説明

絶縁組成物および電線・ケーブル並びに絶縁組成物の製造方法

【課題】 従来の絶縁組成物よりも無機充填剤の添加によって得られる効果が更に向上した絶縁組成物、それを用いた電線・ケーブル、および絶縁組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の絶縁組成物は、ポリオレフィン樹脂の材料として低密度ポリエチレンを、無機充填剤としてビニルシランにより表面処理を施した後、ジェット粉砕による粉砕処理された酸化マグネシウムを用い、これらを二軸押出機により混練しながら、絶縁組成物中の充填剤の平均粒径を200nm以下となるように制御して調製したところ、従来の絶縁組成物よりも体積抵抗率や直流破壊強度が向上した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁組成物および電線・ケーブル並びに絶縁組成物の製造方法に関し、特に、従来のものよりも絶縁性能の向上した絶縁組成物であり、これを絶縁層に用いた電線・ケーブル、および絶縁組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、低密度ポリエチレン(以下、LDPEとする)を架橋した架橋ポリエチレン(以下、XLPEとする)に無機充填剤として酸化マグネシウム(MgO)を添加した絶縁組成物をケーブルの絶縁層に用いることにより、MgO未添加のXLPEを絶縁層に用いた場合と比較して、直流特性が向上することが見出され、このMgO添加XLPEの絶縁組成物を絶縁体として採用したケーブルは、直流ケーブルであり実用化が可能であることが確認されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、上記MgOなどの無機充填剤は、絶縁体に添加された際に再凝集を起こし、絶縁体中に直径の大きな粗粒(以下、再凝集成分とする)を生じさせることがある。再凝集成分は、ケーブル絶縁体の押出し工程において、スクリーンメッシュの目詰まりの原因となることがある。また、再凝集成分がケーブル絶縁体中に存在すると、これが欠陥となりケーブルのインパルス破壊性能を低下させる。この再凝集を抑止する対策として、ビニルシランを用いて表面処理を施し、その後に、ジェット粉砕により粉砕処理を施したMgOをLDPEとコンパウンド調整することが有効である(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
上記手法を用いてMgOを添加したXLPE絶縁体は、MgO無添加のXLPE絶縁体と比較して、体積抵抗率の向上、空間電荷蓄積量の減少、直流破壊強度の向上などの効果が認められることから、直流ケーブル用絶縁体として有効である。
【特許文献1】特許第3428388号公報
【特許文献2】特許第3430875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法で製造したXLPE絶縁体中のMgOの分散状況について、透過型電子顕微鏡撮影(以下、TEM撮影とする)により観察して確認したところ、XLPE中に分散しているMgOの平均粒径は200nmを超えていることが判明した。
【0006】
即ち、これまではImp性能に影響を及ぼす再凝集成分は数μmオーダーの大きさであると考え、光学顕微鏡での評価を実施していたが、ナノメートル(nm)オーダーでの充填剤分散状況を確認するために、従来の観察手法である光学顕微鏡よりも、高解像度を有しているTEM撮影により評価したところ、従来手法によるビニルシランの表面処理と粉砕処理を施したMgOをLDPEとコンパウンド調整する方法であっても、なお再凝集成分が生成されXLPE絶縁体中に存在していることが解明された。原材料のMgOの平均粒径は約100nm程度であるにも係わらず、上記コンパウンド調整方法では、絶縁体中に分散したMgO平均粒径は依然として原材料のMgOの粒径よりも大きくなってしまうということが明らかとなった。
【0007】
この無機充填剤の添加によって得られる特に直流ケーブルとしての効果(体積抵抗率の向上、空間電荷蓄積量の減少、直流破壊強度の向上)は、絶縁体中に分散させた充填剤の平均粒径をより小さくすることによって、無機充填剤の添加によって得られる効果を更に高めることができると考えられる。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は従来の絶縁組成物よりも無機充填剤の添加によって更に効果の向上した絶縁組成物、それを用いた電線・ケーブル並びに絶縁組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、ポリオレフィン樹脂中に無機充填剤の分散された絶縁組成物であって、分散された前記無機充填剤の直径が200nm以下であることを特徴とする絶縁組成物を提供するものである。
