説明

絶縁電線

【課題】耐熱性、難燃性、耐加水分解性、伸び特性を兼ね備えた樹脂組成物を電線の絶縁材として用い、高性能な絶縁電線を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂100重量部に対して、非臭素系難燃剤1〜30重量部、ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体1〜50重量部、無機多孔質充填剤0.5〜10重量部、および耐加水分解性改良剤0.05〜10重量部を配合してなる樹脂組成物を、導体に絶縁材として被覆してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂に種々の材料を配合(添加、あるいは含有)してなる樹脂組成物を、導体に絶縁材として被覆し、難燃性、耐熱性、耐加水分解性、良好な伸び特性を与えた絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気絶縁材料としては、通常ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)からなる絶縁材料を使用してきた。このPVC製の絶縁材料は高い実用特性を有し、かつ安価であるという面で優れているが、廃棄後焼却すると塩素を含んだハロゲンガスを発生するなどの廃棄物処理に伴う環境汚染の問題が生じることから、近年PVC以外の材料が要望されるようになってきた。また、自動車や電車などの輸送分野において、省エネに対する車体の軽量化および配線の省スペース化に伴い、電線の軽量・薄肉化が求められている。
【0003】
このような電線の軽量・薄肉化に対して、従来のPVC材料を用いた場合は、難燃性や耐摩耗特性の要求特性が達成できないなどの問題があった。
【0004】
一方、汎用エンジニアリングプラスチックポリマーであるポリエステル樹脂、中でもポリブチレンテレフタレート(PBT)は、結晶性のポリマーであり、耐熱性、機械的強度、電気特性、耐薬品性、成形性に優れ、また吸水性が小さく寸法安定性に優れており、難燃化が比較的容易であるなどの特徴を生かし、自動車、電気、電子、絶縁材、OA分野など幅広い分野で使用されている(例えば、特許文献1〜4参照)。これらの汎用エンジニアリングプラスチックは、上記特徴を有していることから、難燃性や耐摩耗特性を維持しながら、電線の軽量・薄肉化が達成できる見通しがある。
【0005】
【特許文献1】特許第2968584号公報
【特許文献2】特許第3590057号公報
【特許文献3】特開2002−343141号公報
【特許文献4】特許第3650474号公報
【特許文献5】特開2006−111655号公報
【特許文献6】特開2006−11873号公報
【特許文献7】特開2005−213441号公報
【特許文献8】特開2004−193117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリエステル樹脂は結晶性ポリマーであり、製造工程や特定の環境下では結晶化度に変化が生じてしまうという問題があった。特に、押出成形時などの熱処理により結晶化が進行してしまい、電線の絶縁材として重要な特性である引張伸び特性の低下が懸念される。
【0007】
例えば、特許文献5,6では、機械的強度、高速性形成および生産性を向上させるために、熱処理や結晶化促進剤添加により結晶化度を向上させることが提案されている。しかし、結晶化を促進させると伸び特性の低下が考えられる。
【0008】
また特許文献7では、ポリエステル樹脂の原料として屈曲性モノマーを導入することで、結晶化の進行を抑制することができるとされているが、伸び特性に関しては何ら記載されていない。
【0009】
さらに特許文献8では、ポリエステル樹脂にポリエステル系樹脂と反応性を有する官能基を含む樹脂を添加することで、クレージングの発生を抑制し、絶縁破壊電圧の低下の抑制と高温絶縁特性に優れることを見出しているが、熱処理による電線絶縁材の伸び特性については何ら言及されていない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、耐熱性、難燃性、耐加水分解性、良好な伸び特性を兼ね備えた樹脂組成物を電線の絶縁材として用い、高性能な絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、ポリエステル樹脂100重量部に対して、非臭素系難燃剤1〜30重量部、ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体1〜50重量部、無機多孔質充填剤0.1〜50重量部、および耐加水分解性改良剤0.05〜10重量部を配合してなる樹脂組成物を、導体に絶縁材として被覆してなる絶縁電線である。
【0012】
請求項2の発明は、上記ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂である請求項1記載の絶縁電線である。
【0013】
請求項3の発明は、上記非臭素系難燃剤がリン系化合物及び/又はトリアジン環を有する窒素化合物である請求項1または2記載の絶縁電線である。
【0014】
請求項4の発明は、上記リン系化合物が化学式(1)に示すリン酸エステル化合物である請求項3記載の絶縁電線である。
【0015】
【化1】

【0016】
