説明

緑内障の診断及び治療方法

【課題】緑内障のような高眼内圧の治療のための薬剤の提供。
【解決手段】Wnt経路成分またはfrizzled関連タンパク質遺伝子産物のレベルまたは生物活性を増加または減少させるための治療上有効量の、frizzled関連タンパク質遺伝子産物のアンタゴニストのタンパク質、ペプチド、ペプチドミメティック、および小分子、並びにfrizzled関連タンパク質遺伝子の遺伝子、アンチセンス、リボザイム、およびトリプレックス核酸などからなる群から選択される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の背景
緑内障
緑内障は、眼神経の変性を特徴とする一群の眼の疾患である。
【0002】
緑内障は、失明の世界的に主要な原因の一つである。緑内障に罹患する主な危険因子の一つに、家族歴がある。緑内障は、幾つかの異なる形で遺伝することが示されている。
【0003】
原発性の先天性又は小児緑内障は、眼の房水流出系の発達が不適切であることから、眼内圧の亢進、眼球又は角膜の肥大(即ち牛眼症)、眼神経の損傷が起こり、結果として視力障害に至ることを特徴とする。
【0004】
原発性開放隅角緑内障(POAG)は、眼神経が萎縮して視野欠損が起こり、失明に至ることを特徴とする、広く見られる疾患である。POAGは、発症年齢及び症状の相違に基づき、大きく2つのグループに分類されてきた。若年期発症性のPOAGは、通常、学童期又は成人期初期に発症する。その進行は急速かつ重度であり、高い眼内圧を伴う。この型のPOAGは内科的治療の効果が低く、通常は眼の外科手術を必要とする。成人期発症性の又は晩発性のPOAGは、最も多く見られる型の緑内障である。この型の緑内障は、若年期発症性のPOAGと比較するとより軽度であり、また進行がより緩やかである。その発症年齢は様々であるが、通常は40歳以降である。この型のPOAGでは、眼内圧の亢進が軽度から中程度であり、定期的な経過観察と内科的治療とで十分な効果が得られる場合が多い。
【0005】
残念なことに、この疾患は、徐々に、また痛みを伴わずに進行するために、発見時には眼神経が回復不能な損傷をすでに受けてしまっていることがある。
【0006】
これらの型のPOAGでは、双方ともに、小柱網を介した房水流出が妨げられた結果、眼内圧が亢進することが多い。POAGにおけるヒト小柱網(HTM)の病態生理は、細胞外基質成分の増加と、小柱網細胞の数の減少とを特徴とする。従って、HTM細胞の構造、機能又は数の異常がPOAGの病因に影響を及ぼしている可能性がある。POAGにおける病態生理は、ヒト篩板細胞(HLC)とも関連しているが、このHLCは、HTMと同じタンパク質発現パターンを有することが示されている(Steely他(2000) Exp Eye Res 70: 17−30)。このことから、網膜神経の損傷に最も大きく関与するこれら2種類の細胞が、POAGの原因を共通に持っている可能性がある。従って、POAGの病因を分子レベルで理解すると共に独自の治療法を特定するためには、HTM及びHLC内部の細胞調節機序を明らかにし、理解することが重要であろう。
【0007】
培養HTM細胞は、様々な成長因子受容体のmRNAを発現することが示されており、更に、外来の成長因子を投与すると病的応答が誘発されることから、これらの発現された受容体が機能しうることが示されている(Wordinger他(1998)Invest Ophthalmol Vis Sci 39: 1575−89)。インビボでは、これらの受容体は、房水中に存在する成長因子により(アクエクリン(原語aquecrine)/パラクリン)、又は、合成され、小柱網細胞自体が局所的に放出した成長因子により(オートクリン)活性化されるのかもしれない。更に、TGF−bイソフォームが、EGFの刺激を受けた小柱網細胞の増殖を大幅に阻害することが示されており、一方、FGF−1、TGF−a、EGF、IL−1a、IL−1b、HGF、TNF−a、PDGF−AA及びIGF−1は、細胞外酸性化を著しく刺激した(同上)。高親和性の受容体を介して作用する特定の成長因子が、HTMの正常な微環境の維持に関与しているのかもしれないし、また、POAGの病因に関与しているのかもしれない。
【0008】
この病理に対する分子レベルでの考察は、一つには、動物及びヒト双方の高眼圧を誘発しうるグルココルチコイドが、培養HTM細胞の細胞骨格構造を変性させるという観察結果(Wilson他(1993) Current Eye Res 12: 783−93)に基づいている。このような細胞骨格の変化には、アクチンマイクロフィラメントの架橋アクチンネットワーク(CLAN)への変化が関与しており、この構造上の変化が、結局は高眼圧を引き起こす生理学的変化であるのかもしれない(Clark他(1993) J Glaucoma 4: 183−88)。更に、グルココルチコイドによる高眼圧の眼内圧(IOP)を降下させることが示されている降圧ステロイドテトラヒドロコルチゾールもまた、グルココルチコイドが媒介するHTM細胞骨格のこのような変化を阻害すると考えられる(Clark他(1996) Inv Ophthal & Vis Sci 37: 805−813)。
【0009】
米国特許5,925,748号、5,916,778号及び5,885,776号は、GLC1A遺伝子の突然変異に関連した緑内障の診断方法及びGLC1A遺伝子によりコードされるMYOCタンパク質の活性を変調させる緑内障治療薬を特定するためのアッセイを開示している。
【0010】
Wntシグナリング経路
Wnt遺伝子ファミリーは、分化及び発育において重要な役割を果たす分泌リガンドタンパク質をコードする。このファミリーには、少なくとも15の脊椎動物及び無脊椎動物の遺伝子が含まれ、その中には、ショウジョウバエ体節極性遺伝子wingless及びその脊椎動物相同体のうちの1つであるintegratedがあり、Wntという名称はこれに由来している。Wntタンパク質は、多くの発育及びホメオスタシスのプロセスを容易にしていると考えられる。例えば、脊椎動物Wntlは、体節中の筋節形成を誘導し、また中脳の境界を確立させる働きがあると考えられている(McMahon及びBradley (1990) Cell 62: 1073; Ku及びMelton (1993) Development 119: 1161 ; Stern他(1995)Development 121: 3675を参照のこと)。哺乳類の原腸胚形成の間に、Wnt3a、Wnt5a及びWnt5bが、原始線条内の異なるがしかし重複している複数の領域に発現する。Wnt3aは、背部(体節)中胚葉を発生する線条領域内に見られる唯一のWntタンパク質であり、Wnt3a遺伝子のヌル対立遺伝子と同型接合であるマウスは、前肢から背尾方向には体節を有しない。Wnt遺伝子はまた、脊椎動物の肢の極性の確立に重要であり、同様に、無脊椎動物の相同体winglessは、昆虫の肢の発育中に極性を確立することが示されている。いずれの場合においても、Hedgehogファミリーのメンバーとの相互作用がある。
【0011】
Wntシグナリング経路は、Wnt/winglessシグナリングの形質導入に関与する多くのタンパク質を有し、hedgehog発育経路と密接に連関している。ショウジョウバエでは、分泌されたwinglessタンパク質が、wingless−hedgehog経路内の細胞の相互作用を、Frizzled受容体を介して隣接する細胞と結合することによって媒介する。次に、このFrizzled受容体は、Dishelveledタンパク質を活性化し、これがArmadilloタンパク質(ベータカテニンタンパク質)上のZestewhite−3キナーゼの阻害活性を遮断する。活性Armadilloタンパク質は、高移動度群(HMG)タンパク質LEF/TCF(リンパ系増強因子/T細胞因子)と協働して、hedgehog(hh)遺伝子の核発現を促進する。hedgehogは、Wnt/winglessにより活性化された細胞に隣接する細胞に、別の受容体であるPatchedタンパク質を介して結合することの可能な分泌タンパク質である。HedgeHogタンパク質がPatchedタンパク質に結合することにより、winglessタンパク質の核発現が活性化され、次にこのwinglessタンパク質が分泌されて、隣接するhedgehog分泌細胞との逆方向のシグナリングを更に強化する。Wnt/Wingless−HedgeHog相互シグナリングプロセスは、こうして、脊椎動物及び無脊椎動物の発育において、互いに隣接する2つの細胞の分化決定を容易にする。この結果、片方の組織がHedgeHogタンパク質を分泌する一方で、他方の組織がWinglessを生成している分化境界の安定が図られる。更に、細胞表面は、ある細胞を、別の細胞と細胞外基質とに分化接着させることにより、発育及びホメオスタシスにおける非常に重要な役割を担っている。更に、分化性の細胞接着が起こった後は、Wnt/Wingless−HedgeHogプロセスにより、隣接する細胞層間のシグナリングが容易に継続される。
【0012】
このWnt/Wingless境界は、ショウジョウバエの体節及び外肢及び哺乳類の脳及び四肢区画の生成に不可欠である(Ingham (1994) Curr Biol 4: 1;Niswander他(1994) Nature 371: 609; Wilder及び Perrimon (1995) Development 121: 477)。アフリカツメガエルでは、frizzled−2受容体(xfz2)が、眼原基及び耳胞への原腸胚形成の後に高度に発現し(Deardorff及びKlein (1999) Mech Dev 87: 229)、またニワトリでは、特殊なWnt遺伝子ファミリーメンバーであるWntl3が、増殖期の水晶体上皮並びに毛様体縁の色素上皮層及び無色素上皮層において発現することが示されている(Jasoni他(1999) Dev Dyn 215: 215)。Wnt/Wingless−Hedgehog相互経路は、正常に分化した体組織の維持においてもある役割を果たすのかもしれない。例えば、ヒトでは、体組織中のpatched遺伝子の散在性の機能喪失型突然変異が、最もよく見受けられる種類のヒトの癌である基底細胞癌を引き起こす。更に、patched遺伝子の遺伝性の突然変異により、肋骨及び頭蓋顔面の変性を含めた発育異常を特徴とする常染色体優性型の状態である基底細胞母斑症候群及び悪性腫瘍が引き起こされる(Hahn他(1996)Cell 85: 841; Johnson他(1996) Science 272: 1668)。
【0013】
最近、哺乳類のWnt受容体であるFrizzledと相同な、分泌または可溶性frizzled関連タンパク質5(SFRP5)と名付けられたタンパク質が、脊椎動物の網膜色素上皮(RPE)によって選択的に発現されることが示されている(Chang他(1999) Hum Mol Genet 8: 575)。
【0014】
更に、別のSFRPであるSFRP2が、内顆粒層の細胞によって特異的に発現されることが示されている。この結果、網膜の光受容細胞が、SFRP分子の互いに逆方向の2つの勾配に曝される。frizzled関連タンパク質には、膜貫通ドメインが含まれないため、これらのタンパク質は、正常な7つの膜透過Frizzled受容体を介してWntシグナリングを妨害する受容体の分泌された可溶型であると考えられる。更に、血管内皮及び様々な上皮において高度に発現されるsFRPであるFrzAは、Wnt−1タンパク質に特異的に結合することにより、Frizzled受容体を介してWnt−1シグナリングを遮断する(Dennis他(1999) J Cell Sci 112: 3815)。
【0015】
2.発明の概要
一実施態様においては、本発明は、被験体が緑内障に罹患しているか又は易罹患性であるか否かを調べるための新規な方法及びキットを提供する。一実施例においては、前記方法は、Frizzled関連タンパク質(FRP)か、wingless(Wnt)シグナリング経路成分か、Wntシグナリングにより活性化された遺伝子か、又はWntシグナリングにより活性化された遺伝子の遺伝子産物か、の相対的なレベル又は活性を調べることに基づく。好適な複数の実施例においては、被験体から得た小柱網細胞についてのアッセイを実施する。前記方法には、適切な細胞中で、(i)Frizzled関連タンパク質(FRP−1)又はWntシグナリング成分をコードしている遺伝子或いはWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子の突然変異;(ii)FRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、の誤った発現;或いは(iii)FRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、を制御するプロモータの誤り又は突然変異であって、異常な発現の原因となる誤り又は突然変異、のうちの少なくとも1つを特徴とする遺伝子の損傷の有無を検出することが含まれてもよい。
【0016】
特に好適な複数の実施例においては、診断的方法に、(a)野生型のFRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、からのヌクレオチドの1つ又は複数の欠失;(b)野生型のFRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、へのヌクレオチドの1つ又は複数の付加;(c)野生型のFRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、のヌクレオチドの1つ又は複数の置換;(d)野生型のFRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、の染色体全体の再配列;(e)FRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、のメッセンジャーRNA(mRNA)転写産物のレベルの変化;(f)FRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、のmRNA転写産物の非野生型スプライシングパターンの存在;(g)FRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、の異常なレベル又は活性、のうちの少なくとも1つの存在を確認することが含まれる。
【0017】
例えば、遺伝子の損傷を、(i)FRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子(野生型又は突然変異体)か、又はこれらの断片か、のセンス又はアンチセンス配列か、或いはFRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、の5’側又は3'側に天然にフランキングしている配列か、とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドからなるプローブ又はプライマを提供することと;(ii)前記プローブ又はプライマを、被験体から得た生体試料を含有する適切な核酸と接触させることと;(iii)前記プローブ又はプライマを前記核酸とハイブリダイズさせることによって、遺伝子の損傷の有無を検出することと、によって検出してもよい。好適な一実施例においては、診断的方法及び/又はキットが、突然変異を持つ可能性のあるFRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、の少なくとも一領域を(例えばPCR又はLCRによって)増幅するためのプライマのセットと、前記増幅産物の、正常な野生型をコードしている配列からの突然変異又はこれらの発現レベルの違いを分析するための手段と、を利用してもよい。別の好適な一実施例においては、診断的方法及び/又はキットが、適切にストリンジェントな条件下で生体試料中の相補な核酸配列とハイブリダイズする能力を調べるためのプローブを利用してもよい。ここで、野生型のFRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、からなるプローブが試料核酸とハイブリダイズできない場合には、前記試料核酸中に突然変異が存在することが示される;又は、突然変異したFRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、からなるプローブが試料核酸とハイブリダイズできる場合には、前記試料核酸中に突然変異が存在することが示される。別の好適な一実施例においては、FRPか、Wntシグナリング成分か、又はWntシグナリングにより発現活性化される遺伝子か、のタンパク質レベル又は活性を、免疫検出法及び各種の生化学的テストを含めた様々な方法で検出してもよい。
【0018】
ここに記載のアッセイ及びキットを用いて得られた情報は、(単独で、又は緑内障の発生に寄与する別の遺伝的障害又は環境上の要因と組み合わせて)無症状の被験体が緑内障に罹患しているか又は易罹患性であるか否かを調べるために有用である。更に、これらの情報を利用して、この障害のより個々に適した予防又は治療を行うことが可能である。
【0019】
別の一実施態様においては、本発明は、試験化合物のスクリーニングを行って、緑内障の治療又は予防のための治療方法を特定するためのインビトロ又はインビボアッセイを提供する。特に好適な複数の実施例においては、これらの治療方法でWntシグナリングを促進する。一実施例においては、前記方法は、以下のステップ:(a)(i)FRP又はWntシグナリングポリペプチドと、(ii)FRP又はWntシグナリングポリペプチドの結合対象と、(iii)試験化合物と、を含有する反応混合物を形成することと、(b)前記FRP又はWntシグナリングポリペプチドと前記結合タンパク質との相互作用を検出することと、からなる結合アッセイである。前記化合物の存在下で、前記FRP又はWntシグナリングポリペプチドと前記結合タンパク質との相互作用に統計学上有意な変化(増強又は阻害)が生じた場合には、Wntシグナリングに対するアゴニスト(ミメティック又は増強物質)又はアンタゴニスト(阻害物質)が存在する可能性が示される。反応混合物は、例えば再構成されたタンパク質混合物又は細胞溶解産物などの無細胞タンパク質試料、培養された細胞系、或いは前記結合対象を組換えによって発現している異種核酸を含有する組換え細胞であってもよい。
【0020】
更に別の例示的な一実施例は、試験化合物をスクリーニングして、小柱網中でWntシグナリングにより制御される遺伝子のWntシグナリング及び/又は発現の速度を促進又は増加させる物質を特定するためのアッセイを提供する。一実施例においては、スクリーニングアッセイに、高移動度群(HMG)タンパク質(例えばリンパ系増強因子/T細胞因子)により制御されるプロモータに作用可能に結合したレポータ遺伝子でトランスフェクトした細胞を試験化合物と接触させ、前記レポータ遺伝子の発現レベルを調べることが含まれる。前記レポータ遺伝子が、例えば色、蛍光、発光、細胞の生存力、細胞の栄養要求の軽減力、細胞増殖力及び薬剤抵抗性などの検出可能なシグナルを増加させる遺伝子産物をコードしてもよい。例えば、レポータ遺伝子が、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ及びアルカリホスファターゼからなる群より選択される遺伝子産物をコードしてもよい。
