説明

線材の製造方法

【課題】圧延材に良質なスケールを簡単に形成して、カミコミ異常を防止し得る線材の製造方法を提供する。
【解決手段】ショットブラスト工程において、圧延材Sに対しショットブラストが実施され、圧延材Sの表面積が拡大される。加熱工程では、加熱炉12において、圧延材Sをソーキング温度まで加熱する。圧延材Sがソーキング温度まで加熱されると、引き続きソーキング工程に移行する。ソーキング工程では、圧延材Sをソーキング温度に維持した状態で、所定時間ソーキングを行う。ソーキング工程は、液化天然ガスを燃焼させて水蒸気雰囲気下で実施する。ソーキング工程でソーキングされた圧延材Sは、圧延工程で熱間圧延されて線材Lが製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フェライト系ステンレス鋼からなる圧延材を圧延して線材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロム含有量の高いフェライト系ステンレス鋼からなる圧延材(鋼片)は、加熱炉で圧延温度まで加熱された後、熱間圧延工程を経ることで所定の線径まで圧延されて線材とされる。圧延工程では、一対の圧延ロールの間を圧延材が通過する間に、圧延ロールの圧力により圧延材が引き延ばされるようになっている。この圧延工程においては、圧延材の表面から剥離した破片が圧延ロールに噛み込まれて、上流側の圧延材の表面に該破片が固着する「カミコミ」と呼ばれる現象(以下、カミコミ異常と指称する)が発生することがある。
【0003】
図4に示すように、このカミコミ異常の発生メカニズムは、概略、以下の如く説明される。前述した加熱炉における加熱工程では、圧延材Sが圧延温度まで加熱される間に、該圧延材Sの表面にスケールTと呼ばれる酸化膜が形成される。このスケールTは、圧延材Sの表面全体を覆うように形成されることで、一種のコーティング膜として機能し、圧延材Sへの圧延時の負荷を軽減する働きがある。しかしながら、従来の加熱工程で形成される酸化膜は、難延性のクロム酸化物(Cr)を主成分としており、その膜厚も、圧延材Sの厚みに較べて極めて薄いものであった。このような難延性で薄膜状のスケールTは、圧延時の負荷によって圧延材Sの表面から剥離し易い欠点がある。圧延材SからスケールTが剥離すると、当該剥離した箇所が外部に剥き出しになってしまい、図4(a)に示すように、圧延材Sが圧延ロールRに直接接触する。これにより、圧延材Sの表面が圧延ロールRと焼き付きを起こし、圧延材Sの表面の一部(破片f)が剥がれてしまい、当該破片fが圧延ロールRに付着する(図4(b)参照)。そして、圧延ロールRに付着した破片fが上流側の圧延材Sの表面に押し付けられ、該破片fが圧延材Sの表面に固着することで、前記カミコミ異常が発生する(図4(c)参照)。このカミコミ異常が発生すると、線材表面の美観や耐食性が低下すると共に、線材表面に固着した破片fを除去するための酸洗や研磨等の仕上工程が煩雑化し、製品コストが高騰する難点がある。
【0004】
そこで、このカミコミ異常に対応したものとして、特許文献1には、圧延材を加熱炉で加熱する前に、スケール形成を促進させる薬剤を圧延材の表面に塗布する方法が提示されている。薬剤を塗布することで、加熱工程において圧延材表面に延性に富んだスケールが形成されて、圧延時にスケールが圧延材の表面から剥離し難くなり、圧延ロールと圧延材との焼き付きの発生を抑制し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−24707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前述した従来技術に係る方法では、前記薬剤を塗布するためにスプレー装置等を新たに導入する必要があり、導入コストが嵩む難点がある。また、ハケ等により作業者が薬剤を塗布する場合には、人件費が嵩むと共に、塗布するための作業時間を要して、製造効率が低下する要因となる。しかも、従来技術の方法では、圧延材に塗布した薬剤にムラが生じることがあり、薬剤が塗布されなかった部位でスケールが形成されず、カミコミ異常が発生する虞もある。
【0007】
すなわち、本発明は、従来技術に係る線材の製造方法に内在する前記問題に鑑み、これらを解決するべく提案されたものであって、簡単な方法で良質なスケールを形成してカミコミ異常の発生を防止し得る線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため、本発明に係る線材の製造方法は、
