説明

絶縁劣化監視システム

【課題】モータ等の誘導性負荷の周波数、電圧変動に関係なく絶縁劣化に関係する対地絶縁抵抗分の漏洩電流を検出して監視する絶縁劣化監視システムを得る。
【解決手段】誘導性負荷と接続される交流電路の電圧、周波数、零相電流に基づいて対地絶縁抵抗の絶縁劣化を監視する絶縁劣化監視システムであって、上記誘導性負荷の制御状態を監視する監視手段を有し、この監視手段によって検出された上記誘導性負荷の制御状態に基づいて、対地絶縁抵抗分の漏洩電流を演算する所定の演算手段により絶縁劣化を監視する絶縁劣化監視システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、交流電路の対地絶縁抵抗を監視する絶縁劣化監視システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の絶縁劣化監視システムとして、第3n次(但し、nは整数)高調波成分を測定して、交流電路の各相における第3n次高調波成分が、全ての相で同相となることを利用して、抵抗分と静電容量分を分離するものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、交流電路の各相の対地静電容量分の漏洩電流量は漏洩電流の周波数に依存する特性を利用し、漏洩電流の2種類以上の周波数成分、例えば第1の周波数成分として基本波成分を、第2の周波数成分として第5次高調波成分を抽出することで、対地静電容量が0である状態、すなわち対地静電容量の影響を除去して、対地絶縁抵抗分の漏洩電流量だけを算出する。これにより、交流電路の絶縁抵抗を知り、交流電路の絶縁の監視を行うものがある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開06−043196号公報(図及びその説明)
【特許文献2】特許第4143463号公報(図及びその説明)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
計測対象がサーボモータやインバータなどの駆動装置によって駆動されるモータ等の誘導性負荷において、サーボコントローラやインバータの1次側ではなく、2次側であるモータ側で計測を行いたい場合、モータの回転数に応じて周波数、電圧などが時々刻々と著しく変化する。
また、絶縁劣化に関係する対地絶縁抵抗分の漏洩電流は電圧変動に合わせて変化する。
従って、周波数成分の変動により基準となる周波数成分が抽出できないため、基本波成分や高調波成分が抽出できないため、絶縁劣化に関係する対地絶縁抵抗分の漏洩電流が計測できない、もしくは誤差が大きくなるという問題点があった。
従来の絶縁劣化監視システムでは、受配電系の安定した商用周波数により対地絶縁抵抗分の漏洩電流の演算には問題は生じなかったが、設備系のサーボモータなどの負荷では制御特性に応じて電圧、周波数などが時々刻々と著しく変動するため、電圧が変動すると対地絶縁抵抗分の漏洩電流も変動してしまい絶縁劣化の傾向が分からない、また、基準となる周波数が変動するため計測精度が保証できない問題点があった。
【0006】
この発明は、前述のような実情に鑑みてなされたもので、負荷の周波数、電圧変動に関係なく絶縁劣化に関係する対地絶縁抵抗分の漏洩電流を検出して監視する絶縁劣化監視システムを得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る絶縁劣化監視システムは、誘導性負荷と接続される交流電路の電圧、周波数、零相電流に基づいて対地絶縁抵抗の絶縁劣化を監視する絶縁劣化監視システムであって、上記誘導性負荷の制御状態を監視する監視手段を有し、この監視手段によって検出された上記誘導性負荷の制御状態に基づいて、対地絶縁抵抗分の漏洩電流を演算する所定の演算アルゴリズムにより絶縁劣化を監視する絶縁劣化監視システムである。