【0021】
更なる一実施例においては、本発明は、(例えば小柱網細胞などの)適切な細胞を、Wntシグナリングに関与するか又はこれにより制御される小柱網遺伝子の発現を促進する有効量の化合物と接触させることによって緑内障を治療する方法に関する。好適な化合物が、小分子、(アンチセンス又はトリプレックス分子及びリボザイムを含めた)核酸、タンパク質、ペプチド又はペプチドミメティックであってもよい。特に好適な化合物は、Frizzle関連タンパク質(FRP)アンタゴニストである。特に好適なアンタゴニストは、細胞内で発現されるFRPのレベルを阻害するか又は減少させるアンチセンス、リボザイム又はトリプレックス分子である。
【0022】
その他の好適なFRPアンタゴニストは、WntへのFRPの結合を減少させるか又は阻害する抗体である。
【0023】
本発明のその他の特長及び利点は、以下の詳細な説明及び請求項から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】図1Aは、ヒトFrizzle関連タンパク質(FRP−1)(Seq ID NO.1)のcDNA配列を示す。
【図1B】図1Bは、ヒトFrizzle関連タンパク質(FRP−1)(Seq ID NO.1)のcDNA配列を示す。
【図2】図2は、ヒトFRP−1のアミノ酸配列を示す。
【図3】図3は、Wntシグナル形質導入経路を概略的に図示したものである。図3(a)は、FRPがWntに結合することで遺伝子発現が阻害される様子を示す。図3(b)はWntによって遺伝子発現が刺激される様子を示す。Wntがfrizzledタンパク質(Fz)に結合することで、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)のタンパク質キナーゼC(APC)への結合を妨害するdisheveled(Dsh)が活性化され、この結果、遺伝子発現を促進する転写因子であるT細胞因子(TCF)との相互作用を容易にするベータカテニンが蓄積される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
4.発明の詳細な説明
4.1.総論
概括すると、本発明は、緑内障患者の小柱網(TM)では、frizzled関連タンパク質−1(FRP−1)が上方調節されるという研究結果に基づいている。束縛されることを望むわけではないが、Wntシグナリング経路は、TM中で図3(b)に図示するように、小柱網細胞の重要な機能を調節すべく作用すると考えられ、また、FRP−1は、図3(a)に図示するように、正常なWntシグナリングを阻害することにより、TM細胞の機能を妨害すると考えられる。
【0026】
4.2 定義
本明細書、例及び請求項で使用される用語及び文言の意味を、参考のために下記に記す。
【0027】
ここで使用される「異常な」という用語は、遺伝子産物レベルまたは生物活性の、緑内障性の組織または細胞には見受けられるが非緑内障性の組織または細胞には見受けられない変化を指すことを意図されている。例えば、frizzle関連タンパク質遺伝子産物のレベルは、緑内障患者から得た緑内障性の小柱網細胞においては異常に高いが、正常な患者から得た非緑内障性の小柱網細胞ではそうではない。更に、Wnt経路成分の生物活性は、正常な患者から得た小柱網細胞において異常に低い。
【0028】
FRPなどのポリペプチドの活性について使用される「異常な活性」という用語は、野生型のまたは天然のポリペプチドの活性とは異なる、または、健康な被験体のポリペプチドの活性とは異なる活性を言う。あるポリペプチドの活性は、その天然の相当物の活性よりも強い場合に、異常であると言える。または、ある活性は、その天然の相当物の活性と比較して弱いか、または欠如している場合に、異常であると言える。異常な活性は、活性の変化であってもよい。例えば、異常なポリペプチドは、異なる標的ペプチドと相互作用しうる。ある細胞は、FRPをコードする遺伝子の発現が過剰であるかまたは不足している場合に、異常なFRP活性を有すると言える。
【0029】
ここで使用する「アゴニスト」という用語は、Wntにより開始される遺伝子発現或いはWntにより制御される遺伝子によりコードされるタンパク質又はWntシグナリング経路中のタンパク質によりコードされるタンパク質のレベルまたは活性を、直接に又は間接に促進、増補又は強化する物質を言う。
【0030】
ここで「対立遺伝子変異型」と互換可能に用いられる「対立遺伝子」という用語は、遺伝子又はその一部分の変異型を言う。複数の対立遺伝子が、複数の相同染色体の同じ遺伝子座又は位置を占めている。ある被験体が2つの同一の対立遺伝子又は遺伝子を有する場合に、その被験体は、その遺伝子又は対立遺伝子について同型接合であると言う。ある被験体が2つの異なる対立遺伝子又は遺伝子を有する場合に、その被験体は、その遺伝子について異型接合であると言う。ある遺伝子の複数の対立遺伝子の変異は、ヌクレオチドの置換、欠失又は挿入を含む単一の又は複数のヌクレオチド変異であってもよい。また、ある遺伝子の対立遺伝子は、突然変異を含む一遺伝子型であってもよい。
【0031】
ここで使用される「アンタゴニスト」という用語は、Wntにより開始される遺伝子発現、或いはWntにより制御される遺伝子によりコードされるタンパク質またはWntシグナリング経路中の遺伝子またはタンパク質のレベルまたは活性を、直接に又は間接に妨害、抑制又は弱める物質を言う。
【0032】
ここで使用される「結合対象」という用語は、非共有結合によって特定の遺伝子産物と相互作用する物質組成を言う。例えば、frizzled関連遺伝子産物の「結合対象」には、frizzled関連タンパク質遺伝子mRNAと相互作用するFRP−1アンチセンスポリヌクレオチドなどの物質組成及び、frizzle関連タンパク質ポリペプチドと相互作用するWntポリペプチドなどの組成が含まれる。
【0033】
ここで使用される「生物活性断片」という用語は、全長ポリペプチドの断片を指し、この断片は、対応する全長野生型ポリペプチドの活性を特異的に模倣するか又はこれに拮抗する。
【0034】
「細胞」、「宿主細胞」又は「組換え宿主細胞」という用語は、ここでは互換可能に使用され、特定の被験体細胞のみならず、そのような細胞の後代又は潜在的後代も言う。突然変異又は環境上の影響により後代において何らかの改変が起こる可能性があるため、そのような後代は親細胞と実際には同一でなくてもよいが、ここで使用される用語の範疇には含まれるものとする。
【0035】
「キメラポリペプチド」又は「融合ポリペプチド」は、例えば被験体のFRPポリペプチドのうちの1つをコードする第1のアミノ酸配列と、FRPポリペプチドのいかなるドメインとも異なり、実質上相同でない(例えばポリペプチド部分などの)ドメインを定義する第2のアミノ酸配列とが融合したものである。キメラポリペプチドは、前記第1のポリペプチドも発現している生物に(たとえ異なるポリペプチドにおいてであっても)見受けられる、異なるドメインを有してもよいし、又は、異なる種類の生物によって発現されるポリペプチド構造の「種間」、「遺伝子間」などの融合であってもよい。一般には、融合ポリペプチドは、一般式X−FRP−Yによって表されるが、ここでFRPはFRPポリペプチドに由来するポリペプチドの一部分を表し、X及びYは、独立に欠如しているか、又は天然に発生する変異型を含めた、生物中のFRP配列とは関係のないアミノ酸配列を表す。
【0036】
「送達複合体」は、(遺伝子、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドの標的細胞表面への結合親和性を高める、及び/又は標的細胞による細胞内又は核内への取り込みを増加させる分子などの)ターゲティング手段を意味するものとする。ターゲティング手段の例には:(コレステロールなどの)ステロール、(カチオン脂質、ヴィロソーム又はリポゾームなどの)脂質、(アデノウイルス、アデノ関連性ウイルス及びレトロウイルスなどの)ウイルス、或いは(標的細胞特異的受容体によって認識されるリガンドなどの)標的細胞特異的結合物質が含まれる。好適な複合体は、標的細胞内への取り込みに先立つ大幅な分離を防止できる程度に、インビボで十分に安定である。しかしながら、前記複合体は、遺伝子、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドが機能可能な形で放出されるように、適切な条件下で細胞内で切断可能である。
【0037】
周知のように、遺伝子は、ある個体のゲノム中に、単一でも複数のコピーとしても存在しうる。そのような複数の複製遺伝子は、同一である場合もあるし、又は、ヌクレオチドの置換、付加、逆位又は欠失を含めたいくつかの修飾を有する場合もあるが、これらの修飾は全て、実質上同じ活性を有する複数のポリペプチドをコードする。「FRPポリペプチドをコードするDNA」という用語は、従って、ある特定の個体中の1つ又は複数の遺伝子を指してもよい。更に、複数の生物個体間で1つ又は複数のヌクレオチド配列が異なる場合があり、これを対立遺伝子と呼ぶ。同じ生物活性を有するポリペプチドをコードしても、そのような対立遺伝子の相違によって、コードされたポリペプチドのアミノ酸配列の相違がその結果生じる場合もあるし、生じない場合もある。
【0038】
「Frizzled関連タンパク質(FRP)」は、Frizzledタンパク質の細胞外リガンド結合ドメインと類似した分泌タンパク質のファミリーのいかなるメンバーであってもよい。FRPは、膜貫通ドメインを持たず、従ってWntタンパク質の優性阻害受容体として振る舞うように見えることから、分泌された又は可溶性のfrizzled関連タンパク質(sFRP)とも言われる。FRPは、ヒト分泌frizzled関連タンパク質をコードする遺伝子Frz−1(GenBank受託番号AF056087);ヒト分泌frizzled関連タンパク質をコードする遺伝子SFRP5(GenBank受託番号AF117758);ヒトFrzB遺伝子(GenBank受託番号U24163);及びアフリカツメガエルFrzA遺伝子(GenBan受託番号AF049908)を含めた多くの異なる脊椎動物遺伝子によりコードされる。
【0039】
ここで使用される「緑内障」という用語は、房水の流出路の閉塞による眼内圧の亢進により(慢性又は開放隅角緑内障)、或いは水晶体に対する虹彩の圧力により(急性又は閉塞隅角緑内障)引き起こされることの多い、眼神経頭の特徴的な変性と視野欠損とを特長とする一群の眼疾を言う。
【0040】
「相同性」又は「同一性」又は「類似性」は、2つのペプチド又は2つの核酸分子間の配列の類似を言う。相同性は、比較のために位置合せすることの可能な各配列中の位置を比較することにより、調べることができる。比較した配列のある位置が同じ塩基又はアミノ酸で占められている場合、これらの分子はその位置においては同一である。複数の核酸配列間の相同性又は同一性又は類似性の程度は、これらの核酸配列の共通の位置における同一の又は一致するヌクレオチドの数の関数である。複数のアミノ酸配列の同一性の程度は、これらのアミノ酸配列の共通の位置における同一のアミノ酸の数の関数である。複数のアミノ酸配列の相同性又は類似性の程度は、これらのアミノ酸配列の共通の位置における、構造上関連したアミノ酸の数の関数である。2つの核酸又はポリペプチド配列間のパーセンテージ相同性は、当業で周知の(例えば、http://www. ncbi. nlm. nih. gov/BLAST/で入手可能なBLAST配列相同性ソフトウェアによって提供されているような)幾つかの数学的アルゴリズムのうちのいずれを用いても求めることが可能である。「関連性のない」又は「非相同な」複数の配列の同一性は、本発明のFRP配列のうちの一つの場合、40%未満であり、好適には25%未満である。
【0041】
ここで使用される「相互作用」という用語は、例えば、酵母2ハイブリッド法を用いて検出可能であるような、複数の分子間の検出可能な相互作用を包含するものとして意図されている。相互作用するという用語は、複数の分子間の「結合」相互作用をも意味する。相互作用は、タンパク質とタンパク質、タンパク質と核酸又は核酸と核酸の間の天然の相互作用であってもよい。
【0042】
ここでDNA又はRNAのような核酸に関して使用される「単離された」という用語は、天然の巨大分子中に存在する他のDNA又はRNAからそれぞれ単離された分子を指す。例えば、被験体FRPポリペプチドのうちの1つをコードする単離された核酸には、好適には、天然ではゲノムDNA内のIL−1遺伝子を直接フランキングする核酸配列が10キロベース(kb)以下含まれ、より好適にはそのような天然に発生するフランキング配列が5kb以下含まれ、最も好適にはそのような天然に発生するフランキング配列が1.5kb未満含まれる。ここで使用される単離されたという用語は、細胞物質、ウィルス性物質又は組換えDNA法による作製時の培地、或いは、化学的合成時の化学的前駆物質又はその他の化学物質を概ね含まない核酸又はペプチドも指す。更に、「単離された核酸」は、断片として天然に発生したのではなく、かつ自然状態では発見されない核酸断片を包含するものとして意図されている。ここでは「単離された」という用語は、他の細胞タンパク質から単離されたポリペプチドをも指して使用され、精製ポリペプチドと組換えポリペプチドとの双方を包含するものとして意図されている。
【0043】
ここで使用する「変調」という用語は、上方調節(即ち(例えば作用又は強化による)活性化又は刺激)と、下方調節(即ち(例えば拮抗、減少又は阻害による)阻害又は抑制)との双方を言う。
【0044】
「突然変異遺伝子」は、ある突然変異を持たない被験体に対して、その突然変異を持つ被験体の表現型を変化させることの可能な、遺伝子の対立遺伝子型を言う。被験体がこの突然変異により表現型を変化させるためには同型接合体でなければならない場合には、この突然変異は劣性であると称される。突然変異した遺伝子の複製1個のみで被験体の表現型を変化させられる場合は、この突然変異は優性であると称される。被験体が突然変異した遺伝子の複製を1個持っており、かつその表現型が、(その遺伝子に関して)同型接合体である被験体の表現型と異型接合体である被験体の表現型との中間に当たる場合には、この突然変異は共優性であると称される。
【0045】
本発明の「ヒト以外の動物」には、齧歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ヤギなどの哺乳動物が含まれる。好適なヒト以外の動物は、ラット及びマウスを含めた齧歯類であり、最も好適にはマウスであるが、アフリカツメガエル属のようなトランスジェニック両生類やトランスジェニックニワトリも、例えば胚形成及び組織形成に影響を与えうる物質を理解し特定する上で、重要な役割を果たすことが可能であろう。「キメラ動物」という用語は、ここでは組換え遺伝子を持つ、又は全てではないが一部の細胞で組換え遺伝子が発現した動物を指すのに用いられる。「組織特異的キメラ動物」という用語は、組換え遺伝子のうちの1つが、ある組織のみにおいて存在し及び/又は発現し、又は破壊されていることを示す。
【0046】
ここで使用される「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)及び適切な場合にはリボ核酸(RNA)などのポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを指す。この用語はまた、その等価物として、ヌクレオチド類似体及び、記載した実施例に適用可能である場合には、一本鎖(センス又はアンチセンス)及び二本鎖ポリヌクレオチドから作製されたRNA又はDNAのうちいずれかの類似体をも包含するものとして理解されるべきである。
【0047】
「SEQ ID NO.xで表されるヌクレオチド配列と相補なヌクレオチド配列」という用語は、SEQ ID NO.xを有する核酸鎖と相補な鎖のヌクレオチド配列を言う。「相補な鎖」という用語は、ここでは「補体」という用語と互換可能に用いられる。核酸鎖の補体は、鎖の補体であってもよいし、又はコードしない鎖の補体であってもよい。二本鎖核酸の場合は、SEQ ID NO.xを有する核酸の補体は、SEQ ID NO.xを有する鎖の相補鎖又はSEQ ID NO.xの相補鎖のヌクレオチド配列を有する任意の核酸を言う。ヌクレオチド配列SEQ ID NO.xを有する一本鎖核酸の場合は、この核酸の補体は、SEQ ID NO.xと相補なヌクレオチド配列を有する核酸である。ヌクレオチド配列とその相補配列とは、常に5’から3’方向で表される。
【0048】
「多型」という用語は、複数の遺伝子型又は(例えば対立遺伝子変異型などの)その一部分が共存することを言う。少なくとも2つの異なる型が存在する、即ち2つの異なるヌクレオチド配列が存在する遺伝子の一部分を、「遺伝子の多型領域」と言う。
【0049】
多型領域は単一のヌクレオチドであってもよく、その種類は対立遺伝子の種類により異なる。多型領域が複数のヌクレオチドの長さであってもよい。
【0050】
「多型遺伝子」は、少なくとも1つの多型領域を有する遺伝子を言う。
【0051】
ここで使用される「プロモータ」という用語は、そのプロモータに作用可能に連鎖した、選択されたDNA配列の発現を調節し、かつその選択されたDNA配列を細胞内で発現させるDNA配列を意味する。この用語には、「組織特異的」プロモータ、即ち、選択されたDNA配列を(例えば特定の組織の細胞などの)特定の細胞においてのみ発現させるプロモータも包含される。この用語には、選択されたDNA配列を、主としてある組織において発現させるが、他の組織中でも発現させる「漏出性の」プロモータも包含される。この用語には、非組織特異的なプロモータ及び、構成的に発現するプロモータ又は誘導性の(即ち発現レベルを調節可能な)プロモータも包含される。
【0052】
「タンパク質」、「ポリペプチド」及び「ペプチド」という用語は、ここでアミノ酸を含有する遺伝子産物を指す場合は、互換可能に用いられる。
【0053】
「組換えタンパク質」という用語は、組換えDNA技術を用いて形成された本発明のポリペプチドを指す。この技術では、概略すると、FRPポリペプチドをコードするDNAを適切な発現ベクター中に挿入し、これを用いて宿主細胞を形質転換させて、異種タンパク質を形成する。更に、組換えFRP遺伝子に関して用いられる「に由来する」という文言は、「組換えタンパク質」の意味する範囲内で、天然のFRPポリペプチドのアミノ酸配列又はそのようなアミノ酸に類似したアミノ酸配列であるが、このポリペプチドの天然に発生する型の置換及び欠失(切断を含む)を含めた変異によって発生したアミノ酸配列を有するこれらのタンパク質を包含することを意図されている。
【0054】
ここで使用される「小分子」は、分子量約5kD未満であり、最も好適には約4kD未満である組成物を指すことを意図されている。小分子は、核酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチドミメティック、糖、脂質或いはその他の有機(炭素を含有する)又は無機分子であってもよい。多くの製薬会社が、真菌類、細菌類又は藻類の抽出物であることが多い化学的及び/又は生物学的混合物の膨大なライブラリを所有しているが、このようなライブラリを本発明のアッセイのいずれかによってスクリーニングして、FRP又はWntシグナリングの生物活性を変調させる化合物を特定してもよい。
