(図7のステップS24)。
【0047】
さらに、[数5]により任意の方向θでの剪断歪γθも得ることができる(図7のステップS25)。シリコン単結晶の場合、Si(111)面が滑り面であるので、この面上、例えばθ=54.7度、−54.7度の時の剪断歪分布像を得ることにより、結晶欠陥の発生の危険性を予知することができる。
【0048】
【数5】
【0049】
すなわち、第2の実施形態によれば、定量化された複数の方向の歪分布から[数3]、[数4]を用いて任意の方向の歪εθを求めることができるので、εθの最大歪が得られる方向より、主歪の大きさと方向を求めることができる。さらに、主歪の大きさと方向から図9に示すように応力源を特定することができる。
【0050】
また、[数5]により任意の方向θでの剪断歪γθも得ることができる。剪断歪は半導体装置において結晶欠陥の原因となるので、第2の実施形態によれば、結晶欠陥の危険性を予知することができる。
【0051】
[第3の実施形態]
図1に示す評価システム10における計算処理装置200は、必ずしも専用の計算処理装置である必要はなく、EWS、PC等の汎用のコンピュータに記憶装置280に格納されている専用の評価プログラムを実行させることにより、汎用のコンピュータと電子顕微鏡100と電子顕微鏡100の周辺装置となる試料姿勢制御装置140、走査コイル・レンズ制御装置180、電子線検出器190に評価システム10としての機能を実現させることもできる。この場合、表示装置290、入力装置270、記憶装置280は、その汎用のコンピュータに接続可能である周辺装置を用いることができる。また、計算処理装置200は、汎用のコンピュータに記憶装置280に格納されている評価プログラムを実行させることにより、汎用のコンピュータを制御部210、歪分布像抽出部220、歪定量部230、応力解析部240として機能する計算処理装置200として機能させることができる。すなわち、第3の実施形態によれば、コンピュータに専用のプログラムを実行させることにより、走査透過型電子顕微鏡と、走査透過型電子顕微鏡を制御し、かつ、前記走査透過型電子顕微鏡の測定データを処理するコンピュータに、第1の実施形態、第2の実施形態で説明した評価システムとして機能させ、評価方法を実行させることができる。
【0052】
[実施例1]
次に、図1〜4を用いて説明した第1の実施形態による評価方法を例えば、特許文献4に記載されているようなトレンチゲートを有する微細デバイスに適応した実施例1について説明する。図5(a)、(b)は、それぞれ、X<100>方向の歪の解析に用いた(a)回折波を示す図と、(b)回折波強度像である。また、図5(d)、(e)は、それぞれ、Y<001>方向の歪の解析に用いた(d)回折波を示す図と、(e)回折波強度像である。実施例1では、図5(b)と、図5(e)に示すように格子歪を歪が生じている方向に分けて表示することができるので、容易に歪の状態を把握することができる。さらに、図5(b)、(e)のような回折波強度像は、たとえば、図5(c)、(f)のような応力解析図にして示すこともできる。なお、図5(c)、(f)は、図5(b)、図5(e)の測定とは別に行ったプロセスシミュレーション結果による応力解析図である。
【0053】
以上説明したように本発明による各実施形態によれば、即時的に格子歪を方向成分に分離して評価でき、さらにNBD法を用いて歪定量化を行うことができる。その結果からさらに計算処理装置を用いて各点での歪量から特許文献2、3や非特許文献2では測定できなかった剪断歪分布や主歪分布を得ることができる。その結果、剪断歪分布からは結晶欠陥の危険性を予知でき、主歪分布からは応力源の特定が可能となる。
【0054】
[第4の実施形態]
次に、第1乃至第3の実施形態、実施例1を用いて説明した本発明の原理を元に歪方向の分離性能(ここではX方向歪とY方向歪の分離)を向上した第4の実施形態による評価システム及び評価方法について説明する。
【0055】
