説明

絶縁膜内イオン挙動解析システム

【課題】非破壊の計測を行って絶縁膜の寿命を予測することが可能な絶縁膜内イオン挙動解析システムを提供する。
【解決手段】パルス電圧発生器と圧延素子と演算装置と表示装置を備え、パルス電圧発生器が印加したパルス電圧により絶縁膜内に発生した超音波を圧延素子で検出することにより、絶縁膜内のイオン密度分布を求める絶縁膜内イオン挙動解析システムである。演算装置は、少なくとも異なる2つの時刻における絶縁膜内のイオン密度分布を超音波の検出結果から求め、少なくとも異なる2つの時刻におけるイオン密度分布を基に移流拡散計算を行って、任意の時刻における絶縁膜内のイオン密度分布を求める。表示装置は、任意の時刻における絶縁膜内のイオン密度分布を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜内のイオンの挙動を解析するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁膜は、装置の作動中に徐々に劣化していき、寿命に達すると絶縁破壊を起こす。モータ、インバータ、または変圧器等の電気機器に用いられる絶縁膜では、高電界化に伴い絶縁膜内のイオンマイグレーションによる絶縁破壊が起こりやすいので、絶縁破壊の抑制や絶縁膜の寿命の予測が必須である。
【0003】
絶縁膜の寿命を予測するには、絶縁膜内のイオン密度分布を求める必要があるが、絶縁膜内のイオンの挙動を評価するのは困難である。このため、従来は、絶縁マージンを大きくすることで絶縁破壊を抑制しており、モータ、インバータ、または変圧器等の電気機器の小型化と信頼性の両立が困難となっている。
【0004】
特許文献1には、絶縁膜を破壊させて、絶縁膜の寿命を推定する方法が開示されている。特許文献2には、絶縁材料を破壊せずにイオンマイグレーションを検出することができるイオンマイグレーション発生評価方法が開示されている。非特許文献1には、非破壊の計測を行って絶縁膜内のイオン分布を計測する空間電荷測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−261681号公報
【特許文献2】特開2002−156359号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ファイブラボ 株式会社、「PEA空間電荷測定装置」、[online]、[2010年12月6日検索]、インターネット〈URL:http://www.5lab.co.jp/products_pea.htm〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術のように絶縁膜を破壊して絶縁膜の寿命を推定する方法では、破壊により露出した絶縁膜の断面が化学変化を起こして実際とは異なる状況になり、推定した寿命に誤差が生じる可能性がある。また、断面作成には研磨が必要であり、このために工数や時間がかかるというデメリットもある。このため、絶縁膜を破壊しないで絶縁膜の寿命を予測する方法が求められている。
【0008】
特許文献2に記載されているようなイオンマイグレーション発生評価方法は、絶縁膜を破壊することなくイオンマイグレーションの発生の可能性を検出するものであるが、絶縁膜の寿命を予測するものではない。
【0009】
非特許文献1に開示されている空間電荷測定装置では、絶縁膜を破壊することなく、絶縁膜内のイオン分布を導出して表示する。さらに、求めたイオン分布から電界分布を導出して表示することが可能である。しかし、測定した時刻以外の時刻でのイオン分布を導出することはできない。したがって、現在より後の任意の時刻でのイオン分布を求めることができず、絶縁膜の寿命を予測することができない。
【0010】
本発明の目的は、非破壊の計測を行って絶縁膜内のイオン密度分布を求め、絶縁膜の寿命を予測することが可能な絶縁膜内イオン挙動解析システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による絶縁膜内イオン挙動解析システムは、パルス電圧発生器と圧延素子と演算装置と表示装置を備え、前記パルス電圧発生器が印加したパルス電圧により絶縁膜内に発生した超音波を前記圧延素子で検出することにより、前記絶縁膜内のイオン密度分布を求める。前記演算装置は、少なくとも異なる2つの時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布を前記超音波の検出結果から求め、前記少なくとも異なる2つの時刻における前記イオン密度分布を基に移流拡散計算を行って、任意の時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布を求める。前記表示装置は、前記任意の時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布を表示する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による絶縁膜内イオン挙動解析システムでは、非破壊の超音波計測を行って絶縁膜内のイオン密度分布を解析し、絶縁膜の寿命を予測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料の絶縁膜の内部のイオン密度分布及び電界分布を求めるための処理フローを示す図である。
【図2】試料の平面図(上面図)である。
【図3】試料の断面図である。
【図4】本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの構成を示す概略図である。
【図5】実施例1により求めたイオン密度分布のグラフの例である。
【図6】実施例1により求めた電界分布のグラフの例である。
【図7】実施例2による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料の絶縁膜の寿命を予測するための処理フローを示す図である。
【図8】実施例3による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料の絶縁膜の内部のイオン密度分布及び電界分布を求めるための処理フローを示す図である。
