説明

絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜剥離器、および、はんだ付け方法

【課題】本発明は、低コストで他部品との接合信頼性を高くすることができる絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜剥離器、および、はんだ付け方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この絶縁被膜剥離装置は、内部にフラックス11を貯留するフラックス貯留槽1と、フラックス貯留槽1に浸漬される絶縁被膜被覆電線3の先端部の絶縁被膜31を剥離する剥離器2と、を備える。剥離器2は、フラックス貯留槽1に浸漬される電線の2点を固定する固定部材4と、フラックス貯留槽1に浸漬される絶縁被膜被覆電線3の軸心を中心として回転する3枚の刃22と、刃22を回転させる駆動部21と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1層の絶縁被膜で芯線が覆われた絶縁被膜被覆電線の先端部の絶縁被膜を、芯線が剥き出しになるように剥離して、他部品とはんだ付けにより接合する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、モータに使用される電線として主に銅線が選ばれていた。しかし、近年の銅線の高騰やモータ自体の軽量化への改良が進み、銅線以外の他の電線の使用が考えられてきている。
【0003】
このような銅線以外の電線の中では、例えばアルミニウムや鉄など、その表面が非常に酸化しやすく、一旦酸化すると強固な酸化被膜を形成するものがある。この電線に形成される酸化被膜ははんだとの濡れ性が悪い。このため、酸化被膜が形成された電線と端子やリード線とをはんだ付けで接合する場合には、接合強度が弱くなるという問題が生じていた。
【0004】
したがって、このような酸化被膜が形成されやすい電線と他部品とを接合する場合には、フラックスなど還元作用を有する薬品を塗布して酸化被膜を除去している。ただし、強固な酸化被膜を除去するためには、その強固な酸化被膜に対応可能な程度に高い還元力を有するフラックスを使用する必要がある。
【0005】
ここで、従来の酸化被膜を除去して行っていたはんだ付けのフローについて説明する。図15は、従来の電線のはんだ付けの工程を示すフロー図である。また、図16は従来のはんだ付けフローにおける絶縁被膜31を剥離した絶縁被膜被覆電線3に他部品6を接続した状態を示す図、図17は従来のはんだ付けフローにおける絶縁被膜被覆電線3および他部品6をフラックス11が貯留される槽に浸漬した状態を示す図、図18は従来のはんだ付けフローにおける絶縁被膜被覆電線3および他部品6に付着したフラックス11を乾燥または加熱する状態を示す図、図19は従来のはんだ付けフローにおけるフラックス11を付着させた絶縁被膜被覆電線3および他部品6をはんだ12が貯留される槽に浸漬した状態を示す図である。
【0006】
従来、酸化しやすい絶縁被膜被覆電線3に対してはんだ付けにより他部品6を接合させる場合には、まず、絶縁被膜31を剥離し(ステップS11)、図16に示すように他部品6を接続していた(ステップS12)。そして、図17に示すように絶縁被膜被覆電線3と他部品6とをともにフラックス11が貯留される槽に浸漬した後(ステップS13)、図18に示すようにフラックス11を乾燥または加熱して(ステップS14)、フラックス11を活性化させることにより酸化被膜を除去していた。このようにして酸化被膜が除去された状態で、図19に示すようにはんだ付けを行っていた(ステップS15)。
【0007】
一方で、このような従来の方法で酸化被膜の除去を行う場合には、絶縁被膜が剥離された電線が酸素雰囲気中で酸化しているため、還元力の高いフラックスを使用する必要がある。この還元力の高いフラックスは、電線自体の腐食をも促進してしまう性質を有する。このため、電線自体の腐食を防止するべく、他部品との接合を完了させた後、フラックスを水系またはアルコール系の洗浄剤により洗浄する必要があった。したがって、特に量産の場合には、コスト上昇の原因ともなっていた。
【0008】
