統合型マイクロ流体デバイスおよび方法
対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスが提供される。該マイクロ流体デバイスは、マイクロ流体デバイスの本体を含むことができ、該マイクロ流体デバイス本体は、試料調製領域(101)と、核酸増幅領域(102)と、核酸解析領域(103)と、流体チャネルネットワークとを含む。試料調製領域(101)、核酸増幅領域(102)、および核酸解析領域(103)の各々は、少なくとも1つの流体チャネルにより、他の2つの領域の少なくとも1つと流体的に相互連結される。該マイクロ流体デバイスを用いると、試料調製を生物学的に活性な分子の増幅と組み合わせることができ、対象分子の解析および/または検出に適する生物学的試料を提供することができる。提供される小規模装置および方法は、生物学的試料の調製および解析のためのより大規模な設備と比較して、より簡便であり、より迅速であり、より廉価であり、同等に有効である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.技術分野
本発明は、マイクロ流体工学の分野ならびに生化学および分子生物学の分野におけるマイクロ流体工学の応用に関する。本発明はさらに、統合型マイクロ流体プラットフォーム装置および関連の方法に関する。本発明はまた、核酸など、対象の生物学的分子を調製、増幅、および検出するためのマイクロ流体デバイスにも関する。本発明はまた、マイクロ流体デバイスを用いて、核酸など、対象の生物学的分子を調製、増幅、および検出する方法にも関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体において本明細書に組込まれる、2007年10月12日出願の同時係属米国特許仮出願第60/979,515号の優先権およびその利益を主張する。
【0003】
連邦政府による後援を受ける研究または開発に関する言明
該当なし。
【0004】
付録の参照
該当なし。
【背景技術】
【0005】
2.発明の背景
分子生物学は、核酸およびタンパク質などの高分子の形成、構造、および機能、ならびに細胞による遺伝情報の複製および伝達におけるそれらの役割のほか、生物のゲノム内で核酸を配列決定し、突然変異させ、さらに操作して、突然変異の生物学的効果を研究しうるような核酸の操作も取り扱う生物学の分野として広く定義することができる。
【0006】
生化学および分子生物学の従来の実践では、しばしば研究される被験体のサイズに反比例するスケールにおける物理的工程の供給源を必要とすることがある。例えば、予測解析のための核酸フラグメントなどの生物学的試料の調製および精製と関連する装置およびプロセス化学では、往々にして無菌施設を伴う完全規模のバイオ実験室を必要とすることがある。さらに、核酸フラグメントを増幅する周知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)工程を実行するには、同様の規模の環境から孤絶した施設を必要とすることが典型的でありうる。
【0007】
2.1 マイクロ流体システム
「マイクロ流体工学」とは、一般に、小容量流体を処理する系、デバイス、および方法を指す。マイクロ流体システムは、流体を操作する多種多様の作業を統合しうる。このような流体は、化学的または生物学的な試料を含みうる。これらのシステムはまた、生物学的アッセイ(例えば、医学的診断、薬剤の発見、および薬剤送達のためのアッセイ)、生化学的センサー、または生命科学研究一般のほか、環境解析、工業工程のモニタリング、および食品安全試験など、多くの適用領域も有する。
【0008】
マイクロ流体デバイスの1つの種類は、マイクロ流体チップである。マイクロ流体チップは、流体を保持し、チップ上における様々な位置から、また、様々な位置へと流体を移送し、かつ/または流体試薬を反応させる、チャネル、弁、ポンプ、リアクター、および/またはリザーバーなど、マイクロスケールの形状特徴(または「マイクロフィーチャ」)を含みうる。
【0009】
しかし、既存のマイクロ流体システムは、あらかじめ規定された流動パターンによる以外、複数種の流体の制御された操作を可能とするのに十分な機構を欠いており、このため、システムを各種の化学的アッセイまたは生物学的アッセイで用いうる実用性が制約されている。これは、現場のアッセイが、各種の解析目的に応じて、異なる試薬の反復的な操作を必要とすることが多いためである。
【0010】
さらに、多くの既存のマイクロ流体デバイスは、1つの特定の使用に制約されており、完全に再設計しない限り、他の適用に適応させるかまたはカスタマイズすることが容易に可能ではない。これらのデバイスはモジュール性を欠いており、したがって、1つの設計で複数の機能の実行が可能となる共通のデバイス部材を共有することが可能ではない。この柔軟性の欠如により、各使用に異なるシステムの作製が必要となるので、生産費用が増大する。
【0011】
さらにまた、多くの既存のマイクロ流体システムは、アッセイの結果として得られる解析物の相互作用または存在を容易に検出することか可能な、直接的な評価項目アッセイのための手段を欠いている。例として述べると、アッセイ後における試料の色変化の視覚的な検出を用いてアッセイの結果を評価することが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
こうして、生物学的試料または化学的試料の解析のために、また特に、DNA、RNA、アミノ酸、およびタンパク質などの試料に由来する生物学的に活性な高分子の検出および解析において流体を処理する、改善されたマイクロ流体システムが必要である。システムは、大量生産性であり、廉価であり、好ましくはディスポーザブルであることが望ましい。システムは、操作が単純で、流体処理ステップの多くまたは実質的にすべてが自動化されることが望ましい。システムはカスタマイズ可能であり、高分子の検出が所望される各種の適用に適する形で容易かつ迅速に再構成されるよう、モジュラー性であることが望ましい。また、システムは、直接的で有意味なアッセイ結果を提供可能であることも望ましい。
【0013】
第2節または本出願の他の任意の節における任意の参考文献の引用および同定は、このような参考文献が本発明に対する先行技術として用いられることの容認としては考えないものとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
3.発明の概要
対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスであって、
a)マイクロ流体デバイスの本体
を含み、該マイクロ流体デバイス本体が、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iii)核酸解析領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域、核酸増幅領域、および核酸解析領域の各々が、該ネットワーク内における少なくとも1つの流体チャネルにより、他の2つの領域の少なくとも1つと流体的に相互連結されるマイクロ流体デバイスが提供される。
【0015】
また、対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスであって、
a)マイクロ流体デバイスの本体
を含み、該マイクロ流体デバイス本体が、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域および核酸増幅領域の各々が、少なくとも1つの流体チャネルにより、他の領域と流体的に相互連結されるマイクロ流体デバイスも提供される。
【0016】
一実施形態において、マイクロ流体デバイスは、マイクロ流体デバイス本体の選択される領域に、周囲圧力に対して陽圧または陰圧を加えることが可能な差圧供給源を含みうる。
【0017】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、差圧供給源およびマイクロ流体デバイス本体に作動的に連結される差圧送達システムを含みうる。
【0018】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、差圧供給源からダイアフラムの所望の開位置または閉位置への圧力を変換するための、特定であるかまたは選択の流体チャネル内であるかまたはその間に配置される、少なくとも1つのダイアフラムを含みうる。
【0019】
別の実施形態において、試料調製領域は、
試料取込みリザーバーと、
試料調製試薬リザーバーと、
試料精製媒体と
を含み、試料取込みリザーバー、試料調製試薬リザーバー、および試料精製媒体は、流体的に相互連結される。
【0020】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、試料精製媒体が配置される試料精製媒体リザーバーを含みうる。
【0021】
別の実施形態において、試料精製媒体は、複数の流体チャネルの1つに配置される。
【0022】
別の実施形態において、試料精製媒体は、試料精製リザーバーの底部に配置される。
【0023】
別の実施形態において、核酸増幅領域は、
核酸増幅リアクターと、
核酸増幅試薬リザーバーと、
核酸増幅産物リザーバーと、
を含み、核酸増幅リアクター、核酸増幅試薬リザーバー、および核酸増幅産物リザーバーは、流体的に相互連結される。
【0024】
別の実施形態において、対象試料は、流体材料、気体材料、液体材料中に実質的に溶解した固体材料、エマルジョン材料、スラリー材料、またはその中に粒子が懸濁する流体材料である。
【0025】
別の実施形態において、対象試料は、生物学的材料を含む。
【0026】
別の実施形態において、対象試料は、流体中における細胞の懸濁液を含む。
【0027】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイス本体は、複数層の弱溶剤接着ポリスチレンを含む。
【0028】
別の実施形態において、試料調製領域は、試料取込みリザーバーと流体的に連結された試料混合ダイアフラムを含む。
【0029】
別の実施形態において、核酸抽出媒体は、シリカ膜である。
【0030】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイス本体は、試料精製媒体を通気乾燥させる手段を含む。
【0031】
別の実施形態において、試料調製領域は、洗浄リザーバーを含む。
【0032】
別の実施形態において、試料調製領域は、廃棄物リザーバーを含む。
【0033】
別の実施形態において、試料調製領域は、溶出リザーバーを含む。
【0034】
別の実施形態において、試料調製試薬は、磁気ビーズを含む。
【0035】
別の実施形態において、試料調製試薬は、試料調製リザーバーに配置される。
【0036】
別の実施形態において、試料調製試薬は、磁気ビーズである。
【0037】
別の実施形態において、試料調製試薬は、溶解試薬である。
【0038】
別の実施形態において、核酸増幅リアクターは、熱サイクルリアクターである。
【0039】
別の実施形態において、熱サイクルリアクターの底部は、ポリスチレンの薄層である。
【0040】
別の実施形態において、熱サイクルリアクターの底部は、熱サイクリング間に、マイクロ流体デバイス本体上または本体内には配置されないヒーターにより加熱される。
【0041】
別の実施形態において、核酸増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素(RT−)PCR、cDNA末端迅速増幅(RACE)、ローリングサイクル増幅、核酸配列ベース増幅(NASBA)、転写物媒介増幅(TMA)、およびリガーゼ連鎖反応からなる群から選択される。
【0042】
別の実施形態において、核酸解析領域は、対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するための領域を含む。
【0043】
また、対象核酸を検出する方法であって、対象核酸を含有することが疑われる試料を得るステップと、マイクロ流体デバイスを用意するステップと、試料調製領域に試料を導入するステップと、核酸増幅用に試料を調製するステップと、調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入するステップと、増幅された対象核酸を検出するステップとを含む方法も提供される。
【0044】
一実施形態において、対象核酸は、対象の疾患または障害と関連する。
【0045】
別の実施形態において、検出するステップは、増幅された対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するステップを含む。
【0046】
別の実施形態において、検出するステップは、色強度、蛍光強度、電気信号強度、または化学発光強度を可視化するステップを含む。
【0047】
別の実施形態において、検出するステップは、試料中における少なくとも1種の対象分子に対応する強度値を発生させるステップを含む。
【0048】
別の実施形態において、強度値は、色強度値、蛍光強度値および化学発光強度値、電流または電圧からなる群から選択される。
【0049】
別の実施形態において、色強度値を発生させるステップは、
試料に対応する画像を解析して複数の画素を発生させるステップと、
複数の画素の各々に対して複数の数値を与えるステップと、
数値を生じさせて色強度値を提供するステップと
を含む。
【0050】
別の実施形態において、該方法は、閾値を計算するステップと、色強度値を閾値と比較して対象分子を検出するステップとをさらに含む。
【0051】
別の実施形態において、該方法は、少なくとも1つの色強度値と閾値とをデータベースに保存するステップをさらに含む。
【0052】
別の実施形態において、閾値は、少なくとも1種の陰性対照試料を用いて計算される。
【0053】
被験体における対象の疾患または障害の存在または素因を判定する方法もまた提供される。該方法は、対象の疾患または障害と関連する核酸を含有することが疑われる試料を被験体から得るステップと、試料中における対象の疾患または障害と関連する核酸を検出するステップとを含み、該検出するステップは、対象核酸を含有することが疑われる試料を得るステップと、マイクロ流体デバイスを用意するステップと、試料調製領域に試料を導入するステップと、核酸増幅用に試料を調製するステップと、調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入するステップと、増幅された対象核酸を検出するステップとを含み、増幅された対象核酸の検出が、対象の疾患または障害の存在または素因と関連する。
【0054】
一実施形態において、検出するステップは、増幅された対象核酸の量(またはレベル)を決定するステップを含み、ここで、該方法は、該量(またはレベル)を対象核酸のあらかじめ選択された量(またはレベル)と比較するステップをさらに含む。
【0055】
別の実施形態において、該量(またはレベル)とあらかじめ選択された量(またはレベル)との間の差は、対象の疾患または障害の存在または素因を示す。
【0056】
4.図面の簡単な説明
ここで、添付の図面を参照して本発明を説明するが、これらにおいては、複数の図を通して同様の参照文字が同様のエレメントを示す。場合によって、本発明の理解を容易にするために、本発明の各種の態様が誇張されるかまたは拡大されて示されうることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】試料調製領域101、核酸増幅領域102、および評価項目検出アッセイを実施するための核酸解析領域103の3つの機能領域を有するマイクロ流体デバイス(「チップ」)の実施形態の3次元図である。試薬リザーバー111。解析領域リザーバー113。廃棄物リザーバー114。
【図2】図1に記載のマイクロ流体デバイスの等尺分解図であり、マイクロ流体デバイスの3層を示す(明確さを目的として、連続膜は示さない)。
【図3A】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、試料調製領域(「核酸(NA)抽出領域」)、核酸増幅領域(この実施形態では、「PCR領域」)、および核酸解析領域(「RDB領域」)を示す。また、デバイス上における弁、マイクロ流体チャネル、貫通孔、および低密度DNAフィルターの配置も示される。この実施形態では、核酸解析領域において、リバースドットブロット(RDB)評価項目検出アッセイを実施することができる。「廃棄物」:廃棄物リザーバー。
【図3B】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、試料調製領域101、核酸増幅領域102(核酸増幅リアクター112を含む)、および核酸解析領域103、ならびにデバイス上における弁、マイクロ流体チャネル、および貫通孔の配置を示す。解析領域リザーバー113。
【図4】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、デバイスの特定の層上におけるリザーバー、核酸増幅リアクター(またはチャンバー)、弁、マイクロ流体チャネル、および貫通孔を含む、デバイスの機能配置を示す。
【図5】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、デバイス上における弁の配置図を示す。
【図6】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、デバイス上におけるリザーバーの配置図を示す。
【図7】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、デバイスの機能領域の配置図を示し、リザーバー内における試薬の配置を示す。試料調製領域101。核酸増幅領域102(核酸増幅リアクター112を含む)。核酸解析領域103、ならびにデバイス上における弁、マイクロ流体チャネル、および貫通孔の配置。解析領域リザーバー113。
【図8】試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有するマイクロ流体デバイスの別の実施形態を示す。矢印で示す通り、試料調製領域は、試料の投入および調製、試料の精製、ならびに核酸の抽出のためのリザーバーを含む。核酸増幅領域は、核酸増幅リアクター(「増幅チャンバー」)を含む。デバイスのこの実施形態はまた、核酸増幅の完了後においてマイクロ流体デバイスから単位複製配列が抽出される領域である、核酸増幅産物抽出領域(「増幅産物抽出領域」)も含む。デバイスのこの具体的な実施形態は、50×38mmの寸法を有する。
【図9】図8に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての等尺分解図であり、マイクロ流体デバイスの3つの層(明確さを目的として、連続膜は示さない)を示す。
【図10】図8に記載のマイクロ流体デバイスについての上面略図であり、デバイスの特定の層上におけるポンプ、弁、増幅リアクター、マイクロ流体チャネル、および貫通孔の配置図を示す。
【図11】図8に記載のマイクロ流体デバイスについての上面略図であり、デバイスの機能領域の配置図を示し、複数の試薬リザーバー(例えば、「細胞」、「エタノール」、「ミキサー」、「廃棄物」、「溶出」、「NA1」、「NA2」、「AW1」、「AW2」)内における試薬の配置を示す。 図12〜16は、試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有するが、オンチップの核酸解析領域を有さない本発明のマイクロ流体デバイス(「チップ」)の別の実施形態を示す図である。
【図12】リザーバーは示さずに、弁およびチャネルの配置を示す上面図である。
【図13】二方向ポンプの3つの群:試料調製用ポンプ、核酸増幅試薬調製用ポンプ、および充填用ポンプを有する、図12に示すマイクロ流体デバイスの実施形態の配置を示す図である。
【図14】図12に示すマイクロ流体デバイスの実施形態についての操作略図である。矢印は、デバイス上で処理される際の大腸菌(E.coli)試料の進行を示す。
【図15】図12に示すマイクロ流体デバイスの実施形態についての操作略図である。矢印は、デバイス上で処理される際の大腸菌(E.coli)試料の進行を示す。
【図16】図12に示すマイクロ流体デバイスの実施形態についての操作略図である。矢印は、デバイス上で処理される際の大腸菌(E.coli)試料の進行を示す。
【図17】チャンバーの開口部(「ノズル」)上に配置されるダイアフラムを用いてチャンバーの内容物を混合する混合ジェットを発生させうる、デバイスのチャンバー底部の実施形態を示す図である。
【図18】本発明の実施形態によるマイクロ流体デバイスおよび対照(Quiagen社製RNEasyキット)により得られた比較の結果を示す図である。Quiagen社製RNeasyによる抽出/精製法(レーン1〜3、10)およびマイクロ流体デバイス(レーン4〜9)を用いてHEK293T細胞から単離されたRNAの1%アガロースゲルを示す図である。分子量マーカーを左側に示す。
【図19】レーン1:DNA標準物質;レーン2:オンチップで実行されたRT−PCRからの単位複製配列産物;レーン3:投入RNA(1μl)を示す図である。RNAは、HEK 293T細胞から作製した。ベータ−アクチンを認識するプライマーを用いて、cDNA産物を作製し、PCRによりアクチンのcDNAを増幅した。
【図20】示される通り、熱サイクルおよび試行時間を変化させる場合における、8回のPCR試行に対するオンチップでの再現性を示す図である。
【図21】PCRの比較を示す図である。BioRad MJ Mini熱サイクラー(レーン2および3)またはマイクロ流体デバイス(レーン4)を用いる30サイクルのPCRにより、5×103コピーのプラスミド(prlpGL3)を増幅した。分子量マーカーがレーン1に示されている。
【図22】この実験において、マイクロ流体デバイスと連結して用いられたPCR熱サイクラーによる典型的なサイクルを示す図である。下図におけるグラフは、上図のグラフ内で示される最初の4サイクルの一部の拡大図である。
【図23】マイクロ流体デバイス上で実行されるRT−PCRプロトコールの結果を示す図である。ベンチトップ(bt)プロトコールおよびオンチッププロトコールを用いて、HIV RNAを単離した。
【図24】全血液中におけるβ−サラセミア遺伝子の検出を示す図である。30サイクルのPCR後において、ベンチトップの熱サイクラー(レーン4〜5)またはマイクロ流体デバイス(レーン2〜3)を用いて並行的にPCR増幅された2つの同一試料を、アガロースゲル上で解析した。レーン1は、分子量標準物質を表す。
【図25】ベンチトップPCR法またはマイクロ流体デバイスを用いるHPV増幅の結果を示す図である。
【図26】リバースドットブロット(RDB)によるHPV血清型検出用のオンチッププローブアレイを示す図である。HPV−52(上図)およびHPV−11(下図)は、適正に検出された。
【図27】RDBプロトコールの概略図である。
【図28】アップルジュース中に添加された大腸菌1,000個を処理する2つのチップ間における比較を示す図である。該添加されたジュースをオンチップで調製してDNAを精製し、次いで、1μlずつの2アリコートを取り出し、ベンチトップ上で増幅し、精製された残りのDNAをオンチップで増幅した。示される通り、産物を取り出し、ゲル上で解析した。各チップの産物のレーン1およびレーン2はベンチトップ上で増幅されたアリコートを示し、各場合におけるレーン3はオンチップにおける増幅産物を表す。
【図29】オンチップで抽出されたDNAを用いる、ベンチトップのPCR結果とオンチップのPCR結果との比較を示す図である。大腸菌の添加量は、5×103個/μl〜1×104個/μlの範囲であった。
【図30A】A:「ベンチトップ」のPCR解析(レーン3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4)とを比較する、アップルサイダーに導入された大腸菌500,000個の解析を示す図である。レーン1および2は、それぞれ、陰性対照および陽性対照を表す。
【図30B】B:「ベンチトップ」のPCR解析(レーン3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4)とを比較する、アップルサイダーに導入された大腸菌100,000個の解析を示す図である。レーン1および2は、それぞれ、陰性対照および陽性対照を表す。
【図31】「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)とを比較する、アップルサイダーに導入された大腸菌500,000個の解析を示す図である。レーン1は、陰性対照を表す。
【図32】「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)とを比較する、PBSに導入された大腸菌500,000個の解析を示す図である。レーン1は、陰性対照を表す。
【図33】「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)とを比較する、アップルジュースに導入された大腸菌10,000個の解析を示す図である。レーン1は、陰性対照を表す。
【図34】「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)とを比較する、アップルジュースに導入された大腸菌1,000個の解析を示す図である。レーン1は、陰性対照を表す。
【図35】2回の異なるマイクロ流体デバイスでの試行から得られた単位反復配列の比較を示す図である。各マイクロ流体デバイスの完全な試行から得られた結果(各マイクロ流体デバイスから生成された生成物に由来するゲル解析に対応するレーン3)は、同じマイクロ流体デバイスから得られて別個に増幅された、DNAに対する「ベンチトップ」のPCR増幅により得られた結果(レーン1および2)と識別できなかった。
【図36】「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)とを比較する、脱脂粉乳に導入された大腸菌1,000,000個の解析を示す図である。レーン1は、陰性対照を表す。
【図37】大腸菌からのDNA精製のための、ベンチトップおよびオンチップにおけるWhatman社製FTAによる溶出の結果を示す図である。すべての試験は、100万(すなわち、1,000K)個の大腸菌添加を用いて実施した。
【図38】例えば、PCRリアクターを有するマイクロ流体デバイスの核酸増幅領域内における密閉された核酸増幅リアクターと共に用いうる圧力除去デバイスの概略図である。
【図39】核酸増幅リアクター、例えば、PCRリアクターの上部に接着することで、高温時における熱効果の結果としてリアクターがたわむことを防止しうる、剛性構造の概略図である。
【図40】小領域内におけるスポットアレイのためのRDB流動設計を示す図である。図40。RDB流動設計の側面図。図41A〜B。オンチップのRDBリザーバー(A)およびRDBリザーバー(B)用の面取空間の実施形態についての透視図。
【図41】小領域内におけるスポットアレイのためのRDB流動設計を示す図である。図40。RDB流動設計の側面図。図41A〜B。オンチップのRDBリザーバー(A)およびRDBリザーバー(B)用の面取空間の実施形態についての透視図。
【発明を実施するための形態】
【0058】
5.発明の詳細な説明
本発明は、試料調製、生物学的に活性な分子の増幅を組み合わせることが可能であり、調製された元の試料からの対象分子の解析および/または検出に適する生物学的試料を提供することが可能な、マイクロ流体デバイス(「チップ」)およびこれに基づく方法を提供する。本発明により提供される小規模装置および方法は、生物学的試料の調製および解析のためのより大規模な設備と比較して、より簡便であり、より迅速であり、より廉価であり、同等に有効である。
【0059】
マイクロ流体デバイスは、生の核酸を含有する試料を自動的に処理し、該試料に由来する核酸鋳型を用いてヌクレオチド(例えば、DNAまたはRNA)の増幅を実行する、構造的でありかつ機能的な能力を提供する。該デバイスは、処理時における試薬、生成物、または試料の汚染を制御することの利点を有するほか、試薬消費が低度であることの利点も有する。
【0060】
該デバイス上で実行されるアッセイは、完全に自動化されている。本発明により提供されるマイクロ流体デバイスシステムでは、試料または検体の導入以外の「手」作業をほとんど伴わずに所望の結果が得られ、これにより、解析者側の多大な時間および労力を節約する手段がもたらされる。さらに、生の試料または検体をマイクロ流体デバイスに単に適用するだけで、未熟練者でも洗練された分子診断を実施することができる。
【0061】
マイクロ流体デバイスは、ポリヌクレオチド(例えば、DNA、RNA)、タンパク質、酵素を含むがこれらに限定されない、対象の生物学的高分子の潜在的な供給源として用いうる、ウイルス、細菌、真菌、原核細胞、真核細胞、古細菌細胞など、任意の生物学的供給源に由来するか、または全血液、血清または血漿、尿、便、粘液、唾液、膣または頬のスワブ、細胞培養物、細胞懸濁液などの生物学的材料に由来する、対象試料の解析に適する。マイクロ流体デバイスは、生物学的であるかまたは生物に由来する物質または材料の検出を伴う多種多様の検出、診断、モニタリング、および解析の目的、例えば、医学的または獣医学的な診断、食品加工、工業加工、および環境モニタリングに用いることができる。デバイスは、個体に由来する生物学的試料中における、感染、疾患、または障害の存在を検出する診断デバイスとして用いることができる。βサラセミア、UTI(尿路感染症)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、性器クラミジア(Chlamydia trachomatis)、梅毒の原因病原体である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、細菌性膣症と関連する細菌などのSTI(性感染症)、2型単純ヘルペスウイルスなどのHPV、パピローマウイルス、B型肝炎ウイルスおよびサイトメガロウイルス、HIV、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)などの酵母、ならびに膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)などの原虫を含むがこれらに限定されない多くの疾患または障害が検出に適する。
【0062】
一実施形態において、対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスは、マイクロ流体デバイスの本体を含むことができ、該マイクロ流体デバイス本体は、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iii)核酸解析領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域、核酸増幅領域、および核酸解析領域の各々が、該ネットワーク内における複数の流体チャネルの少なくとも1つにより、他の2つの領域の少なくとも1つと流体的に相互連結される(図1〜11)。
【0063】
別の実施形態において、対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスは、マイクロ流体デバイスの本体を含むことができ、該マイクロ流体デバイス本体は、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域および核酸増幅領域の各々が、該ネットワーク内における少なくとも1つの流体チャネルにより、他の領域と流体的に相互連結される(図1〜7)。
【0064】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有しうるが、オンチップの核酸解析領域を欠く場合がある(図8〜16)。
【0065】
限定を目的とはせずに開示の明確さを目的として、本発明の詳細な説明を以下に記載の小節に分割する。
【0066】
5.1 マイクロ流体デバイス本体
該解析デバイスは、マイクロ流体デバイス本体を含む。本発明による使用に適するマイクロ流体デバイス本体は、参照によりそれらの全体において本明細書に組込まれる、米国特許公開第US2006/0076068A1号(Youngら、2006年4月13日)、同第US2007/0166200A1号(Zhouら、2008年7月19日)、および同第US2007/0166199A1号(Zhouら、2008年7月19日)において説明されている。
【0067】
本体は、上面および下面を有する第1の硬質プラスチック基板と、第1の基板上面に接触してこれと接着し、第1の基板上面に対して実質的に横たわる弛緩状態と、第1の基板上面から移動する作動状態とを有する、実質的に硬質のプラスチック膜とを含みうる。第1の硬質プラスチック基板はその中に形成されたマイクロフィーチャを有することが可能であり、実質的に硬質のプラスチック膜は該マイクロフィーチャの上に配置されうる。膜は、適切な機械力の適用時における変形を許容するように選択された厚さを有する。異なる実施形態において、膜は、約10μm〜約150μm、15μm〜約75μmの厚さを有する。
【0068】
機械力は、基板向きに膜を変形させるように陽圧により適用され、約50psi未満を有しうる。一実施形態において、該大きさは3psi〜約25psiである。
【0069】
基板から遠ざかる向きに膜を変形させるように陰圧により適用される機械力は、約14psi未満の大きさを有しうる。一実施形態において、該大きさは約3psi〜約14psiである。
【0070】
膜および第1の基板は、実質的に同じ材料から作製することもでき、異なる材料から作製することもできる。本体の作製で用いるのに適する材料の例は、熱可塑性材料または線状ポリマー材料を含む。特定の実施形態において、該材料は、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカルボネート、またはアクリルである。
【0071】
実質的に硬質のプラスチック膜は、第1の基板に接着されない非接着領域を有しうる。膜の非接着領域は、両者共に第1の基板内に配置される、第1のチャネルと、該第1のチャネルとは分離した第2のチャネルとを少なくとも部分的に覆うことが可能であり、弛緩状態において、第1のチャネルと第2のチャネルとの間のシールを形成する。
【0072】
膜の非接着領域はまた、第1の基板内において形成され、第1および第2のチャネルから、また実質的にこれらの間で断絶する弁座も少なくとも部分的に覆うことが可能である。
【0073】
弁座は、第1および第2のチャネルの長手軸に対して実質的に垂直な堰を含みうる。
【0074】
膜の非接着領域は、両者共に第1の基板内に配置される、第1のチャネルと、該第1のチャネルとは分離した第2のチャネルとを少なくとも部分的に覆うことが可能であり、作動状態において、第1の基板上面から分離し、第1のチャネルと第2のチャネルとの間における流体の流動に適する空洞を提供する。
【0075】
第1の基板はまた、第1の基板の上面から第1の基板の下面へと延びる貫通孔も含みうる。
【0076】
膜の非接着領域は、実質的に円形、楕円形、または角を丸くした矩形でありうる。
【0077】
本体は、膜の上面に接触してこれと接着する、第2の硬質プラスチック基板をさらに含みうる。
【0078】
第1の基板、第2の基板、および膜は、実質的に同じ材料で作製することができる。
【0079】
第2の基板は、膜の非接着領域の実質的な上方に位置し、膜の非接着領域が第1の基板上面から移動してそれにより実質的に格納された状態を保ちうるサイズのチャンバーを含みうる。
【0080】
本体は、各々が個別に作動可能な弁構造を形成し、マイクロチャネルにより連鎖状に連結される、複数の断絶した非接着領域を有するポンプをさらに含みうる。マイクロチャネルは、流体の流動に対して様々な抵抗力を有する。
【0081】
本体は、膜が作動状態にあるとき、膜を構造的に支持するサイズ、形状であり、そうする位置にある、膜上方の支持構造をさらに含みうる。
【0082】
膜が第1の基板から所望の距離を超えて移動することを防止するサイズ、形状であり、そうする位置にある膜止めを膜上方に配置することができる。
【0083】
本体は、共用弁構造を有する複数のポンプを有しうる。共用弁構造は、共用弁と連結された複数の流体ポートをもたらす、3つ以上のマイクロチャネルの上方に配置される膜を含みうる。
【0084】
本体は、流体材料、気体材料、流体材料中に実質的に溶解した固体材料、スラリー材料、エマルジョン材料、およびその中に粒子が懸濁する流体材料の1種または複数種を保持することが可能な、少なくとも1つのリザーバーを含む。特定の実施形態において、対象試料は、生物学的材料、例えば、流体中における細胞の懸濁液を含む。
【0085】
リザーバーは、実質的に垂直となるように配置することができる。それは、規定の垂直レベルにあるかまたはこれに近いリザーバー内から液体を抽出するための液体抽出手段と連結することができる。リザーバーは、流体材料および粒子を含有することが可能であり、粒子がリザーバーの上部および底部のいずれに滞留することも防止する形で、流体にデバイス全体を循環させるよう、リザーバーにポンプを連結することができる。リザーバーは、個別に作動可能な第1の弁構造と第2の弁構造との間に連結することができる。
【0086】
別の実施形態において、本体は、ポンプ機構により相互連結された複数のリザーバーを含みうる。ポンプ機構は、複数のリザーバーからの流体を流過させる共用弁構造を含みうる。
【0087】
本体はまた、少なくとも1つのマイクロフィーチャも含みうる。マイクロフィーチャは、1方向の流動を優先する形状を有するチャネルを含みうる。
【0088】
本体は、ポンプ内を流動する流体により作動可能な受動弁構造を形成する2つの非接着領域へとマイクロチャネルにより相互連結される、外部から作動可能なダイアフラム構造を形成する1つの非接着領域を有するポンプを含みうる。別の実施形態において、ポンプは、各々が個別に作動可能なダイアフラム構造を形成し、各ダイアフラム構造が少なくとも1つの他のダイアフラム構造に部分的に重なる、複数の断絶した非接着領域を有しうる。
【0089】
一実施形態において、本体は、差圧供給源から所望の開位置または閉位置への圧力を変換するための、特定であるかまたは選択の流体チャネル間に配置される、少なくとも1つのダイアフラムを含みうる。
【0090】
特定の実施形態において、本体は、上面および下面ならびにその中に形成されるマイクロフィーチャを有する第1のポリスチレン基板と、第1の基板上面に溶剤接着されたポリスチレン膜とを含みうる。本体は、ポリスチレン膜が第1の基板上面に対して実質的に横たわる弛緩状態と、ポリスチレン膜が第1の基板上面から移動する作動状態とを有しうる。
【0091】
弱溶剤接着は、室温および周囲力の条件下ではほとんどまたは実質的にまったく接着効果を有さないが、適切な気温または力の条件下では2つの対合表面間において接着界面を形成することが可能な溶剤により形成することができる。
【0092】
特定の実施形態において、本体は、複数層の弱溶剤接着ポリスチレン内において作製された機能的な流体ネットワークを含みうる。例えば、参照により本明細書に組込まれる、米国特許出願第2006/0078470A1号で開示される、弱溶剤積層工程により作製されうる3層ポリスチレン体(「チップ」)。特定の実施形態において、該チップは、第1および第2の表面を有し、少なくとも1つの表面がマイクロ構造を含み、さらに、ポリマー材料である第1の部材と、第1および第2の表面を有し、第1および第2の表面の1つが、米国特許出願第2006/0078470A1号で開示される通り、ポリマー部材に対して弱溶剤である接着剤により、第1の部材の第2および第1の表面の1つにそれぞれ固定的に接着される、第2のポリマー部材とを含む積層構造でありうる。
【0093】
一実施形態において、本体は、対象アッセイ(例えば、核酸検出アッセイ)を実施するのに用いうる3つの領域:試料調製領域、核酸増幅領域、および核酸解析領域を含む。3つの領域のすべては、当技術分野で知られる方法を用いてポンプおよび弁(例えば、参照により本明細書に組込まれる、米国特許出願第2006/0076068A1号を参照されたい)、ならびにリザーバーおよびチャネル(例えば、参照により本明細書に組込まれる、米国特許出願第2007/0166200A1号を参照されたい)へと流体的に連結することができる。リザーバーおよびチャネルは、例えば、弱溶剤接着工程(米国特許出願第2006/0078470A1号)により、チップ内に構築することができる。
【0094】
別の実施形態において、デバイス本体は、参照により本明細書に組込まれる、米国特許出願第2006/0076068A1号で開示される通り、ダイアフラムが基板表面に対して着座する弛緩状態と、ダイアフラムが該基板から移動する作動状態との間で作動可能な、実質的に硬質のダイアフラムを有しうる。このダイアフラムにより形成されるマイクロ流体構造は、製作が容易で頑健なシステムのほか、弁およびポンプなど作製の容易な部品も提供しうる。
【0095】
具体的な一実施形態において、デバイス本体は、実質的に硬質のプラスチック膜が、接着剤として作用する弱溶剤により、基本的に平坦な硬質プラスチック基板に固定的に接着または積層する、ポリマーマイクロ流体構造である。特定の態様において、基板はマイクロフィーチャを含み、デバイス本体は、変形可能な膜と基本的に平坦な基板表面との間の接着領域により取り囲まれて画定される非接着セグメントを含み、この結果、弁構造がもたらされる。一部の実施形態において、第2の基板は膜の上面に接着され、膜の非接着領域に空気圧を加えるのに用いうるチャンバーを含む。本発明の使用と符合する方法によれば、空気圧または空気力を加えることで膜を変形させ、これにより弁を作動させる。一部の実施形態において、ポンプは、マイクロチャネルにより相互連結される複数の弁構造を含む。マイクロチャネルにより弁、ポンプ、リアクター、およびマイクロ流体リザーバーを相互連結して、マイクロ流体処理およびマイクロ流体解析に機能的に関与するサーキュレーター、ミキサー、または他の構造を形成することができる。
【0096】
別の実施形態において、デバイス本体は、上面および下面を有する第1の硬質プラスチック基板と、第1の基板上面に接触してこれと接着し、第1の基板上面に対して実質的に横たわる弛緩状態と、第1の基板上面から移動する作動状態とを有する、実質的に硬質のプラスチック膜とを有しうる。第1の硬質プラスチック基板は基板内に形成されたマイクロフィーチャを有することが可能であり、実質的に硬質のプラスチック膜は、少なくとも1つのマイクロフィーチャの上に配置されることが多い。実質的に硬質のプラスチック膜は、約2Gpa〜約4Gpaのヤング率を有し、適切な機械力の適用時における変形を許容するように選択された厚さまたは幅を有しうる。膜は、約10μm〜約150μm、またより具体的に、約15μm〜約75μmの厚さを有しうる。
【0097】
それに対して膜が応答する機械圧は、基板向きに膜を変形するように適用される陽圧の場合があり、これは約50psi未満でありえ、3psi〜約25psiでありうる。代替的に、および場合によって、機械圧は、基板から遠ざかる向きに膜を変形するように適用される陰圧の場合もあり、これは約14psi未満でありえ、約3psi〜約14psiでありうる。
【0098】
