説明

絶縁塗料およびそれを用いた絶縁電線

【課題】高い部分放電開始電圧を有し、かつインバータサージ電圧が発生した場合においても絶縁破壊し難い絶縁被膜が得られる絶縁塗料を提供する。
【解決手段】ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料に、疎水性シリカ粒子が分散されている絶縁塗料において、前記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミン類からなる芳香族ジアミン成分と芳香族ジイソシアネート成分と芳香族トリカルボン酸無水物からなる酸成分とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と、溶媒とを有し、前記疎水性シリカ粒子は、平均一次粒子径が50nm未満であり、前記ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して5〜25質量部の割合で分散されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁塗料およびそれを用いた絶縁電線に係り、特に、モータや変圧器等の電気機器のコイル用として好適な絶縁塗料及びそれを用いて製造した絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転電機や変圧器などの電機機器のコイルには、コイルの用途・形状に合致した断面形状(例えば、丸形状や矩形状)を有する金属導体(導体)の周囲に、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等の樹脂を有機溶剤に溶解させた絶縁塗料を塗布・焼付けして得られる絶縁被膜を1層又は2層以上形成してなる絶縁被覆層を備えた絶縁電線(エナメル線)が、広く用いられている。
【0003】
回転電機や変圧器などの電気機器は、インバータ制御にて駆動されるようになってきており、このようなインバータ制御を用いた電気機器では、インバータ制御により発生するインバータサージ電圧(サージ電圧)が高い場合、発生したインバータサージ電圧が電気機器に侵入してしまう虞がある。このようにインバータサージ電圧が電気機器に侵入した場合、電気機器のコイルを構成する絶縁電線に、このインバータサージ電圧に起因して部分放電が発生し、絶縁被膜が劣化・損傷することがある。
【0004】
このようなインバータサージ電圧による絶縁被膜の劣化(部分放電による絶縁被膜の劣化)を防ぐための方法として、例えば、オルガノシリカゾルをポリアミドイミド樹脂等からなる樹脂溶液中に分散させて得られる絶縁塗料(耐部分放電性絶縁塗料)を導体上に塗布、焼付けして絶縁被膜を形成した絶縁電線を用いることで、部分放電に対する絶縁被膜の寿命を向上させて(耐サージ性を向上させて)、部分放電が発生しても絶縁被膜を劣化・損傷させないようにする方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、インバータサージ電圧による絶縁被膜の劣化を防ぐための別の方法として、例えば、導体上に形成された絶縁被膜と、この絶縁被膜上に形成されたポリフェニレンサルファイド(PPS)などからなる押出被覆層とを有する絶縁被覆層を備えた絶縁電線とすることで、部分放電開始電圧を高くして絶縁電線に部分放電を発生させないようにする方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−302835号公報
【特許文献2】特許第4177295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、省エネ等を背景にハイブリッド自動車等が普及し始めており、このような用途に使用される電気機器は、ハイブリッド自動車等の燃費改善や動力性能向上のために小型、高電圧駆動が望まれているため、従来よりも高電圧でインバータ制御される。このため、最近の絶縁電線には、部分放電を発生させないようにするために従来よりも高い部分放電開始電圧(例えば900V超の部分放電開始電圧)を有することが求められている。
【0008】
また、近年では、高電圧でインバータ制御される電気機器の更なる小型化、高効率化に伴い、モータに対する絶縁電線の占積率のさらなる向上が要求されているため、インバータサージ電圧が発生し易い。このため、インバータサージ電圧が発生した場合であっても、インバータサージ電圧に起因する部分放電で絶縁被膜が絶縁破壊することがない耐性も求められている。
【0009】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決し、高い部分放電開始電圧を有し、かつインバータサージ電圧が発生した場合においても絶縁破壊し難い絶縁被膜が得られる絶縁塗料、およびその絶縁塗料を用いた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線が提供される。
【0011】
[1]ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料に、疎水性シリカ粒子が分散されている絶縁塗料において、前記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミン類からなる芳香族ジアミン成分と芳香族ジイソシアネート成分と芳香族トリカルボン酸無水物からなる酸成分とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と、溶媒とを有し、前記疎水性シリカ粒子は、平均一次粒子径が50nm未満であり、前記ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して5〜25質量部の割合で分散されている絶縁塗料。
【0012】
[2]導体の表面に、前記[1]に記載の絶縁塗料からなる絶縁被膜が形成されている絶縁電線。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い部分放電開始電圧を有し、かつインバータサージ電圧が発生した場合においても絶縁破壊し難い絶縁被膜が得られる絶縁塗料、およびその絶縁塗料を用いた絶縁電線を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明に係る絶縁塗料、および絶縁電線の好適な実施の形態を説明する。