そこで、このような問題に対し、アルミニウム電線の接合のために、超音波による酸
化被膜を除去する技術(特許文献1)、還元ガスを使用して酸化を防止または除去する技術(特許文献2)、また、超音波と亜鉛系はんだを併用することでの接合する技術(特許文献3)などが提案されている。
【特許文献1】特開平2−54947号公報
【特許文献2】特開2004−323977号公報
【特許文献3】特開平9−239531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の発明のように、超音波装置等を用いる接合においては、大掛かりな設備を導入する必要があり、コスト増加や作業工数の増加という問題が生じる。また、超音波振動によりはんだ温度が上昇してはんだが飛散し易くなるという問題も生じる。このため、はんだ温度についても考慮した繊細な制御が必要となり、制御が煩雑になるという問題も生じる。
【0010】
また、特許文献2に記載の発明のように、還元ガスを用いて酸化被膜の除去を行う方法では、作業雰囲気を常時高温の還元ガス雰囲気に保つ必要がある。そのため、電力、ガス等のエネルギー使用量の増加という問題が生じる。
さらに、特許文献3に記載の発明のように、超音波装置を用いるとともに亜鉛系はんだを使用する方法では、大掛かりな設備を導入する必要がありコスト増加や作業工数の増加という問題が生じる。また、超音波振動によりはんだ温度が上昇してはんだが飛散し易くなるという問題も生じる。このため、はんだ温度についても考慮した繊細な制御が必要となり、制御が煩雑になるという問題も生じる。また、亜鉛系のはんだを用いると、作業温度を高く設定しなければならず作業性が悪い上に、濡れ性も劣る。このため、ほぼ完全に芯線(特にアルミニウム線)の表面の酸化被膜を除去していなければ、はんだが濡れないという問題も生じる。
【0011】
本発明は、以上のような課題を解決するものであり、大掛かりな設備を必要とせず、低コストで他部品との接合信頼性を高くすることができる絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜剥離器、および、はんだ付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、絶縁被膜被覆電線に対して、はんだ付けを行う前処理として絶縁被膜を剥離する際に用いられる絶縁被膜剥離装置であって、内部にフラックスを貯留するフラックス貯留槽と、前記フラックス貯留槽に浸漬される、少なくとも1層の絶縁被膜で芯線が覆われた絶縁被膜被覆電線の先端部の絶縁被膜を、前記芯線が剥き出しになるように剥離する剥離器と、を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記剥離器が、前記フラックス貯留槽に浸漬される電線の少なくとも2点を、前記絶縁被膜被覆電線を通過自在に支持する支持部材を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記剥離器が、前記フラックス貯留槽に浸漬される絶縁被膜被覆電線の軸心を中心として回転する刃を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記剥離器が、前記刃を回転させる駆動部を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記フラックス貯留槽に接続され、前記絶縁被膜被覆電線から剥離された絶縁被膜の残骸およびフラックスの劣化物を除去するフラックス循環部を、
さらに備えることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜を剥離する位置を変更する電線深度調整器を、さらに備える。
【0018】
請求項7に記載の発明は、前記絶縁被膜被覆電線の芯線は、アルミニウムを材料とすることを特徴とする。
【0019】
請求項8に記載の発明は、前記はんだが、非鉛はんだであることを特徴とする。
【0020】