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、誘導性負荷と接続される交流電路の電圧、周波数、零相電流に基づいて対地絶縁抵抗の絶縁劣化を監視する絶縁劣化監視システムであって、上記誘導性負荷の制御状態を監視する監視手段を有し、この監視手段によって検出された上記誘導性負荷の制御状態に基づいて、対地絶縁抵抗分の漏洩電流を演算する所定の演算アルゴリズムにより絶縁劣化を監視する絶縁劣化監視システムであるので、モータ等の誘導性負荷の周波数及び電圧が著しく変動しても、負荷の絶縁劣化に関係する対地絶縁抵抗分の漏洩電流を精度よく検出し、絶縁監視を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1及び2に係る絶縁劣化監視システムの設置環境を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1における絶縁劣化監視システムを示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1の動作を説明する説明図である。
【図4】この発明の実施の形態1及び2の動作を説明する説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1の動作を説明するフローチャート図である。
【図6】この発明の実施の形態2の動作を説明する説明図である。
【図7】この発明の実施の形態2の動作を説明する説明図である。
【図8】この発明の実施の形態2の動作を説明するフローチャート図である。
【図9】この発明の実施の形態3の動作を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1、2は、この発明の実施の一形態を示すものであり、図1は絶縁劣化監視システムの構成を示す構成図、図2は動作を説明するための絶縁劣化監視システム図及び絶縁劣化監視システムの一実施例を示す構成図、図3、図4は絶縁劣化監視システムの絶縁劣化に関係する抵抗分の漏洩電流(以下Iorという)の演算の説明図、図5は負荷の周波数状態を自動判別して漏洩電流(Ior)の計算開始の指示を与えるフローチャートの説明図である。
【0011】
図1において、三相結線された三相電源のa,b,c各相の三相電路1には回路遮断器2を介してサーボアンプ3が結線されており、サーボアンプ3の2次側にはサーボモータである負荷5が接続されている。また、負荷5はD種接地されている。
【0012】
サーボアンプ3の負荷側に零相変流器(ZCT)4が設置されており、三相電路1の零相電流を測定し、ZCT1からみて負荷5の絶縁監視を行う。この零相電流は、三相電路1及び負荷5の対地絶縁抵抗と対地静電容量をベクトル合成した漏洩電流である。
【0013】
図2に示すように、絶縁監視システム6は、三相電路1の各相に接続され、各相の周波数を測定する周波数検出手段10と、同じく三相電路1の各相に接続され、電圧を測定する電圧検出手段11と、零相変流器4の出力信号より漏洩電流を測定する漏電検出手段12と有している。
【0014】
周波数検出手段10、電圧を測定する電圧検出手段11及び、漏洩電流を測定する漏電検出手段12の出力信号はそれぞれ漏洩電流(Ior)計算指示部13に出力さ、漏洩電流(Ior)計算部14に入力される。
【0015】
周波数による計算指示判定部20では負荷5の制御状態を監視し、その制御状態よりI
orの計算が可能であると判断した場合(フローチャートの詳細については実施の形態1及び実施の形態2で説明する)、漏洩電流(Ior)計算部14に漏洩電流(Ior)計算指示部13からIor演算のためのデータとともにIorの演算開始の指示を与える。
【0016】
電圧値設定手段15ではIorを演算するための基準となる電圧値を設定し、漏洩電流(Ior)計算部14に設定値を出力する。漏洩電流(Ior)計算指示部13より指示及びIor演算データを受けた漏洩電流(Ior)計算部14はIorの演算を行う。また、電圧値設定手段15より設定された電圧値換算でIorの演算を行う。(Ior演算アルゴリズムの詳細については実施の形態1及び実施の形態2で説明する。)
【0017】
演算したIorをデータ記憶手段16に記憶する。記憶データ出力手段17により外部に記憶データを出力する。さらに、監視手段18によりIorの警報値の監視を行い、警報出力手段19により設定した警報値を超えた場合に外部に警報出力する。
【0018】
