説明

絶縁電線の製造ラインおよび絶縁電線の製造方法

【課題】導体の外周に絶縁体を押出被覆する際の導体の撚り乱れや素線浮きを防止することが可能な絶縁電線の製造ラインを提供すること。
【解決手段】導体1を供給する導体供給装置12と、導体供給装置12内の導体1に張力を負荷して導体1の弛みや食い込みを防止するダンサー14と、供給された導体1の外周に絶縁体を押出被覆する押出成形装置18と、得られた絶縁電線2を引取する引取キャプスタン20と、引取した絶縁電線2を巻取する巻取装置22とを備え、さらに、ダンサー14と押出成形装置18との間に、押出成形装置18を通過する導体1に対して張力を負荷する第2張力負荷装置16を設けた製造ライン10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の製造ラインおよび絶縁電線の製造方法に関し、さらに詳しくは、自動車などの車両への配線に好適に用いられる絶縁電線の製造ラインおよび絶縁電線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の車両などに配線される絶縁電線は、複数本の素線を撚り合わせてなる導体の外周に絶縁体を被覆したものから構成されている。このような絶縁電線は、一般に、図4に示す構成のような製造ライン30により製造することができる(例えば特許文献1)。
【0003】
図4に示す製造ライン30は、導体1を供給する導体供給装置32と、導体供給装置32内の導体1に張力を負荷するダンサー34と、導体1の外周に絶縁体を押出被覆する押出成形装置36と、絶縁電線2の引取りをする引取キャプスタン38と、絶縁電線2を巻取りする巻取装置40とを備えている。押出成形装置36は、導体1が通過するクロスヘッド36aと、クロスヘッド36a内に絶縁体を押出供給する押出機36bとを有する。
【0004】
上記製造ライン30においては、導体供給装置32から導体1が送り出され、送り出された導体1は押出成形装置36まで運ばれ、押出成形装置36で導体1の外周に絶縁体が被覆されて絶縁電線2が形成され、形成された絶縁電線2は巻取装置40により巻き取られる。この際、導体供給装置32と押出成形装置36との間に設置されたダンサー34の重り34cの位置を調整し、ダンサー34を上下方向に移動させることにより、導体供給装置32から送り出される導体1に張力を負荷して、導体供給装置32から導体1を送り出しやすくしている。そして、押出成形装置36と巻取装置40との間に設置された引取キャプスタン38の引取速度を調整することにより、絶縁電線2の線速を調整している。
【0005】
【特許文献1】特開平05−294561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、導体供給装置32から送り出され、製造ライン30上を搬送される導体1にかかる張力が低いと、導体1を構成する撚線が膨らみやすいため、撚線の撚り乱れや、導体1から素線が浮いてしまう素線浮きが生じやすくなる。この状態で、クロスヘッド36a内において、通過する導体1に対して絶縁体が供給されると、絶縁材料の供給圧力によって、導体1を構成する素線間に絶縁材料が入り込み、撚り乱れや素線浮きが生じることがあった。
【0007】
クロスヘッド36a内では、クロスヘッド36aを通過する導体1とクロスヘッド36aとの間のクリアランスが大きすぎると、被覆する絶縁体の厚みが不均一になり、絶縁体中の導体1が偏芯しやすくなる。そのため、両者間のクリアランスは狭くなっている。その結果、撚り乱れや素線浮きした導体1がクロスヘッド36a内で詰まって、押出被覆することができなくなるという問題があった。
【0008】