請求項9に記載の発明は、少なくとも1層の絶縁被膜で芯線が覆われた絶縁被膜被覆電線の先端部を、フラックスを貯留するフラックス貯留槽内に浸漬する第1のフラックス浸漬工程と、前記フラックス貯留槽内に浸漬された絶縁被膜被覆電線の先端部の絶縁被膜を、前記芯線が剥き出しになるように剥離する剥離工程と、前記剥離工程で先端部の絶縁被膜が剥離された絶縁被膜被覆電線を前記フラックス貯留槽から取り出して、前記芯線上に付着したフラックスを乾燥させる取出し乾燥工程と、前記絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜が剥離された部分のうちフラックスが付着した部分と他部品と接続させる接続工程と、前記絶縁被膜被覆電線の他部品との接続部分をはんだ付けするはんだ付け工程と、を備えることを特徴とする。
【0021】
請求項10に記載の発明は、前記接続工程の後、前記絶縁被膜被覆電線の他部品との接続部分を、前記フラックス貯留槽内に浸漬する第2のフラックス浸漬工程を、さらに備えることを特徴とする。
【0022】
請求項11に記載の発明は、前記絶縁被膜被覆電線の芯線は、アルミニウムを材料とすることを特徴とする。
【0023】
請求項12に記載の発明は、前記はんだが、非鉛はんだであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載の発明によれば、フラックス貯留槽に浸漬される絶縁被膜被覆電線の先端部の絶縁被膜を、芯線が剥き出しになるように剥離する剥離器を備えることから、大掛かりな設備を必要とせず、低コストで他部品との接合信頼性を高くすることができる。つまり、芯線の酸化を抑制した状態で電線と他部品とを接合することができる。また、酸化被膜が形成されない状態で電線にフラックスを塗布することができるため、高い還元力を有するフラックスを使用することがなく、接合後の電線の腐食を防止することができる。
【0025】
請求項2に記載の発明によれば、剥離器がフラックス貯留槽に浸漬される電線の少なくとも2点を支持する支持部材を備えることから、絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜の剥離中のブレを防止し、絶縁被膜の剥離を精度良く行うことができる。
【0026】
請求項3に記載の発明によれば、剥離器がフラックス貯留槽に浸漬される絶縁被膜被覆電線の軸心を中心として回転する刃を備えることから、絶縁被膜の剥離を精度良く行うことができる。
【0027】
請求項4に記載の発明によれば、剥離器が、刃を回転させる駆動部を備えることから、簡易に絶縁被膜の剥離を行うことができる。
【0028】
請求項5に記載の発明によれば、絶縁被膜被覆電線から剥離された絶縁被膜の残骸およびフラックスの劣化物を除去するフラックス循環部を備えることから、フラックス貯留槽
内に貯留されるフラックスの劣化を防止することができる。
【0029】
請求項6に記載の発明によれば、絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜を剥離する位置を変更する電線深度調整器を、さらに備えることから、剥離器の位置を変更することなく、簡易に絶縁被膜被覆電線の位置を調整することができる。
【0030】
請求項9に記載の発明によれば、フラックス貯留槽内に浸漬された絶縁被膜被覆電線の先端部の絶縁被膜を、芯線が剥き出しになるように剥離する剥離工程を備えることから、大掛かりな設備を必要とせず、低コストで他部品との接合信頼性を高くすることができる。つまり、芯線の酸化を抑制した状態で電線と他部品とを接合することができる。また、酸化被膜が形成されない状態で電線にフラックスを塗布することができるため、高い還元力を有するフラックスを使用することがなく、接合後の電線の腐食を防止することができる。
【0031】
請求項10に記載の発明によれば、接続工程の後、絶縁被膜被覆電線の他部品との接続部分を、フラックス貯留槽内に浸漬する第2のフラックス浸漬工程を備えることから、他部品の酸化を防止することができ、他部品との接合信頼性をさらに高くすることができる。
【0032】
請求項7および請求項11に記載の発明によれば、絶縁被膜被覆電線の芯線として、酸素雰囲気中では強固な酸化被膜を形成しやすく、一旦酸化被膜が形成されると、はんだの濡れ性が悪化するアルミニウムを材料とするものを採用しても、はんだの濡れ性を良好にすることができる。
