説明

網状細胞を同定するための試薬組成物及び方法

【課題】網状細胞を正確に60秒未満内に定量することを可能にする特異的な試薬組成物及び方法を提供すること。
【解決手段】光学測定によって、血液細胞試料中の網状細胞を、その他の型の細胞と区別して同定するための試薬組成物及び方法を提供する。特に本試薬組成物は、核酸用色素及び球状化剤を含んで成る。特に本方法は、網状血小板及び網状赤血球の同定を可能にする。更に本方法は、血液細胞試料中の網状赤血球及び成熟赤血球の細胞毎のヘモグロビンを同時に決定するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、光学測定によって、血液細胞試料中の網状細胞を、その他の型の細胞と区別して同定するための試薬組成物及び方法に関する。特に本試薬組成物は、核酸用色素及び球状化剤を含んで成る。特に本方法は、網状血小板及び網状赤血球の同定を可能にする。更に本方法は、適切な電気的及び光学的測定によって、血液細胞試料中の細胞毎のヘモグロビンを同時に決定するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術
網状細胞(reticulated cells)は、網状構造を有する任意の血液細胞と定義される。網状細胞には、網状赤血球(reticulated erythrocytes)及び網状血小板(reticulated platelets)が含まれる。網状赤血球は一般に網状赤血球(reticulocytes)として知られている。
【0003】
網状細胞の同定は、網状赤血球の分析に集中している。従来、自動血液分析に適する網状赤血球の計数法は、アクリジンオレンジ(AO)、オキサジン750、チアゾールオレンジ(TO)及びその誘導体、並びにコリホスフィン-O(CPO)を含有する試薬に基づいている。アクリジンオレンジ、チアゾールオレンジ及びコリホスフィン-Oは全て、RNAに結合した際に、明るい蛍光を発する。これらの各色素は細胞膜透過性を示し、すなわち網状赤血球の膜を自由に通過する。従って自動血液分析において、それらは魅力的であり、しかも有用である。しかしこれらの各試薬には、独自の分析方法があり、しかも問題点がある。
【0004】
アクリジンオレンジ(AO)を用いた特定の例が、米国特許5,075,556; 5,360,739及び5,411,891(各々Fan et al.)、並びにVanderet al. (1993) J. Lab. Clin. Med, 62:132; Thaer et al. (1970) ”Microfluorometric analysis of the reticulocyte population in peripheral blood of mammals” in Cytology Automation, DMD Evans (ed.), E&S Livingstone, Edinburgh (1970),pp.180-195;及びSeligman et al. (1983) American J. Hematol. 14:57-66に記載されている。
【0005】
オキサジン750を用いた特定の例が、米国特許5,284,771及び5,633,167(各々Fan et al.)に、そしてオキサジン750又は新規なメチレンブルーを用いた例が、米国特許5,350,695及び5,438,003(各々Colella et al.)に記載されている。
【0006】
チアゾールオレンジ(TO)を用いた特定の例が、米国特許4,883,867及び4,957,870、並びにCytometry (1986) 7:508,L.G.Lee et al.; Van Hove et al. (1990)Clin.Lab.Hemat. 12:287-299; Carter et al.(1989) Clin.Lab.Haemat. 11:267-271に記載されている。
コリホスフィン-O (CPO)を用いた特定の例が、米国特許5,639,666 (Shenkin)に記載されている。
【0007】
更にその他の試薬及び自動化方法が、網状赤血球の分析のために開発されている。米国特許4,985,174 (Kuroda et al.)には、フローサイトメーターによって網状赤血球の測定するために、全血試料中の網状赤血球を蛍光染色するオーラミン-Oを含有する試薬が開示されている。米国特許5,773,299及び5,691,204(Kim et al.)には、非対称性シアニン色素が開示されている。
【0008】