フェライト系のステンレス鋼からなる圧延材を圧延ロールにより圧延して線材を製造する方法であって、
前記圧延材を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程に引き続き、加熱された前記圧延材を当該加熱温度に維持した状態でソーキングするソーキング工程と、
前記ソーキング工程でソーキングされた前記圧延材を熱間圧延することで線材を形成する圧延工程とを行うことを要旨とする。
請求項1の発明によれば、加熱工程の後にソーキングを行うことで、圧延材の表面に延性および潤滑性に富んだ良質なスケールを形成し得るので、圧延工程においてカミコミ異常が発生するのを抑制することが可能となる。しかも、加熱工程の後に加熱炉でそのままソーキングを行い得るので、新たな設備を必要とせず、コストが嵩むことはない。また、ソーキングによりスケールを圧延材の表面全体に均一に形成することができるから、スケールの形成箇所にムラが生じるのを防止して、カミコミ異常が発生するのを確実に抑制することができる。
【0009】
請求項2に係る線材の製造方法では、前記加熱工程の前に、前記圧延材に対しショットブラストを行って該圧延材の表面積を大きくするショットブラスト工程が実施されることを要旨とする。
請求項2の発明によれば、加熱工程の前にショットブラスト工程を実施して、圧延材の表面積を大きくするから、圧延材の表面の酸化反応が促進されて、良質なスケールを更に効率的に形成することが可能となる。
【0010】
請求項3に係る線材の製造方法では、前記ソーキング工程は、液化天然ガスを燃焼させた雰囲気下で実施されることを要旨とする。
請求項3の発明によれば、液化天然ガスで燃焼させることで、炉内を水蒸気雰囲気とすることができ、延性および潤滑性に富んだ更に良質なスケールを形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る線材の製造方法によれば、良質なスケールを圧延材の表面に効率的に形成し、圧延工程でのカミコミ異常を防止し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例に係る線材の製造方法が実施される線材製造ラインを示す説明図である。
【図2】実験例1に係る圧延材の実験条件および実験結果を示す図である。
【図3】実験例2に係る圧延材の実験条件および実験結果を示す図である。
【図4】カミコミ異常が発生するメカニズムの説明図であって、(a)はスケールが剥離した箇所を圧延ロールが圧延する状態を示し、(b)は圧延材に焼き付きが発生した状態を示し、(c)はカミコミが発生した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係る線材の製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。なお、以下の説明で、従来技術の図4で既出の部材については、同じ符号を付して説明を行うものとする。
【実施例】
【0014】
図1は、実施例に係るフェライト系ステンレス鋼からなる圧延材(鋼片)Sから線材Lを製造する線材製造ラインを示す概略図である。この線材製造ラインは、ショットブラスト工程、加熱工程、ソーキング工程および圧延工程の4つの工程から基本的に構成され、圧延材Sを長尺な線材Lに製造するものである。本実施例では、フェライト系ステンレス鋼として、JIS規格SUS430で規定されるステンレス鋼を採用している。但し、フェライト系ステンレス鋼としては、JIS規格SUS430F、SUS434等で規定されるステンレス鋼を採用することも可能である。なお、圧延材Sは、ショットブラスト工程を実施する前に、予めグラインダー(図示せず)等により表面疵が除去される。
【0015】
前記ショットブラスト工程は、鋼材表面の疵取りやスケールの除去のために従来から用いられているショットブラスト装置10を用い、所要速度で搬送される圧延材Sにショット(投射材)を衝突させて実施される。但し、実施例のショットブラスト工程では、圧延材Sに対しショットブラストを行うことで、該圧延材Sの表面に無数のショット痕mを形成して表面積を拡大させることを目的とする。圧延材Sの表面積を大きくすることで、後述するソーキング工程におけるスケールTの形成を促進(酸化促進)するようになっている。ショットブラスト装置10から放出されるショットとしては、例えば、粒径1.5×1.5×1.8の直方体(材質:JIS規格SS400)が採用される。但し、ショットの粒径や形状、材質は、実施例に限定されるものでなく、圧延材Sの表面に無数のショット痕mを形成して表面積を拡大し得るものであれば、球体等、各種の形状およびサイズのショットを適宜採用することができる。また、ショットブラスト工程の実施時間は、約1分となっている。但し、この実施時間についても、圧延材Sのサイズやショットブラスト装置10における圧延材Sの搬送速度等に応じて適宜変更可能である。