【化2】

【0017】
請求項5の発明は、上記トリアジン環を有する窒素化合物が、シアヌル酸とメラミン類との等モル反応物である請求項3記載の絶縁電線である。
【0018】
請求項6の発明は、上記耐加水分解性改良剤がカルボジイミド化合物である請求項1〜5いずれかに記載の絶縁電線である。
【0019】
請求項7の発明は、上記絶縁材の厚さが0.1〜0.5mmである請求項1〜6いずれかに記載の絶縁電線である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐熱性、難燃性、耐加水分解性、伸び特性の点で非常に優れており、自動車や電車などの車両用電線に好適に使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。まず、本実施形態に係る樹脂組成物を説明する。
【0022】
本実施形態に係る樹脂組成物は、主剤(A)に各種配合剤を配合してなるものであり、(A)主剤としてのポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)難燃剤としての(b)非臭素系難燃剤1〜30重量部、(C)樹脂添加剤としての(c)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体1〜50重量部、(d)焼成クレーなどの(D)無機多孔質充填剤0.1〜50重量部、および(E)耐加水分解性改良剤0.05〜10重量部を配合してなる。
【0023】
ポリエステル樹脂としては、ぜい化を起こしにくく、押出成形が可能であればよく、例えば、PBT樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂などがある。本実施形態では、ポリエステル樹脂として、上述したように耐熱性、機械的強度、絶縁抵抗などの電気特性、耐薬品性、成形性に優れ、また吸水性が小さく寸法安定性に優れており、難燃化も比較的容易であるPBT樹脂を用いた。
(a)PBT樹脂
本実施形態で使用するPBT樹脂とは、ブチレンテレフタレート繰り返し単位を主成分とするポリエステルであって、多価アルコール成分として1,4−ブタンジオール、多価カルボン酸成分としてテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を用いて得られるブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルである。
【0024】
主たる繰り返し単位とは、ブチレンテレフタレート単位が、全多価カルボン酸−多価アルコール単位中の70モル%以上であることを意味する。さらにブチレンテレフタレート単位は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0025】
PBT樹脂に用いられるテレフタル酸以外の多価カルボン酸成分の一例としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメシン酸、トリメット酸などの芳香族多価カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、あるいは上記多価カルボン酸のエステル形成性誘導体(例えば、テレフタル酸ジメチルなどの多価カルボン酸の低級アルキルエステル類)などが挙げられる。これらの多価カルボン酸成分は単独でもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0026】
一方、1,4−ブタンジオール以外の多価アルコール成分の一例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの脂肪族多価アルコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族多価アルコール、ビスフェノールA、ビスフェノールZなどの芳香族多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコールなどのポリアルキレングリコールなどが挙げられる。これら多価アルコール成分は単独で用いてもよいし、複数で用いてもよい。
【0027】
さらに、本実施形態で使用するPBT樹脂は、耐加水分解性の観点から末端カルボキシル基当量が50(eq/T)以下であり、好ましくは40(eq/T)以下、より好ましくは30(eq/T)以下である。末端カルボキシル基当量が50(eq/T)を超えると、耐加水分解性が悪くなる。
【0028】
本実施形態におけるPBT樹脂は、上述した要件を満たせば、単独であってもよいし、あるいは末端カルボキシル基濃度、融点、触媒量などの異なる複数の混合物であってもよい。
(b)非臭素系難燃剤
本実施形態において使用する非臭素系難燃剤としては、既知の難燃剤を使用でき、例えばリン化合物(リン酸エステル、ホスホニトリル化合物、ポリリン酸塩、赤リンなど)、トリアジン環を有する窒素化合物、含水無機化合物などの非臭素系難燃剤を挙げることができるが、環境保全の観点からリン酸エステル化合物またはトリアジン環を有する窒素化合物を使用するとよい。
【0029】
リン酸エステル化合物の具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェートなどが挙げられるが、中でも上述した化学式(1)に示すリン酸エステル化合物が好ましい。