【図9】実施例4による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料の絶縁膜の内部のイオン密度分布、電界分布、電流分布、及び電位分布を求めるための処理フローを示す図である。
【図10】実施例5による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料の絶縁膜の内部のイオン密度分布及び電界分布を求めるための処理フローを示す図である。
【図11】実施例5と実施例6による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、パルス電圧発生器と試料台を示す図である。
【図12】実施例6による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料の絶縁膜の内部のイオン密度分布及び電界分布を求め、絶縁寿命が最も短い領域を再成型するための処理フローを示す図である。
【図13】実施例7による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料の絶縁膜の内部のイオン密度分布及び電界分布を求めるための処理フローを示す図である。
【図14】実施例8による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料の絶縁膜の内部のイオン密度分布の温度依存性を求めるための処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による絶縁膜内イオン挙動解析システムでは、非破壊の超音波計測を行って絶縁膜内のイオン密度分布と電界分布を解析し、絶縁膜の寿命を予測することが可能である。このため、寿命に達する前に絶縁膜を交換することができ、絶縁膜の絶縁破壊を防止し、モータ、インバータ、または変圧器等の絶縁膜を用いる電気機器の異常動作を防止することが可能である。
【0015】
対象の絶縁膜の例としては、エポキシ、酸化膜、マイカ、碍子、グラファイト、酸化アルミニューム、及びガラスが挙げられる。絶縁膜内のイオンの例としては、正イオンは銅、アルミニューム、及び銀などの金属イオンが主であり、負イオンは電子が主である。
【0016】
以下、図面を参照し、本発明による絶縁膜内イオン挙動解析システムの実施例について説明する。
【0017】
図4は、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの構成を示す概略図である。絶縁膜内イオン挙動解析システムは、試料201を載置する試料台401、試料台401の試料201の載置面とは反対の面に設けられた圧延素子403、試料201を覆うように試料台401の上方に設けられたパルス電圧発生器402、パルス電圧発生器402の電源408、試料201に電圧または電流を印加する直流バイアス電源410、アンプ(Amp)を介して圧延素子403と接続されたデジタルオシロスコープ404、GP−IBによりデジタルオシロスコープ404に接続されたパソコン(PC)405、PC405に接続された画像処理・計算用のパソコン(PC)406、及びPC405と画像処理・計算用のPC406に接続された表示装置であるモニタ407を備える。
【0018】
パルス電圧発生器402は、キャパシタンス(C)や抵抗(R)を有し、ケースに囲まれており、例えばパルス電圧波形411に示されるようなパルス電圧を試料201に印加する。印加したパルス電圧により試料201内に発生した超音波を用いて、試料201を非破壊で計測することができる。
【0019】
直流バイアス電源410は、高圧側電極(HV)とグランド端子(G)を有し、高圧側電極からパルス電圧発生器402のケースを介して、試料201に電圧または電流を印加する。
【0020】
PC405と画像処理・計算用のPC406は、どちらも演算装置であり、PC405は主として計測用に用いられ、画像処理・計算用のPC406は主として移流拡散計算を実施する。画像処理・計算用のPC406は、PC405を兼ねていてもよい。PC405と画像処理・計算用のPC406は、メモリやハードディスク等の記憶装置を備える。
【0021】
絶縁膜内イオン挙動解析システムの計測データと計算データは、PC405または画像処理・計算用のPC406の記憶装置に、時系列的に格納する。計測データと計算データを時系列的にPC405または画像処理・計算用のPC406に格納することで、データがおかしい場合には、計測環境や計測過程に問題がないか確認できる
図2と図3を用いて、本実施例における試料201について説明する。図2は、試料201の平面図(上面図)であり、図3は、試料201の断面図である。試料201は、銅電極からなるアノード304、絶縁膜305、及び銅基板からなるカソード306で構成される。以下に述べる実施例では、絶縁膜内イオン挙動解析システムにより、絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を求め、絶縁膜305の寿命を予測する。
【実施例1】
【0022】
本発明の第1の実施例について、図1、図5、及び図6を用いて説明する。本実施例では、超音波を用いた非破壊の計測により、予め指定した任意の時刻における、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を求める。
【0023】
図1は、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を求めるための処理フローを示す図である。
【0024】
第1ステップ101にて、試料201を試料台401に設置する。そして、直流バイアス電源410を用いて、試料201に電圧または電流を印加する。電圧と電流のどちらを印加するかは、ユーザが任意に決めることができる。
【0025】
第2ステップ103では、予め定めた指定の時刻t1まで、試料201に電圧または電流を印加する。時刻t1に到達したら、試料201への電圧または電流の印加を止める。
【0026】
第3ステップ105にて、パルス電圧発生器402を用いて、パルス電圧を試料201に印加する。すると、試料201内のイオンの静電応力により超音波が発生するので、この超音波を圧延素子403で検出する。圧延素子403で検出された信号の大きさから、デジタルオシロスコープ404とPC405により、イオンの密度とイオンの座標値を求め、絶縁膜305の内部のイオン密度分布を求める。さらに、イオン密度分布から、ポアソン方程式により、絶縁膜305の内部の電界分布を求める。イオン密度分布や電界分布は、従来の方法と同様の方法を用いて求めることができる。
