説明

線材および線材を用いたネット状物

【目的】 成形性と曲げ加工性に優れ、かつ一定の期間経過後に分解する、線材および線材を用いたネット状物を提供すること。
【解決手段】 金属製の芯材2と、芯材2に被覆した分解性の被膜3とにより線材1を形成する。この線材1を使用してネット状物を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は線材および線材を用いた金網やフェンス等(以下「ネット状物」という)のネット状物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】金網やフェンス等のネット状物は基本的に金属製の線材で形成されていて、ネット状物の強度をできるだけ長期間保証することを目的として、線材の表面に鍍金や樹脂被膜を施して防錆処理を行っている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来の線材やネット状物にはつぎのような解決すべき課題がある。
<イ> 法面緑化工法における植生基盤材の崩落防止手段として金網が用いられている。金網を敷設した後に植生基盤材を厚層に吹き付けているが、木本類を植栽するためスコップ等で穴を掘ろうとすると金網が障害となる。そのため、植生基盤材を払い除けて金網を穴形にカッター等で切断しなければならず、穴開け作業に多大の時間と労力がかかる。
<ロ> また法面緑化工法において、金網は植生基盤材の崩落を阻止し得る強度を有するが、木本類に対しては幹や根系の肥大成長時に悪影響を与える場合がある。また木本類の生育性を優先して低強度の金網を使用すると、植生基盤材の支持機能の犠牲を強いられる。落石防止柵に用いる金網においても同様の問題がある。
【0004】本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは成形性と曲げ加工性に優れ、かつ一定の期間経過後に分解する、線材および線材を用いたネット状物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】すなわち、請求項1に係る発明は、芯材の表面に被膜を形成した線材であって、前記芯材が塑性変形する素材からなり、前記被膜が自然分解性の被膜よりなることを特徴とする、線材である。請求項2に係る発明は、請求項1において、芯材が金属製の線材であることを特徴とする、線材である。請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2において、芯材の表面に凹凸を形成し、該凹凸面を介して自然分解性の被膜が一体に付着していることを特徴とする、線材である。請求項4に係る発明は、線材を網状に形成したネット状物であって、前記請求項1乃至請求項3の何れかに記載の線材を使用して網状に形成したことを特徴とする、ネット状物である。請求項5に係る発明は、請求項4において、線材を折曲して網状に形成したことを特徴とする、ネット状物である。
【0006】
【発明の実施の形態1】以下、図1、図2に基づいて本発明の実施の形態について説明する。
【0007】<イ>線材図1に本発明に係る線材1のモデル図を示す。同図の(A)は自然分解前の線材1を示し、同図の(B)は自然分解後の線材を示す。線材1は芯材2と、芯材1に付着して被覆する分解性被膜3とより構成されている。
【0008】<ロ>芯材芯材2は線材1の強度部材であることの他に、塑性変形して良好な曲げ加工性を確保するための部材であり、塑性変形性と高い引張強度を有する例えば鋼線等の金属製の裸線が好適である。線材1全体の引張強度は芯材2と分解性被膜3の両部材の強度により求めるものであるから、芯材2の引張強度は使途に応じて要求される最低強度を若干下回る強度に設定することで十分である。芯材2の表面に凹凸処理を施しておくと、分解性被膜3の付着生性向上と、分解性被膜3の消失後における腐食の促進を図ることができる。芯材2の断面形状は円形に限定されず、楕円形や矩形、多角形を含み、また芯材2は中空構造であってもよい。
【0009】<ハ>分解性被膜分解性被膜3は芯材1の強度を補うと共に、一定期間経過後に自然分解して消失する性質の被膜である。分解性被膜3としては、例えば紫外線により、または土壌の微生物により分解される性質の公知の自然分解性プラスチックを用いることができる。自然分解性プラスチックの一例としては、ポリプロピレンやポリエチレンにデグラ・ノボン(ノボン・ジャパン社製)を混合したものを使用できる。自然分解性材料は炭素と水素を含む有機化合物であればよい。分解性被膜3の形成方法としては、芯材2に自然分解性プラスチック溶液を吹き付けるか、或いは芯材2を自然分解性プラスチック溶液に含浸させて被覆し、その後に乾燥固化させる方法を採用できる。
【0010】また分解性被膜3の被覆時期は、芯材2を折曲してネット状物を形成した後に自然分解性プラスチック溶液を吹き付けるか、自然分解性プラスチック溶液に含浸させてもよい。
【0011】また分解性被膜3の自然分解期間は、分解性被膜3の被覆厚でもって調整するか、自然分解性材料の配合比率でもって調整する。
【0012】<ニ>ネット状物前記した塑性変形可能な線材1を従来と同様にネット状に編成する。図2は線材1を用いて形成したネット状物の一例を示す。同図の(A)は菱形金網4a、(B)は亀甲金網4b、(C)はクリンプ金網4c、(D)は織金網4d、(E)は溶接金網4eに適用した例を夫々示す。溶接金網4eは芯材2を先行して溶接した後に分解性プラスチック溶液を吹き付けるか、或いは自然分解性プラスチック溶液に含浸させて形成することになる。それ以外の金網は、前記した線材1を使用して形成するか、芯材2を先行して屈曲加工する方法の何れの方法でもよい。