【0030】
化学式(1)中、R1〜R8は水素原子または炭素数6以下のアルキル基を表すが、耐加水分解性を向上させるためには炭素数6以下のアルキル基が好ましく、中でもメチル基が好ましい。nは0〜10の整数を表すが、好ましくは1〜3、特に好ましくは1である。
【0031】
また、R9は2価以上の有機基を表す。この場合2価以上の有機基とは、有機基からアルキル基、シクロアルキル基、アリール基などから炭素に結合している水素原子の1個以上を除いてできる2価以上の基を意味する。具体的には、上述した化学式(2)に示す構造が好ましく挙げられる。
【0032】
また、リン化合物としては化学式(3)に示す基を有するホスホニトリル化合物(b−2)も好適に用いられる。
【0033】
【化3】

【0034】
化学式(3)中、R10、R11は炭素数1〜20のアリール基、アルキル基、シクロアルキル基を表し、具体例としては、メチル、エチル、ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、ナフチルなどが挙げられる。n、mは整数を表し、一般に1〜3が、特に3または4が好ましい。また、ホスホニトリル化合物は、線状重合体であっても環状重合体であってもかまわないが、中でも環状重合体が好適に用いられる。XはO、S、N−H原子を表すが、中でもO、N−H原子がより好ましく、特にはOが好ましい。
【0035】
また、ポリリン酸塩としては、ポリリン酸とメラミン系化合物、具体的にはポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メレムが挙げられる。他にポリリン酸アンモニウムを好ましく用いることができる。リン化合物の好ましい平均粒径は0.05〜100μm、さらに好ましくは0.1〜80μmである。
【0036】
トリアジン環を有する窒素化合物としては、シアヌル酸類、メラミン類、シアヌル酸メラミン類などが挙げられ、中でもシアヌル酸メラミン類を使用するとよい。シアヌル酸類の具体例としては、シアヌル酸、トリメチルシアヌレート、トリエチルシアヌレート、トリ(n−プロピル)シアヌレート、メチルシアヌレート、ジエチルシアヌレート、イソシアヌル酸、トリメチルイソシアネート、トリエチルイソシアネート、トリ(n−プロピル)イソシアヌレート、ジエチルイソシアヌレート、メチルイソシアヌレートなどが挙げられる。
【0037】
メラミン類としては、メラミン、メラミン誘導体、メラミンと類似の構造を有する化合物およびメラミンの縮合物などが挙げられる。メラミン類の具体例としては、例えば、メラミン、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、アリールグアナミン、メラム、メレム、メロンなどが挙げられる。
【0038】
シアヌル酸メラミン類としては、シアヌル酸とメラミン類との等モル反応物が挙げられる。また、シアヌル酸メラミン類中のアミノ基または水酸基のいくつかが、他の置換基で置換されていてもよい。このうちシアヌル酸メラミンは、例えば、シアヌル酸の水溶液とメラミンの水溶液とを混合し、90〜100℃で撹拌下反応させ、生成した沈殿を濾過することによって得ることができ、白色の固体であり、市販品をそのまま、あるいはこれを微粉末状に粉砕して使用するのが好ましい。
【0039】
トリアジン系難燃剤としては、好ましくは1分子中にトリアジン環を2つ以上有する化合物、具体的にはシアヌル酸メラミン、メラム、メレム、メロンなどが挙げられる。これらは耐熱温度が高いので、成形温度において、分解ガスが発生するなどして被覆加工中にトラブルを起こすことが少なくなり、被覆加工の上で適している。
【0040】
本実施形態で使用する非臭素系難燃剤としては、上記群から少なくとも1種類が選定されればよく、2種類以上の併用系であってもよい。特に、リン酸エステル化合物及び/又はシアヌル酸メラミン類が極めて優れた難燃効果を示す。
【0041】
非臭素系難燃剤の添加量は、成分(A)100重量部(wt%)に対して1.0〜30重量部であり、好ましくは3.0〜25重量部であるとよい。難燃剤の添加量が1.0重量部より少ないと、樹脂組成物の難燃性が不十分になり、30重量部より多いと機械的物性、耐加水分解性、成形性が著しく低下する。リン酸エステル化合物とシアヌル酸メラミン類の組み合わせにおいては、その配合量重量比率がリン酸エステル化合物/シアヌル酸メラミン類=9/1〜1/9、中でも8/2〜2/8、特には6/4〜4/6が好ましい。
(c)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体
本実施形態で用いるポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、非ハロゲン・非リン系難燃剤として利用でき、難燃性・耐衝撃性に優れた樹脂組成物が得られる樹脂添加剤である。
本願のポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、コア−シェル構造を有するグラフト共重合体であって、コアとしてポリオルガノシロキサンを含有するものをいう。
【0042】
このポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、例えば、特開2003−238639号公報に記載された製造方法によって製造可能である。すなわち、ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、(X)ポリオルガノシロキサン粒子40〜90重量部の存在下で、(Y)第1のビニル系単量体0.5〜10重量部を重合し、さらに(Z)第2のビニル系単量体5〜50重量部を重合して得られる。
【0043】
(X)ポリオルガノシロキサン粒子は、トルエン不溶分量((X)ポリオルガノシロキサン粒子0.5gをトルエン80mLに室温で24時間浸漬した場合のトルエン不溶分量)が95重量%以下、さらには50重量%以下、特には20重量%以下であるものが難燃性、耐衝撃性の点から好ましい。
【0044】
(X)ポリオルガノシロキサン粒子の具体例としては、ポリジメチルシロキサン粒子、ポリメチルフェニルシロキサン粒子、ジメチルシロキサン−ジフェニルシロキサン共重合体粒子などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
(Y)第1のビニル系単量体は、(y−1)多官能性単量体、すなわち、分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能性単量体100〜50重量%および(y−2)その他の共重合可能な単量体0〜50重量%からなるビニル系単量体である。(Y)第1のビニル系単量体は、難燃効果および耐衝撃性改良効果を向上させるために使用するものである。
【0046】
(Y)第1のビニル系単量体は、(y−1)多官能性単量体を、好ましくは100〜80重量%、さらに好ましくは100〜90重量%含み、(y−2)その他の共重合可能な単量体を、好ましくは0〜20重量%、さらに好ましくは0〜10重量%含む。(y−1)多官能性単量体を50重量%以上の割合で含めることにより、また、(y−2)その他の共重合可能な単量体を50重量%以下の割合で含めることにより、最終的に得られるポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体の耐衝撃性改良効果がより向上する傾向にあり好ましい。
【0047】
(y−1)多官能性単量体は、分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む化合物であり、その具体例としては、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では、経済性および効果の点で、特にメタクリル酸アリルの使用が好ましい。
【0048】
(y−2)その他の共重合可能な単量体の具体例としては、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、(メタ)アクリル酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有ビニル系単量体などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0049】
(Z)第2のビニル系単量体は、(c)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体を構成する成分であって、その(c)ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体を熱可塑性樹脂に配合して難燃性および耐衝撃性を改良する場合に、グラフト共重合体と熱可塑性樹脂との相溶性を確保して熱可塑性樹脂にグラフト共重合体を均一に分散させるために使用される成分でもある。
【0050】
(Z)第2のビニル系単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、スチレン、アクリロニトリルなどの、上記(Y)第1のビニル系単量体における(y−2)その他の共重合可能な単量体と同じものを使用することができ、2種以上併用してもよい。
【0051】
(Z)第2のビニル系単量体は、その重合体の溶解度パラメーターが9.15〜10.15[(cal/cm1/2]であることが好ましく、9.17〜10.10[(cal/cm1/2]であることがより好ましく、9.20〜10.05[(cal/cm1/2]であることがさらに好ましい。溶解度パラメーターを上記範囲とすることにより、難燃性が向上する。
【0052】
より詳細には、本実施形態で使用するポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、(X)ポリオルガノシロキサン粒子を40〜90重量部、好ましくは60〜80重量部、より好ましくは60〜75重量部の存在下で、(Y)第1のビニル系単量体を0.5〜10重量部、好ましくは1〜5重量部、より好ましくは2〜4重量部を重合し、さらに(Z)第2のビニル系単量体を5〜50重量部、好ましくは15〜39重量部、より好ましくは21〜38重量部を重合して得られる。
【0053】
(X)ポリオルガノシロキサン粒子の割合が少なすぎる場合および多すぎる場合は、いずれも難燃化効果が低くなる。
【0054】
また、(Y)第1のビニル系単量体が少なすぎる場合、難燃化効果および耐衝撃性効果が低くなり、多すぎる場合、耐衝撃性改良効果が低くなる。
【0055】
さらに、(Z)第2のビニル系単量体が少なすぎる場合および多すぎる場合は、いずれも難燃化効果が低くなる。