【0027】
第4ステップ106では、PC405にて、時刻t1でのイオンの密度、イオンの座標値、イオン密度分布、及び電界分布のデータをテーブル化する。テーブル化した上記のデータは、画像処理・計算用のPC406の記憶装置に格納する。
【0028】
ここで、第2ステップ103に戻り、直流バイアス電源410を用いて、予め定めた指定の時刻t2まで、試料201に電圧または電流を印加する。時刻t2は、時刻t1と異なる時刻であり、時刻t1より後の時刻(t2>t1)とする。時刻t2に到達したら、試料201への電圧または電流の印加を止める。
【0029】
第3ステップ105にて、パルス電圧発生器402を用いて、パルス電圧を試料201に印加する。そして、上述したように、圧延素子403、デジタルオシロスコープ404、及びPC405により、絶縁膜305の内部のイオンの密度、イオンの座標値、イオン密度分布、及び電界分布を求める。
【0030】
第4ステップ106では、PC405にて、時刻t2でのイオンの密度、イオンの座標値、イオン密度分布、及び電界分布のデータをテーブル化する。テーブル化した上記のデータは、画像処理・計算用のPC406の記憶装置に格納する。
【0031】
第5ステップ107にて、画像処理・計算用のPC406で、時刻t1と時刻t2でのイオン密度分布と電界分布を基に移流拡散計算を実施して、予め指定した任意の時刻t3での絶縁膜305の内部のイオン密度分布を求める。移流拡散計算は、イオンの拡散と電界による移流を考慮した過渡解析であり、移流拡散方程式を解くことでイオン密度分布を求めることができる。本実施例に用いる移流拡散計算には、従来の移流拡散計算に用いられている計算方法と同様の方法を用いることができる。
【0032】
本実施例では、2つの異なる時刻(時刻t1と時刻t2)でのイオン密度分布を用いて、移流拡散方程式のパラメータを求める。時間をt、場所をz、イオン密度分布をρ(t,z)で表すと、イオン密度分布ρ(t,z)は、正のイオン密度分布ρh(t,z)と負のイオン密度分布ρe(t,z)での和で構成される。
ρ(t,z)=ρh(t,z)+ρe(t,z) (1)
ρh(t,z)はプラスで、ρe(t,z)はマイナスのイオン密度分布であるとする。
【0033】
図5は、イオン密度分布の例を示したものであり、横軸が負電極からの位置、縦軸はイオン密度である。この図5にて、イオン密度がプラスの領域の分布はρh(t,z)、負のイオン密度分布はρe(t,z)である。ここでρh(t、z)とρe(t、z)が満足する移流拡散方程式は、それぞれ式(2)、式(3)で表される。さらに、イオン密度分布ρ(t,z)はポアソン方程式(4)を満足する。
dρh(t,z)/dt−d(Dhdρp(t,z)/dz)/dz
+μpE(t,z)dρh(t,z)/dz+ρh(t,z)/τh=0 (2)
dρe(t,z)/dt−d(Dedρe(t,z)/dz)/dz
−μeE(t,z)dρe(t,z)/dz+ρe(t,z)/τe=0 (3)
dE(t,z)/dz = q ρ(t,z) (4)
ここで、Dh=μh×kB×T/q、De=μe×kB×T/q、とする。E(t,z)は時間tと場所zでの電界の値、kBはボルツマン定数、Tは温度、qは電荷である。さらに、μh、μe、は、それぞれ正イオン移流係数、負イオン移流係数である。そして、τh、τeは、それぞれ正イオン寿命定数、負イオン寿命定数である。移流係数μh、μeと寿命定数τh、τeは未知のパラメータであり、その他は既知のパラメータである。
【0034】
ここで、電界E(t,z)は、ポアソン方程式(4)の右辺にρ(t,z)を代入し、試料の構造、誘電率、及び電極での印加電位を考慮して求める。未知のパラメータである式(2)の移流係数μhと寿命定数τhは、次のようにして求める。
1)移流係数μhと寿命定数τhに適当な値を設定する。
2)時刻t1での正イオン密度分布の実験値Rh(t1,z)を初期値として移流拡散方程式(2)を解いて、時刻t2でのρh(t2,z)を求める。
3)ρh(t2,z)と時刻t2での正イオン密度分布の実験値Rh(t2,z)との差の絶対値を求める、
4)求めた絶対値の最大値が予め定めた閾値以下になるまで、上記の手順1)から3)を繰り返す。
以上の方法により、未知のパラメータである移流係数μhと寿命定数τhが求められる。
【0035】
未知パラメータの移流係数μeと寿命定数τeに関しても、上記1)から4)と同様の手順で求めることができる。ただし、正イオン密度分布の実験値Rh(t1,z)を、負イオン密度分布の実験値Re(t1,z)に置き換え、移流拡散方程式(2)は移流拡散方程式(3)に置き換える。
【0036】
これに加え、上記では場所zは一次元であったが、これを二次元、三次元に拡張できる。
【0037】
さらに、式(2)のρh(t,z)/τhと式(3)のρe(t,z)/τeの両者の項を、ρh(t,z)とρe(t,z)に依存する関数とすることが可能である。これらにより、方程式が現実のモデルに近くなり、ρhとρeを高精度に求めることができる。
【0038】
このように、複数の異なる時刻でのイオン密度分布を基にパラメータを求めると、パラメータの精度が向上し、移流拡散方程式の解(任意の時刻t3でのイオン密度分布)も精度良く求めることができる。また、移流拡散方程式のパラメータを求めるのに用いるイオン密度分布の数は、2つだけに限らない。パラメータを求めるのに用いるイオン密度分布の数が多ければ多いほど、パラメータの精度が高くなり、移流拡散方程式の解もより精度良く求めることができる。したがって、3つ以上の異なる時刻でのイオン密度分布を基にして、移流拡散方程式のパラメータを求めてもよい。
【0039】
以下の実施例では、μは、μhとμeのいずれか一方、または両方を示すとする。さらに、τは、τhとτeのいずれか一方、または両方を示すとする。
【0040】
第5ステップ107では、さらに、任意の時刻t3でのイオン密度分布を基に、ポアソン方程式の計算により、時刻t3での絶縁膜305の内部の電界分布を求める。
【0041】
