説明

絶縁被膜付き導体コイルの製造方法及び絶縁被膜付き導体コイル

【課題】直線状の線材をコイルに巻き加工するに際しての従来の加工上の制約及びコイル設計上の制約を取り除くことができるとともに、加工に際して異物により絶縁被膜が損傷する問題を解決でき、また絶縁被膜を均等な厚みで且つ厚膜に形成することのできる絶縁被膜付き導体コイルの製造方法を提供する。
【解決手段】電気導体から成る線材を先ずコイルに巻き加工し、しかる後に熱硬化性樹脂を樹脂成分として含有した電着塗料液を用いて線材の表面に電着塗装を施し、その後コイル10を軸線方向に加圧した状態で加熱することにより塗料粒子の析出被膜20をコイル10の軸線方向に隣接した線材間で互いに融着及び硬化反応させて、線材表面を被覆する状態に絶縁被膜22を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インダクタンス部品であるリアクトル等に用いて好適な絶縁被膜付き導体コイルの製造方法及び絶縁被膜付き導体コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタンス部品であるリアクトル等に用いられる導体コイルは、従来、先ず電気導体である直線状の線材(素線材)の表面を被覆する状態に絶縁被膜を形成し、その後に所定形状のコイルに巻き加工して製造していた。
【0003】
その際の絶縁被膜の形成方法としては、絶縁性の樹脂(例えばポリアミドイミド)を溶剤に溶かして所定粘性とした液(ワニス)を上記の直線状の線材の表面に塗布し、その後これを乾燥及び硬化反応させて被膜形成する方法が一般に用いられていた。
【0004】
しかしながらこのように予め絶縁被膜を施した状態の直線状の線材を成形加工機にて所定形状のコイルに巻き加工する場合、以下のような様々な問題が生ずる。
第1に、巻き加工によって線材表面の絶縁被膜が、コイルの内径側では圧縮の力を、外径側では引張の力を受けて絶縁被膜に無理な力が加わり、これによって絶縁被膜に歪みが発生し、場合によって絶縁被膜が破断したり亀裂発生したりしてしまう問題が生ずる。
【0005】
またこうした不具合を回避するため、巻き加工に際して曲げの曲率を大きくすることが難しく(きつい曲げRで曲げを行うことができず)、曲げの半径を大きくせざるを得ないこととなって、曲げ部の曲げ加工の仕方に(コイルの曲げ部のRの付け方に)制約が生じてしまうといった問題があった。
またこれに伴ってコイル形状の設計の自由度も自ずと制約されてしまうといった問題が生じていた。
【0006】
その他に、線材を成形加工機にて曲げ加工する際に、ゴミその他の異物が絶縁被膜に付着し且つこれに食い込んでしまうといったことも生じ、この場合その異物にて絶縁被膜が傷付いたり穴開きしたりし、何れも絶縁被膜付き導体コイルの絶縁性能の信頼性を損なう要因となる。
【0007】
また上記のように線材に対して絶縁性の樹脂のワニスを塗布し、硬化させることによって絶縁被膜を形成する従来の方法の場合、絶縁被膜を厚膜に形成することが難しく(膜厚は25μm程度である)、そのことが絶縁被膜付き導体コイルに高電圧をかけたときの耐電圧性(絶縁破壊電圧)を十分に高くすることを困難化する原因となっていた。
【0008】
以上の外、上記の方法にて製造した絶縁被膜付き導体コイルの場合、あたかもアコーディオンのようにコイル自体が伸びたり変形したりし易く、その後のハンドリングに際しても次のような問題が生じていた。
【0009】
例えば上記のリアクトルとして軟磁性粉と熱硬化性樹脂との混合材料にてコアを成形し、その成形体の内部に絶縁被膜付きコイルを埋込状態に一体化した形態のものが知られており、その製造方法として、外ケースないし容器の内部に導体コイルをセットした状態で、熱硬化性樹脂の液に軟磁性粉を分散状態に混合したものを、外ケースないし容器の内部に注入し、その後これを所定温度に加熱し且つ所定時間かけて樹脂を硬化反応させて、コアを成形すると同時にコイルと一体化させる方法が提案されている(例えば下記特許文献1)。
【0010】