【0016】
加熱工程は、加熱炉12を用いて圧延材Sを加熱する工程である。加熱工程で用いられる加熱炉12は、フェライト系ステンレス鋼の酸化促進の観点から、炉内雰囲気中に水蒸気(HO)が多く含まれるよう液化天然ガス(LNG)を燃料としている。加熱工程では、圧延材Sを圧延可能な圧延温度(加熱温度)まで一気に加熱するようになっており、実施例では、加熱工程は、圧延材Sの加熱開始から圧延材Sが圧延温度に到達するまでの間の工程をいう。圧延温度は、後述するようにソーキング時の温度(以下、ソーキング温度という)と同じであり、スケール形成の観点から、好ましくは、900℃〜1200℃、更に好ましくは、1000℃〜1200℃の範囲内で設定される。
【0017】
ソーキング工程は、加熱工程と同様に、加熱炉12内で実施される。すなわち、加熱工程で圧延材Sが前記ソーキング温度に到達すると、引き続きソーキング工程に移行して、当該ソーキング温度を維持した状態(当該加熱温度に維持した状態)で圧延材Sを所定時間(ソーキング時間)だけ保持する(ソーキングする)。ソーキング工程を実施することで、圧延材Sの表面酸化が促進されて、ソーキング工程を実施しない場合に較べ、良質なスケールTが多く均一に形成される。また、前記液化天然ガスを燃焼させることで、ソーキング工程時の炉内雰囲気は、水蒸気を多く含むから、延性および潤滑性の富むFeO、Fe、Fe等の酸化成分(特に、FeO)を多く含んだ良質なスケールTが形成される。なお、ソーキング工程での炉内雰囲気は、水蒸気濃度が約16.5%であるのが望ましい。また、スケールTの形成は、ソーキング温度が高いほど促進されるため、ソーキング温度は、前述のように、好ましくは、900℃以上、更に好ましくは、1000℃以上に設定される。但し、ソーキング時の燃料コスト等に鑑みて、ソーキング温度は、前述のように、1200℃以下に設定される。
【0018】
圧延材Sの表面に形成されるスケールTの厚み(量)は、ソーキング時間に応じて大きくなる(多くなる)ことから、圧延材Sの保護の観点からは、ソーキング時間を長く設定することが望ましい。但し、圧延材Sの表面に余りに大量のスケールTが形成されると、圧延工程後のスケールTの残留量が多くなり、酸洗処理等、スケールTの除去作業が煩雑となってしまう。また、ソーキング時間に応じて燃料コストも嵩んでしまう。従って、ソーキング時間は、圧延工程においてカミコミ異常が発生しない程度の適度な厚みのスケールTが形成される時間に設定される。具体的には、ソーキング時間は、好ましくは、5分〜50分、更に好ましくは、20分〜30分の範囲内で設定される。
【0019】
前記圧延工程は、複数の圧延ロール(図示せず)を備えた公知の圧延装置14により実施される。複数の圧延ロールにより圧延材Sを熱間圧延することで、長尺な線材Lを形成するものである。圧延時には、前記ソーキング工程で形成された良質なスケールTが圧延材Sの表面を保護するので、該圧延材Sが圧延ロールと焼き付きを起こすのは防止される。なお、圧延工程の終了後、得られた線材Lに対し酸洗処理が施されて、該線材Lの表面に残留しているスケールTが除去される。
【0020】
次に、実施例に係る線材Lの製造方法について、図1に示す線材製造ラインで線材Lを製造する場合を例に説明する。グラインダーにより圧延材Sの表面疵を予め除去した後に、ショットブラスト工程において、圧延材Sに対しショットブラストが約1分間行われる。これにより、圧延材Sの表面に無数のショット痕mが形成され、圧延材Sの表面積が大きくなる。ショットブラスト工程が終了すると、次に、加熱工程に移行して、圧延材Sを加熱炉12内で加熱する。加熱工程では、圧延材Sがソーキング温度(例えば、1000℃)まで一気に加熱される。なお、この加熱工程で、圧延材Sの表面が酸化してスケールTが形成されるものの、形成されるスケールTの量は僅かである。
【0021】