【0010】
ポリオレフィン樹脂としては、主にポリエチレン樹脂が挙げられ、低密度ポリエチレンを用いることが望ましい。
【0011】
無機充填剤は、表面処理並びに粉砕処理を施した酸化マグネシウムであることが望ましく、前記表面処理は、ビニルシランを表面処理剤として用いることが、前記粉砕処理は、ジェット粉砕により行われることが望ましい。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記本発明の絶縁組成物を、絶縁層としたことを特徴とする電線・ケーブルを提供するものである。
【0013】
更に、本発明は、上記目的を達成するため、ポリオレフィン樹脂と無機充填剤とを混合して絶縁組成物を調製するに際し、ポリオレフィン樹脂中に分散させる前記無機充填剤の平均粒径が直径200nm以下となるように制御して調製することを特徴とする絶縁組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、体積抵抗率や直流破壊強度が従来の絶縁組成物よりも更に向上した絶縁体組成物およびこれを絶縁層に用いた電線・ケーブルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る絶縁組成物および電線・ケーブルの好適な実施の形態について説明する。
【0016】
[絶縁組成物の構成]
本発明の実施の形態に係る絶縁組成物は、ポリオレフィン樹脂の材料に無機充填剤を均一に分散するよう添加したものであり、この無機充填剤の平均粒径は、直径200nm以下であることを特徴とする。
【0017】
ポリオレフィン樹脂の材料としては、低密度ポリエチレン(LDPE)が用いられる。このとき、LDPEは架橋したもの(XLPE)であってもよい。尚、本発明においては、ポリオレフィン樹脂の材料として、LDPEの他に、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどであってもよく、また、これらを架橋したものであってもよい。
【0018】
また、無機充填剤としては、酸化マグネシウム(MgO)が用いられる。無機充填剤を絶縁体中に添加する際に再凝集を生じることがあるので、無機充填剤にビニルシランによる表面処理を施した後、ジェット粉砕による粉砕処理を行うことが望ましい。尚、本発明においては、無機充填剤としては、MgOの他に、酸化チタン、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、シリカなどであってもよい。
【0019】
絶縁体中に充填剤を添加することによって得られる効果(体積抵抗率の向上、空間電荷蓄積量の減少、直流破壊強度の向上)は、絶縁体中に分散している充填剤の比表面積に比例する、すなわち、充填剤の粒径が小さい程、効果が大きくなるので、LDPE中に添加するMgOの平均粒径が200nm以下となるように調整する。
【0020】
添加されたMgOの平均粒径が200nm以下となることにより、後述するように、絶縁組成物の体積抵抗率や直流破壊強度が更に向上する。
【0021】
[絶縁組成物の製造方法]
本発明の実施の形態に係る絶縁組成物の製造方法は、無機充填剤の平均粒径が直径200nm以下となるように、絶縁体と無機充填剤の混練に二軸押出機を用いるものである。
【0022】
二軸押出機は、2本のスクリューを平行に配置し、スクリュー間で押出し樹脂に高いせん断応力を加えることができる。そのため、無機充填剤をポリオレフィン樹脂の材料に練り込む場合、高せん断応力下で混練した方が、より無機充填剤の分散性が向上する。
【0023】
更に、無機充填剤の分散性の向上と、高いせん断応力により、無機充填剤の粒子が再凝集を起こしにくくなるので、絶縁体中に添加された無機充填剤の平均粒径が小さくなるよう制御することが可能となる。
【0024】
以上の方法により絶縁組成物を製造することにより、体積抵抗率や直流破壊強度が更に向上した絶縁組成物を得ることができる。
【0025】
尚、無機充填剤のポリオレフィン樹脂中への混練方法としては、無機充填剤の平均粒径が直径200nm以下となるように制御可能な方法であれば、特に限定されることなく適用することができ、上記方法のほかに、例えば、二軸押出機とロール機を併用した場合でも同様の分散効果が得られる。すなわち、二軸押出機を用いて、高濃度に無機充填剤を添加したポリオレフィン樹脂の材料を、ロール機にて低濃度に希釈させることにより同様の効果を得ることができる。