膜および第1の基板は、実質的に同じ材料から作製することができる。膜および第1の基板の材料は、熱可塑性材料または線状ポリマー材料でありえ、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカルボネート、またはアクリルから作製することができる。
【0099】
実質的に硬質のプラスチック膜は、第1の基板に接着されない非接着領域を有しうる。膜の非接着領域は、両者共に第1の基板内に配置される、第1のチャネルと、第1のチャネルとは分離した第2のチャネルとを少なくとも部分的に覆うことが可能である。弛緩状態において、膜は、第1のチャネルと第2のチャネルとの間のシールを形成しうる。場合によって、膜の非接着領域は、第1の基板内において形成され、第1および第2のチャネルから、また実質的にこれらの間で断絶する弁座を少なくとも部分的に覆うことが可能である。弁座は、第1および第2のチャネルの長手軸に対して実質的に垂直な堰を含みうる。さらに、膜の非接着領域は、第1のチャネルと、第1のチャネルとは分離した第2のチャネルとを少なくとも部分的に覆うことが可能である。これらのチャネルは共に第1の基板内に配置することができ、作動状態において、膜は第1の基板上面から分離し、第1のチャネルと第2のチャネルとの間における流体の流動に適する空洞を提供する。場合によって、第1の基板の上面から第1の基板の下面へと延びる貫通孔もまた存在しうる。非接着領域は、任意の適切な形状を有することが可能であり、選択される形状は、当然ながら、目前の適用に依存する。特定の実施形態において、非接着領域は、円形でもありえ、実質的に楕円形でもありえ、実質的に角を丸くした矩形でもありえ、該適用に適切な任意の形状でもありうる。
【0100】
特定の実施形態において、デバイス本体は、膜の上面に接触してこれと接着する、第2の硬質プラスチック基板を含むことができ、場合によって、第1の基板、第2の基板、および膜は、ポリスチレンなどの実質的に同じ材料で作製される。第2の基板は、膜の非接着領域の実質的な上方に位置し、膜の非接着領域が第1の基板上面から移動してそれにより実質的に格納された状態を保つサイズのチャンバーを含みうる。
【0101】
マイクロ流体デバイス本体は、各々が、マイクロチャネルまたはある種の流体流路により連鎖状に連結されることが典型的な、個別に作動可能な弁構造を形成する、断絶した非接着領域の対または群を含むポンプをさらに含みうる。マイクロチャネルは、流体の流動に対する可変抵抗を有することが可能であり、この目的のために、異なるサイズ、形状、および拘束部を有しうる。さらに場合によって、デバイスは、流動の特定の1方向における流体の流動を優先する形状を有するチャネルなどの形状特徴を含みうる。
【0102】
一実施形態において、複数のポンプは、共有弁構造を有することができ、特に、該ポンプは、共用弁と連結された複数の流体ポートをもたらす3つ以上のマイクロチャネルの上方に配置される膜を含む、共用弁構造を有することができる。こうして、一部の実施形態において、ポンプは、任意の3連弁構造を含みうる。液体、気体、流体材料中に実質的に溶解した固体でありうる流体材料、スラリー材料、エマルジョン材料、またはその中に粒子が懸濁する流体材料を保持することが可能なリザーバーを提供することができる。リザーバーは、実質的に垂直でありえ、規定の垂直レベルにあるかまたはこれに近いリザーバー内から液体を抽出するための液体抽出デバイスと連結することができる。リザーバーはまた、実質的に垂直となるように配置することができ、流体および粒子を含有しうる。粒子がリザーバーの上部または底部に滞留することを防止する形で、流体にデバイス全体を循環させるよう、リザーバーにポンプを連結することができる。リザーバーは、個別に作動可能な第1の弁構造と第2の弁構造との間に連結することができ、複数のリザーバーは、ポンプ機構により相互連結することができる。ポンプが共用弁構造を含むかまたはこれに連結されることで、ポンプによる複数のリザーバーからの流体の流過が可能となる。
【0103】
さらなる実施形態において、デバイスは、ポンプ内を流動する流体により作動可能な受動弁構造を形成する2つの非接着領域へとマイクロチャネルにより相互連結される、外因的に作動可能なダイアフラム構造を形成する1つの非接着領域を有するポンプを有しうる。また別の実施形態において、ポンプは、各々が個別に作動可能なダイアフラム構造を形成し、各ダイアフラム構造が少なくとも1つの他のダイアフラム構造に部分的に重なる、複数の断絶した非接着領域を有しうる。
【0104】
デバイスは、膜が第1の基板から所望の距離を超えて移動することを防止するサイズ、形状であり、そうする位置にある、膜上方に配置された機械的膜止めなどの膜止め機構を含みうる。
【0105】
別の実施形態において、本体は、上面および下面ならびにその中に形成されるマイクロフィーチャを有する第1のポリスチレン基板と、第1の基板上面に溶剤接着され、第1の基板上面に対して実質的に横たわる弛緩状態と、第1の基板上面から移動する作動状態とを有するポリスチレン膜とを有しうる。
【0106】
マイクロ流体デバイスはまた、差圧送達供給源、例えば、圧力または真空を供給する1つまたは複数の機械的通気ポンプを含む場合もあり、これに連結される場合もある。
【0107】
一実施形態において、差圧供給源は、マイクロ流体デバイス本体の選択される領域に、周囲圧力に対して陽圧または陰圧を加えることが可能である。
【0108】
マイクロ流体デバイスはまた、差圧送達システム、例えば、弁を連鎖的に作動させて基板上に形成された弁およびポンプを操作することが可能なコントローラを含む場合もあり、これに連結される場合もある(Zhouら、米国特許公開第US2007/0166199A1号)。差圧送達システムは、差圧供給源(例えば、1つまたは複数の通気ポンプ)を含みうる。差圧送達システムは、差圧供給源およびマイクロ流体デバイス本体に作動的に連結することができる。
【0109】
差圧送達システムは、デバイス内における材料の混合を可能とする。例えば、コントローラにより、リザーバーのポンプチャンバーおよび他の2つのポンプチャンバーを操作することが可能であり、これにより、材料はリザーバーのポンプチャンバー内に引き込まれ、次いで、該2つのポンプチャンバーの各々の中に部分的に引き込まれ、該2つのポンプチャンバーの1つに部分的に引き込まれた材料は、その後、リザーバーのポンプチャンバーに戻る。
【0110】
マイクロ流体デバイスはまた、コントローラを制御するコンピュータおよび/またはコンピュータソフトウェアも含みうる。
【0111】
5.2 試料調製領域および試料調製法
マイクロ流体デバイスは、試料調製領域を含みうる。一実施形態において、試料調製領域は、
試料取込みリザーバーと、
試料調製試薬リザーバーと、
試料精製媒体と
を含み、
試料取込みリザーバー、試料調製試薬リザーバー、および試料精製媒体は、流体的に相互連結される(図1〜7)。
【0112】
試料調製領域は、例えば、1つまたは複数の溶出リザーバーまたは廃棄物リザーバーを含みうる(図7)。試料調製領域はまた、細胞溶解および/または細胞溶解緩衝液、試料洗浄および/または洗浄緩衝液、試料精製および/または精製媒体のための1つまたは複数のリザーバーも含有しうる(図7)。
【0113】
試料精製媒体は、試料精製媒体リザーバー内に配置することができる。特定の実施形態において、試料精製媒体は、試料精製リザーバーの底部に配置することができる。
【0114】
代替的に、試料精製媒体は、複数の流体チャネルの1つに配置することもできる。
【0115】
試料調製領域は、試料取込み領域に流体的に連結される、試料取込みリザーバー内に対象試料を導入するための試料流入口を含みうる。
【0116】
試料調製領域はまた、試料取込みリザーバーに流体的に連結される、試料混合ダイアフラムも含みうる。
【0117】
試料調製領域は、デバイス本体上の少なくとも他の1つのリザーバーと流体的に相互連結される、試料混合リザーバーをさらに含みうる。
【0118】
一実施形態において、試料調製領域は、生物学的試料、例えば、細胞または生物の試料に熱ショックを与える熱供給源を含みうる。生検体を熱ショックに曝露することにより、例えば、既知の特定のRNA分子種を作製することができる。マイクロ流体デバイス内の検体から単離されたRNAを後で核酸増幅する際、熱ショックにより既知の特定のRNA分子種が生成されたかどうかを解析することにより、元の検体がマイクロ流体デバイス内に導入されたときにそれが生検体であったかどうかを判定することができる。
【0119】
一実施形態において、試料中の生物学的材料、例えば、細胞または組織は、試料調製工程において溶解される。別の実施形態において、生物学的材料は、抽出を受ける。化学的、機械的、電気的、超音波的、熱的などを含むがこれらに限定されない、当技術分野で知られる任意の生物学的抽出プロトコールを、本発明のマイクロ流体デバイスと共に用いることができる。
【0120】
当技術分野で知られる任意の核酸抽出精製媒体を、対象核酸の単離に用いることができる。一実施形態において、核酸の単離のための流体流路にシリカ膜を配置することができる。多孔性シリカ膜は、直径1μm未満の極細ガラス糸から作製することができる。このような媒体による核酸回収の収率は、流体流路における該ガラス糸の配向性と関係する。流体流路が短縮されることを回避し、核酸の抽出および精製に十分な媒体を確保するために、膜のサイズを流体チャネルの断面積よりも実質的に大きくすることができる。
【0121】
別の実施形態では、Boomら(米国特許第5,234,809号)の固相抽出法を用いることができる。Boomらは、核酸含有出発材料から核酸を単離する工程であって、出発材料、カオトロピック物質、および核酸結合固相を混合するステップと、そこに核酸が結合した固相を液体から分離するステップと、固相核酸複合体を洗浄するステップとを含む工程を開示している。
【0122】
核酸洗浄用に当技術分野で知られる任意の有機溶剤を用いて、核酸精製媒体上に吸収された核酸を洗浄することができる。
【0123】
核酸調製試薬は、溶解試薬またはプロテアーゼ試薬でありうる。対象の細胞試料または組織試料の溶解は、マイクロ流体デバイスの1つまたは複数の試薬リザーバーチャネルまたはリアクターにおいて実施することができる。一実施形態において、細胞溶解液(1つの試薬リザーバー内に保持される)と、その粘稠性であるかまたは非粘稠性の各試薬((1つまたは複数の)異なるリザーバー内に保持される)とのオンチップでの混合は、1つのリザーバーから他のリザーバーへと流体を持続的に送達することにより実行することができる。
【0124】
細胞溶解は、流体の操作、例えば、静かな機械的撹拌もしくは「フラッフィング」、循環、化学的溶解、または細胞溶解法の組合せなど、当技術分野で知られる方法により達成することができる。
【0125】
磁気ビーズもまた溶解に用いることができる(例えば、Lee JG、Cheong KE、Huh N、Kim S、Choi JW、Ko C、「Microchip−based one step DNA extraction and real−time PCR in one chamber for rapid pathogen identification」、Lab Chip、2006年、第6巻、第7号、886〜895頁を参照されたい)。
【0126】
磁気ビーズを用いて、当技術分野で知られる標準的な方法による精製プロトコールまたは核酸抽出プロトコールを増強することができる。例えば、溶解前に、これらを試料調製試薬として、例えば、特定の生物学的材料、細胞、組織、もしくは生物、またはこれらの部分成分に対する事前の濃縮または選択に用いることができる。
【0127】
細胞溶解/ホモジナイゼーションは、これらの目的に必要とされることが典型的な実験室設備を用いずに、マイクロ流体デバイス上で達成することができる。
【0128】
例えば、オンチップのポンプを持続的に作動させることにより、試薬リザーバーの底部に位置する多孔性ディスクを介して、試薬リザーバー内に保持される粘稠性の溶液を吸引することによりホモジナイズすることができる。
【0129】
一実施形態において、細胞溶解は、細胞試料を含有する溶液を、マイクロ流体デバイス上の狭小なチャネル(例えば、0.9mm)内で前後に吸引することにより達成することができる。このような機械的溶解を用いて、組織培養細胞をホモジナイズすることができる。
【0130】
細胞溶解はまた、細胞をせん断することによっても達成することができる。
【0131】
細胞溶解を達成するのに当技術分野でよく知られる他の方法は、カオトロピック変性(Boomら、米国特許第5,234,809号)、超音波処理、リザーバーまたはチャネルにわたり適用されるDC電圧(Wang HY、Bhunia AK、Lu C、「A microfluidic flow−through device for high throughput electrical lysis of bacterial cells based on continuous de voltage」、Biosens Bioelectron、2006年、第22巻、第5号、582〜588頁)、マイクロエレクトロメカニクスベースの圧電式マイクロ流体ミニ超音波処理(Marentis TC、Kusler B、Yaralioglu GG、Liu S、Haeggstrom EO、Khuri−Yakub BT、「Microfluidic sonicator for real−time disruption of eukaryotic cells and bacterial spores for DNA analysis」、Ultrasound Med Biol、2005年、第31巻、第9号、1265〜1277頁)、浸透圧溶解、局所的水酸化物生成による溶解、ナノスケールバーブによる機械的切断(Di Carlo D、Jeong KR、Lee LP、「Reagentless mechanical cell lysis by nanoseale barbs in microchannels for sample preparation」、Lab Chip 2003年、第3巻、第4号、287〜291頁)、凍結−融解、熱変性、リゾチーム後におけるGuSCN処理、LIMBS(レーザー照射磁気ビーズシステム;Lee JG、Cheong KE、Huh N、Kim S、Choi JW、Ko C、「Microchip−based one step DNA extraction and real−time PCR in one chamber for rapid pathogen identification」、Lab Chip、2006年、第6巻、第7号、886〜895頁)、ならびに同時に適用されるレーザーおよび機械的振動を含む。
【0132】
一実施形態において、溶解は、試料および溶解試薬を有するリザーバーの下方にあるオンチップのダイアフラムポンプを、それが作動するときに流体がダイアフラム内に引き込まれ、ダイアフラムが逆向きに作動するときにリザーバー内に再注入されるように持続的に作動させることにより実施することができる。
【0133】
生物学的試料に対する多くの調製工程は、試料の溶解を伴う。溶解用に当技術分野で用いられる溶液は、非粘稠性でもありうるが、一般に、粘稠性の溶液である。試料調製時において、処理された(溶解した)生物学的試料は、溶解した試料に由来する核酸が結合する膜を介して流動することが典型的である。その後、溶解した生物学的試料よりも粘稠度が通常はるかに低い複数種の洗浄緩衝液に同じ膜を流過させる。
【0134】
試料調製領域は、デバイス本体上における少なくとも1つの他のリザーバーと流体的に相互連結された洗浄リザーバーをさらに含みうる。
【0135】
試料調製領域は、デバイス本体上における少なくとも1つの他のリザーバーと流体的に相互連結された廃棄物リザーバーをさらに含みうる。
【0136】
試料調製領域は、デバイス本体上における少なくとも1つの他のリザーバーと流体的に相互連結された溶出リザーバーをさらに含みうる。
【0137】
核酸は、膜親和性によるなど、当技術分野で知られる方法を用いて、試料から抽出または精製することができる。一実施形態では、シリカ膜を用いることができる。試料の溶解物は、(例えば、膜の下流におけるダイアフラムポンプを用いて)膜を介して押出すこともでき、絞り出すこともでき、吸引することもできる。流体は、シリカ膜を通常の方向(垂直方向)に流動することが好ましい。一実施形態では、シリカ膜を介して溶出緩衝液を引き込むことにより、核酸を抽出することができる。別の実施形態では、当技術分野で知られる核酸抽出法、例えば、Boomら、米国特許第5,234,809号に記載の方法を用いることができる。
【0138】
溶剤(例えば、エタノール)は通常、シリカ膜または他の種類の核酸精製媒体から核酸が溶出する前に、膜から除去しなければならない。マイクロ流体デバイス本体は、試料精製媒体を通気乾燥させる手段を含みうる。一実施形態において、試料調製領域は、試料精製媒体を通気乾燥させる手段を含む。例えば、デバイス本体は、コントローラ上における通気ポンプに取り付けられたポートを装備しうる。遮断弁は、該ポートと、シリカ膜が位置する流体ネットワークのリザーバーまたはチャンバーとの間に装備される。試料および試薬が流体ネットワーク内で操作されてシリカ膜上を流動するかまたはこれを介して流動するとき、チップ上における遮断弁を閉じて流体が通気ポンプへと漏出しないことを確認することができる。
【0139】
膜が適正に準備されたら、遮断弁を開き、真空ポンプを作動させる。これにより、膜を介して空気が流動し、これを効果的に乾燥させる。代替的に、膜は、加熱によるかまたは加熱された気流によっても乾燥させることができる。
【0140】
別の実施形態では、オンチップのポンプを用いて、膜上へまたはこれを介して空気を送出するかまたは吹送するだけで、乾燥を調節することができる。
【0141】
核酸などの対象分子は、膜から除去して核酸増幅領域へと移送することができる。
【0142】
試料調製領域は、デバイス内の他のリザーバーと流体的に相互連結された核酸抽出膜リザーバーをさらに含みうる。該リザーバー内に核酸抽出膜または核酸抽出フィルターを配置することができる。
【0143】
核酸抽出膜は、例えば、核酸抽出膜リザーバーの底部に配置することができる。
【0144】
マイクロ流体デバイスは、核酸抽出膜を乾燥させる(例えば、送風、加熱、または真空乾燥により)ための領域をさらに含みうる。
【0145】
マイクロ流体デバイスのすべての領域は、酵素、溶出緩衝液、洗浄緩衝液、廃棄物保持、核酸抽出精製媒体、ヌクレオチド、プライマー配列、洗浄剤、および酵素基質を含みうるがこれらに限定されない試料処理試薬を保持および分注するリザーバーを含みうる。これらの試薬を含有するリザーバーのほか、核酸増幅領域も、マイクロ流体デバイス本体の異なる区画内に空間的に配置することができ、流体ネットワークにより互いに対して流体的に相互連結することができる。
【0146】
5.3 核酸増幅領域および核酸の増幅方法
マイクロ流体デバイス本体は、核酸増幅領域を含む。核酸増幅領域は、
核酸増幅リアクターと、
核酸増幅試薬リザーバーと、
核酸増幅産物リザーバーと、
を含み、
核酸増幅リアクター、核酸増幅試薬リザーバー、および核酸増幅産物リザーバーは、流体的に相互連結される。
【0147】
リザーバー内の核酸増幅試薬は、例えば、核酸プライマーまたは核酸鋳型、核酸増幅混合物、核酸増幅酵素、ヌクレオチド、緩衝液、または他の核酸増幅試薬でありうる。このような核酸増幅試薬は、当技術分野でよく知られている。
【0148】
該試薬リザーバーおよび産物リザーバーは、核酸増幅リアクターに連結され、核酸増幅リアクターへおよびここからの1つまたは複数の流入口を有しうる。該リザーバーは、例えば、熱サイクリングの間に核酸リアクターを効果的にシールする、(1つまたは複数の)流入口および(1つまたは複数の)流出口における弁を含有しうる。特定の実施形態において、オンチップのバルブは、送出サイクル時において気泡を生じうる。こうして、一連の弁を用いて核酸増幅試薬を核酸増幅リザーバー内に「押出す」と、核酸増幅リアクター内に除去が困難でありうる気泡が生じうる。流入口の弁を閉じ、流出口におけるポンプを用いて部分真空を発生させる(試薬を押出す代わりにこれらを吸引することにより)ことで核酸増幅チャンバーを満たすことにより、気泡なしに核酸増幅チャンバーを満たす機構がもたらされる。核酸増幅リアクターはまた、リアクター内にまず部分真空を発生させることで気泡なしにリアクターを満たすのでなく、ただ流入口の弁を開き、流出口側のポンプを用いることによっても満たすことができる。
【0149】
マイクロチャネルの作製法により、チャネルの角または縁に沿った毛細管流動が生じる場合がある。この毛細管流動は、核酸増幅リアクターの充填を妨げることがある。乾燥したマイクロ流体デバイスを用いることにより、充填の間に、流体にリアクター内面を優先的に湿潤させ、空気の捕捉を回避することができる。
【0150】
核酸増幅反応時における気泡形成は、マイクロリアクター内の問題でありうる。傾斜型核酸増幅チャンバーにより、形成された気泡をチャンバーの1つの側で回収させうる。ポリスチレンおよび核酸増幅試薬混合物の疎水特性により、核酸増幅チャンバーの1つの端部で気泡を回収する能力が損なわれる。試薬混合物は、気泡の移動または形成の補助となる各種の界面化製剤および添加剤を有しうる。界面活性剤は、ポリスチレンの疎水性表面と相互作用する。
【0151】
一実施形態において、改変リザーバーと組み合わせた傾斜型核酸増幅リアクターを用いることで、チャンバーおよび導管内のすべての気泡を追い出すことができる。この「循環」法は、混合(とりわけ、異なる密度の試薬)の増強、充填時における気泡の低減、充填後における気泡の除去能、試薬による弁の充填、および定量的PCR(qPCR)のための明確な「定量域」の提供を含む複数の利点を提供しうる。
【0152】
qPCRでは、高感度の光学検出器および光源を用いるので、入射光に干渉する気泡がない核酸増幅リアクターは有利である。一実施形態では、光学検出機器を核酸増幅リアクターの下端部に配置することで、気泡が検出に干渉しないことを確認することできる。また、弁を液体で満たすことにより、液体なしの(空気)弁と比較して、弁のシールを改善する一助となることも観察されている。液体の表面張力は温度に反比例するので、高温時には循環送出を行うことにより核酸増幅リアクター内に捕捉された気泡を除去することもできる。
【0153】
別の実施形態では、ワックスまたは油を用いて核酸増幅リアクターをシールすることもできる。チップ作製工程時におけるチャンバーのコーティングまたは反応混合物への油/ワックスの組込み(例えば、熱によりワックスを溶融させ、再固形化時に反応物上にコーティングを形成させる;代替的には、反応物上に油を配置する;例えば、「Current Protocols in Molecular Biology」、ユニット15.1、「Enzymatic Amplification of DNA by PCR.Standard Procedures and Optimization」;Quin Chou、Marion Russell、David E.Birch、Jonathan Raymond、およびWill Bloch、「Prevention of pre−PCR mis−priming and primer dimerization improves lowcopy−number amplifications」、Nucleic Acids Research、1992年、第20巻、第7号、1717〜172頁を参照されたい)。
【0154】
別の実施形態において、試料調製領域で抽出された核酸は、核酸増幅領域へと誘導される(すなわち、押出されるか、吸引されるか、絞り出されるか、または送出される)。核酸は、混合リザーバーにおいて1種または複数種の核酸増幅試薬と混合され、次いで、該混合物は、核酸増幅リアクターへと誘導され、そこで、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素(RT−)PCR、cDNA末端迅速増幅(RACE)、ローリングサイクル増幅、核酸配列ベース増幅(NASBA)、転写物媒介増幅(TMA)、およびリガーゼ連鎖反応を含むがこれらに限定されない、当技術分野で知られる任意の熱媒介的な核酸増幅を実施することができる。
【0155】
一実施形態において、核酸増幅のための熱サイクリングは、その薄さを踏まえると著明な熱障壁を提示しない一方で、コントローラのマニホールド上に位置するヒーターと増幅リアクターとの間の良好な接触も提供する、弁およびポンプを作製するのに用いられる膜を介して実施される。
【0156】
特定の実施形態において、核酸増幅チャンバーは、熱サイクルリアクターまたは熱サイクルチャンバーである。熱サイクルチャンバーの底部は、例えば、ポリスチレンの薄層であり得る。熱サイクルチャンバーの底部は、熱サイクリング間に、マイクロ流体デバイスの本体上または本体内に配置されていない(例えば、本体外部の)ヒーターにより加熱することができる。
【0157】
別の実施形態において、核酸増幅(例えば、PCR)リアクターは、マイクロ流体デバイス本体の基板内において、弱溶剤接着法または弱溶剤積層法(参照によりその全体において本明細書に組込まれる、US2006/0078470)を用いることによるポリスチレン薄膜により提供される(3方を壁で囲まれた)チャネル構造を格納することにより作製される。弱溶剤接着の使用は、その中に配置されるマイクロフィーチャの完全性および信頼性を保つ一方で、このような適用におけるポリスチレンの使用を可能として有利である。
【0158】
薄膜は、非常に低い熱抵抗を提供し、このために、迅速な熱サイクルを可能とする。該膜はまた可撓性でもあり、ヒーターとの優れた接触を可能とする。チャンバーは、オンチップの弁およびポンプにより、単一または複数の試薬流入リザーバーおよび単一または複数の流出リザーバーに流体的に連結される。
【0159】
別の実施形態において、核酸増幅リアクターは、マイクロ流体デバイス本体において形成される円形、矩形、四角形、または他の開口部形状に弱溶剤積層法を用いてポリスチレン薄膜を積層させることにより作製される。壁で囲まれた基板開口部と該開口部の底部に隣接する膜との間に形成される増幅リアクターにより、周囲圧力条件下の高温における増幅反応の実行が可能となる。
【0160】
マイクロ流体デバイス上に接着された膜を用いて、核酸増幅、例えば、迅速PCR熱サイクリング用リアクターを提供することができる。薄膜は、システムの断熱性を低減するため、核酸増幅リアクターの底部として与えることができる。
【0161】
核酸増幅は、熱サイクルを必要とする。このサイクルは、リアクター内の試薬へおよびここからの熱の伝導を必要とする。一部の実施形態において、マイクロ流体デバイス本体および核酸増幅は、熱伝導性が低いポリスチレン(PS)から作製される。リアクター内における流体の温度を迅速に変化させるためには、PS材料の薄層が好ましい。マイクロ流体デバイスの通常の製作時には、熱サイクルリアクターの底部をシールする25μm厚の膜が装備される。
【0162】
マイクロ流体デバイスはまた、コントローラのマニホールド上に配置すると、電極に接触し、熱サイクリング用のヒーターに電力を供給しうる、抵抗ヒーターをデバイス上に組込むこともできる。
【0163】
核酸増幅の場合、コントローラのマニホールド上のヒーターがこの膜に対して配置され、リアクターを加熱および冷却する熱抵抗の低い経路を提供する。
【0164】
別の実施形態において、加熱エレメントは、分子増幅リアクターを格納するポリスチレン膜と直接に接触する増幅リアクターの下方に配置することができる。代替的に、ヒーターとリアクター底部膜との間に、熱伝導性材料を配置することもできる。核酸増幅リアクターの各態様に応じ、リアクターは、数分の一マイクロリットル〜数十マイクロリットルの範囲の容量を有して有利である。
【0165】
別の実施形態において、核酸増幅リアクターは、クランプによる支持を受けることで、チャンバーの底部と、チャンバーの底部を画定する膜に対して配置されるヒーターとの間の接触を確保することができる。クランプはまた、リアクターの上部壁面に対する支持体としても作用し、変形を最小化することが可能である。
【0166】
前述のヒーターは、従来の表面実装電子抵抗器、薄膜ヒーター、赤外線送出器、ラジオ周波数、または他の既知のマイクロヒーターなど各種のものでありうる。一実施形態において、ヒーターは、1つまたは複数の抵抗温度検出器(RTD)を含みうる。ある態様では、2つのRTDを加熱に用い、1つを温度感知に用いることができる。代替的に、単一のRTDを加熱および温度感知に用いることで、より小さな形状因子をもたらすこともできる。1つまたは複数のRTDは、チップに内に組込むことで、リアクターの基底部を形成することができる。ヒーターは、条件文制御または他の既知の制御法により制御することができる。ある有利な態様では、RTDと共にフィードバック制御を用いて、核酸増幅の設定点温度に達したことを確認する。
【0167】
一実施形態では、抵抗温度検出器(RTD)を、核酸増幅リアクターを熱サイクリングさせる温度センサーおよび抵抗ヒーターとして用いることができる。RTDは当技術分野でよく知られており、市販されている(コネチカット州、スタンフォード、Omega Engineering社製)。RTDは、抵抗−温度間における既知の一次微分関係による高精度の抵抗器である。したがって、抵抗の変化を測定することにより、温度の変化を測定することができる。これらのセンサーは、巻線または沈着薄膜としての白金から作製されることが典型的であり、100オームの公称抵抗を有する。RTDの構築は基本的に抵抗器の構築なので、このように用いることができる。当技術分野でよく知られる適切な回路設計により、単一のRTDを用い、加熱モードと感知モードとを切り替えることができる。代替的に、一部が専用ヒーターとして作動し、その他が専用センサーとして作動するRTDの組合せを用いることもできる。これらの構築により、コンパクトな加熱および温度感知の解決策がもたらされる。
【0168】
本発明のマイクロ流体デバイスと共に、当技術分野で知られる任意の核酸増幅プロトコールを用いることができる。
【0169】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素(RT−)PCR、cDNA末端迅速増幅(RACE)、ローリングサイクル増幅、核酸配列ベース増幅(NASBA)、転写物媒介増幅(TMA)、およびリガーゼ連鎖反応を含むがこれらに限定されない、当技術分野で知られる核酸増幅プロトコールを、本発明のマイクロ流体デバイス及び方法を伴う使用に適合させることができる。
【0170】
マイクロ流体デバイス上では、複数の異なる反応を含むプロトコールを組み合わせて実行することができる。
【0171】
例えば、試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有する、図8〜11および12〜16に示すデバイス上において、オンチップのDNA抽出/PCRプロトコールを実行することができる。図11は、図10に示すマイクロ流体デバイス内における、「細胞」、「エタノール」、「ミキサー」、「廃棄物」、「溶出」、「NA1」、「NA2」、「AW1」、「AW2」と称する複数の試薬リザーバーの例示的な配置(配置図)を示す。この実施形態によれば、「細胞」は懸濁した細胞およびプロテイナーゼKを保有し、「ミキサー」は緩衝液ALを保有し、「エタノール」はエタノールを保有し、「AW1」は洗浄緩衝液AW1を保有し、「AW2」は洗浄緩衝液AW2を保有し、「溶出」は溶出緩衝液AEを保有し、「NA1」は核酸リザーバー1であり、「NA2」は核酸リザーバー2であり、「増幅マスター混合物」は増幅マスター混合物リザーバーであり、「単位複製配列流出1」は増幅流出リザーバー1であり、「単位複製配列流出2」は増幅流出リザーバー2であり、「廃棄物」は廃棄物リザーバーである。オフチップ解析ゾーンへの「単位複製配列1流出口」および「単位複製配列2流出口」のほか、増幅リアクターもまた示される。一実施形態において、オンチップのDNA抽出/PCRプロトコールは、以下の通りに実行することができる:
1.すべての溶液をそれぞれのリザーバーに添加する;
2.「細胞」−「ミキサー」間で細胞を複数回(例えば、10分間にわたり5回)循環させて細胞を溶解し、「ミキサー」内に残存する最終流過物と混合する;
3.「エタノール」から「ミキサー」へとエタノールを送出する;
4.「ミキサー」内でエタノール/細胞溶液を混合する;
5.溶解した細胞溶液を、精製媒体を介して「廃棄物」へと送出する(例示的な態様によれば、精製媒体はシリカ膜を含む);
6.洗浄緩衝液AW1を、精製媒体を介して「廃棄物」へと送出する;
7.洗浄緩衝液AW2を、精製媒体を介して「廃棄物」へと送出する;
8.精製媒体上に吸収されたアルコールを除去する(これは、精製媒体を介して空気を引き込む、コントローラに装備されたポンプにより達成することができる);
9.乾燥ポンプを停止させる;
10.溶出緩衝液AEを、「溶出」から精製媒体(膜)を介して「NA1」へと送出する;
11.溶出緩衝液AEを、「溶出」から精製媒体(膜)を介して「NA2」へと送出する;
12.増幅試薬を、増幅マスター混合リザーバーから「NA2」へと送出する;
13.増幅混合物を、「NA2」から核酸増幅リアクターを介して「単位複製配列流出1」へと送出する;
14.核酸増幅リアクター内において、残りの増幅混合物を熱サイクリングする;
15.増幅産物を、増幅リアクターから「単位複製配列流出2」へと送出する;
16.増幅産物を、「単位複製配列流出2」から核酸解析領域へと送出して検出する。
【0172】
5.4 核酸解析領域および解析法
マイクロ流体デバイスは、核酸解析領域を含みうる。核酸解析領域では、核酸増幅反応から結果として得られる単位複製配列を検出することができる。核酸解析領域には、当技術分野で知られる任意の単位複製配列検出アッセイを容易に適合させることができる。核酸精製領域、核酸増幅領域、および核酸解析領域の各々は、少なくとも1つの流体流路により、他の2つの領域の少なくとも1つと流体的に相互連結することができる。
【0173】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、試料調製領域および核酸増幅領域を含みうるが、本体上の核酸解析領域を欠く場合がある。代わりに、核酸の検出は、マイクロ流体デバイスとは別の領域において(または検出器により)実施することができる(図8〜16)。
【0174】
核酸解析領域を含むマイクロ流体デバイスの実施形態において、核酸解析領域は、検出アッセイが実行されるリアクター(リザーバー)または反応領域と、以下:ハイブリダイゼーション緩衝液、高厳密性の洗浄緩衝液、低厳密性の洗浄緩衝液、またはコンジュゲーション基質のいずれかのための1つまたは複数のリザーバーを含みうる。
【0175】
一実施形態において、核酸解析領域は、対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するための領域を含む。
【0176】
本発明は、対象核酸の検出法を提供する。一実施形態では、対象核酸を含有することが疑われる試料を得る。マイクロ流体デバイスの試料調製領域に試料を導入し、核酸増幅用に調製する。調製された試料を核酸増幅リアクターに導入し、核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅する。次いで、増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入し、増幅された対象核酸を検出する。検出するステップは、増幅された対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するステップ、例えば、当技術分野で知られる標準的な方法を用いる核酸ハイブリダイゼーションを検出するステップなど、評価項目検出アッセイを実施するステップを含みうる。
【0177】
一実施形態において、検出するステップは、色強度、蛍光強度、電気信号強度、または化学発光強度を可視化するステップを含みうる。
【0178】
別の実施形態において、検出するステップは、試料中における少なくとも1種の対象分子に対応する強度値を発生させるステップを含みうる。
【0179】
別の実施形態において、強度値は、色強度値、蛍光強度値および化学発光強度値、電流または電圧からなる群から選択しうる。
【0180】
別の実施形態において、色強度値を発生させるステップは、試料に対応する画像を解析またはデジタル化して複数の画素を発生させるステップと、複数の画素の各々に対して複数の数値を与えるステップと、数値を生じさせて色強度値を提供するステップと
を含みうる。
【0181】
別の実施形態では、閾値を計算し、色強度値を閾値と比較して対象分子を検出することができる。
【0182】
別の実施形態では、少なくとも1つの色強度値と閾値とをデータベースに保存することができる。閾値は、少なくとも1種の陰性対照試料を用いて計算することができる。
【0183】
被験体における対象の疾患または障害の存在または素因を判定する方法もまた提供される。一実施形態において、該方法は、
a)対象の疾患または障害と関連する核酸を含有することが疑われる試料を被験体から得るステップと、
b)試料中における対象の疾患または障害と関連する核酸を検出するステップと
を含むことができ、該検出するステップは、
対象核酸を含有することが疑われる試料を得るステップと、
本発明のマイクロ流体デバイスを用意するステップと、
試料調製領域に試料を導入するステップと、
核酸増幅用に試料を調製するステップと、
調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、
核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、
増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入するステップと、
増幅された対象核酸を検出するステップと
を含み、増幅された対象核酸の検出が、対象の疾患または障害の存在または素因と関連する。
【0184】
検出するステップは、増幅された対象核酸の量(またはレベル)を決定するステップを含み、ここで、該方法は、該量(またはレベル)を対象核酸のあらかじめ選択された量(またはレベル)と比較するステップをさらに含む。一実施形態において、該量(またはレベル)とあらかじめ選択された量(またはレベル)との間の差は、対象の疾患または障害の存在または素因を示す。
【0185】
核酸解析領域内で実施しうる核酸検出法は、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、in situにおける結果の視覚化、電気化学的検出など、当技術分野でよく知られる方法を含みうるがこれらに限定されない。
【0186】
特定の実施形態において、核酸解析領域は、リバースドットブロットアッセイを実施して、単位複製配列を検出するための反応チャンバーまたは反応領域を含みうる。このようなアッセイは当技術分野でよく知られている。核酸解析領域はまた、リバースドットブロットアッセイにおける相互反応を検出する、例えば、リバースドットブロット基質またはリバースドットブロット挿入物上における相互反応を検出するための領域を含みうる。代替的に、該基質または挿入物は、マイクロ流体デバイスから取り外して、別のリーダーまたは検出器内に挿入することもできる。
【0187】
一実施形態において、核酸解析領域は、リザーバー内に取り付けられ、フィルター下部にフリットを有する、RDBフィルターを含みうる。リザーバーは、ヒーターを伴うかまたは伴わずに取り付けることができ、能動的な送出のためのより大型のダイアフラムを有しうる。ハイブリダイゼーション緩衝液と混合され、RDBフィルターを介してフィルターに垂直な方向に送出された単位複製配列が、核酸増幅リアクターから直接に送達されうる。
【0188】
フリットを用いて、混合物がRDBフィルターを均一に流過するように保つことができる。ハイブリダイズした単位複製配列に後ほどコンジュゲートを結合させて活性化させ、市販の自動リーダーにより検出するかまたは読み取ることができる。
【0189】
大型のダイアフラムを用いて、混合物を「フラッフィング」(すなわち、静かな機械的撹拌による)し、核酸解析領域におけるより迅速な核酸ハイブリダイゼーションを促進することができる。
【0190】
標準的なベンチトップ手順では、スポットされた膜をプラスチックバッグおよびまたはチューブ内に配置し、次いで、これを温度制御された水浴中に入れて用いる。ベンチトップ手順を補完するためにいくつかのデバイスが作製されており、これらのデバイスでは、ゴム製ガスケット付きの金属、プラスチック、またはガラス製大型マニホールドを用いて、膜を介する流動を供給している。これらの設計では、シーリングクッションまたはガスケットを有する固体支持体を用いる。有孔の金属プレートもまた、構造を支持し、流体にブロット膜を自由に流過させるのに用いられている。
【0191】
Immunetics社製のMiniSlot(登録商標)& Miniblotter(登録商標)システムは、並行するマイクロチャネルと、これを支持する底部プレートとの間で膜を挟み込む「シーリングクッション」を用いる。特定の実施形態において、Immunetics社製システムなど、当技術分野で知られる2つのシステムを用いて、互いに垂直であり、このため、グリッド様パターンを創出する、2つの流動方向を創出することができる。
【0192】
RDB流動の設計は、小領域内におけるスポットアレイ用に設計することができる(図40〜41)。膜の下方には、多孔性の固体支持体を用いることができる。膜は、リザーバーの周囲だけに接着され、これにより、膜を介する流体の流動に対する干渉が回避される一方、また、膜の周囲を介する流体の流動も防止される。RDBリザーバーへと/から流体を送出するのに用いられる弁は大型で、圧力の急激な変化を受ける。大量の流体の流動は、面取り層により均一に分配され、多孔性の固体支持体により媒介される。多孔性の固体支持体は、流体に膜をゆっくりと流過させるだけでなく、膜を介して流動を均一に分配するのにも用いられる(図40)。膜はリザーバーの周囲に固定される(図41)。面取り層を小孔で置き換えることもできるが、この代替法は、小孔のサイズおよび位置に基づく最適化を必要とする。面取り貫通孔により、圧力が膜全体に均一に分配され、ほとんど〜まったく最適化を必要としない。多孔性の固体支持体はまた、送出および「フラッフィング」時における膜の大きなたわみも防止する。膜を介する流体の流動により、固定化されたオリゴヌクレオチドと、溶液中の標的DNAとのハイブリダイゼーションが増大する。流動は、ハイブリダイゼーション工程を通じて拡散に制約されず、このため、ハイブリダイゼーション反応は迅速に進行する。
【0193】
5.5 マイクロ流体デバイスのさらなる構成要素および配置
マイクロ流体デバイスは、マイクロ流体デバイスの内部または外部に位置し、マイクロ流体デバイスまたはマイクロ流体デバイス上の特定の領域に作動的に連結される差圧送達システム、例えば、コントローラをさらに含みうる。一実施形態では、US2007/0166199A1(参照により本明細書に組込まれるZhouら、2008年7月19日)において開示されるコントローラを用いることができる。該コントローラは、一方が陽圧であり、他方が陰圧である、2つの圧力供給源を装備しうる。弁をシールするのに陽圧を用いうる一方、ダイアフラムを開くのには陰圧を用いうる。該配置により、ポンプ内における流体圧が弁よりも高圧とならず、弁による漏れが防止される。一態様において、コントローラ上におけるソレノイドマニホールドは、3つの圧力容器を含有しうる。この配置により、ソレノイド間における「クロストーク」を防止し、弁に供給される圧力が、近接する制御ソレノイドの変化に関わらず不変を保つ状態がもたらされる。