またその他の製造方法として、絶縁被膜付き導体コイルを成形型のキャビティ内にセットし、その状態で軟磁性粉と熱可塑性樹脂との混合材料を射出成形機にてキャビティ内に射出し、コアを成形(射出成形)すると同時に、その内部にコイルを一体化するといった方法も考えられている。
【0011】
前者の場合には、軟磁性粉と樹脂との混合材料を外ケースないし容器内に流し込み流動させたときに、コイルに対してその流動圧が作用することによって、また後者の場合には、キャビティ内に混合材料を強い圧力で射出しキャビティ内で流動させたときに、その流動の圧力がコイルに作用し、これによってコイルが全体的に変形を生じたり或いは部分的な位置ずれによる変形を生じたりし易い。
【0012】
この場合、コイルが正規の形状から変形することによって、リアクトルとしての性能が損なわれてしまう。
特に後者の射出成形にてコアを成形する場合、キャビティ内のコイルに対しては強い射出圧力と混合材料の流動の圧力が作用し、コイルを変形防止することは非常に困難となる。
【0013】
尚、本発明に対する先行技術として下記特許文献2,特許文献3に開示されたものがある。
特許文献2には、導体線の表面に電着塗装により絶縁の被覆層を形成する点が開示されているが、このものは直線状の導体線そのものに対して絶縁の被覆層を電着塗装するものであり、本発明と異なっている。
【0014】
また特許文献3には、同じく導体の外周に電着塗装により絶縁の被覆層を形成する点が開示されているが、このものもまた直線状の導体に対して絶縁の被覆層を形成するものであって、本発明とは異なったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−27185号公報
【特許文献2】特開2007−227241号公報
【特許文献3】特開2006−252942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は以上のような事情を背景とし、直線状の線材をコイルに巻き加工するに際しての従来の加工上の制約を取り除き、加工上及びコイルの設計上の自由度を著しく高め得るとともに、加工に際して異物が絶縁被膜に付着して絶縁被膜に傷を生ぜしめたり穴開きを生ぜしめたりする問題を解決できるとともに、絶縁被膜を均等な厚みで且つ厚膜に形成することのできる、絶縁被膜付き導体コイルの製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
また第2の目的は、絶縁被膜付き導体コイルを変形し難いものとする絶縁被膜付きコイルの製造方法及び絶縁被膜付き導体コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
而して請求項1は絶縁被膜付き導体コイルの製造方法に関するもので、電気導体から成る線材を先ずコイルに巻き加工し、しかる後に熱硬化性樹脂を樹脂成分として含有した電着塗料を用いて該線材の表面に電着塗装を施し、塗料粒子の析出被膜を硬化反応させて線材表面を被覆する状態に絶縁被膜を形成することを特徴とする。
【0018】
請求項2のものは、請求項1において、前記線材を巻き加工して成るコイルを、該コイルの軸線方向に引張してコイル全体を弾性変形により軸線方向に伸ばし、該軸線方向に隣接する線材間に隙間形成し若しくは隙間を拡大して線材表面に前記電着塗装を施すことを特徴とする。
【0019】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記電着塗装後に、前記コイルを前記軸線方向に加圧して該軸線方向に隣接する線材同士を、該線材を被覆する前記析出被膜を介して密着させ、該密着状態で該析出被膜を硬化反応させることで、隣接する線材同士を前記絶縁被膜を介して一体に接着結合することを特徴とする。
【0020】
請求項4のものは、請求項3において、前記析出被膜を加熱により軟化させて、前記軸線方向に隣接する線材間の該析出被膜同士を融着させた状態で前記硬化反応を行わせることを特徴とする。
【0021】
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、前記導体コイルが平角線材を幅方向に巻いて成るエッジワイズコイルであることを特徴とする。