第6ステップ108にて、任意の時刻t3での絶縁膜305の内部のイオン密度分布と電界分布を、モニタ407に表示する。
【0042】
図5は、本実施例により求めたイオン密度分布のグラフの例である。モニタ407には、絶縁膜305の内部のイオン密度分布として、図5に示すようなグラフが表示される。図5の横軸は、試料201において、絶縁膜305のカソード306からの距離であり、縦軸は、絶縁膜305の内部のイオン密度である。時刻t1のイオン密度104と時刻t2のイオン密度112は、図1の第3ステップ105にて、パルス電圧を試料201に印加することにより求めたものである。時刻t3のイオン密度109は、図1の第5ステップ107にて、時刻t1のイオン密度分布と時刻t2のイオン密度分布を基に移流拡散計算を実施して、求めたものである。
【0043】
図6は、本実施例により求めた電界分布のグラフの例である。モニタ407には、絶縁膜305の内部の電界分布として、図6に示すようなグラフが表示される。図6の横軸は、試料201において、絶縁膜305のカソード306からの距離であり、縦軸は、絶縁膜305の内部の電界値の絶対値である電界強度に−1を掛けたものである。時刻t1の電界強度113と時刻t2の電界強度114は、図1の第3ステップ105にて、パルス電圧を試料201に印加して求めたイオン密度分布から、ポアソン方程式により求めたものである。時刻t3の電界強度115は、図1の第5ステップ107にて、時刻t3のイオン密度分布を基に、ポアソン方程式の計算により、求めたものである。
【0044】
以上のように、本実施例によれば、任意の時刻t3における絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を、時刻t3で測定せずに、導出できる。したがって、時刻t3を時刻t1や時刻t2より後の時刻(t3>t2>t1)とすると、現在より後の任意の時刻でのイオン密度分布を求めることができ、絶縁膜の寿命を予測することが可能である。
【0045】
また、時刻t3が時刻t1や時刻t2より後の時刻(t3>t2>t1)の場合に、時刻t3での絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を知りたいときは、従来は時刻がt3になるまで待たなければならなかったが、本実施例では、時刻t1と時刻t2でのイオン密度分布及び電界分布から求めることができるので、時刻t3に到達するまでの時間(t3−t2)だけ時間を短縮できるという効果もある。
【0046】
なお、本実施例では時刻t1と時刻t2という異なる2つの時刻における測定から、任意の時刻t3でのイオン密度分布及び電界分布を求めた。上述したように、異なる3つ以上の時刻における測定から、時刻t3でのイオン密度分布及び電界分布を求めることもでき、この方がより精度良く時刻t3でのイオン密度分布及び電界分布を導出することができる。以下の実施例でも、本実施例と同様に、異なる時刻での測定回数が多ければ多いほど精度良く、時刻t3でのイオン密度分布及び電界分布を導出することができる。
【実施例2】
【0047】
本発明の第2の実施例について、図7を用いて説明する。本実施例では、予め指定した複数の任意の時刻における、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を求め、電界分布の時間変化から試料201の絶縁膜305の寿命を予測する。
【0048】
図7は、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料201の絶縁膜305の寿命を予測する(予測寿命を求める)ための処理フローを示す図である。絶縁膜305の寿命とは、絶縁膜305が絶縁破壊を起こすまでの時間である。
【0049】
第1ステップ701にて、試料201を試料台401に設置する。そして、直流バイアス電源410を用いて試料201に電圧または電流を印加する。電圧と電流のどちらを印加するかは、ユーザが任意に決めることができる。また、予測寿命tNを設定する。予測寿命tNは、初期値として任意の値を、画像処理・計算用のPC406に入力して設定する。さらに、画像処理・計算用のPC406には、絶縁膜305の絶縁破壊電界と、予測寿命tNの閾値を入力する。予測寿命tNの閾値は、予測寿命tNを求めるときの精度に関連する値であり、予め定めておく。
【0050】
第2ステップ703では、予め定めた指定の時間Δtが経過するまで、試料201に電圧または電流を印加する。時間Δtが経過したら、試料201への電圧または電流の印加を止める。
【0051】
第3ステップ705にて、パルス電圧発生器402を用いて、パルス電圧を試料201に印加する。そして、図1の第3ステップ105と同様にして、圧延素子403、デジタルオシロスコープ404、及びPC405により、絶縁膜305の内部のイオンの密度、イオンの座標値、イオン密度分布、及び電界分布を求める。
【0052】
第4ステップ706では、PC405にて、試料201へ電圧または電流を印加してから時間Δtが経過した時点でのイオンの密度、イオンの座標値、イオン密度分布、及び電界分布のデータをテーブル化する。テーブル化した上記のデータは、画像処理・計算用のPC406の記憶装置に格納する。
【0053】
ここで、第2ステップ703に戻り、直流バイアス電源410を用いて、予め定めた指定の時間Δtが経過するまで、試料201に電圧または電流を印加する。時間Δtが経過したら、試料201への電圧または電流の印加を止める。
【0054】
第3ステップ705と第4ステップ706では、上述したのと同様の処理を行う。これにより、画像処理・計算用のPC406には、異なる2つの時刻における絶縁膜305の内部のイオンの密度、イオンの座標値、イオン密度分布、及び電界分布のデータが格納される。異なる2つの時刻における上記のデータが画像処理・計算用のPC406に格納されたら、第5ステップ707に進む。なお、第2ステップ703から第4ステップ706までの処理を3回以上繰り返し、異なる3つ以上の時刻における上記のデータを画像処理・計算用のPC406に格納してから第5ステップ707に進んでもよい。実施例1で述べたように、移流拡散方程式のパラメータを求めるのに用いるイオン密度分布の数が多ければ多いほど、パラメータの精度が高くなり、移流拡散方程式の解もより精度良く求めることができるからである。
