説明

絶縁診断システム

【課題】絶縁診断用に直流電源や交流電源を別途用意することなく電力用機器の絶縁診断を行うことができる絶縁診断システムを提供する。
【解決手段】電力系統を停電させて避雷器3および電力ケーブル4の絶縁診断を行うための絶縁診断システムであって、電力系統に設置された力率改善用コンデンサ装置を診断用直流電源10として利用し、診断用直流電源10から避雷器3および電力ケーブル4に直流課電する。絶縁診断装置30は、診断用直流電源10において測定された第1の直流電圧値V1および第1の直流電流値I1と、避雷器3および電力ケーブル4において測定された第2および第3の直流電圧値V2,V3および第2および第3の直流電流値I2,I3とに基づいて、避雷器3および電力ケーブル4の絶縁診断を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁診断システムに関し、特に、電力系統を停電させて電力用機器の絶縁診断を行うのに好適な絶縁診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力系統を停電させて電力ケーブルの絶縁診断(絶縁劣化判定)を行う方法としては、直流電源から直流電圧を電力ケーブルに印加して電荷を充電したのちに直流電源を開放したときの放電時間を測定することにより電力ケーブルの絶縁劣化を診断する電位減衰法がある。
たとえば、下記の特許文献1に開示された絶縁劣化判定装置では、被測定ケーブルの導体および遮蔽間に直流高圧発生装置によって高圧直流電圧を充電し、この充電電圧が所定の電圧値に達したときに高圧スイッチによって充電回路を開放したのちに、被測定ケーブルの残留電荷を静電電圧計で測定して、高圧スイッチを開放した時点から被測定ケーブルの自己放電により残留電荷が所定値に達した時点までの時間をコンピュータによって測定するとともに、この時間を予め設定した時間と比較することにより被測定ケーブルの絶縁の良否を判定している。
【0003】
また、CVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブル)の水トリー劣化に対する診断法として、直流課電によって水トリー内部に蓄積された電荷を交流課電によって回復させる過程で流れる直流成分をCVケーブルの劣化を示す信号として検出する残留電荷法がある。
たとえば、下記の特許文献2に開示された電力ケーブルの絶縁劣化診断方法では、絶縁劣化診断の信頼性を向上させるために、診断対象となるCVケーブルと接地とを含む閉回路内で生じる直流信号を測定器により測定し、CVケーブルと実質的に同一の条件で敷設されている他のCVケーブルと接地とを含む閉回路内で生じる直流信号を別の測定器により測定し、これら両測定器により測定した直流信号同士の差動演算を差動演算器により行うことにより前者の測定器が測定した直流信号に含まれる直流ノイズ成分を除去し、この結果得られた直流信号を評価することにより絶縁劣化診断を行うようにしている。
【0004】
なお、電力系統を停電させずに活線状態のままで電力用機器(電力ケーブル、避雷器、コンデンサおよび変圧器など)の絶縁劣化を診断する方法もある。
たとえば、下記の特許文献3に開示された絶縁劣化診断装置では、電力用機器のアース線にクリップオン式の電流プローブを取り付けて検出した電流位相と高圧線に分圧機などを接続して検出した供給電源の電圧位相とから静電正接(tanδ)を求めて、求めた静電正接から電力用機器の絶縁劣化を診断している。
【特許文献1】特公平6−54342号公報
【特許文献2】特開2003−329723号公報
【特許文献3】特開平1−110267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電位減衰法による絶縁診断では、電力ケーブルの導体および遮蔽間に直流電圧を充電するための直流電源を別途用意する必要があるという問題がある。
