説明

結石採石具

【課題】体腔の損傷を防ぎつつ体腔内の結石を簡便な方法で確実に採取して結石採石術の信頼性を向上させる。
【解決手段】先端部に開口する吐出口2aを有するチューブ状のカテーテル2と、該カテーテル2の基端部に接続され、注入剤Aを収容し、該注入剤Aをカテーテル2内に注入して吐出口2aから吐出させる注入手段3と、カテーテル2の先端部の吐出口2aより前方に配置され、結石を捕捉する捕捉部5とを備え、注入剤Aが、体温より低い温度でゾル状態となり、体温以上の温度でゲル状態となる温度感応性ポリマーを含む結石採石具1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結石採石具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、総胆管結石症のための腹腔鏡下外科手術として、乳頭括約筋切開術(Endoscopic sphincterotomy:EST)により切開した乳頭から胆管内へ処置具を挿入し、内視鏡的に結石を砕いて採取する方法が用いられている。
【0003】
一般的な総胆管結石用の砕石具は、強度の高いワイヤからなるバスケット型の形状をしており、結石をバスケット内に取り込んでバスケットを閉じることにより結石を締め付けて砕くようになっている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。また、砕いた結石を胆管内から掻き出して採取するための処置具としてバスケット鉗子やバルーンが知られている(例えば、特許文献3〜特許文献7参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−530944号公報
【特許文献2】特表2004−516880号公報
【特許文献3】特表平10−500336号公報
【特許文献4】特開2000−005189号公報
【特許文献5】特開2001−149377号公報
【特許文献6】特表2002−506371号公報
【特許文献7】特開2008−194167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バルーンを用いた場合、バルーンと胆管の内壁との間に結石が挟まれて胆管の内壁を損傷させる可能性があるという不都合がある。バスケット鉗子を用いた場合、小さい結石がワイヤの隙間から漏れるため、結石を残らずに採取することは難しい。また、こうして胆管内に残った遺残結石は成長して胆管結石の再発の原因になるという問題がある。
【0006】
特許文献4では、比較的大きな結石をそのままバルーンで包み込んで採取するカテーテルが開示されているが操作が煩雑であるという不都合がある。また、結石は大きく成長してから発見されることが多く、砕石せずに胆管内から取り出すことが困難な場合がほとんどであるため実用的ではない。
このような胆管の損傷や遺残結石は術後の経過を左右する大きな要因であり、手術の信頼性を向上させるために遺残結石および胆管の損傷を減らすことが求められている。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、体腔の損傷を防ぎつつ体腔内の結石を簡便な方法で確実に採取して結石採石術の信頼性を向上させることができる結石採石具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、先端部に開口する吐出口を有するチューブ状のカテーテルと、該カテーテルの基端部に接続され、注入剤を収容し、該注入剤を前記カテーテル内に注入して前記吐出口から吐出させる注入手段と、前記カテーテルの先端部の前記吐出口より前方に配置され、結石を捕捉する捕捉部とを備え、前記注入剤が、体温より低い温度でゾル状態となり、前記体温以上の温度でゲル状態となる温度感応性ポリマーを含む結石採石具を提供する。
【0009】
本発明によれば、カテーテルの先端部を体内の結石の近傍へ挿入して注入手段によりゾル状態の注入剤を注入すると、吐出口から吐出した注入剤が体温により加温されて結石を内部に包み込みながらゲル状態へ変化し、捕捉部により注入剤を捕捉しながらカテーテルを後方へ引き抜くことにより、注入剤と同時に結石を採取することができる。
【0010】
このように、温度感応性ポリマーを含む注入剤は、体温より低い温度でゾル状態に、体温以上の温度でゲル状態になり、注入時には流動性の高い状態で、採取時には弾性を有する有形の状態で用いられる。これにより、カテーテル用いて容易に注入剤を注入することができ、また、注入された注入剤を容易に採取することができる。