網状細胞のもう一つの型は網状血小板である。網状血小板は、巨核球の断片形成によって末梢血中に放出される。新たに形成された血小板は、無核であるが、いくらかの粗面小胞体とmRNAを含み、しかも少量のタンパク質を合成することができる。これらの測定は、前記mRNAが不安定であり、動物モデルでは24時間以内に分解されることから、血小板新生及び血小板交代を監視するために臨床上かなり有益である。
【0009】
従来の網状血小板の分析は、Robinson et al. (1988)”Flow cytometric analysis of reticulated platelets: evidence for a large proportion of non-specific labeling of densegranules by fluorescent dyes ”British Journal of Heamatology, 100, pp.351-357及びRichards,et al. (1996) ”Measurement of reticulated platelets following peripheral bloodprogenitor cell and bone marrow transplantation: implications for marrow reconstitution and the use of thrombopoietin ”Bone Marrow Transplantation, 17pp.1029-1033に記載の通り、チアゾールオレンジに基づいている。またWatanabe et al. (1995) ”Automated measurement of reticulated platelets in estimating thrombopoiesis ”Eur. J. Haematol.54 pp.163-171では、オーラミン-Oが用いられている。両色素は、488nmで励起される蛍光性核酸色素であり、標準的なフローサイトメーターにおけるアルゴンレーザーに適する。
【0010】
本発明以前には、従来の網状血小板の測定は、いずれの標準化された結果又は方法にも合致しなかった。基本的に、各々の検査機関は、独自の測定基準と測定系を有している。全てではないが、いくつかの検査機関における従来の分析から、網状血小板は、正常血小板群の約2〜20%を占めることが結論された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、網状細胞を正確に60秒未満内に定量することを可能にする特異的な試薬組成物及び方法が必要とされている。更に、この試薬及び方法は、網状血小板を同定する自動分析方法に特に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の要旨
前記考察から、本発明の対象は、光学測定によって、血液細胞試料中の網状細胞を、その他の型の細胞と区別して同定するための試薬組成物及び方法に関する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)コリホスフィン-O、球状化剤及び緩衝剤を含んで成る、網状細胞のサブクラスを同定するための試薬組成物。
(項目2)前記コリホスフィン-Oの濃度が約0.05〜50μg/mlである、項目1に記載の試薬組成物。
(項目3)前記コリホスフィン-Oの濃度が約0.5〜30μg/mlである、項目2に記載の試薬組成物。
(項目4)前記球状化剤が、アルキルアミドベタイン、アルキルベタイン、N-テトラデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、n-ドデシル-D-マルトシド、n-テトラデシル-D-マルトシド、デカノイル-N-メチル-グルカミド、n-ドデシル-D-グルコピラノシド及びn-デシル-D-グルコピラノシドから成る群から選択される、項目1に記載の試薬組成物。
(項目5)前記球状化剤がドデシル-β-D-マルトシドである、項目4に記載の試薬組成物。
(項目6)その浸透圧が250〜350 mOsmである、項目4に記載の試薬組成物。
(項目7)そのpHが約6〜約9である、項目1に記載の試薬組成物。
(項目8)タンパク質又は固定剤を含有しない、項目1に記載の試薬組成物。
(項目9)網状細胞及び非網状血液細胞を含有する血液細胞試料中の網状細胞を、自動血液分析機により同定するための方法であって、
a.網状細胞を含有する血液細胞試料を、異染性色素及び球状化剤を含有する試薬組成物と混合して、細胞縣濁液を作ること;
b.前記試薬組成物によって、血液細胞内に存在する一本鎖及び二本鎖核酸を染色するために、前記細胞縣濁液を60秒間未満インキュベーションすること;
c.励起波長光によって前記細胞縣濁液を励起すること;