【0022】
請求項6は絶縁被膜付き導体コイルに関するもので、電気導体から成る線材をコイルに巻き加工して成り、該線材には表面を被覆する状態に絶縁被膜が形成されているとともに、コイルの軸線方向に隣接した線材同士が該絶縁被膜にてコイルの軸線方向に接着固定されていることを特徴とする。
【0023】
請求項7のものは、請求項6において、前記導体コイルが平角線材を幅方向に巻いて成るエッジワイズコイルであることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0024】
以上のように本発明の製造方法は、電気導体から成る線材を先ずコイルに巻き加工し、しかる後に熱硬化性樹脂を樹脂成分として含有した電着塗料を用いて線材の表面に電着塗装を施し、そして塗料粒子の析出被膜を硬化反応させて線材表面を被覆する状態に絶縁被膜を形成するものである。
【0025】
即ち従来の製造方法にあっては、線材に対して先ず絶縁被膜を施し、しかる後に絶縁被膜付きの線材をコイルに巻き加工していたのを、本発明ではその順序を逆にして、先ず線材をコイルに巻き加工し、しかる後に絶縁被膜をコイルを構成する線材表面に形成する。
【0026】
かかる本発明の製造方法によれば、線材を巻き加工するに際して、その表面には絶縁被膜が未だ形成されていないため、線材の巻き加工によって絶縁被膜に無理な力が加わり、これによって絶縁被膜に歪みが発生して、場合により絶縁被膜が破断したり亀裂発生したりしてしまう問題を解消することができる。
【0027】
また絶縁被膜に無理な歪みが加わらないようにするための、線材の巻き加工に際しての制約が解消され、線材の巻き加工自体も容易となり、またこれに伴ってコイル形状の設計の自由度も自ずと高めることができる。
【0028】
加えて線材を成形加工機にて曲げ加工する際に、ゴミその他の異物が絶縁被膜に付着し且つこれに食い込んで絶縁被膜を傷付けたり、穴開きさせたりしてしまう不具合も解消することができる。
【0029】
本発明はまた、線材表面の絶縁被膜を電着塗装にて形成する点を他の大きな特徴としている。
電着塗装(ここではカチオン電着塗装の場合について述べる)は、樹脂成分(ここでは熱硬化性樹脂)を含有した電着塗料液中に被塗物(導体コイル)を浸漬し、これを陰極として陽極との間に電圧印加し直流電流を流すことによって、塗料液中の陽電荷を帯びた塗料粒子を陰極側に泳動させ、導体コイル表面に塗料粒子を析出させて被膜形成する。
【0030】
この電着塗装では、導体コイル表面への塗料粒子の析出により生じた被膜は、その後膜成長して膜厚を漸次増大して行き、これに伴って析出被膜自体の有する電気抵抗も増大して行く。
この結果被膜の膜厚の薄いところに優先して塗料粒子が析出し、全体の被膜が形成されて行く。
尚、アニオン電着塗装の場合には導体コイルが陽極に接続され、塗料液中の陰電荷を帯びた塗料粒子が陽極側の導体コイル側に泳動して膜形成する。
【0031】
このような電着塗装では、線材表面に析出被膜が均等な膜厚で形成され、且つその膜厚も従来の塗装方法に比べて厚くすることが可能である。
しかもこの電着塗装では、線材をコイルに曲げ加工した後においても、良好に均等な膜厚で被膜形成することができる。
【0032】
例えば塗料を吹付け塗装した場合には、コイルの軸線方向に隣接した線材と線材との間の部分と、コイルの内周側の面或いは外周側の面とで均等に塗料を吹付け塗布するといったことは極めて困難であるが、電着塗装の場合には塗料粒子を電気泳動させてコイル表面で析出させ膜形成するものであるため、場所の如何を問わず全体に亘って均等な厚みで膜形成することが可能である。
その結果として、導体コイルに対し高い耐電圧性を付与することが可能となる。
【0033】
この場合において、線材を巻き加工して成るコイルを、コイルの軸線方向に引張してコイル全体を弾性変形により軸線方向に伸ばし、軸線方向に隣接する線材間に隙間形成し若しくは隙間を拡大し、その状態で線材表面に電着塗装を施すのが好適である(請求項2)。
【0034】