【0011】
また、結石がゲル状態の注入剤内に包み込まれることにより、結石による体腔の損傷と結石の取りこぼしとが防止される。また、捕捉部を吐出口の前方に配置することにより、カテーテルを後方へ引き抜く際に捕捉部による注入剤の捕捉が可能になり、カテーテルの挿入と抜去る作業が1回で済む。これにより、簡便な操作と手順でありながら体腔の損傷を防ぎつつ結石を確実に採取して、結石採石術の信頼性を向上させることができる。
【0012】
上記発明においては、前記捕捉部が、前記カテーテルの半径方向に収縮した収縮位置と、前記カテーテルの半径方向に拡張した拡張位置との間で変形可能であり、前記カテーテルの基端側において操作され、前記捕捉部を前記収縮位置と前記拡張位置との間で変形させる操作部を備えることとしてもよい。
このようにすることで、カテーテルおよび捕捉部を狭い空間に挿入する場合であっても捕捉部を収縮位置に配することで容易に挿入することができ、また、注入剤を捕捉するときは捕捉部を拡張位置へ変形させることで容易に注入剤を捕捉することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記カテーテルの半径方向外方に、前記カテーテルおよび前記捕捉部を収容した位置と露出させた位置との間で長手方向に移動可能に設けられた筒部を有することとしてもよい。
このようにすることで、捕捉部を収縮位置の状態で筒部内に収容してカテーテルを容易に挿入および抜去ることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記操作部が、前記カテーテル内に長手方向に移動可能に挿入され、その先端をカテーテルの先端から突出させたワイヤ部材を備え、前記捕捉部が、前記カテーテルの先端と、前記ワイヤ部材の先端とにそれぞれ端部が固定された可撓性を有する複数本のワイヤからなるバスケットを備えることとしてもよい。
【0015】
このようにすることで、ワイヤ部材を前方へ移動させると、ワイヤの両端部が離間させられてワイヤがワイヤ部材の長手方向に沿って伸びることによりバスケットがカテーテルの半径方向に収縮させられる。また、ワイヤ部材を後方へ移動させると、ワイヤの両端部が接近してワイヤが湾曲することにより、バスケットがカテーテルの半径方向に拡張させられる。これにより、ワイヤ部材を前後方向に移動させるだけの簡易な操作で捕捉部を収縮位置と拡張位置との間で変形させることができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記カテーテルが、前記注入剤が注入され前記吐出口を有する第1の内腔と、先端面に開口して長手方向に延び、前記ワイヤ部材が挿入される第2の内腔とを有することとしてもよい。
このようにすることで、ワイヤ部材と注入剤とが互いに異なる内腔内に挿入または注入され、ワイヤ部材の操作と注入剤の注入とを容易にすることができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記カテーテルが、前記注入剤が注入され前記吐出口を有する第1の内腔と、先端面に開口して長手方向に延びる第2の内腔とを有し、前記捕捉部が、その内部が前記第2の内腔内に接続されたバルーンを備え、前記操作部が、前記第2の内腔内を減圧および加圧する圧力調整機構を備えることとしてもよい。
このようにすることで、圧力調整機構により第2の内腔内を減圧または加圧するとバルーンが収縮または膨張させられ、捕捉部を簡易に収縮位置と拡張位置との間で変形させることができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記捕捉部が、前記カテーテルの半径方向外方へ突出し弾性を有する複数の繊維部材からなるブラシを備えることとしてもよい。
このようにすることで、筒部を、ブラシを収納する位置および露出させる位置へ移動させるだけで、ブラシを収縮位置へ自己収縮させながら筒部内に収納し、また、拡張位置へ自己拡張させながら出没させることができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記カテーテル内を前記体温より低い温度に維持する温度維持手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、注入剤が体内においてカテーテル内を通過させられている間にゲル状態へ変化するのを防ぐことができる。
【0020】
また、上記発明においては、最先端となる位置に、衝撃を緩和する保護部材を備えることとしてもよい。