d.光散乱、直流、無線周波数及び蛍光から成る群から選択される少なくとも1つのパラメーターについてゲート化された第二の蛍光シグナルの存在に対して、前記細胞懸濁液中の第一の蛍光シグナルの存在を測定することであって、ここで、前記少なくとも1つのパラメーターは、白血球、赤血球及び血小板を同定するために用いられる;並びに
e.前記測定から試料中の網状細胞の数を同定すること、
を含んで成る前記方法。
(項目10)前記網状細胞が網状血小板を含む、項目9に記載の方法。
(項目11)前記網状細胞が網状赤血球を含む、項目9に記載の方法。
(項目12)白血球、赤血球及び血小板を同定するために用いる前記の少なくとも1つのパラメーターが光散乱を含む、項目9に記載の方法。
(項目13)前記色素がコリホスフィン-Oを含む、項目9に記載の方法。
(項目14)前記球状化剤が、アルキルアミドベタイン、アルキルベタイン、N-テトラデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、n-ドデシル-D-マルトシド、n-テトラデシル-D-マルトシド、デカノイル-N-メチル-グルカミド、n-ドデシル-D-グルコピラノシド又はn-デシル-D-グルコピラノシドを含む、項目9に記載の方法。
(項目15)前記球状化剤がドデシル-β-D-マルトシドを含む、項目14に記載の方法。
(項目16)フローサイトメーターにより前記試料を励起し、且つその蛍光を測定する、ただしその際にインキュベーションした血液試料を、当該自動分析機の検知領域に通過させる、項目9に記載の方法。
(項目17)前記血液試料が全血である、項目9に記載の方法。
(項目18)前記試料中に存在する血液細胞の細胞毎のヘモグロビン濃度を決定することを更に含んで成る、項目9に記載の方法。
本発明の1つの点として、網状細胞のサブクラスを同定するために、コリホスフィン-O、球状化剤及び緩衝剤を含有する試薬組成物を提供する。
【0013】
本発明の別の点として、自動血液分析機において、網状細胞及び非網状細胞を含有する血液細胞試料中の網状細胞を同定するための方法を提供する。
この方法は、網状細胞を含有する血液細胞試料を、異染性色素及び球状化剤を含有する試薬組成物と混合して、細胞縣濁液を作ること;前記試薬組成物によって、血液細胞内に存在する一本鎖及び二本鎖核酸を染色するために、前記細胞縣濁液を60秒間未満インキュベーションすること;励起波長光によって前記試料を励起すること;白血球、赤血球及び血小板を同定するために光散乱、直流、無線周波数及び蛍光から成る群から選択される少なくとも1つのパラメーターを用いて、それに基づいて選別(ゲート化、gate)し、そして前記細胞縣濁液中の第一の蛍光シグナルを、第二の蛍光シグナルに対して測定すること;並びに、前記測定から試料中の網状細胞の数を同定すること、を含んで成る。
以下の記載から分かる通り、本発明は、60秒間未満で網状細胞を同定する新規な方法を提供するものであり、この点で従来技術に比べて有益であり、特に網状血小板を同定するために有用である。
以下の記載から本発明及びその有利な点を良く理解できるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】図1Aは、実施例1の記載通り、網状赤血球を同定するための3つのヒストグラムである。
【図1B】図1Bは、実施例1の記載通り、網状赤血球を同定するための3つのヒストグラムである。
【図1C】図1Cは、実施例1の記載通り、網状赤血球を同定するための3つのヒストグラムである。
【図2A】図2Aは、実施例2の記載通り、細胞毎のヘモグロビンと共に網状赤血球を同定するための3つのヒストグラムである。
【図2B】図2Bは、実施例2の記載通り、細胞毎のヘモグロビンと共に網状赤血球を同定するための3つのヒストグラムである。
【図2C】図2Cは、実施例2の記載通り、細胞毎のヘモグロビンと共に網状赤血球を同定するための3つのヒストグラムである。
【図3A】図3Aは、実施例3の記載通り、網状血小板を同定するためのヒストグラムとグラフである。
【図3B】図3B、実施例3の記載通り、網状血小板を同定するためのヒストグラムとグラフである。
【図4】図4は、本発明の方法を実行する際に用いられるフローサイトメーターの光学系の概略図を示す。
【図5】図5は、実施例4の記載通り、インキュベーション時間に対して血小板群の平均蛍光強度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、血液細胞試料において網状細胞を識別するための試薬組成物及び方法、更に細胞毎のヘモグロビン濃度を同時に識別するための方法に関する。特に本方法は、網状血小板を同定するものである。最初の態様として、本発明の試薬組成物は、コリホスフィン-O、球状化剤及び緩衝剤を含んで成る。
【0016】