【0194】
コントローラは、例えば、複数の開口部を有する空気圧マニホールドと、開口部の各々からマイクロ流体デバイス(「チップ」)内における複数の圧力作動膜(ダイアフラム)へと空気圧信号を送るためのチャネルがその中に配置された、チップマニホールドとを含みうる(米国特許公開第US2007/0166199A1号(Zhouら、2008年7月19日)を参照されたい)。チップ駆動マニホールド内のチャネルは、マイクロ流体チップ内における複数の圧力作動膜の構成に符合する空気圧信号を送ることが可能である。空気圧信号をマイクロ流体チップ内における少なくとも1つの信号回路に送り、該信号回路に連結された少なくとも1つのセンサーを作動させることができる。チップ駆動マニホールドは、空気圧マニホールドの単一の開口部から、マイクロ流体チップ内における複数の圧力作動膜へと空気圧信号を送るための、少なくとも1つのチャネルまたは一連のチャネルを含みうる。(1つまたは複数の)チャネルにより、該開口部からの空気圧信号が、単一のチャネルから分枝するチャネルネットワークへと送られる。単一のチャネルから分枝するチャネルネットワークにより、空気圧信号が、複数の圧力作動膜の各々へと送られる。
【0195】
他の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、コントローラのマニホールド上に配置される、真空、圧力、電気、および光の入力/出力のための連結手段を含みうる。このような連結手段は、当技術分野でよく知られている。
【0196】
一実施形態において、通気口を備えたカバープレートを、試薬リザーバーの上部に固定的に配置することで、環境からの潜在的な汚染を防止することができる。
【0197】
本明細書に記載の実施形態によれば、自動的な試料の調製/精製および増幅を可能とする構造および工程が、単一のマイクロ流体デバイスプラットフォーム上に統合される。手作業による投入は不要である。
【0198】
5.6 差圧送達供給源およびマイクロ流体デバイス上における流体の送出
マイクロ流体デバイスは、機械通気ポンプまたは一連の通気ポンプなどの差圧送達供給源を含む場合もあり、これに連結される場合もある。
【0199】
広範に異なる溶液(すなわち、一実施形態における粘稠性または非粘稠性の溶液を送出する際の問題を克服するため、シリカ膜など、特定のマイクロ流体エレメントの「上流」または「下流」にポンプを配置し、いずれのポンプもこのようなマイクロ流体エレメントを介して最良の形で流体を送出するように作動させることができる。これらの各々をマイクロ流体デバイス上で一体に統合することで、同じ膜を介して粘稠性および非粘稠性の流体を送出する可変圧力を供給することができる。別個の通気ポンプもまた、核酸増幅領域への核酸の溶出前に膜を乾燥させるのに十分な気流を供給しうる。
【0200】
オンチップのポンプは、二段式ポンプを創出しうる。一実施形態において、高粘稠度の流体には膜の下流にあるポンプを用い、膜を介してこれを吸引することができ、低粘稠度の流体には膜の上流にあるポンプを用い、膜を介してこれを押出すことができる一方、乾燥工程では、別個の通気ポンプを用い、開いた弁および膜を介して空気を持続的に吸引することができる。オンチップのポンプはまた、生物学的試料および洗浄緩衝液/試薬を別個の場所(例えば、マイクロ流体デバイス上の廃棄物リザーバー)に送出するのにも用いることができ、膜を通気乾燥する際、通気ポンプが試料または試薬を引き込まないように弁を閉じることができる。これは、生物学的に感受性の試料に対する重要な考慮点でありうる。
【0201】
5.7 オンチップにおける流体の混合
2種以上の個別の流体を迅速に混合する能力は、流体システムの共通の特徴である。一実施形態において、マイクロ流体デバイスは、試薬リザーバー下方のダイアフラムが流体を下方へと引き下ろし、次いで、ノズルを介して流体を上方へと押し上げることでこのようなリザーバーの底部からパルスジェットを発生させ、該リザーバー内で流体を混合するのに用いうる、リザーバーの下方に作製される小型のノズル構造を含むことができる。これは、反応混合物の「フラッフィング」に用いることができる。このようなフラッフィングを用いて、例えば、試薬リザーバー内において、より大きな容量および異なる粘稠度の溶液を混合することができる。
【0202】
一実施形態において、フラッフィングは、マイクロ流体デバイス上のリザーバー下方の大型ダイアフラムを用い、リザーバー底部のノズルを介して流体を反転送出することで固有の混合流動パターンを提供することにより達成することができる。一実施形態では、ノズルおよびリザーバーにより創出される流動方式をミキサーとして用いることができる(図17)。デバイス上にはダイアフラムが装備される。このダイアフラムには、流動チャネルおよび貫通ポートが取り付けられる。貫通孔の上部には、リザーバーが装備される。ダイアフラムが作動し、リザーバーが十分に満たされているときは、流体のジェットがリザーバー内に含有される流体を上方へと貫通する。ダイアフラムが格納されているときは、流体が該ポートを介してリザーバーから下方へと吸引される。次いで、ダイアフラムが反転されるときは、流体ジェットがリザーバー内へと大量に流入するものの、その後の逆流により流体はリザーバー底部から引き戻される。これにより、混合の有効な手段が与えられる。
【0203】
5.8 多重ヒーターの条件付き同期化
1つの測定器を用いるコンポーネントサブシステムを共有する多重マイクロ流体デバイスを作動させるために、多重ヒーターを用いることができる。そのすべてがコンポーネントサブシステムを共有する多重マイクロ流体デバイスを作動させる場合、すべてのデバイスが同時にサイクリングを終了することが望ましい。これを実行するためには、熱サイクリングを同期させなければならない。一実施形態において、これは、温度設定点をセンサーからの温度測定値と比較する制御ソフトウェアにおける条件付き論理文を用いて達成することができる。
【0204】
各ヒーターは、他のヒーターと同じである場合もあり、同じでない場合もある、特定の温度に設定することができる。次いで、使用者は、所望の条件が満たされるまでは制御ソフトウェアにループを実行させる条件文を容易に作成することができる。このループは、単純な時間の遅延、またはヒーター温度が設定点まで移動する間に実行すべき他のコマンドを含有しうる。該条件が満たされると、プログラムが続行され、次のコマンドが実行される。
【0205】
5.9 マイクロ流体デバイスへの対流熱伝導
本発明のマイクロ流体システムの特定の実施形態において、デバイスは、取り外し可能であり、ディスポーザブルである。これらの実施形態では、加熱エレメントがデバイスに直接には接触しない加熱システムを用いることができる。これにより、デバイス/マニホールド間の接触面が簡素化される。デバイスから加熱エレメントが除去される場合も、やはり、必要とされる領域に熱を伝導させなければならない。強制対流を用いることにより、加工されたチャネルまたはチューブを介して、オフチップのヒーターからデバイスの所与の領域へと熱を伝導させることができる。ヒーターおよび該接触面の両方に対する設計上の制約が簡素化される。
【0206】
抵抗エレメントをチューブ内に配置し、流体にこのチューブ内を流動させることにより、流体を加熱することができる。温度感知エレメントを流体蒸気中に配置することで、温度を測定し、この値を制御システムにフィードバックする。次いで、チャネルおよびポートを介して、加熱された流体を、加熱を要するデバイスの領域へと送ることができる。
【0207】
5.10 誘導加熱
本発明の別の実施形態では、デバイス上における加熱操作(例えば、PCR熱サイクリングまたはRDB)に、誘導ヒーターを用いることができる。この適用における誘導ヒーターの大きな利点は、加熱の局在化、熱伝導の効率、およびマイクロ流体デバイスへの直接の接続の欠如(すなわち、マイクロ流体デバイスへの電気的接触が不要である)である。
【0208】
5.11 空気圧冷却
NA増幅反応時において、熱サイクリングに用いられるヒーターは迅速に冷却されなければならない。冷却は、当技術分野で知られる任意の対流冷却エレメントまたは空気圧冷却エレメントにより達成することができる。例えば、小型の通気ポンプ出力からのチューブを用いて、ヒーターを冷却することができる。PCR操作温度は50〜100℃なので、空気圧冷却は、25℃の室温で作用する。加熱エレメントと、ヒーターと接触する空気との間の温度差が大きいほど、該エレメントは迅速に冷却される。ヒートシンクまたは熱電式冷却器をシステムに接続することにより、その効果を増大させることができる。
【0209】
5.12 核酸
特定の実施形態において、本発明は、対象の核酸分子(本明細書ではまた、「対象核酸」、「標的核酸」、「標的ポリヌクレオチド」とも称する)を増幅および/または単離する方法を提供する。単離核酸分子(または「単離核酸」)とは、該核酸分子の天然の供給源に存在する他の核酸分子から分離された核酸分子(または「核酸」)である。「単離」核酸は、該核酸がそこに由来する生物のゲノムDNA内において、該核酸に天然の形で隣接する核酸配列(すなわち、該核酸の5’端および3’端に位置する配列)(例えば、タンパク質をコードする配列)を含有しない。他の実施形態において、単離核酸は、イントロン配列を含有しない。
【0210】
「対象核酸」、「標的核酸」、「標的ポリヌクレオチド」とは、特定の対象ポリヌクレオチド配列の分子を指す。本発明の方法により解析しうる対象核酸は、ゲノムDNA分子、cDNA分子、およびオリゴヌクレオチド、発現配列タグ(「EST」)、配列タグ部位(「STS」)などを含むこれらのフラグメントなどのDNA分子を含むがこれらに限定されない。本発明の方法により解析しうる対象核酸はまた、メッセンジャーRNA(mRNA)分子、リボソームRNA(rRNA)分子、cRNA(すなわち、in vivoで転写される、cDNA分子から調製されるRNA分子)などであるがこれらに決して限定されないRNA分子も含む。各種の実施形態において、単離核酸分子は、該核酸がそこに由来する細胞のゲノムDNA内において、該核酸分子に天然の形で隣接する核酸配列の約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kb、または0.1kb未満を含有しうる。さらに、cDNA分子などの単離核酸分子は、他の細胞物質、組換え法により作製される場合の培地、または化学的に合成される場合の化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含有しないことが可能である。
【0211】
対象核酸は、DNAもしくはRNAまたはそのキメラ混合物もしくは誘導体もしくは修飾形でありうる。核酸は、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格において修飾可能であり、他の付属の基または標識を含みうる。
【0212】
例えば、一部の実施形態において、核酸は、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、ベータ−D−ガラクトシルキュエオシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、ベータ−D−マンノシルキュエオシン、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、シュードウラシル、キュエオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6−ジアミノプリンを含むがこれらに限定されない群から選択される、少なくとも1つの修飾塩基部分を含みうる。
【0213】
別の実施形態において、核酸は、アラビノース、2−フルオロアラビノース、キシルロース、およびヘキソースを含むがこれらに限定されない群から選択される、少なくとも1つの修飾糖部分を含みうる。
【0214】
さらに別の実施形態において、核酸は、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミドチオエート、ホスホルアミデート、ホスホルジアミデート、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステル、およびホルムアセタール、またはこれらの類似体を含むがこれらに限定されない群から選択される、少なくとも1つの修飾リン酸骨格を含みうる。
【0215】
プライマー、プローブ、または鋳型として用いられる核酸は、市販品を購入することもでき、当技術分野で知られる標準的な方法により、例えば、自動DNA合成器(カリフォルニア州、ナバト、Biosearch Technologies社;カリフォルニア州、フォスターシティー、Applied Biosystems社から市販される合成器など)および標準的なホスホルアミド化学反応の使用によるか、または非特異的な核酸切断用の化学物質もしくは酵素または部位特異的な制限エンドヌクレアーゼを用いるより大型の核酸フラグメントの切断により誘導することもできる。
【0216】
1つの動物種に由来する対象核酸の配列が知られ、別の動物種に由来する対応の遺伝子が所望される場合、当技術分野では、既知の配列に基づいてプローブを設計することが日常的である。該プローブは、それに由来する配列が所望される動物種に由来する核酸にハイブリダイズし、これは、例えば、対象動物種に由来するゲノムライブラリーまたはDNAライブラリーに由来する核酸に対するハイブリダイゼーションである。
【0217】
一実施形態では、増幅されて単離された対象核酸と相補的であるか、または中程度に厳密な条件下でこれとハイブリダイズ可能な核酸分子が、プローブとして用いられる。
【0218】
別の実施形態では、増幅された対象核酸と中程度に厳密な条件下でハイブリダイズするか、またはこれと少なくとも95%相補的な核酸分子が、プローブとして用いられる。
【0219】
別の実施形態では、対象のヌクレオチド配列またはその相補体と少なくとも45%(または55%、65%、75%、85%、95%、98%、もしくは99%)同一な核酸分子が、プローブとして用いられる。
【0220】
別の実施形態では、対象核酸またはその相補体のうち、少なくとも25(50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、500、550、600、650、700、800、900、1000、1200、1400、1600、1800、2000、2400、2600、2800、3000、3200、3400、3600、3800、または4000)ヌクレオチドのフラグメントを含む核酸分子が、プローブとして用いられる。
【0221】
別の実施形態では、対象のヌクレオチド配列を有する増幅された核酸分子またはその相補体と中程度に厳密な条件下でハイブリダイズする核酸分子が、プローブとして用いられる。他の実施形態では、少なくとも25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、500、550、600、650、700、800、900、1000、1200、1400、1600、1800、2000、2200、2400、2600、2800、3000、3200、3400、3600、3800、または4000ヌクレオチドの長さでありえ、対象の増幅された核酸分子またはその相補体と中程度に厳密な条件下でハイブリダイズしうる核酸分子が、プローブとして用いられる。
【0222】
増幅された対象核酸を検出するためのプローブ(または鋳型)として用いうる核酸は、当技術分野で知られる任意の方法により、例えば、プラスミドから、対象ヌクレオチド配列の3’端および5’とハイブリダイズ可能な合成プライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、かつ/または該ヌクレオチド配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いるcDNAライブラリーもしくはゲノムライブラリーからクローニングすることにより得ることができる。ゲノムクローンは、適切なハイブリダイゼーション条件下、例えば、プローブされるゲノムDNAに対するプローブの類縁性に応じて、高度に厳密な条件下、低度に厳密な条件下、または中程度に厳密な条件下において、ゲノムDNAライブラリーをプローブすることにより同定することができる。例えば、対象のヌクレオチド配列に対するプローブとゲノムDNAとが同じ動物種に由来する場合は高度に厳密なハイブリダイゼーション条件を用いることができるが、該プローブとゲノムDNAとが異なる動物種に由来する場合は低度に厳密なハイブリダイゼーション条件を用いることができる。高度、低度、および中程度に厳密な条件は、当技術分野でよく知られている。
【0223】
増幅された対象核酸は、当技術分野で知られる標準的な方法を用いて、検出可能な形で標識することができる。
【0224】
検出可能な標識は、例えば、ヌクレオチド類似体の組込みによる蛍光標識でありうる。本発明での使用に適する他の標識は、ビオチン、イミノビオチン、抗原、補因子、ジニトロフェノール、リポ酸、オレフィン化合物、検出可能なポリペプチド、電子に富む分子、基質上における作用により検出可能なシグナルを発生させることが可能な酵素、および放射性同位体を含むがこれらに限定されない。好ましい放射性同位体は、少数を挙げれば、32P、35S、14C、15N、および125Iを含む。本発明に適する蛍光分子は、フルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、テキサスレッド、5’−カルボキシ−フルオレセイン(「FMA」)、2’,7’−ジメトキシ−4’,5’−ジクロロ−6−カルボキシ−フルオレセイン(「JOE」)、N,N,N’,N’−テトラメチル−6−カルボキシ−ローダミン(「TAMRA」)、6’−カルボキシ−X−ローダミン(「ROX」)、HEX、TET、IRD40、およびIRD41を含むがこれらに限定されない。本発明に適する蛍光分子は、Cy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、およびFluorXを含むがこれらに限定されないシアミン色素;BODIPY−FL、BODIPY−TR、BODIPY−TMR、BODIPY−630/650、およびBODIPY−650/670を含むがこれらに限定されないBODIPY色素;ならびにALEXA−488、ALEXA−532、ALEXA−546、ALEXA−568、およびALEXA−594を含むがこれらに限定されないALEXA色素のほか;当業者に知られる他の蛍光色素をさらに含む。本発明に適する、電子に富む指示分子は、アフェリチン、ヘモシアニン、および金コロイドを含むがこれらに限定されない。代替的に、増幅された対象核酸(標的ポリヌクレオチド)は、第1の基をそれに対して特異的に複合体化させることに標識することができる。指示分子に共有結合し、第1の基に対する親和性を有する第二の基を用いて、標的ポリヌクレオチドを間接的に検出することができる。このような実施形態において、第1の基としての使用に適する化合物は、ビオチンおよびイミノビオチンを含むがこれらに限定されない。
【0225】
1種または複数種のプローブと相補的な配列を有するポリヌクレオチド分子が該プローブにハイブリダイズする条件下で、本発明の方法により増幅および解析される(例えば、検出される)対象核酸を、該プローブに接触させることができる。本明細書で用いられる「プローブ」とは、該プローブに対する標的ポリヌクレオチド分子のハイブリダイゼーションが検出されるように、特定の配列(一般には、プローブ配列に相補的な配列)を有する対象の核酸分子がそれに対してハイブリダイズすることが可能な、特定の配列のポリヌクレオチド分子を指す。プローブのポリヌクレオチド配列は、例えば、DNA配列、RNA配列、またはDNAおよびRNAのコポリマー配列でありうる。例えば、プローブのポリヌクレオチド配列は、細胞から抽出されたゲノムDNA配列、cDNA配列、mRNA配列、またはcRNA配列の完全であるかまたは部分的な配列でありうる。プローブのポリヌクレオチド配列はまた、例えば、当業者に知られるオリゴヌクレオチド合成法によっても合成することができる。プローブ配列はまた、in vivoで酵素的に、in vitroで酵素的に(例えば、PCRにより)、またはin vitroで非酵素的に合成することもできる。
【0226】
本発明の方法において用いられるプローブは、該1種または複数種のプローブおよびこれらに結合するかまたはハイブリダイズした任意のポリヌクレオチド配列を除去することなく、該1種または複数種のプローブにハイブリダイズしないかまたは結合しないポリヌクレオチド配列を洗浄して除去することができるよう、固体の支持体または表面に固定化されることが好ましい。プローブを固体の支持体または表面に固定化する方法は、当技術分野でよく知られている。具体的な一実施形態において、プローブは、ガラス表面、またはナイロン膜もしくはニトロセルロース膜など、固体(または半固体)の支持体または表面に結合した、異なるポリヌクレオチド配列のアレイを含む。該アレイは、該支持体または表面上におけるその位置から特定のプローブの実体を決定しうるように、異なる各プローブが該支持体または表面上における既知の特定の位置に配置される、アドレス可能なアレイである。特定の実施形態では、第6.10節に記載の方法を用いて、固体の支持体または表面に核酸プローブを固定化することができる。
【0227】
本発明で用いられるプローブは任意の種類のポリヌクレオチドを含みうるが、好ましい実施形態において、プローブは、オリゴヌクレオチド配列(すなわち、約4〜約200塩基の長さであり、より好ましくは、約15〜約150塩基の長さであるポリヌクレオチド配列)を含む。一実施形態では、約4〜約40塩基の長さであり、より好ましくは、約15〜約30塩基の長さの、より短いオリゴヌクレオチド配列が用いられる。しかし、本発明のより好ましい実施形態では、約40〜約80塩基の長さの、より長いオリゴヌクレオチドプローブが用いられ、約50〜約70塩基の長さのオリゴヌクレオチド配列(例えば、約60塩基の長さのオリゴヌクレオチド配列)が特に好ましい。
【0228】
5.13 キット
さらなる態様において、本発明は、以下:コントローラ、視覚化装置もしくは検出装置、1種もしくは複数種の核酸プライマー、試料調合液、核酸増幅試薬および/または核酸検出試薬もしくは核酸解析試薬、緩衝液、ならびに洗浄剤、あるいはデバイスの使用説明書の1つまたは複数を伴う、本発明のマイクロ流体デバイスを、1つまたは複数の容器内において含みうる。容器内の試薬は、任意の形態、例えば、乾燥凍結形態、または溶液形態(例えば、蒸留水または緩衝液)などでありうる。キットは、本発明の方法に従い、対象分子の検出または測定に用いることができる。キットはまた、対象分子の作製または合成にも用いることができる。
【0229】
キットの一部としてまたはキットの付属品として、コントローラもまた提供することができる。コントローラは、アッセイごとのベースで購入される1つまたは複数のキットと共に用いるために、使用者により既に(前もって)購入されていることが典型的である。
【0230】
以下の実施例は、例示を目的として示されるものであり、限定を目的とするものではない。
【実施例1】
【0231】
6.実施例
6.1 3つの機能領域を有するマイクロ流体デバイスの実施形態
本実施例では、試料調製領域、核酸増幅領域、および増幅産物アッセイを実行するための領域である核酸解析領域の3つの機能領域を有するマイクロ流体デバイス(「チップ」)の実施形態(図1〜7)、ならびに該デバイスを用いる例示的な方法について説明する。
【0232】
図2は、図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての等尺分解図であり、弁配置図を示す。
【0233】
図3Aは、図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、試料調製領域(「核酸(NA)抽出領域」)、核酸増幅領域(この実施形態では、「PCR領域」)、および核酸解析領域(「RDB領域」)を示す。また、デバイス上における弁、マイクロ流体チャネル、貫通孔、および低密度DNAフィルターも示される。この実施形態では、核酸解析領域において、リバースドットブロット(RDB)評価項目検出アッセイを実施することができる。「廃棄物」:廃棄物リザーバー。
【0234】
図3Bは、図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、試料調製領域101、核酸増幅領域102(核酸増幅リアクター112を含む)、および核酸解析領域103、ならびにデバイス上における弁、マイクロ流体チャネル、および貫通孔を示す。解析領域リザーバー113。
【0235】
図4は、図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての機能配置図であり、各種のリザーバーと関連する機能およびリザーバー(例えば、試薬)を示す。W1:洗浄緩衝液1。W2:洗浄緩衝液2。HB:ハイブリダイゼーション緩衝液。CB:コンジュゲーション緩衝液。Sub:基質緩衝液。
【0236】
図5〜7は、図1に記載のマイクロ流体デバイスの操作の進行を示す略図である。点線は、試料がデバイスにより処理されるときの試料の流動を示す。図5では、室温で5〜10分間にわたり、R1〜R2において複数回送入送出することにより、細胞を緩衝液ALおよびプロテイナーゼKと混合する。R2〜R3において複数回送入送出することにより、R2の内容物をエタノールと混合する。混合された試料は、送出によりR3から核酸抽出媒体を介して廃棄物リザーバーへと移送される。AW1およびAW2は、送出により核酸抽出媒体を介して廃棄物リザーバーへと移送される。核酸抽出媒体は、5〜10分間にわたり通気ポンプを作動させ、核酸抽出媒体を介して送気または吸気することにより乾燥させる。
【0237】
図6では、核酸抽出媒体を介して溶出緩衝液をリザーバーNA1へと送出することにより、核酸(例えば、DNAまたはRNA)をリザーバーNA1へと溶出させる。R8およびR7からR9へと交互に送出することにより、増幅混合物を溶出された核酸と混合する。増幅混合物を核酸と共に熱サイクルリアクターへと送出し、そこで、核酸増幅反応を実施する。
【0238】
図7では、150μlのハイブリダイゼーション緩衝液を核酸解析(例えば、リバースドットブロットまたはRDB)リザーバーへと送出する。5分間にわたりインキュベーションを実施する。95℃で5分間にわたり、約8〜10μlの増幅産物を熱変性させる。増幅産物を核酸解析(RDB)リザーバーへと送出する。弁32の反復的な開/閉操作である「フラッフィング」により溶液を混合する。5分間にわたり溶液をインキュベートし、その内容物を空けて廃棄する。150μlの緩衝液W2をリザーバーへと送出し、1.5分間にわたりインキュベートし、これを除去して廃棄することにより、2回にわたって膜を洗浄する。150μlのコンジュゲーション緩衝液を核酸解析(RDB)リザーバーへと送出する。弁32の反復的な開/閉操作により溶液を混合する。3分間にわたり溶液をインキュベートし、該リザーバー内容物を廃棄物リザーバーへと空ける。150μlの緩衝液W1を該リザーバーへと送出し、1分間にわたりインキュベートし、該緩衝液を除去して廃棄することにより、4〜5回にわたって膜を洗浄する。100μlの基質を該リザーバーへと送出し、5〜10分間にわたりインキュベートし、該リザーバー内容物を廃棄物リザーバーへと空ける。150μlの緩衝液W2をリザーバーへと送出し、1.5分間にわたりインキュベートし、該緩衝液を廃棄物リザーバーへと除去することにより、2回にわたって膜を洗浄する。
【実施例2】
【0239】
6.2 2つの機能領域を有するマイクロ流体デバイスの実施形態
本実施例では、2つの機能領域を有するマイクロ流体デバイス(「チップ」)の別の実施形態(図8〜11)、およびそれを用いる方法について説明する。
【0240】
図8は、試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有するマイクロ流体デバイスの別の実施形態を示す。矢印で示す通り、試料調製領域は、試料の投入および調製、試料の精製、ならびに核酸の抽出のためのリザーバーを含む。核酸増幅領域は、核酸増幅リアクター(「増幅チャンバー」)を含む。デバイスのこの実施形態はまた、核酸増幅の完了後においてマイクロ流体デバイスから単位複製配列が抽出される領域である、核酸増幅産物抽出領域(「増幅産物抽出領域」)も含む。デバイスのこの具体的な実施形態は、50×38mmの寸法を有する。
【0241】
図9は、図8に記載のマイクロ流体デバイスの等尺分解図であり、その3つの層(明確さを目的として、デバイスは、膜なしで示されている)を示す。
【0242】
図10は、図8に記載のマイクロ流体デバイスの上面図であり、デバイスのリザーバー、チャネル、弁、およびポンプの配置図を示す。
【0243】
図11は、図8に記載のマイクロ流体デバイスの別の上面図であり、デバイスのポンプ、弁、およびチャネルの配置図を示す。
【0244】
マイクロ流体デバイスのこの実施形態において、リザーバーは、以下(図11):
「細胞」:懸濁細胞およびプロテイナーゼK
「ミキサー」:緩衝液AL
「エタノール」:エタノール
「AW1」:洗浄緩衝液AW1
「AW2」:洗浄緩衝液AW2
「溶出」:溶出緩衝液AE
「NA1」:核酸リザーバー1
「NA2」:核酸リザーバー2
「増幅マスター混合物」:増幅試薬リザーバー
「単位複製配列流出1」:増幅流出リザーバー1
「単位複製配列流出2」:増幅流出リザーバー2
「増幅リアクター」
の通りである。
【0245】
図11に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態の操作時における試料調製の進行例は以下:
1.10〜15分間にわたる、循環による細胞溶解
2.エタノールとの混合
3.細胞溶解液をSi膜へと移送する/廃棄する
4.AW1およびAW2をSi膜へと移送する/廃棄する
5.5〜10分間にわたり真空ポンプを作動させ、乾燥させる
6.溶出1および2
7.PCRマスターとの混合
8.PCRリアクターの充填
9.PCR反応
10.PCR産物の放出
の通りである。
【実施例3】
【0246】
6.3 2つの機能領域を有するマイクロ流体デバイスの実施形態
本実施例では、試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有するが、オンチップの核酸解析領域は有さないマイクロ流体デバイス(「チップ」)の別の実施形態(図12〜16)について説明する。
【0247】
デバイスは、50×38mmの本体寸法を有し、米国特許出願第2006/0078470A1号に記載の弱溶剤接着法により接着された3つのサンドイッチ層を含む。デバイスは、デバイスの上面に配置され、各弁および流体チャネルネットワークと流体連結される、複数のリザーバーをさらに含む。デバイスはまた、機能的な流体ネットワークの一部を形成する核酸増幅リアクターも含む。
【0248】
図13は、図12に示すマイクロ流体デバイスの実施形態の配置を示し、二方向ポンプの3つの群:試料調製用ポンプ、PCR試薬調製用ポンプ、および充填用ポンプを図示する。流体は、同じポンプダイアフラムを共有するリザーバー間で移送されうる。核酸増幅領域に隣接する、円で囲われた「2」および「3」のリザーバー群は、該増幅領域と流体的に相互連結されたリザーバー群である。円で囲われた「1」のリザーバー群は、試料調製領域内のリザーバーである。この実施形態によれば、3群のポンプが存在する。流体は、同じポンプダイアフラムを共有するリザーバー間で移送されうる。この実施形態では、第1群におけるポンプのうちの7つ、第2群におけるポンプのうちの3つ、および第3群におけるポンプのうちの2つが用いられる。この実施形態において、ポンプは二方向である。複数の供給源リザーバーを1つの目的リザーバーに組み合わせて、より良好な混合効果を同時にもたらすことができる。
【0249】
この実施形態に基づく方法の一例(図14)では、リザーバーR1内において室温で5〜10分間にわたり、細胞溶解緩衝液およびプロテイナーゼKと共に細胞をインキュベートする。R1およびR2をR3へと交互に送出することにより、細胞溶解混合物を、リザーバーR2からのEtOH/DNA結合緩衝液と混合する。混合された試料を、リザーバーR3からフィルターリザーバーへと移送し、該溶液を、該リザーバーの底部に位置する精製膜(例えば、シリカ膜)を介して吸引する。
【0250】
フィルターと結合したDNAを洗浄緩衝液1により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する(図15)。次いで、結合したDNAを洗浄緩衝液2により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。数分間にわたり通気ポンプを作動させて、膜を乾燥させる。溶出緩衝液をフィルターリザーバーへと送出し、インキュベートし、核酸リザーバーNA1へと溶出させる。この段階で、一部のDNAをベンチトップでの実行用にアリコートすることができ、残りはオンチップでの実行用に用いる。
【0251】
DNA鋳型を「NA1」から「核酸増幅混合物」へと移送し、混合する(図16)。DNA鋳型と共に核酸増幅マスター混合物をリアクターへと吸引し、そこで、熱サイクリングプロトコールを実施する。核酸増幅産物を該産物リザーバーへと送出する。この段階で、一部のDNAをベンチトップでの実行用にアリコートすることができ、残りはオンチップでの実行用に用いる。
【実施例4】
【0252】
6.4 マイクロ流体デバイスを用いる全RNAの増幅
この実施例では、図8〜11に示すマイクロ流体デバイスの実施形態を用いて、HEK 293T細胞から生成される全RNAの増幅結果を説明する。全RNAは、以下のプロトコールを用いてオンチップで調製し、ゲル電気泳動により解析した:
【0253】
0.1N NaOHをチップの全チャンバー内に通し、複数回反復した。
【0254】
水を全チャンバー内に送出することにより、多量の水でチップをすすぎ、通気乾燥させ、カラムを組み立てた。
【0255】
日常的な方法を用いて試験管2本分のHEK 293T細胞を融解させ、遠心分離し、上清を除去した。
【0256】
600μlのRLT/Bme(20μl Bmeを伴う2.0ml RLT調製液)を各ペレットに添加し、再懸濁させ、ペレットを混合した。
【0257】
標準的な方法を用いて、再懸濁したペレットをQuiashredderカラム(2連による実行)内に通すことによりこれをホモジナイズした。
【0258】
RLT−Bmeにより容量を1.5mlまで上昇させ、5mlの培養試験管に移した。
【0259】
該試験管に1.5mlの70%EtOHを添加し、反転させることにより混合した。
【0260】
200μlずつの3アリコートを取り出し、個別の試験管に入れた。
【0261】
これらの試験管に、500μlの1:1 RLT/Bme:70%EtOHを添加し、よく混合した。これらの試験管は、図13の試料1〜3に対応する(Qiagen対照)。
【0262】
試料1〜3および10のための標準的なオフチップカラムプロトコール(Quiagen社製RNeasy Miniキット、型番74107)に従った。RNAを30μlの水中に溶出させた(あらかじめの加熱なし)。
【0263】
試料1〜3で用いられなかった元の試料の残りの容量のうち200μlを、ピペッティングにより個別のオンチップ試料注入カラムに直接投入し、ポンプを用いてカラム中に吸引し廃棄した。残りの試料容量を試料1〜3と共にオフチップで処理し、試料10(Qiagen対照)と名付けた。
【0264】
22μlずつのRW1により2回にわたり、オンチップのカラムを洗浄した。
【0265】
22μlずつのRPEにより4回にわたり、オンチップのカラムを洗浄した。
【0266】
約20分間にわたり、カラムを乾燥させた。
【0267】
カラムの乾燥後、30μlの室温水をチップ試料4〜6に添加(カラムに直接ピペッティングすることにより)し、10分間にわたり試料をインキュベートした。オンチップの送出を用いて、純粋なRNAを回収した。
【0268】
30μlの加熱水をチップ試料7〜9に添加(カラムに直接ピペッティングすることにより)し、10分間にわたり試料をインキュベートした。オンチップの送出を用いて、純粋なRNAを回収した。
【0269】
送出時において、別の10μl室温水を各カラムに添加した。
【0270】
純粋なRNAを1.5mlの試験管に移し、これにチップからの喪失容量に当たる、別の20μlの水を添加した。
【0271】
260〜280nm;全200μlの水のうち5μl(40倍の希釈率)における吸光度を読み取った。
【0272】
標準的なアガロースゲル電気泳動;1%アガロース/TAEゲル;100ボルト、30分間を用いることにより、5μlの各試料を解析した。
【0273】
図18で見られる通り、オンチップのRNA調製により、標準的なQuiagen法(RNeasy Miniキット、型番74107)と比較して同等の量/質のRNAがもたらされた。また、この実験により、オンチップによる核酸調製時において高粘稠度の材料を扱う際、オンチップのダイアフラムポンプが円滑に作動することも確認された。
【0274】
図19は、図8〜11に示されるマイクロ流体デバイス(「チップ」)上で実行されたRT−PCR増幅の結果を示す。Invitrogen社製SuperScript(商標)One−Step RT−PCRを、Platinum(登録商標)Taqシステムと共に、核酸増幅領域内で実行されるPCRに用いた。上記で説明される通り、HEK 293T細胞から生成される全RNAをオンチップで調製し、鋳型RNAに用いた。β−アクチンを認識するプライマーを用いてcDNAを作製し、PCR(RT−PCR)によりアクチンcDNAを増幅した。順方向プライマーは、ACG TTG CTA TCC AGG CTG TGC TAT[配列番号1](エクソン3内に存在する)であった。逆方向プライマーは、ACT CCT GCT TGC TGA TCC ACA TCT[配列番号2](エクソン5内に存在する)であった。予測された産物、すなわち687コピーのcDNA単位複製配列が得られた。
【0275】
RNAは、HEK 293T細胞から作製した。ベータ−アクチンを認識するプライマーを用いてcDNA産物を作製し、PCRによりアクチンのcDNAを増幅した(図19)。レーン1:DNA標準物質;レーン2:オンチップで実行されたRT−PCRからの単位複製配列産物;レーン3:投入RNA(1μl)。
【0276】
図20は、示される通り、熱サイクルおよび試行時間を変化させる場合における、8回のPCR試行に対するオンチップでの再現性を示す。
【0277】
図21は、マイクロ流体デバイスと従来のベンチトップでのPCRプラットフォームとの間における結果の比較を示す。30回に及ぶ熱サイクルにおける5000プラスミドコピーの場合、ベンチトップ試行の場合の1.75時間と比較して、1時間でオンチップの結果が得られた。
【0278】
図22は、この実験において、マイクロ流体デバイスと連結して用いられたPCR熱サイクラーによる典型的なサイクルを示す。下図のグラフは、上図のグラフ内で示される最初の4サイクルのうちの複数の拡大図である。
【0279】
図23は、マイクロ流体デバイス上で実行されるRT−PCRプロトコールの結果を示す。略述すると、以下のベンチトップ(bt)プロトコールおよびオンチッププロトコールを用いて、HIV RNAを単離した。ベンチトップおよびオンチップのRNA単離には、20,000コピー(Bt1)および2,500コピー(Bt2)のArmored RNAを用いた。ベンチトップでの溶出量は50μlであった;理論的な100%収率はRNA400コピー/μlである。オンチップでの溶出量は20μlであった;理論的な100%収率はRNA125コピー/μlである。RT−PCRには、1mlの溶出量を用いた。
【0280】
逆転写物を用いて、50℃で30分間の後、95℃で15分間にわたり、当技術分野で知られる標準的なRT−PCRプロトコールを実行し、次いで、95℃における45秒間、次いで、58℃で45秒間、および72℃で60秒間を用いる40サイクルにわたりPCRプロトコールを実行した。単離収率は、RT−PCR後におけるゲル画像から推測した。
【0281】
図23に示す通り、オンチップでの試行から得られたRNAにより、Quiagen RNAEasyキットを用いる同一の実験条件下においてベンチトップで実施された同じプロトコールの場合と少なくとも同等量のRNAがもたらされた。レーン1:分子量の標準物質。レーン2:Bt1−RNA。レーン3:Bt2−RNA。レーン4:チップ−RNA。
【実施例5】
【0282】
6.5 マイクロ流体デバイスを用いてPCR産物を検出する方法
以下のデータは、使用者がマイクロ流体デバイスを用いて、実質的に介入することなく、迅速かつ容易にPCRを実施しうることを示す。細胞の溶解、DNAまたはRNAの抽出および精製、ならびに核酸に対するPCRおよびRT−PCRを含むすべての必要なステップを、単一のマイクロ流体デバイスシステム上で達成することができる。さらに、PCRによる単位複製配列の変性、およびリバースドットブロット(RDB)解析による、オリゴヌクレオチドプローブのアレイ上におけるハイブリダイゼーションを介するPCR産物の検出が可能なシステムもまた設計されている。
【0283】
本実施例で用いられるマイクロ流体デバイスの実施形態は、2つの機能領域を有した。実際には図8〜11に示す実施形態を用いたが、図12〜16に示すマイクロ流体デバイスもまた用いることが可能であった。マイクロ流体デバイスは、特許権のある工程により組み立てられて積層されると、ポンプ、弁、マイクロ流体チャネル、試薬リザーバー、DNA/RNA抽出/精製部材、および熱サイクリング能力を創出する、廉価なポリスチレンベースの3層型積層システムを有した。加えて、該システムの設計は、細胞溶解など特定のアッセイステップに極めて有用な流体の二方向流動を可能とする。最後に、マイクロ流体デバイスとコントローラとの間において流体の接触は存在せず、したがって、汚染の可能性が低減される。
【0284】
各種のマイクロチャネル、ポンプ、および弁の構成は容易に変更可能であり、マイクロ流体デバイスのフォーマットは、広範囲の検体の解析を可能とするのに十分な多目的フォーマットである。図12〜16に示す実施形態(図8〜11における実施形態もまた用いうるが)を参照して略述すると、試料は、マイクロ流体デバイスシステム上における核酸増幅解析を受けながら、以下のステップ全体を進行する(図14〜16)。
1.生の臨床試料を、細胞溶解緩衝液およびプロテイナーゼKを含有するリザーバーR1に導入する。
2.R1およびR3をリザーバーR2へと交互に送出することにより、R1の内容物を、リザーバーR3内に含有されるエタノールおよび核酸結合緩衝液と混合させる。
3.混合された試料(ここではR2内)をフィルターリザーバー(「フィルターRes」)へと移送し、該リザーバーの底部に位置するシリカ膜を介して吸引し、抽出された核酸をシリカへと結合させる。
4.シリカに結合した核酸を、「W1」内に含有される緩衝液により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。