圧延材Sがソーキング温度に到達すると、加熱工程は終了して、そのままソーキング工程に移行する。ソーキング工程では、加熱炉12内をソーキング温度に維持した状態で、圧延材Sを所定時間(例えば、20分)ソーキングする。このソーキングを行うことで、圧延材Sの表面の酸化が促進されて、スケールTが圧延材Sの表面に均一に形成される。しかも、ショットブラスト工程で圧延材Sの表面積が大きくなっているから、圧延材Sの表面酸化が促進され、所定の厚み(例えば、約3.0μm)のスケールTが圧延材Sの表面全体に形成される。更に、液化天然ガスを燃焼させた加熱炉12内の水蒸気雰囲気下で圧延材Sがソーキングされるから、特にFeOを多く含有し、延性および潤滑性が富んだ良質なスケールTが形成される。
【0022】
ソーキング工程が終了すると、圧延工程が実施される。圧延工程では、圧延ロールによる圧延材Sの熱間圧延が行われる。このとき、圧延ロールにより圧延材Sの表面が押圧されて、該表面に大きな負荷が加わる。しかるに、圧延材Sの表面には、ソーキング工程で十分な厚みのスケールTが形成されているから、該スケールTにより圧延材Sが保護される。しかも、水蒸気雰囲気下で形成されたスケールTは、延性及び潤滑性に富んでいるから、圧延ロールの負荷によって圧延材Sから剥離するのは抑制される。すなわち、スケールTが剥がれ落ちて圧延材Sの表面が外部に露出する事態が生じ難くなるから、圧延材Sが圧延ロールと焼き付きを起こすのは好適に抑制される。
【0023】
このように、実施例に係る線材Lの製造方法によれば、ソーキング工程により圧延材Sの表面に良質なスケールTを十分な量で形成し得るから、圧延工程において、圧延材Sが圧延ロールと焼き付きを起こすのを抑制することができる。従って、圧延時に材料表面にカミコミ異常が発生するのを好適に抑制して、表面品質の高い線材Lを製造することができる。しかも、加熱工程の終了後、加熱炉12内でソーキングを行うだけで簡単に良質なスケールTを形成し得るから、コストを抑えることができる。また、ソーキングによりスケールTを形成するから、圧延材Sの表面全体に均一にスケールTが形成されて、スケールTの形成にムラが生じることはない。
【0024】
〔実験例1〕
次に、前述した実施例に係る線材Lの製造方法の効果を確認するため、液化天然ガスを燃焼させた雰囲気下の加熱炉12を用いて評価試験を行った。具体的には、JIS規格SUS430のフェライト系ステンレス鋼からなる圧延材Sに対し、ショットブラスト、ソーキングおよびデスケーラーの実施の有無により、(1) 形成されるスケールTの厚み、(2) 形成されたスケールTの組成、(3) 圧延時のカミコミ異常の発生の有無の相違について評価を行った。
【0025】
図2に示すように、実施例1は、ショットブラストは実施せず、デスケーラーおよびソーキングを実施した場合、実施例2はショットブラストおよびデスケーラーは実施せずにソーキングのみを行った場合、実施例3はショットブラストおよびソーキングを実施し、デスケーラーは実施しなかった場合である。一方、比較例1は、デスケーラーのみを実施した場合、比較例2は、ショットブラスト、デスケーラーおよびソーキングの何れも実施しなかった場合である。スケールTの厚みは、圧延材Sの表面をマイクロ顕微鏡(×400倍)で捉えた観察写真から任意3箇所でのスケールTの厚さを実測し、その平均値を算出した。また、スケールTの組成は、X線解析結果から同定した。なお、スケールTの厚みおよび組成は、圧延工程に移行する前に測定した。また、実験を行う前に、圧延材Sに対し、加熱工程を実施した。ソーキング工程でのソーキング温度は950℃、ソーキング時間は5分とした。
【0026】
図2から分かるように、実施例および比較例の何れも、形成されたスケールTの組成はFeO、FeおよびFeの成分を含んでいる。これは、水蒸気雰囲気下で加熱(およびソーキング)したことで、形成されたスケールTにFeO、FeおよびFeの成分が生成されたものと判断される。但し、比較例1,2では、ソーキングをしておらず、実施例1〜3に較べ、FeOの成分量が極めて少ない結果となった。すなわち、良質なスケールを構成するFeOの生成は、ソーキング工程により促進されることが分かる。スケールTの厚みは、ショットブラストおよびソーキングを行ってデスケーラーを実施しなかった実施例3が最も大きくなっている。また、実施例3は、カミコミ異常が発生しておらず、殆ど疵のない高い表面品質となっている。実施例2は、ショットブラストを実施しておらず、実施例3に較べてスケール厚は小さくなっているものの、カミコミ異常は発生しておらず、殆ど疵のない良好な表面品質が得られている。一方、実施例1は、デスケーラーの実施によりスケールTの厚みが実施例2,3より小さくなっている。但し、ソーキングの効果により、FeOを多く含む良質なスケールTが形成されたと考えられ、カミコミ異常は確認されなかった。また、実施例1の表面品質は、実施例2,3に較べて僅かに劣るものの、疵等が僅かに確認された程度で高い品質であるといえる。