この問題を解消するために、例えば張力を負荷する機能を有する上記ダンサー34によって、導体供給装置32から送り出される導体1に、絶縁材料の供給圧力によって導体1の撚り乱れや素線浮きが生じるのを防止する程の高い張力を負荷することが考えられる。しかしながら、そうすると今度は導体供給装置32内の導体1に張力が負荷されすぎるため、導体供給装置32内において導体1の食い込みが生じ、導体供給装置32から導体1を送り出すことができなくなる。したがって、従来の張力負荷方式では、撚り乱れや素線浮きの問題を解消することは困難である。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、導体の外周に絶縁体を押出被覆する際の撚り乱れや素線浮きを防止することが可能な絶縁電線の製造ラインを提供することにある。また、他の課題としては、撚り乱れや素線浮きの問題が生じない絶縁電線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明に係る絶縁電線の製造ラインは、導体を供給する導体供給装置と、前記導体供給装置に隣設され前記導体供給装置内の導体に張力を負荷する第1張力負荷装置と、前記供給された導体の外周に絶縁体を押出被覆する押出成形装置と、得られた絶縁電線を巻取する巻取装置とを少なくとも備えた絶縁電線の製造ラインにおいて、前記第1張力負荷装置と前記押出成形装置との間に、前記押出成形装置を通過する導体に対して張力を負荷する第2張力負荷装置を設けたことを要旨とするものである。
【0011】
この際、前記第2張力負荷装置は、電磁パウダーブレーキなどを使用した固定型の張力負荷装置であることが望ましい。
【0012】
一方、本発明に係る絶縁電線の製造方法は、供給された導体の外周に絶縁体を押出被覆する絶縁電線の製造方法であって、前記押出被覆する手前で前記導体に張力を負荷し、張力を負荷した状態で導体の外周に絶縁体を押出被覆することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る絶縁電線の製造ラインによれば、導体供給装置から送り出された導体の外周に絶縁体を押出被覆する際に、第2張力負荷装置により押出成形装置の手前で押出成形装置を通過する導体に最適な張力を負荷することができる。これにより、押出成形装置を通過する導体の撚りを膨らみ難くするため、絶縁材料の供給圧力により導体を構成する素線間に絶縁材料が入り込み、撚り乱れや素線浮きが生じるのを防止することが可能となる。そしてこの結果、クロスヘッド内で導体が詰まって押出被覆することができなくなるという問題を解消することができる。
【0014】
また、この第2張力負荷装置は、製造ライン上の第1張力負荷装置と押出成形装置との間に設けられ、導体供給装置に隣接する位置に設けられるものではないため、導体供給装置内の導体に高い張力が負荷されにくく、押出成形装置を通過する導体に対して効果的に最適な張力を負荷することができる。したがって、本発明に係る絶縁電線の製造ラインにおいては、第2張力負荷装置により導体供給装置内の導体に張力が負荷されすぎて、導体供給装置内において導体の食い込みが生じ、導体供給装置から導体を送り出すことができなくなるという問題も生じない。
【0015】
さらに、導体には撚り乱れや素線浮きが生じないため、導体の厚みは一定に維持される。そうすると、導体を被覆する絶縁体の厚みを薄くしても絶縁体により導体は確実に均一に被覆される。したがって、押出する絶縁体の厚みを薄くすることができる。
【0016】
そして、前記第2張力負荷装置が、例えば電磁パウダーブレーキなどを使用した固定型の張力負荷装置であれば、確実に上記効果を奏する。
【0017】
一方、本発明に係る絶縁電線の製造方法によれば、押出被覆する手前で導体に張力を負荷し、導体に張力を負荷した状態で導体の外周に絶縁体を押出被覆するため、押出被覆の際に絶縁材料の供給圧力により導体を構成する素線間に絶縁材料が入り込み、撚り乱れや素線浮きが生じるのが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る絶縁電線の製造ライン10(以下、本製造ライン10ということがある。)は、導体1を供給する導体供給装置12と、導体供給装置12内の導体1に張力を負荷する第1張力負荷装置としてのダンサー14と、供給された導体1に張力を負荷する第2張力負荷装置16と、導体1の外周に絶縁体を押出被覆する押出成形装置18と、絶縁電線2の引取りをする引取キャプスタン20と、絶縁電線2を巻取りする巻取装置22とを備えている。
【0019】
導体1を供給する導体供給装置12は、図示しないモータと、このモータによるモータ駆動により回転可能なドラム12aとを備えている。このドラム12aには、供給される導体1が巻回される。ドラム12aに巻回される導体1は、モータによるモータ駆動でドラム12aが回転することにより送り出される。この導体供給装置12内の導体1には、ダンサー14により張力が負荷される。