周波数検出手段10、電圧を測定する電圧検出手段11、漏洩電流を測定する漏電検出手段12の各検出出力は漏洩電流(Ior)計算指示部13に常時出力される。周波数による計算指示判定部20と漏洩電流計算指示部13では負荷5の制御状態を監視する。負荷5の制御状態を周波数検出手段10、電圧を測定する電圧検出手段11により検出し、周波数による計算指示判定部20で検出した周波数と設定した周波数が同等な数値のときに負荷5の制御状態の周波数変動が少ない安定な状態と判定する、もしくは設定した周波数を用いずに自動的に負荷5の制御状態の周波数変動が少ない安定な状態と判定するアルゴリズムにより、漏洩電流(Ior)計算指示部13から漏洩電流(Ior)計算部14にIorの計算指示を与える。
【0019】
計算の指示を受けた漏洩電流(Ior)計算部14は負荷5の制御対象が安定な状態と判断したときの周波数を演算の基本波とする。さらに、高調波成分を演算し特許文献2の方法を応用してIorを演算する。
【0020】
以下、抵抗分の漏洩電流Iorの具体的な演算アルゴリズムを示す。特許文献2では対地静電容量分の漏洩電流量は漏洩電流の周波数に依存する特性を利用し、漏洩電流の2種類以上の周波数成分、例えば第1の周波数成分として基本波成分を、第2の周波数成分として第七次高調波成分をFFT処理により抽出することで、対地静電容量が0である状態、すなわち対地静電容量の影響を除去して、対地絶縁抵抗分の漏洩電流量だけを演算できることを利用して、図3より漏洩電流Ioの基本波成分と位相角、漏洩電流Ioの第七次高調波成分と位相角から以下の関係が求められる。
【数1】

(1)式において、Io1: 漏洩電流Ioの基本波成分
Io7: 漏洩電流Ioの第七次高調波成分
θ1: 漏洩電流Ioの基本波成分の位相角
θ7: 漏洩電流Ioの第七次高調波成分の位相角
図4のモータ2次側漏洩電流Ioの周波数帯f1を(1)式のIo1と置き換え、図4のモータ2次側漏洩電流Ioの周波数帯f1の第七次高調波成分を(1)式のIo7と置き換えて演算する。
【0021】
(1)式にて演算したIorは演算したときの電圧値に比例し、電圧値の変動が大きな
負荷では比較が困難なため、以下の(2)式により電圧設定手段15の設定した電圧値(
定格電圧など)つまり基準となる電圧値に換算する。
Ior_C × V_SET ÷ V_f …(2)
(2)式において、Ior_C: (1)式にて演算したIor
V_SET: 電圧設定値手段15により設定した電圧値
V_f: 図4のモータ2次側漏洩電流Ioの周波数帯f1の
ときの電圧検出手段11より取得した電圧値
【0022】
設定した周波数を用いずに自動的に負荷5の制御状態が安定な状態と判定する図5に示す周波数状態自動判別アルゴリズム(実施の形態1)では、周波数検出手段10により取得したモータ5の周波数を常時取得し(S101)、規定したサイクル数の平均値から周波数変化率を算出する(S102)。
【0023】
この算出した周波数変化率が規定値以内か判断し(S103)、規定値外の場合、規定したサイクル(S105)と規定した周波数変化率を増大させる(S104)。規定値内の場合、漏洩電流(Ior)計算部14に計算の指示を与える(S106)。また、規定したサイクル(S105)と規定した周波数変化率を減少させる(S104)。安定な負荷でIor計算の指示を早く出すために規定したサイクル数を減少し、負荷変動のある負荷でもIor計算の指示を出せるようにするため規定したサイクル数を増加する。また、負荷変動が少ない場合で計測精度に影響が少ないIorの演算のため規定した周波数変化率を減少し、負荷変動のある負荷でもIor計算の指示を出せるようにするため規定した周波数変化率を増加する。
【0024】
ステップS106からステップS107へ移行した場合、漏洩電流(Ior)計算部14でIorを演算する(S107)。
【0025】
周波数変動のない負荷及び周波数変動のある負荷でもIorを演算でき、基準となる電圧値で演算することにより絶縁劣化の具合を検出することができる。
負荷の制御周波数を手動及び自動的で決定した周波数で漏洩電流(Ior)を演算することにより、周波数変動が少ない安定な負荷状態での演算であるため演算精度に及ぼす影響を少なくすることができる。
【0026】
実施の形態2.
