説明

絶縁シート

【課題】本発明の課題は、スロットへの挿入作業性の低下を抑制しつつ薄肉化された絶縁シートを提供することにある。
【解決手段】モータ/ジェネレータのステータコアまたはロータコアのスロットに挿入されて配設される絶縁シートであって、算術平均粗さ(Ra)0.05μm以上0.1μm以下、且つ、最大高さ粗さ(Rz)0.5μm以上1.0μm以下の表面粗さを有する樹脂フィルムが用いられており、しかも、前記表面粗さを有する面を表面に露出させた状態で前記樹脂フィルムが用いられていることを特徴とする絶縁シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ/ジェネレータのステータやロータに用いられる絶縁シートに関し、より詳しくは、ステータコアコアやロータコアのスロットに挿入されて配設される絶縁シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力によって回転動力を発生させるモータや回転動力を電力に変換するジェネレータなどの装置が、鉄道や電気自動車などに広く用いられており、このモータとジェネレータとは、互いに共通する原理を利用した装置である。そして、鉄道や電気自動車用の駆動用モータなどにおいては、制動時に駆動用モータをジェネレータとして作用させて回生電力を有効活用することなども行われている。
通常、モータやジェネレータには、固定配置されたステータと、該ステータに対して回転可能に設けられたロータとが備えられており、このステータやロータには、エナメル線などの巻線で形成されたコイルが設けられたりしている。
そして、モータにおいては、例えば、ステータの巻線に通電してコイルで磁界を発生させ、該磁界により永久磁石が用いられてなるロータとの間に反発力を発生させてロータを回転させたり、あるいは、ロータの巻線に通電してコイルで磁界を発生させ、永久磁石が用いられたステータとの間に反発力を発生させてロータを回転させたりしている。
また、ジェネレータにおいては、永久磁石が配設されたロータの回転によって生じる磁界の変動によりステータに配設されたコイルに誘導電位を発生させたりしている。
【0003】
このコイルは、通常、ステータコアやロータコアに形成されたスロットと呼ばれる溝の内部に巻線を配設させてステータやロータに備えられている。
このスロットは、通常、モータやジェネレータの回転軸方向と平行な方向に沿って延在されており、前記回転軸周りに、略均等な間隔でステータコアやロータコアの表面に複数条形成されている。
そして、スロットは、ステータコアやロータコアの全長にわたる長さに形成されておりステータコアやロータコアの両端面には開口部が形成されている。
このステータコアやロータコアの形成には、モータやジェネレータの運転効率の観点から高い透磁率を有する鋼材などが用いられている。
そのため、例えば、巻線とコア端面のエッジ部との接触などで巻線の絶縁被膜に傷が発生することを防止すべく、巻線は、スロットライナやウェッジなどの絶縁シートで包囲されてスロット内に配設されている(特許文献1参照)。
このスロットライナやウェッジなどの絶縁シートには、特許文献1に記載されているようなマイカシートや、あるいは、アラミド紙などが広く用いられている。
【0004】
この絶縁シートは、特許文献2に記載されているように、通常、ステータコアやロータコアの端面の開口部からスロット内に挿入されて配設されており、特に、アラミド紙は、一般的な樹脂フィルムなどに比べてすべり性に優れた表面性状を有しており、スロットへの挿入作業時の作業性に優れている。
【0005】
ところで、モータやジェネレータには、特に近年、小型で高効率なものが求められており、巻線の占積率の増大が求められている。
従来、マイカシートやアラミド紙は、樹脂フィルムなどに比べて薄肉化によってピンホールなどが形成されやすく、絶縁信頼性の低下を抑制しつつ薄肉化させることが困難である。
しかも、アラミド紙は、同じ厚みの樹脂フィルムに比べてコシがなく、座屈を生じ易いことから薄肉化させるとスロットへの挿入時に座屈を生じさせるおそれがある。
さらには、アラミド紙は、そもそも50μm以上の製品しか市販されておらず樹脂フィルムと違って50μm未満の薄手の製品を入手すること自体困難である。
このようなことから、従来のスロットライナやウェッジなどの絶縁シートとしては、複数枚のマイカシートやアラミド紙が接着剤を介して複数枚積層された積層構造を有する厚みの厚いものしか用いられておらず、従来の絶縁シートは、通常、数百μm程度の厚みを有している。