このようにすることで、コイルの軸線方向に隣接した線材と線材との間の部分、詳しくは軸線方向に対向した面に対しても、より容易にコイルの外径側の面及び内径側の面と均等な膜厚で被膜形成することができる。
【0035】
尚ここで線材間に隙間形成し若しくは隙間を拡大しとあるのは、線材をコイルに巻き加工し成形した段階で、コイルの軸線方向に隣接した線材と線材とが接触している場合には、それらの間に隙間を形成し、また成形加工状態で線材と線材との間に予め隙間がある場合には、その隙間を更に一層拡大することを意味する。
【0036】
次に請求項3は、電着塗装後にコイルを軸線方向に加圧して、軸線方向に隣接する線材同士を上記の析出被膜を介して密着させ、その密着状態で析出被膜を硬化反応させることで、隣接する線材同士を絶縁被膜を介して一体に接着結合し固定化するもので、この請求項3の製造方法によれば、コイル(巻回してある部分)全体を一体に固定状態とでき、その後の被膜付き導体コイルのハンドリングの際に従来生じていた問題を解決することができる。
【0037】
詳しくは、例えば絶縁被膜付き導体コイルを用いてリアクトルを構成するに際し、軟磁性粉と樹脂との混合材料を外ケースないし容器内に流し込んでコアを成形する際に、或いはキャビティ内に絶縁被膜付き導体コイルをセットした状態で、キャビティ内に軟磁性粉と樹脂との混合材を射出してコアを成形する際に、混合材の流し込み或いは射出の圧力や流動の圧力でコイルが全体的に変形してしまったり部分的に位置ずれしてしまうのを有効に抑制することができ、このことによってリアクトルとしての性能を高めることが可能となる。
【0038】
この場合において、電着塗装した析出被膜を加熱により軟化させて、軸線方向に隣接する線材間の析出被膜同士を互いに融着させた上で、硬化反応を行わせるようになすことができる(請求項4)。
【0039】
このようにすれば、線材間の絶縁被膜同士の接着力をより一層高めることができ、ひいてはコイル全体の機械的強度をより一層高めることができ、混合材料の流動の圧力等によってコイルの全体的な変形及び部分的な位置ずれによる変形をより一層効果的に抑制することが可能となる。
【0040】
請求項6は絶縁被膜付き導体コイルに関するもので、この導体コイルは、コイルの軸線方向に隣接した線材同士を絶縁被膜にてコイルの軸線方向に接着固定して成るもので、この請求項6の絶縁被膜付き導体コイルにあっては、その後のハンドリングの際に導体コイルが全体的に或いは部分的に変形を生じるのを有効に抑制することが可能となる。
【0041】
本発明は横断面形状が円形,楕円形,正4角形,平角形等様々な横断面形状をなす線材を用いたコイルに適用することが可能であるが、特に導体コイルが平角線材を幅方向に巻き、コイルの軸線方向に積み重ねて成る形態のエッジワイズコイルである場合に適用して好適である(請求項5,請求項7)。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態である(導体)コイルを絶縁被膜形成前の状態で示す斜視図である。
【図2】コイルの変形の一例を示した図である。
【図3】コイルの図2とは異なる変形の一例を示した図である。
【図4】同実施形態のコイルの電着塗装の方法を模式的に示した図である。
【図5】同実施形態のコイルを軸線方向に引張した状態を示した図である。
【図6】同実施形態における絶縁被膜形成の工程を示した断面図である。
【図7】同実施形態の方法に用いる加圧治具によるコイルの加圧状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は導体コイルの一例として、インダクタンス部品としてのリアクトルに用いられるエッジワイズコイル(以下単にコイルとする)を、絶縁被膜形成する前の状態で示している。
【0044】
このコイル10は、平角線材を幅方向に巻き、線材の厚み方向(縦方向)に積み重ねてコイル形状となしたもので、巻き加工し成形した自由形状状態で、コイル10の軸線方向に隣接する線材同士が互いに接触状態に重なっている。
尚、図中14はコイル10におけるコイル端子を表している。
【0045】