本実施の形態では、周波数検出手段10、電圧を測定する電圧検出手段11、漏洩電流を測定する漏電検出手段12の各検出出力は漏洩電流(Ior)計算指示部13に常時出力される。
【0027】
漏洩電流計算指示部13では負荷5の制御状態を監視する。負荷5の制御状態を周波数検出手段10、電圧を測定する電圧検出手段11により検出し、周波数による計算指示判定部20で検出した周波数と設定した周波数が同等な数値のときに負荷5の制御状態が安定な状態と判定し異なる周波数帯を得る、もしくは設定した周波数を用いずに自動的に負荷5の制御状態が安定な状態と判定し異なる周波数帯を得るアルゴリズムにより、漏洩電流(Ior)計算指示部13から漏洩電流(Ior)計算部14にIorの計算指示とIor演算のためのデータを与える。例えば、Ior計算の指示は図4のように異なる周波数帯f1、f2、f3のときに与える。
【0028】
実施の形態1では負荷5の駆動周波数が同一周波数帯f1からのみの演算となるが、本形態では、負荷5の駆動周波数が大きく変化するところに着眼し、駆動周波数が高いときを実施の形態1の高調波成分と捕らえ、異なる周波数帯f1、f2、f3からの演算が可能となる。
【0029】
図8に示すように、設定した周波数を用いずに自動的に負荷5の制御状態が安定な状態と判定し異なる周波数帯から抵抗分の漏洩電流(Ior)を演算する周波数状態自動判別アルゴリズム(実施の形態2)では、周波数検出手段10により取得したモータ5の周波数を常時取得し(S101)、規定したサイクル数の平均値から周波数変化率を算出する(S102)。
【0030】
算出した周波数変化率が規定値以内か判断する(S103)。規定値外の場合、規定したサイクル(S105)と規定した周波数変化率を増大させる(S104)。規定値内の場合、前回値の周波数帯と周波数値を比較処理に移行する。また、規定したサイクル(S105)と規定した周波数変化率を減少させる(S105)。安定な負荷でIor計算の指示を早く出すために規定したサイクル数を減少し、負荷変動のある負荷でもIor計算の指示を出せるようにするため規定したサイクル数を増加する。また、荷変動が少ない場合で計測精度に影響が少ないIorの演算のため規定した周波数変化率を減少し、負荷変動のある負荷でもIor計算の指示を出せるようにするため規定した周波数変化率を増加する。
【0031】
前回値の周波数帯と今回値の周波数帯を比較し(S108)、規定値以内であれば前回値と今回値の周波数帯の周波数、電圧、漏電で漏洩電流(Ior)計算指示部13より計算の指示を行う(S110)。また、周波数帯比較規定値変更処理により規定値を増大させる(S109)。
前回値の周波数帯と今回値の周波数帯を比較し、規定値以内でなければ周波数帯比較規定値変更処理により規定値を減少させる(S109)。
S110で異なる周波数帯によるIorの演算を行うが、この異なる2つの周波数帯が離れているほど式(6)より分母が大きくなり、Ioの誤差の影響が少なくなるため、周波数帯比較規定値変更処理の規定値の増減により漏洩電流(Ior)の演算精度の向上が可能になる。
【0032】
ステップS110からステップS111へ移行した場合、漏洩電流(Ior)計算部14でIorを演算する(S111)。
【0033】
計算の指示を受けた漏洩電流(Ior)計算部14は負荷5の制御対象が安定な状態と判断したときの2つの周波数帯より演算する。例えば、図4のf1とf2、f2とf3、f3とf1より演算する。
【0034】
以下、具体的な演算アルゴリズムを示す。異なる周波数帯より測定値を取得する。測定値である周波数帯f1のときの電圧、漏洩電流をそれぞれV1、Io1とする。また、周波数帯f2のときの電圧、漏洩電流をそれぞれV2、Io2とする。
異なる周波数帯より測定した電圧、周波数、漏洩電流を以下(3)式に置き換える。
【0035】
【数2】

図6のベクトル図より、周波数帯f1の測定値を以下(4)式に置き換える。ただし、
【数3】

