説明

線材サンプルの捻回試験用チャック装置

【課題】円弧状の線材サンプルを直線状に矯正することなく、捻回試験を行うことのできる捻回試験用チャック装置を提供する。
【解決手段】線材サンプル21の両方の端部を把持するための2組のチャック部2を有し、チャック部2の一方又は両方は線材サンプルを捻回させるための回転軸中心11を中心として回転可能であり、それぞれのチャック部2はチャック本体3、第1のチャック片4、第2のチャック片5を有し、第1のチャック片4と第2のチャック片5はそれぞれの線材サンプル接触部6が対向して線材サンプル21の端部を把持可能であり、第1のチャック片4と第2のチャック片5は線材サンプル非把持時には双方の線材サンプル接触部6の向きが回転軸中心11を含む面内で変更可能に設けられ、第1のチャック片4と第2のチャック片5とで線材サンプル21を把持した際には両者はチャック本体3に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の線材サンプルの両端を把持して捻回試験を行うためのチャック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼線材を線材圧延機によって製造するに際し、製造を完了しコイル状に巻かれた線材の端末から線材サンプルを採取し、表面疵の有無を含めて品質評価を行う。疵検出には磁粉探傷検査が用いられる。しかし、折れ込み疵やワレ疵は疵口が閉じているため、磁粉探傷検査での見逃し、深さの過小評価の可能性がある。特に線材の表面には熱間圧延により生じたミルスケールが付着しており、このミルスケールは非開口性の疵部を覆い、これが磁粉探傷検査の疵検出精度を低下させる原因にもなっている。
【0003】
そこで、線材サンプルの両端を把持した上で線材サンプルに捻りを加え、これによって表面のミルスケールを剥離するとともに、非開口性の疵を開口させ、その後に磁粉探傷検査を行う方法が知られている。このように線材サンプルに捻りを加える試験機が捻回試験機と呼ばれている。特許文献1においては、捻回試験における捻り回転数を、線材サンプルの掴み間隔を線材径の40倍としたときに3回転以上の捻りを加えることを基準とし、その掴み間隔の変動に応じて正比例の関係で増減させる捻り処理を施すことが記載されている。
【0004】
線材圧延後の線材は半径0.55m程度のコイル状に巻かれているため、線材端末から採取した線材サンプルも半径0.55m程度の円弧形状をなしている。線材サンプルの長さは450mm程度である。このような円弧形状のサンプルでは捻回試験機に装着することができないので、線材サンプルを矯正して直線状とした上で、捻回試験機に装着していた。捻回試験を行う線材サンプルの直径は、3〜20mmの範囲である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−128298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
円弧状の線材サンプルを、捻回試験機に装着するために直線状に矯正する作業は作業性が低く、大量に捻回試験用線材サンプルを準備することが困難であった。直線状に矯正する作業を自動化しようとすると、設備が大型化し導入が難しい。
【0007】
本発明は、円弧状の線材サンプルを直線状に矯正することなく、捻回試験を行うことのできる捻回試験用チャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)線材サンプルの両端を把持して捻回試験を行うためのチャック装置であって、線材サンプル21の両方の端部を把持するための2組のチャック部2を有し、チャック部2の一方又は両方は線材サンプルを捻回させるための回転軸中心11を中心として回転可能であり、それぞれのチャック部2はチャック本体3、第1のチャック片4、第2のチャック片5を有し、第1のチャック片4と第2のチャック片5はそれぞれの線材サンプル接触部6が対向して線材サンプル21の端部を把持可能であり、
第1のチャック片4と第2のチャック片5は線材サンプル非把持時には双方の線材サンプル接触部6の向きが回転軸中心11を含む面内で変更可能に設けられ、第1のチャック片4と第2のチャック片5とで線材サンプル21を把持した際には両者はチャック本体3に固定されることを特徴とするチャック装置。