【0026】
[ケーブルの構成および製造方法]
本発明の実施の形態に係るケーブルは、上記絶縁組成物によって導体外周を被覆することによって得られる。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態に係るケーブルの断面概略図である。ケーブル1は、断面略真円状の導体2外周を直接被覆するように内部半導電層3が形成されている。その内部半導電層3の外周には絶縁体4が被覆され、更にその外周に外部半導電層5、遮蔽層6、シース7が順次形成されている。
【0028】
次に、このケーブル1は、導体2外周に内部半導電層3を押出し成形する。続いて、上述した絶縁組成物よりなる絶縁体4を、更に外部半導電層5及び遮蔽層6、シース7を、順次成形することにより、図1に示すような断面形状を構成するケーブル1が得られる。
【0029】
このようにして得られたケーブル1は、体積抵抗率や直流破壊強度が更に向上した絶縁組成物により被覆されているので、従来の直流ケーブルよりも体積抵抗率や直流破壊強度が更に向上する。
【0030】
以下に本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0031】
[絶縁組成物の実施例]
スクリュー直径15mm、L/D=60(L;スクリュー長さ、D;スクリュー直径)の二軸押出機を用いて、LDPEとMgOを、MgOの平均粒径が直径200nm以下となるように制御しながら混練を行いMgO分散LDPEの絶縁組成物を調製した。LDPEには、密度0.920g/mm、MI(メルト・インデックス)=1のものを使用した。MgOには、原料の平均粒径が50nmのものに、ビニルシランにより表面処理を施した後にジェット粉砕にて粉砕処理を施したものを用いた。
【0032】
そして、このような調製方法により実施例として、LDPE100重量部に対して、MgOを1重量部添加したものを試料1、5重量部添加したものを試料2、10重量部添加したものを試料3として作製し、表1に示す。
【0033】
また、比較例として、試料1〜3と同一のLDPEとMgOを用いて単にロール機のみで混練したものを、表1に併せて示した。ここで、LDPE100重量部に対して、MgOを1重量部添加したものを試料4、5重量部添加したものを試料5、10重量部添加したものを試料6とする。また、MgO無添加のLDPEについても、比較例として表1に示した。これを試料7とする。
【0034】
(混練後のMgOの平均粒径)
次に、上記各試料を用いて、プレス成形にて厚さ6mmのシートを作成し、スライス片のTEM撮影による写真の観察により、LDPE中に分散したMgOの平均粒径を求めた。その結果は表1に示したとおりである。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果からも明らかなように、本発明の実施例である試料1〜3については、いずれもMgOの平均粒径は100nm程度である一方で、比較例である試料4〜6におけるMgOの平均粒径は250nm以上であり、同量のMgOを添加した場合、ロール機での混練に比べて二軸押出機で混練した場合の方が、LDPE中のMgO平均粒径が小さくなった。
【0037】
(体積抵抗率)
更に、上記各試料を用いて、プレス成形にて厚さ0.15mmのシートサンプルを成形し、温度=90℃、直流印加電界=80kV/mmにおける体積抵抗率を評価した。その結果は表1に示したとおりである。
【0038】
表1の結果からも明らかなように、本発明の実施例である試料1〜3については、いずれも同量のMgOを添加した比較例である試料4〜6よりも大幅に体積抵抗率が向上した。また、MgOの添加量を多くするに従って実施例と比較例との体積抵抗率の差が大きくなることが分かる。
【0039】
(直流破壊強度)
次に、1重量部のMgOを添加混練した材料を用い、実施例である試料1と比較例である試料4とを用いて、プレス成形にて厚さ0.15mmのシートサンプルを成形し、温度=90℃における直流破壊強度を評価した。その結果は表1に示したとおりである。
【0040】
表1の結果からも明らかなように、同量のMgOを添加した場合、ロール混練に比べ二軸押出機で混練した場合の方が、直流破壊強度が高くなった。
【0041】
MgO未添加のLDPEの体積抵抗率、直流破壊強度を表1中に比較例の試料7として示した。MgO未添加のLDPEに比べ、MgOを添加したサンプルの方が、体積抵抗率、直流破壊強度ともに高くなる。