図10(a)に示すような評価試料300に対して垂直方向(X方向)から応力が加わり垂直方向に歪が生じる理想的な垂直歪の場合、図10(b)に示すようにX方向の歪を評価しようとしたときには注目逆格子点はX方向にしか動かない。しかし、評価試料300が実際のLSIデバイスである場合には、図11(a)に示すように応力は複雑な方向に加わることにより、せん断歪等を含んでおり複雑な格子歪が発生している。その為、図11(b)に示すようにX方向の歪分布を評価する注目逆格子点はX方向だけでなく、Y方向にも動いてしまう。その結果、注目回折波で取得した格子歪分布像には、Y方向の歪やせん断歪の成分が重畳され、X方向の歪測定に誤差を与えてしまう。
【0056】
そこで歪方向の分離性能を向上させる為、各種検討を行なった結果、結晶試料(評価試料300)に照射する電子線の平行度が良いほど、歪分布像のコントラストが向上することを見出した。図12(a)と図12(b)には、結晶試料に照射する電子線について、
それぞれ収束角大の場合と、収束角小(結晶試料に収束する照射波の平行度良)の場合の逆空間に形成されるエバルト球の広がりを示す。図12(a)に示す様に、収束された電子線の収束角が大きいと、あらゆる方向から電子が結晶試料に入射される為、逆空間に形成されるエバルト球は広がりを持つようになる。その結果、平均的にみた励起誤差は一様となり、歪コントラストが弱くなる。
【0057】
そこで、第4の実施形態では、図13、図14に示す様な矩形の可動絞り(矩形絞り121)を提案する。図13は、第4の実施形態による結晶材料の格子歪分布評価システム10a全体のブロック図である。図13の評価システム10aについて、図1に示す第1の実施形態による評価システム10と異なる部分について説明する。図13の評価システム10aは、照射系レンズ装置120aに矩形絞り121(開口部(孔)の形状が矩形である照射絞り)を設けている。矩形絞り121は、図14(a)の平面図に示すように矩形の開口部(孔)を備えている。図14(b)の評価試料300に電子線が照射されるイメージを示す斜視図に示すように電子線源110(図13参照)から照射される電子線のうち、矩形絞り(照射絞り)121により絞られた電子線は結像系レンズ装置150(図13参照)によって評価試料300に収束する。また、図13の評価システム10aは、計算処理装置200aに設けられる制御部210aが矩形絞り121を含む照射系レンズ装置120aの制御も行う。
【0058】
この矩形絞り121を照射系レンズ装置120a内に組み込むことでX方向の電子線収束角とY方向の電子線収束角に非対称性を持たせることが出来る。その結果、逆格子点の一方向のみの変位を強調した回折強度変化を得ることが出来る。
【0059】
図15を用いて詳細に説明する。図15(a)は矩形絞り長辺方向の電子線断面と逆格子点の関係(図12(a)と同じ)を示しており、図15(b)は図15(a)点線部分のXY断面(0次の逆格子面)を示す。Y方向の電子線収束角は高角度である為、あらゆる角度で入射した電子線により広がりを持ったエバルト球が形成されているが、X方向は平行度の高い電子線であるため、0次の逆格子面上には現れない。その結果、Y方向の逆格子点の移動は、動く方向では励起誤差が小さくなるが、一方では励起誤差が大きくなる。すなわち、Y方向の電子線収束角は高角度であるので、収束する電子線のうち、Y方向への逆格子点の移動により、一方向から収束する電子線による励起誤差が小さくなったとしても他方向から収束する電子線による励起誤差が大きくなるため、結果として回折強度に変化は見られない。しかし、X方向の移動は、平行度の高い電子線であるため、回折強度を変化させる。その結果、矩形絞り短辺方向歪の誤差の低減された格子歪分布の取得が可能となる。
【0060】
なお、ここでは、透過波に対して検出しようとする特定の回折波の回折する方向に対して長辺が直交し、短辺が回折する方向と平行になるように矩形絞り121を設定している。たとえば、図3(b)において、透過波に対してX方向に回折される220回折波を検出しようとするときは、矩形絞り121の向きを、長辺がY軸に平行し、短辺がX軸に平行になるように調節する。同様に、図3(b)において、透過波に対してY方向に回折される002回折波、又は、004回折波を検出しようとするときは、矩形絞り121の向きを、長辺がX軸に平行し、短辺がY軸に平行になるように調節する。また、短辺と長辺の長さの比は、長辺が短辺より長ければ一応の効果は得られるが、歪誤差を低減するためには、長辺の長さが短辺の長さの4倍以上であることが望ましい。