コリホスフィン-Oは、網状細胞を染色するために有効な色素であることが分かっている。コリホスフィン-Oは、網状赤血球及び網状血小板の細胞内リボ核酸を沈殿させることのない蛍光染色性色素である。コリホスフィン-Oは塩基性イエローセブンとしても知られており、Pfaltz& Bauer, Inc. Division of Aceto Corporation, Waterbury, Connecticutから入手できる。
【0017】
この色素は、フローサイトメーターにおいて蛍光と光散乱によって網状細胞を識別するために機能する。更に本発明により、蛍光と、光散乱、直流(DC量)及び無線周波数(RF)の中から選択される別の測定様式とを備えた機器による分析において、当該クラスの細胞を迅速に染色することが可能となる。
【0018】
色素としてのコリホスフィン-O及び球状化剤を含有する試薬組成物を用いることによって、全血試料中の網状細胞を迅速に検出且つ計数することが可能になる。更に本試薬組成物によって、網状赤血球を識別的に染色するという利点、並びに試料内の妨害物質、例えば細胞性顆粒、有核赤血球細胞及びハウエル−ジョリー小体による分析妨害が減少するという利点が得られる。更に本試薬組成物によって、全血試料中の網状血小板の検出且つ計数が可能になる。
【0019】
本試薬組成物中のコリホスフィン-O色素の濃度は、約0.05μg/ml〜約50μg/mlである。本試薬組成物中の本色素は、好ましくは0.5μg/ml〜30μg/ml、最も好ましくは1μg/ml〜15μg/mlである。本色素濃度が50μg/mlを超えると、その背景蛍光により網状細胞の測定が妨害される。本色素濃度が0.05μg/ml未満になると、細胞の染色が、急速検出にとって不十分となる。
【0020】
更に本試薬組成物は球状化剤を含有する。この球状化剤は、網状細胞、例えば網状血小板及び網状赤血球、並びに赤血球細胞を、等容量的に球状化するために有効な量で用いられ、これにより網状細胞の分析においてそれらの向きによる影響が排除される。本球状化剤は、好ましくは、赤血球細胞及び網状細胞を等容量的に球状化する両性イオン性界面活性剤である。この両性イオン性球状化剤は、好ましくはアルキルアミドベタイン又はアルキルベタイン、例えばラウロアミドプロピルベタイン、ココアミドプロピルベタイン及びココアミドスルホベタインである。
【0021】
その他の球状化剤は、N-テトラデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、n-ドデシル-D-マルトシド、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックコポリマー(PluronicF 127)、n-テトラデシル-D-マルトシド、デカノイル-N-メチル-グルカミド、n-ドデシル-D-グルコピラノシド及びn-デシル-D-グルコピラノシドである。現在好ましい球状化剤は、ドデシル-β-D-マルトシドであり、これは、適当にはリン酸緩衝塩水などの緩衝剤含有溶液に溶解される。
【0022】
血液試料中の網状細胞及び赤血球細胞を効果的に等容量的に球状化するために、本組成物中の球状化剤の濃度は、約3〜約40μg/mlであり、好ましくは約10〜約30μg/mlであり、最も好ましくは約15〜約25μg/mlである。本試薬組成物の浸透圧は、等容量的な球状化を有効に実行するために250〜350mOsmである。この浸透圧は、塩及びその他の浸透圧的に活性な薬剤によって当業者に既知の技術に従って調整し得る。適当な浸透圧調整剤には、本試薬組成物中の色素を沈殿させない、又はそれに有害に反応しない一価又は二価のアルカリ塩がある。
【0023】
本試薬組成物は、他の成分、例えば緩衝剤、保存剤などを更に含有する。適当な緩衝剤は、当組成物のpHを約6〜約9に、好ましくは6.5〜7.7に維持するものである。適当な緩衝剤の例は、リン酸緩衝塩水又は等張塩水、例えばISOTON(登録商標)II (米国特許3,962,125, Coulter Corporation, Miami, Florida)などである。この緩衝剤を、タンパク質又は固定剤(fixative)を含まない様に選択する。タンパク質緩衝剤が、細胞毎のヘモグロビン測定を妨害するだろうことが分かっている。更に、固定剤を含有する緩衝剤は、網状細胞の測定を妨害するだろう。
【0024】
本発明の別の態様として、自動血液分析機において、網状細胞及び非網状細胞を含有する血液細胞試料中の網状細胞を同定するための方法が提供される。