このようにすることで、結石採石具が体内に挿入されてその先端が腔壁等に接触しても腔壁等が損傷しないよう保護部材により腔壁等を保護することができる。
【0021】
また、上記発明においては、前記温度感応性ポリマーが、親水性ポリエーテルと疎水性ポリエステルとからなるトリブロック共重合体を含むことが好ましく、前記親水性ポリエーテルが、約500〜30000の平均分子量を有し、前記疎水性ポリエステルが、約500〜20000の平均分子量を有することがより好ましい。
このようにすることで、注入剤が、ゾル状態において高い流動性を有しながら、ゲル状態において適度な弾性と強度とを有することができる。
【0022】
また、上記発明においては、前記親水性ポリエーテルが、ポリエチレングリコール(PEG)であり、前記疎水性ポリエステルが、D,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸およびこれらからなる共重合体のうち少なくとも1つをモノマーとして含むことがより好ましい。
このようにすることで、トリブロック共重合体が生体適合性の高い成分から構成され、注入剤による生体への影響を抑えて結石採石術の信頼性をさらに向上させることができる。
【0023】
また、上記発明においては、前記注入剤が、ヒアルロン酸またはコレステロールを含むこととしてもよい。
このようにすることで、注入剤のゲル状態における強度を向上させ、注入剤が結石をより堅固に保持することでより確実に結石を採取することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、体腔の損傷を防ぎつつ体腔内の結石を簡便な方法で確実に採取して結石採石術の信頼性を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る結石採石具の全体構成ならびに(a)拡張状態および(b)収縮状態における動作を説明する図であり、(c)カテーテルの断面を示す図である。
【図2】図1の結石採石具の使用方法を説明する図であり、(a)胆管内への挿入時、(b)注入剤の注入時、および(c)結石の採取時を示している。
【図3】図1の結石採石具の変形例を示す図である。
【図4】(a),(b)カテーテルの変形例を示す図である。
【図5】(a),(b)捕捉部の変形例を示す図である。
【図6】本発明の実施例に係る注入剤の相ダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態に係る結石採石具1ついて、図1〜図6を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る結石採石具1は、図1(a),(b)に示されるように、先端部に吐出口2aを、基端側に注入口2bを有するカテーテル2と、該カテーテル2内に注入剤Aを注入する注入手段3と、カテーテル2内に挿入された操作ワイヤ(ワイヤ部材)4と、カテーテル2の先端において操作ワイヤ4の先端部に設けられたバスケット(捕捉部)5とを備えている。
【0027】
カテーテル2は、可撓性の材料からなり、図1(c)に示されるように、互いに隔離された楕円形状の断面を有する第1の内腔2cと、円形状の断面を有する第2の内腔2dとを有している。吐出口2aは、カテーテル2の先端部に長手方向に並んで複数開口し、吐出口2aおよび注入口2bは第1の内腔2cへ貫通している。また、第1の内腔2cは、その両端がカテーテル2の両端近傍において閉塞し、第2の内腔2dはカテーテル2の長手方向に貫通している。
【0028】
注入手段3は、例えば、注入剤Aを収容したシリンジが用いられ、注入口2bにシリンジを接続してシリンジ内から第1の内腔2c内へ注入剤Aを注入すると、カテーテル2の先端部において吐出口2aから注入剤Aが吐出させられるようになっている。
【0029】
操作ワイヤ4は、可撓性の材料からなり、第2の内腔2d内に長手方向に移動可能に挿入されてその両端部分がカテーテル2の両端面から突出している。操作ワイヤ4の基端側にはハンドル4aが設けられ、操作者がハンドル4aを把持して前後方向へ操作すると、操作ワイヤ4が第2の内腔2dの長手方向に沿って前後方向に移動させられるようになっている。
【0030】
バスケット5は、操作ワイヤ4の先端とカテーテル2の先端とに両端部がそれぞれ固定され可撓性を有する複数本のバスケットワイヤ(ワイヤ)5aから形成されている。また、バスケット5の最先端部には、例えば、プラスチック系材料や弾性材料からなる球体の保護部材5bが設けられている。
【0031】