【0015】
(絶縁塗料)
本実施の形態に係る絶縁塗料は、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料に、疎水性シリカ粒子が分散されている絶縁塗料である。このポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミン類からなる芳香族ジアミン成分と芳香族ジイソシアネート成分と芳香族トリカルボン酸無水物からなる酸成分とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と、溶媒とを有するものである。
【0016】
本実施の形態に係る絶縁塗料において、疎水性シリカ粒子は、耐サージ性付与剤として上記のポリアミドイミド樹脂100質量部に対して5〜25質量部の割合で分散されている。この疎水性シリカ粒子は、平均一次粒子径が50nm未満であることが望ましい。
【0017】
このような絶縁塗料とすることにより、従来よりも高い部分放電開始電圧(例えば900V以上の部分放電開始電圧)を得ることができると共に、インバータサージ電圧が発生した場合であっても、絶縁被膜の減耗に伴う絶縁破壊を抑制することができる。
【0018】
なお、この疎水性シリカ粒子以外に、親水性シリカ粒子などの珪素化合物、金属、ガラス、カーボンブラック及び金属錯体からなる群より選択される少なくとも1種を疎水性シリカ粒子と併用して用いることができる。具体的には、例えば、銅、銀、ニッケル、パラジウム、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、CaO・Al2O3・SiO2系無機ガラス、MgO・Al23・SiO2系無機ガラス、LiO2・Al23・SiO2系無機ガラスの低融点ガラス、珪素化合物、種々のカーボンブラック、金属錯体等の無機粒子が挙げられる。
【0019】
本実施の形態に係る絶縁塗料において、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類からなる芳香族ジアミン成分と、無芳香族トリカルボン酸無水物からなる酸成分とを共沸溶剤を用いた脱水閉環反応によって得られるイミド基含有ジカルボン酸に、芳香族ジイソシアネート成分を脱炭酸反応させて得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料であることが望ましい。
【0020】
芳香族ジアミン成分として3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類を用い、さらに、この芳香族ジアミン成分と酸成分とを共沸溶剤を用いて脱水閉環反応させることにより、ポリアミドイミド樹脂の誘電率上昇に最も影響を与えているアミド基とイミド基のポリマー中の存在比率を低下させることができる。これにより、ポリアミドイミド樹脂が持つ耐熱性等の特性レベルを低下させることなく誘電率を低減した優れたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料とすることができる。
【0021】
3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類としては、例えば、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、或いはそれら異性体から選択される少なくとも1つからなる。なお、芳香族ジアミン類をもとにホスゲンを使用して上記列挙した芳香族ジアミン類の全てあるいは一部をジイソシアネート類に代えて使用することも出来る。
【0022】
芳香族ジイソシアネート成分としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,2−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン(BIPP)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類及び異性体、多量体が例示される。また、必要に応じて、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシシレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類、或いは上記例示した芳香族ジイソシアネートを水添した脂環式ジイソシアネート類及び異性体も使用、併用しても良い。
【0023】
酸成分としては、トリメリット酸無水物(TMA)が挙げられる。その他、ベンゾフェノントリカルボン酸無水物など芳香族トリカルボン酸無水物も使用することが可能であるが、TMAが最も好適である。
【0024】
また、芳香族ジアミン成分と酸成分とを反応させる際に用いられる共沸溶剤としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素が例示でき、キシレンが特に好適である。また、ジアミン成分と酸成分との反応における反応温度は、160℃〜200℃、好ましくは170℃〜190℃である。なお、イミド基含有ジカルボン酸とジイソシアネート成分との反応における反応温度は、110℃〜130℃である。
【0025】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を製造する際の溶媒としては、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)等の極性溶媒を主溶媒とした溶媒を用いることができる。主溶媒であるNMPの他に、γ−ブチロラクトンやDMAC(N,N−ジメチルアセトアミド)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMI(ジメチルイミダゾリジノン)、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどのポリアミドイミド樹脂の合成反応を阻害しない溶媒を併用して合成しても良いし、希釈しても良い。また、希釈用途として芳香族アルキルベンゼン類などを併用しても良い。但し、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の溶解性を低下させる虞がある場合は考慮する必要がある。