5.シリカに結合した核酸を、「W2」内に含有される緩衝液により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。
6.通気ポンプを作動させて、シリカ膜を乾燥させる。
7.溶出緩衝液(リザーバーEluからの)をフィルターリザーバーへと送出し、インキュベート後、25μLの精製核酸を、リザーバーNA1へと溶出させる。
8.「NA1」からの精製核酸を核酸増幅混合物リザーバーへと移送し、1:9の比で鋳型を核酸増幅試薬と混合する(すなわち、プライマー対および他のすべての核酸増幅反応成分)。
9.核酸増幅マスター混合物および核酸鋳型を核酸増幅リアクターへと吸引する。
10.核酸増幅リアクター内において核酸増幅熱サイクリングを実行する。
11.最終核酸増幅産物を該産物リザーバー(「PCR Prod」)へと送出する。
【0285】
RNAの単離および精製
マイクロ流体デバイスにより、「ベンチトップ」法と同様の形で効率的にRNAを抽出および精製しうるかどうかを判定するため、いずれもQuiagen社によるRNeasyプロトコールを用いる、マイクロ流体デバイスおよびベンチトップ法を共に用いて、等量(500,000個)の細胞を抽出にかけることにより、ヒト胚腎細胞(HEK 293−T細胞)からRNAを単離した。2つのプロトコール各々の複数回の反復に対するアガロースゲル電気泳動により、マイクロ流体デバイスが、「ベンチトップ」法と同等に機能したことが示される(図18)。
【0286】
ベンチトップの熱サイクラーおよびマイクロ流体デバイスシステムを用いるPCRの比較
マイクロ流体デバイス上において有効な熱サイクリングを達成しうることを示すため、BioRad MJ Mini熱サイクラーまたはマイクロ流体デバイス内でコントローラ上に搭載されて用いられた熱サイクラーを用いる30サイクルにより、5×103コピーのプラスミド(prlpGL3)を増幅した。アガロースゲル電気泳動により見られる通り、いずれの場合においても適切な単位複製配列が得られたことは、マイクロ流体デバイスシステムにより、実質的に「手」作業を必要とすることなく、適正な単位複製配列を作製することが可能であったことを示す(図21)。
【0287】
マイクロ流体デバイスシステムの使用によるβ−サラセミアおよびHPVの検出
マイクロ流体デバイスによる熱サイクリングと並んで、核酸の抽出および精製の全般的条件が整備されると、生試料導入時における特定の遺伝子標的の検出が達成される。特定の原型的なマイクロ流体デバイスを構成して、どのくらい迅速に対象標的を検出しうるかを示すため、PCR解析により特定の対象標的を検出するのに生物学実験室で既に開発された、ベンチトッププロトコールを実施するマイクロ流体デバイスを開発した。マイクロ流体デバイスの重大な最適化なしに、当技術分野で知られる標準的なアッセイ条件およびプロトコールを用いて、必要とされるすべての調製ステップおよび解析ステップ(すなわち、細胞溶解、核酸抽出/精製、およびPCR増幅)を実施するシステム。
【0288】
この手法を用いて、各種の異なる臨床検体を解析した。例として述べると、マイクロ流体デバイスにヒト全血液(50μL)を導入し、試料リザーバーと溶解緩衝液リザーバーとの間における二方向流動により細胞を溶解させた。マイクロ流体デバイス上におけるシリカ膜部材を介して、核酸を流動させた。
【0289】
最後に、30サイクルのPCR後において、ベンチトップの熱サイクラー(レーン4〜5)またはマイクロ流体デバイスシステム(レーン2〜3)を用いて並行的にPCR増幅された2つの同一の試料を、アガロースゲル上で解析した(図24)。
【0290】
さらに、1つの検体からレーン2および4を得る 一方で、第2の検体からレーン3および5を得た。ベンチトップのPCR反応により得られたより強いシグナルの場合におけるシグナル強度の見かけの乖離は、マイクロ流体デバイスで用いられた異なる出発材料量による可能性が極めて高い。ベンチトップPCR解析の出発量が200μLであるのに対して、マイクロ流体デバイスで用いられた量は50μLに過ぎなかった。より重要なことだが、PCR単位複製配列のいずれのセットも、実質的に同一であった。
【0291】
同様にして、L1遺伝子変性プライマーMY09/MY11を用いるヒトパピローマウイルス(HPV)の存在についてのPCR(Gravitt PE、Peyton CL、Apple RJ、Wheeler CM、「Genotyping of 27 human papillomavirus types by using LI consensus PCR products by a single−hybridization, reverse line blot detection method」、J Clin Miorobiol、1998年、第36巻、第10号、3020〜3027頁)により、膣内スワブを解析した。
【0292】
膣内スワブをPBS緩衝液に入れて撹拌後、ベンチトップPCR法またはマイクロ流体デバイスシステムを用いて、HPVの存在について上清を解析した。図25に示す通り、マイクロ流体デバイスシステムにより、ベンチトップ法を用いて得られる結果と基本的に同一の結果がもたらされた。
【0293】
3つの個別の膣内スワブをPBS中に懸濁させ、「ベンチトップ」(右図)による溶解、DNAの抽出/精製、およびPCRにかけるか、またはマイクロ流体デバイス(右図)内に導入してすべての機能を自動的に実施するだけであった。試料1、2、および3は、上記で説明した通りに2つのアリコートに分けて解析された、3つの個別試料を表す。
【0294】
ベンチトップ法の場合、まずウイルスDNAを単離および精製し、次いで、ベンチトップの熱サイクラーを用いてPCR増幅した。マイクロ流体デバイスシステムの場合、PBS上清を試料ウェルに添加し、すべての機能を自動的に実施する(ウイルス溶解、核酸の抽出/精製、およびPCRを含む)だけであった。
【0295】
ヒトパピローマウイルス(HPV)を検出するリバースドットブロット(RDB)モジュール(すなわち、核酸解析領域)を組込むマイクロ流体デバイスを用いた。膣内スワブからHPVを得、複数のHPV血清型を増幅しうるプライマー対を用いるPCR増幅にかけた。マイクロ流体デバイス上では、図27で図式的に説明されるプロトコールに従い、ビオチン化された単位複製配列を変性させ、血清型HPV−11、HPV−16、HPV−31、およびHPV−52に対する4×4アレイのプローブ上に流動させた。HPV−52(上図)およびHVP−11(下図)は、統合型マイクロ流体デバイスシステム内で適正に検出された(図26)。
【0296】
その有用性を調べるため、本発明者らは、各種の異なるHPV血清型(HPV 11、16、31、および52)を増幅しうるMY09/MY11変性プライマー(Peyton CL、Wheeler CM、「Identification of five novel human papillomavirus sequences in the New Mexico triethnic population」、J Infect Dis、1994年、第170巻、第5号、1089〜1092頁)により、膣内スワブ試料を増幅した。両プライマーをそれらの5’端でビオチン化し、二本鎖ビオチン化単位複製配列を作製した。RDBモジュールを構成してPCR単位複製配列を変性させ、該単位複製配列がそれらの各捕捉プローブとハイブリダイズしたドットブロットアレイ(ミシガン州、アンアーバー、Pall Life Science社製、Immunodyne C)の表面上にそれらを流動させた。
【0297】
上記の試験に加え、本発明者らは、マイクロ流体デバイスシステムを用いて、血漿および唾液の両方におけるHIV−1を検出するのに成功し、「ベンチトップ」のRT−PCR法を用いて得られた結果と同等の結果を達成した。
【0298】
まとめると、これらの予備的データは、マイクロ流体デバイスを用いて、使いやすいフォーマットにおける臨床試料の完全自動化されたPCR解析またはRT−PCR解析を達成しうることを示す。
【実施例6】
【0299】
6.6 オンチップにおける大腸菌試料の処理
本実施例で用いられるマイクロ流体デバイスの実施形態は、2つの機能領域を有した(図12〜16)。大腸菌の非病原性菌株K12の誘導体であるDH5aを、オンチップにおける処理のための試料供給源として用いた。DH10bのゲノムに基づいて、プライマーを作製した。rrs遺伝子によりコードされる16SのリボソームRNA。「腸内細菌共通抗原」(ECA)は、wyzE遺伝子によりコードされる。用いられたプライマーは、16S_367(7本/ゲノム)およびECA_178(1本/ゲノム)であった(Bayardelle P.およびZahrullah M.(2002年)、「Development of oligonucleotide primers for the specific PCR−based detection of the most frequent Enterohacteriaceae species DNA using wec gene templates」、Can.J.Microhiol.、第48巻、113〜122頁を参照されたい)。
【0300】
図14〜16は、この実験で用いられるマイクロ流体デバイスの実施形態についての操作略図である。矢印は、デバイス上で処理された際の大腸菌試料の進行を示す。図14において:1.リザーバーR1内において室温で5〜10分間にわたり、細胞溶解緩衝液およびプロテイナーゼKと共に大腸菌をインキュベートした。2.次いで、R1およびR2を「R3」へと交互に送出することにより、試料をR2からのEtOH/DNA結合緩衝液と混合した。3.混合された試料を、R3リザーバーからフィルターリザーバーへと移送し、該溶液を、該リザーバーの底部に位置するシリカ膜を介して吸引した。
【0301】
図15において:4.結合したDNAを洗浄緩衝液1により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。5.次いで、結合したDNAを洗浄緩衝液2により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。6.次いで、数分間にわたり通気ポンプを作動させてシリカ膜を介して空気を引き込み、膜を乾燥させる。7.溶出緩衝液をフィルターリザーバーへと送出し、インキュベートし、「NA1」へと溶出させる。この段階で、一部のDNAをベンチトップでの実行用にアリコートすることができ、残りはオンチップでの実行用に用いる。
【0302】
図16において:8.DNA鋳型を「NA1」から「PCR混合物」へと移送し、混合する。9.DNA鋳型と共にPCRマスター混合物をPCRリアクターへと吸引する。10.PCR熱サイクリングを実行する。11.PCR産物を該産物リザーバーへと送出する。この段階で、一部のDNAをベンチトップでの実行用にアリコートすることができ、残りはオンチップでの実行用に用いる。
【0303】
PCR感度解析および吸光度試験を用いて「妥当な」(103個レベルの)大腸菌添加により自動化試行を実行する場合の成功率を決定することにより、自動化の信頼性および自動化の有効性を評価した。両方の設計を用いて、80〜90%の成功率が得られた。多くの市販のPCR産物に対し、約90%の成功率が典型的である。
【0304】
マイクロ流体デバイスから得られたNA抽出およびPCR結果をベンチトップの結果と比較することにより、自動化の有効性を評価した。
【0305】
2つの連鎖的なオンチップ操作:核酸(NA)抽出およびPCR増幅が実行された。大腸菌1000個/μlの試料20μlからのDNAでは、従来のUV分光光度計で検出不可能なUV吸光度が生じるため、低量の大腸菌添加時におけるNA抽出の直接的な比較は困難であった。
【0306】
図28は、アップルジュース中に添加された大腸菌1,000個を処理する2つのチップ間における比較を示す。該菌添加されたジュースをオンチップで調製してDNAを精製し、次いで、1μlずつの2アリコートを取り出し、ベンチトップ上で増幅し、精製された残りのDNAをオンチップで増幅した。示される通り、産物を取り出し、ゲル上で解析した。各チップによる産物のレーン1およびレーン2はベンチトップ上で増幅されたアリコートを表し、各場合におけるレーン3はオンチップにおける増幅産物を表す。
【0307】
PCRでは、ベンチトップPCRおよびオンチップPCRのいずれの試行に対してもオンチップで抽出されたDNAを用い、オンチップPCRの有効性を決定した。図29は、オンチップで抽出されたDNAを用いる、ベンチトップのPCR結果とオンチップのPCR結果との比較を示す。大腸菌の添加量は、5×103個/μl〜1×104個/μlの範囲であった。
【0308】
添加量が十分である場合、オンチップの結果およびベンチトップの結果は、ほぼ同等であった。
【実施例7】
【0309】
6.7 マイクロ流体デバイスを用いる食品マトリックス中における大腸菌の検出
本試験の主目的は、マイクロ流体デバイスの実施形態により、PCRベースのアッセイを用いて、アップルジュース、アップルサイダー、およびミルクなどの食品マトリックス中における大腸菌を検出する、すべての調製ステップおよび解析ステップを有効に実施しうると示すことであった。
【0310】
大腸菌株DH5αを培地内で増殖させ、用いられる各種のマトリックスに導入した。本試験では、2つの異なる遺伝子標的を用いた。細菌ファミリーおよび細菌種を通じて観察される、高度に保存された遺伝子である16s rRNA遺伝子(rrs遺伝子によりコードされる)と、腸内細菌科(Enterobacteriacea)ファミリーに共通の腸内細菌共通抗原ECA(wyzE遺伝子によりコードされる)とをPCR増幅した。該rRNA遺伝子およびECA遺伝子を検出するのに用いられたPCRプライマーは、それぞれ、367bpおよび178bpの単位複製配列を生成すると予測された。
【0311】
マイクロ流体デバイスの2つの個別の実施形態を評価し、細菌1000〜500,000個の範囲の添加濃度において3種の個別の大腸菌導入試料(アップルジュース、アップルサイダー、およびミルク)を評価した。最後に、この予備試験では、合計約100回のマイクロ流体デバイスの試行を実施した。
【0312】
結果
本試験では2つの異なる設計を評価したが、この実施例では、評価された設計の1つだけに焦点を絞る(図18〜21)。このマイクロ流体デバイスは、単一のマイクロ流体デバイス上における2つの機能領域を用いる。第1の領域は、すべての試料調製(すなわち、細胞溶解、DNA抽出/精製)を組込み、第2の領域は、PCR増幅用である。これらの領域内には、各種の機能を達成する3つのポンプ/弁群が配置されている。流体は、同じポンプダイアフラムを共有する各リザーバー間で移送されうる。加えて、複数の供給源リザーバーを単一の目的リザーバーに組み合わせて、有効な混合を達成することができ、これはまた、ポンプの二方向性によっても増強されうる。略述すると、以下のステップが実行された。
1.「R1」内において室温で5〜10分間にわたり、細胞溶解緩衝液およびプロテイナーゼKと共に20μLの大腸菌試料をインキュベートする。
2.R1およびR3を「R2」へと交互に送出することにより、R1を「R3」からのEtOH/DNA結合緩衝液と混合する。
3.混合された試料を、「R2」からフィルターリザーバーへと移送し、該溶液を、該リザーバーの底部に位置するシリカ膜を介して吸引し、抽出されたDNAをシリカに結合させる。
4.シリカと結合したDNAを「W1」内の洗浄緩衝液1により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。
5.シリカと結合したDNAを「W2」内の洗浄緩衝液2により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。
6.シリカ膜を乾燥させるため、数分間にわたり通気ポンプを作動させ、シリカ膜を介して空気を吸引させる。
7.(リザーバーEluからの)溶出緩衝液をフィルターリザーバーへと送出し、インキュベートし、25μlの精製DNAをリザーバーNA1へと溶出させる。
8.DNA鋳型をNA1リザーバーからPCR 混合物リザーバーへと移送し、1:9の比で鋳型をPCR試薬と混合する(すなわち、プライマー対および他のすべてのPCR反応成分)。
9.DNA鋳型と共にPCRマスター混合物をPCRリアクターへと吸引する。
10.PCRリアクター内においてPCR熱サイクリングを実行する。
11.PCR産物を該産物リザーバー(「PCR Prod」)へと送出する。
【0313】
この予備試行では約100回の個別アッセイを実施したが、本実施例では試行間で極めて再現性の高い代表的データを説明する。図28〜37に示すデータは、PBS緩衝液、アップルサイダー、アップルジュース、およびミルク中への既知量の大腸菌の導入から得られた結果を表す。
【0314】
Quiagen社製DNAEasyキットを用いてDNAを抽出する場合、試料量が10〜30μlで変化しうるが、注目すべき影響は生じないことが分かった。
【0315】
細胞溶解緩衝液ATLおよびプロテイナーゼKと共に試料を「R1」に入れた後、次いで、上記で説明した通りにこれを自動的に処理したところ、シリカ膜から溶出した最終DNA量は25μLであった。PCRを実行するため、1:9の比でDNA鋳型をPCRマスターと混合した後、熱サイクリングチャンバーに導入した。したがって、起こりにくい事象ながら、DNA回収率が100%であると推定したとしても、最終的にPCR増幅されるDNA総量は、理論的に、総出発菌数から得られるDNAの1/25以下を表す(例えば、出発菌数が1000個であった場合、最終的にPCRチャンバーに導入されたDNAは、細菌40個以下となった)。
【0316】
PBS中に懸濁した大腸菌
アッセイ条件を確立する一助とするため、初めの試行の焦点を、PBS中に導入された既知量(または数)の大腸菌に絞った。PBS中に大腸菌500,000個を導入し、マイクロ流体デバイス上でDNAを単離/精製した。25μLの単離DNA鋳型から1μLのアリコートを取り出し、「ベンチトップ」のPCR増幅にかける一方、該25μLの単離DNA鋳型の別の1μLアリコートを、1:9の比でPCRマスター混合物と混合し、マイクロ流体デバイス上でさらに増幅した。図32において、同じマイクロ流体デバイス上において完全に統合されたDNA単離/精製およびPCRから得られたゲルプロファイル(レーン4)との、「ベンチトップ」PCR試料のゲルプロファイル(レーン3)の比較では、識別できない結果が示された。同じゲル上におけるレーン1および2は、それぞれ、陰性対照(水)および陽性対照(UV吸光度測定に基づく、細菌1000個に由来するDNA)を表す。同じ種類の試料に対する反復的解析により基本的に再現可能な結果がもたらされることは、マイクロ流体デバイスを用いて、問題となる細菌を信頼できる形で検出し、「ベンチトップ」のPCR解析と事実上識別できない結果を得ることが可能であったことを示す。
【0317】
初めの20μLの試料中に細菌10,000個だけを導入し、次いで、3つの個別のマイクロ流体デバイスによりまさに上記で説明した通りに処理することで、基本的に同一の結果が得られた。
【0318】
マイクロ流体デバイス上におけるDNAの単離および精製
上記と同様の複数のさらなる実験を実施することにより、以下のアッセイプロトコールが確立された。
【0319】
試薬は、Quiagen社製DNEasyキットおよびPromega社製PCRキットに由来した。
【0320】
【表A】
【0321】
PCRプロトコール
95℃で2分間にわたる最初のインキュベーション。各サイクルを
95℃で5〜15秒間
60℃で20〜30秒間
72℃で20〜25秒間
として、25〜35サイクル。72℃で3分間にわたる最後のインキュベーション。
【0322】
アップルサイダーに導入された大腸菌
PBSに導入された細菌について報告された方式と同様の方式で、各濃度の大腸菌を市販のアップルサイダーに導入し、マイクロ流体デバイスシステムにおいて解析した。アップルサイダーに導入された細菌500,000個の解析(図30A)により、「ベンチトップ」のPCR解析(レーン3)と完全統合型マイクロ流体デバイスによる解析(レーン4)との間で基本的に識別できない結果がもたらされた。レーン1および2は、それぞれ、陰性対照および陽性対照を表す。陰性対照レーン内において現れる微弱なバンドは、実験室内における二次汚染による可能性が高い。アップルサイダーに導入される菌数を100,000個に低下させることによってもまた、標的配列の良好な増幅が示された(図30B)。レーン1〜2が完全統合型マイクロ流体デバイスでの試行により生成される単位複製配列を示す一方、レーン4〜5は、同じDNAに対する「ベンチトップ」のPCR増幅により生成される単位複製配列を示す。レーン3は、陰性対照を表す。
【0323】
最後に、アップルサイダーに導入される菌数を2500個に低下させる(図31)ことによってもまた、「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)と完全統合型マイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)との間における優れた相関が得られた。レーン1は、陰性対照を表す。
【0324】
上記で注意した通り、マイクロ流体デバイス(ならびにベンチトップシステム)上でDNAが抽出、精製、および増幅される方式により、以下の表は、マイクロ流体デバイスに添加され、PCRチャンバー内において実際に増幅される細菌数を表す(マイクロ流体デバイスの精製領域からの100%のDNA回収率を仮定する)。以下の表1は、試料中およびPCRチャンバー内における細菌添加数を示す。
【0325】
【表B】
【0326】
アップルジュースに導入された大腸菌
同様の方式で、各濃度の大腸菌を市販のアップルジュースに導入した。細菌10,000個をアップルジュースに導入した(図33)ところ、完全統合型マイクロ流体デバイスでの試行から得られた結果(レーン4〜5)は、同じマイクロ流体デバイス上で単離されたDNAに対する「ベンチトップ」のPCR解析により得られた結果と識別できなった。レーン1は陰性対照を表す。
【0327】
アップルジュースに細菌1000個だけを導入する(図34)ことによってもまた、完全統合型マイクロ流体デバイスから結果として得られた単位複製配列(レーン4〜5)は、同じマイクロ流体デバイス(レーン2〜3)上で単離されたDNAに対するベンチトップPCRにより得られた単位複製配列と識別できなかった。上記の通り、レーン1は陰性対照を表す。最後に、2回の異なるマイクロ流体デバイスでの試行から得られた単位反復配列を比較したところ(図35)、完全統合による結果(各マイクロ流体デバイスのレーン3)は、同じマイクロ流体デバイスから得られたDNAに対する「ベンチトップ」のPCR増幅により得られた結果と識別できなかった。
【0328】
上記で説明した通り、マイクロ流体デバイス内を進行する際におけるDNAの希釈により、単離/精製およびPCR増幅から結果として得られる単位複製配列は、マイクロ流体デバイスに初めに導入された細菌が、初めの添加濃度の1/25以下を占めることを示す。したがって、細菌10,000個が導入された場合、実際に増幅されたDNAは、細菌400個以下に由来した。同様に、細菌1000個だけが導入された場合、実際に増幅されたDNAは、細菌40個以下に由来した。
【0329】
ミルクに導入された大腸菌
ミルク中に1,000,000個の大腸菌を導入し、上述の確立されたプロトコールを用いて調べたところ、状況は、アップルジュースまたはアップルサイダーよりも複雑であった。脱脂粉乳の場合、試験に対するタンパク質の干渉は極めて限定されたものであり、予期した結果が得られた(図36)。しかし、細胞溶解緩衝液に対して1:1の容量比で全乳を調べたところ、DNAが単離されなかったことから、全乳中に存在する脂肪により単離過程が抑制されることが示される可能性が高い。
【0330】
この特定のプロトコールでは、臨床診断を目的として、血液の保存および輸送用に開発されたWhatman社製FTAフィルターを用いた。Whatman社製FTAフィルターの最も注目すべき特徴は、それが、フィルター自体における細胞の溶解および精製に十分な試薬を含むことであった。この場合、マイクロ流体デバイス上における水以外の他の試薬を保存する必要が存在しなかった。しかし、Whatman社製FTAフィルターは、加工に際してむしろ過酷な条件を伴う。ベンチトップおよびマイクロ流体デバイスのいずれにおいても、大腸菌からのDNA精製のためのFTA溶出を調べたが、その結果を表2および図37に示す。すべての試験は、100万個の大腸菌添加を用いて実施した。
【0331】
【表C】
【0332】
結論
本試験により、マイクロ流体システムを用いて、アップルジュース、アップルサイダー、およびミルクなどの食品マトリックス中における大腸菌を検出しうることが示された。これらの結果は、単一のマイクロ流体デバイス上においてすべての調製機能および解析機能を実施しうることを明確に示す。
【実施例8】
【0333】
6.8 密閉された核酸増幅リアクターに対する圧力除去デバイス
本実施例では、例えば、PCRリアクターを有するマイクロ流体デバイスの核酸増幅領域内における密閉された核酸増幅リアクターと共に用いうる圧力除去デバイスについて説明する。圧力除去(緩和)デバイスは、シールされたマイクロ流体デバイスの内部に設置することができる。圧力除去デバイスは、弁に類似するが、直径を貫通する導管状の切除部を有し(図38)、流体は通常、ダイアフラム上部の導管を介して流動可能であり、システム圧が増大すると、流体は、設計およびシステム圧に応じて空気圧により制御されるかまたは雰囲気に対して開放される、緩和デバイスのダイアフラムを押しやり、ダイアフラムのたわみにより、該密閉システム内における物質が維持される一方で、圧力除去のためのさらなる空間がもたらされる。
【0334】
圧力除去デバイスは、マイクロ流体デバイスなど、シールされた微細リアクターが、熱サイクリング間の著明な温度変化に由来する破断または漏えいを起こすことを防止しうる。液体の熱膨張の結果として生じる圧力は、固定体積内において極めて高い。温度が25℃から95℃に上昇すると、水の体積は4%上昇する。従来のリアクター設計では、リアクター壁面の変形、捕捉された気体の圧縮、流入/流出導管の膨張、漏えいなどにより圧力が解放されうる。
【0335】
システム内において緩和デバイスを直列に配することにより、リアクター領域内における温度が上昇すると、リアクター内における液体が膨張し、圧力が上昇し、緩和ダイアフラムをたわませる。結果として、システム圧が解放される。リアクター内における温度が低下すると、液体が収縮し、流体の逆流が生じ、ダイアフラムのたわみが低減される。加えて、圧力緩和設計はまた、それなしには高圧弁が必要となる、システムをシールする弁の使用も容易とする。
【実施例9】
【0336】
6.9 高温時におけるPCRリアクター変形の防止
本実施例では、特定の実施形態において、核酸増幅リアクター、例えば、PCRリアクターの上部に接着することで、高温時における熱効果の結果としてリアクターがたわむことを防止しうる、剛性構造について説明する(図39)。マイクロ流体デバイス材料としてポリスチレンを用いる場合、リアクターの上部は、高温、例えば、95℃時において「たわみ」変形を受ける場合がある。冷却時において、チャンバー内の圧力は、変形および/または液体の漏出により陰圧となる場合があり、これにより、底部膜がたわみ、ヒーターとの共形接触が失われる。結果として、再現可能で高品質の核酸増幅を達成することが困難となりうる。リアクター上部に剛性構造を用いることにより、このような熱膨張がリアクターの上部から離れ、ヒーターを圧迫する膜へと方向づけられる。
【実施例10】
【0337】
6.10 リバースドットブロット(RDB)用の核酸プローブを固定化する方法
本実施例では、リバースドットブロット(RDB)検出用の核酸プローブを固定化するのに用いうる方法について説明する。
【0338】
Biodyne C膜は以下のように調製した。フィルターを、10cmのペトリディッシュ内における浸漬に適するサイズに切断した。膜を、ペトリディッシュ内における0.1N HCl中ですすいだ。水中に10%のN−エチル−N’−(3−ヂメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)水溶液(使用直前にEDCを作製する)約5mlを用いて、撹拌しながら15分間にわたり、膜をEDC中に浸漬させた。膜を滅菌水中ですすぎ、一晩にわたり通気乾燥させた。
【0339】
アミノ末端プローブの20μM溶液は、以下の通りに作製した:
1.(0.5M重炭酸Na)原液に由来する200μMプローブ溶液のうち50μlを、
2.445μlの0.5M重炭酸Na溶液に混合し、
3.次いで、これに、総容量が500μlとなるように、5μlの食用色素(黄色1号;赤色〜青緑色)を添加し、
4.調製された溶液中にピンを浸し、該ピンを既に調製したBiodyne C膜に1秒間にわたり接触させることにより該Biodyne C膜上にピンからの液滴を滴下させ、これを2サイクルにわたり繰り返す。
【0340】
上記と同じプロトコールを用いるが、異なるプローブを用いる、別の溶液を調製する。プローブアレイが完成したら、次いで、
5.プローブアレイを有するBiodyne C膜を、0.1N NaOH中で5秒間にわたり洗浄する。
6.次いで、2回目は滅菌水中で5秒間にわたり洗浄する。
7.次いで、対流熱乾燥により35秒間にわたり乾燥させる。
8.完全に通気乾燥させる。
9.約1分間にわたり、0.1N NaOH中ですすぐ。
10.滅菌水中ですすぐ。
11.完全に通気乾燥させる。
【0341】
本発明は、本明細書で説明される特定の実施形態により範囲が限定されないものとする。実際、本明細書で説明された実施形態に加えての、本発明に対する各種の改変は、上述の説明から当業者には明らかであろう。このような改変は、添付の特許請求の範囲内に入ることを意図する。
【0342】
本明細書で引用されるすべての参考文献は、各個別の刊行物、特許、または特許出願が、参照により、すべての目的に対してその全体において組込まれることが具体的かつ個別に示されたと仮定する場合と同程度に、参照により、すべての目的に対してその全体において本明細書に組込まれる。
【0343】
任意の刊行物の引用は、出願年月日以前におけるその開示についてのものであり、本発明が、先行発明のためにこのような刊行物に先行する権利がないことの容認として解釈されるべきではない。
【符合の説明】
【0344】
32 弁
101 試料調製領域
102 核酸増幅領域
103 核酸解析領域
111 試薬リザーバー
112 核酸増幅リアクター
113 解析領域リザーバー
114 廃棄物リザーバー
【技術分野】
【0001】
1.技術分野
本発明は、マイクロ流体工学の分野ならびに生化学および分子生物学の分野におけるマイクロ流体工学の応用に関する。本発明はさらに、統合型マイクロ流体プラットフォーム装置および関連の方法に関する。本発明はまた、核酸など、対象の生物学的分子を調製、増幅、および検出するためのマイクロ流体デバイスにも関する。本発明はまた、マイクロ流体デバイスを用いて、核酸など、対象の生物学的分子を調製、増幅、および検出する方法にも関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体において本明細書に組込まれる、2007年10月12日出願の同時係属米国特許仮出願第60/979,515号の優先権およびその利益を主張する。
【0003】
連邦政府による後援を受ける研究または開発に関する言明
該当なし。
【0004】
付録の参照
該当なし。
【背景技術】
【0005】
2.発明の背景
分子生物学は、核酸およびタンパク質などの高分子の形成、構造、および機能、ならびに細胞による遺伝情報の複製および伝達におけるそれらの役割のほか、生物のゲノム内で核酸を配列決定し、突然変異させ、さらに操作して、突然変異の生物学的効果を研究しうるような核酸の操作も取り扱う生物学の分野として広く定義することができる。
【0006】
生化学および分子生物学の従来の実践では、しばしば研究される被験体のサイズに反比例するスケールにおける物理的工程の供給源を必要とすることがある。例えば、予測解析のための核酸フラグメントなどの生物学的試料の調製および精製と関連する装置およびプロセス化学では、往々にして無菌施設を伴う完全規模のバイオ実験室を必要とすることがある。さらに、核酸フラグメントを増幅する周知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)工程を実行するには、同様の規模の環境から孤絶した施設を必要とすることが典型的でありうる。
【0007】
2.1 マイクロ流体システム
「マイクロ流体工学」とは、一般に、小容量流体を処理する系、デバイス、および方法を指す。マイクロ流体システムは、流体を操作する多種多様の作業を統合しうる。このような流体は、化学的または生物学的な試料を含みうる。これらのシステムはまた、生物学的アッセイ(例えば、医学的診断、薬剤の発見、および薬剤送達のためのアッセイ)、生化学的センサー、または生命科学研究一般のほか、環境解析、工業工程のモニタリング、および食品安全試験など、多くの適用領域も有する。
【0008】
マイクロ流体デバイスの1つの種類は、マイクロ流体チップである。マイクロ流体チップは、流体を保持し、チップ上における様々な位置から、また、様々な位置へと流体を移送し、かつ/または流体試薬を反応させる、チャネル、弁、ポンプ、リアクター、および/またはリザーバーなど、マイクロスケールの形状特徴(または「マイクロフィーチャ」)を含みうる。
【0009】
しかし、既存のマイクロ流体システムは、あらかじめ規定された流動パターンによる以外、複数種の流体の制御された操作を可能とするのに十分な機構を欠いており、このため、システムを各種の化学的アッセイまたは生物学的アッセイで用いうる実用性が制約されている。これは、現場のアッセイが、各種の解析目的に応じて、異なる試薬の反復的な操作を必要とすることが多いためである。
【0010】
さらに、多くの既存のマイクロ流体デバイスは、1つの特定の使用に制約されており、完全に再設計しない限り、他の適用に適応させるかまたはカスタマイズすることが容易に可能ではない。これらのデバイスはモジュール性を欠いており、したがって、1つの設計で複数の機能の実行が可能となる共通のデバイス部材を共有することが可能ではない。この柔軟性の欠如により、各使用に異なるシステムの作製が必要となるので、生産費用が増大する。
【0011】
さらにまた、多くの既存のマイクロ流体システムは、アッセイの結果として得られる解析物の相互作用または存在を容易に検出することか可能な、直接的な評価項目アッセイのための手段を欠いている。例として述べると、アッセイ後における試料の色変化の視覚的な検出を用いてアッセイの結果を評価することが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
こうして、生物学的試料または化学的試料の解析のために、また特に、DNA、RNA、アミノ酸、およびタンパク質などの試料に由来する生物学的に活性な高分子の検出および解析において流体を処理する、改善されたマイクロ流体システムが必要である。システムは、大量生産性であり、廉価であり、好ましくはディスポーザブルであることが望ましい。システムは、操作が単純で、流体処理ステップの多くまたは実質的にすべてが自動化されることが望ましい。システムはカスタマイズ可能であり、高分子の検出が所望される各種の適用に適する形で容易かつ迅速に再構成されるよう、モジュラー性であることが望ましい。また、システムは、直接的で有意味なアッセイ結果を提供可能であることも望ましい。
【0013】
第2節または本出願の他の任意の節における任意の参考文献の引用および同定は、このような参考文献が本発明に対する先行技術として用いられることの容認としては考えないものとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
3.発明の概要
対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスであって、
a)マイクロ流体デバイスの本体
を含み、該マイクロ流体デバイス本体が、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iii)核酸解析領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域、核酸増幅領域、および核酸解析領域の各々が、該ネットワーク内における少なくとも1つの流体チャネルにより、他の2つの領域の少なくとも1つと流体的に相互連結されるマイクロ流体デバイスが提供される。
【0015】
また、対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスであって、
a)マイクロ流体デバイスの本体
を含み、該マイクロ流体デバイス本体が、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域および核酸増幅領域の各々が、少なくとも1つの流体チャネルにより、他の領域と流体的に相互連結されるマイクロ流体デバイスも提供される。
【0016】
一実施形態において、マイクロ流体デバイスは、マイクロ流体デバイス本体の選択される領域に、周囲圧力に対して陽圧または陰圧を加えることが可能な差圧供給源を含みうる。
【0017】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、差圧供給源およびマイクロ流体デバイス本体に作動的に連結される差圧送達システムを含みうる。
【0018】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、差圧供給源からダイアフラムの所望の開位置または閉位置への圧力を変換するための、特定であるかまたは選択の流体チャネル内であるかまたはその間に配置される、少なくとも1つのダイアフラムを含みうる。
【0019】
別の実施形態において、試料調製領域は、
試料取込みリザーバーと、
試料調製試薬リザーバーと、
試料精製媒体と
を含み、試料取込みリザーバー、試料調製試薬リザーバー、および試料精製媒体は、流体的に相互連結される。
【0020】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、試料精製媒体が配置される試料精製媒体リザーバーを含みうる。
【0021】
別の実施形態において、試料精製媒体は、複数の流体チャネルの1つに配置される。
【0022】
別の実施形態において、試料精製媒体は、試料精製リザーバーの底部に配置される。
【0023】
別の実施形態において、核酸増幅領域は、
核酸増幅リアクターと、
核酸増幅試薬リザーバーと、
核酸増幅産物リザーバーと、
を含み、核酸増幅リアクター、核酸増幅試薬リザーバー、および核酸増幅産物リザーバーは、流体的に相互連結される。
【0024】
別の実施形態において、対象試料は、流体材料、気体材料、液体材料中に実質的に溶解した固体材料、エマルジョン材料、スラリー材料、またはその中に粒子が懸濁する流体材料である。
【0025】
別の実施形態において、対象試料は、生物学的材料を含む。
【0026】
別の実施形態において、対象試料は、流体中における細胞の懸濁液を含む。
【0027】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイス本体は、複数層の弱溶剤接着ポリスチレンを含む。
【0028】
別の実施形態において、試料調製領域は、試料取込みリザーバーと流体的に連結された試料混合ダイアフラムを含む。
【0029】
別の実施形態において、核酸抽出媒体は、シリカ膜である。
【0030】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイス本体は、試料精製媒体を通気乾燥させる手段を含む。
【0031】
別の実施形態において、試料調製領域は、洗浄リザーバーを含む。
【0032】
別の実施形態において、試料調製領域は、廃棄物リザーバーを含む。
【0033】
別の実施形態において、試料調製領域は、溶出リザーバーを含む。
【0034】
別の実施形態において、試料調製試薬は、磁気ビーズを含む。
【0035】
別の実施形態において、試料調製試薬は、試料調製リザーバーに配置される。
【0036】
別の実施形態において、試料調製試薬は、磁気ビーズである。
【0037】
別の実施形態において、試料調製試薬は、溶解試薬である。
【0038】
別の実施形態において、核酸増幅リアクターは、熱サイクルリアクターである。
【0039】
別の実施形態において、熱サイクルリアクターの底部は、ポリスチレンの薄層である。
【0040】
別の実施形態において、熱サイクルリアクターの底部は、熱サイクリング間に、マイクロ流体デバイス本体上または本体内には配置されないヒーターにより加熱される。
【0041】
別の実施形態において、核酸増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素(RT−)PCR、cDNA末端迅速増幅(RACE)、ローリングサイクル増幅、核酸配列ベース増幅(NASBA)、転写物媒介増幅(TMA)、およびリガーゼ連鎖反応からなる群から選択される。
【0042】
別の実施形態において、核酸解析領域は、対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するための領域を含む。
【0043】
また、対象核酸を検出する方法であって、対象核酸を含有することが疑われる試料を得るステップと、マイクロ流体デバイスを用意するステップと、試料調製領域に試料を導入するステップと、核酸増幅用に試料を調製するステップと、調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入するステップと、増幅された対象核酸を検出するステップとを含む方法も提供される。
【0044】
一実施形態において、対象核酸は、対象の疾患または障害と関連する。
【0045】
別の実施形態において、検出するステップは、増幅された対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するステップを含む。
【0046】
別の実施形態において、検出するステップは、色強度、蛍光強度、電気信号強度、または化学発光強度を可視化するステップを含む。
【0047】
別の実施形態において、検出するステップは、試料中における少なくとも1種の対象分子に対応する強度値を発生させるステップを含む。
【0048】
別の実施形態において、強度値は、色強度値、蛍光強度値および化学発光強度値、電流または電圧からなる群から選択される。
【0049】
別の実施形態において、色強度値を発生させるステップは、
試料に対応する画像を解析して複数の画素を発生させるステップと、
複数の画素の各々に対して複数の数値を与えるステップと、
数値を生じさせて色強度値を提供するステップと
を含む。
【0050】
別の実施形態において、該方法は、閾値を計算するステップと、色強度値を閾値と比較して対象分子を検出するステップとをさらに含む。
【0051】
別の実施形態において、該方法は、少なくとも1つの色強度値と閾値とをデータベースに保存するステップをさらに含む。
【0052】
別の実施形態において、閾値は、少なくとも1種の陰性対照試料を用いて計算される。
【0053】