【0055】
ここで使用される「特異的にハイブリダイズする」又は「特異的に検出する」という用語は、核酸分子が脊椎動物の少なくとも約6個、約12個、約20個、約30個、約50個、約100個、約150個、約200個、約300個、約350個、約400個又は約425個の連続したヌクレオチド、好適にはFRP遺伝子とハイブリダイズする能力を指す。
【0056】
「転写調節配列」は、開始シグナル、エンハンサ及びプロモータなどの、これらが作用可能に連鎖しているタンパク質コード配列の転写を誘導する、又は制御するDNA配列を総称して本明細書中で使用される用語である。
【0057】
ここで使用される「トランスフェクション」という用語は、核酸を、例えば発現ベクターを介することなどにより、レシピエント細胞中に導入する、核酸が媒介する遺伝子の移入を言う。ここで使用される「形質転換」は、細胞が外来のDNA又はRNAを取り込んだ結果、その細胞の遺伝子型が変化し、このために、例えばその形質転換した細胞があるFRPポリペプチドの組換え型を発現するか、又は、移入した遺伝子からのアンチセンス発現の場合には、そのFRPポリペプチドの天然発生型の発現が妨害されるプロセスを言う。
【0058】
ここで使用される「導入遺伝子」という用語は、細胞内に導入された、(例えばFRPポリペプチドのうちの1つ又はそのアンチセンス転写産物をコードする)核酸配列を意味する。導入遺伝子は、導入されるトランスジェニック動物又は細胞とは部分的に又は全体的に異種である、即ち外生のものであってもよいし、或いは、導入されるトランスジェニック動物又は細胞の内在遺伝子と同種的であってもよいが、その動物のゲノムに挿入される際に、挿入される細胞のゲノムを変化させるような方法で挿入されるか、又は挿入されるようデザインされている(即ち、天然の遺伝子の位置とは異なる位置に挿入されるか、又は挿入の結果ノックアウトが起こる)。また、導入遺伝子が、エピゾームの形で細胞内に存在してもよい。導入遺伝子に、1つ又はそれ以上の転写調節配列及び、選択された核酸の最適な発現に必要であると思われるイントロンなどの他の任意の核酸が含まれてもよい。
【0059】
「トランスジェニック動物」は、その動物の1つ又はそれ以上の細胞が、当業者に周知の遺伝子導入技術などにより人工的に導入された異種の核酸を有する、好適にはヒト以外の哺乳類、鳥類又は両生類である任意の動物を指す。
【0060】
核酸は、顕微注射又は組換えウィルスへの感染などの計画的遺伝子操作により、細胞の前駆物質内に直接に又は間接に導入されることにより、細胞に導入される。遺伝子操作という用語は、組換えDNA分子の導入を指すものであり、従来の交雑育種や体外受精は含まれない。この分子を染色体中に組み込んでもよいし、又はこの分子が染色体外でDNA複製を行ってもよい。
【0061】
ここで使用される「治療」という用語は、ある状態又は疾患の少なくとも1つの症状を治癒及び緩和することを包含するものとして意図されている。
【0062】
「ベクター」という用語は、自身が連結された別の核酸を運搬することの可能な核酸分子を指す。好適なベクターの一種はエピゾーム、即ち染色体外複製が可能な核酸である。好適なベクターは、自身が連結された核酸の自律的な複製及び/又は発現の可能なベクターである。操作により連結された先の遺伝子の発現を命令できるベクターを、ここでは「発現ベクター」と言う。一般に、組換えDNA技術において使用される発現ベクターは、ベクターの形では染色体と結合しない環状二本鎖DNAループを一般に指す「プラスミド」の形を取ることが多い。プラスミドは、ベクターの最も一般的に使用される形であるので、本明細書中では、「プラスミド」と「ベクター」とは互換可能に用いられる。ただし、本発明は、同等の作用を有する、ここで後に当業者に明らかとなる発現ベクターのその他の形も包含することを意図されている。
【0063】
「野生型対立遺伝子」という用語は、被験体内に2つの複製が存在すると野生型表現型が発現する対立遺伝子を指す。ある遺伝子においてあるヌクレオチドが変化しても、そのヌクレオチド変化を有するその遺伝子の複製を2つ有する被験体の表現型は変化しない場合があるため、ある特定の遺伝子には複数の異なる野生型対立遺伝子が存在しうる。
【0064】
「Wntシグナリング経路成分」は、Wntシグナリング経路に関与したタンパク質をコードするタンパク質又は遺伝子を指す。そのようなタンパク質の例には、Wnt、frizzled(Fz)、disheveled(Dsh)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)、プロテインキナーゼC(APC)、β−カテニン及び高移動度群(HMG)タンパク質(例えばLEF/TCF(リンパ系増強因子/T細胞因子))が含まれる。
【0065】
「Wntタンパク質」は、哺乳類のWnt3a、Wnt5a及びWnt5bを含めた多数の遺伝子群によりコードされるタンパク質を指す。
【0066】
4.3.緑内障の予想及び診断
緑内障に罹患した被験体のFRPレベルが高いことがあるという、現在開示されている研究結果に基づき、様々な緑内障診断方法を開発することが可能である。いくつかの診断方法では、FRPレベルを不適切に高くする核酸配列変異を検出することが可能である。これらの診断方法を、図1ABに示すヒトFRPcDNAの周知の核酸配列又は図2に示すコードされたアミノ酸配列に基づいて開発してもよい。別の診断方法を、ヒトFRPのゲノム配列又はFRP発現を制御する遺伝子の配列に基づいて開発してもよい。更に別の診断方法を、FRP遺伝子発現レベルのmRNAレベルでの変化に基づいて開発してもよい。ヒトFRPのゲノム配列を含むプラスミドが、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに に寄託されており、ATCC指定番号No. で登録されている。
【0067】
別の診断方法では、Wntシグナリングタンパク質又はWntシグナリングタンパク質をコードする遺伝子の活性又はレベルを検出可能である。例えば、frizzled(Fz)、disheveled(Dsh)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)、プロテインキナーゼC(APC)、ベータカテニン、高移動度群(HMG)タンパク質(例えばLEF/TCF(リンパ系増強因子/T細胞因子))及びhedgehog(Hh)を含めたWntシグナリング成分を不適切に機能させる変異などの、不適切に低いWntシグナリング活性を検出する診断方法を開発してもよい。更に、核酸を使用しない方法を用いて、これらのWntシグナリングタンパク質のいずれかの量又は特異的活性の変化を検出してもよい。
【0068】
現在、様々な手段を用いて、遺伝子及び遺伝子産物の異常なレベル又は活性を検出することが可能である。例えば、様々な方法で、ヒト多型遺伝子座における特定の対立遺伝子を検出することが可能である。特定の多型対立遺伝子を検出する好適な方法は、部分的には、その多型の分子レベルでの性質によって異なるであろう。例えば、多型遺伝子座の様々な対立遺伝子型が、DNAの一塩基で異なる場合がある。遺伝子変異の原因の大部分は、そのような一塩基多型(又はSNP)であり、全ての既知の多型の約80%を占め、また、ヒトゲノム中で、平均1000塩基対に1つの割合で存在すると推測される。SNPで二対立遺伝子が多く存在するのは、2つの異なる型のみである(ただし、理論上は、DNAに見受けられる4つの異なるヌクレオチド塩基に対応する4つの異なるSNP型が存在しうる)。いずれにしても、SNPは他の多型よりも変異の安定度が高いので、マーカーと未知の変異体との間の連鎖不平衡を利用して病原性変異をマッピングする研究に好適である。更に、SNPには、通常2つの対立遺伝子しかないことから、これらを、長さを測定するのではなく単純なプラス/マイナスアッセイによって遺伝子タイピングすることが可能であり、このためアッセイの自動化がより容易である。
【0069】
様々な手段を用いて、個体中の特定の一塩基多型対立遺伝子の存在を検出することが可能である。この分野における進歩によって、大規模SNA遺伝子タイピングを、迅速、容易かつ安価に行うことが可能となった。ごく最近では、例えば、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション(DASH)、マイクロプレートアレイ対角線ゲル電気泳動法(MADGE)、ピロシークエンス法、オリゴヌクレオチド特異的ライゲーション、TaqMan法及び、例えばアフィメトリックスSNAチップなどの様々なDNA「チップ」技術を含めた幾つかの新しい技術が発表されている。これらの方法では、標的遺伝子領域の、典型的にはPCRによる増幅が必要とされる。更に別の新たに開発された幾つかの方法は、侵入的開裂によって小さなシグナル分子を生成した後に質量分析又は固定化パドロックプローブ標識及びローリングサークル増幅を行うものであり、PCRを必要としない。特定の一塩基多型を検出するための、当業で周知のこれらの方法のうち幾つかを、以下に要約した。本発明の方法は、全ての実施可能な方法を包含するものして理解される。
【0070】
一塩基多型の分析を容易にする複数の方法が開発されている。一実施例においては、例えばMundy,C.R.(米国特許第4,656,127号)に開示されている特殊なエキソヌクレアーゼ耐性ヌクレオチドを用いて一塩基多型を検出することが可能である。この方法によれば、多型部位の直前の3’側にある対立遺伝子配列と相補なプライマを、特定の動物又はヒトから得た標的分子とハイブリダイズさせる。標的分子の多型部位に、この特定のエキソヌクレアーゼ耐性ヌクレオチド誘導体と相補なヌクレオチドが含まれていると、この誘導体が前記ハイブリダイズされたプライマの末端に組み込まれる。このような組み込みによって、プライマがエキソヌクレアーゼに対して耐性となり、このために検出が可能となる。試料のエキソヌクレアーゼ耐性誘導体の種類が周知であるので、このプライマがエキソヌクレアーゼ耐性となったことは、標的分子の多型部位に存在するヌクレオチドが、反応で使用したヌクレオチド誘導体のヌクレオチドと相補であったことを意味する。この方法は、大量の外来の配列データの測定を必要としないという利点を有する。
【0071】
本発明の別の一実施例においては、溶液を用いた方法で多型部位のヌクレオチドの種類を特定する。Cohen,D.他(仏国特許2,650,840;PCT出願No.W091/02087)。米国特許No.4,656,127のMundyの方法と同様に、多型部位の直前の3’側にある対立遺伝子配列と相補なプライマを使用する。この方法では、多型部位のヌクレオチドと相補な場合にはこのプライマの末端に組み込まれる、標識されたジデオキシヌクレオチド誘導体を用いて、この部位のヌクレオチドの種類を特定する。
【0072】
遺伝子ビット分析又はGBA(登録商標)として知られている別の方法が、Goelet,P.他(PCT出願No.92/15712)に記載されている。Goelet,P.他のこの方法では、標識されたターミネータと、多型部位の3’側にある配列と相補なプライマとを組み合わせて使用する。従って、組み込まれた標識付きターミネータは、評価対象の標的分子の多型部位に存在するヌクレオチドと相補であり、これにより判定される。Cohen,D.他(仏国特許2,650,840及びPCT出願No.W091/02087)の方法とは異なり、Goelet,P.他の方法は、プライマ又は標的分子を固相に固定化する異種相アッセイであることが望ましい。
【0073】
近年、DNAの多型部位をアッセイするための、プライマの誘導による複数のヌクレオチド組み込み法について述べられている(Komher,J.S.他、Nucl.Acids.Res.17:7779−7784(1989);Sokolov,B.P.、Nucl.Acids Res.18:3671(1990);Syvanen,A.−C.他、Genomics 8: 84−692(1990);Kuppuswamy,M.N.他、Proc.Natl.Acad.Sci.(米国)88:1143−1147(1991);Prezant,T.R.他、Hum.Mutat.1:159−164(1992);Ugozzoli,L.他、GATA 9:107−112(1992);Nyren,P.他、Anal.Biochem.208:171−175(1993))。これら全てが、標識デオキシヌクレオチドの組み込みに基づいて多型部位の塩基間で識別を行うという点が、GBA(登録商標)と異なる。このようなフォーマットでは、シグナルは組み込まれたデオキシヌクレオチドの数に比例するので、同じヌクレオチドの帯の中に多型が出現した場合は、信号が帯の長さに比例しうる(Syvanen,A.−C.他、Amer.J.Hum.Genet.52:46−59(1993))。
【0074】
タンパク質翻訳を本来より早く終わらせてしまう突然変異に関しては、タンパク質切断試験(PTT)により効率的な診断手段が可能である(Roest他、(1993)Hum.Mol.Genet.2:1719−21;van der Luijt他、(1994)Genomics 20:1−4)。PTTでは、最初にRNAを組織から単離して逆転写し、目的部分をPCR増幅する。次に、逆転写PCR産物を鋳型として、RNAポリメラーゼプロモータと真核生物翻訳を開始するための配列とを含有するプライマを用いてネスティッドPCR増幅を行う。目的領域の増幅後、プライマ中に組み込まれた非反復モチーフにより、PCR産物の連続的生体外転写及び翻訳が可能となる。翻訳産物のドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で、切断されたポリペプチドが観察されると、翻訳の時期尚早な終了を引き起こす突然変異の存在が示される。この技術を応用した方法では、対象となる標的領域が単一のエキソンから得られる場合は、(RNAに対して)DNAをPCR鋳型として使用する。
【0075】
ここに記載の診断に用いる核酸試料を得るために、いかなる細胞種又は組織を使用してもよい。好適な一実施例においては、DNA試料を、(例えば静脈穿刺などの)周知の技術で採取された血液や唾液などの体液から得る。又は、(例えば毛髪又は皮膚などの)乾燥試料を用いて核酸検査を行ってもよい。
【0076】
核酸精製を行わなくてもよいように、生体組織検査又は切除により得た患者の(不揮発性の及び/又は凍結した)組織部分を対象として、インシトゥーで直接に診断を行ってもよい。このようなインシトゥー法では、核酸試薬をプローブ及び/又はプライマとして使用してもよい(例えば、Nuovo,G.J.,1992,PCR in situ hybridization: protocols and applications,Raven Press,ニューヨーク、を参照のこと)。
【0077】
主に1つの核酸配列の検出を目的とする方法に加えて、これらのような検出法でプロフィールの評価を行ってもよい。例えば、示差的ディスプレー法、ノーザン分析法及び/又はRT−PCR法を用いて、フィンガープリントプロフィールを得てもよい。
【0078】
好適な検出方法は、緑内障を示唆するWntシグナリング成分中の少なくとも1つの対立遺伝子の領域と重複し、およそ5、10、20、25又は30個のヌクレオチドを突然変異又は多型領域の周囲に有するプローブを利用した、対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーションである。本発明の好適な一実施態様においては、緑内障に関与した他の対立遺伝子変異型と特異的にハイブリダイズすることの可能な複数のプローブを、例えば「チップ」(最高約250,000個のオリゴヌクレオチドを支持可能である)などの固相の支持体に付着させてもよい。オリゴヌクレオチドを、リソグラフィを含めた様々な方法を用いて固形支持体に結合させてもよい。オリゴヌクレオチドを含有するこれらのチップを用いた突然変異検出分析は、「DNAプローブアレイ」とも呼ばれ、例えばCronin他(1996)Human Mutation 7:244に記載されている。一実施態様においては、チップが、遺伝子の少なくとも1つの多型部位における全ての対立遺伝子変異型を含有している。次に、固相支持体を検査核酸と接触させ、特定のプローブとのハイブリダイゼーションを検出する。このように、簡易なハイブリダイゼーション試験で、1つ又はそれ以上の遺伝子の多数の対立遺伝子変異型の種類を判別することが可能である。
【0079】
これらの方法に、分析の前に核酸を増幅するステップが含まれてもよい。増幅法は当業者に周知であり、クローニング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、特定の対立遺伝子のポリメラーゼ連鎖反応(ASA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、ネスティッドPCR、自立的配列複製(Guatelli,J.C.他、Proc.Natl.Sci.USA 87:1874−78,1990)、転写増幅系(Kwoh,D.Y.他、Proc.Natl.Sci.USA 86:1173−77,1989)及びQ−ベータレプリカーゼ(Lizardi,P.M.他、Bio/Technology 6:1197,1988)が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0080】
増幅産物について、サイズ分析、サイズ分析前の制限消化、反応産物中の特定の標識オリゴヌクレオチドプライマの検出、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)ハイブリダイゼーション、対立遺伝子特異的5’エキソヌクレアーゼ検出、シーケンシング、ハイブリダイゼーションなどを含めた様々な方法でアッセイを行ってもよい。
【0081】
PCRに基づく検出手段に、多数のマーカを同時に増幅することが含まれてもよい。例えば、PCRプライマを選択して、サイズが重複していない、同時に分析することの可能な複数のPCR産物を生成させることは、当業者に周知である。又は、それぞれに異なる標識を付けたためにそれぞれを個別に検出可能なプライマを有する複数の異なるマーカを増幅することも可能である。当然のことながら、ハイブリダイゼーションに基づく検出手段によって、一試料内の複数のPCR産物を個別に検出することが可能である。複数のマーカを同時に分析する他の方法は、当業において周知である。
【0082】
単に例示的な一実施例においては、この方法に(i)患者から細胞試料を採取するステップと、(ii)(例えばゲノム、mRNAまたはその両方の)核酸を試料細胞から単離するステップと、(iii)核酸試料を、緑内障を示唆するWntシグナリング成分中の少なくとも1つの対立遺伝子の5’側と3’側とに特異的にハイブリダイズする1つ又はそれ以上のプライマに、この対立遺伝子のハイブリダイゼーション及び増幅が起こるような条件下で接触させるステップと、(iv)増幅産物を検出するステップと、が含まれる。これらの検出方法は、存在する核酸分子の数が非常に少ない場合に、そのような分子を検出するのに特に有用である。