【0055】
第5ステップ707では、画像処理・計算用のPC406で、今までに格納したイオン密度分布と電界分布を基に移流拡散計算を実施して、予め指定した複数の任意の時刻(t1,t2,・・・,2*tN)での絶縁膜305の内部のイオン密度分布を求める。移流拡散計算は、実施例1と同様に実施する。そして、時刻(t1,t2,・・・,2*tN)でのイオン密度分布を基に、ポアソン方程式の計算により、時刻(t1,t2,・・・,2*tN)での絶縁膜305の内部の電界分布をそれぞれ求める。
【0056】
第6ステップ708では、各時刻(t1,t2,・・・,2*tN)での絶縁膜305の内部の電界分布(電界強度)から、電界が絶縁膜305の絶縁破壊電界を超える最小の時刻を求める。そして、試料201に電圧または電流を印加した時刻からこの最小の時刻までの時間を、予測寿命tNとする。このようにして求めた予測寿命tNを、新たな予測寿命tNとする。例えば、自然数nで定められる時刻t(n)に対してt(n)<t(n+1)とし、時刻t(n)までは電界が絶縁破壊電界を下回っていたが、時刻t(n+1)以後では電界が絶縁破壊電界を超えた場合には、試料201に電圧または電流を印加した時刻から時刻t(n+1)までの時間を、予測寿命tNとする。このようにして、予測寿命tNの値は更新される。各時刻(t1,t2,・・・,2*tN)での絶縁膜305の内部のイオン密度分布と電界分布は、実施例1と同様に、モニタ407に表示する。このとき、予測寿命tNもモニタ407に表示する。予測寿命tNは、文字やグラフなど、テキスト表示やグラフィック表示により、表示することができる。
【0057】
第7ステップ709では、前回の計算で求めた予測寿命tNと今回の計算で求めた予測寿命tNの差が、予測寿命tNの閾値以下であるかどうか判定する。差が閾値以下であれば、本処理を終了し、そうでなければ、第2ステップ703に戻り、第2ステップ703から第7ステップ709までの処理を繰り返す。このようにして、予測寿命tNの閾値で決められる精度で、予測寿命tNを求めることができる。
【0058】
本実施例によると、異なる複数の時刻における絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布から、複数の任意の時刻における絶縁膜305の内部の電界分布を求めることができるので、絶縁破壊電界以上になるまで測定を続けなくても、予測寿命tNを推定することが可能である。
【0059】
なお、実施例1及び以下の実施例で述べた方法で求めた絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を用いても、本実施例で述べた方法と同様の方法により、絶縁膜305の予測寿命tNを推定することが可能である。
【実施例3】
【0060】
本発明の第3の実施例について、図8を用いて説明する。本実施例では、試料201に電圧または電流を印加したままで、絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を求める。なお、本明細書では、試料201に電圧または電流を印加したままの状態のことを、「オンライン」と称する。
【0061】
図8は、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を求めるための処理フローを示す図である。
【0062】
第1ステップ801にて、試料201を試料台401に載置する。そして、直流バイアス電源410を用いて、試料201に電圧または電流を印加する。電圧と電流のどちらを印加するかは、ユーザが任意に決めることができる。
【0063】
第2ステップ803では、予め定めた指定の時刻t1まで、試料201に電圧または電流を印加する。
【0064】
第3ステップ805にて、時刻t1に到達したら、試料201に電圧または電流を印加したまま、すなわちオンラインで、パルス電圧発生器402を用いて、パルス電圧を試料201に印加する。そして、オンラインで、実施例1の第3ステップ105と同様にして、絶縁膜305の内部のイオン密度分布と電界分布を求める。
【0065】
第4ステップ806から第6ステップ808までの処理は、実施例1の第4ステップ106から第6ステップ108までの処理と同様なので、説明を省略する。
【0066】
本実施例では、試料201を検査ごとに取り外したり、電圧または電流の印加を断続したりせず、試料201に電圧または電流を印加したままという実際の動作に近い条件の下でイオン密度分布及び電界分布を求めることができる。したがって、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムは、実施例2で述べた方法で絶縁膜305の予測寿命tNを推定することにより、実施例1で述べた効果に加えてより高精度に絶縁膜の寿命を予測することが可能であるという効果を有する。
【実施例4】
【0067】
本発明の第4の実施例について、図9を用いて説明する。本実施例では、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布だけでなく、試料201の絶縁膜305の内部の電流分布と電位分布も求める。
【0068】
図9は、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布、電界分布、電流分布、及び電位分布を求めるための処理フローを示す図である。
【0069】
第1ステップ901から第3ステップ905までの処理は、実施例3の第1ステップ801から第3ステップ805までの処理と同様なので、説明を省略する。
【0070】
第4ステップ906にて、試料201の電流の波形と電圧の波形を電流・電圧センサーやプローブを用いて測定する。そして、PC405にて、時刻t1と時刻t2での絶縁膜305内の電流の波形と電圧の波形を求める。
【0071】
第5ステップ907では、実施例3の第4ステップ806と同様の処理を行う。すなわち、PC405にて、時刻t1と時刻t2でのイオンの密度、イオンの座標値、イオン密度分布、及び電界分布のデータをテーブル化し、画像処理・計算用のPC406の記憶装置に格納する。さらに、本実施例では、第4ステップ906で求めた時刻t1と時刻t2での絶縁膜305内の電流の波形と電圧の波形もテーブル化し、画像処理・計算用のPC406の記憶装置に格納する。