この方法は、網状細胞を含有する血液細胞試料を、異染性色素及び球状化剤を含有する試薬組成物と混合して、細胞縣濁液を作ること;前記試薬組成物によって、血液細胞内に存在する一本鎖及び二本鎖核酸を染色するために、前記細胞縣濁液を60秒間未満インキュベーションすること;励起波長光によって前記試料を励起すること;白血球、赤血球及び血小板を同定するために光散乱、直流、無線周波数及び蛍光から成る群から選択される少なくとも1つのパラメーターを用いて、それに基づいて選別し、そして前記細胞縣濁液中の第一の蛍光シグナルを、第二の蛍光シグナルに対して測定すること;並びに、前記測定から試料中の網状細胞の数を同定すること、を含んで成る。
【0025】
本発明の方法では、網状細胞及び非網状細胞を含有する血液試料、例えば全血又は分画血液を、コリホスフィン-Oを含有する本試薬組成物と混合することによって、血液試料を染色する。この血液試料及び試薬組成物の使用量は、その細胞濃度が分析機器を通過するために十分である様に調整される。従って、血液を当試薬組成物によって、1:100〜1:10000に、好ましくは1:500〜1:5000、最も好ましくは1:1000〜1:2000に希釈する。
【0026】
次に当試料を、当試薬組成物と共に60秒間未満室温でインキュベーションして、当試薬組成物により血液細胞内の一本鎖又は二本鎖核酸の染色を行わせる。このインキュベーションは、好ましくは30秒間未満、より好ましくは15秒間未満である。最も好ましくは、このインキュベーションは5〜10秒間である。次にこの希釈且つ染色した血液試料を、フローサイトメーター又はその他の類似の血液分析機に通す。コリホスフィン-Oは生存染色剤であり、従って固定は必要ない。
【0027】
コリホスフィン-Oは異染性色素である。コリホスフィン-Oがリボ核酸(RNA)から解離している場合、励起されても、これは赤色蛍光をほとんど又は全く発することなく、約490nmに強い吸光ピークを示す。コリホスフィン-Oが網状細胞内のRNAと結合している場合、その光学特性は著しく変化する。特に、RNAと結合した場合、コリホスフィン-Oは、励起により強い赤色蛍光を発する。最大励起は約490nmで起こり、最大発光は約630〜約700nmで起こり、そのストークスシフトは約160nmである。
【0028】
結合したコリホスフィン-Oは約490nmで励起されるので、その光源はアルゴンイオンレーザー又は約532nmで緑色発光する周波数2倍化ダイオードレーザーでよい。本発明の方法では、RNA結合時における励起波長対発光波長の比が、約488nmでのアルゴンイオンレーザーの使用に比べて増加するので、緑色発光レーザーを用いることが好ましい。その他の波長で励起してもよいが、コリホスフィン-Oによって染色した網状細胞を、好ましくは約450〜約540nmの波長で、より好ましくは525〜535nmの波長で励起する。また約540nm超で励起した場合、RNAと結合したコリホスフィン-Oは、検出のために十分に励起されないことが分かっている。
【0029】
非網状細胞、例えば白血球細胞内のデオキシリボ核酸(DNA)と結合していない場合、励起されても、コリホスフィン-Oはほとんど又は全く緑色蛍光を発光しない。しかしコリホスフィン-Oが、白血球細胞内のDNAと結合し、そして励起された場合、この細胞は強い緑色蛍光を発する。核酸と結合しない場合にコリホスフィン-O色素の蛍光が欠落するので、背景蛍光が低くなり、しかも自動フローサイトメーターのための蛍光閾値(すなわち選別域(gate))を操作者が選択することが可能となる。
【0030】
更に、コリホスフィン-Oが結合している場合、緑色蛍光の強度は、コリホスフィン-Oがその他の細胞構造にも結合するために、背景又は非特異的染色量に比例する。その様な細胞構造又は要素には、異常DNA及び細胞内小胞、例えばリソゾーム、エンドゾーム及び顆粒が含まれる。これらの各要素はコリホスフィン-Oと様々に結合するので、その蛍光量も異なる。しかし特定のインキュベーション時間を用いることにより、一本鎖RNAだけがコリホスフィン-Oと結合して赤色を発光する。
【0031】
網状血小板及び成熟血小板は、核酸色素によって染色されるアデノシン二リン酸(ADP)顆粒を含んでいることが知られている。染色された場合、この顆粒は赤色スペクトルの蛍光を発する。染色動態から、このADP含有顆粒の非特異的な染色に比べて、RNAの方が染色されやすいことが分かった。60秒未満の急速染色により、全ての血小板に含まれるADP顆粒に対して網状血小板内のRNAが優先的に染色されることが分かった。
【0032】
本発明の方法を行う場合、赤血球細胞と網状細胞の両者の閾値として、成熟赤血球群の緑色蛍光の最大量を決定する。網状血小板は、赤血球で観察された場合よりも高いレベルの背景蛍光を生じる多数の細胞構造を有するので、網状血小板のために、成熟赤血球のために用いた閾値よりも大きな閾値を用いる。全てのその他の細胞は、DNAのために用いられる閾値以上の緑色蛍光を発するだろう。緑色蛍光強度の差異により、区別的に細胞を染色する利点が生まれ、その結果非特異的細胞、例えば白血球を選別排除(gate-out)することができる。