【0083】
当該アッセイの好適な一実施例においては、緑内障を示唆するWntシグナリング成分の異常なレベル又は活性を、制限酵素の切断パターンの変化から特定する。例えば、試料及び対照DNAを単離し、(任意に)増幅し、1つ又はそれ以上の制限エンドヌクレアーゼで消化し、ゲル電気泳動法により断片長サイズを測定する。
【0084】
さらに別の一実施例においては、当業において周知の様々なシーケンシング反応のいずれかを用いて、対立遺伝子の配列を直接に配列決定してもよい。シーケンシング反応の例には、Maxim及びGilbertにより開発された方法((1977)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 74:560)又はSangerにより開発された方法(Sanger他(1977)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 74:5463)に基づく反応が含まれる。また、当該アッセイ(例えばBiotechniques(1995)19:448を参照のこと)を行う場合は、質量分析によるシーケンシング(例えばPCT公報WO94/16101;Cohen他(1996)Adv.Chromatogr.36:127−62及びGriffin他(1993)Appl.Biochem.38:147−59を参照のこと)を含めた、様々な種類の自動シーケンシング法のいずれかを利用してもよいことも企図されている。いくつかの実施例においては、1個、2個又は3個のみの核酸塩基をシーケンシング反応で測定する必要があることが、当業者に明らかとなるであろう。例えば、1個のみの核酸を検出するA−トラックを実施してもよい。
【0085】
さらに別の一実施態様においては、(ヌクレアーゼ、ヒドロキシルアミン又はオスミウム酸及びピペリジン)などの開裂剤からの保護作用を利用して、RNA/RNA又はRNA/DNA又はDNA/DNAヘテロ二本鎖におけるミス対合塩基を検出してもよい(Myers他(1985)Science 230:1242)。概して、「ミス対合開裂」に関する方法においては、最初に、野生型対立遺伝子を含有する(標識した)RNA又はDNAを試料とハイブリダイズすることにより形成されたヘテロ二本鎖を作成する。この二本の鎖になった二本鎖を、対照鎖と試料鎖の塩基対のミス対合のために存在するであろうような、この二本鎖の一本鎖領域を開裂する物質で処理する。例えば、RNA/DNA二本鎖をRNA分解酵素で処理しても、そしてDNA/DNAハイブリッドをS1ヌクレアーゼで処理して、ミス対合領域を酵素分解してもよい。別の複数の実施態様においては、ミス対合領域を分解するために、DNA/DNA二本鎖又はRNA/DNA二本鎖のいずれかを、ヒドロキシルアミン又はオスミウム酸及びピペリジンで処理してもよい。ミス対合領域を分解した後、得られた物質を変性ポリアクリルアミドゲル上でサイズ別に分離させ、変異部位を判定する。例えばCotton他(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA;及びSaleeba他(1992)Methods Enzymol.217:286−295を参照のこと。好適な一実施例においては、対照DNA又はRNAを検出用に標識してもよい。
【0086】
さらに別の一実施例においては、ミス対合開裂反応で、二本鎖DNAにおけるミス対合塩基対を認識する1つ又はそれ以上のタンパク質(「DNAミス対合修復」酵素と呼ばれる)を使用する。例えば、E.コリのmutY酵素は、G/Aミス対合のAを開裂し、HeLa細胞のチミジンDNAグリコシラーゼは、G/Tミス対合のTを開裂する(Hsu他(1994)Carcinogenesis 15:1657−1662)。一実施例によれば、適切なプローブは、検査細胞から得たcDNA又はその他のDNA産物とハイブリダイズする。デュプレックスをDNAミス対合修復酵素で処理し、開裂産物が存在する場合には、これを電気泳動プロトコルなどから検出してもよい。例えば米国特許No.5,459,039を参照のこと。
【0087】
その他の複数の実施例においては、電気泳動移動度の変化を利用して、緑内障を示唆するWntシグナリング成分の異常なレベル又は活性が特定されるであろう。例えば、一本鎖高次構造多型(SSCP)を利用して、変異核酸と野生型核酸との電気泳動移動度の違いを検出してもよい(Orita他(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:2766、またCotton(1993)Mutat.Res.285:125−44;及びHayashi(1992)Genet.Anal.Tech.Appl.9:73−79も参照のこと)。試料及び対照遺伝子座の対立遺伝子の一本鎖DNA断片を変性させた後に、復元する。一本鎖核酸の2次構造は、配列により異なり、その結果生じる電気泳動移動度の変化により、一塩基の変化でも検出することが可能である。DNA断片を標識してもよいし、又は標識プローブで検出してもよい。2次構造が配列の変化に対するより高い感受性を有するRNA(DNAよりも望ましい)を用いることにより、アッセイの感受性を向上させてもよい。好適な一実施態様においては、電気泳動移動度の変化に基づいて二本鎖ヘテロ二本鎖分子を分離させるために、当該方法でヘテロ二本鎖分析を行う(Keen他(1991)Trends Genet.7:5)。
【0088】
さらに別の一実施例においては、対立遺伝子の、変性剤の勾配を有するポリアクリルアミドゲル中の動きを、変性勾配ゲル電気泳動法(DGGE)でアッセイする(Myers他(1985)Nature 313:495)。分析方法としてDGGEを用いる場合には、例えばPCR法で、高温で融解するGCリッチなDNA約40bpのGCクランプを加えることにより、DNAが完全に変性しないように修飾することとなろう。さらなる一実施態様においては、変性剤勾配の代りに温度勾配を用いることにより、対照DNAと試料DNAとの移動度の違いを判別する(Rosenbaum及びReissner(1987)Biophys.Cham.265:12753)。
【0089】
対立遺伝子を検出するためのその他の方法の例には、選択的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、選択的増幅又は選択的プライマ伸長が含まれるが、これらに限定されることはない。例えば、オリゴヌクレオチドプライマを、(例えば対立遺伝子変異型における)既知の突然変異又はヌクレオチド相違が中心に位置するように作成した後に、完全な対が発見された場合にのみハイブリダイゼーションが可能となるような条件下で標的DNAとハイブリダイズさせてもよい(Saiki他(1986)Nature 324:163);Saiki他(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:6230)。このような対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション法を用いて、オリゴヌクレオチドをPCR増幅された標的DNAとハイブリダイズさせる場合には、一回の反応毎に1つの変異又は多型領域を、又は、オリゴヌクレオチドをハイブリダイズ膜に付着させて、標識された標的DNAとハイブリダイズさせる場合には、多数の異なる変異又は多型領域を検査してもよい。
【0090】
又は、選択的PCR増幅に依存する対立遺伝子特異的増幅技術を、本発明と併せて用いてもよい。特定の増幅にプライマとして用いられるオリゴヌクレオチドの当該変異又は多型領域が、(増幅が示差的なハイブリダイゼーションに依存するように)分子の中心に位置していてもよいし(Gibbs他(1989)Nucleic Acid Res.17:2437−2448)、又は、適切な条件下でミス対合を防止するか又はポリメラーゼ伸長を抑制するように、1つのプライマの3’側の末端に位置していてもよい(Prossner(1993)Tibtech 11:238)。加えて、変異部位に新たな制限部位を導入することにより、開裂に基づく検出を行うことが望ましい(Gasparini他(1992)Mol.Cell Probes 6:1)。複数の実施態様においては、増幅が増幅用のTaqリガーゼを用いて行われると考えられる(Barany(1991)Proc.Natl.Acad.Sci USA 88:189)。このような実施例では、5’配列の3’側の末端でのみ完全な対合がある場合にのみ連結が起こるであろうため、増幅の存在又は不在を調べることにより、特定の部位における既知の突然変異の存在を検出することが可能である。
【0091】
別の一実施態様においては、例えば米国特許No.4,998,617及びLandegren他(1988)Science 241:1077−80に記載されているように、オリゴヌクレオチド連結アッセイ(OLA)を用いて対立遺伝子変異型の特定を行う。このOLAプロトコルでは、標的の一本鎖に隣接している2つの配列とハイブリダイズ可能に作成された2つのオリゴヌクレオチドを利用する。これらのオリゴヌクレオチドのうち一方を、例えばビオチン標識した分離マーカと連結させ、他方を検出可能に標識する。標的分子中に正確な相補配列が存在する場合は、これらのオリゴヌクレオチドは、これらの末端が隣接し、連結の基質をなすような方法でハイブリダイズする。こうして連結により、標識されたオリゴヌクレオチドを、アビジン又は別のビオチンリガンドを用いて修復できるようになる。Nickerson,D.A.他は、PCRとOLAとの特性を併せ持つ核酸検出アッセイについて述べている(Nickerson他(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:8923−2)。この方法では、PCRにより標的DNAを指数関数的に増幅させた後に、OLAによる検出を行う。
【0092】
このOLA法に基づいて複数の方法が開発されており、そのような方法を用いて緑内障を示唆するWntシグナリング成分の異常なレベル又は活性を検出してもよい。例えば、米国特許No.5,593,826は、3’−アミノ基と5’−リン酸化オリゴヌクレオチドとを有するオリゴヌクレオチドを利用したOLAにより、ホスホラミデート結合を有する共役体を形成することを開示している。Tobe他((1996)Nucleic Acids Res.24:3728)に記載の別のOLAの例では、OLAとPCRを併用することにより、一つのマイクロタイタウェル内で2つの対立遺伝子のタイピングが可能である。対立遺伝子特異的なプライマのそれぞれを、独自のハプテン、即ちジゴキシゲニン及びフルオレセインで標識することにより、それぞれのOLA反応を、異なる酵素レポータ、アルカリホスファターゼ又はカラシペルオキシダーゼで標識されたハプテン特異的抗体を用いて検出することが可能である。この系では、高スループットのフォーマットを用いて2つの対立遺伝子を検出することが可能であり、この結果、2つの異なる色が生じることとなる。
【0093】
本発明の別の一実施態様は、患者の緑内障性向を検出するためのキットに関する。このキットに、少なくとも1つのWntシグナリング成分の5’側及び3’側とハイブリダイズする5’及び3’オリゴヌクレオチドを含めた、1つ又はそれ以上のオリゴヌクレオチドが含まれてもよい。PCR増幅オリゴヌクレオチドは、以降の分析に便利な大きさのPCR産物を作成するためには、25塩基対から2500塩基対分離れた、好適には100塩基対から500塩基対分離れた塩基対にハイブリダイズすべきである。
【0094】
キットで使用するオリゴヌクレオチドは、例えば合成ヌクレオチド、制限断片、cDNA、合成ペプチド核酸(PNA)などのような様々な天然の及び/又は合成の組成物のうちいずれであってもよい。アッセイのキット及び方法で、標識されたオリゴヌクレオチドを使用して、アッセイでの特定を容易にしてもよい。使用可能な標識の例には、放射線標識、酵素、蛍光性化合物、ストレプトアビジン、アビジン、ビオチン、磁性成分、金属結合成分、抗原又は抗体成分などが含まれる。
【0095】
キットに、DNAサンプリング手段が選択的に含まれていてもよい。DNAサンプリング手段は、当業者に周知であり、フィルタ紙などの下地;Nuleon(登録商標)キット、溶解バッファ、プロテナーゼ溶液などのDNA精製試薬;10倍反応バッファ、熱安定ポリメラーゼ、dNTPなどのPCR試薬;及び、制限酵素、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド、乾燥血液からのネスティッドPCR用の変性オリゴヌクレオチドプライマなどの対立遺伝子検出手段が含まれてもよいが、これらに限定されることはない。
【0096】
4.4 緑内障治療方法のスクリーニングアッセイ
本発明は、緑内障治療方法のスクリーニング方法をさらに提供する。緑内障治療方法は、タンパク質、ペプチド、ペプチドミメティック、小分子及び核酸を含め、いかなる種類の化合物であってもよい。核酸は、例えば、遺伝子、アンチセンス核酸、リボゾーム又はトリプレックス分子であってもよい。本発明の緑内障治療方法は、Wntシグナリング成分活性のアゴニストであってもよいし、又は、FRPもしくはWntシグナリング拮抗活性のアンタゴニストであってもよい。好適なアゴニストには、Wntシグナリング成分又は遺伝子と、Wntシグナリングにより発現を調節されるタンパク質とが含まれる。
【0097】
本発明は、FRPタンパク質によるWntシグナリング遮断を、FRPタンパク質に結合することで妨害することの可能な緑内障治療方法又は、Wntシグナリング成分と結合することでWntシグナリング成分活性を作用させることの可能な治療方法を特定するためのスクリーニング方法を提供する。
【0098】
本発明の化合物を、望ましい化合物の種類及び活性に応じて、様々なアッセイで特定することが可能である。緑内障治療方法の特定に使用可能なアッセイの幾つかを、以下に記す。Wntシグナリングが作用する小柱網遺伝子の活性化に基づいて緑内障治療方法を特定するためのさらなるアッセイをデザインすることは、当業者が実施可能な技術の範囲に含まれる。
【0099】
4.4.1.無細胞アッセイ
無細胞アッセイを、FRP、Wntシグナリング成分又はその結合対象と相互作用可能な化合物の特定に用いてもよい。そのような化合物は、例えばFRP、Wntシグナリング成分又はその結合対象の構造を変化させることにより、その活性を付与する。無細胞アッセイを、FRP又はWntシグナリング成分と、結合対象との間の相互作用を変化させる化合物の特定に用いてもよい。好適な一実施例においては、そのような化合物を特定するための無細胞アッセイを、FRP又はWntシグナリング成分と検査化合物又は検査化合物のライブラリとを含有する反応混合物により、結合対象の存在下又は不在下で行う。検査化合物は、例えば、生物学的に不活性の標的ペプチド又は小分子などの結合対象の誘導体であってもよい。
【0100】
従って、本発明のスクリーニングアッセイの一例には、FRP、Wntシグナリング成分又はその機能性の断片又は結合対象を、検査化合物又は検査化合物のライブラリと接触させ、複合体の形成を検出するステップが含まれる。検出のために、分子を特定のマーカーで標識し、検査化合物又は検査化合物のライブラリを別のマーカーで標識してもよい。次に、培養ステップと洗浄ステップとを経た後に、これら2つの標識のレベルを測定することにより、検査化合物と、FRP、Wntシグナリング成分又はその断片又はその結合対象との相互作用を検出してもよい。洗浄ステップ後に2つの標識が観察されると、相互作用が起こったことが分かる。
【0101】
また、分子間の相互作用を、光学的現象である表面プラスモン共鳴(SPR)を検出するリアルタイムBIA(生物分子相互作用分析、ファーマシア・バイオセンサ AB社)を利用して確認してもよい。検出は、生体特異性境界面における高分子の質量濃度の変化に基づき、標識や相互作用物質を必要としない。一実施態様においては、検査化合物のライブラリを、例えばマイクロフローセルの壁の一面をなすセンサ表面上で固定化させてもよい。FRP、Wntシグナリング成分又はその機能性の断片又はその結合対象を含有する溶液を、前記センサ表面上に連続的に流す。記録されたシグナルに表われる共鳴角度が変化すると、相互作用が起こったことが分かる。この方法の詳細は、例えばファーマシア社のBIAテクノロジー・ハンドブックに記載されている。
【0102】
本発明のその他のスクリーニングアッセイの例には、(a)(i)FRP又はWntシグナリング成分と、(ii)その結合対象と、(iii)検査化合物と、を含有する反応混合物を作製するステップと、(b)前記FRP又はWntシグナリング成分と前記結合対象との相互作用を検出するステップと、が含まれる。FRP又はWntシグナリング成分と結合対象とを、ここに記載するような組換え技術により、又は例えば血漿などの材料から精製することにより、又は化学合成により、作製してもよい。検査化合物の存在下におけるFRP又はWntシグナリング成分と結合対象との相互作用に、検査化合物の不在下での相互作用と比較して統計上有意な変化(増強又は阻害)が見られた場合は、検査化合物に対するFRP又はWntシグナリング生物活性のアゴニスト(ミメティック又は増強物質)或いはアンタゴニスト(阻害物質)が存在する可能性がある。このアッセイの複数の化合物を、同時に接触させてもよい。或いは、最初にFRP又はWntシグナリング成分と検査化合物とを適切な時間接触させた後に、結合対象を反応混合物に加えてもよい。様々な濃度の検査化合物を用いて得られたデータから用量反応曲線を求めることにより、化合物の有効度を評価してもよい。更に、対照アッセイを実施して、比較の基準としてもよい。対照アッセイでは、単離及び精製したFRP又はWntシグナリング成分を、FRPの結合対象又はWntシグナリング成分の結合対象を含有する組成物に加え、検査化合物の不在下で複合体の形成を定量する。
【0103】
FRPタンパク質とFRP結合対象との複合体の形成を、様々な方法で検出可能である。複合体形成の変調を、例えば、免疫アッセイ又はクロマトグラフ検出で、放射線標識、蛍光標識又は酵素標識されたFRP、Wntシグナリング成分又はその結合対象などの、検出可能に標識されたタンパク質を用いて定量してもよい。
【0104】