(2)線材サンプル21を把持したときのチャック片の線材サンプル接触部6のうち線材サンプルの中心側端部(以下「内側把持端部14」という。)における線材サンプルの軸方向中心と回転軸中心との距離(以下「内側把持端部偏芯距離dG」という。)は、線材サンプル接触部6と回転軸中心11との間の角度の正弦に線材サンプル接触部長さLGをかけた値の1/2よりも小さいことを特徴とする上記(1)に記載のチャック装置。
(3)チャック本体3はチャック片収容部7を有し、第1のチャック片4と第2のチャック片5はチャック片収容部7に収容され、線材サンプル21を把持した第1のチャック片4と第2のチャック片5で構成される形状の外縁(チャック片外縁形状12)は略円周状を形成し、チャック片収容部の内周(チャック片収容部内周形状13)は略円周状を形成しており、第1のチャック片4と第2のチャック片5は線材サンプル非把持時には双方の線材サンプル接触部6が回転軸中心11を含む面内で回動可能であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のチャック装置。
(4)チャック片の線材サンプル接触部6と円周状の外周部との間の最大高さをチャック片高さとし、第1のチャック片4のチャック片高さhaと第2のチャック片5のチャック片高さhbとが異なることを特徴とする上記(3)に記載のチャック装置。
(5)線材サンプルを捻回させるための回転軸中心の位置が、チャック部のチャック片収容部内周を形成する円周部の中心軸の位置と相違していることを特徴とする上記(3)に記載のチャック装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、線材サンプルの両端を把持して捻回試験を行うためのチャック装置において、線材サンプルの両方の端部を2組のチャック部で把持して線材サンプルを捻回し、チャック部に設けられる第1のチャック片と第2のチャック片で線材サンプルの端部を把持するに際し、両チャック片は線材サンプル非把持時には双方の線材サンプル接触部が前記回転軸中心を含む面内で変更可能に設けられているので、円弧状の線材サンプルを直線状に矯正することなく、捻回試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のチャック装置の一例を示す図であり、(a)は線材サンプルを把持した状態、(b)は線材サンプルを把持する前の状態、(c)はチャック片を外した状態、(d)(e)は外したチャック片を示す図である。
【図2】本発明のチャック装置の一例を示す図であり、(a)は線材サンプルを把持した状態、(b)は線材サンプルを把持する前の状態、(c)はチャック片を外した状態、(d)(e)は外したチャック片を示す図である。
【図3】チャック装置の一例を示す図であり、(a)(c)は線材サンプルを把持した状態、(b)(d)は(a)(c)の左側チャック部を180°回転した状態を示す図である。
【図4】本発明のチャック装置の一例を示す図である。
【図5】(a)(c)(d)はそれぞれ本発明のチャック装置の一例を示す図であり、(b)は(a)の、(e)は(d)のチャック片を示す図である。
【図6】円弧状の線材サンプルについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前述のとおり、線材圧延後の鋼線材は半径0.55m程度のコイル状に巻かれているため、線材端末から採取した線材サンプルも半径0.55m程度の円弧形状をなしている(図6)。線材サンプルの長さは450mm程度である。捻回試験を行う線材サンプルの直径は、3〜20mmの範囲である。
【0012】
図1〜6に基づいて本発明のチャック装置について説明する。
【0013】
線材サンプルの捻回試験用チャック装置は、線材サンプル21の両端を把持して捻回試験を行う。線材サンプル21の両方の端部を把持するための2組のチャック部2を有する。チャック部2の一方又は両方は線材サンプルを把持して回転軸中心11を中心として回転する。通常はチャック部の一方を固定部とし、もう一方が回転する。図1〜5に示す例では、右側のチャック部を固定部9に接続して固定側とし、左側のチャック部を駆動部10に接続して回転側としている。回転側のチャック部は、一方の回転方向に所定の回数だけ回転した後、回転方向を逆転し、反対方向に所定の回転だけ回転し、これを所定の繰り返し数で繰り返す。こうして線材サンプルが捻回を受け、非開口性の疵が開口し、その後の磁粉探傷検査において疵を明確に検出することか可能となる。