【0033】
本試薬組成物により、各網状細胞において測定された蛍光シグナルとその核酸含有量との間にほぼ直線的な関係が得られる。このことから、臨床的には、RNA含量が網状細胞の細胞齢の関数であるという点で、網状細胞数以外の追加情報が医師に与えられる。従って本発明の試薬組成物を用いることによって、臨床医は、網状赤血球及び網状血小板の数と共に、網状細胞の細胞齢を知ることができる。
【0034】
本発明の試薬組成物によって染色された網状細胞を、好ましくは自動フローサイトメーターによって計数するが、手動方法又は自動化された顕微鏡装置によっても計数し得る。
【0035】
フローサイトメーターの基本概念は、本質的には、特定の検知領域に細胞を一度に一個ずつ通過させることである。流体力学的な集束によって、単一細胞が検知領域を通過する。この検知領域は、集束化したレーザー光源と、散乱光、蛍光及び電気的特性を測定するための検出系とから成る。当分野では自動フローサイトメーターが熟知されており、本発明は、任意の特定のフローサイトメーターの使用に限定されることはない。
【0036】
図4を参照して、本発明に用いられるフローサイトメーターの光学系の特定例を説明する。図4に示した光学系は、前方光散乱、直角光散乱、赤色蛍光(FL2)及び緑色蛍光(FL1)を測定するために設計されたフローサイトメーターに用いられている。10に示す一般的な光学系では、光源としてレーザー12を用い、これは約530nmの波長で作動する。レーザー12から放射される光は、円筒形レンズ16によって収束され、そして通常の方法によりフローセル14を通って流れる血液試料に照射される。
【0037】
試料中の染色された血液細胞がレーザー光によって照射されると、散乱光と蛍光を生じる。直角散乱光及び蛍光(FL1及びFL2)は集光レンズ18によって収束し、開口部20を通過し、そして二色性鏡22に投射する。この二色性鏡22は直角散乱光24を反射し、そして蛍光26を通過させる。二色性鏡22に反射した直角散乱光24を、光電子増倍管又はフォトダイオードで検出する。前方散乱光を、適当な検知器によって、あるいは光電子増倍管又はフォトダイオードで検出する(図示していない)。
【0038】
二色性鏡22を通過した蛍光26の内、緑色蛍光32は二色性鏡30によって反射し、そして赤色蛍光38はその二色性鏡を通過する。反射した緑色蛍光32は被覆光学フィルター34を通過して、光電子増倍管36で検出される。通過した赤色蛍光38は被覆光学フィルター40を通過して、光電子増倍管42で検出される。
【0039】
従って、本発明の試薬組成物によって染色した網状細胞を、例えばCOULTER XLフローサイトメーター(Coulter Corporation, Miami,Florida)によって検出且つ計数する。この自動フローサイトメーターを用いる場合、網状細胞の計数のための蛍光閾値を決定するために、成熟血液細胞の蛍光分布を利用する。
【0040】
本発明の試薬組成物によって染色した網状赤血球を、自動化フローサイトメーターによって検出且つ計数することにより、新メチレンブルー又はアクリジンオレンジ、又はチアゾールオレンジを使用する既知の標準的な網状赤血球の計数法により得られた結果と非常に相関する結果が得られる。
【0041】
しかし、以前の網状血小板測定は、50%ほどの誤差を有すると思われる。核色素による従来の測定では、染色された全ての血小板が網状血小板であると仮定された。しかし本発明によれば、染色された血小板は、特異的及び非特異的な核酸結合色素の合計であることが判明した。従って、本発明の試薬組成物及び方法により、特異的に染色された網状血小板と非特異的に染色された血小板とを識別する機会が提供される。
【0042】
更に本発明の方法により、適当な光学的及び電気的測定を介して、血液細胞試料中の細胞毎のヘモグロビンを同時に決定することができる。網状細胞を、光散乱及び蛍光の測定によって、外衣液体を有する集束化された細胞流体において同定する。細胞毎のヘモグロビンを決定するために、各細胞個体に基づいて赤血球内のヘモグロビンを決定するために、光散乱測定を細胞容積情報と結びつけることができる。
【0043】
血液細胞試料の分析のための本発明の方法を用いて、細胞毎のヘモグロビンを決定することができる。なぜなら本試薬組成物はそのデータ収集を妨げないからである。網状赤血球の適切な選別(ゲート化、gating)を行うことにより、細胞群の最初の選別に用いられた光散乱及び容積測定を用いて、網状赤血球の細胞毎のヘモグロビンの決定が可能になる。