そして、スロット内の巻線の占積率が高い場合においても優れたスロット挿入作業性を有する絶縁シートは、アラミド紙以外にはいまだ見出されておらず、スロット挿入作業性の低下を抑制しつつ絶縁シートを薄肉化させることが従来困難な状況となっている。
【0006】
したがって、スロットにおける巻線の収容スペースの拡大も困難となっており、モータやジェネレータにおける占積率の増大という要望を満足させることが困難な状況となっている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−111328号公報
【特許文献2】特開2007−6677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、スロットへの挿入作業性の低下を抑制しつつ薄肉化された絶縁シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、絶縁シートの表面性状に着目して、スロットへの挿入作業性について鋭意検討を行ったところ、所定表面粗さを有する樹脂フィルムがアラミド紙と同等のすべり性を有していることを見出して本発明の完成に到ったのである。
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、モータ/ジェネレータのステータコアまたはロータコアのスロットに挿入されて配設される絶縁シートであって、算術平均粗さ(Ra)0.05μm以上0.1μm以下、且つ、最大高さ粗さ(Rz)0.5μm以上1.0μm以下の表面粗さを有する樹脂フィルムが用いられており、しかも、前記表面粗さを有する面を表面に露出させた状態で前記樹脂フィルムが用いられていることを特徴とする絶縁シートを提供する。
【0010】
なお、本明細書中における“モータ/ジェネレータ”との用語は、“モータのみとして機能するもの”、“ジェネレータのみとして機能するもの”、及び、“モータとしてもジェネレータとしても機能するもの”の全てを包含する意味で用いている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁シートに算術平均粗さ(Ra)0.05μm以上0.1μm以下、且つ、最大高さ粗さ(Rz)0.5μm以上1.0μm以下の表面粗さを有する樹脂フィルムが用いられており、しかも、前記表面粗さを有する面を絶縁シートの表面に露出させた状態で前記樹脂フィルムが用いられている。
したがって、絶縁シートの表面を、アラミド紙が用いられた従来の絶縁シートと同等のすべり性とし得る。
しかも、樹脂フィルムを用いることで、アラミド紙を用いる場合に比べてピンホールの発生を抑制しつつ薄肉化を実施し得る。
さらには、樹脂フィルムを用いることで、アラミド紙を用いる場合に比べて絶縁シートにコシを付与させ易く座屈強度を向上させ得る。
すなわち、スロットへの挿入作業性の低下を抑制しつつ薄肉化された絶縁シートを提供し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
【0013】
図1は、回転軸に垂直な平面で誘導モータを切断した場合の断面の概略を示した概略図であり、図2は、図1において記号「A」で示されている破線で囲まれた領域を拡大した拡大図である。
【0014】
10は、誘導モータの略中心部に配設された細長い円柱形状を有する回転軸を表している。
20は、該回転軸10の外周側に周設されているロータコアを表しており、該ロータコアは、前記回転軸10を挿通させ得る貫通孔を一端側から他端側に貫通させた全体略円筒形状に形成されている。
該回転軸10とロータコア20とは、固定一体化されて前記回転軸10周りに回転可能な状態で誘導モータに備えられている。
【0015】
30は、誘導モータ内に固定されて配設されているステータコアを表しており、該ステータコア30は、前記ロータコア20の円筒形状の外径よりも僅かに大きな内径を有する全体略円筒形状に形成されており、しかも、円筒形状の内側に形成されている中空領域をモータの回転軸が延在する方向に沿わせた状態で誘導モータ内に固定されて配設されている。
そして、ステータコア30は、その円筒形状の内周面とロータコア20の外周面との間に僅かに空隙を形成させて中空領域にロータコア20を収容させた状態で誘導モータに配設されている。