【0033】
請求項8および請求項12に記載の発明によれば、はんだが非鉛はんだであることから、鉛による人体への悪影響を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0035】
図1は、本発明の実施形態に係る絶縁被膜剥離装置の全体概略図である。
【0036】
絶縁被膜剥離装置は、絶縁被膜被覆電線3と他部品(端子やリード線等)とのはんだ付け接合前の前処理として使用される。この絶縁被膜剥離装置は、絶縁被膜被覆電線3の先端部の絶縁被膜31を、芯線32に酸化被膜が形成されない状態で芯線32が剥き出しになるように剥離するものである。
【0037】
なお、この実施形態においては、フラックス11として、固形分含有量15%、粘度4mPa、ハロゲン含有量0.08±0.02%のものを使用する。ただし、この絶縁被膜被覆電線3およびフラックス11としては、これに限られることなく、他の材料により構成されるものを使用してもよい。なお、フラックス11としては、高温(モータ使用時のフラックス11塗布部の到達温度以上)で活性するものを使用しても良いし、低温(モータ使用時のフラックス11塗布部の到達温度未満)で活性するものを使用しても良い。ただし、高温で活性するフラックス11は、モータ使用時においても活性することがないため、後々芯線32を腐食させる危険性が少ないため、より好ましい。
【0038】
また、絶縁被膜被覆電線3の芯線32としては、空気中で酸化被膜を形成しやすい材料、特に空気中で酸化し易い材料を使用する場合に、特にこの絶縁被膜剥離装置を利用する効果を得ることができる。なお、主な金属Li,K,Ca,Na,Mg,Al,Zn,Fe,Ni,Sn,Pb,(H),Cu,Hg,Ag,Pt,Auの昇順に、酸化被膜が形
成されやすく、酸化し易い材料であることは、一般的に知られている。そして、特に、Li,K,Ca,Na,Mg,Al,Zn,Fe,Ni,Sn,Pbについて酸化被膜が形成されやすく、Li,K,Ca,Na,Mg,Alについて酸化され易いことも、一般的に知られている。そこで、本実施形態においては、この絶縁被膜剥離装置の効果を得るため、芯線32としてアルミニウムを材料としたものを使用することにしている。
【0039】
この絶縁被膜剥離装置は、内部にフラックス11を貯留するフラックス貯留槽1と、フラックス貯留槽1に浸漬される絶縁被膜被覆電線3の先端部の絶縁被膜31を剥離する剥離器2と、を備える。
【0040】
図2および図3は、絶縁被膜被覆電線3の断面を示す断面図である。ここで、絶縁被膜被覆電線3は、図2に示すように1層の絶縁被膜31で芯線32が覆われる構成であってもよく、図3に示すように2層の絶縁被膜31a、31bで芯線32が覆われる構成であってもよい。さらに、3層以上の多層の絶縁被膜で覆われる構成であってもよい。絶縁被膜31を多層とすると、耐圧を向上させることができるため、さらなる小型化のために有利である。また、絶縁被膜被覆電線3としては、少なくとも1層の絶縁被膜31で芯線32が覆われるものを使用するため、絶縁被膜被覆電線3の絶縁被膜31が剥離されない状態では、芯線32に酸化被膜が形成されない状態とすることができる。なお、本実施形態においては、絶縁被膜被覆電線3として、アルミニウム製の芯線32に、ポリエステル製およびナイロン製の2層の絶縁被膜31が被覆されているもの(所謂、PEWN電線)を使用する。ただし、この絶縁被膜被覆電線3およびフラックス11としては、これに限られることなく、他の材料により構成されるものを使用してもよい。なお、絶縁被膜31の材料としては、ウレタン系、ポリエステル系、ポリイミド系のいずれであっても良い。
【0041】
このように、フラックス貯留槽1に浸漬される絶縁被膜被覆電線3の先端部の絶縁被膜31を剥離することから、大掛かりな設備を必要とせず、低コストで他部品との接合信頼性を高くすることができる。つまり、芯線32の酸化を抑制した状態で絶縁被膜被覆電線3と他部品とを接合することができる。また、酸化被膜が形成されない状態で絶縁被膜被服電線3にフラックス11を塗布することができるため、高い還元力を有するフラックスを使用することがなく、接合後の絶縁被膜被覆電線3の芯線32の腐食を防止することができる。