通常は、FRP、Wntシグナリング成分又はその結合対象のいずれかを固定化させて、複合されていない形のこれらのタンパク質の一方又は双方からの複合体の分離を容易にすると共に、アッセイの自動化を図ることが望ましい。FRP又はWntシグナリング成分とその結合対象とを、これらの反応物質の収容に適したいかなる容器中で結合させてもよい。その例には、マイクロタイタ・ウェル、試験管、マイクロ遠心管がある。一実施態様においては、タンパク質のマトリックスへの結合を可能にするようなドメインを付加する融合タンパク質を提供してもよい。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ融合タンパク質を、グルタチオンセファロースビード(シグマケミカル社、ミズーリ州セントルイス)又はグルタチオンで被覆したマイクロタイタのシャーレの表面に吸収させた後、例えば35S−標識結合対象などの結合対象及び検査化合物と混合し、この混合体を、例えば生理学的な塩分及びpH条件などの、複合体生成処理に適した条件下で培養してもよいが、この条件は、わずかによりストリンジェントな条件であることが望ましい。培養後に、これらのビードを洗浄して、結合していない標識を除去し、マトリックスを固定化させて、放射線標識を(例えばビードをシンチラント中に入れるなど)直接測定するか、又は複合体が解離した後の上清中で測定する。又は、複合体をマトリックスから解離させ、SDS−PAGE法により分離し、ビード断片中のFRP又はWntシグナリング成分又は結合対象のレベルを、例に記載したような標準的なゲル利用電気泳動法で定量してもよい。
【0105】
マトリックスを用いてタンパク質を固定化させるその他の方法を、当該アッセイに利用することも可能である。例えば、FRP、Wntシグナリング成分又はその同種の結合対象を、ビオチンとストレプトアビジンとの結合を利用して固定化させてもよい。例えば、ビオチン標識したFRP又はWntシグナリング成分を、当業で周知の(例えばビオチン標識キット、ピアーズ・ケミカルズ社、イリノイ州ロックフォードなどの)技術を用いて、ビオチン−NHS(N−ヒドロキシ−スクシンイミド)から作製し、ストレプトアビジンで被覆した96ウェル・プレートのウェル(ピアーズ・ケミカル社)中で固定化させてもよい。又は、FRP又はWntシグナリング成分反応性の抗体でウェルを被覆し、抗体との結合によってFRP又はWntシグナリング成分をウェル中に捕捉してもよい。以上の方法で、FRP又はWntシグナリング成分、結合タンパク質及び検査化合物の試薬を、FRP又はWntシグナリング成分を入れたウェル中でインキュベートし、前記ウェル中に捕捉された複合体を定量してもよい。そのような複合体の検出方法の例には、GST固定化複合体について上述した方法に加えて、FRP又はWntシグナリング成分結合対象と反応性であるか、或いはFRP又はWntシグナリング成分と反応性でありかつ結合対象と競合する抗体を用いた免疫検出及び、結合対象に関わる内因性又は外因性の酵素活性を検出する酵素結合アッセイがある。後者の場合、酵素が化学的に結合されたものであってもよいし、又は結合対象と融合したタンパク質として提供されてもよい。例えば、結合対象がカラシペルオキシダーゼと化学架橋又は遺伝子融合していてもよいし、また複合体中に捕捉されたポリペプチドの量を、例えば3,3’−ジアミノ−ベンザジン(原語benzadine)四塩酸塩又は4−クロロ−1−ナフトールなどの酵素の色素生産性の基質を利用して評価してもよい。同様に、ポリペプチドとグルタチオン−S−トランスフェラーゼとを含有する融合タンパク質を用いた方法で、1−クロロ−2,4ジニトロベンゼンを用いてGST活性を検出することにより、複合体の形成を定量してもよい(Habig他(1974) J Biol Chem 249: 7130)。
【0106】
複合体中に捕捉されたタンパク質の検出に免疫検出を利用する方法では、このタンパク質に対抗する抗体を用いてもよい。又は、抗体が(例えば市販されているなど)容易に得られる第2のペプチドを、FRP又はWntシグナリング成分配列に加えて含有する融合タンパク質の形で、複合体中の検出対象タンパク質が「エピトープ標識」されていてもよい。例えば、上述のGST融合タンパク質利用して、GST成分に対抗する抗体を用いた結合を定量してもよい。その他の有用なエピトープ標識には、c−mycからの10残基の配列を含有するmyc−エピトープ(例えばEllison他(1991)J Biol Chem 266: 21150−21157を参照のこと)及び、pFLAGシステム(インターナショナル・バイオテクノロジーズ社)又はpEZZ−タンパク質Aシステム(ファーマシア社、ニュージャージー州)が含まれる。
【0107】
無細胞アッセイにより、FRP又はWntシグナリング成分と相互作用してその活性を変化させる化合物を特定してもよい。従って、一実施態様においては、FRP又はWntシグナリング成分を検査化合物と接触させ、FRP又はWntシグナリング成分の触媒活性を調べる。一実施態様においては、FRP又はWntシグナリング成分が標的ペプチドに結合する能力を、当業で周知の方法に基づいて判定する。
【0108】
4.4.2.細胞利用アッセイ
本発明で提供されるFRPタンパク質は、上述のような無細胞アッセイのみならず、例えば小分子アゴニスト又はアンタゴニストを特定するための細胞利用アッセイの実施をも容易にする。一実施態様においては、その細胞膜の外表面にFRPタンパク質を発現している細胞を、検査化合物のみの存在下で、又は検査化合物と及びFRPと相互作用することが知られている分子の存在下で培養し、FRPと検査化合物との相互作用を、例えばマイクロフィジオメータを用いて検出する(McConnell他(1992) Science 257:1906)。FRPタンパク質と検査化合物との間の相互作用を、マイクロフィジオメータを用いて、培地の酸性化の変化として検出する。好適な複数の実施態様においては、本発明の細胞利用アッセイで、正常な又は緑内障に罹患した患者の小柱網眼組織から得たヒト細胞を利用する。
【0109】
ヒト小柱細胞を培地中で増殖させることで、この細胞種独自の構造上及び機能上の特性を、増殖可能な実験条件下で研究することが可能である。ヒト小柱細胞は、小柱組織の切り離した移植片から効率的に増殖させることができ、その培養細胞は、培養されたのではない小柱細胞の独自の超微細構造を、インビトロで数多くの継代を通して維持可能である。小柱細胞が有する、房水流出経路の維持に重要な生化学上の及び構造上の特性は、広範囲にわたる。これらの特性には、トロンボゲン非形成性の細胞表面を有する内皮単層としての小柱細胞の増殖、プラスミノーゲン活性化因子の生成、活発な食細胞活動及び、グリコサミノグリカン、コラーゲン、フィブロネクチン及びその他の結合組織要素の合成能力が含まれる。ヒアルロニダーゼ及びその他のリソソーム酵素が存在することから、ヒト小柱細胞がヒアルロン酸及びその他の細胞外物質を代謝できることが明らかである。小柱細胞がインビトロで損傷を受ける機序を、例えば細胞組織の多数の継代、ペルオキシダーゼへの曝露及びレーザー処理のもたらす影響を評価することによって調べてもよい。
【0110】
小柱網細胞又はその他の細胞種に基づく細胞利用アッセイによって、FRP遺伝子の発現を変調させる、FRPのmRNA翻訳を変調させる、又はFRPのmRNA又はタンパク質の安定性を変調させる化合物を特定してもよい。従って、一実施態様においては、FRPを生成可能な、例えば小柱網細胞などの細胞を試験化合物と共に培養し、この細胞培地中で生成されたFRPの量を測定し、前記試験化合物と接触していない細胞から生成されたFRPの量と比較する。前記試験化合物のFRPに対する特異性を、例えば1つ又は複数の対照遺伝子の発現を測定するなどの様々な対照アッセイにより、確認してもよい。
【0111】
試験対象とすることの可能な化合物には、小分子、タンパク質及び核酸が含まれる。特に、このアッセイを利用して、FRPアンチセンス分子又はリボザイムの効力を調べてもよい。
【0112】
別の一実施態様においては、試験化合物がFRP遺伝子の転写に及ぼす影響を、FRP遺伝子のプロモータの少なくとも一部分に操作により連結したレポータ遺伝子を用いたトランスフェクション実験によって調べる。遺伝子のプロモータ領域を、例えばゲノムライブラリから、当業で周知の方法に基づき単離してもよい。レポータ遺伝子は、例えばルシフェラーゼ又はCAT遺伝子などの、当業で周知の容易に定量可能なタンパク質をコードするいかなる遺伝子であってもよい。
【0113】
好適な一実施態様においては、レポータ遺伝子は、Wntシグナルに応えて転写活性化される天然の又は合成の遺伝子である。例えば、engrailed遺伝子は、Wnt誘導によって活性化する。更に、engrailedの発現が増加すると、hedgehog遺伝子が転写誘導され、この結果、hedgehog遺伝子がWntに応えて活性化する。最後に、核LEF(tcf)/ベータカテニンにより活性化される合成レポータ遺伝子もまた、Wnt誘導を測定するための感受性のレポータ遺伝子となる。
【0114】
本発明は、上述のスクリーニングアッセイにより特定される新規な薬剤及びここに記載の治療へのその用法に更に関する。
【0115】
4.5.疾患の処置方法
「緑内障の治療」は、アンタゴニストであるかアゴニストであるかにかかわらず、適切であれば上述のいずれの製剤であってもよく、単離されたポリペプチド、遺伝子治療構成体、アンチセンス分子、ペプチドミメティック、小分子、核酸以外の物質、ペプチド以外の物質又はここに記載の薬剤アッセイで特定される薬剤が含まれる。
【0116】
本発明は、例えば緑内障などの、FRP又はWnt経路成分の異常な発現又は活性に関連した障害を有する、又はこれに罹患する可能性のある被験体の予防的及び治療的処置方法を提供する。
【0117】
4.5.1.予防的方法
一実施態様においては、本発明は、FRP又はWnt経路成分の異常な発現又は活性に関連した被験体、疾患又は状態を、FRP又はWnt経路成分の発現或いは少なくとも1つのFRP又はWnt経路成分活性を変調させる薬剤を前記被験体に投与することによって予防する方法を提供する。そのような疾患に罹患するおそれのある被験体を、例えばここに記載したような診断的又は予防的アッセイによって特定することが可能である。
【0118】
予防的薬剤の投与を、FRP又はWnt経路成分の異常を特徴とする症状が発現する前に行うことにより、疾患又は障害を予防するか、又はその進行を遅延させてもよい。FRP又はWnt経路成分の異常の程度により、例えばFRP又はWnt経路成分アゴニストを用いて、又は、FRP又はWnt経路成分アンタゴニストを用いて被験体を予防的に処置してもよい。予防的方法は、本発明の治療的方法と同様であり、以下のサブセクションで更に説明する。
【0119】
4.5.2.治療方法
概略すると、本発明は、FRP又はWnt経路成分の異常な活性により引き起こされるか又は促進される疾患又は状態を処置するための、FRP又はWnt経路成分の異常な活性を変調させることの可能な化合物を前記被験体に有効量投与することを含めた方法を提供する。FRP又はWnt経路成分の異常な活性が関与した疾患症状を緩和するために使用可能な手段には、例えば、上述のアンチセンス、リボザイム及び三重らせん分子又は分子量の小さい有機薬剤がある。好適な化合物の例には、アンタゴニスト、アゴニスト又は本明細書に詳述する相同体が含まれる。
【0120】
4.5.3.有効な投与量
これらのような化合物の毒性及び治療上有効性を、細胞培養で又は実験動物を用いて、例えばLD50(集団のうち50%にとり致死的な投与量)及びED50(集団のうち50%にとり治療上有効な投与量)を測定するなどの標準的な薬学的方法で測定してもよい。毒性効果と治療的効果との用量比は、治療係数であり、比LD50/ED50で表される。治療係数の大きい化合物が好適である。毒性の副作用を発揮する化合物を用いてもよいが、未感染の細胞を損傷する可能性を最低限に抑えて副作用を減じるために、そのような化合物を罹患組織にターゲティングする送達系をデザインするよう、注意が必要である。
【0121】
細胞培養アッセイ及び動物実験により得られたデータを用いて、ヒトに使用する投与量の範囲を決定してもよい。そのような化合物の投与量は、毒性が殆ど又は全くない濃度χED50を含めた血中濃度の範囲内であることが望ましい。投与量は、用いる投与形式及び投与経路により、この範囲内で異なる。本発明の方法で用いた任意の化合物の治療上有効量を、最初に細胞培養アッセイから予想してもよい。細胞培養での測定と同様に、動物モデルにおける投与量を決定して、濃度χIC50(即ち、症状を半分の値にまで阻害する検査化合物の濃度)を含む血中血漿濃度の範囲を得てもよい。このような情報を利用して、ヒトにおける有効投与量をより正確に決定してもよい。血漿中レベルを、例えば高速液体クロマトグラフィにより測定してもよい。
【0122】
4.5.4.臨床試験でのFRP/Wnt治療薬効果の監視
FRP又はWnt経路成分又は疾患の遺伝的プロフィールに基づいて最も高い臨床的効果を示すと予想される個体群を対象とすることにより、1)商業的利益の上がっていない市販薬のリポジショニング;2)患者の下位集団に特異的であり、安全上の又は薬効上の制限のために臨床的開発が継続されていない候補薬剤の救済;及び3)候補薬剤の開発の迅速化及び低コスト化並びにより最適な薬剤標識(FRP又はWnt経路成分をマーカとして使用することが、有効な投与量の最適化に有用であるため)を可能にしうる。
【0123】
FRP又はWnt経路成分治療薬による個体の治療を、例えばFRP又はWnt経路成分タンパク質のレベル又は活性、FRP又はWnt経路成分のmRNAレベル、及び/又はFRP又はWnt経路成分の転写レベルなどのFRP又はWnt経路成分の特性を調べることにより監視してもよい。これらの測定で、その処置が有効であるか、或いは調節又は最適化が必要であるか否かが分かるであろう。このように、FRP又はWnt経路成分を、臨床試験での薬剤の有効性を調べるためのマーカとして用いてもよい。
【0124】
好適な一実施例においては、本発明が提供する(例えばアゴニスト、アンタゴニスト、ペプチドミメティック、タンパク質、ペプチド、核酸、小分子又はその他の、ここに記載のスクリーニングアッセイにより特定される候補薬剤などの)ある薬剤による被験体の治療の有効性を監視する方法には、(i)薬剤投与の前に、被験体から投与前試料を採取するステップと;(ii)投与前のFRP又はWnt経路成分のタンパク質、mRNA又はゲノムDNAの発現レベルを検出するステップと;(iii)1つ又はそれ以上の投与後試料を被験体から採取するステップと;(iv)投与後のFRP又はWnt経路成分のタンパク質、mRNA又はゲノムDNAの発現又は活性のレベルを検出するステップと;(v)投与前のFRP又はWnt経路成分のタンパク質、mRNA又はゲノムDNAの発現又は活性のレベルを、投与後のFRP又はWnt経路成分のタンパク質、mRNA又はゲノムDNAとそれぞれ比較するステップと;(vi)これに応じて被験体に対する薬剤投与を変化させるステップと、が含まれる。例えば、FRP又はWnt経路成分の発現又は活性を、検出されたレベルよりも高める、即ちその薬剤の有効性を高めるためには、その薬剤の投与量を増加させることが望ましいであろう。又は、FRP又はWnt経路成分の発現又は活性を、検出されたレベルよりも低くする、即ちその薬剤の有効性を低下させるためには、その薬剤の投与量を減少させることが望ましいであろう。
【0125】
FRP又はWnt経路成分治療薬によって遺伝子発現を増加又は減少させることが有害でないことを確認するために、FRP又はWnt経路成分治療薬の投与の前後に被験体の細胞を採取して、FRP又はWnt経路成分以外の遺伝子の発現レベルを検出してもよい。これを、例えば転写プロファイリング法を用いて行ってもよい。従って、生体内でFRP又はWnt経路成分治療薬に暴露した細胞から採取したmRNAと、FRP又はWnt経路成分治療薬に暴露していない同種の細胞から採取したmRNAとを、多数の遺伝子からのDNAを含有するチップに逆転写し及びこれとハイブリダイズさせることにより、FRP又はWnt経路成分治療薬で治療された細胞及び治療されていない細胞の遺伝子の発現を比較してもよい。例えば、FRP又はWnt経路成分治療薬がある個体中のがん原遺伝子を活性化させる場合には、その特定のFRP又はWnt経路成分治療薬の使用は望ましくないであろう。
【0126】
4.5.5.製剤と使用
本発明に従って使用する組成物を、1つ又はそれ以上の生理学上容認可能な担体又は添加剤を用いて、従来の方法で製剤してもよい。従って、化合物及びその生理学上容認可能な塩及び溶媒化合物を、例えば注射、吸息、(経口又は経鼻)吸入、又は局所、経口、口腔内、非経口もしくは直腸内投与などによる投与を目的として製剤してもよい。
【0127】
このような療法のために、本発明の化合物を、全身及び局所又は限局的投与を含む様々な投与量を目的として製剤してもよい。RemmingstonのPharamaceutical Sciences,Meade Publishing Co.、ペンシルバニア州イーストンで、その方法及び製剤の概要が分かるであろう。注射は、好適な全身投与方法ではないと思われる;経口投与が好適である。局所眼病薬組成には、本発明の化合物を、例えばバッファ剤、(保存補助剤を含めた)保存剤、張度調節剤、界面活性剤、可溶化剤、安定化剤、快適化剤、緩和剤、pH調節剤及び潤滑剤などの生理学的に容認可能な1つ又は複数の賦形剤と共に製剤してもよい。局所投与可能な眼病薬組成は、一般には、pH4.5−8で製剤され、その浸透圧モル濃度は26−320mOSm/kgであろう。全身投与には、筋肉内注射、静脈内注射、腹膜内注射及び皮下注射を含めた注射が好適である。注射の場合は、本発明の化合物を、好適にはハンクス溶液又はリンガー溶液などの生理学上適合性のバッファである溶液として製剤してもよい。さらに、化合物を固体として製剤し、使用直前に溶解又は懸濁させてもよい。凍結乾燥させたものも含まれる。
【0128】
経口投与の場合は、組成物が、例えば、(α化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの)結合剤;(例えばラクトース、微結晶セルロース又はリン酸水素カルシウムなどの)フィルタ;(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク又はケイ酸などの)潤滑剤;(例えばジャガイモデンプン又はデンプングリコール酸ナトリウムなどの)崩壊剤;または(例えばラウリル硫酸ナトリウムなどの)湿潤剤などの薬学上容認可能な賦形剤を用いて、従来の方法で製剤された錠剤又はカプセル剤であってもよい。錠剤が、当業において周知の方法を用いて被覆されていてもよい。経口投与用の液剤は、例えば、溶液、シロップ又は懸濁液であってもよいし、又は、乾燥製品として製剤し、使用前に水又は適切な賦形剤を加えるようにしてもよい。このような液剤を、(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体又は硬化食用脂などの)懸濁化剤;(例えばレシチン又はアラビアゴムなどの)乳化剤;(例えばアチノイド(原語ationd)油、油性エステル、エチルアルコール又は分離植物油などの)非水賦形剤;及び(例えばメチル又はプロピル−p−ヒドロキシ安息香酸又はソルビン酸などの)保存剤などの薬学上容認可能な添加剤を用いて、従来の方法で製剤してもよい。適切な場合には、薬剤にバッファ塩、香料、着色料及び甘味料が含まれていてもよい。
【0129】
経口投与用製剤が、活性化合物の放出を調節するように適切に製剤されていてもよい。口腔内投与の場合、組成物が、従来の方法で製剤された錠剤又はトローチ剤であってもよい。吸入投与の場合は、本発明に従って使用される化合物が、加圧包装又は噴霧器からのエアロゾルスプレーとして、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、炭酸ガス又はその他の適切なガスなどの適切な噴射剤を用いて投与されると便利である。加圧エアロゾルの場合は、計量された量を噴射するために、弁を設けて投与単位を決定してもよい。例えばゼラチンなどの、吸入器又は注入器で使用するカプセル及びカートリッジを、化合物の混合粉末と、ラクトース又はデンプンなどの適切な粉末基剤とを含めて製剤してもよい。