【0042】
以上の結果から、LDPEにMgOを添加することで、体積抵抗率の向上、直流破壊強度の向上といった更なる効果が得られるが、この効果は、LDPE中に分散するMgOの平均粒径を小さくした方がより顕著となることが明らかである。
【実施例2】
【0043】
[ケーブルの実施例]
実施例として、図1中の導体2として導体断面積100mmの導体外周上に、内部半導電層3を厚さ0.7mmとなるように押出し成形し、次いで内部半導電層3の上に表1の試料1からなる絶縁組成物を絶縁体4として厚さ3mmとなるように押出し成形し、更に外半導電層5を厚さ1mm、遮蔽層6を厚さ0.3mm、シース7を厚さ3mmとなるように順次成形してケーブル1を製造した。このとき、これを試料8として、特性を評価し、その結果を表2に示す。また、比較例として、表1の試料4からなる絶縁組成物を絶縁体4に使用したケーブルを併せて製造し、これを試料9として特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2の結果から明らかなように、本発明の絶縁組成物よる特性の効果が、当該絶縁組成物を用いたケーブルにおいても特性の効果が発現していることが判る。すなわち、LDPEにMgOを添加混練して調製した絶縁組成物を、絶縁体として用いてケーブルを製造した場合、LDPE中に分散するMgOの平均粒径を小さくした方が、体積抵抗率が向上し、直流破壊強度が向上する。
【0046】
以上の検討結果から、ポリオレフィン樹脂中に分散させた後の無機充填剤の平均粒径を、200nm以下とすることで、より顕著な無機充填剤の添加効果を得ることが明らかになった。そして、本発明の絶縁組成物を絶縁層としてケーブルに適用すれば、特に直流ケーブルにおいては前記した特性の更なる効果が期待できる。勿論、交流ケーブルに採用した場合でも当然特性の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態に係るケーブルの断面概略図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ケーブル
2 導体
3 内部半導電層
4 絶縁体
5 外部半導電層
6 遮蔽層
7 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂中に無機充填剤の分散された絶縁組成物であって、
分散された前記無機充填剤の平均粒径が直径200nm以下であることを特徴とする絶縁組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂は、架橋されたものであることを特徴とする請求項1記載の絶縁組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂は、低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1または2記載の絶縁組成物。
【請求項4】
前記無機充填剤は、表面処理並びに粉砕処理を施した酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の絶縁組成物。
【請求項5】
前記表面処理は、ビニルシランを表面処理剤として用いることを特徴とする請求項4記載の絶縁組成物。
【請求項6】
前記粉砕処理は、ジェット粉砕により行われることを特徴とする請求項4または5記載の絶縁組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の絶縁組成物を、絶縁層としたことを特徴とする電線・ケーブル。
【請求項8】
ポリオレフィン樹脂と無機充填剤とを混合して絶縁組成物を調製するに際し、ポリオレフィン樹脂中に分散させる前記無機充填剤の平均粒径が直径200nm以下となるように制御して調製することを特徴とする絶縁組成物の製造方法。
【請求項9】
前記無機充填剤の平均粒径が直径200nm以下となるように制御する調製は、二軸押出機により行うことを特徴とする請求項8記載の絶縁組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−291022(P2006−291022A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113077(P2005−113077)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【Fターム(参考)】