【0072】
第6ステップ908にて、画像処理・計算用のPC406で、時刻t1と時刻t2でのイオン密度分布と電界分布と電流の波形と電圧の波形を基に移流拡散計算を実施して、予め指定した任意の時刻t3での絶縁膜305の内部のイオン密度分布を求める。移流拡散計算は、実施例1と同様に実施する。移流拡散方程式のパラメータ(式1の移流係数μ、寿命定数τ、及び電界E)は、時刻t1と時刻t2でのイオン密度分布と電界分布と電流の波形と電圧の波形を用いて求める。そして、時刻t3でのイオン密度分布を基に、ポアソン方程式の計算により、時刻t3での絶縁膜305の内部の電界分布、電流分布、及び電位分布を求める。
【0073】
第7ステップ909にて、任意の時刻t3での絶縁膜305の内部のイオン密度分布、電界分布、電流分布、及び電位分布をモニタ407に表示する。
【0074】
本実施例では、絶縁膜305の内部のイオン密度分布と電界分布だけではなく、電流分布と電位分布も求めるので、絶縁破壊電界だけではなく、絶縁破壊電流も求めることが可能である。したがって、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムは、実施例2で述べた方法で絶縁膜305の予測寿命tNを推定することにより、絶縁膜の寿命をより高精度に予測することが可能である。
【0075】
なお、本実施例では時刻t1と時刻t2という異なる2つの時刻における測定から、任意の時刻t3での絶縁膜305の内部のイオン密度分布、電界分布、電流分布、及び電位分布を求めた。絶縁膜305の内部の電流分布と電位分布も、イオン密度分布や電界分布と同様に、異なる3つ以上の時刻における測定から、時刻t3での分布を求めることができ、この方がより精度良く電流分布と電位分布を導出することができる。
【実施例5】
【0076】
本発明の第5の実施例について、図10と図11を用いて説明する。本実施例は、試料201が、パルス電圧発生器402より大きい場合の処理の例である。
【0077】
図11は、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、パルス電圧発生器402と試料台401を示す図である。試料台401には、パルス電圧発生器402より大きい試料201が載置されている。試料201は、絶縁膜305の表面の計測領域が、点線で表された複数の計測領域901に分割される。分割された計測領域901の大きさは、パルス電圧発生器402の大きさに基づいて定めることができる。図4に示したように、試料台401の試料201の載置面とは反対の面には、圧延素子403が設けられている。本実施例での絶縁膜内イオン挙動解析システムでは、試料台401に試料板稼動装置902が設けられている。試料板稼動装置902は、パルス電圧発生器402が試料201を走査し、絶縁膜305に設定された複数の計測領域901のそれぞれについて計測できるように、試料台401を前後左右に移動させる。
【0078】
図10は、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を求めるための処理フローを示す図である。
【0079】
第1ステップ1001にて、試料201を試料台401に載置する。そして、直流バイアス電源410を用いて、試料201に電圧または電流を印加する。電圧と電流のどちらを印加するかは、ユーザが任意に決めることができる。
【0080】
第2ステップ1003では、予め定めた指定の時刻t1まで、試料201に電圧または電流を印加する。時刻t1に到達したら、試料201への電圧または電流の印加を止める。
【0081】
第3ステップ1005にて、試料201の表面の計測領域を、複数の計測領域901に分割する。分割された全ての計測領域901にて、超音波計測が可能であるとする。試料台稼働装置902を用いて試料台401を動かし、全ての計測領域901にパルス電圧発生器402でパルス電圧を印加し、各計測領域901の内部のイオン密度分布と電界分布を求める。各計測領域901では、十分信号がとれるまで試料台401を固定して、信号を測定する。各計測領域901でのイオン密度分布と電界分布を求める方法は、実施例1の第3ステップ105と同様である。
【0082】
第4ステップ1006では、PC405にて、全ての計測領域901について、時刻t1でのイオンの密度、イオンの座標値、イオン密度分布、及び電界分布のデータをテーブル化する。テーブル化した上記のデータは、画像処理・計算用のPC406の記憶装置に格納する。
【0083】
ここで、第2ステップ1003に戻り、直流バイアス電源410を用いて、予め定めた指定の時刻t2まで、試料201に電圧または電流を印加する。時刻t2は、時刻t1と異なる時刻であり、時刻t1より後の時刻(t2>t1)とする。時刻t2に到達したら、試料201への電圧または電流の印加を止める。
【0084】
そして、第3ステップ1005と第4ステップ1006を行い、全ての計測領域901について、時刻t2でのイオンの密度、イオンの座標値、イオン密度分布、及び電界分布を求め、画像処理・計算用のPC406の記憶装置に格納する。
【0085】
第5ステップ1007にて、画像処理・計算用のPC406で、時刻t1と時刻t2でのイオン密度分布と電界分布を基に、全ての計測領域901での移流拡散計算を実施する。これにより、予め指定した任意の時刻t3での全ての計測領域901での絶縁膜305の内部のイオン密度分布と電界分布を求める。移流拡散計算やイオン密度分布と電界分布を求める方法は、実施例1の第5ステップ107と同様である。
【0086】
第6ステップ1008にて、任意の時刻t3での全ての計測領域901での絶縁膜305の内部のイオン密度分布と電界分布を、モニタ407に表示する。
【0087】
本実施例では、試料201が、パルス電圧発生器402より大きい場合でも、試料201の分割や破壊をせずに、イオン密度分布と電界分布を求めることができる。
【0088】
さらに、超音波計測では深さ方向のイオン密度分布が計測できるので、試料201の絶縁膜305内のイオンの3次元分布を求めることが可能である。
【0089】