また、残留電荷法による絶縁診断では、電力ケーブルを交流課電するための交流電源を別途用意する必要があるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、絶縁診断用に直流電源や交流電源を別途用意することなく電力用機器の絶縁診断を行うことができる絶縁診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の絶縁診断システムは、電力系統を停電させて電力用機器(3,4)の絶縁診断を行うための絶縁診断システムであって、前記電力系統に設置された電力用蓄電設備を診断用直流電源(10)として利用して該診断用直流電源から前記電力用機器に直流課電して該電力用機器の絶縁診断を行う絶縁診断手段を具備することを特徴とする。
ここで、前記絶縁診断手段が、前記診断用直流電源において測定された直流電圧値(V1)および直流電流値(I1)と、前記電力用機器において測定された他の直流電圧値(V2,V3)および他の直流電流値(I2,I3)とに基づいて、該電力用機器の絶縁診断を行う絶縁診断装置(30)を備えてもよい。
前記絶縁診断装置が、前記他の直流電圧値(V2)および前記他の直流電流値(I2)に基づいて、該他の直流電圧値が安定したときの電圧−電流特性を求め、該求めた電圧−電流特性に基づいて前記電力用機器の絶縁診断を行ってもよい。
前記絶縁診断装置が、前記診断用直流電源を前記電力系統から切り離したときの前記直流電圧値(V1)に基づいて該診断用直流電源の初期電荷量(Qa0)を測定し、該診断用直流電源から前記電力用機器に直流課電したのち前記直流電圧値(V1)が安定したときの該診断用直流電源の電荷量(Qa)および該電力用機器の電荷量(Qb)を求め、該求めた2つの電荷量の総和と前記測定した初期電荷量との差に基づいて、または、前記電力用機器への移動電荷量(Q3)を求め、該求めた移動電荷量の減衰量に基づいて、前記電力用機器の絶縁診断を行ってもよい。
また、本発明の絶縁診断システムは、電力系統を停電させて電力ケーブル(4)の絶縁診断を行うための絶縁診断システムであって、前記電力系統に設置された電力用蓄電設備を診断用直流電源(10)として利用して該診断用直流電源から前記電力ケーブルに直流課電し、該電力ケーブルを接地したのちに、該電力系統の実系統交流電源(1)を診断用交流電源として利用して該診断用交流電源から該電力ケーブルに交流課電して、該電力ケーブルの絶縁診断を行う絶縁診断手段を具備することを特徴とする。
ここで、前記絶縁診断手段が、前記交流課電の間に前記診断用交流電源から出力される交流電流の直流成分を抽出するための直流フィルタ(41)と、該直流フィルタによって抽出された前記直流成分の電流値(I4)を測定するための直流電流計(224)と、該直流電流計によって測定された前記直流成分の電流値に基づいて前記電力ケーブルの絶縁診断を行う絶縁診断装置(50)とを備えてもよい。
前記絶縁診断装置が、前記診断用直流電源から前記電力ケーブルに直流課電し、該電力ケーブルを該診断用直流電源から切り離し、該電力ケーブルを接地したのちに、前記診断用交流電源から該電力ケーブルに交流課電し、該交流課電の間に前記直流電流計によって測定された前記直流成分の電流値に基づいて該電力ケーブルの水トリー部残留電荷量(Q)を測定し、該測定された水トリー部残留電荷量に基づいて最低ライン回帰式を用いて推定交流破壊電界(E)を算出し、該算出した推定交流破壊電界に基づいて該電力ケーブルの余寿命を評価して絶縁診断を行ってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の絶縁診断システムは、以下に示す効果を奏する。
(1)電力系統に設置された電力用蓄電設備を診断用直流電源として利用するとともに、実系統交流電源を診断用交流電源として利用するので、絶縁診断用の直流電源や交流電源を別途用意することなく電力用機器の絶縁診断を行うことができ、また、試験容量に制限がないため、電力ケーブルの恒長が長くても試験をすることができる。
(2)停電操作に併せて電力用機器の絶縁診断を行えるので、電力用機器の絶縁診断の信頼度を向上させることができる。
(3)電力系統に直流電圧計および直流電流計を設置するだけで自動的に電力用機器の絶縁診断を行うことができる。