【0042】
なお、このフラックス貯留槽1は、フラックス循環装置60に接続される。このフラックス循環装置60は、フラックス貯留槽1に貯留されるフラックス11を引き込むポンプ61と、フラックス11内の不純物を濾過するフィルタ62と、フラックス貯留槽1とフラックス循環装置60とを接続する配管63とを備える。これにより、フラックス貯留槽1内に混入する剥離された絶縁被膜31を取り除くことができる。このため、フラックス貯留槽1内のフラックス11の特性が悪化することを防止し、フラックス11を長期間利用することができる。
【0043】
また、剥離器2は、絶縁被膜被覆電線3の芯線32が剥き出しになるように絶縁被膜31を剥離する。この剥離器2は、フラックス貯留槽1に浸漬される電線の2点を、絶縁被膜被覆電線3を通過自在に支持する支持部材4と、フラックス貯留槽1に浸漬される絶縁被膜被覆電線3の軸心を中心として回転する3枚の刃22と、刃22を回転させる駆動部21と、を備える。
【0044】
図4は、絶縁被膜被覆電線3の絶縁被膜31を剥離する状態の刃22および駆動部21の一部を示す斜視図である。
【0045】
駆動部21は、モータ23と、モータ23の回転を伝達する伝達軸24と、伝達軸24
の回転を伝えるギヤ25と、伝達ベルト26と、ギヤ27と、ギヤ27の回転に従って刃22を回転させる回転板28と、を備える。回転板28は、伝達軸24、ギヤ25、伝達ベルト26およびギヤ27を介してモータ23の回転が伝達されて回転する。
【0046】
また、3枚の刃22は、回転板28の中心に同心円上に配置される。そして、この3枚の刃22の中央に絶縁被膜被覆電線3を通過させる。このような状態で、刃22が回転板28の回転により絶縁被膜被覆電線3の周囲を回転する。これにより、絶縁被膜31が剥離される。なお、絶縁被膜被覆電線3は、電線深度調整器5によって、フラックス貯留槽1中の深度が調整される。この電線深度調整器5の調整により、絶縁被膜被覆電線3において、剥離したい部分のみの絶縁被膜31を剥離することができる。また、この電線深度調整器5により、剥離器2の位置を変更することなく、簡易に絶縁被膜被覆電線3の位置を調整することができる。
【0047】
図5は、支持部材4を構成する支持部41を示す斜視図である。
【0048】
支持部材4は、2つの支持部41を有する。この2つの支持部41は、フラックス貯留槽1の中で、平面視で同一位置となるように一定位置に固定される。そして、支持部41には、絶縁被膜被覆電線3を通過自在に通す通過孔42が形成される。絶縁被膜被覆電線3は、この通過孔42を通過することにより、フラックス貯留槽1内で固定される。このため、絶縁被膜31の剥離作業中においても、絶縁被膜被覆電線3を固定することができ、絶縁被膜31の剥離を精度良く行うことができる。なお、通過孔42の径を絶縁被膜被覆電線3の径(この実施形態においては0.62mm)よりも0.01mm程度大きくすると、絶縁被膜被覆電線3の通過の邪魔にならず、また、絶縁被膜被覆電線3の絶縁被膜31の剥離作業中の絶縁被膜被覆電線3のブレを防止することができる。その結果、絶縁被膜31の剥離をより精度良く行うことができるため、さらに好ましい。このような支持部41を備えることにより、剥離器2を構成する刃22の回転速度が上昇しても、芯線32まで切削されて細り断線してしまう、という問題を回避することができる。
【0049】
次に、絶縁被膜被覆電線3の絶縁被膜31の剥離からはんだ付けまでの工程について説明する。
【0050】
図6は、絶縁被膜被覆電線3の絶縁被膜31の剥離からはんだ付けまでの工程を示すフロー図である。また、図7は絶縁被膜31が剥離されていない状態の絶縁被膜被覆電線3を示す側面図、図8は絶縁被膜31が剥離された後フラックス11が塗布された状態の絶縁被膜被覆電線3を示す側面図、図9はフラックス11が塗布された部分に他部品6が接続された状態の絶縁被膜被覆電線3を示す側面図、図10は他部品6とともにフラックス11が塗布される状態の絶縁被膜被覆電線3を示す側面図、図11は他部品6とともにフラックス11が塗布された状態の絶縁被膜被覆電線3を示す側面図、図12はフラックス11が塗布された他部品6とともにはんだ12が塗布される状態を示す絶縁被膜被覆電線3を示す側面図である。