被験体における対象の疾患または障害の存在または素因を判定する方法もまた提供される。該方法は、対象の疾患または障害と関連する核酸を含有することが疑われる試料を被験体から得るステップと、試料中における対象の疾患または障害と関連する核酸を検出するステップとを含み、該検出するステップは、対象核酸を含有することが疑われる試料を得るステップと、マイクロ流体デバイスを用意するステップと、試料調製領域に試料を導入するステップと、核酸増幅用に試料を調製するステップと、調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入するステップと、増幅された対象核酸を検出するステップとを含み、増幅された対象核酸の検出が、対象の疾患または障害の存在または素因と関連する。
【0054】
一実施形態において、検出するステップは、増幅された対象核酸の量(またはレベル)を決定するステップを含み、ここで、該方法は、該量(またはレベル)を対象核酸のあらかじめ選択された量(またはレベル)と比較するステップをさらに含む。
【0055】
別の実施形態において、該量(またはレベル)とあらかじめ選択された量(またはレベル)との間の差は、対象の疾患または障害の存在または素因を示す。
【0056】
4.図面の簡単な説明
ここで、添付の図面を参照して本発明を説明するが、これらにおいては、複数の図を通して同様の参照文字が同様のエレメントを示す。場合によって、本発明の理解を容易にするために、本発明の各種の態様が誇張されるかまたは拡大されて示されうることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】試料調製領域101、核酸増幅領域102、および評価項目検出アッセイを実施するための核酸解析領域103の3つの機能領域を有するマイクロ流体デバイス(「チップ」)の実施形態の3次元図である。試薬リザーバー111。解析領域リザーバー113。廃棄物リザーバー114。
【図2】図1に記載のマイクロ流体デバイスの等尺分解図であり、マイクロ流体デバイスの3層を示す(明確さを目的として、連続膜は示さない)。
【図3A】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、試料調製領域(「核酸(NA)抽出領域」)、核酸増幅領域(この実施形態では、「PCR領域」)、および核酸解析領域(「RDB領域」)を示す。また、デバイス上における弁、マイクロ流体チャネル、貫通孔、および低密度DNAフィルターの配置も示される。この実施形態では、核酸解析領域において、リバースドットブロット(RDB)評価項目検出アッセイを実施することができる。「廃棄物」:廃棄物リザーバー。
【図3B】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、試料調製領域101、核酸増幅領域102(核酸増幅リアクター112を含む)、および核酸解析領域103、ならびにデバイス上における弁、マイクロ流体チャネル、および貫通孔の配置を示す。解析領域リザーバー113。
【図4】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、デバイスの特定の層上におけるリザーバー、核酸増幅リアクター(またはチャンバー)、弁、マイクロ流体チャネル、および貫通孔を含む、デバイスの機能配置を示す。
【図5】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、デバイス上における弁の配置図を示す。
【図6】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、デバイス上におけるリザーバーの配置図を示す。
【図7】図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、デバイスの機能領域の配置図を示し、リザーバー内における試薬の配置を示す。試料調製領域101。核酸増幅領域102(核酸増幅リアクター112を含む)。核酸解析領域103、ならびにデバイス上における弁、マイクロ流体チャネル、および貫通孔の配置。解析領域リザーバー113。
【図8】試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有するマイクロ流体デバイスの別の実施形態を示す。矢印で示す通り、試料調製領域は、試料の投入および調製、試料の精製、ならびに核酸の抽出のためのリザーバーを含む。核酸増幅領域は、核酸増幅リアクター(「増幅チャンバー」)を含む。デバイスのこの実施形態はまた、核酸増幅の完了後においてマイクロ流体デバイスから単位複製配列が抽出される領域である、核酸増幅産物抽出領域(「増幅産物抽出領域」)も含む。デバイスのこの具体的な実施形態は、50×38mmの寸法を有する。
【図9】図8に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての等尺分解図であり、マイクロ流体デバイスの3つの層(明確さを目的として、連続膜は示さない)を示す。
【図10】図8に記載のマイクロ流体デバイスについての上面略図であり、デバイスの特定の層上におけるポンプ、弁、増幅リアクター、マイクロ流体チャネル、および貫通孔の配置図を示す。
【図11】図8に記載のマイクロ流体デバイスについての上面略図であり、デバイスの機能領域の配置図を示し、複数の試薬リザーバー(例えば、「細胞」、「エタノール」、「ミキサー」、「廃棄物」、「溶出」、「NA1」、「NA2」、「AW1」、「AW2」)内における試薬の配置を示す。 図12〜16は、試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有するが、オンチップの核酸解析領域を有さない本発明のマイクロ流体デバイス(「チップ」)の別の実施形態を示す図である。
【図12】リザーバーは示さずに、弁およびチャネルの配置を示す上面図である。
【図13】二方向ポンプの3つの群:試料調製用ポンプ、核酸増幅試薬調製用ポンプ、および充填用ポンプを有する、図12に示すマイクロ流体デバイスの実施形態の配置を示す図である。
【図14】図12に示すマイクロ流体デバイスの実施形態についての操作略図である。矢印は、デバイス上で処理される際の大腸菌(E.coli)試料の進行を示す。
【図15】図12に示すマイクロ流体デバイスの実施形態についての操作略図である。矢印は、デバイス上で処理される際の大腸菌(E.coli)試料の進行を示す。
【図16】図12に示すマイクロ流体デバイスの実施形態についての操作略図である。矢印は、デバイス上で処理される際の大腸菌(E.coli)試料の進行を示す。
【図17】チャンバーの開口部(「ノズル」)上に配置されるダイアフラムを用いてチャンバーの内容物を混合する混合ジェットを発生させうる、デバイスのチャンバー底部の実施形態を示す図である。
【図18】本発明の実施形態によるマイクロ流体デバイスおよび対照(Quiagen社製RNEasyキット)により得られた比較の結果を示す図である。Quiagen社製RNeasyによる抽出/精製法(レーン1〜3、10)およびマイクロ流体デバイス(レーン4〜9)を用いてHEK293T細胞から単離されたRNAの1%アガロースゲルを示す図である。分子量マーカーを左側に示す。
【図19】レーン1:DNA標準物質;レーン2:オンチップで実行されたRT−PCRからの単位複製配列産物;レーン3:投入RNA(1μl)を示す図である。RNAは、HEK 293T細胞から作製した。ベータ−アクチンを認識するプライマーを用いて、cDNA産物を作製し、PCRによりアクチンのcDNAを増幅した。
【図20】示される通り、熱サイクルおよび試行時間を変化させる場合における、8回のPCR試行に対するオンチップでの再現性を示す図である。
【図21】PCRの比較を示す図である。BioRad MJ Mini熱サイクラー(レーン2および3)またはマイクロ流体デバイス(レーン4)を用いる30サイクルのPCRにより、5×103コピーのプラスミド(prlpGL3)を増幅した。分子量マーカーがレーン1に示されている。
【図22】この実験において、マイクロ流体デバイスと連結して用いられたPCR熱サイクラーによる典型的なサイクルを示す図である。下図におけるグラフは、上図のグラフ内で示される最初の4サイクルの一部の拡大図である。
【図23】マイクロ流体デバイス上で実行されるRT−PCRプロトコールの結果を示す図である。ベンチトップ(bt)プロトコールおよびオンチッププロトコールを用いて、HIV RNAを単離した。
【図24】全血液中におけるβ−サラセミア遺伝子の検出を示す図である。30サイクルのPCR後において、ベンチトップの熱サイクラー(レーン4〜5)またはマイクロ流体デバイス(レーン2〜3)を用いて並行的にPCR増幅された2つの同一試料を、アガロースゲル上で解析した。レーン1は、分子量標準物質を表す。
【図25】ベンチトップPCR法またはマイクロ流体デバイスを用いるHPV増幅の結果を示す図である。
【図26】リバースドットブロット(RDB)によるHPV血清型検出用のオンチッププローブアレイを示す図である。HPV−52(上図)およびHPV−11(下図)は、適正に検出された。
【図27】RDBプロトコールの概略図である。
【図28】アップルジュース中に添加された大腸菌1,000個を処理する2つのチップ間における比較を示す図である。該添加されたジュースをオンチップで調製してDNAを精製し、次いで、1μlずつの2アリコートを取り出し、ベンチトップ上で増幅し、精製された残りのDNAをオンチップで増幅した。示される通り、産物を取り出し、ゲル上で解析した。各チップの産物のレーン1およびレーン2はベンチトップ上で増幅されたアリコートを示し、各場合におけるレーン3はオンチップにおける増幅産物を表す。
【図29】オンチップで抽出されたDNAを用いる、ベンチトップのPCR結果とオンチップのPCR結果との比較を示す図である。大腸菌の添加量は、5×103個/μl〜1×104個/μlの範囲であった。
【図30A】A:「ベンチトップ」のPCR解析(レーン3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4)とを比較する、アップルサイダーに導入された大腸菌500,000個の解析を示す図である。レーン1および2は、それぞれ、陰性対照および陽性対照を表す。
【図30B】B:「ベンチトップ」のPCR解析(レーン3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4)とを比較する、アップルサイダーに導入された大腸菌100,000個の解析を示す図である。レーン1および2は、それぞれ、陰性対照および陽性対照を表す。
【図31】「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)とを比較する、アップルサイダーに導入された大腸菌500,000個の解析を示す図である。レーン1は、陰性対照を表す。
【図32】「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)とを比較する、PBSに導入された大腸菌500,000個の解析を示す図である。レーン1は、陰性対照を表す。
【図33】「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)とを比較する、アップルジュースに導入された大腸菌10,000個の解析を示す図である。レーン1は、陰性対照を表す。
【図34】「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)とを比較する、アップルジュースに導入された大腸菌1,000個の解析を示す図である。レーン1は、陰性対照を表す。
【図35】2回の異なるマイクロ流体デバイスでの試行から得られた単位反復配列の比較を示す図である。各マイクロ流体デバイスの完全な試行から得られた結果(各マイクロ流体デバイスから生成された生成物に由来するゲル解析に対応するレーン3)は、同じマイクロ流体デバイスから得られて別個に増幅された、DNAに対する「ベンチトップ」のPCR増幅により得られた結果(レーン1および2)と識別できなかった。
【図36】「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)とマイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)とを比較する、脱脂粉乳に導入された大腸菌1,000,000個の解析を示す図である。レーン1は、陰性対照を表す。
【図37】大腸菌からのDNA精製のための、ベンチトップおよびオンチップにおけるWhatman社製FTAによる溶出の結果を示す図である。すべての試験は、100万(すなわち、1,000K)個の大腸菌添加を用いて実施した。
【図38】例えば、PCRリアクターを有するマイクロ流体デバイスの核酸増幅領域内における密閉された核酸増幅リアクターと共に用いうる圧力除去デバイスの概略図である。
【図39】核酸増幅リアクター、例えば、PCRリアクターの上部に接着することで、高温時における熱効果の結果としてリアクターがたわむことを防止しうる、剛性構造の概略図である。
【図40】小領域内におけるスポットアレイのためのRDB流動設計を示す図である。図40。RDB流動設計の側面図。図41A〜B。オンチップのRDBリザーバー(A)およびRDBリザーバー(B)用の面取空間の実施形態についての透視図。
【図41】小領域内におけるスポットアレイのためのRDB流動設計を示す図である。図40。RDB流動設計の側面図。図41A〜B。オンチップのRDBリザーバー(A)およびRDBリザーバー(B)用の面取空間の実施形態についての透視図。
【発明を実施するための形態】
【0058】
5.発明の詳細な説明
本発明は、試料調製、生物学的に活性な分子の増幅を組み合わせることが可能であり、調製された元の試料からの対象分子の解析および/または検出に適する生物学的試料を提供することが可能な、マイクロ流体デバイス(「チップ」)およびこれに基づく方法を提供する。本発明により提供される小規模装置および方法は、生物学的試料の調製および解析のためのより大規模な設備と比較して、より簡便であり、より迅速であり、より廉価であり、同等に有効である。
【0059】
マイクロ流体デバイスは、生の核酸を含有する試料を自動的に処理し、該試料に由来する核酸鋳型を用いてヌクレオチド(例えば、DNAまたはRNA)の増幅を実行する、構造的でありかつ機能的な能力を提供する。該デバイスは、処理時における試薬、生成物、または試料の汚染を制御することの利点を有するほか、試薬消費が低度であることの利点も有する。
【0060】
該デバイス上で実行されるアッセイは、完全に自動化されている。本発明により提供されるマイクロ流体デバイスシステムでは、試料または検体の導入以外の「手」作業をほとんど伴わずに所望の結果が得られ、これにより、解析者側の多大な時間および労力を節約する手段がもたらされる。さらに、生の試料または検体をマイクロ流体デバイスに単に適用するだけで、未熟練者でも洗練された分子診断を実施することができる。
【0061】
マイクロ流体デバイスは、ポリヌクレオチド(例えば、DNA、RNA)、タンパク質、酵素を含むがこれらに限定されない、対象の生物学的高分子の潜在的な供給源として用いうる、ウイルス、細菌、真菌、原核細胞、真核細胞、古細菌細胞など、任意の生物学的供給源に由来するか、または全血液、血清または血漿、尿、便、粘液、唾液、膣または頬のスワブ、細胞培養物、細胞懸濁液などの生物学的材料に由来する、対象試料の解析に適する。マイクロ流体デバイスは、生物学的であるかまたは生物に由来する物質または材料の検出を伴う多種多様の検出、診断、モニタリング、および解析の目的、例えば、医学的または獣医学的な診断、食品加工、工業加工、および環境モニタリングに用いることができる。デバイスは、個体に由来する生物学的試料中における、感染、疾患、または障害の存在を検出する診断デバイスとして用いることができる。βサラセミア、UTI(尿路感染症)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、性器クラミジア(Chlamydia trachomatis)、梅毒の原因病原体である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、細菌性膣症と関連する細菌などのSTI(性感染症)、2型単純ヘルペスウイルスなどのHPV、パピローマウイルス、B型肝炎ウイルスおよびサイトメガロウイルス、HIV、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)などの酵母、ならびに膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)などの原虫を含むがこれらに限定されない多くの疾患または障害が検出に適する。
【0062】
一実施形態において、対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスは、マイクロ流体デバイスの本体を含むことができ、該マイクロ流体デバイス本体は、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iii)核酸解析領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域、核酸増幅領域、および核酸解析領域の各々が、該ネットワーク内における複数の流体チャネルの少なくとも1つにより、他の2つの領域の少なくとも1つと流体的に相互連結される(図1〜11)。
【0063】
別の実施形態において、対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスは、マイクロ流体デバイスの本体を含むことができ、該マイクロ流体デバイス本体は、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域および核酸増幅領域の各々が、該ネットワーク内における少なくとも1つの流体チャネルにより、他の領域と流体的に相互連結される(図1〜7)。
【0064】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有しうるが、オンチップの核酸解析領域を欠く場合がある(図8〜16)。
【0065】
限定を目的とはせずに開示の明確さを目的として、本発明の詳細な説明を以下に記載の小節に分割する。
【0066】
5.1 マイクロ流体デバイス本体
該解析デバイスは、マイクロ流体デバイス本体を含む。本発明による使用に適するマイクロ流体デバイス本体は、参照によりそれらの全体において本明細書に組込まれる、米国特許公開第US2006/0076068A1号(Youngら、2006年4月13日)、同第US2007/0166200A1号(Zhouら、2008年7月19日)、および同第US2007/0166199A1号(Zhouら、2008年7月19日)において説明されている。
【0067】
本体は、上面および下面を有する第1の硬質プラスチック基板と、第1の基板上面に接触してこれと接着し、第1の基板上面に対して実質的に横たわる弛緩状態と、第1の基板上面から移動する作動状態とを有する、実質的に硬質のプラスチック膜とを含みうる。第1の硬質プラスチック基板はその中に形成されたマイクロフィーチャを有することが可能であり、実質的に硬質のプラスチック膜は該マイクロフィーチャの上に配置されうる。膜は、適切な機械力の適用時における変形を許容するように選択された厚さを有する。異なる実施形態において、膜は、約10μm〜約150μm、15μm〜約75μmの厚さを有する。
【0068】
機械力は、基板向きに膜を変形させるように陽圧により適用され、約50psi未満を有しうる。一実施形態において、該大きさは3psi〜約25psiである。
【0069】
基板から遠ざかる向きに膜を変形させるように陰圧により適用される機械力は、約14psi未満の大きさを有しうる。一実施形態において、該大きさは約3psi〜約14psiである。
【0070】
膜および第1の基板は、実質的に同じ材料から作製することもでき、異なる材料から作製することもできる。本体の作製で用いるのに適する材料の例は、熱可塑性材料または線状ポリマー材料を含む。特定の実施形態において、該材料は、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカルボネート、またはアクリルである。
【0071】
実質的に硬質のプラスチック膜は、第1の基板に接着されない非接着領域を有しうる。膜の非接着領域は、両者共に第1の基板内に配置される、第1のチャネルと、該第1のチャネルとは分離した第2のチャネルとを少なくとも部分的に覆うことが可能であり、弛緩状態において、第1のチャネルと第2のチャネルとの間のシールを形成する。
【0072】
膜の非接着領域はまた、第1の基板内において形成され、第1および第2のチャネルから、また実質的にこれらの間で断絶する弁座も少なくとも部分的に覆うことが可能である。
【0073】
弁座は、第1および第2のチャネルの長手軸に対して実質的に垂直な堰を含みうる。
【0074】
膜の非接着領域は、両者共に第1の基板内に配置される、第1のチャネルと、該第1のチャネルとは分離した第2のチャネルとを少なくとも部分的に覆うことが可能であり、作動状態において、第1の基板上面から分離し、第1のチャネルと第2のチャネルとの間における流体の流動に適する空洞を提供する。
【0075】
第1の基板はまた、第1の基板の上面から第1の基板の下面へと延びる貫通孔も含みうる。
【0076】
膜の非接着領域は、実質的に円形、楕円形、または角を丸くした矩形でありうる。
【0077】
本体は、膜の上面に接触してこれと接着する、第2の硬質プラスチック基板をさらに含みうる。
【0078】
第1の基板、第2の基板、および膜は、実質的に同じ材料で作製することができる。
【0079】
第2の基板は、膜の非接着領域の実質的な上方に位置し、膜の非接着領域が第1の基板上面から移動してそれにより実質的に格納された状態を保ちうるサイズのチャンバーを含みうる。
【0080】
本体は、各々が個別に作動可能な弁構造を形成し、マイクロチャネルにより連鎖状に連結される、複数の断絶した非接着領域を有するポンプをさらに含みうる。マイクロチャネルは、流体の流動に対して様々な抵抗力を有する。
【0081】
本体は、膜が作動状態にあるとき、膜を構造的に支持するサイズ、形状であり、そうする位置にある、膜上方の支持構造をさらに含みうる。
【0082】
膜が第1の基板から所望の距離を超えて移動することを防止するサイズ、形状であり、そうする位置にある膜止めを膜上方に配置することができる。
【0083】
本体は、共用弁構造を有する複数のポンプを有しうる。共用弁構造は、共用弁と連結された複数の流体ポートをもたらす、3つ以上のマイクロチャネルの上方に配置される膜を含みうる。
【0084】
本体は、流体材料、気体材料、流体材料中に実質的に溶解した固体材料、スラリー材料、エマルジョン材料、およびその中に粒子が懸濁する流体材料の1種または複数種を保持することが可能な、少なくとも1つのリザーバーを含む。特定の実施形態において、対象試料は、生物学的材料、例えば、流体中における細胞の懸濁液を含む。
【0085】
リザーバーは、実質的に垂直となるように配置することができる。それは、規定の垂直レベルにあるかまたはこれに近いリザーバー内から液体を抽出するための液体抽出手段と連結することができる。リザーバーは、流体材料および粒子を含有することが可能であり、粒子がリザーバーの上部および底部のいずれに滞留することも防止する形で、流体にデバイス全体を循環させるよう、リザーバーにポンプを連結することができる。リザーバーは、個別に作動可能な第1の弁構造と第2の弁構造との間に連結することができる。
【0086】
別の実施形態において、本体は、ポンプ機構により相互連結された複数のリザーバーを含みうる。ポンプ機構は、複数のリザーバーからの流体を流過させる共用弁構造を含みうる。
【0087】
本体はまた、少なくとも1つのマイクロフィーチャも含みうる。マイクロフィーチャは、1方向の流動を優先する形状を有するチャネルを含みうる。
【0088】
本体は、ポンプ内を流動する流体により作動可能な受動弁構造を形成する2つの非接着領域へとマイクロチャネルにより相互連結される、外部から作動可能なダイアフラム構造を形成する1つの非接着領域を有するポンプを含みうる。別の実施形態において、ポンプは、各々が個別に作動可能なダイアフラム構造を形成し、各ダイアフラム構造が少なくとも1つの他のダイアフラム構造に部分的に重なる、複数の断絶した非接着領域を有しうる。
【0089】
一実施形態において、本体は、差圧供給源から所望の開位置または閉位置への圧力を変換するための、特定であるかまたは選択の流体チャネル間に配置される、少なくとも1つのダイアフラムを含みうる。
【0090】
特定の実施形態において、本体は、上面および下面ならびにその中に形成されるマイクロフィーチャを有する第1のポリスチレン基板と、第1の基板上面に溶剤接着されたポリスチレン膜とを含みうる。本体は、ポリスチレン膜が第1の基板上面に対して実質的に横たわる弛緩状態と、ポリスチレン膜が第1の基板上面から移動する作動状態とを有しうる。
【0091】
弱溶剤接着は、室温および周囲力の条件下ではほとんどまたは実質的にまったく接着効果を有さないが、適切な気温または力の条件下では2つの対合表面間において接着界面を形成することが可能な溶剤により形成することができる。
【0092】
特定の実施形態において、本体は、複数層の弱溶剤接着ポリスチレン内において作製された機能的な流体ネットワークを含みうる。例えば、参照により本明細書に組込まれる、米国特許出願第2006/0078470A1号で開示される、弱溶剤積層工程により作製されうる3層ポリスチレン体(「チップ」)。特定の実施形態において、該チップは、第1および第2の表面を有し、少なくとも1つの表面がマイクロ構造を含み、さらに、ポリマー材料である第1の部材と、第1および第2の表面を有し、第1および第2の表面の1つが、米国特許出願第2006/0078470A1号で開示される通り、ポリマー部材に対して弱溶剤である接着剤により、第1の部材の第2および第1の表面の1つにそれぞれ固定的に接着される、第2のポリマー部材とを含む積層構造でありうる。
【0093】
一実施形態において、本体は、対象アッセイ(例えば、核酸検出アッセイ)を実施するのに用いうる3つの領域:試料調製領域、核酸増幅領域、および核酸解析領域を含む。3つの領域のすべては、当技術分野で知られる方法を用いてポンプおよび弁(例えば、参照により本明細書に組込まれる、米国特許出願第2006/0076068A1号を参照されたい)、ならびにリザーバーおよびチャネル(例えば、参照により本明細書に組込まれる、米国特許出願第2007/0166200A1号を参照されたい)へと流体的に連結することができる。リザーバーおよびチャネルは、例えば、弱溶剤接着工程(米国特許出願第2006/0078470A1号)により、チップ内に構築することができる。
【0094】
別の実施形態において、デバイス本体は、参照により本明細書に組込まれる、米国特許出願第2006/0076068A1号で開示される通り、ダイアフラムが基板表面に対して着座する弛緩状態と、ダイアフラムが該基板から移動する作動状態との間で作動可能な、実質的に硬質のダイアフラムを有しうる。このダイアフラムにより形成されるマイクロ流体構造は、製作が容易で頑健なシステムのほか、弁およびポンプなど作製の容易な部品も提供しうる。
【0095】
具体的な一実施形態において、デバイス本体は、実質的に硬質のプラスチック膜が、接着剤として作用する弱溶剤により、基本的に平坦な硬質プラスチック基板に固定的に接着または積層する、ポリマーマイクロ流体構造である。特定の態様において、基板はマイクロフィーチャを含み、デバイス本体は、変形可能な膜と基本的に平坦な基板表面との間の接着領域により取り囲まれて画定される非接着セグメントを含み、この結果、弁構造がもたらされる。一部の実施形態において、第2の基板は膜の上面に接着され、膜の非接着領域に空気圧を加えるのに用いうるチャンバーを含む。本発明の使用と符合する方法によれば、空気圧または空気力を加えることで膜を変形させ、これにより弁を作動させる。一部の実施形態において、ポンプは、マイクロチャネルにより相互連結される複数の弁構造を含む。マイクロチャネルにより弁、ポンプ、リアクター、およびマイクロ流体リザーバーを相互連結して、マイクロ流体処理およびマイクロ流体解析に機能的に関与するサーキュレーター、ミキサー、または他の構造を形成することができる。
【0096】
別の実施形態において、デバイス本体は、上面および下面を有する第1の硬質プラスチック基板と、第1の基板上面に接触してこれと接着し、第1の基板上面に対して実質的に横たわる弛緩状態と、第1の基板上面から移動する作動状態とを有する、実質的に硬質のプラスチック膜とを有しうる。第1の硬質プラスチック基板は基板内に形成されたマイクロフィーチャを有することが可能であり、実質的に硬質のプラスチック膜は、少なくとも1つのマイクロフィーチャの上に配置されることが多い。実質的に硬質のプラスチック膜は、約2Gpa〜約4Gpaのヤング率を有し、適切な機械力の適用時における変形を許容するように選択された厚さまたは幅を有しうる。膜は、約10μm〜約150μm、またより具体的に、約15μm〜約75μmの厚さを有しうる。
【0097】
それに対して膜が応答する機械圧は、基板向きに膜を変形するように適用される陽圧の場合があり、これは約50psi未満でありえ、3psi〜約25psiでありうる。代替的に、および場合によって、機械圧は、基板から遠ざかる向きに膜を変形するように適用される陰圧の場合もあり、これは約14psi未満でありえ、約3psi〜約14psiでありうる。
【0098】
膜および第1の基板は、実質的に同じ材料から作製することができる。膜および第1の基板の材料は、熱可塑性材料または線状ポリマー材料でありえ、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカルボネート、またはアクリルから作製することができる。
【0099】
実質的に硬質のプラスチック膜は、第1の基板に接着されない非接着領域を有しうる。膜の非接着領域は、両者共に第1の基板内に配置される、第1のチャネルと、第1のチャネルとは分離した第2のチャネルとを少なくとも部分的に覆うことが可能である。弛緩状態において、膜は、第1のチャネルと第2のチャネルとの間のシールを形成しうる。場合によって、膜の非接着領域は、第1の基板内において形成され、第1および第2のチャネルから、また実質的にこれらの間で断絶する弁座を少なくとも部分的に覆うことが可能である。弁座は、第1および第2のチャネルの長手軸に対して実質的に垂直な堰を含みうる。さらに、膜の非接着領域は、第1のチャネルと、第1のチャネルとは分離した第2のチャネルとを少なくとも部分的に覆うことが可能である。これらのチャネルは共に第1の基板内に配置することができ、作動状態において、膜は第1の基板上面から分離し、第1のチャネルと第2のチャネルとの間における流体の流動に適する空洞を提供する。場合によって、第1の基板の上面から第1の基板の下面へと延びる貫通孔もまた存在しうる。非接着領域は、任意の適切な形状を有することが可能であり、選択される形状は、当然ながら、目前の適用に依存する。特定の実施形態において、非接着領域は、円形でもありえ、実質的に楕円形でもありえ、実質的に角を丸くした矩形でもありえ、該適用に適切な任意の形状でもありうる。
【0100】
特定の実施形態において、デバイス本体は、膜の上面に接触してこれと接着する、第2の硬質プラスチック基板を含むことができ、場合によって、第1の基板、第2の基板、および膜は、ポリスチレンなどの実質的に同じ材料で作製される。第2の基板は、膜の非接着領域の実質的な上方に位置し、膜の非接着領域が第1の基板上面から移動してそれにより実質的に格納された状態を保つサイズのチャンバーを含みうる。
【0101】
マイクロ流体デバイス本体は、各々が、マイクロチャネルまたはある種の流体流路により連鎖状に連結されることが典型的な、個別に作動可能な弁構造を形成する、断絶した非接着領域の対または群を含むポンプをさらに含みうる。マイクロチャネルは、流体の流動に対する可変抵抗を有することが可能であり、この目的のために、異なるサイズ、形状、および拘束部を有しうる。さらに場合によって、デバイスは、流動の特定の1方向における流体の流動を優先する形状を有するチャネルなどの形状特徴を含みうる。
【0102】
一実施形態において、複数のポンプは、共有弁構造を有することができ、特に、該ポンプは、共用弁と連結された複数の流体ポートをもたらす3つ以上のマイクロチャネルの上方に配置される膜を含む、共用弁構造を有することができる。こうして、一部の実施形態において、ポンプは、任意の3連弁構造を含みうる。液体、気体、流体材料中に実質的に溶解した固体でありうる流体材料、スラリー材料、エマルジョン材料、またはその中に粒子が懸濁する流体材料を保持することが可能なリザーバーを提供することができる。リザーバーは、実質的に垂直でありえ、規定の垂直レベルにあるかまたはこれに近いリザーバー内から液体を抽出するための液体抽出デバイスと連結することができる。リザーバーはまた、実質的に垂直となるように配置することができ、流体および粒子を含有しうる。粒子がリザーバーの上部または底部に滞留することを防止する形で、流体にデバイス全体を循環させるよう、リザーバーにポンプを連結することができる。リザーバーは、個別に作動可能な第1の弁構造と第2の弁構造との間に連結することができ、複数のリザーバーは、ポンプ機構により相互連結することができる。ポンプが共用弁構造を含むかまたはこれに連結されることで、ポンプによる複数のリザーバーからの流体の流過が可能となる。
【0103】
さらなる実施形態において、デバイスは、ポンプ内を流動する流体により作動可能な受動弁構造を形成する2つの非接着領域へとマイクロチャネルにより相互連結される、外因的に作動可能なダイアフラム構造を形成する1つの非接着領域を有するポンプを有しうる。また別の実施形態において、ポンプは、各々が個別に作動可能なダイアフラム構造を形成し、各ダイアフラム構造が少なくとも1つの他のダイアフラム構造に部分的に重なる、複数の断絶した非接着領域を有しうる。
【0104】
デバイスは、膜が第1の基板から所望の距離を超えて移動することを防止するサイズ、形状であり、そうする位置にある、膜上方に配置された機械的膜止めなどの膜止め機構を含みうる。
【0105】
別の実施形態において、本体は、上面および下面ならびにその中に形成されるマイクロフィーチャを有する第1のポリスチレン基板と、第1の基板上面に溶剤接着され、第1の基板上面に対して実質的に横たわる弛緩状態と、第1の基板上面から移動する作動状態とを有するポリスチレン膜とを有しうる。
【0106】
マイクロ流体デバイスはまた、差圧送達供給源、例えば、圧力または真空を供給する1つまたは複数の機械的通気ポンプを含む場合もあり、これに連結される場合もある。
【0107】
一実施形態において、差圧供給源は、マイクロ流体デバイス本体の選択される領域に、周囲圧力に対して陽圧または陰圧を加えることが可能である。
【0108】
マイクロ流体デバイスはまた、差圧送達システム、例えば、弁を連鎖的に作動させて基板上に形成された弁およびポンプを操作することが可能なコントローラを含む場合もあり、これに連結される場合もある(Zhouら、米国特許公開第US2007/0166199A1号)。差圧送達システムは、差圧供給源(例えば、1つまたは複数の通気ポンプ)を含みうる。差圧送達システムは、差圧供給源およびマイクロ流体デバイス本体に作動的に連結することができる。
【0109】
差圧送達システムは、デバイス内における材料の混合を可能とする。例えば、コントローラにより、リザーバーのポンプチャンバーおよび他の2つのポンプチャンバーを操作することが可能であり、これにより、材料はリザーバーのポンプチャンバー内に引き込まれ、次いで、該2つのポンプチャンバーの各々の中に部分的に引き込まれ、該2つのポンプチャンバーの1つに部分的に引き込まれた材料は、その後、リザーバーのポンプチャンバーに戻る。
【0110】
マイクロ流体デバイスはまた、コントローラを制御するコンピュータおよび/またはコンピュータソフトウェアも含みうる。
【0111】
5.2 試料調製領域および試料調製法
マイクロ流体デバイスは、試料調製領域を含みうる。一実施形態において、試料調製領域は、
試料取込みリザーバーと、
試料調製試薬リザーバーと、
試料精製媒体と
を含み、
試料取込みリザーバー、試料調製試薬リザーバー、および試料精製媒体は、流体的に相互連結される(図1〜7)。
【0112】
試料調製領域は、例えば、1つまたは複数の溶出リザーバーまたは廃棄物リザーバーを含みうる(図7)。試料調製領域はまた、細胞溶解および/または細胞溶解緩衝液、試料洗浄および/または洗浄緩衝液、試料精製および/または精製媒体のための1つまたは複数のリザーバーも含有しうる(図7)。
【0113】
試料精製媒体は、試料精製媒体リザーバー内に配置することができる。特定の実施形態において、試料精製媒体は、試料精製リザーバーの底部に配置することができる。
【0114】
代替的に、試料精製媒体は、複数の流体チャネルの1つに配置することもできる。
【0115】
試料調製領域は、試料取込み領域に流体的に連結される、試料取込みリザーバー内に対象試料を導入するための試料流入口を含みうる。
【0116】
試料調製領域はまた、試料取込みリザーバーに流体的に連結される、試料混合ダイアフラムも含みうる。
【0117】
試料調製領域は、デバイス本体上の少なくとも他の1つのリザーバーと流体的に相互連結される、試料混合リザーバーをさらに含みうる。
【0118】
一実施形態において、試料調製領域は、生物学的試料、例えば、細胞または生物の試料に熱ショックを与える熱供給源を含みうる。生検体を熱ショックに曝露することにより、例えば、既知の特定のRNA分子種を作製することができる。マイクロ流体デバイス内の検体から単離されたRNAを後で核酸増幅する際、熱ショックにより既知の特定のRNA分子種が生成されたかどうかを解析することにより、元の検体がマイクロ流体デバイス内に導入されたときにそれが生検体であったかどうかを判定することができる。
【0119】
一実施形態において、試料中の生物学的材料、例えば、細胞または組織は、試料調製工程において溶解される。別の実施形態において、生物学的材料は、抽出を受ける。化学的、機械的、電気的、超音波的、熱的などを含むがこれらに限定されない、当技術分野で知られる任意の生物学的抽出プロトコールを、本発明のマイクロ流体デバイスと共に用いることができる。
【0120】
当技術分野で知られる任意の核酸抽出精製媒体を、対象核酸の単離に用いることができる。一実施形態において、核酸の単離のための流体流路にシリカ膜を配置することができる。多孔性シリカ膜は、直径1μm未満の極細ガラス糸から作製することができる。このような媒体による核酸回収の収率は、流体流路における該ガラス糸の配向性と関係する。流体流路が短縮されることを回避し、核酸の抽出および精製に十分な媒体を確保するために、膜のサイズを流体チャネルの断面積よりも実質的に大きくすることができる。
【0121】
別の実施形態では、Boomら(米国特許第5,234,809号)の固相抽出法を用いることができる。Boomらは、核酸含有出発材料から核酸を単離する工程であって、出発材料、カオトロピック物質、および核酸結合固相を混合するステップと、そこに核酸が結合した固相を液体から分離するステップと、固相核酸複合体を洗浄するステップとを含む工程を開示している。
【0122】
核酸洗浄用に当技術分野で知られる任意の有機溶剤を用いて、核酸精製媒体上に吸収された核酸を洗浄することができる。
【0123】
核酸調製試薬は、溶解試薬またはプロテアーゼ試薬でありうる。対象の細胞試料または組織試料の溶解は、マイクロ流体デバイスの1つまたは複数の試薬リザーバーチャネルまたはリアクターにおいて実施することができる。一実施形態において、細胞溶解液(1つの試薬リザーバー内に保持される)と、その粘稠性であるかまたは非粘稠性の各試薬((1つまたは複数の)異なるリザーバー内に保持される)とのオンチップでの混合は、1つのリザーバーから他のリザーバーへと流体を持続的に送達することにより実行することができる。
【0124】
細胞溶解は、流体の操作、例えば、静かな機械的撹拌もしくは「フラッフィング」、循環、化学的溶解、または細胞溶解法の組合せなど、当技術分野で知られる方法により達成することができる。
【0125】
磁気ビーズもまた溶解に用いることができる(例えば、Lee JG、Cheong KE、Huh N、Kim S、Choi JW、Ko C、「Microchip−based one step DNA extraction and real−time PCR in one chamber for rapid pathogen identification」、Lab Chip、2006年、第6巻、第7号、886〜895頁を参照されたい)。
【0126】
磁気ビーズを用いて、当技術分野で知られる標準的な方法による精製プロトコールまたは核酸抽出プロトコールを増強することができる。例えば、溶解前に、これらを試料調製試薬として、例えば、特定の生物学的材料、細胞、組織、もしくは生物、またはこれらの部分成分に対する事前の濃縮または選択に用いることができる。
【0127】
細胞溶解/ホモジナイゼーションは、これらの目的に必要とされることが典型的な実験室設備を用いずに、マイクロ流体デバイス上で達成することができる。
【0128】
例えば、オンチップのポンプを持続的に作動させることにより、試薬リザーバーの底部に位置する多孔性ディスクを介して、試薬リザーバー内に保持される粘稠性の溶液を吸引することによりホモジナイズすることができる。
【0129】
一実施形態において、細胞溶解は、細胞試料を含有する溶液を、マイクロ流体デバイス上の狭小なチャネル(例えば、0.9mm)内で前後に吸引することにより達成することができる。このような機械的溶解を用いて、組織培養細胞をホモジナイズすることができる。
【0130】
細胞溶解はまた、細胞をせん断することによっても達成することができる。
【0131】
細胞溶解を達成するのに当技術分野でよく知られる他の方法は、カオトロピック変性(Boomら、米国特許第5,234,809号)、超音波処理、リザーバーまたはチャネルにわたり適用されるDC電圧(Wang HY、Bhunia AK、Lu C、「A microfluidic flow−through device for high throughput electrical lysis of bacterial cells based on continuous de voltage」、Biosens Bioelectron、2006年、第22巻、第5号、582〜588頁)、マイクロエレクトロメカニクスベースの圧電式マイクロ流体ミニ超音波処理(Marentis TC、Kusler B、Yaralioglu GG、Liu S、Haeggstrom EO、Khuri−Yakub BT、「Microfluidic sonicator for real−time disruption of eukaryotic cells and bacterial spores for DNA analysis」、Ultrasound Med Biol、2005年、第31巻、第9号、1265〜1277頁)、浸透圧溶解、局所的水酸化物生成による溶解、ナノスケールバーブによる機械的切断(Di Carlo D、Jeong KR、Lee LP、「Reagentless mechanical cell lysis by nanoseale barbs in microchannels for sample preparation」、Lab Chip 2003年、第3巻、第4号、287〜291頁)、凍結−融解、熱変性、リゾチーム後におけるGuSCN処理、LIMBS(レーザー照射磁気ビーズシステム;Lee JG、Cheong KE、Huh N、Kim S、Choi JW、Ko C、「Microchip−based one step DNA extraction and real−time PCR in one chamber for rapid pathogen identification」、Lab Chip、2006年、第6巻、第7号、886〜895頁)、ならびに同時に適用されるレーザーおよび機械的振動を含む。