(4)実際の実効値電圧を電力用機器に印加することができるので、正確な漏洩電流を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記の目的を、電力系統に設置された電力用蓄電設備を診断用直流電源として利用してこの診断用直流電源から電力用機器に直流課電して電力用機器の絶縁診断を行うことにより、また、電力系統に設置された電力用蓄電設備を診断用直流電源として利用してこの診断用直流電源から電力ケーブルに直流課電し、電力ケーブルを接地したのちに、電力系統の実系統交流電源を診断用交流電源として利用してこの診断用交流電源から電力ケーブルに交流課電して電力ケーブルの絶縁診断を行うことにより実現した。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明の絶縁診断システムの実施例について図面を参照して説明する。
まず、本発明の第1の実施例による絶縁診断システムについて、図1乃至図4を参照して説明する。
本実施例による絶縁診断システムは、電力系統に設置された電力用蓄電設備の一つである力率改善用コンデンサ装置(スタコン)を診断用直流電源として利用して、力率改善用コンデンサ装置に蓄積された大容量電荷による残留電圧を直流電圧とすることにより電力用機器の絶縁診断を行うことを特徴とする。
【0011】
以下では、図1に示すように22kV母線から分岐された第1の送電線に診断用直流電源10(力率改善用コンデンサ装置)が設置され、22kV母線から分岐された第2の送電線に避雷器3が設置され、22kV母線から分岐された第3の送電線に電力ケーブル4(CVケーブル)が接続されている場合を例として、本実施例による絶縁診断システムについて詳細に説明する。
なお、3相電力系統では、診断用直流電源10、避雷器3および電力ケーブル4は相ごとに設けられている。
【0012】
絶縁診断システムは、診断用直流電源10に内蔵された第1の直流電圧計211および第1の直流電流計221によって測定された第1の送電線の直流電圧値および直流電流値(以下、「第1の直流電圧値V1」および「第1の直流電流値I1」と称する。)と、第2の直流電圧計212および第2の電流計222によって測定された第2の送電線の直流電圧値および直流電流値(以下、「第2の直流電圧値V2」および「第2の直流電流値I2」と称する。)と、第3の電圧計213および第3の電流計223によって測定された第3の送電線(電力ケーブル4)の直流電圧値および直流電流値(以下、「第3の直流電圧値V3」および「第3の直流電流値I3」と称する。)とに基づいて、避雷器3および電力ケーブル4の絶縁診断(絶縁劣化判定)を行う絶縁診断装置30を具備する。
【0013】
なお、診断用直流電源10は、電力用コンデンサ11と並列に接続された、かつ、第1の送電線に設置された第2の遮断器22が遮断(開放)されたときに電力用コンデンサ11に蓄積されている電荷を放電するための放電回路12(直列接続されたスイッチおよび放電抵抗を含む。)を備える。そのため、放電回路12のスイッチは、常時はオンされているが、絶縁診断を行う際にはオフされる。
【0014】
次に、本実施例による絶縁診断システムを用いて避雷器3の絶縁診断を行ったのちに電力ケーブル4の絶縁診断を行う方法について、図2および図3に示すフローチャートを参照して説明する。
【0015】
診断用直流電源10の放電回路12のスイッチがオフされたのちに、第1の送電線に設置された第2の遮断器22がゼロ点近傍で遮断(以下、「ゼロ点遮断」と称する。)され、ほぼ正弦波の最大値の電圧が電力用コンデンサ11に保持される。(ステップS11)。
このとき、絶縁診断装置30は、第1の直流電圧値V1に基づいて電力用コンデンサ11の電荷量Qa(以下、「初期電荷量Qa0」と称する。)を測定する(ステップS11)。たとえば、第2の遮断器22を遮断後の第1の直流電圧値V1を17.9kVとするとともに電力用コンデンサ11の容量値Caを10μFとすると、初期電荷量Qa0は179×10-3C(=10μF×17.9kV)となる。
【0016】
なお、遮断タイミングのずれなどで第1の直流電圧計211によって測定される第2の遮断器22の遮断後の第1の直流電圧値V1が17kV未満である場合には、放電回路12のスイッチをオンして電力用コンデンサ11を放電したのち、第2の遮断器22を投入して電力用コンデンサ11を充電したのちに放電回路12のスイッチをオフし第2の遮断器22をゼロ点遮断する動作が繰り返される(ステップS12)。
【0017】