【0051】
絶縁被膜被覆電線3と他部品6とをはんだ付けにより接合する場合には、まず、この発明に係る絶縁被膜剥離装置のフラックス貯留槽1に絶縁被膜被覆電線3を浸漬する(ステップS1)。このとき、絶縁被膜被覆電線3は、その先端が2つの固定部41の通過孔42を通過するように、電線深度調整器5により深度を調整される。
【0052】
次に、剥離器2の刃22を回転させることにより、フラックス貯留槽1に浸漬された絶縁被膜被覆電線3の絶縁被膜31を剥離する(ステップS2)。このとき、絶縁被膜被覆電線3は、その先端を刃22の方向へ徐々に上昇させるように、電線深度調整器5により深度を調整される。これにより、剥離したい部分のみの絶縁被膜31を剥離することがで
きる。なお、深度の調整は、絶縁被膜被覆電線3の先端を刃22の位置からフラックス貯留槽1の深部へ徐々に下降させるようにしてもよい。これによっても絶縁被膜31を剥離することができる。
【0053】
その後、このようにフラックス貯留槽1でフラックスが塗布された絶縁被膜被覆電線3を、図8に示すように、フラックス貯留槽1から取り出して、乾燥する(ステップS3)。このとき、フラックス11として、高温で活性するものを使用する場合には、活性温度まで加熱してもよい。ただし、絶縁被膜31の剥離と同時にフラックス11を塗布しているため、芯線32の表面に酸化被膜が形成されていない。このため、フラックス11を敢えて活性させる必要はない。
【0054】
そして、図9に示すように、フラックス11が塗布されて乾燥された絶縁被膜被覆電線3に対し、他部品6を接続する(ステップS4)。このように他部品6を接続された絶縁被膜被覆電線3を、図10に示すように、再びフラックス11が貯留された槽に浸漬して、フラックス11を塗布する(ステップS5)。
【0055】
そして、図11に示すように、フラックスが貯留された槽から取り出して、乾燥する(ステップS6)。このとき、ステップS3と同様に、フラックス11として、高温で活性するものを使用する場合には、他部品6の酸化被膜を除去するために活性温度まで加熱してもよい。
【0056】
このように他部品6とともにフラックス11を塗布し、はんだ12が貯留された槽に浸漬して、はんだ12を塗布する(ステップS7)。
【0057】
図13は、本実施形態と従来技術との接合において、塗布時のはんだ温度による接合の良否を示す比較図である。
【0058】
ここで、従来技術の接合とは、図15乃至図19で示すような工程による接合である。また、○は接合部の表面の50%以上がはんだで覆われる状態を、×は接合部の表面の50%未満がはんだで覆われる状態を示してる。なお、図13において、本実施形態および従来技術の接合に使用される絶縁被膜被覆電線3はPEWN電線であり、はんだは錫96.4%・銀3.5%・ニッケル0.1%で構成され、フラックスは固形成分含有量15%・粘度4mPa・ハロゲン含有量0.08±0.02%で構成される。
【0059】
そうすると、従来技術の接合では、はんだ12の温度を400℃に上昇させても、接合が良好ではない。一方で、本実施形態の接合では、はんだ12の温度を380℃以上にすれば、良好な接合が得られる。これは、本実施形態による接合では、接合部の芯線32の表面に酸化被膜が形成されておらず、酸化被膜を熱により除去する必要がなくなったためであると考えられる。
【0060】
また、図14は、本実施形態と従来技術との接合において、はんだ12の種類による剥離時間を示す比較図である。
【0061】
ここで、この比較図を作成する際には、5mm×30mmのアルミニウム板2枚を準備し、これらにフラックス11を塗布した後、30mgのはんだ12で互いに接合させている。そして、この接合部分を40℃の食塩水に浸漬して、2枚のアルミニウム板が剥離するまでの時間を計測している。
【0062】
図14の従来技術の剥離時間の欄に示すように、従来使用されていたSnPb系のはんだ(所謂、鉛はんだ)は芯線上に酸化被膜が形成されていても、濡れ性に問題が生じてい