(Io:漏洩電流、Ioc: 対地静電容量分の漏洩電流)、
【数4】

(V:対地電圧R:絶縁抵抗)の関係式より対地絶縁抵抗分の漏洩電流は電圧に比例、
【数5】

(f:周波数C:対地静電容量)の関係式より対地静電容量分の漏洩電流は周波数と電圧に比例することが知られている。
【数6】

また、図7のベクトル図より、周波数帯f2の測定値を以下(5)式に置き換える。
【数7】

ただし、(3)式より
【数8】

とする。
(5)式 − (4)式より、
【数9】

【0036】
(6)式が得られ、(6)式より抵抗分の漏洩電流Iorが演算可能となる。
【0037】
図4のモータ2次側漏洩電流Ioの周波数帯ごとにIorを演算する場合は負荷5の制御特性の電圧変動によるIorの変動を抑制するため、電圧値設定手段15により基準となる電圧値を設定し、その設定した電圧値によってIorを演算する。演算アルゴリズムを以下に示す。
【0038】
(6)式にて演算したIorは演算したときの電圧値に比例し、電圧値の変動が大きな負荷では比較が困難なため、以下の(7)式により電圧設定手段15の設定した電圧値(定格電圧など)つまり基準となる電圧値に換算する。
Ior_C × V_SET ÷ V_f …(7)
(7)式において、Ior_C: (6)式にて演算したIor
V_SET: 電圧設定値手段15により設定した電圧値
V_f: 図4のモータ2次側漏洩電流Ioの周波数帯f1の
ときの電圧検出手段11より取得した電圧値
【0039】
負荷の制御周波数として第1の周波数成分と第2の周波数成分は漏洩電流(Ior)計算指示部より指示を受けて演算したときの第1の周波数成分と第2の周波数成分の周波数の差異が大きい周波数をある一定の周期で手動及び自動で選択して漏洩電流(Ior)計算部で対地静電容量による漏洩電流を相殺して対地絶縁抵抗による漏洩電流(Ior)を演算し、データ記憶手段に出力する。結果、周波数変動のある負荷でもIorを演算でき、基準となる電圧値で演算することにより絶縁劣化の具合を検出することができる。
【0040】
また、高調波成分によるFFT処理が不要なため演算処理速度が高速になるためリアルタイムで絶縁劣化の具合を検出することができる。
【0041】
実施の形態3.
本実施の形態は、実施の形態1と実施の形態2とを組合せた場合の事例である。
【0042】
実施の形態1のIorの演算には高調波成分が必要なためFFT処理が必要となり演算
処理に時間を必要とするため、常時は高速な演算処理が可能である実施の形態2の演算アルゴリズムを使用する。しかし、実施の形態2では、負荷5の駆動周波数の変動が少ない場合には精度よく検出できないので、負荷5の駆動周波数の変動が少ない場合には実施の形態1の検出方法を使用するものである。
【0043】
以下、本実施の形態について、図9に示すフローチャートで詳細を説明する。
【0044】
周波数検出手段10により周波数値を高速サンプリングにより取得し(S101)、一定期間の周波数の変動を判定する(S113)。周波数規定値以内の場合すなわち負荷変動の少ない場合はAへ移行し実施の形態1を使用する。規定値以上の場合すなわち負荷変動の大きい場合はCへ移行し実施の形態2を使用して漏洩電流Iorを演算する。
【0045】
実施の形態1のIorの演算には高調波成分が必要なためFFT処理が必要となり演算
処理に時間を必要とするため、常時は高速な演算処理が可能である実施の形態2の演算アルゴリズムを使用するように周波数の変動の規定値を調整する。
【0046】
実施の形態2のIorの演算には(6)式よりb=1つまり負荷5の周波数変動がない場合では演算不可であり、また周波数変動の少ない場合では計測誤差に影響するため、実施の形態1を使用する。結果、負荷5の制御特性に依存せず、Iorの演算が可能となる。
【0047】