第1の直流電圧値V1が17kV以上であると、第2および第3の送電線にそれぞれ設置された第3および第4の遮断器23,24が遮断されて、試験対象機器である避雷器3および電力ケーブル4が停電される(ステップS13)。
【0018】
その後、実系統交流電源1と22kV母線との間の送電線に設置された第1の遮断器21が遮断されて、22kV母線が上位系統から分離される(ステップS14)。
【0019】
その後、第2の遮断器22が投入されて診断用直流電源10が空母線に投入されたのち、第3の遮断器23が投入される(ステップS15)。
【0020】
絶縁診断装置30は、第2の直流電圧計212から入力される第2の直流電圧値V2および第2の直流電流計222から入力される第2の直流電流値I2に基づいて、第2の直流電圧値V2が安定したときの電圧−電流特性(すなわち、避雷器3の内部抵抗)を求める。絶縁診断装置30は、求めた電圧−電流特性が図4(a)に示す「正常」の範囲内に入っていれば、「避雷器3は正常である」と判定し、一方、求めた電圧−電流特性が図4(a)に示す「不良」の範囲内に入っていれば、「避雷器3は不良である」と判定する(ステップS16)。
ここでの避雷器3の静電容量は極めて小さいため無視する。
【0021】
このようにして避雷器3の絶縁診断が終了すると、第3の遮断器23が遮断される(ステップS17)。
このとき、第1の直流電圧計211によって測定される第3の遮断器23の遮断後の第1の直流電圧値V1が17kV未満である場合には、放電回路12のスイッチをオンして電力用コンデンサ11を放電したのち、第1および第2の遮断器21,22を投入して電力用コンデンサ11を充電したのちに放電回路12のスイッチをオフし第2の遮断器22をゼロ点遮断する動作が繰り返される(ステップS18,S19)。
【0022】
その後、絶縁診断装置30は、第1の直流電圧値V1に基づいて初期電荷量Qa0を測定する(図3のステップS20)。たとえば、第3の遮断器23を遮断後の第1の直流電圧値V1が17.9kVのままであったとすると、初期電荷量Qa0は179×10-3C(=10μF×17.9kV)のままとなる。
【0023】
その後、第4の遮断器24が投入される(ステップS21)。
【0024】
絶縁診断装置30は、第4の遮断器24の投入後に第1の直流電圧計211および第1の直流電流計221からそれぞれ入力される第1の直流電圧値V1および第1の直流電流値I1に基づいて、一定時間後の電力用コンデンサ11の電荷量Qaおよび電力ケーブル4の電荷量Qbを求める。絶縁診断装置30は、求めた電力用コンデンサ11の電荷量Qaおよび電力ケーブル4の電荷量Qbの総和Qa+Qbと初期電荷量Qa0との差(Qa+Qb)−Qa0が所定の基準値P(たとえば、初期電荷量Qa0の5%)未満であれば、「電力ケーブル4は正常である」と判定し、一方、差(Qa+Qb)−Qa0が基準値P以上であれば、「電力ケーブル4は不良である」と判定する。
また、第1の直流電流値I1により移動電荷量Qcを測定し,電力ケーブル4の電荷量Qbを引くことで損失電荷を算出してもよい。なお、判定については、第4の遮断器24を遮断し電力用コンデンサ11を切り離して、電力ケーブル4単体だけで移動電荷量Qcの減衰量(減衰判断)により電力ケーブル4の良否を判定してもよい(以上、ステップS22)。
【0025】
たとえば、電力ケーブル4の容量値Cbを1μFとすると、図4(b)に示すように第4の遮断器24を投入してから1時間後に第1の直流電圧値V1が安定して16.2kV(1.7kV低下)になったときには、電力用コンデンサ11の電荷量Qaは162×10-3C(=10μF×16.2kV)となり、電力ケーブル4の電荷量Qbまたは移動電荷量Qcは第3の直流電圧計213からの第3の直流電圧値V3より16.2×10-3C(=1μF×16.2kV)となる。その結果、総和Qa+Qbは178.2×10-3C(=162×10-3C+16.2×10-3C)となって、総和Qa+Qbと初期電荷量Qa0との差は0.8×10-3C(=179×10-3C−178.2×10-3C)となり基準値P(=179×10-3C×0.05≒9×10-3C)未満となるため、絶縁診断装置30は、「電力ケーブル4は正常である」と判定する。