【0130】
化合物を、例えば大量注射又は持続点滴などの注射による非経口投与用に製剤してもよい。注射用の薬剤を、例えば保存剤を添加したアンプル又は多投与容器などの単位投与の形に製剤してもよい。組成物が、油性又は水性の賦形剤を加えた懸濁剤、液剤又は乳剤であってもよく、また、懸濁化剤、安定化剤又は分散剤などの薬剤が含まれていてもよい。又は、活性成分を粉末として製剤し、使用前に、例えば無菌の発熱物質を含有しない水などの適切な賦形剤を加えるようにしてもよい。
【0131】
また、化合物を、例えばカカオバター又はその他のグリセリドなどの従来の坐薬基剤を含有するような、坐薬又は停留浣腸剤などの直腸用組成物として製剤してもよい。
【0132】
前述の薬剤に加えて、化合物をデポ製剤として製剤してもよい。このように長時間作用する製剤を、(例えば皮下又は筋肉内)移植により、あるいは筋肉内注射により投与してもよい。従って、例えば、化合物を、高分子又は疎水性材料と共に(例えば容認可能な油を加えた乳剤として)、又はイオン交換樹脂と共に、又は、例えばゆっくり溶ける塩としてなど、ゆっくり溶ける誘導剤として製剤してもよい。その他の適切な送達系には、長期にわたって薬剤の局所非観血的送達を可能にするマイクロスフェアが含まれる。この方法では、炎症や虚血を起こすことなく、例えば心臓又はその他の臓器の任意に選択された場所に冠カテーテルを介して注射することの可能な、前毛細血管の大きさのマイクロスフェアを使用する。投与された治療薬は、これらのマイクロスフェアから徐々に放出され、周囲の(例えば内皮細胞などの)組織細胞に吸収される。
【0133】
全身投与を、経粘膜又は経皮手段により行ってもよい。経粘膜又は経皮投与の場合は、バリアの浸透に適した浸透剤を製剤中に使用する。このような浸透剤は当業で周知であり、例えば、経粘膜投与の場合は胆汁酸塩及びフシジン酸誘導剤を含む。さらに、浸透を容易にするために界面活性剤を使用してもよい。経粘膜投与を、鼻スプレーにより又は坐薬を用いて行ってもよい。局所投与の場合は、本発明のオリゴマーを、当業で周知の軟膏、塗剤、ゲル又はクリームとして製剤してもよい。外傷又は炎症の治癒を早めるために、洗浄液を局所的に使用してもよい。
【0134】
臨床条件下では、治療用FRP又はWnt経路成分遺伝子のための遺伝子送達系を、それぞれが当業でよく知られた多くの方法のいずれかを用いて、患者に投与してもよい。例えば、遺伝子伝達系の薬剤を、眼内注射により、又は、例えば静脈内注射などによって全身に投与してもよい。標的細胞内へのタンパク質の特異的形質導入が、この遺伝子送達剤によってもたらされたトランスフェクション、又は受容体遺伝子の発現を制御している転写調節配列による細胞種又は組織種の発現、或いはこれらの組み合わせの特異性によって優性に起こる。別の複数の実施態様においては、動物への極めて限局的な導入によって、組換え遺伝子の最初の送達がより限られたものとなる。例えば、遺伝子送達剤を、カテーテルによって(米国特許No.5,328,470を参照のこと)、又は定位注射によって(例えばChen他(1994)PNAS 91:30543057)導入してもよい。FRP又はWnt経路成分遺伝子を、例えばDev他((1994)Cancer Treat Rev 20: 105−115)に記載の技術を用いた電気穿孔法又は経強膜イオン電気浸透療法によって、遺伝子治療構成体として送達してもよい。
【0135】
本発明の遺伝子治療構成体又は化合物の薬剤が、容認可能な希釈剤に希釈した遺伝子送達系のみから構成されてもよいし、又は、遺伝子送達剤又は化合物が組み込まれた緩効基剤が含まれていてもよい。又は、完全な遺伝子送達系を、例えばレトロウィルスベクターなどの組換え細胞を使用せずに作製可能である場合には、遺伝子送達系を生成する1つ又は複数の細胞が前記薬剤に含まれていてもよい。
【0136】
所望の場合は、これらの組成物を、活性成分を含有する1個又はそれ以上の単位の投与形態を含んでもよい包装又はディスペンサ装置に入れてもよい。包装が、金属又は、PTP包装などのプラスチックのフォイルからなっていてもよい。包装又はディスペンサ装置に、投与説明書が付属していてもよい。
【0137】
4.6.キット
本発明は、異常なFRP又はWnt経路成分タンパク質に関連した疾患又は状態を治療するための診断的方法又は予防的方法で使用するキットを更に提供する。本発明は、どのFRP又はWnt経路成分治療薬を被験体に投与すべきかを決定するためのキットも提供する。本発明は、生体試料中のFRP又はWnt経路成分のmRNA又はタンパク質の存在を検出するための、或いはFRP又はWnt経路成分遺伝子中の突然変異の存在又は多型領域の種類を調べるためのキットを包含する。例えば、生体試料中のFRP又はWnt経路成分のタンパク質又はmRNAを検出可能な標識された化合物又は薬剤;前記試料中のFRP又はWnt経路成分の量を調べるための手段;及び、前記試料中の前記FRP又はWnt経路成分の量を標準量と比較するための手段がキットに含まれていてもよい。前記化合物又は薬剤が、適切な容器中に封入されていてもよい。キットに、FRP又はWnt経路成分のmRNA又はタンパク質を検出するためのキットの使用説明書が更に含まれていてもよい。
【0138】
一実施態様においては、高血圧の治療又は予防に使用する有効量のFRP又はWnt経路成分アンタゴニスト治療薬及び使用説明書がキットに含まれていてもよい。別の一実施例においては、例えば緑内障などの眼の障害又は疾患の治療又は予防に使用する有効量のFRP又はWnt経路成分アゴニスト治療薬及び使用説明書がキットに含まれていてもよい。一般に、キットには、緑内障治療薬として使用される有効量のFRP又はWnt経路成分アゴニスト又はアンタゴニスト治療薬を含有する薬剤組成及び説明書が含まれる。例えば、鎮痛薬として用いられるFRP又はWnt経路成分アゴニスト又はアンタゴニスト治療薬を含有する薬剤組成と説明書とが、キットに含まれてもよい。更に別の複数のキットを、FRP又はWnt経路成分の異常な活性に関連した疾患又は状態に被験体が罹患しているか又は易罹患性であるか否かの判定に用いてもよい。そのようなキットには、例えば、FRP又はWnt経路成分遺伝子の少なくとも一部分又はその対立遺伝子変異型、あるいはその突然変異型と特異的にハイブリダイズすることの可能な1つ又は複数の核酸プローブが含まれてもよい。
【0139】
4.7.FRP又はWnt経路成分タンパク質及び核酸の更なる用法
本発明のFRP又はWnt経路成分の核酸を、次に示すアッセイで更に使用してもよい。一実施態様においては、SEQ ID NO.1を有するヒトFRP又はWnt経路成分の核酸又はその一部分、或いはこれにハイブリダイズする核酸を用いて、FRP又はWnt経路成分の染色体上の位置を調べてもよい。FRP又はWnt経路成分の染色体上の位置と、特定の疾患又は状態に関連することが示されている領域の染色体上の位置とを、例えば連鎖分析(物理的に隣接した遺伝子同士が一緒に遺伝すること)によって比較することで、FRP又はWnt経路成分が一端を担う疾患又は状態を判別してもよい。特定の疾患に関連した染色体領域は、例えば、V.McKusickによるMendelian Inheritance in Man(ジョンズ・ホプキンズ大学ウェルチ・メディカル・ライブラリからオンラインで入手可能)及びhttp://www3.ncbi.nlm.nih.gov/Omim/(Online Mendelian Inheritance in Man)で見出される。更に、FRP又はWnt経路成分遺伝子を、FRP又はWnt経路成分以外の遺伝子に関する遺伝子連鎖研究において、染色体マーカとして使用してもよい。
【0140】
当業で周知の複数の方法によって、遺伝子の染色体の位置を特定することが可能である。例えば、体細胞ハイブリッドのサザンブロット・ハイブリダイゼーション又はPCRマッピングによって、どの染色体又は染色体部分に特定の遺伝子が位置しているのかを調べてもよい。ある遺伝子のある染色体又は染色体領域上の位置を同様に特定するために使用可能なその他のマッピング方式には、インシトゥーでのハイブリダイゼーション、フローソーティングした標識染色体によるプレスクリーニング及び、染色体特異的cDNAライブラリ構築のためのハイブリダイゼーションによる選別が含まれる。
【0141】
更に、例えばFRP又はWnt経路成分核酸などの核酸を、分裂中期の展開した染色体に、蛍光インシトゥー・ハイブリダイゼーション(FISH)でハイブリダイズさせることで、その核酸の正確な染色体上の位置を、一段階のみの方法で得ることができる。この方法は、500又は600塩基長程度の短い核酸に用いることができる;しかし、2000bpを超えるクローンであれば、単純な検出方法には十分なシグナル強度を有する非反復染色体位置と結合する可能性がより高い。そのような方法は、例えば、Venna他、Human Chromosomes: a Manual of Basic Techniques、ペルガモン・プレス、ニューヨーク(1988)に述べられている。これらのような方法を用いて、約50個から約500個の遺伝子を含む染色体領域上のある遺伝子の位置を特定することが可能である。
【0142】
特定の疾患と一緒に分離する、即ちこれに関連した染色体領域上のFRP又はWnt経路成分遺伝子の位置が特定される場合には、罹患した個体と罹患していない個体との間のcDNA又はゲノム配列の相違を調べることができる。罹患した個体の一部又は全てに見受けられ、正常な個体には見受けられない突然変異が存在すると、その突然変異がその疾患の原因であるか又はこれに寄与する可能性があることが示される。
【0143】
4.8.ゲノム薬理
個体におけるFRP又はWnt経路成分遺伝子又はタンパク質の異常又は欠陥(そのFRP又はWnt経路成分の遺伝的プロフィール)を引き起こす特定の突然変異又は複数の突然変異について知ることは、それ自身で、又は同じ疾患の原因となる他の遺伝的欠陥(その特定の疾患の遺伝的プロフィール)に関する情報と組み合わせることにより、特定の疾患の治療法を個々の遺伝的プロフィールに合わせてカスタマイズすること、即ち「ゲノム薬理学」の目的を可能にする。例えば、FRP又はWnt経路成分遺伝子の特定の対立遺伝子を有する被験体は、特定の疾患の症状を発現しているか又は特定の疾患の症状を発現することもあるし、そうでない場合もある。更に、これらのような被験体は、症状を有する場合に、例えば特定のFRP又はWnt経路成分治療薬などの特定の薬剤に対して反応する場合もあるし、そうでない場合もあるが、別の薬剤に対しては反応する場合もある。従って、(例えば、特定の疾患の発生に関連したFRP又はWnt経路成分遺伝子の突然変異の類別化など)FRP又はWnt経路成分の遺伝プロフィールを、FRP又はWnt経路成分遺伝子及び/又はタンパク質の異常及び/又は欠陥により引き起こされるか又は促進されるある疾患又は状態の症状を有する個体群から作成し、ある個体のFRP又はWnt経路成分の遺伝プロフィールを前記個体群のプロフィールと比較することにより、特定の患者又は患者集団(即ち、同じ遺伝的変化を有する患者のグループ)に対して安全かつ有効であると思われる薬剤の選択又は作製が可能である。
【0144】
例えば、FRP又はWnt経路成分を有する個体群の遺伝プロフィールを、例えばFRP又はWnt経路成分遺伝子の異常又は欠陥により引き起こされるか又は促進されるある疾患を有する患者集団におけるFRP又はWnt経路成分遺伝子の種類などのFRP又はWnt経路成分の遺伝プロフィールを調べることによって作成してもよい。又は、FRP又はWnt経路成分を有する個体群の遺伝プロフィールに、1)FRP又はWnt経路成分が関連した疾患に伴う症状の程度、2)FRP又はWnt経路成分遺伝子の発現レベル、3)FRP又はWnt経路成分のmRNAレベル及び/又は、4)FRP又はWnt経路成分のタンパク質レベル、を監視することと、(iii)前記個体群を、そのFRP又はWnt経路成分遺伝子或いはFRP又はWnt経路成分遺伝子中に存在する1つの又は複数の遺伝的変化に基づいて区別又は類別することと、を含めた様々な方法のいずれかを用いた、前記個体群のFRP又はWnt経路成分治療薬に対する反応に関する情報が更に含まれていてもよい。或いは、FRP又はWnt経路成分を有する個体群の遺伝プロフィールによって、前記患者が特定の治療薬に対して反応性であったか又は非反応性であったこれら特定の変異が示されてもよい。この情報又は個体群プロフィールは、従って、どの個体群が特定の薬剤に対して反応性であるかを、これらの個体群の個別のFRP又はWnt経路成分の遺伝プロフィールに基づいて予測するのに有用である。
【0145】
好適な一実施態様においては、FRP又はWnt経路成分の遺伝プロフィールは、転写又は発現レベルのプロフィールであり、ステップ(i)は、FRP又はWnt経路成分のタンパク質の発現レベルを、単独で又は同じ疾患を促進させることが知られている別の複数の遺伝子の発現レベルと組み合わせて調べることからなる。その疾患の様々な段階にある多くの患者のFRP又はWnt経路成分の遺伝プロフィールを測定してもよい。
【0146】
ゲノム薬理研究を、トランスジェニック動物を用いて行ってもよい。例えば、ここに記載するような、FRP又はWnt経路成分遺伝子の特定の対立遺伝子変異型を有するトランスジェニックマウスを作製してもよい。これらのマウスを、例えばこれらの野生型FRP又はWnt経路成分遺伝子をヒトFRP又はWnt経路成分遺伝子の対立遺伝子と置き換えることによって作製してもよい。次に、これらのマウスの、特定のFRP又はWnt経路成分治療薬に対する反応を調べてもよい。
【0147】
4.9.トランスジェニック動物
本発明は、例えば緑内障治療薬の特定などの様々な目的に使用可能なトランスジェニック動物を更に提供する。本発明のトランスジェニック動物には、(例えばFRPの発現を調節する転写要素をコードする遺伝子の変異などの)FRPの不適切に高いレベルの原因となる核酸配列変異を有するヒト以外の動物が含まれる。又は、トランスジェニック動物が、frizzled(Fz);disheveled(Dsh);グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)タンパク質キナーゼC(APC)、ベータカテニン及び高移動度群(HMG)タンパク質(例えばLEF/TCF(リンパ系増強因子/T細胞因子))を含めたWntシグナリング成分に変異を有していてもよい。これらのような動物を用いて、例えばその発現がWntシグナリングによって調節される小柱網細胞の遺伝子の発現の阻害が表現型に与える影響を調べてもよい。
【0148】
トランスジェニック動物が、FRPプロモータ又はその断片による制御下で、例えばレポータ遺伝子などの導入遺伝子を持つ動物であってもよい。これらの動物は、例えばFRPの生成を、例えばFRP遺伝子の発現を変調させることにより変調する薬剤を特定するのに有用である。FRP遺伝子プロモータを、例えばゲノムライブラリをFRPcDNA断片でスクリーニングすることによって単離し、その特徴を当業で周知の方法で調べてもよい。
【0149】
本発明の範囲に包含される更にその他のヒト以外の動物は、その内生の遺伝子の発現が突然変異又は「ノックアウト」されている、Wntシグナリング成分をコードする遺伝子を持つ。これらの動物は、Wntシグナリング成分の不在が特定の表現型の原因となるか否かを調べるために有用であろう。トランスジェニック及びノックアウト動物の作製方法は、当業で周知であり、ここに説明されている。
【0150】
好適な一実施態様においては、本発明は、緑内障の診断及び治療方法の開発に使用するヒト以外のトランスジェニック動物を提供する。例えば、複数の好適な実施態様においては、本発明のトランスジェニック動物は、眼組織におけるFRP遺伝子の発現レベルを増加させる異種FRP発現遺伝子を持つ。好適な複数の実施態様においては、前記眼組織は小柱網であり、FRPを過剰に発現している細胞は、小柱網細胞である。さらに好適な複数の実施態様においては、小柱網細胞において高レベルのFRPを発現しているヒト以外のトランスジェニック動物は、緑内障に特有の、例えば眼内圧の増加(IOP)などの症状を少なくとも1つ有する。複数の好適な実施態様においては、本発明のトランスジェニック動物は、緑内障治療薬化合物のスクリーニング及び緑内障診断方法の開発のためのインビボアッセイ系を提供する。
【0151】
4.9.1.動物利用システム
本発明の別の一実施態様は、本発明の導入遺伝子を有する(その動物の)細胞を持ち、その動物の1つ又は複数の細胞において外来のFRPタンパク質を発現していることが(任意にではあるが)望ましいトランスジェニック動物に関する。FRP導入遺伝子が、そのタンパク質の野生型をコードしてもよいし、又は、アゴニスト及びアンタゴニスト並びにアンチセンス構成体を含めたその相同体をコードしてもよい。複数の好適な実施例においては、導入遺伝子の発現を、例えばその所望のパターンの発現を制御するシス作用性配列を用いて、特定の細胞の下位細胞、組織又は発生段階に限定してもよい。本発明においては、FRPタンパク質のそのようなモザイク発現は、系統分析の多くの種類に不可欠であり、例えば、その他の点では正常な胚の組織の小片の発育を大幅に変化させうるFRPが発現しないことの効果を評価するための手段を更に提供してもよい。この目的で、組織特異的制御配列及び条件制御配列を用いて、幾つかの空間パターンの導入遺伝子の発現を制御してもよい。更に、発現の一時的なパターンを、例えば条件的組換え系又は原核転写制御配列によって提供してもよい。
【0152】
インビボの部位特異的遺伝子操作によって導入遺伝子の発現を調節する遺伝子技術は、当業者に周知である。例えば、標的配列の遺伝子組換えを触媒するリコンビナーゼの発現を調節する遺伝システムがある。ここで使用される「標的配列」という文言は、リコンビナーゼによって遺伝子組換えされるヌクレオチド配列を言う。標的配列は、リコンビナーゼ活性を発現している細胞中で、リコンビナーゼ認識配列によってフランクされ、通常は削除又は逆転される。リコンビナーゼが触媒する組換え事象を、標的配列の組換えの結果として複数の対象FRPタンパク質のうちの1つが活性化又は抑制されるような仕方でデザインしてもよい。例えば、拮抗的相同体又はアンチセンス転写産物をコードする遺伝子などのリコンビナーゼFRP遺伝子の発現を妨害する標的配列の削除を、その遺伝子の発現が活性化されるべくデザインしてもよい。このタンパク質発現の妨害を、例えばプロモータ要素からのFRP遺伝子の空間的分離又は内部の停止コドンなどの様々な機序から生じさせてもよい。更に、導入遺伝子を、その遺伝子をコードしている配列をリコンビナーゼ認識配列でフランクしてから、プロモータ要素に対して3’から5’方向で細胞内に導入する方法で、導入遺伝子を作製してもよい。このような場合の標的配列の逆転では、コードしている配列の5’側の末端をプロモータ要素に対面する方向に配置することによって、プロモータが転写活性化を開始し、この結果、対象遺伝子が再構成される。
