説明

絶縁検査装置

【課題】絶縁材に導線を巻き付ける際に導線の傷を確実に検出できる絶縁検査装置を提供すること。
【解決手段】導線13が巻きつけられたボビン14Aと、ボビン14Aを回転自在に保持するボビン保持治具と、ボビン14Aから引き出した導線13を被巻線部材に巻線する巻線手段10と、該ボビン14Aと巻線手段10との間に介在され前記被巻線部材に前記導線13が整列された状態に巻線されるように調整する整列部11とを備えた巻線装置100の絶縁検査装置101において、前記整列部11と前記ボビン14Aの導線13の一端13sとを電気的に接続して、前記整列部11と前記導線13の一端13sと間の導通状態を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばモータなどの巻線として用いられる導線の絶縁性能を検査する絶縁検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば絶縁材(コイルボビンなど)、巻線としての導線やこの導線を巻回したコイル単体、その他の構成部品の絶縁性能を検査するための絶縁検査装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1のものでは、環状のステータコアが放射線状に配置された複数のティースを有しており、このステータコアの各ティースを絶縁材で覆った状態、つまりコイル(導線)を巻く前の状態の絶縁材間の絶縁性能を検査している。
【0004】
具体的には、各絶縁材間の開口にこの開口形状と略相似形状のコイル側電極を挿入し、ステータコアの外側に絶縁検査装置のピン形状のコア側電極を当接させて、両電極間に所定の電圧を印加して絶縁材間の絶縁性能の検査を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−233182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1の場合、一般的に、絶縁材(主にボビン)にコイルを巻回してこれをステータコアのティースに取り付ける。
【0007】
従来の絶縁検査には導線を巻き付ける前のボビン単体の絶縁性能の検査を行うようになっていたので、ボビンに導線が巻き付けられた状態あるいはこのボビンがステータコアに挿入された状態ではボビンの導線の傷を検出することが難しく、絶縁不良の検出精度が低下してしまう問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたもので、絶縁材に導線を巻き付ける際に導線の傷を確実に検出できる絶縁検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の絶縁検査装置は、
導線が巻きつけられたボビンと、該ボビンを回転自在に保持するボビン保持治具と、該ボビンから引き出した導線を被巻線部材に巻線する巻線手段と、該ボビンと巻線手段との間に介在され前記被巻線部材に前記導線が整列された状態に巻線されるように調整する整列部とを備えた巻線装置の絶縁検査装置において、
前記整列部と前記ボビンの導線の一端とを電気的に接続して、前記整列部と前記導線の一端と間の導通状態を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、絶縁材に導線を巻き付ける際に導線の傷を検出でき、この結果、絶縁不良の検出精度が向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る絶縁検出装置を示す模式図である。
【図2】(a)図1の背面側からみた図であり、図1の各部材に接続した絶縁検査用の回路を示す図である。(b)図1の各部材に接続した絶縁検査用の回路を示す図である。(c)ノズルを示す斜視図である。(d)検査対象である導線を示す斜視図である。(e)傷が形成された導線部分を示す斜視図である。
【図3】(a)図1のテンション及びガイドローラ部のガイドローラの断面を示す図である。(b)図1のテンション及びガイドローラ部のガイドローラの断面を示す図である。
【図4】実施例の他の例のガイドローラおよびガイドされる導線の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図1および図2を参照して説明する。
【実施例】
【0013】
図1および図2に示すように、巻線装置100は、電気自動車のモータジェネレータに用いられるステータコア(不図示)に、絶縁被覆13Xされた導線13を巻きつける装置であり、導線13が巻回されたボビン体14Aを有する電線ボビン部14と、このボビン体14Aから引き出した導線13の引張状態を維持して導線13の引き出し方向をガイドするテンション及びガイドローラ部12と、テンション及びガイドローラ部12からの導線13を被巻線部材であるステータコアに巻線する巻線部(巻線手段)10と、このステータコアに導線13を整列して巻線させるためのノズル部(整列部)11と、を有している。