なかったため、従来技術の接合によっても、3500(h)の剥離時間であった。つまり、鉛とアルミニウムとは接合性が良いため、アルミニウムとの接触が小面積であっても、良好に接合していた。しかし、近年の鉛の人体影響問題により、鉛不使用のSnAg系やSnZn系の非鉛はんだが使用されるようになり、芯線上に酸化被膜が形成される場合には、濡れ性が悪くなるという問題が生じていた。
【0063】
そこで、本実施形態の接合と従来技術の接合との剥離時間を比較すると、SnAg系のはんだを使用した場合には、従来技術の接合では1208(h)であるのに対し、本実施形態の接合では3096(h)と飛躍的に伸びている。また、SnZn系のはんだを使用した場合であっても、従来技術の接合では104(h)であったのに対し、本実施形態の接合では336(h)と飛躍的に伸びている。
【0064】
以上から、本発明によれば、芯線上に酸化被膜が形成されている場合には濡れ性の悪い非鉛はんだを使用する場合であっても、剥離時間を長期化することができる。
【0065】
なお、本実施形態で使用した固形分含有量15%、粘度4mPa、ハロゲン含有量0.08±0.02%により構成されるフラックス11は、120℃乃至160℃で活性する。したがって、このフラックス11を塗布した後に、120℃乃至160℃に加熱することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る絶縁被膜剥離装置は、高い還元力を有するフラックスを使用することがなく、接合後の電線の腐食を防止することができ、絶縁被膜被覆電線を他部品とはんだ付けにより接合する技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態に係る絶縁被膜剥離装置の全体概略図
【図2】絶縁被膜被覆電線3の断面を示す断面図
【図3】絶縁被膜被覆電線3の断面を示す断面図
【図4】絶縁被膜被覆電線3の絶縁被膜31を剥離する状態の刃22および駆動部21の一部を示す斜視図
【図5】固定部材4を構成する固定部41を示す斜視図
【図6】絶縁被膜被覆電線3の絶縁被膜31の剥離からはんだ付けまでの工程を示すフロー図
【図7】絶縁被膜31が剥離されていない状態の絶縁被膜被覆電線3を示す側面図
【図8】絶縁被膜31が剥離された後フラックス11が塗布された状態の絶縁被膜被覆電線3を示す側面図
【図9】フラックス11が塗布された部分に他部品6が接続された状態の絶縁被膜被覆電線3を示す側面図
【図10】他部品6とともにフラックス11が塗布される状態の絶縁被膜被覆電線3を示す側面図
【図11】他部品6とともにフラックス11が塗布された状態の絶縁被膜被覆電線3を示す側面図
【図12】フラックス11が塗布された他部品6とともにはんだ12が塗布される状態を示す絶縁被膜被覆電線3を示す側面図
【図13】本実施形態と従来技術との接合において、塗布時のはんだ温度による接合の良否を示す比較図
【図14】本実施形態と従来技術との接合において、はんだ12の種類による剥離時間を示す比較図
【図15】従来の電線のはんだ付けの工程を示すフロー図
【図16】従来のはんだ付けフローにおける絶縁被膜31を剥離した絶縁被膜被覆電線3に他部品6を接続した状態を示す図
【図17】従来のはんだ付けフローにおける絶縁被膜被覆電線3および他部品6をフラックス11が貯留される槽に浸漬した状態を示す図
【図18】従来のはんだ付けフローにおける絶縁被膜被覆電線3および他部品6に付着したフラックス11を乾燥または加熱する状態を示す図
【図19】従来のはんだ付けフローにおけるフラックス11を付着させた電線および他部品6をはんだ12が貯留される槽に浸漬した状態を示す図
【符号の説明】
【0068】
1 フラックス貯留槽
2 剥離器
3 絶縁被膜被覆電線
4 固定部材
5 電線深度調整器
6 他部品
11 フラックス
12 はんだ
21 駆動部
22 刃
23 モータ
24 伝達軸
25 ギヤ
26 伝達ベルト
27 ギヤ
28 回転板
31 絶縁被膜
32 芯線
41 固定部
42 通過孔
60 フラックス循環装置
61 ポンプ
62 フィルタ
63 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被膜被覆電線に対して、はんだ付けを行う前処理として絶縁被膜を剥離する際に用いられる絶縁被膜剥離装置であって、