単に電気導体の線材を巻き加工しコイル形状に成形しただけの図1のコイル10は、力を加えると図2に示しているようにあたかもアコーディオンのように容易に伸張変形したり、また図3に示しているように容易に捻れ変形したりする。
尚このコイル10の材質としては銅,アルミニウム,銅合金,アルミニウム合金等種々の材質のものを使用することができる。
【0046】
本実施形態では、このようにして直線状の導体線材を巻き加工し、成形したコイル10に対して電着塗装を施し、線材表面を被覆する状態に絶縁被膜22(図6参照)を形成する。
詳しくは、熱硬化性樹脂を樹脂成分として含有した電着塗料を用いて線材表面にカチオン電着塗装を施し、線材の表面に塗料粒子を膜状に析出させる。
ここで熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂,ウレタン樹脂等を好適に用いることができる。
尚、場合によってアニオン電着によって線材表面に塗料粒子を膜状に析出させるといったことも可能である。
【0047】
図4に、カチオン電着にて電着塗装を行う場合の方法が模式的に表してある。
図において16は電着槽、18は電着塗料液で、この電着塗料液18には、上記樹脂成分としての熱硬化性樹脂が硬化剤とともに含有させてある。
尚この電着塗料液には他に硬化触媒,界面活性剤その他の成分を合せて含有させておくことができる。
【0048】
この電着塗装では、電着塗料液18中に上記のコイル10を浸漬し、これを陰極として同じく電着塗料液18中に浸漬させた陽極19との間に電圧印加し、直流電流を流すことによって、電着塗料液18中の陽電荷を帯びた塗料粒子を陰極側のコイル10に向けて泳動させ、コイル10表面に塗料粒子を析出させて析出被膜20(図6参照)を形成する。
【0049】
その際、図5に示しているようにコイル10をその軸線方向に引張して、コイル10全体を弾性変形により軸線方向に伸ばし、軸線方向に隣接する線材間に間隙Sを形成し、その状態にて電着塗装を施す。
尚この実施形態では、コイル10を横向きに寝かせた状態で電着塗料液18中に浸漬しておく。
ここで軸線方向に隣接する線材と線材との間の間隙Sは3〜10mm程度としておくことが望ましい。
【0050】
図6(I)は、このようにして隣接する線材間に間隙S形成した状態を模式的に表してある。
尚この図6は、コイル10における線材を断面形状で表している。
また図6(II)は、その状態で電着塗装を施し、線材表面に塗料粒子を析出させて析出被膜20を形成した状態を表している。
【0051】
以上のようにして析出被膜20を形成したら、次にこれを洗浄後に加熱して析出被膜20を硬化反応させ、線材表面を被覆する状態に絶縁被膜22形成することができる。
その場合の絶縁被膜22の膜厚は、上記電着層16内での印加電圧,印加時間,電着塗料の組成等によって異なるが、好適には絶縁被膜22の膜厚を15〜100μmとする。
理由は、膜厚を15μm以上とすることで絶縁被膜付きのコイル10に十分な耐電圧(絶縁破壊電圧)を付与することができ、また一方、100μmを超えて膜厚を厚くすることは製造上困難であることによる。
【0052】
但しここでは電着塗装後に、例えば図7に示す加圧治具24を用いてコイル10を軸線方向に加圧し、図6(III)に示すように軸線方向に隣接する線材同士を析出被膜20を介して密着させ、その状態で析出被膜20のガラス転位温度以上に加熱して先ず析出被膜同士を融着させ、更に引続いて析出被膜20の硬化温度以上の温度でこれを硬化反応させる。
【0053】
具体的には、図7の加圧治具24にて電着塗装後のコイル10を軸線方向に加圧した状態で加熱炉に挿入し、その加熱炉内での加熱により、析出被膜20同士の融着と、これに続く硬化反応とを連続して行わせる。
【0054】
上記コイル10は、図1に示しているように平面形状が長円形状、具体的には平面視において左右両端側の半円形状部26と、それらを左右方向に繋ぐ直線形状部28とを有する長円形状をなしており、これに対して図7に示す加圧治具24は、コイル10の平面形状に対応した長円形状の図中上下一対の挟圧部材30と、それらをねじ結合している中心のボルト、更に一対の挟圧部材30のそれぞれの周方向に沿った複数個所(ここでは4個所)に、互いに図中上下に対向して設けられた押え34とを備えた構造をなしている。