【0014】
100Aは、巻線装置100の本体筐体であり、その側壁には導線13を本体筐体100Aから外部へ引き出すための開口部100Aaが形成されており、その内部には、電線ボビン部14、導線13をガイドするガイドローラ12A,12B,15A,15Bおよび各ガイドローラ12A,12B,15A,15Bを支持する図示しない支持部材が設けられている。
【0015】
16は、テンション及びガイドローラ部12とノズル部11との間に配置されこの間の導線13の引張状態を保つ為の別の支持部材である。
【0016】
図2に示すように、絶縁検査装置101は、導線13に所定の電圧を印加して導線13に流れた電流を取得する、つまり導線13の導電状態を検出するものであり、導線13に検査用の電圧を印加するための電源17と、電圧を印加した際の電流を測定する電流計18と、検査対象と電源17などを接続し電圧を印加するための検査線101Aと、検査線101Aの先端に設けられ絶縁検査対象に取り付けられる正極端子101Pおよび負極端子101Mと、電流計18の測定値に基づいて絶縁破壊が起こっているか判断する判断手段19と、電流計18の測定値や判断手段19の判断結果を表示するための表示手段20とを有している。
<電線ボビン部14>
電線ボビン部14は、ボビン体14Aを有し、ボビン体14Aは、円筒状の軸14Aaとフランジを有している。このボビン体14Aの軸14Aaには導線13が積層巻回されている。このボビン体14Aは、例えば電線メーカーで巻線されたものである。
【0017】
導線13の一端13sは、例えば、ボビン体14Aの軸14Aaに形成された孔14Abから引き出されており、その先端部分の絶縁被膜13X(図2(d)参照)は剥ぎ取られて内部の金属線13Zが露出している。ここに導通検査装置の負極端子101Bが電気的に接続されている。
【0018】
導線13の巻き終わり13eは、引張状態が維持された状態でガイドローラ15Aへと引き出されており、このガイドローラ15Aを介して、テンション及びガイドローラ部12へと向かっている(図2において、ガイドローラ15A,15Bは図示が省略されている。)
<テンション及びガイドローラ部12>
テンション及びガイドローラ部12は、導線13をガイドする少なくとも2つのガイドローラ12A,12Bを有している(図3参照)。
【0019】
このガイドローラ12A,12Bは、金属製であり、ボビン形状に形成され、各ガイドローラは、円柱状の軸部12Ac,12Bcと、この軸部12Ac,12Bcの両端に形成されたフランジ12Aa,12Baとを有している。軸部12Ac,12Bcの外周面とフランジ12Aa,12Baの裏面は導線13に当接してガイドするガイド面となっている。
【0020】
ガイドローラ12A,12Bは、本体筐体100A内の図示しない支持部材に回転自在に支持されている。このうち、ガイドローラ12Bを支持する支持部材(不図示)は本体筐体内100Aで左右(図1において)移動可能となっており、この移動により導線13の引張度合いを調整するようになっている。
【0021】
ガイドローラ12A,12Bは、電線ボビン部14より上方に設けられている。また、この電線ボビン部14のボビン体14Aの軸方向に対して左右方向にずらして配置されており、この軸方向に対して直交する方向(高さ方向)でずらして配置されている。そして、両者は電線ボビン部14のボビン体14Aからの導線13を中継支持およびガイドしている。
【0022】
具体的には、図2(a)および(b)に示すように、ガイドローラ12Aにはボビン体14Aからの導線13が時計回り(図2(a)において)に部分的に巻かれて支持され、ガイドローラ12Bにはガイドローラ12Aからの導線13が反時計回り(図2(a)において)に部分的に巻かれて支持されている。
【0023】
そのため、ガイドローラ12Aでは、導線13の上面13U(図2(d)参照)がガイドローラ12Aの軸部12Acに面接触するとともに導線13の右側面13R(図2(d)参照)がガイドローラ12Aの一方のフランジ12Aaの裏面に面接触する。そして、このガイドローラ12Aにより導線13の上下の面が反転する(図3参照)。
【0024】
ガイドローラ12Bでは、反転した導線13の下面13B(図2(d)参照)がガイドローラ12Bの軸部12Bcに面接触するとともに導線13の左側面13L(図2(d)参照)がガイドローラ12Bの他方のフランジ12Baの裏面に面接触する(図3参照)。