内部にフラックスを貯留するフラックス貯留槽と、
前記フラックス貯留槽に浸漬される、少なくとも1層の絶縁被膜で芯線が覆われた絶縁被膜被覆電線の先端部の絶縁被膜を、前記芯線が剥き出しになるように剥離する剥離器と、
を備えることを特徴とする絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜剥離装置。
【請求項2】
前記剥離器は、前記フラックス貯留槽に浸漬される電線の少なくとも2点を前記絶縁被膜被覆電線を通過自在に支持する支持部材を備えることを特徴とする請求項1に記載の絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜剥離装置。
【請求項3】
前記剥離器は、前記フラックス貯留槽に浸漬される絶縁被膜被覆電線の軸心を中心として回転する刃を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜剥離装置。
【請求項4】
前記剥離器は、前記刃を回転させる駆動部を備えることを特徴とする請求項3に記載の絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜剥離装置。
【請求項5】
前記フラックス貯留槽に接続され、前記絶縁被膜被覆電線から剥離された絶縁被膜の残骸およびフラックスの劣化物を除去するフラックス循環部を、さらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜剥離装置。
【請求項6】
前記絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜を剥離する位置を変更する電線深度調整器を、さらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜剥離装置。
【請求項7】
前記絶縁被膜被覆電線の芯線は、アルミニウムを材料とすることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜剥離装置。
【請求項8】
前記はんだは、非鉛はんだであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜剥離装置。
【請求項9】
少なくとも1層の絶縁被膜で芯線が覆われた絶縁被膜被覆電線の先端部を、フラックスを貯留するフラックス貯留槽内に浸漬する第1のフラックス浸漬工程と、
前記フラックス貯留槽内に浸漬された絶縁被膜被覆電線の先端部の絶縁被膜を、前記芯線が剥き出しになるように剥離する剥離工程と、
前記剥離工程で先端部の絶縁被膜が剥離された絶縁被膜被覆電線を前記フラックス貯留槽から取り出して、前記芯線上に付着したフラックスを乾燥させる取出し乾燥工程と、
前記絶縁被膜被覆電線の絶縁被膜が剥離された部分のうちフラックスが付着した部分と他部品と接続させる接続工程と、
前記絶縁被膜被覆電線の他部品との接続部分をはんだ付けするはんだ付け工程と、
を備えることを特徴とする絶縁被膜被覆電線のはんだ付け方法。
【請求項10】
前記接続工程の後、前記絶縁被膜被覆電線の他部品との接続部分を、前記フラックス貯留槽内に浸漬する第2のフラックス浸漬工程を、さらに備えることを特徴とする請求項9に記載の絶縁被膜被覆電線のはんだ付け方法。
【請求項11】
前記絶縁被膜被覆電線の芯線は、アルミニウムを材料とすることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の絶縁被膜被覆電線のはんだ付け方法。
【請求項12】
前記はんだは、非鉛はんだであることを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の絶縁被膜被覆電線のはんだ付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−148053(P2009−148053A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321845(P2007−321845)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】