【0061】
図16は矩形絞りの一例で、同一金属板上に複数の矩形孔を有した絞りである。図16の矩形絞り121は、X方向評価用矩形孔401、Y方向評価用矩形孔402、111方向評価用矩形孔403を備えている。こうすることによって、X方向、Y方向、111方向の歪方向分離性の良い歪分布像の取得が可能となる。通常、照射レンズ系は複数の電子線レンズと偏向器、絞りを有しているので前段のレンズと絞りにより任意の方向に長辺を持った矩形孔を選択することが出来る。
【0062】
図17は、第4の実施形態による結晶材料の格子歪分布評価方法のフローチャートである。図17において、図2の第1の実施形態による評価方法のフローチャートと比べると、ステップS3で特定の回折波を検出器に取り込む前に、検出しようとする特定の回折波に合わせて矩形絞り121を調整している(ステップS31)。矩形絞り121の調整(ステップS31)は、ステップS3において特定の回折波を検出器に取り込む前ならば、どの時点で行ってもよい。たとえば、矩形絞り121が図16に示すような複数の孔(開口部)を備えた矩形絞りであるならば、照射系レンズ装置120aの前段レンズの制御により検出しようとする特定の回折波に合わせた孔を選択することができる。または、矩形絞り121と評価試料300とのそれぞれXY平面における相対的な方向を矩形絞り121、及び/又は、評価試料300等をXY平面上で回転させることにより調整するものであってもよい。その他、第1の実施形態とほぼ同一である点については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0063】
なお、上述した第4の実施形態は第2の実施形態による主歪分布や任意の方向における剪断歪分布の解析と組み合わせられることは言うまでもない。第4の実施形態によれば、歪方向の分離性能を向上させることができるので、主歪分布や任意の方向における剪断歪分布の解析の精度をさらによくすることが期待できる。また、第4の実施形態は、第3の実施形態で説明したEWS、PC等の汎用のコンピュータに専用の評価プログラムを実行させることにより実施することもできる。第4の実施形態の評価システムとして機能させるコンピュータプログラムには、電子顕微鏡100aに対して評価試料300に対する矩形絞り121の開口部(孔)の相対的な方向を制御するプログラムが含まれる。
【0064】
なお、国内優先権の主張の基礎となる先の出願の当初記載事項(特許請求の範囲、明細書、図面を含む)については、先の出願の出願日を優先日(基準日)として判断するものとし、今回追加した記載事項に影響されず、それが無いものとして判断すべきものである。なお、今回追加した事項は、請求項15−18、第4の実施形態[0054]−[0064]、図10−17及びこれらに関連する事項に限られている。
【0065】
本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施例ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の特許請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、特許請求の範囲及び図面を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
10、10a:評価システム
100、100a:電子顕微鏡
110:電子線源
120、120a:照射系レンズ装置
121:照射絞り(矩形絞り)
130:走査コイル
140:試料姿勢制御装置
150:結像系レンズ装置
160:投影系レンズ装置
170:偏向コイル
180:走査コイル・レンズ制御装置
190:電子線検出器
200、200a:計算処理装置(コンピュータ)
210、210a:制御部
220:歪分布像抽出部
230:歪定量部
240:応力解析部
270:入力装置
280:記憶装置
290:表示装置
300:評価試料(結晶試料)
310:活性領域
320:素子分離領域
340:コンタクトプラグ
350:ゲート
401:X方向評価用矩形孔
402:Y方向評価用矩形孔