【0025】
また、ガイドローラ12Aには、絶縁検査装置101の負極端子101Mが電気的に接続されている。ガイドローラ12Bには、絶縁検査装置101の正極端子101Pが電気的に接続されている。
【0026】
ガイドローラ12A,12Bを経由した導線13は、図1に示すように、別のガイドローラ15Bおよび本体筺体100Aの開口部100Aaを介して支持部材16にむかって本体筺体100A外へ引き出されている。
<ノズル部11>
支持部材16で支持され引張状態が維持された導線13は、ノズル部11を経由する。
【0027】
このノズル部11は、金属製であり、巻線装置100の本体筐体100A外に設けられており、図2(c)に示すように、直方体状に形成されている。
【0028】
このノズル部11の穴11aは、導線13と同じ四角形状に形成され、図1に示すように、この穴11aからは巻線装置10に向けて導線13が引き出されている。ノズル部11の穴11aの裏面は、導線13の上下左右の4面全体にそれぞれ面接触している。
【0029】
このノズル部11には、例えば、その外表面に図示しない接続端子が形成されており、絶縁検査装置101の正極端子101Pが電気的に接続されている(不図示)。
<導線13>
導線13は、図2(d)に示すように、導線13と外表面の絶縁する絶縁被膜13Xを有しており、両者を一体に断面した際の形状がノズル部11の穴11aと同じ四角形となっている。
<巻線部10>
巻線部10は、少なくともステータコア(不図示)と、このステータコアに導線13を巻線していく巻線制御手段(不図示)とを有している。ノズル部11を経由させた導線13を巻線部10のステータコアへ巻きつけてカセットコイルを形成していく。
【0030】
このカセットコイルは、例えば電気自動車などのモータジェネレータなどに用いられるものである。
<絶縁検査装置による検査>
絶縁検査装置101の電圧印加手段17により電圧を印加し,電線ボビン部14とガイドローラ12A,12B間の導電状態または電線ボビン部14とノズル部11と間の導電状態を電流波形とともに検出する。
【0031】
絶縁検査装置の正極端子101Pおよび負極端子101Mの設け方、配線は上記のものに限られない。また、切替スイッチを設けて被検査対象を選択できるようにしてもよい。
以下本発明の絶縁検査装置の作用効果を説明する。
【0032】
絶縁検査装置101を稼動させて、巻線装置100の巻線部10により導線13を巻線部10のステータコアに巻線していくと、電線ボビン部14に巻線された導線13の絶縁皮膜13Xに傷Scr,Scr´がある場合(図2(e)参照)、この傷Scr,Scr´が形成された導線13の部分が巻線動作によりテンション及びガイドローラ部12に移動していく。
【0033】
ガイドローラ12A,12Bは、電線ボビン部14より上方に設けられており、電線ボビン部14のボビン体14Aの軸方向に対して左右方向にずらして配置されており、この軸方向に対して直交する方向でずらして配置されているので下記のような作用効果が得られる。
【0034】
すなわち、テンション及びガイドローラ部12のガイドローラ12Aでは導線13の上面13Uと右側面13Rがガイドローラ12Aに当接されるので、導線13の上面13Uまたは右側面13Rに傷Scrがあり中心の金属線13Zが露出している場合には、この当接によりガイドローラ12Aと電線ボビン部14との間で導通し、絶縁検査装置101により導線13の傷Scrの存在が検出される。
【0035】
また、テンション及びガイドローラ部12のガイドローラ12Bでは導線13の下面13Bと左側面13Lがガイドローラ12Bに当接されるので、導線13の下面13Bまたは左側面13Lに傷Scr´があり中心の金属線13Zが露出している場合には、この当接によりガイドローラ12Bとガイドローラ12Aとの間で導通し電流が流れ、電流計18がその電流を検出し、検出した電流が所定以上のとき判断手段19は絶縁破壊が起こっていると判断する。表示手段20にはこの判断結果が表示される。すなわち、絶縁検査装置101により導線13の傷Scrの存在が検出される。
【0036】
さらに、何らかの理由により、テンション及びガイドローラ部12により傷ScrやScr´の存在が検出が見逃された場合でも、ノズル部11の穴11aが導線13の断面と同一形状であるので、ノズル部11において導線13の上下左右の4面13U,13B,13L,13Rの全体にノズル部11の裏面が面接触され巻線部10の巻線動作により導線13の外表面が走査されていくため、傷ScrやScr´がノズル部11にさしかかると、ノズル部11とガイドローラ12Aとの間で導通し、絶縁検査装置101により導線13の傷Scrや傷Scr´の存在が検出される。