【0014】
本発明の捻回試験用チャック装置は、線材サンプルが円弧形状をしていても、これを直線状に矯正することなく、円弧形状のままで捻回試験を行えることを特徴とする。以下詳細に説明する。
【0015】
線材サンプルの両方の端部を把持するための2組のチャック部2を有し、それぞれのチャック部はチャック本体3、第1のチャック片4、第2のチャック片5を有する。第1のチャック片4と第2のチャック片5はそれぞれの線材サンプル接触部6が対向して線材サンプル21の端部を把持する。
【0016】
第1のチャック片4と第2のチャック片5は線材サンプル非把持時には双方の線材サンプル接触部6の向きが回転軸中心11を含む面内で変更可能に設けられ、第1のチャック片4と第2のチャック片5とで線材サンプル21を把持した際には両者はチャック本体4に固定される。ここでは、このような機能を有するチャック部について、まずは以下のような構成を有する形態に基づいて説明を行う。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態において、それぞれのチャック片の形状は、図1(d)、図2(d)に示すように、線材サンプルに接触する直線状の線材サンプル接触部6と、円周状の外周部とからなり、半円形に近い形状をしている。そして、線材サンプルを把持した第1のチャック片4と第2のチャック片5で構成される形状の外縁(チャック片外縁形状12)は略円周状を形成する。一方、チャック本体4は、図1(c)、図2(c)に示すように、第1のチャック片と第2のチャック片を収容するチャック片収容部7を有し、チャック片収容部7の内周(チャック片収容部内周形状13)は略円周状を形成している。線材サンプルを把持した第1のチャック片と第2のチャック片が構成する円周状形状(チャック片外縁形状12)の直径に対し、チャック片収容部の内周(チャック片収容部内周形状13)の直径を若干大きくしておく。このような構成を採用した結果として、チャック片収容部7に収容された第1のチャック片4と第2のチャック片5は線材サンプル非把持時には双方の線材サンプル接触部6が回転軸中心11を含む面内で回動可能となり、これによって線材サンプル接触部6の向きが回転軸中心11を含む面内で変更可能になる。
【0018】
2組のチャック部2は、線材サンプル21の両端を把持できるように距離をおいて配置される。一方又は両方のチャック部は、所定の回転軸中心11のまわりを回転する。回転軸中心11は両方のチャック部を貫通する位置に設定される。
【0019】
線材サンプルが直線状であれば、両方のチャック部に把持された線材サンプルの中心が回転軸中心と一致するように把持された上で捻回を行うこととなる。これに対し本発明においては、線材サンプル21が円弧形状であることを想定している。例えば、図6に示すように、線材サンプルの円弧半径Rが0.55m、長さLSが0.45mであり、線材サンプル把持部6の長さがLGである場合についてみると、線材サンプルの長さ中央部を回転軸中心と平行に置いたとき、線材サンプルの端部からLG/2位置においては回転軸中心11に対して
θ≒sin-1(LS/2R)=24°
程度の角度を有することとなる。本発明においては、このようにチャック部において回転軸中心11との間に角度を有する線材サンプル21の端部を把持するため、チャック片収容部7内に収容された2つのチャック片(4、5)をチャック片収容部内で回動させ、チャック片の線材サンプル接触部6と回転軸中心11との間の角度を調整し、チャック片の線材サンプル接触部6が線材サンプル21の端部に平行になるように調整する。この状態で線材サンプルの端部を2つのチャック片の線材サンプル接触部6の間に配置する(図1(a)、図2(a)、図3(a)、図4(a))。
【0020】
両方のチャック部2は、それぞれ2つのチャック片(4、5)の間隔を狭める方向で力を付与することにより、線材サンプルの端部を把持することができる。例えば図1、2、4に示すように、チャック本体にネジ押し込み式の締結部8を具備し、ネジを回して締結部8を押し込むことによって一方のチャック片を線材サンプルに押し付け、これによって線材サンプルを把持することができる。同時に、第1のチャック片4と第2のチャック片5とで線材サンプル21を把持した際には両者はチャック片収容部7内においてチャック本体3に固定される。