【0056】
ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、公知のシード乳化重合を使用でき、例えば、(X)ポリオルガノシロキサン粒子のラテックス中で(Y)第1のビニル系単量体のラジカル重合を行い、さらに、(Z)第2のビニル系単量体のラジカル重合を行うことにより得られる。また、(Y)第1のビニル系単量体および(Z)第2のビニル系単量体は、いずれも1段階で重合させてもよく、2段階以上で重合させてもよい。
【0057】
上記方法によって得られたポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体は、ラテックスからポリマーを分離して使用してもよく、ラテックスのまま使用してもよい。ポリマーを分離する方法としては、通常の方法、例えば、ラテックスに塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの金属塩を添加することによりラテックスを凝固、分離、水洗、脱水し、乾燥する方法が挙げられる。また、スプレー乾燥法も使用できる。
【0058】
ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体の配合量は、1〜50重量部であり、好ましくは2〜40重量部であり、より好ましくは3〜30重量部、特に好ましくは5〜20重量部である。ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体が50重量部を超えると剛性が低下し、1重量部未満では耐熱性が低下する。
(d)焼成クレー
本実施形態において使用する焼成クレーは、無機多孔質充填剤であり、その比表面積は5m/g以上であることが好ましい。添加量は成分(A)に対して好ましくは0.1〜50重量部で、より好ましくは0.5〜10重量部である。焼成クレーの含有量が0.1重量部より少ないとイオンを十分にトラップできず、本発明の効果を発揮しにくく、50重量部より多いと焼成クレーの分散性や電線の引張特性が低下する。無機多孔質充填剤は焼成クレーのみならず、ゼオライト、メサライト、アンスラサイト、パーライト発泡体、活性炭であってもよい。
(E)耐加水分解性改良剤
本実施形態において使用する耐加水分解性改良剤は、PBTが水蒸気などにより加水分解を受け、分子量低下を起こすと同時に、機械的強度などが低下するため、これらを抑制するための化合物で、既知のものが使用可能であり、カルボジイミド化合物やエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物がよく知られているが、中でもカルボジイミド化合物が被覆加工性を悪化させず、好ましく使用される。
【0059】
本実施形態においてカルボジイミド化合物とは、1分子中にカルボジイミド基(−N=C=N−)を少なくとも2個有する化合物であって、例えば、分子中にイソシアネート基を少なくとも2個有する多価イソシアネート化合物を、カルボジイミド化触媒の存在下、脱二酸化炭素縮合重合反応(カルボジイミド化反応)を行わせることによって製造できる。カルボジイミド化反応は、公知の方法によって行うことができ、具体的には、イソシアネートを不活性な溶媒に溶解するか、あるいは無溶剤で窒素などの不活性気体の気流下またはバブリング下でフォスフォレンオキシド類に代表される有機リン系化合物などのカルボジイミド化触媒を加え、150〜200℃の温度範囲で加熱および撹拌することにより、脱二酸化炭素を伴う縮合反応(カルボジイミド化反応)を進めることができる。
【0060】
好ましい多価イソシアネート化合物としては、分子中にイソシアネート基を2個有する2官能イソシアネートが特に好適であるが、3個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物をジイソシアネートと併用して用いることもできる。また、多価イソシアネート化合物は、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネートおよび芳香族イソシアネートのいずれであってもよい。
【0061】
多価イソシアネートの具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,12−ジイソシアネートドデカン(DDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、2,4−ビス−(8−イソシアネートオクチル)−1,3−ジオクチルシクロブタン(OCDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,4,6−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート(TIDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、水添トリレンジイソシアネート(HTDI)などが挙げられる。
【0062】
より詳細には、本実施形態で使用するカルボジイミド化合物として、好適に用いるのは、HMDIあるいはMDIから得られるカルボジイミド化合物であり、あるいは市販の「カルボジライト」(商品名:日清紡績(株)製)、「スタバクゾールP」(商品名:ライン・ケミー社製)を用いてもよい。