【0153】
本発明のトランスジェニック動物は全て、その複数の細胞内に、本発明の導入遺伝子を有する。この導入遺伝子は、「ホスト細胞」の、細胞機能、細胞増殖、細胞死及び/又は分化の制御に関わる表現型を変化させる。本発明のトランスジェニック生物を、ここに記載した導入遺伝子構成体のうちの1つ又は複数を用いて作製することが可能であることから、トランスジェニック動物が外来の遺伝物質を用いて作製されることが一般的に説明される。当業者は、この一般的な説明を応用して、以下に記載の方法と物質とを用いて特定の導入遺伝子配列を生物中に組み込むことが可能である。
【0154】
例示的な一実施例においては、バクテリオファージP1のcre/loxP組換え系(Lakso他(1992) PNAS 89:6232−6236; Orban他(1992) PNAS 89:6861−6865)又はサッカロミセス‐セレビジエのFLP組換え系(O’Gorman他(1991) Science 251:1351−1355; PCT公報WO 92/15694)を用いて、インビボで部位特異的遺伝子組換え系を作成してもよい。Creリコンビナーゼは、loxP配列間の介在標的配列の部位特異的組換えの触媒として作用する。loxP配列は、34塩基対からなる、Creリコンビナーゼが結合する反復配列であり、Creリコンビナーゼが媒介する遺伝子組換えに必要である。Creリコンビナーゼが存在する時に介在標的配列が削除されるか又は逆転されるかは、loxP配列の方向により決定される(Abremski他(1984) J. Biol. Chem. 259:1509−1514);loxP配列が同方向反復である時には、標的配列を削除する触媒として作用し、loxP配列が逆方向反復である時には、標的配列を逆転させる触媒として作用する。
【0155】
従って、標的配列の遺伝子組換えは、Creリコンビナーゼの発現に左右される。このリコンビナーゼの発現を、プロモータ成分を用いて調節してもよい。このプロモータ成分は、外部から加えられた物質により、例えば組織特異的な、発生段階特異的な、誘導性の又は抑制性の調節をなされる。この調節の結果、リコンビナーゼ発現を前記プロモータ成分により媒介される細胞のみにおいて、標的配列の遺伝子組換えが起こるであろう。このようにリコンビナーゼの発現を制御することにより、組換えFRPタンパク質の発現を抑制してもよい。
【0156】
cre/loxPリコンビナーゼ系を用いた組換えFRPタンパク質発現の調節には、Creリコンビナーゼ及び組換えFRPタンパク質の双方をコードする導入遺伝子を持つトランスジェニック動物の作製が必要である。Creリコンビナーゼと組換えFRP遺伝子との双方を持つ動物を、「二重」トランスジェニック動物を作製することにより得てもよい。そのような動物を得るための便利な方法の一つに、それぞれが導入遺伝子、すなわちFRP遺伝子とリコンビナーゼ遺伝子とを持つ2匹のトランスジェニック動物を掛け合わせる方法がある。
【0157】
リコンビナーゼ発現が媒介される形でFRP導入遺伝子を持つトランスジェニック動物を最初に作製することの利点の一つは、対象タンパク質が、アゴニストであるか又はアンタゴニストであるかにかかわらず、そのトランスジェニック動物中で発現した時に有害となりうるという可能性にある。そのような場合、対象タンパク質が全ての組織において発現していない初代集団を、増殖及び維持することが可能である。この初代集団中の個体を、リコンビナーゼを例えば1つ又は複数の組織及び/又は所望の一時的なパターンに発現している動物と掛け合わせてもよい。このように、例えばアンタゴニストFRP導入遺伝子が発現していない初代集団を作製することによって、その初代から発生した後代の特定の組織又は特定の発生段階でFRPが媒介する誘導が妨害され、その結果、例えば致死的な表現型が生じる機序についての研究が可能となるであろう。
【0158】
同様の条件的導入遺伝子を、原核生物のプロモータ配列を用いて得てもよい。この方法では、FRP導入遺伝子の発現を容易にするために、複数の原核生物タンパク質が同時に発現することが必要である。そのようなプロモータ及び対応する導入活性化原核生物タンパク質の例が、米国特許No.4,833,080に示されている。
【0159】
更に、例えばリコンビナーゼ又は原核生物タンパク質などの導入活性化タンパク質をコードする遺伝子を、例えば細胞種特異的な方法で組織に送達して発現させるなどの遺伝子治療的な方法で、条件的導入遺伝子を発現させてもよい。この方法では、FRP A導入遺伝子は、成熟期になって導入活性化物質により「活性化」されるまでは発現しない。
【0160】
例示的な一実施例においては、ヒト以外の動物の生殖細胞系に導入遺伝子を導入することにより、本発明の「ヒト以外のトランスジェニック動物」を作製する。導入遺伝子を導入するために、様々な発生段階の胚標的細胞を用いてもよい。胚標的細胞の発生段階に応じて、異なる方法を用いる。本発明の実施に用いるいかなる系統種の動物も、健康状態、胚産出率、前核の視認度及び生殖適応度が良好であるものを選択する。更に、ハプロタイプも重要な要素である。例えば、トランスジェニックマウスを作製する場合、C57BL/6又はFVBなどの系統がよく用いられる(ジャクソン・ラボラトリー、メイン州バー・ハーバー)。H−2b、H−2d又はH−2qハプロタイプを持つC57BL/6又はDBA/1などの系統が好適である。本発明の実施に用いる系統自体がトランスジェニックな系統であってもよく、及び/又はノックアウトな系統(即ち部分的に又は完全に抑制された1つ又は複数の遺伝子を持つ動物から得られたもの)であってもよい。
【0161】
一実施例においては、導入遺伝子構成体を、分裂前の段階の胚に導入する。受精卵が、顕微注射対象として最適である。マウスの雄の前核の大きさは、直径約20マイクロメータであることから、1−2plのDNA溶液を注射して増殖させることが可能である。遺伝子導入の対象として受精卵を使用することには、注射されたDNAが、最初の卵割の前にホスト遺伝子内に組み込まれる場合が殆どであるという大きな利点がある(Brinster他(1985) PNAS 82:4438−4442)。この結果、トランスジェニック動物の全ての細胞がこの組み込まれた導入遺伝子を持つこととなろう。生殖細胞の50%がこの導入遺伝子を持つであろうことから、導入遺伝子が初代から子へ概ね効率的に伝達されるであろう。
【0162】
通常は、受精した胚を、前核が現れるまで適切な培地中で培養する。概ねこの時点までに、導入遺伝子を含有するヌクレオチド配列を、以下の方法で雌又は雄の前核に導入する。マウスなどの複数の種では、雄の前核が好適である。受精卵の雄DNA相補体が卵核又は受精卵の雌前核により変化を受ける前に、この相補体に外来の遺伝物質を加えることが最も望ましい。卵核又は雌前核から放出された分子が、雄DNAのプロタミンをヒストンと置き換えることにより雄DNA相補体を変化させ、この結果、雌DNAのレベル又相補体と雄DNA相補体との結合及び二倍体受精卵の形成を容易にするのであろうと考えられている。
【0163】
従って、雄のDNA相補体またはその他の何らかのDNA相補体が、雌の前核による変化を受ける前に、これらのDNA相補体に外来遺伝物質を加えることが望ましい。例えば、雄前核の形成後出来るだけ早く、即ち、雄前核と雌前核とが十分に離間しかつ細胞膜の近くに位置している時に、外来遺伝物質を初期段階の雄前核に加える。又は、精子の核を導入し非凝縮させた後に、前記精子の核に外来遺伝物質を加えてもよい。次に、前記外来遺伝物質を含有する精子を卵子に加えてもよいし、又は非凝縮させた精子を卵子に加え、その後出来るだけ早く、導入遺伝子構成体を加えてもよい。
【0164】
導入遺伝子の塩基配列の胚への導入を、例えば顕微注射、電気泳動法、又はリポフェクションなどの当業で周知の方法で行ってもよい。導入遺伝子の塩基配列を胚に導入した後に、胚をインビトロで様々な時間の間培養してもよいし、又は代理ホストに再着床させてもよいし、又はこれら双方を行ってもよい。インビトロ培養で成熟させることは、本発明の範囲に含まれる。一般的な方法の一つでは、胚をインビトロで、種によって異なるが1−7日間培養し、次にこれらの胚を代理ホストに再着床させる。
【0165】
本発明の目的に用いる受精卵は、成長して完全な生物体になることの可能な2倍体細胞を形成する。通常、受精卵は、1個の又は複数の生殖細胞からの2個の1倍体の融合により天然に又は人工的に形成された核を有する卵子から構成される。従って、受精卵の核は、本来的に適合性である、即ち、分化及び発達を行って機能生物体となりうる生育可能な受精卵を生じるような核である。通常、正倍数性の受精卵が好適である。異数性の受精卵が生じたとしても、その染色体の数は、元となった双方の生殖細胞の正倍数と比較して1つより多くは異ならないはずである。
【0166】
以上のような生物学的条件に加えて、物理的条件によっても、受精卵の核又は受精卵の核の一部を構成する遺伝物質に付加できる外来遺伝物質の(例えば体積などの)量が左右される。遺伝物質を除去しなければ、付加できる外来遺伝物質の量は、物理的破壊を引き起こすことなく吸収される量に制限される。通常、挿入される外来遺伝物質の量は約10ピコリットル未満である。付加の物理的影響は、受精卵の生存力を物理的に破壊しない程度でなければならない。得られる受精卵の、外来遺伝物質を含めた遺伝物質は、その受精卵の分化及び発達を開始及び維持し、機能生物体とすることが生物学的に可能でなければならないことから、DNA配列の数及び種類の生物学的限度は、受精卵の種類及び外来遺伝物質の作用によって異なるであろうし、また当業者に容易に明らかとなるであろう。
【0167】
受精卵に付加される導入遺伝子構成体の複製の数は、付加される外来遺伝物質の総量に左右されるであろうし、形質転換の発生を可能にするような量であろう。理論上は、必要とされる複製は1個だけである;しかし、通常は、1個の複製を確実に機能させるために、例えば1,000個から20,000子の導入遺伝子構成体の複製などの多数の複製を利用する。本発明に関しては、挿入された外来DNA配列のそれぞれの機能可能な複製を複数得ることにより、その外来DNA配列のそれぞれの機能可能な配列の表現型の発現を促すことが有利である場合が多いであろう。
【0168】
細胞、核膜又はその他の既存の細胞構造又は遺伝子構造を破壊しない限り、いかなる方法を用いて外来遺伝物質を核の遺伝物質に付加してもよい。外来遺伝物質を、顕微注射により選択的に核の遺伝物質内に挿入する。細胞及び細胞構造の顕微注射は、当業で周知であり、実施されている。
【0169】
再着床には、標準的な方法を用いる。通常は、代理ホストに麻酔を施し、胚を卵管に挿入する。ある特定のホストに着床させる胚の数は、種によって異なるであろうが、通常はその種が天然に産む子の数と同等の数である。
【0170】
代理ホストのトランスジェニック子孫を、任意の好適な方法を用いてスクリーニングして、導入遺伝子が存在及び/又は発現しているものを選択してもよい。スクリーニングは、通常、PCR法、サザンブロット分析法又はノーザンブロット分析法で、導入遺伝子の少なくとも一部分と相補なプローブを用いて行う。導入遺伝子産物が存在するものを選択するスクリーニングの別の又は更なる方法として、導入遺伝子によりコードされるタンパク質に対する抗体を用いたウェスタンブロット分析を行ってもよい。典型的には、DNAを尾の組織から採取し、サザンプロット分析又はPCR法で導入遺伝子を調べる。又は、導入遺伝子を最も高いレベルで発現すると考えられる組織又は細胞における導入遺伝子の存在又は発現を、サザンブロット分析又はPCR法で検査してもよいが、この分析にはいかなる組織又は細胞でも使用可能である。
【0171】
導入遺伝子の存在を評価するための別の又は更なる方法には、酵素及び/免疫学的アッセイ、特定のマーカー又は酵素活性を調べる組織染色法、フローサイトメトリー分析などの好適な生化学的アッセイが無制限に含まれる。血液の分析も、血液中の導入遺伝子産物の存在の検出並びに様々な種類の血液細胞及びその他の血液成分レベルに表れる導入遺伝子の作用の評価に有用であろう。
【0172】
好適なトランスジェニック動物の後代を、トランスジェニック動物と適切な相手とを掛け合わせることにより、又はトランスジェニック動物から得た卵子及び/又は精子のインビトロ受精により得てもよい。相手との掛け合わせを行う場合には、相手がトランスジェニック動物及び/又はノックアウト動物であってもよいし、そうでなくてもよい;相手がトランスジェニック動物である場合は、同じ導入遺伝子を持っていても、異なる導入遺伝子を持っていてもよく、或いはこれら双方を持っていてもよい。又は、相手が親系統であってもよい。インビトロ受精を行う場合は、受精した胚を代理ホストに着床させても、インビトロで培養してもよく、或いはこれら双方を行ってもよい。いずれの方法においても、導入遺伝子の存在について、上述の方法で又はその他の適切な方法を用いて後代を評価することが可能である。
【0173】
本発明の方法を用いて作製したトランスジェニック動物は、外来の遺伝物質を含有する。上述のように、外来の遺伝物質は、複数の実施例においては、(アゴニストであるかアンタゴニストであるかにかかわらず)FRPタンパク質生成を起こさせるDNA配列及びアンチセンス転写体であるか、又はFRP突然変異体である。更に、それらのような実施例では、前記配列が例えばプロモータなどの転写調節因子に付加されることにより、好適には特定の細胞種における導入遺伝子産物の発現が可能となるであろう。
【0174】
レトロウィルス感染を利用して、導入遺伝子をヒト以外の動物に導入してもよい。ヒト以外の動物の発育途上の胚を、インビトロで胞胚段階まで培養してもよい。この間、分割細胞をレトロウィルス感染の標的とすることができる(Jaenich,R.(1976)PNAS 73:1260−1264)。透明帯を除去する酵素処理により、分割細胞を効率的に感染させることができる(Manipulating the Mouse Embryo, Hogan eds. (コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、1986)。導入遺伝子の導入に使用されるウィルスベクター系は、一般には、導入遺伝子を運搬する、複製能のないレトロウィルスである(Jahner他(1985) PNAS 82:6927−6931; Van der Putten他(1985) PNAS 82:6148−6152)。ウィルス産生細胞の単層上で分割細胞を培養することにより、トランスフェクションを簡易かつ効率的に行うことができる(Van der Putten、同上、Stewart他(1987) EMBO J. 6:383−388)。又は、トランスフェクションをより後の段階で行ってもよい。ウィルス又はウィルス産生細胞を、分割腔内に注射してもよい(Jahner他(1982) Nature 298:623−628)。組み込みが、ヒト以外のトランスジェニック動物を形成した細胞集団においてのみ起こるため、初代の殆どはモザイクとなるであろう。更に、初代のゲノムの様々な位置に、レトロウィルスにより挿入された導入遺伝子が存在する場合もあるが、これらは後代で概ね分離するであろう。加えて、妊娠中期の胚の子宮内レトロウィルス感染により、導入遺伝子を生殖細胞系に導入することも可能である(Jahner他(1982)、同上)。
【0175】
導入遺伝子を導入するための第3の型の標的細胞は、胚の幹細胞(ES)である。ES細胞を、インビトロで培養した着床前の胚から採取して、胚と融合させてもよい(Evans他(1981) Nature 292:154−156; Bradley他(1984) Nature 309:255−258; Gossler他(1986) PNAS 83: 9065−9069;及びRobertson他(1986) Nature 322:445−448)。DNAトランスフェクション又はレトロウィルスにより媒介される形質導入により、導入遺伝子をES細胞中に効率的に導入してもよい。このようにして形質転換されたES細胞を、次にヒト以外の動物からの胞胚と結合させてもよい。これらのES細胞は、次にこの胚にコロニーを形成し、作製されたキメラ動物の生殖細胞系に貢献する。Jaenisch, R. (1988) Science 240:1468−1474を参照のこと。
【0176】
一実施例においては、相同的組換えを利用して動物のゲノムを変化させる方法である遺伝子ターゲティング法を用いて、培養した胚の幹細胞を変化させてもよい。ES細胞中の対象FRP遺伝子を標的とすることにより、これらの変化を動物の生殖細胞系に導入して、キメラを発生させる。標的FRP遺伝子座と相同なセグメントを有し、かつそのFRPゲノム配列に(例えば挿入、欠失、点突然変異などの)意図された配列変化を持つDNAターゲティング構造を組織培養細胞中に導入することにより、遺伝子ターゲティングが達成される。次に、このように処理された細胞を、ターゲティングの正確さについてスクリーニングして、適切にターゲティングされた細胞を特定及び単離する。
【0177】
胚の幹細胞中での遺伝子ターゲティング法は、1つ又は複数のFRPゲノム配列との相同的遺伝子組換えを行うべくデザインされたターゲティング導入遺伝子構成体を用いたFRP遺伝子機能の阻害方法として、本発明において意図された方法である。FRP遺伝子の一成分との組換えの際に、この遺伝子をコードする配列中に正の選択マーカが挿入される(又はこれらと置換される)ように、ターゲティング構成体が構成されていてもよい。この挿入された配列は、このFRP遺伝子の機能を阻害する一方で、正の選択によって決定される形質を付与する。FRPターゲティング構成体の例について、以下により詳細に述べる。
【0178】
一般に、ノックアウト動物の作製に用いる胚の幹細胞(ES細胞)は、作製するノックアウト動物と同じ種の細胞である。従って、例えばノックアウトマウスを作製するためには、マウスの胚の幹細胞を通常使用する。
【0179】
胚の幹細胞の発生及び保持には、例えばDoetschman他(1985)J. Embryol. Exp. Morpholに記載されている、当業で周知の方法を利用する。どのような系統のES細胞を使用してもよいが、選択する系統は通常、これらの細胞が発達途上の胚の生殖細胞系と結合してその一部となり、生殖細胞系にノックアウト構成体を伝達させる能力が高いものが選択される。従って、この能力を持つと考えられる任意のES細胞系統が、ここでの使用に好適である。ES細胞の作製に通常用いられるマウス系統の1つに、129J系統がある。別のES細胞系統には、ネズミの細胞系統D3(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、カタログ番号CKL1934)がある。更に別の好適なES細胞系統には、WW6細胞系統(Ioffe他(1995)PNAS 92:7357−7361)がある。ノックアウト構成体の挿入に用いる細胞を、例えばTeratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach, E. J. Robertson編、IRLプレス、ワシントンD.C.[1987])でRobertsonが述べている方法;Bradley他((1986)Current Topics in Devel. Biol. 20: 357−371);及びHogan他(Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク[1986])に記載されている方法などの当業で周知の方法によって培養及び作製してもよい。