【0026】
なお、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の合成時においては、塗料の安定性を阻害しない範囲で、アミン類やイミダゾール類、イミダゾリン類などの反応触媒を使用しても良い。また、合成反応を停止するときにはアルコールなどの封止剤を用いても良い。
【0027】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の合成時において、芳香族ジイソシアネート成分の配合比率については特に限定はないが、1段目で合成されたイミド基含有ジカルボン酸と芳香族ジイソシアネート成分とは等量が望ましい。なお、芳香族ジイソシアネート成分を酸成分に対して1〜1.05モルの範囲で微過剰配合を行っても良い。
【0028】
(絶縁電線)
本発明の絶縁電線は、断面が丸形状、あるいは四角形状の導体の表面に、上述した本発明の絶縁塗料を塗布、焼付けして形成した絶縁被膜を有する絶縁電線である。
なお、本発明の絶縁電線は、導体と、絶縁被膜との間の密着性を向上させるための密着性付与絶縁被膜や、可とう性を向上させるための可とう性付与絶縁被膜などを、導体と絶縁被膜との間に形成してもよい。また、本発明の絶縁電線は、絶縁被膜の周囲に潤滑性を付与するための潤滑性付与絶縁被膜や、耐傷性を付与するための耐傷性付与絶縁被膜などを形成してもよい。これらの密着性付与絶縁被膜、可とう性付与絶縁被膜、潤滑性絶縁被膜、および耐傷性付与絶縁被膜は、絶縁塗料を塗布、焼付けすることによって形成してもよいし、押出機を用いた押出成形によって形成してもよい。
【0029】
また、本発明においては、導体と絶縁被膜との間に、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、あるいはH種ポリエステル等からなる樹脂を溶媒に溶解させてなる絶縁塗料を塗布、焼付けして形成される有機絶縁被膜を単層又は多層で設けてもよい。
【0030】
本発明の絶縁塗料で形成された絶縁被膜の膜厚は、20μm以上であることが好ましい。膜厚が20μmより小さい場合、耐熱性や耐摩耗性といった特性に優れるものの、部分放電開始電圧の高い絶縁被膜を形成することが困難となる。なお、絶縁被膜の比誘電率は、低いほど望ましく、部分放電開始電圧を高めるための有効性を発揮するためには、3.0以下が望ましい。
【0031】
本発明の絶縁電線に用いられる導体は、銅導体からなり、主に無酸素銅や低酸素銅が使用される。なお、銅導体はこれに限定されるものではなく、銅の外周にニッケルなどの金属めっきを施した導体も使用可能である。また、導体として、断面が丸形状、あるいは四角形状などの断面形状を有するものが使用できる。
【実施例】
【0032】
実施例、および比較例の絶縁塗料は以下のように調製した。
【0033】
(1)ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の合成方法
撹拌機、還流冷却管、窒素流入管、温度計を備えた反応装置に、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン451.1g、トリメリット酸無水物453.9gを配合し、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン2542.1g、キシレン254.2gを添加した後、攪拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で4時間反応した。脱水反応中に生成する水およびキシレンは一旦、受け器に溜まり、適宜系外へ留去した。
その後、90℃まで冷却した後、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)319.7gを配合し、攪拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度120℃で、1時間反応した。その後、ベンジルアルコール89.3g、N,N−ジメチルホルムアミド635.4gを配合し停止反応を行った。E型粘度計で測定した粘度が2000mPa・sのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が得られた。
【0034】
(2)ポリアミドイミド樹脂へのシリカ配合
下記実施例、比較例に示すシリカ粒子をN−メチル−2−ピロリジノンに添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、シリカ分散スラリーを得た。
その後、得られたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料にシリカ分散スラリーを下記実施例、比較例に示す配合比率で添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、絶縁塗料を得た。
【0035】
(絶縁電線の製造方法)
得られた絶縁塗料を断面が丸形状の銅導体上に塗布、焼付けし、膜厚が45μmとなるように絶縁被膜を形成して絶縁電線を得た。
【0036】
(実施例1)
平均一次粒子径が12μmの疎水性シリカ粒子をN−メチル−2−ピロリジノンに添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、シリカ分散スラリーを得た。その後、シリカ分散スラリーをポリアミドイミド樹脂絶縁塗料にポリアミドイミド樹脂100質量部に対して5質量部の割合となるように添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、絶縁塗料を得た。
【0037】
(実施例2)
平均一次粒子径が12μmの疎水性シリカ粒子をN−メチル−2−ピロリジノンに添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、シリカ分散スラリーを得た。その後、シリカ分散スラリーをポリアミドイミド樹脂絶縁塗料にポリアミドイミド樹脂100質量部に対して10質量部の割合となるように添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、絶縁塗料を得た。