【0063】
耐加水分解性改良剤の配合量は、成分(A)100重量部に対して、0.05〜10重量部であり、さらに好ましくは0.1〜5重量部である。0.05重量部未満であると、耐加水分解性の改良効果が期待できず、10重量部より多いと流動性の低下を起こし、樹脂組成物の成形加工性が低下する。
(F)その他
PBT樹脂に上記各種配合剤成分を配合して本実施形態に係る樹脂組成物を製造する方法としては、被覆製造の直前までの任意の段階で周知の手段によって行うことができる。最も簡便な方法としては、PBT樹脂とポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体、耐加水分解性改良剤、ならびに非臭素系難燃剤、焼成クレーなどを溶融混合押出にてペレットにする方法を採用するとよい。また、本実施形態に係る樹脂組成物に、さらに顔料、染料、充填剤、核剤、離型剤、酸化防止剤、安定剤、帯電防止剤、滑剤、その他の周知の添加剤を配合し、混練することもできる。
【0064】
本実施形態に係る絶縁電線は、上述した本実施形態に係る樹脂組成物を、導体上に絶縁材(電線被覆材料)として被覆してなる。導体としては、単心の導体線からなるものでもよいし、複数本の導体線を撚り合わせてなるものでもよい。
【0065】
本実施形態に係る絶縁電線の絶縁材の厚さは、省エネに対する近年の自動車や電車などの車体の軽量化および配線の省スペース化に伴い、電線の軽量・薄肉化を図る観点から、0.1〜0.5mmである。
【0066】
本実施形態の作用を説明する。
【0067】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリエステル樹脂としてPBT樹脂を用い、そのPBT樹脂に、非臭素系難燃剤とポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体を適量配合している。
【0068】
この樹脂組成物を軽量・薄肉化を図った絶縁電線の絶縁材として用いると、ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体の優れた難燃性・耐衝撃性により、非臭素系難燃剤のみでは不十分であった難燃性を向上させ、しかも熱処理後の絶縁電線の伸び特性も向上させることができる。
【0069】
つまり、本実施形態に係る絶縁電線は、主にポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体により、PBTの利点を維持しつつ、結晶性ポリマーが有する欠点を補って伸び特性などの特性を良好に改質した樹脂組成物を絶縁材としているため、耐熱性、難燃性、伸び特性に優れた電線である。
【0070】
本実施形態に係る樹脂組成物には、カルボジイミド化合物などの耐加水分解性改良剤が適量配合されているため、本実施形態に係る絶縁電線の耐加水分解性も良好である。
【0071】
したがって、本実施形態に係る絶縁電線は、耐熱性、難燃性、耐加水分解性、伸び特性の点で非常に優れており、自動車や電車などの軽量・薄肉化車両用電線に使用すると最適である。
【0072】
また、本実施形態に係る樹脂組成物に配合する非臭素系難燃剤として用いるトリアジン環を有する窒素化合物が、シアヌル酸とメラミン類との等モル反応物である場合には、成分の過不足なく、均一な非臭素系難燃剤を簡単に構成できる。このため、樹脂組成物中に非臭素系難燃剤を均一に配合できる。
【0073】
また、本実施形態に係る絶縁電線では、難燃性をさらに向上させるため、被覆後の本実施形態に係る樹脂組成物を用いた絶縁材表面に、さらに上述した非臭素系難燃剤を塗布、含浸してもよい。
【0074】
本実施形態に係る樹脂組成物においては、さらにPBT樹脂以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を損なわない範囲において配合することもできる。その一例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、PE(ポリエチレン)樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。
【0075】
上記実施形態では、本実施形態に係る樹脂組成物を絶縁電線に使用した例で説明したが、上述した絶縁電線を用いてケーブルを作製してもよい。また、ケーブルの場合には、最外層のシースに本実施形態に係る樹脂組成物を使用してもよい。
【実施例】
【0076】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造]
表1に示す比率にて各成分をブレンドし、これを30mmのベントタイプ二軸押出機(日本製鋼所社製、二軸押出機TEX30HCT)を使用して、シリンダ温度設定260℃、スクリュ回転数250rpm、吐出量15kg/hrs.において溶融混練してストランドに押し出した後、ストランドカッターによりペレット化し、実施例1,2、比較例1〜4のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物ペレットを得た。得られた各ペレットを熱風式乾燥機120℃にて6時間乾燥した。
【0077】
【表1】

【0078】
[電線製造]