【0020】
ダンサー14は、軸支され回転可能な定ロール14aと、定ロール14aの下方に配置され上下方向に移動可能な動ロール14bと、動ロール14bの上下方向への移動を調整する重り14cとを備えている。ダンサー14は、導体供給装置12に隣接配置されており、導体供給装置12より供給される導体1は、ダンサー14の定ロール14aと動ロール14bとの間で1回以上巻回される。ダンサー14は、重り14cが支持棒14dをスライド移動することにより、重り14cによる動ロール14bにかかる荷重の大きさが調整される。
【0021】
例えば、重り14cのスライド移動により動ロール14bにかかる荷重が大きくなるにつれて、動ロール14bは下方向に移動する。一方、重り14cのスライド移動により動ロール14bにかかる荷重が小さくなるにつれて、動ロール14bは上方向に移動する。このようにして、重り14cの位置を調整することにより、動ロール14bの上下方向への移動を調整することができる。
【0022】
動ロール14bが下方向へ移動すると、定ロール14aと動ロール14bとの間の距離が開くため、定ロール14aと動ロール14bとの間に巻回される導体1に負荷される張力は大きくなる。これにより、導体供給装置12内の導体1に負荷される張力は大きくなる。一方、動ロール14bが上方向へ移動すると、定ロール14aと動ロール14bとの間の距離が狭まるため、定ロール14aと動ロール14bとの間に巻回される導体1に負荷される張力は小さくなる。これにより、導体供給装置12内の導体1に負荷される張力は小さくなる。以上のようにして、ダンサー14により導体供給装置12内の導体1に負荷する張力を調整する。これにより、導体供給装置12内で導体1が弛んだり、食い込み過ぎたりするのを防止して、導体供給装置12から導体1が供給されやすいようにする。供給された導体1は、続いて押出成形装置18により押出被覆される。
【0023】
押出成形装置18は、導体供給装置12より供給された導体1が通過するクロスヘッド18aと、クロスヘッド18a内に絶縁材料を供給する押出機18bとを備えている。図2に示すように、クロスヘッド18a内にはダイス18cとニップル18dとが配置されており、ニップル18d内およびダイス18c内を導体1が通過する。ニップル18dとダイス18cとの間にはキャビティ18eが設けられており、キャビティ18eは通路18fを介して押出機18bの絶縁材料を供給する供給出口18gと連通されている。これにより、押出機18bからクロスヘッド18a内のキャビティ18eに絶縁材料が供給可能になっている。
【0024】
押出機18bには、絶縁電線2の絶縁体を構成する絶縁材料が供給される。供給された絶縁材料は、押出機18bの内部で押出可能な温度(例えば絶縁材料が流動する温度)まで加熱混合された後、供給出口18gからクロスヘッド18a内のキャビティ18eに供給される。クロスヘッド18aのニップル18dを通過する導体1はニップル18d内の細孔18hにより位置決めされ、ほぼ一定位置に配置される。これにより、押出機18bから供給される絶縁材料を導体1の外周に均等に被覆することができる。キャビティ18eで絶縁材料を被覆された導体1は、被覆された状態でダイス孔18iを通過して外に押出される。
【0025】
この際、絶縁材料の供給圧力により絶縁材料を被覆された導体1を外に押出するため、クロスヘッド18a内には高い供給圧力がかかる。したがって、図3に示すように、クロスヘッド18a内のキャビティ18eを通過する導体1には、絶縁材料の高い供給圧力が負荷され、導体1の撚りの中に、供給された絶縁材料が入り込みやすくなる。万一、導体1の撚りの中に絶縁材料が入り込むと、導体1の撚りが膨らむ。導体1の撚りが膨らむと、クロスヘッド18a内のキャビティ18eで導体1がつまるおそれがある。そのため、クロスヘッド18a内を通過する導体1には、導体1の撚りが膨らむのを抑えるための手当が必要となる。
【0026】