【0055】
この加圧治具24では、ボルト32を締め込んで行くことで突起形状の押え34にてコイル10を軸線方向の両端で押え、以てコイル10を軸線方向に加圧する。
尚各押え34はねじにて構成されており、ねじ操作によって突出量を調節可能となしてある。
【0056】
以上のようにして加圧状態で析出被膜20を各線材間において互いに融着させ且つその後硬化させることで、図6(IV)に示すように軸線方向に隣接した線材同士が、硬化した被膜即ち絶縁被膜22を介して接着結合され、コイル10全体(但しコイル端子14を除いた部分)が一体化した絶縁被膜22付きのコイル10が得られる。
【0057】
尚、電着塗装後において先ずコイル10を軸線方向に加圧しない状態で析出被膜20を硬化させ、その後に熱硬化性樹脂塗料を吹き付けて、その後に上記の加圧治具24を用いてコイル10を軸線方向に圧縮し、その状態で吹き付けた樹脂塗料を融着させ且つ硬化反応させるようになしても良い。
このようにすれば、絶縁被膜厚みを更に一層厚くすることができ、耐電圧を更に高めることも可能となる。
【0058】
この場合の吹付用の樹脂塗料としては、下地の析出被膜20と同材料か又は密着性の良好な材質のものを用いることが好ましい。
例えば析出被膜20がエポキシ樹脂被膜である場合には、吹付用の樹脂塗料としてもエポキシ系樹脂を用いることが好ましい。
【0059】
以上のような本実施形態によれば、線材をコイルに巻き加工するに際して、その表面には絶縁被膜22が未だ形成されていないため、線材の巻き加工によって絶縁被膜22に無理な力が加わり、これによって絶縁被膜22に歪みが発生して、場合により絶縁被膜22が破断したり亀裂発生したりしてしまう問題を解消することができる。
【0060】
また絶縁被膜22に無理な歪みが加わらないようにするための、線材の巻き加工に際しての制約が解消され、線材の巻き加工自体も容易となり、またこれに伴ってコイル形状の設計の自由度も自ずと高めることができる。
【0061】
加えて線材を成形加工機にて曲げ加工する際に、ゴミその他の異物が絶縁被膜22に付着し且つこれに食い込んで絶縁被膜22を傷付けたり、穴開きさせたりしてしまう不具合も解消することができる。
【0062】
本実施形態はまた、線材表面の絶縁被膜22を電着塗装にて形成するため、線材表面に均等な膜厚で絶縁被膜22を形成でき、且つその膜厚も従来の塗装方法に比べて厚くすることが可能である。
しかもこの電着塗装では、線材をコイルに曲げ加工した後においても、良好に均等な膜厚で被膜形成することができる。
その結果として、コイル10に対し高い耐電圧(絶縁破壊電圧)を付与することが可能となる。
【0063】
また本実施形態では、電着塗装後にコイル10を軸線方向に加圧して、軸線方向に隣接する線材同士を析出被膜20を介して密着させ、その密着状態で析出被膜20同士を加熱により互いに融着させ且つ硬化反応させることで、隣接する線材同士を絶縁被膜22を介して一体に接着結合し固定化するため、コイル10(巻回してある部分)全体を一体に固定状態とでき、その後のコイル10のハンドリングの際に従来生じていた問題を解決することができる。
【実施例】
【0064】
日立電線(株)社製のJIS C3104準拠した幅8mm,厚み1mmの平角銅線材を用いて巻き加工し成形した図1に示すコイル10(ターン数は25)に対して、日本ペイント(株)社製の「パワートップU-CP-70」のカチオン電着塗料を用いて電着塗装を行った。
この電着塗料は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とジエタノールアミンを反応して得た樹脂液に、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテルでブロックしたジフェニルメタンジイソシアネートを硬化剤として所定比で混合したものである。
【0065】