【0037】
また、巻き線している最中、例えば、ガイドローラ12Aに差し掛かる手前の部分で傷Scr,Scr´が形成された場合でも、上述したように検出される。
【0038】
このように、巻線に既に形成されている傷Scr,Scr´および巻線動作中に発生した傷Scr,Scr´を見つけることができるため、絶縁不良の検出精度を向上させることができる。
【0039】
また、ノズル部11とテンション及びガイドローラ部12とにより、2重に絶縁検査を行うため、より確実に導線13やその絶縁被膜13Xの傷Scr,Scr´を検出することができる。本来ステータコアに巻線するためのノズル部11を用いて導線13の傷を検出することができる。
【0040】
巻線部10の巻線方向と電線ボビン部14の導線13送出方向(いずれも同じ方向)を、所定時間逆転させて、さらに検出精度を高めても良い。
さらに、図4に示すように、導線が断面円形の導線13Aのような場合、ガイドローラ12A,12Bのガイド面を導線13Aにあわせて導線13Aの外面に沿うように形成してガイドローラ12Cとしてもよい。
【0041】
このようにすることで、ガイドローラ12Caのガイド面12Caが導線13Aの外面に面接触しやすくなり、このため、より確実に傷Scr,Scr´を検出することができる。
【0042】
ノズル部11の穴11aの形状は導線13の断面形状と同じ四角形としたが、これに限らず、導線13と同一形状であれば四角形に限られない。
ノズル部11やガイドローラ12A,12Bを、導線13の断面形状に応じて、この断面形状に合うノズル部11やテンション及びガイドローラ部12と交換できるようにしてもよい、このようにすることで、多様な導線に対応して絶縁検査を行うことができる。
【0043】
以上、本発明に係る実施例の絶縁検査装置を説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【符号の説明】
【0044】
10 巻線部(巻線手段)
11 ノズル部(整列部)
11a 穴
12 テンション及びガイドローラ部
12Ac,12Bc 円柱状の軸部
12Aa,12Ba フランジ
12A,12B,12C ガイドローラ
13,13A 導線
13U 上面
13B 下面
13L 左側面
13R 右側面
13s 導線の一端
13e 導線の巻回終了部分
13X 絶縁皮膜
13Z 金属線
14 電線ボビン部
14A ボビン体
14Aa 軸
14Ab 孔
15A,15B ガイドローラ
16 支持部材
17 電圧印加手段
18 電流計
100 巻線装置
100A 本体筐体
100Aa 開口部
101 絶縁検査装置
101A 検査線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線が巻きつけられたボビンと、該ボビンを回転自在に保持するボビン保持治具と、該ボビンから引き出した導線を被巻線部材に巻線する巻線手段と、該ボビンと巻線手段との間に介在され前記被巻線部材に前記導線が整列された状態に巻線されるように調整する整列部とを備えた巻線装置の絶縁検査装置において、
前記整列部と前記ボビンの導線の一端とを電気的に接続して、前記整列部と前記導線の一端と間の導通状態を検出することを特徴とする絶縁検査装置。
【請求項2】
前記ボビンと整列部と間に前記ボビンからの導線に当接して引張状態を維持するとともにこの導線方向をガイドするガイドローラを設け、
該ガイドローラと前記導線の一端との間を電気的に接続して、その導通状態を検出して絶縁検査を行うことを特徴とする請求項1に記載の絶縁検査装置。
【請求項3】
前記整列部はノズルを有し、このノズルの穴が前記導線の断面と同一形状に形成され、この穴から前記導線が引き出されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁検査装置。
【請求項4】
前記ガイドローラを2つ設け、両者のガイドローラは、前記ボビンの軸の軸方向に対してずらして配置され且つこの軸方向に対して直交する方向でずらして配置されていることを特徴とする請求項1ないし3に記載の絶縁検査装置。
【請求項5】
前記導線が案内する前記ガイドローラのガイド面が前記導線の外周面に沿う形状であることを特徴とする請求項1ないし4に記載の絶縁検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−210386(P2010−210386A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56256(P2009−56256)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】