【0132】
一実施形態において、溶解は、試料および溶解試薬を有するリザーバーの下方にあるオンチップのダイアフラムポンプを、それが作動するときに流体がダイアフラム内に引き込まれ、ダイアフラムが逆向きに作動するときにリザーバー内に再注入されるように持続的に作動させることにより実施することができる。
【0133】
生物学的試料に対する多くの調製工程は、試料の溶解を伴う。溶解用に当技術分野で用いられる溶液は、非粘稠性でもありうるが、一般に、粘稠性の溶液である。試料調製時において、処理された(溶解した)生物学的試料は、溶解した試料に由来する核酸が結合する膜を介して流動することが典型的である。その後、溶解した生物学的試料よりも粘稠度が通常はるかに低い複数種の洗浄緩衝液に同じ膜を流過させる。
【0134】
試料調製領域は、デバイス本体上における少なくとも1つの他のリザーバーと流体的に相互連結された洗浄リザーバーをさらに含みうる。
【0135】
試料調製領域は、デバイス本体上における少なくとも1つの他のリザーバーと流体的に相互連結された廃棄物リザーバーをさらに含みうる。
【0136】
試料調製領域は、デバイス本体上における少なくとも1つの他のリザーバーと流体的に相互連結された溶出リザーバーをさらに含みうる。
【0137】
核酸は、膜親和性によるなど、当技術分野で知られる方法を用いて、試料から抽出または精製することができる。一実施形態では、シリカ膜を用いることができる。試料の溶解物は、(例えば、膜の下流におけるダイアフラムポンプを用いて)膜を介して押出すこともでき、絞り出すこともでき、吸引することもできる。流体は、シリカ膜を通常の方向(垂直方向)に流動することが好ましい。一実施形態では、シリカ膜を介して溶出緩衝液を引き込むことにより、核酸を抽出することができる。別の実施形態では、当技術分野で知られる核酸抽出法、例えば、Boomら、米国特許第5,234,809号に記載の方法を用いることができる。
【0138】
溶剤(例えば、エタノール)は通常、シリカ膜または他の種類の核酸精製媒体から核酸が溶出する前に、膜から除去しなければならない。マイクロ流体デバイス本体は、試料精製媒体を通気乾燥させる手段を含みうる。一実施形態において、試料調製領域は、試料精製媒体を通気乾燥させる手段を含む。例えば、デバイス本体は、コントローラ上における通気ポンプに取り付けられたポートを装備しうる。遮断弁は、該ポートと、シリカ膜が位置する流体ネットワークのリザーバーまたはチャンバーとの間に装備される。試料および試薬が流体ネットワーク内で操作されてシリカ膜上を流動するかまたはこれを介して流動するとき、チップ上における遮断弁を閉じて流体が通気ポンプへと漏出しないことを確認することができる。
【0139】
膜が適正に準備されたら、遮断弁を開き、真空ポンプを作動させる。これにより、膜を介して空気が流動し、これを効果的に乾燥させる。代替的に、膜は、加熱によるかまたは加熱された気流によっても乾燥させることができる。
【0140】
別の実施形態では、オンチップのポンプを用いて、膜上へまたはこれを介して空気を送出するかまたは吹送するだけで、乾燥を調節することができる。
【0141】
核酸などの対象分子は、膜から除去して核酸増幅領域へと移送することができる。
【0142】
試料調製領域は、デバイス内の他のリザーバーと流体的に相互連結された核酸抽出膜リザーバーをさらに含みうる。該リザーバー内に核酸抽出膜または核酸抽出フィルターを配置することができる。
【0143】
核酸抽出膜は、例えば、核酸抽出膜リザーバーの底部に配置することができる。
【0144】
マイクロ流体デバイスは、核酸抽出膜を乾燥させる(例えば、送風、加熱、または真空乾燥により)ための領域をさらに含みうる。
【0145】
マイクロ流体デバイスのすべての領域は、酵素、溶出緩衝液、洗浄緩衝液、廃棄物保持、核酸抽出精製媒体、ヌクレオチド、プライマー配列、洗浄剤、および酵素基質を含みうるがこれらに限定されない試料処理試薬を保持および分注するリザーバーを含みうる。これらの試薬を含有するリザーバーのほか、核酸増幅領域も、マイクロ流体デバイス本体の異なる区画内に空間的に配置することができ、流体ネットワークにより互いに対して流体的に相互連結することができる。
【0146】
5.3 核酸増幅領域および核酸の増幅方法
マイクロ流体デバイス本体は、核酸増幅領域を含む。核酸増幅領域は、
核酸増幅リアクターと、
核酸増幅試薬リザーバーと、
核酸増幅産物リザーバーと、
を含み、
核酸増幅リアクター、核酸増幅試薬リザーバー、および核酸増幅産物リザーバーは、流体的に相互連結される。
【0147】
リザーバー内の核酸増幅試薬は、例えば、核酸プライマーまたは核酸鋳型、核酸増幅混合物、核酸増幅酵素、ヌクレオチド、緩衝液、または他の核酸増幅試薬でありうる。このような核酸増幅試薬は、当技術分野でよく知られている。
【0148】
該試薬リザーバーおよび産物リザーバーは、核酸増幅リアクターに連結され、核酸増幅リアクターへおよびここからの1つまたは複数の流入口を有しうる。該リザーバーは、例えば、熱サイクリングの間に核酸リアクターを効果的にシールする、(1つまたは複数の)流入口および(1つまたは複数の)流出口における弁を含有しうる。特定の実施形態において、オンチップのバルブは、送出サイクル時において気泡を生じうる。こうして、一連の弁を用いて核酸増幅試薬を核酸増幅リザーバー内に「押出す」と、核酸増幅リアクター内に除去が困難でありうる気泡が生じうる。流入口の弁を閉じ、流出口におけるポンプを用いて部分真空を発生させる(試薬を押出す代わりにこれらを吸引することにより)ことで核酸増幅チャンバーを満たすことにより、気泡なしに核酸増幅チャンバーを満たす機構がもたらされる。核酸増幅リアクターはまた、リアクター内にまず部分真空を発生させることで気泡なしにリアクターを満たすのでなく、ただ流入口の弁を開き、流出口側のポンプを用いることによっても満たすことができる。
【0149】
マイクロチャネルの作製法により、チャネルの角または縁に沿った毛細管流動が生じる場合がある。この毛細管流動は、核酸増幅リアクターの充填を妨げることがある。乾燥したマイクロ流体デバイスを用いることにより、充填の間に、流体にリアクター内面を優先的に湿潤させ、空気の捕捉を回避することができる。
【0150】
核酸増幅反応時における気泡形成は、マイクロリアクター内の問題でありうる。傾斜型核酸増幅チャンバーにより、形成された気泡をチャンバーの1つの側で回収させうる。ポリスチレンおよび核酸増幅試薬混合物の疎水特性により、核酸増幅チャンバーの1つの端部で気泡を回収する能力が損なわれる。試薬混合物は、気泡の移動または形成の補助となる各種の界面化製剤および添加剤を有しうる。界面活性剤は、ポリスチレンの疎水性表面と相互作用する。
【0151】
一実施形態において、改変リザーバーと組み合わせた傾斜型核酸増幅リアクターを用いることで、チャンバーおよび導管内のすべての気泡を追い出すことができる。この「循環」法は、混合(とりわけ、異なる密度の試薬)の増強、充填時における気泡の低減、充填後における気泡の除去能、試薬による弁の充填、および定量的PCR(qPCR)のための明確な「定量域」の提供を含む複数の利点を提供しうる。
【0152】
qPCRでは、高感度の光学検出器および光源を用いるので、入射光に干渉する気泡がない核酸増幅リアクターは有利である。一実施形態では、光学検出機器を核酸増幅リアクターの下端部に配置することで、気泡が検出に干渉しないことを確認することできる。また、弁を液体で満たすことにより、液体なしの(空気)弁と比較して、弁のシールを改善する一助となることも観察されている。液体の表面張力は温度に反比例するので、高温時には循環送出を行うことにより核酸増幅リアクター内に捕捉された気泡を除去することもできる。
【0153】
別の実施形態では、ワックスまたは油を用いて核酸増幅リアクターをシールすることもできる。チップ作製工程時におけるチャンバーのコーティングまたは反応混合物への油/ワックスの組込み(例えば、熱によりワックスを溶融させ、再固形化時に反応物上にコーティングを形成させる;代替的には、反応物上に油を配置する;例えば、「Current Protocols in Molecular Biology」、ユニット15.1、「Enzymatic Amplification of DNA by PCR.Standard Procedures and Optimization」;Quin Chou、Marion Russell、David E.Birch、Jonathan Raymond、およびWill Bloch、「Prevention of pre−PCR mis−priming and primer dimerization improves lowcopy−number amplifications」、Nucleic Acids Research、1992年、第20巻、第7号、1717〜172頁を参照されたい)。
【0154】
別の実施形態において、試料調製領域で抽出された核酸は、核酸増幅領域へと誘導される(すなわち、押出されるか、吸引されるか、絞り出されるか、または送出される)。核酸は、混合リザーバーにおいて1種または複数種の核酸増幅試薬と混合され、次いで、該混合物は、核酸増幅リアクターへと誘導され、そこで、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素(RT−)PCR、cDNA末端迅速増幅(RACE)、ローリングサイクル増幅、核酸配列ベース増幅(NASBA)、転写物媒介増幅(TMA)、およびリガーゼ連鎖反応を含むがこれらに限定されない、当技術分野で知られる任意の熱媒介的な核酸増幅を実施することができる。
【0155】
一実施形態において、核酸増幅のための熱サイクリングは、その薄さを踏まえると著明な熱障壁を提示しない一方で、コントローラのマニホールド上に位置するヒーターと増幅リアクターとの間の良好な接触も提供する、弁およびポンプを作製するのに用いられる膜を介して実施される。
【0156】
特定の実施形態において、核酸増幅チャンバーは、熱サイクルリアクターまたは熱サイクルチャンバーである。熱サイクルチャンバーの底部は、例えば、ポリスチレンの薄層であり得る。熱サイクルチャンバーの底部は、熱サイクリング間に、マイクロ流体デバイスの本体上または本体内に配置されていない(例えば、本体外部の)ヒーターにより加熱することができる。
【0157】
別の実施形態において、核酸増幅(例えば、PCR)リアクターは、マイクロ流体デバイス本体の基板内において、弱溶剤接着法または弱溶剤積層法(参照によりその全体において本明細書に組込まれる、US2006/0078470)を用いることによるポリスチレン薄膜により提供される(3方を壁で囲まれた)チャネル構造を格納することにより作製される。弱溶剤接着の使用は、その中に配置されるマイクロフィーチャの完全性および信頼性を保つ一方で、このような適用におけるポリスチレンの使用を可能として有利である。
【0158】
薄膜は、非常に低い熱抵抗を提供し、このために、迅速な熱サイクルを可能とする。該膜はまた可撓性でもあり、ヒーターとの優れた接触を可能とする。チャンバーは、オンチップの弁およびポンプにより、単一または複数の試薬流入リザーバーおよび単一または複数の流出リザーバーに流体的に連結される。
【0159】
別の実施形態において、核酸増幅リアクターは、マイクロ流体デバイス本体において形成される円形、矩形、四角形、または他の開口部形状に弱溶剤積層法を用いてポリスチレン薄膜を積層させることにより作製される。壁で囲まれた基板開口部と該開口部の底部に隣接する膜との間に形成される増幅リアクターにより、周囲圧力条件下の高温における増幅反応の実行が可能となる。
【0160】
マイクロ流体デバイス上に接着された膜を用いて、核酸増幅、例えば、迅速PCR熱サイクリング用リアクターを提供することができる。薄膜は、システムの断熱性を低減するため、核酸増幅リアクターの底部として与えることができる。
【0161】
核酸増幅は、熱サイクルを必要とする。このサイクルは、リアクター内の試薬へおよびここからの熱の伝導を必要とする。一部の実施形態において、マイクロ流体デバイス本体および核酸増幅は、熱伝導性が低いポリスチレン(PS)から作製される。リアクター内における流体の温度を迅速に変化させるためには、PS材料の薄層が好ましい。マイクロ流体デバイスの通常の製作時には、熱サイクルリアクターの底部をシールする25μm厚の膜が装備される。
【0162】
マイクロ流体デバイスはまた、コントローラのマニホールド上に配置すると、電極に接触し、熱サイクリング用のヒーターに電力を供給しうる、抵抗ヒーターをデバイス上に組込むこともできる。
【0163】
核酸増幅の場合、コントローラのマニホールド上のヒーターがこの膜に対して配置され、リアクターを加熱および冷却する熱抵抗の低い経路を提供する。
【0164】
別の実施形態において、加熱エレメントは、分子増幅リアクターを格納するポリスチレン膜と直接に接触する増幅リアクターの下方に配置することができる。代替的に、ヒーターとリアクター底部膜との間に、熱伝導性材料を配置することもできる。核酸増幅リアクターの各態様に応じ、リアクターは、数分の一マイクロリットル〜数十マイクロリットルの範囲の容量を有して有利である。
【0165】
別の実施形態において、核酸増幅リアクターは、クランプによる支持を受けることで、チャンバーの底部と、チャンバーの底部を画定する膜に対して配置されるヒーターとの間の接触を確保することができる。クランプはまた、リアクターの上部壁面に対する支持体としても作用し、変形を最小化することが可能である。
【0166】
前述のヒーターは、従来の表面実装電子抵抗器、薄膜ヒーター、赤外線送出器、ラジオ周波数、または他の既知のマイクロヒーターなど各種のものでありうる。一実施形態において、ヒーターは、1つまたは複数の抵抗温度検出器(RTD)を含みうる。ある態様では、2つのRTDを加熱に用い、1つを温度感知に用いることができる。代替的に、単一のRTDを加熱および温度感知に用いることで、より小さな形状因子をもたらすこともできる。1つまたは複数のRTDは、チップに内に組込むことで、リアクターの基底部を形成することができる。ヒーターは、条件文制御または他の既知の制御法により制御することができる。ある有利な態様では、RTDと共にフィードバック制御を用いて、核酸増幅の設定点温度に達したことを確認する。
【0167】
一実施形態では、抵抗温度検出器(RTD)を、核酸増幅リアクターを熱サイクリングさせる温度センサーおよび抵抗ヒーターとして用いることができる。RTDは当技術分野でよく知られており、市販されている(コネチカット州、スタンフォード、Omega Engineering社製)。RTDは、抵抗−温度間における既知の一次微分関係による高精度の抵抗器である。したがって、抵抗の変化を測定することにより、温度の変化を測定することができる。これらのセンサーは、巻線または沈着薄膜としての白金から作製されることが典型的であり、100オームの公称抵抗を有する。RTDの構築は基本的に抵抗器の構築なので、このように用いることができる。当技術分野でよく知られる適切な回路設計により、単一のRTDを用い、加熱モードと感知モードとを切り替えることができる。代替的に、一部が専用ヒーターとして作動し、その他が専用センサーとして作動するRTDの組合せを用いることもできる。これらの構築により、コンパクトな加熱および温度感知の解決策がもたらされる。
【0168】
本発明のマイクロ流体デバイスと共に、当技術分野で知られる任意の核酸増幅プロトコールを用いることができる。
【0169】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素(RT−)PCR、cDNA末端迅速増幅(RACE)、ローリングサイクル増幅、核酸配列ベース増幅(NASBA)、転写物媒介増幅(TMA)、およびリガーゼ連鎖反応を含むがこれらに限定されない、当技術分野で知られる核酸増幅プロトコールを、本発明のマイクロ流体デバイス及び方法を伴う使用に適合させることができる。
【0170】
マイクロ流体デバイス上では、複数の異なる反応を含むプロトコールを組み合わせて実行することができる。
【0171】
例えば、試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有する、図8〜11および12〜16に示すデバイス上において、オンチップのDNA抽出/PCRプロトコールを実行することができる。図11は、図10に示すマイクロ流体デバイス内における、「細胞」、「エタノール」、「ミキサー」、「廃棄物」、「溶出」、「NA1」、「NA2」、「AW1」、「AW2」と称する複数の試薬リザーバーの例示的な配置(配置図)を示す。この実施形態によれば、「細胞」は懸濁した細胞およびプロテイナーゼKを保有し、「ミキサー」は緩衝液ALを保有し、「エタノール」はエタノールを保有し、「AW1」は洗浄緩衝液AW1を保有し、「AW2」は洗浄緩衝液AW2を保有し、「溶出」は溶出緩衝液AEを保有し、「NA1」は核酸リザーバー1であり、「NA2」は核酸リザーバー2であり、「増幅マスター混合物」は増幅マスター混合物リザーバーであり、「単位複製配列流出1」は増幅流出リザーバー1であり、「単位複製配列流出2」は増幅流出リザーバー2であり、「廃棄物」は廃棄物リザーバーである。オフチップ解析ゾーンへの「単位複製配列1流出口」および「単位複製配列2流出口」のほか、増幅リアクターもまた示される。一実施形態において、オンチップのDNA抽出/PCRプロトコールは、以下の通りに実行することができる:
1.すべての溶液をそれぞれのリザーバーに添加する;
2.「細胞」−「ミキサー」間で細胞を複数回(例えば、10分間にわたり5回)循環させて細胞を溶解し、「ミキサー」内に残存する最終流過物と混合する;
3.「エタノール」から「ミキサー」へとエタノールを送出する;
4.「ミキサー」内でエタノール/細胞溶液を混合する;
5.溶解した細胞溶液を、精製媒体を介して「廃棄物」へと送出する(例示的な態様によれば、精製媒体はシリカ膜を含む);
6.洗浄緩衝液AW1を、精製媒体を介して「廃棄物」へと送出する;
7.洗浄緩衝液AW2を、精製媒体を介して「廃棄物」へと送出する;
8.精製媒体上に吸収されたアルコールを除去する(これは、精製媒体を介して空気を引き込む、コントローラに装備されたポンプにより達成することができる);
9.乾燥ポンプを停止させる;
10.溶出緩衝液AEを、「溶出」から精製媒体(膜)を介して「NA1」へと送出する;
11.溶出緩衝液AEを、「溶出」から精製媒体(膜)を介して「NA2」へと送出する;
12.増幅試薬を、増幅マスター混合リザーバーから「NA2」へと送出する;
13.増幅混合物を、「NA2」から核酸増幅リアクターを介して「単位複製配列流出1」へと送出する;
14.核酸増幅リアクター内において、残りの増幅混合物を熱サイクリングする;
15.増幅産物を、増幅リアクターから「単位複製配列流出2」へと送出する;
16.増幅産物を、「単位複製配列流出2」から核酸解析領域へと送出して検出する。
【0172】
5.4 核酸解析領域および解析法
マイクロ流体デバイスは、核酸解析領域を含みうる。核酸解析領域では、核酸増幅反応から結果として得られる単位複製配列を検出することができる。核酸解析領域には、当技術分野で知られる任意の単位複製配列検出アッセイを容易に適合させることができる。核酸精製領域、核酸増幅領域、および核酸解析領域の各々は、少なくとも1つの流体流路により、他の2つの領域の少なくとも1つと流体的に相互連結することができる。
【0173】
別の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、試料調製領域および核酸増幅領域を含みうるが、本体上の核酸解析領域を欠く場合がある。代わりに、核酸の検出は、マイクロ流体デバイスとは別の領域において(または検出器により)実施することができる(図8〜16)。
【0174】
核酸解析領域を含むマイクロ流体デバイスの実施形態において、核酸解析領域は、検出アッセイが実行されるリアクター(リザーバー)または反応領域と、以下:ハイブリダイゼーション緩衝液、高厳密性の洗浄緩衝液、低厳密性の洗浄緩衝液、またはコンジュゲーション基質のいずれかのための1つまたは複数のリザーバーを含みうる。
【0175】
一実施形態において、核酸解析領域は、対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するための領域を含む。
【0176】
本発明は、対象核酸の検出法を提供する。一実施形態では、対象核酸を含有することが疑われる試料を得る。マイクロ流体デバイスの試料調製領域に試料を導入し、核酸増幅用に調製する。調製された試料を核酸増幅リアクターに導入し、核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅する。次いで、増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入し、増幅された対象核酸を検出する。検出するステップは、増幅された対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するステップ、例えば、当技術分野で知られる標準的な方法を用いる核酸ハイブリダイゼーションを検出するステップなど、評価項目検出アッセイを実施するステップを含みうる。
【0177】
一実施形態において、検出するステップは、色強度、蛍光強度、電気信号強度、または化学発光強度を可視化するステップを含みうる。
【0178】
別の実施形態において、検出するステップは、試料中における少なくとも1種の対象分子に対応する強度値を発生させるステップを含みうる。
【0179】
別の実施形態において、強度値は、色強度値、蛍光強度値および化学発光強度値、電流または電圧からなる群から選択しうる。
【0180】
別の実施形態において、色強度値を発生させるステップは、試料に対応する画像を解析またはデジタル化して複数の画素を発生させるステップと、複数の画素の各々に対して複数の数値を与えるステップと、数値を生じさせて色強度値を提供するステップと
を含みうる。
【0181】
別の実施形態では、閾値を計算し、色強度値を閾値と比較して対象分子を検出することができる。
【0182】
別の実施形態では、少なくとも1つの色強度値と閾値とをデータベースに保存することができる。閾値は、少なくとも1種の陰性対照試料を用いて計算することができる。
【0183】
被験体における対象の疾患または障害の存在または素因を判定する方法もまた提供される。一実施形態において、該方法は、
a)対象の疾患または障害と関連する核酸を含有することが疑われる試料を被験体から得るステップと、
b)試料中における対象の疾患または障害と関連する核酸を検出するステップと
を含むことができ、該検出するステップは、
対象核酸を含有することが疑われる試料を得るステップと、
本発明のマイクロ流体デバイスを用意するステップと、
試料調製領域に試料を導入するステップと、
核酸増幅用に試料を調製するステップと、
調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、
核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、
増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入するステップと、
増幅された対象核酸を検出するステップと
を含み、増幅された対象核酸の検出が、対象の疾患または障害の存在または素因と関連する。
【0184】
検出するステップは、増幅された対象核酸の量(またはレベル)を決定するステップを含み、ここで、該方法は、該量(またはレベル)を対象核酸のあらかじめ選択された量(またはレベル)と比較するステップをさらに含む。一実施形態において、該量(またはレベル)とあらかじめ選択された量(またはレベル)との間の差は、対象の疾患または障害の存在または素因を示す。
【0185】
核酸解析領域内で実施しうる核酸検出法は、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、in situにおける結果の視覚化、電気化学的検出など、当技術分野でよく知られる方法を含みうるがこれらに限定されない。
【0186】
特定の実施形態において、核酸解析領域は、リバースドットブロットアッセイを実施して、単位複製配列を検出するための反応チャンバーまたは反応領域を含みうる。このようなアッセイは当技術分野でよく知られている。核酸解析領域はまた、リバースドットブロットアッセイにおける相互反応を検出する、例えば、リバースドットブロット基質またはリバースドットブロット挿入物上における相互反応を検出するための領域を含みうる。代替的に、該基質または挿入物は、マイクロ流体デバイスから取り外して、別のリーダーまたは検出器内に挿入することもできる。
【0187】
一実施形態において、核酸解析領域は、リザーバー内に取り付けられ、フィルター下部にフリットを有する、RDBフィルターを含みうる。リザーバーは、ヒーターを伴うかまたは伴わずに取り付けることができ、能動的な送出のためのより大型のダイアフラムを有しうる。ハイブリダイゼーション緩衝液と混合され、RDBフィルターを介してフィルターに垂直な方向に送出された単位複製配列が、核酸増幅リアクターから直接に送達されうる。
【0188】
フリットを用いて、混合物がRDBフィルターを均一に流過するように保つことができる。ハイブリダイズした単位複製配列に後ほどコンジュゲートを結合させて活性化させ、市販の自動リーダーにより検出するかまたは読み取ることができる。
【0189】
大型のダイアフラムを用いて、混合物を「フラッフィング」(すなわち、静かな機械的撹拌による)し、核酸解析領域におけるより迅速な核酸ハイブリダイゼーションを促進することができる。
【0190】
標準的なベンチトップ手順では、スポットされた膜をプラスチックバッグおよびまたはチューブ内に配置し、次いで、これを温度制御された水浴中に入れて用いる。ベンチトップ手順を補完するためにいくつかのデバイスが作製されており、これらのデバイスでは、ゴム製ガスケット付きの金属、プラスチック、またはガラス製大型マニホールドを用いて、膜を介する流動を供給している。これらの設計では、シーリングクッションまたはガスケットを有する固体支持体を用いる。有孔の金属プレートもまた、構造を支持し、流体にブロット膜を自由に流過させるのに用いられている。
【0191】
Immunetics社製のMiniSlot(登録商標)& Miniblotter(登録商標)システムは、並行するマイクロチャネルと、これを支持する底部プレートとの間で膜を挟み込む「シーリングクッション」を用いる。特定の実施形態において、Immunetics社製システムなど、当技術分野で知られる2つのシステムを用いて、互いに垂直であり、このため、グリッド様パターンを創出する、2つの流動方向を創出することができる。
【0192】
RDB流動の設計は、小領域内におけるスポットアレイ用に設計することができる(図40〜41)。膜の下方には、多孔性の固体支持体を用いることができる。膜は、リザーバーの周囲だけに接着され、これにより、膜を介する流体の流動に対する干渉が回避される一方、また、膜の周囲を介する流体の流動も防止される。RDBリザーバーへと/から流体を送出するのに用いられる弁は大型で、圧力の急激な変化を受ける。大量の流体の流動は、面取り層により均一に分配され、多孔性の固体支持体により媒介される。多孔性の固体支持体は、流体に膜をゆっくりと流過させるだけでなく、膜を介して流動を均一に分配するのにも用いられる(図40)。膜はリザーバーの周囲に固定される(図41)。面取り層を小孔で置き換えることもできるが、この代替法は、小孔のサイズおよび位置に基づく最適化を必要とする。面取り貫通孔により、圧力が膜全体に均一に分配され、ほとんど〜まったく最適化を必要としない。多孔性の固体支持体はまた、送出および「フラッフィング」時における膜の大きなたわみも防止する。膜を介する流体の流動により、固定化されたオリゴヌクレオチドと、溶液中の標的DNAとのハイブリダイゼーションが増大する。流動は、ハイブリダイゼーション工程を通じて拡散に制約されず、このため、ハイブリダイゼーション反応は迅速に進行する。
【0193】
5.5 マイクロ流体デバイスのさらなる構成要素および配置
マイクロ流体デバイスは、マイクロ流体デバイスの内部または外部に位置し、マイクロ流体デバイスまたはマイクロ流体デバイス上の特定の領域に作動的に連結される差圧送達システム、例えば、コントローラをさらに含みうる。一実施形態では、US2007/0166199A1(参照により本明細書に組込まれるZhouら、2008年7月19日)において開示されるコントローラを用いることができる。該コントローラは、一方が陽圧であり、他方が陰圧である、2つの圧力供給源を装備しうる。弁をシールするのに陽圧を用いうる一方、ダイアフラムを開くのには陰圧を用いうる。該配置により、ポンプ内における流体圧が弁よりも高圧とならず、弁による漏れが防止される。一態様において、コントローラ上におけるソレノイドマニホールドは、3つの圧力容器を含有しうる。この配置により、ソレノイド間における「クロストーク」を防止し、弁に供給される圧力が、近接する制御ソレノイドの変化に関わらず不変を保つ状態がもたらされる。
【0194】
コントローラは、例えば、複数の開口部を有する空気圧マニホールドと、開口部の各々からマイクロ流体デバイス(「チップ」)内における複数の圧力作動膜(ダイアフラム)へと空気圧信号を送るためのチャネルがその中に配置された、チップマニホールドとを含みうる(米国特許公開第US2007/0166199A1号(Zhouら、2008年7月19日)を参照されたい)。チップ駆動マニホールド内のチャネルは、マイクロ流体チップ内における複数の圧力作動膜の構成に符合する空気圧信号を送ることが可能である。空気圧信号をマイクロ流体チップ内における少なくとも1つの信号回路に送り、該信号回路に連結された少なくとも1つのセンサーを作動させることができる。チップ駆動マニホールドは、空気圧マニホールドの単一の開口部から、マイクロ流体チップ内における複数の圧力作動膜へと空気圧信号を送るための、少なくとも1つのチャネルまたは一連のチャネルを含みうる。(1つまたは複数の)チャネルにより、該開口部からの空気圧信号が、単一のチャネルから分枝するチャネルネットワークへと送られる。単一のチャネルから分枝するチャネルネットワークにより、空気圧信号が、複数の圧力作動膜の各々へと送られる。
【0195】
他の実施形態において、マイクロ流体デバイスは、コントローラのマニホールド上に配置される、真空、圧力、電気、および光の入力/出力のための連結手段を含みうる。このような連結手段は、当技術分野でよく知られている。
【0196】
一実施形態において、通気口を備えたカバープレートを、試薬リザーバーの上部に固定的に配置することで、環境からの潜在的な汚染を防止することができる。
【0197】
本明細書に記載の実施形態によれば、自動的な試料の調製/精製および増幅を可能とする構造および工程が、単一のマイクロ流体デバイスプラットフォーム上に統合される。手作業による投入は不要である。
【0198】
5.6 差圧送達供給源およびマイクロ流体デバイス上における流体の送出
マイクロ流体デバイスは、機械通気ポンプまたは一連の通気ポンプなどの差圧送達供給源を含む場合もあり、これに連結される場合もある。
【0199】
広範に異なる溶液(すなわち、一実施形態における粘稠性または非粘稠性の溶液を送出する際の問題を克服するため、シリカ膜など、特定のマイクロ流体エレメントの「上流」または「下流」にポンプを配置し、いずれのポンプもこのようなマイクロ流体エレメントを介して最良の形で流体を送出するように作動させることができる。これらの各々をマイクロ流体デバイス上で一体に統合することで、同じ膜を介して粘稠性および非粘稠性の流体を送出する可変圧力を供給することができる。別個の通気ポンプもまた、核酸増幅領域への核酸の溶出前に膜を乾燥させるのに十分な気流を供給しうる。
【0200】
オンチップのポンプは、二段式ポンプを創出しうる。一実施形態において、高粘稠度の流体には膜の下流にあるポンプを用い、膜を介してこれを吸引することができ、低粘稠度の流体には膜の上流にあるポンプを用い、膜を介してこれを押出すことができる一方、乾燥工程では、別個の通気ポンプを用い、開いた弁および膜を介して空気を持続的に吸引することができる。オンチップのポンプはまた、生物学的試料および洗浄緩衝液/試薬を別個の場所(例えば、マイクロ流体デバイス上の廃棄物リザーバー)に送出するのにも用いることができ、膜を通気乾燥する際、通気ポンプが試料または試薬を引き込まないように弁を閉じることができる。これは、生物学的に感受性の試料に対する重要な考慮点でありうる。
【0201】
5.7 オンチップにおける流体の混合
2種以上の個別の流体を迅速に混合する能力は、流体システムの共通の特徴である。一実施形態において、マイクロ流体デバイスは、試薬リザーバー下方のダイアフラムが流体を下方へと引き下ろし、次いで、ノズルを介して流体を上方へと押し上げることでこのようなリザーバーの底部からパルスジェットを発生させ、該リザーバー内で流体を混合するのに用いうる、リザーバーの下方に作製される小型のノズル構造を含むことができる。これは、反応混合物の「フラッフィング」に用いることができる。このようなフラッフィングを用いて、例えば、試薬リザーバー内において、より大きな容量および異なる粘稠度の溶液を混合することができる。
【0202】
一実施形態において、フラッフィングは、マイクロ流体デバイス上のリザーバー下方の大型ダイアフラムを用い、リザーバー底部のノズルを介して流体を反転送出することで固有の混合流動パターンを提供することにより達成することができる。一実施形態では、ノズルおよびリザーバーにより創出される流動方式をミキサーとして用いることができる(図17)。デバイス上にはダイアフラムが装備される。このダイアフラムには、流動チャネルおよび貫通ポートが取り付けられる。貫通孔の上部には、リザーバーが装備される。ダイアフラムが作動し、リザーバーが十分に満たされているときは、流体のジェットがリザーバー内に含有される流体を上方へと貫通する。ダイアフラムが格納されているときは、流体が該ポートを介してリザーバーから下方へと吸引される。次いで、ダイアフラムが反転されるときは、流体ジェットがリザーバー内へと大量に流入するものの、その後の逆流により流体はリザーバー底部から引き戻される。これにより、混合の有効な手段が与えられる。
【0203】
5.8 多重ヒーターの条件付き同期化
1つの測定器を用いるコンポーネントサブシステムを共有する多重マイクロ流体デバイスを作動させるために、多重ヒーターを用いることができる。そのすべてがコンポーネントサブシステムを共有する多重マイクロ流体デバイスを作動させる場合、すべてのデバイスが同時にサイクリングを終了することが望ましい。これを実行するためには、熱サイクリングを同期させなければならない。一実施形態において、これは、温度設定点をセンサーからの温度測定値と比較する制御ソフトウェアにおける条件付き論理文を用いて達成することができる。
【0204】
各ヒーターは、他のヒーターと同じである場合もあり、同じでない場合もある、特定の温度に設定することができる。次いで、使用者は、所望の条件が満たされるまでは制御ソフトウェアにループを実行させる条件文を容易に作成することができる。このループは、単純な時間の遅延、またはヒーター温度が設定点まで移動する間に実行すべき他のコマンドを含有しうる。該条件が満たされると、プログラムが続行され、次のコマンドが実行される。
【0205】
5.9 マイクロ流体デバイスへの対流熱伝導
本発明のマイクロ流体システムの特定の実施形態において、デバイスは、取り外し可能であり、ディスポーザブルである。これらの実施形態では、加熱エレメントがデバイスに直接には接触しない加熱システムを用いることができる。これにより、デバイス/マニホールド間の接触面が簡素化される。デバイスから加熱エレメントが除去される場合も、やはり、必要とされる領域に熱を伝導させなければならない。強制対流を用いることにより、加工されたチャネルまたはチューブを介して、オフチップのヒーターからデバイスの所与の領域へと熱を伝導させることができる。ヒーターおよび該接触面の両方に対する設計上の制約が簡素化される。
【0206】
抵抗エレメントをチューブ内に配置し、流体にこのチューブ内を流動させることにより、流体を加熱することができる。温度感知エレメントを流体蒸気中に配置することで、温度を測定し、この値を制御システムにフィードバックする。次いで、チャネルおよびポートを介して、加熱された流体を、加熱を要するデバイスの領域へと送ることができる。
【0207】
5.10 誘導加熱
本発明の別の実施形態では、デバイス上における加熱操作(例えば、PCR熱サイクリングまたはRDB)に、誘導ヒーターを用いることができる。この適用における誘導ヒーターの大きな利点は、加熱の局在化、熱伝導の効率、およびマイクロ流体デバイスへの直接の接続の欠如(すなわち、マイクロ流体デバイスへの電気的接触が不要である)である。
【0208】
5.11 空気圧冷却
NA増幅反応時において、熱サイクリングに用いられるヒーターは迅速に冷却されなければならない。冷却は、当技術分野で知られる任意の対流冷却エレメントまたは空気圧冷却エレメントにより達成することができる。例えば、小型の通気ポンプ出力からのチューブを用いて、ヒーターを冷却することができる。PCR操作温度は50〜100℃なので、空気圧冷却は、25℃の室温で作用する。加熱エレメントと、ヒーターと接触する空気との間の温度差が大きいほど、該エレメントは迅速に冷却される。ヒートシンクまたは熱電式冷却器をシステムに接続することにより、その効果を増大させることができる。
【0209】
5.12 核酸
特定の実施形態において、本発明は、対象の核酸分子(本明細書ではまた、「対象核酸」、「標的核酸」、「標的ポリヌクレオチド」とも称する)を増幅および/または単離する方法を提供する。単離核酸分子(または「単離核酸」)とは、該核酸分子の天然の供給源に存在する他の核酸分子から分離された核酸分子(または「核酸」)である。「単離」核酸は、該核酸がそこに由来する生物のゲノムDNA内において、該核酸に天然の形で隣接する核酸配列(すなわち、該核酸の5’端および3’端に位置する配列)(例えば、タンパク質をコードする配列)を含有しない。他の実施形態において、単離核酸は、イントロン配列を含有しない。
【0210】
「対象核酸」、「標的核酸」、「標的ポリヌクレオチド」とは、特定の対象ポリヌクレオチド配列の分子を指す。本発明の方法により解析しうる対象核酸は、ゲノムDNA分子、cDNA分子、およびオリゴヌクレオチド、発現配列タグ(「EST」)、配列タグ部位(「STS」)などを含むこれらのフラグメントなどのDNA分子を含むがこれらに限定されない。本発明の方法により解析しうる対象核酸はまた、メッセンジャーRNA(mRNA)分子、リボソームRNA(rRNA)分子、cRNA(すなわち、in vivoで転写される、cDNA分子から調製されるRNA分子)などであるがこれらに決して限定されないRNA分子も含む。各種の実施形態において、単離核酸分子は、該核酸がそこに由来する細胞のゲノムDNA内において、該核酸分子に天然の形で隣接する核酸配列の約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kb、または0.1kb未満を含有しうる。さらに、cDNA分子などの単離核酸分子は、他の細胞物質、組換え法により作製される場合の培地、または化学的に合成される場合の化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含有しないことが可能である。
【0211】
対象核酸は、DNAもしくはRNAまたはそのキメラ混合物もしくは誘導体もしくは修飾形でありうる。核酸は、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格において修飾可能であり、他の付属の基または標識を含みうる。
【0212】
例えば、一部の実施形態において、核酸は、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、ベータ−D−ガラクトシルキュエオシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、ベータ−D−マンノシルキュエオシン、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、シュードウラシル、キュエオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6−ジアミノプリンを含むがこれらに限定されない群から選択される、少なくとも1つの修飾塩基部分を含みうる。
【0213】
別の実施形態において、核酸は、アラビノース、2−フルオロアラビノース、キシルロース、およびヘキソースを含むがこれらに限定されない群から選択される、少なくとも1つの修飾糖部分を含みうる。
【0214】
さらに別の実施形態において、核酸は、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミドチオエート、ホスホルアミデート、ホスホルジアミデート、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステル、およびホルムアセタール、またはこれらの類似体を含むがこれらに限定されない群から選択される、少なくとも1つの修飾リン酸骨格を含みうる。
【0215】
プライマー、プローブ、または鋳型として用いられる核酸は、市販品を購入することもでき、当技術分野で知られる標準的な方法により、例えば、自動DNA合成器(カリフォルニア州、ナバト、Biosearch Technologies社;カリフォルニア州、フォスターシティー、Applied Biosystems社から市販される合成器など)および標準的なホスホルアミド化学反応の使用によるか、または非特異的な核酸切断用の化学物質もしくは酵素または部位特異的な制限エンドヌクレアーゼを用いるより大型の核酸フラグメントの切断により誘導することもできる。
【0216】
1つの動物種に由来する対象核酸の配列が知られ、別の動物種に由来する対応の遺伝子が所望される場合、当技術分野では、既知の配列に基づいてプローブを設計することが日常的である。該プローブは、それに由来する配列が所望される動物種に由来する核酸にハイブリダイズし、これは、例えば、対象動物種に由来するゲノムライブラリーまたはDNAライブラリーに由来する核酸に対するハイブリダイゼーションである。
【0217】
一実施形態では、増幅されて単離された対象核酸と相補的であるか、または中程度に厳密な条件下でこれとハイブリダイズ可能な核酸分子が、プローブとして用いられる。
【0218】