ハンドル4aを前方へ操作すると、操作ワイヤ4の先端とカテーテル2の先端との距離が広がって各バスケットワイヤ5aが操作ワイヤ4の長手方向に沿って伸び、バスケット5がカテーテル2の半径方向に収縮させられる(収縮状態、図1(b)参照。)。また、ハンドル4aを後方へ操作すると、操作ワイヤ4の先端とカテーテル2の先端との距離が狭まって各バスケットワイヤ5aが湾曲し、バスケット5がカテーテル2の半径方向に拡張させられる(拡張状態、図1(a)参照。)ようになっている。
【0032】
注入剤Aは、PEGと該PEGの両末端に結合されたPLGA(乳酸グリコール酸共重合体)とからなる下記の化1で示されるトリブロック共重合体を含んでいる。
トリブロック共重合体は、室温と体温との間にゲル転移温度を有し、室温でゾル状態となり、体温以上の温度でゲル状態となる。
【0033】
【化1】

【0034】
トリブロック共重合体は、1500〜7万の分子量を有している。トリブロック共重合体は、分子量が1500を下回ると、ゾル状態のときに十分な強度が得られず、分子量が7万を超えると、生体適合性が低くなる。
また、トリブロック共重合体は、PEGが500〜30000の平均分子量を、PLGAが500〜200000の平均分子量を有している。
【0035】
注入剤Aは、トリブロック共重合体を生理食塩水などに溶解して製造され、トリブロック共重合体と略同一のゲル転移温度を有し、室温ではゾル状態であり、体温まで加温されるとゲル状態へ変化するようになっている。
【0036】
このように構成された結石採石具1の作用について、胆管B内から結石Cを採取する場合を例に挙げて以下に説明する。
本実施形態に係る結石採石具1を用いて胆管B内から結石Cを採取するには、まず、ESTなどの方法により乳頭を切開し、従来の砕石具を用いて結石Cを破砕する。そして、図2(a)に示されるように、バスケット5を収縮状態にして乳頭から胆管B内へカテーテル2を挿入してカテーテル2の先端部を結石C近傍に配置する。
【0037】
次に、注入手段3によりカテーテル2内に注入剤Aを注入すると、図2(b)に示されるように、吐出口2aから吐出した注入剤Aが体温により加温されて結石C周辺においてゲル状態へ変化する。続いて、ハンドル4aを後方へ操作してバスケット5を拡張状態にし、カテーテル2を後方へ引き抜くと、図2(c)に示されるように、バスケット5により結石Cを包み込んだ注入剤Aが捕捉されて胆管B内から掻き出されて結石Cを採取することができる。
【0038】
この場合に、本実施形態によれば、注入剤Aが、注入時には流動性の高い状態で、採取時には適度な弾性と強度を有する有形の状態で用いられるので、第1の内腔2cの断面積が小さくても低い注入圧で容易に注入することができ、また、小さな切開部位からでも注入された注入剤Aを一度で容易に取り出すことができるという利点がある。
【0039】
また、結石Cがゲル状態の注入剤Aに包み込まれることにより、腔壁が結石Cとの接触から保護されると同時に、結石Cが微小であったり多数であったりしてもバスケットワイヤ5aの隙間から結石Cが漏れるなどして取りこぼすことなく採取される。すなわち、従来の結石採石術に注入剤Aの注入を加えただけの簡便な手順で腔壁の損傷と遺残結石の発生とが防止され、結石採石術の信頼性を向上させることができる。
【0040】
また、バスケット5を吐出口2aの前方に配置する構成にすることで、吐出口2aを結石Cの近傍に配置するとバスケット5が結石Cよりも前方に配置され、カテーテル2を胆管B内から抜去るのと同時にバスケット5が注入剤Aを捕捉して掻き出す。これにより、カテーテル2の胆管B内への導入が一度で済むので、結石採石術の手技をより簡便にすることができる。
【0041】
また、バスケット5の拡張状態における半径方向の寸法は、ハンドル4aを操作する距離によって任意に変化させられる。これにより、胆管Bの半径方向の寸法にぴったり合う大きさまでバスケット5を拡張させてバスケット5と腔壁との隙間を生じさせないことで、注入剤Aをより確実に掻き出して結石Cの取り残しをより確実に防ぐことができる。
【0042】
また、生体適合性が高く体内で分解または代謝が可能なPEG、乳酸およびグリコール酸からトリブロック共重合体を構成することにより、注入剤Aが腔壁に直接接触したり胆管B内に残留したりしても、注入剤Aによる患者への影響を最小限に抑えることができる。
また、バスケット5の最先端に保護部材5bを設けることにより、結石採石具1の操作中にバスケット5の最先端が腔壁に衝突しても出血や穿孔形成などの損傷を防止することができる。
【0043】
上記実施形態においては、結石採石具1が、内視鏡の挿入部に形成されたチャネル内に設けられることとしてもよい。