【0016】
31は、ステータコア30の内周面側に形成された複数条のスロットを表しており、この複数のスロット31は、前記回転軸10の延在方向に略平行して延在されており、しかも、隣接するスロット31が互いに略平行して配設されている。
そして、ステータコア30の内周面側には、このスロット31によって、ステータコア30の一端側から他端側にいたる長さ(テータコア30の全長)を有する直線状の開口部31aが互いに略平行して複数形成されている。
また、スロット31は、ステータコア30を長さ方向に貫通する状態で形成されており、ステータコア30の一方の端面と他方の端面には、スロット31の断面形状と同形状の開口部が形成されている。
さらに、ステータコア30の内周面から外周側に向けてのスロット30の深さは、全てのスロット31において略同一深さとされている。
【0017】
32は、ステータコア30の内周面側に形成された複数のスロット11によって、回転軸10方向に向けて突出した状態に形成されたティースである。
該ティース32は、突出方向先端部に他部よりも広幅に形成された広幅部32aを有しており、スロット30の延在方向(回転軸10の延在方向)に垂直な平面による断面が略T字状となる形状を有している。
このロータコア20やステータコア30の形成には、特に限定されるものではないが、例えば、電磁鋼板を前記回転軸10の軸方向に積層させた積層体などを用いることができる。
【0018】
40は、このスロット31に収容されてステータコア30とともにステータを構成するコイルに用いられている巻線を表している。
【0019】
そして、51は、該巻線40とスロット31の内壁面との間に介装された状態でステータに配設されており、主として、巻線40がステータコア30に収容される前にスロット31に挿入されて配設される絶縁シート(以下「スロットライナ」ともいう)であり、該スロットライナ51は、スロット31の延在方向(回転軸10の延在方向)に垂直な平面による断面が、回転軸10方向に向けて開口された略コの字状となる状態で配設されている。
また、スロットライナ51は、スロット31の長さよりも僅かに長く形成されており、ステータコア30の一方の端面と他方の端面とに形成されたスロット31の開口部のエッジ部分と巻線40とが直接接触して、巻線40が傷ついたりすることを防止し得るように、その両端部を、ステータコア30の端面に形成されたスロット31の開口部からそれぞれ突出させて配設されている。
【0020】
52は、スロットライナ51とともに用いられ、主として、巻線40がステータコア30に収容された後にスロット31に挿入されて配設される絶縁シート(以下「ウェッジ52」ともいう)を表している。
このウェッジ52は、スロットライナ51の回転軸10方向の開口部を覆う状態で配設されており、スロットライナ51のコの字状断面に対向するコの字状断面を有し、スロットライナ51とウェッジ52とは、そのコの字形状の先端部を重畳させてスロット31内に配設されている。
そして、スロット31内においては、ウェッジ52のコの字状断面形状における先端部は、スロットライナ51のコの字状断面形状における先端部よりも外側に位置させて重畳されている。
すなわち、スロット31内においては、ウェッジ52のコの字形状における先端部は、スロットライナ51のコの字形状における先端部とスロット31の内壁面との間に挟持された状態とされている。
このウェッジ52もスロット31の長さよりも僅かに長く形成されており、巻線40は、スロット31内においては、このスロットライナ51とウェッジ52とにより包囲されてステータコア30に配設されている。
【0021】
このスロットライナ51、ならびに、ウェッジ52は、いずれも単一の樹脂フィルムで形成されており、しかも、その表面は算術平均粗さ(Ra)0.05μm以上0.1μm以下、且つ、最大高さ粗さ(Rz)0.5μm以上1.0μm以下の表面粗さを有している。
アラミド紙が用いられた従来のスロットライナやウェッジは、通常、350μm程度の厚さを有する。したがって、このような従来のスロットライナやウェッジに対しては、前記樹脂フィルムが、例えば、330μm以下の厚みであれば巻線の占積率を向上させ得る。
また、前記樹脂フィルムとしては、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。