【0038】
(実施例3)
平均一次粒子径が12μmの疎水性シリカ粒子をN−メチル−2−ピロリジノンに添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、シリカ分散スラリーを得た。その後、シリカ分散スラリーをポリアミドイミド樹脂絶縁塗料にポリアミドイミド樹脂100質量部に対して25質量部の割合となるように添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、絶縁塗料を得た。
【0039】
(比較例1)
平均一次粒子径が12μmの疎水性シリカ粒子をN−メチル−2−ピロリジノンに添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、シリカ分散スラリーを得た。その後、シリカ分散スラリーをポリアミドイミド樹脂絶縁塗料にポリアミドイミド樹脂100質量部に対して35質量部の割合となるように添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、絶縁塗料を得た。
【0040】
(比較例2)
平均一次粒子径が50μmの疎水性シリカ粒子をN−メチル−2−ピロリジノンに添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、シリカ分散スラリーを得た。その後、シリカ分散スラリーをポリアミドイミド樹脂絶縁塗料にポリアミドイミド樹脂100質量部に対して5質量部の割合となるように添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、絶縁塗料を得た。
【0041】
(比較例3)
平均一次粒子径が12μmの親水性シリカ粒子をN−メチル−2−ピロリジノンに添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、シリカ分散スラリーを得た。その後、シリカ分散スラリーをポリアミドイミド樹脂絶縁塗料にポリアミドイミド樹脂100質量部に対して5質量部の割合となるように添加し、塗料全体が均質になるまで予備攪拌を行なった後、ダイノーミルを用いて分散させ、絶縁塗料を得た。
【0042】
上記のように作製した絶縁電線(実施例1〜3および比較例1〜3)に対して、次のような試験を行った。寸法は、作製した絶縁電線を、該絶縁電線を固定するための樹脂中に埋め込み、樹脂に埋め込まれた絶縁電線の先端部分の断面を樹脂と共に研磨し、研磨して露出した断面から、導体径、絶縁被膜の膜厚、および仕上外径を測定した。
【0043】
(部分放電開始電圧測定)
部分放電開始電圧測定は、次の手順で行った。絶縁電線を500mmに切り出し、ツイストペアの絶縁電線の試料を10個作製し、端部から10mmの位置まで絶縁被膜を削って端末処理部を形成した。測定は、端末処理部に電極を接続し、25℃、湿度50%の雰囲気で、50Hzの電圧を10〜30V/sで昇圧させながら、ツイストペアの絶縁電線に10pCの放電が50回発生する電圧まで昇圧して行った。これを3回繰り返しそれぞれの値の平均値を部分放電開始電圧とした。
(耐サージ性)
供試コイルのパラ巻きした2線間に900Vのインバータの相間電圧を印加し、絶縁破壊に至るまでの時間を測定した。
【0044】
実施例、比較例の各種測定評価結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示すように、実施例1〜3では、920Vp以上の高い部分放電開始電圧を有すると共に、非常に高いインバータサージ電圧が印加された場合であっても2000hrを超える時間において絶縁破壊が発生しない絶縁電線が得られたことが判る。これに対して、比較例1、2、3の絶縁電線では、部分放電開始電圧が900Vp未満であり、印加電圧が900Vでの耐サージ性が低いことが判る。
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料に、疎水性シリカ粒子が分散されている絶縁塗料において、前記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミン類からなる芳香族ジアミン成分と芳香族ジイソシアネート成分と芳香族トリカルボン酸無水物からなる酸成分とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と、溶媒とを有し、前記疎水性シリカ粒子は、平均一次粒子径が50nm未満であり、前記ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して5〜25質量部の割合で分散されていることにより、高い部分放電開始電圧を有し、かつインバータサージ電圧が発生した場合においても絶縁破壊し難い絶縁被膜が得られる絶縁塗料、および絶縁電線を得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料に、疎水性シリカ粒子が分散されている絶縁塗料において、
前記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミン類からなる芳香族ジアミン成分と芳香族ジイソシアネート成分と芳香族トリカルボン酸無水物からなる酸成分とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と、溶媒とを有し、
前記疎水性シリカ粒子は、平均一次粒子径が50nm未満であり、前記ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して5〜25質量部の割合で分散されていることを特徴とする絶縁塗料。
【請求項2】
導体の表面に、請求項1に記載の絶縁塗料からなる絶縁被膜が形成されていることを特徴とする絶縁電線。

【公開番号】特開2011−207955(P2011−207955A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75164(P2010−75164)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】