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を120℃、10時間熱風恒温槽で乾燥し、直径1.3mmのSnめっき軟銅線の周囲に0.3mmの被覆厚で押出成形した。押出成形には直径がそれぞれ4.2mm、2.0mmのダイス、ニップルを使用し、押出温度はシリンダ部を230〜260℃、ヘッド部を260℃とした。引取速度は5m/分とし、実施例1,2、比較例1〜4の各絶縁電線を作製した。
【0079】
実施例1,2、比較例1〜4の各絶縁電線に対し、以下の各試験、絶縁抵抗測定を行って評価した。
[熱老化試験]
作製した絶縁電線の芯線を抜いた試料を、150℃の恒温槽で100時間加熱し、室温で12時間程度放置し、引張試験を実施した。熱処理は、JIS C3005 WL1に従うものとする。
[耐加水分解性試験]
作製した絶縁電線の芯線を抜いた試料を、85℃/85%RHの恒温恒湿槽で30日間放置した。その後引張試験を実施し、引張伸度(引張伸び)が200%以上のものを○(合格)とし、実用レベルであるが引張伸度が100%以上200%未満のものを△、引張伸度が100%未満を×(不合格)とした。
[引張試験]
上記熱老化試験で作製した試料を、引張速度200mm/minにて測定した。引張試験はJIS C3005に従った。引張伸度が200%以上のものを○(合格)とし、引張伸度が200%未満を×(不合格)とした。
[燃焼試験]
図1に示すように、作製した実施例1,2の絶縁電線1、比較例1〜4の各絶縁電線10を上部支持部11と下部支持部12で支持し、バーナ13を用いたIEC燃焼試験方法(IEC60332−1)に準拠して試験した。絶縁電線1,10の上部では上部支持部11の上端から炭化部14の上端までの距離(α)が50mm以上で、絶縁電線1,10の下部では上部支持部11の上端から炭化部14の下端までの距離(β)が540mm以下のものを合格(○)、上記範囲以外のものを不合格(×)とした。
[絶縁抵抗測定]
作製した絶縁電線を90℃の水中に浸し、絶縁材(絶縁体)の温度が一定になった後、JIS C3005に従って絶縁抵抗測定を実施した。絶縁抵抗が1.0MΩ・km以上を合格とした。
【0080】
実施例1,2、比較例1〜4の各電線の評価結果を表2に示す。ただし、耐熱性、難燃性、耐加水分解性、熱処理後の伸び特性を兼ね備えたものを合否で○(合格)、それ以外のものを不合格(×)とした。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示すように、実施例1,2は、耐加水分解性、難燃性、熱処理後の伸び、絶縁抵抗のいずれの特性も十分に発現しており、電線用絶縁材として好適なポリブチレンテレフタレート樹脂である。
【0083】
これに対し、比較例1では、(B)、(C)、(D)、(E)成分が含まれていないために耐加水分解性、難燃性、熱処理後の伸び特性、絶縁抵抗共に低くなっている。また、比較例2では、(B)および(C)成分を添加することで、熱老化後の伸び特性は改良したが、難燃性が十分に改善されず、下部への延焼が進んだ。また、耐加水分解性も改善されていない。
【0084】
さらに比較例3,4では、(B)、(C)、(E)を添加することで、熱老化後の伸び特性、耐加水分解性は改善されたが、難燃性、絶縁抵抗が改善されていない。比較例4では、(E)耐加水分解性改良剤としてエポキシ化合物を添加したが、カルボジイミド化合物と比較すると効果は小さい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】IEC燃焼試験方法を説明する概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂100重量部に対して、非臭素系難燃剤1〜30重量部、ポリオルガノシロキサンコアグラフト共重合体1〜50重量部、無機多孔質充填剤0.1〜50重量部、および耐加水分解性改良剤0.05〜10重量部を配合してなる樹脂組成物を、導体に絶縁材として被覆してなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
上記ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂である請求項1記載の絶縁電線。
【請求項3】
上記非臭素系難燃剤がリン系化合物及び/又はトリアジン環を有する窒素化合物である請求項1または2記載の絶縁電線。
【請求項4】
上記リン系化合物が化学式(1)に示すリン酸エステル化合物である請求項3記載の絶縁電線。
【化1】

【化2】

【請求項5】
上記トリアジン環を有する窒素化合物が、シアヌル酸とメラミン類との等モル反応物である請求項3記載の絶縁電線。
【請求項6】
上記耐加水分解性改良剤がカルボジイミド化合物である請求項1〜5いずれかに記載の絶縁電線。
【請求項7】
上記絶縁材の厚さが0.1〜0.5mmである請求項1〜6いずれかに記載の絶縁電線。

【図1】
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【公開番号】特開2009−152185(P2009−152185A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298926(P2008−298926)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】