【0021】
チャック本体3のチャック片収容部7と回転軸中心11との位置関係に関し、ここではまず、図2に示すように、チャック片収容部内周を形成する円周部の中心軸15の位置が、回転軸中心11と交わる位置にある場合について説明する。線材サンプル21を把持したときのチャック片の線材サンプル接触部のうち線材サンプルの中心側端部をここでは「内側把持端部14」と呼ぶ。そして、内側把持端部14において、線材サンプルの軸方向中心と回転軸中心との間の距離を、「内側把持端部偏芯距離dG」と呼ぶ。
【0022】
線材サンプルが直線状である場合には、チャック片収容部内周を形成する円周部の中心軸15が回転軸中心11と一致しているので、チャック部に把持された線材サンプルの長手方向と回転軸中心とが一致することとなる。内側把持端部偏芯距離dGがゼロとなる。そのため、チャック部を回転軸中心回りに回転させて線材サンプルを捻回するに際しても、良好な捻回を行うことができる。
【0023】
線材サンプルが円弧状の形状をしている場合であっても、図2に示すように、線材サンプル端部が回転軸中心に対して傾いている角度に応じて、チャック片をチャック片収容部内で回動させることによって、線材サンプルの両端部を把持し、捻回試験を行うことができる。捻回試験は可能であるが、捻回試験を終わった後の線材サンプルに三次元的な捻れが生じることがあった。三次元的な捻れが生じると、その後に行う磁粉探傷検査に支障をきたす場合がある。
【0024】
線材サンプルが円弧状の形状をしている場合には、線材サンプルは回転軸中心に対して角度θだけ傾いて把持されている。ここでは、チャック片収容部内周を形成する円周部の中心軸15の位置が、回転軸中心11と交わる位置にある前提で論を進めている。そうすると、チャック片の線材サンプル把持部の長さをLGとして、内側把持端部偏芯距離dGは、
G=(LG/2)sinθ≒LG×LS/4R
となる(図6、図3(a))。チャック装置のうち、右側のチャック部を固定、左側のチャック部を回転部とし、この状態でチャック部の回転をはじめると、左側のチャック部が1/2回転したところで、図3(b)に示すように、左側チャック部の内側把持端部は回転スタート時と比較して2dGだけ位置が移動することとなる。このような状況で捻回試験を行うため、捻回試験後の線材サンプルに捻れが残ることが明らかとなった。
【0025】
そこで、チャック部において、内側把持端部偏芯距離dGを極力小さくすることを試みた。即ち、内側把持端部偏芯距離を、線材サンプル接触部と回転軸中心との間の角度の正弦に線材サンプル接触部長さをかけた値の1/2よりも小さくする(dG<(LG/2)sinθ)。第1の実施の態様として、チャック片の形状を修正した。チャック片の線材サンプル接触部と円周状の外周部との間の最大高さをチャック片高さとし、図1(d)(e)に示すように、第1のチャック片4のチャック片高さhaと第2のチャック片5のチャック片高さhbとが異なるような形状とした。具体的には、円の一部を直線で切り取った形状のチャック片とし、切り取った直線部を線材サンプル接触部6とするに際し、一方のチャック片はチャック片高さを円の半径よりも大きくし、他方のチャック片はチャック片高さを円の半径よりも小さくする。ここでは図1に示すように、第1のチャック片4のチャック片高さhaが第2のチャック片5のチャック片高さhbよりも大きい場合について述べる。第1のチャック片4と第2のチャック片5で線材サンプル21を把持した状態で、両方のチャック片の外周部(チャック片外縁形状12)が形成する円の中心(チャック片収容部内周を形成する円周部の中心軸15と一致する。)と、線材サンプル21の軸心との距離をdCとおく。距離dCを調整することにより、内側把持部偏芯距離dGを小さくすることが可能である。この場合、チャック片高さが大きい方のチャック片を線材サンプルの円弧の外側に配置し、チャック片高さが小さい方のチャック片を線材サンプルの円弧の内側に配置する。図1(a)においては、dCを調整してdC=LG×LS/4Rとした結果としてdGがほぼゼロになっている。こうして、チャック片の形状調整によって距離dCを調整して内側把持部偏芯距離dGを小さくした上で捻回試験を行ったところ、捻回試験後の線材サンプルにおいて三次元的な捻れの発生を防止することができた。
【0026】