なお、本実施例では試料台401に試料板稼動装置902を設けて、試料台401を前後左右に移動させるようにしたが、試料台401を固定してパルス電圧発生器402と圧延素子403を前後左右に移動させるようにしてもよい。この場合には、パルス電圧発生器402と圧延素子403に稼動装置を設けて、パルス電圧発生器402が試料201を走査することができるようにする。
【実施例6】
【0090】
本発明の第6の実施例について、図11と図12を用いて説明する。本実施例は、試料201が、パルス電圧発生器402より大きい場合の処理の例であり、絶縁膜305の寿命(絶縁寿命)を予測して、絶縁寿命が最も短い領域を再成型する例である。
【0091】
本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、パルス電圧発生器402と試料台401は、図11に示しており、実施例5と同じなので説明を省略する。
【0092】
図12は、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を求め、絶縁寿命が最も短い領域を再成型するための処理フローを示す図である。
【0093】
第1ステップ1201から第6ステップ1208までの処理は、実施例5の第1ステップ1001から第6ステップ1008(図10)までの処理と同一なので、説明を省略する。
【0094】
第7ステップ1209にて、全ての計測領域901について、絶縁膜305の内部のイオン密度分布と電界分布から、絶縁膜305の寿命(絶縁寿命)を求める。絶縁膜305の寿命は、実施例2で説明した方法と同様にして求める。すなわち、予測寿命tNを予め設定し、複数の任意の時刻での絶縁膜305の内部のイオン密度分布と電界分布を求め、これらの値から絶縁膜305の寿命を求める。本実施例では、実施例5での時刻t3を、複数の異なる時刻(t3,t3’ ,t3’’,・・・)とする。全ての計測領域901について絶縁膜305の絶縁寿命を求めた後、絶縁寿命が最も短い計測領域409(図11参照)を求めて、モニタ407に表示する。絶縁寿命が最も短い計測領域409の表示方法としては、例えば、図11に示したように塗りつぶす色を変えて領域を強調表示するなど、他の領域と区別できるように表示する方法が考えられる。
【0095】
第8ステップ1210にて、絶縁寿命が最も短い計測領域409を再成型する。再成型の方法の一例としては、絶縁寿命が最も短い計測領域409に電子線やイオンビーム、レーザを照射する等で表面処理をする方法が挙げられる。または、絶縁寿命が最も短い計測領域409を絶縁膜305から取り除き、取り除いた部分には新たな絶縁膜を設けてもよい。
【0096】
本実施例によると、絶縁膜305の一部の寿命が短くなった場合でも、絶縁膜305の全てを廃棄したり置き換えたりすることなく、寿命が短くなった部分を再成型することができる。これにより、絶縁膜305の寿命の向上が、効率良く低コストで可能となる。
【実施例7】
【0097】
本発明の第7の実施例について、図13を用いて説明する。本実施例は、絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を求めるのに、絶縁膜305の構造・材料データを用いる場合の処理の例である。
【0098】
図13は、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布を求めるための処理フローを示す図である。
【0099】
第1ステップ1301にて、試料201の絶縁膜305の構造・材料データを、PC405に格納する。本実施例では、構造・材料データの一例として、絶縁膜305の材料の移流係数μ、拡散係数D、及び絶縁寿命定数τ(または消滅定数(1/τ))のうち少なくとも1つを格納する。絶縁膜305の材料としては、例えば、エポキシ、炭素系ポリマー、SiO、Si、SiN、またはAlを用いることができる。絶縁膜305の構造・材料データ(移流係数μ、拡散係数D、及び絶縁寿命定数τ(または消滅定数(1/τ))のうち少なくとも1つ)は、移流拡散計算に使う移流拡散方程式のパラメータとして使用する。
【0100】
第2ステップ1303から第5ステップ1307までの処理は、実施例1の第1ステップ101から第4ステップ106(図1)までの処理と同一なので、説明を省略する。
【0101】
第6ステップ1308にて、絶縁膜305の構造・材料データを、PC405から読み出す。
【0102】
第7ステップ1309と第8ステップ1310の処理は、実施例1の第5ステップ107と第6ステップ108(図1)の処理と同一なので、説明を省略する。ただし、第7ステップ1309で移流拡散計算を実施する際には、絶縁膜305の構造・材料データを移流拡散方程式のパラメータとして使用する。
【0103】
本実施例によると、絶縁膜305の構造・材料データも考慮して移流拡散計算を実施するので、絶縁膜305の内部のイオン密度分布及び電界分布をより高精度に求めることができる。したがって、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムは、実施例2で述べた方法で絶縁膜305の予測寿命tNを推定することにより、絶縁膜305の寿命もより高精度に予測することが可能となる。
【実施例8】
【0104】
本発明の第8の実施例について、図14を用いて説明する。本実施例では、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布の温度依存性を求める。
【0105】
図14は、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムの、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布の温度依存性を求めるための処理フローを示す図である。
【0106】
第1ステップ1401にて、試料201の温度を変化させる。試料201の温度を変化させる方法としては、例えば、熱ヒータにより試料201へ熱を印加する方法や、赤外線レーザ装置により試料201に赤外光を照射する方法が挙げられる。このとき、必要に応じて、パルス電圧発生器402を試料201の上方から移動させて、熱を印加したり赤外光を照射したりする。
【0107】
第2ステップ1403から第5ステップ1407までの処理は、実施例1の第1ステップ101から第4ステップ106(図1)までの処理と同一なので、説明を省略する。
【0108】