このようにすることで、他の処置具、例えば、砕石具や切開具などと容易に組み合わせてより円滑に作業を進めることができる。
【0044】
また、上記実施形態においては、図3に示されるように、バスケット5を格納する筒状の格納カテーテル(筒部材)6を備えることとしてもよい。
格納カテーテル6は、カテーテル2の外径よりも大きい内径を有し、バスケット5を収納する位置と、バスケット5および吐出部2cを露出させる位置との間で長手方向に移動可能に設けられている。
このようにすることで、バスケット5を格納カテーテル6内に収納して、バスケット5と吐出口2aとを保護しながらカテーテル2をより容易に体内で誘導することができる。
【0045】
また、上記実施形態においては、バスケットワイヤ5aの一端が、カテーテル2の先端面に固定されていてもよく、カテーテル2の側面に固定されていてもよい。
【0046】
また、上記実施形態においては、第1および第2の内腔2c,2dが楕円形状または円状であることとしたが、第1および第2の内腔2c,2dの断面形状はこれに限定されず、図4(a)に示されるように、三日月形状でもよく、多角形等でもよい。
また、第1および第2の内腔2c,2dが、図4(b)に示されるように、第2の内腔2dを内側に配置した略同心円状に形成されていてもよい。この場合、第2の内腔2dの位置を固定するために、第2の内腔2dの側面とカテーテル2の最外側面とを連結する連結部材2eが設けられる。
【0047】
このようにすることで、第1の内腔2cの断面積をより大きく確保して注入剤Aをより小さい注入圧で容易に注入することができる。また、第1の内腔2cを周方向にわたって形成して吐出口2aをカテーテル2の周方向に均等に設けることで、注入剤Aをカテーテル2を中心に半径方向外方へ均等に拡散させて結石Cをより確実に注入剤Aで包み込むことができる。
【0048】
また、上記実施形態においては、捕捉部としてバスケット5を用いることとしたが、これに代えて、バルーン7またはブラシ8を用いることとしてもよい。
バルーン7の場合、例えば、図5(a)に示されるように、第2の内腔2d内に挿入されたチューブ7aの先端部分に設けられている。チューブ7aはバルーン7内に開口する給排口(図示略)を有し、カテーテル2の基端から流体を供給または排出することでバルーン7内を加圧または減圧して膨張または収縮させるようになっている。
【0049】
このようにしても、流体を供給または排出するだけの簡易な操作で収縮状態と拡張状態とにバルーン7を変形可能であり、簡易な操作のみで結石Cを確実に採取することができる。また、バルーン7により結石Cを捕捉しても、結石Cがバルーン7と腔壁との間に侵入することが防止されるので、従来に比べて結石Cにより腔壁を損傷させる可能性を大幅に低減しながら使用することができる。
【0050】
また、ブラシ8の場合、図5(b)に示されるように、操作ワイヤ4を中心に半径方向外方へ起毛した弾性を有する多数の繊維部材8aから形成され、格納カテーテル6と組み合わせて用いられる。格納カテーテル6をブラシ8が収納される位置へ移動させると、ブラシ8が自己収縮しながら格納カテーテル6内に収納される。また、格納カテーテル6をブラシ8が露出される位置へ移動させると、ブラシ8が拡張しながら出没させられる。このようにすることで、ブラシ8を収納および出没させるのと同時に、ブラシ8を収縮位置と拡張位置とに変形させることができる。
【0051】
また、上記実施形態においては、保護部材5bが球体であることしたが、保護部材5bは腔壁を保護することができる形状および材質のものであればよく、例えば、起毛した繊維などからなるブラシ状のもの等を用いてもよい。
【0052】
また、上記実施形態においては、第1の内腔2c内を体温より低い温度に維持する温度維持機構を備えることとしてもよい。
温度維持機構は、例えば、カテーテル2に、第1の内腔2cに隣接して長手方向に延びる第3の内腔を形成し、該第3の内腔に体温より低い温度の流体を注入することで間接的に第1の内腔2c内を冷却する。このようにすることで、体外において注入された注入剤Aが体内においてカテーテル2内を通過中に加温されてゲル状態へ変化するのを防いで、注入剤Aを胆管B内まで確実に届けることができる。
【0053】
また、上記実施形態においては、注入剤Aがトリブロック共重合体に加えてヒアルロン酸またはコレステロールを含むこととしてもよい。
例えば、ヒアルロン酸はトリブロック共重合体とともに溶媒に溶解して、コレステロールはトリブロック共重合体の末端に官能基として導入されて用いられる。