なお、絶縁シートの厚みを薄肉化させると、薄肉化とともに座屈強度が低下するおそれがある。したがって、このような厚みの薄い樹脂フィルムとしては、成形品の曲げ弾性率が高い値を示す樹脂が用いられて形成されたものが好適である。
【0022】
また、上記のような表面粗さを有する樹脂フィルムが用いられるのは、算術平均粗さ(Ra)が上記範囲から外れた値となる場合には、スロット31内壁面との間のすべり性に乏しいものとなり、スロット31への挿入時に引っ掛かりを生じて絶縁シートに座屈が発生したり、シワが生じたりして挿入作業性を低下させるおそれを有するためである。
また、最大高さ粗さ(Rz)が1.0μmを超えると、この最大高さ粗さ(Rz)を有する箇所において裂けが発生したりするおそれがあるためである。
なお、樹脂フィルムの表裏両面が必ずしも上記表面粗とされていなくともよく、要すれば、スロットライナ51やウェッジ52などの絶縁シートがスロット31の内壁面と接触する表面側のみが上記粗さとなるように、例えば、一面側が算術平均粗さ(Ra)0.05μm以上0.1μm以下、且つ、最大高さ粗さ(Rz)0.5μm以上1.0μm以下の表面粗さを有し、他面側が表面平滑に形成された樹脂フィルムを用いることも可能である。
【0023】
なお、この算術平均粗さ(Ra)ならびに最大高さ粗さ(Rz)については、JIS B601−2001に定義されており、例えば、株式会社東京精密製の表面粗さ測定器(型名「SURCOM 1400D−3DF」)を用いて、触針先端半径R=2μm、評価長さ10mm、基準長さ2mm、カットオフ値 0.8mm、ならびに、測定速度3mm/秒の測定条件により測定することができる。
【0024】
このスロットライナ51やウェッジ52などの絶縁シートに用いる樹脂フィルムとしては、絶縁性とともに優れた耐熱性を有し、例えば、直流にあっては750Vを、交流にあっては600Vを超える電圧で運転される高圧モータなどにおいても好適に使用し得る点において、ポリイミド樹脂フィルム、ポリエーテルイミド樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム、ポリエーテルイミド樹脂フィルム、ポリフェニレンサルファイド樹脂フィルム、および、超高分子量ポリエチレン樹脂フィルムの内のいずれかであることが好ましい。
なかでも、ポリイミド樹脂フィルムや超高分子量ポリエチレン樹脂フィルムが特に好適である。
【0025】
また、一面側に例えばポリイミド樹脂が用いられ、他面側に例えば超高分子量ポリエチレン樹脂が用いられるなどして異なる樹脂が積層されて形成された2層構造の樹脂フィルムや、あるいは、3層以上の積層構造を有する樹脂フィルムなども絶縁シートに用いることができる。
例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートフィルムを中心層とし、接着層を介してこの中心層の両面にポリイミド樹脂フィルムや超高分子量ポリエチレン樹脂フィルムを用いて表面層を形成させた、表面層/接着層/中心層/接着層/表面層の5層構造の積層フィルムを絶縁シートとして用いることも可能である。
このような構造を採用することにより、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートフィルムの優れた座屈強度を絶縁シートに反映させつつ、ポリイミド樹脂フィルムや超高分子量ポリエチレン樹脂フィルムの優れた耐湿熱性や耐電圧特性を絶縁シートに反映させることができる。
【0026】
なお、この“超高分子量ポリエチレン”との用語は、本明細書中においては、JIS K 6936−1、−2に記載されているようにJIS K 7210によるメルトフローレートを測定することができず、190℃、21.6kgの条件によりメルトマスフローレート(MFR)を測定した際に0.1g/10min未満となるポリエチレン材料を意図して用いている。
【0027】
このような、樹脂フィルムで形成されたスロットライナ51やウェッジ52は、ステータコア30の一端面に形成された開口部からスロット31の延在方向に沿ってスロット31内に挿入する際に、スロット31内壁面との間に優れたすべり性を発揮し、引っ掛かりを生じて絶縁シートに座屈が発生したり、シワが生じたりして挿入作業性が低下するおそれを抑制させ得る。
しかも、スロット31内における巻線40の収容スペースを、従来に比べて増大させ得る。
【0028】