別の実施形態では、増幅された対象核酸と中程度に厳密な条件下でハイブリダイズするか、またはこれと少なくとも95%相補的な核酸分子が、プローブとして用いられる。
【0219】
別の実施形態では、対象のヌクレオチド配列またはその相補体と少なくとも45%(または55%、65%、75%、85%、95%、98%、もしくは99%)同一な核酸分子が、プローブとして用いられる。
【0220】
別の実施形態では、対象核酸またはその相補体のうち、少なくとも25(50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、500、550、600、650、700、800、900、1000、1200、1400、1600、1800、2000、2400、2600、2800、3000、3200、3400、3600、3800、または4000)ヌクレオチドのフラグメントを含む核酸分子が、プローブとして用いられる。
【0221】
別の実施形態では、対象のヌクレオチド配列を有する増幅された核酸分子またはその相補体と中程度に厳密な条件下でハイブリダイズする核酸分子が、プローブとして用いられる。他の実施形態では、少なくとも25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、500、550、600、650、700、800、900、1000、1200、1400、1600、1800、2000、2200、2400、2600、2800、3000、3200、3400、3600、3800、または4000ヌクレオチドの長さでありえ、対象の増幅された核酸分子またはその相補体と中程度に厳密な条件下でハイブリダイズしうる核酸分子が、プローブとして用いられる。
【0222】
増幅された対象核酸を検出するためのプローブ(または鋳型)として用いうる核酸は、当技術分野で知られる任意の方法により、例えば、プラスミドから、対象ヌクレオチド配列の3’端および5’とハイブリダイズ可能な合成プライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、かつ/または該ヌクレオチド配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いるcDNAライブラリーもしくはゲノムライブラリーからクローニングすることにより得ることができる。ゲノムクローンは、適切なハイブリダイゼーション条件下、例えば、プローブされるゲノムDNAに対するプローブの類縁性に応じて、高度に厳密な条件下、低度に厳密な条件下、または中程度に厳密な条件下において、ゲノムDNAライブラリーをプローブすることにより同定することができる。例えば、対象のヌクレオチド配列に対するプローブとゲノムDNAとが同じ動物種に由来する場合は高度に厳密なハイブリダイゼーション条件を用いることができるが、該プローブとゲノムDNAとが異なる動物種に由来する場合は低度に厳密なハイブリダイゼーション条件を用いることができる。高度、低度、および中程度に厳密な条件は、当技術分野でよく知られている。
【0223】
増幅された対象核酸は、当技術分野で知られる標準的な方法を用いて、検出可能な形で標識することができる。
【0224】
検出可能な標識は、例えば、ヌクレオチド類似体の組込みによる蛍光標識でありうる。本発明での使用に適する他の標識は、ビオチン、イミノビオチン、抗原、補因子、ジニトロフェノール、リポ酸、オレフィン化合物、検出可能なポリペプチド、電子に富む分子、基質上における作用により検出可能なシグナルを発生させることが可能な酵素、および放射性同位体を含むがこれらに限定されない。好ましい放射性同位体は、少数を挙げれば、32P、35S、14C、15N、および125Iを含む。本発明に適する蛍光分子は、フルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、テキサスレッド、5’−カルボキシ−フルオレセイン(「FMA」)、2’,7’−ジメトキシ−4’,5’−ジクロロ−6−カルボキシ−フルオレセイン(「JOE」)、N,N,N’,N’−テトラメチル−6−カルボキシ−ローダミン(「TAMRA」)、6’−カルボキシ−X−ローダミン(「ROX」)、HEX、TET、IRD40、およびIRD41を含むがこれらに限定されない。本発明に適する蛍光分子は、Cy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、およびFluorXを含むがこれらに限定されないシアミン色素;BODIPY−FL、BODIPY−TR、BODIPY−TMR、BODIPY−630/650、およびBODIPY−650/670を含むがこれらに限定されないBODIPY色素;ならびにALEXA−488、ALEXA−532、ALEXA−546、ALEXA−568、およびALEXA−594を含むがこれらに限定されないALEXA色素のほか;当業者に知られる他の蛍光色素をさらに含む。本発明に適する、電子に富む指示分子は、アフェリチン、ヘモシアニン、および金コロイドを含むがこれらに限定されない。代替的に、増幅された対象核酸(標的ポリヌクレオチド)は、第1の基をそれに対して特異的に複合体化させることに標識することができる。指示分子に共有結合し、第1の基に対する親和性を有する第二の基を用いて、標的ポリヌクレオチドを間接的に検出することができる。このような実施形態において、第1の基としての使用に適する化合物は、ビオチンおよびイミノビオチンを含むがこれらに限定されない。
【0225】
1種または複数種のプローブと相補的な配列を有するポリヌクレオチド分子が該プローブにハイブリダイズする条件下で、本発明の方法により増幅および解析される(例えば、検出される)対象核酸を、該プローブに接触させることができる。本明細書で用いられる「プローブ」とは、該プローブに対する標的ポリヌクレオチド分子のハイブリダイゼーションが検出されるように、特定の配列(一般には、プローブ配列に相補的な配列)を有する対象の核酸分子がそれに対してハイブリダイズすることが可能な、特定の配列のポリヌクレオチド分子を指す。プローブのポリヌクレオチド配列は、例えば、DNA配列、RNA配列、またはDNAおよびRNAのコポリマー配列でありうる。例えば、プローブのポリヌクレオチド配列は、細胞から抽出されたゲノムDNA配列、cDNA配列、mRNA配列、またはcRNA配列の完全であるかまたは部分的な配列でありうる。プローブのポリヌクレオチド配列はまた、例えば、当業者に知られるオリゴヌクレオチド合成法によっても合成することができる。プローブ配列はまた、in vivoで酵素的に、in vitroで酵素的に(例えば、PCRにより)、またはin vitroで非酵素的に合成することもできる。
【0226】
本発明の方法において用いられるプローブは、該1種または複数種のプローブおよびこれらに結合するかまたはハイブリダイズした任意のポリヌクレオチド配列を除去することなく、該1種または複数種のプローブにハイブリダイズしないかまたは結合しないポリヌクレオチド配列を洗浄して除去することができるよう、固体の支持体または表面に固定化されることが好ましい。プローブを固体の支持体または表面に固定化する方法は、当技術分野でよく知られている。具体的な一実施形態において、プローブは、ガラス表面、またはナイロン膜もしくはニトロセルロース膜など、固体(または半固体)の支持体または表面に結合した、異なるポリヌクレオチド配列のアレイを含む。該アレイは、該支持体または表面上におけるその位置から特定のプローブの実体を決定しうるように、異なる各プローブが該支持体または表面上における既知の特定の位置に配置される、アドレス可能なアレイである。特定の実施形態では、第6.10節に記載の方法を用いて、固体の支持体または表面に核酸プローブを固定化することができる。
【0227】
本発明で用いられるプローブは任意の種類のポリヌクレオチドを含みうるが、好ましい実施形態において、プローブは、オリゴヌクレオチド配列(すなわち、約4〜約200塩基の長さであり、より好ましくは、約15〜約150塩基の長さであるポリヌクレオチド配列)を含む。一実施形態では、約4〜約40塩基の長さであり、より好ましくは、約15〜約30塩基の長さの、より短いオリゴヌクレオチド配列が用いられる。しかし、本発明のより好ましい実施形態では、約40〜約80塩基の長さの、より長いオリゴヌクレオチドプローブが用いられ、約50〜約70塩基の長さのオリゴヌクレオチド配列(例えば、約60塩基の長さのオリゴヌクレオチド配列)が特に好ましい。
【0228】
5.13 キット
さらなる態様において、本発明は、以下:コントローラ、視覚化装置もしくは検出装置、1種もしくは複数種の核酸プライマー、試料調合液、核酸増幅試薬および/または核酸検出試薬もしくは核酸解析試薬、緩衝液、ならびに洗浄剤、あるいはデバイスの使用説明書の1つまたは複数を伴う、本発明のマイクロ流体デバイスを、1つまたは複数の容器内において含みうる。容器内の試薬は、任意の形態、例えば、乾燥凍結形態、または溶液形態(例えば、蒸留水または緩衝液)などでありうる。キットは、本発明の方法に従い、対象分子の検出または測定に用いることができる。キットはまた、対象分子の作製または合成にも用いることができる。
【0229】
キットの一部としてまたはキットの付属品として、コントローラもまた提供することができる。コントローラは、アッセイごとのベースで購入される1つまたは複数のキットと共に用いるために、使用者により既に(前もって)購入されていることが典型的である。
【0230】
以下の実施例は、例示を目的として示されるものであり、限定を目的とするものではない。
【実施例1】
【0231】
6.実施例
6.1 3つの機能領域を有するマイクロ流体デバイスの実施形態
本実施例では、試料調製領域、核酸増幅領域、および増幅産物アッセイを実行するための領域である核酸解析領域の3つの機能領域を有するマイクロ流体デバイス(「チップ」)の実施形態(図1〜7)、ならびに該デバイスを用いる例示的な方法について説明する。
【0232】
図2は、図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての等尺分解図であり、弁配置図を示す。
【0233】
図3Aは、図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、試料調製領域(「核酸(NA)抽出領域」)、核酸増幅領域(この実施形態では、「PCR領域」)、および核酸解析領域(「RDB領域」)を示す。また、デバイス上における弁、マイクロ流体チャネル、貫通孔、および低密度DNAフィルターも示される。この実施形態では、核酸解析領域において、リバースドットブロット(RDB)評価項目検出アッセイを実施することができる。「廃棄物」:廃棄物リザーバー。
【0234】
図3Bは、図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての上面図であり、試料調製領域101、核酸増幅領域102(核酸増幅リアクター112を含む)、および核酸解析領域103、ならびにデバイス上における弁、マイクロ流体チャネル、および貫通孔を示す。解析領域リザーバー113。
【0235】
図4は、図1に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態についての機能配置図であり、各種のリザーバーと関連する機能およびリザーバー(例えば、試薬)を示す。W1:洗浄緩衝液1。W2:洗浄緩衝液2。HB:ハイブリダイゼーション緩衝液。CB:コンジュゲーション緩衝液。Sub:基質緩衝液。
【0236】
図5〜7は、図1に記載のマイクロ流体デバイスの操作の進行を示す略図である。点線は、試料がデバイスにより処理されるときの試料の流動を示す。図5では、室温で5〜10分間にわたり、R1〜R2において複数回送入送出することにより、細胞を緩衝液ALおよびプロテイナーゼKと混合する。R2〜R3において複数回送入送出することにより、R2の内容物をエタノールと混合する。混合された試料は、送出によりR3から核酸抽出媒体を介して廃棄物リザーバーへと移送される。AW1およびAW2は、送出により核酸抽出媒体を介して廃棄物リザーバーへと移送される。核酸抽出媒体は、5〜10分間にわたり通気ポンプを作動させ、核酸抽出媒体を介して送気または吸気することにより乾燥させる。
【0237】
図6では、核酸抽出媒体を介して溶出緩衝液をリザーバーNA1へと送出することにより、核酸(例えば、DNAまたはRNA)をリザーバーNA1へと溶出させる。R8およびR7からR9へと交互に送出することにより、増幅混合物を溶出された核酸と混合する。増幅混合物を核酸と共に熱サイクルリアクターへと送出し、そこで、核酸増幅反応を実施する。
【0238】
図7では、150μlのハイブリダイゼーション緩衝液を核酸解析(例えば、リバースドットブロットまたはRDB)リザーバーへと送出する。5分間にわたりインキュベーションを実施する。95℃で5分間にわたり、約8〜10μlの増幅産物を熱変性させる。増幅産物を核酸解析(RDB)リザーバーへと送出する。弁32の反復的な開/閉操作である「フラッフィング」により溶液を混合する。5分間にわたり溶液をインキュベートし、その内容物を空けて廃棄する。150μlの緩衝液W2をリザーバーへと送出し、1.5分間にわたりインキュベートし、これを除去して廃棄することにより、2回にわたって膜を洗浄する。150μlのコンジュゲーション緩衝液を核酸解析(RDB)リザーバーへと送出する。弁32の反復的な開/閉操作により溶液を混合する。3分間にわたり溶液をインキュベートし、該リザーバー内容物を廃棄物リザーバーへと空ける。150μlの緩衝液W1を該リザーバーへと送出し、1分間にわたりインキュベートし、該緩衝液を除去して廃棄することにより、4〜5回にわたって膜を洗浄する。100μlの基質を該リザーバーへと送出し、5〜10分間にわたりインキュベートし、該リザーバー内容物を廃棄物リザーバーへと空ける。150μlの緩衝液W2をリザーバーへと送出し、1.5分間にわたりインキュベートし、該緩衝液を廃棄物リザーバーへと除去することにより、2回にわたって膜を洗浄する。
【実施例2】
【0239】
6.2 2つの機能領域を有するマイクロ流体デバイスの実施形態
本実施例では、2つの機能領域を有するマイクロ流体デバイス(「チップ」)の別の実施形態(図8〜11)、およびそれを用いる方法について説明する。
【0240】
図8は、試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有するマイクロ流体デバイスの別の実施形態を示す。矢印で示す通り、試料調製領域は、試料の投入および調製、試料の精製、ならびに核酸の抽出のためのリザーバーを含む。核酸増幅領域は、核酸増幅リアクター(「増幅チャンバー」)を含む。デバイスのこの実施形態はまた、核酸増幅の完了後においてマイクロ流体デバイスから単位複製配列が抽出される領域である、核酸増幅産物抽出領域(「増幅産物抽出領域」)も含む。デバイスのこの具体的な実施形態は、50×38mmの寸法を有する。
【0241】
図9は、図8に記載のマイクロ流体デバイスの等尺分解図であり、その3つの層(明確さを目的として、デバイスは、膜なしで示されている)を示す。
【0242】
図10は、図8に記載のマイクロ流体デバイスの上面図であり、デバイスのリザーバー、チャネル、弁、およびポンプの配置図を示す。
【0243】
図11は、図8に記載のマイクロ流体デバイスの別の上面図であり、デバイスのポンプ、弁、およびチャネルの配置図を示す。
【0244】
マイクロ流体デバイスのこの実施形態において、リザーバーは、以下(図11):
「細胞」:懸濁細胞およびプロテイナーゼK
「ミキサー」:緩衝液AL
「エタノール」:エタノール
「AW1」:洗浄緩衝液AW1
「AW2」:洗浄緩衝液AW2
「溶出」:溶出緩衝液AE
「NA1」:核酸リザーバー1
「NA2」:核酸リザーバー2
「増幅マスター混合物」:増幅試薬リザーバー
「単位複製配列流出1」:増幅流出リザーバー1
「単位複製配列流出2」:増幅流出リザーバー2
「増幅リアクター」
の通りである。
【0245】
図11に記載のマイクロ流体デバイスの実施形態の操作時における試料調製の進行例は以下:
1.10〜15分間にわたる、循環による細胞溶解
2.エタノールとの混合
3.細胞溶解液をSi膜へと移送する/廃棄する
4.AW1およびAW2をSi膜へと移送する/廃棄する
5.5〜10分間にわたり真空ポンプを作動させ、乾燥させる
6.溶出1および2
7.PCRマスターとの混合
8.PCRリアクターの充填
9.PCR反応
10.PCR産物の放出
の通りである。
【実施例3】
【0246】
6.3 2つの機能領域を有するマイクロ流体デバイスの実施形態
本実施例では、試料調製領域および核酸増幅領域の2つの機能領域を有するが、オンチップの核酸解析領域は有さないマイクロ流体デバイス(「チップ」)の別の実施形態(図12〜16)について説明する。
【0247】
デバイスは、50×38mmの本体寸法を有し、米国特許出願第2006/0078470A1号に記載の弱溶剤接着法により接着された3つのサンドイッチ層を含む。デバイスは、デバイスの上面に配置され、各弁および流体チャネルネットワークと流体連結される、複数のリザーバーをさらに含む。デバイスはまた、機能的な流体ネットワークの一部を形成する核酸増幅リアクターも含む。
【0248】
図13は、図12に示すマイクロ流体デバイスの実施形態の配置を示し、二方向ポンプの3つの群:試料調製用ポンプ、PCR試薬調製用ポンプ、および充填用ポンプを図示する。流体は、同じポンプダイアフラムを共有するリザーバー間で移送されうる。核酸増幅領域に隣接する、円で囲われた「2」および「3」のリザーバー群は、該増幅領域と流体的に相互連結されたリザーバー群である。円で囲われた「1」のリザーバー群は、試料調製領域内のリザーバーである。この実施形態によれば、3群のポンプが存在する。流体は、同じポンプダイアフラムを共有するリザーバー間で移送されうる。この実施形態では、第1群におけるポンプのうちの7つ、第2群におけるポンプのうちの3つ、および第3群におけるポンプのうちの2つが用いられる。この実施形態において、ポンプは二方向である。複数の供給源リザーバーを1つの目的リザーバーに組み合わせて、より良好な混合効果を同時にもたらすことができる。
【0249】
この実施形態に基づく方法の一例(図14)では、リザーバーR1内において室温で5〜10分間にわたり、細胞溶解緩衝液およびプロテイナーゼKと共に細胞をインキュベートする。R1およびR2をR3へと交互に送出することにより、細胞溶解混合物を、リザーバーR2からのEtOH/DNA結合緩衝液と混合する。混合された試料を、リザーバーR3からフィルターリザーバーへと移送し、該溶液を、該リザーバーの底部に位置する精製膜(例えば、シリカ膜)を介して吸引する。
【0250】
フィルターと結合したDNAを洗浄緩衝液1により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する(図15)。次いで、結合したDNAを洗浄緩衝液2により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。数分間にわたり通気ポンプを作動させて、膜を乾燥させる。溶出緩衝液をフィルターリザーバーへと送出し、インキュベートし、核酸リザーバーNA1へと溶出させる。この段階で、一部のDNAをベンチトップでの実行用にアリコートすることができ、残りはオンチップでの実行用に用いる。
【0251】
DNA鋳型を「NA1」から「核酸増幅混合物」へと移送し、混合する(図16)。DNA鋳型と共に核酸増幅マスター混合物をリアクターへと吸引し、そこで、熱サイクリングプロトコールを実施する。核酸増幅産物を該産物リザーバーへと送出する。この段階で、一部のDNAをベンチトップでの実行用にアリコートすることができ、残りはオンチップでの実行用に用いる。
【実施例4】
【0252】
6.4 マイクロ流体デバイスを用いる全RNAの増幅
この実施例では、図8〜11に示すマイクロ流体デバイスの実施形態を用いて、HEK 293T細胞から生成される全RNAの増幅結果を説明する。全RNAは、以下のプロトコールを用いてオンチップで調製し、ゲル電気泳動により解析した:
【0253】
0.1N NaOHをチップの全チャンバー内に通し、複数回反復した。
【0254】
水を全チャンバー内に送出することにより、多量の水でチップをすすぎ、通気乾燥させ、カラムを組み立てた。
【0255】
日常的な方法を用いて試験管2本分のHEK 293T細胞を融解させ、遠心分離し、上清を除去した。
【0256】
600μlのRLT/Bme(20μl Bmeを伴う2.0ml RLT調製液)を各ペレットに添加し、再懸濁させ、ペレットを混合した。
【0257】
標準的な方法を用いて、再懸濁したペレットをQuiashredderカラム(2連による実行)内に通すことによりこれをホモジナイズした。
【0258】
RLT−Bmeにより容量を1.5mlまで上昇させ、5mlの培養試験管に移した。
【0259】
該試験管に1.5mlの70%EtOHを添加し、反転させることにより混合した。
【0260】
200μlずつの3アリコートを取り出し、個別の試験管に入れた。
【0261】
これらの試験管に、500μlの1:1 RLT/Bme:70%EtOHを添加し、よく混合した。これらの試験管は、図13の試料1〜3に対応する(Qiagen対照)。
【0262】
試料1〜3および10のための標準的なオフチップカラムプロトコール(Quiagen社製RNeasy Miniキット、型番74107)に従った。RNAを30μlの水中に溶出させた(あらかじめの加熱なし)。
【0263】
試料1〜3で用いられなかった元の試料の残りの容量のうち200μlを、ピペッティングにより個別のオンチップ試料注入カラムに直接投入し、ポンプを用いてカラム中に吸引し廃棄した。残りの試料容量を試料1〜3と共にオフチップで処理し、試料10(Qiagen対照)と名付けた。
【0264】
22μlずつのRW1により2回にわたり、オンチップのカラムを洗浄した。
【0265】
22μlずつのRPEにより4回にわたり、オンチップのカラムを洗浄した。
【0266】
約20分間にわたり、カラムを乾燥させた。
【0267】
カラムの乾燥後、30μlの室温水をチップ試料4〜6に添加(カラムに直接ピペッティングすることにより)し、10分間にわたり試料をインキュベートした。オンチップの送出を用いて、純粋なRNAを回収した。
【0268】
30μlの加熱水をチップ試料7〜9に添加(カラムに直接ピペッティングすることにより)し、10分間にわたり試料をインキュベートした。オンチップの送出を用いて、純粋なRNAを回収した。
【0269】
送出時において、別の10μl室温水を各カラムに添加した。
【0270】
純粋なRNAを1.5mlの試験管に移し、これにチップからの喪失容量に当たる、別の20μlの水を添加した。
【0271】
260〜280nm;全200μlの水のうち5μl(40倍の希釈率)における吸光度を読み取った。
【0272】
標準的なアガロースゲル電気泳動;1%アガロース/TAEゲル;100ボルト、30分間を用いることにより、5μlの各試料を解析した。
【0273】
図18で見られる通り、オンチップのRNA調製により、標準的なQuiagen法(RNeasy Miniキット、型番74107)と比較して同等の量/質のRNAがもたらされた。また、この実験により、オンチップによる核酸調製時において高粘稠度の材料を扱う際、オンチップのダイアフラムポンプが円滑に作動することも確認された。
【0274】
図19は、図8〜11に示されるマイクロ流体デバイス(「チップ」)上で実行されたRT−PCR増幅の結果を示す。Invitrogen社製SuperScript(商標)One−Step RT−PCRを、Platinum(登録商標)Taqシステムと共に、核酸増幅領域内で実行されるPCRに用いた。上記で説明される通り、HEK 293T細胞から生成される全RNAをオンチップで調製し、鋳型RNAに用いた。β−アクチンを認識するプライマーを用いてcDNAを作製し、PCR(RT−PCR)によりアクチンcDNAを増幅した。順方向プライマーは、ACG TTG CTA TCC AGG CTG TGC TAT[配列番号1](エクソン3内に存在する)であった。逆方向プライマーは、ACT CCT GCT TGC TGA TCC ACA TCT[配列番号2](エクソン5内に存在する)であった。予測された産物、すなわち687コピーのcDNA単位複製配列が得られた。
【0275】
RNAは、HEK 293T細胞から作製した。ベータ−アクチンを認識するプライマーを用いてcDNA産物を作製し、PCRによりアクチンのcDNAを増幅した(図19)。レーン1:DNA標準物質;レーン2:オンチップで実行されたRT−PCRからの単位複製配列産物;レーン3:投入RNA(1μl)。
【0276】
図20は、示される通り、熱サイクルおよび試行時間を変化させる場合における、8回のPCR試行に対するオンチップでの再現性を示す。
【0277】
図21は、マイクロ流体デバイスと従来のベンチトップでのPCRプラットフォームとの間における結果の比較を示す。30回に及ぶ熱サイクルにおける5000プラスミドコピーの場合、ベンチトップ試行の場合の1.75時間と比較して、1時間でオンチップの結果が得られた。
【0278】
図22は、この実験において、マイクロ流体デバイスと連結して用いられたPCR熱サイクラーによる典型的なサイクルを示す。下図のグラフは、上図のグラフ内で示される最初の4サイクルのうちの複数の拡大図である。
【0279】
図23は、マイクロ流体デバイス上で実行されるRT−PCRプロトコールの結果を示す。略述すると、以下のベンチトップ(bt)プロトコールおよびオンチッププロトコールを用いて、HIV RNAを単離した。ベンチトップおよびオンチップのRNA単離には、20,000コピー(Bt1)および2,500コピー(Bt2)のArmored RNAを用いた。ベンチトップでの溶出量は50μlであった;理論的な100%収率はRNA400コピー/μlである。オンチップでの溶出量は20μlであった;理論的な100%収率はRNA125コピー/μlである。RT−PCRには、1mlの溶出量を用いた。
【0280】
逆転写物を用いて、50℃で30分間の後、95℃で15分間にわたり、当技術分野で知られる標準的なRT−PCRプロトコールを実行し、次いで、95℃における45秒間、次いで、58℃で45秒間、および72℃で60秒間を用いる40サイクルにわたりPCRプロトコールを実行した。単離収率は、RT−PCR後におけるゲル画像から推測した。
【0281】
図23に示す通り、オンチップでの試行から得られたRNAにより、Quiagen RNAEasyキットを用いる同一の実験条件下においてベンチトップで実施された同じプロトコールの場合と少なくとも同等量のRNAがもたらされた。レーン1:分子量の標準物質。レーン2:Bt1−RNA。レーン3:Bt2−RNA。レーン4:チップ−RNA。
【実施例5】
【0282】
6.5 マイクロ流体デバイスを用いてPCR産物を検出する方法
以下のデータは、使用者がマイクロ流体デバイスを用いて、実質的に介入することなく、迅速かつ容易にPCRを実施しうることを示す。細胞の溶解、DNAまたはRNAの抽出および精製、ならびに核酸に対するPCRおよびRT−PCRを含むすべての必要なステップを、単一のマイクロ流体デバイスシステム上で達成することができる。さらに、PCRによる単位複製配列の変性、およびリバースドットブロット(RDB)解析による、オリゴヌクレオチドプローブのアレイ上におけるハイブリダイゼーションを介するPCR産物の検出が可能なシステムもまた設計されている。
【0283】
本実施例で用いられるマイクロ流体デバイスの実施形態は、2つの機能領域を有した。実際には図8〜11に示す実施形態を用いたが、図12〜16に示すマイクロ流体デバイスもまた用いることが可能であった。マイクロ流体デバイスは、特許権のある工程により組み立てられて積層されると、ポンプ、弁、マイクロ流体チャネル、試薬リザーバー、DNA/RNA抽出/精製部材、および熱サイクリング能力を創出する、廉価なポリスチレンベースの3層型積層システムを有した。加えて、該システムの設計は、細胞溶解など特定のアッセイステップに極めて有用な流体の二方向流動を可能とする。最後に、マイクロ流体デバイスとコントローラとの間において流体の接触は存在せず、したがって、汚染の可能性が低減される。
【0284】
各種のマイクロチャネル、ポンプ、および弁の構成は容易に変更可能であり、マイクロ流体デバイスのフォーマットは、広範囲の検体の解析を可能とするのに十分な多目的フォーマットである。図12〜16に示す実施形態(図8〜11における実施形態もまた用いうるが)を参照して略述すると、試料は、マイクロ流体デバイスシステム上における核酸増幅解析を受けながら、以下のステップ全体を進行する(図14〜16)。
1.生の臨床試料を、細胞溶解緩衝液およびプロテイナーゼKを含有するリザーバーR1に導入する。
2.R1およびR3をリザーバーR2へと交互に送出することにより、R1の内容物を、リザーバーR3内に含有されるエタノールおよび核酸結合緩衝液と混合させる。
3.混合された試料(ここではR2内)をフィルターリザーバー(「フィルターRes」)へと移送し、該リザーバーの底部に位置するシリカ膜を介して吸引し、抽出された核酸をシリカへと結合させる。
4.シリカに結合した核酸を、「W1」内に含有される緩衝液により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。
5.シリカに結合した核酸を、「W2」内に含有される緩衝液により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。
6.通気ポンプを作動させて、シリカ膜を乾燥させる。
7.溶出緩衝液(リザーバーEluからの)をフィルターリザーバーへと送出し、インキュベート後、25μLの精製核酸を、リザーバーNA1へと溶出させる。
8.「NA1」からの精製核酸を核酸増幅混合物リザーバーへと移送し、1:9の比で鋳型を核酸増幅試薬と混合する(すなわち、プライマー対および他のすべての核酸増幅反応成分)。
9.核酸増幅マスター混合物および核酸鋳型を核酸増幅リアクターへと吸引する。
10.核酸増幅リアクター内において核酸増幅熱サイクリングを実行する。
11.最終核酸増幅産物を該産物リザーバー(「PCR Prod」)へと送出する。
【0285】
RNAの単離および精製
マイクロ流体デバイスにより、「ベンチトップ」法と同様の形で効率的にRNAを抽出および精製しうるかどうかを判定するため、いずれもQuiagen社によるRNeasyプロトコールを用いる、マイクロ流体デバイスおよびベンチトップ法を共に用いて、等量(500,000個)の細胞を抽出にかけることにより、ヒト胚腎細胞(HEK 293−T細胞)からRNAを単離した。2つのプロトコール各々の複数回の反復に対するアガロースゲル電気泳動により、マイクロ流体デバイスが、「ベンチトップ」法と同等に機能したことが示される(図18)。
【0286】
ベンチトップの熱サイクラーおよびマイクロ流体デバイスシステムを用いるPCRの比較
マイクロ流体デバイス上において有効な熱サイクリングを達成しうることを示すため、BioRad MJ Mini熱サイクラーまたはマイクロ流体デバイス内でコントローラ上に搭載されて用いられた熱サイクラーを用いる30サイクルにより、5×103コピーのプラスミド(prlpGL3)を増幅した。アガロースゲル電気泳動により見られる通り、いずれの場合においても適切な単位複製配列が得られたことは、マイクロ流体デバイスシステムにより、実質的に「手」作業を必要とすることなく、適正な単位複製配列を作製することが可能であったことを示す(図21)。
【0287】
マイクロ流体デバイスシステムの使用によるβ−サラセミアおよびHPVの検出
マイクロ流体デバイスによる熱サイクリングと並んで、核酸の抽出および精製の全般的条件が整備されると、生試料導入時における特定の遺伝子標的の検出が達成される。特定の原型的なマイクロ流体デバイスを構成して、どのくらい迅速に対象標的を検出しうるかを示すため、PCR解析により特定の対象標的を検出するのに生物学実験室で既に開発された、ベンチトッププロトコールを実施するマイクロ流体デバイスを開発した。マイクロ流体デバイスの重大な最適化なしに、当技術分野で知られる標準的なアッセイ条件およびプロトコールを用いて、必要とされるすべての調製ステップおよび解析ステップ(すなわち、細胞溶解、核酸抽出/精製、およびPCR増幅)を実施するシステム。
【0288】
この手法を用いて、各種の異なる臨床検体を解析した。例として述べると、マイクロ流体デバイスにヒト全血液(50μL)を導入し、試料リザーバーと溶解緩衝液リザーバーとの間における二方向流動により細胞を溶解させた。マイクロ流体デバイス上におけるシリカ膜部材を介して、核酸を流動させた。
【0289】
最後に、30サイクルのPCR後において、ベンチトップの熱サイクラー(レーン4〜5)またはマイクロ流体デバイスシステム(レーン2〜3)を用いて並行的にPCR増幅された2つの同一の試料を、アガロースゲル上で解析した(図24)。
【0290】
さらに、1つの検体からレーン2および4を得る 一方で、第2の検体からレーン3および5を得た。ベンチトップのPCR反応により得られたより強いシグナルの場合におけるシグナル強度の見かけの乖離は、マイクロ流体デバイスで用いられた異なる出発材料量による可能性が極めて高い。ベンチトップPCR解析の出発量が200μLであるのに対して、マイクロ流体デバイスで用いられた量は50μLに過ぎなかった。より重要なことだが、PCR単位複製配列のいずれのセットも、実質的に同一であった。
【0291】
同様にして、L1遺伝子変性プライマーMY09/MY11を用いるヒトパピローマウイルス(HPV)の存在についてのPCR(Gravitt PE、Peyton CL、Apple RJ、Wheeler CM、「Genotyping of 27 human papillomavirus types by using LI consensus PCR products by a single−hybridization, reverse line blot detection method」、J Clin Miorobiol、1998年、第36巻、第10号、3020〜3027頁)により、膣内スワブを解析した。
【0292】
膣内スワブをPBS緩衝液に入れて撹拌後、ベンチトップPCR法またはマイクロ流体デバイスシステムを用いて、HPVの存在について上清を解析した。図25に示す通り、マイクロ流体デバイスシステムにより、ベンチトップ法を用いて得られる結果と基本的に同一の結果がもたらされた。
【0293】
3つの個別の膣内スワブをPBS中に懸濁させ、「ベンチトップ」(右図)による溶解、DNAの抽出/精製、およびPCRにかけるか、またはマイクロ流体デバイス(右図)内に導入してすべての機能を自動的に実施するだけであった。試料1、2、および3は、上記で説明した通りに2つのアリコートに分けて解析された、3つの個別試料を表す。
【0294】
ベンチトップ法の場合、まずウイルスDNAを単離および精製し、次いで、ベンチトップの熱サイクラーを用いてPCR増幅した。マイクロ流体デバイスシステムの場合、PBS上清を試料ウェルに添加し、すべての機能を自動的に実施する(ウイルス溶解、核酸の抽出/精製、およびPCRを含む)だけであった。
【0295】
ヒトパピローマウイルス(HPV)を検出するリバースドットブロット(RDB)モジュール(すなわち、核酸解析領域)を組込むマイクロ流体デバイスを用いた。膣内スワブからHPVを得、複数のHPV血清型を増幅しうるプライマー対を用いるPCR増幅にかけた。マイクロ流体デバイス上では、図27で図式的に説明されるプロトコールに従い、ビオチン化された単位複製配列を変性させ、血清型HPV−11、HPV−16、HPV−31、およびHPV−52に対する4×4アレイのプローブ上に流動させた。HPV−52(上図)およびHVP−11(下図)は、統合型マイクロ流体デバイスシステム内で適正に検出された(図26)。
【0296】
その有用性を調べるため、本発明者らは、各種の異なるHPV血清型(HPV 11、16、31、および52)を増幅しうるMY09/MY11変性プライマー(Peyton CL、Wheeler CM、「Identification of five novel human papillomavirus sequences in the New Mexico triethnic population」、J Infect Dis、1994年、第170巻、第5号、1089〜1092頁)により、膣内スワブ試料を増幅した。両プライマーをそれらの5’端でビオチン化し、二本鎖ビオチン化単位複製配列を作製した。RDBモジュールを構成してPCR単位複製配列を変性させ、該単位複製配列がそれらの各捕捉プローブとハイブリダイズしたドットブロットアレイ(ミシガン州、アンアーバー、Pall Life Science社製、Immunodyne C)の表面上にそれらを流動させた。
【0297】
上記の試験に加え、本発明者らは、マイクロ流体デバイスシステムを用いて、血漿および唾液の両方におけるHIV−1を検出するのに成功し、「ベンチトップ」のRT−PCR法を用いて得られた結果と同等の結果を達成した。
【0298】
まとめると、これらの予備的データは、マイクロ流体デバイスを用いて、使いやすいフォーマットにおける臨床試料の完全自動化されたPCR解析またはRT−PCR解析を達成しうることを示す。
【実施例6】
【0299】
6.6 オンチップにおける大腸菌試料の処理
本実施例で用いられるマイクロ流体デバイスの実施形態は、2つの機能領域を有した(図12〜16)。大腸菌の非病原性菌株K12の誘導体であるDH5aを、オンチップにおける処理のための試料供給源として用いた。DH10bのゲノムに基づいて、プライマーを作製した。rrs遺伝子によりコードされる16SのリボソームRNA。「腸内細菌共通抗原」(ECA)は、wyzE遺伝子によりコードされる。用いられたプライマーは、16S_367(7本/ゲノム)およびECA_178(1本/ゲノム)であった(Bayardelle P.およびZahrullah M.(2002年)、「Development of oligonucleotide primers for the specific PCR−based detection of the most frequent Enterohacteriaceae species DNA using wec gene templates」、Can.J.Microhiol.、第48巻、113〜122頁を参照されたい)。
【0300】
図14〜16は、この実験で用いられるマイクロ流体デバイスの実施形態についての操作略図である。矢印は、デバイス上で処理された際の大腸菌試料の進行を示す。図14において:1.リザーバーR1内において室温で5〜10分間にわたり、細胞溶解緩衝液およびプロテイナーゼKと共に大腸菌をインキュベートした。2.次いで、R1およびR2を「R3」へと交互に送出することにより、試料をR2からのEtOH/DNA結合緩衝液と混合した。3.混合された試料を、R3リザーバーからフィルターリザーバーへと移送し、該溶液を、該リザーバーの底部に位置するシリカ膜を介して吸引した。
【0301】
図15において:4.結合したDNAを洗浄緩衝液1により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。5.次いで、結合したDNAを洗浄緩衝液2により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。6.次いで、数分間にわたり通気ポンプを作動させてシリカ膜を介して空気を引き込み、膜を乾燥させる。7.溶出緩衝液をフィルターリザーバーへと送出し、インキュベートし、「NA1」へと溶出させる。この段階で、一部のDNAをベンチトップでの実行用にアリコートすることができ、残りはオンチップでの実行用に用いる。
【0302】
図16において:8.DNA鋳型を「NA1」から「PCR混合物」へと移送し、混合する。9.DNA鋳型と共にPCRマスター混合物をPCRリアクターへと吸引する。10.PCR熱サイクリングを実行する。11.PCR産物を該産物リザーバーへと送出する。この段階で、一部のDNAをベンチトップでの実行用にアリコートすることができ、残りはオンチップでの実行用に用いる。
【0303】
PCR感度解析および吸光度試験を用いて「妥当な」(103個レベルの)大腸菌添加により自動化試行を実行する場合の成功率を決定することにより、自動化の信頼性および自動化の有効性を評価した。両方の設計を用いて、80〜90%の成功率が得られた。多くの市販のPCR産物に対し、約90%の成功率が典型的である。
【0304】
マイクロ流体デバイスから得られたNA抽出およびPCR結果をベンチトップの結果と比較することにより、自動化の有効性を評価した。
【0305】
2つの連鎖的なオンチップ操作:核酸(NA)抽出およびPCR増幅が実行された。大腸菌1000個/μlの試料20μlからのDNAでは、従来のUV分光光度計で検出不可能なUV吸光度が生じるため、低量の大腸菌添加時におけるNA抽出の直接的な比較は困難であった。
【0306】
図28は、アップルジュース中に添加された大腸菌1,000個を処理する2つのチップ間における比較を示す。該菌添加されたジュースをオンチップで調製してDNAを精製し、次いで、1μlずつの2アリコートを取り出し、ベンチトップ上で増幅し、精製された残りのDNAをオンチップで増幅した。示される通り、産物を取り出し、ゲル上で解析した。各チップによる産物のレーン1およびレーン2はベンチトップ上で増幅されたアリコートを表し、各場合におけるレーン3はオンチップにおける増幅産物を表す。
【0307】
PCRでは、ベンチトップPCRおよびオンチップPCRのいずれの試行に対してもオンチップで抽出されたDNAを用い、オンチップPCRの有効性を決定した。図29は、オンチップで抽出されたDNAを用いる、ベンチトップのPCR結果とオンチップのPCR結果との比較を示す。大腸菌の添加量は、5×103個/μl〜1×104個/μlの範囲であった。
【0308】
添加量が十分である場合、オンチップの結果およびベンチトップの結果は、ほぼ同等であった。
【実施例7】
【0309】
6.7 マイクロ流体デバイスを用いる食品マトリックス中における大腸菌の検出
本試験の主目的は、マイクロ流体デバイスの実施形態により、PCRベースのアッセイを用いて、アップルジュース、アップルサイダー、およびミルクなどの食品マトリックス中における大腸菌を検出する、すべての調製ステップおよび解析ステップを有効に実施しうると示すことであった。
【0310】
大腸菌株DH5αを培地内で増殖させ、用いられる各種のマトリックスに導入した。本試験では、2つの異なる遺伝子標的を用いた。細菌ファミリーおよび細菌種を通じて観察される、高度に保存された遺伝子である16s rRNA遺伝子(rrs遺伝子によりコードされる)と、腸内細菌科(Enterobacteriacea)ファミリーに共通の腸内細菌共通抗原ECA(wyzE遺伝子によりコードされる)とをPCR増幅した。該rRNA遺伝子およびECA遺伝子を検出するのに用いられたPCRプライマーは、それぞれ、367bpおよび178bpの単位複製配列を生成すると予測された。
【0311】
マイクロ流体デバイスの2つの個別の実施形態を評価し、細菌1000〜500,000個の範囲の添加濃度において3種の個別の大腸菌導入試料(アップルジュース、アップルサイダー、およびミルク)を評価した。最後に、この予備試験では、合計約100回のマイクロ流体デバイスの試行を実施した。