このようにすることで、注入剤Aのゲル状態における強度を向上させ、注入剤Aがより堅固に結石Cを保持することでより確実に結石Cを採取することができる。
【0054】
また、上記実施形態においては、トリブロック共重合体の疎水性ポリエステルが、乳酸とグリコール酸の共重合体であることしたが、これに代えて、D,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸およびこれらからなる共重合体をモノマーとすることとしもよい。
このようにしても、生体内で代謝可能な生体適合性の高い成分のみからトリブロック共重合体が構成されるので、注入剤Aによる患者への影響を最小限に抑えることができる。
【0055】
また、上記実施形態においては、温度感応性ポリマーとしてトリブロック共重合体を用いることとしたが、温度感応性ポリマーは体温より低い温度でゾル状態となり体温以上の温度でゲル状態となるものであればよく、ポリアクリルアミド誘導体、ポリエステル誘導体、ポリアミノ酸誘導体、ポリビニルアルコール誘導体およびポリフォスファゼン誘導体などを用いることとしてもよい。
このようにしても、上述したトリブロック共重合体を用いた場合と同様に、簡便な操作のみで腔壁の損傷を防ぎながら結石Cを確実に採取することができる。
【実施例】
【0056】
次に、本発明の結石採石具の実施例について説明する。
本実施例に係る結石採石具は、トリブロック共重合体を含む注入剤が用いられる。トリブロック共重合体は、PEG、D,L−ラクチドおよびグリコリドを、Sn(Oct)の触媒下において150℃で7時間バルク重合して合成する。このようにして合成されたトリブロック共重合体の組成を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
PLGAおよびPEGの分子量は、それぞれ1800および1500である。また、PLGAに含まれるグリコリドの割合は約30モル%である。
このように構成されたトリブロック共重合体を、10,15,20重量%でそれぞれ生理食塩水に溶解して本実施例に係る注入剤を製造した。
【0059】
製造された各濃度の注入剤について温度を上昇させたときの状態変化を調べた。その結果を図6に示す。これから分かるように、いずれの濃度においても室温とヒトの体温との間にゲル転移温度を有し、本実施例の注入剤は体内注入後に速やかにゲル状態へ変化することが確認された。
【0060】
次に、製造された注入剤の粘弾性を調べるため、各濃度について25℃(室温)と37℃(ヒトの体温)において、レオメータを用いて貯蔵弾性率を測定した。その結果を表2に示す。貯蔵弾性率は、いずれの濃度においても室温では充分に低く、体温では著しく上昇していることが分かる。これにより、本実施例の注入剤は、カテーテルによる注入が容易でありながら、体内に注入後には結石を内部に保持するだけの充分な強度を有することが確認された。
【0061】
【表2】

【0062】
続いて、本実施例の注入剤1,3について、採石効果およびカテーテル内の通過性を評価するため、胆管の疑似モデルとして胆管と略同一の径を有するシリコン製のチューブを、結石の疑似モデルとして直径1〜2mmの樹脂製のビーズを用いて以下の実験を行った。
【0063】
チューブの内部に30個のビーズを配置してチューブをウォーターバス内の37℃に調整された水中に浸漬した。続いて、カテーテル(外径2.4mm、内径1.7mm)を用いてチューブ内に注入剤を注入し、市販の採石バスケットを用いてチューブ内からゲル状態の注入剤を採取した。
【0064】
採石効果は、注入剤と同時に採取されたビーズの数に基づいて、採石効果が低い方から高い方へ順に−,+,++および+++の4段階で評価した。通過性は、カテーテルに注入剤を注入するときの注入圧に基づいて、注入が困難である方から容易である方へ順に−,+,++および+++の4段階で評価した。
また、本実施例の比較例として、注入剤に代えて、生理食塩水および1.0重量%のヒアルロン酸ナトリウム溶液を用いて同様の実験を行った。
このようにして得られた結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3から分かるように、本実施例の注入剤1,3を用いた場合は、効率的にビーズを採取することができ、注入剤のゲル状態における貯蔵弾性率が約50pa以上で十分な採石効果が得られることが確認された。また、細径のカテーテルを用いても、低い注入圧で容易に注入が可能であることが確認された。
【0067】