内側把持部偏芯距離dGを小さくするための第2の態様としては、チャック片の形状を調整するのではなく、図4に示すように、線材サンプルを捻回させるための回転軸中心11の位置と、チャック部のチャック片収容部内周を形成する円周部の中心軸15の位置との関係を調整することによって行ってもよい。即ち、チャック部のチャック片収容部内周を形成する円周部の中心軸15の位置を、回転軸中心11の位置から偏芯させる。第1と第2のチャック片の形状を同じにした場合を例とすると、図4に示す偏芯距離dLがdG=LG×LS/4Rとなるように調整すると好ましい。このような実施の態様においても、内側把持部偏芯距離dGを小さくし、捻回試験後の線材サンプルにおいて三次元的な捻れの発生を防止することができる。図4においては、dLを調整した結果としてdGがほぼゼロになっている。
【0027】
線材サンプルの円弧の半径Rが変化すると、dGの値も変化する。このような線材サンプル形状の変化に対応するためには、上記第1と第2の実施態様のうち、第1の実施態様がより好ましい。線材サンプル形状に応じて、第1のチャック片と第2のチャック片の形状を調整するだけで、常にdGの値を最小に保持することが可能だからである。
【0028】
以上、線材サンプルを把持した第1のチャック片4と第2のチャック片5で構成される形状の外縁は略円周状(チャック片外縁形状12)を形成するような実施の形態について説明を行った。本発明においては、このような実施の形態とは異なった形態においても発明の効果を発揮することができる。以下に説明する。
【0029】
図5(a)(b)に示す例は、第1のチャック片4と第2のチャック片5で構成される形状の外縁は円周ではなく、円周の一部を切り取った形状となっている。このような形状でも本発明の効果を発揮することができる。
【0030】
図5(c)に示す例では、第1のチャック片4と第2のチャック片5が組み合わせて回動中心15を中心として回動可能に設けられている。締結部8を用いて締結することにより、2つのチャック片で線材サンプルを把持することができると同時に、2つのチャック片がチャック本体に固定される。このような形状でも本発明の効果を発揮することができる。
【0031】
図5(d)(e)に示す例では、第1のチャック片4と第2のチャック片5を取り替えることができる。用意されたチャック片の組ごとに、線材サンプル接触部6と回転軸中心11との間の角度が異なるので、線材サンプル21の円弧半径に応じて、最適な角度を有するチャック片の組を選択すればよい。いずれのチャック片の組においても、内側把持端部偏芯距離dGがゼロとなるように構成すると好ましい。
【実施例】
【0032】
直径が3〜15mmの範囲にある線材サンプルの捻回試験を行うために、本発明を適用した。線材サンプルの長さは450mmであり、線材サンプルは半径0.55m程度の円弧形状をなしている。
【0033】
図1に示す本発明のチャック装置を用いて捻回試験を行った。右側のチャック部2を固定部9に接続して固定側とし、左側のチャック部2を駆動部10に接続して回転側とする。それぞれのチャック部2はチャック本体3、第1のチャック片4、第2のチャック片5を有している。
【0034】
直径15mmの線材サンプルを第1のチャック片4と第2のチャック片5で把持したとき、第1のチャック片と第2のチャック片で構成される形状の外縁(チャック片外縁形状12)は半径45mmの円周状となる。また、チャック本体3のチャック片収容部7の内周(チャック片収容部内周形状13)は半径50mmの円周状である。2組のチャック部のいずれも、チャック片収容部内周を形成する円周部の中心軸15の位置は、左側チャック部の回転軸中心11と交わる位置に配置している。
【0035】
チャック本体4には締結部8を有する。チャック本体4に雌ねじが切られ、これに雄ねじを有するねじが組み込まれている。締結部8のねじを回転することによって、第1のチャック片4と第2のチャック片5で線材サンプル21を強力に把持するとともに、両方のチャック片がチャック本体3のチャック片収容部7に固定される。
【0036】