このことについて、示す従来のスロットライナ51xや従来のウェッジ52xを配設させた場合の概略断面図である図3を参照しつつさらに説明する。
従来のスロットライナ51xやウェッジ52xは、例えば、ポリエステル樹脂フィルムの両面に接着剤を介してアラミド紙が接着されて形成されていたり、あるいは、複数枚のマイカシートが積層されていたりして、数百μm程度の厚みに形成されている。
このようにスロットライナ51xやウェッジ52xの厚みが厚いため、スロット31の内部における巻線40の収容スペースが圧迫されて占積率の高い状態でステータコア30にコイルを配設することが従来困難であった。
また、このような積層構造を有する従来のスロットライナ51xは、コシが必要以上に強く、マイカシートなどが用いられているような場合においては、特に剛直なものとなっている。
そのため、スロット31の内面形状に沿わせて配設することが困難で、例えば、角部Cなどのスロット31の内壁が曲折する箇所においては、スロット31の内壁面とスロットライナ51xとの間にすき間Aが生じやすく、該すき間がデッドスペースとなってスロット31の収容スペースを巻線40の収容のために十分有効に活用することが困難であった。
【0029】
一方で、本発明に係るスロットライナ51やウェッジ52などの絶縁シートにおいては、スロット31の角部などにおいてもすき間が生じにくく、スロット31の収容スペースを巻線40の収容のために十分有効に活用させ得るばかりでなく、スロットライナ51やウェッジ52自体の厚みも50μm以下となっていることから、従来のスロットライナ51xやウェッジ52xを用いた場合に比べて、スロット31内における巻線40の収容スペースを増大させることができ、占積率の高い状態でステータコア30にコイルを配設することができる。
【0030】
なお、本実施形態においては、誘導モータのステータコアに設けられたスロットに挿入されてステータコアに配設されるスロットライナとウェッジとを例に絶縁シートを説明したが、本発明に係る絶縁シートの用途を上記のような場合に限定するものではない。
本実施形態においては、すべり性などの特性を挿入作業性に特に反映させ得る点においてスロットライナとウェッジとを例に説明したが、本発明は、絶縁シートをこれらに限定するものではなく、スロットに挿入されてステータコアに配設されるもの全般を意図している。
【0031】
そして、本実施形態においては、ステータコアに配設される場合を例に絶縁シートを説明したが、本発明は、絶縁シートをステータコアに配設されるものに限定するものではなくロータコアに配設されるものであってもよい。
また、本実施形態においては、モータのステータコアに配設される場合を例に絶縁シートを説明したが、本発明に係る絶縁シートは、モータのステータやロータに用途が限定されるものではなく、ジェネレータのステータやロータ、あるいは、モータとしてもジェネレータとしても機能する装置のステータやロータにも本実施形態と同様に用いることも可能である。
【実施例】
【0032】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
(絶縁シート)
(樹脂フィルム)
実施例1の絶縁シートには、以下のような積層構造を有する樹脂フィルムを用いた。
構造:ポリイミド樹脂層(25μm)/接着層(15μm)/ポリエチレンナフタレート樹脂層(250μm)/接着層(15μm)/ポリイミド樹脂層(25μm)の5層構造の総厚み330μm
表面粗さ(ポリイミド樹脂層の表面粗さ):算術平均粗さ(Ra)=0.07μm、最大高さ粗さ(Rz)=0.78μm
なお、この表面粗さは、JIS B601−2001に準拠して、株式会社東京精密製の表面粗さ測定器(型名「SURCOM 1400D−3DF」)を用いて、触針先端半径R=2μm、評価長さ10mm、基準長さ2mm、カットオフ値 0.8mm、ならびに、測定速度3mm/秒の測定条件により測定したものである。
【0034】
(ウエッジ成形)
上記樹脂フィルムを図4に示すような幅9mmの矢羽形状に切断した後に、図中の破線に沿って幅方向両端部を同方向に90度折り曲げて断面コの字状のウェッジを作製した。
【0035】
(評価)
(挿入作業性)
ウエッジ挿入機を用いて、スロットへの挿入作業性を評価した。
作業性については、後段に示す従来のウェッジ(従来例)を基準として、従来例と同等の場合「○」として判定した。
また、従来のウェッジよりも、座屈などが生じにくく滑らかに挿入することができた場合を「◎」として判定した。