403:111方向評価用矩形孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造を有する試料に対して晶帯軸方向に電子線を照射し、前記試料により回折される複数の回折波の内、特定方向に回折される特定の回折波を選択して検出する工程と、
前記電子線を照射し、前記特定の回折波を選択して検出する工程を、前記試料上を走査しつつ繰り返し、前記試料について各点での回折強度から前記特定の回折波に対応する方向の歪分布像を得る工程と、
を含むことを特徴とする結晶材料の格子歪分布評価方法。
【請求項2】
互いに異なった方向に回折される複数の回折波について、それぞれ前記試料の歪分布像を得る工程を繰り返し、前記異なった方向に回折された回折波からそれぞれ回折波の方向に対応する方向の歪分布像を得る複数方向歪分布像取得工程と、
前記複数方向の歪分布像から前記試料の応力解析を行う工程をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
前記歪分布像の歪の大きさを定量化する工程をさらに含むことを特徴とする請求項2記載の評価方法。
【請求項4】
前記応力解析を行う工程は、複数の方向の歪測定結果から特定方向の剪断歪を計算する工程と、
複数方向の歪測定結果と前記計算で求めた特定方向の剪断歪から主歪の大きさと方向を計算する工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項3記載の評価方法。
【請求項5】
前記応力解析を行う工程は、複数の方向の歪測定結果から特定方向の剪断歪を計算する工程と、
前記複数の方向の歪測定結果と前記計算で求めた特定方向の剪断歪から任意の方向の剪断歪を求める工程と、
を含むことを特徴とする請求項3又は4記載の評価方法。
【請求項6】
前記試料は、結晶構造を有する材料を均一の厚さに薄片化したTEM試料であり、前記特定の回折波は、前方散乱による回折波であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載の評価方法。
【請求項7】
電子線を試料に照射し前記試料を透過又は前記試料により回折された回折波を検出する走査透過型電子顕微鏡と、
前記試料を走査して前記試料を透過又は回折された回折波のうち、特定の回折波を選択して結像し、歪分布像を得る歪分布像抽出部と、
を備える結晶材料の格子歪分布評価システム。
【請求項8】
前記歪分布像の歪強度を定量化する歪定量部をさらに備えることを特徴とする請求項7記載の格子歪分布評価システム。
【請求項9】
応力解析部をさらに備え、
前記歪分布像抽出部は、互いに異なった方向に回折された複数の回折波について、それぞれ回折波の方向に対応する複数方向の歪分布像を取得し、
前記応力解析部は、前記歪分布像抽出部が取得した複数方向の歪分布像から前記試料の応力解析を行うことを特徴とする請求項7又は8記載の格子歪分布評価システム。
【請求項10】
前記応力解析部は、
前記複数方向の歪分布像から特定方向の剪断歪を計算する処理と、
前記複数方向の歪分布像と前記計算で求めた特定方向の剪断歪から主歪の大きさと方向を計算する処理と、
を行うことを特徴とする請求項9記載の格子歪分布評価システム。
【請求項11】
前記応力解析部は、
前記複数方向の歪分布像から特定方向の剪断歪を計算する処理と、
前記複数方向の歪分布像と前記計算で求めた特定方向の剪断歪から任意の方向の剪断歪を計算する処理と、
を行うことを特徴とする請求項9又は10記載の格子歪分布評価システム。
【請求項12】
前記走査透過型電子顕微鏡は、照射する電子線の方向に対して前記試料の結晶方向の向きを調整する試料姿勢制御装置をさらに備えることを特徴とする請求項7乃至11いずれか1項記載の格子歪分布評価システム。
【請求項13】
前記歪分布像を含む評価結果を表示する表示装置をさらに備えることを特徴とする請求項7乃至12いずれか1項記載の格子歪分布評価システム。
【請求項14】
走査透過型電子顕微鏡と、
前記走査透過型電子顕微鏡を制御し、かつ、前記走査透過型電子顕微鏡の測定データを処理するコンピュータと、
を備える評価システムにおいて、
電子線を結晶構造を有する試料に照射し前記試料を透過又は前記試料により回折された回折波を検出するように前記走査透過型電子顕微鏡を制御する処理と、