前述のように、この発明に係る絶縁劣化監視システムは、交流の電路の零相電流を検出する零相電流検出手段、電路の電圧を検出する電圧検出手段、電路の周波数を検出する周波数検出手段、零相電流、電圧及び周波数の中の第1及び第2の周波数成分を演算する手段、零相電流、電圧及び周波数の中の第1及び第2の周波数成分を演算する指示を与える手段、及び電圧変動による零相電流の変動を基準となる電圧値に換算する演算手段、零層電流の第1及び第2の周波数成分より演算した絶縁劣化に関係する抵抗分の漏洩電流を記憶、出力する手段を備えたものであり、複数相電路の周波数、複数相電路に印加される電圧、複数相電路の漏洩電流等から対地絶縁抵抗分の漏洩電流を演算または表示する絶縁劣化監視システムにおいて、上記電路より周波数、電圧、漏洩電流を検出し負荷の制御特性が演算可能である制御タイミングで対地絶縁抵抗分の漏洩電流を演算し、負荷の電圧変動による零相電流の変動を基準となる電圧値に換算する手段を有するものであるといえる。
【0048】
なお、各図中、同一符合は同一部分を示す。
【符号の説明】
【0049】
1 電路、
2 (装置)メインブレーカ、
3 サーボアンプ,インバータ、
4 ZCT(零相変流器)、
5 モータ、
6 絶縁劣化監視システム、
10 周波数検出手段、
11 電圧検出手段、
12 漏電検出手段、
13 漏洩電流(Ior)計算指示部、
14 漏洩電流(Ior)計算部、
15 電圧値設定手段、
16 データ記憶手段、
17 記憶データ出力手段、
18 監視手段、
19 警報出力手段、
20 周波数による計算指示判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導性負荷と接続される交流電路の電圧、周波数、零相電流に基づいて対地絶縁抵抗の絶縁劣化を監視する絶縁劣化監視システムであって、上記誘導性負荷の制御状態を監視する監視手段を有し、この監視手段によって検出された上記誘導性負荷の制御状態に基づいて、対地絶縁抵抗分の漏洩電流を演算する演算手段により絶縁劣化を監視する絶縁劣化監視システム。
【請求項2】
上記監視手段によって検出された上記誘導性負荷の制御状態が安定な状態である場合に上記対地絶縁抵抗分の漏洩電流を演算する所定の第1の演算手段により絶縁劣化を監視することを特徴とする請求項1に記載の絶縁劣化監視システム。
【請求項3】
上記誘導性負荷の駆動周波数が異なる各時点の上記電圧、周波数、零相電流に基づいて、対地絶縁抵抗分の漏洩電流を演算する所定の第2の演算手段により絶縁劣化を監視することを特徴とする請求項1に記載の絶縁劣化監視システム。
【請求項4】
上記監視手段によって検出された上記誘導性負荷の制御状態が安定な状態である場合は上記対地絶縁抵抗分の漏洩電流を演算する所定の第1の演算手段により絶縁劣化を監視し、上記誘導性負荷の駆動周波数が異なる上記誘導性負荷の制御状態が不安定な状態である場合は上記対地絶縁抵抗分の漏洩電流を演算する所定の第2の演算手段により絶縁劣化を監視することを特徴とする請求項1に記載の絶縁劣化監視システム。
【請求項5】
複数相電路に印加される電圧、周波数、複数相電路の漏洩電流等から各種電気量を計測または外部出力する絶縁劣化監視システムにおいて、複数相電路の周波数を検出する手段と、上記複数相電路の電圧を検出する手段と、零相変流器による二次出力電流(漏洩電流)を検出する手段と、入力された周波数と電圧から負荷駆動装置の二次側負荷の電気量が演算可能であると判定する漏洩電流(Ior)計算指示部と、漏洩電流(Ior)計算指示部より指示を受けて周波数検出手段と電圧検出手段と漏電検出手段より周波数検出値と電圧検出値と漏電検出値から対地絶縁抵抗による漏洩電流(Ior)を演算する漏洩電流(Ior)計算部と、負荷の電圧変動による零相電流の変動を基準となる電圧値に換算する電圧値設定手段と、上記演算した結果を記憶するデータ記憶手段と、上記記憶データを通信により外部にデータ転送する記憶データ出力手段と、上記演算した結果によって漏電状態を外部へ出力する警報出力手段を有することを特徴とする絶縁監視システム。
【請求項6】