一方、図4(b)に示すように第4の遮断器24を投入してから1時間後に第1の直流電圧値V1が安定して15kV(2.9kV低下)になったときには、電力用コンデンサ11の電荷量Qaは150×10-3C(=10μF×15kV)となり、電力ケーブル4の電荷量Qbまたは移動電荷量Qcは第3の直流電圧計213からの第3の直流電圧値V3より15×10-3C(=1μF×15kV)となる。その結果、総和Qa+Qbは165×10-3C(=150×10-3C+15×10-3C)となって、総和Qa+Qbと初期電荷量Qa0との差は14×10-3C(=179×10-3C−165×10-3C)となり基準値P(≒9×10-3C)以上となるため、絶縁診断装置30は、「電力ケーブル4は不良である」と判定する。
上記以外に、電力ケーブル4を電力用コンデンサ11から切り離し、電力ケーブル4単体で減衰する電荷量(16.2×10-3C→15×10-3C(基準値P=0.8×10-3C))により電力ケーブル4の良否判定をしてもよい。
また、測定した移動電荷量Q3と(電力ケーブル4の容量Cb×第3の直流電圧値V3)とが同じでない場合は、電力ケーブル4に何らかの異常があると判断する。
さらに、電力ケーブル4の恒長が長く充電のための電荷量が多く必要な場合は、上記のステップS11〜S21を繰り返して電力ケーブル4を充電する(電圧を上げる)。
【0026】
なお、絶縁診断装置30は、第3の直流電圧計213から入力される第3の直流電圧値V3および第3の直流電流計223から入力される第3の直流電流値I3に基づいて、第3の直流電圧値V3が安定したときの電圧−電流特性(すなわち、電力ケーブル4の絶縁抵抗)を求めて、求めた電圧−電流特性が「正常」の範囲内に入っていれば「電力ケーブル4は正常である」と判定し、一方、求めた電圧−電流特性が「不良」の範囲内に入っていれば「電力ケーブル4は不良である」と判定する動作を並行して行ってもよい。
【0027】
以上のようにして避雷器3および電力ケーブル4の絶縁診断が終了すると、放電回路12のスイッチがオンされるとともに第1乃至第4の遮断器21〜24が投入される(ステップS23)。
【実施例2】
【0028】
次に、本発明の第2の実施例による絶縁診断システムについて、図5および図6を参照して説明する。
本実施例による絶縁診断システムは、上述した第1の実施例による絶縁診断システムと同様にして力率改善用コンデンサ装置を診断用直流電源として利用するとともに、実系統交流電源を診断用交流電源として利用して、残留電荷法により電力ケーブル(CVケーブル)の絶縁診断を行うことを特徴とする。
【0029】
以下では、上述した第1の実施例による絶縁診断システムと同様に、図5に示すように22kV母線から分岐された第1の送電線に診断用直流電源10(力率改善用コンデンサ装置)が設置され、22kV母線から分岐された第2の送電線に避雷器3が設置され、22kV母線から分岐された第3の送電線に電力ケーブル4(CVケーブル)が接続されている場合を例として、本実施例による絶縁診断システムについて詳細に説明する。
【0030】
本実施例による絶縁診断システムは、以下に示す点で、上述した第1の実施例による絶縁診断システムと異なる。
(1)実系統交流電源1と第1の遮断器21とを接続する送電線に流れる交流電流の直流成分を抽出するための直流フィルタ41(3相電力系統では相ごとに設けられる。)と、直流フィルタ41によって抽出された直流成分の電流値を測定するための第4の直流電流計224とを具備する。
(2)図1に示した絶縁診断装置30の代わりに、第1乃至第3の直流電圧値V1〜V3、第1乃至第3の直流電流値I1〜I3および第4の直流電流計224によって測定された直流成分の電流値(以下、「第4の直流電流値I4」と称する。)に基づいて、電力ケーブル4の絶縁診断(絶縁劣化判定)を行う絶縁診断装置50を具備する。
【0031】
次に、本実施例による絶縁診断システムを用いて残留電荷法により電力ケーブル4の絶縁診断を行う方法について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0032】
診断用直流電源10の放電回路12のスイッチがオフされたのちに、第1の送電線に設置された第2の遮断器22がゼロ点近傍で遮断され、ほぼ正弦波の最大値の電圧が電力用コンデンサ11に保持される(ステップS31)。