【0013】
【作用】つぎに線材1および線材1を用いて形成したネット状物の特性について説明する。
【0014】<イ>折曲加工性線材1を構成する芯材2は塑性変形する素材で形成されている。そのため、線材1は折曲した場合、塑性変形して元の形状に復元することはない。したがって、例えば図2に示したネット状物4a〜4dを機械的に編成する場合も同様に機械的に編成することができ、折曲加工性に優れる。ネット状物4a〜4eは例えば緑化工、護岸工、防護柵等の種々の用途に供することができる。
【0015】<ロ>強度について芯材2だけでなく分解性被膜3の引張強度やせん断強度も含めて、用途に応じて線材1全体の強度が設定されている。したがって、線材1を単独でまたはネット状物4a〜4eとして用いた場合、この設定強度が維持される。
【0016】<ハ>分解線材1を単独でまたはネット状物4a〜4eを土中に埋設したり、水没したり、大気に晒して設置した場合、線材1を構成する分解性被膜3が微生物等による分解が進行する。
【0017】所定の設定期間を経過すると、図1の(B)の二点鎖線で示すように、微生物や紫外線により分解性被膜3が劣化を開始する。分解性被膜3の分子量が減少し微粒子に崩壊する。崩壊した微粒子を微生物が消化する。分解性被膜3の消失に伴い線材1の強度(引張強度、せん断強度)は著しく低下する。したがって、分解性被膜3が消失した状態で線材1やネット状物4a〜4eに引張またはせん断の外力が作用すると、分解性被膜3の消失前と比べて小さな外力でもって線材1またはネット状物4a〜4eが破断することになる。
【0018】また分解性被膜3が分解した結果、芯材2が露出する。芯材2は防錆被膜を失ったことにより錆による腐食が進行し、最終的に芯材2も消失し、線材1すべてが消滅する。殊に、分解性被膜3が自然分解する過程で水(H2O)を発生するため、錆による芯材2の腐食が促進される。
【0019】芯材2の腐食が進行する過程において、外力が作用すると容易に破断する。芯材2の破断する力は、前記した分解性被膜3の消失直後の線材1やネット状物4a〜4eと比べて著しく小さなものとなる。
【0020】以上のように線材1やネット状物4a〜4eは設置した当初は所定の設計強度を具備して用途に応じた強度部材として機能する。その後、所定の時間を経過すると脆弱化が著しく進むため、例えば木本類の生育過程において線材1が拘束しようとすると容易に破断して、木本類の肥大成長を阻害しない。
【0021】
【発明の効果】本発明は、次のような効果を得ることができる。
<イ> 設置当初は十分な強度を有して用途に応じた機能を発揮し、所定の期間を経過した後に低強度(脆弱)となる性質の線材およびネット状物を提供することができる。換言すれば、木本類の近傍に線材を単独でまたはネット状物として設置しても、木本類の生育初期においては、線材またはネット状物が用途に応じた強度を発揮し、また所定期間の経過に伴い設置目的を達成した後においては、強度が著しく低下するか或いは消失するので木本類の肥大成長を阻害することがなくなる。
<ロ> 線材のすべてを自然分解性の材料で形成することも可能であるが、設定強度に限界があることと、弾性変形して加工性が悪いといった難点がある。本発明では線材の芯材に塑性変形する材料を用いることで、設定強度に限界がなく、かつ曲げ加工性にも優れている。
<ハ> 本発明に係る線材およびネット状物は種々の用途に用いることができ、汎用性に富む。
<ニ> 芯材に分解性被膜を形成するだけであるので製作性がよく、しかも分解性被膜は硬化して芯材と一体化しているため、曲げ加工により剥離し難い。
【図面の簡単な説明】
【図1】発明の実施の形態に係る線材の説明図で、(A)が分解前における線材のモデル図、(B)は分解後における線材のモデル図
【図2】線材を用いてネット状物を形成した例の説明図で、(A)は菱形金網、(B)は亀甲金網、(C)はクリンプ金網、(D)は織金網、(E)は溶接金網に係る平面図
【符号の説明】
1 線材
2 芯材
3 分解性被膜
4a〜4e ネット状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】 芯材の表面に被膜を形成した線材であって、前記芯材が塑性変形する素材からなり、前記被膜が自然分解性の被膜よりなることを特徴とする、線材。
【請求項2】 請求項1において、芯材が金属製の線材であることを特徴とする、線材。
【請求項3】 請求項1または請求項2において、芯材の表面に凹凸を形成し、該凹凸面を介して自然分解性の被膜が一体に付着していることを特徴とする、線材。
【請求項4】 線材を網状に形成したネット状物であって、前記請求項1乃至請求項3の何れかに記載の線材を使用して網状に形成したことを特徴とする、ネット状物。
【請求項5】 請求項4において、線材を折曲して網状に形成したことを特徴とする、ネット状物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2001−310416(P2001−310416A)
【公開日】平成13年11月6日(2001.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−130217(P2000−130217)
【出願日】平成12年4月28日(2000.4.28)
【出願人】(392012261)東興建設株式会社 (28)
【出願人】(390019323)小岩金網株式会社 (32)
【Fターム(参考)】