第6ステップ1408では、画像処理・計算用のPC406で、時刻t1と時刻t2でのイオン密度分布と電界分布を基に移流拡散計算を実施して、絶縁膜305の内部のイオン密度分布の温度依存性を求める。温度依存性は、第1ステップ1401で変化させた試料201の各温度でのイオン密度分布と電界分布から求める。そして、イオンの移流係数と拡散係数の温度依存性を導出し、表示する。イオンの移流係数と拡散係数の温度依存性は、試料201の温度を変化させたときのイオン密度分布と、これに対応するようにフィッテイングした移流拡散方程式における移流係数μ(μhまたはμe)と寿命係数τ(τhまたはτe)から、移流係数μ(μhまたはμe)と寿命係数τ(τhまたはτe)の温度依存性を導出して求める。イオンの移流係数と寿命係数の温度依存性は、例えば、横軸を温度、縦軸をμ、τとしたグラフで表示することができる。
【0109】
本実施例によると、試料201の絶縁膜305の内部のイオン密度分布の温度依存性を求めることができる。したがって、本実施例による絶縁膜内イオン挙動解析システムは、実施例2で述べた方法で絶縁膜305の予測寿命tNを推定することにより、イオン密度分布の温度依存性を考慮して絶縁膜の寿命を予測することが可能である。
【符号の説明】
【0110】
104…時刻t1のイオン密度、109…時刻t3のイオン密度、112…時刻t2のイオン密度、113…時刻t1の電界強度、114…時刻t2の電界強度、115…時刻t3の電界強度、201…試料、304…アノード、305…絶縁膜、306…カソード、401…試料台、402…パルス電圧発生器、403…圧延素子、404…デジタルオシロスコープ、405…パソコン(PC)、406…画像処理・計算用のPC、407…モニタ、408…パルス電圧発生器の電源、409…絶縁寿命が最も短い計測領域、410…直流バイアス電源、411…パルス電圧波形、901…分割された計測領域、902…試料板稼動装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス電圧発生器と圧延素子と演算装置と表示装置を備え、前記パルス電圧発生器が印加したパルス電圧により絶縁膜内に発生した超音波を前記圧延素子で検出することにより、前記絶縁膜内のイオン密度分布を求める絶縁膜内イオン挙動解析システムにおいて、
前記演算装置は、少なくとも異なる2つの時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布を前記超音波の検出結果から求め、前記少なくとも異なる2つの時刻における前記イオン密度分布を基に移流拡散計算を行って、任意の時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布を求め、
前記表示装置は、前記任意の時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布を表示する、
ことを特徴とする絶縁膜内イオン挙動解析システム。
【請求項2】
請求項1記載の絶縁膜内イオン挙動解析システムにおいて、
前記演算装置は、少なくとも異なる2つの時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布から、複数の前記任意の時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布を求め、複数の前記任意の時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布から、複数の前記任意の時刻における前記絶縁膜内の電界分布を求め、前記絶縁膜内の電界分布の時間変化から前記絶縁膜の寿命を予測し、
前記表示装置は、前記演算装置が予測した前記絶縁膜の寿命を表示する絶縁膜内イオン挙動解析システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の絶縁膜内イオン挙動解析システムにおいて、
電源装置を用いて前記絶縁膜に電圧または電流を印加しながら前記絶縁膜にパルス電圧を印加して発生した超音波を前記圧延素子で検出して、前記任意の時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布を求める絶縁膜内イオン挙動解析システム。
【請求項4】
請求項3記載の絶縁膜内イオン挙動解析システムにおいて、
前記演算装置は、前記少なくとも異なる2つの時刻における前記絶縁膜内の電流の波形と電圧の波形と前記イオン密度分布とを基に移流拡散計算を行って、前記任意の時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布と電流分布を求め、
前記表示装置は、前記任意の時刻における前記絶縁膜内のイオン密度分布と電流分布を表示する絶縁膜内イオン挙動解析システム。
【請求項5】
請求項1または2記載の絶縁膜内イオン挙動解析システムにおいて、
前記絶縁膜内に設定された複数の領域のそれぞれでのイオン密度分布と電界分布を求めるために、前記絶縁膜または前記パルス電圧発生器と前記圧延素子とを移動させる稼動装置を備え、
前記演算装置は、前記任意の時刻における前記複数の領域のそれぞれでのイオン密度分布と電界分布を求め、
前記表示装置は、前記任意の時刻における前記複数の領域のそれぞれでのイオン密度分布と電界分布を表示する絶縁膜内イオン挙動解析システム。
【請求項6】
請求項1または2記載の絶縁膜内イオン挙動解析システムにおいて、
前記絶縁膜の移流係数、拡散係数、及び絶縁寿命定数のうち少なくとも1つを前記移流拡散計算に使う移流拡散方程式のパラメータとして用いる絶縁膜内イオン挙動解析システム。
【請求項7】
請求項1または2記載の絶縁膜内イオン挙動解析システムにおいて、
前記演算装置は、記憶装置を備え、計測データと計算データを時系列的に前記記憶装置に格納する絶縁膜内イオン挙動解析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−154868(P2012−154868A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16016(P2011−16016)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】