【0027】
一方、ソーキングを行っていない比較例1,2は、何れもスケールTの厚みが小さく、圧延後にカミコミ異常が確認された。特に、デスケーラーを実施した比較例1では、カミコミ異常が2箇所確認され、圧延材Sの表面疵も多く確認された。実験例1の結果から、ソーキングを行うことで、特にFeOを多く含む良質なスケールTが圧延材Sの面に十分に形成されて、カミコミ異常を好適に抑制し得ることが確認された。また、ショットブラスト工程を経ることで、圧延材Sの酸化が促進され、ソーキングのスケール厚を大きくし得ることが確認された。なお、スケールTの厚みを確保する観点から、デスケーラーは実施すべきでないといえる。
【0028】
〔実験例2〕
次に、実験例1と同様にして、ソーキング時間を変えた場合のスケールTの厚みおよびカミコミ異常の有無について確認した。圧延材Sの材質としては、JIS規格SUS430のステンレス鋼を採用した。図3に示すように、実施例4,5では、ソーキング温度を950℃とし、実施例6では、ソーキング温度を1120℃とした。また、実施例4〜6の各ソーキング時間は、30分、20分、45分とした。なお、圧延材Sに対しては、予めショットブラスト工程および加熱工程が実施されている。
【0029】
図3におけるスケールTの厚みは、実験例1と同様に、圧延材Sの表面をマイクロ顕微鏡(×400倍)で捉えた観察写真から任意3箇所におけるスケールTの厚さを実測し、その平均値を算出した。この結果から分かるように、ソーキング時間が最も長く、ソーキング温度も最高とした実施例6では、スケールTの厚みが最大(4.2μm)となっている。一方、ソーキング時間を最短とした実施例5では、スケールTの厚みも最小(3.8μm)となっている。また、ソーキング時間が実施例5と実施例6の間の実施例4では、スケールTの厚みも両者の間の値(4.0μm)となっている。そして、実施例4〜6の何れも、圧延時のカミコミ異常は確認されなかった。実験例2の結果から、スケールTの厚みは、ソーキング時間に応じて大きくなる傾向にあることが分かる。また、ソーキング時間は、20分以上でより十分な量のスケールTを形成し得ることが分かる。
【0030】
なお、実施例では、加熱工程の前にショットブラスト工程を実施したが、必ずしもショットブラスト工程を実施する必要はなく、ショットブラスト工程を省略することも可能である。また、実施例では、液化天然ガスを燃料とする加熱炉を用いてソーキングを行ったが、炉内の雰囲気が水蒸気を含む状態となるものであれば、他の燃料を採用してもよい。
【符号の説明】
【0031】
12 加熱炉,S 圧延材,L 線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト系のステンレス鋼からなる圧延材(S)を圧延ロールにより圧延して線材(L)を製造する方法であって、
前記圧延材(S)を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程に引き続き、加熱された前記圧延材(S)を当該加熱温度に維持した状態でソーキングするソーキング工程と、
前記ソーキング工程でソーキングされた前記圧延材(S)を熱間圧延することで線材(L)を形成する圧延工程とを行う
ことを特徴とする線材の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程の前に、前記圧延材(S)に対しショットブラストを行って該圧延材(S)の表面積を大きくするショットブラスト工程が実施される請求項1記載の線材の製造方法。
【請求項3】
前記ソーキング工程は、液化天然ガスを燃焼させた雰囲気下で実施される請求項1または2記載の線材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−250244(P2012−250244A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122876(P2011−122876)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】