前記試料を走査して前記試料を透過又は回折された回折波のうち、特定の回折波を選択して結像し、歪分布像を得る処理と、
を前記コンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項15】
前記特定の回折波を選択して検出する工程において、前記試料に照射する電子線を、透過波に対する前記特定の回折波の回折する方向に直交する長辺と平行な短辺とを有する矩形に絞って照射し前記試料に集束させることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載の評価方法。
【請求項16】
前記走査透過型電子顕微鏡が、前記電子線を絞って前記試料に照射する矩形の開口部を有する照射絞りを備え、
前記照射絞りが、透過波に対する前記特定の回折波の回折する方向に長辺が直交し短辺が平行する向きに前記矩形の開口部を設定可能であることを特徴とする請求項7乃至13いずれか1項記載の格子歪分布評価システム。
【請求項17】
前記照射絞りが、それぞれ長辺と短辺の方向が異なる複数の前記矩形の開口部を備え、前記特定の回折波の回折の方向に合わせて、前記複数の開口部の中から絞りに用いる開口部を選択して前記電子線を照射することを特徴とする請求項16記載の格子歪分布評価システム。
【請求項18】
前記走査透過型電子顕微鏡が、開口部が矩形であり、前記矩形の向きを可変にできる照射絞りを備え、
前記走査透過型電子顕微鏡を制御する処理が、透過光に対する前記特定の回折波の回折の方向に合わせて、前記照射絞りの矩形の向きを制御することを特徴とする請求項14記載のコンピュータプログラム。
【請求項1】
結晶構造を有する試料に対して晶帯軸方向に電子線を照射し、前記試料により回折される複数の回折波の内、特定方向に回折される特定の回折波を選択して検出する工程と、
前記電子線を照射し、前記特定の回折波を選択して検出する工程を、前記試料上を走査しつつ繰り返し、前記試料について各点での回折強度から前記特定の回折波に対応する方向の歪分布像を得る工程と、
を含むことを特徴とする結晶材料の格子歪分布評価方法。
【請求項2】
互いに異なった方向に回折される複数の回折波について、それぞれ前記試料の歪分布像を得る工程を繰り返し、前記異なった方向に回折された回折波からそれぞれ回折波の方向に対応する方向の歪分布像を得る複数方向歪分布像取得工程と、
前記複数方向の歪分布像から前記試料の応力解析を行う工程をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
前記歪分布像の歪の大きさを定量化する工程をさらに含むことを特徴とする請求項2記載の評価方法。
【請求項4】
前記応力解析を行う工程は、複数の方向の歪測定結果から特定方向の剪断歪を計算する工程と、
複数方向の歪測定結果と前記計算で求めた特定方向の剪断歪から主歪の大きさと方向を計算する工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項3記載の評価方法。
【請求項5】
前記応力解析を行う工程は、複数の方向の歪測定結果から特定方向の剪断歪を計算する工程と、
前記複数の方向の歪測定結果と前記計算で求めた特定方向の剪断歪から任意の方向の剪断歪を求める工程と、
を含むことを特徴とする請求項3又は4記載の評価方法。
【請求項6】
前記試料は、結晶構造を有する材料を均一の厚さに薄片化したTEM試料であり、前記特定の回折波は、前方散乱による回折波であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載の評価方法。
【請求項7】
電子線を試料に照射し前記試料を透過又は前記試料により回折された回折波を検出する走査透過型電子顕微鏡と、
前記試料を走査して前記試料を透過又は回折された回折波のうち、特定の回折波を選択して結像し、歪分布像を得る歪分布像抽出部と、
を備える結晶材料の格子歪分布評価システム。
【請求項8】
前記歪分布像の歪強度を定量化する歪定量部をさらに備えることを特徴とする請求項7記載の格子歪分布評価システム。
【請求項9】
応力解析部をさらに備え、
前記歪分布像抽出部は、互いに異なった方向に回折された複数の回折波について、それぞれ回折波の方向に対応する複数方向の歪分布像を取得し、