上記漏洩電流(Ior)計算指示部は、周波数検出手段により周波数を高速サンプリングにより取得し、周波数の値が数サイクル一致しているもしくは同等であると判断した場合、漏洩電流(Ior)計算部に対地絶縁抵抗による漏洩電流(Ior)の計算開始の指示を与える。また、負荷の電圧変動による零相電流の変動を基準となる電圧値に換算するため、電圧検出手段により電圧を高速サンプリングにより取得し、計算開始の指示を与えたときの電圧値を漏洩電流(Ior)計算部に与える手段を有することを特徴とする請求項5に記載の絶縁劣化監視システム。
【請求項7】
上記漏洩電流(Ior)計算指示部は、周波数検出手段により周波数を高速サンプリングにより取得し、周波数の値が数サイクル一致しているもしくは同等であると判断し、漏洩電流(Ior)計算部に対地絶縁抵抗による漏洩電流(Ior)の計算開始の指示を与える手段として、負荷の周波数状態と周波数の設定値を比較し、両者が同等のときに漏洩電流(Ior)の計算開始の指示を与える手段を有することを特徴とする請求項5に記載の絶縁劣化監視システム。
【請求項8】
上記漏洩電流(Ior)計算指示部は、周波数検出手段により周波数を高速サンプリン
グにより取得し、周波数の値が数サイクル一致しているもしくは同等であると判断し、漏洩電流(Ior)計算部に対地絶縁抵抗による漏洩電流(Ior)の計算開始の指示を与える手段として、上記負荷の周波数状態から自動的に判断する処理手段を有することを特徴とする請求項5に記載の絶縁劣化監視システム。
【請求項9】
上記漏洩電流(Ior)計算部は、上記負荷の制御周波数として第1の周波数成分を、第2の周波数成分として上記負荷の制御周波数としての第1の周波数成分の第7次高調波成分を抽出し、上記負荷の制御周波数として第1の周波数成分は漏洩電流(Ior)計算指示部より指示を受けて演算したときの高調波含有率の高い周波数帯をある一定の周期で選択して上記漏洩電流(Ior)計算部で上記漏洩電流(Ior)を演算し、上記データ記憶手段に出力するものであることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の絶縁劣化監視システム。
【請求項10】
上記漏洩電流(Ior)計算部は、上記負荷の制御周波数として周波数帯の異なる第1の周波数成分と、第2の周波数成分を抽出し、上記負荷の制御周波数として上記第1の周波数成分と上記第2の周波数成分は上記漏洩電流(Ior)計算指示部より指示を受けて演算したときの上記第1の周波数成分と上記第2の周波数成分の周波数の差異が大きい周波数をある一定の周期で選択して上記漏洩電流(Ior)計算部で対地静電容量による漏洩電流を相殺して対地絶縁抵抗による漏洩電流(Ior)を演算し、上記データ記憶手段に出力するものであることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の絶縁劣化監視システム。
【請求項11】
上記電圧値設定手段は、上記負荷の電圧変動による零相電流の変動を基準となる電圧値に換算するための電圧設定値を決定し、その電圧設定値により上記漏洩電流(Ior)計算部で基準となる電圧値に換算すること特徴とする請求項5又は請求項6に記載の絶縁劣化監視システム。
【請求項12】
上記漏洩電流(Ior)計算部は、常時は高速な演算処理が可能である請求項10の演算機能を使用し、上記負荷の周波数変動がない場合もしくは少ない場合は請求項9の演算機能を使用することにより、負荷の制御特性に依存せず対地絶縁抵抗による漏洩電流(Ior)の演算を可能とすることを特徴とする請求項5に記載の絶縁劣化監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−251817(P2012−251817A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123286(P2011−123286)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】