このような手当としては、例えば、クロスヘッド18a内を通過する導体1に張力を負荷することが挙げられる。クロスヘッド18a内にかかる絶縁材料の供給圧力は高いため、この供給圧力に対抗するためには、導体1に最適な張力を負荷する必要がある。そこで、本製造ライン10においては、絶縁材料の供給圧力により導体1が膨らまないように、導体1に張力を負荷する第2張力負荷装置16を備える。
【0027】
第2張力負荷装置16は、軸支され回転可能な一対の定ロール16a,16bと、これら一対の定ロール16a,16bの下側で、定ロール16a,16b間に取付固定されている電磁パウダーブレーキ16dと、その出力シャフト16eに連結されたプーリー16cとを備えている。供給された導体1は、製造ライン10の上流側の定ロール16aを通過した後、プーリー16cを通過し、その後、製造ライン10の下流側の定ロール16bを通過する。プーリー16cは、電磁パウダーブレーキ16dの励磁コイルに通電する電流量を可変することによって出力シャフト16eの回転に摩擦力を付与する大きさを調整することができる。この摩擦力は、プーリー16cを通過する導体1に対するブレーキとなるため、これにより導体1に最適な張力を負荷することができる。
【0028】
第2張力負荷装置16は、ダンサー14と押出成形装置18との間に設置される。このように、第2張力負荷装置16は押出成形装置18のすぐ手前に設置されるため、押出成形装置18を通過する導体1に対して押出成形装置18を通過する前に張力を負荷することができる。また、導体供給装置12に隣接しないため、導体供給装置12内の導体1に高い張力が負荷されるのを防止することができる。
【0029】
電磁パウダーブレーキ16dにより導体1に負荷する張力の大きさを調整する方法としては、電磁パウダーブレーキ16dの励磁コイルに通電する電流を制御するなどの方法が挙げられる。負荷する張力は、押出被覆時に導体1の撚乱れや素線の浮きが発生してクロスヘッド18a内で導体1がつまらない程度の張力であれば良い。また、張力を負荷しすぎると導体1の供給が困難になるため、導体1の供給が円滑に行なわれるとともに、押出被覆時に導体1の撚乱れや素線の浮きが発生しないような範囲に適宜調整すれば良い。
【0030】
絶縁体が被覆された導体1は、続いて引取キャプスタン20により引取られる。引取キャプスタン20は、軸支され回転可能な一対の定ロール20a,20bを備えている。一対の定ロール20a,20b間には、押出被覆により得られた絶縁電線2が1回以上巻回される。一対の定ロール20a,20bの一方または両方は、図示しないモータによるモータ駆動などによって自ら回転するようになっており、定ロールが自ら回転することにより絶縁電線2を巻き込みながら引取るようになっている。なお、上記導体供給装置12のモータ駆動は、導体1の送り出しを円滑にするものであり、引取キャプスタン20が絶縁電線2を引取る速度を調整することにより絶縁電線2を製造する線速を定めることが可能である。
【0031】
引取キャプスタン20により引取られた絶縁電線2は、続いて巻取装置22により巻き取られる。巻取装置22は、導体供給装置12と同様に、図示しないモータと、このモータによるモータ駆動により回転可能なドラム22aとを備えている。モータによるモータ駆動でドラム22aが回転することにより、引取キャプスタン20で引取った絶縁電線2がドラム22aに巻き取られる。
【0032】
本製造ライン10においては、上記構成の他に、例えば、押出被覆された直後の熱を帯びている絶縁電線2を冷却するための冷却用水槽を押出成形装置18の直後に配置する構成や、押出成形装置18を通過する導体1を予め予備的に加熱するための予備加熱機を押出成形装置18の前で第2張力負荷装置16の前あるいは後に配置する構成などを備えていても良い。冷却用水槽による冷却温度や、予備加熱機による加熱温度は、適宜定めると良い。例えば予備加熱機を設置すると、押出被覆する際に、導体1の外周に押出被覆される絶縁材料と導体1との間の温度差が小さくなり、導体1に絶縁材料が密着性良く被覆されやすくなる。
【0033】
本製造ライン10において用いられる導体1としては、特に限定されるものではないが、撚線導体に対してその効果を発揮する。すなわち、撚線導体を用いる場合に、絶縁材料の供給圧力等による撚り乱れや素線の浮きを防止することができる。特に、同心撚線の場合において、撚り乱れや素線の浮きが顕著に発生しやすいため、このような問題を効果的に防止することができる。