この電着塗料を脱イオン水で樹脂固形分濃度15%に希釈して電着塗料液18とし、これを浴温度30℃に調整し、上記のコイル10のコイル端子14を陰極に固定して電着塗料液18中に浸漬し、電圧を印加した。印加開始後5秒間で300Vまで電圧を昇圧し、その後175秒間300Vを維持することにより電着塗装を行った。
【0066】
電着塗装後水洗いし、図7に示した加圧治具24でコイル10を軸線方向に加圧し、その状態でこれを150℃の加熱炉に挿入して1時間保持した後、180℃で20分間焼付け(硬化)処理し、その後空冷し、コイル10における線材表面に膜厚80μmで絶縁被膜22を形成するとともに、その絶縁被膜22を介して軸線方向に隣接した線材同士を接着結合し、コイル10全体を一体に固定状態とした。
尚、析出被膜20のガラス転位温度はDSCで測定した結果130℃であり、また硬化温度は174℃であった。
【0067】
このようにして得たコイル10の絶縁破壊電圧を測定したところ1500Vであった。
尚、絶縁被膜の体積固有抵抗は5×1014Ωcmであった。
ここで絶縁破壊電圧の測定は、株式会社安田精機製作所製絶縁破壊耐電圧試験機を用いてJIS C2110に準じて行った。
また体積固有抵抗の測定はTAKEDA RIKEN TR-8601 HIGH MEGOHM METERを用いてJIS C2151に準じて行った。
【0068】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様・形態で実施・構成可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 コイル
18 電着塗料液
20 析出被膜
22 絶縁被膜
24 加圧治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気導体から成る線材を先ずコイルに巻き加工し、しかる後に熱硬化性樹脂を樹脂成分として含有した電着塗料を用いて該線材の表面に電着塗装を施し、塗料粒子の析出被膜を硬化反応させて線材表面を被覆する状態に絶縁被膜を形成することを特徴とする絶縁被膜付き導体コイルの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記線材を巻き加工して成るコイルを、該コイルの軸線方向に引張してコイル全体を弾性変形により軸線方向に伸ばし、該軸線方向に隣接する線材間に隙間形成し若しくは隙間を拡大して線材表面に前記電着塗装を施すことを特徴とする絶縁被膜付き導体コイルの製造方法。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記電着塗装後に、前記コイルを前記軸線方向に加圧して該軸線方向に隣接する線材同士を、該線材を被覆する前記析出被膜を介して密着させ、該密着状態で該析出被膜を硬化反応させることで、隣接する線材同士を前記絶縁被膜を介して一体に接着結合することを特徴とする絶縁被膜付き導体コイルの製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記析出被膜を加熱により軟化させて、前記軸線方向に隣接する線材間の該析出被膜同士を融着させた状態で前記硬化反応を行わせることを特徴とする絶縁被膜付き導体コイルの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、前記導体コイルが平角線材を幅方向に巻いて成るエッジワイズコイルであることを特徴とする絶縁被膜付き導体コイルの製造方法。
【請求項6】
電気導体から成る線材をコイルに巻き加工して成り、該線材には表面を被覆する状態に絶縁被膜が形成されているとともに、コイルの軸線方向に隣接した線材同士が該絶縁被膜にてコイルの軸線方向に接着固定されていることを特徴とする絶縁被膜付き導体コイル。
【請求項7】
請求項6において、前記導体コイルが平角線材を幅方向に巻いて成るエッジワイズコイルであることを特徴とする絶縁被膜付き導体コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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