さらに、座屈や引っ掛かりなどが発生しやすく、従来のウェッジよりも、慎重な作業を必要とする場合を「×」として判定した。
【0036】
(座屈強度の測定)
また、あわせて座屈強度の測定を実施した。
測定は、以下のように実施した。
まず、幅57mm×長さ62mmの試料を2枚用意し、この2枚の試料をいずれも長さ方向中央部にて直角に折り曲げた。
この折り曲げた試料同士を対向させて互いの端部をつきあわせて、四角筒(31mm角×長さ57mm)状の試料となし、この四角筒状試料の下端側を内寸31mm角の正方形の有底型枠に装着した。
さらに、同型の型枠を四角筒状試料の上端側に装着し、この上下の型枠間の距離を5mm/minの速度で縮め型枠同士が接触する前に観察される最大応力の値を座屈強度として測定した(図5参照)。
結果を、表1に示す。
【0037】
(比較例1)
最大高さ粗さ(Rz)=0.3μmのポリイミド樹脂層を形成させたこと以外は実施例1と同様にウェッジを作製し、実施例1と同様に評価を実施した。
結果を、表1に示す。
【0038】
(従来例)
アラミド紙(商品名「ノーメックスペーパー」:50μm)/接着層(21μm)/ポリエチレンナフタレート樹脂層(188μm)/接着層(21μm)/アラミド紙(商品名「ノーメックスペーパー」:50μm)の5層構造の総厚み340μmの従来広く用いられている絶縁シートを用いた以外は、実施例1と同様にウェッジを作製し実施例1と同様に、この従来例の評価を実施した。
結果を、表1に示す。
【0039】
(比較例2)
比較例2として、厚み約250μmのアラミド紙(商品名「ノーメックスペーパー」)単独のシートを絶縁シートとし実施例1と同様にウェッジを作製し実施例1と同様に評価を実施した。
結果を、表1に示す。
【0040】
(比較例3)
比較例3として、厚み約370μmのアラミド紙(商品名「ノーメックスペーパー」)単独のシートを絶縁シートとし実施例1と同様にウェッジを作製し実施例1と同様に評価を実施した。
結果を、表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
この表1からも、本発明によれば、アラミド紙などが用いられた従来の絶縁シートに比べてスロットへの挿入作業性が低下することが抑制され、しかも、従来の絶縁シートに比べて薄肉化を図ることができる絶縁シートを提供し得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】誘導モータの断面を示した概略図。
【図2】図1の記号「A」で示されている領域を拡大した拡大図。
【図3】従来の絶縁シートを用いた場合を示した拡大図。
【図4】ウェッジ試料の説明図(平面図)。
【図5】座屈強度測定方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0044】
10:回転軸、20:ロータコア、30:ステータコア、31:スロット、32:ティース、32a:広幅部、40:巻線、51、51x:スロットライナ、52、52x:ウェッジ、A:すき間、C:角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ/ジェネレータのステータコアまたはロータコアのスロットに挿入されて配設される絶縁シートであって、
算術平均粗さ(Ra)0.05μm以上0.1μm以下、且つ、最大高さ粗さ(Rz)0.5μm以上1.0μm以下の表面粗さを有する樹脂フィルムが用いられており、しかも、前記表面粗さを有する面を表面に露出させた状態で前記樹脂フィルムが用いられていることを特徴とする絶縁シート。
【請求項2】
前記樹脂フィルムが、ポリイミド樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム、ポリエーテルイミド樹脂フィルム、ポリフェニレンサルファイド樹脂フィルム、および、超高分子量ポリエチレン樹脂フィルムの内のいずれかである請求項1記載の絶縁シート。
【請求項3】
スロットライナである請求項1または2記載の絶縁シート。
【請求項4】
ウェッジである請求項1または2記載の絶縁シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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