本発明の方法を以下の実施例により説明する。しかし本発明はその実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1
網状細胞の同定
患者の血液試料を、EDTA三リン酸(K3ETDA)中に採取した。患者の血液試料0.002mlを本試薬組成物2.0mlに加えた。この試料を混合し、室温で約25秒間インキュベーションした。次にフローサイトメーターにおいて488nmの励起により当血液試料を分析した。
【0045】
網状細胞を分析するために、パラメーターとして前方光散乱(FS)、側方散乱(SS)及び2つの蛍光(FL)を測定した。細胞のクラス(例えば白血球、血小板及び赤血球)を同定するために、細胞サイズと細胞内顆粒構造とに基づいて選別した後、赤色蛍光対緑色蛍光の散布図による分析により、網状細胞と非網状細胞とを識別する。
【0046】
図1A〜1Cは、網状細胞群を決定するための分析を表す3つの散布図である。図1Aは、光散乱のヒストグラムであり、赤血球(RBC)、白血球及び血小板群の選別域(ゲート)を示す。図1Bは、図1Aで決定された赤血球の選別域における赤色蛍光(FL2)対緑色蛍光(FL1)の点図である。赤色蛍光パラメーターにより、網状赤血球と非網状赤血球とが識別される。緑色蛍光パラメーターにより、非赤血球が排除される。図1Cは、図1Aで決定された血小板の選別域における血小板の蛍光分布図であり、成熟血小板と網状血小板との識別を示す。
【0047】
実施例2
網状赤血球の同定及び細胞毎のヘモグロビン
二番目の患者の血液試料を、EDTA三リン酸(K3ETDA)中に採取した。患者の血液試料0.002mlを本試薬組成物2.0mlに加えた。この試料を混合し、室温で約25秒間インキュベーションした。次にフローサイトメーターにおいて532nmの励起により当血液試料を分析した。
【0048】
網状細胞と非網状細胞の分析において、パラメーターとして前方光散乱(LS)、直流(DC)及び蛍光を測定した。図2Bに示す通り、DC対FL2の散布図により網状細胞と非網状細胞とを識別する。図2Aに示す通り、光散乱(LS)対DCの散布図により、網状細胞と非網状細胞とを更に識別する。図2Aで得たLSとDCの情報、並びに図2Bにおける網状細胞と非網状細胞との選別から、図2Cに示す通り、成熟赤血球及び網状赤血球の細胞毎のヘモグロビン測定が可能になる。
【0049】
実施例3
網状細胞検査の特性
三番目の患者の血液試料を、EDTA三リン酸(K3ETDA)中に採取した。患者の血液試料0.002mlを本試薬組成物2.0mlに加えた。この試料を混合し、室温で約25秒間インキュベーションした。次にフローサイトメーターにおいて532nmの励起により当血液試料を分析した。
【0050】
網状細胞を分析するために、パラメーターとして前方光散乱(FS)、側方散乱(SS)及び赤色蛍光(FL)を測定した。図3Aは、インキュベーション時間を25秒から約5.5秒に減らしても、同程度で網状赤血球の計数が可能であることを示している。2回の分析から結果を示す。試料1及び2は、各々血液細胞試料1及び2中の異常に高い網状赤血球数を表し、試料3は、選ばれた正常供与者の血液細胞試料中の正常な網状赤血球数を表している。
【0051】
図3Bは、本発明の試薬組成物による網状細胞検査と、球状化剤を含まない試薬による網状細胞検査との比較を示す。得られたデータは、チアゾールオレンジを用いた網状赤血球の参照検査に対して直線関係にあることが示される。本試薬組成物における傾きは本質的に1であり、これは参照方法との相関関係を意味する。
従って前記の図から、本発明の方法は、25秒以内に、しかも前記参照方法と同様に正確に行われ得ることが実証される。
【0052】
実施例4
網状血小板及び成熟血小板の分析方法
図5は、コリホスフィン-Oによる染色動態の決定を示す。一つ目の分析では、網状血小板及び成熟血小板内に含まれる濃密顆粒中に存在するADPを脱顆粒化するために、全血試料に脱顆粒化剤を加える。二つ目の分析では、その脱顆粒化剤を用いない。この実施例では、脱顆粒化剤はトロンビン受容体活性化タンパク質(TRAP)である。
【0053】
網状血小板はRNAを含有するが、成熟血小板はRNAを含有しないことが知られている。従って、インキュベーション時間に対して血小板群の平均蛍光強度をグラフ化することにより、総染色に対するADP染色の寄与を決定することができる。これにより、網状血小板と成熟血小板とを識別することができる。
【0054】