【0034】
この際、撚線の素線の本数や素線径などは特に限定されるものではない。素線を構成する金属は特に限定されず、銅、アルミニウム、銅合金、アルミニウム合金などの通常用いられる金属であれば良い。
【0035】
また、本製造ライン10において用いられる絶縁材料としては、特に限定されるものではない。絶縁電線の被覆材として用いられる材料であれば良い。例えば、塩化ビニル樹脂(PVC)や、オレフィン系樹脂などのいわゆるノンハロゲン系樹脂などを例示することができる。また、絶縁体の被覆厚は、特に限定されるものではない。
【0036】
以上の構成よりなる本製造ライン10によれば、導体1が巻回された導体供給装置12から導体1が送り出されて押出成形装置18に供給される。この際、導体供給装置12内で導体1が弛まないように、また食い込まないようにダンサー14で導体1の張力が調整される。そして、導体1が押出成形装置18に供給される手前では、導体1を構成する素線の撚り乱れや素線の浮きが生じないように第2張力負荷装置16により張力が負荷される。このように導体1に張力が負荷された状態で、導体1は押出成形装置18のクロスヘッド18a内を通過する。導体1は、クロスヘッド18a内のキャビティで押出機18bから供給された絶縁材料と合わさり、導体1の外周に絶縁材料が被覆される。これにより得られた絶縁電線2は、クロスヘッド18aのダイス18cから排出され、引取キャプスタン20により引取りされ、巻取装置22により巻き取られる。これにより、絶縁電線2が製造される。
【0037】
本製造ライン10は、以上のような構成を備えているため、導体供給装置12から送り出された導体1の外周に絶縁体を押出被覆する際に、第2張力負荷装置16により押出成形装置18の手前で、押出成形装置18を通過する導体1に最適な張力を負荷することができる。これにより、押出成形装置18を通過する導体1の撚りを膨らみ難くするため、絶縁材料の供給圧力により導体1を構成する素線間に絶縁材料が入り込み、撚り乱れや素線浮きが生じるのを防止することが可能となる。そしてこの結果、クロスヘッド18a内で導体1が詰まって押出被覆することができなくなるという問題を解消することができる。
【0038】
また、この第2張力負荷装置16は、ダンサー14と押出成形装置18との間に設けられ、導体供給装置12に隣接する位置に設けられるものではないため、導体供給装置12内の導体1に高い張力を負荷することなく、効果的に押出成形装置18を通過する導体1に対して最適な張力を負荷することができる。したがって、本製造ライン10においては、第2張力負荷装置16により導体供給装置12内の導体1に張力が負荷されすぎて、導体供給装置12内において導体1の食い込みが生じ、導体供給装置12から導体1を送り出すことができなくなるという問題も生じない。
【0039】
さらに、導体1には撚り乱れや素線浮きが生じないため、導体1の厚みは一定に維持される。そうすると、導体1を被覆する絶縁体の厚みを薄くしても絶縁体により導体1は確実に均一に被覆される。したがって、押出する絶縁体の厚みを薄くすることができる。
【0040】
このような特徴を有する本製造ライン10は、例えば自動車用電線などの絶縁電線の製造に好適に用いることができる。
【0041】
次に、本発明に係る絶縁電線の製造方法について説明する。本発明に係る絶縁電線の製造方法(以下、本製造方法ということがある。)は、供給された導体に張力を負荷した状態で導体の外周に絶縁体を押出被覆するものである。
【0042】
本製造方法においては、まず、製造ラインに導体を供給する。導体は、上記導体供給装置12などにより供給することができる。この際、導体供給装置12内で導体が弛んだり食い込んだりしないように、例えば上記ダンサー14などの張力負荷装置を用いて、導体供給装置12内の導体にかかる張力を調整することができる。この場合の張力負荷装置は、導体供給装置12内の導体の張力を調整するものであるため、導体供給装置12に隣設されていることが好ましい。
【0043】
次いで、供給された導体の外周に絶縁体を押出被覆する。押出被覆は、例えば上記押出成形装置18を用いて行なうことができる。供給された導体は、上記押出成形装置18のクロスヘッド18a内を通過し、クロスヘッド18a内のキャビティ18eで、押出機18bから供給された絶縁材料と合わせられる。