第1のチャック片3のチャック片高さhaを第2のチャック片5のチャック片高さhbよりも大きくし、第1のチャック片と第2のチャック片で直径15.0mmの線材サンプルを把持した状態で、両方のチャック片の外周部が形成する円の中心と、線材サンプルの軸心との距離dCがdG=LG×LS/4R=18.4に等しくなるようにした。具体的には、第1のチャック片のチャック片高さhaを55mm、第2のチャック片のチャック片高さhbを25mmとした。これにより、第1のチャック片を線材サンプルの円弧の外側に配置し、第2のチャック片を線材サンプルの円弧の内側に配置して線材サンプルを把持したとき、内側把持部偏芯距離dGをゼロに近い状態にすることができる。線材サンプルの直径が3〜20mmの範囲で変動しても、ほぼ良好な位置関係を維持することができる。
【0037】
捻回試験においては、左側の回転側チャック部を、正転方向に1回転、次いで逆転方向に1回転だけ回転させ、これを5回繰り返した。直径が3〜15mmの範囲にある線材サンプルのいずれも、線材サンプルの直線への矯正を行う必要が全くなく、迅速に線材サンプルをチャック装置に装着することができ、捻回試験後の線材サンプルには三次元的な捻れが発生しなかった。
【符号の説明】
【0038】
1 チャック装置
2 チャック部
3 チャック本体
4 第1のチャック片
5 第2のチャック片
6 線材サンプル接触部
7 チャック片収容部
8 締結部
9 固定部
10 駆動部
11 回転軸中心
12 チャック片外縁形状
13 チャック片収容部内周形状
14 内側把持端部
15 チャック片収容部内周を形成する円周部の中心軸
21 線材サンプル
R 線材サンプルの円弧半径
S 線材サンプル長さ
G 内側把持端部偏芯距離
G 線材サンプル接触部の長さ
C 両方のチャック片の外周部が形成する円の中心と線材サンプルの軸心との距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材サンプルの両端を把持して捻回試験を行うためのチャック装置であって、線材サンプルの両方の端部を把持するための2組のチャック部を有し、チャック部の一方又は両方は線材サンプルを捻回させるための回転軸中心を中心として回転可能であり、それぞれのチャック部はチャック本体、第1のチャック片、第2のチャック片を有し、第1のチャック片と第2のチャック片はそれぞれの線材サンプル接触部が対向して線材サンプルの端部を把持可能であり、
第1のチャック片と第2のチャック片は線材サンプル非把持時には双方の線材サンプル接触部の向きが前記回転軸中心を含む面内で変更可能に設けられ、第1のチャック片と第2のチャック片とで線材サンプルを把持した際には両者はチャック本体に固定されることを特徴とするチャック装置。
【請求項2】
線材サンプルを把持したときのチャック片の線材サンプル接触部のうち線材サンプルの中心側端部(以下「内側把持端部」という。)における線材サンプルの軸方向中心と回転軸中心との距離(以下「内側把持端部偏芯距離」という。)は、線材サンプル接触部と回転軸中心との間の角度の正弦に線材サンプル接触部長さをかけた値の1/2よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項3】
チャック本体はチャック片収容部を有し、第1のチャック片と第2のチャック片は前記チャック片収容部に収容され、線材サンプルを把持した前記第1のチャック片と第2のチャック片で構成される形状の外縁は略円周状を形成し、チャック片収容部の内周は略円周状を形成しており、第1のチャック片と第2のチャック片は線材サンプル非把持時には双方の線材サンプル接触部が前記回転軸中心を含む面内で回動可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のチャック装置。
【請求項4】
チャック片の線材サンプル接触部と円周状の外周部との間の最大高さをチャック片高さとし、第1のチャック片のチャック片高さと第2のチャック片のチャック片高さとが異なることを特徴とする請求項3に記載のチャック装置。
【請求項5】
線材サンプルを捻回させるための回転軸中心の位置が、チャック部のチャック片収容部内周を形成する円周部の中心軸の位置と相違していることを特徴とする請求項3に記載のチャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−168123(P2012−168123A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31138(P2011−31138)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】