このとき、絶縁診断装置50は、第1の直流電圧値V1に基づいて電力用コンデンサ11の初期電荷量Qa0を測定する(ステップS31)。
【0033】
なお、第1の直流電圧計211によって測定される第2の遮断器22の遮断後の第1の直流電圧値V1が17kV未満である場合には、放電回路12のスイッチをオンして電力用コンデンサ11を放電したのち、第1および第2の遮断器21,22を投入して電力用コンデンサ11を充電したのちに放電回路12のスイッチをオフし第2の遮断器22をゼロ点遮断する動作が繰り返される(ステップS32)。
【0034】
第1の直流電圧値V1が17kV以上であると、第3および第4の遮断器23,24が遮断されて避雷器3および電力ケーブル4が停電されたのち、第1の遮断器21が遮断されて22kV母線が上位系統から分離される(ステップS33)。
【0035】
その後、第2の遮断器22が投入されて診断用直流電源10が空母線に投入されたのち、第4の遮断器24が投入される(ステップS34)。
【0036】
絶縁診断装置50は、第4の遮断器24の投入後の第1の直流電圧値V1を監視し、第1の直流電圧値V1が安定したか否かをチェックする(ステップS35,S36)。
【0037】
第1の直流電圧値V1が安定すると、第2および第4の遮断器22,24が遮断されて電力ケーブル4が診断用直流電源10から切り離されたのち、第3の送電線に甲アース60が取り付けられて電力ケーブル4が接地される(ステップS37)。
【0038】
その後、第1の遮断器21が短時間(たとえば、数秒間)だけ1〜2分間隔で3回ほど投入されたのち数分間投入されることにより、電力ケーブル4が実系統交流電源1によって交流課電される(ステップS38)。
【0039】
絶縁診断装置50は、電力ケーブル4が実系統交流電源1によって交流課電されている間に直流フィルタ41を通った第4の直流電流計224から入力される第4の直流電流値I4に基づいて電力ケーブル4の水トリー部残留電荷量Q(単位はnC/10m)を測定する。
絶縁診断装置50は、測定された水トリー部残留電荷量Qに基づいて、(1)式に一例を荷と交流破壊電圧との関係の最低ライン回帰式を用いて推定交流破壊電界Eを算出し、算出した推定交流破壊電界Eに基づいて電力ケーブル4の余寿命を評価して絶縁診断を行う(ステップS39)。
E={63.005×Q-0.2879}/T (1)
ここで、T=電力ケーブル4の絶縁体厚(単位はmm)
【0040】
以上のようにして電力ケーブル4の絶縁診断が終了すると、放電回路12のスイッチがオンされるとともに第1乃至第4の遮断器21〜24が投入される(ステップS40)。
【0041】
なお、本実施例による絶縁診断システムにおいても、図1に示した絶縁診断システムと同様にして診断用直流電源10を用いて避雷器3および電力ケーブル4の絶縁診断を行うこともできる。
また、絶縁診断装置50として給電用オシロ装置を用いることができる。
【0042】
以上の説明では、診断用直流電源10として力率改善用コンデンサ装置を利用したが、電力系統に設置されているその他の電力用蓄電設備(たとえば、コンデンサ型計器用変圧器や電力ケーブルなど)を利用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施例による絶縁診断システムの構成について説明するための図である。
【図2】図1に示した絶縁診断システムを用いて避雷器3の絶縁診断を行ったのちに電力ケーブル4の絶縁診断を行う方法について説明するためのフローチャートである。
【図3】図1に示した絶縁診断システムを用いて避雷器3の絶縁診断を行ったのちに電力ケーブル4の絶縁診断を行う方法について説明するためのフローチャートである。
【図4】図1に示した絶縁診断装置30における絶縁診断方法について説明するためのグラフであり、(a)は避雷器3の絶縁診断方法について説明するためのグラフであり、(b)は電力ケーブル4の絶縁診断方法について説明するためのグラフである。
【図5】本発明の第2の実施例による絶縁診断システムの構成について説明するための図である。
【図6】図5に示した絶縁診断システムを用いて残留電荷法により電力ケーブル4の絶縁診断を行う方法について説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1 実系統交流電源