本発明を、特に好ましい態様を参照して説明した。しかし本発明の意図から外れることなく多様な改変が可能であり、この様な改変も本発明に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異染性色素、球状化剤及び緩衝剤を含んで成る、網状細胞のサブクラスを同定するための試薬組成物であって、血液細胞縣濁液中に含まれる網状細胞内の一本鎖及び二本鎖核酸を30秒未満内に染色し;ここで、前記試薬組成物は、固定剤を含有しない、試薬組成物。
【請求項2】
前記異染性色素の濃度が約0.05〜50μg/mlである、請求項1に記載の試薬組成物。
【請求項3】
前記異染性色素の濃度が約0.5〜30μg/mlである、請求項2に記載の試薬組成物。
【請求項4】
前記球状化剤が、アルキルアミドベタイン、アルキルベタイン、N-テトラデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、n-ドデシル-D-マルトシド、n-テトラデシル-D-マルトシド、デカノイル-N-メチル-グルカミド、n-ドデシル-D-グルコピラノシド及びn-デシル-D-グルコピラノシドから成る群から選択される、請求項1に記載の試薬組成物。
【請求項5】
前記球状化剤がドデシル-β-D-マルトシドである、請求項4に記載の試薬組成物。
【請求項6】
その浸透圧が250〜350 mOsmである、請求項4に記載の試薬組成物。
【請求項7】
そのpHが約6〜約9である、請求項1に記載の試薬組成物。
【請求項8】
タンパク質を含有しない、請求項1に記載の試薬組成物。
【請求項9】
網状細胞及び非網状血液細胞を含有する血液細胞試料中の網状細胞を、自動血液分析機により同定するための方法であって、
a.網状細胞を含有する血液細胞試料を、異染性色素及び球状化剤を含有する試薬組成物と混合して、細胞縣濁液を作ること;
b.前記試薬組成物によって、血液細胞内に存在する一本鎖及び二本鎖核酸を染色するために、前記細胞縣濁液を30秒間未満インキュベーションすること;
c.励起波長光によって前記細胞縣濁液を励起すること;
d.散乱、直流、無線周波数及び蛍光から成る群から選択される少なくとも1つのパラメーターについてゲート化された第二の蛍光シグナルの存在に対して、前記細胞懸濁液中の第一の蛍光シグナルの存在を測定することであって、ここで、前記少なくとも1つのパラメーターは、白血球、赤血球及び血小板を同定するために用いられる;並びに
e.前記測定から試料中の網状細胞の数を同定すること、
を含んで成る前記方法。
【請求項10】
前記網状細胞の数を同定することが網状血小板の同定を含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記網状細胞の数を同定することが網状赤血球の同定を含む、請求項に記載の方法。
【請求項12】
白血球、赤血球及び血小板を同定するために用いる前記の少なくとも1つのパラメーターが光散乱を含む、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記球状化剤が、アルキルアミドベタイン、アルキルベタイン、N-テトラデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート、n-ドデシル-D-マルトシド、n-テトラデシル-D-マルトシド、デカノイル-N-メチル-グルカミド、n-ドデシル-D-グルコピラノシド又はn-デシル-D-グルコピラノシドを含む、請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記球状化剤がドデシル-β-D-マルトシドを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
フローサイトメーターにより前記試料を励起し、且つその蛍光を測定する、ただしその際にインキュベーションした血液細胞試料を、当該自動血液分析機の検知領域に通過させる、請求項に記載の方法。
【請求項16】
前記血液細胞試料が全血である、請求項に記載の方法。
【請求項17】
前記試料中に存在する血液細胞の細胞毎のヘモグロビン濃度を決定することを更に含んで成る、請求項に記載の方法

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−151838(P2010−151838A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65159(P2010−65159)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【分割の表示】特願2000−577489(P2000−577489)の分割
【原出願日】平成11年9月27日(1999.9.27)
【出願人】(510005889)ベックマン・コールター・インコーポレーテッド (174)
【Fターム(参考)】