前記応力解析部は、前記歪分布像抽出部が取得した複数方向の歪分布像から前記試料の応力解析を行うことを特徴とする請求項7又は8記載の格子歪分布評価システム。
【請求項10】
前記応力解析部は、
前記複数方向の歪分布像から特定方向の剪断歪を計算する処理と、
前記複数方向の歪分布像と前記計算で求めた特定方向の剪断歪から主歪の大きさと方向を計算する処理と、
を行うことを特徴とする請求項9記載の格子歪分布評価システム。
【請求項11】
前記応力解析部は、
前記複数方向の歪分布像から特定方向の剪断歪を計算する処理と、
前記複数方向の歪分布像と前記計算で求めた特定方向の剪断歪から任意の方向の剪断歪を計算する処理と、
を行うことを特徴とする請求項9又は10記載の格子歪分布評価システム。
【請求項12】
前記走査透過型電子顕微鏡は、照射する電子線の方向に対して前記試料の結晶方向の向きを調整する試料姿勢制御装置をさらに備えることを特徴とする請求項7乃至11いずれか1項記載の格子歪分布評価システム。
【請求項13】
前記歪分布像を含む評価結果を表示する表示装置をさらに備えることを特徴とする請求項7乃至12いずれか1項記載の格子歪分布評価システム。
【請求項14】
走査透過型電子顕微鏡と、
前記走査透過型電子顕微鏡を制御し、かつ、前記走査透過型電子顕微鏡の測定データを処理するコンピュータと、
を備える評価システムにおいて、
電子線を結晶構造を有する試料に照射し前記試料を透過又は前記試料により回折された回折波を検出するように前記走査透過型電子顕微鏡を制御する処理と、
前記試料を走査して前記試料を透過又は回折された回折波のうち、特定の回折波を選択して結像し、歪分布像を得る処理と、
を前記コンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項15】
前記特定の回折波を選択して検出する工程において、前記試料に照射する電子線を、透過波に対する前記特定の回折波の回折する方向に直交する長辺と平行な短辺とを有する矩形に絞って照射し前記試料に集束させることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載の評価方法。
【請求項16】
前記走査透過型電子顕微鏡が、前記電子線を絞って前記試料に照射する矩形の開口部を有する照射絞りを備え、
前記照射絞りが、透過波に対する前記特定の回折波の回折する方向に長辺が直交し短辺が平行する向きに前記矩形の開口部を設定可能であることを特徴とする請求項7乃至13いずれか1項記載の格子歪分布評価システム。
【請求項17】
前記照射絞りが、それぞれ長辺と短辺の方向が異なる複数の前記矩形の開口部を備え、前記特定の回折波の回折の方向に合わせて、前記複数の開口部の中から絞りに用いる開口部を選択して前記電子線を照射することを特徴とする請求項16記載の格子歪分布評価システム。
【請求項18】
前記走査透過型電子顕微鏡が、開口部が矩形であり、前記矩形の向きを可変にできる照射絞りを備え、
前記走査透過型電子顕微鏡を制御する処理が、透過光に対する前記特定の回折波の回折の方向に合わせて、前記照射絞りの矩形の向きを制御することを特徴とする請求項14記載のコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図5】
【図6】
【図2】
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【公開番号】特開2012−255766(P2012−255766A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−34676(P2012−34676)
【出願日】平成24年2月21日(2012.2.21)
【出願人】(500174247)エルピーダメモリ株式会社 (2,599)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月21日(2012.2.21)
【出願人】(500174247)エルピーダメモリ株式会社 (2,599)
【Fターム(参考)】
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