1〜24 第1乃至第4の遮断器
3 避雷器
4 電力ケーブル
10 診断用直流電源
11 電力用コンデンサ
12 放電回路
211〜213 第1乃至第3の直流電圧計
221〜224 第1乃至第4の直流電流計
30,50 絶縁診断装置
41 直流フィルタ
60 甲アース
1〜V3 第1乃至第3の直流電圧値
1〜I4 第1乃至第4の直流電流値
a,Cb 容量値
E 推定交流破壊電界
P 基準値
a,Qb 電荷量
a0 初期電荷量
3 移動電荷量
Q 水トリー部残留電荷量
S11〜S23,S31〜S40 ステップ
T 絶縁体厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統を停電させて電力用機器(3,4)の絶縁診断を行うための絶縁診断システムであって、前記電力系統に設置された電力用蓄電設備を診断用直流電源(10)として利用して該診断用直流電源から前記電力用機器に直流課電して該電力用機器の絶縁診断を行う絶縁診断手段を具備することを特徴とする、絶縁診断システム。
【請求項2】
前記絶縁診断手段が、前記診断用直流電源において測定された直流電圧値(V1)および直流電流値(I1)と、前記電力用機器において測定された他の直流電圧値(V2,V3)および他の直流電流値(I2,I3)とに基づいて、該電力用機器の絶縁診断を行う絶縁診断装置(30)を備えることを特徴とする、請求項1記載の絶縁診断システム。
【請求項3】
前記絶縁診断装置が、前記他の直流電圧値(V2)および前記他の直流電流値(I2)に基づいて、該他の直流電圧値が安定したときの電圧−電流特性を求め、該求めた電圧−電流特性に基づいて前記電力用機器の絶縁診断を行うことを特徴とする、請求項2記載の絶縁診断システム。
【請求項4】
前記絶縁診断装置が、前記診断用直流電源を前記電力系統から切り離したときの前記直流電圧値(V1)に基づいて該診断用直流電源の初期電荷量(Qa0)を測定し、該診断用直流電源から前記電力用機器に直流課電したのち前記直流電圧値(V1)が安定したときの該診断用直流電源の電荷量(Qa)および該電力用機器の電荷量(Qb)を求め、該求めた2つの電荷量の総和と前記測定した初期電荷量との差に基づいて、または、該求めた移動電荷量の減衰量に基づいて、前記電力用機器の絶縁診断を行うことを特徴とする、請求項2または3記載の絶縁診断システム。
【請求項5】
電力系統を停電させて電力ケーブル(4)の絶縁診断を行うための絶縁診断システムであって、前記電力系統に設置された電力用蓄電設備を診断用直流電源(10)として利用して該診断用直流電源から前記電力ケーブルに直流課電し、該電力ケーブルを接地したのちに、該電力系統の実系統交流電源(1)を診断用交流電源として利用して該診断用交流電源から該電力ケーブルに交流課電して、該電力ケーブルの絶縁診断を行う絶縁診断手段を具備することを特徴とする、絶縁診断システム。
【請求項6】
前記絶縁診断手段が、
前記交流課電の間に前記診断用交流電源から出力される交流電流の直流成分を抽出するための直流フィルタ(41)と、
該直流フィルタによって抽出された前記直流成分の電流値(I4)を測定するための直流電流計(224)と、
該直流電流計によって測定された前記直流成分の電流値に基づいて前記電力ケーブルの絶縁診断を行う絶縁診断装置(50)と、
を備えることを特徴とする、請求項5記載の絶縁診断システム。
【請求項7】
前記絶縁診断装置が、前記診断用直流電源から前記電力ケーブルに直流課電し、該電力ケーブルを該診断用直流電源から切り離し、該電力ケーブルを接地したのちに、前記診断用交流電源から該電力ケーブルに交流課電し、該交流課電の間に前記直流電流計によって測定された前記直流成分の電流値に基づいて該電力ケーブルの水トリー部残留電荷量(Q)を測定し、該測定された水トリー部残留電荷量に基づいて最低ライン回帰式を用いて推定交流破壊電界(E)を算出し、該算出した推定交流破壊電界に基づいて該電力ケーブルの余寿命を評価して絶縁診断を行うことを特徴とする、請求項6記載の絶縁診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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