【0312】
結果
本試験では2つの異なる設計を評価したが、この実施例では、評価された設計の1つだけに焦点を絞る(図18〜21)。このマイクロ流体デバイスは、単一のマイクロ流体デバイス上における2つの機能領域を用いる。第1の領域は、すべての試料調製(すなわち、細胞溶解、DNA抽出/精製)を組込み、第2の領域は、PCR増幅用である。これらの領域内には、各種の機能を達成する3つのポンプ/弁群が配置されている。流体は、同じポンプダイアフラムを共有する各リザーバー間で移送されうる。加えて、複数の供給源リザーバーを単一の目的リザーバーに組み合わせて、有効な混合を達成することができ、これはまた、ポンプの二方向性によっても増強されうる。略述すると、以下のステップが実行された。
1.「R1」内において室温で5〜10分間にわたり、細胞溶解緩衝液およびプロテイナーゼKと共に20μLの大腸菌試料をインキュベートする。
2.R1およびR3を「R2」へと交互に送出することにより、R1を「R3」からのEtOH/DNA結合緩衝液と混合する。
3.混合された試料を、「R2」からフィルターリザーバーへと移送し、該溶液を、該リザーバーの底部に位置するシリカ膜を介して吸引し、抽出されたDNAをシリカに結合させる。
4.シリカと結合したDNAを「W1」内の洗浄緩衝液1により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。
5.シリカと結合したDNAを「W2」内の洗浄緩衝液2により洗浄し、廃棄物を廃棄物リザーバーへと移送する。
6.シリカ膜を乾燥させるため、数分間にわたり通気ポンプを作動させ、シリカ膜を介して空気を吸引させる。
7.(リザーバーEluからの)溶出緩衝液をフィルターリザーバーへと送出し、インキュベートし、25μlの精製DNAをリザーバーNA1へと溶出させる。
8.DNA鋳型をNA1リザーバーからPCR 混合物リザーバーへと移送し、1:9の比で鋳型をPCR試薬と混合する(すなわち、プライマー対および他のすべてのPCR反応成分)。
9.DNA鋳型と共にPCRマスター混合物をPCRリアクターへと吸引する。
10.PCRリアクター内においてPCR熱サイクリングを実行する。
11.PCR産物を該産物リザーバー(「PCR Prod」)へと送出する。
【0313】
この予備試行では約100回の個別アッセイを実施したが、本実施例では試行間で極めて再現性の高い代表的データを説明する。図28〜37に示すデータは、PBS緩衝液、アップルサイダー、アップルジュース、およびミルク中への既知量の大腸菌の導入から得られた結果を表す。
【0314】
Quiagen社製DNAEasyキットを用いてDNAを抽出する場合、試料量が10〜30μlで変化しうるが、注目すべき影響は生じないことが分かった。
【0315】
細胞溶解緩衝液ATLおよびプロテイナーゼKと共に試料を「R1」に入れた後、次いで、上記で説明した通りにこれを自動的に処理したところ、シリカ膜から溶出した最終DNA量は25μLであった。PCRを実行するため、1:9の比でDNA鋳型をPCRマスターと混合した後、熱サイクリングチャンバーに導入した。したがって、起こりにくい事象ながら、DNA回収率が100%であると推定したとしても、最終的にPCR増幅されるDNA総量は、理論的に、総出発菌数から得られるDNAの1/25以下を表す(例えば、出発菌数が1000個であった場合、最終的にPCRチャンバーに導入されたDNAは、細菌40個以下となった)。
【0316】
PBS中に懸濁した大腸菌
アッセイ条件を確立する一助とするため、初めの試行の焦点を、PBS中に導入された既知量(または数)の大腸菌に絞った。PBS中に大腸菌500,000個を導入し、マイクロ流体デバイス上でDNAを単離/精製した。25μLの単離DNA鋳型から1μLのアリコートを取り出し、「ベンチトップ」のPCR増幅にかける一方、該25μLの単離DNA鋳型の別の1μLアリコートを、1:9の比でPCRマスター混合物と混合し、マイクロ流体デバイス上でさらに増幅した。図32において、同じマイクロ流体デバイス上において完全に統合されたDNA単離/精製およびPCRから得られたゲルプロファイル(レーン4)との、「ベンチトップ」PCR試料のゲルプロファイル(レーン3)の比較では、識別できない結果が示された。同じゲル上におけるレーン1および2は、それぞれ、陰性対照(水)および陽性対照(UV吸光度測定に基づく、細菌1000個に由来するDNA)を表す。同じ種類の試料に対する反復的解析により基本的に再現可能な結果がもたらされることは、マイクロ流体デバイスを用いて、問題となる細菌を信頼できる形で検出し、「ベンチトップ」のPCR解析と事実上識別できない結果を得ることが可能であったことを示す。
【0317】
初めの20μLの試料中に細菌10,000個だけを導入し、次いで、3つの個別のマイクロ流体デバイスによりまさに上記で説明した通りに処理することで、基本的に同一の結果が得られた。
【0318】
マイクロ流体デバイス上におけるDNAの単離および精製
上記と同様の複数のさらなる実験を実施することにより、以下のアッセイプロトコールが確立された。
【0319】
試薬は、Quiagen社製DNEasyキットおよびPromega社製PCRキットに由来した。
【0320】
【表A】
【0321】
PCRプロトコール
95℃で2分間にわたる最初のインキュベーション。各サイクルを
95℃で5〜15秒間
60℃で20〜30秒間
72℃で20〜25秒間
として、25〜35サイクル。72℃で3分間にわたる最後のインキュベーション。
【0322】
アップルサイダーに導入された大腸菌
PBSに導入された細菌について報告された方式と同様の方式で、各濃度の大腸菌を市販のアップルサイダーに導入し、マイクロ流体デバイスシステムにおいて解析した。アップルサイダーに導入された細菌500,000個の解析(図30A)により、「ベンチトップ」のPCR解析(レーン3)と完全統合型マイクロ流体デバイスによる解析(レーン4)との間で基本的に識別できない結果がもたらされた。レーン1および2は、それぞれ、陰性対照および陽性対照を表す。陰性対照レーン内において現れる微弱なバンドは、実験室内における二次汚染による可能性が高い。アップルサイダーに導入される菌数を100,000個に低下させることによってもまた、標的配列の良好な増幅が示された(図30B)。レーン1〜2が完全統合型マイクロ流体デバイスでの試行により生成される単位複製配列を示す一方、レーン4〜5は、同じDNAに対する「ベンチトップ」のPCR増幅により生成される単位複製配列を示す。レーン3は、陰性対照を表す。
【0323】
最後に、アップルサイダーに導入される菌数を2500個に低下させる(図31)ことによってもまた、「ベンチトップ」のPCR解析(レーン2〜3)と完全統合型マイクロ流体デバイスによる解析(レーン4〜5)との間における優れた相関が得られた。レーン1は、陰性対照を表す。
【0324】
上記で注意した通り、マイクロ流体デバイス(ならびにベンチトップシステム)上でDNAが抽出、精製、および増幅される方式により、以下の表は、マイクロ流体デバイスに添加され、PCRチャンバー内において実際に増幅される細菌数を表す(マイクロ流体デバイスの精製領域からの100%のDNA回収率を仮定する)。以下の表1は、試料中およびPCRチャンバー内における細菌添加数を示す。
【0325】
【表B】
【0326】
アップルジュースに導入された大腸菌
同様の方式で、各濃度の大腸菌を市販のアップルジュースに導入した。細菌10,000個をアップルジュースに導入した(図33)ところ、完全統合型マイクロ流体デバイスでの試行から得られた結果(レーン4〜5)は、同じマイクロ流体デバイス上で単離されたDNAに対する「ベンチトップ」のPCR解析により得られた結果と識別できなった。レーン1は陰性対照を表す。
【0327】
アップルジュースに細菌1000個だけを導入する(図34)ことによってもまた、完全統合型マイクロ流体デバイスから結果として得られた単位複製配列(レーン4〜5)は、同じマイクロ流体デバイス(レーン2〜3)上で単離されたDNAに対するベンチトップPCRにより得られた単位複製配列と識別できなかった。上記の通り、レーン1は陰性対照を表す。最後に、2回の異なるマイクロ流体デバイスでの試行から得られた単位反復配列を比較したところ(図35)、完全統合による結果(各マイクロ流体デバイスのレーン3)は、同じマイクロ流体デバイスから得られたDNAに対する「ベンチトップ」のPCR増幅により得られた結果と識別できなかった。
【0328】
上記で説明した通り、マイクロ流体デバイス内を進行する際におけるDNAの希釈により、単離/精製およびPCR増幅から結果として得られる単位複製配列は、マイクロ流体デバイスに初めに導入された細菌が、初めの添加濃度の1/25以下を占めることを示す。したがって、細菌10,000個が導入された場合、実際に増幅されたDNAは、細菌400個以下に由来した。同様に、細菌1000個だけが導入された場合、実際に増幅されたDNAは、細菌40個以下に由来した。
【0329】
ミルクに導入された大腸菌
ミルク中に1,000,000個の大腸菌を導入し、上述の確立されたプロトコールを用いて調べたところ、状況は、アップルジュースまたはアップルサイダーよりも複雑であった。脱脂粉乳の場合、試験に対するタンパク質の干渉は極めて限定されたものであり、予期した結果が得られた(図36)。しかし、細胞溶解緩衝液に対して1:1の容量比で全乳を調べたところ、DNAが単離されなかったことから、全乳中に存在する脂肪により単離過程が抑制されることが示される可能性が高い。
【0330】
この特定のプロトコールでは、臨床診断を目的として、血液の保存および輸送用に開発されたWhatman社製FTAフィルターを用いた。Whatman社製FTAフィルターの最も注目すべき特徴は、それが、フィルター自体における細胞の溶解および精製に十分な試薬を含むことであった。この場合、マイクロ流体デバイス上における水以外の他の試薬を保存する必要が存在しなかった。しかし、Whatman社製FTAフィルターは、加工に際してむしろ過酷な条件を伴う。ベンチトップおよびマイクロ流体デバイスのいずれにおいても、大腸菌からのDNA精製のためのFTA溶出を調べたが、その結果を表2および図37に示す。すべての試験は、100万個の大腸菌添加を用いて実施した。
【0331】
【表C】
【0332】
結論
本試験により、マイクロ流体システムを用いて、アップルジュース、アップルサイダー、およびミルクなどの食品マトリックス中における大腸菌を検出しうることが示された。これらの結果は、単一のマイクロ流体デバイス上においてすべての調製機能および解析機能を実施しうることを明確に示す。
【実施例8】
【0333】
6.8 密閉された核酸増幅リアクターに対する圧力除去デバイス
本実施例では、例えば、PCRリアクターを有するマイクロ流体デバイスの核酸増幅領域内における密閉された核酸増幅リアクターと共に用いうる圧力除去デバイスについて説明する。圧力除去(緩和)デバイスは、シールされたマイクロ流体デバイスの内部に設置することができる。圧力除去デバイスは、弁に類似するが、直径を貫通する導管状の切除部を有し(図38)、流体は通常、ダイアフラム上部の導管を介して流動可能であり、システム圧が増大すると、流体は、設計およびシステム圧に応じて空気圧により制御されるかまたは雰囲気に対して開放される、緩和デバイスのダイアフラムを押しやり、ダイアフラムのたわみにより、該密閉システム内における物質が維持される一方で、圧力除去のためのさらなる空間がもたらされる。
【0334】
圧力除去デバイスは、マイクロ流体デバイスなど、シールされた微細リアクターが、熱サイクリング間の著明な温度変化に由来する破断または漏えいを起こすことを防止しうる。液体の熱膨張の結果として生じる圧力は、固定体積内において極めて高い。温度が25℃から95℃に上昇すると、水の体積は4%上昇する。従来のリアクター設計では、リアクター壁面の変形、捕捉された気体の圧縮、流入/流出導管の膨張、漏えいなどにより圧力が解放されうる。
【0335】
システム内において緩和デバイスを直列に配することにより、リアクター領域内における温度が上昇すると、リアクター内における液体が膨張し、圧力が上昇し、緩和ダイアフラムをたわませる。結果として、システム圧が解放される。リアクター内における温度が低下すると、液体が収縮し、流体の逆流が生じ、ダイアフラムのたわみが低減される。加えて、圧力緩和設計はまた、それなしには高圧弁が必要となる、システムをシールする弁の使用も容易とする。
【実施例9】
【0336】
6.9 高温時におけるPCRリアクター変形の防止
本実施例では、特定の実施形態において、核酸増幅リアクター、例えば、PCRリアクターの上部に接着することで、高温時における熱効果の結果としてリアクターがたわむことを防止しうる、剛性構造について説明する(図39)。マイクロ流体デバイス材料としてポリスチレンを用いる場合、リアクターの上部は、高温、例えば、95℃時において「たわみ」変形を受ける場合がある。冷却時において、チャンバー内の圧力は、変形および/または液体の漏出により陰圧となる場合があり、これにより、底部膜がたわみ、ヒーターとの共形接触が失われる。結果として、再現可能で高品質の核酸増幅を達成することが困難となりうる。リアクター上部に剛性構造を用いることにより、このような熱膨張がリアクターの上部から離れ、ヒーターを圧迫する膜へと方向づけられる。
【実施例10】
【0337】
6.10 リバースドットブロット(RDB)用の核酸プローブを固定化する方法
本実施例では、リバースドットブロット(RDB)検出用の核酸プローブを固定化するのに用いうる方法について説明する。
【0338】
Biodyne C膜は以下のように調製した。フィルターを、10cmのペトリディッシュ内における浸漬に適するサイズに切断した。膜を、ペトリディッシュ内における0.1N HCl中ですすいだ。水中に10%のN−エチル−N’−(3−ヂメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)水溶液(使用直前にEDCを作製する)約5mlを用いて、撹拌しながら15分間にわたり、膜をEDC中に浸漬させた。膜を滅菌水中ですすぎ、一晩にわたり通気乾燥させた。
【0339】
アミノ末端プローブの20μM溶液は、以下の通りに作製した:
1.(0.5M重炭酸Na)原液に由来する200μMプローブ溶液のうち50μlを、
2.445μlの0.5M重炭酸Na溶液に混合し、
3.次いで、これに、総容量が500μlとなるように、5μlの食用色素(黄色1号;赤色〜青緑色)を添加し、
4.調製された溶液中にピンを浸し、該ピンを既に調製したBiodyne C膜に1秒間にわたり接触させることにより該Biodyne C膜上にピンからの液滴を滴下させ、これを2サイクルにわたり繰り返す。
【0340】
上記と同じプロトコールを用いるが、異なるプローブを用いる、別の溶液を調製する。プローブアレイが完成したら、次いで、
5.プローブアレイを有するBiodyne C膜を、0.1N NaOH中で5秒間にわたり洗浄する。
6.次いで、2回目は滅菌水中で5秒間にわたり洗浄する。
7.次いで、対流熱乾燥により35秒間にわたり乾燥させる。
8.完全に通気乾燥させる。
9.約1分間にわたり、0.1N NaOH中ですすぐ。
10.滅菌水中ですすぐ。
11.完全に通気乾燥させる。
【0341】
本発明は、本明細書で説明される特定の実施形態により範囲が限定されないものとする。実際、本明細書で説明された実施形態に加えての、本発明に対する各種の改変は、上述の説明から当業者には明らかであろう。このような改変は、添付の特許請求の範囲内に入ることを意図する。
【0342】
本明細書で引用されるすべての参考文献は、各個別の刊行物、特許、または特許出願が、参照により、すべての目的に対してその全体において組込まれることが具体的かつ個別に示されたと仮定する場合と同程度に、参照により、すべての目的に対してその全体において本明細書に組込まれる。
【0343】
任意の刊行物の引用は、出願年月日以前におけるその開示についてのものであり、本発明が、先行発明のためにこのような刊行物に先行する権利がないことの容認として解釈されるべきではない。
【符合の説明】
【0344】
32 弁
101 試料調製領域
102 核酸増幅領域
103 核酸解析領域
111 試薬リザーバー
112 核酸増幅リアクター
113 解析領域リザーバー
114 廃棄物リザーバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスであって、
a)マイクロ流体デバイスの本体
を含み、前記マイクロ流体デバイス本体が、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iii)核酸解析領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域、核酸増幅領域、および核酸解析領域の各々が、前記ネットワーク内における複数の流体チャネルの少なくとも1つにより、他の2つの領域の少なくとも1つと流体的に相互連結されるマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスであって、
a)マイクロ流体デバイスの本体
を含み、前記マイクロ流体デバイス本体が、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域および核酸増幅領域の各々が、前記ネットワーク内における複数の流体チャネルの少なくとも1つにより、他の領域と流体的に相互連結されるマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
マイクロ流体デバイス本体の選択される領域に、周囲圧力に対して陽圧または陰圧を加えることが可能な差圧供給源を含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
差圧供給源およびマイクロ流体デバイス本体に作動的に連結される差圧送達システムを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
差圧供給源から所望の開位置または閉位置への圧力を変換するための、複数の流体チャネルの少なくとも2つの中に配置される、少なくとも1つのダイアフラムを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
試料調製領域が、
試料取込みリザーバーと、
試料調製試薬リザーバーと、
試料精製媒体と
を含み、
試料取込みリザーバー、試料調製試薬リザーバー、および試料精製媒体が、流体的に相互連結される、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
試料精製媒体が配置される試料精製媒体リザーバーを含む、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
試料精製媒体が試料精製リザーバーの底部に配置される、請求項7に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
試料精製媒体が複数の流体チャネルの1つに配置される、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
核酸増幅領域が、
核酸増幅リアクターと、
核酸増幅試薬リザーバーと、
核酸増幅産物リザーバーと
を含み、
核酸増幅リアクター、核酸増幅試薬リザーバー、および核酸増幅産物リザーバーが、流体的に相互連結される、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
核酸増幅産物抽出領域を含む、請求項2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
核酸増幅産物抽出領域が核酸抽出リザーバーを含む、請求項10に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
試料精製媒体がシリカ膜である、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
対象試料が、流体材料、気体材料、液体材料中に実質的に溶解した固体材料、エマルジョン材料、スラリー材料、またはその中に粒子が懸濁する流体材料である、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
対象試料が生物学的材料を含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
対象試料が流体中における細胞の懸濁液を含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項17】
マイクロ流体デバイス本体が、複数層の弱溶剤接着ポリスチレンを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項18】
試料取込みリザーバーを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項19】
試料調製領域が、試料取込みリザーバーと流体的に連結された試料混合ダイアフラムを含む、請求項18に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項20】
マイクロ流体デバイス本体が、試料精製媒体を通気乾燥させる手段を含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項21】
試料調製領域が廃棄物リザーバーを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項22】
試料調製領域が溶出試薬リザーバーを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項23】
試料調製試薬が磁気ビーズを含む、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項24】
試料調製試薬が溶解試薬を含む、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項25】
核酸増幅リアクターが熱サイクルリアクターである、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項26】
熱サイクルリアクターの底部がポリスチレンの薄層である、請求項25に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項27】
熱サイクルリアクターの底部が、熱サイクリングの間に、マイクロ流体デバイス本体上または本体内には配置されないヒーターにより加熱される、請求項25に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項28】
核酸増幅が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素(RT−)PCR、cDNA末端迅速増幅(RACE)、ローリングサイクル増幅、核酸配列ベース増幅(NASBA)、転写物媒介増幅(TMA)、およびリガーゼ連鎖反応からなる群から選択される、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項29】
核酸解析領域が、対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するための領域を含む、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項30】
対象核酸を検出する方法であって、
対象核酸を含有することが疑われる試料を得るステップと、
請求項1に記載のマイクロ流体デバイスを用意するステップと、
試料調製領域に試料を導入するステップと、
核酸増幅用に試料を調製するステップと、
調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、
核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、
増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入するステップと、
増幅された対象核酸を検出するステップと
を含む方法。
【請求項31】
対象核酸を検出する方法であって、
対象核酸を含有することが疑われる試料を得るステップと、
請求項2に記載のマイクロ流体デバイスを用意するステップと、
試料調製領域に試料を導入するステップと、
核酸増幅用に試料を調製するステップと、
調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、
核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、
増幅された対象核酸を検出するステップと
を含む方法。
【請求項32】
対象核酸が対象の疾患または障害と関連する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
検出するステップが、増幅された対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するステップを含む、請求項30または31に記載の方法。
【請求項34】
検出するステップが、色強度、蛍光強度、電気信号強度、または化学発光強度を可視化するステップを含む、請求項30または31に記載の方法。
【請求項35】
検出するステップが、試料中における少なくとも1種の対象分子に対応する強度値を発生させるステップを含む、請求項30または31に記載の方法。
【請求項36】
強度値が、色強度値、蛍光強度値および化学発光強度値、電流または電圧からなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
色強度値を発生させるステップが、
試料に対応する画像をデジタル化して複数の画素を発生させるステップと、
複数の画素の各々に対して複数の数値を与えるステップと、
数値を生じさせて色強度値を提供するステップと
を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
閾値を計算するステップと、色強度値を閾値と比較して対象分子を検出するステップとをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
少なくとも1つの色強度値と閾値とをデータベースに保存するステップをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
閾値が、少なくとも1種の陰性対照試料を用いて計算される、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
被験体における対象の疾患または障害の存在または素因を判定する方法であって、
a)対象の疾患または障害と関連する核酸を含有することが疑われる試料を被験体から得るステップと、
b)試料中における対象の疾患または障害と関連する核酸を検出するステップと
を含み、前記検出するステップが、
請求項1に記載のマイクロ流体デバイスを用意するステップと、
試料調製領域に試料を導入するステップと、
核酸増幅用に試料を調製するステップと、
調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、
核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、
増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入するステップと、
増幅された対象核酸を検出するステップと
を含み、
増幅された対象核酸の検出が、対象の疾患または障害の存在または素因と関連する方法。
【請求項42】
被験体における対象の疾患または障害の存在または素因を判定する方法であって、
a)対象の疾患または障害と関連する核酸を含有することが疑われる被験体を対象から得るステップと、
b)試料中における対象の疾患または障害と関連する核酸を検出するステップと
を含み、前記検出するステップが、
請求項2に記載のマイクロ流体デバイスを用意するステップと、
試料調製領域に試料を導入するステップと、
核酸増幅用に試料を調製するステップと、
調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、
核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、
増幅された対象核酸を検出するステップと
を含み、
増幅された対象核酸の検出が、対象の疾患または障害の存在または素因と関連する方法。
【請求項43】
前記検出するステップが、増幅された対象核酸の量(またはレベル)を決定するステップを含み、
前記量(またはレベル)を対象核酸のあらかじめ選択された量(またはレベル)と比較するステップをさらに含む、請求項41または42に記載の方法。
【請求項44】
前記量(またはレベル)とあらかじめ選択された量(またはレベル)との間の差が、対象の疾患または障害の存在または素因を示す、請求項43に記載の方法。
【請求項1】
対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスであって、
a)マイクロ流体デバイスの本体
を含み、前記マイクロ流体デバイス本体が、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iii)核酸解析領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域、核酸増幅領域、および核酸解析領域の各々が、前記ネットワーク内における複数の流体チャネルの少なくとも1つにより、他の2つの領域の少なくとも1つと流体的に相互連結されるマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
対象試料を解析するためのマイクロ流体デバイスであって、
a)マイクロ流体デバイスの本体
を含み、前記マイクロ流体デバイス本体が、
i)試料調製領域と、
ii)核酸増幅領域と、
iv)ネットワーク内において相互連結された複数の流体チャネルと
を含み、
試料調製領域および核酸増幅領域の各々が、前記ネットワーク内における複数の流体チャネルの少なくとも1つにより、他の領域と流体的に相互連結されるマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
マイクロ流体デバイス本体の選択される領域に、周囲圧力に対して陽圧または陰圧を加えることが可能な差圧供給源を含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
差圧供給源およびマイクロ流体デバイス本体に作動的に連結される差圧送達システムを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
差圧供給源から所望の開位置または閉位置への圧力を変換するための、複数の流体チャネルの少なくとも2つの中に配置される、少なくとも1つのダイアフラムを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
試料調製領域が、
試料取込みリザーバーと、
試料調製試薬リザーバーと、
試料精製媒体と
を含み、
試料取込みリザーバー、試料調製試薬リザーバー、および試料精製媒体が、流体的に相互連結される、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
試料精製媒体が配置される試料精製媒体リザーバーを含む、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
試料精製媒体が試料精製リザーバーの底部に配置される、請求項7に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
試料精製媒体が複数の流体チャネルの1つに配置される、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
核酸増幅領域が、
核酸増幅リアクターと、
核酸増幅試薬リザーバーと、
核酸増幅産物リザーバーと
を含み、
核酸増幅リアクター、核酸増幅試薬リザーバー、および核酸増幅産物リザーバーが、流体的に相互連結される、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
核酸増幅産物抽出領域を含む、請求項2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
核酸増幅産物抽出領域が核酸抽出リザーバーを含む、請求項10に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
試料精製媒体がシリカ膜である、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
対象試料が、流体材料、気体材料、液体材料中に実質的に溶解した固体材料、エマルジョン材料、スラリー材料、またはその中に粒子が懸濁する流体材料である、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
対象試料が生物学的材料を含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
対象試料が流体中における細胞の懸濁液を含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項17】
マイクロ流体デバイス本体が、複数層の弱溶剤接着ポリスチレンを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項18】
試料取込みリザーバーを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項19】
試料調製領域が、試料取込みリザーバーと流体的に連結された試料混合ダイアフラムを含む、請求項18に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項20】
マイクロ流体デバイス本体が、試料精製媒体を通気乾燥させる手段を含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項21】
試料調製領域が廃棄物リザーバーを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項22】
試料調製領域が溶出試薬リザーバーを含む、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項23】
試料調製試薬が磁気ビーズを含む、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項24】
試料調製試薬が溶解試薬を含む、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項25】
核酸増幅リアクターが熱サイクルリアクターである、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項26】
熱サイクルリアクターの底部がポリスチレンの薄層である、請求項25に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項27】
熱サイクルリアクターの底部が、熱サイクリングの間に、マイクロ流体デバイス本体上または本体内には配置されないヒーターにより加熱される、請求項25に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項28】
核酸増幅が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素(RT−)PCR、cDNA末端迅速増幅(RACE)、ローリングサイクル増幅、核酸配列ベース増幅(NASBA)、転写物媒介増幅(TMA)、およびリガーゼ連鎖反応からなる群から選択される、請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項29】
核酸解析領域が、対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するための領域を含む、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項30】
対象核酸を検出する方法であって、
対象核酸を含有することが疑われる試料を得るステップと、
請求項1に記載のマイクロ流体デバイスを用意するステップと、
試料調製領域に試料を導入するステップと、
核酸増幅用に試料を調製するステップと、
調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、
核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、
増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入するステップと、
増幅された対象核酸を検出するステップと
を含む方法。
【請求項31】
対象核酸を検出する方法であって、
対象核酸を含有することが疑われる試料を得るステップと、
請求項2に記載のマイクロ流体デバイスを用意するステップと、
試料調製領域に試料を導入するステップと、
核酸増幅用に試料を調製するステップと、
調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、
核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、
増幅された対象核酸を検出するステップと
を含む方法。
【請求項32】
対象核酸が対象の疾患または障害と関連する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
検出するステップが、増幅された対象核酸と対象核酸のプローブとの間の相互作用を検出するステップを含む、請求項30または31に記載の方法。
【請求項34】
検出するステップが、色強度、蛍光強度、電気信号強度、または化学発光強度を可視化するステップを含む、請求項30または31に記載の方法。
【請求項35】
検出するステップが、試料中における少なくとも1種の対象分子に対応する強度値を発生させるステップを含む、請求項30または31に記載の方法。
【請求項36】
強度値が、色強度値、蛍光強度値および化学発光強度値、電流または電圧からなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
色強度値を発生させるステップが、
試料に対応する画像をデジタル化して複数の画素を発生させるステップと、
複数の画素の各々に対して複数の数値を与えるステップと、
数値を生じさせて色強度値を提供するステップと
を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
閾値を計算するステップと、色強度値を閾値と比較して対象分子を検出するステップとをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
少なくとも1つの色強度値と閾値とをデータベースに保存するステップをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
閾値が、少なくとも1種の陰性対照試料を用いて計算される、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
被験体における対象の疾患または障害の存在または素因を判定する方法であって、
a)対象の疾患または障害と関連する核酸を含有することが疑われる試料を被験体から得るステップと、
b)試料中における対象の疾患または障害と関連する核酸を検出するステップと
を含み、前記検出するステップが、
請求項1に記載のマイクロ流体デバイスを用意するステップと、
試料調製領域に試料を導入するステップと、
核酸増幅用に試料を調製するステップと、
調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、
核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、
増幅された対象核酸を核酸解析領域に導入するステップと、
増幅された対象核酸を検出するステップと
を含み、
増幅された対象核酸の検出が、対象の疾患または障害の存在または素因と関連する方法。
【請求項42】
被験体における対象の疾患または障害の存在または素因を判定する方法であって、
a)対象の疾患または障害と関連する核酸を含有することが疑われる被験体を対象から得るステップと、
b)試料中における対象の疾患または障害と関連する核酸を検出するステップと
を含み、前記検出するステップが、
請求項2に記載のマイクロ流体デバイスを用意するステップと、
試料調製領域に試料を導入するステップと、
核酸増幅用に試料を調製するステップと、
調製された試料を核酸増幅領域に導入するステップと、
核酸増幅領域において核酸増幅反応を実行して対象核酸を増幅するステップと、
増幅された対象核酸を検出するステップと
を含み、
増幅された対象核酸の検出が、対象の疾患または障害の存在または素因と関連する方法。
【請求項43】
前記検出するステップが、増幅された対象核酸の量(またはレベル)を決定するステップを含み、
前記量(またはレベル)を対象核酸のあらかじめ選択された量(またはレベル)と比較するステップをさらに含む、請求項41または42に記載の方法。
【請求項44】
前記量(またはレベル)とあらかじめ選択された量(またはレベル)との間の差が、対象の疾患または障害の存在または素因を示す、請求項43に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30A】
【図30B】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30A】
【図30B】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【公表番号】特表2011−501665(P2011−501665A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529130(P2010−529130)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/079659
【国際公開番号】WO2009/049268
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(510100405)レオニックス,インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/079659
【国際公開番号】WO2009/049268
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(510100405)レオニックス,インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】
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