【0180】
ES細胞へのノックアウト構成体の挿入を、例えば電気穿孔、顕微注射及びリン酸カルシウム処理を含めた当業で周知の様々な方法で行ってもよい。好適な挿入方法は、電気穿孔である。
【0181】
細胞中に挿入する各ノックアウト構成体は、最初に直鎖状でなければならない。従って、ノックアウト構成体をベクター(以下に記載)中に挿入すると、ベクター配列中でのみ切断を行い、ノックアウト構成体配列中では切断を行わないように選択された適切な制限エンドヌクレアーゼがDNAを切断し、直鎖化がなされる。
【0182】
挿入のために、当業で周知の選択した挿入方法に適した条件下で、ノックアウト構成体をES細胞に加える。複数の構成体をES細胞中に導入する場合には、各ノックアウト構成体を同時に導入しても、又は一度に1つずつ導入してもよい。
【0183】
ES細胞を電気穿孔する場合には、電気穿孔機を用いて、製造者の使用説明に従い、ES細胞とノックアウト構成体DNAとに電気パルスをかける。電気穿孔後に、通常はES細胞を適切な培養条件下で回復させる。次に、これらの細胞をスクリーニングして、ノックアウト構成体が存在するものを選択する。
【0184】
スクリーニングを、様々な方法で行ってもよい。マーカ遺伝子が抗生物質耐性遺伝子である場合には、例えば、ES細胞を、抗生物質耐性でなければ致死的な濃度の抗生物質の存在下で培養してもよい。生き残ったES細胞にはノックアウト構造が組み込まれているものと推定される。マーカ遺伝子が抗生物質耐性遺伝子以外の遺伝子である場合には、ES細胞ゲノムDNAのサザンブロットを、そのマーカ配列のみとハイブリダイズすべくデザインされたDNA配列で標識してもよい。又は、PCRを利用してもよい。最後に、マーカ遺伝子が、活性を検出可能な(例えばb−ガラクトシダーゼなどの)酵素をコードする遺伝子である場合には、その酵素基質を適切な条件下でこれらの細胞に加え、酵素活性を分析してもよい。所定の細胞におけるノックアウト構成体の存在を検出するためのその他の有用なマーカ及び手段は、当業者に周知であろう。そのようなマーカは全て、本発明の教示の範囲内に包含されるものとして意図されている。
【0185】
ノックアウト構成体がES細胞ゲノムの複数の位置に組み込まれてもよく、また、挿入事象の不規則な発生によって各ES細胞ゲノムの異なる位置に組み込まれてもよい。望ましい挿入位置は、例えばFRPをコードする配列、転写調節配列などの、ノックアウト対象のDNA配列と相補な位置である。通常は、ノックアウト構成体を加えたES細胞のうち、実際に望ましい位置にノックアウト構成体が組み込まれるのは約1−5%未満であろう。ノックアウト構成体が適切に組み込まれたこれらのES細胞を特定するためには、これらのES細胞から、DNA全体を標準的な方法で抽出する。次に、特別な制限酵素で切断されたゲノムDNAに特定のパターンでハイブリダイズすべくデザインされた1つ又は複数のプローブで、このDNAをサザンブロット上に標識してもよい。又は、或いは更に、このゲノムDNAを、特定の大きさ及び配列のDNA断片を増幅すべく特にデザインされたプローブを用いてPCR増幅してもよい(即ち、適切な位置にノックアウト構成体を持つ細胞からのみ、適切な大きさのDNA断片が生じる)。
【0186】
適切な位置にノックアウト構成体を持つ好適なES細胞を特定した後に、これらの細胞を胚に挿入してもよい。挿入を、当業者に周知の様々な方法で行ってもよいが、好適な方法は顕微注射である。顕微注射のために、約10−30個の細胞をマイクロピペット中に採取し、適切な発生段階の胚に注入して、ノックアウト構成体を含有する外来のES細胞をこの発生途上の胚に組み込む。例えば、添付の例に記載するように、形質転換したES細胞を胚細胞中に顕微注射してもよい。
【0187】
ES細胞の挿入に使用する胚の適切な発生段階は、種によって様々に異なるが、マウスの場合は約3.5日目である。胚を、妊娠した雌の子宮中を潅流することで得る。好適な方法は、当業で周知であり、例えばBradley他(上述)により述べられている。
【0188】
正しい発生段階のいかなる胚も使用可能であるが、好適な胚は雄である。マウスでは、好適な胚は、ES細胞遺伝子によってコードされる毛色とは異なる毛色をコードする遺伝子も持っている。こうして、モザイク毛色(ES細胞が発生途上の胚に組み込まれたことを示す)を探すことによって、子孫をスクリーニングして、ノックアウト構成体が存在するものを容易に選別することができる。従って、例えば、ES細胞系統が白色の毛色の遺伝子を持つ場合には、選択される胚は、黒又は茶色の毛色の遺伝子を持つこととなろう。
【0189】
ES細胞を胚に導入した後に、胚を偽妊娠養母の子宮に移植して妊娠させてもよい。いかなる養母も利用可能であるが、養母は通常、繁殖及び生殖能力並びに幼体の保育能力が良好であるものを選択する。そのような養母を、通常は同種の精管切除された雄との交配によって得る。移植を成功させるためには、偽妊娠養母の段階が重要であり、これは種によって異なる。マウスの場合には、この段階は偽妊娠約2−3日目である。
【0190】
養母の後代を、最初に(上述の、及び添付の例に記載の)毛色選択方法に従ってスクリーニングして、モザイク毛色を持つものを選択してもよい。更に、或いは又は、後代の尾から採取したDNAを、サザンブロット及び/又はPCRを利用してスクリーニングして、ノックアウト構成体を持つものを選択してもよい。モザイクと思われる後代を、これらがその生殖細胞系にノックアウト構成体を持つと考えられる場合には、互いに交配させて、同型接合ノックアウト動物を作製する。この交配で得られたマウスと、既知の異型接合の及び野生型のマウスとからのゲノムDNAを等量用いたサザンブロット法で、同型接合体を特定してもよい。
【0191】
別の手段を用いてノックアウト後代を特定し、その特徴を調べてもよい。例えば、ノーザンブロットを用いてmRNAを標識し、ノックアウトされた遺伝子又はマーカ遺伝子、或いはこれらの双方をコードする転写産物の有無を調べてもよい。更に、この遺伝子を発現している後代の様々な組織中のノックアウトされたFRP遺伝子の発現レベルを評価するために、このFRPタンパク質に対抗する抗体又はマーカー遺伝子産物に対抗する抗体でウェスタンブロットを標識してもよい。最後に、後代からの様々な細胞の(例えば細胞の固定化及び抗体による標識などの)インシツ分析及び/又はFACS(蛍光発色セルソータ)分析を、適切な抗体を用いて行い、ノックアウト構成体遺伝子産物の有無を調べてもよい。
【0192】
ノックアウト又は破壊トランスジェニック動物を作製する更に別の方法も一般に知られている。例えば、Manipulating the Mouse Embryo(コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1986)を参照のこと。例えばFRP−遺伝子の不活性化をリコンビナーゼ配列によって組織特異的に及び/又は一時的に制御することの可能な相同的組換え(以下に記載)によって、標的配列への挿入を行い、リコンビナーゼ依存性のノックアウト動物を作製してもよい。
【0193】
複数のノックアウト構成体及び/又は複数の導入遺伝子発現構成体を持つ動物を、複数の方法のうちいずれかを用いて作製する。好適な作製方法では、複数の望ましい導入遺伝子表現型のうちの1つをそれぞれが持つ複数の哺乳類を発生させる。そのような動物を、一連の交配、戻し交配及び選別によって互いに掛け合わせて、最終的に全ての望ましいノックアウト構成体及び/又は発現構成体を持つ1個の動物を作製する。この動物は、この(これらの)ノックアウト構成体及び/又はこの(これらの)導入遺伝子が存在するという点を除いては、野生型とコンジェニック(遺伝子的に同一)である。
【0194】
本発明についてさらに説明する下記の例は、本発明を限定するものと理解されるべきではない。引用された参考文献の内容は、(本出願全体を通じて引用された論文、登録特許、公開特許出願及び同時係属中の特許出願を含めて)全て参考文献として編入したものである。本発明は、特に明記した部分を除いては、細胞生物学、細胞培養学、分子生物学、導入遺伝子生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学における当業者が実施可能な従来の方法を用いて実施される。そのような方法については、参考文献中に詳細に説明されている。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual、第2版、Sambrook、Fritsch及びManiatis編(コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス:1989);DNA Cloning,第I及びII巻(D.N.Glover編、1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編、1984);Mullis他、米国特許No:4,683,195;Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames及びS.J.Higgins編、1984);Transcription And Translation(B.D.Hames及びS.J.Higgins編、1984);Culture Of Animal Cells(R.I.Freshney、Alan R.Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes(IRLプレス、1986);B.Perbal、A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);論文、Methods In Enzyrnology(アカデミック・プレス、ニューヨーク);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.Miller及びM.P.Calos編、1987、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー);Methods In Enzymology、第154巻及び第155巻(Wu他編)、Immunochemical Methods lit Cell And Molecular Biology(Mayer及びWalker編、アカデミック・プレス、ロンドン、1987 ;Handbook Of Experimental Immunology、第I−IV巻(D.M.Weir及びC.C.Blackwell編、1986);Manipulating the Mouse Embryo(コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1986)を参照されたい。
【0195】
5.1.Frizzle関連タンパク質1(FRP−1)と緑内障との関係
材料及び方法
RNA示差的ディスプレー法で特定されたFrizzled関連タンパク質cDNA配列
AACAGCCTGCCTGTCCCCCCGCACTTTTTACATATATTTGTTTCATTTCTGCAGATGGAAAGTTGACATGGGTGGGGTGTCCCCATCCAGCGAGAGAGTTTCAAAAGCAAAACATCTCTGCAGTTTTTCCCAAGTACCCTGAGATACTTCCCAAAGCCCTTATGTTTAATCAGCGATGTATATAAGCCAGTTCACTTAGACAACTTTACCCTTCTTGTCCAATGTACAGGAAGTAGTTCT(SEQ ID NO:3)
【0196】
5.2.COS細胞における組換えFRP又はWnt経路遺伝子の発現
この例では、組換え全長ヒトFRP又はWnt経路成分遺伝子を哺乳類の発現系中で作製する方法を記載する。
【0197】
全長ヒトFRP又はWnt経路成分タンパク質或いは可溶性FRP又はWnt経路成分をコードする核酸を持つ発現構成体を、以下のように構成してもよい。上述の全長ヒトFRP又はWnt経路成分タンパク質又は溶解可能な形のFRP又はWnt経路成分タンパク質を、FRP又はWnt経路成分遺伝子を発現している、例えばヒト小柱網細胞などのヒト細胞から抽出したmRNAの逆転写(RT−PCR)によって、SEQ ID NO.1で表される配列に基づくPCRプライマを用いて得る。これらのPCRプライマには、発現プラスミドへの導入のための適切な制限部位も含まれる。増幅した核酸を、次に、例えば1)SV40複製開始点と、2)アンピシリン耐性遺伝子と、3)E.コリ複製開始点と、4)CMVプロモータ及びこれに続くポリリンカ領域、SV40イントロン及びポリアデニレーション部位と、を持つpcDNAI/Amp(InVitrogen社)などの真核発現プラスミド中に挿入する。全長ヒトFRP又はWnt経路成分をコードするDNA断片と、その3’側の末端にインフレームで融合したHA又はmyc標識を、次に前記ポリリンカ領域内に複製する。前記HA標識は、前述のインフルエンザヘマグルチニンタンパク質から誘導されたエピトープに対応している(I. Wilson, H. Niman, R. Heighten, A Cherenson, M. Connolly, 及び R. Lerner, 1984, Cell 37, 767)。HA標識がFRP又はWnt経路成分に融合することで、HAエピトープを認識する抗体を用いた組換えタンパク質の検出が容易となる。
【0198】
組換えFRP又はWnt経路成分を発現させるために、COS細胞を、DEAE−DEXTRAN法を用いて、発現ベクターでトランスフェクトさせる。(J.Sambrook, E. Fritsch, T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(1989))。FRP又はWnt経路成分−HAタンパク質の発現を、抗−HA抗体を用いた放射線標識とイムノプレシピテーションとによって検出してもよい(J. Sambrook, E. Fritsch, T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual,コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(1989))。この場合、トランスフェクトした細胞を、35S−システインで、トランスフェクト後2日間標識する。これらの細胞又は(例えば可溶性FRP又はWnt経路成分などの)培地を次に回収し、FRP又はWnt経路成分タンパク質を、HA特異性モノクローナル抗体でイムノプレシピテートする。又は、組換えタンパク質の発現を、ウェスタンブロット分析で検出してもよい。全長FRP又はWnt経路成分が膜タンパク質及び/又は分泌タンパク質であるか否かを調べるために、全長FRP又はWnt経路成分タンパク質をコードするベクターでトランスフェクトされた細胞を、界面活性剤(RIPA緩衝液(150mM NaCl 1% NP−40、0.1% SDS、1% NP−40、0.5% DOC、50mM Tris、pH 7.5)に溶解させてもよい(Wilson,I.他、同上、37:767(1984))。沈殿したタンパク質を、次にSDS−PAGEゲル上で分析してもよい。こうして、FRP又はWnt経路成分が細胞中に存在すると、全長FRP又はWnt経路成分が膜結合性でありうることが示され、また、FRP又はWnt経路成分が上清中に存在すると、前記タンパク質が、分泌されたタンパク質であるか又は細胞からの漏出によって形成されたタンパク質であるかにかかわらず、可溶性でもありうることが示される。
【0199】
等価物
当該分野の熟練技術者は、本明細書に記載した発明の実施例の等価物を数多く、通常の実験で理解し、あるいは確認することが可能であろう。そのような等価物については、請求項に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト被験体の高眼内圧の治療のための薬剤の調製における、Wnt経路成分又はfrizzled関連タンパク質遺伝子産物のレベル又は生物活性を増加又は減少させる治療上有効量の化合物の使用。
【請求項2】
前記化合物が、タンパク質、ペプチド、ペプチドミメティック、小分子又は核酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記核酸が、遺伝子、アンチセンス、リボザイム及びトリプレックス核酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記核酸がfrizzled関連タンパク質遺伝子の核酸であることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記化合物がfrizzled関連タンパク質遺伝子産物のアンタゴニストであることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記化合物が遺伝子治療薬であることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記化合物がタンパク質治療薬であることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
前記化合物が、Wnt経路成分の遺伝子又は活性のレベルを増加させる薬剤であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記化合物が、突然変異したfrizzled関連タンパク質遺伝子又は遺伝子産物からなることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記化合物がアンチセンス、リボザイム又は三重らせん分子であることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記化合物が小分子、ペプチド又はペプチドミメティックであることを特徴とする、請求項9に記載の使用。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−25763(P2012−25763A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198018(P2011−198018)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【分割の表示】特願2001−563636(P2001−563636)の分割
【原出願日】平成13年2月26日(2001.2.26)
【出願人】(504020348)アルコン インク (1)
【氏名又は名称原語表記】Alcon,Inc.
【住所又は居所原語表記】P.O.Box 62,Bosch 69, CH−6331 Hunenberg,Switzerland
【出願人】(304051252)ユニバーシティー オブ アイオワ リサーチ ファウンデーション (11)
【Fターム(参考)】