【0044】
ここで、本製造方法においては、導体に張力を負荷した状態で導体の外周に絶縁体を押出被覆する。導体に張力を負荷した状態で絶縁体を押出被覆するには、絶縁体を押出被覆する手前で導体に張力を負荷すると良い。すなわち、導体が押出成形装置18のクロスヘッド18a内に供給される手前で導体に張力を負荷すると良い。例えば、上記押出成形装置18の手前に、電磁パウダーブレーキ16dを使用した上記第2張力負荷装置16などの第2の張力負荷装置を設置するなどすれば、導体に張力を負荷した状態で導体の外周に絶縁体を押出被覆することが可能となる。導体への張力の負荷方法としては、上記第2張力負荷装置16において電磁パウダーブレーキ16dの励磁コイルに通電する電流量をコントロールすることにより導体にブレーキをかける方法などが好ましい。これによれば、確実に、絶縁材料の高い供給圧力に対抗できるだけの最適な張力を導体に負荷することができるからである。また、電磁パウダーブレーキ16dに代えて、スリップリング機構の負荷調整手段を用いても同様の効果を得られる。
【0045】
次いで、押出被覆により得られた絶縁電線を巻き取る。この際、上記巻取装置22などを用いると良い。上記巻取装置22により絶縁電線を引取りながら巻き取っても良いが、絶縁電線を押出成形装置18から引取するための引取キャプスタン20を用いることもできる。
【0046】
そして、本製造方法によれば、導体の外周に絶縁体を押出被覆する手前で導体に張力を負荷し、張力を負荷した状態で絶縁体を押出被覆するため、押出被覆する際の絶縁材料の供給圧力により、導体の撚りの中に絶縁材料が入り込みにくくなり、撚り乱れや素線浮きが発生しにくい。これにより、高品質の絶縁電線を製造することができる。
【0047】
また、撚り乱れや素線浮きを抑えるため、導体径のばらつきを少なくすることができる。そのため、クロスヘッドを通過する導体とクロスヘッドとの間のクリアランスを非常に小さくしても、全長にわたって絶縁体の被覆が確保される。すなわち、絶縁体の薄肉化も可能となる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る絶縁電線の製造ラインを表す模式図である。
【図2】押出成形装置のクロスヘッド内を拡大して示す模式図である。
【図3】押出成形装置のクロスヘッド内を拡大して示す模式図である。
【図4】従来の絶縁電線の製造ラインを表す模式図である。
【符号の説明】
【0050】
1 導体
2 絶縁電線
10 絶縁電線の製造ライン
12 導体供給装置
14 ダンサー
16 第2張力負荷装置
18 押出成形装置
18a クロスヘッド
18b 押出機
20 引取キャプスタン
22 巻取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を供給する導体供給装置と、前記導体供給装置に隣設され前記導体供給装置内の導体に張力を負荷する第1張力負荷装置と、前記供給された導体の外周に絶縁体を押出被覆する押出成形装置と、得られた絶縁電線を巻取する巻取装置とを少なくとも備えた絶縁電線の製造ラインにおいて、
前記第1張力負荷装置と前記押出成形装置との間に、前記押出成形装置を通過する導体に対して張力を負荷する第2張力負荷装置を設けたことを特徴とする絶縁電線の製造ライン。
【請求項2】
前記第2張力負荷装置は、固定型の張力負荷装置であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線の製造ライン。
【請求項3】
供給された導体の外周に絶縁体を押出被覆する絶縁電線の製造方法であって、
前記押出被覆する手前で前記導体に張力を負荷し、張力を負荷した状態で導体の外周に絶縁体を押出被覆することを特徴とする絶縁電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−61811(P2010−61811A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222994(P2008−222994)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】