一方、生理食塩水およびヒアルロン酸Naを用いた場合は、ともにビーズの採取が困難であり、さらに、医療で広く応用されているヒアルロン酸Naの場合、室温での粘性が高く細径のカテーテルによる注入が困難であった。
以上の結果から、本実施例の結石採石具1を用いることにより簡便な操作で高い採石効果が得られ、結石採石術の信頼性を向上させることができることが示された。
【符号の説明】
【0068】
1 結石採石具
2 カテーテル
2a 吐出口
2b 注入口
2c 第1の内腔
2d 第2の内腔
2e 連結部材
3 注入手段
4 操作ワイヤ(操作部)
4a ハンドル(操作部)
5 バスケット(捕捉部)
5a バスケットワイヤ
5b 保護部材
6 格納カテーテル(筒部)
7 バルーン(捕捉部)
7a チューブ
8 ブラシ(捕捉部)
8a 繊維部材
A 注入剤
B 胆管
C 結石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に開口する吐出口を有するチューブ状のカテーテルと、
該カテーテルの基端部に接続され、注入剤を収容し、該注入剤を前記カテーテル内に注入して前記吐出口から吐出させる注入手段と、
前記カテーテルの先端部の前記吐出口より前方に配置され、結石を捕捉する捕捉部とを備え、
前記注入剤が、体温より低い温度でゾル状態となり、前記体温以上の温度でゲル状態となる温度感応性ポリマーを含む結石採石具。
【請求項2】
前記捕捉部が、前記カテーテルの半径方向に収縮した収縮位置と、前記カテーテルの半径方向に拡張した拡張位置との間で変形可能であり、
前記カテーテルの基端側において操作され、前記捕捉部を前記収縮位置と前記拡張位置との間で変形させる操作部を備える請求項1に記載の結石採石具。
【請求項3】
前記カテーテルの半径方向外方に、前記カテーテルおよび前記捕捉部を収容した位置と露出させた位置との間で長手方向に移動可能に設けられた筒部を有する請求項2に記載の結石採石具。
【請求項4】
前記操作部が、前記カテーテル内に長手方向に移動可能に挿入され、その先端を前記カテーテルの先端から突出させたワイヤ部材を備え、
前記捕捉部が、前記カテーテルの先端と前記ワイヤ部材の先端とにそれぞれ端部が固定された可撓性を有する複数本のワイヤからなるバスケットを備える請求項2に記載の結石採石具。
【請求項5】
前記カテーテルが、前記注入剤が注入され前記吐出口を有する第1の内腔と、先端面に開口して長手方向に延び、前記ワイヤ部材が挿入される第2の内腔とを有する請求項4に記載の結石採石具。
【請求項6】
前記カテーテルが、前記注入剤が注入され前記吐出口を有する第1の内腔と、先端面に開口して長手方向に延びる第2の内腔とを有し、
前記捕捉部が、前記第2の内腔内に接続されたバルーンを備え、
前記操作部が、前記第2の内腔内を減圧および加圧する圧力調整機構を備える請求項2に記載の結石採石具。
【請求項7】
前記捕捉部が、前記カテーテルの半径方向外方へ突出し弾性を有する複数の繊維部材からなるブラシを備える請求項3に記載の結石採石具。
【請求項8】
前記カテーテル内を前記体温より低い温度に維持する温度維持手段を備える請求項1に記載の結石採石具。
【請求項9】
最先端となる位置に、衝撃を緩和する保護部材を備える請求項1に記載の結石採石具。
【請求項10】
前記温度感応性ポリマーが、親水性ポリエーテルと疎水性ポリエステルとからなるトリブロック共重合体を含む請求項1に記載の結石採石具。
【請求項11】
前記親水性ポリエーテルが、約500〜30000の平均分子量を有し、
前記疎水性ポリエステルが、約500〜20000の平均分子量を有する請求項10に記載の結石採石具。
【請求項12】
前記親水性ポリエーテルが、ポリエチレングリコールであり、
前記疎水性ポリエステルが、D,L−ラクチド、D−ラクチド、L−ラクチド、D,L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸、グリコリド、グリコール酸およびこれらからなる共重合体のうち少なくとも1つをモノマーとする請求項10に記載の結石採石具。
【請求項13】
前記注入剤が、ヒアルロン酸またはコレステロールを含む請求項1に記載の結石採石具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−213918(P2010−213918A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64485(P2009−64485)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】